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特開2024-146125果実糖度及び果実重量が向上したトマトを作出するための台木
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146125
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】果実糖度及び果実重量が向上したトマトを作出するための台木
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/82 20180101AFI20241004BHJP
   A01G 2/30 20180101ALI20241004BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20241004BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A01H6/82
A01G2/30
A01H5/00 A
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058851
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】岡部 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】江面 浩
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD07
2B030AD09
2B030AD20
2B030CA14
2B030CD28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トマトの果実重量を低下させることなく果実糖度を向上させる手段を提供する。
【解決手段】変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物を、トマトの接ぎ木栽培の台木として使用する。前記変異型サイクリンF-box遺伝子は、サイクリンF-boxタンパク質において特定のアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異型サイクリンF-box遺伝子を有する、トマト用台木であって、
前記変異型サイクリンF-box遺伝子が、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換を引き起こすヌクレオチド変異を含む、トマト用台木。
【請求項2】
トマトである、請求項1に記載のトマト用台木。
【請求項3】
果実糖度及び/又は果実重量が向上したトマトの作出に用いるための、請求項1に記載のトマト用台木。
【請求項4】
トマトの果実糖度及び/又は果実重量を向上させる方法であって、
請求項1に記載のトマト用台木に、トマト穂木を接ぎ木する工程を含む、方法。
【請求項5】
トマト穂木が、野生型サイクリンF-box遺伝子を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載のトマト用台木にトマト穂木を接ぎ木してなる、接ぎ木体。
【請求項7】
請求項6に記載の接ぎ木体から生産された、トマト果実。
【請求項8】
果実糖度及び/又は果実重量が向上したトマト果実を生産する方法であって、
請求項6に記載の接ぎ木体を栽培する工程を含む、方法。
【請求項9】
請求項1に記載のトマト用台木を選抜する方法であって、
被検植物のなかから、野生型サイクリンF-box遺伝子を持つ対照植物と比較して低い生長点発生率を示す個体をトマト用台木として選抜する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実糖度及び果実重量が向上したトマトを接ぎ木により作出するためのトマト用台木に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トマトの需要が増加しているなか、高糖度化に基づく差別化戦略が取られている。トマト果実を高糖度化する技術として、水分ストレス負荷(特許文献1及び3)、低温ストレス負荷(特許文献2)、塩ストレス負荷(非特許文献1)、遺伝子変異の導入(特許文献4)や、接ぎ木(特許文献5)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-100595号公報
【特許文献2】特開2006-320316号公報
【特許文献3】特開2012-161289号公報
【特許文献4】国際公開第2017/022859号
【特許文献5】特開2020-68710号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】農業および園芸、第91巻第5号、p.507-510(2016年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の高糖度化技術のなかには、果実重量の低下という課題を持つものがある(特許文献5及び非特許文献1)。
そこで、トマトの果実重量を低下させることなく果実糖度を向上させる手段の提供を課題として設定した。
【0006】
一般的に、接ぎ木体において、根の特性(土壌病害耐性等)は台木からもたらされ、果実の特性は穂木からもたらされるところ、本発明者は、高糖度化をもたらす遺伝子変異を導入したトマトを穂木ではなく台木として用いて接ぎ木栽培を行なうと、果実糖度だけでなく果実重量が向上したトマト果実が得られることを見いだした。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。本発明は、以下の態様を提供する。
〔1〕変異型サイクリンF-box遺伝子を有する、トマト用台木であって、
前記変異型サイクリンF-box遺伝子が、サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換を引き起こすヌクレオチド変異を含む、トマト用台木。
〔2〕トマトである、前記〔1〕に記載のトマト用台木。
〔3〕果実糖度及び/又は果実重量が向上したトマトの作出に用いるための、前記〔1〕に記載のトマト用台木。
〔4〕トマトの果実糖度及び/又は果実重量を向上させる方法であって、
前記〔1〕に記載のトマト用台木に、トマト穂木を接ぎ木する工程を含む、方法。
〔5〕トマト穂木が、野生型サイクリンF-box遺伝子を有する、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕前記〔1〕に記載のトマト用台木にトマト穂木を接ぎ木してなる、接ぎ木体。
〔7〕前記〔6〕に記載の接ぎ木体から生産された、トマト果実。
〔8〕果実糖度及び/又は果実重量が向上したトマト果実を生産する方法であって、
前記〔6〕に記載の接ぎ木体を栽培する工程を含む、方法。
〔9〕前記〔1〕に記載のトマト用台木を選抜する方法であって、
被検植物のなかから、野生型サイクリンF-box遺伝子を持つ対照植物と比較して低い生長点発生率を示す個体をトマト用台木として選抜する工程を含む方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、果実糖度に加えて果実重量が向上したトマト果実を生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、試験例1における接ぎ木試験の概要を示す。
図2図2は、試験例1における実施例の接ぎ木体(台木:E8986系統。穂木:野生型)を示す。
図3図3は、試験例2における正常個体と異常個体の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔サイクリンF-box遺伝子〕
サイクリンF-box遺伝子は、特定のタンパク質の認識と分解に関与するF-boxファミリータンパク質(F-box領域と呼ばれるドメインを有するタンパク質群)の1つであるサイクリンF-boxタンパク質(サイクリン型(Cyclin-type)F-boxタンパク質とも称される)をコードする。
トマトのサイクリンF-box遺伝子の塩基配列及びそれにコードされるアミノ酸配列の例が、NCBI(National Center for Biotechnology Information、米国)のデータベースに、アクセッション番号:XM_004229918及びXP_004229966として登録されている。
また、トマトの野生型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列(CDS配列)及びそれにコードされるトマトの野生型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列の例が、国際公開第2017/022859号(特許文献4)に、それぞれ配列番号1及び配列番号2として記載されている。
トマトの野生型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列(CDS配列)を配列番号1に示す。CDS配列は、アミノ酸翻訳の対象となる開始コドンから終止コドンまでの配列(タンパク質コード領域)である。
配列番号1の塩基配列によりコードされる、トマトの野生型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0010】
〔変異型サイクリンF-box遺伝子〕
本発明の変異型サイクリンF-box遺伝子は「サイクリンF-boxタンパク質において配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリンのグルタミンへの置換(以下、「P398Q」変異ともいう)を引き起こすヌクレオチド変異を含む。
「配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン」とは、配列番号2のアミノ酸配列とアラインメントされた任意のアミノ酸配列(任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列)中で、配列番号2の398番目に位置するプロリンに対してアラインメントされるプロリンをいう。
したがって、「配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン」は、アラインメントされる任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列中では398番目に位置するプロリンであってもよいし、398番目とは異なる位置に存在するプロリンであってもよい。
例えば、N末端近傍に1アミノ酸の欠失が存在するサイクリンF-boxタンパク質中では397番目に位置づけられるプロリンも、配列番号2の398番目のプロリンとアラインメントされる限り、「配列番号2に示すアミノ酸配列を基準として特定される398番目のプロリン」として特定される。
配列番号2に示すアミノ酸配列と任意のサイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列とのアラインメントは、配列間の変化(挿入、欠失、置換、付加等)が最小限になり、かつ最も高い一致度を示すように作成され、ギャップを含んでいてもよい。
【0011】
プロリンからグルタミンへの非保存的アミノ酸置換を引き起こすヌクレオチド変異としては、例えば、コドンCCT、CCC、CCA及びCCGのいずれかから、コドンCAA又はCAGへの変異が挙げられる。
「P398Q」変異を引き起こすヌクレオチド変異を含むトマトの変異型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列(CDS配列)を配列番号3に示す。
なお、配列番号3(変異型)の塩基配列は、配列番号1(野生型)の塩基配列の1193番目のシトシンをアデニンへ置換したものに該当する。
配列番号3の塩基配列によりコードされる、トマトの変異型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。
なお、「P398Q」変異を引き起こすヌクレオチド変異を含むトマトの変異型サイクリンF-box遺伝子の塩基配列(CDS配列)及びそれにコードされる変異型サイクリンF-boxタンパク質のアミノ酸配列の例が、国際公開第2017/022859号(特許文献4)に、それぞれ配列番号3及び配列番号4として記載されている。
【0012】
変異型サイクリンF-box遺伝子は、「P398Q」変異を持つ変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、配列番号2に示す野生型アミノ酸配列において、例えば1~50個、好ましくは1~40個、さらに好ましくは1~10個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加を含むアミノ酸配列をコードするものであってもよい。
【0013】
また、変異型サイクリンF-box遺伝子は、「P398Q」変異を持つ変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする限り、配列番号1に示す野生型塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の配列同一性を有するものであってもよい。
【0014】
「P398Q」変異の導入は、常法により実施できる。
変異導入技術の例としては、オリゴヌクレオチド指向性突然変異誘発法、部位特異的変異導入法、相同組換え法や、ランダム突然変異誘発技術等が挙げられる。
ランダム突然変異誘発は、化学変異原(例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS))による処理や、放射線照射等により実施できる。
その他、変異型サイクリンF-box遺伝子をゲノム中に有する変異体植物を他の植物と交配することにより、「P398Q」変異を子孫植物へ導入することもできる。
【0015】
〔トマト用台木を選抜する方法〕
サイクリンF-boxタンパク質における「P398Q」変異を持つ植物の選抜は、遺伝子情報に基づき実施できる。例えば、国際公開第2017/022859号(特許文献4)の実施例6に記載のdCAPSプライマー(dCAPSマーカー)を用いたジェノタイピングにより、遺伝子型を判定できる。dCAPSマーカーは、野生型サイクリンF-box遺伝子のPCR産物は制限酵素NcoIで消化されるが、変異型サイクリンF-box遺伝子のPCR産物は消化されない様に設計されている。
【0016】
選抜は、「P398Q」変異に起因する表現型の変化(植物の形態上又は生育特性上の変化等)を指標としても実施できる。
指標にできる植物の形態又は生育特性の例は、国際公開第2017/022859号(特許文献4)に記載されている。
本発明の一態様では、新たな指標として、植物の生長点(本葉)を用いる。
変異型では、生長点が展開する頻度(子葉の間から本葉が展開する頻度)が、野生型よりも低下することに着目し、本発明では生長点発生率に基づいてトマト用台木を選抜する。
生長点発生率(%)は、「生育させた個体」のうち「生長点が発生した個体」の割合、すなわち、式:生長点発生個体数/生育個体数×100で定義される。
本発明では、野生型サイクリンF-box遺伝子を持つ対照植物よりも低い(好ましくは75~90%低い)生長点発生率を示す被検個体をトマト用台木として選抜する。
被検植物と対照植物とは、同品種又は同系統である。
生長点発生率の比較は、被検植物及び対照植物を同一条件下で栽培した後に実施することが好ましい。
本発明の選抜方法は、他の指標(遺伝子情報等)に基づく選抜方法と組み合わせて実施してもよい。
【0017】
〔台木に使用する植物種〕
本発明では、トマト穂木と接ぎ木和合性を有する植物種を特に制限なく使用できる。
好ましい植物種はナス科植物である。ナス科植物の例としては、Solanum lycopersicum L(トマト)、Solanum melongena L(ナス)、Solanum tuberosum L、Solanum acaule Bitt、Solanum aethiopicum L、Solanum betaceum Cav、Solanum jasminoides Paxt、Solanum mammosum L、Solanum muricatum Aiton、Solanum nigrum L、Solanum pseudocapsicum Lや、Solanum ptychanthum Dunal等が挙げられる。
なかでも、トマト穂木との接ぎ木和合性がより高いトマトが好ましい。
本発明では任意の種類のトマトを使用できる。トマトの例としては、ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)、ソラナム・セラシフォルメ(Solanum cerasiforme; Lycopersicon cerasiformeとも称される)、ソラナム・ピムピネリフォリウム(Solanum pimpinellifolium; Lycopersicon pimpinellifoliumとも称される)、ソラナム・チーズマニイ(Solanum cheesmanii; Lycopersicon cheesmaniiとも称される)、ソラナム・パルビフロルム(Solanum parviflorum; Lycopersicon parviflorumとも称される)、ソラナム・クミエレウスキィ(Solanum chmielewskii; Lycopersicon chmielewskiiとも称される)、ソラナム・ヒルストゥム(Solanum hirsutum; Lycopersicon hirsutumとも称される)、ソラナム・ペンネリィ(Solanum Lycopersicon pennelliiとも称される)、ソラナム・ペルビアヌム(Solanum pennellii; Lycopersicon peruvianumとも称される)、ソラナム・チレンセ(Solanum chilense; Lycopersicon chilenseとも称される)、ソラナム・リコペルシコイデス(Solanum lycopersicoides)及びソラナム・ハブロカイネス(Solanum habrochaites)等に属するトマト系統・品種又はそれらの派生株が挙げられる。
【0018】
野生型トマト品種の一つであるマイクロトム(Solanum lycopersicum cv. Micro-Tom)(Scott JW, Harbaugh BK (1989) Micro-Tom A miniature dwarf tomato. Florida Agr. Expt. Sta. Circ. 370, p.1-6)は、矮性(約10~20cm)で葉や果実が小さく、従来トマト品種との交雑も可能である。この品種の全ゲノム配列は決定されている(Kobayashi M, et al., (2014)Plant Cell Physiol. 2014 Feb;55(2):445-454)。
マイクロトムは市販されており、Tomato Genetics Resource Center(TGRC)(米国)からアクセッション番号:LA3911の下で入手することもできる。
また、「P398Q」変異が導入されたマイクロトムは、ナショナルバイオリソースプロジェクトトマト(NBRPトマト)(URL:https://tomatoma.nbrp.jp/)からStrain Id: TOMJPE8986-1の下で入手できる。
【0019】
〔台木〕
台木は、穂木の下方に配置される。
本発明の台木を構成する植物組織は、トマト穂木との接ぎ木により、トマト果実を生産可能な接ぎ木体を提供できる限り特に制限されない。
台木は、一般的には、地上部(茎や幹等)及び/又は地下部(根や地下茎等)を含む。
台木は、好ましくは地上部と地下部の双方を含み、さらに好ましくは「子葉の付け根の下2~5cmから子葉の付け根の上2~5cmの間の部位」と「根」とを含む。
根を含まない台木は、接ぎ木後の栽培により最終的に根を備えさせることが好ましい。
根を含まない台木は、中間台木としても使用できる。本発明の台木を中間台木として用いる場合、中間台木の下方に根を備える別の台木を配置することが好ましい。
台木は、変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物種のみから構成されていてもよく、他の植物種と組み合わせたものであってもよい。
2種類以上の植物種からなる台木の各植物組織間は、接ぎ木されていてもよい。
【0020】
〔トマト穂木〕
本発明では、トマトを穂木として用いる。
穂木としては、任意の種類のトマトを使用できる。穂木トマトの例としては、前掲「台木に使用する植物種」欄で述べたトマト系統・品種又はそれらの派生株が挙げられる。
台木がトマトである場合、台木と穂木の系統・品種は異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
穂木は、野生型サイクリンF-box遺伝子を有するものが好ましいが、変異型サイクリンF-box遺伝子を有するものであってもよい。
【0021】
穂木を構成する植物組織は、台木との接ぎ木により、トマト果実を生産可能な接ぎ木体を提供できる限り特に制限されない。
穂木は、一般的には、茎や葉等を含む。
本発明の穂木は、好ましくは茎を含む。
【0022】
〔接ぎ木〕
接ぎ木手段に特別な制限はなく、公知の方法に従って実施できる。
本発明の一態様では、接ぎ木は、
(1)トマト用台木及びトマト穂木をそれぞれ所望の部位で切断する工程、及び
(2)台木と穂木とをそれらの切断面で接触させてなる接ぎ木体を栽培する工程を含む。
工程(1)の切断は、切断面同士の接触面積がより広くなる様式で実施することが好ましい。例としては、斜め切断や、一方の切断面中央部に1~2cm程度の切れ込みを入れ、他方の切断面をV字型に切削すること等が挙げられる。切断は、片刃のカミソリ等を用いて実施できる。
工程(2)において、切断面の接触態様は特に制限されないが、接触部位(接ぎ木部位)を固定することが好ましい。固定は、接ぎ木チューブや接ぎ木クリップ等を用いて実施できる。
工程(2)の栽培の初期では、接ぎ木体を加湿条件下で養生することが好ましい。
接ぎ木体の栽培方法に特に制限はなく、公知の方法に従って実施できる。
【0023】
トマト用台木は中間台木であってもよい。この態様では、中間台木の下方に他の台木(例えば、根を備える台木)を接ぎ木する。
また、本発明の根を備える台木と穂木との間に中間台木が存在していてもよい。
【0024】
〔トマト果実〕
本発明の接ぎ木体を栽培することにより、果実糖度及び/又は果実重量が向上したトマト果実を生産できる。
果実糖度及び果実重量の「向上」とは、野生型サイクリンF-box遺伝子を有する同品種又は同系統の台木(野生型)を用いた接ぎ木体から得られた果実を比較対象としたときの統計学的に有意な増加をいう。
果実糖度は、例えば、複数個の果実の測定値から求めた平均Brix値を指標に評価できる。
果実重量は、例えば、複数個の果実を測定値から求めた平均値(1果実あたりの平均重量)を指標に評価できる。
【0025】
前述の本発明は、(1)果実糖度及び/又は果実重量が向上したトマトの作出に用いるためのトマト用台木、並びに、(2)トマト用台木に、トマト穂木を接ぎ木する工程を含む、トマトの果実糖度及び/又は果実重量を向上させる方法としても把握できる。
【実施例0026】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
〔試験例1:台木の種類の果実糖度及び果実重量に対する影響〕
台木用植物として、矮性トマト品種「マイクロトム」の変異系統(E8986系統)を使用した。E8986系統は、「P398Q」変異を持つ変異型サイクリンF-boxタンパク質(配列番号4)をコードする変異型サイクリンF-box遺伝子(配列番号3)を有していた。
E8986系統の種子は、ナショナルバイオリソースプロジェクトトマトからStrain Id: TOMJPE8986-1の下で入手した。
E8986系統の種子を、培養土(Hyponex社製、メトロミックス種まき野菜用)を詰めた128穴のセルトレイに播種し、ガラス温室(室温:昼間24℃、夜間20℃)中で育苗した。発芽から3週間後の苗を連結ポッドに定植し、台木の作成に使用した。
茎を、子葉の付け根の上2~3cmの位置において30度の角度で斜め切断(フェザー Razor Blade片刃を使用)した。切断後の下部(根を含む)を、実施例用の台木として使用した。
【0028】
穂木及び台木用植物として、矮性トマト品種「マイクロトム」の野生型を使用した。この野生型品種は、野生型サイクリンF-boxタンパク質(配列番号2)をコードする野生型サイクリンF-boxタンパク質遺伝子(配列番号1)を有していた。
野生型品種の種子は、ナショナルバイオリソースプロジェクトトマトからStrain Id: TOMJPF00001の下で入手した。
野生型品種の種子を、培養土(Hyponex社製、メトロミックス種まき野菜用)を詰めた128穴のセルトレイに播種し、ガラス温室(室温:昼間24℃、夜間20℃)内で育苗した。発芽から3週間後の苗を連結ポッドに定植し、穂木及び台木の作成に使用した。
茎を、子葉の付け根の上2~3cmの位置において30度の角度で斜め切断(フェザー Razor Blade片刃を使用)した。
切断後の上部(茎及び葉を含む)を、穂木(実施例及び比較例共通)として使用した。
切断後の下部(根を含む)を、比較例用の台木として使用した。
【0029】
台木と穂木の組み合わせとして、下記2種類を設定した。
【0030】
台木と穂木とを接ぎ木(斜め継ぎ)に供して、接ぎ木体を作成した(図1及び図2)。
接ぎ木チューブ又は接木クリップを用いて接ぎ木部位を固定した後、ポットの上からチャック付ポリ袋を被せて、湿度100%下で4日間養生した。養生は、室内LED照明下(60μmol m-2 s-1)、室温24℃、明期:16時間、暗期:8時間の条件下で行った。
接ぎ木5日目よりポリ袋の端をハサミでカットし、4日間かけて徐々に順化を行った。
順化後にガラス温室へ戻し、活着が確認できた個体から接ぎ木クリップ又は接ぎ木チューブを取り除いた後、NFT(Nutrient Film Technique)型の養液栽培装置を用いて栽培した。
栽培期間中の潅水は、養液栽培用肥料(OATハウス1号及びOATハウス2号)のEC(電気伝導度)を約1.5ms/cmに調節した養液(大塚ハウスA処方)を1日に1回循環させることで実施した。
トマト果実の着色開始日(催色期)から10日後にサンプリング(実施例及び比較例のそれぞれについて4株以上、かつ、1株から6果実以上)を行い、果実重量と果実糖度(Brix値)を測定した。Brix値は、サンプリング後1時間以内に、屈折糖度計(ATAGO、MASTER-20)を用いて測定した。
平均果重(1果実あたりの重量)及び平均Brix値の結果を表1に示す。
【0031】
表1

・異符号は、t検定(有意水準5%)において有意差があったデータを示す。
【0032】
実施例の接ぎ木体から採取されたトマトの果実糖度及び果実重量は、比較例の接ぎ木体から採取されたトマトの果実糖度及び果実重量よりも有意に増加していた。
この結果は、本発明に従い変異型サイクリンF-box遺伝子を有する植物を台木としてトマトを接ぎ木栽培することで、果実糖度だけでなく果実重量が向上したトマト果実が得られることを示している。
【0033】
〔試験例2:生長点発生率を指標としたトマト用台木植物の選抜〕
野生型サイクリンF-box遺伝子を持つ植物として、調理用トマト品種「すずこま」の野生型を使用した。野生型品種は、中原採種場(株)から入手した。
「P398Q」変異を持つ変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする変異型サイクリンF-box遺伝子をヘテロ型で保有する「すずこま」の変異型を使用した。この変異型品種は、「P398Q」変異を持つ変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする変異型サイクリンF-box遺伝子をホモ型で保有する「すずこま」と、「すずこま」の野生型とを交配することにより作出した。
ヘテロ変異種の戻し交雑から得られた種子(遺伝子型が変異ホモ型、変異ヘテロ型、野生型に分離する集団)を、水で湿らせた濾紙を敷いたプラスチックシャーレに播種し、発芽後、粒状綿を敷き詰めた128穴のセルトレイに移植した。
続いて、国際公開第2017/022859号(特許文献4)の実施例6に記載のdCAPSプライマー(dCAPSマーカー)を用いたジェノタイピングに基づいて、「P398Q」変異を持つ変異型サイクリンF-boxタンパク質をコードする変異型サイクリンF-box遺伝子をホモ型で保有する個体を選抜した。
選抜したホモ変異種及び野生型品種を、ガラス温室(室温:昼間24℃、夜間20℃)内で3週間栽培した。
栽培期間中、養液栽培用肥料(OATハウス1号及びOATハウス2号)のEC(電気伝導度)を約1.5ms/cmに調節した養液(大塚ハウスA処方)を2日に1回、底面灌水した。
3週間栽培した苗を形態観察し、正常個体(生長点が発生した個体)と異常個体(生長点が発生しなかった個体)に分類し、生長点発生率を決定した。結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
形態観察後、苗をセルトレイからロックウール(Grodan社製DELTA 4G)に定植し、2週間後に植物体全体の観察を行った(図3)。
【0036】
野生型サイクリンF-box遺伝子を持つ野生型品種では20個体すべてが正常個体であった。一方、「P398Q」変異をもたらす変異型サイクリンF-box遺伝子を持つホモ変異種では、14個体のうち11個体が、生長点が正常に発生しない異常個体であった。
この結果は、野生型品種よりも低い生長点発生率を指標として、本発明のトマト用台木植物を選抜できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、トマトの育種及び栽培分野で利用できる。
図1
図2
図3
【配列表】
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