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特開2024-146709機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146709
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/14 20060101AFI20241004BHJP
   B41C 1/10 20060101ALI20241004BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   G03F 7/09 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B41N1/14
B41C1/10
G03F7/00 503
G03F7/09 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170181
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023059395
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽根 信幸
(72)【発明者】
【氏名】宮川 侑也
(72)【発明者】
【氏名】大島 篤
(72)【発明者】
【氏名】東海林 雅俊
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084CC05
2H114AA04
2H114AA23
2H114AA27
2H114AA28
2H114CA03
2H114DA04
2H114DA13
2H114DA15
2H114DA43
2H114DA51
2H114DA75
2H114EA04
2H114GA03
2H114GA05
2H114GA06
2H114GA08
2H114GA09
2H196AA07
2H225AC17
2H225AC35
2H225AC37
2H225AC38
2H225AC43
2H225AC44
2H225AC46
2H225AC57
2H225AC63
2H225AD20
2H225AM04P
2H225AM08P
2H225AM10P
2H225AM13P
2H225AM22N
2H225AM26N
2H225AM27P
2H225AM32N
2H225AM36P
2H225AM53N
2H225AM67N
2H225AM86P
2H225AM91N
2H225AM95N
2H225AM96N
2H225AN02N
2H225AN03P
2H225AN05N
2H225AN05P
2H225AN08P
2H225AN10P
2H225AN11N
2H225AN12P
2H225AN38P
2H225AN39P
2H225AN47P
2H225AN59P
2H225AN62N
2H225AN64N
2H225AN67P
2H225AN79P
2H225AN80P
2H225AN81P
2H225AN82P
2H225AN92P
2H225AP01N
2H225AP01P
2H225AP15N
2H225BA02P
2H225BA10P
2H225BA12P
2H225BA18P
2H225BA32P
2H225BA34N
2H225CA05
2H225CC01
2H225CC13
(57)【要約】
【課題】
極めて優れたセッター給版性能と極めて優れたエッジ汚れ抑制性能とを両立し得る、機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法を提供する。
【解決手段】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版であって、上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、と上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、機上現像型平版印刷版原版。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版であって、
前記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
前記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
前記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、
前記機上現像型平版印刷版原版の前記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、前記機上現像型平版印刷版原版の前記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、
機上現像型平版印刷版原版。
【請求項2】
前記リン酸系化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項3】
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.06以上である、請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項4】
A-Bが、0.6g/m以下である、請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項5】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、前記ダレ形状領域に最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版の前記クラックの内部に、
リン酸系化合物を含む液をミスト噴霧することにより請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版を作成する、機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項6】
前記リン酸系化合物を含む液の濃度が0.1~50質量%である、請求項5に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項7】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、前記ダレ形状領域に最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版であって、前記構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する機上現像型平版印刷版原版の前記クラックの内部に、水をミスト噴霧することにより請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版を作成する、機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項8】
前記ミスト噴霧における噴霧量が0.1g/m~50g/mである、請求項5又は7に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項9】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、前記ダレ形状領域に最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版であって、前記1つ以上の構成層が、リン酸系化合物を含有する層を包含する機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことにより請求項1に記載の機上現像型平版印刷版原版を作成する、機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項10】
前記機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、70~95%RH環境下で1分以上曝す、請求項9に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項11】
前記機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、80~95%RH環境下で1分以上曝す、請求項9に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項12】
前記リン酸系化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項5、7及び9のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【請求項13】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する平版印刷版ダミー版であって、
前記ダレ形状領域は、最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
前記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
前記クラックの内部の前記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、前記平版印刷版ダミー版の前記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、前記平版印刷版ダミー版の前記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、平版印刷版ダミー版。
【請求項14】
前記リン酸系化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項13に記載の平版印刷版ダミー版。
【請求項15】
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.06以上である、請求項13に記載の平版印刷版ダミー版。
【請求項16】
A-Bが、0.6g/m以下である、請求項13に記載の平版印刷版ダミー版。
【請求項17】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、前記ダレ形状領域に最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版の前記クラックの内部に、
リン酸系化合物を含む液をミスト噴霧することにより請求項13に記載の平版印刷版ダミー版を作成する、平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項18】
前記リン酸系化合物を含む液の濃度が0.1~50質量%である、請求項17に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項19】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、前記ダレ形状領域に最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版であって、前記1つ以上の構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する平版印刷版ダミー版の前記クラックの内部に、水をミスト噴霧することにより請求項13に記載の平版印刷版ダミー版を作成する、平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項20】
前記ミスト噴霧における噴霧量が0.1g/m~50g/mである、請求項17又は19に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項21】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、前記ダレ形状領域に最深部が前記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版であって、前記1つ以上の構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことにより請求項13に記載の平版印刷版ダミー版を作成する、平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項22】
前記平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、70~95%RH環境下で1分以上曝す、請求項21に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項23】
前記平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、80~95%RH環境下で1分以上曝す、請求項21に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【請求項24】
前記リン酸系化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項17、19及び21のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
また、地球環境への関心の高まりから、現像処理などの湿式処理に伴う廃液に関する環境課題がクローズアップされている。
上記の環境課題に対して、現像あるいは製版の簡易化、無処理化が指向されている。簡易な作製方法の一つとしては、「機上現像」と呼ばれる方法が行われている。すなわち、平版印刷版原版を露光後、従来の現像は行わず、そのまま印刷機に装着して、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法である。
本発明において、このような機上現像に用いることができる平版印刷版原版を、「機上現像型平版印刷版原版」という。
【0004】
平版印刷版を用いて印刷する場合、通常の枚葉印刷機のように印刷版のサイズよりも小さい紙への印刷においては、印刷版の端部は紙面外の位置にあるので端部が印刷品質に影響することはない。しかし、新聞印刷のような輪転機を用いてロール状の紙に連続して印刷する場合には、印刷版の端部はロール紙面内にあるため、端部に付着したインキが紙に転写して線状の汚れ(エッジ汚れ)が発生し、印刷物の商品価値を著しく損ねることになる。
【0005】
エッジ汚れの発生を抑制する試みとして、例えば、平版印刷版原版の端部や端面にエッジ汚れの発生を抑制し得る成分を含む液を塗布する技術(特許文献1及び2参照)、エッジ汚れの発生を抑制し得る成分を含有する層を有する平版印刷版原版を用いて機上現像を行うことで、エッジ汚れの発生を抑制し得る成分を、印刷インキや湿し水に溶出させて、平版印刷版原版のエッジ部に移動させる技術(特許文献3参照)、平版印刷版原版の端部に親水化剤を含有する処理液を塗布する技術であって、その塗布を塗布手段が版面に接触しないように行う技術(特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2020-501936号公報
【特許文献2】特開2021-75268号公報
【特許文献3】国際公開第2019/151447号
【特許文献4】国際公開第2015/129504号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の平版印刷版原版や平版印刷版ダミー版に対して、エッジ汚れ発生の更なる抑制が期待されている。
また、平版印刷版原版や平版印刷版ダミー版は、一般的に、それらの積層体をセッターに設置して供給されるものであるが、保存状態等により複数の平版印刷版原版が密着して、セッターから版が供給され難くなる場合もあることから、セッターからの版の供給性能(セッター給版性能)においても、更なる向上が期待されている。
【0008】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、その目的は、極めて優れたセッター給版性能と極めて優れたエッジ汚れ抑制性能とを両立し得る、機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段を以下に記載する。
【0010】
[1]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、
上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、
機上現像型平版印刷版原版。
【0011】
[2]
上記リン酸系化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、[1]に記載の機上現像型平版印刷版原版。
[3]
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.06以上である、[1]又は[2]に記載の機上現像型平版印刷版原版。
[4]
A-Bが、0.6g/m以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【0012】
[5]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版の上記クラックの内部に、
リン酸系化合物を含む液をミスト噴霧することにより[1]~[4]のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版を作成する、機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【0013】
[6]
上記リン酸系化合物を含む液の濃度が0.1~50質量%である、[5]に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【0014】
[7]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版であって、上記構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する機上現像型平版印刷版原版の上記クラックの内部に、水をミスト噴霧することにより[1]~[4]のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版を作成する、機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
[8]
上記ミスト噴霧における噴霧量が0.1g/m~50g/mである、[5]~[7]のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【0015】
[9]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版であって、上記1つ以上の構成層が、リン酸系化合物を含有する層を包含する機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことにより[1]~[4]のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版を作成する、機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【0016】
[10]
上記機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、70~95%RH環境下で1分以上曝す、[9]に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
[11]
上記機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、80~95%RH環境下で1分以上曝す、[9]又は[10]に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
[12]
上記リン酸系化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、[5]~[11]のいずれか1項に記載の機上現像型平版印刷版原版の作成方法。
【0017】
[13]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する平版印刷版ダミー版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、上記平版印刷版ダミー版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版ダミー版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、平版印刷版ダミー版。
【0018】
[14]
上記リン酸系化合物が、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、[13]に記載の平版印刷版ダミー版。
[15]
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.06以上である、[13]又は[14]に記載の平版印刷版ダミー版。
[16]
A-Bが、0.6g/m以下である、[13]~[15]のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版。
【0019】
[17]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版の上記クラックの内部に、
リン酸系化合物を含む液をミスト噴霧することにより[13]~[16]のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版を作成する、平版印刷版ダミー版の作成方法。
【0020】
[18]
上記リン酸系化合物を含む液の濃度が0.1~50質量%である、[17]に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【0021】
[19]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版であって、上記1つ以上の構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する平版印刷版ダミー版の上記クラックの内部に、水をミスト噴霧することにより[13]~[16]のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版を作成する、平版印刷版ダミー版の作成方法。
[20]
上記ミスト噴霧における噴霧量が0.1g/m~50g/mである、[17]~[19]のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【0022】
[21]
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版であって、上記1つ以上の構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことにより[13]~[16]のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版を作成する、平版印刷版ダミー版の作成方法。
【0023】
[22]
上記平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、70~95%RH環境下で1分以上曝す、[21]に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
[23]
上記平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、80~95%RH環境下で1分以上曝す、[21]又は[22]に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
[24]
上記リン酸系化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物である、[17]~[23]のいずれか1項に記載の平版印刷版ダミー版の作成方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、極めて優れたセッター給版性能と極めて優れたエッジ汚れ抑制性能とを両立し得る、機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
図2】交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
図3】平版印刷版原版の端部の断面形状を示す模式図である。
図4】スリッター装置の裁断部の一例を示す概念図である。
図5】アルミニウム支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
図6】陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本発明において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
特に限定しない限りにおいて、本発明において組成物中の各成分、又は、ポリマー中の各構成単位は、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上を併用してもよいものとする。
更に、本発明において組成物中の各成分、又は、ポリマー中の各構成単位の量は、組成物中に各成分、又は、ポリマー中の各構成単位に該当する物質又は構成単位が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質、又は、ポリマー中に存在する該当する複数の各構成単位の合計量を意味する。
更に、本発明において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本発明における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶媒THF(テトラヒドロフラン)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
平版印刷版ダミー版は、必ずしも、露光、現像の操作は必要ない。なお、平版印刷版ダミー版とは、例えばカラーの新聞印刷において一部の紙面を単色又は2色で印刷を行う場合に、使用しない版胴に取り付けるための平版印刷版原版である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
[機上現像型平版印刷版原版]
本発明に係る機上現像型平版印刷版原版(以下、単に、「平版印刷版原版」ともいう)は、
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、
機上現像型平版印刷版原版である。
【0028】
本発明に係る平版印刷版ダミー版(以下、単に、平版印刷版ダミー版ともいう)は、
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する平版印刷版ダミー版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、
上記平版印刷版ダミー版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版ダミー版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、
平版印刷版ダミー版である。
【0029】
本発明に係る機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版によれば、上記構成をとることにより、極めて優れたセッター給版性能と極めて優れたエッジ汚れ抑制性能とを両立し得る、機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版、並びに、これらの作成方法を提供することができる。
その理由は明らかではないが、以下の通りと推測される。
【0030】
先ず、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有する平版印刷版原版は、しばしば、裁断加工等を経て、端部にダレ形状領域が形成される。ここで、ダレ形状形成時に、ダレ形状領域には、最深部がアルミニウム支持体(後述する通り、陽極酸化皮膜より深い部位であるアルミニウムから構成される部位)に到達するクラックがしばしば形成されている。
そして、印刷時に、このようなクラックの内部にクラックへインキが付着することが、エッジ汚れ発生の一因になっているものと考えられるため、上記した従来技術が知られているが、上述の通り、エッジ汚れ発生の更なる抑制が期待されている。
本発明の機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版によれば、最深部がアルミニウム支持体に到達するクラック内にはリン酸系化合物が存在し、クラックの内部のアルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AES(電界放射型オージェ電子分光法)により測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上となるように構成されている。また、機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版の作成方法によれば、本発明の機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版を好適に作成できる方法となっている。
上記P/Alが0.04以上であることは、クラックの最深部においてリン元素の量が一定量存在していることを表すものであり、クラックの最深部にまで、エッジ汚れ抑制が期待できるリン酸系化合物が存在しているものと考えられる。すなわち、本発明の機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版においては、エッジ汚れの発生の原因と考えられるクラックの内部に、エッジ汚れの発生を抑制し得る成分が、より一層、存在しやすくなっているものと考えられ、その結果、極めて優れたエッジ汚れ抑制性能が達成できるものと考えられる。
【0031】
なお、発明者らの検討によれば、平版印刷版原版の端部や端面にエッジ汚れの発生を抑制し得る成分を含む液を塗布する上記した技術、及び、エッジ汚れの発生を抑制し得る成分を含有する層を有する平版印刷版原版を用いて機上現像を行うことで、エッジ汚れの発生を抑制し得る成分を、印刷インキや湿し水に溶出させて、平版印刷版原版のエッジ部に移動させる上記した技術では、上記P/Alを0.04以上とすることは困難である。
また、例えば、平版印刷版原版の端部や端面にエッジ汚れの発生を抑制し得る成分を含む液を塗布する上記した技術においては、端部における固形分が増大して、端部の厚みが大きくなる傾向になる。平版印刷版原版は、積層体から適宜取り出すことが一般的に行われるが、端部の厚みが大きくなると、積層体の保存時において平版印刷版原版同士が密着して、平版印刷版原版を取り出す際に、その下部の平版印刷版原版も取り出すことになり、上述の通り、いわゆるセッター給版性能において改善の余地があることが分かった。
本発明の機上現像型平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版によれば、平版印刷版原版の上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である。
上記固形分量の差(A-B)を調整することにより、セッターに設置した平版印刷版原版や平版印刷版ダミー版の積層体から、平版印刷版原版、平版印刷版ダミー版を、版同士が密着することを抑制しつつ、取り出すことができるものと考えられる。
以上により、本発明によれば、極めて優れたセッター給版性能と極めて優れたエッジ汚れ抑制性能とを両立し得るものと推測される。
【0032】
本発明にかかる機上現像型平版印刷版原版の作成方法、及び平版印刷版ダミー版の作成方法については、後述する。
【0033】
本発明に係る機上現像型平版印刷版原版について、以下に詳細に説明する。
機上現像は、平版印刷版原版を画像露光後、従来の湿式現像処理を行わず、そのまま印刷機に取り付け、画像記録層の非画像部の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法であり、機上現像を行うことができる平版印刷版原版が機上現像型平版印刷版原版である。
【0034】
(平版印刷版原版)
まず、本発明の機上現像型平版印刷版原版について説明する。
本発明に係る機上現像型平版印刷版原版は、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/AL)が0.04以上であり、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記機上現像型平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、機上現像型平版印刷版原版である。
【0035】
(アルミニウム支持体)
支持体はアルミニウム支持体である。このようなアルミニウム支持体に用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属、即ちアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金から選ばれることが好ましい。
【0036】
アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。純アルミニウム板が好適であるが、完全に純粋なアルミニウムは製錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有する合金でもよい。アルミニウム支持体に用いられるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来から公知のアルミニウム板、例えばJIS A 1050、JIS A 1100、JIS A 3103、JIS A 3005などを適宜利用することが出来る。
支持体(好ましくは、アルミニウム板)の厚さは、0.1~0.6mm程度が好ましい。
【0037】
(陽極酸化皮膜)
本発明におけるアルミニウム支持体は、陽極酸化皮膜を有する。
陽極酸化皮膜は、陽極酸化処理によって支持体(好ましくは、アルミニウム板)の表面に形成される、極微細孔(マイクロポアともいう。)を有する陽極酸化皮膜(好ましくは、陽極酸化アルミニウム皮膜)を意味する。マイクロポアは、支持体とは反対側の陽極酸化皮膜表面から厚み方向(支持体側、深さ方向)に沿ってのびている。
マイクロポアの陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径)は、調子再現性、耐刷性及びブラン汚れ性の観点から、7nm~150nmが好ましく、10nm~100nmがより好ましく、10nm~60nmが更に好ましく、15nm~60nmが特に好ましく、18nm~40nmが最も好ましい。
マイクロポアの深さは、10nm~3,000nmが好ましく、10nm~2,000nmがより好ましく、10nm~1,000nmが更に好ましい。
【0038】
マイクロポアの形状は、通常、マイクロポアの径が深さ方向(厚み方向)に向かってほぼ変わらない略直管状(略円柱状)であるが、深さ方向(厚み方向)に向かって径が連続的に小さくなる円錐状であってもよい。また、深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で小さくなる形状であってもよい。
深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で小さくなる形状のマイクロポアとしては、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に延びる大径孔部と、大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ方向に延びる小径孔部とから構成されるマイクロポアが挙げられる。
【0039】
具体的には、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に10nm~1,000nmのびる大径孔部と、大径孔部の底部と連通し、連通位置から更に深さ方向に20~2,000nmのびる小径孔部とから構成されるマイクロポアが好ましい。
以下に、大径孔部及びと小径孔部について詳述する。
【0040】
-大径孔部-
大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径)は、調子再現性、耐刷性及びブラン汚れ性の観点から、7nm~150nmが好ましく、10nm~100nmがより好ましく、15nm~100nmが更に好ましく、15nm~60nmが特に好ましく、18nm~40nmが最も好ましい。
大径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。
なお、大径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0041】
大径孔部の底部は、陽極酸化皮膜表面から深さ70nm~1,000nm(以後、深さAともいう。)に位置することが好ましい。つまり、大径孔部は、陽極酸化皮膜表面から深さ方向(厚み方向)に70nm~1,000nmのびる孔部であることが好ましい。中でも、平版印刷版原版の製造方法の効果がより優れる点で、深さAは、90nm~850nmがより好ましく、90nm~800nmが更に好ましく、90nm~600nmが特に好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0042】
大径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向(厚み方向)に向かって径が小さくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、大径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
大径孔部の内径は特に制限されないが、開口部の径と同程度の大きさか、又は開口部の径よりも小さいことが好ましい。なお、大径孔部の内径は、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0043】
-小径孔部-
小径孔部は、大径孔部の底部と連通して、連通位置より更に深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。ひとつの小径孔は、通常ひとつの大径孔部と連通するが、2つ以上の小径孔部がひとつの大径孔部の底部と連通していてもよい。
小径孔部の連通位置における平均径は、15nm以下が好ましく、13nm以下がより好ましく、11nm以下がより好ましく、10nm以下が特に好ましい。下限は特に制限されないが、5nmが好ましい。
【0044】
小径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍のFE-SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(小径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。なお、大径孔部の深さが深い場合は、必要に応じて、陽極酸化皮膜上部(大径孔部のある領域)を切削し(例えば、アルゴンガスによって切削)、その後陽極酸化皮膜表面を上記FE-SEMで観察して、小径孔部の平均径を求めてもよい。
なお、小径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0045】
小径孔部の底部は、上記の大径孔部との連通位置(上述した深さAに該当)から更に深さ方向に20nm~2,000nmのびた場所に位置することが好ましい。言い換えると、小径孔部は、上記大径孔部との連通位置から更に深さ方向(厚み方向)にのびる孔部であり、小径孔部の深さは20nm~2,000nmが好ましく、100nm~1,500nmがより好ましく、200nm~1,000nmが特に好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の小径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0046】
小径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向に向かって径が小さくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、小径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
小径孔部の内径は特に制限されないが、連通位置における径と同程度の大きさか、又は上記径よりも小さくても大きくてもよい。なお、小径孔部の内径は、通常、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0047】
大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径と小径孔部の連通位置における平均径の比、(大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径)/(小径孔部の連通位置における平均径)は、1.1~13が好ましく、2.5~6.5がより好ましい。
また、大径孔部の深さと小径孔部の深さの比、(大径孔部の深さ)/(小径孔部の深さ)は、0.005~50が好ましく、0.025~40がより好ましい。
【0048】
また、マイクロポアの形状は、マイクロポアの径が深さ方向(厚み方向)に向かってほぼ変わらない略直管状(略円柱状)であるが、深さ方向(厚み方向)に向かって径が連続的に大きくなる円錐状であってもよい。また、深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で大きくなる形状であってもよい。
深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で大きくなる形状のマイクロポアとしては、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に延びる小径孔部と、小径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ方向に延びる大径孔部とから構成されるマイクロポアが挙げられる。
【0049】
具体的には、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に10nm~1,000nmのびる小径孔部と、小径孔部の底部と連通し、連通位置から更に深さ方向に20~2,000nmのびる大径孔部とから構成されるマイクロポアが好ましい。
【0050】
-小径孔部-
小径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径)は、特に限定されないが、35nm以下が好ましく、25nm以下がより好ましく、20nm以下が特に好ましい。下限は特に制限されないが、15nmが好ましい。
小径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。
なお、小径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0051】
小径孔部の底部は、陽極酸化皮膜表面から深さ70nm~1,000nm(以後、深さA’ともいう。)に位置することが好ましい。つまり、小径孔部は、陽極酸化皮膜表面から深さ方向(厚み方向)に70nm~1,000nmのびる孔部であることが好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0052】
小径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向(厚み方向)に向かって径が大きくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、小径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
小径孔部の内径は特に制限されないが、開口部の径と同程度の大きさか、又は開口部の径よりも小さいことが好ましい。なお、小径孔部の内径は、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0053】
-大径孔部-
大径孔部は、小径孔部の底部と連通して、連通位置より更に深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。ひとつの大径孔は、通常、2つ以上の小径孔部がひとつの大径孔部の底部と連通していてもよい。
大径孔部の連通位置における平均径は、20nm~400nmが好ましく、40nm~300nmがより好ましく、50nm~200nmが更に好ましく、50nm~100nmが特に好ましい。
【0054】
大径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍のFE-SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。なお、小径孔部の深さが深い場合は、必要に応じて、陽極酸化皮膜上部(小径孔部のある領域)を切削し(例えば、アルゴンガスによって切削)、その後陽極酸化皮膜表面を上記FE-SEMで観察して、大径孔部の平均径を求めてもよい。
なお、大径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0055】
大径孔部の底部は、上記の小径孔部との連通位置(上述した深さA’に該当)から更に深さ方向に20nm~2,000nmのびた場所に位置することが好ましい。言い換えると、大径孔部は、上記小径孔部との連通位置から更に深さ方向(厚み方向)にのびる孔部であり、大径孔部の深さは20nm~2,000nmが好ましく、100nm~1,500nmがより好ましく、200nm~1,000nmが特に好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0056】
大径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向に向かって径が小さくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、大径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
大径孔部の内径は特に制限されないが、連通位置における径と同程度の大きさか、又は上記径よりも小さくても大きくてもよい。なお、大径孔部の内径は、通常、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0057】
上記支持体が陽極酸化皮膜を有し、
上記陽極酸化皮膜が、陽極酸化皮膜の表面から深さ方向に向かって順に、
平均径が20~100nmのマイクロポアを有する、厚さ30~500nmの上層、
平均径が上記マイクロポア上層におけるマイクロポアの平均径の1/2~5倍のマイクロポアを有する、厚さ100~300nmの中間層、及び
平均径が15nm以下のマイクロポアを有する、厚さ300~2000nmの下層
を有することが好ましい。
【0058】
機上現像型平版印刷版原版においては、画像視認性向上の観点から、支持体の陽極酸化皮膜表面(画像記録層が形成される側の表面)における明度が高いことが有用である。
平版印刷版の印刷工程においては、通常、印刷版を印刷機に取り付ける前に目的通りの画像記録がなされているかを確認する目的で、検版作業が行われる。機上現像型平版印刷版原版においては、画像露光された段階で画像を確認することが求められるため、画像露光部にいわゆる焼き出し画像を生じさせる手段が適用される。
画像露光された機上現像型平版印刷版原版の画像部の見易さ(画像視認性)を定量的に評価する方法として、画像露光部の明度と未露光部の明度を測定し、両者の差を求める方法が挙げられる。ここで、明度としては、CIEL*a*b*表色系における明度L*の値を用いることができ、測定は、色彩色差計(SpectroEye、エックスライト(株)製)を用いて行うことができる。測定により得られた画像露光部の明度と未露光部の明度との差が大きい程、画像部が見易いこととなる。
画像露光部の明度と未露光部の明度との差を大きくするためには、陽極酸化皮膜表面のCIEL*a*b*表色系における明度L*の値が大きいことが有効であることが判明した。即ち、明度L*の値は60~100であることが好ましい。
【0059】
陽極酸化皮膜を有する支持体は、必要に応じて、2つ以上の水酸基を有するヒドロキシ酸化合物を含有する構成層が形成される側とは反対側の面に、特開平5-45885号公報に記載の有機高分子化合物又は特開平6-35174号公報に記載のケイ素のアルコキシ化合物などを含むバックコート層を有していてもよい。
【0060】
(陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造)
支持体の例として、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法について記載する。
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体は公知の方法を用いて製造することができる。陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法は、特に限定されるものではない。陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法の好ましい形態としては、アルミニウム板に粗面化処理を施す工程(粗面化処理工程)、粗面化処理されたアルミニウム板を陽極酸化する工程(陽極酸化処理工程)、陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板を、酸水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、陽極酸化皮膜中のマイクロポアの径を拡大させる工程(ポアワイド処理工程)を含む方法が挙げられる。
【0061】
以下に、各工程を詳細に説明する。
【0062】
<粗面化処理工程>
粗面化処理工程は、アルミニウム板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を施す工程である。粗面化処理工程は、後述する陽極酸化処理工程の前に実施されることが好ましいが、アルミニウム板の表面がすでに好ましい表面形状を有していれば、実施しなくてもよい。
【0063】
粗面化処理は、電気化学的粗面化処理のみを施してもよいが、電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理及び化学的粗面化処理の少なくとも一つとを組み合わせて施してもよい。
機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせる場合には、機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理を施すことが好ましい。
【0064】
電気化学的粗面化処理は、硝酸や塩酸の水溶液中で施すことが好ましい。
【0065】
機械的粗面化処理は、一般的には、アルミニウム板の表面を表面粗さRa:0.35~1.0μmとすることを目的として施される。
機械的粗面化処理の諸条件は特に限定されないが、例えば、特公昭50-40047号公報に記載されている方法に従って施すことができる。機械的粗面化処理は、パミストン懸濁液を使用したブラシグレイン処理により施したり、転写方式で施したりすることができる。
また、化学的粗面化処理も特に限定されず、公知の方法に従って施すことができる。
【0066】
機械的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を施すことが好ましい。
機械的粗面化処理の後に施される化学エッチング処理は、アルミニウム板の表面の凹凸形状のエッジ部分をなだらかにし、印刷時のインキの引っかかりを防止し、平版印刷版の耐汚れ性を向上させるとともに、表面に残った研磨材粒子などの不要物を除去するために行われる。
化学エッチング処理としては、酸によるエッチングやアルカリによるエッチングが知られているが、エッチング効率の点で特に優れている方法として、アルカリ溶液を用いる化学エッチング処理(以下、「アルカリエッチング処理」ともいう。)が挙げられる。
【0067】
アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、カセイカリ、メタケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、グルコン酸ソーダなどが好適に挙げられる。
アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有してもよい。アルカリ溶液のアルカリ剤の濃度は、0.01質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、また、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
更に、アルカリ溶液の温度は室温以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、また、80℃以下が好ましく、75℃以下がより好ましい。
【0068】
エッチング量は、0.01g/m以上が好ましく、0.05g/m以上がより好ましく、また、30g/m以下が好ましく、20g/m以下がより好ましい。
処理時間は、エッチング量に対応して2秒~5分が好ましく、生産性向上の点から2~10秒がより好ましい。
【0069】
機械的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を施した場合、アルカリエッチング処理により生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(以下、「デスマット処理」ともいう。)を施すことが好ましい。
酸性溶液に用いられる酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸が挙げられる。酸性溶液の濃度は1~50質量%が好ましい。酸性溶液の温度は20~80℃が好ましい。酸性溶液の濃度および温度がこの範囲であると、アルミニウム支持体を用いた平版印刷版における耐ポツ状汚れ性能がより向上する。
【0070】
粗面化処理工程の好ましい態様を以下に例示する。
-態様SA-
(1)から(8)に示す処理をこの順に実施する態様。
(1)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(2)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(3)硝酸を主体とする水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(第1電気化学的粗面化処理)
(4)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(5)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(6)塩酸を主体とする水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(第2電気化学的粗面化処理)
(7)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第3アルカリエッチング処理)
(8)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第3デスマット処理)
【0071】
-態様SB-
(11)から(15)に示す処理をこの順に実施する態様。
(11)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第4アルカリエッチング処理)
(12)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第4デスマット処理)
(13)塩酸を主体とする水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(第3電気化学的粗面化処理)
(14)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第5アルカリエッチング処理)
(15)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第5デスマット処理)
【0072】
上記態様SAの(1)の処理前、又は、態様SBの(11)の処理前に、必要に応じて、機械的粗面化処理を実施してもよい。
【0073】
第1アルカリエッチング処理及び第4アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.5g/m~30g/mが好ましく、1.0g/m~20g/mがより好ましい。
【0074】
態様SAにおける第1電気化学的粗面化処理で用いる硝酸を主体とする水溶液としては、直流又は交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いる水溶液が挙げられる。例えば、1g/L~100g/Lの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、又は、硝酸アンモニウムなどを添加して得られる水溶液が挙げられる。
態様SAにおける第2電気化学的粗面化処理及び態様SBにおける第3電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液としては、直流又は交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いる水溶液が挙げられる。例えば、1g/L~100g/Lの塩酸水溶液に、硫酸を0g/L~30g/L添加して得られる水溶液が挙げられる。なお、この水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、又は硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、又は塩化アンモニウムなどの塩化物イオンを更に添加してもよい。
【0075】
電気化学的粗面化処理の交流電源波形は、サイン波、矩形波、台形波、又は三角波などを用いることができる。周波数は0.1Hz~250Hzが好ましい。
図1は、電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
図1において、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流が0からピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流である。台形波において、電流が0からピークに達するまでの時間tpは1msec~10msecが好ましい。電気化学的粗面化処理に用いる交流の1サイクルの条件は、アルミニウム板のアノード反応時間taとカソード反応時間tcの比tc/taが1~20、アルミニウム板がアノード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaの比Qc/Qaが0.3~20、アノード反応時間taが5msec~1,000msecの範囲にあることが好ましい。電流密度は台形波のピーク値で電流のアノードサイクル側Ia及びカソードサイクル側Icが共に10~200A/dmが好ましい。Ic/Iaは0.3~20が好ましい。電気化学的粗面化処理が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和は25C/dm~1,000C/dmが好ましい。
【0076】
交流を用いた電気化学的粗面化処理には図2に示した装置を用いることができる。
図2は、交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
図2において、50は主電解槽、51は交流電源、52はラジアルドラムローラ、53a及び53bは主極、54は電解液供給口、55は電解液、56はスリット、57は電解液通路、58は補助陽極、60は補助陽極槽、Wはアルミニウム板である。電解槽を2つ以上用いるときには、電解条件は同じでもよいし、異なっていてもよい。
アルミニウム板Wは主電解槽50中に浸漬して配置されたラジアルドラムローラ52に巻装され、搬送過程で交流電源51に接続する主極53a及び53bにより電解処理される。電解液55は、電解液供給口54からスリット56を通じてラジアルドラムローラ52と主極53a及び53bとの間の電解液通路57に供給される。主電解槽50で処理されたアルミニウム板Wは、次いで、補助陽極槽60で電解処理される。この補助陽極槽60には補助陽極58がアルミニウム板Wと対向配置されており、電解液55が補助陽極58とアルミニウム板Wとの間の空間を流れるように供給される。
【0077】
第2アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、所定の平版印刷版原版が製造しやすい点で、1.0g/m~20g/mが好ましく、2.0g/m~10g/mがより好ましい。
【0078】
第3アルカリエッチング処理及び第5アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、所定の平版印刷版原版が製造しやすい点で、0.01g/m~0.8g/mが好ましく、0.05g/m~0.3g/mがより好ましい。
【0079】
酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第1~第5デスマット処理)では、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、又は、これらの2以上の酸を含む混酸を含む酸性水溶液が好適に用いられる。
酸性水溶液における酸の濃度は0.5質量%~60質量%が好ましい。
【0080】
<陽極酸化処理工程>
陽極酸化処理工程は、上記粗面化処理が施されたアルミニウム板に陽極酸化処理を施すことにより、アルミニウム板の表面にアルミニウムの酸化皮膜を形成する工程である。陽極酸化処理によりアルミニウム板の表面に、マイクロポアを有するアルミニウムの陽極酸化皮膜が形成される。
陽極酸化処理は、この分野で従来から知られている方法に従って、所望とするマイクロポアの形状などを考慮して、適宜製造条件を設定することにより行うことができる。
【0081】
陽極酸化処理工程においては、硫酸、リン酸、シュウ酸などの水溶液を主に電解液として用いることができる。場合によっては、クロム酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸などまたはこれらの二種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液を用いることもできる。電解液中でアルミニウム板に直流または交流を流すと、アルミニウム板表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。電解液にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが1~10g/Lが好ましい。
【0082】
陽極酸化処理の条件は使用される電解液によって適宜設定されるが、一般的には、電解液の濃度が1~80質量%(好ましくは5~20質量%)、液温5~70℃(好ましくは10~60℃)、電流密度0.5~60A/dm(好ましくは5~50A/dm)、電圧1~100V(好ましくは5~50V)、電解時間1~100秒(好ましくは5~60秒)の範囲が適当である。
【0083】
英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸中にて高電流密度で陽極酸化する方法は陽極酸化処理の好ましい一例である。
【0084】
陽極酸化処理は複数回行うこともできる。各陽極酸化処理において使用する電解液の種類、濃度、液温、電流密度、電圧、電解時間などの条件の1つ以上を変更することができる。陽極酸化処理の回数が2の場合、最初の陽極酸化処理を第1陽極酸化処理、2回目の陽極酸化処理を第2陽極酸化処理ということもある。第1陽極酸化処理と第2陽極酸化処理を行うことにより、異なる形状を有する陽極酸化皮膜を形成することができ、印刷性能に優れた平版印刷版原版を提供することが可能となる。
更に、陽極酸化処理に引き続いて下記のポアワイド処理を行い、その後再度陽極酸化処理を行うこともできる。この場合、第1陽極酸化処理、ポアワイド処理、第2陽極酸化処理を行うこととなる。
上記の第1陽極酸化処理、ポアワイド処理、第2陽極酸化処理を行う方法を利用することにより、前述の陽極酸化皮膜表面から深さ方向に延びる大径孔部と、大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ方向に延びる小径孔部とから構成されるマイクロポアを形成することができる。
【0085】
<ポアワイド処理工程>
ポアワイド処理工程は、上記陽極酸化処理工程により形成された陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの径(ポア径)を拡大させる処理(孔径拡大処理)である。このポアワイド処理により、マイクロポアの径が拡大され、より大きな平均径を有するマイクロポアを有する陽極酸化皮膜が形成される。
【0086】
ポアワイド処理は、上記陽極酸化処理工程により得られたアルミニウム板を、酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させることにより行うことができる。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
【0087】
ポアワイド処理工程においてアルカリ水溶液を使用する場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリ水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1~5質量%が好ましい。アルカリ水溶液のpHを11~13に調整し、10~70℃(好ましくは20~50℃)の条件下で、アルミニウム板をアルカリ水溶液に1~300秒(好ましくは1~50秒)接触させることが適当である。この際、アルカリ処理液中に炭酸塩、硼酸塩、燐酸塩などの多価弱酸の金属塩を含んでもよい。
【0088】
ポアワイド処理工程において酸水溶液を使用する場合、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸などの無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は、1~80質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。酸水溶液の液温5~70℃(好ましくは10~60℃)の条件下で、アルミニウム板を酸水溶液に1~300秒(好ましくは1~150秒)接触させることが適当である。
アルカリ水溶液又は酸水溶液中にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが、1~10g/Lが好ましい。
【0089】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法は、上記ポアワイド処理工程の後に親水化処理を施す親水化処理工程を含んでいてもよい。親水化処理には、特開2005-254638号公報の段落0109~0114に記載される公知の方法を使用することができる。
【0090】
親水化処理は、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリなどのアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸漬する方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成する方法などにより行うことが好ましい。
【0091】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリなどのアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。
【0092】
上記陽極酸化皮膜の陽極酸化皮膜量は、特に限定されないが、3.0g/m以下であることが好ましく、2.5g/m以下であることがより好ましく、2.0g/m以下であることが更に好ましい。
上記陽極酸化皮膜の陽極酸化皮膜量は、特に限定されないが、0.5g/m以上であることが好ましい。
【0093】
陽極酸化皮膜の陽極酸化皮膜量は、以下の方法で算出される。
平版印刷版原版の構成層(下塗り層、画像記録層、保護層)を、ヤマト科学(株)製PlasmaReactor PR300を用いて除去する。露出したアルミニウム支持体の陽極酸化皮膜の表面を、蛍光X線分析装置((株)リガク製ZSX PrimusII)で測定し、別途作成した検量線を用いて陽極酸化皮膜の陽極酸化皮膜量(g/m)を算出する。検量線は蛍光X線分析装置から得られるコンプトン散乱線強度とメイソン法で算出した陽極酸化皮膜量の関係から作成した。メイソン法の測定精度を上げるため、メイソン液は全て新液を用いた。蛍光X線分析の条件は以下のとおりである。X線管球:Rh、測定スペクトル:RhLα、管電圧:50kV、管電流:60mA、スリット:S2、分光結晶:Ge、検出器:PC、分析面積:30mmφ、ピーク位置(2θ):89.510deg.、バックグランド(2θ):87.000deg.及び92.000deg.、積算時間:60秒/sample
【0094】
本発明の機上現像型平版印刷版原版は、上述の通り、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体を有し、また、ダレ形状領域には、最深部がアルミニウム支持体に到達するクラックを有するものであるが、「陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体」における「アルミニウム支持体」は、アルミニウム支持体から上記処理等により形成した「陽極酸化皮膜」の領域を含まないことを意図している。すなわち、本発明における「アルミニウム支持体」は、陽極酸化皮膜より深い部位であるアルミニウムから構成される部位を意図する。そのため、本発明の「クラックの内部のアルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)」における「クラックの内部のアルミニウム支持体内に形成されたクラック領域」は、陽極酸化皮膜内に形成されたクラック領域より深い位置に存在する、アルミニウムから構成される部位内に形成されたクラック領域を意図するものである。
【0095】
後述の平版印刷版原版ダミー版についても同様である。
【0096】
〔リン酸系化合物〕
本発明の機上現像型平版印刷版原版において、画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つは、リン酸系化合物を含有しても良く、含有していなくても良い。
当該リン酸系化合物は、分子中に不飽和二重結合基を有さないことが好ましい。当該リン酸系化合物の含有量は画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つの面内において実質的に同じであることが好ましい。
【0097】
リン酸系化合物としては、特に限定されないが、リン原子を含有し、-PO、-OPO、-POなどの酸基を有する化合物である。また、酸基は塩を形成していてもよい。
酸基が形成する塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
当該化合物は、分子中に不飽和二重結合基を有さないことが好ましい。当該化合物の含有量は画像記録層を含む1つ以上の層の少なくとも1つの面内において実質的に同じであることが好ましい。
リン酸系化合物は、支持体との吸着性を有しており、リン酸系化合物は、機上現像時に効率よくクラックに吸着し、クラックを親水化する特性を有しており、エッジ汚れの防止に寄与する。
【0098】
リン酸系化合物の分子量は、1,000以下であることが好ましい。分子量が1,000以下であることにより、機上現像時に陽極酸化皮膜の表面に移動しやすく、さらに、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックにも移動しやすく、優れたエッジ汚れ防止効果が得られる。分子量は、好ましくは50~1,000、より好ましくは50~800、更に好ましくは50~600である。
【0099】
リン酸系化合物は、分子中に不飽和二重結合基を有さないことが好ましい。不飽和二重結合基は、重合性を有する基であり、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などのエチレン性不飽和基を包含する。リン酸系化合物が、分子中に不飽和二重結合基を有さないことにより、露光でリン酸系化合物が画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つとともに硬化することを抑制できる。
【0100】
好ましい一態様として、リン酸系化合物としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸を挙げることができる。
上記のリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸は塩を構成していても良い。
上記リン酸塩、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩における対カチオンは、特に限定するものではないが、金属イオン、オニウムイオンなどが好適に用いられる。中でも、取り扱いの容易さ、塗布液への溶解性から、対カチオンとしてナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオンなどが好適に用いられる。
【0101】
上記の塩は、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0102】
リン酸、及びリン酸塩としては、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸第一アンモニウム、リン酸第二アンモニウム、ヘキサメタリン酸、ヘキサメタリン酸ナトリウム、フィチン酸、フィチン酸ナトリウム、ピロリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸、メタリン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0103】
ホスホン酸、及びホスホン酸塩としては、ホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、i-プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、2-ヒドロキシエチルホスホン酸、1,5-ペンタンジホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、及び上記化合物のナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩等を挙げることができる。
ホスフィン酸塩としては、ホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、及び上記化合物のナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0104】
本発明のリン酸系化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスフィン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましく、リン酸、ホスホン酸、リン酸塩、及びホスホン酸塩の群から選択される少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。上記化合物は、よりクラックに吸着し易く、クラックを親水性化する特性を有しているため、エッジ汚れの防止により寄与しやすいため好ましい。
【0105】
リン酸系化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
リン酸系化合物の含有量は、エッジ汚れの抑制と耐刷性の観点から、10~200mg/mが好ましく、30~150mg/mがより好ましく、50~100mg/mが更に好ましい。
【0106】
本発明においては、リン酸系化合物の含有量が画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つの面内において実質的に同じであることが好ましい。ここで、「リン酸系化合物の含有量が画像記録層を含む1つ以上の層の少なくとも1つの面内において実質的に同じである」とは、リン酸系化合物が画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つの面内においてほぼ均一に存在し、平版印刷版原版の中央部と端部において、リン酸系化合物の含有量に実質的な差がないことを意味する。即ち、画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つを塗布した際に通常発生し得る画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つ面内におけるリン酸系化合物の含有量差以外には、含有量差がないことを意味する。
従って、本発明は、平版印刷版原版の端部のみに、意図的にリン酸系化合物を適用して、端部におけるリン酸系化合物の含有量を端部以外の領域におけるリン酸系化合物の含有量より多くする状態を形成することとは異なることが好ましい。
【0107】
リン酸系化合物の添加層は、特に限定するものではないが、耐刷性の観点から、保護層に添加することが好ましい。
好ましい一態様として、画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つが保護層であることが好ましい。
【0108】
本発明の平版印刷版原版における、「画像記録層を含む1つ以上の構成層」は、少なくとも画像記録層を含む。
画像記録層以外の層としては、特に限定されないが、例えば、下塗り層、保護層が挙げられる。
上記下塗り層は、上記支持体の上に形成されるものであり、上記保護層は、画像記録層の上に形成されるものである。
「画像記録層を含む1つ以上の構成層」は、下記の4つの態様を含む。
<1>画像記録層のみ
<2>下塗り層、及び画像記録層
<3>画像記録層、及び保護層
<4>下塗り層、画像記録層、及び保護層
【0109】
上記1つ以上の構成層の少なくとも一つとしては、例えば、画像記録層、下塗り層、保護層からなる群から選択される少なくとも一つの層が挙げられる。
また、上記1つ以上の構成層の少なくとも一つとしては、例えば、画像記録層、下塗り層、保護層からなる群から選択される二つ以上の層も挙げられる。
【0110】
本発明の平版印刷版原版は、上記1つ以上の構成層の少なくとも一つに、リン酸系化合物を含んでいても良く、含んでいなくても良い。
好ましい一態様として、画像記録層が上記リン酸系化合物を含む。上記1つ以上の層の少なくとも一つが画像記録層である場合である。
また、好ましい一態様として、本発明の平版印刷版原版は、支持体の上に、下塗り層を有し、上記下塗り層が上記リン酸系化合物を含む。上記1つ以上の層の少なくとも一つが下塗り層である場合である。
更に、好ましい一態様として、本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に、保護層を有し、上記保護層が上記リン酸系化合物を含む。上記1つ以上の層の少なくとも一つが保護層である場合である。
【0111】
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層を含む1つ以上の構成層を有する。
また、上記画像記録層は、ネガ型画像記録層であることが好ましく、水溶性又は水分散性のネガ型画像記録層であることがより好ましい。
本発明に用いられる平版印刷版原版は、機上現像性の観点から、画像記録層の未露光部が湿し水及び印刷インキの少なくともいずれかにより除去可能であることが好ましい。
本発明の平版印刷版原版として、アルミニウム支持体、及び上記画像記録層を有するが、下記のいずれかの構成も好ましく挙げることができる。
(1)平版印刷版原版が、アルミニウム支持体、画像記録層、保護層をこの順に有する。
(2)平版印刷版原版が、アルミニウム支持体、下塗り層、画像記録層をこの順に有する。
(3)平版印刷版原版が、アルミニウム支持体、下塗り層、画像記録層、保護層をこの順に有する。
【0112】
<画像記録層>
本発明の平版印刷版原版において、上記画像記録層は、重合性化合物、重合開始剤、赤外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0113】
〔重合性化合物〕
本発明における画像記録層は、重合性化合物を含むことが好ましい。
本発明において、重合性化合物とは、重合性基を有する化合物をいう。
重合性基としては、特に限定されず公知の重合性基であればよいが、エチレン性不飽和基であることが好ましい。また、重合性基としては、ラジカル重合性基であってもカチオン重合性基であってもよいが、ラジカル重合性基であることが好ましい。
ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニルフェニル基、ビニル基等が挙げられ、反応性の観点から(メタ)アクリロイル基が好ましい。
重合性化合物の分子量(分子量分布を有する場合には、重量平均分子量)は、50以上2,500未満であることが好ましい。
【0114】
本発明に用いられる重合性化合物は、例えば、ラジカル重合性化合物であっても、カチオン重合性化合物であってもよいが、少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する付加重合性化合物(エチレン性不飽和化合物)であることが好ましい。
エチレン性不飽和化合物としては、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個有する化合物であることが好ましく、末端エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物であることがより好ましい。重合性化合物は、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体若しくはオリゴマー、又は、それらの混合物などの化学的形態をもつ。
中でも、上記重合性化合物としては、耐刷性の観点から、3官能以上の重合性化合物を含むことが好ましく、7官能以上の重合性化合物を含むことがより好ましく、10官能以上の重合性化合物を含むことが更に好ましい。また、上記重合性化合物は、得られる平版印刷版における耐刷性の観点から、3官能以上(好ましくは7官能以上、より好ましくは10官能以上)のエチレン性不飽和化合物を含むことが好ましく、3官能以上(好ましくは7官能以上、より好ましくは10官能以上)の(メタ)アクリレート化合物を含むことが更に好ましい。
【0115】
また、上記重合性化合物としては、機上現像性、及び、汚れ抑制性の観点から、2官能以下の重合性化合物を含むことが好ましく、2官能重合性化合物を含むことがより好ましく、2官能(メタ)アクリレート化合物を含むことが特に好ましい。
2官能以下の重合性化合物(好ましくは2官能重合性化合物)の含有量は、耐刷性、機上現像性、及び、汚れ抑制性の観点から、上記画像記録層における重合性化合物の全質量に対し、5質量%~100質量%であることが好ましく、10質量%~100質量%であることがより好ましく、15質量%~100質量%であることが特に好ましい。
【0116】
-オリゴマー-
画像記録層に含まれる重合性化合物としては、オリゴマーである重合性化合物(以下、単に「オリゴマー」ともいう。)を含有することが好ましい。
本発明においてオリゴマーとは、分子量(分子量分布を有する場合には、重量平均分子量)が600以上40,000以下であり、かつ、重合性基を少なくとも1つ含む重合性化合物を表す。
耐薬品性、耐刷性に優れる観点から、オリゴマーの分子量としては、1,000以上25,000以下であることが好ましい。
【0117】
また、耐刷性を向上させる観点から、1分子のオリゴマーにおける重合性基数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましく、10以上であることが特に好ましい。
また、オリゴマーにおける重合性基の上限値は、特に制限はないが、重合性基の数は20以下であることが好ましい。
【0118】
耐刷性、及び、機上現像性の観点から、オリゴマーとしては、重合性基の数が7以上であり、かつ、分子量が1,000以上40,000以下であることが好ましく、重合性基の数が7以上20以下であり、かつ、分子量が1,000以上25,000以下であることがより好ましい。
なお、オリゴマーを製造する過程で生じる可能性のある、ポリマー成分を含有していてもよい。
【0119】
耐刷性、視認性、及び、機上現像性の観点から、オリゴマーは、ウレタン結合を有する化合物、エステル結合を有する化合物及びエポキシ残基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、ウレタン結合を有する化合物を有することが好ましい。
本発明においてエポキシ残基とは、エポキシ基により形成される構造を指し、例えば酸基(カルボン酸基等)とエポキシ基との反応により得られる構造と同様の構造を意味する。
【0120】
ウレタン結合を有する化合物としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
【0121】
また、ウレタン結合を有する化合物として、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、の反応により得られるポリウレタンに、高分子反応により重合性基を導入した化合物を用いてもよい。
例えば、酸基を有するポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたポリウレタンオリゴマーに、エポキシ基及び重合性基を有する化合物を反応させることにより、ウレタン結合を有する化合物を得てもよい。
【0122】
オリゴマーの例であるエステル結合を有する化合物における重合性基の数は、3以上であることが好ましく、6以上であることが更に好ましい。
【0123】
オリゴマーの例であるエポキシ残基を有する化合物としては、化合物内にヒドロキシ基を含む化合物が好ましい。
また、エポキシ残基を有する化合物における重合性基の数は、2~6であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。
上記エポキシ残基を有する化合物としては、例えば、エポキシ基を有する化合物にアクリル酸を反応することにより得ることができる。
【0124】
オリゴマーの具体例を下記表に示すが、本発明において用いられるオリゴマーはこれに限定されるものではない。
オリゴマーとしては、市販品を用いてもよく、UA510H、UA-306H、UA-306I、UA-306T(いずれも共栄社化学(株)製)、UV-1700B、UV-6300B、UV7620EA(いずれも日本合成化学工業(株)製)、U-15HA(新中村化学工業(株)製)、EBECRYL450、EBECRYL657、EBECRYL885、EBECRYL800、EBECRYL3416、EBECRYL860(いずれもダイセルオルネクス(株)製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0125】
オリゴマーの含有量は、耐薬品性、耐刷性、及び機上現像カスの抑制性を向上させる観点から、画像記録層における重合性化合物の全質量に対し、30質量%~100質量%であることが好ましく、50質量%~100質量%であることがより好ましく、80質量%~100質量%であることが更に好ましい。
【0126】
-低分子重合性化合物-
重合性化合物は、上記オリゴマー以外の重合性化合物を更に含んでいてもよい。
オリゴマー以外の重合性化合物としては、耐薬品性の観点から、低分子重合性化合物であることが好ましい。低分子重合性化合物としては、単量体、2量体、3量体又は、それらの混合物などの化学的形態であってもよい。
また、低分子重合性化合物としては、耐薬品性の観点から、エチレン性不飽和基を3つ以上有する重合性化合物、及びイソシアヌル環構造を有する重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一方の重合性化合物であることが好ましい。
【0127】
本発明において低分子重合性化合物とは、分子量(分子量分布を有する場合には、重量平均分子量)50以上800未満の重合性化合物を表す。
低分子重合性化合物の分子量としては、耐薬品性、耐刷性及び機上現像カスの抑制性に優れる観点から、100以上800未満であることが好ましく、300以上800未満であることがより好ましく、400以上800未満であることが更に好ましい。
【0128】
重合性化合物が、オリゴマー以外の重合性化合物として低分子重合性化合物を含む場合(2種以上の低分子重合性化合物を含む場合はその合計量)、耐薬品性、耐刷性及び機上現像カスの抑制性の観点から、上記オリゴマーと低分子重合性化合物との比(オリゴマー/低分子重合性化合物)は、質量基準で、10/1~1/10であることが好ましく、10/1~3/7であることがより好ましく、10/1~7/3であることが更に好ましい。
【0129】
また、低分子重合性化合物としては、国際公開第2019/013268号の段落0082~0086に記載の重合性化合物も好適に用いることができる。
【0130】
重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、任意に設定できる。
中でも、画像記録層は、耐刷性の観点から、2種以上の重合性化合物を含むことが好ましい。
重合性化合物の含有量(重合性化合物を2種以上含む場合は、重合性化合物の総含有量)は、画像記録層の全固形分に対して、5質量%~75質量%であることが好ましく、10質量%~70質量%であることがより好ましく、15質量%~60質量%であることが更に好ましい。
【0131】
〔重合開始剤〕
本発明における画像記録層は、重合開始剤を含むことが好ましい。
また、重合開始剤としては、感度、耐刷性、機上現像性、及び、着肉性の観点から、電子供与型重合開始剤を含むことが好ましく、電子受容型重合開始剤、及び、電子供与型重合開始剤を含むことがより好ましい。
【0132】
-電子受容型重合開始剤-
上記画像記録層は、重合開始剤として、電子受容型重合開始剤を含むことが好ましい。
電子受容型重合開始剤は、赤外線露光により赤外線吸収剤の電子が励起した際に、分子間電子移動で一電子を受容することにより、ラジカル等の重合開始種を発生する化合物である。
本発明に用いられる電子受容型重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルやカチオン等の重合開始種を発生する化合物であって、公知の熱重合開始剤、結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを適宜選択して用いることができる。
電子受容型重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、オニウム化合物がより好ましい。
また、電子受容型重合開始剤としては、赤外線感光性重合開始剤であることが好ましい。
電子受容型ラジカル重合開始剤としては、例えば、(a)有機ハロゲン化物、(b)カルボニル化合物、(c)アゾ化合物、(d)有機過酸化物、(e)メタロセン化合物、(f)アジド化合物、(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(i)ジスルホン化合物、(j)オキシムエステル化合物、(k)オニウム化合物が挙げられる。
【0133】
(a)有機ハロゲン化物としては、例えば、特開2008-195018号公報の段落0022~0023に記載の化合物が好ましい。
(b)カルボニル化合物としては、例えば、特開2008-195018号公報の段落0024に記載の化合物が好ましい。
(c)アゾ化合物としては、例えば、特開平8-108621号公報に記載のアゾ化合物等を使用することができる。
(d)有機過酸化物としては、例えば、特開2008-195018号公報の段落0025に記載の化合物が好ましい。
(e)メタロセン化合物としては、例えば、特開2008-195018号公報の段落0026に記載の化合物が好ましい。
(f)アジド化合物としては、例えば、2,6-ビス(4-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン等の化合物を挙げることができる。
(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、例えば、特開2008-195018号公報の段落0027に記載の化合物が好ましい。
(i)ジスルホン化合物としては、例えば、特開昭61-166544号、特開2002-328465号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
(j)オキシムエステル化合物としては、例えば、特開2008-195018号公報の段落0028~0030に記載の化合物が好ましい。
【0134】
上記電子受容型重合開始剤の中でも好ましいものとして、硬化性の観点から、オキシムエステル化合物及びオニウム化合物が挙げられる。中でも、耐刷性の観点から、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物又はアジニウム塩化合物が好ましく、ヨードニウム塩化合物又はスルホニウム塩化合物がより好ましく、ヨードニウム塩化合物が特に好ましい。
これら化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0135】
ヨードニウム塩化合物の例としては、ジアリールヨードニウム塩化合物が好ましく、特に電子供与性基、例えば、アルキル基又はアルコキシル基で置換されたジフェニルヨードニウム塩化合物がより好ましく、また、非対称のジフェニルヨードニウム塩化合物が好ましい。具体例としては、ジフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4-メトキシフェニル-4-(2-メチルプロピル)フェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4-(2-メチルプロピル)フェニル-p-トリルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4-ヘキシルオキシフェニル-2,4,6-トリメトキシフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、4-ヘキシルオキシフェニル-2,4-ジエトキシフェニルヨードニウム=テトラフルオロボラート、4-オクチルオキシフェニル-2,4,6-トリメトキシフェニルヨードニウム=1-ペルフルオロブタンスルホナート、4-オクチルオキシフェニル-2,4,6-トリメトキシフェニルヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウム=ヘキサフルオロホスファートが挙げられる。
【0136】
スルホニウム塩化合物の例としては、トリアリールスルホニウム塩化合物が好ましく、特に電子求引性基、例えば、芳香環上の基の少なくとも一部がハロゲン原子で置換されたトリアリールスルホニウム塩化合物が好ましく、芳香環上のハロゲン原子の総置換数が4以上であるトリアリールスルホニウム塩化合物が更に好ましい。具体例としては、トリフェニルスルホニウム=ヘキサフルオロホスファート、トリフェニルスルホニウム=ベンゾイルホルマート、ビス(4-クロロフェニル)フェニルスルホニウム=ベンゾイルホルマート、ビス(4-クロロフェニル)-4-メチルフェニルスルホニウム=テトラフルオロボラート、トリス(4-クロロフェニル)スルホニウム=3,5-ビス(メトキシカルボニル)ベンゼンスルホナート、トリス(4-クロロフェニル)スルホニウム=ヘキサフルオロホスファート、トリス(2,4-ジクロロフェニル)スルホニウム=ヘキサフルオロホスファートが挙げられる。
【0137】
また、ヨードニウム塩化合物及びスルホニウム塩化合物の対アニオンとしては、スルホンアミドアニオン又はスルホンイミドアニオンが好ましく、スルホンイミドアニオンがより好ましい。
スルホンアミドアニオンとしては、アリールスルホンアミドアニオンが好ましい。
また、スルホンイミドアニオンとしては、ビスアリールスルホンイミドアニオンが好ましい。
スルホンアミドアニオン又はスルホンイミドアニオンの具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0138】
また、上記電子受容型重合開始剤は、現像性、及び、得られる平版印刷版における耐刷性の観点から、下記式(II)で表される化合物を含んでいてもよい。
【0139】
【化1】
【0140】
式(II)中、Xはハロゲン原子を表し、Rはアリール基を表す。
【0141】
式(II)におけるXとしては、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、塩素原子又は臭素原子は、感度に優れるため好ましく、臭素原子が特に好ましい。
また、式(II)において、Rとしては、感度と保存安定性とのバランスに優れる観点から、アミド基で置換されているアリール基が好ましい。
【0142】
上記式(II)で表される電子受容型重合開始剤の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
【0143】
電子受容型重合開始剤の最低空軌道(LUMO)は、感度の向上及び版飛びを発生しにくくする観点から、-3.00eV以下であることが好ましく、-3.02eV以下であることがより好ましい。
また、下限としては、-3.80eV以上であることが好ましく、-3.60eV以上であることがより好ましい。
【0144】
電子受容型重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
電子受容型重合開始剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、0.1質量%~50質量%であることが好ましく、0.5質量%~30質量%であることがより好ましく、0.8質量%~20質量%であることが特に好ましい。
【0145】
-電子供与型重合開始剤-
重合開始剤は、平版印刷版における耐薬品性、及び、耐刷性の向上に寄与する観点から、電子供与型重合開始剤を含むことが好ましく、電子供与型重合開始剤及び上記電子供与型重合開始剤の両方を含むことがより好ましい。
電子供与型重合開始剤としては、例えば、以下の5種類が挙げられる。
(i)アルキル又はアリールアート錯体:酸化的に炭素-ヘテロ結合が解裂し、活性ラジカルを生成すると考えられる。具体的には、ボレート化合物等が挙げられる。
(ii)アミノ酢酸化合物:酸化により窒素に隣接した炭素上のC-X結合が解裂し、活性ラジカルを生成するものと考えられる。Xとしては、水素原子、カルボキシ基、トリメチルシリル基又はベンジル基が好ましい。具体的には、N-フェニルグリシン類(フェニル基に置換基を有していてもよい。)、N-フェニルイミノジ酢酸(フェニル基に置換基を有していてもよい。)等が挙げられる。
(iii)含硫黄化合物:上述のアミノ酢酸化合物の窒素原子を硫黄原子に置き換えたものが、同様の作用により活性ラジカルを生成し得る。具体的には、フェニルチオ酢酸(フェニル基に置換基を有していてもよい。)等が挙げられる。
(iv)含錫化合物:上述のアミノ酢酸化合物の窒素原子を錫原子に置き換えたものが、同様の作用により活性ラジカルを生成し得る。
(v)スルフィン酸塩類:酸化により活性ラジカルを生成し得る。具体的は、アリールスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0146】
これら電子供与型重合開始剤の中でも、画像記録層は、耐刷性、及び、感度の観点から、ボレート化合物を含有することが好ましい。ボレート化合物としては、テトラアリールボレート化合物又はモノアルキルトリアリールボレート化合物が好ましく、化合物の安定性の観点から、テトラアリールボレート化合物がより好ましく、テトラフェニルボレート化合物が特に好ましい。
ボレート化合物が有する対カチオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオン、又は、テトラアルキルアンモニウムイオンであることが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は、テトラブチルアンモニウムイオンであることがより好ましい。
【0147】
ボレート化合物として具体的には、ナトリウムテトラフェニルボレートが好ましく挙げられる。
【0148】
以下に電子供与型重合開始剤の好ましい具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0149】
また、上記画像記録層は、視認性、耐刷性、及び、経時安定性の観点から、上記電子受容型重合開始剤として、オニウム化合物、及び、上記電子供与型重合開始剤として、ボレート化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含むことが好ましく、上記電子受容型重合開始剤として、オニウム化合物と、上記電子供与型重合開始剤として、ボレート化合物とを含むことがより好ましい。
また、上記画像記録層は、上記電子供与型重合開始剤として、ボレート化合物を含むことが好ましい。
好ましい一態様として、電子供与型重合開始剤がボレート化合物であることが好ましい。
【0150】
電子供与型重合開始剤は、1種のみを添加しても、2種以上を併用してもよい。
電子供与型重合開始剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対し、0.01質量%~30質量%が好ましく、0.05質量%~25質量%がより好ましく、0.1質量%~20質量%が更に好ましい。
【0151】
また、本発明における好ましい態様の一つは、上記電子受容型重合開始剤と、上記電子供与型重合開始剤と、が塩を形成している態様である。
具体的には、例えば、上記オニウム化合物が、オニウムイオンと、上記電子供与型重合開始剤におけるアニオン(例えば、テトラフェニルボレートアニオン)との塩である態様が挙げられる。また、より好ましくは、上記ヨードニウム塩化合物におけるヨードニウムカチオン(例えば、ジ-p-トリルヨードニウムカチオン)と、上記電子供与型重合開始剤におけるボレートアニオンとが塩を形成した、ヨードニウムボレート塩化合物が挙げられる。
上記電子受容型重合開始剤と上記電子供与型重合開始剤とが塩を形成している態様の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0152】
本発明において、画像記録層が、オニウムイオンと、上述の電子供与型重合開始剤におけるアニオンと、を含む場合、画像記録層は電子受容型重合開始剤及び上記電子供与型重合開始剤を含むものとする。
【0153】
〔赤外線吸収剤〕
本発明に用いられる平版印刷版原版は、画像記録層に、赤外線吸収剤を含むことが好ましい。
赤外線吸収剤としては、特に制限はなく、例えば、顔料及び染料が挙げられる。
赤外線吸収剤として用いられる染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
【0154】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が挙げられる。中でも、シアニン色素が特に好ましい。
【0155】
上記赤外線吸収剤としては、メソ位に酸素又は窒素原子を有するカチオン性のポリメチン色素であることが好ましい。カチオン性のポリメチン色素としては、シアニン色素、ピリリウム色素、チオピリリウム色素、アズレニウム色素等が好ましく挙げられ、入手の容易性、導入反応時の溶剤溶解性等の観点から、シアニン色素であることが好ましい。
【0156】
シアニン色素の具体例としては、特開2001-133969号公報の段落0017~0019に記載の化合物、特開2002-023360号公報の段落0016~0021、特開2002-040638号公報の段落0012~0037に記載の化合物、好ましくは特開2002-278057号公報の段落0034~0041、特開2008-195018号公報の段落0080~0086に記載の化合物、特に好ましくは特開2007-90850号公報の段落0035~0043に記載の化合物、特開2012-206495号公報の段落0105~0113に記載の化合物が挙げられる。
また、特開平5-5005号公報の段落0008~0009、特開2001-222101号公報の段落0022~0025に記載の化合物も好ましく使用することができる。
顔料としては、特開2008-195018号公報の段落0072~0076に記載の化合物が好ましい。
【0157】
上記赤外線吸収剤は、下記式4で表される化合物を含むことが好ましい。
【0158】
【化2】
【0159】
式4中、R14及びR15はそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R14及びR15は互いに連結して環を形成してもよく、R16~R19はそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R20及びR21はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、Y及びYはそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-又はジアルキルメチレン基を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、Ar及びArはそれぞれ独立に、後述する式5で表される基を有していてもよいベンゼン環又はナフタレン環を形成する基を表し、Aは、-NR2223、-X-L又はハロゲン原子を表し、R22及びR23はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基又はアリールスルホニル基を表し、Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、Lは炭化水素基、ヘテロアリール基を表し、Zaは電荷を中和する対イオンを表す。-X 式5

式5中、Xは、ハロゲン原子、-C(=O)-X-R24、-C(=O)-NR2526、-O-C(=O)-R27、-CN、-SONR2829、又は、パーフルオロアルキル基を表し、Xは、単結合又は酸素原子を表し、R24及びR27はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、R25、R26、R28及びR29はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0160】
Ar及びArはそれぞれ独立に、ベンゼン環又はナフタレン環を形成する基を表す。上記ベンゼン環及びナフタレン環上には、-X以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられるが、アルキル基であることが好ましい。
また、好ましい一態様として、式4においては、Ar及びArの少なくとも一方に、上記式5で表される基を有することが好ましい。
【0161】
式5におけるXは、ハロゲン原子、-C(=O)-X-R24、-C(=O)-NR2526、-O-C(=O)-R27、-CN、-SONR2829、又は、パーフルオロアルキル基を表し、耐刷性、視認性及び経時安定性の観点から、ハロゲン原子、-C(=O)-X-R24、-C(=O)-NR2526、-O-C(=O)-R27、CN、又は、-SONR2829であることが好ましく、ハロゲン原子、-C(=O)-O-R24、-C(=O)-NR2526、又は、-O-C(=O)-R27であることが好ましく、ハロゲン原子、-C(=O)-O-R24、又は、-O-C(=O)-R27であることが更に好ましく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は、-C(=O)OR30であることが更に好ましく、塩素原子、又は、臭素原子であることが特に好ましい。
また、Arに置換するXと、Arに置換するXとは、同じ基であってもよいし、異なる基であってもよい。また、Arに置換するXと、Arに置換するXとは、耐刷性、視認性及び経時安定性の観点から、同じ基であることが好ましい。
【0162】
は、単結合又は酸素原子を表し、酸素原子であることが好ましい。
24及びR27はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましい。
25、R26、R28及びR29はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることが更に好ましい。
30は、アルキル基又はアリール基を表し、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましい。
【0163】
は、-NR2223、-X-L又はハロゲン原子を表し、耐刷性、視認性及び経時安定性の観点から、-NR2223又は-X-Lであることが好ましく、-NR3132、-S-R33であることがより好ましい。
また、Aは、UV版飛び抑制性及びUV耐刷性の観点からは、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素原子、又は、臭素原子であることが更に好ましく、塩素原子であることが特に好ましい。
22及びR23はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基又はアリールスルホニル基を表し、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましい。
は酸素原子又は硫黄原子を表し、Lが炭化水素基又はヘテロアリール基である場合は、硫黄原子であることが好ましい。
は炭化水素基、又はヘテロアリール基を表し、耐刷性の観点からは、炭化水素基又はヘテロアリール基が好ましく、アリール基又はヘテロアリール基がより好ましく、ヘテロアリール基が更に好ましい。
31及びR32はそれぞれ独立に、アリール基を表し、炭素数6~20のアリール基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
33は炭化水素基又はヘテロアリール基を表し、アリール基又はヘテロアリール基が好ましく、ヘテロアリール基がより好ましい。
【0164】
及びR33におけるヘテロアリール基としては、下記の基が好ましく挙げられる。
【0165】
【化3】
【0166】
14~R23、及びRにおけるアルキル基は、炭素数1~30のアルキル基が好ましく、炭素数1~15のアルキル基がより好ましく、炭素数1~10のアルキル基が更に好ましい。上記アルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルブチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、及び、2-ノルボルニル基を挙げられる。
これらアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基が特に好ましい。
【0167】
また、上記アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
【0168】
22、R23、R31、R32及びRにおけるアリール基としては、炭素数6~30のアリール基が好ましく、炭素数6~20のアリール基がより好ましく、炭素数6~12のアリール基が更に好ましい。
また、上記アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
上記アリール基としては具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基、p-トリル基、p-クロロフェニル基、p-フルオロフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-ジメチルアミノフェニル基、p-メチルチオフェニル基、p-フェニルチオフェニル基等が挙げられる。
これらアリール基の中で、フェニル基、p-メトキシフェニル基、p-ジメチルアミノフェニル基、又は、ナフチル基が好ましい。
【0169】
14及びR15は、連結して環を形成していることが好ましい。
14及びR15が連結して環を形成する場合、好ましい環員数は5又は6員環が好ましく、6員環がより好ましい。また、R14及びR15が連結して形成する環は、エチレン性不飽和結合を有していてもよい炭化水素環であることが好ましい。
【0170】
及びYはそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-又はジアルキルメチレン基を表し、-NR-又はジアルキルメチレン基が好ましく、ジアルキルメチレン基がより好ましい。
は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、アルキル基であることが好ましい。
【0171】
20及びR21は、同じ基であることが好ましい。
また、R20及びR21はそれぞれ独立に、直鎖アルキル基又は末端にスルホネート基を有するアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又は末端にスルホネート基を有するブチル基であることがより好ましい。
また、上記スルホネート基の対カチオンは、式4中の窒素原子上のカチオンであってもよいし、アルカリ金属カチオンやアルカリ土類金属カチオンであってもよい。
更に、式4で表される化合物の水溶性をさせる観点から、R20及びR21はそれぞれ独立に、アニオン構造を有するアルキル基であることが好ましく、カルボキシレート基又はスルホネート基を有するアルキル基であることがより好ましく、末端にスルホネート基を注するアルキル基であることが更に好ましい。
また、式4で表される化合物の極大吸収波長を長波長化し、また、視認性及び平版印刷版における耐刷性の観点から、R20及びR21はそれぞれ独立に、芳香環を有するアルキル基であることが好ましく、末端に芳香環を有するアルキル基であることがより好ましく、2-フェニルエチル基、2-ナフタレニルエチル基、又は、2-(9-アントラセニル)エチル基であることが特に好ましい。
【0172】
16~R19はそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0173】
Zaは、電荷を中和する対イオンを表し、アニオン種を示す場合は、スルホネートイオン、カルボキシレートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、塩化物イオン、過塩素酸塩イオン、スルホンアミドアニオン、スルホンイミドアニオン等が挙げられる。カチオン種を示す場合は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はアンモニウムイオンが更に好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はトリアルキルアンモニウムイオンが特に好ましい。
14~R21、R、A、Ar、Ar、Y及びYは、アニオン構造やカチオン構造を有していてもよく、R14~R21、R、A、Ar、Ar、Y及びYの全てが電荷的に中性の基であれば、Zaは一価の対アニオンであるが、例えば、R14~R21、R、A、Ar、Ar、Y及びYに2以上のアニオン構造を有する場合、Zaは対カチオンにもなり得る。
また、式4において、Za以外の部分が電荷的に中性であれば、Zaはなくともよい。
【0174】
赤外線吸収剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、赤外線吸収剤として顔料と染料とを併用してもよい。
上記画像記録層中の赤外線吸収剤の総含有量は、画像記録層の全固形分に対し、0.1質量%~10.0質量%が好ましく、0.5質量%~5.0質量%がより好ましい。
【0175】
〔粒子〕
上記画像記録層は、耐刷性の観点から、粒子を含むことが好ましい。
粒子としては、有機粒子であっても、無機粒子であってもよいが、耐刷性の観点から、有機粒子を含むことが好ましく、ポリマー粒子を含むことがより好ましい。
無機粒子としては、公知の無機粒子を用いることができ、シリカ粒子、チタニア粒子等の金属酸化物粒子を好適に用いることができる。
【0176】
ポリマー粒子は、熱可塑性樹脂粒子、熱反応性樹脂粒子、重合性基を有するポリマー粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及び、ミクロゲル(架橋ポリマー粒子)よりなる群から選ばれることが好ましい。中でも、重合性基を有するポリマー粒子又はミクロゲルが好ましい。特に好ましい実施形態では、ポリマー粒子は少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。このようなポリマー粒子の存在により、露光部の耐刷性及び未露光部の機上現像性を高める効果が得られる。
また、ポリマー粒子は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、熱可塑性樹脂粒子であることが好ましい。
【0177】
熱可塑性樹脂粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.33303、特開平9-123387号公報、同9-131850号公報、同9-171249号公報、同9-171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の熱可塑性ポリマー粒子が好ましい。
熱可塑性樹脂粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマー若しくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。好ましくは、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、又は、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。熱可塑性樹脂粒子の平均粒径は0.01μm~3.0μmが好ましい。
【0178】
熱反応性樹脂粒子としては、熱反応性基を有するポリマー粒子が挙げられる。熱反応性ポリマー粒子は熱反応による架橋及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0179】
熱反応性基を有するポリマー粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、重合性基であることが好ましく、その例として、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基など)、付加反応を行うイソシアナト基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などが好ましく挙げられる。
【0180】
マイクロカプセルとしては、例えば、特開2001-277740号公報、特開2001-277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の少なくとも一部をマイクロカプセルに内包させたものである。画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有する構成が好ましい態様である。
【0181】
ミクロゲル(架橋ポリマー粒子)は、その表面又は内部の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができる。特に、ラジカル重合性基をその表面に有する反応性ミクロゲルは、得られる平版印刷版原版の感度、及び、得られる平版印刷版の耐刷性の観点から好ましい。
【0182】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化又はミクロゲル化するには、公知の方法が適用できる。
【0183】
また、ポリマー粒子としては、得られる平版印刷版の耐刷性、耐汚れ性及び保存安定性の観点から、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール化合物とイソホロンジイソシアネートとの付加物である多価イソシアネート化合物、及び、活性水素を有する化合物の反応により得られるものが好ましい。
上記多価フェノール化合物としては、フェノール性ヒドロキシ基を有するベンゼン環を複数有している化合物が好ましい。
上記活性水素を有する化合物としては、ポリオール化合物、又は、ポリアミン化合物が好ましく、ポリオール化合物がより好ましく、プロピレングリコール、グリセリン及びトリメチロールプロパンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が更に好ましい。
分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール化合物とイソホロンジイソシアネートとの付加物である多価イソシアネート化合物、及び、活性水素を有する化合物の反応により得られる樹脂の粒子としては、特開2012-206495号公報の段落0032~0095に記載のポリマー粒子が好ましく挙げられる。
【0184】
更に、ポリマー粒子としては、得られる平版印刷版の耐刷性及び耐溶剤性の観点から、疎水性主鎖を有し、i)上記疎水性主鎖に直接的に結合されたペンダントシアノ基を有する構成ユニット、及び、ii)親水性ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有する構成ユニットの両方を含むことが好ましい。
上記疎水性主鎖としては、アクリル樹脂鎖が好ましく挙げられる。
上記ペンダントシアノ基の例としては、-[CHCH(C≡N)]-又は-[CHC(CH)(C≡N)]-が好ましく挙げられる。
また、上記ペンダントシアノ基を有する構成ユニットは、エチレン系不飽和型モノマー、例えば、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、又は、これらの組み合わせから容易に誘導することができる。
また、上記親水性ポリアルキレンオキシドセグメントにおけるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドが好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
上記親水性ポリアルキレンオキシドセグメントにおけるアルキレンオキシド構造の繰り返し数は、10~100であることが好ましく、25~75であることがより好ましく、40~50であることが更に好ましい。
疎水性主鎖を有し、i)上記疎水性主鎖に直接的に結合されたペンダントシアノ基を有する構成ユニット、及び、ii)親水性ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有する構成ユニットの両方を含む樹脂の粒子としては、特表2008-503365号公報の段落0039~0068に記載のものが好ましく挙げられる。
【0185】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、親水性基を有することが好ましい。
上記親水性基としては、親水性を有する構造であれば、特に制限はないが、カルボキシ基等の酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ポリアルキレンオキシド構造等が挙げられる。
中でも、機上現像性、及び、耐刷性の観点から、ポリアルキレンオキシド構造が好ましく、ポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、又は、ポリエチレン/プロピレンオキシド構造がより好ましい。
また、機上現像性、及び、機上現像時の現像カス抑制性の観点からは、上記ポリアルキレンオキシド構造として、ポリプロピレンオキシド構造を有することが好ましく、ポリエチレンオキシド構造及びポリプロピレンオキシド構造を有することがより好ましい。
また、上記親水性基としては、耐刷性、着肉性、及び、機上現像性の観点から、シアノ基を有する構成単位、又は、下記式Zで表される基を含むことが好ましく、下記式(AN)で表される構成単位、又は、下記式Zで表される基を含むことがより好ましく、下記式Zで表される基を含むことが特に好ましい。
*-Q-W-Y 式Z
式Z中、Qは二価の連結基を表し、Wは親水性構造を有する二価の基又は疎水性構造を有する二価の基を表し、Yは親水性構造を有する一価の基又は疎水性構造を有する一価の基を表し、W及びYのいずれかは親水性構造を有し、*は他の構造との結合部位を表す。
【0186】
【化4】
【0187】
式(AN)中、RANは、水素原子又はメチル基を表す。
【0188】
上記ポリマー粒子に含まれるポリマーは、耐刷性の観点から、シアノ基を有する化合物により形成される構成単位を含むことが好ましい。
シアノ基は、通常、シアノ基を有する化合物(モノマー)を用いて、シアノ基を含む構成単位として樹脂に導入されることが好ましい。シアノ基を有する化合物としては、アクリロニトリル化合物が挙げられ、(メタ)アクリロニトリルが好適に挙げられる。
シアノ基を有する構成単位としては、アクリロニトリル化合物により形成される構成単位であることが好ましく、(メタ)アクリロニトリルにより形成される構成単位、すなわち、上記式(AN)で表される構成単位がより好ましい。
上記ポリマーが、シアノ基を有する構成単位を有するポリマーを含む場合、シアノ基を有する構成単位を有するポリマーにおけるシアノ基を有する構成単位、好ましくは上記式(AN)で表される構成単位の含有量は、耐刷性の観点から、シアノ基を有する構成単位を有するポリマーの全質量に対し、5質量%~90質量%であることが好ましく、20質量%~80質量%であることがより好ましく、30質量%~60質量%であることが特に好ましい。
【0189】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、着肉性、及び、機上現像性の観点から、上記式Zで表される基を有するポリマー粒子を含むことが好ましい。
【0190】
上記式ZにおけるQは、炭素数1~20の二価の連結基であることが好ましく、炭素数1~10の二価の連結基であることがより好ましい。
また、上記式ZにおけるQは、アルキレン基、アリーレン基、エステル結合、アミド結合、又は、これらを2以上組み合わせた基であることが好ましく、フェニレン基、エステル結合、又は、アミド結合であることがより好ましい。
【0191】
上記式ZのWにおける親水性構造を有する二価の基は、ポリアルキレンオキシ基、又は、ポリアルキレンオキシ基の一方の末端に-CHCHNR-が結合した基であることが好ましい。なお、Rは、水素原子又はアルキル基を表す。
上記式ZのWにおける疎水性構造を有する二価の基は、-RWA-、-O-RWA-O-、-RN-RWA-NR-、-OC(=O)-RWA-O-、又は、-OC(=O)-RWA-O-であることが好ましい。なお、RWAはそれぞれ独立に、炭素数6~120の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、炭素数6~120のハロアルキレン基、炭素数6~120のアリーレン基、炭素数6~120のアルカーリレン基(アルキルアリール基から水素原子を1つ除いた二価の基)、又は、炭素数6~120のアラルキレン基を表す。
【0192】
上記式ZのYにおける親水性構造を有する一価の基は、-OH、-C(=O)OH、末端が水素原子又はアルキル基であるポリアルキレンオキシ基、又は、末端が水素原子又はアルキル基であるポリアルキレンオキシ基の他方の末端に-CHCHNR-が結合した基であることが好ましい。
上記式ZのYにおける疎水性構造を有する一価の基は、炭素数6~120の直鎖、分岐若しくは環状アルキル基、炭素数6~120のハロアルキル基、炭素数6~120のアリール基、炭素数7~120のアルカーリル基(アルキルアリール基)、炭素数7~120のアラルキル基、-ORWB、-C(=O)ORWB、又は、-OC(=O)RWBであることが好ましい。RWBは、炭素数6~20を有するアルキル基を表す。
【0193】
上記式Zで表される基を有するポリマー粒子は、耐刷性、着肉性、及び、機上現像性の観点から、Wが親水性構造を有する二価の基であることがより好ましく、Qがフェニレン基、エステル結合、又は、アミド結合であり、Wは、ポリアルキレンオキシ基であり、Yが、末端が水素原子又はアルキル基であるポリアルキレンオキシ基であることがより好ましい。
【0194】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、重合性基を有するポリマー粒子を含むことが好ましく、粒子表面に重合性基を有するポリマー粒子を含むことがより好ましい。
更に、上記ポリマー粒子は、耐刷性の観点から、親水性基及び重合性基を有するポリマー粒子を含むことが好ましい。
上記重合性基は、カチオン重合性基であっても、ラジカル重合性基であってもよいが、反応性の観点からは、ラジカル重合性基であることが好ましい。
上記重合性基としては、重合可能な基であれば特に制限はないが、反応性の観点から、エチレン性不飽和基が好ましく、ビニルフェニル基(スチリル基)、(メタ)アクリロキシ基、又は、(メタ)アクリルアミド基がより好ましく、(メタ)アクリロキシ基が特に好ましい。
また、重合性基を有するポリマー粒子におけるポリマーは、重合性基を有する構成単位を有することが好ましい。
更に、高分子反応によりポリマー粒子表面に重合性基を導入してもよい。
【0195】
また、上記画像記録層は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、上記ポリマー粒子として、分散性基を有する付加重合型樹脂粒子を含むことが好ましく、上記分散性基が、上記式Zで表される基を含むことがより好ましい。
【0196】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、着肉性、機上現像性、及び、機上現像時の現像カス抑制性の観点から、ウレア結合を有する樹脂を含むことが好ましい。
上記ウレア結合を有する樹脂としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0197】
また、上記画像記録層は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、熱可塑性樹脂粒子を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂は、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、それらの共重合体等が挙げられる。熱可塑性樹脂はラテックス状態であってもよい。
本発明に係る熱可塑性樹脂は、後述する露光工程において生成された熱により、熱可塑性樹脂が溶融又は軟化することで、記録層を形成する疎水性の膜の一部又は全部を形成する樹脂であることが好ましい。
【0198】
上記熱可塑性樹脂としては、インキ着肉性及び耐刷性の観点から、芳香族ビニル化合物により形成される構成単位、及び、シアノ基を有する構成単位を有する樹脂を含むことが好ましい。
芳香族ビニル化合物により形成される構成単位、及び、シアノ基を有する構成単位を有する樹脂としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0199】
上記熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂は、耐刷性及び機上現像性の観点から、親水性基を有することが好ましい。
親水性基としては、親水性を有する構造であれば、特に制限はないが、カルボキシ基等の酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ポリアルキレンオキシド構造等が挙げられる。
上記親水性基としては、耐刷性及び機上現像性の観点から、ポリアルキレンオキシド構造を有する基、ポリエステル構造を有する基、又は、スルホン酸基であることが好ましく、ポリアルキレンオキシド構造を有する基、又は、スルホン酸基であることがより好ましく、ポリアルキレンオキシド構造を有する基であることが更に好ましい。
【0200】
上記ポリアルキレンオキシド構造としては、機上現像性の観点から、ポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、又は、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)構造であることが好ましい。
また、機上現像性の観点からは、上記親水性基の中でもポリアルキレンオキシド構造として、ポリプロピレンオキシド構造を有することが好ましく、ポリエチレンオキシド構造及びポリプロピレンオキシド構造を有することがより好ましい。
上記ポリアルキレンオキシド構造におけるアルキレンオキシド構造の数は、機上現像性の観点から、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、5~200であることが更に好ましく、8~150であることが特に好ましい。
【0201】
また、機上現像性の観点から、上記親水性基として、上記式Zで表される基が好ましい。
【0202】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐刷性及びインキ着肉性の観点から、60℃~150℃であることが好ましく、80℃~140℃であることがより好ましく、90℃~130℃であることが更に好ましい。
熱可塑性樹脂粒子が2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合には、後述するFOX式により求められた値を、熱可塑性樹脂のガラス転移温度という。
【0203】
本発明において、樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定することができる。
具体的な測定方法は、JIS K 7121(1987年)又はJIS K 6240(2011年)に記載の方法に順じて行う。本明細書におけるガラス転移温度は、補外ガラス転移開始温度(以下、Tigと称することがある)を用いている。
ガラス転移温度の測定方法をより具体的に説明する。
ガラス転移温度を求める場合、予想される樹脂のTgより約50℃低い温度にて装置が安定するまで保持した後、加熱速度:20℃/分で、ガラス転移が終了した温度よりも約30℃高い温度まで加熱し,示差熱分析(DTA)曲線又はDSC曲線を作成する。
補外ガラス転移開始温度(Tig)、すなわち、本明細書におけるガラス転移温度Tgは、DTA曲線又はDSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度として求める。
【0204】
熱可塑性樹脂粒子が2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂のTgは下記のように求められる。
1つ目の熱可塑性樹脂のTgをTg1(K)、熱可塑性樹脂粒子における熱可塑性樹脂成分の合計質量に対する1つ目の熱可塑性樹脂の質量分率をW1とし、2つ目のTgをTg2(K)とし、熱可塑性樹脂粒子における熱可塑性樹脂成分の合計質量に対する2つ目の樹脂の質量分率をW2としたときに、熱可塑性樹脂粒子のTg0(K)は、以下のFOX式にしたがって推定することが可能である。
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)
また、熱可塑性樹脂粒子が3種の樹脂を含むか、含まれる熱可塑性樹脂種の異なる3種の熱可塑性樹脂粒子が前処理液に含有される場合、熱可塑性樹脂粒子のTgは、n個目の樹脂のTgをTgn(K)、熱可塑性樹脂粒子における樹脂成分の合計質量に対するn個目の樹脂の質量分率をWnとしたときに、上記と同様、以下の式にしたがって推定することが可能である。
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)・・
・+(Wn/Tgn)
【0205】
示差走査熱量計(DSC)としては、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社のEXSTAR6220を用いることができる。
【0206】
熱可塑性樹脂粒子の算術平均粒子径は、耐刷性の観点から、1nm以上200nm以下であることが好ましく、3nm以上80nm未満であることがより好ましく、10nm以上49nm以下であることが更に好ましい。
【0207】
本発明における熱可塑性樹脂粒子における算術平均粒子径は、特に断りのない限り、動的光散乱法(DLS)によって測定された値を指す。DLSによる熱可塑性樹脂粒子の算術平均粒子径の測定は、Brookhaven BI-90(Brookhaven Instrument Company製)を用い、上記機器のマニュアルに沿って行われる。
【0208】
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、3,000~300,000であることが好ましく、5,000~100,000であることがより好ましい。
【0209】
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により製造することができる。
例えば、スチレン化合物と、アクリロニトリル化合物と、必要に応じて上記N-ビニル複素環化合物、上記エチレン性不飽和基を有する構成単位の形成に用いられる化合物、上記酸性基を有する構成単位の形成に用いられる化合物、上記疎水性基を有する構成単位の形成に用いられる化合物、及び、上記その他の構成単位の形成に用いられる化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物、とを、公知の方法により重合することにより得られる。
【0210】
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0211】
上記粒子の平均粒径は、0.01μm~3.0μmが好ましく、0.03μm~2.0μmがより好ましく、0.10μm~1.0μmが更に好ましい。この範囲で良好な解像度と経時安定性が得られる。
本発明における上記粒子の平均一次粒径は、光散乱法により測定するか、又は、粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、写真上で粒子の粒径を総計で5,000個測定し、平均値を算出するものとする。なお、非球形粒子については写真上の粒子面積と同一の粒子面積を有する球形粒子の粒径値を粒径とする。
また、本発明における平均粒径は、特に断りのない限り、体積平均粒径であるものとする。
【0212】
上記画像記録層は、粒子、特にポリマー粒子を1種単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
また、上記画像記録層における粒子、特にポリマー粒子の含有量は、機上現像性、及び、耐刷性の観点から、上記画像記録層の全固形分に対し、5質量%~90質量%が好ましく、10質量%~90質量%であることがより好ましく、20質量%~90質量%であることが更に好ましく、50質量%~90質量%であることが特に好ましい。
また、上記画像記録層におけるポリマー粒子の含有量は、機上現像性、及び、耐刷性の観点から、上記画像記録層の分子量3,000以上の成分の全質量に対し、20質量%~100質量%が好ましく、35質量%~100質量%であることがより好ましく、50質量%~100質量%であることが更に好ましく、80質量%~100質量%であることが特に好ましい。
【0213】
〔バインダーポリマー〕
画像記録層は、バインダーポリマーを含んでいてもよい。
上記ポリマー粒子は、上記バインダーポリマーに該当しない。すなわち、バインダーポリマーは、粒子形状ではない重合体である。
バインダーポリマーとしては、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、又は、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0214】
中でも、バインダーポリマーは平版印刷版原版の画像記録層に用いられる公知のバインダーポリマーを好適に使用することができる。一例として、機上現像型の平版印刷版原版に用いられるバインダーポリマー(以下、機上現像用バインダーポリマーともいう。)について、詳細に記載する。
機上現像用バインダーポリマーとしては、アルキレンオキシド鎖を有するバインダーポリマーが好ましい。アルキレンオキシド鎖を有するバインダーポリマーは、ポリ(アルキレンオキシド)部位を主鎖に有していても側鎖に有していてもよい。また、ポリ(アルキレンオキシド)を側鎖に有するグラフトポリマーでも、ポリ(アルキレンオキシド)含有繰返し単位で構成されるブロックと(アルキレンオキシド)非含有繰返し単位で構成されるブロックとのブロックコポリマーでもよい。
ポリ(アルキレンオキシド)部位を主鎖に有する場合は、ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリ(アルキレンオキシド)部位を側鎖に有する場合の主鎖のポリマーとしては、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられ、特に(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0215】
また、バインダーポリマーの他の好ましい例として、6官能以上10官能以下の多官能チオールを核として、この核に対しスルフィド結合により結合したポリマー鎖を有し、上記ポリマー鎖が重合性基を有する高分子化合物(以下、星型高分子化合物ともいう。)が挙げられる。
星型高分子化合物は、硬化性の観点から、エチレン性不飽和基等の重合性基を、主鎖又は側鎖、より好ましくは側鎖に有しているものが好ましく挙げられる。
星型高分子化合物としては、例えば、特開2012-148555号公報、又は、国際公開第2020/262692号に記載のものが挙げられる。
【0216】
バインダーポリマーの分子量は、GPC法によるポリスチレン換算値として重量平均分子量(Mw)が、2,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000~300,000であることが更に好ましい。
【0217】
必要に応じて、特開2008-195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーを併用することができる。また、親油的なポリマーと親水的なポリマーとを併用することもできる。
【0218】
また、上記画像記録層は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、芳香族ビニル化合物により形成される構成単位を有するポリマーを含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物により形成される構成単位を有するポリマーを含み、かつ赤外線露光により分解する赤外線吸収剤を含むことがより好ましい。
【0219】
また、本発明に用いられるバインダーポリマーは、例えば、経時による機上現像性の低下を抑制する観点から、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。
また、バインダーポリマーのガラス転移温度の上限としては、画像記録層への水の浸み込みやすさの観点から、200℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。
【0220】
上記のガラス転移温度を有するバインダーポリマーとしては、経時による機上現像性の低下をより抑制する観点から、ポリビニルアセタールが好ましい。
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基をアルデヒドにてアセタール化させて得られた樹脂である。
特に、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基を、ブチルアルデヒドでアセタール化(即ち、ブチラール化)したポリビニルブチラールが好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、耐刷性向上の観点から、エチレン性不飽和基を有することが好ましい。
ポリビニルアセタールとしては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0221】
本発明における画像記録層には、フッ素原子を有する樹脂を含有することが好ましく、フルオロ脂肪族基含有共重合体を含有することがより好ましい。
フッ素原子を有する樹脂、特にフルオロ脂肪族基含有共重合体を用いることで、画像記録層の形成時の発泡による面質異常を抑制し、塗布面状を高めることができ、更に、形成された画像記録層のインキの着肉性を高められる。
また、フルオロ脂肪族基含有共重合体を含む画像記録層は、階調が高くなり、例えば、レーザー光に対して高感度となり、散乱光、反射光等によるかぶり性が良好で耐刷性に優れる平版印刷版が得られる。
【0222】
上記フルオロ脂肪族基含有共重合体としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
【0223】
本発明において用いられる画像記録層においては、バインダーポリマーを1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
バインダーポリマーは、画像記録層中に任意な量で含有させることができるが、バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、1質量%~90質量%であることが好ましく、5質量%~80質量%であることがより好ましい。
【0224】
〔酸発色剤〕
画像記録層は、酸発色剤を含んでいてもよい。
本発明で用いられる「酸発色剤」とは、電子受容性化合物(例えば酸等のプロトン)を受容した状態で加熱することにより、発色又は消色し画像記録層の色を変化させる性質を有する化合物を意味する。酸発色剤としては、特に、ラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、電子受容性化合物と接触した時に、速やかにこれらの部分骨格が開環若しくは開裂する無色の化合物が好ましい。
【0225】
酸発色剤の具体例としては、国際公開第2020/158138号に記載のものが好適に挙げられる。
【0226】
中でも、本発明に用いられる酸発色剤は、発色性の観点から、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、スピロラクトン化合物、及び、スピロラクタム化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
発色後の色素の色相としては、可視性の観点から、緑、青又は黒であることが好ましい。
【0227】
また、上記酸発色剤は、発色性、及び、視認性の観点から、ロイコ色素を含むことが好ましい。
上記ロイコ色素としては、ロイコ構造を有する色素であれば、特に制限はないが、スピロ構造を有することが好ましく、スピロラクトン環構造を有することがより好ましい。
また、上記ロイコ色素としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素であることが好ましい。
更に、上記フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-1)~式(Le-3)のいずれかで表される化合物であることが好ましく、下記式(Le-2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0228】
【化5】
【0229】
式(Le-1)~式(Le-3)中、ERGはそれぞれ独立に、電子供与性基を表し、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、X~X10はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機基を表し、Y及びYはそれぞれ独立に、C又はNを表し、YがNである場合は、Xは存在せず、YがNである場合は、Xは存在せず、Raは、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、Rb~Rbはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0230】
式(Le-1)~式(Le-3)のERGにおける電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることが好ましく、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、又は、アリーロキシ基であることがより好ましく、モノアルキルモノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基又はモノアリールモノヘテロアリールアミノ基であることが更に好ましく、モノアルキルモノアリールアミノ基であることが特に好ましい。
また、上記ERGにおける電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基又は少なくとも1つのオルト位に置換基を有するヘテロアリール基を有する二置換アミノ基であることが好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基を有する二置換アミノ基であることがより好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基とアリール基又はヘテロアリール基とを有するアミノ基であることが更に好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基と電子供与性基を有するアリール基又は電子供与性基を有するヘテロアリール基とを有するアミノ基であることが特に好ましい。
なお、本発明において、フェニル基以外のアリール基又はヘテロアリール基におけるオルト位は、アリール基又はヘテロアリール基の他の構造との結合位置を1位とした場合の上記1位の隣の結合位置(例えば、2位等)を言うものとする。
更に、上記アリール基又はヘテロアリール基が有する電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることが好ましく、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることがより好ましく、アルコキシ基であることが特に好ましい。
【0231】
式(Le-1)~式(Le-3)におけるX~Xはそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子、又は、塩素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
式(Le-2)又は式(Le-3)におけるX~X10はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、ヘテロアリーロキシカルボニル基又はシアノ基であることが好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、又は、アリーロキシ基であることがより好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は、アリール基であることが更に好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-3)におけるY及びYは、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、少なくとも1方がCであることが好ましく、Y及びYの両方がCであることがより好ましい。
式(Le-1)~式(Le-3)におけるRaは、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-3)におけるRb~Rbはそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子又はアルキル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0232】
また、上記フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-4)~式(Le-6)のいずれかで表される化合物であることがより好ましく、下記式(Le-5)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0233】
【化6】
【0234】
式(Le-4)~式(Le-6)中、ERGはそれぞれ独立に、電子供与性基を表し、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、Y及びYはそれぞれ独立に、C又はNを表し、YがNである場合は、Xは存在せず、YがNである場合は、Xは存在せず、Raは、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、Rb~Rbはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0235】
式(Le-4)~式(Le-6)におけるERG、X~X、Y、Y、Ra、及び、Rb~Rbはそれぞれ、式(Le-1)~式(Le-3)におけるERG、X~X、Y、Y、Ra、及び、Rb~Rbと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0236】
更に、上記フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-7)~式(Le-9)のいずれかで表される化合物であることが更に好ましく、下記式(Le-8)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0237】
【化7】
【0238】
式(Le-7)~式(Le-9)中、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、Y及びYはそれぞれ独立に、C又はNを表し、YがNである場合は、Xは存在せず、YがNである場合は、Xは存在せず、Ra~Raはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、Rb~Rbはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、Rc及びRcはそれぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0239】
式(Le-7)~式(Le-9)におけるX~X、Y及びYは、式(Le-1)~式(Le-3)におけるX~X、Y及びYと同義であり、好ましい態様も同様である。
式(Le-7)又は式(Le-9)におけるRa~Raはそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基であることが特に好ましい。
式(Le-7)~式(Le-9)におけるRb~Rbはそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基が置換したアリール基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
式(Le-8)におけるRc及びRcはそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、フェニル基、又は、アルキルフェニル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
また、式(Le-8)におけるRc及びRcはそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基、又は、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するヘテロアリール基であることが好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基であることがより好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するフェニル基であることが更に好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基であることが特に好ましい。Rc及びRcにおける上記置換基としては、後述する置換基が挙げられる。
また、式(Le-8)において、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、X~Xが水素原子であり、Y及びYがCであることが好ましい。
更に、式(Le-8)において、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、Rb及びRbがそれぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシ基が置換したアリール基であることが好ましい。
更にまた、式(Le-8)において、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、Rb及びRbがそれぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましく、電子供与性基を有するアリール基であることが更に好ましく、パラ位に電子供与性基を有するフェニル基であることが特に好ましい。
また、Rb、Rb、Rc及びRcにおける上記電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることが好ましく、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることがより好ましく、アルコキシ基であることが特に好ましい。
【0240】
また、酸発色剤としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-10)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0241】
【化8】
【0242】
式(Le-10)中、Arはそれぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基を表し、Arはそれぞれ独立に、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基、又は、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するヘテロアリール基を表す。
【0243】
式(Le-10)におけるArは、式(Le-7)~式(Le-9)におけるRb及びRbと同義であり、好ましい態様も同様である。
式(Le-10)におけるArは、式(Le-7)~式(Le-9)におけるRc及びRcと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0244】
また、酸発色剤としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-11)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0245】
【化9】
【0246】
式(Le-11)中、ERGはそれぞれ独立に、電子供与性基を表し、n11は、1~5の整数を表し、X~Xはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、Y及びYはそれぞれ独立に、C又はNを表し、YがNである場合は、Xは存在せず、YがNである場合は、Xは存在せず、Rb及びRbはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0247】
式(Le-11)におけるERG、X~X、Y、Y、Rb、及び、Rbはそれぞれ、式(Le-1)~式(Le-3)におけるERG、X~X、Y、Y、Rb、及び、Rbと同義であり、好ましい態様も同様である。
式(Le-11)におけるn11は、1~3の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0248】
式(Le-1)~式(Le-9)又は式(Le-11)におけるアルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、式(Le-1)~式(Le-9)又は式(Le-11)におけるアルキル基の炭素数は、1~20であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-11)におけるアリール基の炭素数は、6~20であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-11)におけるアリール基として具体的には、置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、及び、フェナントレニル基等が挙げられる。
式(Le-1)~式(Le-11)におけるヘテロアリール基として具体的には、置換基を有していてもよい、フリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、及び、チオフェニル基等が挙げられる。
【0249】
また、式(Le-1)~式(Le-11)における一価の有機基、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ジアルキルアニリノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基等の各基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、ヘテロアリーロキシカルボニル基、シアノ基等が挙げられる。また、これら置換基は、更にこれら置換基により置換されていてもよい。
【0250】
また、酸発色剤は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式3a、3bのいずれかで表される化合物を含むことが好ましい。
好ましい一態様として、酸発色剤は、下記式3a、3bのいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0251】
【化10】
【0252】
式(3a)中、
Ar、Arは、それぞれ独立に、アリール基、又は、ヘテロアリール基を表し、
10、R11は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基を表す。
式(3b)中、ERGは、それぞれ独立に、電子供与性基を表し、nは、1~5の整数を表し、X~Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機基を表し、Y及びYは、それぞれ独立に、C又はNを表し、YがNである場合は、Xは存在せず、YがNである場合は、Xは存在せず、R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0253】
式(3a)~式(3b)におけるアルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、式(3a)~式(3b)におけるアルキル基の炭素数は、1~20であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
式(3a)~式(3b)におけるアリール基の炭素数は、6~20であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8であることが特に好ましい。
式(3a)~式(3b)におけるアリール基として具体的には、置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、及び、フェナントレニル基等が挙げられる。
式(3a)~式(3b)におけるヘテロアリール基として具体的には、置換基を有していてもよい、フリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、及び、チオフェニル基等が挙げられる。
式(3b)におけるERGは、式(Le-1)~式(Le-3)におけるERGと同義であり、好ましい態様も同様である。
式(3b)におけるnは、1~3の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
式(3b)における一価の有機基は、式(Le-2)~式(Le-3)におけるX~X10としての一価の有機基と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0254】
また、式(3a)~式(3b)における一価の有機基、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等の各基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、ヘテロアリーロキシカルボニル基、シアノ基等が挙げられる。また、これら置換基は、更にこれら置換基により置換されていてもよい。
【0255】
好適に用いられる上記フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素としては、以下の化合物が挙げられる。
【0256】
【化11】
【0257】
【化12】
【0258】
【化13】
【0259】
【化14】
【0260】
【化15】
【0261】
【化16】
【0262】
【化17】
【0263】
【化18】
【0264】
【化19】
【0265】
【化20】
【0266】
【化21】
【0267】
また、好ましい一態様として、酸発色剤は、酸により分解する分解性基と上記分解性基の分解により開環する又は脱離基が脱離する構造とを有する化合物(特定色素化合物)を含むことが好ましい。
【0268】
上記分解性基は、発色性及び露光部の視認性の観点から、酸により分解してアミノ基又はヒドロキシ基を生じる基であることが好ましく、酸により分解してアミノ基を生じる基であることがより好ましい。
また、上記分解性基が分解して生じるアミノ基は、無置換のアミノ基であっても、一置換のアミノ基であってもよいが、発色性及び露光部の視認性の観点から、一置換のアミノ基であることが好ましく、アルキルアミノ基であることがより好ましい。
また、上記分解性基としては、発色性及び露光部の視認性の観点から、下記式2a又は式2bで表される基であることが好ましく、下記式2aで表される基であることがより好ましい。
【0269】
【化22】
【0270】
式2a及び式2b中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基又はアリーロキシ基を表し、Rはヒドロキシ基の保護基を表し、波線部分は、他の構造との結合位置を表す。
【0271】
は、発色性及び露光部の視認性の観点から、アルキル基であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基又はエチル基であることが特に好ましい。
は、発色性及び露光部の視認性の観点から、アルコキシ基又はアリーロキシ基であることが好ましく、アルコキシ基であることがより好ましく、第三級アルコキシ基、アリールメトキシ基、又は、2-トリアルキルシリルエトキシ基であることが更に好ましい。
は、発色性及び露光部の視認性の観点から、アセタール保護基、オキシカルボニル保護基、アシル基、又は、シリル基であることが好ましく、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、1-アルコキシアルキル基、第三級アルコキシカルボニル基、アシル基、又は、トリアルキルシリル基であることがより好ましく、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、1-アルコキシアルキル基、第三級アルコキシカルボニル基、又は、トリアルキルシリル基であることが更に好ましく、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、又は、トリアルキルシリル基であることが特に好ましい。
【0272】
特定色素化合物は、分解性基を1以上有していればよいが、特定色素化合物における分解性基の数は、発色性の観点から、1~4であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
また、上記分解性基は、発色性及び露光部の視認性の観点から、ウレタン結合及びカーボネート結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの構造を有する基であることが好ましい。
【0273】
また、上記分解性基が分解して生じる基は、Hammett値が0以下であることが好ましく、-0.3以下であることがより好ましく、-1.0以上-0.5以下であることが更に好ましい。
本発明における基のHammett値の算出方法は、Chem.Rev.,1991,97,165-195をもとにするものとする。
例えば、後述する各母核構造におけるパラ位、及び、メタ位を次のように定義する。
【0274】
【化23】
【0275】
上記文献に記載のない基のHammett値を算出する場合、対応する置換Benzoic acidの25℃における平衡定数pKx及び無置換の安息香酸の平衡定数pKH=4.201(J.Org.Chem.,1958,23(3),pp420-427)を用いて下記式より簡易的に算出される値を用いるものとする。
σ=pKx-pKH
置換安息香酸の値としては、文献値として知られているものを用いてもよいし、次に示す方法で実験的に算出してもよい。
エタノール/水=50/50の溶液に対応する置換安息香酸を添加し、25℃、0.1N NaOH水溶液を用いて滴定を行い、半中和点におけるpHから、pKxを算出する。弱酸であるので、半中和点においてpH=pKxとしてよい。
【0276】
上記分解性基として具体的には、発色性及び露光部の視認性の観点から、下記式D-1~式D-5のいずれかで表される基が好ましく挙げられ、下記式D-1~式D-4のいずれかで表される基がより好ましく挙げられ、下記式D-1~式D-3のいずれかで表される基が更に好ましく挙げられ、下記式D-1で表される基が好ましく挙げられる。波線部分は、他の構造との結合位置を表す。
【0277】
【化24】
【0278】
式D-1~式D-5中、RD1はアルキル基を表し、RD2はアルキル基又はアリール基を表し、RD3はアルキル基を表し、RD4は水素原子又はアルキル基を表し、RD5はアルキル基を表し、RD4とRD5はとは結合して環を形成していてもよく、RD6はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、RD7はアルキル基又はアリール基を表す。
【0279】
D1は、発色性及び露光部の視認性の観点から、炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが特に好ましい。
D2は、発色性及び露光部の視認性の観点から、アルキル基であることが好ましく、第三級アルキル基、アリールメチル基、又は、2-トリアルキルシリルエチル基であることがより好ましい。
D3は、発色性及び露光部の視認性の観点から、第三級アルキル基であることが好ましい。
D4及びRD5は、発色性及び露光部の視認性の観点から、結合して環を形成していることが好ましく、結合して5又は6員環を形成していることがより好ましい。
また、発色性及び露光部の視認性の観点から、RD4は水素原子であり、RD5がアルキル基である態様も好ましい。
D6はそれぞれ独立に、発色性及び露光部の視認性の観点から、アルキル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
D7は、発色性及び露光部の視認性の観点から、アルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0280】
上記分解性基の分解により開環する又は脱離基が脱離する構造は、発色性の観点から、上記分解性基の分解により開環する構造であることが好ましい。
また、特定色素化合物は、発色性及び露光部の視認性の観点から、開環する又は脱離基が脱離する部分として、3つの炭素原子及び1つのヘテロ原子(好ましくは窒素原子又は酸素原子、より好ましくは酸素原子)が結合した第四級炭素原子を有する化合物であることが好ましい。
【0281】
上記分解性基の分解により開環する又は脱離基が脱離する構造としては、発色性及び経時退色抑制性の観点から、下記式1a~式1dのいずれかで表される構造であることが好ましく、下記式1a~式1cのいずれかで表される構造であることがより好ましく、下記式1aで表される構造であることが特に好ましい。
好ましい一態様として、上記酸発色剤が、分解性基の分解により開環する又は脱離基が脱離する構造を有し、上記分解性基の分解により開環する又は脱離基が脱離する構造が下記式1a~式1dのいずれかで表される構造であることが好ましい。
【0282】
【化25】
【0283】
式1a~式1d中、R及びRは上記酸発色剤(例えば、特定色素化合物)の母核構造に連結する部分を表し、
及びRはアリール基又はヘテロアリール基を表し、Rは炭化水素基を表し、Xは上記脱離基を表す。
【0284】
及びRは、発色性の観点から、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~12のヘテロアリール基であることが好ましく、炭素数6~12のアリール基であることがより好ましく、フェニル基であることが更に好ましい。
は、発色性の観点から、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましく、炭素数6~12のアリール基であることが更に好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。
Xは、上記分解性基の分解により脱離可能な基であれば、特に制限はないが、アシルオキシ基であることが好ましく、炭素数1~8のアシルオキシ基であることがより好ましく、アセチルオキシ基であることが更に好ましい。
【0285】
酸発色剤(好ましくは、特定色素化合物)は、発色性の観点から、母核構造として、下記式2a~2fのいずれかで表される構造を有することが好ましく、下記式2aで表される構造を有することがより好ましい。
【0286】
【化26】
【0287】
式2a~式2f中、構造bは上記分解性基の分解により開環する構造を表し、R-Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表す。
式2a~式2fで表される構造は、1つ以上の上記分解性基を式2a~式2fにおける芳香環上に有する。
【0288】
~Rのアルキル基は、特に限定されないが、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基又はエチル基であることが特に好ましい。
~Rのアルコキシ基としては、特に限定されないが、炭素数1~8のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基であることが更に好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることが特に好ましい。
【0289】
式2a~式2f中、構造bは上記分解性基の分解により開環する構造を表し、式2a~式2fで表される構造は、1つ以上の上記分解性基を式2a~式2fにおける芳香環上に有する。
【0290】
構造bは、発色性及び露光部の視認性の観点から、式1a~式1dのいずれかで表される構造であることが好ましい。
上記式2a~式2fで表される構造は、1つ以上の上記分解性基を式2a~式2fにおける芳香環上に有しており、また、更に芳香環上に置換基を有していてもよい。
置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基、アリールアミノ基、アルキルアミノ基等が好ましく挙げられる。
中でも、置換基として、発色性及び露光部の視認性の観点から、ジアルキルアミノ基を少なくとも1つ有していることが好ましい。
【0291】
特定色素化合物は、発色性及び露光部の視認性の観点から、下記式D-6で表される化合物であることが特に好ましい。
【0292】
【化27】
【0293】
式D-6中、RD8は上記分解性基を表し、RD9はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、RD10はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、ndはそれぞれ独立に、0~3の整数を表す。
【0294】
D9はそれぞれ独立に、発色性及び露光部の視認性の観点から、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基、ベンジル基又はフェニル基であることがより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが更に好ましい。
D10はそれぞれ独立に、アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
ndはそれぞれ独立に、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0295】
以下に特定色素化合物の好ましい具体例として、以下の化合物を示すが、これらに限定されないことは、言うまでもない。なお、Phはフェニル基を表す。
【0296】
【化28】
【0297】
【化29】
【0298】
【化30】
【0299】
【化31】
【0300】
【化32】
【0301】
【化33】
【0302】
【化34】
【0303】
特定色素化合物の作製方法は、特に制限はなく、公知のロイコ色素の作製方法、及び、分解性基の導入方法等を参照し、作製することができる。
【0304】
酸発色剤としては上市されている製品を使用することも可能であり、ETAC、RED500、RED520、CVL、S-205、BLACK305、BLACK400、BLACK100、BLACK500、H-7001、GREEN300、NIRBLACK78、BLUE220、H-3035、BLUE203、ATP、H-1046、H-2114(以上、福井山田化学工業(株)製)、ORANGE-DCF、Vermilion-DCF、PINK-DCF、RED-DCF、BLMB、CVL、GREEN-DCF、TH-107(以上、保土ヶ谷化学(株)製)、ODB、ODB-2、ODB-4、ODB-250、ODB-BlackXV、Blue-63、Blue-502、GN-169、GN-2、Green-118、Red-40、Red-8(以上、山本化成(株)製)、クリスタルバイオレットラクトン(東京化成工業(株)製)等が挙げられる。
これらの市販品の中でも、ETAC、S-205、BLACK305、BLACK400、BLACK100、BLACK500、H-7001、GREEN300、NIRBLACK78、H-3035、ATP、H-1046、H-2114、GREEN-DCF、Blue-63、GN-169、クリスタルバイオレットラクトンが、形成される膜の可視光吸収率が良好のため好ましい。
【0305】
これらの酸発色剤は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上の成分を組み合わせて使用することもできる。
酸発色剤の含有量は、視認性と耐刷性の観点から、5~100mg/mが好ましく、10~70mg/mがより好ましく、15~50mg/mが更に好ましい。
【0306】
〔連鎖移動剤〕
本発明において用いられる画像記録層は、連鎖移動剤を含有してもよい。連鎖移動剤は、平版印刷版における耐刷性の向上に寄与する。
連鎖移動剤としては、チオール化合物が好ましく、沸点(揮発し難さ)の観点で炭素数7以上のチオール化合物がより好ましく、芳香環上にメルカプト基を有する化合物(芳香族チオール化合物)が更に好ましい。上記チオール化合物は単官能チオール化合物であることが好ましい。
連鎖移動剤の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0307】
連鎖移動剤は、1種のみを添加しても、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対し、0.01質量%~50質量%が好ましく、0.05質量%~40質量%がより好ましく、0.1質量%~30質量%が更に好ましい。
【0308】
〔感脂化剤〕
画像記録層は、インキ着肉性を向上させるために、感脂化剤を更に含有することが好ましい。
上記感脂化剤としては、例えば、オニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマー等のアンモニウム化合物などが挙げられる。
特に、保護層に無機層状化合物を含有させる場合、これら化合物は、無機層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機層状化合物による印刷途中の着肉性低下を抑制することができる。
【0309】
また、感脂化剤は、着肉性の観点から、オニウム化合物であることが好ましい。
オニウム化合物としては、ホスホニウム化合物、アンモニウム化合物、スルホニウム化合物等が挙げられ、オニウム化合物としては、上記観点から、ホスホニウム化合物及びアンモニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。
アンモニウム化合物としては、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマー等を好ましく挙げることができる。
感脂化剤の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0310】
感脂化剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、1質量%~40.0質量%が好ましく、2質量%~25.0質量%がより好ましく、3質量%~20.0質量%が更に好ましい。
【0311】
画像記録層は、感脂化剤を1種単独で含有してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明において用いられる画像記録層の好ましい態様の一つは、感脂化剤として、2種以上の化合物を含有する態様である。
具体的には、本発明において用いられる画像記録層は、機上現像性及び着肉性を両立させる観点から、感脂化剤としては、ホスホニウム化合物と、含窒素低分子化合物と、アンモニウム基含有ポリマーと、を併用することが好ましく、ホスホニウム化合物と、第四級アンモニウム塩類と、アンモニウム基含有ポリマーと、を併用することがより好ましい。
【0312】
〔現像促進剤〕
本発明において用いられる画像記録層は、現像促進剤を更に含むことが好ましい。
現像促進剤は、SP値の極性項の値が6.0~26.0であることが好ましく、6.2~24.0であることがより好ましく、6.3~23.5であることが更に好ましく、6.4~22.0であることが特に好ましい。
【0313】
本発明におけるSP値(溶解度パラメーター、単位:(cal/cm1/2)の極性項の値は、ハンセン(Hansen)溶解度パラメーターにおける極性項δpの値を用いるものとする。ハンセン(Hansen)溶解度パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものであるが、本発明においては上記極性項δpを用いる。
δp[cal/cm]はHansen溶解度パラメーター双極子間力項、V[cal/cm]はモル体積、μ[D]は双極子モーメントである。δpとしては、一般的にはHansenとBeerbowerによって簡素化された下記式が用いられている
【0314】
【数1】
【0315】
現像促進剤としては、親水性高分子化合物又は親水性低分子化合物であることが好ましい。
本発明において、親水性とは、SP値の極性項の値が6.0~26.0であることをいい、親水性高分子化合物とは分子量(分子量分布を有する場合は重量平均分子量)が3,000以上の化合物をいい、親水性低分子化合物とは分子量(分子量分布を有する場合は重量平均分子量)が3,000未満の化合物をいう。
【0316】
親水性高分子化合物としては、セルロース化合物等が挙げられ、セルロース化合物が好ましい。
セルロース化合物としては、セルロース、又は、セルロースの少なくとも一部が変性された化合物(変性セルロース化合物)が挙げられ、変性セルロース化合物が好ましい。
変性セルロース化合物としては、セルロースのヒドロキシ基の少なくとも一部が、アルキル基及びヒドロキシアルキル基よりなる群から選ばれた少なくとも一種の基により置換された化合物が好ましく挙げられる。
上記セルロースのヒドロキシ基の少なくとも一部が、アルキル基及びヒドロキシアルキル基よりなる群から選ばれた少なくとも一種の基により置換された化合物の置換度は、0.1~6.0であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。
変性セルロース化合物としては、アルキルセルロース化合物又はヒドロキシアルキルセルロース化合物が好ましく、ヒドロキシアルキルセルロース化合物がより好ましい。
アルキルセルロース化合物としては、メチルセルロースが好ましく挙げられる。
ヒドロキシアルキルセルロース化合物としては、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく挙げられる。
【0317】
親水性高分子化合物の分子量(分子量分布を有する場合は重量平均分子量)は、3,000~5,000,000であることが好ましく、5,000~200,000であることがより好ましい。
【0318】
親水性低分子化合物としては、グリコール化合物、ポリオール化合物、有機アミン化合物、有機スルホン酸化合物、有機スルファミン化合物、有機硫酸化合物、有機ホスホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、ベタイン化合物等が挙げられ、ポリオール化合物、有機スルホン酸化合物又はベタイン化合物が好ましい。
【0319】
グリコール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びこれらの化合物のエーテル又はエステル誘導体類が挙げられる。
ポリオール化合物としては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
有機アミン化合物としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等及びその塩が挙げられる。
有機スルホン酸化合物としては、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等及びその塩が挙げられ、アルキル基の炭素数が1~10のアルキルスルホン酸が好ましく挙げられる。
有機スルファミン化合物としては、アルキルスルファミン酸等及びその塩が挙げられる。
有機硫酸化合物としては、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等及びその塩が挙げられる。
有機ホスホン酸化合物としては、フェニルホスホン酸等及びその塩、が挙げられる。
有機カルボン酸化合物としては、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸等及びその塩が挙げられる。
ベタイン化合物としては、ホスホベタイン化合物、スルホベタイン化合物、カルボキシベタイン化合物等が挙げられ、トリメチルグリシンが好ましく挙げられる。
【0320】
親水性低分子化合物の分子量(分子量分布を有する場合は重量平均分子量)は、100以上3,000未満であることが好ましく、300~2,500であることがより好ましい。
【0321】
現像促進剤は、環状構造を有する化合物であることが好ましい。
環状構造としては、特に限定されないが、ヒドロキシ基の少なくとも一部が置換されていてもよいグルコース環、イソシアヌル環、ヘテロ原子を有していてもよい芳香環、ヘテロ原子を有していてもよい脂肪族環等が挙げられ、グルコース環又はイソシアヌル環が好ましく挙げられる。
グルコース環を有する化合物としては、上述のセルロース化合物が挙げられる。
イソシアヌル環を有する化合物としては、上述のトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
芳香環を有する化合物としては、上述のトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
脂肪族環を有する化合物としては、上述のアルキル硫酸であって、アルキル基が環構造を有する化合物等が挙げられる。
【0322】
また、上記環状構造を有する化合物は、ヒドロキシ基を有することが好ましい。
ヒドロキシ基を有し、かつ、環状構造を有する化合物としては、上述のセルロース化合物、及び、上述のトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが好ましく挙げられる。
【0323】
また、現像促進剤としては、オニウム化合物であることが好ましい。
オニウム化合物としては、アンモニウム化合物、スルホニウム化合物等が挙げられ、アンモニウム化合物が好ましい。
オニウム化合物である現像促進剤としては、トリメチルグリシン等が挙げられる。
また、上記電子受容型重合開始剤におけるオニウム化合物はSP値の極性項の値が6.0~26.0ではない化合物であり、現像促進剤には含まれない。
【0324】
画像記録層は、現像促進剤を1種単独で含有してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明において用いられる画像記録層の好ましい態様の一つは、現像促進剤として、2種以上の化合物を含有する態様である。
具体的には、本発明において用いられる画像記録層は、機上現像性及び着肉性の観点から、現像促進剤として、上記ポリオール化合物及び上記ベタイン化合物、上記ベタイン化合物及び上記有機スルホン酸化合物、又は、上記ポリオール化合物及び上記有機スルホン酸化合物を含むことが好ましい。
【0325】
画像記録層の全固形分に対する現像促進剤の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0326】
〔熱又は赤外線露光により開裂する基を有する発色性化合物〕
本発明において用いられる画像記録層は、熱又は赤外線露光により開裂する基を有する発色性化合物を有していても良く、有していなくても良い。
熱又は赤外線露光により開裂する基を有する発色性化合物は、化合物自体が直接熱又は赤外線を吸収して開裂する基を有する化合物であってもよいし、例えば、別途含まれる赤外線吸収剤が赤外線を吸収して発生した熱等により開裂する基を有する化合物であってもよい。
また、熱又は赤外線露光により開裂する基を有する発色性化合物は、上記基の開裂により発色する化合物である。
本発明において、発色とは、加熱又は露光前よりも、加熱又は露光後に強く着色又は吸収が短波長化し可視光領域に吸収を有するようになることを示す。
中でも、熱又は赤外線露光により開裂する基を有する発色性化合物としては、エッジ汚れ抑制性、発色性、経時発色性、機上現像性、及び、耐薬品性の観点から、分解性赤外線吸収剤であることが好ましく、下記式(A)で表される化合物であることがより好ましい。
【0327】
【化35】

【0328】
式A中、A1=は以下の構造:
【0329】
【化36】

【0330】
の1つにより表示され、
A2-は以下の構造:
【0331】
【化37】

【0332】
の1つにより表示され、nは0、1、2又は3を表し、p及びqはそれぞれ独立に、0、1又は2を表し、RA1及びRA2はそれぞれ独立に、炭化水素基を表すか、RA1、RA2、RAd及びRAaのうちの2つは一緒になって環式構造を形成するのに必要な原子を含んでなり、RAdの少なくとも1つは赤外線照射又は熱への露出により誘発される化学反応により上記RAdより強い電子供与体である基に転換される基を表すか、又は、RAaの少なくとも1つは赤外線照射又は熱への露出により誘発される化学反応により上記RAaより強い電子供与体である基に転換される基を表し、他のRAd及びRAaはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、-RAe、-ORAf、-SRAg及び-NRAuAvよりなる群から選ばれる基を表し、RAe、RAf、RAg、RAu及びRAvはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、上記転換は、波長400nm~700nmの間の光吸収の増加を与える転換である。
また、RA1及びRA2における炭化水素基、並びに、RAe、RAf、RAg、RAu及びRAvにおける脂肪族炭化水素基、アリール基又はヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。
【0333】
また、化学反応により転換される上記RAdは、以下に示すいずれかの基であることが好ましい。
【0334】
【化38】

【0335】
上記式中、Aa、Ab、Ac及びAdはそれぞれ独立に、0又は1を表し、-L-は結合基を表し、RA17が水素原子、場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基又は場合により置換されていてもよいヘテロアリール基を表すか、あるいは、RA17及びRA3、RA17及びRA5、又は、RA17及びRA11が一緒になって環構造を形成するのに必要な原子を含んでなり、RA4は、-ORA10、-NRA13A14又は-CFであり、RA10は、場合により置換されていてもよいアリール基、場合により置換されていてもよいヘテロアリール基又はα-分枝鎖状の脂肪族炭化水素基を表し、RA13及びRA14はそれぞれ独立に、水素原子、場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基又は場合により置換されていてもよいヘテロアリール基を表すか、あるいは、RA13及びRA14が一緒になって環構造を形成するのに必要な原子を含んでなり、RA3は、水素原子、場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基又は場合により置換されていてもよいヘテロアリール基であり、あるいは、RA3がRA10、RA13及びRA14の少なくとも1つと一緒になって環構造を形成するのに必要な原子を含んでなり、RA6は場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基、場合により置換されていてもよいヘテロアリール基、-ORA10、-NRA13A14又は-CFを表し、ここでRA10、RA13及びRA14がRA4におけるものと同じ意味を有し、RA5は、水素原子、場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基又は場合により置換されていてもよいヘテロアリール基を表すか、あるいは、RA5がRA10、RA13及びRA14の少なくとも1つと一緒になって環構造を形成するのに必要な原子を含んでなり、RA11、RA15及びRA16はそれぞれ独立に、水素原子、場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基又は場合により置換されていてもよいヘテロアリール基を表すか、あるいは、RA15及びRA16が一緒になって環構造を形成するのに必要な原子を含んでなり、RA12が場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、場合により置換されていてもよいアリール基又は場合により置換されていてもよいヘテロアリール基を表し、RA7及びRA9はそれぞれ独立に、水素原子又は場合により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表し、RA8が-COO-又は-COORA8’を表し、ここでRA8’が水素原子、アルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン又はモノ-、ジ-、トリ-若しくはテトラアルキルアンモニウムイオンを表し、RA18が場合により置換されていてもよいアリール基、場合により置換されていてもよいヘテロアリール基又はα-分枝鎖状の脂肪族炭化水素基を表す。
【0336】
また、熱又は赤外線露光により開裂する基を有する発色性化合物としては、エッジ汚れ抑制性、発色性、経時発色性、機上現像性、及び、耐薬品性の観点から、下記式(1)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0337】
【化39】

【0338】
式(1)中、Mは熱又は赤外線露光により開裂する基であり、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R及びRは互いに連結して環を形成してもよく、Ar及びArはそれぞれ独立に、ベンゼン環又はナフタレン環を形成する基を表し、Y及びYはそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-又はジアルキルメチレン基を表し、R及びRはそれぞれ独立に、脂肪族炭化水素基を表し、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、Zaは電荷を中和する対イオンを表す。
【0339】
上記式(1)で表される化合物は、熱又は赤外線の露光により分解し、500nm~600nmに極大吸収波長を有する化合物を生成する化合物であることが好ましい。
また、式(1)で表される化合物の発色機構は、熱又は赤外線の露光により、Mが開裂することにより発色する。例えば、Mが後述するR-O-である場合、下記に示すように、開裂した上記酸素原子がカルボニル基を形成し、発色体であるメロシアニン色素が生成し発色するものと、本発明者等は推定している。
また、メロシアニン色素が生成するには、熱又は赤外線露光により結合が開裂するRとシアニン色素構造とが酸素原子を介して結合していることが重要であると本発明者等は推定している。
【0340】
【化40】

【0341】
式(1)におけるMの好ましい態様については、後述する。
また、R~R、R、Ar及びArは、後述する親水性基等の置換基を有していてもよい。置換基の例としては、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホスホン酸基、ホスホネート基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられる。また、上記基が、アニオン性基である場合、塩を形成していてもよく、対カチオンは、シアニン色素構造のカチオンであっても、プロトン、金属カチオン、オニウム等であってもよい。
【0342】
式(1)におけるR~R及びRにおけるアルキル基は、炭素数1~30のアルキル基が好ましく、炭素数1~15のアルキル基がより好ましく、炭素数1~10のアルキル基が更に好ましい。上記アルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルブチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、及び、2-ノルボルニル基を挙げられる。
これらアルキル基の中でも、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基が特に好ましい。
【0343】
におけるアリール基としては、炭素数6~30のアリール基が好ましく、炭素数6~20のアリール基がより好ましく、炭素数6~12のアリール基が更に好ましい。
また、上記アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基、p-トリル基、p-クロロフェニル基、p-フルオロフェニル基、p-メトキシフェニル基、p-ジメチルアミノフェニル基、p-メチルチオフェニル基、p-フェニルチオフェニル基等が挙げられる。
これらアリール基の中で、フェニル基、p-メトキシフェニル基、p-ジメチルアミノフェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0344】
及びRは、連結して環を形成していることが好ましい。
及びRが連結して環を形成する場合、環員数は5又は6員環が好ましく、6員環がより好ましい。
【0345】
及びYはそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-又はジアルキルメチレン基を表し、-NR-又はジアルキルメチレン基が好ましく、ジアルキルメチレン基がより好ましい。
は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、アルキル基であることが好ましい。
【0346】
及びRは、同じ基であることが好ましい。また、R及びRがアニオン性基を有する場合、R及びRは、アニオン性基を有し、かつ対カチオンを有するか又は有しないか以外は同じ基であることが好ましい。
また、R及びRはそれぞれ独立に、直鎖アルキル基又は末端にスルホネート基を有するアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又は末端にスルホネート基を有するブチル基であることがより好ましい。
また、上記スルホネート基の対カチオンは、式(1)中の第四級アンモニウム基であってもよいし、アルカリ金属カチオンやアルカリ土類金属カチオンであってもよい。
更に、式(1)で表される化合物の水溶性を向上させる観点から、R及びRはそれぞれ独立に、アニオン構造を有するアルキル基であることが好ましく、カルボキシレート基又はスルホネート基を有するアルキル基であることがより好ましく、末端にスルホネート基を注するアルキル基であることが更に好ましい。
また、式(1)で表される化合物の極大吸収波長を長波長化し、また、発色性及び平版印刷版における耐刷性の観点から、R及びRはそれぞれ独立に、芳香環を有するアルキル基であることが好ましく、末端に芳香環を有するアルキル基であることがより好ましく、2-フェニルエチル基、2-ナフタレニルエチル基、又は、2-(9-アントラセニル)エチル基であることが特に好ましい。
【0347】
~Rはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、水素原子であることが好ましい。
Ar及びArはそれぞれ独立に、ベンゼン環又はナフタレン環を形成する基を表す。上記ベンゼン環及びナフタレン環上には、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられるが、アルキル基であることが好ましい。
また、式(1)で表される化合物の極大吸収波長を長波長化し、また、発色性及び平版印刷版における耐刷性の観点から、Ar及びArはそれぞれ独立に、ナフタレン環、又は、アルキル基若しくはアルコキシ基を置換基として有したベンゼン環を形成する基であることが好ましく、ナフタレン環、又は、アルコキシ基を置換基として有したベンゼン環を形成する基であることがより好ましく、ナフタレン環、又は、メトキシ基を置換基として有したベンゼン環を形成する基であることが特に好ましい。
【0348】
Zaは、電荷を中和する対イオンを表し、アニオン種を示す場合は、スルホネートイオン、カルボキシレートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、p-トルエンスルホネートイオン、過塩素酸塩イオン等が挙げられ、ヘキサフルオロホスフェートイオンが特に好ましい。カチオン種を示す場合は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はアンモニウムイオンが更に好ましい。
~R、R、Ar、Ar、Y及びYは、アニオン構造やカチオン構造を有していてもよく、R~R、R、Ar、Ar、Y及びYの全てが電荷的に中性の基であれば、Zaは一価の対アニオンであるが、例えば、R~R、R、Ar、Ar、Y及びYに2以上のアニオン構造を有する場合、Zaは対カチオンにもなり得る。
【0349】
式(1)において、Ar又はArが、下記式(8)で表される基を形成する基であることが好ましい。
【0350】
【化41】

【0351】
式(8)中、R19は炭素数1~12のアルキル基又は後述する式(2)~(4)で表される基を表し、n3は1~4の整数を表し、*は結合部位を表す。
【0352】
エッジ汚れ抑制性、機上現像性、及び、耐薬品性の観点から、上記式(1)で表される化合物におけるR、R、M、Ar及びArよりなる群から選ばれた少なくとも1つの基が、親水性基を有することが好ましく、R、R及びMよりなる群から選ばれた少なくとも1つの基が、親水性基を有することがより好ましく、R及びRよりなる群から選ばれた少なくとも1つの基が、親水性基を有することが更に好ましく、R及びRがそれぞれ独立に、親水性基を有することが特に好ましい。
【0353】
親水性基としては、ポリアルキレンオキシ基、酸基、酸基の塩、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
中でも、上記親水性基は、エッジ汚れ抑制性、機上現像性、及び、耐薬品性の観点から、下記式(2)~式(5)のいずれかで表される基であることが好ましく、下記式(2)又は式(5)のいずれかで表される基であることがより好ましく、下記式(2)で表される基であることが特に好ましい。
【0354】
【化42】

【0355】
式(2)~式(5)中、R10は炭素数2~6のアルキレン基を表し、Wは単結合又は酸素原子を表し、n1は1~45の整数を表し、R11は炭素数1~12のアルキル基又は炭素数2~12のアシル基を表し、R12及びR13はそれぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1~12のアルキレン基若しくはアルキレンオキシ基を表し、Mは水素原子、Na原子、K原子又はオニウム基を表し、また、式(1)で表される化合物全体で電荷が中和可能な場合は、Mを有していなくともよく、m1は1、2、3又は4を表し、Xは-O-、-S-又は-CH-を表し、波線部分は他の構造との結合位置を表す。
【0356】
10で表されるアルキレン基の具体例としては、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられ、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、又は、n-ブチレン基が好ましく、n-プロピレン基が特に好ましい。
n1は1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3が特に好ましい。
11で表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、又は、tert-ブチル基が好ましく、メチル基、又は、エチル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
11におけるアシル基の具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ピバロイル基等が挙げられる。中でも、アセチル基が好ましい。
【0357】
式(2)で表される基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式中、Meはメチル基、Etはエチル基を表し、*は結合部位を表す。
【0358】
【化43】

【0359】
式(3)又は式(4)において、R12又はR13で表されるアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-オクチレン基、n-ドデシレン基等が挙げられ、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、又は、n-ブチレン基が好ましく、エチレン基、又は、n-プロピレン基が特に好ましい。
式(3)又は式(4)で表される基が、式(1)で表される化合物のAr又はArで表される基中に存在する場合、R12又はR13は単結合が好ましい。
式(3)又は式(4)で表される基が、式(1)で表される化合物のM中に存在する場合あるいはR又はRで表される基として存在する場合、R12又はR13はアルキレン基が好ましい。
式(4)において、2つ存在するMは同じでも異なってもよい。
【0360】
式(3)又は式(4)において、Mで表されるオニウム基の具体例としては、アンモニウム基、ヨードニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等が挙げられる。
【0361】
アンモニウム基は、下記式(A1)で表される基を含む。
【0362】
【化44】

【0363】
式(A1)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数20以下のアリール基、アルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基を表す。アリール基、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルケニル基、炭素数1~12のアルキニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリーロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキルアミノ基、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数2~12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1~12のチオアルキル基、炭素数6~12のチオアリール基、ヒドロキシ基が挙げられる。R~Rとしては、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6のアリール基が好ましい。
【0364】
アンモニウム基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式中、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0365】
【化45】

【0366】
ヨードニウム基は、下記式(B1)で表される基を含む。
【0367】
【化46】

【0368】
式(B1)中、R~Rはそれぞれ独立に、上記式(A1)におけるR~Rと同義である。好ましいR~Rの例としては、炭素数6~20のアリール基が挙げられる。
【0369】
ヨードニウム基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0370】
【化47】

【0371】
ホスホニウム基は、下記式(C1)で表される基を含む。
【0372】
【化48】
【0373】
式(C1)中、R~Rはそれぞれ独立に、上記式(A1)におけるR~Rと同義である。好ましいR~Rの例としては、炭素数6~20のアリール基が挙げられる。
【0374】
ホスホニウム基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0375】
【化49】

【0376】
スルホニウム基は、下記式(D1)で表される基を含む。
【0377】
【化50】

【0378】
式(D1)中、R~Rはそれぞれ独立に、上記式(A1)におけるR~Rと同義である。好ましい例としては、炭素数6~20のアリール基が挙げられる。好ましいR~Rの例としては、炭素数6~20のアリール基が挙げられる。
【0379】
スルホニウム基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0380】
【化51】

【0381】
上記オニウム基の中で、アンモニウム基が好ましい。
式(1)で表される化合物中に、オニウム基を含む場合には、Mは上記オニウム基であってもよい。
上記オニウム基は、分子内オニウム塩として存在してもよい。
【0382】
式(3)で表される基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式中、Etはエチル基を表し、*は結合部位を表す。
【0383】
【化52】

【0384】
式(4)で表される基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式中、Etはエチル基を表し、*は結合部位を表す。
【0385】
【化53】

【0386】
式(5)で表される基の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式中、*は結合部位を表す。
【0387】
【化54】
【0388】
式(2)~式(5)のいずれかで表される基は、式(1)で表される化合物中に1つ以上存在すればよい。式(2)~式(5)のいずれかで表される基の数の上限は、5が好ましい。式(2)~式(5)のいずれかで表される基の数は、好ましくは1~5、より好ましくは2~3である。
式(2)~式(5)のいずれかで表される基は、式(1)で表される化合物中R又はRで表される基として存在してもよいし、M、Ar又はArで表される基中に存在してもよい。
式(2)~式(5)のいずれかで表される基は、R及びRであることが特に好ましい。また、式(2)~式(5)のいずれかで表される基は、Ar及びArで表される基中に存在することが好ましい。
【0389】
上記式(1)におけるMは、エッジ汚れ抑制性、発色性、及び、経時発色性の観点から、-NR、-NR(SO)又は-NR(CO)であることが好ましい。
ただし、R及びRはそれぞれ独立に、アリール基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基を表し、Rは、アルキル基、アリール基、又は、-NRd1d2を表し、Rd1及びRd2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0390】
~R、Rd1及びRd2におけるアルキル基は、炭素数1~20のアルキル基であることが好ましい。
また、R~R、Rd1及びRd2におけるアリール基は、炭素数6~20のアリール基であることが好ましい。
~R、Rd1及びRd2におけるアルキル基及びアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、カルボキシレート基、スルホ基、スルホネート基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホスホン酸基、ホスホネート基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられる。また、上記基が、アニオン性基である場合、塩を形成していてもよく、対カチオンは、シアニン色素構造のカチオンであっても、プロトン、金属カチオン、オニウム等であってもよい。
【0391】
また、上記式(1)におけるMは、エッジ汚れ抑制性、発色性、及び、経時発色性の観点から、-O-Rであることが好ましい。
ただし、Rは、熱又は赤外線露光によりR-O結合が開裂する基を表す。
【0392】
発色性の観点から、Rは、下記式1-1~式1-7のいずれかで表される基であることが好ましく、下記式1-1~式1-3のいずれかで表される基であることがより好ましい。
【0393】
【化55】

【0394】
式1-1~式1-7中、●は、酸素原子との結合部位を表し、R20はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-OR24、-NR2526又は-SR27を表し、R21はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R22はアリール基、-OR24、-NR2526、-SR27、-C(=O)R28、-OC(=O)R28又はハロゲン原子を表し、R23はアリール基、アルケニル基、アルコキシ基又はオニウム基を表し、R24~R27はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R28はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基、-OR24、-NR2526又は-SR27を表し、Zは電荷を中和する対イオンを表す。
【0395】
20、R21及びR24~R28がアルキル基である場合の好ましい態様は、R~R及びRにおけるアルキル基の好ましい態様と同様である。
20及びR23におけるアルケニル基の炭素数は、1~30であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10であることが更に好ましい。
20~R28がアリール基である場合の好ましい態様は、Rにおけるアリール基の好ましい態様と同様である。
【0396】
発色性の観点から、式1-1におけるR20は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、-OR24、-NR2526又は-SR27であることが好ましく、アルキル基、-OR24、-NR2526又は-SR27であることがより好ましく、アルキル基又は-OR24であることが更に好ましく、-OR24であることが特に好ましい。
また、式1-1におけるR20がアルキル基である場合、上記アルキル基は、α位にアリールチオ基又はアルキルオキシカルボニル基を有するアルキル基であることが好ましい。
式1-1におけるR20が-OR24である場合、R24は、アルキル基であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、イソプロピル基又はt-ブチル基であることが更に好ましく、t-ブチル基であることが特に好ましい。
【0397】
発色性の観点から、式1-2におけるR21は、水素原子であることが好ましい。
また、発色性の観点から、式1-2におけるR22は、-C(=O)OR24、-OC(=O)OR24又はハロゲン原子であることが好ましく、-C(=O)OR24又は-OC(=O)OR24であることがより好ましい。式1-2におけるR22が-C(=O)OR24又は-OC(=O)OR24である場合、R24は、アルキル基であることが好ましい。
【0398】
発色性の観点から、式1-3におけるR21はそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基であることが好ましく、また、式1-3における少なくとも1つのR11が、アルキル基であることがより好ましい。
また、R21におけるアルキル基は、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数3~10のアルキル基であることがより好ましい。
更に、R21におけるアルキル基は、環構造を含む分岐を有するアルキル基であることが好ましく、第二級又は第三級アルキル基であることがより好ましく、イソプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、又は、t-ブチル基であることが更に好ましい。
また、発色性の観点から、式1-3におけるR23は、アリール基、アルコキシ基又はオニウム基であることが好ましく、p-ジメチルアミノフェニル基又はピリジニウム基であることがより好ましく、ピリジニウム基であることが更に好ましい。
23におけるオニウム基としては、ピリジニウム基、アンモニウム基、スルホニウム基等が挙げられる。オニウム基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、これらを組み合わせた基等が挙げられるが、アルキル基、アリール基及びこれらを組み合わせた基であることが好ましい。
中でも、ピリジニウム基が好ましく、N-アルキル-3-ピリジニウム基、N-ベンジル-3-ピリジニウム基、N-(アルコキシポリアルキレンオキシアルキル)-3-ピリジニウム基、N-アルコキシカルボニルメチル-3-ピリジニウム基、N-アルキル-4-ピリジニウム基、N-ベンジル-4-ピリジニウム基、N-(アルコキシポリアルキレンオキシアルキル)-4-ピリジニウム基、N-アルコキシカルボニルメチル-4-ピリジニウム基、又は、N-アルキル-3,5-ジメチル-4-ピリジニウム基がより好ましく、N-アルキル-3-ピリジニウム基、又は、N-アルキル-4-ピリジニウム基が更に好ましく、N-メチル-3-ピリジニウム基、N-オクチル-3-ピリジニウム基、N-メチル-4-ピリジニウム基、又は、N-オクチル-4-ピリジニウム基が特に好ましく、N-オクチル-3-ピリジニウム基、又は、N-オクチル-4-ピリジニウム基が最も好ましい。
また、R23がピリジニウム基である場合、対アニオンとしては、スルホネートイオン、カルボキシレートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、p-トルエンスルホネートイオン、過塩素酸塩イオン等が挙げられ、p-トルエンスルホネートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオンが好ましい。
【0399】
発色性の観点から、式1-4におけるR20は、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、2つのR20のうち、一方がアルキル基、他方がアリール基であることがより好ましい。
発色性の観点から、式1-5におけるR20は、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましく、p-メチルフェニル基であることが更に好ましい。
発色性の観点から、式1-6におけるR20はそれぞれ独立に、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、メチル基又はフェニル基であることがより好ましい。
発色性の観点から、式1-7におけるZは、電荷を中和する対イオンであればよく、化合物全体として、上記Zaに含まれてもよい。
は、スルホネートイオン、カルボキシレートイオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、p-トルエンスルホネートイオン、又は、過塩素酸塩イオンであることが好ましく、p-トルエンスルホネートイオン、又は、ヘキサフルオロホスフェートイオンであることがより好ましい。
【0400】
発色性の観点から、更に好ましくは、Rは下記式(6)で表される基である。
【0401】
【化56】

【0402】
式(6)中、R15及びR16はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、Eはオニウム基を表し、波線部分は酸素原子との結合位置を表す。
【0403】
15又はR16で表されるアルキル基は、R~R及びRにおけるアルキル基と同様であり、好ましい態様もR~R及びRにおけるアルキル基の好ましい態様と同様である。
15又はR16で表されるアリール基は、Rにおけるアリール基と同様であり、好ましい態様も、Rにおけるアリール基の好ましい態様と同様である。
Eで表されるオニウム基は、R23におけるオニウム基と同様であり、好ましい態様もR23におけるオニウム基の好ましい態様と同様である。
【0404】
上記式(6)におけるEは、発色性の観点から、下記式(7)で表されるピリジニウム基であることが好ましい。
【0405】
【化57】
【0406】
式(7)中、R17はハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を表し、R17が複数存在する場合、複数のR17は同じでも異なってもよく、あるいは複数のR17が連結して環を形成してもよく、n2は0~4の整数を表すし、R18はアルキル基、アリール基又は下記式(2)~式(5)で表される基を表し、Zbは電荷を中和するための対イオンを表す。
【0407】
【化58】
【0408】
式(2)~式(5)中、R10は炭素数2~6のアルキレン基を表し、Wは単結合又は酸素原子を表し、n1は1~45の整数を表し、R11は炭素数1~12のアルキル基を表し、R12及びR13はそれぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1~12のアルキレン基若しくはアルキレンオキシ基を表し、Mは水素原子、Na原子、K原子又はオニウム基を表し、また、式(1)で表される化合物全体で電荷が中和可能な場合は、Mを有していなくともよく、m1は1、2、3又は4を表し、Xは-O-、-S-又は-CH-を表し、波線部分は他の構造との結合位置を表す。
【0409】
17又はR18で表されるアルキル基又はアリール基は、R~R及びRにおけるアルキル基又はRにおけるアリール基と同様であり、好ましい態様もR~R及びRにおけるアルキル基又はRにおけるアリール基の好ましい態様と同様である。
17で表されるアルコキシ基は、炭素数1~10のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
n2は、好ましくは、0である。
Zbで表される電荷を中和するための対イオンは、式(1-7)におけるZと同様であり、好ましい態様も式(1-7)におけるZの好ましい態様と同様である。
また、式(7)のR18における式(2)~式(5)で表される基は、上述した式(2)~式(5)で表される基と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0410】
以下にRの好ましい例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、TsOは、トシレートアニオンを表し、●は、酸素原子との結合部位を表す。
【0411】
【化59】

【0412】
【化60】

【0413】
【化61】

【0414】
【化62】

【0415】
【化63】

【0416】
【化64】

【0417】
【化65】

【0418】
【化66】

【0419】
【化67】

【0420】
上記発色性化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式中、Meはメチル基を表し、TsOは、トシレートアニオンを表す。
【0421】
【化68】

【0422】
【化69】

【0423】
【化70】

【0424】
【化71】

【0425】
【化72】

【0426】
【化73】

【0427】
【化74】

【0428】
【化75】

【0429】
【化76】

【0430】
【化77】

【0431】
【化78】

【0432】
【化79】

【0433】
【化80】

【0434】
【化81】

【0435】
【化82】

【0436】
上記発色性化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
上記画像記録層において、上記発色性化合物は、任意な量で含有させることができるが、エッジ汚れ抑制性、発色性、経時発色性、機上現像性、及び、耐薬品性の観点から、画像記録層の全質量に対し上記発色性化合物の含有量が、0.1質量%~95質量%であることが好ましく、1質量%~75質量%であることがより好ましく、1質量%~50質量%であることが特に好ましい。
また、上記画像記録層における上記発色性化合物の含有量は、エッジ汚れ抑制性、発色性、経時発色性、機上現像性、及び、耐薬品性の観点から、1mg/m~100mg/mであることが好ましく、10mg/m~80mg/mであることがより好ましく、20mg/m~60mg/mであることが特に好ましい。
【0437】
上記発色性化合物の作製方法としては、特に制限はなく、公知の方法により作製することができる。
例えば、上記式(1)で表される化合物は、合成スキームとして下記に示す合成法に準じて得ることができる。
例えば、上記式1-1、式1-5又は式1-6のいずれかで表される基を導入する方法としては、下記式S1~式S3で表される合成スキームが好適に挙げられ、上記式1-2~式1-4のいずれかで表される基を導入する方法としては、下記式S4で表される合成スキームが好適に挙げられる。
なお、DMAPは、N,N-ジメチルアミノ-4-ピリジンを表し、AcONaは、酢酸ナトリウムを表し、NEtは、トリエチルアミンを表し、catecolは、カテコールである。また、Rは、式1-1~式1-7における各部分に対応する基を表す。
【0438】
【化83】

【0439】
【化84】

【0440】
〔その他の成分〕
画像記録層には、その他の成分として、界面活性剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機層状化合物等を含有することができる。具体的には、特開2008-284817号公報の段落0114~段落0159の記載を参照することができる。
重合禁止剤としては、例えば、フェノチアジンなどの公知の重合禁止剤を用いることができる。
【0441】
〔画像記録層の形成〕
本発明の平版印刷版原版における画像記録層は、例えば、特開2008-195018号公報の段落0142~段落0143に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、塗布液を支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
溶剤としては、公知の溶剤を用いることができる。具体的には、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメーチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-プロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。溶剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。塗布液中の固形分濃度は1質量%~50質量%であることが好ましい。
塗布、乾燥後における画像記録層の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性を得る観点から、0.3g/m~3.0g/mが好ましい。
また、上記画像記録層の層厚は、0.1μm~3.0μmであることが好ましく、0.3μm~2.0μmであることがより好ましい。
本発明において、平版印刷版原版における各層の層厚は、平版印刷版原版の表面に対して垂直な方向に切断した切片を作製し、上記切片の断面を走査型顕微鏡(SEM)により観察することにより確認される。
【0442】
画像記録層は、機上現像性付与の観点から、水溶性又は水分散性を有することが好ましい。ここで、「水溶性」とは、20℃の水100gに0.1g以上溶解することを意味し、「水分散性」とは、20℃の水に一様に分散することを意味する。
【0443】
<下塗り層>
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に下塗り層(中間層と呼ばれることもある。)を有していても良い。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性の低下を抑制しながら現像性を向上させることに寄与する。また、赤外線レーザー露光の場合に、下塗り層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散して感度が低下するのを防ぐ効果も有する。
【0444】
下塗り層に用いられる化合物としては、支持体表面に吸着可能な吸着性基及び親水性基を有するポリマーが挙げられる。画像記録層との密着性を向上させるために吸着性基及び親水性基を有し、更に架橋性基を有するポリマーが好ましい。下塗り層に用いられる化合物は、低分子化合物でもポリマーであってもよい。下塗り層に用いられる化合物は、必要に応じて、2種以上を混合して使用してもよい。
【0445】
下塗り層に用いられる化合物がポリマーである場合、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー及び架橋性基を有するモノマーの共重合体が好ましい。
支持体表面に吸着可能な吸着性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-PO、-OPO、-CONHSO-、-SONHSO-、-COCHCOCHが好ましい。親水性基としては、スルホ基又はその塩、カルボキシ基の塩が好ましい。架橋性基としては、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基などが好ましい。
ポリマーは、ポリマーの極性置換基と、上記極性置換基と対荷電を有する置換基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物との塩形成で導入された架橋性基を有してもよいし、上記以外のモノマー、好ましくは親水性モノマーが更に共重合されていてもよい。
【0446】
具体的には、特開平10-282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2-304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物が好適に挙げられる。特開2005-238816号、特開2005-125749号、特開2006-239867号、特開2006-215263号の各公報に記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和基)、支持体表面と相互作用する官能基及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物も好ましく用いられる。
より好ましいものとして、特開2005-125749号及び特開2006-188038号公報に記載の支持体表面に吸着可能な吸着性基、親水性基及び架橋性基を有する高分子ポリマーが挙げられる。
【0447】
下塗り層に用いられるポリマー中のエチレン性不飽和基の含有量は、ポリマー1g当たり、好ましくは0.1mmol~10.0mmol、より好ましくは0.2mmol~5.5mmolである。
下塗り層に用いられるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、5,000以上が好ましく、1万~30万がより好ましい。
【0448】
下塗り層は、上記下塗り層用化合物の他に、経時による汚れ防止のため、キレート剤、第二級又は第三級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基と支持体表面と相互作用する基とを有する化合物(例えば、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6-テトラヒドロキシ-p-キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)等を含有してもよい。
【0449】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1mg/m~150mg/mが好ましく、1mg/m~100mg/mがより好ましい。
【0450】
<保護層>
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に保護層(「オーバーコート層」と呼ばれることもある。)を有していても良い。
好ましい一態様として、本発明の平版印刷版原版は、支持体と、画像記録層と、保護層とをこの順で有することが好ましい。
また、好ましい一態様として、本発明の平版印刷版原版は、支持体と、下塗り層と、画像記録層と、保護層とをこの順で有することが好ましい。
【0451】
保護層は酸素遮断により画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有していてもよい。
【0452】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55-49729号公報に記載されている。保護層に用いることができる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできるが、機上現像性の観点から、水溶性ポリマーを含むことが好ましい。
本発明において、水溶性ポリマーとは、25℃の水に対する溶解度が5質量%を超えるポリマーを意味する。
保護層において用いることができる水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
また、親水性ポリマーは、変性ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシ基又はスルホ基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005-250216号公報、及び特開2006-259137号公報に記載の変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0453】
上記水溶性ポリマーの中でも、ポリビニルアルコールを含むことが好ましく、けん化度が50%以上であるポリビニルアルコールを含むことが更に好ましい。
上記けん化度は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。けん化度の上限は特に限定されず、100%以下であればよい。
上記けん化度は、JIS K 6726:1994に記載の方法に従い測定される。
また、保護層の一態様として、ポリビニルアルコールと、ポリエチレングリコールとを含む態様も好ましく挙げられる。
【0454】
本発明における保護層が水溶性ポリマーを含む場合、保護層の全質量に対する水溶性ポリマーの含有量は、1質量%~99質量%であることが好ましく、3質量%~97質量%であることがより好ましく、5質量%~95質量%であることが更に好ましい。
【0455】
保護層は、酸素遮断性を高めるために無機層状化合物を含有してもよい。無機層状化合物は、薄い平板状の形状を有する粒子であり、例えば、天然雲母、合成雲母等の雲母群、式:3MgO・4SiO・HOで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、リン酸ジルコニウム等が挙げられる。
好ましく用いられる無機層状化合物は雲母化合物である。雲母化合物としては、例えば、式:A(B,C)2-510(OH,F,O)〔ただし、Aは、K、Na、Caのいずれか、B及びCは、Fe(II)、Fe(III)、Mn、Al、Mg、Vのいずれかであり、Dは、Si又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群が挙げられる。
【0456】
雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。合成雲母としてはフッ素金雲母KMg(AlSi10)F、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si10)F等の非膨潤性雲母、及び、NaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si10)F、Na又はLiテニオライト(Na,Li)MgLi(Si10)F、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si10)F等の膨潤性雲母等が挙げられる。更に合成スメクタイトも有用である。
【0457】
上記の雲母化合物の中でも、フッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。すなわち、膨潤性合成雲母は、10Å~15Å(1Å=0.1nm)程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘土鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にLi、Na、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換し得る。特に、層間の陽イオンがLi、Naの場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、特に好ましく用いられる。
【0458】
雲母化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きい程よい。従って、アスペクト比は、好ましくは20以上であり、より好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。アスペクト比は粒子の厚さに対する長径の比であり、例えば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0459】
雲母化合物の粒子径は、その平均長径が、好ましくは0.3μm~20μm、より好ましくは0.5μm~10μm、特に好ましくは1μm~5μmである。粒子の平均の厚さは、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.01μm以下である。具体的には、例えば、代表的化合物である膨潤性合成雲母の場合、好ましい態様としては、厚さが1nm~50nm程度、面サイズ(長径)が1μm~20μm程度である。
【0460】
無機層状化合物の含有量は、保護層の全固形分に対して、1質量%~60質量%が好ましく、3質量%~50質量%がより好ましい。複数種の無機層状化合物を併用する場合でも、無機層状化合物の合計量が上記の含有量であることが好ましい。上記範囲で酸素遮断性が向上し、良好な感度が得られる。また、着肉性の低下を防止できる。
【0461】
保護層は可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御するための無機粒子など公知の添加物を含有してもよい。また、画像記録層において記載した感脂化剤を保護層に含有させてもよい。
【0462】
保護層は公知の方法で塗布される。保護層の塗布量(固形分)は、0.01g/m~10g/mが好ましく、0.02g/m~3g/mがより好ましく、0.02g/m~1g/mが特に好ましい。
【0463】
本発明の平版印刷版原版は、上述した以外のその他の層を有していてもよい。
その他の層としては、特に制限はなく、公知の層を有することができる。例えば、支持体の画像記録層側とは反対側には、必要に応じてバックコート層が設けられていてもよい。
【0464】
本発明の平版印刷版原版は、端部に、ダレ形状領域を有する。
端部は、ダレ形状領域を有し、平版印刷版原版の端面より内側に向かって3mm(0.3cm)の領域を表す。
上記端面は、具体的には、本発明の平版印刷版原版の対向する少なくとも2辺の端である。
上記ダレ形状領域におけるダレ形状が、ダレ量Xが25~150μm、ダレ幅Yが70~300μmのダレ形状であることが好ましい。
【0465】
図3は、平版印刷版原版の端部の断面形状を模式的に示す図である。
図3において、平版印刷版原版の端部1はダレ形状領域2を有している。平版印刷版原版の端部1の端面1cの上端(ダレ形状領域2と端面1cとの境界点)と、画像記録層面(保護層が形成されている場合には保護層面)1aの延長線との距離Xを「ダレ量X」といい、平版印刷版原版の端部1の画像記録層面1aがダレ始める点と端面1cの延長線上との距離Yを「ダレ幅Y」という。
【0466】
端部のダレ形状において、ダレ量Xは25μm以上が好ましく、35μm以上がより好ましく、40μm以上が更に好ましい。ダレ量Xの上限は、端部表面状態の悪化による機上現像性の劣化を防止する観点から150μmが好ましい。機上現像性が劣化すると残存する画像記録層にインキが付着しエッジ汚れ発生の原因となる場合がある。ダレ量Xが少な過ぎると、端部に付着したインキがブランケットに転写しやすくなりエッジ汚れ発生の原因となる場合がある。ダレ量Xの範囲が25~150μmの場合、ダレ幅Yが小さいと、端部におけるクラックの発生が増大し、そこに印刷インキが溜まることによりエッジ汚れの原因となる場合がある。このような観点から、ダレ幅Yは70~300μmの範囲が好ましく、80~250μmの範囲がより好ましい。なお、上記ダレ量とダレ幅の範囲は、平版印刷版原版の端部1の支持体面1bのエッジ形状には関わらない。
通常、平版印刷版原版1の端部において、画像記録層と支持体との境界B、及び、支持体面1bも、画像記録層面1aと同様に、ダレが発生している。
【0467】
上記ダレ形状を有する端部の形成は、例えば、平版印刷版原版の裁断条件を調整することにより行うことができる。
具体的には、平版印刷版原版の裁断時に使用するスリッター装置における上側裁断刃と下側裁断刃の隙間、噛み込み量、刃先角度などを調整することにより行うことができる。
図4は、スリッター装置の裁断部の1例を示す概念図である。スリッター装置には、上下一対の裁断刃10、20が上下に配置されている。裁断刃10、20は円板上の丸刃からなり、上側裁断刃10a及び10bは回転軸11に、下側裁断刃20a 及び20bは回転軸21に、それぞれ同軸上に支持されている。上側裁断刃10a及び10bと下側裁断刃20a及び20bとは、相反する方向に回転される。平版印刷版原版30は、上側裁断刃10a、10bと下側裁断刃20a,20bとの間を通されて所定の幅に裁断される。スリッター装置の裁断部の上側裁断刃10aと下側裁断刃20aとの隙間及び上側裁断刃10bと下側裁断刃20bとの隙間を調整することによりダレ形状を有する端部を形成することができる。
【0468】
上記端部は、具体的には、本発明の平版印刷版原版の対向する少なくとも2辺である。
本発明に係る平版印刷版原版においては、エッジ汚れを更に抑制する観点から、ダレ幅Yに相当する領域における、陽極酸化皮膜の表面に存在するクラックの面積率が10%以下であることが好ましい。
ここで、ダレ幅Yに相当する領域とは、上記図3における画像記録層面(保護層が形成されている場合には保護層面)1aの延長線と端面1cの延長線との交点から1aの延長線が画像記録層面(保護層が形成されている場合には保護層面)の接するまでの領域を意味する。
【0469】
陽極酸化皮膜の表面に存在するクラックの面積率は、以下の方法で算出される。
平版印刷版原版の構成層(下塗り層、画像記録層、保護層)を、ヤマト科学(株)製PlasmaReactorPR300を用いて除去する。露出したアルミニウム支持体の陽極酸化皮膜の表面を、Pt-Pd膜を3nm蒸着して導電処理して試料を作成する。この試料を、(株)日立ハイテクノロジーズ製S-4800型電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、加速電圧30kVでSEM観察を行い、観察倍率1,500倍で端部から中央部に向かって連続写真を取得し、150×50μmの画像を得る。この画像に対して、画像処理ソフト「ImageJ」により、クラック部と陽極酸化皮膜層表面の輝度差を利用してクラック形状を抽出、2値化処理を行い、150×50μm範囲におけるクラックの割合を算出し、クラックの面積率とする。
【0470】
クラックの面積率は、エッジ汚れの発生を防止する観点から、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましい。
【0471】
ダレ幅Yに相当する領域における、陽極酸化皮膜の表面に存在するクラックの面積率を10%以下に調整するためには、特に限定されないが、上記陽極酸化皮膜の陽極酸化皮膜量を0.5~3.0g/mの範囲に制御することが好ましい。
【0472】
本発明の機上現像型平版印刷版原版は、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上である。
【0473】
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する。
【0474】
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上である。
【0475】
FE-AESは、「電界放射型オージェ電子分光法」であり、試料に電子線を照射し、試料から発生するオージェ電子を検出することで、存在する元素の種類および量を測定する方法である。オージェ電子の脱出深さは約5nmであり、試料の極表面の情報を得られる方法である。
本発明者らは、クラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、元素の比率を測定するに際して、初めてFE-AESを用いて測定を行った。FE-AESを用いることで、アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面におけるアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を求めることが可能となった。
【0476】
(アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)の測定方法)
試料をハンドカッターにより端から0.3cm角にカットし、0.3cm角内のクラック内部15点/サンプルをオージェ電子分光法を用いて測定し、その平均値を用いている。オージェ電子分光法による入射電子をクラック内部のアルミニウム支持体へ直接照射してオージェ電子を検出して、クラック内部におけるPとAlの強度(atom%)を測定する。ここで規定するオージェ電子分光法によるPとAlとはクラック内部のオージェ電子微分スペクトルにおける、PLMM(123eV)とAlKLL(1396eV)の強度を表す。
使用した測定器は以下の通りである。
ハンドカッター: サンハヤト製ハンドカッターPC-205、
オージェ電子分光装置: アルバック・ファイ社製PHI4800あるいは日本電子製JAMP-9510F。
【0477】
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上である。上記比率が0.04未満であると、クラック領域におけるアルミニウム支持体表面にリン酸系化合物を十分に存在させることができないため、エッジ汚れが改善し難くなる。
上記比率は、0.06以上が好ましく、0.09以上がより好ましい。
上限値について1.2以下が好ましく、0.5以下がより好ましいい。
【0478】
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を0.04以上とする方法は特に限定されないが、例えば下記が挙げられる。
【0479】
(方法1)ミスト噴霧
本発明のクラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面FE-AESにより測定した際の元素比率を達成する手段として、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版の上記クラックの内部に、
リン酸系化合物を含む液をミスト噴霧することにより本発明の機上現像型平版印刷版原版を作成することが挙げられる。
【0480】
(方式)
ミスト噴霧方式として、気化式加湿器、超音波加湿器、蒸気スチーマー、スプレーノズルの何れでもよい。スプレーノズルは1流体ノズル(溶液のみ)でも2流体ノズル(溶液とエアー)どちらでもよい。2流体ノズルがより好ましく、エアー圧力と溶液(リン酸系化合物を含む液)の流量を制御することでミスト粒子径や流速をそれぞれ制御可能である。2流体ノズルとして、例えばスプレーイングシステムス社製のクイッグフォッガー(商品名)を用いることができる。
【0481】
(ミスト噴霧タイミング)
ダレ形成後にミスト噴霧することでエッジ汚れに効果がある。エッジ辺へミスト噴霧するときの形態として平版印刷版原版の集積体(積層体ともいう)であってもよく、平版印刷版原版1枚ずつでもよく、集積体のほうが好ましい。
【0482】
(ミスト粒子径)
ミスト粒子径は0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~20μm。ミスト径が0.5μm以上であればミストが揮発し難く、平版印刷版原版の端部へミストが着弾し易くなる。そのため、エッジ汚れの改善効果が期待できる。ミスト径が100μm以下であれば、衝突力が大きくなり過ぎないため、平版印刷版原版の集積体の版間へ溶液が入りにくく、多重給版が発生し難くなるため好ましい。
【0483】
(ミスト流速)
ミスト流速は5m/s以下が好ましく、より好ましくは3m/s以下。流速を5m/s以下とすることで平版印刷版原版の集積体の版間へ溶液が入り、多重給版が発生し難くなるため好ましい。
【0484】
(ミスト距離)
ミストノズルとエッジ端部までの距離は10mm~600mmが好ましく、より好ましくは50mm~300mmである。ノズルとエッジ端部までの距離が10mm以上であれば、噴霧エリア確保することができる。距離が600mmいないであればミストが揮発したり対流してしまうのを避けることができるため、エッジ汚れの改善効果が期待できる。
【0485】
(ノズルエアー圧力)
2流体ノズルへのエアー供給圧力は0.05MPa~0.7MPaが好ましく、より好ましくは0.1MPa~0.3MPaが好ましい。圧力が0.05MPa以上であれば、ミスト流速が下がらずにミスト粒径を適切に保つことができる。圧力が0.7MPa以下であれば、ミスト流速が上がらないためミスト粒径が小さくなり難い。
【0486】
(ノズル角度)
平版印刷版原版のエッジ端部に対してミストノズルは軸直角配置でも斜め配置でもよい。より好ましくは斜め配置である。一方、斜め配置にすることで一方向のミスト流ができ、効率よくエッジ汚れ対策ができるため好ましい。ミストノズルとエッジ端部が軸直角を0°としたときノズル傾斜角は±45~85°が好ましい
【0487】
(溶液供給方法)
ノズルへの溶液供給はサイホン式(エアー圧により自給する方式)でも加圧式でもよい。ノズルが上下に動く場合、サイホン式では高低差による液の流量変動を生じるため、加圧式がより好ましい。加圧式は密閉状態のタンク内へ溶液をいれ、そのタンク内をエアー圧で加圧して液を供給する方式と送液ポンプにより溶液供給する方式がある。
【0488】
(ミスト方法)
エッジ端部へ幅方向に均一にミストする方法としては、ノズルは固定して平版印刷版原版自体を動かす方式、又は平版印刷版原版を固定して、ノズルを動かす方式がある。前者は、ノズルを巾方向へ1つまたは複数個配置し、スキッド上に集積された平版印刷版原版をベルトコンベアやローラーコンベアで搬送しながらミストを行う。後者は、平版印刷版原版の集積体を固定し、多軸ロボットや直動ロボットへノズルを取り付けることで巾方向へ均一にミストを行う。
【0489】
(集積体のサイズ検知方法)
平版版印刷版原版の集積体はさまざまなサイズがあるため、そのサイズにあわせてノズルの稼働位置を自動調整する。その集積体の形状を検知する方法として、画像認識カメラを用いることが好ましい。3Dカメラを用いてXYZ方向の形状を1度に全て認識させることがより好ましい。他にも接触式、非接触式センサーを複数個配置してノズルと連動させることが可能。3Dカメラとしてはキーエンス社やMech-Mind社製を用いることができる。
【0490】
(ミストの溶液種)
ミストに使用する溶液は、リン酸系化合物を含む液であるが、水にリン酸系化合物を添加して得られる液が挙げられる。リン酸系化合物は、上述の通りである。
水は、水道水でもイオン交換水でもよく、好ましくはイオン交換水である。イオン交換水を使用することでノズルつまりを抑制でき、安定したミストを供給できる。
【0491】
(ミスト流量の一定管理)
環境湿度からミスト流量を制御するフィードバック制御を盛り込むことが好ましい。環境湿度が低いとミストの揮発量が多くなりエッジ端部への加湿量が減る。そのため、湿度が低いときにノズル吐出量を多くする制御を盛り込む。ノズル吐出量を制御する方法としては、電空レギュレーターを用いてエアー圧又は溶液圧を調整する。
【0492】
(ミスト環境)
ミスト環境を一定にするため、温湿度を空調管理するエリアを設けることが好ましい。ミスト噴霧により環境湿度が上がり易く、ミストを強制的に排除する排気設備を設けることがより好ましい。
【0493】
(ミストの品質保証)
ミスト粒子径がエッジ汚れ品質に影響があり、ミスト粒子径を一定に保つように管理することが好ましい。そのミスト粒子径を測定する方法として例えばマイクロトラックベル社製の粒径分布測定器AEROTRACを用いることができる。
【0494】
(その他)
ミスト噴霧する際に、平版印刷版原版の集積体の最上面の版が浮き上がらないように版押さえ機構を設けることが好ましい。版を押さえる範囲として版全体でもエッジ端部のみでもよい。
ミスト噴霧する際に、集積体の最上部へミスト飛散防止の養生をすることが好ましい。養生をしないとエッジ辺以外にミストがかかり現像不良となる。
【0495】
リン酸系化合物を含む液の濃度は0.1~50質量%であることが好ましく、0.5%~10質量%であることがより好ましい。濃度が0.1質量%以上の液をミスト噴霧することで、上記の元素比を0.04以上とし易くなるなり、エッジ汚れの低減され得るため好ましい。また、濃度を50質量%以下とすることにより、エッジダレ部の塗布量が多くなりすぎず、多重給版不良が発生し難くなるため好ましい。
【0496】
上記ミスト噴霧における噴霧量が0.1g/m~50g/mであることが好ましく、2g/m~20g/mであることがより好ましい。噴霧量を0.1g/m以上とすることにより、上記の元素比を0.04以上とし易くなるなり、エッジ汚れの低減され得るため好ましい。
また、噴霧量を50g/m以下とすることによりエッジ部に供給される溶液量が多くなりすぎず、集積された平版印刷版原版間へ溶液が入り込みにくく、平版印刷版原版同士の接着が発生し難くなるため好ましい。
「方法1」により、本発明の平版印刷版原版を作成することができる。
【0497】
上記「(方法1)ミスト噴霧」用いる場合は、画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つがリン酸系化合物を含有しないことが好ましい。
【0498】
(方法1-1)
画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つがリン酸系化合物を含有する場合は、以下のように水をミスト噴霧することにより、本発明のクラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面FE-AESにより測定した際の元素比率を達成することができる。
具体的には、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版であって、上記構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する機上現像型平版印刷版原版の上記クラックの内部に、水をミスト噴霧することが挙げられる。
ミスト噴霧については、「方法1」の記載と同様である。リン酸系化合物は、上述の通りである。
溶液(リン酸系化合物を含む液)に変えて水を用いる以外は、「方法1」と同様である。
【0499】
また、アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を0.04以上とする方法として、下記も挙げられる。
【0500】
(方法2)高湿環境に平版印刷版原版を曝すケース
画像記録層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つがリン酸系化合物を含有する場合は、以下のように平版印刷版原版を高湿環境に晒すことにより、本発明のクラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面FE-AESにより測定した際の元素比率を達成することができる。
具体的には、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する機上現像型平版印刷版原版であって、上記1つ以上の構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する機上現像型平版印刷版原版を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことが挙げられる。
【0501】
(高湿環境に平版印刷版原版を曝す方法)
高湿環境に平版印刷版原版を曝す方法として、温度と湿度が管理された恒温恒湿室や恒温恒湿器へ平版印刷版原版、又は平版印刷版原版の集積体を高湿環境へ曝す。平版印刷版原版は平置きでも吊るしでもどちらでもよい。集積体はアルミクラフト梱包されていてもいなくてもどちらでもよく、梱包なしがより好ましい。版のエッジ辺が剥き出し状態の方がよりエッジ汚れの改善効果が大きい。
恒温恒湿室として、例えば株式会社アメフレック社製の恒温恒湿室(FFM08-FR02/03)を用いることができ、温湿度を自動制御して一定に保つことができる。
【0502】
(恒温恒湿室の構造)
恒温恒湿室は、平面構造でも立体構造でもよく、敷地面積が少ない場合は立体構造にすることが好ましい。その場合、恒温恒湿室内へ昇降式エレベータやラックを設置して平版印刷版及びその集積体を複数設置できることが好ましい。
【0503】
恒温恒湿室の温湿度を一定環境に維持するため、ダブルシャッター及びダブル扉の構造が好ましい。シングルでも効果はあるが、ダブルにすることで外気影響が少なくなり短時間でエッジ汚れの改善効果がある。
【0504】
恒温恒湿室内はSUSや防錆コート処理が施された材質が好ましい。
【0505】
恒温恒湿室内は、一定の温湿度になっていることが好ましく、室内風はあってもなくてもよい。風によりエッジ汚れ品質に差はなし。
【0506】
スリット加工後のダレ形状が出来上がった後であれば、平版印刷版原版単体でも集積体でも高湿環境へ曝すことでエッジ汚れは改善され易くなる。
1度高湿環境へ曝すことでエッジ汚れの改善効果は持続する。
【0507】
高湿環境における湿度は、25℃環境における相対湿度として、60%RH以上であることが好ましく、70%RH以上であることがより好ましく、80%RH以下であることがさらに好ましい。
25℃環境における相対湿度として、60%RH以上とすることで、上記の元素比を達成し易くなり、エッジ汚れの低減効果が期待できる。
高湿環境における湿度は、25℃環境における相対湿度として、95%RH以下であることが好ましい。
25℃環境における相対湿度として、95%RH以下とすることで、結露が発生し難く、塗布膜が軟化し難いため、平版印刷版原版同士の接着が発生し難いため好ましい。
【0508】
上記機上現像型平版印刷版原版、又は集積体を曝す時間は1分以上が好ましい。
1分以上とすると、エッジ汚れが低減され易くなるため好ましい。
好ましい一態様として、上記機上現像型平版印刷版原版、又は集積体を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことが好ましい。
また、上記機上現像型平版印刷版原版、又は集積体を、25℃環境における相対湿度として、70~95%RH環境下で曝すことがより好ましく、更に80~95%RH環境下で曝すことが更に好ましい。
【0509】
方法2により、本発明の平版印刷版原版を作成することができる。
【0510】
上述の通り、本発明の平版印刷版原版において、上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、上記クラック内には、リン酸系化合物が存在する。
リン酸系化合物は、上述の通りである。
上記の方法1によるミスト噴霧によれば、リン酸系化合物を有する液をミスト噴霧することにより、上記クラック内にリン酸系化合物が存在するものと考えられる。
また、上記の方法1-1、方法2によれば、平版印刷版原版における、画像記録層を有する1つ以上の層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を有することにより、方法1-1によれば、水によるミスト噴霧により、クラック内にリン酸系化合物が移動するものと考えられ、また、方法2によれば、高湿環境下において平版印刷版原版を曝すことにより、クラック内にリン酸系化合物が移動するものと考えられる。
【0511】
本発明の平版印刷版原版において、上記機上現像型平版印刷版原版の上記ダレ形状領域における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記機上現像型平版印刷版原版の上記ダレ形状領域以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である。
【0512】
本発明の「端部にダレ形状領域を有する機上現像型平版印刷版原版」における「ダレ形状領域」(図3においてはダレ形状領域2)は、図面等を用いて先に説明した通り、「平版印刷版原版の端面を先端として有するダレ形状領域」であり、本発明においては、端面(図3においては端面1c)から平版印刷版原版の内側に向かって0.3cmの領域である端部(図3においては端部1)に設けられている。
【0513】
上記端部における1つ以上の構成層の固形分量(A)は、以下のように測定する。
平版印刷版原版における端面から0.3cmの領域を裁断機にて切断して、端部の質量を測定する(質量A1)。
端部に形成された膜成分を溶剤と水の混合溶媒により除去して、膜成分除去後の端部の質量を測定する(質量B1)
「質量A1-質量B1」にて得られる値が、端部における1つ以上の構成層の固形分量(固形分量1: A)を表す。切断部分の面積も踏まえて単位は、「g/m」である。
【0514】
上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量(B)は、以下のように測定する。
また、本発明の平版印刷版原版において、端面から3cmの位置において0.3cmの領域(端部以外の領域とする)を裁断機にて切断して、端部以外の領域の質量を測定する(質量A2)。
端部以外の領域に形成された膜成分を溶剤と水の混合溶媒により除去して、膜成分除去後の端部以外の領域の質量を測定する(質量B2)
「質量A2-質量B2」にて得られる値が、端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量(固形分量2: B)を表す。切断部分の面積も踏まえて単位は、「g/m」である。
固形分量1-固形分量2の値(g/m)が、上記平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合の、AとBとの差であるA-Bであり、0.8g/m未満である。
溶剤と水の混合溶媒として、例えば、MFG(プロピレングリコールモノメチルエーテル):MEK(メチルエチルケトン):MA(メタノール):水=43:34:8:15(重量比)を用いることができる。
【0515】
上記固形分量の差(A-B)が、0.8g/m以上であると、平版印刷版原版の集積体において、平版印刷版原版が互いに接着し易くなり、多重給版不良が発生する傾向にある。
【0516】
上記固形分量の差が、0.6g/m以下であることが好ましく、0.3g/m以下であることがより好ましい。
上記固形分量の差は、小さい方が好ましく、0以上が好ましい。
【0517】
上記固形分量の差を0.8g/m未満とする方法は特に限定されないが、例えば、上記の方法1、方法1-1、方法2等が挙げられる。
【0518】
〔バックコート層〕
本発明に係る平版印刷版原版は、支持体を挟んで画像記録層と反対の非印刷面側(以下、単に「非印刷面側」ともいう)にバックコート層(以下、「裏面層」ともいう)を有していても良い。
本発明に係る平版印刷版原版のバックコート層の平板粒子を含有することで、バックコート層の表面が硬くなるため、平版印刷版原版の製造加工工程やセッター、ベンダー、ストッカー製版工程での搬送、製版した印刷版を印刷機に運搬、取り付ける工程で、裏面層の傷つき、剥がれを防止できると考えられる。
本発明は、好ましい態様として、バックコート層に平板粒子を含む態様、及びバックコート層に平板粒子及び上記平板粒子以外の粒子を含む態様を包含するが、どちらの態様においてもバックコート層の表面が硬くなるため、上記の通り、裏面層の傷つき、剥がれを防止できると考えられる。
【0519】
(平板粒子)
上記平板粒子は、アスペクト比が5以上のものであれば任意の粒子を用いることができる。アスペクト比は好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上、特に好ましくは100以上である。ここで、アスペクト比は粒子の厚みに対する長径の比で定義される。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。具体的には、上記アスペクト比(Z)は、Z=L/aなる関係で示される。Lは、粒子の長径である。Lは、溶媒中に分散させながら、動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所社製,LB-500型)を用いて動的光散乱法により求めた粒子の数平均粒径を指す。aは、粒子の単位厚みである。単位厚みaは、粉末X線回折法によって粒子の回折ピークを測定して算出することができる値である。粉末X線回折装置(株式会社リガク製,SmartLabSE)で測定することができる。
【0520】
(平板粒子の厚み)
アスペクト比が5以上を満たす平板粒子の厚みは、上記バックコート層の厚みよりも小さいことが好ましい。平板粒子の厚みが、バックコート層の厚みよりも小さいことで平板粒子の脱落が起こり難く、工程を汚染しないことから好ましい。上記平板粒子の厚みは、特に限定されないが、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。なお、上記平板粒子の厚みは、上記平板粒子の単位厚み(a)で表される。
【0521】
(平板粒子の組成)
平板粒子には、グラファイトのようなケイ素原子及び酸素原子を含まない平板粒子や、雲母、モンモリロナイトを主成分とするベントナイト、スメクタイトに分類されているモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンナイト及び、バーミキュライトグループ、イライトグループなどのようなケイ素原子及び酸素原子を含む平板粒子が挙げられるが、これらに限ったものではない。上記平板粒子としては、ケイ素原子及び酸素原子を含む平板粒子が好ましく、スメクタイト、ベントナイト、又は雲母が更に好ましい。
【0522】
雲母とは、例えば、一般式:A(B,C)2-510(OH,F,O)〔ただし、Aは、K、Na、Caのいずれか、B及びCは、Fe(II)、Fe(III)、Mn、Al、Mg、Vのいずれかであり、Dは、Si又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群が挙げられる。
【0523】
雲母は、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。合成雲母としては、フッ素金雲母KMg(AlSi10)F、カリ四ケイ素雲母KMg2.5(Si10)F等の非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si10)F、Na又はLiテニオライト(Na,Li)MgLi(Si10)F等の膨潤性雲母等が挙げられる。
【0524】
本発明においては、雲母の中でも、フッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。即ち、この膨潤性合成雲母は、100~150nm(10~15Å)程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘度鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にNa、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換する。特に、層間の陽イオンがLi、Naの場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、本発明において有用であり、特に、均一な品質の粒子が入手容易であるという観点からも膨潤性合成雲母が好ましく用いられる。
【0525】
ベントナイトやスメクタイトに含まれているモンモリロナイト:Si8(Al3.34Mg0.66)O20(OH)は厚みが1nm程度、幅が50~1000nm程度の薄い平板の結晶の積層構造体である。層間にはNa、Ca2+、K、Mg2+の陽イオンが介在している。層間イオンにNaイオンを多く含むモンモリロナイトは、Naイオンによる単位層同士の電気的引力が弱いため、水に分散させると、Naイオンと水分子が水和して膨潤、やがて単位層まで分離する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。
【0526】
雲母、ベントナイト、スメクタイトの層間陽イオンは、他の陽イオンと簡単にイオン交換することが可能である。陽イオンを第4級アンモニウムイオンなどの陽イオンを交換することで、水に分散しにくくなる代わりに、有機溶媒と親和性を示して分散する。
【0527】
具体的には、雲母、ベントナイト、スメクタイトとしては、片倉コープアグリ(株)製の雲母のソマシフMEB-3、クニミネ工業(株)製のベントナイトのクニピア-F、クニピア-G、クニピア-G4、クニピア-G10、スメクタイトのスメクトン-SA、スメクトン-ST、スメクトン-SW、スメクトン-SWN、スメクトン-SWF、ベントナイトのモイストナイト-U、モイストナイト-S、モイストナイト-HCなどが挙げられる。
【0528】
上述の通り、雲母、ベントナイト、スメクタイトの層間陽イオンは、他の陽イオンと簡単にイオン交換することが可能である。陽イオンを第4級アンモニウムイオンなどの陽イオンを交換することで、水に分散しにくくなる代わりに、有機溶媒と親和性を示して分散できるようになる。具体的には、片倉コープケミカル(株)製の有機化雲母のソマシフMAE、ソマシフMTE、ソマシフMEE、クニミネ工業(株)製の有機化ベントナイトのクニビス-110、クニビス-127、モイストナイト-WO、有機化スメクタイトのスメクトン-SAN、スメクトン-SAN-P、スメクトン-STN、スメクトン-SENなどが挙げられ、それぞれ分散に適した有機溶媒の種類に違いがある。
【0529】
バックコート層における平板粒子の含有量は、1~1000mg/mが好ましく、5~800mg/mがより好ましく、10~600mg/mが更に好ましい。上記平板粒子は、1種で使用しても良く、また、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0530】
上記バックコート層は、ポリマー、又は、有機金属化合物若しくは無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物を含有することが好ましい。
【0531】
(ポリマー)
バックコート層は、ポリマーを含有することが好ましい。バックコート層には、層形成するベースポリマーとしての有機ポリマーを含有することが好ましい。均一な皮膜を形成し、支持体との密着性が高いものが好ましい。以下、ベースポリマーとして好ましく用いられるポリマーを挙げるが、これに限定されるものではない。
例えば、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリアミド、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、塩素化ポリエチレン、アルキルフェノールのアルデヒド縮合樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル系樹脂及びこれらの共重合樹脂、ヒドロキシセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニリデン共重合樹脂、フェノキシ樹脂、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロース、ノボラック樹脂、ピロガロールアセトン樹脂等が適している。
【0532】
バックコート層全固形分に対するポリマーの含有量としては、99.99~50質量%が好ましく、99.9~60質量%であることがより好ましく、99.5~70質量%であることが特に好ましい。
【0533】
(有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物)
バックコート層は、有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物を含むことが好ましい。
【0534】
上記有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物(以下、単に金属酸化物とも云う)は、有機金属化合物又は無機金属化合物を水及び有機溶媒中で、酸又はアルカリなどの触媒で加水分解及び縮重合させて得られる、いわゆるゾル-ゲル反応液であることが好ましい。有機金属化合物又は無機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属オキシ塩化物、金属塩化物及びこれらを部分加水分解してオリゴマー化した縮合物が挙げられる。
【0535】
金属アルコキシドは、式M(OR)n(式中、Mは金属元素、Rはアルキル基、nは金属元素の酸化数を表す)で表される化合物である。具体例としては、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OC、Al(OCH、Al(OC、Al(OC、Al(OC、B(OCH、B(OC、B(OC、B(OC、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(OC、Ti(OC、Zr(OCH、Zr(OC、Zr(OC、Zr(OCなどが挙げられ、その他、Ge、Li、Na、Fe、Ga、Mg、P、Sb、Sn、Ta、Vなどの原子のアルコキシドが挙げられる。さらに、CHSi(OCH、CSi(OCH、CHSi(OC、CSi(OCなどのモノ置換珪素アルコキシドも用いられる。
【0536】
有機金属化合物又は無機金属化合物のなかでは、金属アルコキシドが反応性に富み、金属-酸素の結合からできた重合体を生成しやすく好ましい。それらのうち、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OCなどの珪素のアルコキシド化合物が安価で入手し易く、それから得られる金属酸化物の被覆性が優れており特に好ましい。また、これらの珪素のアルコキシド化合物を部分加水分解して縮合したオリゴマーも好ましい。例えば、約40質量%のSiOを含有する平均5量体のエチルシリケートオリゴマーが挙げられる。有機金属化合物又は無機金属化合物は、単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0537】
さらに、上記珪素のテトラアルコキシ化合物の1個又は2個のアルコキシ基を、アルキル基や反応性を持った基で置換したいわゆるシランカップリング剤を、金属アルコキシドと併用することも好ましい。シランカップリング剤としては、上記珪素のテトラアルコキシ化合物における1個又は2個のアルコキシ基を、炭素数4~20の長鎖アルキル基、フッ素置換アルキル基などの疎水性の置換基で置換したシランカップリング剤が挙げられ、特にフッ素置換アルキル基を有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤の具体例としては、CFCHCHSi(OCH、CFCFCHCHSi(OCH、CFCHCHSi(OCなどが挙げられ、市販品では、信越化学株式会社製LS-1090等が挙げられる。シランカップリング剤の含有量は好ましくは、バックコート層全固形分の5~90質量%であり、より好ましく10~80質量%である。
【0538】
ゾル-ゲル反応液を形成する際に有用な触媒としては、有機、無機の酸及びびアルカリが用いられる。その例としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、フッ化水素酸、リン酸、亜リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、フロロ酢酸、ブロモ酢酸、メトキシ酢酸、オキサロ酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、アスコルビン酸、安息香酸、3,4-ジメトキシ安息香酸のような置換安息香酸、フェノキシ酢酸、フタル酸、ピクリン酸、ニコチン酸、ピコリン酸、ピラジン、ピラゾール、ジピコリン酸、アジピン酸、p-トルイル酸、テレフタル酸、1,4-シクロヘキセン-2,2-ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n-ウンデカン酸などの有機酸、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカリが挙げられる。
【0539】
他の好ましい触媒として、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、およびリン酸エステル類など、具体的には、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチル酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニルなどの有機酸も使用できる。
【0540】
触媒は単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。触媒量は、原料の金属化合物に対して、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%である。触媒量がこの範囲であると、ゾル-ゲル反応の開始が良好に行われると共に、急激な反応が抑制され、不均一なゾル-ゲル粒子の発生を防止することができる。
【0541】
ゾル-ゲル反応を開始させるには、適量の水が必要である。水の添加量は原料の金属化合物を完全に加水分解するのに必要な量の0.05~50倍モルが好ましく、0.5~30倍モルが好ましい。水の量がこの範囲であると、加水分解が良好に進行する。
【0542】
ゾル-ゲル反応液には溶媒が添加される。溶媒は、原料の金属化合物を溶解し、反応で生じたゾル-ゲル粒子を溶解または分散するものであればよく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類が用いられる。またバックコート層の塗布面質向上等の目的でエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類のモノ又はジアルキルエーテル又は酢酸エステルを用いることができる。溶媒としては、水と混合可能な低級アルコール類が好ましい。ゾル-ゲル反応液は、塗布するのに適した濃度に溶媒で調整されるが、溶媒の全量を最初から反応液に加えると原料が希釈されるためか加水分解反応が進みにくくなる。そこで溶媒の一部をゾル-ゲル反応液に加え、反応が進んだ時点で残りの溶媒を加える方法が好ましい。
【0543】
(他の成分)
バックコート層には、可とう性の付与、すべり性の調整や塗布面状を改良する目的で、可塑剤、界面活性剤、その他の添加物を、本発明の効果を損ねない範囲で必要により添加できる。
【0544】
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、オクチルカプリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジアリルフタレートなどのフタル酸エステル類、ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリールエチルグリコレート、メチルフタリールエチルグリコレート、ブチルフタリールブチルグリコレート、トリエチレングリコールジカプリル酸エステルなどのグリコールエステル類、トリクレジールホスフェート、トリフェニルホスフェートなどのリン酸エステル類、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルマレエートなどの脂肪族二塩基酸エステル類、ポリグリシジルメタクリレート、クエン酸トリエチル、グリセリントリアセチルエステル、ラウリン酸ブチルなどが有効である。
【0545】
可塑剤のバックコート層の添加量は、平板粒子を含有する層に用いられるポリマーの種類によって異なるが、ガラス転移温度が60℃以下にならない範囲で加えられることが好ましい。
【0546】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤が挙げられる。具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N-ビス-2-ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどの非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、
【0547】
ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N-メチル-N-オレイルタウリンナトリウム塩、N-アルキルスルホ琥珀酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分鹸化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類などのアニオン界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体などのカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類などの両性界面活性剤が挙げられる。以上挙げた界面活性剤の中でポリオキシエチレンとあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンなどのポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらの界面活性剤もまた包含される。
【0548】
更に好ましい界面活性剤は、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤である。フッ素系界面活性剤の例としては、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのアニオン型、パーフルオロアルキルベタインなどの両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン型及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有ウレタンなどの非イオン型が挙げられる。
【0549】
界面活性剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができ、平板粒子を含有する層の全固形分に対する界面活性剤の含有量は、中に好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%の範囲で添加できる。
【0550】
バックコート層がポリマーを含有する場合には、更に、着色のための染料、アルミニウム支持体との密着向上のためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸及びカチオン性ポリマー等、更には滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンよりなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜加えることができる。
【0551】
バックコート層の塗布量は、好ましくは0.01~30g/m、より好ましくは0.1~10g/m、特に好ましくは0.2~5g/mである。
【0552】
(平板粒子以外の粒子)
バックコート層は、さらに上記平板粒子以外の粒子(以下、「非平板粒子」ともいう)を含んでいることが好ましい。非平板粒子を含んでいることで、さらに裏面層に傷つき、剥がれが生じにくいことから好ましい。ここで、非平板粒子とは、上記の平板粒子の範囲に属さない粒子であれば、任意の粒子を用いることができる。すなわち、平板粒子以外の粒子のアスペクト比が5未満のものであり、典型的には、1以上である。上記アスペクト比が1~3のものが好ましく、1~2のものがより好ましい。
【0553】
平板粒子以外の粒子として、有機樹脂粒子、無機粒子、又は有機-無機複合粒子等を使用することができる。
【0554】
有機樹脂粒子としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン及びその誘導体、ポリアミド類、ポリイミド類、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、などのポリオレフィン類、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル類などの合成樹脂からなる粒子、及び、キチン、キトサン、セルロース、架橋澱粉、架橋セルロース等の天然高分子からなる粒子などが好ましく挙げられる。なかでも、合成樹脂粒子は、粒子サイズ制御の容易さや、表面改質により所望の表面特性を制御し易いなどの利点がある。
【0555】
このような、有機樹脂粒子の製造方法は、PMMAのような比較的に硬い樹脂では、破砕法による粒子化も可能であるが、乳化・懸濁重合法により粒子を合成する方法が、粒子径制御の容易性、精度から好ましく採用されている。有機樹脂粒子の製造方法は、「超微粒子と材料」日本材料科学会編、裳華房1993年発刊、「微粒子・粉体の作製と応用」川口春馬監修、シーエムシー出版2005年発刊等に詳細に記載されている。
【0556】
有機樹脂粒子は市販品としても入手可能であり、例えば、根上工業製アクリル粒子アートパールJ-6PF、綜研化学株式会社製、架橋アクリル樹脂MX-300、MX-500、MX-1000、MX-1500H、MR-2HG、MR-7HG,MR-10HG、MR-3GSN、MR-5GSN、MR-7G、MR-10G、MR-5C、MR-7GC、スチリル樹脂系のSX-350H、SX-500H、積水化成品工業製アクリル樹脂、MBX-5、MBX-8、MBX-12MBX-15、MBX-20,MB20X-5、MB30X-5、MB30X-8、MB30X-20、SBX-6、SBX-8、SBX-12、SBX-17三井化学製ポリオレフィン樹脂、ケミパールW100、W200、W300、W308、W310、W400、W401、W405、W410、W500、WF640、W700、W800、W900、W950、WP100、などが挙げられる。
【0557】
無機粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、カーボンブラック、グラファイト、TiO、BaSO、ZnS、MgCO、CaCO、ZnO、CaO、WS、MoS、MgO、SnO、Al、α-Fe、α-FeOOH、SiC、CeO、BN、SiN、MoC、BC、WC、チタンカーバイド、コランダム、人造ダイアモンド、石榴石、ガーネット、珪石、トリボリ、珪藻土、ドロマイトなどが挙げられる。
【0558】
有機-無機複合粒子は、特に限定されないが、無機表面修飾した有機樹脂粒子、又は有機表面修飾した無機粒子が好ましい。
【0559】
無機表面修飾した有機樹脂粒子について、以下にシリカで被覆された有機樹脂粒子(以下、シリカ被覆有機樹脂粒子とも云う)を例として詳細に説明するが、本発明における無機表面修飾した有機樹脂粒子はこれに限定されるものではない。
【0560】
(シリカ被覆有機樹脂粒子)
シリカ被覆有機樹脂粒子は、有機樹脂からなる粒子をシリカで表面被覆した粒子である。コアを構成する有機樹脂粒子は、空気中の湿分や、温度によって、軟化したり、べとついたりすることがないことが好ましい。
【0561】
シリカ被覆有機樹脂粒子の有機樹脂粒子を構成する有機樹脂としては、例えば、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポシキ系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0562】
シリカ被覆有機樹脂粒子の表面を被覆するシリカ層を形成する材料としては、アルコキシシロキサン系化合物の縮合物などのアルコキシシリル基を有する化合物、特に、シロキサン系材料、具体的には、シリカゾル、コロイダルシリカ、シリカナノ粒子などのシリカ粒子などが好ましく挙げられる。シリカ被覆有機樹脂粒子の構成は、有機樹脂粒子表面にシリカ微粒子が固体成分として付着している構成であっても、アルコキシシロキサン系化合物を縮合反応させて有機樹脂粒子表面にシロキサン系化合物層を形成した構成であってもよい。
【0563】
シリカは必ずしも有機樹脂粒子表面全域を被覆している必要はなく、少なくとも有機樹脂粒子の質量に対し、0.5質量%以上の量で表面を被覆していると、本発明の効果を得やすい。即ち、有機樹脂粒子の表面の少なくとも一部にシリカが存在することで、有機粒子表面における、共存する水溶性高分子、例えば、PVAとの親和性の向上が達成され、外部応力を受けた場合でも粒子の脱落が抑制され、優れた耐傷性、耐接着性を維持することができる。このため、本発明における「シリカ被覆」とは、このように有機樹脂粒子の表面の少なくとも一部にシリカが存在する状態をも包含するものである。シリカの表面被覆状態は、走査型電子顕微鏡(TEM)等による形態観察により確認することができる。また、シリカの被覆量は、蛍光X線分析などの元素分析によりSi原子を検知し、そこに存在するシリカの量を算出することで確認することができる。
【0564】
シリカ被覆有機樹脂粒子の製造方法は特に制限はなく、シリカ粒子あるいはシリカ前駆体化合物を、有機樹脂粒子の原料となるモノマー成分と共存させて有機樹脂粒子形成と同時にシリカ表面被覆層を形成させる方法であってもよく、また、有機樹脂粒子を形成した後、シリカ粒子を物理的に表面に付着させ、その後、固定化する方法であってもよい。
【0565】
以下に、シリカ被覆有機樹脂粒子の製造方法の1例を挙げる。まず、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリル酸などの水溶性高分子やリン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機系懸濁剤などから適宜選択される懸濁安定剤を含む水中に、シリカと、原料樹脂(より具体的には、上記有機樹脂を構成する、懸濁重合が可能なモノマー、懸濁架橋が可能なプレポリマー、又は樹脂液などの原料樹脂)とを添加、攪拌、混合して、シリカと原料樹脂とを分散させた懸濁液を調製する。その際、懸濁安定剤の種類、その濃度、攪拌回転数などを調節することにより、目的の粒径を有する懸濁液を形成することができる。次いで、この懸濁液を加温して反応を開始させ、樹脂原料を、懸濁重合または懸濁架橋させることにより樹脂粒子を生成させる。このとき、共存するシリカが重合或いは架橋反応により硬化する樹脂粒子に、特に、その物性に起因して樹脂粒子表面近傍に、固定化される。その後、懸濁液を固液分離し、洗浄により粒子に付着している懸濁安定剤を除去し、乾燥させる。かくして、シリカが固定化された所望粒径の略球状のシリカ被覆有機樹脂粒子が得られる。
【0566】
このように、懸濁重合、或いは懸濁架橋の際に条件を制御して所望の粒径のシリカ被覆有機樹脂粒子を得ることもできるし、このような制御を厳密に行うことなくシリカ被覆有機樹脂粒子を生成した後、メッシュ濾過法などにより所望の大きさのシリカ被覆有機粒子を得ることもできる。
【0567】
上記方法によりシリカ被覆有機粒子を製造する際の混合物における原料の添加量などについては、例えば、原料樹脂とシリカとの総量が100重量部の場合、まず、分散媒である水200~800重量部に懸濁安定剤0.1~20重量部を添加し、十分に溶解または分散させ、その液中に、上記100重量部の原料樹脂とシリカとの混合物を投入し、分散粒子が所定の粒度になるように攪拌速度を調整しながら攪拌し、この粒度調整を行った後に液温を30~90℃に昇温し、1~8時間反応させる。
【0568】
シリカ被覆有機樹脂粒子の製造方法については、上記した方法はその1例であり、例えば、特開2002-327036号公報、特開2002-173410号公報、特開2004-307837号公報、及び、特開2006-38246号公報などに詳細に記載された方法により得られるシリカ被覆有機樹脂粒子も本発明に好適に使用することができる。
【0569】
また、シリカ被覆有機樹脂粒子は市販品としても入手可能であり、具体的には、シリカ/メラミン複合微粒子としては、日産化学工業(株)オプトビーズ2000M,オプトビーズ3500M、オプトビーズ6500M、オプトビーズ10500M、オプトビーズ3500S、オプトビーズ6500Sが挙げられる。シリカ/アクリル複合粒子としては、根上工業(株)アートパールG-200透明、アートパールG-400透明、アートパールG-800透明、アートパールGR-400透明、アートパールGR-600透明、アートパールGR-800透明、アートパールJ-4P、J-5P、J-7P、J-3PY、J-4PY、J-7PYが挙げられる。シリカ/ウレタン複合粒子としては、根上工業(株)アートパールC-400透明、C-800透明、P-800T、U-600T、U-800T、CF-600T、CF800T、大日精化(株)ダイナミックビーズCN5070D、ダンプラコートTHUが挙げられる。
【0570】
以上、シリカ被覆有機樹脂粒子を例として、本発明に係るバックコート層に用いられる有機樹脂粒子について説明したが、アルミナ、チタニア又はジルコニアで被覆された有機樹脂粒子についても、シリカの代りにアルミナ、チタニア又はジルコニアを用いることにより同様に実施することができる。
【0571】
また、有機表面修飾した無機粒子も使用することができる。市販品としては、メチル基修飾シリカ粒子として、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のトスパール120、トスパール130、トスパール145、トスパール2000B、トスパール1110、トスパール240が挙げられる。
【0572】
上記非平板粒子の平均粒子径は、上記平板粒子を含有する層(バックコート層)の厚みより大きいことが好ましい。上記非平板粒子の平均粒子径は、バックコート層の厚みより0.1μm以上大きいことが好ましい。上記非平板粒子の平均粒子径は、好ましくは、0.1μm以上であり、更に好ましくは0.3~30μm、より好ましくは0.5~15μm、特に好ましくは1~10μmである。この範囲において十分なスペーサー機能を発現することができ、バックコート層への固定化が容易で、外部からの接触応力に対しても優れた保持機能を有する。
【0573】
本発明における上記非平板粒子の平均粒子径は、通常用いられる体積平均粒子径を意味し、かかる体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定することができる。測定装置としては、例えば、粒度分布測定装置「マイクロトラックMT-3300II」(日機装(株)製)が挙げられる。
【0574】
上記バックコート層が、更に上記平板粒子以外の粒子を含有する場合、上記平板粒子以外の粒子の平均粒子径が0.1μm以上であり、かつ、上記平板粒子を含有する層の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0575】
上記バックコート層における上記非平板粒子の含有量は、好ましくは5~1000mg/m、より好ましくは10~500mg/m、更に好ましくは20~300mg/mである。
【0576】
上記バックコート層の厚みは、0.01~30μmが好ましく、0.1~10mがより好ましく、0.2~5μmが更に好ましい。但し、バックコート層の厚さは、上記バックコート層に含有され得る上記非平板粒子の平均粒子径より小さいことが好ましい。バックコート層の厚さの測定は、表面処理を施していない平滑なアルミニウム支持体上に、バックコート層塗布液を塗布して、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し粒子の存在しない平滑な領域の膜厚を5箇所測定して、その平均値を求めることにより行うことができる。
【0577】
上記バックコート層の算術平均高さSaは、0.1~20μmが好ましく、0.3~15μmがより好ましく、0.5~10μmが更に好ましい。本発明において、算術平均高さSaの測定は、ISO25178に記載の方法に準じて行う。すなわち、菱化システム(株)製のマイクロマップMM3200-M100を用いて、同一サンプルから3か所以上選択して測定し、それらの平均値を算術平均高さSaとした。測定範囲に関しては、サンプル表面からランダムに選んだ1cm×1cmの範囲を測定する。
【0578】
バックコート層は、上記金属酸化物及び粒子、必要により、その他の添加剤などを含有するバックコート層塗布液を調整し、バックコート層塗布液を支持体上に塗布、乾燥することにより作製することができる。バックコート層の塗布には、バーコーター塗布など公知の塗布方法が用いられる。乾燥は、50~200℃、10秒~5分程度が好ましい。
【0579】
[平版印刷版ダミー版]
本発明の平版印刷版ダミー版は、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有する平版印刷版ダミー版であって、
上記ダレ形状領域は、最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有し、
上記クラック内には、リン酸系化合物が存在し、
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上であり、
上記平版印刷版ダミー版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版ダミー版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、A≧Bとなり、AとBとの差であるA-Bが、0.8g/m未満である、
平版印刷版ダミー版である。
【0580】
アルミニウム支持体は、上述の平版印刷版原版におけるアルミニウム支持体と同様である。
端部、ダレ形状領域は、上述の平版印刷版原版における端部、ダレ形状領域と同様である。
【0581】
上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)が0.04以上である。上記のアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)は、上述の機上現像型平版印刷版原版における、上記クラックの内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)と同様であり、測定方法、好ましい範囲等についても同様である。
【0582】
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を0.04以上とする方法は特に限定されないが、例えば下記が挙げられる。
【0583】
本発明のクラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面FE-AESにより測定した際の元素比率を達成する手段として、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、画像記録層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版の上記クラックの内部に、リン酸系化合物を含む液をミスト噴霧することが挙げられる。
ミスト噴霧としては、上記の方法1と同様である。このように本発明の平版印刷版ダミー版を作成することができる。
上記「(方法1)ミスト噴霧」用いる場合は、ポリマー層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つがリン酸系化合物を含有しないことが好ましい。
【0584】
ポリマーを含む1つ以上の構成層の少なくとも1つがリン酸系化合物を含有する場合は、以下のように水をミスト噴霧することにより、本発明のクラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面FE-AESにより測定した際の元素比率を達成することができる。
具体的には、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版であって、上記構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する平版印刷版ダミー版の上記クラックの内部に、水をミスト噴霧することが挙げられる。
ミスト噴霧としては、上記の方法1-1と同様である。このように本発明の平版印刷版ダミー版を作成することができる。
【0585】
また、アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を0.04以上とする方法として、下記も挙げられる。
【0586】
ポリマー層を含む1つ以上の構成層の少なくとも1つがリン酸系化合物を含有する場合は、以下のように平版印刷版ダミー版を高湿環境に晒すことにより、本発明のクラック内部の上記アルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面FE-AESにより測定した際の元素比率を達成することができる。
具体的には、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体と、ポリマー層を含む1つ以上の構成層とを有し、端部にダレ形状領域を有し、上記ダレ形状領域に最深部が上記アルミニウム支持体に到達するクラックを有する平版印刷版ダミー版であって、上記1つ以上の構成層の少なくとも1つが、リン酸系化合物を含有する層を包含する平版印刷版ダミー版を、25℃環境における相対湿度として、60~95%RH環境下で1分以上曝すことが挙げられる。
上記の方法としては、上記の方法2と同様である。このように本発明の平版印刷版ダミー版を作成することができる。
【0587】
上記平版印刷版ダミー版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版ダミー版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、AとBとの差であるA-Bは、上記平版印刷版原版の上記端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版原版の上記端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、AとBとの差であるA-Bと同様であり、測定方法、好ましい範囲等についても同様である。
【0588】
上記ポリマー層としては、例えば非感光性層を挙げることができる。
本発明に係る平版印刷版ダミー版は、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体上に(本願明細書において、「印刷面側」とする)に非感光性層を有する。平版印刷版ダミー版は、必要により、支持体と非感光性層との間に下塗り層、非感光性層の上に親水性層を有してもよい。
下塗り層は、上述の本発明の平版印刷版原版にて示した下塗り層と同様である。
【0589】
平版印刷版ダミー版における非感光性層は、水溶性バインダーポリマー又は水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマー(以下、「バインダーポリマー」ともいう。)を含むことが好ましい。また、非感光性層は、350~550nmに吸収極大を有する着色剤、及び、低分子酸性化合物を含有することができる。印刷用捨て版原版における非感光性層に含有されるバインダーは、例えば、特開2012-218778号公報の段落番号〔0069〕-〔0074〕に記載されている。印刷用捨て版原版における非感光性層及びその形成方法は、例えば、特開2012-218778号公報の段落番号〔0021〕-〔0054〕に記載されている。
【0590】
また、ポリマー層として、親水性層を挙げることができる。
平版印刷版ダミー版における親水性層は、バインダーを含有する。親水性層の形成は、バインダー、及び、目的に応じて添加される着色剤、水溶性可塑剤、界面活性剤など種々の添加剤を撹拌、混合して調製される親水性層塗布液を、例えば、米国特許第3,458,311号明細書又は特開昭55-49729号公報に記載されている方法を適用して、非感光性層上に塗布することにより形成することができる。親水性層の塗布量は、0.2~5.0g/mが好ましく、0.3~3.0g/mがより好ましい。印刷用捨て版原版における親水性層に含有されるバインダーは、例えば、特開2012-218778号公報の段落番号〔0069〕-〔0074〕に記載されている。
【0591】
平版印刷版ダミー版は、保護層を有していても良い。保護層については、上述の通りである。
平版印刷版ダミー版は、バックコート層を有していても良い。バックコート層については、上述の通りである。
【0592】
〔平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法〕
本発明における平版印刷版原版を用いる平版印刷版の作製方法は、特に制限はないが、平版印刷版原版を画像露光する工程(露光工程)、及び、露光後の平版印刷版原版を印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去する工程(機上現像工程)を含むことが好ましい。
本発明における平版印刷版原版を用いる平版印刷方法は、平版印刷版原版を画像露光する工程(露光工程)と、印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去し平版印刷版を作製する工程(機上現像工程)と、得られた平版印刷版により印刷する工程(以下、「印刷工程」ともいう。
)と、を含むことが好ましい。
【0593】
<露光工程>
本発明の平版印刷版原版を用いる平版印刷版の作製方法は、平版印刷版原版を画像露光し、露光部と未露光部とを形成する露光工程を含むことが好ましい。本発明に係る平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像露光されることが好ましい。
光源の波長は750nm~1,400nmが好ましく用いられる。波長750nm~1,400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であることが好ましく、また照射エネルギー量は10mJ/cm~300mJ/cmであることが好ましい。また、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いることが好ましい。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、及びフラットベッド方式等のいずれでもよい。
画像露光は、プレートセッターなどを用いて常法により行うことができる。機上現像の場合には、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で画像露光を行ってもよい。
【0594】
<機上現像工程>
本発明における平版印刷版原版を用いる平版印刷版の作製方法は、印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去する機上現像工程を含むことが好ましい。
以下に、機上現像方式について説明する。
【0595】
〔機上現像方式〕
機上現像方式においては、画像露光された平版印刷版原版は、印刷機上で油性インキと水性成分とを供給し、非画像部の画像記録層が除去されて平版印刷版が作製されることが好ましい。
すなわち、平版印刷版原版を画像露光後、何らの現像処理を施すことなくそのまま印刷機に装着するか、あるいは、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で画像露光し、ついで、油性インキと水性成分とを供給して印刷すると、印刷途上の初期の段階で、非画像部においては、供給された油性インキ及び水性成分のいずれか又は両方によって、未硬化の画像記録層が溶解又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。一方、露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。最初に版面に供給されるのは、油性インキでもよく、水性成分でもよいが、水性成分が除去された画像記録層の成分によって汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給することが好ましい。このようにして、平版印刷版原版は印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。油性インキ及び水性成分としては、通常の平版印刷用の印刷インキ及び湿し水が好適に用いられる。
【0596】
<印刷工程>
本発明における平版印刷版原版を用いる平版印刷方法は、平版印刷版に印刷インキを供給して記録媒体を印刷する印刷工程を含む。
印刷インキとしては、特に制限はなく、所望に応じ、種々の公知のインキを用いることができる。また、印刷インキとしては、油性インキ又は紫外線硬化型インキ(UVインキ)が好ましく挙げられる。
また、上記印刷工程においては、必要に応じ、湿し水を供給してもよい。
また、上記印刷工程は、印刷機を停止することなく、上記機上現像工程又は上記現像液現像工程に連続して行われてもよい。
記録媒体としては、特に制限はなく、所望に応じ、公知の記録媒体を用いることができる。
【0597】
本発明における平版印刷版原版を用いる平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法においては、必要に応じて、露光前、露光中、露光から現像までの間に、平版印刷版原版の全面を加熱してもよい。このような加熱により、画像記録層中の画像形成反応が促進され、感度や耐刷性の向上や感度の安定化等の利点が生じ得る。現像前の加熱は150℃以下の穏和な条件で行うことが好ましい。上記態様であると、非画像部が硬化してしまう等の問題を防ぐことができる。現像後の加熱には非常に強い条件を利用することが好ましく、100℃~500℃の範囲であることが好ましい。上記範囲であると、十分な画像強化作用が得られまた、支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を抑制することができる。
【実施例0598】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」、「部」とは、特に断りのない限り、それぞれ「質量%」、「質量部」を意味する。なお、高分子化合物において、特別に規定したもの以外は、分子量は重量平均分子量(Mw)であり、構成繰り返し単位の比率はモル百分率である。また、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値として測定した値である。
【0599】
<支持体1の作製>
厚さ0.3mmの材質1Sのアルミニウム板(アルミニウム合金板)に対し、下記(J-a)~(J-m)の処理を施し、支持体1を製造した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施し、水洗処理の後にはニップローラで液切りを行った。
【0600】
(J-a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図5に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。図5において、31はアルミニウム板、32及び34はローラ状ブラシ(本実施例においては、束植ブラシ)、33は研磨スラリー液、35、36、37及び38は支持ローラである。
機械的粗面化処理では、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は、300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0601】
(J-b)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%及びアルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレーにより吹き付けてエッチング処理を行った。後に電気化学的粗面化処理を施す面のアルミニウム溶解量は、10g/mであった。
【0602】
(J-c)酸性水溶液を用いたデスマット処理
酸性水溶液として、液温35℃の次工程の電気化学的粗面化処理に用いた硝酸の廃液をアルミニウム板にスプレーにて3秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0603】
(J-d)硝酸水溶液を用いた電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて、連続的に電気化学的粗面化処理を行った。電解液は、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した、液温35℃の電解液を用いた。交流電源波形は図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図2に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dmであった。
【0604】
(J-e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度27質量%及びアルミニウムイオン濃度2.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレーにより吹き付けてエッチング処理を行った。アルミニウム溶解量は、3.5g/mであった。
【0605】
(J-f)酸性水溶液を用いたデスマット処理
酸性水溶液として、液温30℃の硫酸濃度170g/L及びアルミニウムイオン濃度5g/Lの水溶液をアルミニウム板にスプレーにて3秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0606】
(J-g)塩酸水溶液を用いた電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて、連続的に電気化学的粗面化処理を行った。電解液は、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した、液温35℃の電解液を用いた。交流電源波形は図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図2に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で25A/dmであり、塩酸電解における電気量(C/dm)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dmであった。
【0607】
(J-h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%及びアルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度60℃でスプレーにより吹き付けてエッチング処理を行った。アルミニウム溶解量は、0.2g/mであった。
【0608】
(J-i)酸性水溶液を用いたデスマット処理
酸性水溶液として、液温35℃の陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸濃度170g/L及びアルミニウムイオン濃度5g/L)の水溶液をアルミニウム板にスプレーにて4秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0609】
(J-j)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。電解液として170g/L硫酸水溶液を用い、液温50℃、電流密度30A/dmの条件にて陽極酸化処理を行い、皮膜量0.3g/mの陽極酸化皮膜を形成した。
【0610】
(J-k)ポアワイド処理
陽極酸化処理したアルミニウム板を、カセイソーダ濃度5質量%及びアルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に、40℃で3秒間浸漬し、ポアワイド処理を行った。
【0611】
(J-l)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。電解液として170g/L硫酸水溶液を用い、液温50℃、電流密度13A/dmの条件にて陽極酸化処理を行い、皮膜量2.6g/mの陽極酸化皮膜を形成した。
【0612】
(J-m)親水化処理
非画像部の親水性を確保するため、アルミニウム板を、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液に50℃で7秒間浸漬してシリケート処理を施した。Siの付着量は8.5mg/mであった。マイクロポアの平均径は30nmであった。
支持体1の陽極酸化皮膜表面のL*a*b*表色系における明度L*の値は72.3であった。
支持体1の陽極酸化皮膜量は2.6g/mであった。
【0613】
<支持体2の作製>
厚さ0.3mmの材質1Sのアルミニウム板(アルミニウム合金版)に対し、下記(F-a)~(F-g)の処理を施し、支持体1を作製した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施し、水洗処理の後にはニップローラで液切りを行った。
【0614】
(F-a)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%及びアルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレーにより吹き付けてエッチング処理を行った。後に電気化学的粗面化処理を施す面のアルミニウム溶解量は、5g/mであった。
【0615】
(F-b)酸性水溶液を用いたデスマット処理
酸性水溶液として、液温30℃の硫酸濃度150g/Lの水溶液をアルミニウム板にスプレーにて3秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0616】
(F-c)電気化学的粗面化処理
塩酸濃度14g/L、アルミニウムイオン濃度13g/L、及び、硫酸濃度3g/Lの電解液を用い、交流電流を用いて電気化学的粗面化処理を行った。電解液の液温は30℃であった。アルミニウムイオン濃度は塩化アルミニウムを添加して調整した。
交流電流の波形は正と負の波形が対称な正弦波であり、周波数は50Hz、交流電流1周期におけるアノード反応時間とカソード反応時間は1:1、電流密度は交流電流波形のピーク電流値で75A/dmであった。また、電気量はアルミニウム板がアノード反応に預かる電気量の総和で450C/dmであり、電解処理は112.5C/dmずつ4秒間の通電間隔を空けて4回に分けて行った。アルミニウム板の対極にはカーボン電極を用いた。
【0617】
(F-d)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%及びアルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度45℃でスプレーにより吹き付けてエッチング処理を行った。電気化学的粗面化処理が施された面のアルミニウムの溶解量は0.2g/mであった。
【0618】
(F-e)酸性水溶液を用いたデスマット処理
酸性水溶液として、液温35℃の硫酸濃度170g/L及びアルミニウムイオン濃度5g/Lの水溶液をアルミニウム板にスプレーにて3秒間吹き付けてデスマット処理を行った。
【0619】
(F-f)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。電解液として150g/Lリン酸水溶液を用い、液温35℃、電流密度4.5A/dmの条件にて陽極酸化処理を行い、皮膜量1g/mの陽極酸化皮膜を形成した。
図6に示す陽極酸化処理装置410において、アルミニウム板416は、図6中矢印で示すように搬送される。電解液418が貯溜された給電槽412にてアルミニウム板416は給電電極420によって(+)に荷電される。そして、アルミニウム板416は、給電槽412においてローラ422によって上方に搬送され、ニップローラ424によって下方に方向変換された後、電解液426が貯溜された電解処理槽414に向けて搬送され、ローラ428によって水平方向に方向転換される。ついで、アルミニウム板416は、電解電極430によって(-)に荷電されることにより、その表面に陽極酸化皮膜が形成され、電解処理槽414を出たアルミニウム板416は後工程に搬送される。上記陽極酸化処理装置410において、ローラ422、ニップローラ424及びローラ428によって方向転換手段が構成され、アルミニウム板416は、給電槽412と電解処理槽414との槽間部において、上記ローラ422、424及び428により、山型及び逆U字型に搬送される。給電電極420と電解電極430とは、直流電源434に接続されている。
【0620】
(F-g)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。電解液として170g/L硫酸水溶液を用い、液温50℃、電流密度13A/dmの条件にて陽極酸化処理を行い、皮膜量2.6g/mの陽極酸化皮膜を形成した。その後、スプレーによる水洗を行った。支持体2のマイクロポアの平均径は40nmであった。
支持体2の陽極酸化皮膜表面のL*a*b*表色系における明度L*の値は83.7であった。
支持体2の陽極酸化皮膜量は2.6g/mであった。
【0621】
<下塗り層Aの形成>
支持体上に、下記組成の下塗り層塗布液(1)を乾燥塗布量が26mg/mになるよう塗布して、下塗り層Aを形成した。
【0622】
(下塗り層塗布液(1))
・下塗り層用化合物(2)(下記構造) 0.013部
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.005部
・エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム 0.005部
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル 0.003部
・水 3.15部
【0623】
【化85】

【0624】
<下塗り層Bの形成>
支持体上に、下記組成の下塗り層塗布液(2)を乾燥塗布量が0.03g/mになるよう塗布して、下塗り層Bを形成した。
【0625】
(下塗り層塗布液(2))
・ポリアクリル酸水溶液(40質量%)
Jurymer AC-10S (東亜合成株式会社製) 3.0部
・水 27.0部
【0626】
<下塗り層Cの形成>
支持体上に、下記組成の下塗り層塗布液(3)を乾燥塗布量が102mg/mになるように塗布して、下塗り層Cを形成した。
【0627】
(下塗り層塗布液(3))
・グルコン酸ナトリウム 0.86部
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル 0.03部
・下塗り層用化合物(3) 0.13部
・水 61.39部
【0628】
【化86】
【0629】
上記下塗り層用化合物(3)における各構成単位の括弧の右下の数値は、質量比を表す。
は、水素原子又はナトリウム原子を表し、Mは、水素原子又はナトリウム原子を表す。
【0630】
<画像記録層Aの形成>
下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布し、100℃で60秒間オーブン乾燥し、厚さ1.2μmの画像記録層Bを形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及び下記ミクロゲル液(6)を塗布直前に混合し撹拌することにより得た。
【0631】
(感光液(1))
・上記バインダーポリマー(6) 23質量%1-メトキシ-2-プロパノール溶液(下記構造) 0.3755部
・上記バインダーポリマー(7) 23質量%1-メトキシ-2-プロパノール溶液(下記構造) 0.3755部
・赤外線吸収剤(1)(下記構造) 0.0278部
・ボレート化合物(1)(テトラフェニルホウ酸ナトリウム)
0.015部
・重合開始剤(1)(下記構造) 0.2348部
・重合性化合物(1)(トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、NKエステルA-930040% 2-ブタノン溶液、新中村化学工業(株))製)
0.2875部
・低分子親水性化合物(1)(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート
0.0287部
・低分子親水性化合物(2)(トリメチルグリシン) 0.0147部
・アニオン性界面活性剤1 30質量%水溶液(下記構造)
0.25部
・紫外線吸収剤(1)(TINUVIN405、BASF(株)社製)(下記構造)
0.04部
・フッ素系界面活性剤(1)(下記構造) 0.004部
・ホスホニウム化合物(1)(下記構造) 0.020部
・2-ブタノン 5.346部
・1-メトキシ-2-プロパノール 3.128部
・メタノール 0.964部
・純水 0.036部
【0632】
(ミクロゲル液(6))
・ミクロゲル(4)(固形分濃度21.8質量% 下記) 2.2707部
・1-メトキシー2-プロパノール 0.6072部
【0633】
(ミクロゲル(4)の作製)
上記ミクロゲル液(6)に用いたミクロゲル(4)の調製法を以下に示す。
【0634】
<多価イソシアネート化合物(1)の調製>
イソホロンジイソシアネート17.78部(80モル当量)と下記多価フェノール化合物(1)7.35部(20モル当量)との酢酸エチル(25.31部)懸濁溶液に、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)(ネオスタン U-600、日東化成(株)製)0.043部を加えて撹拌した。発熱が収まった時点で反応温度を50℃に設定し、3時間撹拌して多価イソシアネート化合物(1)の酢酸エチル溶液(50質量%)を得た。
【0635】
【化87】
【0636】
<ミクロゲル(4)の調製>
下記油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を45℃で4時間撹拌後、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン-オクチル酸塩(U-CAT SA102、サンアプロ(株)製)の10質量%水溶液5.20部を加え、室温で30分撹拌し、45℃で24時間静置した。蒸留水で、固形分濃度を21.8質量%になるように調整し、ミクロゲル(4)の水分散液を得た。動的光散乱式粒径分布測定装置LB-500((株)堀場製作所製)を用いて、光散乱法により体積平均粒径を測定したところ、0.28μmであった。
【0637】
(油相成分)
(成分1)酢酸エチル 12.0部
(成分2)トリメチロールプロパン(6モル)とキシレンジイソシアネート(18モル)を付加させ、これにメチル片末端ポリオキシエチレン(1モル、オキシエチレン単位の繰返し数:90)を付加させた付加体(50質量%酢酸エチル溶液、三井化学(株)製) 3.76部
(成分3)多価イソシアネート化合物(1)(50質量%酢酸エチル溶液として)
15.0部
(成分4)ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(SR-399、サートマー社製)の65質量%酢酸エチル溶液 11.54部
(成分5)スルホン酸塩型界面活性剤(パイオニンA-41-C、竹本油脂(株)製)の10%酢酸エチル溶液 4.42部
【0638】
(水相成分)
蒸留水 46.87部
【0639】
<バインダーポリマー(6)の合成>
三口フラスコに、1-メトキシ-2-プロパノール:78.0gを秤取り、窒素気流下、70℃に加熱した。この反応容器に、ブレンマーPME-100(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート、日本油脂(株)製):52.1g、メチルメタクリレート:21.8g、メタクリル酸:14.2g、ヘキサキス(3-メルカプトプロピオン酸)ジペンタエリスリトール:2.15g、V-601(2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、和光純薬工業(株)製):0.38g、1-メトキシ-2-プロパノール:54gからなる混合溶液を2時間30分かけて滴下した。滴下終了後、80℃に昇温し、更に2時間反応を続けた。V-601:0.04g、1-メトキシ-2-プロパノール:4gから成る混合溶液を加え、90℃に昇温して2.5時間反応を続けた。反応終了後、室温まで反応液を冷却した。
上記の反応溶液に1-メトキシ-2-プロパノール:137.2g、4-ヒドロキシテトラメチルピペリジン-N-オキシド:0.24g、グリシジルメタクリレート:26.0g、テトラエチルアンモニウムブロミド:3.0gを加えてよく撹拌した後、90℃にて加熱した。
18時間後、室温(25℃)まで反応溶液を冷却した後、1-メトキシ-2-プロパノール:99.4gを加えて希釈した。
こうして得られたバインダーポリマー(6)は、固形分濃度:23質量%、GPCで測定したポリスチレン換算重量平均分子量は3.5万であった。
【0640】
【化88】
【0641】
<バインダーポリマー(7)の合成>
三口フラスコに、1-メトキシ-2-プロパノール:78.00gを秤取り、窒素気流下、70℃に加熱した。この反応容器に、ブレンマーPME-100(メトキシジエチレングリコールモノメタクリレート、日本油脂(株)製):52.8g、メチルメタクリレート:2.8g、メタクリル酸:25.0g、ヘキサキス(3-メルカプトプロピオン酸)ジペンタエリスリトール:6.4g、V-601(2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、和光純薬工業(株)製):1.1g、1-メトキシ-2-プロパノール:55gからなる混合溶液を2時間30分かけて滴下した。滴下終了後、80℃に昇温し、更に2時間反応を続けた。2時間後、V-601:0.11g、1-メトキシ-2-プロパノール:1gから成る混合溶液を加え、90℃に昇温して2.5時間反応を続けた。反応終了後、室温まで反応液を冷却した。
上記の反応溶液に1-メトキシ-2-プロパノール:177.2g、4-ヒドロキシテトラメチルピペリジン-N-オキシド:0.28g、グリシジルメタクリレート:46.0g、テトラブチルアンモニウムブロミド:3.4gを加えてよく撹拌した後、90℃にて加熱した。
18時間後、室温(25℃)まで反応溶液を冷却した後、4-メトキシフェノールを0.06g、1-メトキシ-2-プロパノール:114.5gを加えて希釈した。
こうして得られたバインダーポリマー(7)は、固形分濃度:23質量%、GPCで測定したポリスチレン換算重量平均分子量は1.5万であった。
【0642】
【化89】
【0643】
【化90】
【0644】
【化91】
【0645】
<画像記録層B>
下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(2)をバー塗布し、100℃で60秒間オーブン乾燥し、厚さ1.0μmの画像記録層Bを形成した。
画像記録層塗布液(2)は下記感光液(2)及びミクロゲル液(5)を塗布直前に混合し撹拌することにより得た。
【0646】
感光液(2)
・バインダーポリマー(6) 23質量%1-メトキシ-2-プロパノール溶液
0.540部
・発色性化合物 (下記構造) 0.043部
・ボレート化合物(1)(テトラフェニルホウ酸ナトリウム)
0.030部
・重合性化合物(M-5) 0.500部
・アニオン性界面活性剤1 30質量%水溶液(下記構造)
0.25部
・フッ素系界面活性剤(1)(下記構造) 0.004部
・2-ブタノン 5.650部
・1-メトキシ-2-プロパノール 3.300部
・メタノール 1.30部
【0647】
【化92】
【0648】
<重合性化合物M-5の合成>
タケネートD-160N(ポリイソシアネート トリメチロールプロパンアダクト体、三井化学株式会社製、4.7部)、アロニックスM-403(東亞合成(株)製、タケネートD-160NのNCO価とアロニックスM-403の水酸基価が1:1となる量)、t-ブチルベンゾキノン(0.02部)、及びメチルエチルケトン(11.5部)の混合溶液を65℃に加熱した。反応溶液に、ネオスタンU-600(ビスマス系重縮合触媒、日東化成(株)製、0.11部)を加え、65℃で4時間加熱した。反応溶液を室温(25℃)まで冷却し、メチルエチルケトンを加えることで、固形分が50質量%のウレタンアクリレート溶液を合成した。リサイクル型GPC(機器:LC908-C60、カラム:JAIGEL-1H-40及び2H-40(日本分析工業(株)製))を用いて、テトラヒドロフラン(THF)の溶離液にて、ウレタンアクリレート(M-5)溶液の分子量分画を実施した。重量平均分子量は20,000であった。
【0649】
(ミクロゲル液(5))
・ミクロゲル(4)(固形分濃度21.8質量%) 1.8349部
・1-メトキシー2-プロパノール 0.4907部
【0650】
<画像記録層Cの形成>
下記組成の画像記録層塗布液(3)をバー塗布した後、70℃で60秒間オーブン乾燥し、厚さ0.6μmの画像記録層Cを形成した。
【0651】
(画像記録層塗布液(3))
・重合性化合物1*1 0.15部
・重合性化合物2*2 0.1部
・グラフトコポリマー2*3 0.825部
・Klucel M*4 0.020部
・Irgacure250*5 0.032部
・赤外線吸収剤1(下記構造) 0.02部
・テトラフェニルホウ酸ナトリウム 0.03部
・Byk 336*6 0.015部
・Black-XV*7 0.04部
・n-プロパノール 7.470部
・水 1.868部
*1:UA510H(共栄社化学(株)製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの反応物)
*2:ATM-4E(新中村化学工業(株)製、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート)
*3:グラフトコポリマー2は、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート/スチレン/アクリロニトリル=10:9:81のグラフトコポリマーのポリマー粒子であり、これを、n-プロパノール/水の質量比が80/20である溶媒中に、24質量%含有している分散体である。また、その体積平均粒径は193nmである。
*4:Klucel Mは、Hercules社製から入手可能なヒドロキシプロピルセルロースを意味する。
*5:Irgacure 250は、75%プロピレンカーボネート溶液として、Ciba specialty Chemicals社から入手可能なヨードニウム塩であり、そしてヨードニウム,(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル],-ヘキサフルオロホスフェートを有する。
*6:Byk 336は、25%キシレン/メトキシプロピルアセテート溶液中の、Byk Chemie社から入手可能な改質ジメチルポリシロキサンコポリマーである。
*7:Black-XV(山本化成(株)製)
【0652】
【化93】
【0653】
<非感光性層Aの形成>
下記組成の非感光性層塗布液(1)をバー塗布し、100℃で60秒間オーブン乾燥し、厚さ0.05μmの非感光性層Aを形成した。
【0654】
(非感光性層塗布液(1))
・ノニオン性界面活性剤1(下記構造) 0.02部
・着色剤(OIL YELLOW 105、オリエント化学工業(株))
0.015部
・メチルエチルケトン 5.587部
・1-メトキシ-2-プロパノール 3.725部
・メタノール 3.104部
【0655】
【化94】
【0656】
<親水性層A>
【0657】
下記組成の親水性層塗布液(1)をバー塗布し、120℃60秒間オーブン乾燥して厚さ0.5μmの親水性層Aを形成した。
【0658】
親水性層塗布液(1)
・ポリビニルアルコール(ゴーセランL-3266、日本合成化学工業(株)製、スルホン酸変性、けん化度85モル%) 0.500部
・アニオン性界面活性剤1 30%質量%水溶液 1.000部
・界面活性剤(ラピゾール A-80(下記)、日油(株)製) 0.024部
・水 18.00部
【0659】
【化95】
【0660】
【化96】
【0661】
<保護層Aの形成>
画像記録層上に、下記組成の保護層塗布液(1)をバー塗布し、120℃で60秒間オーブン乾燥し、厚さ0.20μmの保護層Aを形成した。
【0662】
(保護層塗布液(1))
・下記無機層状化合物分散液(1) 2.2210部
・ポリビニルアルコール(ゴーセランL-3266、日本合成化学工業(株)製、スルホン酸変性、けん化度85モル%)
0.086部
・界面活性剤(パイオニンA-32-B(下記構造)、竹本油脂(株)製)40質量%水溶液) 0.014部
・界面活性剤(サーフィノール465(下記構造)、日信化学(株)製)
0.006部
・リン酸(85質量%水溶液) 0.023部
・リン酸水素二アンモニウム 0.032部
・純水 5.600部
【0663】
(無機層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6部に合成雲母ソマシフME-100(コープケミカル(株)製)6.4部を添加し、ホモジナイザーを用いて体積平均粒子径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散して無機層状化合物分散液(1)を調製した。分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0664】
【化97】
【0665】
<保護層Bの形成>
画像記録層上に、下記組成の保護層塗布液(2)をバー塗布し、120℃で60秒間オーブン乾燥し、厚さ0.20μmの保護層Bを形成した。
【0666】
(保護層塗布液(2))
・上記無機層状化合物分散液(1) 2.210部
・ポリビニルアルコール(ゴーセランL-3266、日本合成化学工業(株)製、スルホン酸変性、けん化度85モル%)
0.086部
・界面活性剤(パイオニンA-32-B(上記構造)、竹本油脂(株)製)40質量%水溶液) 0.014部
・界面活性剤(サーフィノール465(上記構造)、日信化学(株)製)
0.006部
・リン酸(85質量%水溶液) 0.034部
・第三リン酸ソーダ・12水塩(日本化学工業(株)製)
0.057部
・純水 5.600部
【0667】
<エッジ塗布層Aの形成>
非接触ディスペンサー方式の武蔵エンジニアリング(株)社製AeroJetを使用した。クリアランス6mm、吐出圧0.05MPaの条件で、塗布量(固形分)が0.8g/mになるように搬送速度を調整して、平版印刷版原版の端面から0.3cmの領域にリン酸二水素Na 1.5質量%水溶液を塗布した後、エスペック(株)製恒温器PH-201を用いて120℃で1分間乾燥した。
【0668】
<バックコート層Aの形成>
(バックコート層塗布液(1)の調製)
・三菱ケミカル製、BR-605(アクリル樹脂) 11.072g
・クニミネ工業(株)製、スメクトン-SEN(平板粒子) 0.500g
・根上工業製、アクリル粒子 アートパールJ-6PF 0.975g
・花王(株)製、レオドールTW-S106V(ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノステアレート) 0.250g
・2-ブタノン 74.123g
・1-メトキシ-2-プロパノール 8.720g
・メタノール 4.360g
上記成分を混合、撹拌して、バックコート層塗布液(1)を調製した。
【0669】
支持体のバックコート層側(非印刷面側)の表面に、上記組成のバックコート層塗布液(1)をバー塗布し、100℃で120秒間乾燥し、厚さ1.2μmのバックコート層Aを形成した。
【0670】
〔平版印刷版原版、平版印刷版ダミー版の作製〕
上記支持体、下塗り層、画像記録層、保護層、親水性層、及びバックコート層を表1に記載のように組み合わせて平版印刷版原版1~3、平版印刷版ダミー版1、及び平版印刷版原版2Rを作製した。
【0671】
【表1】

【0672】
<平版印刷版原版、平版印刷版ダミー版の裁断>
平版印刷版原版、平版印刷版ダミー版を、図4に示すような回転刃を用いて、上側裁断刃と下側裁断刃の隙間、噛み込み量及び刃先角度を調整して裁断し、端部にダレ形状を形成した。
ダレ形状におけるダレ量X及びダレ幅Yを表1に記載する。
【0673】
[実施例1-1~1-7、比較例1-1R~1-2R]
(ミスト噴霧)
表2に示す各平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版についてミスト噴霧を行った。
ミスト噴霧は以下のように行った。
【0674】
ミスト噴霧条件
25℃環境における相対湿度として、30%RH環境下(25℃30%RH環境)の恒温恒湿室内で、板紙の両面をプラスチックでラミネートされた下当てボールを敷いた、塩化ビニル板が上面に固定配置された積載台上に、厚み0.3mmで398mm×1105mmサイズの、上記裁断した平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版100枚を厚み方向に積層し、積層した最上版上に板紙の両面をプラスチックでラミネートされた上当てボールをのせることで積層体を作成した。
2流体ノズルとして、スプレーイングシステムス社製のクイッグフォッガー(商品名)を用いて、エアー圧力0.2MPaに設定。版エッジからノズル先端までの距離は200mmとし、左右方向へ揺動する装置へノズル本体を装備。狙いの噴霧量になるように揺動速度(例えば5mm/s)と回数を設定して噴霧量を調整。恒温恒湿室内でミスト噴霧を行った。エッジ辺全ての領域(端部)へミストが噴霧されるように配置し、恒温恒湿室内でミスト噴霧を行った。
【0675】
表2に記載のミスト液種は、以下の通りである。使用するリン酸系化合物についても記載する。リン酸系化合物の濃度は、表2に示す。
1: イオン交換水
2: リン酸塩を含む水溶液(リン酸塩水溶液)
【0676】
ミスト噴霧における噴霧量は、表2に示す。
ミスト噴霧を行い得られた各平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版について、クラックの内部のアルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)についても測定した。
測定方法は、上述の通りである。
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を「比率(P/Al)」として表2に記載した。
【0677】
また、ミスト噴霧を行い得られた各平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版について、平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版の端部における1つ以上の構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版の端部以外の領域における1つ以上の構成層の固形分量をBとした場合、AとBとの差であるA-B(固形分量の差)も測定した。
測定方法は、上述の通りである。
溶剤と水の混合溶媒として、MFG(プロピレングリコールモノメチルエーテル):MEK(メチルエチルケトン):MA(メタノール):水=43:34:8:15(重量比)を用いた。
測定した固形分量の差(g/m)を表2に記載した。
【0678】
また、以下のようにエッジ汚れ防止性、セッター多重給版について評価した。
【0679】
<エッジ汚れ防止性>
上記のように得られた平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版を、赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxcel PLATESETTER T-6000IIIにて、外面ドラム回転数1,000rpm、レーザー出力70%、解像度2,4000dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像、50%網点、非画像部を含むチャートを用いた。露光時の環境は、25℃30%RHで行った。
画像露光した平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版を、(株)東京機械製作所製オフセット輪転印刷機に装着し、新聞用印刷インキとして、インクテック(株)製 ソイビーKKST-S(紅湿し水として、東洋インキ(株)製東洋ALKYを用いて、新聞用紙に100,000枚/時のスピードで印刷し、地汚れ解消の水目盛から1.5倍の水目盛で、1,000枚目の印刷物をサンプリングし、平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版の端部に起因する線状汚れの程度を下記の基準で評価した。
5:全く汚れていない
4:5と3の中間レベル
3:うっすらと汚れているが許容レベル
2:3と1の中間レベル(許容レベル)
1:はっきりと汚れており非許容レベル
【0680】
<セッター多重給版の防止性>
【0681】
包装体の作成、調湿可能部材の調湿条件
25℃30%RH環境の恒温恒湿室内で、板紙の両面をプラスチックでラミネートされた下当てボールを敷いた、塩化ビニル板が上面に固定配置された積載台上に、厚み0.3mmで398mm×1105mmサイズの、上記裁断してミスト噴霧して得られた平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版100枚を厚み方向に積層し、積層した最上版上に板紙の両面をプラスチックでラミネートされた上当てボールをのせることで積層体を作成した。
そして、未晒しクラフト紙にポリエチレンフィルムとアルミニウム箔とを貼り合わせた遮光防湿紙にて包装した後、後包装体を結束バンドで固定することで包装体を作成した。
上記のように得られた平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版の包装体から取り出した平版印刷版原版100枚又は平版印刷版ダミー版100枚を、NECエンジニアリング(株)製のCTPプレートセッター「AMZIsetter」にセットし、積層体の最上部から版を1枚ずつ取りだす操作を100回連続で行った。その際の版さばき性を下記の基準で評価した。多重給版の防止性としは5~3が許容範囲である。
5:版上昇時に次版が持ち上がらない現象が100%である。
4:版上昇時に次版が持ち上がり、すぐに落ちない現象が全体の1%以下である。
3:版上昇時に次版が持ち上がり、1度目のさばき動作で剥がれない現象が全体の1%以下である。
2:版上昇時に次版が持ち上がり、1度目のさばき動作で剥がれない現象が全体の1%を超え5%以下である。
1:版上昇時に次版が持ち上がり、1度目のさばき動作で剥がれない現象が全体の5%を超える。
【0682】
評価結果を表2に示す。
【0683】
【表2】
【0684】
[実施例2-1~2-6、比較例2-1R~2-3R]
(恒温高湿処理)
表3に示す各平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版について、表3に示す湿度環境(25℃における相対湿度)の恒温高湿室で、表3に示す時間曝した。尚、表3に示す湿度環境で曝す以外は25℃30%RH環境で取り扱いをした。
恒温高湿処理は以下のように行った。
【0685】
積層体の調湿条件
25℃30%RH環境の恒温恒湿室内で、板紙の両面をプラスチックでラミネートされた下当てボールを敷いた、塩化ビニル板が上面に固定配置された積載台上に、厚み0.3mmで398mm×1105mmサイズの、上記裁断した平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版100枚を厚み方向に積層し、積層した最上版上に板紙の両面をプラスチックでラミネートされた上当てボールをのせることで積層体を作成した。
別の恒温恒湿室を用いて温度25℃、湿度は表3へ示す湿度環境に設定し、積層体をその環境へ入れて表3へ示す時間を高湿下へ曝した。
【0686】
上記のように高湿下に晒すことにより得られた積層体から取り出した各平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版について、クラックの内部のアルミニウム支持体内に形成されたクラック領域の表面における、FE-AESにより測定されたアルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)についても測定した。
測定方法は、上述の通りである。
アルミニウム元素に対するリン元素の比率(P/Al)を「比率(P/Al)」として表3に記載した。
【0687】
また、上記のように高湿下に晒すことにより得られた積層体から取り出した各平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版について、平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版の端部における構成層の固形分量をAとし、上記平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版の端部以外の領域における構成層の固形分量をBとした場合、AとBとの差であるA-B(固形分量の差)も測定したが、AとBとの間で差はなかった。A-Bが0であった。
測定方法は、上述の通りである。
溶剤と水の混合溶媒として、MFG(プロピレングリコールモノメチルエーテル):MEK(メチルエチルケトン):MA(メタノール):水=43:34:8:15(重量比)を用いた。
【0688】
また、上記と同様にエッジ汚れ防止性、セッター多重給版について評価した。
なお、セッター多重給版の防止性については、上記裁断してミスト噴霧して得られた平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版100枚の代わりに、上記裁断して上記のように高湿下に晒すことにより得られた積層体から取り出した平版印刷版原版又は平版印刷版ダミー版100枚を使用した。
【0689】
評価結果を表3に示す。
【0690】
【表3】
【0691】
表2、表3に記載の結果から、本発明に係る平版印刷版原版及び平版印刷版ダミー版によれば、極めて優れたセッター給版性能と極めて優れたエッジ汚れ抑制性能とを両立し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0692】
1 平版印刷版原版の端部
1a 画像記録層面
1b 支持体面
1c 端面
2 ダレ形状領域
10 裁断刃
10a 上側裁断刃
10b 上側裁断刃
11 回転軸
20 裁断刃
20a 下側裁断刃
20b 下側裁断刃
21 回転軸
30 平版印刷版原版
31 アルミニウム板
32、34 ローラ状ブラシ
33 研磨スラリー液
35、36、37、38 支持ローラ
50 主電解槽
51 交流電源
52 ラジアルドラムローラ
53a、53b 主極
54 電解液供給口
55 電解液
56 スリット
57 電解液通路
58 補助陽極
60 補助陽極槽
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
414 電解処理槽
416 アルミニウム板
418、426 電解液
420 給電電極
422,428 ローラ
424 ニップローラ
430 電解電極
432 槽壁
434 直流電源
B 画像記録層面と支持体との境界
W アルミニウム板
X ダレ量
Y ダレ幅

図1
図2
図3
図4
図5
図6