(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146456
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059359
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA12
4F071AA33
4F071AB27
4F071AF44
4F071AF58Y
4F071AH12
4F071BB04
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】熱抵抗が低く且つ面精度の高い熱伝導シートを提供する。
【解決手段】樹脂及び窒化ホウ素を含む、厚みが500μm以下の熱伝導シートを形成するにあたり、窒化ホウ素がシート主面に対して60°以上90°以下の角度範囲で配向させるとともに、熱伝導シートにおいて、樹脂として常温常圧下で固体のアクリル樹脂及び重量平均分子量が2500以上の常温常圧下で液体の樹脂を所定の比率で含み、さらに窒化ホウ素の含有割合がシートの60体積%以上となるようにする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及び窒化ホウ素を含む、厚みが500μm以下の熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの主面に対する前記窒化ホウ素の配向角度が60°以上90°以下であり、
前記熱伝導シートにおける前記窒化ホウ素の含有割合が60体積%以上であり、
前記樹脂は、常温常圧下で固体のアクリル樹脂と、該常温常圧下で固体のアクリル樹脂とは異なる常温常圧下で液体の樹脂を含み、
前記常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量が2500以上であり、
前記樹脂における前記常温常圧下で液体の樹脂の割合が10質量%以上80質量%以下である、
熱伝導シート。
【請求項2】
厚みの標準偏差が、3.15μm以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記アクリル樹脂のガラス転移温度が-42.0℃以上-9.0℃以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
粘着力が1.4N・mm以上である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記常温常圧下で液体の樹脂が、常温常圧下で液体のニトリルブタジエンゴムである、請求項1~4の何れかに記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートの製造方法に関するものである。具体的には、本発明は樹脂および窒化ホウ素を含む熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュール等)および集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、発熱体と放熱体との間に熱伝導性が高いシート状の部材(以下、「熱伝導シート」ともいう。)を用いる。
【0004】
熱伝導シートとして、樹脂中に窒化ホウ素粒子を充填した熱伝導シートが提案されている。例えば、特許文献1には、板状窒化ホウ素粒子がシートの厚み方向に対しその長軸方向で配向している熱伝導シートの製造方法が開示されている。かかる製造方法では、板状窒化ホウ素粒子として平均粒径10μm超60μm以下の板状窒化ホウ素粒子(A)と、50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物(B)とを用意し、これらを混合し、板状窒化ホウ素粒子(A)の含有量が45体積%~75体積%である組成物を調製してから、得られた組成物を用いて、板状窒化ホウ素粒子(A)が主たる面に対してほぼ平行な方向に配向した一次シートを形成しさらに、これを積層して多層構造を有する成形体を形成し、この成形体をその主面から出る法線に対して0度~30度の角度でスライスして、熱伝導シートを得ている。この際、組成物に配合する高分子化合物としては、アクリルゴム、シリコーン樹脂、及びイソプレンゴム等が例示列挙されており、さらに、添加成分としての難燃剤としてリン酸エステル系難燃剤を配合することが提案されている。また、例えば特許文献2では、フッ素樹脂と、窒化ホウ素粒子を含有する熱伝導性フィラーと、を含む熱伝導シートが開示されている。ここで、特許文献2に開示の熱伝導シートにおいては、シートの厚み方向に対し窒化ホウ素粒子がその長軸方向で配向しており熱伝導性に優れる。さらに、かかる熱伝導シートは、常温常圧下で液体のフッ素樹脂を含み、0.05MPa加圧下での熱抵抗値が0.90℃/W以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/047278号
【特許文献2】特開2018-203857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述した従来の熱伝導シートには、熱抵抗及び面精度の点で一層の改善の余地があった。そこで、本発明は、熱抵抗が低く且つ面精度の高い熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂及び窒化ホウ素を含む、厚みが500μm以下の熱伝導シートを形成するにあたり、窒化ホウ素がシート主面に対して60°以上90°以下の角度範囲で配向させるとともに、熱伝導シートにおいて、樹脂として常温常圧下で固体のアクリル樹脂及び重量平均分子量が2500以上の常温常圧下で液体の樹脂を所定の比率で含み、さらに窒化ホウ素の含有割合がシートの60体積%以上となるようにすることで、熱抵抗が低く且つ面精度が高い熱伝導シートが得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明の熱伝導シートは、樹脂及び窒化ホウ素を含む、厚みが500μm以下の熱伝導シートであって、前記熱伝導シートの主面に対する前記窒化ホウ素の配向角度が60°以上90°以下であり、前記熱伝導シートにおける前記窒化ホウ素の含有割合が60体積%以上であり、前記樹脂は、常温常圧下で固体のアクリル樹脂と、該常温常圧下で固体のアクリル樹脂とは異なる常温常圧下で液体の樹脂を含み、前記常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量が2500以上であり、前記樹脂における前記常温常圧下で液体の樹脂の割合が30質量%以上80質量%以下であることを特徴とする。このような熱伝導シートは、熱抵抗が低く且つ面精度が高い。
なお、本明細書において、熱伝導シートの主面に対する窒化ホウ素の配向角度は、実施例に記載の方法により測定することができる。なお、熱伝導シートの「主面」は、当該熱伝導シートにおける最大面積を有する面および当該面に対向する面を意味する。また、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。そして、常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0009】
[2]ここで、上記[1]の熱伝導シートは、厚みの標準偏差が、3.15μm以下であることが好ましい。厚みの標準偏差が上記以下である熱伝導シートは、シート表面が平滑であることから、平滑な躯体に対する密着性に優れる。なお、厚みの標準偏差は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0010】
[3]また、上記[1]又は[2]の熱伝導シートは、前記アクリル樹脂のガラス転移温度が-42.0℃以上-9.0℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であるアクリル樹脂を含む熱伝導シートは、粘着性が適度に高く且つ面精度に優れる。なお、アクリル樹脂のガラス転移温度は、実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0011】
[4]また、上記[1]~[3]の何れかの熱伝導シートは、粘着力が1.4N・mm以上であることが好ましい。粘着力が上記下限値以上である熱伝導シートは、粘着性に優れ、良好な熱伝導性を発揮することができる。なお、熱伝導シートの粘着力は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0012】
[5]さらに、上記[1]~[4]の何れかの熱伝導シートにおいて、前記常温常圧下で液体の樹脂が、常温常圧下で液体のニトリルブタジエンゴムであることが好ましい。熱伝導シートが常温常圧下で液体のニトリルブタジエンゴムを含んでいれば、かかる熱伝導シートは面精度が良好である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱抵抗が低く且つ面精度の高い熱伝導シートを提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の熱伝導シートは、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用できる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として機能し得るものであり、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成できる。
【0015】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、熱樹脂及び窒化ホウ素を含む、厚みが500μm以下の熱伝導シートである。かかる熱伝導シートにおいては、窒化ホウ素がシート主面に対して60°以上90°以下の角度範囲で配向している。さらにかかる熱伝導シートは、樹脂として常温常圧下で固体のアクリル樹脂及び重量平均分子量が2500以上の常温常圧下で液体の樹脂を所定の比率で含み、さらに窒化ホウ素の含有割合がシートの60体積%以上である。かかる熱伝導シートは、熱抵抗が低く且つ面精度が高い。その理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。まず、熱伝導シート内における窒化ホウ素の配向構造により付与される熱伝導シートの厚み方向における熱伝導性は、熱伝導シートと被着体との間の密着性が高まることにより良好に発揮されうる。密着性は、熱伝導シートの粘着性及び熱伝導シートの面精度が高くなればそれに従って高まりうるが、本シートのように製造工程にスライス工程を含む場合、熱伝導シートの粘着力が高いと刃物と熱伝導シートが密着することから面精度が悪くなる傾向があり、すなわち熱伝導シートの粘着性と熱伝導シートの面精度とはトレードオフの関係でありうる。そこで、熱伝導シートの粘着性を高め得る構成成分である常温常圧下で固体のアクリル樹脂と、これとは異なる樹脂であり重量平均分子量が2500以上である常温常圧下で液体の樹脂とを併用することで、かかるトレードオフを緩和することができると推察される。
【0016】
<樹脂>
樹脂としては、常温常圧下で固体のアクリル樹脂と、該常温常圧下で固体のアクリル樹脂とは異なる常温常圧下で液体の樹脂を含むことを必要とする。これらの樹脂を併用することで、熱伝導シートの熱伝導性と熱伝導シートの面精度とを高いレベルで両立することができる。
【0017】
<<常温常圧下で固体のアクリル樹脂>>
常温常圧下で固体のアクリル樹脂としては、特に限定されることなく、樹脂を構成する重合体の全繰り返し単位を100質量%として、アクリル酸エステル単量体由来の単位であるアクリル酸エステル単量体単位の割合が50質量%超であるものを用いることができる。アクリル樹脂は、単独重合体であってもよいし、二元共重合体、三元共重合体等の多元共重合体であってもよい。また、アクリルゴムは、変性されていてもよい。アクリルゴムとしては、具体的には、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、これらの変性物などを挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。常温常圧下で固体のアクリル樹脂は、粘着性と強度のバランスに優れる。
【0018】
市販品の常温常圧下で固体のアクリル樹脂としては、具体的には、デュポン社製のベイマック(登録商標)シリーズのDP、G、GLS、GXF、電気化学工業社製のデンカ(登録商標)シリーズのER-5300、ER-8401、ANX-3、ERA403、ERA804、日本ゼオン社製のNipol(登録商標)シリーズのAR31、AR51、AR71、AR71L、AR32、AR42W、AR72LS、AR72HF、AR53L、AR12、AR54、AR74X、AR14などを挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
常温常圧下で固体のアクリル樹脂のガラス転移温度は、-42.0℃以上が好ましく、-28.0℃以上がより好ましく、-9.0℃以下が好ましく、-12.0℃以下がより好ましい。常温常圧下で固体のアクリル樹脂のガラス転移温度が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの面精度を一層高めることができる。また、常温常圧下で固体のアクリル樹脂のガラス転移温度が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの粘着性を一層高めることができ、その結果熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。
【0020】
そして、樹脂における常温常圧下で固体のアクリル樹脂の割合は、樹脂の全質量を100質量%として、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、55%以下であることが更に好ましく、45質量%以下であることが特に好ましい。常温常圧下で固体のアクリル樹脂の割合がかかる範囲内であれば、熱伝導シートの耐ポンプアウト性及び面精度をバランス良く高めることができる。
【0021】
<<常温常圧下で液体の樹脂>>
常温常圧下で液体の樹脂は、上述した常温常圧下で固体のアクリル樹脂とは異なる樹脂であり、重量平均分子量が2500以上であることを必要とする。また、常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量は、2700以上であることが好ましく、20000以下であることが好ましく、11000以下であることがより好ましく、10000以下であることがさらに好ましく、7000以下であることが特に好ましい。常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの面精度を高めることができる。また、常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの粘着性を高めることができ、その結果熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。
【0022】
常温常圧下で液体の樹脂としては、特に限定されることなく常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。かかる常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、ポリブテン、ブチルゴム、ニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、およびシリコンゴムが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、熱伝導シートの面精度を高める観点からは、ニトリルブタジエンゴムを用いることが好ましい。
【0023】
そして、樹脂における常温常圧下で液体の樹脂の割合は、樹脂の全質量を100質量%として、10質量%以上80質量%以下である必要がある。さらに、樹脂における常温常圧下で液体の樹脂の割合は、35質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、55質量%質量%以上であることが更に好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。樹脂における常温常圧下で液体の樹脂の割合が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの面精度を一層高めることができる。また、樹脂における常温常圧下で液体の樹脂の割合が上記上限値以下であれば、熱伝導シートが使用時にポンプアウトすることを効果的に抑制することができる。
【0024】
なお、熱伝導シートは上記した少なくとも二種の樹脂以外に、これらとは異なる常温常圧下で固体の樹脂を含有していてもよい。その場合、樹脂の全質量を100質量%として、かかる樹脂の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。常温常圧下で固体の樹脂としては特に限定されることなく既知のものを用いることができる。
【0025】
<窒化ホウ素>
窒化ホウ素としては、特に限定されず、例えば、板状窒化ホウ素、および球状窒化ホウ素等を用いることが出来る。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱伝導シートの熱伝導性を向上させる観点から、板状窒化ホウ素を用いることが好ましい。なお、板状窒化ホウ素としては、鱗片状窒化ホウ素を好適に用いることができる。なお、本明細書において、板状窒化ホウ素と球状窒化ホウ素とは、アスペクト比により区別することができる。具体的には、アスペクト比が1.4以上の窒化ホウ素粒子を板状窒化ホウ素と称し、アスペクト比が1.4未満の窒化ホウ素粒子を球状窒化ホウ素と称する。なお、窒化ホウ素のアスペクト比は、窒化ホウ素の断面積が最大となる平面における短軸長に対する長軸長の比(すなわち、最大長軸長/最大短軸長)をいう。測定が容易であり測定誤差を低減する観点からは、窒化ホウ素のアスペクト比は、窒化ホウ素の最大長軸長および最大短軸長を用いて求めることが好ましい。窒化ホウ素の寸法を測定する装置は特に限定されず、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で好適に測定することができる。この場合、観察視野内からランダムに選択した20個の窒化ホウ素につき、それぞれ測定を実施して得たアスペクト比の算術平均値を測定対象とした窒化ホウ素のアスペクト比とすることができる。
【0026】
熱伝導シートにおける窒化ホウ素の配向角度は、熱伝導シートの主面に対して60°以上90°以下である必要があり、70°以上であることが好ましく、75°以上であることがより好ましい。窒化ホウ素の配向角度が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を一層高めることができる。
【0027】
窒化ホウ素の体積平均粒子径は、15μm以上である必要があり、17μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることが更に好ましく、27μm以上であることが更により好ましく、70μm以下であることが好ましい。窒化ホウ素の体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、窒化ホウ素の間の接触抵抗を低減することが可能となり、結果的に熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、窒化ホウ素の体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、熱伝導シート中に窒化ホウ素を適度に充填することが可能となり、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。
【0028】
熱伝導シート中の窒化ホウ素の含有割合は、60体積%以上である必要があり、65体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上であることが更に好ましく、90体積%以下であることが好ましく、85体積%以下であることがより好ましく、80体積%以下であることが更に好ましい。熱伝導シート中の窒化ホウ素の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。熱伝導シート中の窒化ホウ素の含有割合が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの粘着性を一層高めることができる。
【0029】
<その他の成分>
本発明の熱伝導シートは、熱可塑性樹脂と窒化ホウ素とを含み、任意に、その他の成分をさらに含有し得る。本発明の熱伝導シートが含み得るその他の成分は、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0030】
<熱伝導シートの性状>
熱伝導シートは、熱可塑性樹脂および窒化ホウ素を含む条片が、任意の接着層を介して並列接合されてなることが好ましい。このような熱伝導シートであれば、熱伝導シートの厚み方向に窒化ホウ素の長軸を配向させやすいので、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。
【0031】
また、熱伝導シートは、熱可塑性樹脂および窒化ホウ素を含む条片が熱伝導シートの厚み方向に対して一方の略垂直な方向(厚み方向に対する角度が略90°の方向)に並列結合された構造を有してもよい。この略垂直な方向における条片の幅は、0.7mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましく、3.0mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。上記条片の幅は後述する製造方法における一次シートの厚みに依存し得る。そのため、条片の幅が上記下限以上の熱伝導シートは、一次シートの積層数、折畳数または捲回数がより削減されている。その結果、このような熱伝導シートは、後述する積層体形成速度が向上され、生産性が向上されている。一方、条片の幅が上記上限以下の熱伝導シートは、熱伝導シート中において窒化ホウ素が厚み方向に良好に配向しているため、熱抵抗を低くすることができる。
【0032】
熱伝導シートの厚みは、500μm以下である必要があり、400μm以下であることが好ましく、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。熱伝導シートの厚みが上記上限以下であれば、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。一方、熱伝導シートの厚みが上記下限以上であれば、熱伝導シートの強度を向上できる。
【0033】
熱伝導シートは、熱伝導性を一層高める観点から、厚みの標準偏差が3.15μm以下であることが好ましく、3.00μm以下であることがより好ましく、2.55μm以下であることが更に好ましく、2.45μm以下であることが特に好ましい。また、厚みの標準偏差の下限値は特に限定されないが、例えば1.00μm以上でありうる。
【0034】
さらに、熱伝導シートは、粘着力が1.4N・mm以上であることが好ましく、1.5N・mm以上であることがより好ましく、1.6N・mm以上であることが更に好ましい。粘着力が上記下限値以上であれば、熱伝導シートは熱抵抗が低く熱伝導性に優れる。なお、熱伝導シートの粘着力は、2.8N・mm以下でありうる。
【0035】
<熱伝導シートの製造方法>
上述した本発明の熱伝導シートは、特に限定されることなく、例えば(A)樹脂および窒化ホウ素を含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、(B)一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、(C)積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含む製造方法により、効率的に製造することができる。
【0036】
熱伝導シートの製造方法において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール(以下、「第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール」を、単に「第二ロール」と称することがある。)との間を通過させる。このような熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造できる。また、このような熱伝導シートの製造方法によれば、窒化ホウ素の配向性を制御し、上述した本発明の熱伝導シートを効率的に製造できる。
【0037】
なお、熱伝導シートの製造方法は、任意で、上記(A)~(C)以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0038】
<(A)一次シート成形工程>
一次シート成形工程では、樹脂および窒化ホウ素を含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る。
【0039】
〔組成物〕
組成物は、樹脂および窒化ホウ素を含む。樹脂および窒化ホウ素としては、「熱伝導シート」の項で上述した熱可塑性樹脂および窒化ホウ素を、上述した比率で用いることができる。
【0040】
〔組成物の調製〕
組成物は、特に限定されず、上述した成分を混合することにより調製できる。なお、上述した成分の混合は、特に制限されず、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;等の既知の混合装置を用いて行うことができる。
【0041】
混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、窒化ホウ素、および任意で添加されるその他の成分と混合してもよい。
【0042】
混合時間は、例えば、5分以上60分以下である。
【0043】
混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下である。
【0044】
〔組成物の成形〕
調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、ロール成形してシート状に成形できる。このように組成物をロール成形したシート状のものを、一次シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0045】
ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる。このようなロール成形によれば、高い剪断応力を加えて組成物を成形でき、この結果、一次シート中の窒化ホウ素が良好に配向し、これを用いて得られた熱伝導シートは熱伝導性に優れる。
【0046】
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(「第二ロールの外周速度」/「第一ロールの外周速度」)は、1.03/1以上であることが好ましく、1.05/1以上であることがより好ましく、1.1/1以上であることが更に好ましく、2/1以下であることが好ましく、1.3/1以下であることがより好ましく、1.2/1以下であることが更に好ましい。第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができ、熱伝導性を向上できる。一方、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、熱伝導シートの圧縮性を向上できる。また、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる熱伝導シートの生産性を向上できる。なお、外周速度比は、ロールの径および/または回転速度を変更することで調整できる。
【0047】
第一ロールと第二ロールとの間隔は、1mm以上3mm以下であることが好ましい。第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、一次シートの積層数、折畳数または捲回数を削減できる。即ち、積層体形成速度を向上し、熱伝導シートの生産性を向上できる。なお、本発明においては、高い剪断応力を加えて組成物を成形しているため、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であっても、一次シート中の窒化ホウ素が良好に配向し得る。一方、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記上限以下であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができ熱伝導性を向上できる。
【0048】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、一次シート成形工程で得られた一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳または捲回して、樹脂および窒化ホウ素を含む一次シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。
また、積層体を得るにあたり、一次シートの表面に接着層を配置して、一次シートの間に接着層が介在してなる構造を有する積層体を形成することが好ましい。このような製造方法によれば、熱伝導シートの熱抵抗を低くすることができる。
【0049】
ここで、一次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、一次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、一次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに一次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、一次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0050】
なお、積層工程では、得られた積層体を、加熱しながら、積層方向に加圧してもよく、全方位から加圧してもよい。積層工程において、積層体を、積層方向に、または全方位から、加圧することを二次加圧という。積層体に対して二次加圧を行うことにより、積層された一次シート相互間の融着を促進することができる。
【0051】
ここで、積層体を、積層方向に、または全方位から、加圧する際の圧力は、0.05MPa以上0.90MPa以下とすることができる。また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。更に、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0052】
なお、一次シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では窒化ホウ素が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。
【0053】
<(C)スライス工程>
スライス工程では、積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、積層体のスライス片よりなる二次シートを得る。本工程にて得られた二次シートは本発明の熱伝導シートとしてもよい。
【0054】
積層体をスライスする方法としては、特に限定されず、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。
【0055】
積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されず、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナおよびスライサー)を用いることができる。
【0056】
積層体をスライスする角度は、熱伝導シートの熱抵抗を低減する観点からは、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが更に好ましい。
【実施例0057】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、体積分率等の算出に際して、各配合成分の体積として、各配合成分の質量をそれらの理論比重で除した値を採用した。なお、実施例における各種の測定および評価は以下の方法に従って行った。
【0058】
<窒化ホウ素の配向角度>
各実施例および比較例で得られた熱伝導シート中の窒化ホウ素の配向角度は、熱伝導シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製、「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察して求めた。なお、このときの倍率は700倍であった。具体的には、断面における窒化ホウ素の長軸に50本線を引き、熱伝導シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°以上であった場合には補角を採用した。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを熱伝導シート中の窒化ホウ素の配向角度とした。
【0059】
<粘着性>
実施例、比較例で製造した熱伝導シートについて、プローブタック試験機(株式会社レスカ製、商品名「TAC1000」)を使用して粘着性を評価した。
具体的には、熱伝導シートの任意の5点に関して、温度25℃、荷重40Nの条件で、直径5mmの平らなプローブを10秒間押し付けた。押しつけたプローブを試験片から引き離す際に要する力を測定し、プローブを引き上げた際の荷重と変位曲線を積分して得られる面積をタック力(N・mm) とした。尚、押し付け速度は、引き上げ速度は10mm/秒、押し付け速度は0.1mm/秒とした。
【0060】
<熱伝導率>
[厚み方向の熱拡散率α]
熱伝導シートの熱拡散率はISO22007-3の規定に基づき熱拡散・熱伝導率測定装置(アイフェイズ(株)製、ai-Phase Mobile 1u)を用いて測定した。
[定圧比熱Cp]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、25℃における比熱を測定した。
[比重ρ(密度)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて測定した。
そして、各測定値を、下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0061】
<熱抵抗>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートの厚み方向に加圧した状態における熱抵抗および厚みは、熱抵抗試験器(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、製品名「樹脂材料熱抵抗測定装置」)を用いて測定した。ここで、1cm角の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、試料温度50℃において0.50MPaの圧力を加えた状態における熱伝導シートの熱抵抗(℃/W)および厚みを測定した。熱抵抗の値が小さいほど、熱伝導シートが熱伝導性に優れ、例えば、発熱体と放熱体との間に介在させた際の放熱特性に優れていることを示す。
【0062】
<熱伝導シートの厚みの標準偏差(面精度)>
実施例、比較例で作成した熱伝導シートについて、膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、熱伝導シートの略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの標準偏差(μm)を求めた。厚みの標準偏差の値が低いほど、面精度が高いことを意味する。
【0063】
<常温常圧下で液体の樹脂の重量平均分子量>
テトラヒドロフラン(THF)溶離液としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0064】
<アクリル樹脂のガラス転移温度>
アクリル樹脂のガラス転移温度Tgは、JIS K7121に従って測定した。
【0065】
<耐ポンプアウト性>
熱伝導シートの耐ポンプアウト性は、以下の通り評価した。
即ち、50mm角の銅板および片面が粗面になっている銅箔(粗銅箔)を2枚ずつ準備した。一方の銅板の上に粗銅箔を粗面が上になるように配置し、さらに、粗銅箔の粗面側の略中心部分に、10mm×10mm角のサイズに裁断した熱伝導シートを配置した。続けて、配置された熱伝導シートの上に他方の粗銅箔を粗面が下になるように配置し、さらに、粗銅箔の上から他方の銅板を配置することにより、熱伝導シートが粗銅箔の粗面側、更には銅板で挟まれた、銅板/粗銅箔/熱伝導シート/粗銅箔/銅板からなる積層体を、試験片として得た。次に、得られた試験片の上に500gの重りを乗せ、温度150℃の恒温槽内に置き72時間保管した。このとき、銅板および粗銅箔に挟まれた熱伝導シートにかかる圧力は0.05MPaであった。そして、72時間保管後に、試験片の銅板および粗銅箔を熱伝導シートから剥がし、目視で、2枚の粗銅箔の粗面上に広がった「しみ」の有無を確認した。「しみ」が存在する場合は、当該「しみ」の輪郭の最大径の平均値(mm)を測定した。なお、「しみ」は略同心円状に広がって形成されており、円形又は楕円形に近似することが可能であった。そして、以下の基準に従って評価した。
目視により「しみ」の存在が確認できない場合、熱伝導シートが耐ポンプアウト性に非常に優れることを示す。また、「しみ」の存在が確認できる場合は、当該「しみ」の最大径の平均値が小さいほど、熱伝導シートが耐ポンプアウト性に優れることを示す。
A:「しみ」の存在が確認できない
B:「しみ」の最大径の平均値が0mm超15mm未満
C:「しみ」の最大径の平均値が15mm以上25mm未満
D:「しみ」の最大径の平均値が25mm以上
【0066】
(実施例1)
<組成物の調製>
樹脂として、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂であるニトリルブタジエンゴム(日本ゼオン製、商品名「Nipole1312」、比重:1.0g/cm3、ガラス転移温度:-42℃、重量平均分子量:3000)70部と、常温常圧下で固体のアクリル樹脂として、アクリルゴム(日本ゼオン製、商品名「Nipol(登録商標) AR-14」、ガラス転移温度:-42℃、比重:1.1g/cm3)30部とを準備した。準備した熱可塑性樹脂と、窒化ホウ素としての、板状(鱗片状)窒化ホウ素である、六方晶窒化ホウ素(h-BN)(Dandong Chemical Engineering製、商品名「HSL-HP50」、アスペクト比:1.5、比重:2.27)500部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度120℃にて20分間撹拌し、組成物を得た。
【0067】
<一次シート成形工程>
次いで、得られた組成物500gを、第一ロールおよび第二ロールを用いて、第一ロールと第二ロールとの間隔1mm、ロール温度25℃、シート搬出速度(第一ロールの外周速度)2m/分、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(第二ロール/第一ロール):1.15/1の条件にて圧延加工してシート状にした。シートの搬送方向を同一にして、圧延加工を繰り返した。合計で圧延加工を10回行い、厚み1mmの一次シートを得た。
【0068】
<第一積層体形成工程>
次いで、得られた一次シートを縦50mm×横50mmに裁断した。また、接着層としてのアクリル樹脂からなる接着テープ(東亜合成製、製品名「アロンマイティAF60」、厚さ:20μm)を縦50mm×横50mmに裁断した。裁断した一次シート上に、裁断した接着テープ(以下、「接着シート」ともいう。)を載せ、接着シートを介して一次シートを厚み方向に25枚(接着シートは24枚使用)積層して、接着シートが一次シート間に位置する高さ約50mmの第一積層体を得た。
【0069】
<第二積層体形成工程>
得られた第一積層体を離型PET(polyethylene terephthalate)でキャラメル包装し、テープ止めを行い、PETレトルト包装で真空包装した。これをオートクレーブ(羽生田鉄工所製、小型オートクレーブ「DANDELION」)中にて、150℃の温度で、且つ、全方位から0.8MPaの圧力(絶対圧)で、30分間加熱加圧処理し、第二積層体を得た。
【0070】
<スライス工程>
その後、第二積層体を積層方向が地面(第二積層体の載置面)に対して垂直方向となるように置き、スライスに必要な長さを第二積層体の積層方向に直交する方向の一端側に残して、設置した第二積層体の上面の全体を金属板で押え、上から0.1MPaの圧力をかけて、第二積層体を固定した。なお、第二積層体における積層方向とは、積層された一次シートの主面の法線方向を意味する。第二積層体の側面、背面の固定は行わなかった。このとき、第二積層体の温度は25℃であった。
次いで、サーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、切断刃(片刃、刃角:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.5、刃面のシリコン加工:なし、全長:200mm)およびガイド部材(長さ:50mm、静止摩擦係数:0.4)よりなるスライス機構(ガイド部材とすくい面との間の間隔:0.5mm)を取り付け、積層方向が地面に対して垂直方向となるように置いた第二積層体を、スライス速度25mm/秒、スライス幅300μmの条件で、積層方向にスライスして、縦50mm×横50mm×厚み(平均厚み)0.30mmの熱伝導シートを得た。なお、スライス時の切断刃の姿勢は、逃げ面の延在方向が第二積層体のスライス面と平行な方向になる姿勢とした。得られた熱伝導シートは、熱伝導シートの厚み方向に対して垂直な方向(厚み方向に対する角度が90°の方向)に並列接合された第一条片と第二条片とからなっていた。なお、第一条片は一次シートに由来し、第二条片は接着シートに由来する。この垂直な方向における第一条片の幅は、一次シートの厚みとほぼ同じである。得られた熱伝導シートについて、上記に従って各種測定および評価を実施した。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
実施例1で用いたアクリル樹脂を(日本ゼオン製、商品名「Nipol(登録商標) AR-72HF」、ガラス転移温度:-28℃、比重:1.1g/cm3)に変更した。かかる点以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例3)
実施例1で用いたアクリル樹脂を(日本ゼオン製、商品名「Nipol(登録商標) AR-51」、ガラス転移温度:-9℃、比重:1.1g/cm3)に変更した。かかる点以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例4~5)
常温常圧下で液体の樹脂としてのニトリルブタジエンゴムの配合量、及び、アクリル樹脂としてのNipol(登録商標) AR-72HFの配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した。かかる点以外は実施例2と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
常温常圧下で液体の樹脂としてのニトリルブタジエンゴムの配合量を30部に変更し、さらに、及び、アクリル樹脂としてのNipol(登録商標) AR-14の配合量を70部に変更した。かかる点以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例7)
常温常圧下で液体の樹脂としてのニトリルブタジエンゴムの配合量を30部に変更し、さらに、及び、アクリル樹脂としてのNipol(登録商標) AR-72HFの配合量を70部に変更した。かかる点以外は実施例2と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例8)
常温常圧下で液体の樹脂としてのニトリルブタジエンゴムの配合量を30部に変更し、さらに、及び、アクリル樹脂としてのNipol(登録商標) AR-51の配合量を70部に変更した。かかる点以外は実施例3と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例9)
常温常圧下で液体の樹脂としてのニトリルブタジエンゴムではなく、アクリルゴム(東亞合成社製の「ARUFON UH-2000」、分子量=11,000比重:1.02g/cm3、ガラス転移温度:-55℃)を70部用いた。かかる点以外は実施例2と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
重量平均分子量が2500以上である常温常圧下で液体の樹脂を配合せず、これに代えて、常温常圧下で液体であるリン酸エステル系難燃剤(大八化学工業株式会社製:商品名「PX-110」)を30部配合した。かかる点以外は実施例6と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例2)
重量平均分子量が2500以上である常温常圧下で液体の樹脂を配合せず、アクリル樹脂としてのNipol(登録商標)AR-14の配合量を100部に変更した。かかる点以外は実施例6と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1より、実施例1~9によれば、熱抵抗が低く且つ面精度の高い熱伝導シートが得られたことが分かる。また、重量平均分子量が2500以上の常温常圧下で液体の樹脂の配合のなかった比較例1~2では、熱抵抗及び面精度に関して、実施例に匹敵する効果が得られなかったことが分かる。