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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146422
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】積層フィルム、包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/08 20060101AFI20241004BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241004BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241004BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B32B27/08
B32B27/36
B32B27/32 C
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059308
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍一朗
(72)【発明者】
【氏名】小井土 祐子
(72)【発明者】
【氏名】垣谷 啓太
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD06
3E086AD07
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA33
3E086BA35
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB15
3E086BB21
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB61
3E086CA01
3E086CA27
3E086CA28
3E086DA03
4F100AK01A
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK04B
4F100AK04J
4F100AK06A
4F100AK07B
4F100AK07J
4F100AK09B
4F100AK09J
4F100AK12A
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100AK42C
4F100AK46A
4F100AK62B
4F100AK63A
4F100AK68A
4F100AL01B
4F100AL05A
4F100AL07B
4F100BA03
4F100BA15
4F100CA18C
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100GB18
4F100GB23
4F100JB04C
4F100JB16A
4F100JK02C
4F100JL13C
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】包装体を開封する際に易剥離できると共に、剥離後の膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面を成すことができ、また透明性及び防曇性が良好である積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材層(I)、シール隣接層(II)、シール層(III)の少なくとも3層を有し、下記(1)~(4)を満たす、積層フィルム。
(1)前記基材層(I)を形成する樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を主成分として含む
(2)前記シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む
(3)前記シール層(III)を形成する樹脂組成物が、ポリエステル系樹脂を主成分として含み、該ポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸残基としてイソフタル酸を含み、ジオール残基として少なくとも2種の残基を含む
(4)前記シール層(III)を形成する樹脂組成物が、該樹脂組成物を100質量%としたとき、界面活性剤を0.1~10質量%含む
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(I)、シール隣接層(II)、シール層(III)の少なくとも3層を有し、下記(1)~(4)を満たす、積層フィルム。
(1)前記基材層(I)を形成する樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を主成分として含む
(2)前記シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む
(3)前記シール層(III)を形成する樹脂組成物が、ポリエステル系樹脂を主成分として含み、該ポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸残基としてイソフタル酸を含み、ジオール残基として少なくとも2種の残基を含む
(4)前記シール層(III)を形成する樹脂組成物が、該樹脂組成物を100質量%としたとき、界面活性剤を0.1~10質量%含む
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂が、第1ジオール残基としてエチレングリコールを含み、第2ジオール残基として、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
JIS K6768(1999)に準拠して測定した、前記シール層(III)の接触角が50°以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
JIS K7127(1999)に準拠して測定した、前記シール層(III)のフィルムの流れ方向の引張破断応力が、85MPa以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記基材層(I)を形成する樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の積層フィルムのシール層(III)とポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる容器とをヒートシールして成形した包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼリー、茶わん蒸し、惣菜等を収容した個包装カップ状商品や、深絞り包装体、使い捨て注射器等の医療品や日用品、文房具を収容するブリスターパックには、従来、ポリオレフィン系樹脂製の容器が用いられ、容器の蓋材としてポリオレフィン系樹脂からなるシール層有するフィルムが用いられてきた。例えば、蓋材フィルムのシール層には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エステル共重合体等のポリオレフィン系樹脂が主に使用されている。
【0003】
近年では、食品包装容器材も高機能化が求められ、透明性、耐熱性、酸素ガスバリア性、非吸着性、保香性、成型性等の観点から、ポリエステル系樹脂製の無延伸ポリエステルシート(A-PETシート)を使用したポリエステル系樹脂製の容器のも使用されており、これら容器の蓋材として、シール層にポリエステル系樹脂を用いた蓋材用フィルムが検討されている。
【0004】
特許文献1には、ヒートシール性ポリエステル層、オレフィンと無水マレイン酸との共重合樹脂よりなるフィルム層、ポリオレフィン層の3層共押出フィルムが開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されているフィルムでは、ポリエステル系樹脂製の容器に対して、容器のポリエステル系樹脂と融着状態にヒートシール性を向上させる目的で、ガラス転移温度が-20℃と低いポリエステル樹脂を用いているが、ポリエステル系樹脂は、それ自体が不透明であるため、外観に更なる改善の余地があるものである。
【0005】
特許文献2には、ガラス転移温度が40℃以下の結晶性ポリエステルとガラス転移温度が45~90℃の非晶性ポリエステルを使用したシール層によって層間剥離する易開封性包装体料が開示されている。
しかしながら、特許文献2に開示されているシール層の場合、シール層の弾性率が低いため、開封剥離時の応力によりシール層が伸びて切れてしまい、シール層樹脂の膜残りや毛羽立ちが発生してしまう懸念がある。
【0006】
特許文献3には、ポリエステル系樹脂と防曇剤とを含有するヒートシール層が積層されてなる積層フィルムが開示されている。前記ヒートシール層の樹脂としては、非晶性あるいは低結晶性ポリエステル系樹脂が様々に記載されているが、実施例1記載の非晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂ではシール密着性が不十分であり、実施例8記載の結晶性ポリエステル樹脂を用いたものでは、シール部の透明性が悪くなる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-94933号公報
【特許文献2】特開2001-328221号公報
【特許文献3】国際公開第2015/046132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる成形体とヒートシールで密封した包装体を開封する際に易剥離(イージーピールともいう)できると共に、剥離後に開封箇所に樹脂の残る膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)を成すことができ、また透明性及び防曇性が良好である積層フィルムを提供する。
なお、本発明において、「ポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる成形体」とは、ポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物を成形加工してなるフィルム、シート、容器等を意味する。また、前記成形体は、全体がポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物のみから形成されていてもよいし、前記ポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる層と他の樹脂層等が積層された積層体から形成されていてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、基材層、シール隣接層、シール層の少なくとも3層を有する積層フィルムのシール層に膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)を成す機能を持たせ、シール隣接層にシール層との層界面で剥離(層間剥離)できる機能を持たせた積層フィルム、及び、該フィルムを用いた包装体を発明し、上記課題の解決に至った。
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 基材層(I)、シール隣接層(II)、シール層(III)の少なくとも3層を有し、下記(1)~(4)を満たす、積層フィルム。
(1)前記基材層(I)を形成する樹脂組成物が、熱可塑性樹脂を主成分として含む
(2)前記シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む
(3)前記シール層(III)を形成する樹脂組成物が、ポリエステル系樹脂を主成分として含み、該ポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸残基としてイソフタル酸を含み、ジオール残基として少なくとも2種の残基を含む
(4)前記シール層(III)を形成する樹脂組成物が、該樹脂組成物を100質量%としたとき、界面活性剤を0.1~10質量%含む
[2] 前記ポリエステル系樹脂が、第1ジオール残基としてエチレングリコールを含み、第2ジオール残基として、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の積層フィルム。
[3] JIS K6768(1999)に準拠して測定した、前記シール層(III)の接触角が50°以下である、[1]又は[2]に記載の積層フィルム。
[4] JIS K7127(1999)に準拠して測定した、前記シール層(III)のフィルムの流れ方向の引張破断応力が、85MPa以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5] 前記基材層(I)を形成する樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層フィルム。
[6] 前記シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、[1]~[5]のいずれかに記載の積層フィルム。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の積層フィルムのシール層(III)とポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる容器とをヒートシールして成形した包装体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる成形体(例えば容器)に対して強固に密着できるシーラントフィルムを提供できる。そのため、内容物がヨーグルトやゼリー、惣菜等の水分を含み、シール設定箇所が濡れる可能性がある場合や、微小な夾雑物がシール設定箇所に存在する可能性がある場合であっても、確実にシーラントフィルムと成形体とが密封された包装体とすることができる。
【0012】
また、包装体を開封する際には、シール層と剥離層の界面で層間剥離する易剥離性(イージーピール性)を有するとともに、剥離した後の面にシール層の樹脂が残る膜残りや毛羽立ちが起こり難いため、内容物を取り出す際に、シール箇所に内容物が引っ掛かることなく取り出せる。また、本発明の積層フィルムは、シール層の樹脂の千切れが起こり難いため、千切れた樹脂が異物として内容物に混ざることを防止することができる。
更に、本発明の積層フィルムは、透明性のあるフィルムであるので、内容物の視認性がよく、商品の美観性を高め商品価値の向上にも有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例としての本発明の積層フィルム(以下「本フィルム」と称する)について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<用語の説明>
本発明において、「フィルム」は「シート」の意を包含し、また、「シート」は「フィルム」の意を包含するものである。
また、本発明において、「MD」はフィルムの流れ方向を、「TD」はフィルムの流れ方向に直交する方向を意味する。
本発明において、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
更にまた、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0015】
本発明で規定する数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0016】
本発明において「主成分」とは、対象物に含まれる成分のうち最も多い質量%を占める成分であることを意味する。主成分の含有量については、対象物に含まれる成分の含有量を100質量%したとき、その成分が占める質量が50質量%以上である場合、60質量%以上である場合、70質量%以上である場合、80質量%以上である場合、90質量%以上である場合、99質量%、100質量%である場合を想定することができる。
【0017】
<積層フィルム>
本発明の実施形態の一例に係る積層フィルム(以下、「本フィルム」と称する)は、基材層(I)、シール隣接層(II)、シール層(III)の少なくとも3層の樹脂層を有する。以下、本フィルムの各層について説明する。
【0018】
〔基材層(I)〕
本フィルムの基材層(I)を形成する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分として含むものである。
前記熱可塑性樹脂としては、食品包装用途における酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性、耐衝撃性、耐ピンホール性、製造・搬送時のハンドリング性等のフィルムの用途や要求特性に応じて、熱可塑性樹脂を選択すればよい。
具体的な前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂や、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のガスバリア性樹脂が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレン系樹脂が特に好ましい。
【0019】
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0020】
また、前記ポリエチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体であっても、エチレンと他の単量体との共重合体(ポリエチレン系共重合樹脂)であってもよい。
【0021】
前記他の単量体としては、例えばプロピレン、ブテン等の炭素数3~8のα-オレフィン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0022】
前記ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(JIS K7210-1A法(2014)、230℃、荷重2.16kg)は、製膜性の点から、通常0.1~50g/10分、好ましくは1~40g/10分である。
【0023】
前記ポリエチレン系樹脂の融点は、通常95~175℃、好ましくは100~170℃、より好ましくは115~168℃である。融点を前記範囲とすることにより、本フィルムの成形性や耐ピンホール性などの機械物性が向上する傾向がある。
【0024】
前記ポリエチレン系樹脂の20℃での貯蔵弾性率E’は、通常10~1000MPa、好ましくは50~800MPa、より好ましくは100~700MPaである。20℃での貯蔵弾性率E’を前記範囲とすることにより、本フィルムの成形性や耐ピンホール性などの機械物性が向上する傾向がある。
【0025】
なお、本発明において、ポリエチレン系樹脂の貯蔵弾性率は、JIS K7244-4(1999)法に基づき、周波数10Hzの引張振動の温度分散測定により算出できる。
また、ポリエチレン系樹脂の貯蔵弾性率は、共重合組成、変性度、分子量、分子量分布、分岐等の分子構造、結晶性、配向等の三次元構造によってそれぞれ影響されるものである。
【0026】
前記基材層(I)は、単層であっても、複層であってもよい。また、基材層(I)が複層である場合、基材層と基材層との層間の間には、接着層、蒸着層、印刷層、コート層等を適宜有することもできる。
【0027】
更に、基材層(I)としては、二軸延伸フィルムを用いることもできる。前記二軸延伸フィルムとしては、例えば二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(OPET)、二軸延伸ナイロンフィルム(ONy)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、二軸延伸ポリスチレンフィルム(OPS)等が挙げられる。
【0028】
〔シール隣接層(II)〕
本フィルムのシール隣接層(II)を形成する樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含むものである。
前記シール隣接層(II)とは、フィルム製膜時にはシール層(III)と充分な密着性を有し、シール層(III)が被着体とヒートシールされた後に、剥離する機能を有する層である。すなわち、シール隣接層(II)とは、包装体の密封時には、シール層(III)との層間密着性を有し、開封時には、易剥離性を有する層である。
【0029】
前記ポリオレフィン系樹脂は、高温溶融状態での粘度が低く、シール後の開封時において、使用環境下(室温)での貯蔵弾性率が、シール層(III)に用いられるポリエステル系樹脂に対して低いため、シール隣接層(II)を形成する樹脂として好適である。なかでも、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂等が好ましく、ポリエステル系樹脂に対して貯蔵弾性率がより低い観点からポリエチレン系樹脂が特に好ましい。
【0030】
(ポリエチレン系樹脂)
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)樹脂、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂、中密度ポリエチレン(MDPE)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、貯蔵弾性率が低い観点から、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)樹脂、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂が好ましい。
【0031】
また、前記ポリエチレン系樹脂は、エチレンの単独重合体であっても、エチレンと他の単量体との共重合体(ポリエチレン系共重合樹脂)であってもよい。なかでも、本発明においては、ポリエチレン系共重合樹脂が好ましい。
【0032】
前記他の単量体としては、例えばプロピレン、ブテン等炭素数3~8のアルケンや、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、ビニルアルコール等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、プロピレン、ブテンが好ましい。
【0033】
前記(メタ)アクリル酸エステル成分としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0034】
また、前記ポリエチレン系樹脂は、シール層(III)との接着性の観点から、変性ポリエチレン系樹脂であることが更に好ましい。
【0035】
前記変性は、不飽和カルボン酸成分による酸変性ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。酸変性ポリエチレン系樹脂を用いることで、フィルム製膜時にはシール層と十分な密着性を有し、シール層が被着体とヒートシールされた後に、剥離する機能がいずれも十分となる傾向がある。
【0036】
前記不飽和カルボン酸成分としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。また、不飽和カルボン酸成分は、前記エチレンと共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0037】
前記酸変性ポリエチレン系樹脂の酸変性率は、接着性が良好である観点から0.1~10%が好ましく、0.2~5%がより好ましい。
【0038】
シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂としては、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレンープロピレン-ブテン共重合体が好ましい。
【0039】
シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂の密度は920kg/m3以下であることが好ましく、910kg/m3以下がより好ましい。密度が920kg/m3以下であることにより、ポリエチレン系樹脂中の結晶成分が少なくなり、隣接層との共押出密着性が向上する傾向がある。
【0040】
シール隣接層(II)を形成する樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂の20℃の貯蔵弾性率E’は、500MPa以下が好ましく、300MPaがより好ましく、100MPa以下が更に好ましい。500MPa以下であることにより、室温環境で本フィルムを被着体から引き剥がして開封する時にシール層(III)がしっかり密着したまま、シール隣接層(II)がシール層(III)との層界面で剥離して容易に開封できる傾向がある。また、下限は特に限定されないが、一般に10MPa以上が好ましい。
【0041】
シール隣接層(II)は、層間密着性と易剥離性を著しく損なわない、あるいは向上させるために、その他の樹脂を、樹脂組成物の50%未満の範囲で混合してもよい。特に酸変性エチレン系共重合体を用いる場合、酸変性エチレン系共重合体との混合性、フィルム製膜の共押出性の点から、その他の樹脂としてポリエチレン系樹脂、無水マレイン酸により変性又は共重合されたポリオレフィン系樹脂(ただし、ポリエチレン系樹脂を除く)を用いることが好ましい。
【0042】
〔シール層(III)〕
本フィルムのシール層(III)は、被着体とヒートシールするという機能目的から本フィルムの片側の最表面の位置に配設することが好ましい。また、本フィルムのシール層(III)は、ポリエステル系樹脂を主成分として含み、更に界面活性剤を0.1~10質量%含む樹脂組成物からなるものである。
【0043】
(ポリエステル系樹脂)
前記ポリエステル系樹脂は、通常ジカルボン酸残基とジオール残基とから誘導されるポリエステル系樹脂であり、本発明においては、ジカルボン酸残基としてイソフタル酸を含み、ジオール残基として少なくとも2種の残基を含むものである。
なお、本発明においては、全ジオール残基100モル%に対して、最も多いモル%を占めるジオール残基を「第1ジオール残基」とし、以下、モル%の多い順に「第2ジオール残基」、「第3ジオール残基」、・・・とする(以下、これらを纏めて、「第2以下ジオール残基」と称する場合がある)。
また、ジカルボン酸残基が2種以上の残基で構成される場合、全ジカルボン酸残基100モル%に対して、最も多いモル%を占めるジカルボン酸残基を「第1ジカルボン酸残基」とし、以下、モル%の多い順に「第2ジカルボン酸残基」、「第3ジカルボン酸残基」、・・・とする(以下、これらを纏めて、「第2以下ジカルボン酸残基」と称する場合がある)。
【0044】
前記ジカルボン酸残基は、イソフタル酸残基以外に、例えばテレフタル酸、フランジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4-スチルベンジカルボン酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4-ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-Naスルホイソフタル酸、エチレン-ビス-p-安息香酸等の芳香族ジカルボン酸残基、ダイマー酸、水添ダイマー酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸残基、又はそれらのエステル誘導体等が挙げられる。これらのジカルボン酸残基は、単独でもしくは2種以上含まれていてもよい。
【0045】
なかでも、ジカルボン酸残基は、第1ジカルボン酸残基としてテレフタル酸、第2以下ジカルボン酸残基としてイソフタル酸が含まれることが好ましい。
【0046】
前記ジオール残基としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノールのような脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。これらのジオール残基は、単独でもしくは2種以上含まれていてもよい。
【0047】
なかでも、ジオール残基は、第1ジオール残基としてエチレングリコールを含み、第2ジオール残基として、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、第2ジオール残基として、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0048】
また、前記ポリエステル系樹脂は、2種以上の混合物であることが、所望の物性が得られる点から好ましく、透明性の観点からは、相溶性の高いポリエステル系樹脂同士の混合物であることが好ましい。また、互いに非相溶の2種以上のポリエステル系樹脂を用いる場合は、屈折率差の小さい、又は、押出成形温度における粘度差の小さいポリエステル系樹脂同士を組み合わせることが、分散性の観点から好ましい。
【0049】
本発明の好ましいポリエステル系樹脂としては、剥離時の膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)とすることができる点から、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体と、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合以外のポリエステル系樹脂との混合物が好ましく、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体と、ポリブチレンテレフタレート、及びグリコール変性ポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される少なくとも1種との混合物が特に好ましい。
すなわち、硬く脆い樹脂であるポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体と、ポリブチレンテレフタレートやグリコール変性ポリエチレンテレフタレートを混合することにより、ポリブチレンテレフタレート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートと同等の破断伸度を維持しつつ、破断に必要な応力が低減するため、膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)となる傾向がある。
なお、ポリエステル系樹脂の破断応力及び破断伸度は、共重合組成、分子量、分子量分布、分岐等の分子構造、結晶性、配向等の三次元構造によってそれぞれ影響されるものである。
【0050】
また、ポリエステル系樹脂として、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体と、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合以外のポリエステル系樹脂との混合物を用いる場合、その比率〔ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合以外のポリエステル系樹脂〕は質量基準で、通常99:1~1:99、好ましくは95:5~20:80、より好ましくは90:10~40:60である。ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体と、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合以外のポリエステル系樹脂との比率が前記範囲であると、防曇性に優れる傾向がある。
【0051】
前記ポリエステル系樹脂の融点は、通常280℃以下である。融点の上限は、260℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、220℃以下がさらに好ましい。融点の下限は、特に限定されないが、低いほど好ましく、融点を示さないことが最も好ましい。融点を前記範囲とすることにより、本フィルムの機械特性が良好となる傾向がある。
【0052】
前記ポリエステル系樹脂の20℃での貯蔵弾性率E’は、通常100~5000MPa、好ましくは500~4000MPa、より好ましくは1000~3000MPaである。20℃での貯蔵弾性率E’を前記範囲とすることにより、膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)となる傾向がある。
【0053】
前記ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常30~120℃、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃である。ガラス転移温度を前記範囲とすることにより、膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)となる傾向がある。
【0054】
前述のとおり、シール層(III)を形成する樹脂組成物には、該樹脂組成物を100質量%としたとき、界面活性剤を0.1~10質量%含むものである。
通常、ポリエステル系フィルムを容器に対して蓋材として用いる場合において、例えば内容物が幾分かの水分を含んでおり、かつ底材容器中の内容物と蓋材との間に空間が存在する場合は、外気温度によって蓋材の内容物側表面、即ちシール層の表面が内容物の水分によって曇ってしまい、内容物の視認性が悪くなることがある。一方、本フィルムおいては、シール層(III)を形成する樹脂組成物が、界面活性剤を特定量含むことにより、視認性の悪化を抑制することができる。
また、本フィルムを蓋材として使用した際、シール層(III)に界面活性剤を特定量含むことで、界面活性剤が蓋材のシール層(III)の表面に継続的にブリードし、継続的に効果を持続することができる。
【0055】
前記界面活性剤としては、特に限定されず、例えばノニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
なかでも、界面活性剤としては、ポリエステル系樹脂との相溶性、防曇効果やシール性を阻害しない観点から、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤が更に好ましい。
また、界面活性剤は併用してもよく、例えば、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用することも好ましい。
【0056】
従来、ポリエステル系樹脂と界面活性剤を含む樹脂組成物からシール層を形成した場合、ポリエステル系樹脂と界面活性剤とは相溶性が悪く、練り込みが不十分となるため、シール層が不透明になることや、十分な防曇性が発現されないといった不具合が生じている。そのため、界面活性剤は、ポリエステル系樹脂との練り込みではなく、シール層の表面に界面活性剤溶液を塗布する手法が多く用いられている。
一方、本フィルムでは、特定のポリエステル系樹脂と、特定種類の界面活性剤とを用いることで、フィルムの防曇性と透明性を兼備できる傾向があり、更には、冷蔵庫等における低温保管時においてもフィルム表面が曇ることのない優れた防曇性(低温防曇性)を有する傾向があることを見出したものである。
【0057】
(アニオン性界面活性剤)
前記アニオン性界面活性剤としては、例えばアルキルスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキル硫酸、アルキルアリール硫酸、アリール硫酸のアルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも炭素数8~30、より好ましくは炭素数12~16からなるアルキルスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、アルキル硫酸のナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、又はカルシウム等の金属塩が好ましく、ナトリウム、カリウム塩が特に好ましい。
【0058】
(カチオン界面活性剤)
前記カチオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤は、界面活性や樹脂との相溶性の観点から好ましい。
【0059】
(ノニオン性界面活性剤)
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えばエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールが挙げられ、単独でもしくは2種以上を併せてもちいてもよい。
前記エチレンオキサイド付加物は、アルコールや脂肪酸やそれらのエステル類、油脂等にエチレンオキサイドを付加させた化合物であり、エチレンオキサイドの重合部分の鎖長を調整することにより、所望の親油性親水性パラメータ(HLB)に調整される。エチレンオキサイド付加物の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。前記ポリエチレングリコールは、エチレングリコールが重合した構造であり、ポリエチレンオキサイドと同様な構造であるが、ポリエチレンオキサイドの分子量が数万以上であるのに対し、ポリエチレングリコールは分子量2万程度のものである。
なかでも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、アニオン性界面活性剤と併用して防曇性と透明性とを兼備する点で好ましく、アルキル基は炭素数8~30がより好ましく、炭素数12~16が更に好ましい。
【0060】
前記樹脂組成物に対する界面活性剤の含有量は、0.1~10質量%であり、好ましくは0.2~8質量%、特に好ましくは0.3~6質量%である。界面活性剤の含有量が前記数値以上であれば、水分を含んだ内容物を本フィルムで包装し、低温環境下で保存した際においても包装体内部の水分がシーラントフィルム表面で水滴とならずに均一な水膜を形成しやすくなる。また、常温から低温まで防曇性に優れるため、内容物の視認性が良好であり、商品の美観性に優れる。更に帯電防止効果も優れることから、ブロッキングや摩擦帯電等のフィルム製膜のトラブルを抑制することができる。また、界面活性剤の含有量が前記数値以下であると、透明性を良好とすることができる。
【0061】
本フィルムの透明性を向上させるためには、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを併用することがより好ましい。具体的には、防曇性を向上させるためにシール層へのアニオン性界面活性剤の含有量を増加させると、シール強度や剥離性、透明性を低下させる場合があるが、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用することにより、防曇性とシール強度、剥離性、透明性との兼備が可能となる。
【0062】
ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用する場合、その比率(ノニオン性界面活性剤:アニオン性界面活性剤)は質量基準で、通常5:95~50:50、好ましくは10:90~40:60である。
【0063】
ポリエステル系樹脂と界面活性剤との混合は、公知の方法で行うことができる。例えば、予めポリエステル系樹脂と界面活性剤とを二軸押出機等で混練して作製した界面活性剤濃度の高いマスターバッチとポリエステル系樹脂とをドライブレンドして用いてもよいし、所定濃度に作製したマスターバッチを用いてもよい。また、フィルム製膜する押出機において、直接、ポリエステル系樹脂と界面活性剤とをドライブレンドしてもよい。なかでも、ポリエステル系樹脂に対する界面活性剤の分散性の点から、二軸押出機でマスターバッチを作製することが好ましい。
【0064】
(その他の成分)
本フィルムの各層を形成する樹脂組成物は、それぞれ上記した各樹脂を主成分としていればよく、本発明の機能を阻害しない範囲内で、その他の樹脂、又は、以下の添加剤を含んでいてもよい。
【0065】
前記添加剤としては、例えば着色剤、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、加水分解防止剤、可塑剤、難燃剤、離型剤等を挙げることができる。これらの添加剤の添加量は特に限定されるものではなく、本発明の所望とする物性を阻害することのない範囲において適宜決定することができる。
【0066】
<本フィルムの製造方法>
本フィルムを製造する方法としては、シール層(III)が本フィルムの片側の最表面に位置し、またシール層(III)とシール隣接層(II)が直接隣り合うようにして配設するように製造できれば、特に限定されない。
例えば、シール層(III)とシール隣接層(II)を、公知のTダイ法やインフレーション法等で、フィードブロック方式やマルチマニホールド方式、それらの組み合わせにより共押出してもよいし、各層を単層フィルムで製造した後に熱ラミネートしてもよいし、一方の層に対して他方を押出ラミネートしてもよい。
【0067】
また、基材層(I)は、シール層(III)、シール隣接層(II)と共に共押出してもよいし、シール層(III)/シール隣接層(II)の積層フィルムに対して、基材層(I)をドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法、熱ラミネート法、押出ラミネート法で形成してもよい。ラミネートの際には、必要に応じてアンカーコート処理やプラズマ、コロナ放電等の表面処理を行っても良い。ドライラミネートやウェットラミネートでは、公知のウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤等の各種接着剤を用いることができる。
また、基材層(I)/シール隣接層(II)/シール層(III)を共押出により作製して、基材層(I)側に、更に基材層(I)として前述の二軸延伸フィルムをラミネートしてもよい。ラミネート方法、表面処理方法は上記した通りである。
また、本フィルムは無延伸でもよく、公知の方法で一軸延伸、二軸延伸してもよく、二軸延伸は同時延伸でも逐次延伸でもよい。また、上記のように更に基材層(I)として二軸延伸フィルムをラミネートする場合は、ラミネートする前に、必要に応じて、本フィルムを延伸すればよい。
【0068】
<各層及びフィルムの厚み>
本フィルムのシール隣接層(II)及びシール層(III)の厚みは、フィルムの総厚及び他の層の厚みとのバランスを踏まえ、両層ともそれぞれ1.0~50μmであることが好ましく、より好ましくは1.5~40μm、特に好ましくは2.0~30μmである。シール隣接層(II)及びシール層(III)の厚みが、1.0μm以上であればフィルムの製膜性がよくなる傾向があり、50μm以下であれば経済性の観点から好ましい。
【0069】
本フィルムの総厚みは、10~100μmが好ましく、より好ましくは15~50μmである。本フィルムの総厚みが10μm以上であれば十分なフィルム強度となる傾向があり、100μm以下であれば、ヒートシール工程での伝熱性やフィルムの透明性に優れる傾向がある。
【0070】
このように製造される本フィルムは、以下の物性を有することができる。
【0071】
<全光線透過率>
本フィルムの全光線透過率は、内容物の視認性、美観性、意匠性等の観点から、85%以上が好ましく、88%以上がより好ましい。下限は特に限定されず、値がより大きいと透明性が良好であり好ましい。
なお、全光線透過率は、JIS K7136(2000)に基づき測定される値である。
【0072】
<全ヘーズ>
本フィルムの全ヘーズは、内容物の視認性、美観性、意匠性等の観点から、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、値がより小さいと透明性が良好であり好ましい。
なお、全ヘーズは、JIS K7136(2000)に基づき測定される値である。
【0073】
<内部ヘーズ>
本フィルムの内部ヘーズは、内容物の視認性、美観性、意匠性等の観点から、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、値がより小さいと透明性が良好であり好ましい。
なお、内部ヘーズは、JIS K7136(2000)に基づき測定される値である。
【0074】
<外部ヘーズ>
本フィルムの外部ヘーズは、内容物の視認性、美観性、意匠性等の観点から、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、値がより小さいと透明性が良好であり好ましい。
なお、外部ヘーズは、JIS K7136(2000)に基づき測定される値である。
【0075】
<接触角>
本フィルムのシール層(III)の23℃下においてシール層(III)の表面に1μLの蒸留水の液滴を滴下し、その20秒後の接触角(濡れ性)は、フィルムの防曇性の点から、が50°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。なお、接触角の下限は特に限定されず、値がより小さいと水がシール層表面に濡れ広がることを意味し、好ましい。
【0076】
<防曇性>
本フィルムは、シール層(III)に界面活性剤を含有することから、優れた防曇性を示し、更には低温環境下においても良好な防曇性を示す。
本フィルムは、例えば、底面直径50mm、深さ80mmのポリプロピレン製円筒形容器に所定の温度(90℃、40℃)の水を80mL、又は常温(25℃)の水100mLを入れ、本フィルムのシール層(III)を容器側に向け該容器の開口部に両面テープで貼着して密封し、所定時間(10秒、1分、又は48時間)静置した場合であっても、水蒸気がフィルムシール層表面に凝結しない又は、水分がフィルム表面に凝結した場合も、レンズ状にならず均一な水膜を形成するため、内容物を鮮明に確認することができるものである。
【0077】
<引張破断応力>
本フィルムのシール層(III)のフィルムの流れ方向(MD)の引張破断応力は、85MPa以下が好ましく、82MPa以下がより好ましく、78MPa以下がさらに好ましく、71MPa以下が最も好ましい。上記範囲であることにより、本フィルムがシール隣接層(II)とシール層(III)との界面で剥離する際に、被着体に密着したシール層(III)が剥離層〔シール隣接層(II)〕側に引っ張られて伸び過ぎないため、易剥離性が良好となる。下限は特に限定されないが、一般に20MPa以上である。
【0078】
また、本フィルムのシール層(III)のフィルムの流れ方向に直交する方向(TD)の引張破断応力は、78MPa以下が好ましく、75MPa以下がより好ましく、73MPa以下がさらに好ましく、65MPa以下が最も好ましい。上記範囲であることにより、本フィルムがシール隣接層(II)とシール層(III)との界面で剥離する際に、被着体に密着したシール層(III)が剥離層〔シール隣接層(II)〕側に引っ張られて伸び過ぎないため、易剥離性が良好となる。下限は特に限定されないが、一般に20MPa以上である。
【0079】
<引張破断伸度>
本フィルムのシール層(III)の引張破断伸度は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下が最も好ましい。上記範囲であることにより、本フィルムがシール隣接層(II)とシール層(III)との界面で剥離する際に、被着体に密着したシール層(III)が剥離層〔シール隣接層(II)〕側に引っ張られて伸び過ぎないため、易剥離性が良好となる。下限は特に限定されないが、一般に0.5%以上である。
【0080】
シール層(III)の引張破断応力、引張破断応力は、JIS K 7127(1999)に基づき、200mm/secの速度で測定することにより、求めることができる。また測定は、本フィルムからシール層(III)のみを剥がしてシール層(III)単体として測定してもよいし、シール層(III)を形成する樹脂組成物から単体フィルムを作製し、測定してもよい。
【0081】
<包装体>
本フィルムは、本フィルムのシール層(III)とポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる容器とをヒートシールして成形することにより、包装体とすることができる。
前記容器の形態としては、具体的にはポリエステル系樹脂製の無延伸ポリエステルシート(A-PETシート)で成形されたカップ、深絞り体、ブリスターパック等が挙げられる。この様にして得られる、前記包装体は、内容物視認性や美観性が重要な、食品、医薬品、医療品、工業部品等の包装体として好適である。
【実施例0082】
以下の実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではない。
実施例に先立って、以下の原料を用意した。
【0083】
〔基材層(I)〕
・PO-1:直鎖状低密度ポリエチレン(融点:121℃、20℃貯蔵弾性率:499MPa)
・PO-2:低密度ポリエチレン(融点:107℃、20℃貯蔵弾性率:226MPa)
【0084】
〔シール隣接層(II)〕
・MAPO-1:無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(密度:902kg/m3、20℃貯蔵弾性率:41MPa)
・MAPO-2:無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン-ブテン共重合体(密度:888kg/m3、20℃貯蔵弾性率:25MPa)
・MAPO-3:無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン-ブテン共重合体(密度:903kg/m3、20℃貯蔵弾性率:64MPa)
【0085】
〔シール層(III)〕
[ポリエステル系樹脂]
・PS-1:ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(ガラス転移温度:73℃、融点:なし、20℃貯蔵弾性率:2241MPa)
・PS-2:グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(ガラス転移温度:71℃、融点:なし、20℃貯蔵弾性率:1802MPa)
【0086】
[界面活性剤]
・S-1:アルキルスルホン酸ナトリウム塩
・S-2:アルキルスルホン酸ナトリウム塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合物
【0087】
<実施例1~7、比較例1、2>
後記の表1に記した配合の原材料を各押出機に供給し、Tダイ共押出法により押出温度220℃の条件で、基材層(I)、シール隣接層(II)、シール層(III)の各層を接して溶融押出し、その後60℃の水冷金属冷却ロールで冷却し、積層フィルムを得た。
【0088】
<評価方法>
実施例・比較例で得られた積層フィルムについて、以下の方法で測定・評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0089】
〔透明性(全光線透過率、全ヘーズ、内部ヘーズ、外部ヘーズ)〕
JIS K7136(2000)に基づきし、ヘーズメーター(日本電色工業社製)商品名:NDH5000)を用いて、光源D65、温度25℃の条件で各積層フィルムの全光線透過率、全ヘーズを測定した。全ヘーズ測定後の各積層フィルムを、エタノール(純度99.5質量%)を入れたセルの中に浸け、内部ヘーズを測定した。外部ヘーズは、全ヘーズと内部ヘーズの差より算出した。
【0090】
〔接触角(濡れ性)〕
23℃下において各積層フィルムのシール層(III)表面に1μLの蒸留水の液滴を滴下し、その20秒後の接触角を測定した。
【0091】
〔引張破断応力及び引張破断伸度〕
各積層フィルムのシール層(III)の引張破断応力及び引張破断伸度を、JIS K 7127(1999)に基づき、200mm/secの速度で測定した。
【0092】
〔防曇性〕
底面直径50mm、深さ80mmのポリプロピレン製円筒形容器に90℃又は40℃に調整したお湯80mLを入れ、次いで、各積層フィルムのシール層(III)側を容器に向けて両面テープで容器開口部に貼り付けて密封し、所定時間静置し、フィルムの曇り度合いを観察し下記の基準で評価した。
また、低温環境下の防曇性は、前記ポリプロピレン製円筒形容器に常温(25℃)の水100mLを入れ、次いで、フィルムのシール層(III)側を容器に向けて両面テープで容器開口部に貼り付けて密封し、恒温槽で5℃、48時間静置し、フィルムの曇り度合いを観察し下記の基準で評価した。
[評価基準]
〇:水分がフィルムの内容物側表面の全面にムラなく濡れ広がり、内容物を鮮明に視認できる。
△:水分が水滴にならずにフィルムの内容物側表面が濡れ(ムラあり)、内容物を視認できる。
×:水分がフィルムの内容物側表面で凝結して微細な水滴となってフィルムが曇り、内容物を視認できない。
【0093】
〔膜残り(外観)、イージーピール性〕
実施例、比較例で得られた積層フィルムの基材層(I)側と市販のPA6/LDPE積層フィルム(総厚み75μm、PA6:15μm、LDPE:60μm)のLDPE側を熱ラミネートした後、積層フィルムのシール層(III)と市販の無延伸ポリエステルシート(A-PETシート、厚み250μm)を包装機(ムルチパック社製R530)を用いて150℃、2.0secの条件でヒートシールを行った。フィルムの流れ方向(縦方向、MD)、フィルムの流れ方向に直交する方向(横方向、TD)、それぞれに15mm幅×50mm長さの短冊試験片を採取した。
短冊試験片を、JIS K6854-2(1999)に準拠して引張試験機(島津製作所製AG-X plus)を用いて引張試験(試験温度23℃、引張速度300mm/min、剥離角度180度)を行って、フィルムの流れ方向(縦方向、MD)、フィルムの流れ方向に直交する方向(横方向、TD)、それぞれについて剥離強度を測定し、下記の基準で評価した。また、剥離後の外観を目視観察し、下記の基準で評価した。
[イージーピール性(剥離強度)評価基準]
○:剥離強度が400g・f/15mm以上1500g・f/15mm以下
△:剥離強度が100g・f/15mm以上400g・f/15mm未満又は1500g・f/15mmを超え2500g・f/15mm以下
×:剥離強度が100g・f/15mm未満又は2500g・f/15mmを超える
[膜残り(外観)評価基準]
◎:膜残りや毛羽立ちが無い
○:膜残りや毛羽立ちがわずかにある
△:膜残りや毛羽立ちが部分的にある
×:膜残りや毛羽立ちが全面にある
【0094】
【表1】
【0095】
表1より実施例1~7の多層フィルムは、良好な易剥離性、剥離外観、更には良好な透明性を有するものであった。
【0096】
比較例1、2のフィルムは引張破断応力が高く、膜残りや毛羽立ちが発生した。また、界面活性剤を含まない比較例1の多層フィルムは、防曇性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本フィルムは、ポリエステル系樹脂を主成分として含む樹脂組成物からなる容器等に対し、良好な易開封性、透明性、防曇性を有し、シール層に膜残りや毛羽立ちが生じずに綺麗な剥離面(剥離外観)を成すことから、内容物視認性や美観性が重要な、食品、医薬品、医療品、工業部品等の包装に好適である。
包装の形態としては、具体的にはポリエステル系樹脂製の無延伸ポリエステルシート(A-PETシート)で成形されたカップ、深絞り体、ブリスターパック等の容器に対する蓋材として好適に使用できる積層フィルムである。