(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146357
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20241004BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20241004BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241004BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
G11B5/84 A
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059203
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴治
(72)【発明者】
【氏名】玉田 修一
(72)【発明者】
【氏名】石田 巖
【テーマコード(参考)】
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA12
3C158DA18
3C158EA01
3C158EB01
3C158ED03
3C158ED23
3C158ED26
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112BA09
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】Ni-P基板の研磨に用いられて、スクラッチを低減し得る研磨用組成物を提供する。
【解決手段】Ni-P基板の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子と、水と、を含み、上記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づく、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%以下であり、かつ、小径側からの個数基準の累積粒度分布における累積95%粒子径D95が55nm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒としてのシリカ粒子と、水と、を含み、
前記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づく、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%以下であり、かつ、小径側からの個数基準の累積粒度分布における累積95%粒子径D95が55nm以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
欠陥低減剤として、ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルおよびナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルは、オキシアルキレン単位数が2以上13以下である、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒は、
透過型電子顕微鏡観察に基づいて、粒子径を横軸に、個数頻度(%)を縦軸にプロットして得られた粒度個数分布において、個数頻度0.50%以上の範囲で、個数頻度が極大を示す粒子径が2つ以上あり、
前記個数頻度が極大を示す粒子径のうち粒子径が最大のもの粒子径DLとし粒子径が最小のものを粒子径DSとしたとき、粒径比(DL/DS)が1.40以上である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
さらに酸を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
さらに酸化剤を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
さらにキレート剤を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
pHが1~4の範囲内である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
仕上げ研磨工程で用いられる、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該研磨対象基板を研磨することを含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および該研磨用組成物を用いた磁気ディスク基板製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面が要求される基板の製造プロセスには、研磨液を用いて該基板の原材料である研磨対象物を研磨する工程が含まれる。例えば、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(以下、Ni-P基板ともいう。)の製造においては、一般に、より研磨効率を重視した研磨(一次研磨)と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨(仕上げ研磨)とが行われている。磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の磁気ディスクドライブの高記録密度化等の要求により、磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物には、当該研磨用組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨したときに磁気ディスク基板の表面に発生する欠陥(例えばスクラッチ)を低減させる性能が要求されている。実用的な加工性を有しつつ、欠陥低減性能に優れた研磨用組成物が提供されれば、磁気ディスクドライブの高記録密度化に通じる高品位表面を有する磁気ディスク基板を生産性よく製造することができ、有用である。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Ni-P基板の研磨に用いられて、スクラッチを低減し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、そのような研磨用組成物を用いてNi-P基板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によると、ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子と、水と、を含む。上記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づく、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%以下であり、かつ、小径側からの個数基準の累積粒度分布における累積95%粒子径D95が55nm以下である。累積95%粒子径D95が上記上限値以下である砥粒であって、砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率が上記の範囲であると、Ni-P基板の研磨に用いられて、研磨後の表面においてスクラッチが低減しやすい。
【0007】
いくつかの好ましい態様において、上記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づく粒子径10nm未満の粒子の個数比率が6%以下であり、より好ましくは2%以下である。砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率が上記の範囲であると、上述したスクラッチ低減効果がより効果的に発揮され得る。
【0008】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物はさらに、欠陥低減剤としてポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルおよびナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む。ここに開示される研磨用組成物において、ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルおよびナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、研磨後の表面におけるスクラッチ低減効果の向上に寄与する傾向にある。かかる欠陥低減剤を含む研磨用組成物によると、スクラッチ低減効果がより効果的に発揮され得る。スクラッチ低減の観点から、いくつかの好ましい態様において、上記ポリアルキレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド)を含む硫酸エステルのオキシアルキレン単位数(例えばオキシエチレン単位数)は2以上13以下である。
【0009】
いくつかの態様において、上記砥粒は、多峰性の粒度分布を示す。いくつかの態様において、上記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づいて、粒子径を横軸に、個数頻度(%)を縦軸にプロットして得られた粒度個数分布において、個数頻度0.50%以上の範囲で、個数頻度の極大を示す粒子径が2つ以上あり、上記個数頻度が極大を示す粒子径のうち最大のものを粒子径DLとし最小のものを粒子径DSとしたとき、粒径比(DL/DS)が1.40以上である。かかる砥粒を用いると、スクラッチ発生を抑制しながら、良好な研磨加工性が得られる効果が発揮されやすい。
【0010】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、さらに酸を含む。酸を含むことにより、良好な加工性が得られやすい。
【0011】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、さらに酸化剤を含む。酸化剤を含むことにより、良好な加工性が得られやすい。
【0012】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、さらにキレート剤を含む。キレート剤を含むことにより、研磨後の研磨面の欠陥発生が抑制されやすい。
【0013】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物のpHは1~4の範囲内である。かかるpHを有する研磨用組成物によると、ここに開示される技術による効果が好ましく発揮される。
【0014】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、仕上げ研磨工程で用いられる。ここに開示される研磨用組成物によると、研磨後の表面のスクラッチが低減されやすいため、研磨後に高い表面品位が要求される仕上げ研磨に特に好適である。ここに開示される研磨用組成物は、Ni-P基板の仕上げ研磨において、スクラッチを低減することができる。
【0015】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、使用前は、砥粒を含むパートAと、砥粒以外の成分の少なくとも一部を含むパートBとを含む複数のパートに分けて保管されており、使用時に上記複数のパートを混合して調製される。かかる研磨用組成物によると、研磨用組成物の分散安定性が向上しやすい。上記混合時には、例えば酸や酸化剤等がさらに混合され得る。
【0016】
また、この明細書によると、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。その製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いて研磨対象基板を研磨する工程を含む。かかる製造方法によると、スクラッチが少ない高品位な表面を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
<研磨用組成物>
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は砥粒を含む。この砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づく、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%以下であり、かつ、小径側からの個数基準の累積粒度分布(小径側からの累積個数分布)における累積95%粒子径D95が55nm以下である。ここで、粒子径10nm未満の粒子の個数比率とは、砥粒に含まれる粒子全体の総個数に対する粒子径10nm未満の粒子の個数の割合を示す。また、上記累積個数分布は、典型的には、横軸を粒子径とし、縦軸を累積個数(%)とするグラフにおいて、累積0%および粒子径の小径側の端(左下)から右上に延びて、累積100%および粒子径の大径側の端(右上)に到達する曲線によって表される。ここに開示される砥粒は、粒子径10nm未満の比較的小さい粒子径を有する粒子の個数比率が10%以下であり、かつ上記累積粒度分布における累積95%粒子径D95が55nm以下であることにより、該砥粒を含む研磨用組成物を用いた研磨後の表面においてスクラッチを効果的に低減することができる。
【0019】
上記のような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、研磨用組成物に含まれる粒子のうち、粒子径の小さい、いわゆる微粒子は、粒子の凝集を促進して、スクラッチの原因となる粗大異物形成の要因となることがある。ここに開示される研磨用組成物は、該組成物に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率が一定値以下であるため、粗大異物の形成が抑制されて、研磨後のスクラッチが低減される傾向にある。また、累積95%粒子径D95が一定値以下であり、粒子径の大きな粒子の含有が抑制されていることも、スクラッチ低減に寄与すると考えられる。
【0020】
スクラッチ低減の観点からは、砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率は少ない方が有利であると考えられる。いくつかの好ましい態様において、上記砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率は8%以下であり、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは2%以下(例えば1.8%以下)である。いくつかの態様においては、上記砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率は1.5%以下であってもよく、1%以下であってもよい。上記砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率が上記の範囲であると、上述したスクラッチ低減効果がより効果的に発揮され得る。砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率の下限値は特に限定されない。砥粒の入手容易性の観点より、いくつかの態様において、砥粒に含まれる粒子径10nm未満の粒子の個数比率は0.1%以上であってよく、0.2%以上でもよく、0.5%以上でもよく、0.7%以上でもよい。
【0021】
またスクラッチ低減の観点から、いくつかの態様において、上記砥粒の上記累積粒度分布における累積95%粒子径D95は50nm以下であり、45nm以下でもよく、40nm以下でもよく、38nm以下でもよい。上記累積95%粒子径D95の下限値は特に限定されないが、加工性の観点から、いくつかの態様において上記累積95%粒子径D95は15nm以上であり、20nm以上でもよく、25nm以上でもよく、30nm以上でもよく、32nm以上でもよい。
【0022】
ここに開示される技術において、砥粒の粒度分布は、上記の粒子径10nm未満の粒子の個数比率および累積95%粒子径D95が、それぞれ所定の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。いくつかの態様において、上記砥粒の上記累積粒度分布における累積90%粒子径D90は50nm以下であり、43nm以下でもよく、38nm以下でもよく、36nm以下でもよい。また、いくつかの態様において、上記累積90%粒子径D90は13nm以上であり、18nm以上でもよく、23nm以上でもよく、28nm以上でもよく、30nm以上でもよい。累積90%粒子径D90が上記の範囲であると、加工性を維持しながら、スクラッチが低減する傾向にある。
【0023】
いくつかの態様において、上記砥粒の上記累積粒度分布における累積50%粒子径D50は40nm以下であり、30nm以下でもよく、25nm以下でもよく、20nm以下でもよく、16nm以下でもよい。また、いくつかの態様において、上記累積50%粒子径D50は10nm以上であり、11nm以上でもよく、12nm以上でもよく、13nm以上でもよい。累積50%粒子径D50が上記の範囲であると、スクラッチが低減する傾向にある。
【0024】
いくつかの態様において、上記砥粒の上記累積粒度分布における累積10%粒子径D10は35nm以下であり、30nm以下でもよく、23nm以下でもよく、18nm以下でもよく、14nm以下でもよい。また、いくつかの態様において、上記累積10%粒子径D10は10nm以上であり、11nm以上でもよい。累積10%粒子径D10が上記の範囲であると、スクラッチが低減する傾向にある。
【0025】
いくつかの態様において、上記砥粒の上記累積粒度分布における累積5%粒子径D5は30nm以下であり、25nm以下でもよく、20nm以下でもよく、15nm以下でもよく、13nm以下でもよい。また、いくつかの態様において、上記累積5%粒子径D5は10nm以上である。累積5%粒子径D5が上記の範囲であると、スクラッチが低減する傾向にある。
【0026】
なお、この明細書において、粒子径10nm未満の粒子の個数比率、累積5%粒子径D5、累積10%粒子径D10、累積50%粒子径D50、累積90%粒子径D90および累積95%粒子径D95は、具体的には次の方法により求められる。すなわち、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM、日立ハイテクノロジーズ社製STEM HD-2700)を用いて、測定対象の砥粒(1種類の砥粒粒子であってもよく、2種類以上の砥粒粒子の混合物であってもよい。)に含まれるTEMにて観察可能な10000個以上の粒子を、1視野内に100個程度観察可能な倍率(例えば200000倍~400000倍)で撮影し、TEM画像を取得する。そして、各粒子の画像から各粒子の面積を算出し、算出された面積と同一の面積を有する理想円(真円)の直径を各粒子の粒子径として算出する。上記取得したTEM画像における粒子径10nm未満の粒子の個数と、粒子径10nm以上の粒子の個数を検出することにより、測定対象とする砥粒全体に対する粒子径10nm未満の粒子の個数比率が算出される。また、測定対象とする砥粒の累積粒度分布は、当該砥粒を構成する個々の粒子について上記算出された粒子径を横軸に、累積個数(%)を縦軸にプロットすることにより求められる。累積5%粒子径D5、累積10%粒子径D10、累積50%粒子径D50、累積90%粒子径D90および累積95%粒子径D95は、上記累積粒度分布に基づいて算出される。上記TEM画像の解析は、マウンテック社製画像解析ソフトウエアMacViewを用いて行うことができる。後述の実施例についても同様である。
【0027】
(粒径比(DL/DS))
いくつかの態様において、上記砥粒は、多峰性の粒度分布を示す。具体的には、いくつかの態様において、上記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づいて、粒子径を横軸に、個数頻度(%)を縦軸にプロットして得られた粒度個数分布において、個数頻度0.50%以上の範囲で、個数頻度が極大値を示す粒子径を2つ以上有する。このような多峰性の粒度分布を示す砥粒は、2種以上のシリカ粒子(製品)を組み合わせて実現してもよいし、1種類のシリカ粒子(製品)で実現してもよい。いくつかの好ましい態様において、上記砥粒は2種以上のシリカ粒子を組み合わせて含む。
【0028】
上記個数頻度が極大を示す粒子径について、各粒子径の大小関係は特に制限されない。いくつかの態様において、上記個数頻度が極大を示す粒子径のうち、粒子径が最大のものを粒子径DLとし粒子径が最小のものを粒子径DSとしたとき、粒子径DSに対する粒子径DLの比(以下、「粒径比(DL/DS)」ともいう。)は1.40以上である。このように粒径比(DL/DS)が一定値以上の多峰性の粒度分布を示す砥粒を用いると、加工性が向上しやすい。
【0029】
いくつかの好ましい態様において、加工性向上の観点から、砥粒の粒径比(DL/DS)は1.5以上であり、より好ましくは1.7以上であり、1.9以上であってもよく、2.0以上でもよく、2.1以上でもよく、2.2以上でもよい。欠陥(例えばスクラッチ)発生を抑制する観点からは、砥粒の大小粒径比(DL/DS)は4.5以下であることが好ましく、4.0以下であってもよく、3.5以下でもよく、3.0以下でもよく、2.5以下でもよい。
【0030】
本明細書における粒径比(DL/DS)は具体的には次の方法により求められる。すなわち、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM、日立ハイテクノロジーズ社製STEM HD-2700)を用いて、測定対象の砥粒に含まれるTEMにて観察可能な10000個以上の粒子を、1視野内に100個程度観察可能な倍率(例えば200000倍~400000倍)で撮影し、TEM画像を取得する。そして、各粒子の画像から各粒子の面積を算出し、算出された面積と同一の面積を有する理想円(真円)の直径を各粒子の粒子径として算出する。測定対象とする砥粒を構成する個々の粒子について上記算出された粒子径を横軸に、個数頻度(%)を縦軸にプロットした粒度個数分布を得る。上記粒度個数分布において、個数頻度0.50%以上の範囲で、個数頻度が極大(ピーク)を示す粒子径を求める。上記個数頻度が極大を示す粒子径が複数ある場合は、そのうち粒子径が最大である粒子径DLと最小である粒子径DSを求め、その比を算出することにより、粒径比(DL/DS)を求めることができる。上記TEM画像の解析は、マウンテック社製画像解析ソフトウエアMacViewを用いて行うことができる。後述の実施例についても同様である。
【0031】
(シリカ粒子)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。シリカ粒子としては例えば、コロイダルシリカなどが挙げられる。コロイダルシリカは、Ni-P基板の表面を機械的に研磨する働きを有する。コロイダルシリカとしては、例えば、ケイ酸ソーダ法シリカやアルコキシド法シリカのように、水相での粒子成長を経て合成されたコロイダルシリカの使用が好ましい。この種のコロイダルシリカによると、高い加工性と良好な面精度とが好適に達成され得る。コロイダルシリカは、1種を単独で使用してもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、コロイダルシリカは、表面改質されていてもよい。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。
【0032】
シリカ粒子の粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。ここに開示される研磨用組成物をNi-P基板の仕上げ研磨工程に使用する場合は、球形に近い形状が好ましい。
【0033】
特に限定するものではないが、シリカ粒子の平均アスペクト比は、原理上1.0以上であり、加工性の観点から、例えば1.03以上であってもよく、1.06以上でもよく、1.08以上でもよい。また、面精度を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記平均アスペクト比は、1.30以下であることが適当である。シリカ粒子の平均アスペクト比の低減によって、シリカ粒子が転がり移動しやすくなるため、研磨抵抗が低減されることで加工が安定し、スクラッチがより好ましく低減され得る。そのような観点から、シリカ粒子の平均アスペクト比は、好ましくは1.28以下、より好ましくは1.25以下(例えば1.2以下)である。ここで、シリカ粒子の平均アスペクト比とは、該シリカ粒子を構成する個々の粒子の長径/短径比の平均値、すなわち個数平均アスペクト比をいう。以下、特記しない場合、本明細書において平均アスペクト比とは、上記個数平均アスペクト比を意味するものとする。
【0034】
シリカ粒子の平均アスペクト比は、具体的には次の方法により求められる。すなわち、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM、日立ハイテクノロジーズ社製STEM HD-2700)を用いて、測定対象のコロイダルシリカに含まれるTEMにて観察可能な10000個以上の粒子を、1視野内に100個程度観察可能な倍率(例えば200000倍~400000倍)で撮影し、TEM画像を取得する。そして、各粒子画像に外接する最小の長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を各粒子の長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記アスペクト比は、マウンテック社製画像解析ソフトウエアMacViewを用いて求めることができる。
【0035】
いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物は、砥粒として実質的にシリカ粒子のみを含む。ここで、実質的にシリカ粒子のみを含むとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうちシリカ粒子の割合が99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上であることをいう。このような態様において、高い加工性を保ちつつ、より良好な面精度(例えばスクラッチ数の低減された表面)が実現され得る。
【0036】
いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物は、砥粒として実質的にコロイダルシリカのみを含む。ここで、実質的にコロイダルシリカのみを含むとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうちコロイダルシリカの割合が99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上であることをいう。このような態様において、高い加工性を保ちつつ、より良好な面精度(例えばスクラッチ数の低減された表面)が実現され得る。
【0037】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、上記コロイダルシリカ以外のシリカ粒子(例えばヒュームドシリカ、沈降シリカ等)を含有してもよい。また、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、シリカ粒子以外の粒子、すなわち非シリカ粒子を含有してもよいが、ここに開示される研磨用組成物は、コロイダルシリカ以外の粒子、すなわち非コロイダルシリカ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。ここで、非コロイダルシリカ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち非コロイダルシリカ粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0038】
ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施される。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。かかる研磨用組成物によると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書において、所定の砥粒、例えばアルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち当該砥粒の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、典型的には0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。また、ここに開示される研磨用組成物は、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0039】
研磨用組成物におけるシリカ粒子の含有量は特に制限されず、例えば0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましい。上記含有量は、シリカ粒子が複数種類のシリカ粒子を含む場合には、それらの合計含有量である。シリカ粒子の含有量の増大によって、より高い加工性が実現される傾向にある。研磨後の基板の表面平滑性や粒子の分散安定性の観点から、通常、上記含有量は、25重量%以下が適当であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、例えば8重量%以下であり、6重量%以下でもよい。
【0040】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、水を含む。水としては、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。上記イオン交換水は、脱イオン水であり得る。
【0041】
(欠陥低減剤)
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、欠陥低減剤を含む。欠陥低減剤は、Ni-P基板の研磨における欠陥(典型的にはスクラッチ)発生を抑制する働きを有する。欠陥低減剤としては、上記の機能を発揮し得るものであればよく、その限りにおいて特に制限はない。欠陥低減剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
いくつかの態様において、欠陥低減剤としては、ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルが用いられる。なお、ここでいう硫酸エステルの概念には、硫酸エステルおよびその塩が包含される。ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルの具体例としては、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンナフチル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンナフチルエーテル硫酸等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステルの具体例としては、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エステルが挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル(例えばポリオキシエチレンラウリル硫酸エステル)およびポリオキシエチレンナフチルエーテル硫酸が好ましい。上記ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記ポリアルキレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド)を含む硫酸エステルにおけるオキシアルキレン単位数(例えばオキシエチレン単位数)は、特に限定されない。いくつかの態様において、上記ポリアルキレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド)を含む硫酸エステルのオキシアルキレン単位数(例えばオキシエチレン単位数)は2以上25以下である。欠陥低減の観点から、いくつかの好ましい態様において、上記ポリアルキレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド)を含む硫酸エステルのオキシアルキレン単位数(例えばオキシエチレン単位数)は20以下であり、より好ましくは13以下であり、10以下であってもよく、6以下であってもよい。なお、上記オキシアルキレン単位数とは、オキシアルキレン単位数の異なる混合物においては平均オキシアルキレン単位数を意味する。
【0044】
他のいくつかの態様において、欠陥低減剤は、スルホン酸系化合物等の有機化合物から選択され得る。なお、ここでいうスルホン酸系化合物の概念には、スルホン酸系化合物およびその塩が包含される。具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸等のスルホン酸系化合物、その塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩)等から選択され得る。なかでも、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレンスルホン酸系化合物およびその塩が好ましく、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩がより好ましい。
【0045】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステル、および、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む。かかる欠陥添加剤を含む研磨用組成物によると、スクラッチ低減効果がより効果的に発揮され得る。
【0046】
研磨用組成物における欠陥低減剤の含有量は、特に限定されず、例えば0.0003重量%以上であってもよく、0.0005重量%以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、欠陥低減剤の含有量は0.001重量%以上であり、0.003重量%以上であってもよく、0.005重量%以上でもよい。また、研磨用組成物中の欠陥低減剤の含有量は、0.1重量%以下(例えば0.1重量%未満)とすることができ、0.05重量%以下であってもよい。いくつかの好ましい態様において、上記欠陥低減剤の含有量は、0.03重量%以下であり、0.02重量%以下でもよい。上記範囲で欠陥低減剤の使用量を制限することにより、加工性が維持されやすい傾向がある。
【0047】
研磨用組成物に含まれる欠陥低減剤の量は、当該研磨用組成物に含まれる砥粒との相対的関係によっても特定され得る。研磨用組成物に含まれる砥粒100重量部に対する欠陥低減剤の含有量は、例えば0.005重量部以上とすることが適当であり、スクラッチ低減の観点から、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上であり、さらに好ましくは0.05重量部以上である。また、砥粒100重量部に対する欠陥低減剤の含有量は、凡そ3重量部以下とすることが適当であり、加工性維持の観点から、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.7重量部以下であり、0.6重量部以下であってもよい。
【0048】
(酸)
いくつかの態様において、上記研磨用組成物は、酸を含む。酸は、Ni-P基板を化学的に研磨する働きをする。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0050】
有機酸の例としては、有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。これらの有機酸に含まれる炭素原子数は、典型的には1~18程度であり、例えば1~10程度であることが好ましい。
有機酸の具体例としては、マロン酸、クエン酸、イソクエン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ニコチン酸やピコリン酸等のピリジンカルボン酸、等の有機カルボン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)等の有機ホスホン酸;エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、タウリン等の有機スルホン酸;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン等のアミノ酸;等が挙げられる。
【0051】
加工性の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マロン酸、クエン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等が例示される。なかでも好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マロン酸、クエン酸、マレイン酸が挙げられる。
【0052】
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。アルカノールアミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
【0053】
ここに開示される研磨用組成物に含有させ得る塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0054】
いくつかの態様において、上記塩として、無機酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等の無機酸塩を採用し得る。例えば、上述したアルカリ金属リン酸塩やアルカリ金属リン酸水素塩の他、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等を使用し得る。
【0055】
研磨用組成物における酸の含有量は特に限定されない。酸の含有量は、通常、0.1重量%以上が適当であり、0.5重量%以上が好ましく、0.8重量%以上がより好ましく、例えば1.2重量%以上である。酸の濃度を高くすることで、加工性が向上する傾向がある。酸の含有量は、通常、15重量%以下が適当であり、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、例えば3重量%以下である。酸の含有量を制限することにより、研磨後の基板(Ni-P基板)の面精度は向上しやすい。
【0056】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物には、必要に応じて酸化剤を含有させることができる。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、過ヨウ素酸、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0057】
研磨用組成物における酸化剤の含有量は、研磨対象物を酸化する速度、ひいては加工性を考慮して、有効成分量基準で0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、0.2重量%以上でもよく、0.3重量%以上でもよい。また、研磨対象物の面精度を高める観点から、研磨用組成物における酸化剤の含有量は、有効成分量基準で5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
【0058】
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、pH調整等の目的で、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウム等の第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
(キレート剤)
ここに開示される研磨用組成物には、必要に応じてキレート剤を含有させることができる。キレート剤を含ませることにより、研磨後の研磨面の欠陥発生を抑制することができる。キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、グルタミン酸二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。なかでも好ましいものとしてグルタミン酸二酢酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、グルタミン酸二酢酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸が挙げられる。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
研磨用組成物におけるキレート剤の含有量は特に限定されない。キレート剤の含有量は、通常、0.005重量%以上が適当であり、0.01重量%以上であってもよく、0.1重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよい。キレート剤の含有量は、通常、5重量%以下が適当であり、3重量%以下であってもよく、2重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。
【0061】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、水溶性高分子、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば、Ni-P基板等のような磁気ディスク基板用の研磨用組成物)に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。例えば、防腐剤および防カビ剤の例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0062】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは、特に限定されず、例えば0.5~6.5の範囲から選択し得る。加工性等の観点から、いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物のpHは、4.0以下であり、より好ましくは3.7以下、さらに好ましくは3.5以下であり、3.2以下でもよく、3.0以下でもよく、2.5以下でもよく、2.2以下でもよい。また、研磨用組成物のpHは、1.0より高くすることが適当であり、研磨後の基板表面の荒れを抑制する観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上(例えば1.5超)であり、1.7以上でもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物のpHが1以上4以下(例えば1.5以上3.7以下)である態様で好ましく実施され得る。上述したpHは、Ni-P基板の仕上げ研磨用の研磨用組成物において特に好ましく適用され得る。
【0063】
なお、ここに開示される技術において、研磨用組成物のpHは、pHメーターを用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて測定することにより把握することができる。標準液は、例えば、シュウ酸塩pH標準液:pH1.68(25℃)、フタル酸塩pH標準液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH標準液:pH6.86(25℃)、炭酸塩pH標準液:pH10.01(25℃)である。
【0064】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物(例えば磁気ディスク基板)に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物(濃縮液)は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.5倍~20倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、通常は2倍~10倍程度の濃縮倍率が適当である。かかる濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨用組成物(研磨液)を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0065】
<多剤型研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、水以外の成分)のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。いくつかの好ましい態様に係る多剤型研磨用組成物は、砥粒(コロイダルシリカ)を含むパートA(典型的には、コロイダルシリカの分散媒をさらに含む分散液)と、砥粒以外の成分の少なくとも一部(例えば、酸、欠陥低減剤等)を含むパートBとを含んで構成されている。通常、これらは、使用前は分けて保管されており、使用時に混合して一液の研磨用組成物が調製され得る。混合時には、例えば過酸化水素等の酸化剤や、希釈用の水等がさらに混合され得る。
【0066】
<研磨プロセス>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物(ここではNi-P基板)の研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0067】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0068】
その後、研磨対象物をアルカリ性洗浄液で洗浄するアルカリ洗浄工程を実施する。アルカリ洗浄工程は、典型的には、研磨対象物の少なくとも研磨対象面にアルカリ性洗浄液を接触させることを含む。例えば、研磨対象物をアルカリ性洗浄液に浸漬することにより、研磨対象面にアルカリ性洗浄液を接触させることができる。上記アルカリ性洗浄液に浸漬した研磨対象物に超音波を付与する超音波処理を行ってもよい。上記超音波の付与に加えて、あるいは上記超音波の付与に代えて、ポリビニルアルコール製スポンジ、不織布、ナイロンブラシ等を用いるスクラブ洗浄を行ってもよい。
アルカリ洗浄工程に使用するアルカリ性洗浄液のpHは、例えば7.5以上であってよく、洗浄性向上の観点から、好ましくは8.0以上であり、より好ましくはpH8.5以上、例えば8.8以上である。また、洗浄による基板表面の荒れを防ぐ観点から、上記アルカリ性洗浄液のpHは、通常、11以下が適当であり、10以下が好ましく、9.5以下がより好ましい。アルカリ性洗浄液としては、上述した塩基性化合物の1種または2種以上を含む水溶液を用いることができる。なかでもアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、例えば水酸化カリウム水溶液を好ましく使用し得る。アルカリ洗浄工程は、市販のアルカリ洗浄液を用いて行ってもよい。
【0069】
なお、研磨液を用いて行う研磨の終了後、アルカリ洗浄工程に移行する前に、研磨対象物を非アルカリ性のリンス液で洗浄してもよい。リンス液としては、純水やイオン交換水等の水や、酸性水溶液(例えば、研磨液から砥粒を除いた組成の水溶液)を用いることができる。
【0070】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(Ni-P基板の研磨に用いられて、該Ni-P基板の表面の欠陥数を効果的に低減し得る。上記Ni-P基板は、典型的には、基材の表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板である。上記基材の材質は、例えば、アルミニウム合金、ガラス、ガラス状カーボン等であり得る。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、アルミニウム合金製の基材上にニッケルリンめっき層を有するNi-P基板の研磨に好ましく用いられ得る。
この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いた研磨工程と、該研磨工程後に行われるアルカリ洗浄工程と、を備えるNi-P基板の製造方法および該方法により製造されたNi-P基板が提供され得る。
【0071】
ここに開示される研磨用組成物は、Ni-P基板表面の欠陥を高度に低減し得ることから、Ni-P基板のファイナルポリシング工程(仕上げ研磨工程)に特に好ましく使用され得る。この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いたファイナルポリシング工程と、該ファイナルポリシング工程後に行われるアルカリ洗浄工程と、を備えるNi-P基板の製造方法および該方法により製造されたNi-P基板が提供され得る。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。上記基板の製造方法は、上記研磨工程の前に行われる粗研磨工程や予備研磨工程をさらに含み得る。
【0072】
ここに開示される研磨用組成物は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。予備研磨工程は、典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。上記研磨用組成物は、いずれのポリシング工程にも使用可能であり、これらのポリシング工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ファイナルポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
【0073】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、上流の工程により表面粗さ20Å以下に調整されたNi-P基板の研磨に好ましく用いられ得る。ここで表面粗さとは、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))をいう。表面粗さ10Å以下に調整されたNi-P基板の研磨への適用が特に好ましい。これにより、高品位の表面を有するNi-P基板を生産性よく製造し得る。
【0074】
この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
〔1〕 ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒としてのコロイダルシリカと、水と、を含み、
前記砥粒は、透過型電子顕微鏡観察に基づく、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%以下であり、かつ、小径側からの個数基準の累積粒度分布における累積95%粒子径D95が55nm以下である、研磨用組成物。
〔2〕 欠陥低減剤として、ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステル、およびナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物からなる群から選択される1種または2種以上をさらに含む、上記〔1〕に記載の研磨用組成物。
〔3〕 前記ポリアルキレンオキシドを含む硫酸エステルは、オキシアルキレン単位数が2以上13以下である、上記〔2〕に記載の研磨用組成物。
〔4〕 前記砥粒は、
透過型電子顕微鏡観察に基づいて、粒子径を横軸に、個数頻度(%)を縦軸にプロットして得られた粒度個数分布において、個数頻度0.50%以上の範囲で、個数頻度が極大を示す粒子径が2つ以上あり、
上記個数頻度が極大を示す粒子径のうち粒子径が最大のもの粒子径DLとし粒子径が最小のものを粒子径DSとしたとき、粒径比(DL/DS)が1.40以上である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔5〕 さらに酸を含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔6〕 さらに酸化剤を含む、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔7〕 さらにキレート剤を含む、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔8〕 pHが1~4の範囲内である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔9〕 仕上げ研磨工程で用いられる、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔10〕 使用前は、砥粒を含むパートAと、砥粒以外の成分の少なくとも一部を含むパートBとを含む複数のパートに分けて保管されており、使用時に上記複数のパートを混合して調製される、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の研磨用組成物。
〔11〕 上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該研磨対象基板を研磨することを含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【実施例0075】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0076】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
平均粒子径の異なる複数種のコロイダルシリカを用意した。これらのコロイダルシリカを単独でまたは組み合わせて含む砥粒と、リン酸と、キレート剤と、欠陥低減剤と、酸化剤としての過酸化水素と、脱イオン水とを混合し、pHを調整した。砥粒を3.5重量%、リン酸を2.0重量%、キレート剤を0.5重量%、欠陥低減剤を0.005重量%、過酸化水素を0.6重量%の割合で含み、pHが1.6の研磨用組成物を調製した。キレート剤としては、L-グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム(GLDA・4Na)を使用した。欠陥低減剤としては、オキシエチレン単位数が2であるポリオキシエチレン-β-ナフチルエーテル硫酸(POE(2)β-ナフチルエーテル硫酸)を使用した。pH調整は、リン酸および水酸化カリウムを使用して行った。
【0077】
ここで、上記砥粒のTEM観察に基づく個数基準の累積粒度分布における累積5%粒子径D5、累積10%粒子径D10、累積50%粒子径D50、累積90%粒子径D90および累積95%粒子径D95はそれぞれ表1の該当欄に示す通りであった。また上記砥粒全体における、TEM観察に基づく粒子径10nm未満の粒子の個数比率(含有率)は1.4%であり、上記砥粒の粒径比(DL/DS)は2.50であった。
【0078】
(実施例2~41、比較例1~11)
砥粒の種類と総含有量、キレート剤の種類、欠陥低減剤の種類と含有量を表1または2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~41および比較例1~11の研磨用組成物を調製した。なお、表1および2の「欠陥低減剤」の項目における「-」の記載は、欠陥低減剤の不使用を意味する。また、表1および2における「粒径比(DL/DS)」の項目における「-」の記載は、砥粒の個数頻度が極大を示す粒子径が1つであったこと(すなわち、砥粒が単峰性の粒度分布を有していたこと)を意味する。表1および2における「GLDA・4Na」はL-グルタミン酸二酢酸・四ナトリウム、「HEDP」はヒドロキシエチリデンジホスホン酸を表す。また表1および2における「POE(n)β-ナフチルエーテル硫酸」と「POE(n)ラウリル硫酸エステル」におけるnは、オキシエチレン単位数を表す。
【0079】
各例で用いた砥粒の累積5%粒子径D5、累積10%粒子径D10、累積50%粒子径D50、累積90%粒子径D90および累積95%粒子径D95、粒子径10nm未満の粒子の個数比率および粒径比(DL/DS)は、それぞれ表1および2の該当欄に示す通りであった。
【0080】
<Ni-P基板の研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液に使用して、下記の条件で研磨対象物の研磨を行った。研磨対象物としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の値が6Åとなるように予備研磨したものを使用した。上記研磨対象物の直径は3.5インチ(外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型)、厚さは1.27mmであった。なお、比較例4および8では、定盤が振動したことにより研磨を継続して進行させることができなかった。
【0081】
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨機の両面研磨機、型式「9B-5P」
研磨パッド:スウェードノンバフタイプ
研磨対象基板の投入枚数:10枚((2枚/キャリア)×5キャリア×1バッチ))
研磨液の供給レート:56mL/分
研磨荷重:140g/cm2
下定盤回転数:31rpm
研磨時間:5分
【0082】
<洗浄>
研磨後のNi-P基板を純水に浸漬して周波数170kHzで超音波処理を行い、続いてアルカリ性洗浄液(スピードファム(株)から入手可能な洗浄液「CSC-102B」を体積基準で200倍に希釈したもの)に浸漬し、周波数170kHzの超音波を付与しながらポリビニルアルコール製スポンジによるスクラブ洗浄を行った。次いで上記基板を純水に浸漬して周波数950kHzで超音波処理を行った後、イソプロピルアルコール雰囲気中に引き上げて乾燥させた。
【0083】
<スクラッチ評価>
各例に係る研磨用組成物により研磨し、洗浄を行って得られた基板の中から計5枚を無作為に選択し、各基板の両面にあるスクラッチを下記条件で検出した。5枚(計10面)のスクラッチ数の合計を10で除して基板片面あたりのスクラッチ数(本/面)を算出した。スクラッチ数が20本/面未満であれば「AA(特優)」、20本/面以上30本/面未満であれば「A(優)」、30本/面以上40本/面未満であれば「B+(良)」、40本/面以上50本/面未満であれば「B(可)」、50本/面以上であれば「C(不良)」と評価した。定盤の振動により研磨を進行させることができなかった比較例4および8については、該当欄に「-」を記載した。
【0084】
(スクラッチ検出条件)
測定装置:ケーエルエー・テンコール株式会社製 Candela OSA7100
Spindle speed:10000rpm
測定範囲:17000-47000μm
Step size:4μm
Encoder multiplier:×16
検出チャンネル:P‐Sc channel
【0085】
<研磨速度>
各例に係る研磨用組成物により研磨し、洗浄を行って得られた基板の中から計6枚(3枚/1バッチ)を無作為に選択し、各基板の研磨による基板の重量減少量を測定することにより研磨速度を算出し、これを平均することにより各例の研磨速度とした。具体的には、研磨速度は、次の計算式に基づいて求めた。
研磨速度[μm/分]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の片面面積[cm2]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm3]×研磨時間[分])×104
ここで、基板の片面面積は66cm2、ニッケルリンめっきの密度は7.9g/cm3として計算した。研磨速度が0.15μm/分以上であれば「AA(特優)」、0.10μm/分以上0.15μm/分未満であれば「A(優)」、0.05μm/分以上0.10μm/分未満であれば「B(良)」、0.05μm/分未満であれば「C(不良)」と評価し、表1および2の該当欄に記載した。定盤の振動により研磨を進行させることができなかった比較例4および8については、該当欄に「-」を記載した。
【0086】
【0087】
【0088】
表1および2に示されるように、Ni-P基板の研磨において、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%以下であり、かつ、累積95%粒子径D95が55nm以下である砥粒と、水とを含む研磨用組成物を使用した実施例1~41では、粒子径10nm未満の粒子の個数比率が10%より大きい砥粒を用いた研磨用組成物を使用した比較例1~3、5~7、10および11と比較して、研磨後の基板上のスクラッチが明らかに低減した。また累積95%粒子径D95が55nmより大きい砥粒を用いた研磨用組成物を使用した比較例9は、実施例1~41に比べて、スクラッチ低減性能に劣ることが確かめられた。
【0089】
また、実施例1~8と実施例12の比較および実施例9~11と実施例13との比較より、欠陥低減剤の添加によってスクラッチが低減する傾向にあることが確かめられた。
【0090】
さらに、例えば実施例14~22において、1種類のシリカ粒子を単独で含む砥粒を用いた実施例21および22や、粒径比(DL/DS)が比較的小さい砥粒を用いた実施例19および20と比べて、粒径比(DL/DS)が比較的大きい砥粒を用いた実施例14~18では、研磨速度が増大し良好な加工性を示す傾向にあることが確かめられた。実施例23~31においても同様の傾向がみられた。
【0091】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。