(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146538
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】分散液、分散液の製造方法、エラストマー組成物の製造方法、および、高圧水素機器用ガスシール部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20241004BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241004BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20241004BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20241004BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241004BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20241004BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09K3/10 M
C08K3/04
C08L21/00
C08L9/02
C08L23/16
C08L83/04
C09K3/10 N
C09K3/10 Z
C09K3/10 G
F16J15/10 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059508
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】新藤 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
【テーマコード(参考)】
3J040
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
3J040EA19
3J040FA06
3J040FA11
3J040HA01
3J040HA11
3J040HA21
4H017AA03
4H017AB07
4H017AB12
4H017AB15
4H017AB17
4H017AC11
4H017AD03
4H017AE02
4J002AC001
4J002AC071
4J002BB151
4J002CP031
4J002DA016
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD206
4J002GJ02
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れ、ブリスター破壊の発生を十分に抑えることができる高圧水素機器用ガスシール部材を製造可能な分散液等を提供できる。
【解決手段】本発明に係る高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液は、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、前記エラストマーを溶解する溶媒とを含み、前記エラストマー100質量部あたり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.5質量部より多く、3質量部未満を含み、当該分散液中の前記繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たす。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液であって、
エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、前記エラストマーを溶解する溶媒とを含み、
前記エラストマー100質量部あたり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.5質量部以上3質量部未満含み、
当該分散液中の前記繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たす分散液。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
ここで、D50、D10、D90は、それぞれ前記分散液中の繊維状単層ナノ構造体の粒度分布を測定した際の粒子径を示しており、D50は粒子の積算値が50%である粒子の直径(=中央値、メディアン径とも言われる)であり、D10は粒子の積算値が10%である粒子の直径であり、D90は粒子の積算値が90%である粒子の直径である。
【請求項2】
以下の条件(3)を満たす、請求項1に記載の分散液。
(3)D90-D10≦35μm
【請求項3】
前記エラストマーは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンゴムおよびフッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴムである、請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
前記繊維状炭素ナノ構造体は、単層カーボンナノチューブを含む、請求項1または2に記載の分散液。
【請求項5】
高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液の製造方法であって、
エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、前記エラストマーを溶解する溶媒と、を混合分散処理して分散液を得る分散工程を備え、
前記分散液は、前記エラストマー100質量部あたり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.5質量部以上3質量部未満含み、
前記分散工程は、前記分散液における前記繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たすよう混合分散処理を行う、分散液の製造方法。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
ここで、D50、D10、D90は、それぞれ前記分散液中の繊維状単層ナノ構造体の粒度分布を測定した際の粒子径を示しており、D50は粒子の積算値が50%である粒子の直径(=中央値、メディアン径とも言われる)であり、D10は粒子の積算値が10%である粒子の直径であり、D90は粒子の積算値が90%である粒子の直径である。
【請求項6】
高圧水素機器用ガスシール部材に用いられるエラストマー組成物の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の分散液、または、請求項5に記載の分散液の製造方法により得られる分散液を準備する工程と、
前記分散液から前記溶媒を除去して前記エラストマー組成物を得る溶媒除去工程と、
を備える、エラストマー組成物の製造方法。
【請求項7】
高圧水素機器用ガスシール部材の製造方法であって、
請求項6に記載のエラストマー組成物の製造方法により得られるエラストマー組成物と架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を得る工程と、
前記架橋性エラストマー組成物を架橋した架橋物を得る工程と、を備え、
前記架橋物は高圧水素機器用ガスシール部材として用いられる、高圧水素機器用ガスシール部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液、この分散液の製造方法、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられるエラストマー組成物の製造方法、および、高圧水素機器用ガスシール部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスの漏洩を防止する部材として、パッキンやガスケットなどのガスシール部材が用いられている。このようなガスシール部材は、例えば、燃料電池車用の水素ステーション等の高圧水素機器に用いられることがある。
【0003】
高圧水素機器に用いられるガスシール部材は、例えば、35MPa以上105MPa以下という高圧水素に晒されることから、高圧水素に起因する破壊モード、すなわち、はみ出し破壊やブリスター破壊の発生を抑えることが求められる。
ここで、「はみ出し破壊」とは、高圧水素との接触によってガスシール部材が所定の設置位置(例えば、設置用の溝など)からはみ出し、設置位置周囲の隙間などに噛み込むことにより生じる破壊である。また、「ブリスター破壊」とは、高圧水素との接触によってガスシール部材の内部に浸透した水素が、急速減圧時などにガスシール部材の内部に滞留したまま膨張してガスシール部材を破裂させることにより生じる破壊である。
【0004】
例えば、特許文献1には、エラストマーと、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素ナノ構造体とを含有するエラストマー組成物を架橋してガスシール部材を形成することにより、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を抑えることができるガスシール部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高圧水素機器に用いられるガスシール部材は、高圧水素との接触と急速減圧とが繰り返されて主にブリスター破壊が生じやすいことから、より一層の耐久性が求められている。
【0007】
本発明の目的は、より一層の耐久性に優れる高圧水素機器用ガスシール部材を製造し得る分散液等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行ったところ、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、エラストマーを溶解する溶媒とを含む分散液において、前記繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が所定範囲となるように分散処理を行い、この分散液を用いてガスシール部材を作製することにより、主にブリスター破壊の発生を抑え、より一層の耐久性に優れる高圧水素機器用ガスシール部材を提供し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
[1]本発明の分散液は、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液であって、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、前記エラストマーを溶解する溶媒とを含み、前記エラストマー100質量部あたり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.5質量部以上3質量部未満含み、当該分散液中の前記繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たす。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
ここで、D50、D10、D90は、それぞれ前記分散液中の繊維状単層ナノ構造体の粒度分布を測定した際の粒子径を示しており、D50は粒子の積算値が50%である粒子の直径(=中央値、メディアン径とも言われる)であり、D10は粒子の積算値が10%である粒子の直径であり、D90は粒子の積算値が90%である粒子の直径である。
本発明によれば、当該分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布を上記範囲内とすることにより、ブリスター破壊の発生を十分に抑えることができ、高圧水素機器用ガスシール部材の耐久性をより一層向上できる。
【0010】
[2]上記[1]の分散液において、ブリスター破壊の発生をさらに抑えることができることから、以下の条件(3)を満たすことが好ましい。
(3)D90-D10≦35μm
【0011】
[3]上記[1]又は[2]の分散液において、前記エラストマーは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンゴムおよびフッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴムであってもよい。このような構成によれば、ブリスター破壊の発生をさらに抑えることができる。
【0012】
[4]上位[1]~[3]の何れかの分散液において、前記繊維状炭素ナノ構造体は、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。このような構成により、ブリスター破壊の発生をさらに抑えることができる。
【0013】
[5]本発明に係る分散液の製造方法は、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液の製造方法であって、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、前記エラストマーを溶解する溶媒と、を混合分散処理して分散液を得る分散工程を備え、前記分散液は、前記エラストマー100質量部あたり、前記繊維状炭素ナノ構造体を0.5質量部以上3質量部未満含み、前記分散工程は、前記分散液における前記繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たすよう混合分散処理を行う。なお、D10、D50、D90は上述の通りである。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
【0014】
[6]本発明に係るエラストマー組成物の製造方法は、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられるエラストマー組成物の製造方法であって、上記[1]~[4]の何れかの分散液、または、上記[5]の分散液の製造方法により得られる分散液を準備する工程と、前記分散液から前記溶媒を除去して前記エラストマー組成物を得る溶媒除去工程と、を備える。
【0015】
[7]また、本発明に係る高圧水素機器用ガスシール部材の製造方法は、上記[6]のエラストマー組成物の製造方法により得られるエラストマー組成物と架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を得る工程と、前記架橋性エラストマー組成物を架橋した架橋物を得る工程とを備え、前記架橋物は適宜成形加工等がなされて高圧水素機器用ガスシール部材として用いられる。
これらの製造方法によれば、耐久性に優れ、ブリスター破壊の発生を十分に抑えることができる高圧水素機器用ガスシール部材を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブリスター破壊の発生を十分に抑えることができ、耐久性に優れる高圧水素機器用ガスシール部材を製造可能な分散液、分散液の製造方法、エラストマー組成物の製造方法、および高圧水素機器用ガスシール部材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】水素ステーションの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
<高圧水素機器>
本発明の分散液を用いて得られる高圧水素機器用ガスシール部材は、燃料電池車用の水素ステーション等の高圧水素機器におけるパッキンやガスケットなどのガスシール部材として用いることができる。
このような高圧水素機器としては、例えば、高圧水素が充填された容器と、容器内に充填された高圧水素と接触して高圧水素の漏出を防止する高圧水素機器用ガスシール部材とを備える高圧水素機器を挙げることができる。
ここで、「高圧水素機器」とは、高圧水素(例えば35MPa以上105MPa以下)を取り扱う機器を意味し、具体的には、水素ステーションに用いられる、水素製造装置(例えば、後述する
図1における水素製造装置111)や、水素ガス圧縮機(例えば、後述する
図1における水素ガス圧縮機(昇圧機)112)、蓄ガス機(例えば、後述する
図1における蓄ガス機(蓄圧器)113)、ディスペンサー(例えば、後述する
図1におけるディスペンサー114)、車両(例えば、後述する
図1における車両(燃料電池車)120)に搭載された燃料電池、等を挙げることができる。
【0019】
<高圧水素機器用ガスシール部材>
高圧水素機器用ガスシール部材は、上述した高圧水素機器に用いられるガスシール部材であって、エラストマー組成物に架橋剤を添加した組成物(架橋性エラストマー組成物)を所定条件にて架橋し成形し架橋物として得ることができる。
【0020】
<エラストマー組成物>
エラストマー組成物は、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体とを含有し、繊維状炭素ナノ構造体は、エラストマー100質量部あたり0.5質量部以上3質量部未満の量を含む。このエラストマー組成物は、エラストマー、繊維状炭素ナノ構造体、およびこのエラストマーを溶解する溶媒を含む分散液を準備し(準備工程)、この分散液から溶媒を除去して得ることができる(溶媒除去工程)。
【0021】
<分散液>
本発明の分散液は、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液であって、エラストマー100質量部あたり、繊維状炭素ナノ構造体を0.5質量部以上3質量部未満含むことが必要である。また、本分散液は、後述するが、当該分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たす。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
【0022】
<エラストマー>
本分散液に含まれるエラストマーとしては、特に限定されることなく、高圧水素機器用ガスシール部材の形成に用いられる既知のエラストマーを用いることができる。具体的には、エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上述した中でも、エラストマーとしては、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンゴムおよびフッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のゴムが好ましい。
【0023】
ここで、水素ガス圧縮機(昇圧機)(例えば、-20℃~180℃:95MPa)に用いられるガスシール部材に含まれるエラストマーとしては、フッ素ゴム(例えばFKM)が好ましく、蓄ガス機(蓄圧器)(例えば、-20℃~50℃:95MPa)に用いられるガスシール部材に含まれるエラストマーとしては、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)が好ましく、ディスペンサー(例えば、-40℃~50℃:82MPa)に用いられるガスシール部材に含まれるエラストマーとしては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が好ましい。
【0024】
<繊維状炭素ナノ構造体>
本分散液に含まれる繊維状炭素ナノ構造体としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT、以下、適宜「CNT」と称する)等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなる炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体が挙げられる。
エラストマー組成物に繊維状炭素ナノ構造体を含有させることで、高圧水素機器用ガスシール部材の強度を確保することができるので、はみ出し破壊の発生およびブリスター破壊の発生を抑えることができる。
【0025】
繊維状炭素ナノ構造体の平均長さは、特に限定されないが、通常100μm以上1000μm以下であり、150μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましく、750μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。平均長さが上記範囲内であれば、ブリスター破壊の発生を良好に抑制することができる。
【0026】
繊維状炭素ナノ構造体の種類としては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)のみからなるものであってもよいし、多層カーボンナノチューブ(多層CNT)のみからなるものであってもよいし、単層CNTと多層CNTとの混合物であってもよいし、カーボンナノチューブ(CNT)と、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
ここで、単層CNTは、多層CNTと比較して、水素が更に吸着され難く、補強効果が高い点で、繊維状炭素ナノ構造体として用いることが好ましい。
エラストマー組成物を用いて形成したガスシール部材において、はみ出し破壊の発生とブリスター破壊の発生との双方を更に抑制する観点からは、繊維状炭素ナノ構造体100本中の単層CNTの割合は、50本以上であることが好ましく、70本以上であることがより好ましく、90本以上であることが更に好ましく、100本であることが特に好ましい。
【0027】
エラストマー組成物では、繊維状炭素ナノ構造体として単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用することが好ましい。このように、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用することで、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができるからである。
【0028】
繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、ブリスター破壊の発生を更に抑制することが可能なガスシール部材を形成することができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体は、CNTの開口処理が施されておらず、t-プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。
【0029】
ここで、一般に、吸着とは、ガス分子が気相から固体表面に取り去られる現象であり、その原因から、物理吸着と化学吸着に分類される。そして、t-プロットの取得に用いられる窒素ガス吸着法では、物理吸着を利用する。なお、通常、吸着温度が一定であれば、繊維状炭素ナノ構造体に吸着する窒素ガス分子の数は、圧力が大きいほど多くなる。また、横軸に相対圧(吸着平衡状態の圧力Pと飽和蒸気圧P0の比)、縦軸に窒素ガス吸着量をプロットしたものを「等温線」といい、圧力を増加させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「吸着等温線」、圧力を減少させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「脱着等温線」という。
【0030】
t-プロットは、窒素ガス吸着法により測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得られる。即ち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0031】
ここで、表面に細孔を有する試料では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0032】
繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となり、上に凸な形状を示すことが好ましい。かかるt-プロットの形状は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。そして、多数の開口が形成されている結果として、当該繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の内部まで浸透したガスが透過して抜け易い(即ち、当該繊維状炭素ナノ構造体を含むガスシール部材はブリスター破壊が起こり難くなる)と推察される。
【0033】
なお、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0を満たす範囲にあることが更に好ましい。t-プロットの屈曲点の位置が上記範囲内にあると、繊維状炭素ナノ構造体の特性が更に向上するため、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができる。
ここで、「屈曲点の位置」とは、t-プロットにおける、上述した(1)の過程の近似直線Aと、上述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0034】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.08以上であることが更に好ましく、0.30以下であることが好ましい。S2/S1が0.05以上0.30以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の特性を更に向上させることができるので、ブリスター破壊の発生を更に抑制することができる。
また、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、600m2/g以上1400m2/g以下であることが好ましく、800m2/g以上1200m2/g以下であることが更に好ましい。一方、S2は、30m2/g以上540m2/g以下であることが好ましい。
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0035】
因みに、繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0036】
繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることがより好ましく、1250m2/g以上であることが更に好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1500m2/g以下であることが更に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が上記範囲内であれば、十分な補強効果を得つつ、架橋物中で適度に分散してブリスター破壊の発生を更に抑制することができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0037】
繊維状炭素ナノ構造体としてのCNTは、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての繊維状炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm3以上0.2g/cm3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm3以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、エラストマー中で繊維状炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm3以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0038】
上述した性状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0039】
なお、スーパーグロース法により製造した繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
【0040】
<溶媒>
本分散液に含まれる溶媒としては、エラストマーを溶解可能な溶媒であれば特に限定されず、例えば、メチルエチルケトン(以下MEK)やアセトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(以下THF)などのエーテル類を挙げることができる。溶媒は、1種類を単独で、または、2種類以上を組み合わせて用いることができる。例えばエラストマーとしてFEPMを用いた場合には、溶媒としてはTHF等を挙げることができる。また、エラストマーとしてFKMを用いた場合には、溶媒としてはMEK等を挙げることができる。エラストマーとしてNBRを用いた場合には、溶媒としてはMEK等を挙げることができる。
【0041】
<分散液の準備工程>
本発明の分散液は、高圧水素機器用ガスシール部材に用いられる分散液であって、エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体と、エラストマーを溶解する溶媒とを混合分散処理し(分散工程)、当該分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たし、好ましくは条件(3)も満たすように混合分散処理して得ることができる。
【0042】
<分散工程>
分散液は、例えば、超音波ホモジナイザーや湿式ジェットミルなどを用いた分散処理により溶媒に繊維状炭素ナノ構造体を分散させてなる繊維状炭素ナノ構造体分散液を準備し、この繊維状炭素ナノ構造体分散液に対して配合するエラストマーを添加、混合してエラストマーを溶解させて得ることができる。
【0043】
<混合分散処理>
分散液は、当該分散液中の繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布が以下の条件(1),(2)を満たしており、(3)も満たすことが好ましい。
(1)D50≦20μm
(2)D90-D10≦45μm
(3)D90-D10≦35μm
ここで、D50、D10、D90は、それぞれ前記分散液中の繊維状単層ナノ構造体の粒度分布を測定した際の粒子径を示しており、D50は粒子の積算値が50%である粒子の直径(=中央値、メディアン径とも言われる)であり、D10は粒子の積算値が10%である粒子の直径であり、D90は粒子の積算値が90%である粒子の直径である。
【0044】
繊維状炭素ナノ構造体の粒度分布(D10、D50、D90)は、分散処理によって得られた分散液をメチルエチルケトン等の溶媒で希釈し、レーザー回折式粒度分布計(例えば、HORIBA社製、LA‐950)を用いて透過率88%での粒度測定を行って求めることができる。
【0045】
上記条件を満たすべく、分散処理条件や処理装置としては、例えば、超音波ホモジナイザーやビーズミル、湿式ジェットミルや高速回転せん断分散機などが挙げられる。適度に強いせん 断力を印加することにより、繊維状炭素ナノ構造体を十分に分散させることができ、材質 均一性が向上した成形体を形成することができるからである。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。具体的には、分散メディアとしてジルコニアビーズを用いたビーズミルにおいて、分散処理の条件:周速8~12m/sであればよく、プローブ型超音波装置を用いて、出力200~600W、超音波振幅20~40μmで分散処理を行う等して実施できる。
【0046】
<エラストマー組成物の製造方法>
エラストマー組成物は、上述の分散液を準備し、この分散液から溶媒を除去することにより得ることができる。エラストマー組成物は、必要に応じて、得られた組成物に対して後述する添加剤をさらに添加して得ることができる。
得られた分散液から溶媒を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、凝固法、キャスト法または乾燥法を用いることができる。
【0047】
<エラストマー組成物>
エラストマー組成物は、上述した分散液を用いて得られるため、分散液中に含まれるエラストマーおよび繊維状炭素ナノ構造体がそのままの量および状態で含まれ得る。このため、エラストマー組成物中の繊維状炭素ナノ構造体の含有量は、エラストマー100質量部当たり、0.5質量部以上3質量部未満であり、また、繊維状炭素ナノ構造体は溶媒分散時の状態(粒度等)を維持し得る。繊維状炭素ナノ構造体がこのような構成となることより、高圧水素機器用ガスシール部材の強度を十分に高めることができ、ブリスター破壊の発生を抑えることができる。
【0048】
<添加剤>
エラストマー組成物には、任意の添加剤を配合し得る。このような添加剤としては、特に限定されることなく、補強材、酸化防止剤などの既知の添加剤を用いることができる。
補強材としては、特に限定されることなく、シリカやカーボンブラックなどを用いることができる。
酸化防止剤としては、特に限定されることなく、アミン系酸化防止剤(例えば、4,4’-ビス(a,a-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)やイミダゾール系酸化防止剤(例えば、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩)などを用いることができる。
これらの添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、添加剤の配合量は、所望の効果の発現が阻害されない限り、任意の量とすることができる。
【0049】
エラストマー組成物が上述の添加剤を含む場合、分散液から溶媒を除去して得られた組成物に対して、添加剤を所望の配合比で混合または混練することにより得ることができる。混練としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などを用いて行うことができる。
なお、上述した添加剤は、後述する架橋性エラストマーを製造する際に架橋剤とともに添加してもよいし、架橋剤を添加する前に予めエラストマー組成物に添加してもよい。
【0050】
<架橋性エラストマー組成物>
上述したように、架橋性エラストマー組成物は、エラストマー組成物に架橋剤(必要に応じて架橋助剤添加、本明細書にて同じ)を添加して得ることができる。エラストマー組成物に架橋剤を添加する場合、上述の添加剤の場合と同様に混練して得ることができる。
架橋剤としては、特に限定されないが、エラストマー組成物に含まれているエラストマー成分を架橋可能な既知の架橋剤を用いることができる。より具体的には、架橋剤としては、例えば、硫黄、パーオキサイド系架橋剤(例えば、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン)、トリアリルイソシアヌレートなどを用いることができる。架橋助剤としては、特に限定されないが、例えば亜鉛華などを用いることができる。これらの架橋剤(架橋助剤も同様)は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、架橋剤(架橋助剤も同様)の配合量は、所望の効果の発現が阻害されない限り、任意の量とすることができる。
【0051】
<ガスシール部材>
ガスシール部材は、高圧水素機器に用いられる部材であって、上述した架橋性エラストマー組成物を準備し、所望の形状に成形し架橋して得ることができる。具体的には、ガスシール部材は、例えば、架橋性エラストマー組成物を金型に投入し、架橋し成形して形成できる。ガスシール部材の形状は、用途に応じた任意の形状とすることができ、例えば、環状のガスシール部材(Oリング)であってもよいし、中空円盤状のガスシール部材であってもよい。また、架橋条件としては、特に制限はないが、例えば、温度:140℃~250℃、圧力:1MPa~20MPa、時間:1分間~180分間の条件が好ましい。
【0052】
<高圧水素機器>
高圧水素機器は、35MPa以上105MPa以下の高圧水素が充填された容器と、上述のガスシール部材とを備えて構成される。高圧水素機器に用いられるガスシール部材は、容器内に充填された高圧水素と接触している。なお、高圧水素の圧力は、例えば60MPa以上または70MPa以上とすることができる。また、高圧水素の圧力は、例えば100MPa以下または95MPa以下とすることができる。
【0053】
図1は、水素ステーションの構成を示す概略図である。
図1において、水素ステーション100は、水素製造装置111と、水素ガス圧縮機(昇圧機)112と、蓄ガス機(蓄圧器)113と、ディスペンサー114を備え、各設備は、水素配管118により接続されている。また、各水素配管118の途中には必要に応じてバルブや継手などの配管機器(図示せず)が配設されている。
オンサイト型の水素ステーション100では、外部から燃料(ナフサ又は灯油)が供給され、この燃料を用いて、燃料改質装置111Aと水素の高純度化を図る水素精製装置111Bとを備えた水素製造装置111で水素が製造される。
水素製造装置111で製造された水素は、水素ガス圧縮機(昇圧機)112で所定の温度(例えば、-20℃~180℃)および圧力(例えば、95MPa)の高圧水素とされ、昇圧された水素は、高圧水素を一時的に蓄えるための蓄ガス機(蓄圧器)113と、蓄ガス機(蓄圧器)113に蓄えられた高圧水素を車両(燃料電池車)120に供給するためのディスペンサー114とを介して、水素タンク(図示せず)を備えた車両(燃料電池車)120に供給される。
このとき、ディスペンサー114から車両(燃料電池車)120への水素の供給は、水素の差圧により行う。例えば、蓄ガス機(蓄圧器)113内の温度および圧力をそれぞれ、-20℃~50℃、95MPaとし、ディスペンサー114での温度および圧力をそれぞれ、-40℃~50℃、82MPaとしておき、差圧により車両(燃料電池車)120内の水素タンクに水素を充填する。
【0054】
ディスペンサー114は、車両(燃料電池車)120の水素タンクに水素を供給するための水素供給ホース115を備えており、水素供給ホース115には車両120のレセプタクル121に着脱自在に接続される水素供給プラグ116が取り付けられている。よって、水素供給プラグ116をレセプタクル121に接続することにより、車両(燃料電池車)120に水素を供給することができる。
また、水素供給ホース115の途中には、緊急離脱カップリング117が配設されている。よって、緊急時(例えば、車両(燃料電池車)120が誤発進した場合)には、この緊急離脱カップリング117を作動させることで、水素ステーション100側から車両(燃料電池車)120側への水素の供給を停止することができる。
【0055】
なお、高圧水素機器用ガスシール部材は、例えば、各設備(水素製造装置111,水素ガス圧縮機(昇圧機)112,蓄ガス機(蓄圧器)113,ディスペンサー114)と水素配管118との接続部分や、各設備(水素製造装置111,水素ガス圧縮機(昇圧機)112,蓄ガス機(蓄圧器)113,ディスペンサー114)における容器本体と蓋部との間、などに設けられる。
【実施例0056】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、分散液中の繊維状炭素ナノ構造体としてのカーボンナノチューブの粒度分布、及び高圧水素耐久性試験は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0057】
<分散液の粒度分布>
分散処理によって得られた分散液をメチルエチルケトンで希釈し、レーザー回折式粒度分布計(HORIBA社製、LA‐950)を用いて、透過率88%におけるカーボンナノチューブの粒度測定を行い、D50及びD10、D90を求め、D90-D10を算出した。ここで、D50は粒子の積算値が50%である粒度の直径(=中央値、メディアン径とも言われる)であり、同様にD10は積算値が10%である粒子の直径であり、D90は、積算頻度が90%である粒子の直径である。
【0058】
<高圧水素耐久性試験>
架橋成形したガスシール部材であるサイズP22のOリングを二つのバックアップリングで挟んだ状態で金属ユニットに装着し、サンプルホルダに挿入後、水素ガスライン、圧力計、温度計、ヒーター等をセッティングした。水素ガスを110℃、サンプルホルダが180℃になるように加熱し、水素ガス圧力を90MPaまで昇圧させた。その後、3分間を1サイクルとする高圧保持試験を実施し、リーク水素の圧力を観察した。リーク水素の圧力が急激に上昇した時は、Oリングが破壊されたと判断し、その時の回数を耐久性とした。所定のサイクルの高圧保持試験を実施後、Oリングを取り出し亀裂や破壊の有無を観察し試験後のOリング状態とした。試験後Oリング状態については、A:亀裂なし、B:貫通亀裂なし、C:貫通亀裂ありとした。
【0059】
<実施例1>
溶媒であるメチルエチルケトン(MEK)9000gに、エラストマーとしてのフッ素ゴム(ケマーズ社製、商品名「GF600S」)100部(1000g)を加え、撹拌してフッ素ゴムを溶解させて、フッ素ゴム溶解溶液を得た。
次に、フッ素ゴム溶解溶液に対し、カーボンナノチューブとしてのSGCNT(日本ゼオン社製、製品名「ZEONANO SG101」)1部(10g)を加え、撹拌機(PRIMIX社製、ラボ・リューション(登録商標)、撹拌部:ホモディスパー)を用い撹拌した。更に、ビーズミル(淺田鉄工社製、商品名「ナノミル NM-G1.4L」、分散メディアとしてジルコニアビーズ(分散メディアの平均直径:0.65mm)、分散処理の条件:周速8m/s、吐出量80g/分)及び、プローブ型超音波装置(三井電機精機社製、製品名「UX300」)を用いて、出力600W、超音波振幅40μmで分散処理を行うことにより(分散工程)、SGCNTを加えたフッ素ゴム溶解溶液(分散液に相当)を得た。得られた分散液を用い、分散液のレーザー回折式粒度分布測定を行い、分散液中のカーボンナノチューブのメジアン径D50、D90-D10を求めた。結果を表1に示す。
その後、得られた分散液をイオン交換水:イソプロピルアルコール=1:1の溶液3000gへ滴下し、凝固させて黒色固体を得た。そして、得られた黒色固体を170℃で8時間減圧乾燥し(溶媒除去工程)、フッ素ゴムとSGCNTとの混合物(エラストマー組成物に相当)を得た。
【0060】
<混練>
オープンロールを用いて、フッ素ゴムとSGCNTの混合物101gと、補強材としてのカーボンブラック(東海カーボン社製、製品名「サーマックス(登録商標)N990」)10gおよびシリカ(日本アエロジル社製、製品名「アエロジルR972V」)50gと、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、製品名「TAIC(登録商標)」)4部および2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂社製、商品名「パーヘキサ(登録商標)25B-40」3.75部とを混錬し、フッ素ゴム組成物(架橋性エラストマー組成物に相当)を得た。
<Oリングの作製>
得られたフッ素ゴム組成物を金型に投入し、温度160℃、圧力10MPaで10分間架橋させてOリング(サイズP22)を得た。
そして、得られたOリングを用いて、高圧水素耐久性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
<実施例2>
フッ素ゴムとSGCNTとの混合物の調整において、SGCNTを加えたフッ素ゴム溶解溶液の分散処理を、ビーズミル(淺田鉄工社製、商品名「ナノミル NM-G1.4L」、分散メディアとしてジルコニアビーズ(分散メディアの平均直径:0.65mm)、分散処理の条件:周速8m/s、吐出量80g/分)のみに変更した以外は実施例1と同様にし、Oリングを作成し評価した。結果を表1に示す。
【0062】
<実施例3>
フッ素ゴムとSGCNTとの混合物の調整において、SGCNTの添加量を0.5部(5g)に変更した以外は実施例1と同様にフッ素ゴムとSGCNTとの混合物を作成した。混錬においてフッ素ゴムとSGCNTの混合物100.5gと、補強材として、カーボンブラック(東海カーボン社製、製品名「サーマックス(登録商標)N990」)10gとシリカ(日本アエロジル社製、製品名「アエロジルR972V」)55gにした以外は同様にフッ素ゴム組成物を得て、Oリングを作成し評価した。結果を表1に示す。
【0063】
<実施例4>
フッ素ゴムとSGCNTとの混合物の調整において、SGCNTの添加量を2部(20g)に変更した以外は実施例1と同様にフッ素ゴムとSGCNTとの混合物を作成した。混錬においてフッ素ゴムとSGCNTの混合物102gと、補強材として、カーボンブラック(東海カーボン社製、製品名「サーマックス(登録商標)N990」)10gとシリカ(日本アエロジル社製、製品名「アエロジルR972V」)40gにした以外は同様にフッ素ゴム組成物を得て、Oリングを作成し評価した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例1>
フッ素ゴムとSGCNTとの混合物の調整において、SGCNTの添加量を3部(30g)に変更した以外は実施例1と同様にフッ素ゴムとSGCNTとの混合物を作成した。混錬においてフッ素ゴムとSGCNTの混合物103gと、補強材として、カーボンブラック(東海カーボン社製、製品名「サーマックス(登録商標)N990」)10gとシリカ(日本アエロジル社製、製品名「アエロジルR972V」)30gにした以外は同様にフッ素ゴム組成物を得て、Oリングを作成し評価した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例2>
混錬において、フッ素ゴム100gと、補強材として、カーボンブラック(東海カーボン社製、製品名「サーマックス(登録商標)N990」)10gとシリカ(日本アエロジル社製、製品名「アエロジルR972V」)60gにした以外は同様にフッ素ゴム組成物を得て、Oリングを作成し評価した。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1より、所定の繊維状炭素ナノ構造体量であり、所定の粒度分布範囲である実施例1~4では、高圧水素耐久性のサイクル回数が多く、試験後のOリングにも亀裂が少ないことが分かる。
一方、繊維状炭素ナノ構造体を含まないもの及び量が適切でないものでは、耐久性のサイクル回数が少なく、試験後のOリングにも貫通や亀裂が発生していることが分かる。