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特開2024-146340情報処理装置、予測方法、および予測プログラム
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  • 特開-情報処理装置、予測方法、および予測プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146340
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】情報処理装置、予測方法、および予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20241004BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059179
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトの掲載日 令和4年11月1日 ウェブサイトのアドレス https://biz.knt.co.jp/tour/2022/11/jsidre/page_all-20221028.pdf 公開者 吉田 貢士、安瀬地 一作、是井 亮二、結城 貴之、沖 一雄 2.開催日 令和4年11月10日 集会名 第73回農業農村工学会関東支部大会講演会 公開者 吉田 貢士、安瀬地 一作、是井 亮二、結城 貴之、沖 一雄
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】結城 貴之
(72)【発明者】
【氏名】是井 亮二
(72)【発明者】
【氏名】沖 一雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貢士
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L050CC01
(57)【要約】
【課題】収穫適期の予測精度を改善する。
【解決手段】情報処理装置(1)は、対象となる作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出部(102)と、算出された有効積算温度に基づいて収穫適期を予測する予測部(105)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出部と、
前記有効積算温度に基づいて前記作物の収穫適期を予測する予測部と、を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記有効積算温度に基づいて前記作物の生育ステージを判定する生育ステージ判定部を備え、
前記温度算出部は、前記生育期間のうち前記生育ステージ判定部が前記作物の生育ステージは生殖成長ステージであると判定した期間については、平均気温が前記上限値以上である日の平均気温も用いて前記有効積算温度を算出する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記生育期間に測定された気温を示す測定気温データを取得するデータ取得部を備え、
前記温度算出部は、前記データ取得部が取得した前記測定気温データを用いて前記有効積算温度を再計算し、
前記予測部は、再計算された前記有効積算温度に基づいて前記作物の収穫適期の予測結果を更新する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
1または複数の情報処理装置により実行される、収穫適期の予測方法であって、
対象となる作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出ステップと、
前記有効積算温度に基づいて前記作物の収穫適期を予測する予測ステップと、を含む予測方法。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための収穫適期の予測プログラムであって、上記温度算出部および上記予測部としてコンピュータを機能させるための予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の収穫適期を予測する情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
作物の収穫量や収穫された作物の品質は、収穫時期に応じて大きく変動するため、適切な収穫時期すなわち収穫適期を予測することは、農業経営において極めて重要である。このような観点から、収穫適期を予測する技術についての研究・開発が従来から進められている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、複数の時期に測定された温度データをそれぞれ用いて複数の予測収穫時期を算出し、それらの分布状況に基づいて、作物の予測収穫時期についての予測情報を生成する情報処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013‐42668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、予測収穫時期の算出に有効積算温度が用いられる。有効積算温度は、1日の平均気温から低温による成長停止温度を減算することにより算出される有効温度を積算した温度である。
【0006】
ここで、近年では、作物の生育期間中に異常な高温に見舞われることがあり、作物の品種や種類によっては、このような高温により生育が停止してしまう。このため、高温により生育が停止する作物について、上述のような有効積算温度に基づいて予測収穫時期を算出した場合、予測結果が実際の収穫時期よりも早い時期になってしまうことがある。このように、従来技術には収穫適期の予測精度について改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的の一例は、収穫適期の予測精度を改善することが可能な情報処理装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、対象となる作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出部と、前記有効積算温度に基づいて前記作物の収穫適期を予測する予測部と、を備える。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る予測方法は、1または複数の情報処理装置により実行される、収穫適期の予測方法であって、対象となる作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出ステップと、前記有効積算温度に基づいて前記作物の収穫適期を予測する予測ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、収穫適期の予測精度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】収穫適期を予測する処理の一例を示すフローチャートである。
図3】予測結果を更新する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔装置構成〕
図1に基づいて本発明の一実施形態に係る情報処理装置1の構成を説明する。情報処理装置1は、作物の収穫適期を予測する機能を備えた装置であり、図1は、情報処理装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。
【0013】
図示のように、情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10と、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、情報処理装置1は、情報処理装置1が他の装置と通信するための通信部12、情報処理装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および情報処理装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。
【0014】
また、制御部10には、データ取得部101、温度算出部102、指標値算出部103、生育ステージ判定部104、および予測部105が含まれている。そして、記憶部11には、予測気温DB(データベース)111、測定気温DB112、および作物情報DB113が記憶されている。なお、生育ステージ判定部104については、後記「生育ステージに応じた有効積算温度の算出」の項目で説明する。
【0015】
予測気温DB111には、収穫適期を予測する対象となる作物(以下、対象作物と呼ぶ)の生育期間における予測気温を示す予測気温データが記憶される。より詳細には、予測気温DB111には、対象作物の生育期間における各日の平均気温の予測値を示すデータが記憶される。予測気温データは、例えば、気象庁等の予測機関による予測値を取得し、記憶部11に記憶させたものであってもよい。
【0016】
対象作物の種類および品種は特に限定されないが、情報処理装置1は、特に、高温下で成長が停止する冷涼性植物の収穫適期の予測に適している。冷涼性植物としては、例えば、レタス、キャベツ、白菜、ブロッコリー、カリフラワー、みつば、パセリ、ニンニク、ほうれんそう、えんどう、そらまめ等が挙げられる。
【0017】
測定気温DB112には、対象作物の生育期間中に測定された各日の気温(より詳細には一日の平均気温)を示す測定気温データが記憶される。対象作物の生育期間中において、測定気温DB112に、日にちの経過に伴って新たな測定気温データを追加するようにしてもよい。詳細は後述するが、測定気温データは収穫適期の予測結果の更新に用いられる。このため、収穫適期の予測結果の更新を行わない場合、測定気温DB112は省略してもよい。また、測定気温DB112は情報処理装置1の外部に設けられてもよい。
【0018】
作物情報DB113は、対象作物に関する各種情報が記憶される。具体的には、作物情報DB113には、対象作物の生育期間、成熟に至るまでに必要な積算温度、生育ステージが栄養成長ステージから生殖成長ステージに変わるときの生育指標値の値、収穫適期を示す生育指標値の値、高温による成長停止温度、および低温による成長停止温度等が記憶される。なお、生育指標値については後述する。
【0019】
作物情報DB113には、複数種類あるいは複数品種の対象作物のそれぞれについて、上述のような情報を記憶させておいてもよく、これにより、情報処理装置1は、複数種類あるいは複数品種の対象作物のそれぞれについて収穫適期を予測することが可能になる。
【0020】
データ取得部101は、対象作物の生育期間中の各日における予測平均気温を示す予測気温データを取得する。例えば、データ取得部101は、作物情報DB113を参照して対象作物の生育期間を特定し、当該生育期間の予測気温データを予測気温DB111から取得してもよい。
【0021】
なお、データ取得部101は、情報処理装置1の外部のデータベースや装置等にアクセスして予測気温データを取得してもよい。この場合、記憶部11に予測気温DB111を記憶させておく必要はない。
【0022】
また、データ取得部101は、予測気温データの代わりに、対象作物の生育期間中の各日における過去の平均気温を示す過去気温データを取得してもよい。この場合、データ取得部101は、単年の平均気温を過去気温データとして取得してもよいし、複数年の平均気温から算出した統計量(平均値や中央値等)を過去気温データとして取得してもよい。
【0023】
温度算出部102は、対象作物の生育期間中の各日における平均気温から有効積算温度を算出する。有効積算温度の算出にあたり、温度算出部102は、まず、対象となる期間中の各日について、1日の平均気温から低温による成長停止温度を減算してその日の有効温度を算出する。そして、温度算出部102は、算出した有効温度の和を、当該期間における有効積算温度として算出する。有効積算温度は(有効積算温度)=Σ{(1日の平均気温)-(低温による成長停止温度)}との式で表される。
【0024】
詳細は後述するが、温度算出部102は、対象作物の生育期間の全ての日ではなく、平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する。上記所定の上限値は、例えば高温による成長停止温度としてもよい。また、上記所定の上限値は、高温による成長停止温度に所定のマージンを加えた温度等、高温による成長停止温度とは異なる温度としてもよい。
【0025】
指標値算出部103は、温度算出部102が算出する有効積算温度を用いて、対象作物の生育の進行度合いを示す生育指標値を算出する。具体的には、指標値算出部103は、有効積算温度を対象作物が成熟に至るまでに必要な積算温度で除することにより、生育指標値を算出する。なお、ここで成熟とは種子の形成が完了することを意味する。生育指標値は(生育指標値)=(有効積算温度)/(成熟までに必要な積算温度)との式で表される。
【0026】
生育指標値を用いることにより、対象作物の収穫適期を予測することができる。例えば、ブロッコリーでは、上記の生育指標値が0.5となる頃に発蕾し、0.85となる頃から収穫適期となり、0.95となる頃には葉が枯れ、1.0となる頃には種子の形成が完了する。よって、対象作物がブロッコリーである場合、生育指標値が0.85となるタイミングを収穫適期として予測すればよい。
【0027】
予測部105は、指標値算出部103により算出された生育指標値が、対象作物が収穫適期であることを示す値となるタイミングを予測する。なお、上述のように、生育指標値は、温度算出部102が算出する有効積算温度を用いて算出されるから、予測部105は、温度算出部102が算出する有効積算温度に基づいて対象作物の収穫適期を予測しているといえる。
【0028】
例えば、対象作物が、生育指標値が0.85となったときに収穫適期となるブロッコリーである場合、予測部105は、生育指標値が0.85となるタイミングを予測する。具体的には、この場合、予測部105は、例えば発芽した日を生育期間の初日(1日目)とし、生育開始後n日目(nは生育日数を示す正の整数)までの有効積算温度を用いて算出された生育指標値が初めて0.85以上となるnを求める。これにより、予測部105は、生育開始から何日目に上記のブロッコリーが収穫適期となるかを予測することができる。
【0029】
以上のように、情報処理装置1は、対象作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出部102と、算出された有効積算温度に基づいて対象作物の収穫適期を予測する予測部105と、を備える。
【0030】
上記の構成によれば、平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から算出した有効積算温度に基づいて収穫適期を予測するから、高温により対象作物の成長が止まることを考慮した高精度な予測が可能になる。つまり、上記の構成によれば、平均気温が上限値以上である日の平均気温も考慮して予測する従来技術と比べて、対象作物の収穫適期の予測精度を改善することができる。また、上記の構成によれば、対象作物の収穫適期を、生育期間中の各日における平均気温という入手しやすいデータのみから予測することが可能である。
【0031】
なお、詳細は以下で説明するが、温度算出部102は、必ずしも生育期間に含まれるすべての日において、平均気温が上限値以上である日を有効積算温度の算出対象から外す必要はない。つまり、温度算出部102は、一部の期間では所定の上限値未満の平均気温のみを用いて有効積算温度を算出し、他の期間では所定の上限値以上の平均気温についても用いて有効積算温度を算出してもよい。
【0032】
〔生育ステージに応じた有効積算温度の算出〕
図1に示したように、情報処理装置1は、生育ステージ判定部104を備えていてもよい。生育ステージ判定部104を備えていることにより、生育ステージに応じた有効積算温度の算出が可能になる。これについて以下説明する。
【0033】
生育ステージ判定部104は、指標値算出部103が算出する生育指標値を用いて、対象作物の生育ステージを判定する。より詳細には、生育ステージ判定部104は、対象作物の生育ステージが栄養成長ステージであるか、生殖成長ステージに移行しているかを判定する。なお、上述のように、生育指標値は、温度算出部102が算出する有効積算温度を用いて算出されるから、生育ステージ判定部104は、温度算出部102が算出する有効積算温度に基づいて対象作物の生育ステージを判定しているといえる。
【0034】
栄養成長とは、葉、茎、根などの植物体をつくる栄養器官が形成されることを意味し、栄養成長ステージは、発芽から花芽分化開始までの期間を指す。生殖成長とは、花芽や果実などの生殖器官が形成されることを意味し、生殖成長ステージは花芽分化開始後の期間を指す。
【0035】
植物の中には、栄養成長ステージにおいて高温にさらされると成長が停止するが、生殖成長ステージでは高温にさらされても成長が続くものがある。このため、平均気温が上限値未満である日を有効積算温度の算出対象とし、平均気温が上限値以上である日を有効積算温度の算出対象から外すことは、特に栄養成長ステージにおいて必要性が高い。一方、対象作物の種類や品種等にもよるが、生殖成長ステージにおいては、平均気温が上限値以上である日を有効積算温度の算出対象から外さないことが、正確な成長指標値を算出する上で好ましい場合がある。
【0036】
このため、情報処理装置1が生育ステージ判定部104を備えている場合、温度算出部102は、対象作物の生育期間のうち生育ステージ判定部104が対象作物の生育ステージは生殖成長ステージであると判定した期間については、平均気温が上限値以上である日の平均気温も用いて有効積算温度を算出してもよい。これにより、生殖成長ステージでは高温にさらされても成長が続く対象作物について、妥当な値の有効積算温度を算出し、これにより収穫適期を高精度に予測することが可能になる。
【0037】
なお、栄養成長ステージから生殖成長ステージに移行するときの生育指標値は、作物の種類に応じて決まっているから、生育ステージ判定部104は、生育指標値を用いて生育ステージを判定することができる。例えば、対象作物が、生育指標値が0.5程度となったときに生殖成長ステージに移行する作物であったとする。この場合、生育ステージ判定部104は、指標値算出部103が算出する生育指標値が0.5以上であれば生殖成長ステージに移行していると判定し、0.5未満であれば移行していない、つまり栄養成長ステージであると判定すればよい。
【0038】
〔処理の流れ(収穫適期の予測)〕
情報処理装置1が実行する処理(収穫適期の予測方法)の流れを図2に基づいて説明する。図2は、収穫適期を予測する処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、対象作物が成熟に至るまでに必要な積算温度をX、対象作物の生育ステージが栄養成長から生殖成長に変わるときの生育指標値の値をZ、対象作物の高温による成長停止温度をTmax、対象作物の低温による成長停止温度をTminと表す。
【0039】
S1では、データ取得部101が、対象作物の生育期間中の予測平均気温を示す予測気温データを取得する。上述のように、データ取得部101は、予測気温DB111から予測気温データを取得してもよいし、予測気温データの代わりに過去気温データを取得してもよい。
【0040】
対象作物の生育期間については、作物情報DB113を参照することにより特定可能である。例えば、作物情報DB113に対象作物の生育期間が5月から10月であることが示されていた場合、データ取得部101は、5月から10月の予測気温データを取得すればよい。
【0041】
S2では、予測部105が、生育日数n(nは正の整数)を初期値である1に設定する。生育日数nが1である日は、生育期間の初日であり、例えば対象作物が発芽した日である。
【0042】
S3(温度算出ステップ)では、温度算出部102が、n日目までの有効積算温度を算出する。このとき、温度算出部102は、平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する。なお、ここでは、上記上限値をTmaxとする。また、n日目の平均気温をT、n日目までの有効温度をY、有効積算温度をYnaと表す。有効温度Y=(T-Tmin)である。つまり、温度算出部102は、S3において、Σ(T-Tmin)の値を計算することにより、有効積算温度Ynaを算出する。ただし、温度算出部102は、平均気温がTmax以上である日の有効温度Yは0とする。
【0043】
maxは、対象作物に応じた値としてもよい。対象作物に応じたTmaxの値は、作物情報DB113に記録しておけばよい。Tminについても同様である。なお、簡易的にTmax、Tminを対象作物によらず一定の値としてもよい。
【0044】
例えば、S2の直後に行われるS3の処理、つまりn=1のときのS3の処理では、温度算出部102は、生育期間の初日の平均気温TがTmax未満であれば、Tを用いて有効積算温度Y1aを算出する。つまり、算出されるY1a=T-Tminとなる。一方、温度算出部102は、生育期間の初日の平均気温が所定の上限値以上であれば、当該平均気温は有効積算温度の算出に用いない。つまり、Y1a=0となる。なお、温度算出部102は、平均気温TがTmin未満の日の有効温度Yについても0とするようにしてもよい。
【0045】
ここで、例えば、対象作物が露地栽培される作物である場合、屋外の圃場に定植するまでは、ビニールハウス等の中で温度管理した状態で成長させることがある。栽培期間中に温度管理を行う場合、温度算出部102は、当該期間における平均気温を、当該温度管理に応じた値にして有効積算温度を算出すればよい。例えば、n=1からn=30までの期間において、平均気温15℃で管理する場合、温度算出部102は、当該期間については、平均気温を15℃として有効積算温度を算出すればよい。
【0046】
S4では、指標値算出部103が、S3で算出された有効積算温度Ynaを用いてn日目の生育指標値を算出する。算出される生育指標値は、(Yna/X)と表される。なお、対象作物が成熟に至るまでに必要な積算温度Xは、作物情報DB113に記録しておけばよい。後述するS5の処理で使用される、対象作物の生育ステージが栄養成長から生殖成長に変わるときの生育指標値の値Z、および、後述するS10の処理で使用される、対象作物の収穫適期を示す生育指標値の値についても同様である。
【0047】
S5では、生育ステージ判定部104が、S4で算出された生育指標値を用いて、対象作物の生育ステージが栄養成長ステージであるか、生殖成長ステージに移行しているかを判定する。具体的には、生育ステージ判定部104は、S4で算出された(Yna/X)の値がZ以下であれば栄養成長ステージである(S5でNO)と判定し、処理はS6に進む。一方、生育ステージ判定部104は、S4で算出された(Yna/X)の値がZより大きければ、生殖成長ステージに移行している(S5でYES)と判定し、処理はS7に進む。
【0048】
S6およびS7の何れにおいても、予測部105が、生育日数nの値を1だけインクリメントする。S6の後はS3の処理に戻り、S7の後はS8の処理に進む。つまり、S3からS5の処理は、S5で生殖成長ステージに移行したと判定されるまで、生育日数を示すnの値を1ずつインクリメントしながら繰り返される。これにより、対象作物の生育期間のうち生育ステージ判定部104が栄養成長ステージであると判定した期間については、平均気温TがTmax以上である日の平均気温は用いずに有効積算温度Ynaが算出される。
【0049】
S8では、温度算出部102が、(n-1)日目までの有効積算温度Y(n-1)aに、生殖成長ステージであるn日目の有効温度Yを加算し、n日目までの有効積算温度Ynaを算出する。S3とは異なり、S8では、温度算出部102は、平均気温がTmax以上である日の有効温度Yについても用いて有効積算温度Ynaを算出する。
【0050】
S9では、指標値算出部103が、S8で算出された有効積算温度Ynaを用いてn日目の生育指標値を算出する。算出される生育指標値は、S4と同様に(Yna/X)と表される。ただし、S9の処理におけるYnaは栄養成長ステージにおける有効積算温度と、S7以降の処理により算出される、生殖成長ステージにおける有効積算温度との和である点でS4の処理と異なる。
【0051】
S10では、予測部105が、S9で算出された生育指標値の値である(Yna/X)を用いて、対象作物が収穫適期に到達したか否かを判定する。具体的には、予測部105は、(Yna/X)が対象作物の収穫適期を示す値(例えば前述のブロッコリーの例では0.85)以上であれば収穫適期に到達したと判定し、(Yna/X)が収穫適期を示す値未満であれば到達していないと判定する。
【0052】
S10でNOと判定された場合にはS7の処理に戻り、予測部105は、生育日数を示すnの値を1だけインクリメントする。つまり、S7からS10の処理は、S10で収穫適期に到達したと判定されるまで、生育日数を示すnの値を1ずつインクリメントしながら繰り返される。
【0053】
S10でYESと判定された場合、予測部105は、そのときのnの値を収穫適期の予測結果とし(S11:予測ステップ)、これにより図2の処理は終了する。なお、予測部105は、収穫適期の予測結果を対象者に提示してもよい。例えば、予測部105は、予測結果を出力部14等に出力させて、当該予測結果を情報処理装置1のユーザに提示してもよい。
【0054】
また、例えば、予測部105は、通信部12を介して予測結果を所定の端末装置に送信し、当該端末装置のユーザに当該予測結果を提示してもよい。この場合、情報処理装置1を例えばクラウド上のサーバとしてもよい。これにより、複数のクライアント端末装置に対して収穫適期の予測結果を提示するサービスを、1つの情報処理装置1により実現することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る収穫適期の予測方法は、対象作物の生育期間における平均気温が所定の上限値未満である日の平均気温から有効積算温度を算出する温度算出ステップ(S3)と、S3で算出された有効積算温度に基づいて対象作物の収穫適期を予測する予測ステップ(S11)と、を含む。これにより、高温により対象作物の成長が止まることを考慮して、収穫適期の予測精度を改善することができる。
【0056】
〔処理の流れ(予測結果の更新)〕
上述した収穫適期の予測には、予測気温データまたは過去気温データが用いられる。このため、収穫適期の予測は、対象作物の栽培を開始する前の段階で行うことが可能である。しかし、この段階での収穫適期の予測結果は、実際に対象作物の栽培を開始した後の各日の平均気温と、予測気温データまたは過去気温データに示される各日の平均気温とのずれの程度に応じて、実際の収穫適期からずれたものとなってしまう。
【0057】
このため、データ取得部101は、実際に対象作物の栽培が開始された後、その生育期間に測定された気温を示す測定気温データを取得してもよい。そして、温度算出部102は、データ取得部101が取得した測定気温データを用いて有効積算温度を再計算し、予測部105は、再計算された有効積算温度に基づいて対象作物の収穫適期の予測結果を更新してもよい。これにより、上述のずれを小さくして収穫適期の予測結果をより高精度なものに更新することができる。
【0058】
以下、対象作物の生育期間において予測結果を更新する処理(収穫適期の予測方法)の流れを図3に基づいて説明する。図3は、予測結果を更新する処理の一例を示すフローチャートである。
【0059】
S21では、データ取得部101が、対象作物の生育期間におけるi日目の測定気温データを取得する。例えば、対象作物が露地栽培される作物である場合、温度管理された状態から温度管理されていない屋外の圃場等へ移された日まで生育日数をiの初期値としてもよい。例えば、生育開始から30日目に対象作物を露地に定植した場合、iの初期値を30としてもよい。この場合、データ取得部101は、S21の処理を最初に行うときに、30日目の測定気温データを取得すればよい。
【0060】
対象作物の生育期間中に測定された各日の平均気温を測定気温DB112に記録する場合、データ取得部101は、S21において、測定気温DB112からi日目の測定気温データを取得すればよい。なお、i日目の測定気温データは、入力部13を介して入力するようにしてもよし、通信部12を介して外部の装置またはデータベースから取得するようにしてもよい。
【0061】
S22では、温度算出部102が、S21で取得された測定気温データを用いて有効積算温度を再計算する。そして、S23では、予測部105が、S22で再計算された有効積算温度に基づいて対象作物の収穫適期の予測結果を更新する。
【0062】
有効積算温度の再計算と予測結果の更新は、図2のフローチャートと同様の流れで行えばよい。図2のフローチャートとの相違点は、S1で予測気温データが取得された後、温度算出部102が、S1で取得された予測気温データに示される各日の平均気温のうち、生育開始からi日目の平均気温を、測定気温データに示される平均気温に置き換える点である。この置き換えが行われた後は、図2と同様にして有効積算温度の再計算と、再計算された有効積算温度に基づく収穫適期の予測が行われる。
【0063】
S24では、データ取得部101が、iの値を1だけインクリメントし、S21の処理に戻る。つまり、図3におけるS22~S23の処理は、データ取得部101が1日分の新たな測定気温データを取得する毎に繰り返される。
【0064】
例えば、データ取得部101は、対象作物の生育期間(定植後の期間に絞ってもよい)中、毎日、前日の測定気温データを取得してもよい。この場合、収穫適期が毎日更新される。
【0065】
また、例えば、データ取得部101は、所定の日数が経過する毎に、当該期間の測定気温データをまとめて取得してもよい。この場合、収穫適期は所定の日数が経過する毎に更新される。例えば、データ取得部101は、直近7日間の測定気温データを取得してもよい。この場合、温度算出部102は、予測気温データに示される各日の平均気温のうち、それら7日間の平均気温を、測定気温データに示される平均気温に置き換えて、有効積算温度を再計算する。そして、予測部105は、再計算された有効積算温度に基づいて収穫適期の予測結果を更新する。
【0066】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置により、情報処理装置1と同様の機能を有する予測システムを構築することができる。例えば、図1に示す各ブロックを複数の情報処理装置に分散して設けることにより、情報処理装置1と同様の機能を有する予測システムを構築することができる。また、図2および図3に示す各ステップは、上記予測システムに含まれる複数の情報処理装置に分担で実行させてもよい。
【0067】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1の機能は、情報処理装置1としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、情報処理装置1の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(収穫適期の予測プログラム)により実現することができる。
【0068】
この場合、情報処理装置1は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。例えば、ユーザの所持するパーソナルコンピュータやスマートフォン等の端末装置に上記プログラムをインストールさせれば、当該端末装置に収穫適期の予測を行わせることができる。このようなプログラム(アプリと呼ぶこともできる)を提供する行為も本発明の実施行為に含まれる。
【0069】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、情報処理装置1が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して情報処理装置1に供給されてもよい。
【0070】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 情報処理装置
101 データ取得部
102 温度算出部
103 指標値算出部
104 生育ステージ判定部
105 予測部
図1
図2
図3