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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146557
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱処理油組成物
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/58 20060101AFI20241004BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20241004BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20241004BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C21D1/58
C10M105/38
C10N40:20 A
C10N30:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059536
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】市谷 克実
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】大内 春花
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB34A
4H104BB36A
4H104BB41A
4H104CB02A
4H104CB14A
4H104EB09
4H104EB20
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA25
(57)【要約】
【課題】耐熱性、及び減圧環境下での冷却性に優れる、熱処理油組成物を提供する。
【解決手段】多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を含む、熱処理油組成物である。前記多価アルコールの価数が、3価以上であることが好ましい。また、前記ポリオールエステル(P)の分子量が、500以上であることが好ましい。また、光輝性改良剤、酸化防止剤、及び冷却性向上剤からなる群から選択される1種以上を含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を含む、熱処理油組成物。
【請求項2】
前記多価アルコールの価数が、3価以上である、請求項1に記載の熱処理油組成物。
【請求項3】
前記ポリオールエステル(P)の分子量が、500以上である、請求項1又は2に記載の熱処理油組成物。
【請求項4】
光輝性改良剤、酸化防止剤、及び冷却性向上剤からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱処理油組成物。
【請求項5】
蒸気膜破断剤の含有量が、前記熱処理油組成物の全量基準で、5質量%未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱処理油組成物。
【請求項6】
前記ポリオールエステル(P)の含有量が、前記熱処理油組成物の全量基準で、80質量%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱処理油組成物。
【請求項7】
圧力が大気圧よりも低い減圧環境下で用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱処理油組成物。
【請求項8】
焼入油又は焼戻油として用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱処理油組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱処理油組成物を、焼入油又は焼戻油として使用する、使用方法。
【請求項10】
多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を配合する工程を含む、熱処理油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の焼入れ等の熱処理加工は、通常熱処理液を用いて金属材料に所望の硬さを付与するために行われる。そのため、熱処理液には、金属材料の硬さを高め得る、優れた冷却性能を有することが必要である。
冷却能力に非常に優れた液体は水であるが、水系の熱処理液は、冷却性能が高過ぎて金属材料に焼割れが生ずる危険性があり、焼入れ歪みも大きい。そのため、金属材料の焼入れ等の熱処理加工では、油系の熱処理液、すなわち熱処理油が一般的に使用されている。
【0003】
熱処理油の冷却性を示す指標としては、JIS K2242:2012で規定される冷却曲線において、800℃から300℃までの冷却時間から算出する、焼入強烈度(H値)が広く用いられている。
【0004】
ここで、焼入れの1種として、真空浸炭炉を用いた真空浸炭法が知られている。
真空浸炭法とは、減圧環境下で、炭化水素系ガスを供給し、その後熱処理加工を行うことにより、金属材料の表面に活性炭素を浸透させる熱処理加工方法である。
真空浸炭法は、ガス浸炭法と比べて雰囲気ガス中に混入する酸素が少ないため、浸炭時に金属材料表面が酸素と反応しにくい。したがって、酸化物生成による表面硬度低下及び強度低下が起きにくいという利点がある。
【0005】
また、金属材料の焼入れに関し、加熱された金属材料を熱処理油に投入した場合、冷却速度は一定ではなく、通常以下の(1)~(3)の三つの段階を経て冷却される。
(1)金属材料が熱処理油の蒸気で包まれる第1段階(蒸気膜段階)。
(2)蒸気膜が破れて沸騰が起こる第2段階(沸騰段階)。
(3)金属材料の温度が熱処理油の沸点以下となり、対流により熱が奪われる第3段階(対流段階)。
上記の三つの段階のうち、冷却速度は第2段階の沸騰段階が最も大きい。そして、第1段階の蒸気膜段階が終了するまでの時間(JIS K2242:2012に準拠した冷却性試験における「特性秒数」)が長いと、焼入れ歪を招きやすい。したがって、特性秒数を短くするため、蒸気膜破断剤を含む熱処理油が知られている。
そこで、例えば、特許文献1には、冷却性を向上させるため、蒸気膜破断剤として用いられるエチレンとα-オレフィンとの共重合体を含有し、基油として鉱油を含む熱処理油組成物が開示されている。
また、特許文献2には、熱処理油に適用可能であり、基油としてエステル化合物を含有する潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-302377号公報
【特許文献2】特開2018-100369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるような鉱油及び蒸気膜破断剤を含む熱処理油組成物では、H値が低く、減圧環境下での冷却性が十分ではないという問題がある。
また、特許文献2では、芳香環を含むエステル化合物が用いられている。しかしながら、芳香族化合物を含有する熱処理油組成物は、冷却性や溶解性が不十分という問題がある。
更に、熱処理油組成物は、繰り返しの焼き入れによる劣化への耐性、即ち耐熱性に優れることが求められている。
【0008】
そこで、本発明は、耐熱性、及び減圧環境下での冷却性に優れる、熱処理油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸とのポリオールエステルを含む熱処理油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記[1]及び[2]を提供する。
[1] 多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を含む、熱処理油組成物。
[2] 多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を配合する工程を含む、熱処理油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性、及び減圧環境下での冷却性に優れる、熱処理油組成物を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に記載された数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0013】
[熱処理油組成物]
本実施形態の熱処理油組成物は、多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を含む、熱処理油組成物である。
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、熱処理油組成物が上記特定のポリオールエステルを含むと、平均分子量が同等の鉱油よりも蒸気圧が小さいことから、減圧環境下での冷却性に優れる熱処理油組成物が得られることを見出した。また、熱処理油組成物が上記特定のポリオールエステルを含むと、熱分解しにくく、熱履歴を受けても蒸気膜段階の伸びが小さいことから、耐熱性に優れる熱処理油組成物が得られることを見出した。
【0015】
本実施形態の熱処理油組成物は、後述するように、添加剤を含んでもよく、含まなくてもよい。
本実施形態の熱処理油組成物は、ポリオールエステル(P)のみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオールエステル(P)以外の他の成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。ポリオールエステル(P)以外の他の成分としては、添加剤等が挙げられる。
本実施形態の熱処理油組成物が添加剤を含む場合、ポリオールエステル(P)、及び添加剤の合計含有量は、当該熱処理油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。また、通常100質量%以下、好ましくは100質量%未満、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。
【0016】
<ポリオールエステル(P)>
本実施形態の熱処理油組成物は、ポリオールエステル(P)を含有する。
本実施形態において、ポリオールエステル(P)は、多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのエステルである。
本実施形態の熱処理油組成物が、上記特定のポリオールエステル(P)を含有すると、鉱油を基油とする熱処理油組成物よりも、H値を大きくすることができるため、減圧環境下での冷却性に優れる。また、本実施形態の熱処理油組成物が、上記特定のポリオールエステル(P)を含有すると、鉱油を基油とする熱処理油組成物よりも、熱処理油組成物への焼き入れを繰り返した際のH値の変化率を小さくすることができるため、耐熱性に優れる。
【0017】
本実施形態の熱処理油組成物において、ポリオールエステル(P)は、基油として機能する。
本実施形態の熱処理油組成物において、ポリオールエステル(P)の含有量は、熱処理油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、更になお好ましくは90質量%以上、一層好ましくは100質量%である。なお、ポリオールエステル(P)の含有量は、熱処理油組成物の全量(100質量%)基準で、100質量%以下であってもよい。
なお、添加剤を含まず、ポリオールエステル100%で構成される場合、「熱処理油組成物」とも言うし、単に「熱処理油」とも言う。
【0018】
ポリオールエステル(P)は、部分エステルであってもよく、完全エステルであってもよいが、耐熱性、及び減圧環境下での冷却性を向上させる観点等から、完全エステルを含むことが好ましい。
本実施形態において、ポリオールエステル(P)中の完全エステルの含有量は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0019】
(多価アルコール)
本実施形態において、多価アルコールは、ポリオールエステル(P)を構成するアルコール成分である。
多価アルコールの炭素数としては、ポリオールエステル(P)の分子量を高めて蒸発性を抑制しやすくする観点から、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。また、多価アルコールの炭素数としては、入手性の観点から、炭素数は15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下が更に好ましい。
多価アルコールは、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、飽和、不飽和のいずれであってもよい。
多価アルコールの価数としては、蒸発性を抑制できるようにポリオールエステル(P)の分子量を確保する観点から、好ましくは3価以上、より好ましくは4価以上である。アルコールが多価であると、1価よりもポリオールエステルの分子量が大きく、蒸発し難くなり、焼入れ時の蒸気膜段階が長くなりにくいため、好ましい。
【0020】
多価アルコールは、水酸基同士が3つ以上の炭素原子を介して存在する構造が好ましい。
【0021】
多価アルコールとしては、蒸発性を抑制できるポリオールエステル(P)の分子量の観点の観点から、例えば、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、プロパンジオール、ブチレングリコール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール、トリデカンジオール、テトラデカンジオール、ペンタデカンジオール等の2価アルコール;トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上のアルコール等の多価脂肪族アルコールが好ましく挙げられる。
これらの中でも、蒸発性を抑制できるポリオールエステル(P)の分子量の観点から、3価以上の脂肪族アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールがより好ましく、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが更に好ましい。
【0022】
多価アルコールとしては、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、サリチルアルコール、ジヒドロキシジフェニル等の2価の芳香族アルコール;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の2価の脂環式アルコール;ピロガロール、メチルピロガロール、エチルピロガロール、各種プロピルピロガロール、各種ブチルピロガロール等の3価の芳香族アルコール;シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノール等の3価の脂環式アルコール等は、冷却性、溶解性を向上させる観点から、少ない方が好ましく、含まないことがより好ましい。
【0023】
(脂肪酸(A))
本実施形態において、脂肪酸(A)は、ポリオールエステル(P)を構成する酸成分である。
脂肪酸(A)は、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上である。脂肪酸(A)の炭素数が10~30であると、H値が大きくなるため、耐熱性、及び減圧環境下での冷却性に優れる。また、脂肪酸(A)の炭素数が10~30であると、脂肪酸(A)を入手しやすくなる。
脂肪酸(A)の炭素数としては、上記観点から、10~30であり、好ましくは12~28、より好ましくは14~26、更に好ましくは16~24である。
【0024】
ポリオールエステル(P)を構成する脂肪酸(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリオールエステル(P)を構成する脂肪酸(A)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
脂肪酸(A)は、直鎖飽和脂肪酸であってもよく、直鎖不飽和脂肪酸であってもよく、分岐飽和脂肪酸であっても、及び分岐不飽和脂肪酸であってもよい。したがって、脂肪酸(A)は、直鎖飽和脂肪酸、直鎖不飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸、及び分岐不飽和脂肪酸から選択される1種以上であってもよい。
詳細には、脂肪酸(A)は、下記(1)、(2)、(3)、及び(4)からなる群から選択される1種以上であってもよい。
(1)直鎖飽和脂肪酸から選択される1種以上
(2)直鎖不飽和脂肪酸から選択される1種以上
(3)分岐飽和脂肪酸から選択される1種以上
(4)分岐不飽和脂肪酸から選択される1種以上
ここで、入手容易性等の観点から、脂肪酸(A)は、直鎖飽和脂肪酸、直鎖不飽和脂肪酸、及び分岐飽和脂肪酸から選択される1種以上であることが好ましい。
詳細には、脂肪酸(A)は、下記(1)、(2)、及び(3)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
(1)直鎖飽和脂肪酸から選択される1種以上
(2)直鎖不飽和脂肪酸から選択される1種以上
(3)分岐飽和脂肪酸から選択される1種以上
【0025】
直鎖飽和脂肪酸の具体例としては、例えば、n-デカン酸、n-ウンデカン酸、n-ドデカン酸、n-トリデカン酸、n-テトラデカン酸、n-ペンタデカン酸、n-ヘキサデカン酸、n-ヘプタデカン酸、n-オクタデカン酸、n-ノナデカン酸、n-イコサン酸、n-ヘンイコサン酸、n-ドコサン酸、n-トリコサン酸、n-テトラコサン酸等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
直鎖不飽和脂肪酸の具体例としては、例えば、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸)、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸、エイコサジエン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、ドコセン酸等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、直鎖不飽和脂肪酸の不飽和結合数は1であってもよく、2以上であってもよいが、入手容易性の観点などから、不飽和結合数は1であることが好ましい。
これらの中でも、オクタデセン酸(オレイン酸)が好ましい。
【0027】
分岐飽和脂肪酸の具体例としては、例えば、イソデカン酸、2-メチルデカン酸、3-メチルデカン酸、4-メチルデカン酸、5-メチルデカン酸、6-メチルデカン酸、7-メチルデカン酸、9-メチルデカン酸、イソドデカン酸、6-エチルノナン酸、5-プロピルオクタン酸、3-メチルヘンデカン酸、6-プロピルノナン酸、イソトリデカン酸、2-メチルドデカン酸、3-メチルドデカン酸、4-メチルドデカン酸、5-メチルドデカン酸、11-メチルドデカン酸、7-プロピルデカン酸、イソテトラデカン酸、2-メチルトリデカン酸、12-メチルトリデカン酸、イソヘキサデカン酸、2-ヘキシルデカン酸、14-メチルペンタデカン酸、2-エチルテトラデカン酸、メチル分岐型イソステアリン酸、2-へプチルウンデカン酸、2-イソへプチルイソウンデカン酸、2-エチルヘキサデカン酸、14-エチルヘキサデカン酸、14-メチルヘプタデカン酸、15-メチルヘプタデカン酸、イソステアリン酸、2-ブチルテトラデカン酸、3-メチルノナデカン酸、2-エチルオクタデカン酸等が挙げられる。
これらの中でも、イソステアリン酸が好ましい。また、イソステアリン酸の中でも、16-メチルヘプタデカン酸が好ましい。
【0028】
<ポリオールエステル(P)の物性>
(ポリオールエステル(P)の分子量)
ポリオールエステル(P)の分子量としては、蒸発性の抑制、及び冷却性の観点から、好ましくは500以上、より好ましくは600以上2,000以下、更に好ましくは800以上1,500以下である。
【0029】
(ポリオールエステル(P)の動粘度)
ポリオールエステル(P)の40℃動粘度は、蒸発性を抑制する観点から、好ましくは20mm/s以上350mm/s以下、より好ましくは25mm/s以上300mm/s以下、更に好ましくは30mm/s以上250mm/s以下である。
なお、本明細書において、ポリオールエステル(P)の40℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される値を意味する。
【0030】
<ポリオールエステル(P)の製造方法>
ポリオールエステル(P)の製造方法は、特に制限されず、例えば、上記多価アルコールと、上記脂肪酸(A)とを反応させて、定法によりエステル化を行うことにより、製造することができる。
【0031】
<ポリオールエステル(P)以外の他の基油>
本実施形態の熱処理油組成物は、ポリオールエステル(P)以外の他の基油をさらに含有してもよく、含有していなくてもよい。
ポリオールエステル(P)以外の他の基油としては、例えば、ポリオールエステル(P)には該当しない合成油、及び鉱油からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0032】
ポリオールエステル(P)には該当しない合成油としては、例えば、ポリビニルエーテル類;ポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体;ポリオールエステル(P)には該当しないポリオールエステル類;ポリエステル類;ポリカーボネート類;α-オレフィンオリゴマーの水素化物;脂環式炭化水素化合物;アルキル化芳香族炭化水素化合物;フィシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化することによって製造されるGTL基油;等が挙げられる。
なお、合成油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、ポリオールエステル(P)には該当しない合成油の含有量は、少ないことが好ましい。具体的には、ポリオールエステル(P)には該当しない合成油の含有量としては、ポリオールエステル(P)100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、更に好ましくは0.1質量部未満、より更に好ましくはポリオールエステル(P)には該当しない合成油を含まないことである。
【0034】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上施して得られる鉱油;ワックス異性化鉱油等が挙げられる。
なお、鉱油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、鉱油の含有量は、少ないことが好ましい。鉱油は本実施形態のポリオールエステル(P)よりも分子量の分布が広いため、低分子量の成分を含有する。低分子量の成分は、蒸発性が高いため、蒸発しやすい。その結果、熱処理油組成物の蒸気膜段階が終了するまでの時間(特性秒数)が長くなってしまうことから、少ない方が好ましい。
鉱油の含有量としては、上記の観点から、ポリオールエステル(P)100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは鉱油を含まないことである。
【0036】
<添加剤>
本実施形態の熱処理油組成物は、所望により、熱処理油組成物において慣用されている添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、光輝性改良剤、酸化防止剤、冷却性向上剤、蒸気膜破断剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(光輝性改良剤)
本実施形態の熱処理油組成物が光輝性改良剤を含む場合、外観の光輝性を向上させることができる。
光輝性改良剤としては、例えば、油脂;アルキルコハク酸の完全エステル及びアルキルコハク酸イミド並びにこれらの誘導体;アルケニルコハク酸の完全エステル、アルケニルコハク酸イミド、並びにこれらの誘導体;置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸エステル(完全エステル)、その誘導体等が挙げられる。
具体的には、例えば、ポリブテニルコハク酸イミド、ポリイソブテニルコハク酸イミド、ペンタデセニルコハク酸等が挙げられる。
これらの光輝性改良剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光輝性改良剤の含有量は、熱処理油組成物の全量基準で、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.3質量%~3.0質量%、更に好ましくは0.4質量%~2.5質量%である。
【0038】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-パラクレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート等の単環フェノール類;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)等の多環フェノール類;等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン系酸化防止剤、ナフチルアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
ジフェニルアミン系酸化防止剤としては、例えば、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等が挙げられ、具体的には、ジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン、4,4’-ジブチルジフェニルアミン、4,4’-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、4,4’-ジノニルジフェニルアミン、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等が挙げられる。
ナフチルアミン系酸化防止剤としては、例えば、炭素数3~20のアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられ、具体的には、α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、ブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられる。
これらの酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤の含有量は、熱処理油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%~5.0質量%、より好ましくは0.02質量%~3.0質量%、更に好ましくは0.05質量%~2.0質量%である。
【0039】
(冷却性向上剤)
冷却性向上剤としては、例えば、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド類等のイミド系分散剤、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類等が挙げられる。
これらの冷却性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
冷却性向上剤の含有量は、熱処理油組成物の全量基準で、好ましくは0.05質量%~5.0質量%、より好ましくは0.1質量%~3.0質量%、更に好ましくは0.3質量%~2.0質量%である。
【0040】
(蒸気膜破断剤)
蒸気膜破断剤としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素数は3~20);当該エチレン-α-オレフィン共重合体の水素添加物;1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、及び1-オクタデセン等の炭素数5~20のα-オレフィン重合体;当該α-オレフィン重合体の水素添加物;ポリプロピレン、ポリブテン、及びポリイソブチレン等の炭素数3又は4のオレフィン重合体;当該オレフィン重合体の水素添加物;ポリメタクリレート、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、石油樹脂等の高分子化合物;アスファルト等が挙げられる。
これらの蒸気膜破断剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
蒸気膜破断剤の数平均分子量(Mn)は、通常800~100,000であることが好ましい。蒸気膜破断剤の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて計測されるポリスチレン換算の値である。
【0041】
本実施形態の熱処理油組成物は、鉱油よりも分子量の分布が狭いポリオールエステル(P)を含むことから、鉱油よりも熱処理油組成物の蒸気膜段階が終了するまでの時間(特性秒数)を短くすることができる。したがって、蒸気膜破断剤を含まずとも、特性秒数を短くすることができる。
上記の観点から、蒸気膜破断剤の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、蒸気膜破断剤の含有量は、熱処理油組成物の全量基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、更になお好ましくは蒸気膜破断剤を含有していないことである。
【0042】
[熱処理油組成物の物性]
<熱処理油組成物の動粘度>
熱処理油組成物の40℃動粘度は、蒸発性を抑制する観点から、好ましくは20mm/s以上350mm/s以下、より好ましくは25mm/s以上300mm/s以下、更に好ましくは30mm/s以上250mm/s以下である。
なお、本明細書において、熱処理油組成物の40℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される値を意味する。
【0043】
<熱処理油組成物の圧力環境>
本実施形態の熱処理油組成物は、油面上の圧力が大気圧よりも低い減圧環境下で用いられることが好ましく、空気がほとんど存在しない環境下で用いられることがより好ましい。
具体的には、例えば、真空炉、真空浸炭炉等の密封系熱処理炉で用いられることが好ましい。
本実施形態の熱処理油組成物は、使用される油面上の空間の圧力が、0.1MPa以下が好ましく、80kPa以下がより好ましく、50kPa以下が更に好ましく、30kPa以下がより更に好ましい。
また、本実施形態の熱処理油組成物は、炭化水素系ガス雰囲気で使用されることが好ましい。
炭化水素系ガスとしては、例えば、アセチレン等が挙げられる。
【0044】
<減圧環境下での冷却性>
本実施形態の熱処理油組成物は、後述する実施例に記載の方法により、焼入強烈度(H値)を用いることで、減圧環境下での冷却性を評価することができる。
H値は、JIS K2242:2012で規定される冷却曲線において、800℃から300℃までの冷却時間から算出することができる。
本実施形態の熱処理油組成物が光輝性改良剤を含む場合、H値は、減圧環境下での冷却性の観点から、好ましくは0.149以上、より好ましくは0.151以上、更に好ましくは0.160以上である。
本実施形態の熱処理油組成物が光輝性改良剤を含まない場合、H値は、減圧環境下での冷却性の観点から、好ましくは0.130以上、より好ましくは0.151以上、更に好ましくは0.160以上である。
【0045】
<耐熱性>
本実施形態の熱処理油組成物は、後述する実施例に記載の方法により、熱劣化前後におけるH値の変化率から、熱処理油組成物の使用前後での冷却性の変化として、耐熱性を評価することができる。
具体的には、耐熱性試験前に測定するH値を(A)、耐熱性試験後に測定するH値を(B)とし、「(B-A)/(A)=(H値の変化率)」を算出することで評価することができる。
H値の変化率の絶対値は、耐熱性の観点から、好ましくは2.2%以下、より好ましくは1.4%以下、更に好ましくは1.0%以下である。
なお、本実施形態の熱処理油組成物は、大気圧環境下での耐熱性に優れるが、減圧環境下においても耐熱性に優れる。
【0046】
<特性秒数>
本実施形態の熱処理油組成物は、後述する実施例に記載の方法により、特性秒数を評価することができる。
特性秒数は、蒸気膜段階の時間を短くし、焼入れ歪を抑制する観点から、好ましくは2.50秒以下、より好ましくは2.00秒以下、更に好ましくは1.95秒以下、より更に好ましくは1.80秒以下である。
【0047】
[熱処理油組成物の製造方法]
本実施形態の熱処理油組成物の製造方法は、多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を配合する工程を含む。
必要に応じて、ポリオールエステル(P)を配合する工程において、添加剤を配合してもよい。
【0048】
本実施形態の熱処理油組成物の製造方法は、更に、ポリオールエステル(P)を、ポリオールエステル(P)以外の他の基油と混合する工程、更には上記添加剤を混合する工程を有していてもよく、有していなくてもよい。
なお、上記添加剤をポリオールエステル(P)に配合する場合、上記添加剤は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。
なお、多価アルコール、及び脂肪酸(A)の好ましい態様は、上述したとおりである。
【0049】
[熱処理油組成物の用途]
本発明の熱処理油組成物は、耐熱性、及び減圧環境下での冷却性に優れる。そのため、本実施形態の熱処理油組成物は、減圧環境下で焼入油又は焼戻油として好適に使用することができ、減圧環境下で焼入油として使用することがより好ましい。
【0050】
本発明の一態様によれば、下記[1]~[10]が提供される。
[1] 多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を含む、熱処理油組成物。
[2] 前記多価アルコールの価数が、3価以上である、前記[1]に記載の熱処理油組成物。
[3] 前記ポリオールエステル(P)の分子量が、500以上である、前記[1]又は[2]に記載の熱処理油組成物。
[4] 光輝性改良剤、酸化防止剤、及び冷却性向上剤からなる群から選択される1種以上を含有する、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱処理油組成物。
[5] 蒸気膜破断剤の含有量が、前記熱処理油組成物の全量基準で、5質量%未満である、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱処理油組成物。
[6] 前記ポリオールエステル(P)の含有量が、前記熱処理油組成物の全量基準で、80質量%以上である、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱処理油組成物。
[7] 圧力が大気圧よりも低い減圧環境下で用いられる、前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱処理油組成物。
[8] 焼入油又は焼戻油として用いられる、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の熱処理油組成物。
[9] 前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の熱処理油組成物を、焼入油又は焼戻油として使用する、使用方法。
[10] 多価アルコールと、炭素数10~30の脂肪酸から選択される1種以上の脂肪酸(A)とのポリオールエステル(P)を配合する工程を含む、熱処理油組成物の製造方法。
【実施例0051】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[物性値の測定方法]
物性値の測定法は、以下のとおりとした。
(1)40℃動粘度、及び粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定、及び算出した。
【0053】
[原料]
実施例1~10及び比較例1~6において、熱処理油組成物を調製するための原料として使用した基油及び添加剤は、以下のとおりとした。
【0054】
<基油>
・ポリオールエステル(P1):テトラオレイン酸ペンタエリスリトール
(脂肪酸の炭素数:18、分子量:1193.93、40℃動粘度:65.57mm/s)
・ポリオールエステル(P2):トリオレイン酸トリメチロールプロパン
(脂肪酸の炭素数:18、分子量:927.51、40℃動粘度:46.06mm/s)
・ポリオールエステル(P3):トリオレイン酸グリセリル
(脂肪酸の炭素数:18、分子量:885.45、40℃動粘度:44.11mm/s)
・ポリオールエステル(P4):テトライソステアリン酸ペンタエリスリトール
(脂肪酸の炭素数:18、分子量:1201.99、40℃動粘度:151.6mm/s)
・ポリオールエステル(P5):トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン
(脂肪酸の炭素数:18、分子量:933.56、40℃動粘度:102.80mm/s)
・ポリオールエステル(P’1):テトラ(2-エチルヘキサン酸)ペンタエリスリトール
(脂肪酸の炭素数:8、分子量:640.93、40℃動粘度:44.01mm/s)
・ポリオールエステル(P’2):トリ(2-エチルヘキサン酸)トリメチロールプロパン(脂肪酸の炭素数:8、分子量:514.78、40℃動粘度:24.38mm/s)
・ポリオールエステル(P’3):トリ(2-エチルヘキサン酸)グリセリル
(脂肪酸の炭素数:8、分子量:470.68、40℃動粘度:16.30mm/s)
・鉱油:API基油カテゴリーでの分類:グループIIIの鉱油
(40℃動粘度:43.75mm/s、粘度指数:143)
【0055】
<添加剤>
・光輝性改良剤:アルケニルコハク酸及びフェノール系酸化防止剤の混合物
・蒸気膜破断剤:ポリαオレフィンオリゴマー(製品名:ルーカントHC-600、三井化学株式会社製)
【0056】
(実施例1)
基油としてのポリオールエステル(P1)98.0質量%に、光輝性改良剤2.0質量%を加え、IHヒーターで80℃まで加熱後、15分間撹拌混合し、実施例1の熱処理油組成物を得た。
【0057】
(実施例2~5、比較例1~3)
基油を表1に示すポリオールエステルに各々変更した以外は、実施例1の熱処理油組成物と同様にして、実施例2~5及び比較例1~3の熱処理油組成物を調製した。
【0058】
(比較例4)
実施例1において、ポリオールエステル(P1)の代わりに、鉱油及び蒸気膜破断剤を用い、表1に示す含有量に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の熱処理油組成物を得た。
【0059】
次に、上記の実施例1~5及び比較例1~4について、耐熱性、及び減圧環境下での冷却性、及び特性秒数を評価した。
【0060】
[減圧環境下での冷却性の評価]
JIS K 2242:2012に規定する冷却性試験法に準拠し、かつ油面上の空間の圧力を調整するために真空チャンバーを設けた試験装置を用いた。真空ポンプで減圧しチャンバー内の圧力を100Torr(13.3kPa)に調整し、800℃から60秒間の温度変化を記録した冷却曲線を作成した。作成した冷却曲線における800℃から300℃までの時間を用いて、阪大式冷却能評価法により、H値を求めた。(後述する表1中では、H値を「H値(A)」と記載した。)なお、H値が0.149以上であれば、減圧環境下での冷却性が良好と判断した。
なお、圧力は、真空チャンバー内の取り付けた真空圧力計により、測定した。
【0061】
[耐熱性の評価]
窒素雰囲気下としたチャンバー内で、ジョッキに入った油量:400mLの試験油(油面上の空間の圧力:大気圧)を、回転数:200rpmで撹拌しながら温度調整機能付きジャケットにセットし、油温:80℃で保温した。その状態で、試験片(SUS316、円柱状、径:15mm、厚み:50mm)を20kHzの誘導加熱により850℃まで加熱し、加熱された試験片を前記試験油に60秒間浸漬して、焼入れを行った。この焼入れを125回繰り返すことで、耐熱性試験とした。
なお、温度調節機能付きジャケットに冷却水を流して試験油を冷却することにより、各回の焼入れ時に、試験油の油温が80±3℃の範囲内となるように調整した。
油剤の耐熱性として、熱劣化前後におけるH値の変化率を求めた。具体的には、耐熱性試験前に測定したH値を(A)、以下に示す耐熱性試験後の油剤について評価したH値を(B)とし、「(B-A)/(A)=(H値の変化率)」を算出した。なお、H値の変化率の絶対値が2.2%以下であれば、耐熱性が良好と判断した。
【0062】
[特性秒数の評価]
上述した「減圧環境下での冷却性」の評価で作成した冷却曲線を用いて、特性温度に達するまでの時間から特性秒数を求めた。なお、特性秒数が2.50秒以下であれば、良好と判断した。
【0063】
実施例1~5、比較例1~4の熱処理油組成物の組成及び評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、ポリオールエステル(P)を構成する脂肪酸の炭素数が18である実施例1~5の熱処理油組成物は、脂肪酸の炭素数が8である比較例1~3の熱処理油組成物、及び鉱油を用いた比較例4の熱処理油組成物よりもH値が大きく、減圧環境下での冷却性に優れることがわかった。また、実施例1~5の熱処理油組成物は、H値の変化率の絶対値が2.2%以下であり、耐熱性に優れることがわかった。
【0066】
(実施例6~10、比較例5~6)
次に、実施例1~5、比較例1~2において、光輝性改良剤を含まず、ポリオールエステル(P)のみを、実施例6~10、比較例5~6の熱処理油組成物とした。
【0067】
次に、上記実施例6~10及び比較例5~6について、減圧環境下での冷却性を評価した。
【0068】
[減圧環境下での冷却性の評価]
上述した「減圧環境下での冷却性」の評価と同様に、冷却曲線を作成し、H値を求めた。なお、H値が0.130以上であれば、減圧環境下での冷却性が良好と判断した。
【0069】
実施例6~10、比較例5~6の熱処理油組成物の組成、及び評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、ポリオールエステル(P)を構成する脂肪酸の炭素数が18である実施例6~10の熱処理油組成物は、脂肪酸の炭素数が8である比較例5~6の熱処理油組成物よりもH値が大きく、減圧環境下での冷却性に優れることがわかった。