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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146440
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059336
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】蔵谷 祥太
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA26
4F071AB03
4F071AF15Y
4F071AF44
4F071AH12
4F071BB04
4F071BB13
4F071BC01
(57)【要約】
【課題】熱伝導性及び崩壊耐性に優れる熱伝導シートを提供する。
【解決手段】常温常圧下で液体の樹脂と熱伝導性フィラーを含む熱伝導シートであって、低強度組成部と、低強度組成部の外周の少なくとも一部に配置された高強度組成部とを有し、低強度組成部及び高強度組成部がこれらの接触面において一体化してなり、低強度組成部及び高強度組成部の双方において熱伝導性フィラーが、熱伝導シートの厚み方向に配向してなる、熱伝導シートである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートは、
低強度組成部と、前記低強度組成部の外周の少なくとも一部に配置され、前記低強度組成部よりも強度の高い高強度組成部とを有し、
前記低強度組成部及び前記高強度組成部は、それぞれ、常温常圧下で液体の樹脂と熱伝導性フィラーとを少なくとも含み、これらは、同一又は異なっていてもよく、
前記低強度組成部及び前記高強度組成部がこれらの接触面において一体化してなり、
前記低強度組成部及び前記高強度組成部の双方において前記熱伝導性フィラーが、前記熱伝導シートの厚み方向に配向してなる、熱伝導シート。
【請求項2】
前記高強度組成部の引張強度が0.50MPa以上1.50MPa以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
常温常圧下で液体の樹脂と、熱伝導性フィラーとを含む、熱伝導シートの製造方法であって、
複数枚の矩形状のプレ熱伝導シートを積層してプレ複合積層体を得て、該プレ複合積層体を積層方向に加圧することにより、少なくとも一面が高強度組成部よりなり、その他の部分が低強度組成部よりなる、直方体状の複合積層体を得る複合積層体形成工程と、
前記複合積層体を、前記積層方向に対して45°以下の角度でスライス部材によりスライスして前記熱伝導シートを得るスライス工程と、
を含み、
前記低強度組成部及び前記高強度組成部は、それぞれ、常温常圧下で液体の樹脂と熱伝導性フィラーとを少なくとも含み、これらは、同一又は異なっていてもよく、
前記スライス工程における前記複合積層体と前記スライス部材との位置関係が、下記(i)及び(ii)を満たすようにする、熱伝導シートの製造方法。
(i)前記スライス部材が前記複合積層体から一枚の前記熱伝導シートをスライスする際に、スライスの完了直前に、前記スライス部材が前記複合積層体をスライスする位置が、前記複合積層体の前記高強度組成部を含むようにすること;及び
(ii)前記複合積層体が、複数面に前記高強度組成部を有する場合には、得られる前記熱伝導シートの4辺のうちの複数辺に前記複数の高強度組成部が配置されるようにすること。
【請求項4】
前記複合積層体形成工程において、
低強度組成物と、該低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物とを用いて、ロールプレス成形することで、低強度部分の少なくとも一端部に隣接して、高強度部分が配置されてなる、前記プレ熱伝導シートとしての異種組成複合シートを形成する操作、及び、
前記プレ熱伝導シートとしての前記異種組成複合シートを複数枚積層して前記プレ複合積層体を形成するにあたり、前記プレ複合積層体の積層方向に沿う少なくとも1面に、前記高強度部分が前記プレ複合積層体の積層方向に沿うその他の3面よりも高頻度で集中するように積層して、前記プレ複合積層体を形成する操作を含む、請求項3に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記複合積層体形成工程において、前記プレ複合積層体の底面又は上面のうちの少なくとも一方に、前記低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物を加圧して矩形のシート状に成形してなる、高強度プレ熱伝導シートを少なくとも1枚積層してから、該少なくとも一枚の高強度プレ熱伝導シートと共に前記プレ複合積層体を前記積層方向に加圧する、
請求項4に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記複合積層体形成工程において、
前記プレ熱伝導シートとして、低強度組成物よりなる低強度プレ熱伝導シートを、厚み方向に複数枚積層して直方体状の低強度積層体を形成するとともに、前記低強度積層体の底面又は上面のうちの少なくとも一方に、前記低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物を加圧して矩形のシート状に成形してなる、高強度プレ熱伝導シートを少なくとも1枚積層して前記プレ複合積層体を得てから、前記積層方向に加圧する、
請求項3に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、通常、熱伝導率が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介在させた状態で発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
従来から、熱伝導シートに関しては様々な構造を有するシートが提案されてきた。例えば特許文献1では、導電性フィラーが含有された第1のシート部と、上記第1のシート部の外周部に配され、絶縁性を有する第2のシート部とを有し、上記第1のシート部と上記第2のシート部とが一体成型されることにより、上記第1のシート部の外周面と上記第2のシート部の内周面とが密着されている熱伝導シートが提案されている。また、例えば特許文献2では、熱伝導フィラーと、熱可塑性材料とを含有する熱伝導シート部と、熱伝導シート部の少なくとも一方の表面における外周部を覆う外枠部と、を備える熱伝導シートが提案されている。ここで、特許文献2の熱伝導シートに備えられる外枠部は、不織布、金属材料又は高分子材料から構成される多孔質材料、貫通孔を有する金属材料又は高分子材料からなる群より選択される少なくとも一つから形成されたものでありうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-216399号公報
【特許文献2】特開2018-98349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、熱伝導シートには、熱伝導性に加え、その製造時応力が加えられた場合にも崩壊しにくいこと、すなわち崩壊耐性に優れることも求められている。しかし、上記従来の熱伝導シートには、熱伝導性を確保しつつ崩壊耐性も高めるという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、熱伝導性及び崩壊耐性に優れる熱伝導シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導シートであって、低強度組成部と、低強度組成部の外周の少なくとも一部に配置された高強度組成部とを有し、低強度組成部及び高強度組成部がこれらの接触面において一体化してなり、低強度組成部及び高強度組成部の双方において熱伝導性フィラーが、熱伝導シートの厚み方向に配向してなる、熱伝導シートが、熱伝導性及び崩壊耐性に優れることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明の熱伝導シートは、常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導シートであって、前記熱伝導シートは、低強度組成部と、前記低強度組成部の外周の少なくとも一部に配置され、前記低強度組成部よりも強度の高い高強度組成部とを有し、前記低強度組成部及び前記高強度組成部は、それぞれ、常温常圧下で液体の樹脂と熱伝導性フィラーとを少なくとも含み、これらは、同一又は異なっていてもよく、前記低強度組成部及び前記高強度組成部がこれらの接触面において一体化してなり、前記低強度組成部及び前記高強度組成部の双方において前記熱伝導性フィラーが、前記熱伝導シートの厚み方向に配向してなることを特徴とする。このような熱伝導シートは、熱伝導性及び崩壊耐性に優れている。なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。また、「配向」とは、本明細書の実施例に従って測定した熱伝導性フィラーの配向角度が60°以上であることを意味する。
【0010】
[2]ここで、上記[1]の熱伝導シートは、前記高強度組成部の引張強度が0.50MPa以上1.50MPa以下であることが好ましい。かかる熱伝導シートは、崩壊耐性に一層優れる。なお、熱伝導シートにおける「引張強度」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0011】
[3]この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、常温常圧下で液体の樹脂と、熱伝導性フィラーとを含む、熱伝導シートの製造方法であって、複数枚の矩形状のプレ熱伝導シートを積層してプレ複合積層体を得て、該プレ複合積層体を積層方向に加圧することにより、少なくとも一面が高強度組成部よりなり、その他の部分が低強度組成部よりなる、直方体状の複合積層体を得る複合積層体形成工程と、前記複合積層体を、前記積層方向に対して45°以下の角度でスライス部材によりスライスして前記熱伝導シートを得るスライス工程と、を含み、前記低強度組成部及び前記高強度組成部は、それぞれ、常温常圧下で液体の樹脂と熱伝導性フィラーとを少なくとも含み、これらは、同一又は異なっていてもよく、前記スライス工程における前記複合積層体と前記スライス部材との位置関係が、下記(i)及び(ii)を満たすようにすることを特徴とする。
(i)前記スライス部材が前記複合積層体から一枚の前記熱伝導シートをスライスする際に、スライスの完了直前に、前記スライス部材が前記複合積層体をスライスする位置が、前記複合積層体の前記高強度組成部を含むようにすること。
(ii)前記複合積層体が、複数面に前記高強度組成部を有する場合には、得られる前記熱伝導シートの4辺のうちの複数辺に前記複数の高強度組成部が配置されるようにすること。
かかる製造方法によれば、熱伝導性に優れる熱伝導シートの崩壊を抑制しつつ効率的に製造することができる。
【0012】
[4]更に、上記[3]の熱伝導シートの製造方法において、前記複合積層体形成工程において、低強度組成物と、該低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物とを用いて、ロールプレス成形することで、低強度部分の少なくとも一端部に隣接して、高強度部分が配置されてなる、前記プレ熱伝導シートとしての異種組成複合シートを形成する操作、及び、前記プレ熱伝導シートとしての前記異種組成複合シートを複数枚積層して前記プレ複合積層体を形成するにあたり、前記プレ複合積層体の積層方向に沿う少なくとも1面に、前記高強度部分が前記プレ複合積層体の積層方向に沿うその他の3面よりも高頻度で集中するように積層して、前記プレ複合積層体を形成する操作を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、効率的に崩壊耐性に優れる熱伝導シートを製造することができる。
【0013】
[5]また、上記[4]の熱伝導シートの製造方法において、前記複合積層体形成工程において、前記プレ複合積層体の底面又は上面のうちの少なくとも一方に、前記低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物を加圧して矩形のシート状に成形してなる、高強度プレ熱伝導シートを少なくとも1枚積層してから、該少なくとも一枚の高強度プレ熱伝導シートと共に前記プレ複合積層体を前記積層方向に加圧することが好ましい。かかる製造方法によれば、一層効率的に崩壊耐性に優れる熱伝導シートを製造することができる。
【0014】
[6]ここで、上記[3]の熱伝導シートの製造方法において、前記複合積層体形成工程において、前記プレ熱伝導シートとして、低強度組成物よりなる低強度プレ熱伝導シートを、厚み方向に複数枚積層して直方体状の低強度積層体を形成するとともに、前記低強度積層体の底面又は上面のうちの少なくとも一方に、前記低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物を加圧して矩形のシート状に成形してなる、高強度プレ熱伝導シートを少なくとも1枚積層して前記プレ複合積層体を得てから、前記積層方向に加圧ことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱伝導性及び崩壊耐性に優れる熱伝導シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従う熱伝導シートの一例の概略構造である。
図2】他の態様にかかる本発明の熱伝導シートの概略構造である。
図3】さらに他の態様にかかる本発明の熱伝導シートの概略構造である。
図4】本発明に従う熱伝導シートの製造方法の一例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
【0018】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含む熱伝導シートである。かかる熱伝導シートは、低強度組成部と、該低強度組成部の外周の少なくとも一部に配置され、低強度組成部よりも強度の高い高強度組成部とを有している。そして、低強度組成部及び高強度組成部は、それぞれ、常温常圧下で液体の樹脂と熱伝導性フィラーとを少なくとも含み、これらは、同一又は異なっていてもよい。さらに、低強度組成部及び高強度組成部がこれらの接触面において一体化してなり、低強度組成部及び高強度組成部の双方において熱伝導性フィラーが、熱伝導シートの厚み方向に配向してなることを特徴とする。ここで、熱電伝導性フィラーの配向方向は、熱伝導シートの主面方向に対して60°以上90°以下である。熱伝導性フィラーの配向状態は、本明細書の実施例に記載の方法に従って確認することができる。高強度組成部及び低強度組成部が共に常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含み、さらに、上記したように、低強度組成部及び高強度組成部の双方、言い換えれば、熱伝導シートの全面において熱伝導性フィラーが厚み方向に配向しているため、本発明の熱伝導シートは熱伝導性に優れている。そして、かかる熱伝導シートにおいては熱伝導シートの外周の少なくとも一部に配置された高強度組成部により、熱伝導シートの崩壊耐性が高まっている。さらに、被着体に対して熱伝導シートを密着させて使用する際には、被着体由来の熱に起因して熱伝導シートの特に低強度組成部が緩みブリードアウト等が生じる蓋然性が高まるが、そのような状況においても、高強度組成部が熱伝導シートの外周の少なくとも一部、好ましくは全周に存在していれば、その強度によりブリードアウト等の発生を抑制するという効果を見込むこともできる。
【0019】
ここで、本発明の熱伝導シートは、複数の条片を並列接合してなるものでありうる。この場合、各条片は、それぞれ常温常圧下で液体の樹脂及び熱伝導性フィラーを含み、且つ、各条片内にいて、熱伝導シートの厚み方向に、熱伝導性フィラーが配向している。熱伝導シートの外周の少なくとも一部を構成する一又は複数の条片、及び、熱伝導シートの外周の少なくとも一部を構成する条片の一部の、双方又は少なくとも一方が、高強度組成部を成し、その内側の低強度組成部を構成する複数の条片よりも強度、具体的には引張強度が高い。
【0020】
以下、本発明の熱伝導シートの構成要素に関し順次説明する。
【0021】
<常温常圧下で液体の樹脂>
常温常圧下で液体の樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、常温常圧下で液体の樹脂としては、アクリル樹脂及びフッ素樹脂の少なくともいずれかを含むことが好ましく、フッ素樹脂を含むことがより好ましい。
【0022】
ここで、常温常圧下で液体のフッ素樹脂としては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロペンテン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体などの、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、デュポン株式会社製のバイトン(登録商標)LM、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-101、スリーエム株式会社製のダイニオン(登録商標)FC2210、信越化学工業株式会社製のSIFELシリーズなどが挙げられる。
【0023】
また、常温常圧下で液体のアクリル樹脂としては既知のものを用いることができる。ここで、「アクリル樹脂」とは、繰り返し単位として、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及び任意で(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と称する。)を含む重合体をいう。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。常温常圧下で液体のアクリル樹脂としては、分子量が所定値以下のものを好適に用いることができる。アクリル樹脂の重量平均分子量は、2万以下であることが好ましく、1万以下がより好ましく、9,000以下が更に好ましく、8,000以下が更により好ましく、7,000以下が特に好ましい。常温常圧下で液体のアクリル樹脂として、このような重量平均分子量が低いアクリル樹脂を用いることにより、本発明の熱伝導シートに粘着性が付与されうる。また、常温常圧下で液体のアクリル樹脂の重量平均分子量は、例えば、200以上、好ましくは500以上、より好ましくは700以上、更に好ましくは1,000以上、一層好ましくは1,500以上、一層好ましくは2,000以上、一層好ましくは2,500以上であってもよい。
【0024】
市販されている常温常圧下で液体のアクリル樹脂の例としては、東亞合成社製の「ARUFON UP-1000」、「ARUFON UP-1010」、「ARUFON UP-1020」、「ARUFON UP-1021」、「ARUFON UP-1061」、「ARUFON UP-1080」、「ARUFON UP-1110」、「ARUFON UP-1170」、「ARUFON UP-1190」、「ARUFON UP-1500」、「ARUFON UH-2000」、「ARUFON UH-2041」、「ARUFON UH-2190」、「ARUFON UC-3510」、「ARUFON UG-4010」、「ARUFON US-6100」、「ARUFON US-6170」、綜研化学社製「アクトフロー UT-1001、UMM-1001」等が挙げられる。
【0025】
ここで、被着体との密着性を高めて一層良好な熱伝導性を発揮する観点から、本発明の熱伝導シートを構成する低強度組成部が、上記した常温常圧下で液体のアクリル樹脂を含有することが好ましい。
【0026】
ここで、本発明の熱伝導シートは、任意に、常温常圧下で液体の樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。かかる樹脂としては常温常圧下で個体の樹脂が挙げられる。そのような樹脂としては、例えば、常温常圧下で個体のフッ素樹脂が挙げられる。常温常圧下で固体のフッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物及びポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物などの、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-300シリーズ/G-700シリーズ/G-7000シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ(ポリオール加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元系共重合体)、ダイエルG-800シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体)、ダイエルG-900シリーズ(パーオキサイド加硫・ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ(フッ化ビニリデン系フッ素樹脂)、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ(ビニリデンフロライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン3元系共重合体);ケマーズ社製のA-100(ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン2元系共重合体);などが挙げられる。
【0027】
そして、本発明の熱伝導シートの低強度組成部及び高強度組成部中の常温常圧下で液体の樹脂の含有割合は、特に限定されることなく、樹脂全体を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以下であることが好ましい。常温常圧下で液体の樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの低強度組成部及び高強度組成部の柔軟性を効果的に高めることができるので、被着体との密着性を高めて一層高い熱伝導性を発揮することができる。また、常温常圧下で液体の樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導性フィラーを十分に含有させることにより、熱伝導シートの熱伝導性を十分に高めることができる。
【0028】
[熱伝導性フィラー]
熱伝導性フィラーは、熱伝導シートに優れた熱伝導性を付与する。そして、熱伝導性フィラーとしては、特に限定されることなく、金属製充填材や炭素製充填材などの既知の熱伝導性フィラーを用いることができる。中でも、熱伝導性フィラーとしては、粒子状炭素材料及び繊維状炭素材料などの炭素材料を用いることが好ましく、粒子状炭素材料を用いることがより好ましい。
【0029】
ここで、粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性をより向上させることができるからである。
【0030】
なお、膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0031】
そして、粒子状炭素材料の体積平均粒子径は、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、熱伝導シートに粒子状炭素材料の伝熱パスをより良好に形成し、熱伝導シートに優れた熱伝導性を発揮させ得るからである。また、粒子状炭素材料の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、表面が平滑で熱伝導性に優れた熱伝導シートが得られるからである。なお、本発明において、「体積平均粒子径」とは、レーザー回折法を用いて測定された体積基準の粒子径分布における極大値(モード径)を指す。そして、粒子状炭素材料の体積平均粒子径の測定は、特に限定されることなく、例えば熱伝導シートに含まれている樹脂に対する良溶媒を用いて樹脂を溶解させる等の任意の手法を用いて熱伝導シートから粒子状炭素材料を取り出して行うことができる。
【0032】
また、粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、「粒子状炭素材料のアスペクト比」は、条片の厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0033】
更に、熱伝導シートが含有し得る繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、及びそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。
【0035】
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0036】
そして、繊維状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、10超であることが好ましい。
なお、本発明において、「繊維状炭素材料のアスペクト比」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択した繊維状炭素材料100本の最大径(長径)と、最大径に直交する方向の外径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
また、繊維状炭素材料の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均直径(Av)が上記下限以上であれば、繊維状炭素材料の凝集を抑制して繊維状炭素材料の分散性を高めることができるからである。また、繊維状炭素材料の平均直径(Av)が15nm以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を十分に高めることができるからである。
なお、「繊維状炭素材料の平均直径(Av)」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択した繊維状炭素材料100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0038】
更に、繊維状炭素材料の平均長さは、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5000μm以下であることが好ましい。
なお、本発明において、「繊維状炭素材料の平均長さ」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を使用し、無作為に選択した繊維状炭素材料100本の最大径(長径)を測定し平均値を算出することにより求めることができる。
【0039】
また、繊維状炭素材料のBET比表面積は、400m/g以上であることが好ましく、600m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましい。繊維状炭素材料のBET比表面積が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を十分に高めることができるからである。また、繊維状炭素材料のBET比表面積が上記上限以下であれば、繊維状炭素材料の凝集を抑制することができるからである。
【0040】
更に、上述した性状を有する繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物及びキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましい。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
ここで、スーパーグロース法により製造したSGCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0041】
そして、低強度組成部及び高強度組成部の熱伝導性フィラーの含有割合は、特に限定されることなく、低強度組成部及び高強度組成部の合計質量を100質量%として、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導性フィラーを十分に含有させて、熱伝導シートの熱伝導性を十分に高めることができるからである。また、熱伝導性充填材の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を高めることができるので、熱伝導シートの被着体に対する密着性を高めることができるからである。
【0042】
[低強度組成部及び高強度組成部の性状]
低強度組成部及び高強度組成部の構成成分である樹脂及び熱伝導性フィラーは、それぞれ、相互に同一であっていても異なっていてもよい。また、低強度組成部及び高強度組成部は、その強度において相異なるが、低強度組成部の引張強度は0.50MPa未満であり、高強度組成部の強度は0.50MPa以上1.50MPa以下であることが好ましい。熱伝導シートの崩壊耐性を一層高めることができるからである。さらに、低強度組成部の引張強度が0.45MPa以下であることが好ましく、0.40MPa以下であることがより好ましい。また、熱伝導シートの崩壊耐性を一層高める観点からは、高強度組成部の引張強度が0.65MPa以上であることがより好ましく、0.70MPa以上であることがより好ましい。ここで、引張強度は、用いる樹脂の種類、及び熱伝導性フィラーの配合量等に応じて制御することができる。
【0043】
<熱伝導シートの構造>
図1を参照して、一例にかかる本発明の熱伝導シートの概略構造を説明する。図1に示す熱伝導シート10においては、低強度組成部11の外周に高強度組成部12が配置されている。そして、熱伝導シートは複数の条片101、102のなかで隣接する条片同士が長手方向(図示例では左右方向)に延びる辺を共有するように(図示例では上下方向に)接合されている。接合は、樹脂成分の接着力や、任意に条片間に配置される接着層などの既知の手段を用いて達成されうる。条片101は、低強度部分101aの両端に高強度部分101bが配置されてなる。低強度部分101a及び高強度部分101bは、一体成形されてなる。一方、熱伝導シート1の長手方向に対して直交する方向(図示例では上下方向)において上下にそれぞれ配置された条片102は、後述する高強度プレ熱伝導シートに由来するものであり、条片101の高強度部分101bと同等の強度を有する。なお、図示例では、複数の条片101、102の幅が略等しい場合を示しているが、複数の条片101、102の幅は異なっていてもよい。また、熱伝導シート10を構成する複数の条片101、102の数及び存在比も、適宜変更することができる。更に、熱伝導シート10は、複数の条片101、102の条片を含んでいてもよい。但し、熱伝導シートの熱伝導性を良好に向上させる観点、及び、生産性の観点から、熱伝導シートは、複数の条片101、102のみからなることが好ましい。
【0044】
図1に例示した熱伝導シート10では、低強度組成部11の外周に高強度組成部12が配置されているため、シート製造時に高強度組成部12によりシートの崩壊が抑制され、崩壊耐性に優れている。また、複数の条片101、102のそれぞれにおいて熱伝導性フィラーがシートの厚み方向に配向しているため、良好な熱伝導性も担保されている。
【0045】
図1にいては、低強度組成部11の外周全周にわたり高強度組成部12が配置されているが、図示の態様にかかわらず、例えば、低強度組成部11の外周の一辺のみに、高強度組成部12が存在していてもよい。熱伝導シートの崩壊耐性を高める観点からは、熱伝導シートが矩形シートである場合に、低強度組成部11の外周の2辺以上に高強度組成部12が配置されていることが好ましい。
【0046】
ここで、熱伝導シート10を構成する条片の合計数は、特に限定されることなく、例えば、10本以上とすることが好ましく、50本以上とすることがより好ましく、100本以上とすることが更に好ましく、400本以下とすることが好ましく、300本以下とすることがより好ましい。熱伝導シートを構成する条片の合計数が上記範囲内であれば、熱伝導シートを容易に製造することができるからである。
【0047】
図2に、他の態様にかかる本発明の熱伝導シートの概略構造を示す。条片201は、低強度部分201aの片側端部に高強度部分201bが接合してなる。また、条片202は、全体が高強度部分201bに匹敵する強度を有する。図2に示した配置態様より明らかなように、本態様にかかる熱伝導シート20は、低強度組成部21の外周全体ではなく、2辺のみに高強度組成部22が配置されてなる。このような配置態様で高強度組成部22を有する熱伝導シート20においても、崩壊耐性を発揮し得る。尚、崩壊耐性を一層効果的に高める観点から、図2に示したように矩形状の熱伝導シートが2辺に高強度組成部22を有する場合に、これらの高強度組成部22は対向する辺ではなく、互いに交わる2辺に配置されることが好ましい。
【0048】
図3に、他の態様にかかる本発明の熱伝導シートの概略構造を示す。条片301Aは、低強度部分301aの両側端部に高強度部分301bが接合してなる。また、条片301Bは、低強度部分301aのみからなる。さらに、条片302は、全体が高強度部分301bに匹敵する強度を有する。図3に示した配置態様より明らかなように、本態様にかかる熱伝導シート30は、外周全体にわたり高強度組成部を有するものの、その一部が断続的な状態となっている。別の言い方をすれば、高強度組成部32の一部に低強度組成部31が入り込み、全体として強度分布が不均一な状態となっている。しかし仮にこのような配置態様であっても、高強度組成部全体として、低強度組成部よりも高強度であれば、熱伝導シートの崩壊耐性を効果的に高めることができる。
【0049】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、複数枚の矩形状のプレ熱伝導シートを積層してプレ複合積層体を得て、該プレ複合積層体を積層方向に加圧することにより、少なくとも一面が高強度組成部よりなり、その他の部分が低強度組成部よりなる、直方体状の複合積層体を得る複合積層体形成工程と、複合積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライス部材によりスライスして前記熱伝導シートを得るスライス工程とを含むことと特徴とする。さらに、スライス工程における前記複合積層体と前記スライス部材との位置関係が、後述する特定の2要件(i)及び(ii)を満たすようにすることを必要とする。かかる製造方法によれば、熱伝導性及び崩壊耐性に優れる本発明の熱伝導シートを効率的に製造することができる。理解を促進する目的の下、図4に、一例に従う製造方法を概略図示した。かかる一例においては、(a)に示すように、矩形状のプレ熱伝導シート(異種組成複合シート)401として、対向する2つの辺に高強度部分401bを有し、これらの高強度部分に両端が隣接し一体化してなる低強度部分401aを有する、プレ熱伝導シート401を用いている。さらに、(b)に示すように、プレ熱伝導シート401を複数枚積層したプレ複合積層体の上下面にそれぞれ、複数枚の高強度プレ熱伝導シート402を積層して直方体状の複合積層体4を得ている。複合積層体4においては、低強度組成部11の外周に高強度組成部12が配置されている。さらに、(c)に示すように、得られた複合積層体4を矢印Dで示す方向にスライス部材でスライスして、(d)に示す熱伝導シート10を得ることができる。
【0050】
<複合積層体形成工程>
複合積層体形成工程では、複数枚の矩形状のプレ熱伝導シートを積層してプレ複合積層体を得て、該プレ複合積層体を積層方向に加圧することにより、少なくとも一面が高強度組成部よりなり、その他の部分が低強度組成部よりなる、直方体状の複合積層体を得る。プレ複合積層体を積層方向に加圧することにより、相互に隣接するプレ熱伝導シート同士が密着して接合(一体化)し得る。この際、熱伝導性フィラーが主として各シートにおける面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
【0051】
矩形状のプレ熱伝導シートとしては、常温常圧下で液体の樹脂と、熱伝導性フィラー、及びその他の任意含有成分(例えば、常温常圧下で固体の樹脂)とを含む、矩形状のシートを用いることができる。かかる「常温常圧下で液体の樹脂」、「熱伝導性フィラー」、及び「常温常圧下で固体の樹脂」としては、上記列挙したものが挙げられ、その好適な配合割合などについても上記した通りである。そして、矩形状のプレ熱伝導シートは、常温常圧下で液体の樹脂と、熱伝導性フィラー、及びその他の任意含有成分を含む組成物を加圧してシート状に成形し、矩形状に切断することにより得ることができる。かかる加圧の際に、熱伝導性フィラーが主としてシートの面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
【0052】
なお、上述した組成物は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ミキサー等の既知の混合装置を用いて上述した成分を混合することにより、得ることができる。そして、混合は、有機溶剤等の溶媒の存在下で行ってもよい。また、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、ロールプレス成形、プレス成形、圧延成形又は押出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0053】
ここで、複合積層体形成工程は大別して二通りの操作によって実施することができる。第一の操作は異種組成複合シートを用いる操作であり、第二の操作は異種組成複合シートを用いない操作である。
【0054】
まず、異種組成複合シートを用いる操作について説明する。まず、低強度組成物と、該低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物とを用いて、ロールプレス成形することで、低強度部分の少なくとも一端部に隣接して、高強度部分が配置されてなる異種組成複合シートを形成することができる。かかる方途に従って異種組成複合シートを形成することで、低強度部分と高強度部分が良好に一体化してなる異種組成複合シートを効率的に形成することができる。また、ロールプレス成形の際に加圧されることで、熱伝導性フィラーが主としてシートの面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。次に、得られた異種組成複合シートを複数枚積層して、プレ複合積層体を形成する。この際、プレ複合積層体の積層方向に沿う少なくとも1面に、異種組成複合シートの高強度部分が、プレ複合積層体の積層方向に沿うその他の3面よりも高頻度で集中するように積層する。このようにして積層することで、異種組成複合シートが高頻度で集中した、積層方向に沿う少なくとも1つの側面が、複合積層体における高強度組成部となる。さらに、低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物を加圧して矩形のシート状に成形して高強度プレ熱伝導シート得て、これを、プレ複合積層体の底面又は上面のうちの少なくとも一方に配置することができる。なお高強度組成物の加圧の際に、熱伝導性フィラーが主としてシートの面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
【0055】
上記したような操作を経て、複合積層体の積層方向上面及び/又は底面に高強度組成部を配置することができる。このようにして得られた、上面又は底面のうちの少なくとも一方又は双方に高強度プレ熱伝導シートが配置されてなるプレ複合積層体を積層方向に加圧することで、隣接するプレ熱伝導シート同士を接合(一体化)して、積層方向に沿う少なくとも一つの側面と、上面及び/又は底面とが高強度組成部となっている複合積層体を得ることができる。尚、例えば図4の例において得られた(b)(c)に示す複合積層体4では、ハッチングした領域、すなわち、積層方向に沿う2面、上面、及び底面のトータル4面が高強度組成部となっている複合積層体4が得られている。このように、周囲の少なくとも一部、図4に示した態様では全周に高強度組成物が配置されている複合積層体4をスライスすることで、スライス時における熱伝導シートの崩壊を効果的に抑制することができる。また、異種組成複合シートを用いることによって、高強度部分の位置を合わせながらシートを積層するという比較的簡便な操作を経て、積層方向に沿う1つ又は複数の側面が高強度組成部である複合積層体を得ることができるという利点がある。さらにまた、プレ熱伝導シートとして異種組成複合シートを用いることで、得られる熱伝導シートの崩壊耐性を一層高めることができる。
【0056】
次に、異種組成複合シートを用いない操作について説明する。この操作においては、まず、プレ熱伝導シートとして、低強度組成物よりなる低強度プレ熱伝導シートを、厚み方向に複数枚積層して直方体状の低強度積層体を形成する。次いで、低強度積層体の底面又は上面のうちの少なくとも一方に、低強度組成物よりも強度の高い高強度組成物を加圧して矩形のシート状に成形してなる、高強度プレ熱伝導シートを少なくとも1枚積層する。もちろん、低強度積層体の底面及び上面の双方に、1又は複数枚の高強度プレ熱伝導シートをそれぞれ配置してもよい。このようにして得られたプレ複合積層体を、積層方向に加圧することで、上面及び底面の双方又は少なくとも一方に高強度組成部が配置されてなる複合積層体を製造することができる。
【0057】
<スライス工程>
スライス工程では、複合積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライス部材によりスライスして熱伝導シートを得る。この際、切断面内におけるスライス方向は図4(c)に示すように、得られる矩形状の熱伝導シートの主面の対角線方向であることが好ましい。切断面内におけるスライス方向が、熱伝導シートの主面の対角線方向であれば、複合積層体の積層構造への負荷が少ない。その結果、得られる熱伝導シートにおける、複数の条片よりなる並列接合構造を良好に維持するとともに、熱伝導シートの崩壊耐性を高めることができる。
【0058】
さらに、スライス工程における複合積層体とスライス部材との位置関係が、下記(i)及び(ii)を満たすようにすることが必要である。
(i)スライス部材が複合積層体から一枚の熱伝導シートをスライスする際に、スライスの完了直前に、スライス部材が複合積層体をスライスする位置が、複合積層体の高強度組成部を含むようにすること。
(ii)複合積層体が、複数面に高強度組成部を有する場合には、得られる熱伝導シートの4辺のうちの複数辺に複数の高強度組成部が配置されるようにすること。
【0059】
まず、上記(i)の条件では、端的にいえば、スライス時における複合積層体の向きを規定している。例えば、複合積層体が底面及び積層方向に沿う1側面に高強度組成部を有するものである場合には、その高強度組成部が、最後に切り出される位置、より具体的には、スライス部材の切り出し側に位置するような向きで複合積層体を配置する。このような位置を、一例として図4(c)を参照して説明すると、図上一点鎖線で示す領域R1及びR2に該当する。図4(c)に示す領域R1及びR2は、矢印Dで示すスライス方向に沿いスライス部材により複合積層体4をスライスする場合に最後に切り出される位置を含んでおり、このような領域では、複合積層体4が崩壊し易くなる。よって、このような領域R1及びR2に高強度組成部を配置することでその崩壊を抑制することができる。
【0060】
また、上記(ii)の条件では、端的にいえば、複合積層体が複数面に有する高強度組成部をできるだけ多く切断面に含むように、スライス工程における複合積層体の向きを決定することを意味する。一例として図4(c)を参照して説明すると、ハッチングした領域、すなわち、積層方向に沿う2面、上面、及び底面のトータル4面が全て切断面に含まれるように、スライス部材と複合積層体との相対的な位置関係を定める必要がある。仮に、図4(c)に示す矢印Dのスライス方向はそのままに、複合積層体を底面の中心を基準として、積層方向に沿う軸線を基準として時計回りに90°回転して配置してしまえば、スライス工程において、積層方向に沿う側面に位置する高強度組成部がスライスされないという状態が生じてしまう。このようなスライス工程では、積層方向に沿う側面に位置する高強度組成部により発揮されるはずであった崩壊耐性を発揮することができない。
【0061】
ここで、複合積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、常法に従う。なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は-20℃以上30℃以下とすることが好ましい。更に、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。
【実施例0062】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、各種の測定及び評価は、それぞれ以下に従って実施した。
【0063】
<低強度組成部及び高強度組成部の引張強度>
実施例、比較例で作成したプレ熱伝導シートについて、低強度組成部及び高強度組成部から、JIS K7113に準拠したダンベル2号(ダンベル型、幅3mm、長さ70mm)を用いて打ち抜き成型し、試料を作製した。
引張試験機(株式会社島津製作所製、製品名「AG-IS20kN」)を用い、ロードセル:50N、チャック間距離:35mm、速度:50mm/分、温度:23℃の条件で引っ張り、破断強度(引張強度)を測定した。5つの試料片の測定値の平均値を、それぞれの引張強度とした。
【0064】
<低強度組成部及び高強度組成部の熱伝導率>
上記と同様にして作製した試験用シートの面内方向(条片にした際に条片の厚み方向に対応する方向)の熱伝導率を測定した。
なお、熱伝導率の測定は、各シートについて、面内方向の熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)及び比重ρ(g/m)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して温度25℃における熱拡散率を測定した。
[定圧比熱]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、温度25℃における比熱を測定した。
[比重]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より温度25℃における各シートの面内方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0065】
<熱伝導性フィラーの配向角度>
実施例、比較例で製造した熱伝導シートを高強度組成部と低強度組成部の双方が含まれるように正方形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、この時の倍率は700倍であった。この断面における黒鉛粒子の長軸に50本線を引き、熱伝導シートの主面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°以上であった場合には補角を採用した。これを4面に対して実施し、4面のフィラーの配向角度の平均値を熱伝導シート中のフィラーの配向角度とした。熱伝導性フィラーの配向角度が90°に近いほど、熱伝導シートの熱伝導性が高いことを意味する。
【0066】
<熱伝導性フィラーの体積平均粒子径>
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA-960」)を使用し、懸濁液中に含まれる熱伝導性フィラー(膨張化黒鉛)の粒子径を測定した。そして、横軸を粒子径、縦軸を熱伝導性フィラーの体積とした体積基準の粒子径分布曲線を得て、その極大値における粒子径(モード径)を、熱伝導性フィラーの体積平均粒子径として求めた。
【0067】
<熱伝導シートの崩壊耐性>
スライス工程において積層体のスライサーのステージに擦る面のスライス前後の寸法変化をノギス(標準ABSデジマチックキャリパ、株式会社ミツトヨ製)にて測定した。プレ熱伝導シートの積層方向に平行な方向において積層体の端面から1cmの箇所を左右1か所ずつと、プレ熱伝導シートの積層方向に垂直な方向において積層体の端面から1cmの箇所を左右1か所ずつの計4か所をスライス前後で測定し、得られた熱伝導シートの外観と併せて下記基準に従って評価した。
なお、寸法変化率は以下のとおり算出した。
寸法変化率(%)=(スライス後の4か所寸法平均値÷スライス前の4か所寸法平均値-1)×100
A:寸法変化率が2%以下であり、裂けの発生が認められない。
B:寸法変化率が2%超であるが、裂けの発生は認められない。
C:寸法変化率が2%超であるとともに、裂けの発生が認められる。
【0068】
(実施例1)
<低強度組成物の調製:低強度組成部>
常温常圧下で液体の樹脂として、熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)36部、及び、アクリル樹脂である重量平均分子量6000の水酸基含有液体アクリルポリマー(東亞合成株式会社製、商品名「ARUFON(登録商標) UH-2190」)42部と、常温常圧下で固体の樹脂として熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC2211」)22部と、熱伝導性フィラーとして膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、体積平均粒子径:50μm)90部とを、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT型」)を用いて5分間撹拌混合した。得られた混合物を30分真空脱泡し、低強度組成物を得た。そして、得られた低強度組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
<高強度組成物の調製:高強度組成部>
常温常圧下で液体の樹脂として熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)85部と、常温常圧下で固体の樹脂として熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC2211」)15部と、熱伝導性フィラーとして膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、体積平均粒子径:50μm)90部とを、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT型」)を用いて5分間撹拌混合した。得られた混合物を30分真空脱泡し、高強度組成物を得た。そして、得られた高強度組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
<プレ熱伝導シートの形成I:異種組成複合シート>
次いで、解砕した低強度組成物0.6kgを中央部、高強度組成物0.4kgを0.2kgずつ低強度組成物の両端に配した状態で、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)ではさみ、ロール間隙600μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.8mmのプレ熱伝導シートとしての異種組成複合シートを得た。得られた異種組成複合シートは、低強度部分の短手方向両端部に高強度部分が縁取りのように配置された帯状のシートであった。
<プレ熱伝導シートの形成II:高強度プレ熱伝導シート>
次に、解砕した高強度組成物1kgをサンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルムではさみ、ロール間隙600μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.8mmの高強度組成物から成る高強度プレ熱伝導シートを得た。
<複合積層体の形成>
続いて、得られた異種組成複合シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、異種組成複合シートの高強度部分及び低強度部分の位置を合わせながら厚み方向に170枚積層し、その上下に縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断した高強度組成物から成る高強度プレ熱伝導シートを10枚ずつ積層した。さらに、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約150mmの複合積層体を得た。
<熱伝導シートの形成>
その後、二次加圧された複合積層体の積層側面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線方向に)スライスすることにより縦150mm×横150mm×厚み0.15mmの熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートは低強度組成部の外周全体(すなわち4辺)にわたり高強度組成部が配置されてなる構造であった。
そして、上述の方法に従って、各種測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
高強度組成物の調製において、実施例1で用いた膨張化黒鉛を70部に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
高強度組成物の調製において、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を70部に、実施例1で用いた常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を30部に、膨張化黒鉛を伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-100」、体積平均粒子径:170~230μm(公称値))50部に変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
プレ熱伝導シートとして、異種組成複合シートに代えて、低強度組成物のみからなる低強度プレ熱伝導シートを用いた。解砕した低強度組成物1kgをサンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルムではさみ、ロール間隙600μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚み0.8mmの低強度組成物のみから成る低強度プレ熱伝導シートを得た。
続いて、実施例1と同様の方法で作製した縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断した高強度組成物から成る高強度プレ熱伝導シートを10枚積層し、その上に低強度プレ熱伝導シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、厚み方向に180枚積層した。さらに、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの複合積層体を得た。これを実施例1と同様にしてスライスすることで、一辺が高強度組成部よりなる熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例5)
異種組成複合シートの形成において、解砕した低強度組成物0.8kgを中央部、高強度組成物0.2kgを低強度組成物の左端に配した状態で、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルムではさみ、ロール間隙600μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚み0.8mmの片側が高強度部分で補強された異種組成複合シートを得た。
続いて、実施例1と同様の方法で作製した縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断した高強度組成物から成る高強度プレ熱伝導シートを10枚積層し、その上に得られた異種組成複合シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、異種組成複合シートの高強度部分及び低強度部分の位置を合わせながら厚み方向に180枚積層した。さらに、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの複合積層体を得た。複合積層体は、底面及び積層方向に沿う1側面が高強度組成部となっていた。かかる複合積層体を高強度組成部よりなる2面がスライスの完了直前にスライスされるような位置にセットした。スライス自体は、実施例1と同様にして実施し、二辺が高強度組成部により補強された熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例6)
積層体の形成において、実施例1と同様の方法で作製した高強度組成物からなる高強度プレ熱伝導シートと実施例3と同様の方法で作製した高強度組成物から成る高強度プレ熱伝導シートを一枚ずつ交互に積層し計10枚積層した。その上に、実施例1と同様の方法で作製した異種組成複合シートを厚み方向に180枚積層した。さらに、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの複合積層体を得た。これを実施例1と同様にしてスライスすることで、3辺が高強度組成で補強された熱伝導シートを製造した。
そして、実施例1と同様にして測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
積層体の形成において、実施例4と同様の方法で得られた低強度組成物のみから成るプレ熱伝導シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、プレ熱伝導シートの厚み方向に190枚積層し、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの積層体を得た。これを実施例1と同様にしてスライスすることで、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
積層体の形成において、縦150mm×横150mm×厚み1mmのニトリルブタジエンゴムシート(亜木津工業社製)を厚み方向に10枚積層し、その上に接着層として縦150mm×横150mmに裁断したアクリル樹脂からなる接着テープ(東亞合成製、製品名「アロンマイティAF60」、厚さ20μm)を載せ、さらにその上に実施例4と同様の方法で作製した縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断した低強度組成物のみから成るプレ熱伝導シートを180枚積層した。さらに、温度25℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約150mmの積層体を得た。これを実施例1と同様にしてスライスすることで、1辺が高強度組成部で補強された熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして測定及び崩壊耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1より、実施例1~6の熱伝導シートは、熱伝導性フィラーの配向角度が60℃以上であり、熱伝導性に優れるとともに、崩壊耐性も良好であったことが分かる。一方、高強度組成部のない比較例1、及び、高強度組成部に熱伝導性フィラーを配合していない比較例2では、熱伝導性と崩壊耐性に関し実施例に匹敵する効果が得られなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、熱伝導性及び崩壊耐性に優れる熱伝導シート及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0079】
4 複合積層体
10,20,30 熱伝導シート
11,21,31 低強度組成部
12,22,32 高強度組成部
101,102,201,202,301A,301B 条片
101a.201a,301a,401a 低強度部分
101b,201b,301b,401b 高強度部分
401 プレ熱伝導シート(異種組成複合シート)
402 高強度プレ熱伝導シート
D 矢印(スライス方向)
R1,R2 領域
図1
図2
図3
図4