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  • 特開-熱伝導シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146439
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059335
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】高木 慎
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AA81
4F071AB03
4F071AF15Y
4F071AF20Y
4F071AF44
4F071AF58
4F071AH12
4F071BB04
4F071BC01
(57)【要約】
【課題】製造時において崩壊耐性に優れるとともにカールが少なく、さらには、粘着性に優れる熱伝導シートの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂と熱伝導性フィラーとを含む複合材料をシート状に加圧してなる一次複合シートであり、引張強度が1.00MPa以下である一次複合シートを、積層、折畳、又は捲回して積層体を得てから、カンナ式スライサーにて積層方向に対して45°以下の角度でスライス加工するにあたり、かかるスライスを一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域で行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導シートの製造方法であって、
前記樹脂は、少なくとも一種の常温常圧下で液体の樹脂を含み、
前記樹脂と熱伝導性フィラーとを含む複合材料をシート状に加圧して一次複合シートを得る工程と、
前記一次複合シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次複合シートを折畳又は捲回して、積層体を得る工程と、
前記積層体を得る工程にて得られた前記積層体をかんな式スライサーにて積層方向に対して45°以下の角度でスライス加工することで所定の厚みの熱伝導シートを得るスライス工程と、を含み、
前記一次複合シートの23℃における引張強度が1.00MPa以下であり、
前記スライス工程にて、前記一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域でスライス加工を行う、
熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
前記常温常圧下で液体の樹脂が、少なくとも一種のアクリル樹脂を含む、請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
前記アクリル樹脂の重量平均分子量が20,000以下である、請求項2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂における前記アクリル樹脂の含有割合が、20質量%以上70質量%以下である、請求項2又は3に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、通常、熱伝導率が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介在させた状態で発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
従来から、熱伝導シートに関しては熱伝導性を高めるために様々な試みがなされてきた。例えば特許文献1では、両主面が平滑であり、厚み精度に優れる熱伝導シートが提案されている。より具体的には、特許文献1においては、樹脂及び粒子状フィラーを含む熱伝導シートにおいて、厚みの標準偏差を所定の値以下としつつ、厚み方向の熱伝導率を所定の値以上とし、両主面の表面粗さSaをいずれも所定の値以下とした熱伝導シートを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-140982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年、被着体との密着性を高めて熱伝導性を向上させる観点からは、熱伝導シートには、粘着性に優れることも求められている。しかし、熱伝導シートに粘着性を付与し得る組成は、「柔らかい」という側面も有しており、製造時に目的とする熱伝導シートが崩壊し、或いは、製造した熱伝導シートにカールが生じることがあった。
【0007】
そこで、本発明は、製造時において崩壊耐性に優れるとともにカールが少なく、さらには、粘着性に優れる熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、引張強度が1.00MPa以下である一次複合シートを、積層、折畳、又は捲回して積層体を得てから、積層方向に対して45°以下の角度でカンナ式スライサーにてスライス加工するにあたり、かかるスライスを一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域で行うことにより、製造時における熱伝導シートの崩壊及びカールを抑制し、さらには、得られる熱伝導シートが粘着性に優れることを新たに見出し、本発明を完成させた。なお、使用する一次複合シートは、樹脂と熱伝導性フィラーとを含む複合材料をシート状に加圧してなる一次複合シートである。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導シートの製造方法であって、前記樹脂は、少なくとも一種の常温常圧下で液体の樹脂を含み、前記樹脂と熱伝導性フィラーとを含む複合材料をシート状に加圧して一次複合シートを得る工程と、前記一次複合シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次複合シートを折畳又は捲回して、積層体を得る工程と、前記積層体を得る工程にて得られた前記積層体をかんな式スライサーにて積層方向に対して45°以下の角度でスライス加工することで所定の厚みの熱伝導シートを得るスライス工程と、を含み、前記一次複合シートの23℃における引張強度が1.00MPa以下であり、前記スライス工程にて、前記一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域でスライス加工を行う、を特徴とする。このような熱伝導シートの製造方法によれば、製造時における熱伝導シートの崩壊及びカールが抑制され、さらには、得られる熱伝導シートが粘着性に優れている。なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。なお、「一次複合シートの23℃における引張強度」及び「一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0010】
[2]ここで、上記[1]の熱伝導シートの製造方法において、前記常温常圧下で液体の樹脂が、少なくとも一種のアクリル樹脂を含むことが好ましい。かかる熱伝導シートの製造方法によれば、得られる熱伝導シートの粘着性を一層高めることができる。
【0011】
[3]また、上記[2]の熱伝導シートの製造方法において、前記アクリル樹脂の重量平均分子量が20,000以下であることが好ましい。アクリル樹脂の重量平均分子量が20,000以下であれば、得られる熱伝導シートの粘着性を一層高めることができる。アクリル樹脂の重量平均分子量は、本明細書の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0012】
[4]更に、上記[2]又は[3]の熱伝導シートの製造方法において、前記樹脂における前記アクリル樹脂の含有割合が、20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。かかる製造方法によれば、製造時における熱伝導シートの崩壊及びカールを一層良好に抑制することができるとともに、得られる熱伝導シートの粘着性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造時において崩壊耐性に優れるとともにカールが少なく、さらには、粘着性に優れる熱伝導シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例における熱伝導シートのカールの評価方法を説明するための図である。
図2】本発明の実施例における熱伝導シートのカールの評価方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明の熱伝導シートの製造方法に従って得られた熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートの製造方法に従って得られた熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
【0016】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導シートの製造方法である。ここで、樹脂は、少なくとも一種の常温常圧下で液体の樹脂を含む。そして、本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂と熱伝導性フィラーとを含む複合材料をシート状に加圧して、23℃における引張強度が1.00MPa以下である一次複合シートを得る工程(一次複合シート形成工程)と、一次複合シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次複合シートを折畳又は捲回して、積層体を得る工程(積層体形成工程)と、積層体形成工程にて得られた積層体をかんな式スライサーにより積層方向に対して45°以下の角度でスライス加工することで所定の厚みの熱伝導シートを得るスライス工程と、を含む。ここで、スライス工程では、一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域でスライス加工を行うことを特徴とする。まず、常温常圧下で液体の樹脂を含み、且つ23℃における引張強度が1.00MPa以下である一次複合シートを備える熱伝導シートは、粘着性に優れ、被着体との密着性を高めることができる。しかし、かかる熱伝導シートは、その柔らかさゆえに、製造時において崩壊し易くなり且つ、スライス直後にカールが発生しやすくなる。そこで、本発明者らがスライス条件を種々検討したところ、一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域でスライス加工を行うことで、崩壊及びカールの発生を効果的に抑制することができることを見出した。
【0017】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法に従って得られる熱伝導シートは、複数の条片(一次複合シート)を並列接合してなるものでありうる。この場合、各条片は、それぞれ常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含み、且つ、各条片内において、熱伝導シートの厚み方向に、熱伝導性フィラーが配向している。ここで、「配向」とは、熱伝導シートの主面に対する熱伝導性フィラーの配向角度が60°以上90°以下であることを意味する。なお配向角度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0018】
<樹脂>
本発明の熱伝導シートの製造方法に従って得られる熱伝導シートは、樹脂を含む。樹脂としては、少なくとも一種の常温常圧下で液体の樹脂を含み、任意で、常温常圧下で固体の樹脂を含んでいてもよい。
【0019】
<<常温常圧下で液体の樹脂>>
常温常圧下で液体の樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、常温常圧下で液体の樹脂としては、アクリル樹脂及びフッ素樹脂の少なくともいずれかを含むことが好ましく、得られる熱伝導シートの粘着性を一層高める観点から、アクリル樹脂を含むことがより好ましい。
【0020】
ここで、常温常圧下で液体のアクリル樹脂としては既知のものを用いることができる。ここで、「アクリル樹脂」とは、繰り返し単位として、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及び任意で(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と称する。)を含む重合体をいう。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。常温常圧下で液体のアクリル樹脂としては、分子量が所定値以下のものを好適に用いることができる。アクリル樹脂の重量平均分子量は、20,000以下であることが好ましく、10,000以下がより好ましく、9,000以下が更に好ましく、8,000以下が更により好ましく、7,000以下が特に好ましい。常温常圧下で液体のアクリル樹脂として、このような重量平均分子量が低いアクリル樹脂を用いることにより、熱伝導シートの粘着性を十分に高めることができる。また、常温常圧下で液体のアクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば、200以上、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、更に好ましくは1,000以上、一層好ましくは1,500以上、一層好ましくは2,000以上、一層好ましくは2,500以上であってもよい。
【0021】
市販されている常温常圧下で液体のアクリル樹脂の例としては、東亞合成社製の「ARUFON UP-1000」、「ARUFON UP-1010」、「ARUFON UP-1020」、「ARUFON UP-1021」、「ARUFON UP-1061」、「ARUFON UP-1080」、「ARUFON UP-1110」、「ARUFON UP-1170」、「ARUFON UP-1190」、「ARUFON UP-1500」、「ARUFON UH-2000」、「ARUFON UH-2041」、「ARUFON UH-2190」、「ARUFON UC-3510」、「ARUFON UG-4010」、「ARUFON US-6100」、「ARUFON US-6170」、綜研化学社製「アクトフロー UT-1001、UMM-1001」等が挙げられる。
【0022】
また、常温常圧下で液体のフッ素樹脂としては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロペンテン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体などの、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、デュポン株式会社製のバイトン(登録商標)LM、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-101、スリーエム株式会社製のダイニオン(登録商標)FC2210、信越化学工業株式会社製のSIFELシリーズなどが挙げられる。
【0023】
<<常温常圧下で個体の樹脂>>
ここで、熱伝導シートは、任意に、常温常圧下で液体の樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。かかる樹脂としては常温常圧下で個体の樹脂が挙げられる。そのような樹脂としては、例えば、常温常圧下で個体のフッ素樹脂が挙げられる。常温常圧下で固体のフッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物及びポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物などの、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-300シリーズ/G-700シリーズ/G-7000シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元系共重合体)、ダイエルG-800シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG-900シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ(フッ化ビニリデン系フッ素樹脂)、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ(ビニリデンフロライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ケマーズ社製のA-100(ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体);などが挙げられる。
【0024】
<<樹脂組成>>
そして、熱伝導シートに含まれる樹脂における常温常圧下で液体の樹脂の含有割合は、特に限定されることなく、例えば、樹脂全体を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以下であることが好ましい。常温常圧下で液体の樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を効果的に高めることができるので、被着体との密着性を高めて一層高い熱伝導性を発揮することができる。また、常温常圧下で液体の樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導性フィラーを十分に含有させることにより、熱伝導シートの熱伝導性を十分に高めることができる。
【0025】
また、熱伝導シートに含まれる樹脂におけるアクリル樹脂の含有割合が、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。アクリル樹脂の含有割合が上記下限値以上であれば、得られる熱伝導シートの粘着性を一層高めることができる。また、アクリル樹脂の含有割合が上記上限値以下であれば、製造時における熱伝導シートの崩壊及びカールを一層良好に抑制することができる。
【0026】
[熱伝導性フィラー]
熱伝導性フィラーは、熱伝導シートに優れた熱伝導性を付与する。そして、熱伝導性フィラーとしては、特に限定されることなく、金属製充填材や炭素製充填材などの既知の熱伝導性フィラーを用いることができる。中でも、熱伝導性フィラーとしては、粒子状炭素材料及び繊維状炭素材料などの炭素材料を用いることが好ましく、粒子状炭素材料を用いることがより好ましい。
【0027】
ここで、粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性をより向上させることができるからである。
【0028】
なお、膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0029】
そして、粒子状炭素材料の体積平均粒子径は、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の平均粒子径が上記下限以上であれば、熱伝導シートに粒子状炭素材料の伝熱パスをより良好に形成し、熱伝導シートに優れた熱伝導性を発揮させ得るからである。また、粒子状炭素材料の平均粒子径が上記上限以下であれば、表面が平滑で熱伝導性に優れた熱伝導シートが得られるからである。なお、本発明において、「体積平均粒子径」とは、レーザー回折法を用いて測定された体積基準の粒子径分布における極大値(モード径)を指す。そして、粒子状炭素材料の体積平均粒子径の測定は、特に限定されることなく、例えば熱伝導シートに含まれている樹脂に対する良溶媒を用いて樹脂を溶解させる等の任意の手法を用いて熱伝導シートから粒子状炭素材料を取り出して行うことができる。
【0030】
また、粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、「粒子状炭素材料のアスペクト比」は、条片の厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0031】
更に、熱伝導シートが含有し得る繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、及びそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。
【0033】
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0034】
そして、繊維状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、10超であることが好ましい。
なお、本発明において、「繊維状炭素材料のアスペクト比」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択した繊維状炭素材料100本の最大径(長径)と、最大径に直交する方向の外径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0035】
また、繊維状炭素材料の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均直径(Av)が上記下限以上であれば、繊維状炭素材料の凝集を抑制して繊維状炭素材料の分散性を高めることができるからである。また、繊維状炭素材料の平均直径(Av)が15nm以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を十分に高めることができるからである。
なお、「繊維状炭素材料の平均直径(Av)」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択した繊維状炭素材料100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0036】
更に、繊維状炭素材料の平均長さは、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5000μm以下であることが好ましい。
なお、本発明において、「繊維状炭素材料の平均長さ」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択した繊維状炭素材料100本の最大径(長径)を測定し平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
また、繊維状炭素材料のBET比表面積は、400m/g以上であることが好ましく、600m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましい。繊維状炭素材料のBET比表面積が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を十分に高めることができるからである。また、繊維状炭素材料のBET比表面積が上記上限以下であれば、繊維状炭素材料の凝集を抑制することができるからである。
【0038】
更に、上述した性状を有する繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物及びキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましい。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
ここで、スーパーグロース法により製造したSGCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0039】
そして、熱伝導シートにおける熱伝導性フィラーの含有割合は、特に限定されることなく、例えば、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導性フィラーを十分に含有させて、熱伝導シートの熱伝導性を十分に高めることができるからである。また、熱伝導性フィラーの含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの粘着性を一層高めることができるので、熱伝導シートの被着体に対する密着性を高めることができるからである。
【0040】
以下、上記のような熱伝導シートを効率的に製造することができる本発明の熱伝導シートの製造方法に含まれる各工程について、順次説明する。
【0041】
<一次複合シート形成工程>
一次複合シート形成工程においては、樹脂と熱伝導性フィラーとを含む複合材料をシート状に加圧して、23℃における引張強度が1.00MPa以下である一次複合シートを得る。
【0042】
[複合材料]
ここで、複合材料は、熱伝導シートを形成する全構成成分、即ち、上記した樹脂、熱伝導性フィラー、及び任意でその他の成分を混合して調製することができる。また、上述した成分の混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ミキサー等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、任意で有機溶剤等の溶媒の存在下で行ってもよい。そして、混合時間は、例えば5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0043】
[複合材料の成形]
そして、上述のようにして調製した複合材料は、任意で、脱泡、任意で用いた溶媒の除去、及び解砕した後に、加圧(一次加圧)してシート状に成形することができる。
ここで、複合材料は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されることなく、プレス成形、圧延成形又は押出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、複合材料は、圧延成形によりシート状に形成することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下とすることができる。
【0044】
[一次複合シートの性状]
そして、複合材料を加圧してシート状に成形してなる一次複合シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、一次複合シートは、引張強度が1.00MPa以下である必要がある。一次複合シートの引張強度は、0.80MPa以下であることが好ましく、0.60MPa以下であることがより好ましく、0.20MPa以上であることが好ましい。一次複合シートの引張強度が上記上限値以下であれば、得られる熱伝導シートの被着体との密着性を向上させることができる。また、一次複合シートの引張強度が上記下限値以上であれば、得られる熱伝導シートの崩壊耐性を一層低減することができる。ここで、引張強度は、用いる樹脂の種類、及び熱伝導性フィラーの配合量等に応じて制御することができる。
【0045】
<積層体形成工程>
積層体形成工程では、一次複合シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次複合シートを折畳又は捲回して、積層体を得る。
【0046】
ここで、積層体形成工程で得られる積層体において、一次複合シートの表面同士の接着力をより高めて、積層体の層間剥離を十分に抑制する場合には、一次複合シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体形成工程を行ってもよいし、一次複合シートの表面に接着剤を塗布した状態又は一次複合シートの表面に接着層を設けた状態で積層体形成工程を行ってもよいし、一次複合シートを積層させた積層体を積層方向に更に熱プレス(二次加圧)してもよい。
【0047】
なお、層間剥離を効率的に抑制する観点からは、得られた積層体を積層方向に二次加圧することが好ましい。そして、二次加圧の条件としては、特に限定されず、積層方向への圧力0.05MPa以上2.5MPa以下、温度は20℃以上170℃以下で10秒~90分間とすることができる。
【0048】
なお、一次シートを積層、折畳又は捲回して得られる積層体では、熱伝導性フィラーが積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。例えば、熱伝導性フィラーが粒子状炭素材料であり、その形状が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、積層方向に略直交していると推察される。
【0049】
<スライス工程>
スライス工程では、積層体形成工程にて得られた積層体をかんな式スライサーにより積層方向に対して45°以下の角度でスライス加工することで、積層体のスライス片よりなる、所定の厚みの熱伝導シートを得る。スライス工程を経て得られた熱伝導シートは、通常、樹脂、及び熱伝導性フィラーを含む条片(積層体を構成していた一次複合シートのスライス片)同士が並列接合されてなる構成を有する。
【0050】
ここで、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0051】
また、スライスする際の積層体の崩壊を抑制するとともに得られる熱伝導シートのカールを抑制する観点から、一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域でスライス工程を実施することが必要である。さらに、スライス工程を実施する温度領域は、一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率の範囲が以下の範囲、すなわち、1.10×108Pa以上となる範囲が好ましく、5.00×108Pa以下となる範囲が好ましく、4.00×108Pa以下となる範囲がより好ましい。貯蔵弾性率が上記下限値以上となる条件下であれば、積層体の崩壊を一層良好に抑制することができる。また、貯蔵弾性率が上記上限値以下となる条件下であれば、カールの発生をより効果的に抑制することができる。なお、スライス工程における積層体の貯蔵弾性率は、スライスを実施する加工空間内の温度条件を適切に制御することで、上記の適切な範囲とすることができる。
【0052】
さらに、スライスする際の積層体の崩壊を抑制するとともに得られる熱伝導シートのカールを抑制する観点から、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。
【0053】
以上説明した各種の工程を経て得られた熱伝導シートでは、厚み方向に熱伝導性フィラーが良好に配向している。例えば、熱伝導性フィラーが粒子状炭素材料で、形状が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、二次シートの厚み方向と略一致している。
【実施例0054】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、各種の測定及び評価は、それぞれ以下に従って実施した。
【0055】
<アクリル樹脂の重量平均分子量>
原材料としてのアクリル樹脂については、下記条件に従うゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量を測定した。GPCによる測定は、GPCシステム(東ソー社製、HLC-8220)により、Hタイプカラム(東ソー社製、HZ-M)2本を直列に連結して用い、テトラヒドロフランを溶媒として、カラム温度40℃で行った。また、検出器には、示差屈折計(東ソー社製、RI-8320)を用いた。
【0056】
<一次複合シートの引張強度>
実施例、比較例で作成した一次複合シートについて、JIS K7113に準拠したダンベル2号(ダンベル型、幅3mm、長さ70mm)を用いて打ち抜き成型し、試料を作製した。
引張試験機(株式会社島津製作所製、製品名「AG-IS20kN」)を用い、ロードセル:50N、チャック間距離:35mm、速度:50mm/分、温度:23℃の条件で引っ張り、破断強度(引張強度)を測定した。5つの試料片の測定値の平均値を、それぞれの一次複合シートの引張強度とした。
【0057】
<熱伝導性フィラーの配向角度>
実施例、比較例で製造した熱伝導シートを正方形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、この時の倍率は700倍であった。この断面における黒鉛粒子の長軸に50本線を引き、熱伝導シートの主面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°以上であった場合には補角を採用した。これを4面に対して実施し、4面のフィラー配向角度の平均値をフィラーの配向角度とした。熱伝導性フィラーの配向角度が90°に近いほど、熱伝導シートの熱伝導性が高いことを意味する。全ての実施例、比較例において、配向角度が60°以上であることを確認した。
【0058】
<熱伝導性フィラーの体積平均粒子径>
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA-960」)を使用し、懸濁液中に含まれる熱伝導性フィラー(膨張化黒鉛)の粒子径を測定した。そして、横軸を粒子径、縦軸を熱伝導性フィラーの体積とした体積基準の粒子径分布曲線を得て、その極大値における粒子径(モード径)を、熱伝導性フィラーの体積平均粒子径として求めた。
【0059】
<一次複合シートの貯蔵弾性率>
実施例、比較例で作成した一次複合シートを12.7×50.0mmのサイズにカットし、試料を作製した。回転式レオメーター(TAインスツルメント製、型式「ARES-G2」)を使用し、温度:-40℃~40℃、昇温速度:2℃/min、周波数:1Hz、歪み:0.25%の条件で貯蔵弾性率を測定した。3つの試料片の測定値の平均値をそれぞれの一次複合シートの貯蔵弾性率とした。
【0060】
<熱伝導シートの崩壊耐性>
スライス工程において積層体のスライサーのステージに擦る面のスライス前後の寸法変化をノギス(標準ABSデジマチックキャリパ、株式会社ミツトヨ製)にて測定した。プレ熱伝導シートの積層方向に平行な方向において積層体の端面から1cmの箇所を左右1か所ずつと、プレ熱伝導シートの積層方向に垂直な方向において積層体の端面から1cmの箇所を左右1か所ずつの計4か所をスライス前後で測定し、得られた熱伝導シートの外観と併せて下記基準に従って評価した。
なお、寸法変化率は以下のとおり算出した。
寸法変化率(%)=(スライス後の4か所寸法平均値÷スライス前の4か所寸法平均値-1)×100
A:寸法変化率が2%以下であり、裂けの発生が認められない。
B:寸法変化率が2%超であるが、裂けの発生は認められない。
C:寸法変化率が2%超であるとともに、裂けの発生が認められる。
【0061】
<熱伝導シートのカール>
熱伝導シートのカールを評価するに際しては、1)目視によるカールの有無の評価;2)定規を用いた測定の2つのステップにより評価を実施した。まず、1)目視により、カールの有無を評価し、カールが認められなかった場合を良好(A)として評価した。次に、カールが認められたものについては、下記のようにして2)定規を用いた測定を実施して評価した。
図1及び図2を参照して、上記2)のステップでの熱伝導シートのカールの評価方法を説明する。図1、2に、カール評価対象とする例示的な熱伝導シート10、20の概略図を示す。熱伝導シート10、20はそれぞれカール発生領域11、21を含んでいる。カール発生領域11、21は、面精度が要求される熱伝導シートにおいては、製品する際に余剰部分となりうる領域である。よって、カール発生領域11、21の面積は少ないほど、製品歩留まりが向上するため好ましい。ここで、熱伝導シート製品は矩形状でありうる。このためかかる矩形状の熱伝導シート製品をできるだけ大面積で切り出すことができる熱伝導シートが得られることが好ましい。図1に示す熱伝導シート10においては、最大の矩形状領域はR1であり、かかる領域Rの短辺はL1である。図2についても同様である。評価に際しては、まず、矩形状領域R1、Rを定義し、その長辺(短辺L、Lにそれぞれ直行する辺)の長さが、スライス工程を経て得られた熱伝導シート10、20自体の一辺の長さの約85%以上(すなわち、150mmの85%である127.5mmよりも大きい130mm以上)であるか否かを判定した。その結果85%未満である場合は評価対象外としたが、今回の実施例、比較例ではこれに該当するものはなかった。さらに、長辺が130mm以上であったサンプルについて、短辺L,Lの長さをそれぞれ測定して、それがスライス工程を経て得られた熱伝導シート10、20自体の一辺の長さの40%以上(すなわち、150mmの40%である60mm以上)であるか否かを判定した。これを満たす場合に、カール評価をB評価とし、満たさない場合にC評価とした。
【0062】
<粘着性>
熱伝導シートの粘着性の測定は、プローブタック試験機(株式会社レスカ製、商品名「TAC1000」)を用いて、25℃の温度雰囲気下で、ステージ上に載せたリッド上でφ5mmのフラットな円形状のプローブの先端にφ4mmに打ち抜いた熱伝導シートを両面テープで張り付けた状態で、0.5MPaの圧力で10秒間押し付け、熱伝導シートを取り付けたプローブをリッドから引き離すときに要する力を測定することにより行った。粘着性の測定値は、熱伝導シートの被着体、例えば金属に対する密着性の指標となり、測定値が大きいほど、金属などの被着体に対する密着性に優れることを示す。
【0063】
(実施例1)
<複合材料の調製>
常温常圧下で液体の樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)36部と、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC2211」)22部と、常温常圧下で液体の樹脂としての重量平均分子量6000の水酸基含有液体アクリルポリマー(東亞合成株式会社製、商品名「ARUFON(登録商標) UH-2190」)42部と、熱伝導性フィラーとして膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、体積平均粒子径:50μm)90部とを、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT型」)を用いて5分間攪拌混合した。得られた混合物を30分真空脱泡し、複合材料である組成物を得た。そして、得られた組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
<一次複合シートの形成>
次いで、解砕した組成物1kgを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)ではさみ、ロール間隙600μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.8mmの一次複合シートを得た。得られた一次複合シートについて上記に従って引張強度を測定した、
<積層体の形成>
続いて、得られた一次複合シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、一次複合シートの厚み方向に190枚積層し、さらに、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約150mmの積層体を得た。
<スライス工程による熱伝導シートの形成>
その後、二次加圧された積層体の積層側面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、スライサーの加工空間内の温度が15℃の状態で、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層された一次複合シートの主面の法線方向に)スライスすることにより縦150mm×横150mm×厚み0.15mmの熱伝導シートを得た。
そして、スライス後の積層体と、得られた熱伝導シートについて上述の方法に従って、各種の測定及び評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
スライス工程におけるスライサーの加工空間内の温度を0℃とした以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
スライス工程におけるスライサーの加工空間内の温度を18℃とした以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
複合材料の調製において、実施例1で用いた常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を85部に、実施例1で用いた常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を15部に、実施例1で用いたアクリルポリマーの量を0部に、実施例1で用いた膨張化黒鉛を70部に、それぞれ変更し、スライス工程におけるスライサーの加工空間内の温度を23℃とした以外は、実施例1と同様にして各種の操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例5)
複合材料の調製において、実施例1で用いた常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を55部に、実施例1で用いた常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を20部に、実施例1で用いたアクリルポリマーの量を25部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして各種の操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例6)
複合材料の調製において、アクリルポリマーとして、実施例1で用いたアクリルポリマーに代えて、重量平均分子量11,000の水酸基含有液体アクリルポリマー(東亞合成株式会社製、商品名「ARUFON(登録商標) UH-2000」)を用いた以外は、実施例1と同様にして各種の操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
スライス工程におけるスライサーの加工空間内の温度を23℃とした以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
スライス工程におけるスライサーの加工空間内の温度を―10℃とした以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして各種の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例3)
複合材料の調製において、実施例1で用いた常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を70部に、実施例1で用いた常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を30部に、実施例1で用いたアクリルポリマーの量を0部に、それぞれ変更し、スライス工程におけるスライサーの加工空間内の温度を23℃とした以外は、実施例1と同様にして、各種の操作、測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1より、引張強度が1.00MPa以下である一次複合シートを用いて形成した積層体のスライスを、一次複合シートの周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が0.90×108Pa以上8.00×108Pa以下となる温度領域で行った実施例1~6にて得られた熱伝導シートでは、崩壊耐性、カール発生抑制、及び粘着性が高いレベルで並立されていたことが分かる。一方、スライス工程の条件が上記貯蔵弾性率に関する条件を満たさない比較例1及び2、さらに、引張強度が1.00MPa超である比較例3で得られた熱伝導シートでは、実施例に匹敵する効果が得られなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、製造時において崩壊耐性に優れるとともにカールが少なく、さらには、粘着性に優れる熱伝導シートの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
10,20 熱伝導シート
11,21 カール発生領域
、R 矩形状領域
,L 短辺
図1
図2