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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146684
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】分離方法及び分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20241004BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241004BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241004BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20241004BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
C01B33/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112649
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2023059439
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 憲樹
(72)【発明者】
【氏名】小堀 結菜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 惇也
(72)【発明者】
【氏名】山口 修平
(72)【発明者】
【氏名】並川 敬
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【テーマコード(参考)】
4D006
4G072
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA22
4D006JA13A
4D006JA14A
4D006JA18A
4D006JA25A
4D006KA12
4D006KA15
4D006KE07R
4D006KE16R
4D006MA02
4D006MA21
4D006MA31
4D006MA33
4D006MC03
4D006MC04X
4D006NA31
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB63
4D006PB66
4D006PB70
4G072AA25
4G072BB09
4G072BB13
4G072BB15
4G072FF02
4G072GG02
4G072GG03
4G072GG05
4G072HH30
4G072LL03
4G072LL05
4G072MM01
4G072QQ09
4G072RR03
4G072RR11
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】フルオロカーボンの新たな分離方法および分離装置を提供する。
【解決手段】化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む分子篩膜20に、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスxを接触させることにより、前記混合ガスとは異なる混合比のガスa,bに分離するガス分離工程を含むフルオロカーボン混合ガスの分離方法、並びに分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離する化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む多孔質膜を備えた分離装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む分子篩膜に、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを接触させることにより、前記混合ガスとは異なる混合比のガスに分離するガス分離工程を含むフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項2】
前記分子篩膜は、-Si-O-Si-の結合を含む構造を有するアモルファスシリカ膜である請求項1に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項3】
前記ガス分離工程を20℃~300℃の環境下で行う請求項1に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項4】
前記ガス分離工程を0.1MPa以上の環境下で行う請求項1に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項5】
前記分子篩膜は、前記化学蒸着法における化学蒸着材料としてジメトキシジフェニルシランを用いて製膜した分子篩膜である請求項1に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項6】
前記化学蒸着法は、対向拡散法である請求項1に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項7】
前記分子篩膜は、セラミックス製の多孔質支持体に製膜されている請求項1に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項8】
前記フルオロカーボン混合ガスは、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合ガスである請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
【請求項9】
分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離する化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む多孔質膜を備えた分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロカーボン混合ガスの分離方法及び分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数種の冷媒ガスからなる混合冷媒から特定の冷媒ガスを分離する技術としては、蒸留法がある。しかし、蒸着法は、エネルギー消費が大きく、設備投資コストも大きい。そのため、混合冷媒ガスを、低コストで、各種冷媒ガスに分離して回収する技術が望まれる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリイミド又はポリスルホンからなる多孔質支持膜上に架橋性シリコーン樹脂が架橋されてなる活性薄膜が形成された選択透過性複合膜にフロンを含む気体混合物を接触させ、フロンを選択的に上記膜を透過させ、これを分離することを特徴とするフロンを含む気体混合物からのフロンの分離回収方法が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1では、ジフルオロメタン(HFC-32、CH)50%とペンタフルオロエタン(HFC-125、CHFCF)50%からなる混合物R410Aを、ポリジメチルシロキサンおよび5mol%のパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)と95mol%のパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)のフッ素系非晶質ポリマー膜で分離したところ、HFC-125よりもHFC-32の方が透過率が高かったことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-42444号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Abby N. Harders et al.,J.Membr.Sci.,652,120467(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フルオロカーボンは、混合ガスとして冷媒などで用いられているが、共沸などのために分離が困難であり、また、分子径の差が小さいため膜分離でも効率的に分離再生することが容易ではない。
特許文献1及び非特許文献1に開示されているフルオロカーボンガスの分離技術では、各フルオロカーボンガスの透過率の比が数倍~20倍程度であり、より選択性の高い分離技術が望まれる。
【0008】
本開示は、フルオロカーボンの新たな分離方法および分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む分子篩膜に、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを接触させることにより、前記混合ガスとは異なる混合比のガスに分離するガス分離工程を含むフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<2> 前記分子篩膜は、-Si-O-Si-の結合を含む構造を有するアモルファスシ
リカ膜である<1>に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<3> 前記ガス分離工程を20℃~300℃の環境下で行う<1>又は<2>に記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<4> 前記ガス分離工程を0.1MPa以上の環境下で行う<1>~<3>のいずれか1つに記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<5> 前記分子篩膜は、前記化学蒸着法における化学蒸着材料としてジメトキシジフェニルシランを用いて製膜した分子篩膜である<1>~<4>のいずれか1つに記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<6> 前記化学蒸着法は、対向拡散法である<1>~<5>のいずれか1つに記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<7> 前記分子篩膜は、セラミックス製の多孔質支持体に製膜されている<1>~<6>のいずれか1つに記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<8> 前記フルオロカーボン混合ガスは、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンとの混合ガスである<1>~<7>のいずれか1つに記載のフルオロカーボン混合ガスの分離方法。
<9> 分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離する化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む多孔質膜を備えた分離装置。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、フルオロカーボンの新たな分離方法および分離装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法及び分離装置で用いる分子篩膜の構成の一例を示す概略図である。
図2】本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法を実施するための装置の一実施形態の要部であるガス分離器を示す概略構成図である。
図3図2における分子篩膜と筐体のC-C線断面を示す概略断面図である。
図4】実施例で用いた製膜装置兼ガス透過試験装置の構成を示す概略図である。
図5】実施例における各単成分ガスのアレニウスプロットを示す図である。
図6】実施例における理想選択率の温度依存性を示す図である。
図7】HFC-32及びHFC-125の各単成分ガスの200℃での透過率の圧力依存性を示す図である。
図8】HFC-32及びHFC-125の各単成分ガスの100℃での透過率の圧力依存性を示す図である。
図9】HFC-32及びHFC-125の各単成分ガスの25℃での透過率の圧力依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。図面における同じ機能の部材について符号を省略する場合がある。また、以下の説明において符号を省略する場合がある。また、図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0013】
本開示の発明者らは、分子サイズが異なる2種以上のフルオロカーボンガスを混合した冷媒ガス(本開示において「フルオロカーボン混合ガス」と記す場合がある。)を高い選択性で分離する方法について検討及び実験を重ねたところ、各種ガスの物理的性質(サイズ等)の違いを利用して、化学蒸着法(化学気相成長法とも呼ばれる。以下、CVD法と記すことがある。)により製膜したアモルファスシリカを含む分子篩膜(本開示において「CVDアモルファスシリカ膜」、「アモルファスシリカ膜」、又は単に「シリカ膜」と
記す場合がある。)を用いることで、高い選択性で分離することができることを見出した。
例えば、特許文献1に開示されている架橋性シリコーン樹脂が架橋されてなる活性薄膜や非特許文献1に開示されているフッ素系非晶質ポリマー膜は、多孔質膜ではなく、膜に対するガスの溶解度及び拡散率の違いを利用した溶解拡散効果によってガスを分離する。一方、本開示で用いるCVDアモルファスシリカ膜は、主に各ガス分子の大きさの違いを利用し、細孔径制御による分子篩効果によりガスを分離するものである。
【0014】
例えば、ジフルオロメタン(HFC-32又はR32と記す場合がある。)とペンタフルオロエタン(HFC-125又はR125と記す場合がある)の混合冷媒R410Aは、エアコンや冷凍冷蔵分野の冷媒として使用されているが、地球温暖化係数が小さいR32への移行が進んでいる。本開示で用いるCVDアモルファスシリカ膜は、ジフルオロメタン(R32、分子径:0.363nm)の透過率が、ペンタフルオロエタン(R125、分子径:0.447nm)の透過率より100倍以上大きく、また透過率比は室温(例えば25℃)~200℃の範囲で温度依存性が認められ、高温のほうが透過率比の値が大きく、より分離に適していることが明らかとなった。なお、透過率の圧力依存性はほとんど認められなかった。
すなわち、本開示のフルオロカーボン混合ガス(本開示において単に「混合ガス」と記す場合がある。)の分離方法は、化学蒸着法で製膜されたアモルファスシリカを含む分子篩膜に、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを接触させることにより、前記混合ガスとは異なる混合比のガスに分離するガス分離工程を含む。
【0015】
<分子篩膜>
まず、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法で使用する分子篩膜について説明する。図1は、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法に用いられる分子篩膜を備えたガス分離部材の一実施形態を概略的に示す断面図である。図1に示すガス分離部材30は、多孔質支持体10と、多孔質支持体10の一方の面に分子篩膜として形成されているアモルファスシリカ層(アモルファスシリカ膜)20とを含んでいる。アモルファスシリカ層20は、フルオロカーボンガス混合ガスに含まれる2種以上のフルオロカーボンガスのうち、相対的に分子径が小さいフルオロカーボンガスを分子篩により選択的に又は優先的に透過させる機能を有する。
【0016】
本開示における分子篩膜は、CVDアモルファスシリカ層単独で構成されてもよいが、分子篩膜としての強度、製膜容易性などの観点から、図1に示すように分子篩膜としてのアモルファスシリカ層20が多孔質支持体10に支持された構造を有するガス分離部材30の形態であることが好ましい。なお、アモルファスシリカ層20は、後述のように、多孔質支持体10の面上のみならず、多孔質支持体10が有する細孔内に形成されてもよい。
【0017】
(多孔質支持体)
アモルファスシリカ層20を支持する多孔質支持体10としては、分離対象であるフルオロカーボンガスに対して透過性を有する細孔を備える多孔質支持体を使用することができる。
図1に示す実施形態では、多孔質支持体10は、それぞれ多孔質体である支持層12と中間層14との二層構造を有している。アモルファスシリカ層20をより安定に固定化でき、アモルファスシリカ層20がより長期間安定するという観点から、図1に示す二層構造のように、強度及び気体透過性が良好であり、コスト的にも有利である支持層12と、アモルファスシリカ層20の保持性がより良好であり、支持層12よりも小さい細孔を有する中間層14とを備える多孔質支持体10を用いることが好ましい。本開示においては、中間層14の支持層12と接する側の面とは反対側の面を「中間層の表面」と記す場合
がある。
【0018】
二層構造の多孔質支持体10においては、少なくとも中間層14の表面にアモルファスシリカ層20を有する。アモルファスシリカ層20は中間層14の表面上のみに形成されてもよく、中間層14の表面上のみならず、中間層14の細孔の内部に至るまでアモルファスシリカ層20が形成されていてもよい。なかでも、二層構造の多孔質支持体10において、中間層14の細孔の内部及び中間層14の表面上にアモルファスシリカ層20を有することが好ましい。中間層14の細孔の内部にアモルファスシリカ層20を有することで、アモルファスシリカ層20が細孔中に充填された状態でより緻密に、且つ、より安定に存在する。そのため、アモルファスシリカ層20の分子篩としての機能がより向上し、アモルファスシリカ層20が、フルオロカーボン混合ガスの分離機能が良好な分離活性領域として機能すると考えられる。分離活性領域については、後述する。
【0019】
ここで、「細孔の内部にアモルファスシリカ層を有する」とは、細孔の内壁面にアモルファスシリカ層が形成された状態、及び、細孔内がフルオロカーボン混合ガスの一部が透過可能にアモルファスシリカで充填された状態の双方を指す。後述の化学蒸着法でアモルファスシリカ層を成膜する場合、気相状態のシリカ前駆体が、多孔質支持体の細孔の内部に侵入し、細孔の内壁面にてアモルファスシリカに転化する。さらに化学蒸着を継続すると、細孔の内壁面に形成されたアモルファスシリカ層の厚みが増し、多孔質支持体の細孔内が、アモルファスシリカ層で充填されることがある。これらのいずれをも、細孔の内部にアモルファスシリカ層を有すると称する。
本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法で用いる分子篩膜の好ましい態様として、中間層の細孔内部及び中間層の表面にアモルファスシリカ層を有し、アモルファスシリカ層におけるフルオロカーボンガスの分離活性領域の厚みが5nm~15nmであり、アモルファスシリカ層の膜長(長手方向の長さ)が6cm以上である態様が挙げられる。
【0020】
多孔質支持体の材質としては、細孔径、入手容易性などの観点から、多孔質セラミックスが挙げられ、耐熱性の観点からは、金属酸化物、金属窒化物、及び金属窒化物が好ましく、より具体的には、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等の多孔質支持体がより好ましく、α-アルミナ支持体が特に好ましい。
管状の多孔質支持体の場合、サイズは特に限定されないが、例えば、外径が3mm~20mm程度、内径が1mm~15mm程度であり、肉厚が1mm~3mm程度の多孔質管状支持体が挙げられる。
多孔質支持体の平均細孔径は30nm~1000nmの範囲が好ましく、平均細孔径が50nm~500nmの範囲がより好ましく、80nm~180nmの範囲がさらに好ましい。
【0021】
二層構造の多孔質支持体としては、支持層12として、平均細孔径が20nm~1000nm、好ましくは80nm~180nmの管状体であるα-アルミナ層を用い、管状の支持層12の外面に中間層14として、平均細孔径が1nm~20nm、好ましくは3nm~5nmのγ-アルミナ層を有する多孔質支持体が好ましい。
【0022】
多孔質支持体の平均細孔径は、例えば、ASTM F316-86(JIS K 3832)バブルポイント法に基づく、貫通細孔径評価装置を用いて細孔径分布を測定することにより求めることができる。測定に用いられる装置としては、西華デジタルイメージ(株)、パームポロメーター等が挙げられる。
【0023】
支持層12の厚みは目的に応じて任意に選択することができる。強度と気体透過性のバランスの観点から、支持層12の厚みは、例えば0.5mm~3mmとすることができ、1mm~2mmの範囲であることが好ましい。
中間層14の厚みは、例えば、0.5μm~10μmとすることができ、1μm~5μmの範囲であることが好ましい。
【0024】
多孔質支持体10における支持層12及び中間層14の厚みは、断面をプラチナスパッタリングして、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE-SEM)にて観察することで、測定できる。FE-SEM装置としては、例えば、JSM-6701F(日本電子株式会社製)が挙げられる。FE-SEMの加速電圧は、例えば10.0kVとすることができる。
【0025】
多孔質支持体としての支持層12上に中間層14を設ける方法には特に制限はなく、多孔質層の公知の製造方法を適宜適用することができる。
なかでも、支持層12がアルミナ等の耐熱性が良好な材料である場合、後述するベーマイトゾルを含む中間層形成材料を支持層12上にコーティングし、焼成する方法が好ましい。ベーマイトゾルを含む中間層形成材料を用いる中間層14の形成方法によれば、中間層形成材料のコーティング量、焼成温度、さらに、コーティングと焼成とを複数回行うなどの方法で、任意の厚みの中間層14を形成することができる。
【0026】
二層構造の多孔質支持体の製造方法としては、例えば、α-アルミナ製の管状多孔質支持層の外面に、中間層形成材料であるベーマイトゾルを2回~3回ディップコーティングし、焼成して平均細孔径が3nm~5nmのγ-アルミナ中間層を形成する方法が挙げられる。中間層形成用材料を管状の支持層にコーティングする際には、支持層12である管状体の内部に中間層形成用材料が侵入しないように管状体の端部を封止するなどの処理を行うことが好ましい。
ベーマイトゾルは、例えば、アルミニウム-s-ブトキシド(ALSBと略記する場合がある。)と、2-プロパノールと、硝酸ガリウム(III)8水和物とを用いて、又は、
アルミニウム-s-ブトキシド(ALSB)と、2-プロパノールと、硝酸とを用いて、常法により製造することができる。
【0027】
(アモルファスシリカ層)
アモルファスシリカ層20は、フルオロカーボン混合ガスに含まれるフルオロカーボンガスを分子篩によって、すなわち分子径(分子サイズ)に応じて選択的に分離する機能を有する。アモルファスシリカ層20は、-Si-O-Si-で示されるシロキサン結合が、三次元的にネットワークを構成したアモルファス構造を持つことが好ましい。三次元的に形成された二酸化ケイ素の網目構造が分子篩の役割を果たすと考えられる。
【0028】
アモルファスシリカ層20の厚みには特に制限はない。分子篩膜としてのアモルファスシリカ層の膜厚が厚いとフルオロカーボンガス分離効率は良好になるが、気体透過性が低くなる傾向にある。そのような観点からは、アモルファスシリカ層における分離活性領域の厚みは、例えば5nm~100nmであり、5nm~15nmの範囲が好ましい。
ここで、アモルファスシリカ層における分離活性領域とは、アモルファスシリカ層において、緻密であり、フルオロカーボンガスの分離性に寄与する領域を指す。中間層の表面に生成されるシリカ膜よりも、中間層の細孔内部に形成されたアモルファスシリカ層であって、より緻密な構造を有する領域の方が、フルオロカーボンガスの分離活性が高い分離活性領域として機能すると推定され、この領域をアモルファスシリカ層における分離活性領域と称する。アモルファスシリカ層における分離活性領域は、後述のX線光電子分光法(XPS)による分析の結果、形成されたアモルファスシリカ層の深さ方向の元素組成から、Al2pが増加し、Si2pが減少している領域として確認することができる。
【0029】
アモルファスシリカ層の膜厚及びアモルファスシリカ層における分離活性領域の厚みは
、ガス分離部材におけるアモルファスシリカ層を、多孔質支持体側とは反対側の面から、膜の深さ方向にX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:以下、XPSと記す)により元素組成分析を行うことで測定できる。本開示では、Al Kα線源を搭載したXPS VG ESCALAB 250 spe
ctrometer(Thermo Fisher Scientific製)を使用し、チャンバー内圧力:10-8Pa未満、エッチング速度0.05nm/sで測定した値を採用することができる。XPSによる分析の対象とした元素及び電子軌道は、Si:2p、Al:2p、O:1s、C:1sである。
【0030】
分離対象とするフルオロカーボン混合ガスが分子径が異なる2種のフルオロカーボンガスを含む場合、アモルファスシリカ層20は、平均細孔径が、分子径が相対的に小さい方のフルオロカーボンガスよりも大きく、分子径が相対的に大きい方のフルオロカーボンガスよりも小さいことが好ましい。例えば、R32(分子径:0.363nm)とR125(分子サイズ0.447nm)との混合ガスを分離する場合、アモルファスシリカ層20における二酸化ケイ素の網目構造により形成される細孔の平均細孔径を0.38~0.42nm程度に設定すれば、R32は透過し易く、R125は透過し難く、高いガス選択率で効率よくフルオロカーボン混合ガスを分離することができる。
なお、アモルファスシリカ層20の平均細孔径がR125の分子径より大きくても、R125よりもR32が透過し易いため、アモルファスシリカ層20の平均細孔径がR125の分子径より大きくてもよい。
【0031】
なお、本開示で用いるアモルファスシリカ膜の細孔径は分布をもち、細孔径は1nm以下であるため、定量的な細孔径分布測定手法は存在しないが、単成分ガス透過の透過データを用いて、Normalized Knudsen-based permeance(NKP)法により、解析的に細孔径を推定することができる。本開示では、具体的には、下記文献に記載されているNKP法(200℃)を用いて平均細孔径が0.3~0.6nmと推定されるアモルファスシリカ膜を用いることができる。
<NKP法に関する文献>
Evaluation and fabrication of pore-size-tuned silica membranes with tetraethoxydimethyl disiloxane for gas separation
Hye Ryeon Lee,Masakoto Kanezashi,Yoshihiro Shimomura,Tomohisa Yoshioka,Toshinori
Tsuru
AIChE Journal,57(10) 2755-2765(2011)
【0032】
<分子篩膜の製造方法>
本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法に用いる分子篩膜は、化学蒸着法(CVD法)により製造することができる。CVD法によれば、多孔質支持体10上に高い耐久性を有するアモルファスシリカ層20を形成することができる。
【0033】
アモルファスシリカ層20の製膜に用いられるCVD法は、例えば多孔質支持体の一方の面にシリカ源由来のシリカ前駆体と、酸化剤、好ましくは酸素とを供給してアモルファスシリカ層を形成する一方拡散CVD法と、多孔質支持体の一方の面にシリカ源由来のシリカ前駆体を供給し、多孔質支持体の他方の面に酸化剤を供給する対向拡散CVD法がある。
対向拡散CVD法によれば、多孔質支持体の両側面を等しい圧力に保つことで、多孔質支持体の細孔内に拡散したシリカ前駆体と酸化剤とが細孔内で接触してアモルファスシリカが生成され、多孔質支持体の細孔内において細孔壁にアモルファスシリカ層が形成され、細孔がシリカ層で充填されることで反応が自動的に終息する。一方、多孔質支持体にお
いて、シリカ層で充填されていない細孔内では、シリカ前駆体と酸素との反応が継続する。従って、細孔がアモルファスシリカ層で充填されるまで反応が継続し、再現性よく、高性能のアモルファスシリカ層を得ることが容易となる。即ち、対向拡散CVD法により、既述の好ましい態様である二重構造の多孔質支持体の中間層の表面上のみならず、中間層の細孔内部にもアモルファスシリカ層を簡易に製造することができる。
【0034】
アモルファスシリカ層20の製膜は、対向拡散CVD法を例に挙げれば、多孔質支持体10を筐体内に配置する。一方、シリカ源であるケイ素化合物をバブラー内に配置して、窒素ガスを供給しながら加熱して、ケイ素化合物の蒸気を筺体内に供給する。筺体内の温度は300℃~650℃とする。筺体内のシリカ源としてのケイ素化合物の蒸気を多孔質支持体の一方の面(例えば外周面側)に供給し、他方の面(例えば内周面側)に酸素を流通して多孔質支持体内で両者を反応させる。例えば、長さが10mm~100mmの管状の多孔質支持体の外面にアモルファスシリカ層を形成する場合、ケイ素化合物蒸気の濃度を約0.93mol/m、酸素の流通量を約200mL/minとすれば、約60分間で十分な量のアモルファスシリカ層が形成される。
その後、ケイ素化合物蒸気を停止して、筺体内を酸素でパージし、酸素の供給を止めて多孔質支持体の内部に窒素を供給してパージしてアモルファスシリカ層が得られる。
【0035】
アモルファスシリカ層20の製造に使用し得る化学蒸着材料(シリカ源)としては、ジメトキシジメチルシラン(DMDMS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、トリメチロキシ(メチル)シリケート(TMMS)、メトキシトリメチルシリケート(MTMS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)、ジメトキシジフェニルシラン(DMDPS)、トリエトキシエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、エトキシトリエチルシラン、メトキシトリフェニルシラン等が挙げられる。なお、化合物名に続くかっこ内は当該化合物の略称であり、以下、各化合物をかっこ内の略称で記載することがある。
【0036】
シリカ源としては、DMDMS、TMOS、HMDS、TEOS、TMMS、MTMS、DMDPS等が好ましく、DMDPSがより好ましい。即ち、アモルファスシリカ層は、DMDPSを含むシリカ源由来のアモルファスシリカ層であることがより好ましい。
【0037】
本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法で用いる分子篩膜を製造する方法としては、例えば、平均細孔径が30nm~1000nmの酸化アルミニウム多孔質支持体に、ジメトキシジフェニルシラン(DMDPS)を含むシリカ源を用いて、CVD法にて、例えば平均細孔径がNKP法(200℃)で0.3nm~0.6nmであるアモルファスシリカ層を形成する工程を有することが好ましい。
多孔質支持体としては、既述のように、少なくとも支持層12と、中間層14とを備える二層構造であり、支持層12は、平均細孔径が50nm~200nmの多孔質体であり、中間層14は、平均細孔径が3nm~5nmの多孔質体であることが好ましく、二層構造の多孔質支持体10の中間層14に対して、対向拡散CVD法にて中間層14の表面のみならず細孔内にもアモルファスシリカ層20を形成することがより好ましい。
【0038】
<フルオロカーボン混合ガスの分離方法>
次に、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法によりフルオロカーボン混合ガスを分離する方法ついて図面を参照して説明する。
図2は、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法を実施するための装置の一実施形態の要部であるガス分離器を示す概略構成図である。図3は、図2のC-C線の断面を概略的に示している。
図2に示すガス分離器50は、管状の筐体32の内部に管状のガス分離部材30が配置されており、両端部は封止部材33A,33Bにより封止されている。封止部材33Aの
中央部には、ガス分離部材30の内側Aに通じ、混合ガスxを導入するための配管28が連結している。一方、封止部材33Bの中央部には、ガス分離部材30の内側Aに通じ、ガス分離部材30を透過することなく通過したガスを排出するための配管28Aが連結し、封止部材33Bの外周部付近にはガス分離部材30と筐体32との間の空間Bに通じ、ガス分離部材30を透過したガスを排出するための配管28Bが連結している。なお、ガス分離部材30は、図1に示す層構成を有し、最外層には分子篩膜としてCVDアモルファスシリカ層(シリカ膜)20が形成されている。
【0039】
配管28Bに真空ポンプ(不図示)を連結して吸引することで分子篩膜20からのガス透過を促進することができる。また、各配管28,28A,28Bにバルブ(不図示)を設けることでガス流量、圧力を調節することができる。混合ガスを導入する配管28よりもガス分離部材30から排出される配管28Aの径を細くしてガス分離部材30の内部の圧力を高めるとともに分子篩膜20からのガスの透過を促進してもよい。
【0040】
このような構成を有するガス分離器50を備えたガス分離装置を用いて、例えば、R125とR32とが混合したフルオロカーボン混合ガスの分離を行う場合、配管28を通じて混合ガスxをガス分離部材30の内部(内側A)に供給する。混合ガスxがガス分離部材30を通過する間に、多孔質支持体10を経てアモルファスシリカ層20と接触し、分子径が相対的に小さいR32の少なくとも一部はアモルファスシリカ層20を透過し、ガス分離部材30と筐体32との間の空間Bに移動する。これにより、配管28Aからは、導入前の混合ガスxよりもR32の濃度が低いガスが排出され、配管28Bからは、導入前の混合ガスxよりもR32の濃度が高いガスが排出される。
例えば、ガス分離器50を複数個備えたガス分離装置とし、混合ガスxが、ガス分離器50を複数回通過することで分離効率を高めることもできる。本開示に係るガス分離装置は混合ガスxを多段分離することも可能である。本開示に係るガス分離装置を用いれば、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離することができる。
また、混合ガスxをガス分離部材30の外側(空間B)に供給し、分子径が相対的に小さいR32の少なくとも一部をガス分離部材30の内部(内側A)に透過させて導入前の混合ガスxよりもR32の濃度が高いガスを配管28Aから、R32の濃度が低いガスを配管28Bからそれぞれ排出させる構成としてもよい。
【0041】
なお、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法によりガス分離を行う環境は特に限定されないが、本開示で用いるガス分離部材30は無機材料で構成されているため、高い耐熱性を有し、また、後述する本開示におけるフルオロカーボンガスの透過実験によれば、常温(例えば25℃)よりも100℃~200℃で高いガス選択率を示すことが分かった。そのため、例えば、20℃~300℃の環境下でガス分離を行うことが好ましい。
一方、後述のフルオロカーボンガスの透過実験によれば、透過率の圧力依存性はほとんど認められない。そのため、圧力が0.1MPa以上の環境下でガス分離を行うことが好ましい。
【0042】
また、分離対象とするガスの透過量は特に限定されず、ガス種等に応じて設定すればよい。例えば、R32の透過量([mol/(msPa)])は、好ましくは1.0×10-4~1.0×10-10であり、より好ましくは、1.0×10-5~1.0×10-9であり、さらに好ましくは1.0×10-6~1.0×10-8である。
【実施例0043】
以下、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、下記実施例は、本開示のフルオロカーボン混合ガスの分離方法を制限するものではない。
【0044】
[アモルファスシリカ膜の製膜]
アモルファスシリカ膜を以下の手順で製膜した。
管状のα-アルミナ基材の外周面側にゾル-ゲル法によりGa添加γ-アルミナ中間層
をコーティングした。次いで、対向拡散CVD法によりGa添加γ-アルミナ中間層の細孔内部にアモルファスシリカを蒸着させることによりアモルファスシリカ膜(以下、「シリカ膜」と記す場合がある。)を製膜した。以下、具体的に説明する。
【0045】
(1)多孔質支持体の作製
(基材)
支持層となる基材として、管状のα-アルミナ基材(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)を用いた。α-アルミナ基材の仕様を表1に示す。なお、「細孔径」は平均細孔径を意味する。
【0046】
【表1】

【0047】
ダイヤモンドカッターを用いて、α-アルミナ基材を全長120mmに切断し、両端20mmをガラスシールした。基材に形成するアモルファス膜の長さはガラスシールされていない80mmである。
【0048】
(γ-アルミナコーティング)
γ-アルミナコーティングは、基材の外側表面のみに行った。手順は、下記のようにGa添加ベーマイトゾル(以下、「ベーマイトゾル」と記す場合がある。)の作製、コーティング溶液の作製、ディップコーティング・焼成の3段階で行った。
【0049】
(Ga添加ベーマイトゾルの作製)
下記試薬を準備した。
・アルミニウムs-ブトキシド(ALSB) 500g、富士フイルム和光純薬株式会社製
・2-プロパノール 500mL、富士フイルム和光純薬株式会社製
・硝酸ガリウム(III)8水和物 25g、富士フイルム和光純薬株式会社製
【0050】
<作製手順>
グローブボックス(アズワン株式会社製)内にALSB、2-プロパノール、50mLビーカー、撹拌子、パスピペット、100mL滴下びん、窒素バルーン、電子天秤、スターラーを入れて閉じた。なお、窒素バルーンはグローブボックスを閉める前に作っておいた。
【0051】
グローブボックス内を窒素で15分間置換した。
窒素置換後、ビーカーに2-プロパノール 3.60g(0.06mol)を入れ、ビーカーの内壁を濡らした。
2-プロパノールで壁面を濡らしたビーカーにALSB 24.6g(0.10mol)を試薬びんから直接入れ、1時間撹拌した。
500mLビーカーに純水360mLを入れ、ホットスターラー上で90℃に加熱した。ここで、液面調節用に隣で90℃の純水を作っておき、必要に応じて500mLビーカーに純水を補充した。なお、作業しない間は各ビーカーの口にアルミホイルを被せておいた。
グローブボックス内でALSBと2-プロパノールの混合液を100mL滴下びんに入れ、滴下びんの上口に窒素バルーンをつけた。
【0052】
グローブボックスから窒素バルーンをつけた滴下びんを取り出し、ホットスターラー上で準備していた90℃の純水を激しく撹拌し、ここにALSBと2-プロパノールの混合液を滴下した。
ビーカーの口にアルミホイルを被せず、2-プロパノールが蒸発するまで(アルコール臭がなくなるまで)、90℃で撹拌し続けた。液量は340mLを維持した。
硝酸ガリウム(III)8水和物 17.14g(0.04mol)を純水108g(6
mol)に加え、ビーカーの口をパラフィルムで覆って1時間以上撹拌し、硝酸ガリウム水溶液を作製した。
2-プロパノールが蒸発した後、500mL三角フラスコに移した。このとき白色沈殿物があれば、この白色沈殿物もできる限り移した。三角フラスコの口をアルミホイルで覆って放冷した。放冷後、激しく撹拌させながら、硝酸ガリウム水溶液をゆっくり滴下した。12時間以上撹拌してベーマイトゾルを得て、ポリびんに入れて保管した。
【0053】
(コーティング溶液の作製)
上記作製したベーマイトゾルのほか、下記薬品を準備した。
・1mol/L 硝酸、500mL、富士フイルム和光純薬株式会社製
・ポリビニルアルコール500 完全けん化型、500g、富士フイルム和光純薬株式会社製
【0054】
<作製手順>
1)50mLメスシリンダーに純水 47.5mLと、1M-HNO 2.5mLを入れた。この溶液を100mL三角フラスコに移し、撹拌子も入れた。
2)泡立たないように静かに攪拌しながら、100L三角フラスコにポリビニルアルコール500 完全けん化型(PVA) 1.75gを加えた。
3)PVAは溶けにくいため、100mL三角フラスコをホットプレートスターラーへ移動し、三角フラスコの口をアルミホイルで塞ぎ、90℃に加熱しながら攪拌した。40分後、撹拌した状態のまま放冷し、PVA溶液の完成とした。
4)50mLビーカーに、作製したPVA溶液20mLとベーマイトゾル30mLを入れ、撹拌子を入れた後にビーカーの口をパラフィルムで覆い、15分間撹拌してコーティング液の完成とした。
【0055】
(ディップコーティング・焼成)
<操作手順>
1)基材の外表面のみにコーティングを行うため、基材内側にコーティング溶液が侵入しないように基材の片側(ディップするときの下側)端部の開口をシールテープで塞いだ。2)コーティング溶液を気泡が入らないように試験管に入れ、残ったコーティング溶液は撹拌しながら保存した。全長120mmの基材をシールテープで塞いだ側からコーティング溶液に入れて5秒間ディップした。基材の出し入れの際に、試験管の壁に触れないように注意した。
3)ディップした基材を電気マッフル炉KM-600(株式会社アドバンテック製)に入れ、所定の温度プログラム(60℃で3時間保持、その後6時間かけて600℃まで昇温しさらに6時間保持、その後6時間かけて室温まで降温)で乾燥・焼成した。基材を電気マッフル炉に入れる際は、基材のガラスシール部分を土台に置き、製膜部分には接しないようにした。
4)ディップコーティング・焼成(上記2)~3)の手順)を繰り返し3回行い、管状のα-アルミナ基材(基材層)の外周面にGa添加γ-アルミナ層(中間層)が形成された多孔質支持体(以下、「γ/α-アルミナ基材」又は単に「基材」と記す場合がある。)を作製した。
【0056】
(2)アモルファスシリカ層(シリカ膜)の形成
上記のように製造した二重構造の多孔質支持体(γ/α-アルミナ基材)の外周面に対向拡散CVD法によりアモルファスシリカ層(シリカ膜)を形成した。
シリカ膜の製膜に用いた装置100の概略構成を図4に示す。図4に示す装置100は、製膜に用いる酸素を収容したガスタンク24のほか、R125、R32、H、Nの各ガスが収容されたガスタンク13,16,18,22なども備えており、各配管28に設けられたバルブ38等を調節することにより、各ガス透過試験を実施することもできるように構成されている。MFCは、マスフローコントローラーの略である。配管28はSUS管を用いている。
ガス分離器40は、図3に示す構成と同様、ガス分離部材30の外側にガス分離部材30を透過したガスが通過するための空間Bを設けてガラス管の筐体32が配置されている。筐体32の外側には、熱電対36が設けられた電気炉34が配置されている。
【0057】
基材10は、筐体32から露出する両端のガラスシール部にグラファイトフェルール(ジーエルサイエンス株式会社製)とユニオン(Swagelok製)31A,31Bを用いてSUS管継手と接合した。
また、圧力ゲージ44,48、石鹸膜流量計52、圧力トランスデューサ54、真空ポンプ58が各配管28に接続されている。
【0058】
このような構成の装置100を用いて多孔質支持体(γ/α-アルミナ基材)10にアモルファスシリカ層を製膜する際、シリカプレカーサー(前駆体)は、バブラー26に入れ、流量200mL/minで窒素をバブラー26に供給し、バブリングすることでシリカプレカーサー蒸気を筐体32に供給した。リボンヒーター42は、配管28内でのプレカーサーの凝縮を防ぐために巻き、配管温度を180℃に保った。また、氷水コールドトラップ46により、未反応プレカーサーを回収した。バブラー26の温度は、マントルヒーター(不図示)で包むことでコントロールした。
【0059】
製膜前のシリカプレカーサー蒸気濃度測定は、筐体32を通らないガスラインを用いて、窒素キャリアガス中のシリカプレカーサーを氷水コールドトラップ46で一定時間トラップし、シリカプレカーサー蒸気濃度(mol/m)を算出した。
【0060】
(対向拡散CVD法によるシリカ膜の製膜)
プレカーサーとして下記構造式で示されるDMDPS(ジメトキシジフェニルシラン、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0061】
【化1】
【0062】
DMDPSの物性を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
<製膜手順>
筐体の外側に配置されている電気炉34、リボンヒーター42、バブラー26の各温度調節の電源を入れた。炉34は室温から600℃まで1.5時間かけて昇温し、リボンヒーター42は180℃に設定した。
全ての温度が安定したら、氷水コールドトラップ46を準備した。筐体32を通らないガスラインを用いてDMDPS蒸気濃度測定を行い、DMDPS蒸気濃度が約0.08mol/m前後となるようにバブラー温度を調整した。
バブラー温度を調整後、筐体32(基材外側B)にDMDPS蒸気を供給し、2分後、基材内側Aに酸素を200mL/minで流通し、製膜を開始した。
60分後、DMDPS蒸気の供給を止め、基材外側Bには窒素を全開の流量で、基材内側Aには酸素を200mL/minで流通し、筐体32内をパージした。
1時間後、酸素の供給を止め、基材内側Aに窒素を全開の流量で数分間パージし製膜を終了した。
【0065】
<ガス透過性評価>
(単成分ガス透過試験1)
シリカ膜を製膜後、図4に示す装置100を用いてガス透過試験を行った。
供給側(基材外側)にガスを供給し、膜出口のバルブ38Bを閉めて供給側に圧力をかけた。このときの供給側圧力は、0.20~0.40MPaとし、膜間差圧が0.20~0.40MPaとなるデットエンド方式でガスを透過させ、透過側から得られる透過ガスの流量を石鹸膜流量計(Bubble Flowmeter:BFM)52(HORIBA社製)を用いて測定した。通常は、透過側ガス流量が大きい場合はBMF52で測定した。透過側ガス流量が小さくBMFで測定が出来ない場合は圧力変化法を用いて透過側ガス流量を測定した。圧力変化法は、供給側圧力を0.20MPaとし、油回転真空ポンプ58(株式会社アルバック製)を用いて透過側を2時間真空引きして、約0.35MPaの膜間差圧を与える。供給側にガスを供給すると、透過が生じ、透過側の圧力が上昇し始める。圧力を経時的に測定することで、圧力上昇速度を測定し、透過側体積から透過ガス流量を算出した。
【0066】
(温度依存性)
Ga添加γ/α-アルミナ基材に製膜した膜長80mmのシリカ膜のH、N、HFC-32、HFC-125の各透過率の温度依存性を図5に示す。なお、図5において、縦軸の「E」は10のべき乗を意味し、例えば「E-10」は「10-10」を意味する。また、理想選択率の温度依存性を図6に示す。前述したNKP法(200℃)によれば、シリカ膜の平均細孔径は0.40~0.55nm程度であると考えられ、HFC-32とHFC-125の分離に好適であることが分かる。
HFC-32とHFC-125の200℃、100℃、25℃の透過率、透過率比を下記表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
HFC-32の透過率/HFC-125の透過率で算出される理想選択率は、200℃で1026、100℃で1623、25℃で617であった。
なお、参考として、Hの透過率/Nの透過率で算出される理想選択率は、いずれの温度でも10程度であった。このことからも、HFC-32とHFC-125の分離に特に好適であることがわかる。
【0069】
(単成分ガス透過試験2)
シリカ膜を製膜後、図4に示す装置100を用いてガス透過試験を行った。供給側(基材外側)にガスを供給し、膜出口のバルブ38Bを閉めて供給側に圧力をかけた。このときの供給側圧力は0.20~0.60MPaとし、膜間差圧が0.10~0.50MPaとなるデットエンド方式でガスを透過させ、透過側から得られる透過ガスの流量を石鹸膜流量計(Bubble Flowmeter:BFM)52(HORIBA社製)を用いて測定した。通常は、透過側ガス流量が大きい場合はBMF52で測定した。透過側ガス流量が小さくBMFで測定が出来ない場合は圧力変化法を用いて透過側ガス流量を測定した。圧力変化法は、供給側圧力を0.20~0.60MPaとし、油回転真空ポンプ58(株式会社アルバック製)を用いて透過側を2時間真空引きして、約0.20~0.60MPaの膜間差圧を与える。供給側にガスを供給すると、透過が生じ、透過側の圧力が上昇し始める。圧力を経時的に測定することで、圧力上昇速度を測定し、透過側体積から透過ガス流量を算出した。
200℃、100℃、25℃でのHFC-32とHFC-125の供給側圧力と透過率の関係をそれぞれ図7図8図9に示す。試験を行ったいずれの温度でも、HFC-32とHFC-125の各透過率は、圧力の違いによる有意な差(圧力依存性)は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示に係るフルオロカーボン混合ガスの分離方法によれば、蒸留による分離に比べ、省エネルギー分離が実現でき、大きな経済効果が見込まれる。また、二酸化炭素に比べ100倍以上の大きな温室効果が指摘される冷媒ガス規制に資することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 多孔質支持体
13,16,18,22 ガスタンク
12 支持層
14 中間層
20 アモルファスシリカ層(分子篩膜)
24 ガスタンク
26 バブラー
28,28A,28B 配管
30 ガス分離部材
32 筐体
33A,33B 封止部材
34 電気炉
36 熱電対
38,38B バルブ
40 ガス分離器
42 リボンヒーター
44 圧力ゲージ
46 氷水コールドトラップ
50 ガス分離器
52 石鹸膜流量計
54 圧力トランスデューサ
58 真空ポンプ
100 製膜装置兼ガス透過試験装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9