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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146207
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/092 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61M25/092 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058976
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米道 渉
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267AA32
4C267BB07
4C267BB14
4C267BB52
4C267CC29
4C267EE03
4C267FF01
4C267HH17
(57)【要約】
【課題】簡素かつコンパクトな構成で、長尺部材の遠位端部に設けられた可動部の操作性に優れた医療用デバイスを提供する。
【解決手段】本発明に係る医療用デバイスは、高分子材料からなり、屈曲可能な可動部20が遠位端側に設けられている管状のチューブ(長尺部材)10と、可動部20を屈曲させるように可動部20に取り付けられており、チューブ10に沿って延在する金属製の操作ワイヤと、チューブ10の近位端に固定されるとともに操作ワイヤの近位端部と接続し、操作ワイヤを軸線方向に変位させて可動部20の偏向操作を可能とする偏向操作装置と、を備えている。チューブ10は、近位端側に配置された充実構造部21と、遠位端側に配置された多孔質構造部22とが一体に構成されたものである。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなり、屈曲可能な可動部が遠位端部に設けられている管状の長尺部材と、
前記可動部を屈曲させるように前記長尺部材の遠位端部に取り付けられており、前記長尺部材に沿って延在する金属製の操作ワイヤと、
前記長尺部材の近位端に固定されるとともに前記操作ワイヤの近位端部と接続し、前記操作ワイヤを軸線方向に変位させて前記可動部の偏向操作を可能とする偏向操作装置と、を備えた医療用デバイスであって、
前記長尺部材は、近位端側に配置された充実構造部と、遠位端側に配置された多孔質構造部とが一体に構成されたものであることを特徴とする医療用デバイス。
【請求項2】
前記充実構造部と前記多孔質構造部との境界部における前記長尺部材の径が長さ方向に略一定であることを特徴とする請求項1に記載の医療用デバイス。
【請求項3】
前記多孔質構造部が、前記長尺部材の遠位端から、前記長尺部材の遠位端より近位端側に所定の長さ位置までの範囲に配置されており、
前記可動部が、前記多孔質構造部の少なくとも一部を含むように設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用デバイス。
【請求項4】
前記偏向操作装置が、
前記長尺部材の近位端に固定され、前記操作ワイヤとして第1操作ワイヤおよび第2操作ワイヤを内部に挿通するように構成されたコントローラハウジングと、
前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤの延在方向に沿った長手方向に往復変位可能に、かつ、相互に対向する歯部を有するように前記コントローラハウジング内に収納され、対応する前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤのそれぞれの近位端部と接続して前記長手方向に変位することで、前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤのそれぞれを軸芯方向に変位させる第1ラック部材および第2ラック部材と、
前記第1ラック部材および前記第2ラック部材の間に配置され、前記第1ラック部材および前記第2ラック部材のそれぞれの歯部に噛合した状態で前記コントローラハウジングに対して回動自在に支持されており、かつ、前記長手方向に沿って前記コントローラハウジングに対して変位可能なように構成されたピニオン部材と、
前記第1ラック部材および前記第2ラック部材と一体に設けられ、前記コントローラハウジングの外方に突出する第1操作ノブおよび第2操作ノブと、を備え、
前記第1操作ノブおよび前記第2操作ノブの少なくとも一方が前記コントローラハウジングに対し前記長手方向に相対変位するようスライド操作されたとき、前記ピニオン部材に対し前記第1ラック部材および前記第2ラック部材が相互に逆方向に変位しつつ、前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤを前記可動部の偏向操作方向に変位させ、
前記第1操作ノブおよび前記第2操作ノブの両方が前記コントローラハウジングに対し前記長手方向の同一方向に変位するようスライド操作されたとき、前記第1ラック部材および前記第2ラック部材がそれぞれの歯部に噛合した前記ピニオン部材を前記長手方向の同一方向に変位させることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用デバイス。
【請求項5】
前記コントローラハウジングに対する前記ピニオン部材の移動路の近位端側に、前記ピニオン部材の遠位端側への移動を規制する移動規制部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の医療用デバイス。
【請求項6】
前記移動規制部として、前記ピニオン部材の回動軸材と当接して前記ピニオン部材の遠位端側への移動を規制する凸部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の医療用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に挿入される長尺部材を備え、その遠位端に設けられた被操作部の偏向操作を行うことが可能な医療用デバイスに関し、特に、体内に挿入される長尺部材を備えた内視鏡、カテーテル、カニューレ等の医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の低侵襲的な医療手技において、体内に挿入して体内管腔を通過させるために好適な長尺部材を備えた医療用デバイスが用いられている。長尺部材は概して細径の可撓性部材からなり、長尺部材を体外から体内管腔内に挿入してその遠位端を体内の所望の部位に到達させることで、種々の治療や検査等を行うことができるように構成されている。
【0003】
従来、長尺部材の遠位端に屈曲可能な被操作部が設けられており、体外側における施術者の操作により体内に挿入された被操作部を偏向させることを可能にする技術が知られている。被操作部を偏向させる技術としては、例えば、長尺部材の遠位端に位置する被操作部と、体外側に配置された操作装置との間に操作線材を介在させて、操作装置によって操作線材を操作することで被操作部の偏向操作を行う構成が知られている。
【0004】
上記のような構成では、長尺部材の遠位端と操作装置との間に介在する操作線材に張力が発生していないと、操作装置による操作が遠位端の被操作部に伝達されない。このため、医療用デバイスを使用する使用者(施術者)がすぐに使用可能となるように、通常は、医療用デバイスの使用前(例えば滅菌時、工場出荷時、搬送時、保管時等を含む)に、操作線材に張力を発生させた状態としている。
【0005】
下記の特許文献1には、長尺で可撓性の管状本体の遠位部に接続された複数本の操作線で屈曲させることが可能なカテーテルが記載されている。また、下記の特許文献1には、カテーテルの組立後に受ける加熱または膨潤環境下で操作線や管状本体が損傷することがないカテーテルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-188335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、体内に挿入される管状の長尺部材はある程度の剛性を有していなければ、体内への挿入を円滑に行うことができないという問題がある。一方、体内に挿入される管状の長尺部材はある程度の柔軟性を有していなければ、その遠位端が円滑に屈曲することができないという問題がある。上記の剛性および柔軟性は相互に相容れない特性であり、現状、これらの特性を兼ね備えて操作性に優れた医療用デバイスが求められている。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、簡素かつコンパクトな構成で、長尺部材の遠位端部に設けられた可動部の操作性に優れた医療用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る医療用デバイスは、上記の目的を達成するため、高分子材料からなり、屈曲可能な可動部が遠位端部に設けられている管状の長尺部材と、
前記可動部を屈曲させるように前記長尺部材の遠位端部に取り付けられており、前記長尺部材に沿って延在する金属製の操作ワイヤと、
前記長尺部材の近位端に固定されるとともに前記操作ワイヤの近位端部と接続し、前記操作ワイヤを軸線方向に変位させて前記可動部の偏向操作を可能とする偏向操作装置と、を備えた医療用デバイスであって、
前記長尺部材は、近位端側に配置された充実構造部と、遠位端側に配置された多孔質構造部とが一体に構成されたものであることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、体内に挿入される長尺部材において、長尺部材の遠位端側に多孔質構造部が配置されており、長尺部材の近位端側に充実構造部が配置されている。多孔質構造部の作用により長尺部材の遠位端部は柔軟性に優れたものとなり、充実構造部の作用により長尺部材の近位端部は剛性に優れたものとなっている。これにより、長尺部材は柔軟性および剛性を兼ね備え、操作性に優れた医療用デバイスが実現される。
【0011】
また、充実構造部と多孔質構造部とが一体に配置された長尺部材を用いることで、例えば充実構造部により構成された長尺部材と、多孔質構造部により構成された長尺部材とをそれぞれ別体として準備して接着等により接合する等の手間が不要となり、製造工程を簡易化することができる。
【0012】
本発明に係る医療用デバイスは、上記の構成において、前記充実構造部と前記多孔質構造部との境界部における前記長尺部材の径が長さ方向に略一定であってもよい。
【0013】
上記の構成によれば、長尺部材は充実構造部と多孔質構造部との境界部に繋ぎ目および段差が無く長さ方向に平滑なものとなるため、体内管腔や内視鏡鉗子口等に長尺部材を挿入する際に、挿入抵抗が増大することなく円滑な挿入が可能となる。また、繋ぎ目および段差がなく、長尺部材は耐久性に優れたものとなる。
【0014】
本発明に係る医療用デバイスは、上記の構成において、前記多孔質構造部が、前記長尺部材の遠位端から、前記長尺部材の遠位端より近位端側に所定の長さ位置までの範囲に配置されており、
前記可動部が、前記多孔質構造部の少なくとも一部を含むように設けられていてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、長尺部材の遠位端部に設けられた可動部は、柔軟性に優れた多孔質構造部を含んでいるため屈曲性に優れたものとなり、偏向操作装置による操作応答性を向上させることができる。
【0016】
本発明に係る医療用デバイスは、上記の構成において、
前記偏向操作装置が、
前記長尺部材の近位端に固定され、前記操作ワイヤとして第1操作ワイヤおよび第2操作ワイヤを内部に挿通するように構成されたコントローラハウジングと、
前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤの延在方向に沿った長手方向に往復変位可能に、かつ、相互に対向する歯部を有するように前記コントローラハウジング内に収納され、対応する前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤのそれぞれの近位端部と接続して前記長手方向に変位することで、前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤのそれぞれを軸芯方向に変位させる第1ラック部材および第2ラック部材と、
前記第1ラック部材および前記第2ラック部材の間に配置され、前記第1ラック部材および前記第2ラック部材のそれぞれの歯部に噛合した状態で前記コントローラハウジングに対して回動自在に支持されており、かつ、前記長手方向に沿って前記コントローラハウジングに対して変位可能なように構成されたピニオン部材と、
前記第1ラック部材および前記第2ラック部材と一体に設けられ、前記コントローラハウジングの外方に突出する第1操作ノブおよび第2操作ノブと、を備え、
前記第1操作ノブおよび前記第2操作ノブの少なくとも一方が前記コントローラハウジングに対し前記長手方向に相対変位するようスライド操作されたとき、前記ピニオン部材に対し前記第1ラック部材および前記第2ラック部材が相互に逆方向に変位しつつ、前記第1操作ワイヤおよび前記第2操作ワイヤを前記可動部の偏向操作方向に変位させ、
前記第1操作ノブおよび前記第2操作ノブの両方が前記コントローラハウジングに対し前記長手方向の同一方向に変位するようスライド操作されたとき、前記第1ラック部材および前記第2ラック部材がそれぞれの歯部に噛合した前記ピニオン部材を前記長手方向の同一方向に変位させるものであってもよい。
【0017】
上記の構成によれば、第1操作ノブおよび第2操作ノブの両方を同時に同一方向にスライド操作することで、ピニオン部材を長手方向に変位させることができる。これにより、ピニオン部材を長手方向の遠位端側に変位させることで操作ワイヤに遊びを持たせるように弛ませたり、ピニオン部材を長手方向の近位端側に変位させることで操作ワイヤに張力を持たせたりすることが自在にできるようになる。
【0018】
また、上記の構成を有する医療用デバイスは、遠位端側に配置された多孔質構造部と、近位端側に配置された充実構造部とが一体に構成された長尺部材を備えるとともに、長尺部材の遠位端部に位置する可動部と偏向操作装置との間に介在する操作ワイヤを備えている。このように構成された医療用デバイスにおいて、例えば夏場に直射日光が当たる場所に曝される等、医療用デバイスが高温環境に置かれた場合には、長尺部材および操作ワイヤは熱膨張する。このとき、長尺部材と操作ワイヤとで材質が異なること等によって線膨張係数に差があると、一方が他方に比して長さ方向に大きく熱膨張してしまう。その結果、線膨張係数が相対的に大きい部材には長さ方向の圧縮力が加わり、線膨張係数が相対的に小さい部材には長さ方向の引張力が加わってしまうことになる。そして、その圧縮力や引張力により、それぞれの部材が破断したり変形したりしてしまい、医療用デバイスが適切に使用できなくなるという問題が生じる可能性がある。
【0019】
このような問題に鑑みて、上記の構成を有する医療用デバイスは、使用前はピニオン部材を長手方向の遠位端側に変位させて操作ワイヤに遊びを持たせておき、使用時にピニオン部材を長手方向の近位端側に変位させて操作ワイヤに張力を持たせることができるようになっている。これにより、使用前に生じ得る各部材の破断または変形を防ぐことができるようになり、使用時に可動部の偏向操作が適切に行われる状態とすることができるようになる。
【0020】
本発明に係る医療用デバイスは、上記の構成において、前記コントローラハウジングに対する前記ピニオン部材の移動路の近位端側に、前記ピニオン部材の遠位端側への移動を規制する移動規制部が設けられていてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、第1操作ノブおよび第2操作ノブの両方を同時に同一方向にスライド操作してピニオン部材を近位端側に移動させた状態(操作ワイヤに張力を持たせた状態)とした場合、ピニオン部材の遠位端側への移動が移動規制部によって規制され、可動部の偏向操作を適切に行える状態を維持することができるようになる。
【0022】
本発明に係る医療用デバイスは、上記の構成において、前記移動規制部として、前記ピニオン部材の回動軸材と当接して前記ピニオン部材の遠位端側への移動を規制する凸部が設けられていてもよい。
【0023】
上記の構成によれば、移動規制部としてピニオン部材の移動路に凸部を設けた簡素な構成によって、ピニオン部材の回動軸材を凸部に当接させることでピニオン部材の遠位端側への移動を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態における医療用デバイス全体の構成を示す平面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】本発明の実施形態における医療用デバイスのチューブの遠位端近傍を示す斜視図であり、(a)はチューブの遠位端近傍を模式的に示す斜視図、(b)はチューブの内部を説明するための透過図である。
図4】本発明の実施形態における医療用デバイスを構成するチューブの可動部の屈曲動作を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態における医療用デバイスを構成するチューブの構造を説明するための図である。
図6】本発明の実施形態における医療用デバイスを構成するチューブとYコネクタとの接続態様を説明するための透過図である。
図7】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置を示す平面図であり、コントローラハウジングの表面側の蓋体を透視した状態を示す図である。
図8】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置を示す斜視図であって、コントローラハウジングの蓋体をベースから取り外した状態を示す図である。
図9】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置を一側方から見た状態を示す側面図である。
図10】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置を他側方から見た状態を示す側面図である。
図11】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置に含まれるラック部材を示す平面図であり、(a)は第2ラック部材および第2操作ノブを示す図、(b)は第1ラック部材および第1操作ノブを示す図である。
図12】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置によってチューブの可動部を一方向に偏向させた状態を示す平面図である。
図13】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置によってチューブの可動部を他方向に偏向させた状態を示す平面図である。
図14】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置の使用前状態を示す平面図であり、コントローラハウジングの表面側の蓋体を取り外した状態を示す図である。
図15】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置の使用前状態を示す長手方向の中心線に沿った断面図、およびピニオン部材近傍の拡大断面図である。
図16】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置の使用時状態を示す平面図であり、コントローラハウジングの表面側の蓋体を取り外した状態を示す図である。
図17】本発明の実施形態における医療用デバイスの偏向操作装置の使用時状態を示す長手方向の中心線に沿った断面図、およびピニオン部材近傍の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。本明細書では、本発明に係る医療用デバイスの使用者(施術者)を基準として、患者の体内側を遠位端側とし、使用者の手元側を近位端側とする。本明細書において参照する図面は、実際の寸法に対して必ずしも正確な縮尺を有するものではなく、本発明に係る構成を模式的に示すために一部を誇張または簡略化したものである。
【0026】
本発明に係る医療用デバイスは、管状の長尺部材の遠位端側に配置された可動部(被操作部または偏向部)を使用者が偏向可能に操作できるように構成されたものであり、例えば、長尺部材を備えた内視鏡、カテーテル、カニューレ等が挙げられる。以下では、一例として、内視鏡鉗子口に挿入された上で胆管に挿入して用いられる先端可動カニューレに対して本発明を適用した構成について説明する。ただし、本発明は本明細書で説明する構成に限定されるものではなく、長尺部材の遠位端側に配置された可動部を偏向可能に操作することが可能な任意の医療用デバイスに適用可能である。
【0027】
まず、本発明の実施形態における医療用デバイス1全体の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態における医療用デバイス1全体の構成を示す平面図である。
【0028】
図1に示す医療用デバイス1は、チューブ10と、接続部材50と、Yコネクタ60と、偏向操作装置100と、により概して構成されている。
【0029】
チューブ10は、体内に挿入される遠位端部(図1で上側)に、その向きを左右方向に偏向させられる可動部20を有する。また、チューブ10の遠位端10aには先端チップ15が取り付けられている。チューブ10は、本発明の長尺部材を構成する。
【0030】
偏向操作装置100は、チューブ10の近位端10bに固定されており(図7参照)、使用時においては体外に配置される。後述するように、偏向操作装置100は、チューブ10の遠位端部に取り付けられた操作ワイヤ(例えば図3(b)に示す第1および第2操作ワイヤW1、W2を参照)を軸線方向に変位させることによって、チューブ10の遠位端部に設けられた可動部20を偏向操作できるように構成されている。
【0031】
偏向操作装置100の近位端側には接続部材50が配置されている。接続部材50は、チューブ10および偏向操作装置100とは別体として形成された中空の部材であり、例えばステンレス鋼等に金属により構成されている。
【0032】
接続部材50は、管状の第1保護部材51、分岐部材52、管状の第2保護部材53が一体に構成されている。第1保護部材51および第2保護部材53の内部にはチューブ10が挿通されて固定されており、この区間においてチューブ10は第1保護部材51および第2保護部材53により保護されている。また、分岐部材52は、第1保護部材51および第2保護部材53の間に介在してチューブ10を保護するとともに、チューブ10と連通するようにYコネクタ60を装着できるように構成されている。チューブ10とYコネクタ60との接続態様については、図6を参照して後述する。
【0033】
以下、チューブ10および第1および第2操作ワイヤW1、W2について説明する。
【0034】
チューブ10は、長尺かつ細径の可撓性を有する管からなる部材である。使用者が体内の治療や検査等を行う際には、チューブ10を体外から体内へ挿入して、チューブ10の遠位端10aを体内の所望の部位に到達させることができるようになっている。
【0035】
チューブ10の遠位端側には、使用者が偏向操作装置100を用いて屈曲操作可能な可動部20が設けられている。なお、本明細書における屈曲とは、弓なりに曲がる湾曲を含む意味を有する。
【0036】
図2は、図1のA-A断面図である。チューブ10は、その延在方向に沿って内腔(ルーメン)が形成された管状構造を有している。図2に示すように、チューブ10の断面略中央部には、チューブ10の長さ方向に沿ってメインルーメン11が形成されている。メインルーメン11は、チューブ10の遠位端10aおよび近位端10bでそれぞれ開口するように形成されている。
【0037】
チューブ10の外周面とメインルーメン11との間の管壁部には、第1および第2操作ワイヤW1、W2を挿通するためのワイヤ用ルーメン11a、11b、12a、12bが形成されている。図2に示すように、チューブ10には一対のワイヤ用ルーメン11a、11bおよび一対のワイヤ用ルーメン12a、12b、すなわち合計4つのワイヤ用ルーメン11a、11b、12a、12bが形成されている。各ワイヤ用ルーメン11a、11b、12a、12bもメインルーメン11と同様、チューブ10の遠位端10aおよび近位端10bで開口するように形成されている。
【0038】
後述するように、一対のワイヤ用ルーメン11a、11bには第1操作ワイヤW1が挿通され、一対のワイヤ用ルーメン12a、12bには第2操作ワイヤW2が挿通される。一対のワイヤ用ルーメン11a、11bと一対のワイヤ用ルーメン12a、12bとは、チューブ10の中心軸に対し相互に約180度対極となる位置にそれぞれ設けられている。
【0039】
チューブ10は、体内の治療や検査等に適した寸法に設定されることが好ましく、特に限定されないが、例えば断面径方向の寸法が2~20mm程度、軸方向の寸法が20~300cm程度とすることができる。また、可動部20の範囲は、体内の治療または検査の対象部位に応じて適宜設定可能であり、特に限定されないが、例えばチューブ10の遠位端10aから2~10cm程度の範囲(すなわち、図1の寸法L1が2~10cm程度)とすることができる。
【0040】
チューブ10の材質は、チューブ10が体内に挿入された柔軟に変形できるように可撓性を有する材質であるとともに人体に害の無い材質であることが好ましく、例えばポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、等の生体適合性を有する高分子材料であってもよく、特にポリテトラフルオロエチレンが用いられることが好ましい。また、本実施形態におけるチューブ10は、図5を参照して後述するように、近位端側に充実構造部21を備え、遠位端側に多孔質構造部22を備えて構成されている。
【0041】
なお、チューブ10を補強するとともにチューブ10の捩れを抑えるため、チューブ10に、例えばステンレス鋼等の線材が編組されてなる補強部材を配設したブレード層を設けてもよい。また、チューブ10は複数のルーメンを有するものであってもよく、多層チューブであってもよい。
【0042】
図3(a)、(b)および図4を参照しながら、チューブ10の遠位端10a近傍の構成について説明する。図3は、本発明の実施形態における医療用デバイス1を構成するチューブ10の遠位端10a近傍を示す斜視図であり、(a)はチューブ10の遠位端10a近傍を模式的に示す斜視図、(b)は、チューブ10の内部を説明するための透過図である。なお、図3(b)では、メインルーメン11は図示省略している。図4は、本発明の実施形態における医療用デバイス1を構成するチューブ10の可動部20の屈曲動作を説明するための図である。
【0043】
チューブ10の遠位端10aには、例えば金属等により構成された先端チップ15が設けられている。先端チップ15は、チューブ10の遠位端10aを保護するとともに、体内へのチューブ10の挿入抵抗を低減する役割を有している。先端チップ15は、溶接または接着等によりチューブ10の遠位端10aに固定されている。
【0044】
先端チップ15には、その中心軸に沿って貫通孔15aが設けられている。貫通孔15aはチューブ10のメインルーメン11に連通しており、この貫通孔15aを通じてチューブ10のメインルーメン11は外部と連通できるようになっている。
【0045】
先端チップ15には、その近位端側の側面に一対の凹部16、17が形成されている。凹部16にはワイヤ挿通孔16a、16bが形成されている。同様に、凹部17にもワイヤ挿通孔17a、17bが形成されている。ワイヤ挿通孔16a、16b、17a、17bは、チューブ10の遠位端10aで開口するワイヤ用ルーメン11a、11b、12a、12bの開口位置にそれぞれ対応するように設けられており、ワイヤ用ルーメン11a、11b、12a、12bに挿通されている第1および第2操作ワイヤW1、W2は、ワイヤ挿通孔16a、16b、17a、17bにそれぞれ挿通されるようになっている。
【0046】
図2および図3(b)に示すように、ワイヤ用ルーメン11a、11bには単一の操作ワイヤ(第1操作ワイヤ)W1が挿通されており、ワイヤ用ルーメン12a、12bには単一の操作ワイヤ(第2操作ワイヤ)W2が挿通されている。第1および第2操作ワイヤW1、W2は、可動部20を含むチューブ10の湾曲に追従して湾曲し得る程度の柔軟性を有する金属(ステンレス鋼等)により構成されている。
【0047】
ワイヤ用ルーメン11a、11bに挿通されている第1操作ワイヤW1は、ワイヤ用ルーメン11a、11bに対応して設けられている先端チップ15のワイヤ挿通孔16a、16bに挿通されている。第1操作ワイヤW1は、ワイヤの軸線方向の略半分の位置に相当する中間部分W1cが先端チップ15の凹部16で折り返されている。中間部分W1cを基準として一端部側の操作ワイヤW1aはワイヤ挿通孔16aを通じてワイヤ用ルーメン11aに挿通されており、他端部側の操作ワイヤW1bはワイヤ挿通孔16bを通じてワイヤ用ルーメン11bに挿通されている。操作ワイヤW1aおよび操作ワイヤW1bが近位端側に引っ張られ、その引張力によって中間部分W1cは先端チップ15に係合するように構成されている。
【0048】
ワイヤ用ルーメン12a、12bに挿通されている第2操作ワイヤW2は、ワイヤ用ルーメン12a、12bに対応して設けられている先端チップ15のワイヤ挿通孔17a、17bに挿通されている。第2操作ワイヤW2は、ワイヤの軸線方向の略半分の位置に相当する中間部分W2cが先端チップ15の凹部17で折り返されている。中間部分W2cを基準として一端部側の操作ワイヤW2aはワイヤ挿通孔17aを通じてワイヤ用ルーメン12aに挿通されており、他端部側の操作ワイヤW2bはワイヤ挿通孔17bを通じてワイヤ用ルーメン12bに挿通されている。操作ワイヤW2aおよび操作ワイヤW2bが近位端側に引っ張られ、その引張力によって中間部分W2cは先端チップ15に係合するように構成されている。
【0049】
第1操作ワイヤW1を構成する一端部側の操作ワイヤW1aは、ワイヤ用ルーメン11aに挿通された状態でチューブ10に沿って延在しており、操作ワイヤW1aの近位端部は偏向操作装置100の内部に導かれている。同様に、第1操作ワイヤW1を構成する他端部側の操作ワイヤW1bは、ワイヤ用ルーメン11bに挿通された状態でチューブ10に沿って延在し、操作ワイヤW1bの近位端部は偏向操作装置100の内部に導かれている。後述するように、操作ワイヤW1aの近位端部および操作ワイヤW1bの近位端部は、偏向操作装置100の第1ラック部材200と連結固定されている。第1ラック部材200が近位端側に移動すると操作ワイヤW1aおよび操作ワイヤW1bが近位端側に引っ張られて、可動部20は先端チップ15の凹部16が配置されている側(図4に示す矢印α方向)に偏向するようになっている。
【0050】
第2操作ワイヤW2を構成する一端部側の操作ワイヤW2aは、ワイヤ用ルーメン12aに挿通された状態でチューブ10に沿って延在し、操作ワイヤW2aの近位端部は偏向操作装置100の内部に導かれている。同様に、第2操作ワイヤW2を構成する他端部側の操作ワイヤW2bは、ワイヤ用ルーメン12bに挿通された状態でチューブ10に沿って延在し、操作ワイヤW2bの近位端部は偏向操作装置100の内部に導かれている。後述するように、操作ワイヤW2aの近位端部および操作ワイヤW2bの近位端部は、偏向操作装置100の第2ラック部材300と連結固定されている。第2ラック部材300が近位端側に移動すると操作ワイヤW2aおよび操作ワイヤW2bが近位端側に引っ張られて、可動部20は先端チップ15の凹部17が配置されている側(図4に示す矢印β方向)に偏向するようになっている。
【0051】
チューブ10の近位端側を含む長手方向の中間部10cは体内管腔に合わせて柔軟に変形できるとともに、剛性等の機械的強度に優れていることが好ましい。一方、チューブ10の可動部20は、使用者による操作により柔軟に偏向できることが好ましい。このため、可動部20が設けられるチューブ10の遠位端側は、偏向操作装置100による偏向操作に追従して偏向できるようになっていることが好ましく、チューブ10の中間部10cと比較して高い柔軟性を有することが好ましい。
【0052】
以下に説明するように、本実施形態におけるチューブ10は、可動部20を構成する遠位端側に柔軟性に優れた箇所を備えるとともに、近位端側を含む中間部10cに機械的強度に優れた箇所を備えている。これにより、本実施形態におけるチューブ10は、柔軟性および剛性を兼ね備えて操作性に優れたものとなっている。
【0053】
図5を参照しながら、本実施形態におけるチューブ10の構造について説明する。図5は、本発明の実施形態におけるチューブ10の構造を説明するための図である。
【0054】
図5に示すように、本実施形態におけるチューブ10は、近位端側が充実構造部21により構成されており、遠位端側が多孔質構造部22により構成されている。
【0055】
充実構造部21は、主にチューブ10の中間部10cに配置されてチューブ10を構成している。一方、多孔質構造部22は、充実構造部21より遠位端側からチューブ10の遠位端10aまでの範囲においてチューブ10を構成している。
【0056】
多孔質構造部22のチューブ10の遠位端10aから境界部23までの長さ(図5の寸法L2)は特に限定されず、可動部20の長さ方向の寸法(図1の寸法L1)より多孔質構造部22の長さ方向の寸法L2が短くても長くてもよく、同じであってもよい。換言すると、可動部20は、多孔質構造部22の少なくとも一部を含むように設けることができる。
【0057】
充実構造部21および多孔質構造部22はともに、例えばポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、等の生体適合性を有する高分子材料で構成することができる。充実構造部21および多孔質構造部22は、同一の材料であることが好ましいが、異なる材料であってもよい。本実施形態におけるチューブ10では、好適な一例として、充実構造部21および多孔質構造部22はともにポリテトラフルオロエチレンにより構成されている。
【0058】
多孔質構造部22は、充実構造部21よりも空孔を多く含んで多孔質であるという特徴を有している。充実構造部21および多孔質構造部22は、下記に例示するようにそれぞれ異なる物性を有している。
【0059】
充実構造部21の比重は、特に限定されないが、0.80~2.20であることが好ましい。多孔質構造部22の比重は、特に限定されないが、0.10~2.00であることが好ましい。また、充実構造部21における比重と、多孔質構造部22における比重との比率(多孔質構造部/充実構造部)は、チューブ10の長さ方向の少なくとも一部において、0.30~0.95であることが好ましく、0.40~0.90であることがより好ましく、0.50~0.90であることがさらに好ましい。これにより、チューブ10の近位端側は充実構造部21の作用により剛性に優れ、チューブ10の遠位端側は多孔質構造部22の作用により柔軟性に優れたものとなる。なお、比重の試験方法は、JIS Z 8807に記載の液中秤量法に準拠し、標準物質は水である。
【0060】
充実構造部21における圧環強さと、多孔質構造部22における圧環強さとの比率(多孔質構造部/充実構造部)は、0.20以上1.0未満であることが好ましい。当該圧環強さに係る比率が0.50以上1.0未満である場合には、多孔質構造部22においても、一定の圧環強さを確保できるため、チューブ10は機械的強度に優れたものとなる。一方、当該圧環強さに係る比率が0.20以上0.50未満である場合には、チューブ10は機械的強度とともに柔軟性においても優れたものとなる。なお、圧環強さは、曲げ潰れ剛性測定器にて径方向への圧縮試験を行い、0.5mm押込み時の反力を測定したものである。チューブ長さは10mm、圧縮部形状は平面状であり、押込み速度は1.0mm/分である。
【0061】
充実構造部21における曲げ応力と、多孔質構造部22における曲げ応力との比率(多孔質構造部/充実構造部)は、0.10以上1.0未満であることが好ましい。当該曲げ応力に係る比率が0.40以上1.0未満である場合には、多孔質構造部22においても、一定の曲げ応力を確保できるため、チューブ10は機械的強度に優れたものとなる。一方、当該曲げ応力に係る比率が0.10以上0.40未満である場合には、チューブ10は機械的強度とともに柔軟性においても優れたものとなる。なお、曲げ応力は、曲げ潰れ剛性測定器にて曲げ試験を行い、5.0mm押込み時の反力を測定したものである。チューブ長さは100mm、圧縮部形状は直径10mmの円筒状、支持間距離は60mm、支持部材形状は直径10mmの円筒状、押込み速度は50mm/分である。
【0062】
充実構造部21における耐キンク性と、多孔質構造部22における耐キンク性との比率((多孔質構造部/充実構造部)×100)は、20%以上100%未満であることが好ましく、20~90%であることがより好ましく、20~80%であることがさらに好ましい。耐キンク性は、バイスによる座屈試験を行い、チューブが完全に座屈した際のバイス間距離を測定したものである。長さ300mmのチューブを曲げた状態で、約200mmの幅のバイスに挟み、チューブが完全に座屈するまでバイス間距離を少しずつ縮め、座屈した際のバイス間距離を測定値とする。この測定値が小さいほど、チューブは、より耐キンク性に優れたものであると言える。充実構造部21における耐キンク性と、多孔質構造部22における耐キンク性との比率が小さい程、より小さい曲げ半径においても、チューブ10の折れ等を防ぐことが可能となる。
【0063】
チューブ10において、充実構造部21と多孔質構造部22の境界部23の構造は特に限定されるものではない。例えば、充実構造部21と多孔質構造部22との境界部23に、徐々に構造が変化する移行部を設けてもよい。移行部の長さ方向の寸法は特に限定されない。
【0064】
チューブ10に移行部を設けた場合には、チューブ10を屈曲した際に、ある一点に負荷が集中しないため、屈曲時等にチューブ10に折れや潰れが生じにくくなり、チューブ10はより耐キンク性が向上したものとなる。一方、チューブ10に移行部を設けない場合は、充実構造部21の作用によって、チューブ10の圧環強さが向上し、チューブ10の剛性を高めることができるようになる。
【0065】
また、多孔質構造部22自体を、チューブ10の遠位端側に向かうにつれてより柔軟性を有する構造に徐々に変化させてもよい。これにより、チューブ10の遠位端側に行くほど柔軟性および屈曲性が増大するため、チューブ10の遠位端部に設けられた可動部20の操作応答性を向上させることができる。また、チューブ10は急激な変化なく徐々に遠位端側に向かって柔軟性および屈曲性が増大するため、遠位端側でより大きく屈曲する可動部20に適合した構成となり、可動部20をスムーズに偏向させることができるようになる。
【0066】
また、チューブ10は、充実構造部21、多孔質構造部22、および充実構造部21と多孔質構造部22との境界部23のいずれにおいても、その内周面および外周面が、繋ぎ目および段差が無く平滑であることが好ましい。チューブ10の内周面(メインルーメン11の周面)が平滑となることで、メインルーメン11に各種処置具等を円滑に挿通させることができるようになる。また、チューブ10の外周面が平滑となることで、体内管腔や内視鏡鉗子口等にチューブ10を円滑に挿通させることができるようになる。特に、チューブ10の外周面に繋ぎ目および段差が生じている場合には、この部分でチューブ10の挿入抵抗が大きくなり、操作性が大きく低下することになる。このため、充実構造部21と多孔質構造部22との境界部23において、チューブ10の径が長さ方向において略一定となるように形成することで、チューブ10の挿入抵抗の増大を防いでチューブ10を円滑に挿入できるようにすることが好ましい。
【0067】
チューブ10の製造方法は特に限定されず、例えば、押出成型、射出成型、フィルムをチューブ状に巻き付ける製法等が挙げられ、必要に応じて、延伸処理、ケミカル処理、プラズマ処理、レーザー処理、電子架橋処理等を施してもよい。また、特にチューブ10の全体をポリテトラフルオロエチレンで構成する場合には、押出成形によって未焼成のチューブを製造し、充実構造部21に相当する部分を焼結処理したのち、多孔質構造部22に相当する部分を延伸処理して多孔質化してから焼結処理することで、充実構造部21および多孔質構造部22を備えたチューブ10を製造してもよい。
【0068】
また、多孔質構造部22は、チューブ10の径方向において等方性を有していることが好ましい。これにより、多孔質構造部22はいずれの方向にも同様の屈曲性を有するようになり、多孔質構造部22の少なくとも一部を含む可動部20の配置が容易となる。
【0069】
以下、チューブ10とYコネクタ60との接続態様について説明する。図6は、本発明の実施形態における医療用デバイス1を構成するチューブ10とYコネクタ60との接続態様を説明するための透過図である。なお、図6では、接続部材50の第1保護部材51および分岐部材52は図示省略している。
【0070】
図1および図6に示すように、接続部材50およびYコネクタ60は、偏向操作装置100の遠位端側に設けられている。
【0071】
接続部材50は、遠位端側および近位端側のそれぞれに開口部を有する。これらの開口部には、接続部材50を通過するようにチューブ10が挿通されて固定されている。また、接続部材50は、Yコネクタ60の先端スリーブ部61が挿入可能な開口部を有する。
【0072】
Yコネクタ60は、チューブ10および偏向操作装置100、さらには接続部材50とは別体として形成された中空の部材である。Yコネクタ60は、例えば樹脂等を射出成形して形成されている。
【0073】
図6に示すように、Yコネクタ60は、接続部材50の開口部に挿入される先端スリーブ部61と、二股に分岐した第1ポート部62および第2ポート部63を有する。
【0074】
先端スリーブ部61の内部に形成された先端側孔61aには、熱収縮チューブ等により構成された接続チューブ65が熱融着または接着等により固定されている。接続チューブ65の遠位端部は、チューブ10の側周面からメインルーメン11内に挿入されており、先端側孔61aはチューブ10のメインルーメン11に連通している。また、先端側孔61aは、第1ポート部62および第2ポート部63のそれぞれの内部に形成された第1孔62aおよび第2孔63aのそれぞれと連通している。
【0075】
第1ポート部62は、その近位端側に弁体等を備えた開口部62bを有している。第1ポート部62の近位端側の開口部62bからは造影剤等が導入可能であり、第1ポート部62の第1孔62aおよび先端スリーブ部61の先端側孔61aに接続された接続チューブ65を通じて、チューブ10のメインルーメン11に造影剤等を導入できるようになっている。
【0076】
第2ポート部63は、その近位端側にハンドル部64によってその開口径の調節が可能な開口部63bを有している。第2ポート部63の近位端側の開口部63bからはガイドワイヤ等が導入可能であり、第2ポート部63の第2孔63aおよび先端スリーブ部61の先端側孔61aに接続された接続チューブ65を通じて、チューブ10のメインルーメン11にガイドワイヤ等を導入できるようになっている。なお、第2ポート部63の開口部63bからガイドワイヤ等が挿通されている場合であっても、ハンドル部64によって開口部63bの開口径を調節することで、第1ポート部62から導入された造影剤等が第2ポート部63の開口部63bから漏出せず、その液密性が確保される。
【0077】
次に、本実施形態に係る偏向操作装置100について説明する。
【0078】
偏向操作装置100は、後述するように、ピニオン部材500が医療用デバイス1の使用前は湾曲部441cに近い遠位端側の位置(第1位置)に配置され、第1および第2操作ワイヤW1、W2に弛みを持たせた状態(使用前状態)と、ピニオン部材500が湾曲部442cに近い近位端側の位置(第2位置)に配置され、可動部20の偏向操作を適切に行える状態(使用時状態)とを取り得る。以下では、まず図7図13を参照しながら、偏向操作装置100の構成とともに、可動部20の偏向操作を適切に行える使用時状態について主に説明する。
【0079】
図7は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100を示す平面図であり、コントローラハウジング400の蓋体400Bを透視して内部構成を実線で示す図である。図8は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100を示す斜視図であって、コントローラハウジング400の蓋体400Bをベース400Aから取り外した状態を示す図である。図9は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100を一側方から見た状態を示す側面図である。図10は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100を他側方(図9に示した一側方とは逆の方向)から見た状態を示す側面図である。
【0080】
図11は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100に含まれるラック部材を示す平面図であり、(a)は第2ラック部材300および第2操作ノブ520を示す図、(b)は第1ラック部材200および第1操作ノブ510を示す図である。図12は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100によってチューブ10の可動部20を一方向に偏向させた状態を示す平面図である。図13は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100によってチューブ10の可動部20を他方向(図12に示した一方向とは逆の方向)に偏向させた状態を示す平面図である。
【0081】
図7に示すように、本実施形態に係る偏向操作装置100は、内部に空洞を有する扁平状のコントローラハウジング400と、コントローラハウジング400内に収納された第1ラック部材200および第2ラック部材300と、これら第1ラック部材200と第2ラック部材300との間に配置されたピニオン部材500と、を備えている。
【0082】
コントローラハウジング400は、内部に空洞を有する略T字状に形成されたものであって、略長方形状の本体部410と、本体部410の長手方向の一端側である近位端に一体に設けられた支持ハンドル部420と、本体部410の長手方向の他端側である遠位端に第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2がそれぞれ挿通されるワイヤ挿通部430と、を有する。本体部410は、チューブ10内に挿通されている各操作ワイヤW1、W2の延在方向に沿った方向が長手方向となっている。以下でいう長手方向は、この本体部410の長手方向に基づくものとする。
【0083】
コントローラハウジング400は、本体部410の幅方向中央を通る長手方向の中心線Cを対称線とした対称形状を有する。コントローラハウジング400は、図8に示すように、厚さ方向に略二等分される半割状のベース400Aおよび蓋体400Bが、少なくとも長手方向に分散配置された3箇所のねじ締結部401、402、403により着脱可能に組み合わされて構成される。なお、ベース400Aと蓋体400Bとを固定する方法はねじによる締結に限定されず、例えば接着剤等を用いて固定してもよい。ベース400Aと蓋体400Bとは略同一形状であり、それぞれ樹脂等によって形成されたものである。
【0084】
図8に示すように、ベース400Aは、コントローラハウジング400の本体部410および支持ハンドル部420をそれぞれ構成するベース側本体部410aおよびベース側支持ハンドル部420aを有する。またこれと同様に、蓋体400Bは、コントローラハウジング400の本体部410および支持ハンドル部420をそれぞれ構成する蓋体側本体部410bおよび蓋体側支持ハンドル部420bを有する。
【0085】
図8に示すように、ベース400Aは、底板部404aと、底板部404aの縁を形成する側壁部405aと、を有し、これによりベース400Aの断面は薄い皿状になっている。また、蓋体400Bは、天板部404bと、天板部404bの縁を形成する側壁部405bと、を有し、その断面は薄い皿状になっている。コントローラハウジング400は、ベース400Aおよび蓋体400Bの各側壁部405a、405bを相互に対向させて重ねて構成され、図9および図10に示すように、両者の側壁部405a、405bによりコントローラハウジング400全体としての側壁部405が構成される。
【0086】
図9に示すように、本体部410における第1ラック部材200側の側壁部405は、第1ラック部材200に沿って溝状の開口406aを形成する第1スライドガイド部406を有する。また、図10に示すように、本体部410における第2ラック部材300側の側壁部405は、第2ラック部材300に沿って溝状の開口407aを形成する第2スライドガイド部407を有する。
【0087】
以下に説明するコントローラハウジング400が有する各構成要素は、特に説明がない限り、ベース400Aと蓋体400Bとを合体させた状態でのコントローラハウジング400の構成要素として説明する。
【0088】
図7に示すように、コントローラハウジング400の支持ハンドル部420は、本体部410に直交してそれぞれ側方に延びる略矩形状の第1ハンドル部421および第2ハンドル部422を含んで構成されている。支持ハンドル部420は、本体部410とともに略T字形状をなしている。
【0089】
なお、本実施形態では支持ハンドル部420は、本体部410とともに略T字形状をなすものであるが、本体部410とともに略L字形状をなす形状等の、手のひらに突き当て可能な面を有する任意の形状であってよく、また、手指を通すことによって支持できるような手指挿通用の輪などの手指の係止を可能にする構造を有する任意の形状であってもよい。
【0090】
図7に示すように、支持ハンドル部420の近位端側の端縁423は、操作者の手のひらが当てられる支持部423aを含んでいる。この支持部423aは、その一端から他端にわたり、近位端側に向けて略凸形状となるなだらかな湾曲面に形成されている。また、支持部423aの両端に連続する角部423b、423cは、面取り加工されている。支持部423aがなだらかに湾曲しており、かつ、各角部423b、423cが面取り加工されているため、操作者は支持部423aに手のひらを違和感なく当てやすくなっており、これにより偏向操作装置100の操作性の向上が図られている。
【0091】
支持ハンドル部420を構成する第1ハンドル部421および第2ハンドル部422の遠位端側の各端縁は、それぞれ操作者の指が掛けられる指係止部421a、422aを構成している。これら指係止部421a、422aは、近位端側に向けて略凹形状となるなだらかな湾曲面に形成されている。また、各指係止部421a、422aにそれぞれ連続する外側の角部421b、422bは面取り加工されている。
【0092】
また、図9および図10に示すように、コントローラハウジング400は、支持ハンドル部420および支持ハンドル部420から本体部410への移行部分に、本体部410より厚さが大きく形成された膨出部425を有する。この膨出部425の厚さは、操作者が支持ハンドル部420を握りやすい厚さとなっている。支持ハンドル部420においては、各指係止部421a、422aは指が掛かりやすいように凹形状に湾曲しており、これに加えて支持ハンドル部420が膨出部425によって適切な厚さを有するため、支持ハンドル部420を握りやすくなっている。
【0093】
図7に示すように、ワイヤ挿通部430は、コントローラハウジング400の遠位端から突出する細い管状のスリーブ部431と、スリーブ部431内からコントローラハウジング400内に連通するワイヤ導入口432と、ワイヤ導入口432に近接配置されたゲート部433と、を有する。ゲート部433は、図7および図8に示すように、コントローラハウジング400に設けられた一対の円柱部433a、433bを含んでいる。なお、ゲート部433を構成する円柱部433a、433bは、回動自在なローラで構成されていてもよい。
【0094】
チューブ10は、その近位端側の端部がスリーブ部431内に固定されてコントローラハウジング400に接続されている。スリーブ部431内にチューブ10を固定する手段は特に限定されないが、例えばチューブ10をスリーブ部431内に圧入したうえでスリーブ部431の内面に接着あるいは溶着する手段等を用いることができる。なお、ワイヤ挿通部430の形成にあたっては、コントローラハウジング400にスリーブ部431を設けずに、熱収縮チューブ等を用いて、コントローラハウジング400およびコントローラハウジング400からチューブ10の境界位置を被覆して、その被覆をコントローラハウジング400と一体化させてもよい。
【0095】
第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2の近位端部は、スリーブ部431内からワイヤ導入口432およびゲート部433の円柱部433a、433bの間を通されて、コントローラハウジング400内に導入される。そして、後述するように第1操作ワイヤW1は第1ラック部材200に固定され、第2操作ワイヤW2は第2ラック部材300に固定される。
【0096】
図7に示すように、コントローラハウジング400は、その内部に、第1ラック部材200を長手方向へ往復変位可能に導く第1ガイド部451と、第2ラック部材300を長手方向へ往復変位可能に導く第2ガイド部452と、を有する。
【0097】
第1ガイド部451は、コントローラハウジング400の中心に設けられた長手方向に延びる2つの仕切り壁部441a、442a、第1スライドガイド部406および支持ハンドル部420内のガイド壁部443により形成されている。コントローラハウジング400の側壁部405は、第1ガイド部451の近位端に対応する箇所にストッパ部451aをそれぞれ有する。
【0098】
第2ガイド部452は、仕切り壁部441b、442b、第2スライドガイド部407および支持ハンドル部420内のガイド壁部444により形成されている。コントローラハウジング400の側壁部405は、第2ガイド部452の近位端に対応する箇所にストッパ部452aをそれぞれ有する。
【0099】
第1ガイド部451の遠位端側にはコイルスプリング455が配設されており、第2ガイド部452の遠位端側にはコイルスプリング456が配設されている(図7にのみ図示)。第1操作ワイヤW1はコイルスプリング455の内腔に挿通され、第2操作ワイヤW2はコイルスプリング456の内腔に挿通される。コイルスプリング455、456は、遠位端側に移動した第1ラック部材200および第2ラック部材300をそれぞれ付勢し、第1ラック部材200と第2ラック部材300とが左右対称な位置に配置される中立位置に戻す役割を有している。なお、コイルスプリングは第1ガイド部451の近位端側および第2ガイド部452の近位端側に配設されてもよく、あるいはコイルスプリングを設けない構成としてもよい。
【0100】
仕切り壁部441a、441bは長手方向の遠位端側に仕切り壁を形成しており、仕切り壁部441a、441bの近位端部は、ピニオン部材500が配置される位置近傍でU字状の湾曲部441cにより繋がっている。仕切り壁部442a、442bは長手方向の近位端側に仕切り壁を形成しており、仕切り壁部442a、442bの遠位端部は、ピニオン部材500が配置される位置近傍でU字状の湾曲部442cにより繋がっている。湾曲部441cおよび湾曲部442cは長手方向に離隔するように設けられており、ピニオン部材500が配置される空間が形成されている。
【0101】
ベース400Aには、湾曲部441cと湾曲部442cとの間に凹溝部460が設けられており、蓋体400Bには、湾曲部441cと湾曲部442cとの間に凹溝部470が設けられている。凹溝部460および凹溝部470は、上下に対向するように長手方向に沿って延びる溝を形成している。ピニオン部材500は、その回動軸材502が凹溝部460および凹溝部470によって形成された溝に嵌入した状態で湾曲部441cと湾曲部442cとの間に配置され、長手方向に沿って移動可能であるとともに回動可能なように支持されている。凹溝部460、470は、本発明におけるコントローラハウジング400に対するピニオン部材500の移動路を構成する。
【0102】
仕切り壁部441a、441bおよび湾曲部441cは、図8に示すようにベース400Aおよび蓋体400Bがそれぞれ有する凸条部441d、441eが相互に重ねられて構成される。また、仕切り壁部442a、442bおよび湾曲部442cは、図8に示すようにベース400Aおよび蓋体400Bがそれぞれ有する凸条部442d、442eが相互に重ねられて構成される。
【0103】
図8に示すように、コントローラハウジング400のベース400Aは、凸条部441dの近位端の両側に、円柱状のワイヤガイド434a、434bを有する。ワイヤガイド434a、434bは、回動自在なローラで構成されていてもよい。
【0104】
第1ラック部材200および第2ラック部材300は、コントローラハウジング400内に、それぞれ本体部410の長手方向に往復変位可能に、かつ、相互に対向する歯部220、320を有するように収納されている。
【0105】
図11(b)は第1ラック部材200を示し、図11(a)は第2ラック部材300を示している。これらラック部材200、300は、細長い直方体状のラック本体部210、310と、ラック本体部210、310の相互の対向面である側面にそれぞれ設けられた多数の歯からなる歯部220、320と、をそれぞれ有する。これらラック部材200、300は、歯部220、320が相互に対向するようにして、第1ガイド部451および第2ガイド部452にそれぞれ設置されている。
【0106】
図11(b)に示すように、第1ラック部材200のラック本体部210は、その外側の側面211に、ラック本体部210の長手方向に延びるガイド片212を有する。このガイド片212は、第1スライドガイド部406の開口406aに挿入された状態となっている。そして第1ラック部材200のラック本体部210には、開口406aを通してコントローラハウジング400の側方に突出する第1操作ノブ510が一体に設けられている。
【0107】
図11(a)に示すように、第2ラック部材300のラック本体部310は、その外側の側面311に、ラック本体部310の長手方向に延びるガイド片312を有する。このガイド片312は、第2スライドガイド部407の開口407aに挿入された状態となっている。そして第2ラック部材300のラック本体部310には、開口407aを通してコントローラハウジング400の側方に突出する第2操作ノブ520が一体に設けられている。
【0108】
第1操作ノブ510および第2操作ノブ520は、それぞれ支持ハンドル部420を構成する第1ハンドル部421および第2ハンドル部422と相似した矩形の板形状を有し、各ラック部材200、300と一体に形成されている。なお、各操作ノブ510、520の形状は任意であり、例えば、棒状、リング状、引き金状等であってもよい。また、各操作ノブ510、520は、各ラック部材200、300と別体で形成された後、各ラック部材200、300に固定されてもよい。
【0109】
図11(a)および図11(b)に示すように、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の遠位端側(図11(a)および図11(b)で左側)の各端縁は、操作者の指が掛けられる指係止部510a、520aをそれぞれ構成している。これら指係止部510a、520aは、近位端側に向けて略凹形状となるなだらかな湾曲面に形成されている。また、各指係止部510a、520aにそれぞれ連続する外側の各角部510b、520bは面取り加工されている。各指係止部510a、520aは、指が掛かりやすいように凹形状に湾曲しているため、操作者が各指係止部510a、520aに指を掛けやすく、これにより第1操作ノブ510および第2操作ノブ520を操作しやすくなっている。
【0110】
また、図11(a)および図11(b)に示すように、各指係止部510a、520aには、第1ラック部材200および第2ラック部材300にそれぞれなだらかに移行する形状の内側凸部510c、520cが形成されている。これら内側凸部510c、520cにより、各指係止部510a、520aに掛けた指がコントローラハウジング400の本体部410に接触しにくく、各操作ノブ510、520の操作性が阻害されないようになっている。
【0111】
第1操作ノブ510および第2操作ノブ520は、指係止部510a、520aに掛けた指で近位端側(支持ハンドル部420側)に引かれることにより操作される。第1操作ノブ510を近位端側に引くと第1ラック部材200が一体的に近位端側に変位し、これと同期して第2ラック部材300が逆方向の遠位端側に変位するようになっている。また、第2操作ノブ520を近位端側に引くと第2ラック部材300が一体的に近位端側に変位し、これと同期して第1ラック部材200が逆方向の遠位端側に変位するようになっている。
【0112】
例えば、第1操作ノブ510の指係止部510aに人差し指を掛け、第2操作ノブ520の指係止部520aに中指を掛けて、それぞれの指により各操作ノブ510、520を引き操作することができる。
【0113】
図11(b)に示すように、第1ラック部材200は、その裏面側に、第1操作ワイヤW1の近位端部を固定するワイヤ固定部511を有する。また、図11(a)に示すように、第2ラック部材300は、その表面側に、第2操作ワイヤW2の近位端部を固定するワイヤ固定部521を有する。
【0114】
各ワイヤ固定部511、521は同一構造であって、ねじ締結により各操作ワイヤW1、W2をそれぞれ各ラック部材200、300に固定可能となっている。
【0115】
図11(a)に示すように、第2ラック部材300のワイヤ固定部521は、ラック本体部310の表面に形成された長手方向に延びる溝521aと、この溝521aに嵌め込まれた細い金属管521bと、ねじ部521cと、を有する。ねじ部521cは、ラック本体部310の外側の側面311に開口する凹所310a内に固定された雌ねじ521dと、雌ねじ521dにねじ込まれる六角穴付きのボルト521eと、を有する。
【0116】
上述したように、第2操作ワイヤW2は先端チップ15の凹部17で折り返されており、第2操作ワイヤW2を構成する操作ワイヤW2a、W2bが偏向操作装置100の内部に導かれている。これら操作ワイヤW2a、W2bの近位端部は、ワイヤガイド434bの外側に接触して溝521aにガイドされ、溝521aを通して金属管521b内に挿入される。そして、雌ねじ521dにねじ込んだボルト521eで金属管521bをかしめることにより、金属管521b内に第2操作ワイヤW2が圧着されて固定される。金属管521bの近位端側に飛び出した操作ワイヤW2a、W2bは適宜切除される。これにより、第2操作ワイヤW2の近位端部(操作ワイヤW2a、W2bの両方の近位端部)を、金属管521bとともに第2ラック部材300に固定することができる。また、ボルト521eを緩めて金属管521bおよび操作ワイヤW2a、W2bを長手方向に移動させることで、操作ワイヤW2a、W2bの張力を微調整することもできるようになっている。
【0117】
図11(b)に示すように、第1ラック部材200のワイヤ固定部511は、ラック本体部210の裏面側に設けられており、溝511aと、溝511aに嵌め込まれた金属管511bと、雌ねじ511dおよびボルト511eによるねじ部511cと、を有する。ねじ部511cは、ラック本体部210の外側の側面211に開口する凹所210a内に固定されている。
【0118】
上述したように、第1操作ワイヤW1は先端チップ15の凹部16で折り返されており、第1操作ワイヤW1を構成する操作ワイヤW1a、W1bが偏向操作装置100の内部に導かれている。これら操作ワイヤW1a、W1bの近位端部は、ワイヤガイド434aの外側に接触して溝511aにガイドされ、溝511aを通して金属管511b内に挿入される。そして、雌ねじ511dにねじ込んだボルト511eで金属管511bをかしめることにより、金属管511b内に第1操作ワイヤW1が圧着されて固定される。金属管511bの近位端側に飛び出した操作ワイヤW1a、W1bは適宜切除される。これにより、第1操作ワイヤW1の近位端部(操作ワイヤW1a、W1bの両方の近位端部)を、金属管511bとともに第1ラック部材200に固定することができる。また、ボルト511eを緩めて金属管511bおよび操作ワイヤW1a、W1bを長手方向に移動させることで、操作ワイヤW2a、W2bの張力を微調整することもできるようになっている。
【0119】
ピニオン部材500は、湾曲部441cと湾曲部442cとの間に配置されている。ピニオン部材500は、図8に示すように、各歯部220、320に噛合する歯車部501と、歯車部501の略中心部に位置して、ピニオン部材500の回動軸となる回動軸材502と、により構成されている。
【0120】
ピニオン部材500の回動軸材502は、その両端部がコントローラハウジング400の凹溝部460、470にそれぞれ嵌入した状態でコントローラハウジング400に支持されている。これにより、ピニオン部材500は、歯車部501が第1ラック部材200および第2ラック部材300の各歯部220、320に噛合した状態で、凹溝部460、470によって形成された溝に沿って、湾曲部441cと湾曲部442cとの間を長手方向に移動可能であるとともに回動可能となっている。後述するように、ピニオン部材500は、医療用デバイス1の使用前は湾曲部441cに近い遠位端側の位置(第1位置)に配置され、使用時に湾曲部442cに近い近位端側の位置(第2位置)に配置される。図7図10図12図13ではピニオン部材500が第2位置に配置されており、偏向操作装置100は可動部20の偏向操作を適切に行うことが可能な使用時状態となっている場合が図示されている。
【0121】
第1ラック部材200および第2ラック部材300は、ピニオン部材500に対し、往復変位方向の位置が相互に揃った状態で各歯部220、320の長手方向中央部がピニオン部材500に噛合するように噛合箇所が調整されている。
【0122】
第1ラック部材200および第2ラック部材300は、各歯部220、320がピニオン部材500にそれぞれ噛合していることにより、ピニオン部材500に対し相互に逆方向に往復変位するようになっている。
【0123】
上記構成を備えた本実施形態に係る偏向操作装置100では、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520が、支持ハンドル部420に対し長手方向に相対変位するようスライド操作される。各操作ノブ510、520は、第1ラック部材200および第2ラック部材300にそれぞれ一体に設けられているため、それぞれ各ラック部材200、300とともに相互に逆方向に変位するように操作される。このように各操作ノブ510、520が操作されるとき、ピニオン部材500に対し第1ラック部材200および第2ラック部材300が相互に逆方向に変位しつつ、チューブ10内の第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2がチューブ10の可動部20の偏向操作方向に変位するようになっている。
【0124】
第1ラック部材200は、第1ガイド部451の遠位端側に設けられたコイルスプリング455、および第1ガイド部451の近位端に設けられたストッパ部451aによって変位範囲が規制され、ピニオン部材500からの離脱が抑えられるようになっている。また、第2ラック部材300は、第2ガイド部452の遠位端側に設けられたコイルスプリング456、および第2ガイド部452の近位端に設けられたストッパ部452aによって変位範囲が規制され、ピニオン部材500からの離脱が抑えられるようになっている。
【0125】
図7に示すように、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の変位方向の位置が相互に揃った状態(第1操作ノブ510と第2操作ノブ520とが長手方向の中心線Cに対して対称な位置に配置された状態)のとき、チューブ10の可動部20は真っ直ぐに延びて偏向していない中立状態となる。このとき、第1ラック部材200および第2ラック部材300は、各操作ノブ510、520と同様に変位方向の位置が相互に揃った中立位置に位置付けられる。
【0126】
また、この中立状態においてピニオン部材500が湾曲部442cに近い近位端側の位置(第2位置)に配置されている場合に、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2はともに張力が発生した状態となるように調整されている。第1操作ノブ510および第2操作ノブ520のいずれか一方を近位端側に引いた力は第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2の少なくとも一方に伝達され、チューブ10の可動部20が偏向するようになっている。
【0127】
図7に示す中立状態から、図12に示すように、第1操作ノブ510を近位端側に引くと、第1ラック部材200が一体的に近位端側に変位し、これと同期して第2ラック部材300が逆方向の遠位端側に変位する。そしてこのような各ラック部材200、300の変位に追従して、第1操作ワイヤW1が近位端側に引き込まれるとともに第2操作ワイヤW2が遠位端側に押し込まれる。チューブ10の可動部20は、各操作ワイヤW1、W2の動きに追従して、操作側である第1操作ノブ510側(図4に示す矢印α方向)に偏向する。
【0128】
一方、図13に示すように、第2操作ノブ520を近位端側に引くと、第2ラック部材300が一体的に近位端側に変位し、これと同期して第1ラック部材200が逆方向の遠位端側に変位する。そしてこのような各ラック部材200、300の変位に追従して、第2操作ワイヤW2が近位端側に引き込まれるとともに第1操作ワイヤW1が遠位端側に押し込まれる。チューブ10の可動部20は、各操作ワイヤW1、W2の動きに追従して、操作側である第2操作ノブ520側(図4に示す矢印β方向)に偏向する。
【0129】
このように各操作ノブ510、520によって各ラック部材200、300を相反する方向に操作することにより、各操作ワイヤW1、W2を介してチューブ10の可動部20を各操作ノブ510、520の操作方向に応じた方向に偏向できるようになっている。
【0130】
次に、ピニオン部材500が医療用デバイス1の使用前は湾曲部441cに近い遠位端側の位置(第1位置)に配置され、第1および第2操作ワイヤW1、W2に弛みを持たせた状態(使用前状態)と、ピニオン部材500が湾曲部442cに近い近位端側の位置(第2位置)に配置され、可動部20の偏向操作を適切に行える状態(使用時状態)と、について説明する。
【0131】
上述したように、使用時状態では、ピニオン部材500は湾曲部442cに近い近位端側の位置(第2位置)に配置される。このとき、第1操作ノブ510と第2操作ノブ520とが長手方向の中心線Cに対して対称な位置に配置された中立状態では、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2はともに張力が発生した状態となるように調整されている。
【0132】
チューブ10は高分子材料等の材料で構成されることが好ましく、第1および第2操作ワイヤW1、W2は金属等の材料で構成されることが好ましい。しかしながら、チューブ10を構成する高分子材料等は相対的に線膨張係数が大きく、一方、各操作ワイヤW1、W2を構成する金属等は相対的に線膨張係数の小さいため、チューブ10と各操作ワイヤW1、W2の間には線膨張係数に差が生じている。このため、例えば使用前(滅菌時および搬送時等)の医療用デバイス1が高温環境(例えば70℃程度)に置かれた場合には、チューブ10は、各操作ワイヤW1、W2に比べて熱膨張するが、チューブ10の遠位端10aには各操作ワイヤW1、W2が取り付けられているため、チューブ10はその長さ方向へ膨張が許容されず、特にチューブ10の遠位端部を構成する多孔質構造部22が圧縮されて変形してしまう。その結果、高温環境から常温環境に戻った場合に、チューブ10は、元の形状に戻らずに圧縮されて変形(収縮)した状態となっていまい、例えばチューブ10の遠位端10aと先端チップ15との間に隙間が生じてしまったり、チューブ10、先端チップ15、操作ワイヤW1、W2等の各部材が破断してしまったりする等、使用時に偏向操作を適切に行うことが困難な状態となってしまうという問題がある。
【0133】
上記のような問題に鑑みて、本実施形態における医療用デバイス1を構成する偏向操作装置100は、滅菌時および搬送時等の使用前は、各操作ワイヤW1、W2の張力がチューブ10に印加されないように各操作ワイヤW1、W2を弛ませておき、使用者が実際に患者に対して医療用デバイス1を適用する使用時に、各操作ワイヤW1、W2に張力を発生させて、チューブ10の可動部20の偏向操作を適切に行えるように構成されている。
【0134】
以下、図14図17を参照しながら、偏向操作装置100の使用前状態および使用時状態を実現する具体的な構成について説明する。
【0135】
図14は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100の使用前状態を示す平面図であり、コントローラハウジング400の表面側の蓋体400Bを取り外した状態を示す図である。図15は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100の使用前状態を示す長手方向の中心線Cに沿った断面図、およびピニオン部材500近傍の拡大断面図である。なお、図15では、図示明瞭化のため第1ラック部材200および第2ラック部材300は図示省略している。
【0136】
図16は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100の使用時状態を示す平面図であり、コントローラハウジング400の表面側の蓋体400Bを取り外した状態を示す図である。図17は、本発明の実施形態における医療用デバイス1の偏向操作装置100の使用時状態を示す長手方向の中心線Cに沿った断面図、およびピニオン部材500近傍の拡大断面図である。なお、図17では、図示明瞭化のため第1ラック部材200および第2ラック部材300は図示省略している。
【0137】
図14に示すように、本実施形態における偏向操作装置100は、滅菌時および搬送時等の使用前(すなわち、操作者が実際に使用する前)、ピニオン部材500が湾曲部441cに近い遠位端側の第1位置に配置された状態となっている。また、ピニオン部材500と噛合する第1ラック部材200および第2ラック部材300も使用時に配置される位置よりも遠位端側に配置された状態となっている。
【0138】
この図14に示す使用前状態では、ピニオン部材500が第1位置(図15に示す位置P1)に配置されるとともに、第1ラック部材200および第2ラック部材300は可動部20の偏向操作を実際に行う際よりも遠位端側に配置され、第1ラック部材200および第2ラック部材300にそれぞれ接続されている第1および第2操作ワイヤW1、W2は弛んだ状態となっている。これにより第1および第2操作ワイヤW1、W2の張力がチューブ10に印加されることを回避し、各操作ワイヤW1、W2の破断やチューブ10の変形を防ぐことができるようになる。
【0139】
偏向操作装置100を実際に使用する場合には、使用者は、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520を同時に近位端側(図14の矢印D1方向)に引き込んで、第1ラック部材200および第2ラック部材300、ならびにこれらに噛合したピニオン部材500を近位端側の第2位置に移動させる。これにより、図16に示すように、本実施形態における偏向操作装置100は、ピニオン部材500が湾曲部442cに近い近位端側の第2位置に配置される。また、ピニオン部材500と噛合する第1ラック部材200および第2ラック部材300も使用前状態よりも近位端側に配置される。
【0140】
この図16に示す使用時状態では、ピニオン部材500が第2位置(図17に示す位置P2)に配置されるとともに、第1ラック部材200および第2ラック部材300は実際に可動部20の偏向操作を行うことが可能な位置に配置され、第1ラック部材200および第2ラック部材300にそれぞれ接続されている第1および第2操作ワイヤW1、W2はともに張力が発生した状態となっている。これにより各操作ワイヤW1、W2の張力がチューブ10の可動部20に伝達され、第1ラック部材200および第2ラック部材300の往復変位に応じてチューブ10の可動部20を偏向させることができるようになる。
【0141】
図15および図17に示すように、ピニオン部材500の回動軸材502は、その下端部502aがベース400Aに設けられた凹溝部460に嵌入しており、その上端部502bが蓋体400Bに設けられた凹溝部470に嵌入している。凹溝部460および凹溝部470は長手方向に沿って延びる溝を形成しており、ピニオン部材500の回動軸材502は、この溝に沿って長手方向に移動可能となっている。
【0142】
図15および図17に示すように、ベース400Aの凹溝部460が形成する溝には凸部461が設けられており、蓋体400Bの凹溝部470が形成する溝にも、凸部461に対向するように凸部471が設けられている。凹溝部460が形成する溝の近位端は支持壁部462となっており、凸部461は、支持壁部462との間に回動軸材502の下端部502aが嵌り込む位置に形成されている。凹溝部470が形成する溝の近位端は支持壁部472となっており、凸部471は、支持壁部472との間に回動軸材502の上端部502bが嵌り込む位置に形成されている。凸部461、471は、本発明の移動規制部を構成する。
【0143】
図15および図17に示すように、凹溝部460が形成する溝の凸部461より遠位端側の領域は、回動軸材502の下端部502aが当該溝に嵌り込んだ状態で長手方向に移動できるようになっている。また、凹溝部470が形成する溝の凸部471より遠位端側の領域は、回動軸材502の上端部502bが当該溝に嵌り込んだ状態で長手方向に移動できるようになっている。
【0144】
凸部461および凸部471は、凹溝部460および凹溝部470がそれぞれ形成する溝面から、例えば球状に突出した形状となっている。凸部461および凸部471の形状や溝面からの高さは特に限定されないが、使用者が第1操作ノブ510および第2操作ノブ520を同時に近位端側(図14の矢印D1方向)に引き込んで、第1位置に配置されているピニオン部材500を近位端側に移動させた場合に、ピニオン部材500の回動軸材502が凸部461および凸部471を乗り越えて第2位置に移動させることができるように設定されることが好ましい。さらに、使用時に第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の一方を引き込む操作を行った際には、ピニオン部材500の回動軸材502が凸部461および凸部471を乗り越えて遠位端側に移動することなく、ピニオン部材500が第2位置に留まったまま回動可能に支持されるように設定されることが好ましい。
【0145】
図15に示すように、使用前状態では、ピニオン部材500は第1位置(図15に示す位置P1)に配置される。このとき、ピニオン部材500の回動軸材502の下端部502aおよび上端部502bは、凸部461および凸部471より遠位端側にそれぞれ位置する。なお、ピニオン部材500の回動軸材502は、凸部461および凸部471より遠位端側では特に固定される必要はなく、凹溝部460および凹溝部470がそれぞれ形成する溝に嵌り込んだ状態で長手方向に移動可能となっていれば、第1および第2操作ワイヤW1、W2を弛ませる目的を達成することができる、ただし、ピニオン部材500の回動軸材502が、凸部461および凸部471より遠位端側の特定の位置に固定されるようにしてもよい。
【0146】
第1位置にピニオン部材500が配置されている場合、第1ラック部材200および第2ラック部材300も使用時の配置位置に対して相対的に遠位端側に配置される。その結果、第1および第2操作ワイヤW1、W2も遠位端側に押し出されて張力の無い弛んだ状態となるため、第1および第2操作ワイヤW1、W2の余裕(遊び)を確保することができる。これにより、高温環境時にチューブ10の長さ方向への膨張を許容してチューブ10の圧縮および変形や各操作ワイヤW1、W2の破断を回避することができるようになる。
【0147】
図17に示すように、使用時状態では、ピニオン部材500は操作者による近位端側への引き込み操作によって第2位置(図17に示す位置P2)に配置される。このとき、ピニオン部材500の回動軸材502の下端部502aおよび上端部502bは、凸部461と支持壁部462との間、および凸部471と支持壁部472との間に位置し、ピニオン部材500の回動軸材502は、この位置に留まりながら回動可能に支持される。
【0148】
第1位置から第2位置にピニオン部材500が移動した場合、第1ラック部材200および第2ラック部材300も近位端側に移動する。その結果、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2は近位端側に引っ張られて、張力の無い弛んだ状態から張力が発生した状態となる。これにより、使用者が第1操作ノブ510および第2操作ノブ520のいずれか一方を近位端側に引く操作を行った場合に、その操作力が第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2の少なくとも一方に伝達されて、チューブ10の可動部20の偏向操作を適切に行うことができるようになる。
【0149】
以下、本実施形態における医療用デバイス1の作用について説明する。
【0150】
本実施形態における医療用デバイス1は、チューブ10(長尺部材)と、第1および第2操作ワイヤW1、W2(操作ワイヤ)と、偏向操作装置100と、を備えている。
【0151】
チューブ10は、例えばポリテトラフルオロエチレン等の高分子材料からなり、チューブ10の遠位端部には屈曲可能な可動部20が設けられている。第1および第2操作ワイヤW1、W2は、例えば金属からなり、可動部20を屈曲させるようにチューブ10の遠位端部に取り付けられており、チューブ10に沿って延在している。偏向操作装置100は、チューブ10の近位端に固定されるとともに第1および第2操作ワイヤW1、W2の近位端部と接続し、第1および第2操作ワイヤW1、W2を軸線方向に変位させて可動部20の偏向操作を可能とするように構成されている。また、チューブ10は、近位端側に配置された充実構造部21と、遠位端側に配置された多孔質構造部22とが一体に構成されたものである。
【0152】
上記の構成によれば、体内に挿入されるチューブ10は、多孔質構造部22の作用によりチューブ10の遠位端部は柔軟性に優れたものとなり、充実構造部21の作用によりチューブ10の近位端部は剛性に優れたものとなっている。これにより、チューブ10は柔軟性および剛性を兼ね備え、操作性に優れた医療用デバイス1が実現される。
【0153】
また、充実構造部21と多孔質構造部22とが一体に配置されたチューブ10を用いることで、例えば充実構造部21により構成されたチューブと、多孔質構造部22により構成されたチューブとをそれぞれ別体として準備して接着等により接合する等の手間が不要となり、製造工程を簡易化することができる。
【0154】
本実施形態における医療用デバイス1は、充実構造部21と多孔質構造部22との境界部23におけるチューブ10の径が長さ方向に略一定であってもよい。
【0155】
上記の構成によれば、チューブ10は充実構造部21と多孔質構造部22との境界部23に繋ぎ目および段差が無く長さ方向に平滑なものとなるため、体内管腔や内視鏡鉗子口等にチューブ10を挿入する際に、挿入抵抗が増大することなく円滑な挿入が可能となる。また、繋ぎ目および段差がなく、チューブ10は耐久性に優れたものとなる。
【0156】
本実施形態における医療用デバイス1は、多孔質構造部22が、チューブ10の遠位端10aから、チューブ10の遠位端10aより近位端側に所定の長さ(図5の寸法L2)の位置までの範囲に配置されており、可動部20が、多孔質構造部22の少なくとも一部を含むように設けられていてもよい。
【0157】
上記の構成によれば、チューブ10の遠位端10aに設けられた可動部20は、柔軟性に優れた多孔質構造部22を含んでいるため屈曲性に優れたものとなり、偏向操作装置100による操作応答性を向上させることができる。
【0158】
本実施形態における医療用デバイス1は、偏向操作装置100が、コントローラハウジング400と、第1ラック部材200および第2ラック部材300と、ピニオン部材500と、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520と、を備えていてもよい。
【0159】
コントローラハウジング400は、チューブ10の近位端10bに固定され、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2を内部に挿通するように構成されていてもよい。
【0160】
第1ラック部材200および第2ラック部材300は、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2の延在方向に沿った長手方向に往復変位可能に、かつ、相互に対向する歯部220、320を有するようにコントローラハウジング400内に収納され、対応する第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2のそれぞれの近位端部と接続して長手方向に変位することで、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2のそれぞれを軸芯方向に変位させるように構成されていてもよい。
【0161】
ピニオン部材500は、第1ラック部材200および第2ラック部材300の間に配置され、第1ラック部材200および第2ラック部材300のそれぞれの歯部220、320に噛合した状態でコントローラハウジング400に対して回動自在に支持されており、かつ、長手方向に沿ってコントローラハウジング400に対して変位可能なように構成されていてもよい。
【0162】
第1操作ノブ510および第2操作ノブ520は、第1ラック部材200および第2ラック部材300と一体に設けられ、コントローラハウジング400の外方に突出するように構成されていてもよい。
【0163】
上記の医療用デバイス1は、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の少なくとも一方がコントローラハウジング400に対し長手方向に相対変位するようスライド操作されたとき、ピニオン部材500に対し第1ラック部材200および第2ラック部材300が相互に逆方向に変位しつつ、第1操作ワイヤW1および第2操作ワイヤW2を可動部20の偏向操作方向に変位させ、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の両方がコントローラハウジング400に対し長手方向の同一方向に変位するようスライド操作されたとき、第1ラック部材200および第2ラック部材300がそれぞれの歯部220、320に噛合したピニオン部材500を長手方向の同一方向に変位させるように構成されていてもよい。
【0164】
上記の構成によれば、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の両方を同時に同一方向にスライド操作することで、ピニオン部材500を長手方向に変位させることができる。これにより、ピニオン部材500を長手方向の遠位端側に変位させることで第1および第2操作ワイヤW1、W2に遊びを持たせるように弛ませたり、ピニオン部材500を長手方向の近位端側に変位させることで第1および第2操作ワイヤW1、W2に張力を持たせたりすることが自在にできるようになる。
【0165】
また、上記の構成を有する医療用デバイス1は、使用前はピニオン部材500を長手方向の遠位端側に変位させて第1および第2操作ワイヤW1、W2に遊びを持たせておき、使用時にピニオン部材500を長手方向の近位端側に変位させて第1および第2操作ワイヤW1、W2に張力を持たせることができるようになっている。これにより、使用前に生じ得る各部材の破断または変形を防ぐことができるようになり、使用時に可動部20の偏向操作が適切に行われる状態とすることができるようになる。
【0166】
本実施形態における医療用デバイス1は、コントローラハウジング400に対するピニオン部材500の移動路である凹溝部460、470の近位端側に、ピニオン部材500の遠位端側への移動を規制する移動規制部が設けられていてもよい。
【0167】
上記の構成によれば、第1操作ノブ510および第2操作ノブ520の両方を同時に同一方向にスライド操作してピニオン部材500を近位端側に移動させた状態(第1および第2操作ワイヤW1、W2に張力を持たせた状態)とした場合、ピニオン部材500の遠位端側への移動が移動規制部によって規制され、可動部20の偏向操作を適切に行える状態を維持することができるようになる。
【0168】
上記の移動規制部は、ピニオン部材500の回動軸材502と当接してピニオン部材500の遠位端側への移動を規制する凸部461、471であってもよい。
【0169】
上記の構成によれば、移動規制部としてピニオン部材500の移動路に凸部461、471を設けた簡素な構成によって、ピニオン部材500の回動軸材502を凸部461、471に当接させることでピニオン部材500の遠位端側への移動を規制することができる。
【0170】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであり、本発明を限定するものではない。上述した実施形態に開示された各構成要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0171】
1 医療用デバイス
10 チューブ(長尺部材)
10a 遠位端(チューブ10の遠位端)
10b 近位端(チューブ10の近位端)
10c 中間部(チューブ10の中間部)
11 メインルーメン
11a、11b、12a、12b ワイヤ用ルーメン
15 先端チップ
15a 貫通孔
16、17 凹部
16a、16b、17a、17b ワイヤ挿通孔
20 可動部
21 充実構造部
22 多孔質構造部
23 境界部
50 接続部材
51 第1保護部材
52 分岐部材
53 第2保護部材
60 Yコネクタ
61 先端スリーブ部
61a 先端側孔
62 第1ポート部
62a 第1孔
62b、63b 開口部
63 第2ポート部
63a 第2孔
64 ハンドル部
65 接続チューブ
100 偏向操作装置
200 第1ラック部材
210、310 ラック本体部
210a、310a 凹所
211、311 側面
212、312 ガイド片
220、320 歯部
300 第2ラック部材
400 コントローラハウジング
400A ベース
400B 蓋体
401、402、403 ねじ締結部
404a 底板部
404b 天板部
405、405a、405b 側壁部
406 第1スライドガイド部
406a、407a 開口
407 第2スライドガイド部
410 本体部
410a ベース側本体部
410b 蓋体側本体部
420 支持ハンドル部
420a ベース側支持ハンドル部
420b 蓋体側支持ハンドル部
421 第1ハンドル部
421a、422a、510a、520a 指係止部
421b、422b、423b、423c、510b、520b 角部
422 第2ハンドル部
423 端縁
423a 支持部
425 膨出部
430 ワイヤ挿通部
431 スリーブ部
432 ワイヤ導入口
433 ゲート部
433a、433b 円柱部
434a、434b ワイヤガイド
441a、441b、442a、442b 仕切り壁部
441c、442c 湾曲部
441d、442d、441e、442e 凸条部
443、444 ガイド壁部
451 第1ガイド部
451a、452a ストッパ部
452 第2ガイド部
455、456 コイルスプリング
460、470 凹溝部(移動路)
461、471 凸部(移動規制部)
462、472 支持壁部
500 ピニオン部材
501 歯車部
502 回動軸材
502a 下端部(回動軸材502の下端部)
502b 上端部(回動軸材502の上端部)
510 第1操作ノブ
510c、520c 内側凸部
511、521 ワイヤ固定部
511a、521a 溝
511b、521b 金属管
511c、521c ねじ部
511d、521d 雌ねじ
511e、521e ボルト
520 第2操作ノブ
W1(W1a,W1b、W1c) 第1操作ワイヤ
W2(W2a,W2b、W2c) 第2操作ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17