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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146621
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】水溶性防錆剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C23F11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059641
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田巻 匡基
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠次
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA01
4K062BB04
4K062BB05
4K062BB14
4K062BC14
4K062BC22
4K062BC26
4K062FA12
(57)【要約】
【課題】防錆性に優れながらも形成される皮膜が薄い水溶性防錆剤組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも下記成分(A)~(D)を配合してなる、水溶性防錆剤組成物とした。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記成分(A)~(D)を配合してなる、水溶性防錆剤組成物。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【請求項2】
前記炭素数8~24の分岐ジカルボン酸が、炭素数8~24のアルキルコハク酸及び炭素数8~24のアルケニルコハク酸からなる群から選択される1種以上であり、
前記炭素数8~24の分岐ジカルボン酸無水物が、炭素数8~24のアルキルコハク酸無水物及び炭素数8~24のアルケニルコハク酸無水物からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の水溶性防錆剤組成物。
【請求項3】
前記成分(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の水溶性防錆剤組成物。
【化1】

[前記一般式(1)中、各符号は以下を示す。
11は、炭素数1~10のアルキル基を示す。
12は、炭素数1~10のアルキレン基を示す。
m1は、各々独立に、1~10の整数を示す。]
【請求項4】
前記成分(C)が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水溶性防錆剤組成物。
【化2】

[前記一般式(2)中、各符号は以下を示す。
21は、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基を示す。
22は、炭素数1~10のアルキレン基を示す。
n1は、0~2の整数である。
n2は、1~3の整数である。
但し、n1+n2=3である。]
【請求項5】
酸価と塩基価の比[酸価/塩基価]が、0.05~0.97である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水溶性防錆剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性防錆剤組成物を、金属部品に塗布して乾燥させる、前記水溶性防錆剤組成物の使用方法。
【請求項7】
下記成分(A)~(D)を混合する工程を含む、水溶性防錆剤組成物の製造方法。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性防錆剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属材料は、複数の工程を経て中間製品、最終成型品に加工され、通常、金属表面の酸化劣化を防ぐために防錆剤が塗布される。防錆剤としては、防錆性の観点から、油性のものが従来から使用されており、各種の油性防錆剤が提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
近年では、(1)油によるべたつきを抑えて作業環境を良好なものとする観点、(2)乾燥後の防錆剤膜(以下、「皮膜」ともいう)を薄くして皮膜に起因する金属表面のべたつきを抑える観点、(3)後工程における皮膜の除去が容易である(水で洗い流せる)観点又は後工程で皮膜を除去せずそのまま次の工程に用いることができるため脱脂工程を削減できる観点、及び(4)水で希釈して用いることができ経済的である等の観点から、水溶性の防錆剤も使用されることがある(例えば、特許文献2等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-76565号公報
【特許文献2】特開平9-3667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水溶性防錆剤組成物は、防錆性が低く、工程間防錆における使用に限定されているのが現状である。そこで、工程間防錆以外でも使用できるようにする観点から、防錆性を高めた水溶性防錆剤組成物の創出が望まれる。
ここで、防錆性を高める観点から、皮膜を厚くすることも考えられるが、皮膜を厚くすれば金属表面にべたつきが生じやすくなるため、水溶性防錆剤組成物を使用する利点が失われてしまう。したがって、水溶性防錆剤組成物には、防錆性に優れながらも、形成される皮膜が薄いことも求められる。
【0005】
本発明は、防錆性に優れながらも、形成される皮膜が薄い水溶性防錆剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記[1]~[2]が提供される。
[1]
少なくとも下記成分(A)~(D)を配合してなる、水溶性防錆剤組成物。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
[2]
下記成分(A)~(D)を混合する工程を含む、水溶性防錆剤組成物の製造方法。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、防錆性に優れながらも、形成される皮膜が薄い水溶性防錆剤組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0009】
[水溶性防錆剤組成物の態様]
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、少なくとも下記成分(A)~(D)(下記成分(A)、下記成分(B)、下記成分(C)、及び下記成分(D))を配合してなる。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。
その結果、本発明者は、成分(A)~(D)を配合してなる水溶性防錆剤組成物が、防錆性に優れながらも形成される皮膜が薄いことを見出し、更に種々検討を重ね、本発明を完成するに至った。
本実施形態の水溶性防錆剤組成物が、防錆性に優れながらも形成される皮膜が薄い理由は、明確にはなっていないが、以下のような機構によるものと推察される。
すなわち、成分(A)~(D)を配合してなる水溶性防錆剤組成物を水に希釈して金属表面に塗布すると、成分(A)を構成するカルボン酸系化合物が有する複数のカルボキシ基が金属表面に吸着する。そして、複数のカルボキシ基が金属表面に吸着すると、当該複数のカルボキシ基の間に存在する基(例えば、アルキル基及びアルケニル基等)が金属表面に緻密な疎水性の防錆皮膜を形成する。これにより、成分(A)を構成するカルボン酸系化合物の各々が、防錆性を発揮し得る態様で効率よく金属表面全体に吸着し、成分(B)及び成分(C)、さらには成分(D)による作用とも相俟って、防錆性に優れる薄い皮膜が形成されるものと推察される。
【0011】
本実施形態において、「少なくとも成分(A)~(D)を配合してなる水溶性防錆剤組成物」と規定された水溶性防錆剤組成物は、「少なくとも成分(A)~(D)を含有する水溶性防錆剤組成物」だけでなく、「成分(A)~(C)から選択される1種以上の成分の代わりに、当該成分が変性した変性物を含有し、かつ成分(D)を含有する水溶性防錆剤組成物」及び/又は「成分(A)~(C)だけでなく、成分(A)~(C)から選択される2種以上の成分が反応した反応生成物も含有し、かつ成分(D)を含有する水溶性防錆剤組成物」も包含される。
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、本発明の効果を損なうことのない範囲において、成分(A)~(D)以外の成分(以下、「その他成分」ともいう)を含有していてもよい。
【0012】
以下、本実施形態の水溶性防錆剤組成物が含有する各成分について、詳細に説明する。
なお、以降の説明では、「水溶性防錆剤組成物」を、単に「防錆剤」ともいう。
【0013】
<成分(A)>
本実施形態の防錆剤は、成分(A)を配合してなる。
成分(A)は、炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物である。
成分(A)が配合されない場合、防錆性が不十分となる。
成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
(炭素数8~24の分岐ジカルボン酸)
炭素数8~24の分岐ジカルボン酸としては、例えば、好ましくは炭素数8~24のアルキルコハク酸及び炭素数8~24のアルケニルコハク酸からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
炭素数8~24のアルキルコハク酸は、炭素数4~20のアルキル基を有するコハク酸である。当該アルキル基の炭素数は、防錆性を向上させやすくする観点、水溶性の観点から、好ましくは6~20、より好ましくは7~16、更に好ましくは8~12である。
当該アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、防錆性を向上させやすくする観点から、直鎖状であることが好ましい。
炭素数8~24のアルケニルコハク酸は、炭素数4~20のアルケニル基を有するコハク酸である。当該アルケニル基の炭素数は、防錆性を向上させやすくする観点、水溶性の観点から、好ましくは6~20、より好ましくは7~20、更に好ましくは8~18である。
当該アルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、防錆性を向上させやすくする観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0015】
ここで、炭素数8~24の分岐ジカルボン酸は、無水物であってもよい。本実施形態の防錆剤は、成分(C)及び成分(D)が配合されるため、炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物を防錆剤に配合した場合であっても、当該無水物が加水分解反応を起こし、炭素数8~24の分岐ジカルボン酸が生成される。したがって、炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物を配合した場合であっても、炭素数8~24の分岐ジカルボン酸を配合した場合と同様の効果が奏される。
【0016】
炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物としては、好ましくは炭素数8~24のアルキルコハク酸無水物及び炭素数8~24のアルケニルコハク酸無水物からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0017】
炭素数8~24のアルキルコハク酸、炭素数8~24のアルキルコハク酸無水物、炭素数8~24のアルケニルコハク酸、炭素数8~24のアルケニルコハク酸無水物の具体例としては、オクチルコハク酸無水物、オクテニルコハク酸及びその無水物、ドデシルコハク酸及びその無水物、ドデセニルコハク酸及びその無水物、ヘキサデシルコハク酸及びその無水物、ヘキサデセニルコハク酸及びその無水物、オクタデシルコハク酸及びその無水物、並びにオクタデセニルコハク酸及びその無水物等が挙げられる。
【0018】
(多価カルボン酸)
多価カルボン酸は、炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上(好ましくは、炭素数8~24の不飽和カルボン酸又は炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸)を多量化してなるものである。
多価カルボン酸としては、好ましくは、炭素数8~24の不飽和カルボン酸を二量化してなるダイマー酸、炭素数8~24の不飽和カルボン酸を三量化してなるトリマー酸が挙げられる。また、炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸を重縮合してなる縮合物(例えば、好ましくはリシノレイン酸の縮合物(重合度3))が挙げられる。
なお、多価カルボン酸の量体数は、特に制限されないが、好ましくは2~10、より好ましくは2~5である。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、入手容易性等の観点から、多価カルボン酸は、量体数の異なる複数の多価カルボン酸の混合物であってもよい。
例えば、一般的に入手可能な、炭素数8~24の不飽和カルボン酸を多量化してなる多価カルボン酸は、ダイマー酸とトリマー酸の混合物であってもよい。なお、本発明の効果の向上の観点からは、炭素数8~24の不飽和カルボン酸を多量化してなる多価カルボン酸は、トリマー酸を含有することが好ましい。
【0019】
(酸変性オレフィンワックス)
酸変性オレフィンワックスは、カルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有するオレフィンワックスである。
酸変性オレフィンワックスは、オレフィンワックスを、カルボキシ基を有する化合物及び/又はカルボン酸無水物(好ましくはマレイン酸及び/又は無水マレイン酸)で後処理することにより得られる。または、αオレフィンを重合又は共重合する際に、αオレフィンと共重合可能なカルボキシ基を有する化合物及び/又はカルボン酸無水物(好ましくはマレイン酸及び/又は無水マレイン酸)を、αオレフィンと共重合することにより得られる。
αオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1ーヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン,1-ノナデセン,1-エイコセン,1-ヘンエイコセン,1-ドコセン,1-トリコセン,1-テトラコセン,1-ペンタコセン,1-ヘキサコセン,1-ヘプタコセン,1-オクタコセン,1-ノナコセン等が挙げられる。
なお、酸変性オレフィンワックスを構成する脂肪族炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。また、脂肪族炭化水素基の一部には、不飽和結合、エステル結合、及びエーテル結合からなる群から選択される1種以上の結合が含まれていてもよい。
【0020】
(成分(A)の好ましい態様)
本実施形態の防錆剤は、成分(A)が、炭素数8~24のアルキルコハク酸;炭素数8~24のアルキルコハク酸無水物;炭素数8~24のアルケニルコハク酸;炭素数8~24のアルケニルコハク酸無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸を多量化してなる多価カルボン酸;炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
成分(A)中における、これら成分の含有量は、成分(A)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0021】
<成分(B)>
本実施形態の防錆剤は、成分(B)を配合してなる。
成分(B)は、アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルである。
成分(B)が配合されない場合、防錆性が不十分となり、水溶性防錆剤組成物及びその希釈液中において、有効成分の分離が起きやすくなってしまう。
成分(B)は、水溶性防錆剤組成物の濡れ性を向上させる機能を担っており、この機能によって、水溶性防錆剤組成物を金属表面に均一に塗布することができ、防錆性に優れる薄い皮膜を形成することができるものと推察される。
成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルとしては、水溶性防錆剤組成物において使用されるアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテルや、水溶性金属加工油組成物において使用されるアルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル等を適宜採用することができる。
ここで、防錆性を向上させやすくする観点、形成される皮膜を薄くしやすくする観点、及び水溶性の観点等から、本実施形態の防錆剤は、成分(B)が、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。なお、下記一般式(1)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
【化1】

[前記一般式(1)中、各符号は以下を示す。
11は、炭素数1~10のアルキル基を示す。
12は、炭素数1~10のアルキレン基を示す。
m1は、各々独立に、1~10の整数を示す。]
【0024】
11として選択し得るアルキル基の炭素数は、防錆性を向上させやすくする観点、形成される皮膜を薄くしやすくする観点、及び水溶性の観点等から、好ましくは2~10、より好ましくは3~8、更に好ましくは4~6である。
11として選択し得るアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
11として選択し得るアルキル基は、好ましくはn-ヘキシル基、n-ブチル基である。
【0025】
12として選択し得るアルキレン基の炭素数は、防錆性を向上させやすくする観点、形成される皮膜を薄くしやすくする観点、水溶性の観点、及び上記一般式(1)で表される化合物の入手容易性等の観点から、好ましくは2~6、より好ましくは2~4、更に好ましくは2~3、より更に好ましくは2である。
12として選択し得るアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
12として選択し得るアルキレン基は、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基であり、より好ましくはエチレン基、プロピレン基であり、更に好ましくはエチレン基である。
なお、m1が2以上である場合、複数存在するR12は、各々同一であってもよく、異なっていてもよいが、上記一般式(1)で表される化合物の入手容易性等の観点から、同一であることが好ましい。
【0026】
m1は、防錆性を向上させやすくする観点、形成される皮膜を薄くしやすくする観点、水溶性の観点、及び上記一般式(1)で表される化合物の入手容易性等の観点から、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~4の整数であり、更に好ましくは1~3の整数である。
【0027】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテルが挙げられ、これらの中でも、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ヘキシルエーテルが好ましい。
【0028】
<成分(C)>
本実施形態の防錆剤組成物は、成分(C)を配合してなる。
成分(C)は、アルカノールアミンである。
成分(C)が配合されない場合、防錆性が不十分となる。
成分(C)を配合することにより、水溶性防錆剤組成物中における成分(A)の溶解性が良好となり、これにより防錆性を向上させることができるものと推察される。
成分(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
アルカノールアミンは、水溶性防錆剤組成物において使用されるアルカノールアミンや、水溶性金属加工油組成物において使用されるアルカノールアミン等を適宜採用することができる。
ここで、アルカノールアミンは、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、及びトリアルカノールアミンからなる群から選択される1種以上が挙げられるが、防錆性の向上の観点等から、アルカノールアミンは、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。下記一般式(2)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
【化2】

[前記一般式(2)中、各符号は以下を示す。
21は、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基を示す。
22は、炭素数1~10のアルキレン基を示す。
n1は、0~2の整数である。
n2は、1~3の整数である。
但し、n1+n2=3である。]
【0031】
なお、上記一般式(2)において、n1が2であり、n2が1である場合、上記一般式(2)で表される化合物は、モノアルカノールアミンである。
上記一般式(2)において、n1が1であり、n2が2である場合、上記一般式(2)で表される化合物は、ジアルカノールアミンである。
上記一般式(2)において、n1が0であり、n2が3である場合、上記一般式(2)で表される化合物は、トリアルカノールアミンである。
【0032】
21として選択し得る炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基が挙げられ、防錆性を向上させやすくする観点から、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基が好ましい。
21として選択し得る炭化水素基の炭素数は、防錆性を向上させやすくする観点、水溶性の観点等から、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、更に好ましくは1~6である。
21として選択し得る炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。また、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等は環状構造であってもよい。
21は、好ましくは水素原子、メチル基、又はシクロヘキシル基である。
なお、n1が2以上である場合、複数存在するR21は、各々同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
22として選択し得るアルキレン基の炭素数は、防錆性を向上させやすくする観点及び水溶性の観点等から、好ましくは2~6、より好ましくは2~4、更に好ましくは2~3、より更に好ましくは2である。
12として選択し得るアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
12として選択し得るアルキレン基は、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基であり、より好ましくはエチレン基、プロピレン基であり、更に好ましくはエチレン基である。
なお、n2が2以上である場合、複数存在するR22は、各々同一であってもよく、異なっていてもよいが、上記一般式(2)で表される化合物の入手容易性等の観点から、同一であることが好ましい。
【0034】
アルカノールアミンは、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、及びトリアルカノールアミンからなる群から選択される1種以上が挙げられるが、入手容易性の観点等から、アルカノールアミンは、モノアルカノールアミン及びジアルカノールアミンからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
したがって、n1は、1~2の整数であることが好ましく、n2は、1~2の整数であることが好ましい。但し、n1+n2=3である。
【0035】
上記一般式(2)で表される化合物としては、好ましくはN-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、及びN-シクロヘキシルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0036】
<A/(A+B+C)>
本実施形態の防錆剤において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計配合量に対する、成分(A)の配合量[A/(A+B+C)]は、質量比で、好ましくは0.05~0.80、より好ましくは0.10~0.80、更に好ましくは0.20~0.70、より更に好ましくは0.30~0.65である。
【0037】
<B/(A+B+C)>
本実施形態の防錆剤において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計配合量に対する、成分(B)の配合量[B/(A+B+C)]は、質量比で、好ましくは0.10~0.80、より好ましくは0.12~0.60、更に好ましくは0.14~0.40である。
【0038】
<C/(A+B+C)>
本実施形態の防錆剤において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計配合量に対する、成分(C)の配合量[C/(A+B+C)]は、質量比で、好ましくは0.10~0.80、より好ましくは0.15~0.75、更に好ましくは0.20~0.70である。
【0039】
<A/B>
本実施形態の防錆剤において、成分(B)の配合量に対する、成分(A)の配合量[A/B]は、質量比で、好ましくは0.3~5.0、より好ましくは1.0~4.5、更に好ましくは1.2~4.0である。
【0040】
<B/C>
本実施形態の防錆剤において、成分(C)の配合量に対する、成分(B)の配合量[B/C]は、質量比で、好ましくは0.1~2.0、より好ましくは0.2~1.5、更に好ましくは0.25~1.0である。
【0041】
<成分(D)>
成分(D)である水は、特に限定されず、蒸留水、イオン交換水(脱イオン水)等の精製水;水道水;工業用水;等を用いることができ、好ましくは精製水、より好ましくはイオン交換水(脱イオン水)である。
【0042】
ここで、成分(D)の配合量は、防錆剤の態様により区別される。
防錆剤は、一般に、ユーザーが原液を水で希釈して使用する。したがって、成分(D)の配合量は、防錆剤の態様に応じ、以下の配合量となる。
(1)防錆剤が原液である場合
防錆剤が原液である場合は、防錆剤を水で希釈してから使用する。この場合の成分(D)の配合量は、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対し、1質量部~30質量部である。
(2)防錆剤が水で希釈されている場合
防錆剤が水で希釈されている場合(希釈液である場合)は、当該希釈液を金属表面に塗布して皮膜を形成する。この場合、成分(D)の配合量は、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対し、好ましくは100質量部~5000質量部、より好ましくは100質量部~3000質量部、更に好ましくは100質量部~2000質量部、より更に好ましくは100質量部~1500質量部である。但し、(2)における成分(D)の配合量には、希釈に用いた水の量も含まれる。
【0043】
<その他成分>
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに成分(A)~(D)以外のその他成分を含有してもよい。
その他成分としては、例えば、酸化防止剤、消泡剤、アルミ変色防止剤、銅不活性化剤等が挙げられる。
その他成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他成分の各含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整されるが、成分(A)~(C)の合計量100質量部に対し、通常0.1質量部~10質量部、好ましくは0.2質量部~5質量部、更に好ましくは0.5質量部~3質量部である。
【0044】
[水溶性防錆剤組成物の物性]
本実施形態の水溶性防錆剤組成物の好ましい物性は、以下のとおりである。
【0045】
<防錆性>
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、後述する実施例に記載の方法による防錆期間が、好ましくは1週間超、より好ましくは2週間以上、更に好ましくは3週間以上、より更に好ましくは3週間超である。
【0046】
<付着性>
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、後述する実施例に記載の方法による付着性が、好ましくは0.3g/m未満、より好ましくは0.1g/m以下、更に好ましくは0.1g/m未満である。
【0047】
<酸価/塩基価比>
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、後述する実施例に記載の方法による酸価と塩基価の比[酸価/塩基価]が、好ましくは0.05~0.97、より好ましくは0.10~0.95、更に好ましくは0.15~0.93である。
【0048】
[水溶性防錆剤組成物の製造方法]
本実施形態の水溶性防錆剤組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、下記成分(A)~(D)を混合する工程を含む。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【0049】
成分(A)~(D)の配合順序は特に限定されないが、成分(C)と成分(D)とを混合して得られた混合物に、成分(A)及び成分(B)を同時に又は別々に配合することが好ましい。
また、成分(A)~(D)に加え、さらにその他成分も配合してもよい。
なお、上記各成分の好ましい態様は、既述のとおりである。
【0050】
[水溶性防錆剤組成物の用途]
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、防錆性に優れながらも、形成される皮膜が薄い。
そのため、本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、上記の「(1)防錆剤が原液である場合」には水で希釈した後、上記の「(2)防錆剤が水で希釈されている場合」にはそのまま、金属表面に塗布することで、金属材料の表面に薄い皮膜が形成され、優れた防錆性が発揮される。
したがって、本実施形態によれば、以下の態様が提供される。
・本実施形態の水溶性防錆剤組成物を、金属部品に塗布して乾燥させる、前記水溶性防錆剤組成物の使用方法。
・本実施形態の水溶性防錆剤組成物を、金属部品に塗布して乾燥させる、金属製品の防錆方法。
【0051】
なお、水溶性防錆剤組成物を、金属部品に塗布する方法は、特に制限されないが、スプレーを用いて吹き付ける方法や、浸漬による方法等が挙げられる。
防錆の対象となる金属は、純鉄、鋼、鋳鋼、合金鋼、炭素鋼、銑鉄、鋳鉄等の鉄を含有する金属が好ましく、また他の金属に使用することも可能である。
本実施形態の水溶性防錆剤組成物は、防錆が必要な用途であれば特に制限なく用いることが可能であり、工程間の防錆はもちろんのこと、出荷前後の防錆等にも好適に用いられる。
【0052】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[7]が提供される。
[1]
少なくとも下記成分(A)~(D)を配合してなる、水溶性防錆剤組成物。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
[2]
前記炭素数8~24の分岐ジカルボン酸が、炭素数8~24のアルキルコハク酸及び炭素数8~24のアルケニルコハク酸からなる群から選択される1種以上であり、
前記炭素数8~24の分岐ジカルボン酸無水物が、炭素数8~24のアルキルコハク酸無水物及び炭素数8~24のアルケニルコハク酸無水物からなる群から選択される1種以上である、上記[1]に記載の水溶性防錆剤組成物。
[3]
前記成分(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である、上記[1]又は[2]に記載の水溶性防錆剤組成物。
【化3】

[前記一般式(1)中、各符号は以下を示す。
11は、炭素数1~10のアルキル基を示す。
12は、炭素数1~10のアルキレン基を示す。
m1は、各々独立に、1~10の整数を示す。]
[4]
前記成分(C)が、下記一般式(2)で表される化合物である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の水溶性防錆剤組成物。
【化4】

[前記一般式(2)中、各符号は以下を示す。
21は、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基を示す。
22は、炭素数1~10のアルキレン基を示す。
n1は、0~2の整数である。
n2は、1~3の整数である。
但し、n1+n2=3である。]
[5]
酸価と塩基価の比[酸価/塩基価]が、0.05~0.97である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の水溶性防錆剤組成物。
[6]
、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の水溶性防錆剤組成物を、金属部品に塗布して乾燥させる、前記水溶性防錆剤組成物の使用方法。
[7]
下記成分(A)~(D)を混合する工程を含む、水溶性防錆剤組成物の製造方法。
・成分(A):炭素数8~24の分岐ジカルボン酸;炭素数8~24の分岐ジカルボン酸の無水物;炭素数8~24の不飽和カルボン酸及び炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される1種以上を多量化してなる多価カルボン酸;並びにカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスからなる群から選択される1種以上のカルボン酸系化合物
・成分(B):アルキレングリコールモノヒドロカルビルエーテル
・成分(C):アルカノールアミン
・成分(D):水
【実施例0053】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[各種物性値の測定方法]
各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
【0055】
(1)酸価/塩基価比
実施例及び比較例の水溶性防錆剤組成物の酸価/塩基価比は、JIS K2501:2003に基づく電位差法により測定した酸価と、JIS K-2501-2003に準拠して塩酸法で測定した塩基価とに基づき、算出した。
【0056】
[実施例1~11、比較例1~7]
表1及び表2に示す組成の水溶性防錆剤組成物を調製し、以下に説明する評価を行った。
なお、表1中の配合組成の数値単位は、「質量%」である。
表1及び表2に示す組成の水溶性防錆剤組成物の調製に用いた各成分の詳細を以下に説明する。
【0057】
<成分(A)>
・(A)-1:オクチルコハク酸無水物
・(A)-2:ドデシルコハク酸無水物
・(A)-3:ドデセニルコハク酸無水物
・(A)-4:オクタデシルコハク酸
・(A)-5:多価カルボン酸を含む混合物(炭素数18~36)
トリマー酸20質量%、ダイマー酸70質量%、及びモノマー酸10質量%から構成される混合物である。
・(A)-6:αオレフィンと無水マレイン酸の共重合体(三菱ケミカル株式会社製、ダイヤカルナ(登録商標)30M)
・(A)-7:酸変性エチレン-αオレフィンコポリマー(三井化学株式会社製、タフマー(登録商標)MH7010)
・(A)-8:リシノレイン酸の重縮合物(重合度:3)
なお、(A)-5は炭素数8~24の不飽和カルボン酸を多量化してなる多価カルボン酸であり、(A)-6及び(A)-7はカルボキシ基及び無水カルボン酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する酸変性オレフィンワックスであり、(A)-8は炭素数8~24の不飽和ヒドロキシカルボン酸を多量化してなる多価カルボン酸である。
<成分(A’)>
・(A’)-1:デカン酸
・(A’)-2:セバシン酸
・(A’)-3:ドデカン二酸
【0058】
<成分(B)>
・(B)-1:ジエチレングリコールモノn-ヘキシルエーテル
・(B)-2:ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル
【0059】
<成分(C)>
・(C)-1:N-メチルエタノールアミン
・(C)-2:メチルジエタノールアミン
・(C)-3:シクロヘキシルジエタノールアミン
【0060】
<成分(D)>
・イオン交換水
【0061】
[評価]
<評価1:防錆性>
実施例及び比較例の水溶性防錆剤組成物を水道水で10倍希釈し、市販のSPCC-SD(防錆剤除去済み)を浸漬し、SPCC-SDを取り出してから23℃で乾燥した後、軒下暴露試験を実施した。そして、点錆発生時点で錆ありと判定した。評価基準は以下のとおりとし、A及びBを合格とした。
(評価基準)
A:3週間超の期間において錆なし
B:1週間超~3週間以下で錆発生
C:1週間で錆発生
D:1週間未満で錆発生
(試験条件)
試験環境:ISO9225:2012に規定の腐食カテゴリーでC2~C3相当(千葉沿岸部)
試験季節:9月
【0062】
<評価2:付着量>
実施例及び比較例の水溶性防錆剤組成物を水道水で10倍希釈し、幅60mm×長さ80mm×厚さ0.8mmの鋼板(SPCC-SD(防錆剤除去済み))を浸漬した後取り出し、23℃で乾燥した。そして、水溶性防錆剤組成物を塗布する前の鋼板の重量と、油切後の鋼板の重量との差から付着量(g/m)を求めた。評価基準は以下のとおりとし、A及びBを合格とした。
(評価基準)
A:0.1g/m未満
B:0.1g/m以上0.3g/m未満
C:0.3g/m
【0063】
評価1及び評価2の結果を表1及び表2に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1及び表2より、以下のことがわかる。
実施例1~11の水溶性防錆剤組成物は、防錆性に優れ、付着量が少なく、防錆性に優れながらも、形成される皮膜が薄い水溶性防錆剤組成物であることがわかる。
これに対し、比較例1~7の水溶性防錆剤組成物は、防錆性及び付着量の少なくとも一方を満たさないことがわかる。