(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146347
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】光ファイバセンサ用ケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20241004BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20241004BHJP
G01L 1/24 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G02B6/44 381
G02B6/44 366
G02B6/44 336
G02B6/44 301A
G02B6/44 391
G01L1/00 B
G01L1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059188
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀越 穂高
(72)【発明者】
【氏名】木村 治男
(72)【発明者】
【氏名】村山 英晶
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輝人
【テーマコード(参考)】
2H201
2H250
【Fターム(参考)】
2H201AX49
2H201BB05
2H201BB08
2H201BB12
2H201BB22
2H201BB24
2H201KK02
2H201KK17
2H201KK26A
2H201KK26B
2H201KK33C
2H201KK59C
2H201KK63
2H201KK65
2H201MM01
2H250BA01
2H250BA32
2H250BB07
2H250BB09
2H250BB20
2H250BB32
2H250BB33
2H250BB35
(57)【要約】
【課題】ねじれの発生を抑制し、精度良く3次元計測を行うことができる光ファイバセンサ用ケーブル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ素線11の周囲に、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束からなる繊維強化樹脂層12が設けられ、該繊維強化樹脂層を熱可塑性樹脂層13で被覆して構成された複数の線状体1を相互に離間させて配置し、各線状体1を熱可塑性樹脂からなる被覆層2で覆い、この被覆層2上に合成繊維を編組してなる編組層3を形成して光ファイバセンサ用ケーブルとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線の周囲に、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束からなる繊維強化樹脂層が設けられ、該繊維強化樹脂層を熱可塑性樹脂層で被覆して構成され、相互に離間して配置された複数の線状体と、
熱可塑性樹脂からなり、前記複数の線状体を覆う被覆層と、
前記被覆層上に形成され、合成繊維を編組して構成された編組層と、
を有する光ファイバセンサ用ケーブル。
【請求項2】
前記複数の線状体のうち、一の線状体はケーブル中心に配置されている請求項1に記載の光ファイバセンサ用ケーブル。
【請求項3】
3以上の線状体を備え、前記一の線状体以外の線状体は、前記一の線状体からの距離が等しく、かつ、隣り合う線状体同士の距離も等しくなるよう配置されている請求項2に記載の光ファイバセンサ用ケーブル。
【請求項4】
前記編組層は筒状の編組スリーブで構成されている請求項1に記載の光ファイバセンサ用ケーブル。
【請求項5】
光ファイバ素線の周囲に繊維強化樹脂層を形成した後、該繊維強化樹脂層を第1の熱可塑性樹脂層で被覆して線状体を得る工程と、
複数の前記線状体を相互に離間させて配置し、各線状体の周囲を第2の熱可塑性樹脂で被覆する被覆層形成工程と、
前記被覆層上に合成繊維を編組してなる編組層を形成する工程と
を有する光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記線状体のうち、一の線状体をケーブル中心に配置する請求項5に記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
【請求項7】
3本以上の線状体を用い、前記一の線状体以外の線状体を、前記一の線状体からの距離が等しく、かつ、隣り合う線状体同士の距離も等しくなるよう配置する請求項6に記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
【請求項8】
筒状の編組スリーブを用いて前記編組層を形成する請求項5に記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
【請求項9】
前記被覆層形成工程は、複数の前記線状体を前記第2の熱可塑性樹脂と共に押出成形する請求項5に記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物に設置されてその状態変化の検出に用いられる光ファイバセンサ用ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築分野において構造物や地盤などに生じる歪みを検出する方法の1つとして、測定対象物に光ファイバケーブルを設置し、光ファイバ内を伝搬する光の変調を確認する光ファイバセンシングシステムがある。一般に、この用途に用いられる光ファイバケーブルは、施工時の折れなどを防いで取り扱い性を確保するため、光ファイバ素線を繊維強化樹脂などで被覆することで強度向上が図られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、光ファイバセンサの適用範囲を広げるため、繊維強化樹脂層を構成する熱硬化性樹脂が未硬化又は半硬化の状態の光ファイバケーブル用線状体を、任意形状に変形して成形した後、加熱して熱硬化性樹脂を硬化させた繊維強化光ファイバケーブルも提案されている(特許文献2参照)。この繊維強化光ファイバケーブルは、光ファイバ素線に大きな負荷をかけることなく測定対象物や測定方法に合わせた形状にすることができるため、伝送損失の低下や光ファイバの破損を防止して高精度の測定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-60286号公報
【特許文献2】特開2019-211642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、光ファイバセンサ用ケーブルは、ケーブル中心に光ファイバ素線が配置されているが、3次元計測に用いられる光ファイバセンサでは、曲率の小さな変形を感知するため、ケーブル中心だけでなく、その周囲にも複数の光ファイバ素線を配置する必要がある。しかしながら、複数の光ファイバ素線が相互に間隔を空けて配置された光ファイバセンサ用ケーブルは、製造時、巻取り時及び使用時などにねじれが生じ、3次元計測における精度が低下しやすいという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、ねじれの発生を抑制し、精度良く3次元計測を行うことができる光ファイバセンサ用ケーブル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光ファイバセンサ用ケーブルは、光ファイバ素線の周囲に、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束からなる繊維強化樹脂層が設けられ、該繊維強化樹脂層を熱可塑性樹脂層で被覆して構成され、相互に離間して配置された複数の線状体と、熱可塑性樹脂からなり、前記複数の線状体を覆う被覆層と、前記被覆層上に形成され、合成繊維を編組して構成された編組層とを有する。
本発明の光ファイバセンサ用ケーブルは、前記複数の線状体のうち、一の線状体はケーブル中心に配置されていてもよい。
例えば、3以上の線状体を備える場合は、前記一の線状体以外の線状体を、前記一の線状体からの距離が等しく、かつ、隣り合う線状体同士の距離も等しくなるよう配置することもできる。
本発明の光ファイバセンサ用ケーブルは、前記編組層が筒状の編組スリーブで構成されていてもよい。
【0008】
本発明に係る光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法は、光ファイバ素線の周囲に繊維強化樹脂層を形成した後、該繊維強化樹脂層を第1の熱可塑性樹脂層で被覆して線状体を得る工程と、複数の前記線状体を相互に離間させて配置し、各線状体の周囲を第2の熱可塑性樹脂で被覆する被覆層形成工程と、前記被覆層上に合成繊維を編組してなる編組層を形成する工程とを有する。
本発明の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法では、前記線状体のうち、一の線状体をケーブル中心に配置してもよい。
その場合、3本以上の線状体を用い、前記一の線状体以外の線状体を、前記一の線状体からの距離が等しく、かつ、隣り合う線状体同士の距離も等しくなるよう配置することもできる。
本発明の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法では、筒状の編組スリーブを用いて前記編組層を形成してもよい。
本発明の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法では、前記被覆層形成工程において、複数の前記線状体を前記第2の熱可塑性樹脂と共に押出成形してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ねじれの発生が抑制され、精度良く3次元計測を行うことが可能な光ファイバセンサ用ケーブルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の光ファイバケーブルの構造例を示す横断面図である。
【
図2】本発明の実施形態の光ファイバケーブルの他の構造例を示す横断面図である。
【
図3】
図1に示す線状体1の構造例を示す横断面図である。
【
図4】本発明の実施形態の光ファイバケーブルの製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】比較例1の光ファイバケーブルの構造を示す横断面図である。
【
図6】比較例2の光ファイバケーブルの構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1及び
図2は本発明の実施形態に係る光ファイバケーブルの構造例を示す横断面図である。本実施形態の光ファイバケーブルは、光ファイバセンサに用いられるものであり、
図1及び
図2に示すように、光ファイバ素線11を含む複数の線状体1が被覆層2によって被覆されており、被覆層2上には編組層3が設けられている。
【0013】
[線状体1]
図3は線状体1の構造例を示す横断面図である。
図3に示すように、線状体1は、光ファイバ素線11の周囲に、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束からなる繊維強化樹脂層12が設けられ、この繊維強化樹脂層12を熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層13で被覆した構成となっている。線状体1は光ファイバケーブル内に複数本配置されており、各線状体1は同一でも異なっていてもよい。
【0014】
<光ファイバ素線11>
光ファイバ素線11は、石英ガラスなどの光透過率が高い材料からなる光ファイバの周囲に、1又は2層の樹脂保護層が形成されたものである。保護層を形成する樹脂としては、一般に、紫外線硬化型ウレタンアクリレートなどの紫外線硬化型樹脂が用いられる。また、光ファイバ素線1の太さは特に限定されるものではなく、測定対象物や要求される検出精度などに応じて適宜選択することができるが、一般には外径0.25mmのものが用いられる。
【0015】
<繊維強化樹脂層12>
繊維強化樹脂層12は、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束により形成されている。長繊維束を構成する繊維としては、ポリオレフィンやポリエステルなどからなる合成繊維(有機繊維)、又は、炭素繊維、ガラス繊維及び金属繊維などの無機繊維を用いることができるが、光ファイバ素線11の保護の観点から強度や弾性率などを考慮すると、無機繊維が好ましい。特に、光ファイバ素線11がガラス製の場合は、長繊維束には熱収縮率が近いガラス繊維を用いることが好ましい。
【0016】
一方、熱硬化性樹脂は、加熱により硬化する性質の樹脂であればよく、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和アルキド樹脂及びエポキシ樹脂などを用いることができる。また、熱硬化性樹脂は、硬化後の硬さ及び賦形後の形状の熱的安定性から、架橋性物質を含有することが好ましく、不飽和ポリエステル樹脂、不飽和アルキド樹脂又はエポキシアクリレートのうち少なくとも1種と、架橋性モノマーなどの架橋性物質と、ジアシルパーオキサイドなどの重合開始剤とを含むことがより好ましい。
【0017】
<熱可塑性樹脂層13>
熱可塑性樹脂層13は、熱可塑性樹脂であればその種類は特に限定されず、例えばポリオレフィン系樹脂、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアプラスチックなどの汎用の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂層13を形成する樹脂は、後述する被覆層2を形成する樹脂と同じにすることが好ましく、これにより、線状体1と被覆層2との接着性を良好にすることができる。
【0018】
<配置>
本実施形態の光ファイバケーブルでは、複数の線状体1が相互に離間して配置されていればよいが、
図1及び
図2に示すように、各線状体1のうちの1本(線状体1c)がケーブル中心に配置されていることが好ましい。これにより、線状体1同士の歪みの差を用いて3次元計測に必要なケーブルの曲率と伸縮を同時に算出することができる。
【0019】
各線状体1のうちの1本をケーブル中心に配置する場合、その他の線状体(線状体1o)と中心に配置された線状体1cとの距離が等しくなるように配置することが好ましく、隣り合う線状体1c同士の距離も等しくなるよう配置することがより好ましい。これにより、ケーブルの位置によらず3次元計測の計算過程を同じにすることができる。
【0020】
なお、線状体1の数は特に限定されるものではないが、周囲に配置する線状体の数が多いほど、微量の曲率の変化も検出できるようになるため、より精密なセンシングを行うことが可能となる。
【0021】
[被覆層2]
被覆層2は、複数の線状体1を覆って一体化するものであり、例えばポリオレフィン系樹脂、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアプラスチックなどの汎用の熱可塑性樹脂で形成することができる。被覆層2を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、線状体1の熱可塑性樹脂層13と同じ樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
[編組層3]
編組層3は、巻き取り時や使用時に光ファイバ素線11を含む線状体1にねじれが発生することを防ぐものであり、合成繊維を編組して構成されている。編組層3を構成する合成繊維は、例えば熱可塑性樹脂で形成することができ、その種類は特に限定されるものではないが、従来から電線保護材などに使用されているポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethyleneterephthalate)樹脂が好ましい。
【0023】
なお、編組層3は、筒状の編組スリーブを用いて形成してもよい。また、編組層3は、被覆層2と接着していてもよいが、接着していなくてもよい。
【0024】
[製造方法]
次に、本実施形態の光ファイバケーブルの製造方法について説明する。
図4は本実施形態の光ファイバケーブルの製造工程を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態の光ファイバケーブルの製造方法では、線状体形成工程S1、被覆層形成工程S2、編組層形成工程S3を行う。
【0025】
<線状体形成工程S1>
線状体形成工程S1では、先ず、光ファイバ素線11の周囲に、未硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束を配置した後加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ、光ファイバ素線11の周囲に繊維強化樹脂層12を形成する。例えば、光ファイバ素線11の周囲に熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束を配置し、それを絞りノズルなどを通過させることにより、所定径に成形すると共に余分な熱硬化性樹脂を除去して熱硬化させることで、光ファイバ素線11の周囲に繊維強化樹脂層12を形成する。
【0026】
なお、光ファイバケーブルの物性及びセンシング性の低下を抑制する観点から、長繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させる際は、気泡が含まれないようにすることが好ましい。繊維強化樹脂層12中に気泡が存在すると、光ファイバケーブルの物性、特にケーブルの強度が低下することがある。仮に、ケーブルの剛性が著しく変化し、場所によってケーブルの曲率と光ファイバケーブル、ひいては光ファイバ素線の歪みの関係が一様でなくなると、センシングに影響を及ぼす虞がある。
【0027】
次に、繊維強化樹脂層12を第1の熱可塑性樹脂で被覆して熱可塑性樹脂層13を形成し、線状体1を得る。具体的には、繊維強化樹脂層12を形成した光ファイバ素線の周囲に熱可塑性樹脂を含浸させた後、熱風乾燥して熱可塑性樹脂層13を形成する。その際、外径0.25mmの光ファイバ素線11を用いた場合、得られる線状体1の外径は0.88mm程度になる。
【0028】
<被覆層形成工程S2>
被覆層形成工程S2では、前述した線状体形成工程S1で製造した複数の線状体1を相互に離間させて配置し、これらの線状体1を第2の熱可塑性樹脂と共に押出成形することで各線状体1の周囲を第2の熱可塑性樹脂で被覆して被覆層2を形成する。具体的には、線状体1を任意の数だけ配置し、その周囲を第2の熱可塑性樹脂からなる被覆層2で被覆した後、直ちに水冷を行い、被覆層2を固化させる。
【0029】
<編組層形成工程S3>
編組層形成工程S3では、被覆層2上に合成繊維を編組してなる編組層3を形成する。その際、被覆層2上に筒状の編組スリーブを積層することで編組層3を形成してもよい。また、編組層3を形成する際は、光ファイバケーブルや光ファイバ素線にねじれが生じないように注意することが望ましい。なお、外径0.88mmの線状体1を4本使用して光ファイバケーブルを製造した場合、その直径は例えば5.8mmとなる。
【0030】
以上詳述したように、本実施形態の光ファイバケーブルは、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束で光ファイバ素線の表面を被覆して繊維強化樹脂層を形成し、更に、被覆層の上に編組層を形成しているため、光ファイバ素線に剛性が付与されると共に、編組層により光ファイバケーブルをねじれにくくすることができる。その結果、光ファイバ素線が直線状に配置されると共に、光ファイバケーブルのねじれが改善するため、精度良く3次元計測を行うことが可能となる。
【実施例0031】
以下、本発明の実施例及び比較例により、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例では、以下に示す方法で実施例及び比較例の光ファイバケーブルを作製し、測定精度とねじれ抑制効果を評価した。
【0032】
<実施例1>
実施例1として、下記の方法及び条件で、
図1に示す構成の光ファイバケーブルを作製した。
【0033】
(1)線状体の作製
先ず、280texのガラスロービング(日東紡績株式会社製 RS28)3本に、熱硬化性ビニルエステル樹脂(昭和電工株式会社製 ノンスチレンタイプRF-313)を含浸させた後、その中心に外径250μmの光ファイバ素線を配置し、絞りノズルを通過させて、光ファイバ素線の表面に繊維強化樹脂層を形成した。繊維強化樹脂層形成後の外径は0.9mmであり、繊維強化樹脂層における強化繊維含有量は56.7体積%であった。
【0034】
次に、繊維強化樹脂層の周囲にポリエチレンエマルジョン(ユニチカ株式会社製 アローベースSE1030N)を含浸させた後、ライスター社製 熱風機を用いて40℃で10時間熱風乾燥を行って熱可塑性樹脂層を形成し、線状体を得た。
【0035】
(2)光ファイバケーブルの作製
前述した方法で作製した線状体を、ケーブル中心に1本配置すると共に、ケーブル外周側に間隔が均等になるようにして3本配置した。そして、各線状体をライスターにより予熱した後、予め80℃で3時間乾燥させたノンハロゲン難燃性ポリエチレン(ENEOS NUC株式会社製 ナックセーフNUC9739A)を押し出して各線状体を被覆し、その後直ちに水冷して、線状体の周囲に被覆層を形成した。
【0036】
このとき、ケーブル外周側に配置された3本の線状体は、それぞれケーブル中心に配置された線状体との距離(中心点の距離)が同じになり、かつ、隣り合う線状体同士の距離(中心位置の距離)も同じになるようそれぞれ正三角形の頂点の位置に配置した。なお、被覆層を形成した後の外径は5.8mmであった。次に、オヤイデ電気製 PETチューブ1/8インチ クリアーにより被覆層上に編組層を形成し、実施例1の光ファイバケーブルを得た。編組層形成後の光ファイバケーブルの外径は7.0mmであった。
【0037】
<実施例2>
実施例2として、
図2に示す構成の光ファイバケーブルを作製した。具体的には、実施例1と同様の方法及び条件で作製した線状体を、ケーブル中心に1本、その両側に2本配置した。その際、外周側に配置された2本の線状体は、中心に配置された線状体からの距離(中心点の距離)が同じで、かつ、3本の線状体が直線上に並ぶようにした。線状体の数及び配置以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、被覆層及び編組層を形成し、実施例2の光ファイバケーブルを得た。この実施例2の光ファイバケーブルは、被覆層形成後の外径は5.8mm、編組層形成後の光ファイバケーブルの外径は7.0mmであった。
【0038】
<比較例1>
比較例1として、実施例1の光ファイバケーブルから、ケーブル中心に配置した線状体及び編組層を除いた構成の光ファイバケーブルを作製した。
図5は比較例1の光ファイバケーブルの構成を示す横断面図である。本比較例では、実施例1と同様の方法及び条件で作製した繊維強化樹脂層の周囲にポリエチレンエマルジョン(ユニチカ株式会社製 アローベースSE1030N)を含浸させた後、ライスターにより45℃、48時間の条件で熱風乾燥を行って、熱可塑性樹脂層を形成し、線状体を得た。
【0039】
そして、
図5に示すように、線状体3本を正三角形の頂点の位置に配置し、繊維強化された各線状体にライスターによって予熱をかけながら、高密度ポリエチレン(プライムポリマー株式会社製 ハイゼックス540E)を押し出し、その後直ちに水冷を行い、比較例1の光ファイバケーブルを得た。
【0040】
<比較例2>
比較例2として、実施例1の光ファイバケーブルから編組層を除いた構成の光ファイバケーブルを作製した。
図6は比較例2の光ファイバケーブルの構成を示す横断面図である。本比較例では、実施例1と同様の方法及び条件で作製した繊維強化樹脂層の周囲に、ポリエチレンエマルジョン(ユニチカ株式会社製 アローベースSE1030N)を含浸させた後、ライスターにより55℃、17時間の条件で熱風乾燥を行って熱可塑性樹脂層を形成し、線状体を得た。
【0041】
そして、
図6に示すように、線状体3本を正三角形の頂点の位置に配置し、繊維強化された各線状体にライスターによって予熱をかけながら、ノンハロゲン難燃性ポリエチレン(ENEOS NUC株式会社製 ナックセーフNUC9739A)を押し出し、その後直ちに水冷を行って、比較例2の光ファイバケーブルを得た。
【0042】
〔評価〕
前述した方法で作製した実施例及び比較例の光ファイバケーブルについて、内包されている各線状体の曲げ歪み分布を求めた。具体的には、先ず、実施例及び比較例の各光ファイバケーブルを直線状に配置し、内包される各線状体中の光ファイバ素線の歪み分布を分布型光ファイバセンサにより計測した。その際、分布型光ファイバセンサとしては、ブリルアン散乱光を用いたBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)又はレイリー散乱光を用いたOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)を用いた。
【0043】
次に、実施例及び比較例の各光ファイバケーブルを、面内方向に、適当な歪みを生じさせる程度の曲率でサークル状に曲げ、直線状に配置したときと同様に、分布型光ファイバセンサを用いて内包される各線状体中の光ファイバ素線の歪み分布を計測した。
【0044】
そして、実施例1,2及び比較例2の光ファイバケーブルについては、外周側に配置された線状体1oの光ファイバ素線の歪み分布から、中心に配置された線状体1cの光ファイバ素線の歪み分布を差し引くことで、外周側に配置された各線状体1oの曲げ歪み分布を求めた。また、中心に線状体が配置されていない比較例1の光ファイバケーブルについては、各線状体1の歪み分布の実測値の合計を線状体1の本数(この場合は3)で割ることにより軸方向の歪み分布を求め、その値を各線状体1の歪み分布の実測値から差し引くことにより、各線状体1の曲げ歪み分布を求めた。なお、各線状体の歪み分布を求める際は、比較する2つの線状体の歪み分布の位置を正確に合わせることが重要であり、本実施例においてもそのようにした。
【0045】
前述した方法により測定された曲げ歪みは、一定の曲率で光ファイバケーブルを曲げたとき、ケーブルの外周側に配置されている各線状体1oのうち、ケーブル中心よりも曲げ外側に位置している線状体1oの曲げ歪みは引張(正)となり、ケーブル中心よりも曲げ内側に位置する線状体1oの曲げ歪みは圧縮(負)となる。そして、光ファイバケーブルにねじれが発生していない場合は、外周側に配置された線状体1oの曲げ歪みは、ほぼ一定の値で推移する。
【0046】
実施例及び比較例の各光ファイバケーブルの「測定精度」及び「ねじれ抑制効果」は、以下に示す規準に基づき評価した。
【0047】
(1)測定精度
○:直線状及びサークル状のいずれにおいても360°全方向で歪み測定が可能で、かつ、外周側の各線状体の歪み分布の値の変化が±0.005%以内であったもの。
△:直線状及びサークル状のいずれにおいても、測定可能な方向では外周側の各線状体の歪み分布の値の変化が±0.005%以内であるが、測定不可能な方向では曲げ歪みが全く生じなかったもの。
×:歪みが測定できなかった、又は、歪み分布の値の変化が全方向で±0.005%を超えていたもの。
【0048】
(2)ねじれ抑制効果
○:サークル状に曲げた状態のとき、ねじれが抑制され、各線状体の曲げ歪み分布が正(引張)若しくは負(圧縮)又は0の状態で一定に推移していることが確認されたもの。
×:サークル状に曲げた状態のとき、ねじれが発生し、各線状体の曲げ歪み分布が正(引張)若しくは負(圧縮)又は0の状態で一定に推移せず、変動することが確認されたもの。
【0049】
(3)総合評価
総合評価は、前述した「測定精度」及び「ねじれ抑制」の両方が「○」であったものを「○(良)」、ねじれ抑制は「○」だが測定精度が「△」であったものを「△(可)」、1つでも「×」があったものを「×(不可)」とした。
【0050】
以上の結果を下記表1にまとめて示す。
【0051】
【0052】
上記表1に示すように、編組層を備える実施例1,2の光ファイバケーブルは、ねじれの発生もなく、測定精度も良好であった。特に、線状体を外周に3本、中心に1本配置した実施例1の光ファイバケーブルは、任意の方向の曲げに対して精度よく曲げ歪みを測定することができた。また、線状体を中心に1本、その両側に2本配置した実施例2の光ファイバケーブルは、実施例1の光ファイバケーブルには劣るが、面内方向などの特定の方向の曲げ対しては精度よく曲げ歪みを測定することができた。
【0053】
これに対して、編組層が設けられていない比較例1,2の光ファイバケーブルは、測定精度が劣り、ねじれも発生した。以上の結果から、本発明によれば、ねじれの発生が抑制され、精度良く3次元計測を実施できる光ファイバケーブルが得られることが確認された。
【0054】
なお、本発明は、以下の構成を採ることもできる。
〔1〕
光ファイバ素線の周囲に、熱硬化性樹脂を含浸させた長繊維束からなる繊維強化樹脂層が設けられ、該繊維強化樹脂層を熱可塑性樹脂層で被覆して構成され、相互に離間して配置された複数の線状体と、
熱可塑性樹脂からなり、前記複数の線状体を覆う被覆層と、
前記被覆層上に形成され、合成繊維を編組して構成された編組層と、
を有する光ファイバセンサ用ケーブル。
〔2〕
前記複数の線状体のうち、一の線状体はケーブル中心に配置されている〔1〕に記載の光ファイバセンサ用ケーブル。
〔3〕
3以上の線状体を備え、前記一の線状体以外の線状体は、前記一の線状体からの距離が等しく、かつ、隣り合う線状体同士の距離も等しくなるよう配置されている〔2〕に記載の光ファイバセンサ用ケーブル。
〔4〕
前記編組層は筒状の編組スリーブで構成されている〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の光ファイバセンサ用ケーブル。
〔5〕
光ファイバ素線の周囲に繊維強化樹脂層を形成した後、該繊維強化樹脂層を第1の熱可塑性樹脂層で被覆して線状体を得る工程と、
複数の前記線状体を相互に離間させて配置し、各線状体の周囲を第2の熱可塑性樹脂で被覆する被覆層形成工程と、
前記被覆層上に合成繊維を編組してなる編組層を形成する工程と
を有する光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
〔6〕
前記線状体のうち、一の線状体をケーブル中心に配置する〔5〕に記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
〔7〕
3本以上の線状体を用い、前記一の線状体以外の線状体を、前記一の線状体からの距離が等しく、かつ、隣り合う線状体同士の距離も等しくなるよう配置する〔6〕に記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
〔8〕
筒状の編組スリーブを用いて前記編組層を形成する〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。
〔9〕
前記被覆層形成工程は、複数の前記線状体を前記第2の熱可塑性樹脂と共に押出成形する〔5〕~〔8〕のいずれかに記載の光ファイバセンサ用ケーブルの製造方法。