(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146608
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】セメント系固化材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241004BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20241004BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20241004BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20241004BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20241004BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B22/14 B
C04B18/10 B
C09K17/10 P
C09K17/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059612
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】重田 輝年
(72)【発明者】
【氏名】安達 丈
【テーマコード(参考)】
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
4G112MB23
4G112PA25
4G112PA29
4G112PB11
4H026CA01
4H026CA04
4H026CA05
4H026CA06
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】 セメント産業における二酸化炭素排出量の削減への貢献と,竹材の有効活用減少に伴う竹害問題対策とにつながる、新しい竹の活用方法としてのセメント系固化材を提供すること。
【解決手段】 ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物及び竹炭微粉末を含むことを特徴とするセメント系固化材である。水硬性組成物100質量部に対し、竹炭微粉末の割合が0.1質量部以上30質量部未満であることが好ましい。また、石膏は、無水石膏またはに水石膏であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物及び竹炭微粉末を含むことを特徴とするセメント系固化材。
【請求項2】
水硬性組成物100質量部に対し,竹炭微粉末の割合が0.1質量部以上30質量部未満である請求項1に記載のセメント系固化材。
【請求項3】
石膏が,無水石膏または二水石膏であることを特徴とする請求項1に記載のセメント系固化材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物及び竹炭微粉末を含むセメント系固化材に関する。
【背景技術】
【0002】
土を固化するために用いられるセメント系固化材は,従来から使われているセメントや石灰では強度等の目標性状を十分に達成できない土に対して,1970年代よりセメントメーカー各社が独自に鋭意検討し開発されたものである。セメント系固化材は,母材となるポルトランドセメントに対し,高炉スラグ,フライアッシュ等のポゾラン材やアルミナセメント,ジェットセメント等特殊な成分の強度増進材や石膏,硫酸ソーダ等のセメント刺激材といった有効成分を添加しセメント中の特定の成分を補強したり,粒度を調整したり,土質に応じて有効な成分を添加すること等によって,汎用固化材(特殊土用固化材並びに一般軟弱土用固化材)や高有機質土用固化材,発塵抑制型固化材といった商品が販売されている。
【0003】
セメント系固化材が使用される用途も幅広く,擁壁やボックスカルバート,ケーソンといった土木構造物の基礎地盤や道路の路床・路盤,住宅地等の建築構造物の基礎地盤の支持力増強,近年では地震における埋立地等での液状化対策や,高潮・河川氾濫等の水害を防ぐための護岸強化対策でも使われている。
【0004】
セメント系固化材は,先に述べたとおり改良目的に応じて種々の有効成分が加えられているため,日本工業規格の「セメント」の範疇には含まれていない。そのため,セメント材料の中でも材料設計において,使用原材料の選択に対して自由度が大きい(非特許文献1)。
【0005】
また,セメント系固化材を使用する際は,地盤にかかる荷重の大きさや改良を行う目的に応じて,必要とされる強度が異なる。さらにはコンクリートのように細骨材や粗骨材が常に決められたものではなく,地盤改良を行う土の性状(粒度や水分量,セメントの反応を阻害する有機物含有量等)も千差万別のため,一般には現場で使用する前に改良する地盤から土を採取し,室内試験でセメント系固化材の添加量と強度の関係を確認した上で,現場での使用量を決定する工程が踏まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】(一社)セメント協会「セメント系固化材による地盤改良マニュアル(第5版)」.(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年,温室効果ガスの排出抑制が求められている中,セメント産業では製造時において多量の二酸化炭素が排出されており,セメント量削減などによる二酸化炭素排出量の削減が求められている。
【0008】
また他方では,近年の竹材の利用減少や林業の衰退による森林の荒廃が進行しており,土砂崩壊等の自然災害を引き起こす要因となっている。このうち竹は,樹木と比べて生育が速く,これまで竹材として建築資材等でも広く活用されてきたが,昨今竹材の利用減少によって,生物多様性の低下を招く「竹害」として深刻な問題となっている。したがって,竹を活用できる用途が広がることは竹害対策にもつながるため,セメント産業における二酸化炭素排出量の削減につながる,これまでにない新しい竹の活用方法を見出していくことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,上記課題を解決するため鋭意研究を重ねてきた。その結果,炭化させた竹を微粉末とし,セメント系固化材として使用することで新たな活用方法につながることを見出し,本研究を完成するに至った。
【0010】
すなわち,ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物及び竹炭微粉末を含むことを特徴とするセメント系固化材である。
【0011】
水硬性組成物100質量部に対し,竹炭微粉末の割合が0.1質量部以上30質量部未満であることが好ましい。また、石膏が,無水石膏または二水石膏であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,竹炭微粉末を使用することで,竹材の有効活用や,セメント系固化材としてセメント使用量が減少することから,二酸化炭素排出削減に貢献することができる。さらには,竹炭微粉末の割合が0.1質量部以上30質量部未満であることにより,竹炭微粉末を含まないセメント系固化材と比べても大幅な強度低下を伴わず,かつペーストとした場合の流動性が確保されたセメント系固化材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、水硬性組成物100質量部に対する竹炭微粉末量とペーストフローとの関係を示す図である。
【
図2】
図2は、水硬性組成物100質量部に対する竹炭微粉末量とモルタル圧縮強さとの関係を示すである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本発明のセメント系固化材は,ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物及び竹炭微粉末を含むことを特徴とするセメント系固化材である。
【0016】
本発明のセメント系固化材における水硬性組成物で使用するポルトランドセメントとしては,市販されているポルトランドセメントを制限なく用いることができる。強度の観点から,普通ポルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,超早強ポルトランドセメントであることが好ましく,さらに経済性の観点から,普通ポルトランドセメントであることがより好ましい。
【0017】
本発明のセメント系固化材における水硬性組成物に使用する高炉スラグは,市販されている高炉スラグを制限なく用いることができる。このうち,セメント原料やコンクリート混和剤等に用いられる高炉スラグ微粉末であることがより好ましい。また,高炉スラグを単独で調達することが難しければ,市販の高炉セメントA種,B種,C種を用いてもよい。
【0018】
本発明のセメント系固化材における水硬性組成物で使用する石膏は,市販の無水石膏,半水石膏または二水石膏を特に制限なく用いることができる。なお,副生過程を問わずリン酸石膏,フッ酸石膏,排煙脱硫石膏,チタン石膏,精錬石膏等の石膏を制限なく使用することができる。セメント系固化材を水と混合しペースト状にして使用する場合,ペーストの粘性が増加しないことから,無水石膏または二水石膏を用いることが好ましい。無水石膏及び二水石膏は,どちらか一方または両方を併用して用いてもよい。好適には,強度の観点から無水石膏を用いることが好ましい。
【0019】
本発明のセメント系固化材に使用する竹炭微粉末は,市販されている竹炭微粉末を特に制限なく用いることができる。炭化温度が高いほど炭素含有率が高くなり,二酸化炭素削減効果が高まるため,好ましくは800℃以上の高温で製炭されたものを用いることができるが,これに限定されない。また,竹炭微粉末の平均粒子径が小さくなるほど,本発明のセメント系固化材をペーストとした場合の流動性が低下するが,竹炭微粉末の平均粒子径として75μm以下であることが好ましく,50μm以下であることがより好ましい。
【0020】
上記材料の混合比率は,ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物100質量部に対して,竹炭微粉末が0.1質量部以上30質量部未満であることが好ましい。竹炭微粉末が多くなるほど十分な強度発現性を得ることが難しくなるが,竹炭微粉末が30質量部未満であれば,大幅に強度が損なわれない。また,セメント系固化材をペーストとした場合に,流動性を失うことがない。さらには,ポルトランドセメント使用量低減に伴うセメント系固化材としての二酸化炭素の排出削減や,セメント系固化材中に竹炭微粉末を均質に混合させる観点から,竹炭微粉末の使用量は多い方が好ましく,5質量部以上30質量部未満であることがより好ましい。
【0021】
本発明のセメント系固化材には,本発明の効果を損なわない範囲で石灰石微粉末,フライアッシュ,シリカフューム,ベントナイト等のコンクリート混合材を含んでもよい。
【0022】
本発明のセメント系固化材は,ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏を含む水硬性組成物と,竹炭微粉末を混合することにより製造することができる。水硬性組成物としては市販のセメント系固化材を用いてもよい。水硬性組成物ではなく,ポルトランドセメント,高炉スラグ,石膏と竹炭微粉末を混合してもよい。混合には,粉体を混合できるミキサーであれば,制限なく使用することができる。例えば,一般的にモルタルやコンクリートを混練するミキサーが使用できる。具体的には,パン型ミキサー,強制二軸ミキサー,傾動ミキサー,モルタルミキサー等が挙げられる。また,均質な混合・分散を目的としてチョッパー等,高速でせん断することができる機構を備えたミキサーを使用してもよい。
【実施例0023】
本発明を更に具体的に説明するため,以下に実施例及び比較例を挙げて説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
1.使用材料
(a)水硬性組成物
水硬性組成物は,普通ポルトランドセメント,高炉スラグ,無水石膏を混合したものを用いた。
【0025】
(b)竹炭微粉末
竹炭微粉末は,市販の竹炭微粉末を用いた。
【0026】
2.ペーストフロー試験
(1)ペーストフロー配合
水と混合した際の流動性を確認するため,ペーストフロー試験を実施した。ペーストフロー試験を実施した配合を表1に示す。水硬性組成物と竹炭微粉末は、水と混合してペースト状にする前に予め混合してセメント系固化材とした。セメント系固化材と水との混合割合は,重量比で1:0.5とした。
【0027】
(2)混練
混練には,ホバートミキサーを使用した。予め練り鉢内に所定量計量した水の中にセメント系固化材を投入し,低速で30秒間混練した。混合後,30秒間でパドルや練り鉢内に付着した試料を掻き落とし,掻き落とし後,さらに低速で2分間混合したものをペースト試料とした。
【0028】
(3)ペーストフロー試験
ペーストフロー試験は,建築工事標準仕様書・同解説JASS15「左官工事」に記載の付3.M-103「セルフレベリング材の品質規準」の方法を引用した。内径50mm,高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を縦横300mmの磨き板ガラスの中心に置き,練り混ぜたペースト試料をパイプに充填した後,パイプを引き上げた。広がりが静止した後,直角2方向の直径を測定し,その平均値をペーストフロー値とした。
【0029】
(4)ペーストフロー
ペーストフローの測定結果を表1に示す。竹炭微粉末を含まないセメント系固化材(参考例1)では,147.30mmであった。また,竹炭微粉末のみ(参考例2)では,フローコーンの内径と同じく50.00mmであり,フローは広がらなかった。竹炭微粉末の粒子は,中空を呈していることから吸水性に富んでおり,その影響でペーストフローが広がらなかったといえる。
【0030】
実施例1~3では,竹炭微粉末が多くなるほどペーストフローは小さくなったものの,フローコーン引き抜き後より広がった。
【0031】
図1に水硬性組成物100質量部に対する竹炭微粉末量とペーストフローの関係を示す。先述のとおり,竹炭微粉末が多くなるほど,ペーストフローは小さくなっており,この結果は相関関係を示していることがわかる。なお,この相関について指数近似を行い,ペーストフローが広がらない状態(50.00mm)となる竹炭微粉末含有率を推定した。その結果,セメント系固化材100質量部に対し竹炭微粉末30質量部以上となると,ペーストフローが広がらないことが予想された。
【0032】
セメント系固化材はペースト状で使用することがあるため,ペーストにおけるフロー値は大きい方が,施工性の観点から好ましい。したがって,ポルトランドセメント,高炉スラグ,無水石膏を含む水硬性組成物100質量部に対し,竹炭微粉末を30質量部未満とすることが好ましい。
【0033】
【0034】
3.モルタル圧縮強さ試験
(1)モルタル配合
竹炭微粉末の影響を確認するため,モルタルによる強度試験を行った。セメント系固化材中の水硬性組成物及び竹炭微粉末の割合は,表1に示したペーストフロー試験における配合と同じとした。水硬性組成物及び竹炭微粉末は,予め混合してセメント系固化材とした。モルタルは,セメント系固化材100質量部に対し,細骨材300質量部,水50質量部の割合で配合した。水は,上水を使用し,細骨材は,セメント強さ試験用標準砂(販売元:一般社団法人セメント協会)を使用した。
【0035】
(2)混練
混練は,JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して行った。以下に混練方法について説明する。
【0036】
混練には,ホバートミキサーを使用した。水,セメント系固化材を練り鉢に投入後,ミキサーを低速で始動させた。ミキサー始動から30秒後,細骨材を安定した速度で且つ30秒間かけて投入した。次に,高速で30秒間混練後,90秒間休止した。休止の最初の30秒間で練り鉢及びパドルに付着したモルタルをさじによってかき落とした。休止後,再び高速で60秒間練り混ぜた。
【0037】
(3)成型
成型は,JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して行った。以下に成型方法について説明する。
【0038】
40×40×160mmの型枠を使用し,混練終了後のモルタルを直ちに型枠に打ち込んだ。打ち込みには,テーブルバイブレーターを用いた。打ち込み方法は,次の通りである。振動開始から15秒間で1層目のモルタルを型枠の高さの約1/2まで詰めた。15秒の間隔の後,残りのモルタルの全量を,1層目と同様に15秒間で詰めた。さらに引き続き75秒間振動をかけた。最後に供試体をいためないように余盛部分を注意して削り取り,上面を平滑にした。
【0039】
(4)養生
成型後,混練から24時間は鉄板で混練物を覆い,水分が蒸発しないようにして20℃中で保存した。混練から24時間経過後に脱型し,その後は20℃の水中で所定の期間養生した。
【0040】
(5)圧縮強さの測定
圧縮強さの測定は,JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠した。測定材齢は7日及び28日とした。
【0041】
(6)モルタル圧縮強さ
モルタル圧縮強さの測定結果を表2に示す。参考例1は,竹炭微粉末を含まず水硬性組成物100質量部をセメント系固化材とした場合の測定結果であり,モルタル圧縮強さは材齢7日で22.0N/mm2,材齢28日で46.4N/mm2であった。また,参考例2は水硬性組成物を含まない竹炭微粉末のみの場合の測定結果であり,材齢7日,28日ともに強度を測定することができなかった。参考例2は,型枠から脱型した段階で崩壊し,圧縮強さを測定するに至らなかった。この理由として,竹炭微粉末だけでは,水硬性がないためである。
【0042】
実施例1~3は,水硬性組成物に竹炭微粉末を混合したものである。竹炭微粉末が多くなるほどモルタル圧縮強さは小さくなった。しかし,実施例3でも材齢7日で16.6N/mm2,材齢28日で36.2N/mm2であり,モルタル硬化体として十分な圧縮強さが得られているといえる。
【0043】
図2は,水硬性組成物100質量部に対する竹炭微粉末量とモルタル圧縮強さの関係を図示したものである。竹炭微粉末の多少とモルタル圧縮強さには相関関係があるといえる。ペーストフロー試験でフロー値を得ることができる竹炭微粉末30質量部未満において,十分な圧縮強さが得られているといえる。
【0044】