(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146263
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241004BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20241004BHJP
C08G 64/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/22
C08K3/01
C08G64/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059057
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 賢人
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002DE186
4J002DG026
4J002DJ006
4J002FD050
4J002FD206
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J029AA09
4J029AB01
4J029AC01
4J029AD01
4J029AE01
4J029BA01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA07
4J029BA08
4J029BA09
4J029BA10
4J029BB12A
4J029BB12B
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD03A
4J029BD04A
4J029BD06A
4J029BD07A
4J029BD09A
4J029BD09B
4J029BD10
4J029BF30
4J029BH02
4J029DB07
4J029DB09
4J029DB11
4J029DB13
4J029HC04A
4J029HC04C
4J029HC05A
4J029HC05B
4J029JA091
4J029JA121
4J029JA261
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC091
4J029JC141
4J029JC231
4J029JC261
4J029JC431
4J029JC731
4J029JF021
4J029JF031
4J029JF041
4J029JF051
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF151
4J029JF161
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外観の色相が良好で、発光輝度が高い成形品を得ることができるポリカーボネート樹脂組成物、及びその成形品を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と蓄光剤(B)とを含有するポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品である。脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と蓄光剤(B)とを含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)が下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
【請求項3】
上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物である、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
【請求項4】
上記蓄光剤(B)がアルミン酸塩系蓄光剤である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
上記アルミン酸塩系蓄光剤が、アルカリ土類金属及びランタノイド系金属を含む、請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
上記アルミン酸塩系蓄光剤が、SrAl2O4:Eu,Dy、Sr4Al14O25:Eu,Dy、及びCaAl2O4:Eu,Ndからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と上記蓄光剤(B)との質量比(ただし、上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A):上記蓄光剤(B))が50:50~99:1である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項9】
避難誘導標識、夜間表示標識、標示ボタン、時計文字盤、スイッチ、コネクター部品、又はアクセサリに使用される、請求項8に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリカーボネート樹脂と蓄光剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物、及びこのポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や人工光などに含まれる紫外線や可視光などの光が照射されるとその光を吸収して蓄え、光照射を停止した後でも、即ち暗所においても、長時間にわたり残光が肉眼で認められる蓄光性発光体を蓄光剤と呼ぶ。蓄光剤は、光エネルギーの吸収、蓄光、発光を何度でも繰り返すことができる為、夜光標識および装飾品等で広く使用されている。
【0003】
蓄光剤としては特に硫化亜鉛系蓄光剤が古くから使用されている。近年では、その発光輝度および残光時間を硫化亜鉛系蓄光剤に比して大幅に向上させたアルミン酸塩を母結晶とする蓄光剤(以下単に“アルミン酸塩系蓄光剤”と称する場合がある)が知られている(特許文献1~4参照)。
【0004】
一方、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃強度や透明性に優れており、さらに広い温度範囲で機械的、電気的特性変化が少なく、寸法安定性においても優れたエンジニアリングプラスチックであるため、この特徴を活かして電気、電子機器、精密機械、自動車部品、シートフィルムまで広範囲に使用されている。
【0005】
ポリカーボネート樹脂に蓄光剤を配合して溶融混練すると、蓄光剤の性状に起因してポリカーボネート樹脂が分解することにより成形品に黒ずみが生じ外観上の美観が損なわれ、それによって発光輝度が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-127772号公報
【特許文献2】特開平9-208948号公報
【特許文献3】特開2005-82647号公報
【特許文献4】特開2009-215415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この問題を解決するために、蓄光剤の配合量を制限し分解を抑制する方法が考えられるが、この方法では蓄光性能が低下し、所望の特性が得らなくなる。特許文献3では、加工時の樹脂の分子量や色相の安定化を図るために、亜リン酸エステルを配合することが提案されているが、黒ずみの改良効果は未だ十分とはいえない。また、特許文献4には、有機シラン化合物及び/又はシリコーン化合物を配合することが提案されているが、黒ずみを抑制することはできるが透明性が損なわれることで発光輝度が低下するという課題が残る。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、外観の色相が良好で、発光輝度が高い成形品を得ることができるポリカーボネート樹脂組成物、及びその成形品を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下の[1]~[9]の態様を有するものである。
[1]脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と蓄光剤(B)とを含有するポリカーボネート樹脂組成物。
【0010】
[2]上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)が下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0011】
【0012】
[3]上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物である、[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
【0014】
[4]上記蓄光剤(B)がアルミン酸塩系蓄光剤である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[5]上記アルミン酸塩系蓄光剤が、アルカリ土類金属、ランタノイド系金属を含む、[4]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6]上記アルミン酸塩系蓄光剤が、SrAl2O4:Eu,Dy、Sr4Al14O25:Eu,Dy、及びCaAl2O4:Eu,Ndからなる群から選択される少なくとも1種である、[4]又は[5]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7]上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と上記蓄光剤(B)との質量比(ただし、上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A):上記蓄光剤(B))が50:50~99:1である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
[8][1]~[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
[9]避難誘導標識、夜間表示標識、標示ボタン、時計文字盤、スイッチ、コネクター部品、又はアクセサリに使用される、[8]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記態様によれば、外観の色相が良好で、発光輝度が高い成形品を得ることができるポリカーボネート樹脂組成物、及びその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成の説明は、本発明の実施態様の一例(つまり、代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。本明細書において「構造単位」とは、樹脂を構成する部分構造であって、繰り返し構造単位に含まれる特定の部分構造のことを意味する。例えば、樹脂中で隣り合う連結基に挟まれた部分構造や、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合性反応基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造を言う。より具体的には、ポリカーボネート樹脂の場合、カルボニル基が連結基であって、隣り合うカルボニル基に挟まれた部分構造のことを構造単位と呼称する。また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。また、「重量部」と「質量部」、「重量%」と「質量%」は、それぞれ実質的に同義である。
【0018】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本明細書では、ポリカーボネート樹脂組成物のことを適宜「樹脂組成物」と称する。樹脂組成物は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と畜光剤(B)とを含有する。
【0019】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)〕
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、この構造単位を適宜「構造単位(a1)」と称する)を含むポリカーボネート樹脂であり、好ましくは、ポリマーを構成する構造単位の主成分が構造単位(a1)又は後述の構造単位(b)であるポリカーボネート樹脂である。脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は適宜「ポリカーボネート樹脂(A)」と表記される。
樹脂組成物が、構造単位(a1)を含むポリカーボネート樹脂を含有することにより、外観の色相が良好で、発光輝度が高い成形品を得ることが可能になる。これは、構造単位(a1)を含むポリカーボネート樹脂(A)では、蓄光剤の性状に起因するポリカーボネート樹脂(A)の分解が抑制され、さらに加工温度を低くすることができるため分解速度が緩やかになるためであると考えられる。
【0020】
脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物;後述の脂環式ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。これらの中でも、脂環式ジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0021】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、例えば5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造を含むことにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂の耐熱性の向上が可能になる。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素数が過度に大きいと、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高くなる傾向がある。炭素数が小さいほど、精製しやすく、入手しやすい傾向がある。
【0022】
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記式(I)又は(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。但し、式(I),式(II)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数4~炭素数20のシクロアルカン構造を含む二価の基(つまり、シクロアルキレン基)を表す。
HOCH2-R5-CH2OH (I)
HO-R6-OH (II)
【0023】
式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えばシクロヘキサンジメタノールがある。シクロヘキサンジメタノールは、式(I)におけるR5が下記式(Ia)で表される種々の異性体を包含する。このようなシクロヘキサンジメタノールとしては、具体的には、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が用いられる。式(Ia)中、R3は水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1~炭素数12のアルキル基を表す。
【0024】
【0025】
また、式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールがある。トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールは、式(I)におけるR5が下記式(Ib)で表される種々の異性体を包含する。式(Ib)中、nは0又は1を表す。
【0026】
【0027】
また、式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、デカリンジメタノール、トリシクロテトラデカンジメタノールがある。デカリンジメタノール、トリシクロテトラデカンジメタノールは、式(I)におけるR5が下記式(Ic)で表される種々の異性体を包含する。このようなデカリンジメタノールとしては、具体的には、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール等が用いられる。式(Ic)中、mは0、又は1を表す。
【0028】
【0029】
また、式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えばノルボルナンジメタノールがある。ノルボルナンジメタノールは、式(I)におけるR5が下記式(Id)で表される種々の異性体を包含する。このようなノルボルナンジメタノールとしては、具体的には、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール等が用いられる。
【0030】
【0031】
また、式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えばアダマンタンジメタノールがある。アダマンタンジメタノールは、式(I)におけるR5が下記式(Ie)で表される種々の異性体を包含する。このようなアダマンタンジメタノールとしては、具体的には、1,3-アダマンタンジメタノール等が用いられる。
【0032】
【0033】
また、式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えばシクロヘキサンジオールがある。シクロヘキサンジオールは、式(II)におけるR6が下記式(IIa)で表される種々の異性体を包含する。このようなシクロヘキサンジオールとしては、具体的には、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-メチル-1,4-シクロヘキサンジオール等が用いられる。式(IIa)中、R3は水素原子、置換又は無置換の炭素数1~炭素数12のアルキル基を表す。
【0034】
【0035】
また、式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、トリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールがある。トリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールは、式(II)におけるR6が下記一般式(IIb)で表される種々の異性体を包含する。式(IIb)中、nは0又は1を表す。
【0036】
【0037】
また、式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、デカリンジオール、トリシクロテトラデカンジオールがある。デカリンジオール、トリシクロテトラデカンジオールは、式(II)におけるR6が下記式(IIc)で表される種々の異性体を包含する。このようなデカリンジオールとしては、具体的には、2,6-デカリンジオール、1,5-デカリンジオール、2,3-デカリンジオール等が用いられる。式(IIc)中、mは0又は1を表す。
【0038】
【0039】
式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えばノルボルナンジオールがある。ノルボルナンジオールは、式(II)におけるR6が下記式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなノルボルナンジオールとしては、具体的には、2,3-ノルボルナンジオール、2,5-ノルボルナンジオール等が用いられる。
【0040】
【0041】
式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えばアダマンタンジオールがある。アダマンタンジオールは、一般式(II)において、R6が下記式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなアダマンタンジオールとしては、具体的には、1,3-アダマンタンジオール等が用いられる。
【0042】
【0043】
脂環式ジヒドロキシ化合物は、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、脂環式ジヒドロキシ化合物は、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノール及び/又はトリシクロデカンジメタノールであることがさらに好ましい。
【0044】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)における構造単位(a1)の含有率は、脂肪族ポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%に対して、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位(a1)の含有率は、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。構造単位(a1)が上記範囲内であることにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の耐衝撃性及び耐熱性の両方をバランスよく高めることができる。
【0045】
ポリカーボネート樹脂(A)は、さらに下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0046】
【0047】
上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、適宜「化合物(1)」と称する)に由来する構造単位(以下、この構造単位を適宜「構造単位(a2)」と称する)であることが好ましい。この場合には、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の耐候性、光学特性、成形性、耐熱性が向上すると共に、カーボンニュートラルに寄与できる。なお、上述の構造単位(a1)は、構造単位(a2)以外の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位である。
【0048】
【0049】
化合物(1)としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、1種が単独で用いられても、2種以上が用いられてもよい。これらの中でもイソソルビドが最も好ましい。イソソルビドは、ソルビトールを脱水縮合して得られ、ソルビトールは、植物由来の資源として豊富に存在すると共に入手が容易な種々のデンプンから製造されるため、入手や製造が容易であると共に、カーボンニュートラルに貢献できる。また、イソソルビド由来の構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、
成形性、耐熱性、耐衝撃性、表面硬度に優れたものとなる。
【0050】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)における構造単位(a2)の含有率は、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%に対して、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上が更に好ましい。また、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましい。この範囲で構造単位(a2)の含有率を調整することにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の耐衝撃性及び耐熱性の両方をバランスよく高めることができる。
【0051】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、さらにその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、適宜「構造単位(a3)」と称する)を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としては、化合物(1)以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物、アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0052】
上記化合物(1)以外のエーテル基含有ジヒドロキシ化合物としては、オキシアルキレングリコール類やアセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0053】
アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式(3)で表されるスピログリコールや、下記式(4)で表されるジオキサングリコール等が挙げられる。
【0054】
【0055】
【0056】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)において、構造単位(a3)の含有率は、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%に対して、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましい。また、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。構造単位(a3)が上記範囲内であることにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の耐衝撃性及び耐熱性の両方をバランスよく高めることができる。
【0057】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物(以下、適宜「化合物(4)と称する」)に由来の構造単位(a4)を含有することができる。ただし、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)中に芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物由来の構造単位(a4)が多く含まれる場合には、蓄光剤の性状に起因してポリカーボネート樹脂の分解が起こり、成形品の色調が悪くなるおそれがある。また、ポリカーボネート樹脂の分子量が低下し、耐衝撃性が損なわれるおそれがある。耐衝撃性の低下や色調の悪化を防止する観点から、脂肪族ポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位100モル%に対して、構造単位(a4)の含有割合は、50モル%未満であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましく、1モル%以下であることがさらにより好ましい。脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、構造単位(a4)を実質的に含まないことが最も好ましい。
【0058】
化合物(4)は、特に限定されるものではないが、例えば以下の化合物が挙げられる。具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0059】
化合物(4)の種類は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)に要求される特性に応じて適宜選択することができる。また、化合物(4)としては、1種のみを用いてもよく、複数種を併用してもよい。化合物(4)と化合物(1)を併用することにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の柔軟性や機械的性質の改善が可能になったり、成形性の改善が可能になる。
【0060】
ポリカーボネート樹脂(A)の原料として用いられるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤(つまり、酸化防止剤)、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、安定剤(具体的には、pH安定剤、熱安定剤)等を含んでいてもよい。特に、化合物(1)は、酸性状態において変質しやすい性質を有する。この変性を抑制するために、ポリカーボネート樹脂(A)の合成過程において塩基性安定剤を使用することができる。その結果、樹脂組成物や成形品の品質をより向上させることができる。
【0061】
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(NomenclatureofInorganicChemistryIUPACRecommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、又は脂肪酸塩が用いられる。また、塩基性安定剤としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3-アミノ-1-プロパノール、エチレンジアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物;ジ-(tert-ブチル)アミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物等を採用することができる。
【0062】
ジヒドロキシ化合物中における塩基性安定剤の含有量に特に制限はない。化合物(1)に対して使用する場合には、化合物(1)が酸性状態では不安定であるため、塩基性安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7付近となるように塩基性安定剤の含有量を設定することが好ましい。より具体的には、化合物(1)に対する塩基性安定剤の含有量は、0.0001~1重量%であることが好ましい。この場合には、化合物(1)の変質を防止する効果が十分に得られる。この効果をさらに高めるという観点から、塩基性安定剤の含有量は0.001~0.1重量%であることがより好ましい。
【0063】
光安定剤としては、通常知られる光安定剤を使用することが可能であり、光安定剤は特に限定されない。具体的には、例えばヒンダードアミン系光安定剤が使用される。
【0064】
ポリカーボネート樹脂(A)の原料に用いる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(5)で表される化合物を採用することができる。炭酸ジエステルとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
【0066】
上記式(5)において、A1及びA2は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基である。A1とA2とは同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2としては、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
【0067】
式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを使用することができる。また、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等を使用するができる。これらの炭酸ジエステルの中でも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートを用いることが好ましく、ジフェニルカーボネートを用いることが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオン等の不純物を含む場合があり、不純物が重縮合反応を阻害したり、得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の色調を悪化させたりする場合がある。そのため、必要に応じて、蒸留等により精製した炭酸ジエステルを使用することが好ましい。
【0068】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、例えば、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応により重縮合させることにより合成される。より具体的には、重縮合と共にエステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)が合成される。
【0069】
エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と言う。)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度及び得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の品質に影響を与え得る。
【0070】
重合触媒としては、本発明の所期の目的を損なわない範囲において、種々の触媒を使用することができる。重合触媒としては、例えば、長周期型周期表における第I族又は第II族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物等を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましい。
【0071】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウムアルコレート、カリウムアルコレート、リチウムアルコレート、セシウムアルコレート、ナトリウムフェノラート、カリウムフェノラート、リチウムフェノラート、セシウムフェノラート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、ビスフェノールAの2カリウム塩、ビスフェノールAの2リチウム塩、ビスフェノールAの2セシウム塩等が挙げられる。1族金属化合物としては、これらの中でも、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調の観点から、リチウム化合物が好ましい。
【0072】
上記の2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。2族金属化合物としては、これらの中でも、マグネシウム化合物、カルシウム化合物又はバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、カルシウム化合物が最も好ましい。
【0073】
なお、上記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0074】
上記の塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等の金属塩が挙げられる。金属塩としては、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。
【0075】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0076】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0077】
アミン系化合物としては、例えば、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジン等が挙げられる。
【0078】
重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1~300μmolであることが好ましく、0.5~100μmolであることがより好ましく、1~50μmolであることが特に好ましい。
【0079】
重合触媒として、長周期型周期表における第2族金属、リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、重合触媒の使用量は、該金属を含む化合物の金属原子量として、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、0.3μmol以上がより好ましく、0.5μmol以上が特に好ましい。また上限としては、10μmol以下が好ましく、5μmol以下がより好ましく、3μmol以下が特に好ましい。
【0080】
重合触媒の使用量を上述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を得ることが可能になるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化を抑制することができる。また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量の樹脂をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化又は成形加工時の着色をより一層防止することができる。
【0081】
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、又はセシウムがポリカーボネート樹脂(A)の色調へ与える悪影響や、鉄がポリカーボネート樹脂(A)の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂(A)の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5重量ppm以下であることがより好ましい。なお、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂(A)中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、上述の範囲にすることが好ましい。
【0082】
(ポリカーボネート樹脂(A)の物性)
ポリカーボネート樹脂(A)の平均分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど平均分子量が大きいことを示す。還元粘度は、0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましい。一方、還元粘度は、1.20dL/g以下が好ましく、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。還元粘度を上記範囲内に調整することにより、機械的性質を向上することができる共に、成形時の流動性を向上させることができ、生産性や成形性をより向上させることができる。従って、機械的性質に優れると共に複雑な形状の成形品を生産性よく製造することができ、成形品は例えば電気・電子機器部品や自動車内外装部品等の用途に好適になる。尚、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、例えば次のようにして測定される。まず、塩化メチレン等の溶媒にポリカーボネート樹脂(A)を溶解させ、溶解液のポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調整する。この溶解液を使用し、温度20.0℃±0.1℃の条件下でウベローデ粘度管により還元粘度を測定することができる。
【0083】
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、90℃以上が好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性がより向上する。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、100℃以上がより好ましく、110℃以上が更に好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は145℃以下が好ましい。この場合には、成形時の流動性を高め、樹脂組成物が成形型の末端まで行き届き易くなり、複雑な形状であっても所望形状の成形品を得ることができる。また、ウエルド部での強度の低下を抑制できる。これらの効果をより高めるという観点から、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、135℃以下がより好ましく、125℃以下が更に好ましい。
【0084】
上記樹脂組成物は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)として、1種の樹脂を単独で含有していてもよいが、構造単位(a1)~構造単位(a3)の種類、共重合割合が異なり、物性等の異なる複数の樹脂を含有していてもよい。また、樹脂組成物は、本発明の所期の目的を損なわない限り、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と共に芳香族ポリカーボネート樹脂を含有することができる。蓄光剤による樹脂分解に伴う悪影響を防止する観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂の含有割合は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。
【0085】
(脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の合成)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、例えば、重合触媒の存在下、エステル交換反応により、化合物(1)等のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させることによって得られる。
【0086】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。混合温度は、通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。混合温度は、100℃以上120℃以下が特に好ましい。この場合には、溶解速度を高めたり、溶解度を十分に向上させたりすることができ、固化等の不具合を十分に回避することができる。さらに、この場合には、ジヒドロキシ化合物の熱劣化を十分に抑制することができる。その結果、ポリカーボネート樹脂(A)の色調がより一層良好になると共に、耐候性の向上も可能になる。
【0087】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合する操作は、通常、雰囲気制御下にて行われる。具体的には、混合時の酸素濃度は、好ましくは10vol%以下、より好ましくは0.0001~10vol%、さらに好ましくは0.0001~5vol%、さらにより好ましくは0.0001~1vol%である。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)の色調がより一層良好なものになると共に、反応性も高めることができる。
【0088】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を得るためには、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルを0.90~1.20のモル比率で用いることが好ましい。この場合には、脂肪族ポリカーボネート樹脂のヒドロキシ基末端量の増加を抑制することができるため、ポリマーの熱安定性の向上が可能になる。そのため、成形時の着色をより一層防止したり、エステル交換反応の速度を向上させたりすることができる。また、所望の高分子量体をより確実に得ることが可能になる。さらに炭酸ジエステルの使用量を上記範囲内に調整することにより、エステル交換反応の速度が低下を抑制することができ、所望の分子量の脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のより確実な製造が可能になる。また、この場合には、反応時の熱履歴の増大を抑制することができるため、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の色調や耐候性をより一層良好なものにすることができる。さらにこの場合には、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)中の残存炭酸ジエステル量を減少させることができ、成形時の汚れや臭気の発生を回避又は緩和することができる。以上と同様の観点から、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステル使用量は、モル比率で、0.95~1.10であることがより好ましい。
【0089】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂(A)が得られ、生産性にも優れている連続式を採用することが好ましい。
【0090】
重合速度の制御や得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の品質の観点からは、反応段階に応じてジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが好ましい。具体的には、重縮合反応の反応初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、反応後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。その結果、重合速度の低下を抑制することができる。また、所望の分子量や末端基を持つポリマーをより確実に得ることが可能になる。
【0091】
また、重縮合反応における重合速度はヒドロキシ基末端とカーボネート基末端のバランスによって制御される。そのため、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を溶融加工する際に、溶融粘度が変動し、成形品の品質を一定に保つことが難しくなることがある。かかる問題は、特に連続式で重縮合反応を行う場合に起こりやすい。
【0092】
留出する未反応モノマーの量を抑制するためには、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマーが多い反応初期において高い効果を示す。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、還流冷却器に導入される冷媒の温度は、還流冷却器の入口において通常45~180℃であり、好ましくは80~150℃であり、より好ましくは100~130℃である。冷媒温度をこれらの範囲に調整することにより、還流量を十分に高め、その効果が十分得られると共に、留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率を十分に向上させることができる。その結果、反応率の低下を防止することができ、得られる樹脂の着色をより一層防止することができる。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0093】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色調をより良好なものにするためには、上述の重合触媒の種類と量を適切に選定することが好ましい。
【0094】
ポリカーボネート樹脂(A)は、重合触媒を用いて、通常、2段階以上の工程を経て製造される。重縮合反応は、1つの重縮合反応器を用い、順次条件を変えて2段階以上の工程で行ってもよいが、生産効率の観点からは、複数の反応器を用い、それぞれの条件を変えて多段階で行うことが好ましい。
【0095】
重縮合反応を効率よく行う観点から、反応液中に含まれるモノマーが多い反応初期においては、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制することが好ましい。また、反応後期においては、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることにより、平衡を重縮合反応側にシフトさせることが好ましい。したがって、反応初期に好適な反応条件と、反応後期に好適な反応条件とは通常異なっている。それ故、直列に配置された複数の反応器を用いることにより、それぞれの条件を容易に変更することができ、生産効率を向上させることができる。
【0096】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造に使用される重合反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率等の観点からは、3つ以上、好ましくは3~5つ、特に好ましくは4つである。重合反応器が2つ以上であれば、各重合反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数行ったり、連続的に温度、圧力を変えたりしてもよい。
【0097】
重合触媒は、原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、重縮合反応の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で重合触媒を供給することが好ましい。
【0098】
重縮合反応の温度を調整することにより、生産性の向上や製品への熱履歴の増大の回避が可能になる。さらに、モノマーの揮散や、ポリカーボネート樹脂(A)の分解や着色をより一層防止することが可能になる。具体的には、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常150~250℃、好ましくは160~240℃、より好ましくは170~230℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1~110kPa、好ましくは5~70kPa、より好ましくは7~30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.5~3時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
【0099】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にすることが好ましい。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常200~260℃、好ましくは210~250℃の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.3~6時間、より好ましくは0.5~3時間の範囲で設定する。
【0100】
ポリカーボネート樹脂(A)の着色や熱劣化をより一層抑制し、色調がより一層良好になるという観点からは、全反応段階における重合反応器の内温の最高温度を210~240℃とすることが好ましい。また、反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重縮合反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0101】
連続重合において、最終的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の分子量を一定水準に制御するには、必要に応じて重合速度を調節することが好ましい。その場合は、操作性が良いという観点から、最終段の重合反応器の圧力を調整することが好ましい。
【0102】
また、前述したようにヒドロキシ基末端とカーボネート基末端の比率によって重合速度が変化するため、あえて片方の末端基を減らして、重合速度を抑制し、その分、最終段の重合反応器の圧力を高真空に保つことで、モノヒドロキシ化合物をはじめとした樹脂中の残存低分子量成分を低減することができる。しかし、片方の末端が少なくなりすぎると、末端基バランスが少し変動しただけで、極端に反応性が低下し、ポリカーボネート樹脂(A)の分子量が所望の分子量に満たなくなるおそれがある。反応性の低下を抑制し、分子量を高める観点から、最終段の重合反応器においては、ポリカーボネート樹脂は、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端とをいずれも10mol/ton以上含有することが好ましい。また、両方の末端基が多すぎると、重合速度が速くなり、分子量が高くなりすぎてしまうため、片方の末端基は60mol/ton以下であることが好ましい。
【0103】
このようにして、末端基の量と最終段の重合反応器の圧力を好ましい範囲に調整することで、重合反応器の出口において、樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量を低減することができる。重合反応器の出口における樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は、2000重量ppm以下であることが好ましく、1500重量ppm以下であることがより好ましく、1000重量ppm以下であることが更に好ましい。このように、重合反応器の出口におけるモノヒドロキシ化合物の含有量を低減することにより、後の工程においてモノヒドロキシ化合物等の脱揮を容易に行うことができる。
【0104】
モノヒドロキシ化合物の残存量は少ない方が好ましいが、100重量ppm未満まで減らそうとすると、片方の末端基の量を極端に少なくし、重合反応器の圧力を高真空に保つような運転条件を取る必要がある。この場合には、前述のとおり、得られるポリカーボネート樹脂の分子量を一定水準に保つことが難しくなるので、通常100重量ppm以上、好ましくは150重量ppm以上である。
【0105】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じて精製を行った後、他の化合物の原料として再利用することが好ましい。例えば、モノヒドロキシ化合物がフェノールである場合、ジフェニルカーボネートやビスフェノールA等の原料として用いることができる。
【0106】
ポリカーボネート樹脂(A)は、触媒失活剤を含むことが好ましい。触媒失活剤としては、酸性物質で、重合触媒の失活機能を有するものであれば特に限定されないが、具体的には、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸、オクチルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、P-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のホスホニウム塩;デシルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸ブチル、ヘキサデシルスルホン酸エチル等のアルキルエステル等が挙げられる。
【0107】
触媒失活剤は、下記式(6)又は下記式(7)で表される部分構造のいずれかを含むリン系化合物(以下、「特定リン系化合物」という。)を含んでいることが好ましい。このような特定リン系化合物は、重縮合反応が完了した後、即ち、例えば混練工程やペレット化工程等の際に添加することにより重合触媒を失活させ、不要な重縮合反応が進行することを抑制できる。その結果、例えば成形工程においてポリカーボネート樹脂(A)を含む樹脂組成物が加熱されても重縮合の進行を抑制することができる。さらに、モノヒドロキシ化合物の脱離を抑制することができる。また、重合触媒を失活させることにより、高温下でのポリカーボネート樹脂(A)の着色をより一層抑制することができる。
【0108】
【0109】
【0110】
式(6)又は式(7)で表される部分構造を含む特定リン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステル等を使用することができる。これらの中でも、触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れている観点から、特定リン系化合物は、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであることが好ましく、亜リン酸がより好ましい。
【0111】
ホスホン酸としては、例えば、ホスホン酸(つまり、亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、4-メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物等が挙げられる。
【0112】
ホスホン酸エステルとしては、例えば、ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2-エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2-ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p-メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert-ブチル、(4-クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0113】
酸性リン酸エステルとしては、例えば、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジル等のリン酸ジエステルが挙げられる。また、ジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩等も挙げられる。
【0114】
特定リン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0115】
ポリカーボネート樹脂(A)中の特定リン系化合物の含有量は、リン原子量換算で、0.1重量ppm以上5重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、特定リン系化合物による触媒失活や着色抑制の効果を十分に得ることができる。また、この場合には、特に高温、高湿度での耐久試験において、ポリカーボネート樹脂(A)の着色をより一層防止することができる。
【0116】
また、特定リン系化合物の含有量を重合触媒の量に応じて調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができる。特定リン系化合物の含有量は、重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子量換算で0.5倍mol以上5倍mol以下とすることが好ましく、0.7倍mol以上4倍mol以下とすることがより好ましく、0.8倍mol以上3倍mol以下とすることがさらに好ましい。
【0117】
〔蓄光剤(B)〕
蓄光剤は、太陽光や人工光などに含まれる紫外線や可視光などの光が照射されるとその光を吸収して蓄え、光照射を停止した後でも、即ち暗所においても、放光という形で所定の時間発光し続けるものである。蓄光剤は、光励起終了後は、数分~数十時間程度の残光持続性を持ち、光照射を停止した後速やかに発光が減衰する一般の蛍光増白剤などとは区別される。
【0118】
蓄光剤(B)は、上記の特性を有するものであればよく、特に制限はないが、硫化物系蓄光剤、硫化亜鉛系蓄光剤、ケイ酸系蓄光材、アルミン酸塩系蓄光剤等が挙げられる。硫化物系蓄光剤としては、CaS:Bi、CaSrS:Bi、ZnCdS:Cu等が挙げられる。硫化亜鉛系蓄光剤としては、ZnS:Cu等が挙げられる。ケイ酸系蓄光材としては、Sr2MgSi2O7:Eu,Dy等が挙げられる。また、アルミン酸塩系蓄光剤としては、下記式(III)で表される物質が挙げられる。ただし、式(III)中、Mは、アルカリ土類金属元素を示し、好ましくはカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。Xは、賦活剤であり、ランタノイド系金属元素、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、及びビスマス(Bi)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を示す。Xは、好ましくは、ユウロピウム(Eu)、ランタン(La)、セリウム(Cs)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテニウム(Lu)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、及びビスマス(Bi)からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。式(III)中、a、b、cは、1以上30以下の整数である。式(III)においてXの含有量は、アルカリ土類金属元素M100モル%に対して、例えば0.001~10モル%以下である。アルミン酸塩系蓄光剤は、例えば、アルミン酸塩から構成される母結晶と賦活剤とからなる。
MaAlbOc:X ・・・(III)
【0119】
蓄光剤(B)は、式(III)で表されるアルミン酸塩系蓄光剤であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物が高い発光輝度を示す。これは、母結晶中の賦活剤由来のイオンに置換された部分で、光の照射により賦活剤由来のイオンが励起し、発光という形で強く長期にわたってエネルギーが解放されることによるものと考えられる。
【0120】
アルミン酸塩系蓄光剤としては、例えば、GMg2Al16O27:Eu、GMg2Al16O27:Eu,Mn、GMg2Al10O17:Eu、GMg2Al10O17:Eu,Mn、SrAl2O4:Eu、SrAl2O4:Eu,Dy、Sr4Al14O25:Eu、Sr4Al14O25:Eu,Dy、CaAl2O4:Eu,Ndなどが挙げられる。ただし、GはSr及び/又はBaである。
アルミン酸塩系蓄光剤は、SrAl2O4:Eu,Dy、Sr4Al14O25:Eu,Dy、及びCaAl2O4:Eu,Ndからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合には、加水分解抑制効果や残光持続効果が更に向上する。
【0121】
蓄光剤(B)の平均粒径D50については特に制限はないが、1~300μmが好ましく、10~100μmがより好ましく、20~50μmであることがさらに好ましい。この場合には、成形品の引張破断伸び、衝撃強度、外観、発光特性がより向上する。
【0122】
なお、本発明における平均粒径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定されるメジアン径D50を示す。例えば、平均粒径D50は、島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-2100」を用いて測定されるが、例えば市販品についてはカタログ値を採用することができる。
【0123】
樹脂組成物は、1種類の蓄光剤を含有しても、化学組成の異なる2種以上の蓄光剤を含有してもよい。また、樹脂組成物は、平均粒径の異なる蓄光剤を含有することもできる。
【0124】
〔樹脂組成物〕
ポリカーボネート樹脂組成物は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)及び蓄光剤(B)を含む。脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、例えば脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する。このようなポリカーボネート樹脂組成物によれば、外観の色相が良好で、暗所での発光輝度が高い成形品が得られる。
【0125】
ビスフェノールA等の芳香族基を含むジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を主成分とする芳香族ポリカーボネート樹脂の場合、蓄光剤(B)を添加すると、ポリカーボネート樹脂が分解することにより樹脂組成物の耐衝撃性を低下させる。さらに、成形品に黒ずみが生じ美観が損なわれ、それによって発光輝度が低下する。これに対し、本開示の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(具体的には、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A))と蓄光剤(B)とを含有していながらも、樹脂分解が抑制され、樹脂組成物の成形品の外観上の色相が良好になり、暗所での発光輝度が高くなる。
【0126】
ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)と蓄光剤(B)との質量比(ただし、ポリカーボネート樹脂(A):蓄光剤(B))は50:50~99:1であることが好ましく、75:25~98:2であることがより好ましく、90:10~97:3がさらに好ましい。この場合には、蓄光剤(B)による残光持続効果が向上すると共に、成形性、熱安定性、機械的強度が向上する。
【0127】
樹脂組成物は、衝撃強度改質剤(C)、紫外線吸収剤(D)、エステル交換防止剤(F)を含有していてもよい。
【0128】
(衝撃強度改質剤(C))
衝撃強度改質剤(C)としては、通常知られる耐衝撃強度を向上させる効果を有するものを使用することが可能であり、衝撃強度改質剤は、特に限定されない。衝撃強度改質剤は、ブタジエン、(メタ)アクリル酸アルキル、スチレン、及びアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体の重合体(重合体は共重合体を含む)から構成されていることが好ましい。この場合には、衝撃強度改質剤(C)とポリカーボネート樹脂(A)との組み合わせが良好になり、衝撃強度改質効果が顕著になる。これにより、樹脂組成物の成形品が優れた耐衝撃性を示す。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方のことを意味する。
【0129】
入手が容易であるという観点からは、衝撃強度改質剤(C)が、ブタジエンに由来の成分を含有する共重合体から構成されていることが好ましい。ブタジエンに由来の成分を含有する共重合体のことを、適宜「ブタジエン系共重合体」という。ブタジエン系共重合体としては、スチレン、アクリロニトリル、及び(メタ)アクリル酸アルキルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物(つまり、単量体)とブタジエンとの共重合体が挙げられる。
【0130】
ブタジエン系共重合体としては、具体的には、ブタジエン及びスチレンの共重合体;ブタジエン、スチレン、及びアクリロニトリルの共重合体;ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、及び(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体;ブタジエン、スチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体;ブタジエン及び(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体等が挙げられる。
【0131】
ブタジエン系共重合体の好ましい具体例としては、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、MB(メチルメタクリレート-ブタジエン)共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム共重合体が挙げられる。
【0132】
衝撃強度改質効果の観点からは、ブタジエン系共重合体は、ブタジエン及び(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体であることが好ましく、ブタジエン・アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル共重合体であることがより好ましい。
【0133】
また、ブタジエン系共重合体から構成される耐衝撃改質剤の構造は特に限定されないが、具体的には、架橋構造、ブロック型構造、コア・シェル構造等が挙げられる。好ましくは、コア・シェル構造である。コア・シェル構造は、ゴム状重合体であるコアと、ゴム状重合体へグラフト重合してなる重合体から構成されるシェルとから構成されていることが好ましい。この場合には、ブタジエン系共重合体のポリカーボネート樹脂(A)への分散性が良好となり、樹脂組成物、その成形品が高い衝撃強度を示す傾向にある。また、この場合には、樹脂組成物、その成形品の透明性がより向上する。
【0134】
コア・シェル構造を有するブタジエン系共重合体としては、例えば、ブタジエン含有重合体をコア層として、共重合可能な単量体成分をグラフト共重合させることによりシェル層を形成してなるコア・シェル型グラフト共重合体がある。このうち、(メタ)アクリル酸アルキルをシェル層とした、コア・シェル型グラフト共重合体が好ましい。このようなコア・シェル型グラフト共重合体から構成されたブタジエン系共重合体としては、例えば、ダウ・ケミカル社製の「パラロイド(登録商標)EXL2650J」等があげられる。
【0135】
入手が容易であるという観点からは、衝撃強度改質剤が、(メタ)アクリル酸アルキルに由来の成分を含有する共重合体から構成されていることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルに由来の成分を含有する共重合体のことを適宜「(メタ)アクリル酸アルキル系共重合体」という。(メタ)アクリル酸アルキル系共重合体としては、上述のブタジエン系共重合体の例として挙げたものの他に、(メタ)アクリル酸アルキル及びスチレンからなる共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル及びアクリルゴムからなる共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル、スチレン及びアクリルゴムからなる共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル及びアクリル-シリコーンIPNゴムからなる共重合体等が挙げられる。IPNは、相互侵入高分子網目構造を意味する。
【0136】
樹脂組成物、その成形品の透明性をより向上できるという観点からは、衝撃強度改質剤(C)は、(メタ)アクリル酸アルキル及びスチレンからなる共重合体であることが好ましく、アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合体であることがより好ましい。
【0137】
また、(メタ)アクリル酸アルキル系共重合体から構成される耐衝撃改質剤(C)の構造は特に限定されないが、具体的には、架橋構造、ブロック型構造、コア・シェル構造等が挙げられる。このうち、耐衝撃改質剤の構造は、ゴム状重合体であるコアと、ゴム状重合体へグラフト重合することにより得られるシェルからなる、コア・シェル構造であることが好ましい。この場合には、(メタ)アクリル酸アルキル系共重合体のポリカーボネートへの分散性が良好となり、ポリカーボネート樹脂組成物、その成形品が高い衝撃強度を示す傾向にある。また、この場合には、ポリカーボネート樹脂組成物、その成形品の透明性がより向上する。このようなコア・シェル型グラフト共重合体から構成された(メタ)アクリル酸アルキル系共重合体としては、例えば、(株)カネカ製の「カネエースM-590」等があげられる。
【0138】
(紫外線吸収剤(D))
紫外線吸収剤(D)としては、通常知られる紫外線吸収剤を使用することが可能であり、特に限定されない。具体的には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0139】
(エステル交換防止剤(F))
エステル交換防止剤(F)としては、通常知られるエステル交換の防止する効果を有するものを使用することが可能であり、特に限定されない。具体的には、リン酸エステル等が挙げられる。
【0140】
また、樹脂組成物は、中和剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤、充填剤等の添加剤等を含んでいてもよい。
【0141】
[樹脂組成物の物性]
(1)流動性
ポリカーボネート樹脂組成物の流動性は、例えば、MFR(つまり、メルトフローレイト)測定により評価される。ポリカーボネート樹脂(A)のMFR値(つまり、MFR1)に対する、樹脂組成物のMFR値(つまり、MFR2)の比(つまり、MFR1/MFR2)は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。この範囲であることでポリカーボネート樹脂の分解がより一層抑制される。MFRの測定方法については実施例で説明するが、樹脂組成物及びポリカーボネート樹脂のMFRは、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0142】
(2)色相
樹脂組成物の色相(具体的には、成形品の色相)は、JIS Z8781-4:2013に規定のL*値、C*値により評価することができる。L*値は、数字が大きいほど明るい色を表し、40以上であることが好ましく、45以上であることがより好ましい。C*値は数字が大きいほど色鮮やかであることを表し、8.2以上が好ましく、8.5以上がより好ましい。L*値、C*値が上記範囲であることにより、成形品の黒ずみが小さくなり、成形品に優れた美観をもたせることができる。L*値、C*値の測定方法については、実施例にて説明する。
【0143】
(3)発光初期輝度
樹脂組成物の発光初期輝度(具体的には、成形品の発光初期輝度)は、光照射後の暗所での発光輝度により評価される。発光初期輝度が高いほど、樹脂組成物の成形品が蓄光剤本来の発光性能を阻害せず、高い発光輝度を発揮することを示す。光初期輝度の測定方法については、実施例にて説明する。
【0144】
〔樹脂組成物の製造方法〕
樹脂組成物は、例えばポリカーボネート樹脂(A)、蓄光剤(B)等の構成成分を機械的に溶融混練する方法によって製造することができる。溶融混練機としては、例えば単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、ロールミル等が挙げられる。溶融混練機としては、二軸押出機を使用することが好ましい。
【0145】
残存フェノール溜去の観点から、溶融混練は、減圧しながら行われることが好ましい。混練温度は、通常100℃以上、好ましくは145℃以上、より好ましくは160℃以上である。また、混練温度は、通常350℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。混練に際しては、各成分を一括して混練してもよいし、多段分割混練法を採用してもよい。多段混練分割法は、任意の成分を混練した後、他の残りの成分を添加して混練する方法である。押し出した混練物は、ストランドカッター等を用いてペレット状にし、使用前に適宜乾燥させることが好ましい。
【0146】
[樹脂組成物の成形方法]
樹脂組成物は、例えば射出成形(具体的には、インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の種々の成形法により成形される。成形品の形状には特に制限はなく、シート、フィルム、板状、粒子状、塊状体、繊維、棒状、多孔体、発泡体等が挙げられ、好ましくはシート、フィルム、板状である。また、成形されたフィルムは一軸あるいは二軸延伸することも可能である。延伸法としては、ロール法、テンター法、チューブラー法等が挙げられる。さらに、成形品には、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理を施すこともできる。
【0147】
[用途]
成形品の用途は特に限定されないが、一例として、下記のような用途が挙げられる。すなわち、避難誘導標識、夜間表示標識、表示ボタン、時計文字盤、スイッチ、コネクター部品、アクセサリ、電気・電子部品分野における電線、コード類、ワイヤーハーネス等の被覆材料、絶縁シート、OA機器のディスプレイやタッチパネル、メンブレンスイッチ、写真カバー、リレー部品、コイルボビン、ICソケット、ヒューズケース、カメラ圧板、FDDコレット、フロッピーハブ、光学部品分野における光ディスク基板、光ディスク用ピックアップレンズ、光学レンズ、LCD基板、PDP基板、プロジェクションテレビ用テレビスクリーン、位相差フィルム、フォグランプレンズ、照光スイッチレンズ、センサースイッチレンズ、フルネルレンズ、保護メガネ、プロジェクションレンズ、カメラレンズ、サングラス、導光板、カメラストロボリフレクター、LEDリフレクター、自動車部品におけるヘッドランプレンズ、ウインカーランプレンズ、テールランプレンズ、樹脂窓ガラス、メーターカバー、外板、ドアハンドル、リアパネル、ホイールキャップ、バイザー、ルーフレール、サンルーフ、インパネ、パネル類、コントロールケーブル被覆材、エアーバッグ・カバー、マッドガード、バンパー、ブーツ、エアホース、ランプパッキン類、ガスケット類、ウィンドウモール等の各種モール、サイトシールド、ウェザーストリップ、グラスランチャンネル、グロメット類、制震・遮音部材、建材分野における目地材、手すり、窓、テーブルエッジ材、サッシ、浴槽、窓枠、看板、照明カバー、水槽、階段腰板、カーポート、高速道路遮音壁、マルチウォールシート、鋼線被覆材、照明灯グローブ、スイッチブレーカー、工作機械の保護カバー、工業用深絞り真空成形容器、ポンプハウジング、家電、弱電分野における各種パッキン類、グリップ類、ベルト類、足ゴム、ローラー、プロテクター、吸盤、冷蔵庫等に使用されるガスケット類、スイッチ類、コネクターカバー、ゲーム機カバー、パチンコ台、OAハウジング、ノートPCハウジング、HDDヘッド用トレー、計器類の窓、透明ハウジング、OA用ギア付きローラー、スイッチケーススライダー、ガスコックつまみ、時計枠、時計輪列中置、アンバーキャップ、OA機器用各種ロール類、ホース、チューブ等の管状成形品、異型押し出し品、レザー調物品、咬合具、ソフトな触感の人形類等の玩具類、ペングリップ、ストラップ、吸盤、時計、傘骨、化粧品ケース、ハブラシ柄等の一般雑貨類、ハウスウェア、タッパーウェア等の容器類、結束バンド、ブロー成形による輸液ボトル、食品用ボトル、ウォーターボトル、化粧品用等のパーソナルケア用のボトル等各種ボトル、医療用部品におけるカテーテル、シリンジ、シリンジガスケット、点滴筒、チューブ、ポート、キャップ、ゴム栓、ダイヤライザー、血液コネクター、義歯、ディスポーザブル容器等、が挙げられる。成形品は、発泡成形品とすることができ、発泡樹脂が使用される用途にも適用可能である。成形品は、自動車内装部品又は外装部品にも好適である。
【0148】
成形品は、避難誘導標識、夜間表示標識、標示ボタン、時計文字盤、スイッチ、コネクター部品、又はアクセサリに使用されることが好ましい。この場合には、発光効果、残光持続効果に優れる成形品の特性が十分に発揮され、美観や機能性に優れたものとなる。
【実施例0149】
以下に、製造例、実施例、及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例により何ら制限されるものではない。
【0150】
<評価方法>
(1)流動性評価(MFR測定)
・脂肪族ポリカーボネート樹脂、これを含む樹脂組成物
熱風乾燥機を用いて、脂肪族ポリカーボネート樹脂のペレット、樹脂組成物のペレットを100℃で6時間以上乾燥した。次に、メルトインデクサー(東洋精機社製)により、温度230℃、荷重2.16kgの条件で各ペレットのMFRを測定した。
・ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂組成物
熱風乾燥機を用いて、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂組成物のペレットを120℃で6時間以上乾燥した。次に、メルトインデクサー(東洋精機社製)により、温度300℃、荷重1.20kgの条件でペレットのMFRを測定した。
【0151】
(2)ガラス転移温度Tg
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量計DSC6220を用いて測定した。約10mgのポリカーボネート樹脂を同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で30℃から250℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求めた。この補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度とした。
【0152】
(3)色相測定
熱風乾燥機を用いて、樹脂組成物のペレットを100℃で6時間乾燥した。次に、ペレットを射出成形機((株)日本製鋼所製:J85AD型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、射出成形を行い、幅100mm×長さ100mm×厚さ2mmの射出成形板を得た。射出成形板を48時間以上暗所で保管し完全に光を遮断した後、コニカミノルタ(株)製の色相装置「CM-5」により、射出成形板のL*値、C*値を測定した。測定は、光源:D65、視野角:10°、反射測定径:φ30mmの条件で、反射法により行った。
【0153】
(4)発光初期輝度の評価
上述の「色相測定」と同様の射出成形板を48時間以上暗所で保管し完全に光を遮断した後、射出成形板にD65光源の光を10分間照射し、照射停止直後に暗所での発光輝度を目視で観察した。評価の基準としては最も明るいものを5とし、暗くなるごとに小さい数字を充てる5段階の評価により行った。1が最も暗いことを意味する。
【0154】
[(A)成分:ポリカーボネート樹脂]
<原材料>
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB)
・CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(シス、トランス混合物、SKケミカル(株)製)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル(株)製)
【0155】
<製造例1:脂肪族ポリカーボネート樹脂(A-1)>
竪型攪拌反応器3器と横型攪拌反応器1器、並びに二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。ISB、CHDM、及びDPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISBを29.8kg/hr、CHDMを12.6kg/hr、DPCを63.1kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。各原料の供給とともに、重合触媒である酢酸カルシウム1水和物の水溶液を、全ジヒドロキシ化合物1molに対して酢酸カルシウム1水和物が1.5μmolとなる添加量にて第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の内温、内圧、滞留時間は、それぞれ、第1竪型攪拌反応器:190℃、25kPa、120分、第2竪型攪拌反応器:195℃、10kPa、90分、第3竪型攪拌反応器:205℃、4kPa、45分、第4横型攪拌反応器:220℃、0.1~1.0kPa、120分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.42dL/g~0.44dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
【0156】
第4横型攪拌反応器から抜き出したポリカーボネート樹脂を、溶融状態のままベント式二軸押出機TEX30α[(株)日本製鋼所製]に供給した。押出機は3つの真空ベント口を有しており、ここで樹脂中の残存低分子量成分を脱揮除去するとともに、第1ベントの手前で触媒失活剤としてホスホン酸を、ポリカーボネート樹脂に対して0.63重量ppm添加し、第3ベントの手前でIrganox1010、AS2112、E-275、SEESORB709をポリカーボネート樹脂に対して、それぞれ1000重量ppm、500重量ppm、3000重量ppm、200重量ppmを添加した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂を引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのウルチプリーツ・キャンドルフィルター[PALL社製]に通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を押出し、水冷、固化させた後、回転式カッターで切断することによりペレット化し脂肪族ポリカーボネート樹脂(A-1)を得た。この脂肪族ポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が124℃、MFR(230℃、2.16kg)が10g/minであった。
【0157】
<ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂>
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂としては、以下の市販品(A-1、A-2)を用いた。
・A-2:ユーピロンH―3000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、MFR(300℃、1.20kg)=30g/min))
・A-3:ユーピロンS―3000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、MFR(300℃、1.20kg)=15g/min))
【0158】
<(B)成分:蓄光剤(B)>
・B-1:N夜光 G-300M(根本特殊化学(株)製、SrAl2О4:Eu、Dy、平均粒径(D50)25μm、光照射停止5分後輝度80mcd・m-2(D65光源、25ルクス、照射時間15分、飽和厚における粉体輝度)
・B-2:N夜光 GLL-300M(根本特殊化学(株)製、SrAl2О4:Eu、Dy、平均粒径(D50)25μm、光照射停止5分後輝度143mcd・m-2(D65光源、25ルクス、照射時間15分、飽和厚における粉体輝度)
なお、上記光照射条件での光照射を行い、光照射停止から5分後の蓄光剤(B)の飽和厚における粉体輝度は、50~180mcd・m-2であることが好ましく、60~170mcd・m-2であることがより好ましく、70~160mcd・m-2であることがさらに好ましく、75~150mcd・m-2であることがさらにより好ましい。
【0159】
[実施例1~4、比較例1~3]
表1に示す配合で各成分を混合し、混合物を軸径15mmの二軸押出機((株)テクノベル製「KZW-15-30MG」)に供給し、各成分の溶融混練を行った。各成分の添加は、同時添加とし、溶融混練は、真空度0.1MPa、混練温度235℃の条件で行った。これにより、ペレット状の樹脂組成物を得た。
上記の方法により樹脂組成物の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0160】
【0161】
表1、表2より理解されるように、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と蓄光剤(B)とを含有する実施例1~4は、比較例に比べて樹脂組成物の流動性の上昇が小さい。流動性の上昇は、相互に同じ蓄光剤を含有する実施例と比較例との対比より、十分理解される。また、実施例1~4は、黒ずみが小さく色鮮やかで、初期の発光輝度が高い。
【0162】
以上の結果から、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と蓄光剤(B)とを含有するポリカーボネート樹脂組成物によれば、外観の色相が良好で、発光輝度が高い成形品を得ることができることが理解される。