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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146494
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】細胞外小胞分離用粉体
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241004BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241004BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B01J20/28 Z
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059436
(22)【出願日】2023-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 瑶佑
(72)【発明者】
【氏名】外崎 究
【テーマコード(参考)】
4B029
4G066
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029DG08
4B029GA08
4B029GB09
4B029GB10
4B029HA05
4B029HA10
4G066AA22C
4G066AB18B
4G066AC03B
4G066BA09
4G066BA23
4G066CA54
4G066DA07
(57)【要約】
【課題】細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑するタンパク質を含む液体から、夾雑するタンパク質を除去し、かつエクソソームを選択的かつ効率的に回収できる細胞外小胞分離用粉体の提供。
【解決手段】複数の無機粒子を含む細胞外小胞分離用粉体であって、上記無機粒子は、細孔を有し、窒素吸脱着測定法により測定される、上記細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲であり、かつ、上記無機粒子は、疎水性有機基を有する、細胞外小胞分離用粉体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機粒子を含む細胞外小胞分離用粉体であって、
前記無機粒子は、細孔を有し、
窒素吸脱着測定法により測定される、前記細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲であり、かつ、
前記無機粒子は、疎水性有機基を有する、細胞外小胞分離用粉体。
【請求項2】
前記疎水性有機基が、炭化水素基から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の細胞外小胞分離用粉体。
【請求項3】
前記疎水性有機基が、炭素数が3以上18以下のアルキル基を含む、請求項1又は請求項2に記載の細胞外小胞分離用粉体。
【請求項4】
前記無機粒子は、外周表面の少なくとも一部に、界面活性作用を有する有機層を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の細胞外小胞分離用粉体。
【請求項5】
前記有機層が、牛血清アルブミン及びカゼインから選択される少なくとも1種のタンパク質を含む、請求項4に記載の細胞外小胞分離用粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞外小胞分離用粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームと呼ばれる細胞外小胞は、タンパク質、脂質、核酸等の生理活性分子の細胞間輸送及び生物学的障壁を越えた輸送を行うなど、細胞間コミュニケーション及びシグナル伝達を効率的に行う機能を有することで知られている。
エクソソームは、劣化し難く、また、希釈せずに長距離シグナル伝達が可能であることから、ドラックデリバリーシステム(DDS)及び治療薬として有望視されている。エクソソームを上記のような医療用途に用いるためには、目的外のエクソソーム及び不純物の混入を低減できるような分離方法が必要となる。細胞外小胞の分離回収方法については、これまで種々の報告がなされている。
【0003】
エクソソームの分離方法としては、下記特許文献1に開示されるように、サイズ排除クロマトグラフィを用いた分離方法が報告されている。このようなサイズ排除クロマトグラフィを用いた分離方法では、各種サイズの生体由来試料が多孔質粒子内の細孔内への出入りを繰り返すことで、生体由来成分特にエクソソームと夾雑タンパク質の分画が可能である。
【0004】
一方、多孔質粒子へのタンパク質の吸着に注目すると、下記特許文献2には、多孔質シリカで水分又はタンパク質を吸着する技術が記載されている。また、下記特許文献3に開示されるように、疎水化修飾シリカゲルによるタンパク質吸着に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/202994号
【特許文献2】米国特許第694092号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/075068号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に、サイズ排除クロマトグラフィを用いた分離方法では、夾雑するタンパク質は担体と強く結合しないことを前提としているため、夾雑するタンパク質は通液中に溶出されうる。そのため、特許文献1に記載の分離方法は、生体由来試料の連続的な分離には不適切である。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3に記載される技術は、タンパク質の吸着用途として、多孔質シリカ又は疎水化修飾シリカゲルを吸着材として最適化したものである。そのため、特許文献2及び特許文献3に記載の技術をそのまま用いても、吸着材への細胞外小胞の吸着を抑え、細胞外小胞を効率良く回収できるわけではない。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑するタンパク質を含む液体から、夾雑するタンパク質を除去し、かつエクソソームを選択的かつ効率的に回収できる細胞外小胞分離用粉体を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
[1] 複数の無機粒子を含む細胞外小胞分離用粉体であって、
上記無機粒子は、細孔を有し、
窒素吸脱着測定法により測定される、上記細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲であり、かつ、
上記無機粒子は、疎水性有機基を有する、細胞外小胞分離用粉体。
[2] 上記疎水性有機基が、炭化水素基から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の細胞外小胞分離用粉体。
[3] 上記疎水性有機基が、炭素数が3以上18以下のアルキル基を含む、[1]又は[2]に記載の細胞外小胞分離用粉体。
[4] 上記無機粒子は、外周表面の少なくとも一部に、界面活性作用を有する有機層を更に含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の細胞外小胞分離用粉体
[5] 上記有機層が、牛血清アルブミン及びカゼインから選択される少なくとも1種のタンパク質を含む、[4]に記載の細胞外小胞分離用粉体。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑するタンパク質を含む液体から、夾雑するタンパク質を除去し、かつエクソソームを選択的かつ効率的に回収できる細胞外小胞分離用粉体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る細胞外小胞分離用粉体について、詳細に説明する。以下に記載する要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0012】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本開示において、2つ以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
細胞外小胞は、細胞に由来する細胞外に存在する小胞であって、その大きさからエクソソーム、マイクロベシクル及びアポトーシス小体に分類される。エクソソーム及びマイクロベシクルには、タンパク質、mRNA、miRNA等の核酸が含まれ、アポトーシス小体には、断片化された核及び細胞小器官が含まれている。エクソソームとマイクロベシクルとの違いは明確ではなく、本開示に記載のエクソソームは、マイクロベシクルを含んでいてもよい。
【0016】
[細胞外小胞分離用粉体]
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体は、複数の無機粒子を含む細胞外小胞分離用粉体であって、上記無機粒子は、細孔を有し、窒素吸脱着測定法により測定される、上記細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲であり、かつ、上記無機粒子は、疎水性有機基を有する。なお、以下では、細胞外小胞分離用粉体が含む上記の特定の構成を有する無機粒子を、単に「無機粒子」とも称する。
【0017】
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体によれば、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑するタンパク質を含む液体から、夾雑するタンパク質を除去し、かつエクソソームを選択的かつ効率的に回収できる。本開示に係る細胞外小胞分離用粉体がこのような効果を奏し得る理由は明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。但し、以下の推測は、本開示の細胞外小胞分離用粉体を限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0018】
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体は、特定の細孔径範囲を有し、かつ特定の疎水性官能基で修飾した無機粒子が、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑するタンパク質(以下、「夾雑タンパク質」とも称する。)を含む液体と混和することで、液体に含まれる細胞外小胞の純度を上昇させることを見出し、なされたものである。
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体は、複数の無機粒子を含み、該無機粒子は、窒素吸脱着測定法により測定される平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲であり、かつ疎水性有機基を有する。
疎水性有機基は、夾雑タンパク質を選択的に強く吸着する一方で、エクソソームとの相互作用は弱い官能基である。また、エクソソームの大きさは30nmを超える一方、夾雑タンパク質の大きさは数nm以下である。
このため、本開示に係る細胞外小胞分離用粉体は、エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と接触したときに、夾雑タンパク質は無機粒子の細孔内に取り込まれて、疎水性有機基に強く強固に吸着され、一方で、エクソソームは無機粒子への取り込み及び吸着が抑制されることから、液体中のエクソソームの濃度は低下せずに純度を上昇させて、エクソソームのみを回収できるものと考えられる。
以上のことから、細胞外小胞であるエクソソームと夾雑するタンパク質とを含む液体から、夾雑するタンパク質を除去し、かつエクソソームを選択的かつ効率的に回収が可能となる。
【0019】
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体は、複数の無機粒子を含む。
無機粒子の組成は、特に限定されない。
無機粒子は、水に難溶又は不溶であることが好ましい。
本開示において、「水に難溶」とは、25℃の水に対する溶解度が0.01質量%~1質量%であることを意味し、「水に不溶」とは、25℃の水に対する溶解度が0.01質量%未満であることを意味する。
【0020】
無機粒子の組成としては、例えば、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭化物、窒化物、及び、金属が挙げられる。ここで説明する無機粒子の組成には、疎水性有機基及び後述する有機層の組成は含まない。
【0021】
酸化物の具体例としては、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、ゼオライト、酸化チタン(IV)(チタニア)、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)等の金属酸化物が挙げられる。
水酸化物の具体例としては、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物が挙げられる。
酸化水酸化物の具体例としては、酸化水酸化アルミニウム、酸化水酸化鉄(III)等の金属酸化水酸化物が挙げられる。
炭化物の具体例としては、炭化ケイ素(シリコンカーバイド)、炭化ホウ素(ボロンカーバイド)、炭化タングステン(タングステンカーバイド)等の金属炭化物が挙げられる。
窒化物の具体例としては、窒化アルミニウム(アルミナイトライド)、窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、窒化ホウ素(ボロンナイトライド)等の金属窒化物が挙げられる。
【0022】
金属は、金属単体であってもよく、金属合金であってもよい。
金属の具体例としては、アルミニウム、チタン、ニッケル等が挙げられる。
【0023】
無機粒子は、酸化物及び/又は窒化物を含む組成であることが好ましく、酸化物を含む組成であることがより好ましく、シリカ、アルミナ、ゼオライト、チタニア、又は、ジルコニアを含む組成であることが更に好ましく、シリカを含む組成であることが特に好ましい。
【0024】
無機粒子の形状は、特に限定されない。
無機粒子の形状としては、例えば、球形、楕円形、不定形等の形状が挙げられる。
【0025】
無機粒子は、細孔を有する。
無機粒子が有する細孔の平均細孔径は、6nm以上30nm以下の範囲である。無機粒子が有する細孔の平均細孔径が上記範囲内であると、エクソソームの細孔内部への取り込みを防げる傾向がある。
無機粒子が有する細孔の平均細孔径は、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。また、無機粒子が有する細孔の平均細孔径は、25nm以下が好ましい。
無機粒子が有する細孔の平均細孔径は、ある態様では、10nm以上30nm以下の範囲であってもよく、10nm以上25nm以下の範囲であってもよく、15nm以上25nm以下の範囲であってもよい。
【0026】
無機粒子が有する細孔の細孔径は、例えば、エージング工程による細孔を形成する一次粒子の粒子成長や、スプレードライ工程における出発ゾル中のコロイド粒子の粒子径、によって、制御することができる。例えば、エージング工程を一次粒子がより粒子成長する条件で行うと、細孔径は大きくなり、エージング工程を一次粒子がより粒子成長しない条件で行うと、細孔径は小さくなり、スプレードライ工程における出発ゾル中のコロイド粒子の粒子径を大きくすると、細孔径は大きくなり、スプレードライ工程における出発ゾル中のコロイド粒子の粒子径を小さくすると、細孔径は小さくなる。
【0027】
無機粒子が有する細孔の平均細孔径は、窒素吸脱着測定法により測定される。窒素吸脱着測定法による測定には、窒素吸脱着測定装置を用いる。具体的には、以下の条件及び操作により測定を行い、細孔容積を算出する。
吸着温度は77K、吸着質は窒素、飽和蒸気圧は実測、吸着質断面積は0.162nm、平衡判断時間は500秒の条件で測定を行う。
試料0.01g~0.1gをセルに採取し、120℃で8時間、真空脱気を行った後、測定する。測定では、定容法を用いて、窒素による吸脱着等温線を測定し、得られた吸脱着等温線の脱着側の等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halona)法によって、細孔分布解析することによって、細孔分布を得て、得られた細孔分布から平均細孔径を求める。
窒素吸脱着測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル(株)製BELSORP-miniIIを好適に用いることができる。但し、窒素吸脱着測定装置は、これに限定されない。
【0028】
無機粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、細胞外小胞分離用粉体としての扱い易さの観点からは、0.5μm以上500μm以下の範囲であることが好ましく、0.5μm以上300μm以下の範囲であることがより好ましく、0.5μm以上200μm以下の範囲であることが更に好ましく、0.5μm以上150μm以下の範囲であることが最も好ましい。
【0029】
本開示において、無機粒子の平均粒径は、体積平均粒径を意味する。
無機粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布において、小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)として求められる。
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、Malvern Panalytical社製のMastersizer 2000を好適に用いることができる。但し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置は、これに限定されない。
【0030】
無機粒子が有する粒径は、例えば、無機粒子の出発ゾル水溶液を疎水性溶媒中に分散した液滴、すなわち、W/O型のエマルションとして、液滴を重合誘起剤によりゲル化させるプロセス、スプレーによる噴霧プロセス等によって制御できる。例えば、ゾル溶液をエマルション化する際の分散工程において、よりゾル溶液の液滴が大きくなる条件を選択して、ゲル化させたり、スプレーによる噴霧の際にサイズがより大きくなる条件を選択したりすると、無機粒子の粒径は大きくなり、ゾル溶液をエマルション化する際の分散工程において、よりゾル溶液の液滴が小さくなる条件を選択して、ゲル化させたり、スプレーによる噴霧の際にサイズがより小さくなる条件を選択したりすると、無機粒子の粒径は小さくなる。
また、無機粒子の粒径の粒度分布はゾル溶液の液滴がより均一分散する条件で、ゲル化させたり、得られた無機粒子を所望の粒子サイズ前後のふるいを用いて分級したりすると、より狭分布にすることができる。
【0031】
無機粒子が有する細孔の細孔容積は、特に限定されないが、例えば、細孔の内部に十分量の夾雑タンパク質を吸着させる観点からは、より大きいことが好ましい。
このような観点から、無機粒子が有する細孔の細孔容積は、0.05mL/g以上であることが好ましく、0.30mL/g以上であることがより好ましく、0.50mL/g以上であることが更に好ましく、0.75mL/g以上であることが特に好ましい。
また、無機粒子が有する細孔の細孔容積は、例えば、無機粒子の力学強度の観点から、3.0mL/g未満であることが好ましい。
無機粒子が有する細孔の細孔容積は、ある態様では、0.05mL/g以上3.0mL/g未満の範囲であってもよく、0.30mL/g以上3.0mL/g未満の範囲であってもよく、0.50mL/g以上3.0mL/g未満の範囲であってもよく、0.75mL/g以上3.0mL/g未満の範囲であってもよい。
【0032】
無機粒子が有する細孔の細孔容積は、メソ孔細孔容積を意味する。
無機粒子が有する細孔の細孔容積は、エージング工程による細孔を形成する一次粒子の粒子成長、又はスプレードライ工程における出発ゾル中のコロイド粒子の粒子径によって、制御することができる。例えば、エージング工程を一次粒子がより粒子成長する条件で行うと、細孔容積は大きくなり、エージング工程を一次粒子がより粒子成長しない条件で行うと、細孔容積は小さくなり、スプレードライ工程における出発ゾル中のコロイド粒子の粒子径を大きくすると、細孔容積は大きくなり、スプレードライ工程における出発ゾル中のコロイド粒子の粒子径を小さくすると、細孔容積は小さくなる。
【0033】
無機粒子が有する細孔の細孔容積は、窒素吸脱着測定法により測定される。窒素吸脱着測定法による測定には、窒素吸脱着測定装置を用いる。具体的には、以下のとおり調製した測定用試料を用いて、以下の条件及び操作により測定を行い、細孔容積を算出する。
吸着温度は77K、吸着質は窒素、飽和蒸気圧は実測、吸着質断面積は0.162nm、平衡判断時間は500秒の条件で測定を行う。
試料0.01g~0.1gをセルに採取し、120℃で8時間、真空脱気を行った後、測定する。測定では、定容法を用いて、窒素による吸脱着等温線を測定し、得られた吸脱着等温線の吸着側の等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halona)法によって、細孔分布解析することによって、細孔分布を得て、得られた細孔分布から細孔容積を求める。
窒素吸脱着測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル(株)製BELSORP-miniIIを好適に用いることができる。但し、窒素吸脱着測定装置は、これに限定されない。
【0034】
無機粒子は、疎水性有機基を有する。
無機粒子は、骨格部分の表面に固定化された疎水性有機基を有しており、無機粒子が有する細孔の内表面には疎水性有機基が露出して存在している。疎水性有機基は、夾雑タンパク質を選択的に強く吸着する一方で、エクソソームとの相互作用は弱い官能基である。
【0035】
本開示において、「疎水性」とは、水に対する親和性が小さく水に溶解しにくい性質を指す。疎水性有機基であることは、例えば、無機粒子の骨格部分の結合している有機残基について、有機残基の結合部を水素原子としたときの、有機化合物の液温25℃の水に対する溶解度が、100g/L以下(好ましくは50g/L以下)であることによって判断することができる。
【0036】
疎水性有機基は、無機粒子の骨格部分と結合している有機残基の全体が疎水性であればよく、疎水性を示す限りにおいて、有機残基の一部が親水性基(例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルファニル基、オキソ基、チオキソ基、ホルミル基、チオホルミル基、カルボキシ基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基等)により置換されていてもよい。
【0037】
疎水性有機基としては、炭化水素基から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。炭化水素基としては、炭素数1以上24以下の直鎖又は分鎖の炭化水素基が挙げられ、炭素数3以上18以下の直鎖又は分鎖の炭化水素基であることが好ましく、炭素数4以上18以下の直鎖又は分鎖の炭化水素基であることがより好ましい。炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であっても、芳香族炭化水素基であってもよい。炭化水素基は飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。
疎水性有機基は、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を含む疎水性有機基であることが挙げられ、アルキル基を含む疎水性有機基であることが好ましい。アルキル基としては、炭素数1~24の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
【0038】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、2-エチルブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-n-プロピルヘプチル基、アダマンチル基、n-デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、2-エチルオクチル基、2-n-ヘキシル-デシル基、n-ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル墓、オクタデシル基、及びエイコシル基が挙げられる。
【0039】
アルキル基を含む疎水性有機基は、疎水性を有しつつも、細胞外小胞を含む液体との親和性を有する観点から、炭素数が3以上18以下のアルキル基を含む疎水性有機基であることが好ましく、炭素数が4以上18以下のアルキル基を含む疎水性有機基であることがより好ましく、炭素数8のアルキル基を含む疎水性有機基であることが更に好ましい。
【0040】
アルキル基を含む疎水性有機基は、トリアルキルシリル基であってよく、トリアルキルシリル基の例としては、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、及びオクタデシルジメチルシリル基が挙げられる。
【0041】
無機粒子は、さらに、外周表面の少なくとも一部に、界面活性作用を有する有機層を含むことが好ましい。「外周表面」とは、無機粒子の表面のうち細孔の内表面を含まない表面を指す。すなわち、無機粒子の外周領域のうち、細孔が開口している領域には、界面活性作用を有する有機層は存在しない。界面活性作用を有する有機層を有することにより、夾雑タンパク質が細孔内部に選択的に強く吸着される一方で、エクソソームと無機粒子との相互作用をより抑えることができる。
【0042】
界面活性作用を有する有機層は、界面活性作用のある有機物を1種又は2種以上含有する。界面活性作用のある有機物としては、タンパク質が好ましく、牛血清アルブミン及びカゼインから選択される少なくとも1種がより好ましく、カゼインが最も好ましい。
【0043】
無機粒子の外周表面の少なくとも一部に、界面活性作用を有する有機層を形成する方法としては、界面活性作用のある有機物を含有する被覆用組成物を用いて、無機粒子の外周表面を被覆する方法が挙げられる。
【0044】
有機層は、無機粒子の外周表面の少なくとも一部に形成されていればよく、外周表面の全体に形成されていてもよい。
界面活性作用を有する有機層の厚みは、本開示に係る効果が得られる厚みであれば、特に制限されない。
【0045】
界面活性作用を有する有機層は、被覆用組成物が含有する界面活性作用を有する有機物(例えば、タンパク質)の濃度、被覆対象とする無機粒子との接触時間、温度等により制御無機粒子の外周表面の少なくとも一部にのみ形成することができる。
【0046】
エクソソームは、細胞が放出する小胞であり、放出細胞(所謂、ドナー細胞)の性質を継承し、受け手細胞(所謂、レシピエント細胞)に適用することで、ドナー細胞由来の性質をレシピエント細胞に付与できることから、ドラックデリバリーシステム、治療薬等の素材として有用である。本開示に係る細胞外小胞分離用粉体によれば、細胞外小胞であるエクソソームを含む液体から、エクソソームを選択的かつ効率的に回収できることから、純度及び量の確保が求められるドラックデリバリーシステム及び治療薬の素材としてのエクソソームの回収に好ましく使用できる。
【0047】
[細胞外小胞分離用粉体の製造方法]
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体の製造方法は、特に限定されない。
細胞外小胞分離用粉体が含む、疎水性有機基を有し、かつ細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲である無機粒子としては、上記の特性を有するものであれば限定されるものではない。
【0048】
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体の製造方法は、細孔構造の形成工程及び無機粒子骨格表面の修飾工程(以下、「修飾工程」とも称する。)を有し、界面活性作用を有する有機層を形成する工程(以下、「有機層形成工程」とも称する。)を更に有していてもよい。
【0049】
細孔構造の形成工程は、窒素吸脱着測定法により測定される、細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲である多孔性シリカ粒子を準備する工程である。
【0050】
細孔構造の形成工程としては、例えば、スプレードライ法を経由する方法、ゾル-ゲル法を経由する方法、水溶液中でのエージング工程を経由する方法、熱処理によるスピノーダル分解を経由する方法、及び、ソフトテンプレート法を経由する方法が挙げられる。また、骨格表面の修飾工程については、シランカップリング剤を使用する方法、有機基を有する化合物を吸着させる方法が挙げられる。
【0051】
細孔構造の形成工程の好適な態様の一つとしては、水溶液中でのエージングを含む工程によって処理することで細孔サイズを制御する。
【0052】
細孔構造の形成工程は、窒素吸脱着測定法により測定される、細孔の平均細孔径が6nm以上30nm以下の範囲である多孔性シリカ粒子を準備する工程であってもよい。
上記多孔性シリカ粒子は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、(株)大阪ソーダ製のDaisogel-SP200-40/60が挙げられる。
【0053】
無機粒子骨格表面の修飾工程(修飾工程)では、無機粒子の骨格表面に疎水性有機基が導入される。疎水性有機基の導入には、疎水性有機基を有する修飾剤(以下、「疎水性有機基修飾剤」とも称する。)を用いることができる。疎水性有機基修飾剤としては、シランカップリング剤が挙げられる。
疎水性有機基修飾剤としてシランカップリング剤を用いる場合には、シランカップリング剤を用いた無機粒子の一般的な修飾方法を用いることができる。
【0054】
シランカップリング剤としては、トリアルコキシシラン系シランカップリング剤、及びジメチルクロロシラン系シランカップリング剤が挙げられる。ジメチルクロロシラン系シランカップリングとしては、例えば、トリメチルクロロシラン、ブチルジメチルクロロシラン、オクチルジメチルクロロシラン、及び、オクタデシルジメチルクロロシランが挙げられる。
【0055】
修飾工程の一例としては、ジメチルクロロシランを含む有機溶媒(トルエンが好ましい)に、細孔構造の形成工程で得られた無機粒子(例えば、シリカ粒子)を分散させる。ここで、有機溶媒は必ずしも用いる必要はなく、反応を効率化するために、塩化物イオン補足剤(ピリジンが好ましい)を添加してもよい。一定時間反応させた後(10分間以上、24時間以下、室温以上120℃以下)、洗浄及び乾燥を実施して、疎水性有機基が導入された無機粒子を得が得られる。なお、室温は25℃とするものとし、以降においても同様である。
【0056】
界面活性作用を有する有機層を形成する工程(有機層形成工程)の一例としては、先ず、上記の細孔構造の形成工程及び修飾工程を経て得られた、疎水性有機基を有し、かつ所定の平均細孔径を有する無機粒子を水溶液中に分散させ、修飾剤を含む水溶液と混和させる。次いで、一定時間混和した後(室温、1時間以下)、バッファー等を用いて室温で洗浄を行う。
【0057】
[細胞外小胞分離用粉体の使用方法]
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体の使用方法は、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と細胞外小胞分離用粉体とを接触させることにより、細胞外小胞分離用粉体に夾雑タンパク質を吸着させる工程aと、夾雑タンパク質が吸着した細胞外小胞分離用粉体を分離する工程bと、を含む。
本開示に係る細胞外小胞分離用粉体の使用方法によれば、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体から、エクソソームを選択的かつ効率的に回収できる。
また、ある態様においては、上記工程a及び上記工程bを含む使用方法を用いることで、エクソソームを純度良く含むエクソソーム含有液が得られる生産方法の提供も可能である。
【0058】
工程aは、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と細胞外小胞分離用粉体とを接触させることにより、細胞外小胞分離用粉体に夾雑タンパク質を吸着させる工程である。
工程aによれば、例えば、エクソソーム及び夾雑物を含む液体から、夾雑タンパク質を選択的に分離できる。
エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体は、液状媒体中に細胞外小胞であるエクソソームと夾雑タンパク質とが分散して含まれる分散液であれば、特に限定されない。
夾雑タンパク質としては、例えば、アルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン、及びフェチュインが含まれる。
液状媒体としては、例えば、血清、及び培地上清が挙げられる。
【0059】
エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と細胞外小胞分離用粉体とを接触させる方法は、特に限定されない。
エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と細胞外小胞分離用粉体とを接触させる方法としては、例えば、液体中の夾雑タンパク質と細胞外小胞分離用粉体とを効果的に接触させることができる点において、エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と細胞外小胞分離用粉体とを撹拌により混合する方法が好ましい。
また、エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体と細胞外小胞分離用粉体とを接触させる方法としては、例えば、細胞外小胞分離用粉体を担体とするカラムに、エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体を流す方法も好ましい。
【0060】
工程bは、夾雑タンパク質が吸着した細胞外小胞分離用粉体を分離する工程である。
工程bによれば、夾雑タンパク質が吸着された細胞外小胞分離用粉体に、液体中から分離されることで、液体中から夾雑タンパク質が除去され、エクソソームの選択的な回収が可能となる。
【0061】
夾雑タンパク質が吸着した細胞外小胞分離用粉体の液体からの分離方法は、特に限定されない。
夾雑タンパク質が吸着した細胞外小胞分離用粉体の液体からの分離方法としては、例えば、遠心分離が挙げられる。また、細胞外小胞分離用粉体を担体とするカラムに、エクソソーム及び夾雑タンパク質を含む液体を流す方法を用いた場合には、工程aと工程bとを兼ねることになる。
【実施例0062】
以下に実施例を挙げて、本開示に係る細胞外小胞分離用粉体を更に具体的に説明する。本開示に係る細胞外小胞分離用粉体は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1:細胞外小胞分離用粉体A-1の製造>
6nm以上30nm以下の範囲内の平均細孔径を有し、かつ疎水性有機基を有する無機粒子を含む無機粒子を製造した。
疎水性有機基を導入する前の無機粒子として、(株)大阪ソーダ製「Daisogel-SP200-40/60」を用いた。Daisogel-SP200-40/60は、疎水性有機基を導入する前に、60℃で真空乾燥を4時間行った。疎水性有機基修飾剤としては、トリメチルクロロシラン(東京化成工業(株)製)をトルエンに5vol%溶解させたものを用いた。溶解したトリメチルクロロシランとDaisogel-SP200-40/60が同一質量になるように、トルエン溶液にDaisogel-SP200-40/60を分散させ、室温で18時間反応させた。その後、得られた修飾粒子(疎水性有機基が導入された無機粒子)についてアセトン(キシダ化学製)を用いて3回洗浄を行い湿潤粒子を得た。得られた湿潤粒子は、室温でアセトンを乾燥させた後、60℃で真空乾燥を4時間行った。
以上により得られた無機粒子を、細胞外小胞分離用粉体A-1とした。
【0064】
<実施例2>
実施例1で用いた疎水性有機基修飾剤であるトリメチルクロロシランを、オクタデシルジメチルクロロシラン(東京化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして無機粒子を製造した。得られた無機粒子を実施例2の細胞外小胞分離用粉体A-2とした。
【0065】
<実施例3>
実施例1で用いた疎水性有機基修飾剤であるトリメチルクロロシランをブチルジメチルクロロシラン(東京化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして無機粒子を製造した。得られた無機粒子を実施例3の細胞外小胞分離用粉体A-3とした。
【0066】
<実施例4>
実施例1で用いた疎水性有機基修飾剤であるトリメチルクロロシランを、オクチルジメチルクロロシラン(東京化成工業(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして無機粒子を製造した。得られた無機粒子を実施例4の細胞外小胞分離用粉体A-4とした。
【0067】
<比較例1>
疎水性有機基を有さない無機粒子として、(株)大阪ソーダ製「Daisogel-SP200-40/60」を用いて、比較例1の細胞外小胞分離用粉体A-5とした。
【0068】
<比較例2>
実施例4で用いたDaisogel-SP200-40/60を、(株)大阪ソーダ製「Daisogel-SP60-40/60」に変更した以外は、実施例4と同様にして無機粒子を製造した。得られた無機粒子を、比較例2の細胞外小胞分離用粉体A-6とした。
【0069】
<比較例3>
実施例4で用いたDaisogel-SP200-40/60を、(株)大阪ソーダ製「Daisogel-SP1000-40/60」に変更した以外は、実施例4と同様にして無機粒子を製造した。得られた無機粒子を比較例3の細胞外小胞分離用粉体A-7とした。
【0070】
得られた細胞外小胞分離用粉体A-1~A-7が含む無機粒子について、窒素吸脱着測定法により平均細孔径を測定した。測定に際しての条件及び操作の詳細は、既述のとおりである。結果を表1に記載した。ここで、細孔径分布はBJH法で解析し、BJH法では脱着曲線を参照した。
【0071】
【表1】

【0072】
<実施例5>
実施例4で得られた細胞外小胞分離用粉体A-1をジメチルスルホキシド(DMSO、キシダ化学(株)製)を用いて室温で1回洗浄した後、次いで、PBS(-)を用いて室温で3回洗浄した。洗浄後の粉体と牛血清アルブミンとを、粉体量:牛血清アルブミン量=200:1の質量比でPBS(-)中室温で5分間混和して、粉体の外周表面に有機層を形成させた。以上により、細胞外小胞分離用粉体A-8を得た。
【0073】
<実施例6>
実施例4で得られた細胞外小胞分離用粉体A-1を2-propanolを用いて室温で1回洗浄した後、次いで、PBS(-)を用いて室温で3回で洗浄した。洗浄後の粉体と牛血清アルブミンとを、粉体量:牛血清アルブミン量=200:1の質量比でPBS(-)中室温で5分間混和して、粉体の外周表面に有機層を形成させた。以上により、細胞外小胞分離用粉体A-9を得た。
【0074】
<実施例7>
実施例4で得られた細胞外小胞分離用粉体A-1を2-propanolを用いて室温で1回洗浄した後、次いで、PBS(-)を用いて室温で3回で洗浄した。洗浄後の粉体とカゼイン(Aldrich Sigma社)とを、粉体量:カゼイン量=20:1の質量比でPBS(-)中室温で30分間混和して、粉体の外周表面に有機層を形成させた。以上により、細胞外小胞分離用粉体A-10を得た。
【0075】
実施例5~7で得た細胞外小胞分離用粉体A-8~A-10が含む無機粒子は、実施例4で得た細胞外小胞分離用粉体A-4が含む無機粒子と同様の平均細孔径の範囲を有し、かつ同様の疎水性有機基を有している。
したがって、細胞外小胞分離用粉体A-1~A-4、及び、細胞外小胞分離用粉体A-8~A-10は、本開示に係る細胞外小胞分離用粉体に相当する。
【0076】
[検量線の作成]
粉体によるエクソソーム及び牛血清アルブミン(夾雑タンパク質)の吸着率、吸着したエクソソーム及び牛血清アルブミンの粉体からの脱離率、並びに、エクソソーム及び牛血清アルブミンの回収率を算出するため、エクソソーム濃度とタンパク質濃度の標準直線を作成した。
【0077】
標準となるエクソソームは、ヒト膵臓癌細胞株BxPC-3細胞〔細胞登録番号:JCRB1448、JCRB細胞バンク〕の培養上清から分離した。具体的には、以下のようにして調製した。ヒト膵臓癌細胞株BxPC-3細胞を牛血清不含RPMI-1640培地〔カタログ番号:189-02025、富士フイルム和光純薬(株)製〕中で3日間培養した。次いで、得られた培養液を遠心分離〔遠心力:300×g)、回転時間:5分、温度:4℃〕し、培養上清Xを回収した。回収した培養上清Xを再度遠心分離〔遠心力:1,200×g、回転時間:20分、温度:4℃〕し、培養上清Yを回収した。回収した培養上清Yを再度遠心分離〔遠心力:10,000×g、回転時間:30分、温度:4℃〕し、培養上清Zを回収した。回収した培養上清Zには、エクソソームが含まれる。回収した培養上清Zを超遠心分離〔遠心力:100,000×g、回転時間:1時間、温度:4℃〕し、得られたペレットを1mLのPBS(-)溶液(リン酸緩衝生理食塩水)で縣濁した。得られた懸濁液を再度超遠心分離〔遠心力:100,000×g、回転時間:1時間、温度:4℃〕し、得られたペレットを1mLのPBS(-)溶液で再懸濁し、エクソソームを回収した。エクソソームを含む試料液中のタンパク質濃度は、牛血清アルブミン〔カタログ番号:A7906、Sigma-Aldrich社製〕を標準として、BCA Protein Assay Kit〔カタログ番号:23227、Thermo Fisher Scientific社製〕を用いて測定した。
【0078】
次に、上記にて得られたエクソソームを標準として、試料液中のエクソソーム濃度を算出するための検量線をsandwich ELISA法により作成した。具体的には、以下のようにして作成した。MaxiSorp 96 ウエルプレート〔カタログ番号:439454、Thermo Fisher Scientific社製〕の各ウエルに1μg/mLのマウス抗ヒトCD9抗体〔カタログ番号:3C9-E12、(株)細胞工学研究所製〕PBS(-)溶液を100μL加え、室温にて1時間静置した。次いで、各ウエルを、0.05%Tween20を含むTBS溶液〔50mMのTris及び0.14MのNaCl、pH8〕(以下、「洗浄液T」という。)200μLで3回洗浄した後、0.01g/mLの牛血清アルブミンを含む洗浄液Tを200μL加えて、室温にて1時間静置した。次いで、各ウエルから0.01g/mLの牛血清アルブミンを含む洗浄液Tを除去した後、各濃度のエクソソーム標準液を100μL加えて、室温で2時間振とうした。次いで、各ウエルを200μLの洗浄液Tで5回洗浄した後、HRP標識ラット抗ヒトCD63抗体〔カタログ番号:1C8-2B11、(株)細胞工学研究所製〕を100μL添加し、室温にて1時間静置した。次いで、各ウエルを200μLの洗浄液Tで5回洗浄した後、HRP基質液〔カタログ番号:5120-0053、SeraCare Life Sciences社製〕を100μL添加し、室温で20分間振とうした。その後、2%硫酸水溶液を50μL添加して反応を停止させ、各ウエルの波長450nmにおける吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定した。その結果、エクソソーム標準液の濃度と波長450nmにおける吸光度との間に高い直線性が示された(R=1.000)。
【0079】
また、試料液中のタンパク質濃度を算出するための検量線を、牛血清アルブミンをタンパク質の標準として、BCA Protein Assay Kit〔カタログ番号:23227、Thermo Fisher Scientific社製〕を用いて作成した。その結果、タンパク質標準液の濃度と波長570nmにおける吸光度との間に高い直線性が示された(R=0.970)。
【0080】
[試料液の調製]
細胞外小胞であるエクソソームと、牛血清アルブミン〔カタログ番号:A7906、Sigma-Aldrich社製〕とを混合し、試料液を調製した。試料液中の牛血清アルブミンは、本開示における夾雑タンパク質である。
エクソソームには、検量線を作成する際に使用したエクソソーム、すなわち、ヒト膵臓癌細胞株BxPC-3細胞〔細胞登録番号:JCRB1448、JCRB細胞バンク〕の培養上清から分離したエクソソームを用いた。
【0081】
=分離評価試験1に使用する試料液=
分離評価試験1に使用するために調製した試料液Aは、エクソソームの濃度が1.2μg/mLであり、牛血清アルブミンの濃度が3.0mg/mLであり、エクソソーム及び牛血清アルブミンがPBS(-)溶液に分散された分散液である。
=分離評価試験2に使用する試料液=
分離評価試験2に使用するために調製した試料液Bは、エクソソームの濃度が1.2μg/mLであり、牛血清アルブミンの濃度が0.30mg/mLであり、エクソソーム及び牛血清アルブミンがPBS(-)溶液に分散された分散液である。
【0082】
[評価]
上記にて製造した細胞外小胞分離用粉体A-1~A-4、A-6~A-10、及び、準備した細胞外小胞分離用粉体A-5を用いて、下記の試験を行い、細胞外小胞分離用粉体による夾雑タンパク質の分離除去及びエクソソームの回収の効率についての評価を行った。
【0083】
<分離評価試験1及び2>
分離試評価験1では、試料液Aと、実施例1~4及び比較例1~3で得た細胞外小胞分離用粉体A-1~A-7を用いた。
分離試評価験2では、試料液Bと、実施例4及び実施例5~7で得た細胞外小胞分離用粉体A-4、A-8~A-10を用いた。
【0084】
上記にて調製した試料液500μLと、上記にて製造した細胞外小胞分離用粉体10mgと、をマイクロチューブ〔プロテオセーブ(登録商標)SS 1.5mLマイクロチューブ、住友ベークライト(株)製〕中で混合した後、室温で2時間回転させて撹拌した。
なお、細胞外小胞分離用粉体A-1~A-7については、細孔内をPBSで満たすために、試料液との混合前に、DMSO(キシダ化学(株)製)で1回洗浄し、次いで、PBSで4回洗浄し、上澄み液を除去した。
次に、マイクロチューブを回転数8,000rpm(revolution per minute;以下、同じ)及び回転時間5秒の条件で遠心分離機にかけ、細胞外小胞分離用粉体と上澄み液とに分離し、上澄み液を回収した。回収した上澄み液の分画を「S分画」とした。
【0085】
次に、上澄み液を回収した後のマイクロチューブに、洗浄液としてのPBS(-)溶液500μLを加え、細胞外小胞分離用粉体と洗浄液とを混合した後、室温で10分間回転させて撹拌することにより、細胞外小胞分離用粉体の洗浄処理を行った。
その後、マイクロチューブを回転数8,000rpm及び回転時間5秒の条件で遠心分離機にかけ、細胞外小胞分離用粉体と洗浄液とに分離し、洗浄液を回収した。
上記の洗浄処理及び回収の操作を3回連続して行い、回収した洗浄液の分画をそれぞれ「W1分画」、「W2分画」及び「W3分画」とした。
【0086】
細胞外小胞分離用粉体へのエクソソームの吸着率(単位:%)は、下記の計算式により算出した。
エクソソームの吸着率(単位:%)
=100×{〔試料液に含まれるエクソソームの量(単位:μg)〕-〔S分画、W1分画、W2分画及びW3分画に含まれるエクソソームの合計量(単位:μg)〕}/〔試料液に含まれるエクソソームの量(単位:μg)〕
【0087】
試料液からのエクソソームの回収率(%)は、下記の計算式により算出した。
エクソソームの回収率(単位:%)
=100-エクソソームの吸着率(単位:%)
【0088】
細胞外小胞分離用粉体への牛血清アルブミンの吸着除去率(単位:%)は、下記の計算式により算出した。
牛血清アルブミンの吸着除去率(単位:%)
=100×{〔試料液に含まれる牛血清アルブミンの量(単位:mg)〕-〔S分画、W1分画、W2分画及びW3分画に含まれる牛血清アルブミンの合計量(単位:mg)〕}/〔試料液に含まれる牛血清アルブミンの量(単位:mg)〕
【0089】
細胞外小胞分離用粉体からの牛血清アルブミンの脱離率(単位:%)は、下記の計算式により算出した。
牛血清アルブミンの脱離率(単位:%)
=100×〔W1分画、W2分画又はW3分画に含まれる牛血清アルブミンの合計量(単位:μg)〕/{〔牛血清アルブミンの吸着率(単位:%)〕×〔試料液に含まれる牛血清アルブミンの量(単位:mg)〕/100}
【0090】
表2に、分離評価試験1で得た、エクソソーム吸着率(単位:%)、エクソソーム回収率(単位:%)及び、牛血清アルブミンの吸着除去率(単位:%)の結果を示す。(分離評価試験1:結果1)
表3に、分離評価試験1で得た、牛血清アルブミンの脱離率(単位:%)の結果を示す。(分離評価試験1:結果2)
【0091】
表4に、分離評価試験2で得た、エクソソーム吸着率(単位:%)、エクソソーム回収率(単位:%)、及び、牛血清アルブミンの吸着除去率(単位:%)の結果を示す。(分離評価試験2:結果1)
表5に、分離評価試2で得た、牛血清アルブミンの脱離率(単位:%)の結果を示す。(分離評価試験2:結果2)
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
表2は、分離評価試験1において、実施例1~4及び比較例1~3の細胞外小胞分離用粉体について、牛血清アルブミン(夾雑タンパク質)の吸着除去能及びエクソソームの分離能を評価した結果を示している。表4は、分離評価試験2において、実施例4、5~7の細胞外小胞分離用粉体について、牛血清アルブミンの吸着除去能及びエクソソームの分離能を評価した結果を示している。
【0097】
表2及び表4に示すように、実施例の細胞外小胞分離用粉体は、比較例の細胞外小胞分離用粉体との対比において、牛血清アルブミン(夾雑タンパク質)の吸着除去能に優れ、かつ、エクソソームの回収率にも優れている。
【0098】
表3は、分離評価試験1において、試料液Aと接触させた後の実施例1~4及び比較例1~3の細胞外小胞分離用粉体について、洗浄処理後、W1分画、W2分画、及びW3分画について確認した牛血清アルブミンの脱離率(%)を示している。表5は、分離評価試験2において、試料液Bと接触させた後の実施例4、5~7の細胞外小胞分離用粉体について、洗浄処理後、W1分画、W2分画、及びW3分画について確認した牛血清アルブミンの脱離率(%)を示している。
【0099】
表3及び表5に示すように、疎水性有機基を有しない無機粒子を含む比較例の細胞外小胞分離用粉体では、洗浄処理によって牛血清アルブミンが高い脱離率で脱離する一方で、疎水性有機基を有する無機粒子を含む細胞外小胞分離用粉体では、洗浄中に牛血清アルブミンは、殆ど脱離していないことが分かる。
【0100】
以上より、本開示に係る細胞外小胞分離用粉体によれば、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑タンパク質である牛血清アルブミンを含む試料液から、細胞外小胞であるエクソソーム及び夾雑するタンパク質を含む液体から、夾雑するタンパク質を除去し、かつエクソソームを選択的かつ効率的に回収できることが明らかとなった