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特開2024-146777組成物評価方法、組成物評価装置、組成物、及び組成物製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146777
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】組成物評価方法、組成物評価装置、組成物、及び組成物製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20241004BHJP
   G16C 20/70 20190101ALI20241004BHJP
   G16C 20/30 20190101ALI20241004BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20241004BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20241004BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
G16C20/70
G16C20/30
A23L33/17
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027851
(22)【出願日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2023059314
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 颯
(72)【発明者】
【氏名】中島 章裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 昌代
(72)【発明者】
【氏名】中山 魁
(72)【発明者】
【氏名】七海 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B029
【Fターム(参考)】
4B018LB03
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB08
4B018LB09
4B018MD19
4B018MD20
4B018ME02
4B018ME03
4B018ME06
4B018ME11
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB20
4B029FA12
4B029FA15
(57)【要約】
【課題】食品の有する機能の適正な評価を効率よく実施できる。
【解決手段】組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と前記複数の含有成分の成分量とを解析する解析部と、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出する分子記述子算出部と、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定する活性値推定部と、前記含有成分の推定した活性値及び前記成分量から、前記複数の含有成分の総和活性スコアを算出するスコア算出部と、を有し、前記活性値推定部は、既知成分における前記分子記述子から選択した特徴量と対応する活性値を教師データとして学習した学習済みモデルを使用し、前記含有成分の活性値を推定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と前記複数の含有成分の成分量とを解析する解析部と、
前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出する分子記述子算出部と、
前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定する活性値推定部と、
前記含有成分の推定した活性値及び前記成分量から、前記複数の含有成分の総和活性スコアを算出するスコア算出部と、を有し、
前記活性値推定部は、既知成分における前記分子記述子から選択した特徴量と対応する活性値を教師データとして学習した学習済みモデルを使用し、前記含有成分の活性値を推定する
組成物評価装置。
【請求項2】
前記学習済みモデルは、前記含有成分の化学構造と類似する化学構造の成分を、学習済みの成分から検出し、前記検出した成分の活性値を、前記含有成分の活性値として算出する
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項3】
前記総和活性スコアは、各含有成分の濃度を活性値で除した値の合算値の対数である
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項4】
前記総和活性スコアは、前記複数の含有成分それぞれの活性値に、前記複数の含有成分それぞれの成分量を乗じた数値を、合算した値である
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項5】
前記学習済みモデルは、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、
前記特徴量は、原子の表面積の和に関する特徴量を含む
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項6】
前記学習済みモデルは、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、
前記特徴量は、原子の電子分布の和に関する特徴量を含む
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項7】
前記学習済みモデルは、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、
前記特徴量は、原子ベースのLogP指標に関する特徴量を含む
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項8】
前記学習済みモデルは、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、
前記特徴量は、一つの化合物を構成する原子と原子間の結合を行列で表現し、対角成分を原子量とした場合の固有値に関する特徴量を含む
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項9】
前記学習済みモデルは、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、
前記特徴量は、水素結合ドナー数に関する特徴量を含む
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項10】
前記既知成分は、前記学習済みモデルを使用して推定した前記含有成分を含み、
前記対応する活性値は、前記学習済みモデルを使用して推定した、前記含有成分の活性値を含む
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項11】
前記含有成分は、ペプチドであって、
前記活性値は、ACE(アンジオテンシンI変換酵素:Angiotensin-I Converting Enzyme)における半数阻害濃度であって、
前記既知成分は、活性値が既知であるペプチドであって、
前記スコア算出部は、前記算出したACEにおける半数阻害濃度に基づき、前記総和活性スコアを算出する
請求項1記載の組成物評価装置。
【請求項12】
組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と前記複数の含有成分の成分量とを解析する解析工程と、
前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出する記述子算出工程と、
前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定する推定工程と、
前記含有成分の推定活性値及び前記成分量から、前記複数の含有成分の総和活性スコアを算出するスコア算出工程と、を有し、
前記推定工程において、既知成分における前記分子記述子から選択した特徴量と対応する活性値を教師データとして学習した学習済みモデルを使用し、前記含有成分の活性値を推定する
組成物評価方法。
【請求項13】
総和活性スコアによる評価に基づき製造する組成物であって、
前記総和活性スコアは、
前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、
前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、
前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、
前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、
組成物。
【請求項14】
総和活性スコアによる評価に基づき、組成物を製造する製造方法であって、
前記総和活性スコアは、
前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、
前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、
前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、
前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、
組成物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物評価方法、組成物評価装置、組成物、及び組成物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、組成物、例えば、食品が有する機能が注目されている。機能とは、例えば、栄養に係わる機能、嗜好に関する機能、及び生体調節に関する機能などがある。特に、栄養や生体調節に関する機能を有する食品は、健康維持、又は病気や怪我の治療の観点からも注目されている。
【0003】
ある機能を有する食品は、例えば、機能性食品と呼ばれる場合がある。機能性食品において、科学的根拠に基づいた機能性が事業者の責任において表示される食品として、機能性表示食品がある。機能性表示食品は、例えば、「食後の血糖値の上昇を抑える」や「おなかの調子を整える」など、その食品を摂取することにより期待される特定の保健の目的が、食品のパッケージなどに表示されている。顧客は、例えば、この表示を参照し、自身が求める特定の保健の目的(効果、機能)を有する食品を購買する。
【0004】
例えば、プラズマ乳酸菌を含む飲食物は、「pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています」と表示され、機能性表示食品として生産、販売されている。
【0005】
この機能性表示食品については、乳酸菌を有効成分として含むIFN産生を誘導し得るIFN誘導剤、該誘導剤を含む免疫増強剤あるいはウイルス感染防御剤、該誘導剤を含むIFN誘導活性、免疫増強活性若しくはウイルス感染防御活性を有する飲食品に関する技術として、以下に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-201984号公報
【特許文献2】国際公開第2012/091081号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、組成物に表示される機能は、その組成物中の特定の責任成分の含有量や摂取量などに基づいて検討されてきた。
【0008】
γ-アミノ酪酸(以下、GABA)を多く含む食品は、例えば、「睡眠の質(寝つき、
眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ機能があることが報告されています」などと表示される。また、ガレート型カテキンを多く含む食品は、例えば、「体脂肪を減らす機能や、LDLコレステロールを減らす機能があることが報告されています」などと表示される。
【0009】
しかし、GABAを多く含む食品(機能関与成分を主たる成分とするサプリメントを除く)でも、「睡眠の質(寝つき、眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ」という機能を阻害する成分が含まれる場合がある。この場合、この食品を摂取しても、想定しているほど効果を得られない。
【0010】
また、ある食品は、例えば、GABAを含まないが、「睡眠の質(寝つき、眠りの深さ
、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ」という機能を有する成分を複数種類含む場合がある。しかし、複数種類の成分のそれぞれが、GABAよりも「睡眠の質(寝つき、眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ」という効果が低い場合、ある食品は「睡眠の質(寝つき、眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ」という機能を有するにも関わらず、「睡眠の質(寝つき、眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ」食品として評価されない場合がある。
【0011】
このように、1つの責任成分を含むか否かで食品の機能を評価すると、その食品が有する機能を、的確に評価できない場合がある。よって、食品の機能を的確に評価するには、複数の成分の影響を考慮する必要がある。
【0012】
しかし、食品に含まれる全ての成分についての機能が解明されているわけではない。また、全ての成分を考慮して、その食品の有する機能を正確に評価することは、莫大な解析と計算が必要となり、時間的にもコスト的にも実現は困難である。
【0013】
そこで、一開示は、食品の有する機能の適正な評価を効率よく実施できる、組成物評価方法、組成物評価装置、組成物、及び組成物製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と前記複数の含有成分の成分量とを解析する解析部と、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出する分子記述子算出部と、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定する活性値推定部と、前記含有成分の推定した活性値及び前記成分量から、前記複数の含有成分の総和活性スコアを算出するスコア算出部と、を有し、前記活性値推定部が、既知成分における前記分子記述子から選択した特徴量と対応する活性値を教師データとして学習した学習済みモデルを使用し、前記含有成分の活性値を推定する組成物評価装置、に関するものである。
【0015】
本発明は、前記学習済みモデルが、前記含有成分の化学構造と類似する化学構造の成分を、学習済みの成分から検出し、前記検出した成分の活性値を、前記含有成分の活性値として算出する組成物評価装置、に関するものである。
【0016】
本発明は、前記総和活性スコアが、各含有成分の濃度を活性値で除した値の合算値の対数である組成物評価装置、に関するものである。
【0017】
本発明は、前記総和活性スコアが、前記複数の含有成分それぞれの活性値に、前記複数の含有成分それぞれの成分量を乗じた数値を、合算した値である組成物評価装置、に関するものである。
【0018】
本発明は、前記学習済みモデルが、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、前記特徴量が、原子の表面積の和に関する特徴量を含む組成物評価装置、に関するものである。
【0019】
本発明は、前記学習済みモデルが、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、前記特徴量が、原子の電子分布の和に関する特徴量を含む組成物評価装置、に関するものである。
【0020】
本発明は、前記学習済みモデルが、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、前記特徴量が、原子ベースのLogP指標に関する特徴量を含む組成物評価装置、に関するものである。
【0021】
本発明は、前記学習済みモデルが、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、前記特徴量が、一つの化合物を構成する原子と原子間の結合を行列で表現し、対角成分を原子量とした場合の固有値に関する特徴量を含む組成物評価装置、に関するものである。
【0022】
本発明は、前記学習済みモデルが、成分の化学構造の前記特徴量及び前記活性値を用いて学習済みであって、前記特徴量が、水素結合ドナー数に関する特徴量を含む組成物評価装置、に関するものである。
【0023】
本発明は、前記既知成分が、前記学習済みモデルを使用して推定した前記含有成分を含み、 前記対応する活性値が、前記学習済みモデルを使用して推定した、前記含有成分の活性値を含む組成物評価装置、に関するものである。
【0024】
本発明は、前記含有成分が、ペプチドであって、前記活性値が、ACE(アンジオテンシンI変換酵素:Angiotensin-I Converting Enzyme)における半数阻害濃度であって
、前記既知成分が、活性値が既知であるペプチドであって、前記スコア算出部が、前記算出したACEにおける半数阻害濃度に基づき、前記総和活性スコアを算出する組成物評価装置、に関するものである。
【0025】
本発明は、組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の含有成分と前記複数の含有成分の成分量とを解析する解析工程と、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出する記述子算出工程と、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定する推定工程と、前記含有成分の推定活性値及び前記成分量から、前記複数の含有成分の総和活性スコアを算出するスコア算出工程と、を有し、前記推定工程において、既知成分における前記分子記述子から選択した特徴量と対応する活性値を教師データとして学習した学習済みモデルを使用し、前記含有成分の活性値を推定する組成物評価方法、に関するものである。
【0026】
本発明は、総和活性スコアによる評価に基づき製造する組成物であって、前記総和活性スコアが、前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の前記含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、組成物、に関するものである。
【0027】
本発明は、総和活性スコアによる評価に基づき、組成物を製造する製造方法であって、前記総和活性スコアが、前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の前記含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、組成物製造方法、に関するものである。
【発明の効果】
【0028】
一開示は、組成物の有する機能の適正な評価を効率よく実施できることにある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、食品評価システム10の構成例を示す図である。
図2図2は、食品評価装置100の構成例を表す図である。
図3図3は、総和活性スコアの概念の例を示す図である。
図4図4は、食品評価処理における、ソフトウェア構成の例を示す図である。
図5図5は、モデル学習処理における、ソフトウェア構成の例を示す図である。
図6図6は、食品評価処理S100の処理フローチャートの例を示す図である。
図7図7は、成分解析処理S102の処理フローチャートの例を示す図である。
図8図8は、分子記述子算出処理S104の処理フローチャートの例を示す図である。
図9図9は、算出する特徴量の例を示す図である。
図10図10は、推定活性値算出処理S105の処理フローチャートの例を示す図である。
図11図11は、総和活性スコア算出処理S106の処理フローチャートの例を示す図である。
図12図12は、総和活性スコアを算出する式の例を示す図である。
図13図13は、モデル学習処理S200の処理フローチャートの例を示す図である。
図14図14は、食品A及び食品Bの総和活性スコアの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態について説明する。
【0031】
以降で説明する食品評価は、組成物評価の一例であって、文中の「食品」は「組成物」と置き換えることができるものとする。また、組成物評価は、生薬評価も含み、文中の「組成物」や「食品」は、「生薬」と置き換えることができるものとする。さらに、組成物は、食品及び生薬に限られないものとする。
【0032】
<食品評価システム10の構成例>
図1は、食品評価システム10の構成例を示す図である。食品評価システム10は、食品評価装置100を有する。食品評価システム10は、食品評価装置100に評価の対象となる対象食品の成分の測定結果のデータD1を入力され、対象食品の総和活性スコアR1を出力する。また、食品評価システム10は、既知成分の化学構造情報とそれに対応する活性値からなるデータ群D2を入力され、取得する。食品評価装置100は、データ群D2を記憶し、前記既知成分の化学構造情報から、前記既知成分の特徴量を算出する。食品評価装置100は、前記既知成分の特徴量とそれに対応する活性値を教師データとして用い、AI(Artificial Intelligence)である学習モデル(推定活性値算出モデル)に学習させ、学習済みモデルを構築する。
【0033】
化学構造情報は、化学構造に関する情報であって、例えば、アミノ酸の1文字表記、3文字表記、SMILES記法などの分子構造を特定できる表記に関する情報を含む。また、化学構造情報は、例えば、成分名や化学式など、化学構造を特定できる情報を含んでもよい。
【0034】
なお、データ群D2は、既知の複数の成分に対応する複数のデータを示すデータ群である。また、データ群D2は、既存の文献、公共データベース、実験結果などから抽出したデータ群を示す。
【0035】
食品評価装置100は、データD1を取得し、対象食品の総和活性スコアR1を算出し、出力する。食品評価装置100は、例えば、データをファイル化したり、画面上に表示したりすることで出力する。
【0036】
食品評価装置100は、データD1に含まれる成分の化学構造を、記憶する成分の化学構造から探索する。そして、食品評価装置100は、データD1に含まれる成分の化学構造と、データ群D2に含まれる活性値が判明している成分の化学構造とを比較し、化学構造の類似度合いからデータD1に含まれる成分の活性値を推定する。そして、食品評価装置100は、データD1に含まれる各成分に対して推定した活性値から、対象食品の総和活性スコアを算出する。
【0037】
総和活性スコアは、対象食品に含まれる複数成分の活性値を考慮した数値であって、例えば、個別の成分ごとに成分量と活性値を乗じた数値の合算値となる。なお、各成分の活性値の推定は、学習済みの推定活性値算出モデルによって実行される。
【0038】
活性値とは、例えば、生体(例えばヒト)に与える効果や影響の度合い又は量を示す。効果や影響は、良好なもの、及び不良なものの両方を含むものとする。活性値は、例えば、IC50(50%阻害濃度)、EC50(50%有効濃度)、pD2(有効性の指標)、pA2(競合的拮抗剤の活性指標)、pD´2(非競合的拮抗剤の活性指標)、ED50(半数有効量)、LD50(半数致死量)、NOEL(無影響量)、NOAEL(無毒性量)、LOAEL(最小毒性量)、BMDL(Benchmark Dose Lower Confidence Limit)、ADI(一日摂取許容量)、ARfD(急性参照用量)等を挙げることができる。また、活性値に寄与する物質(成分)は、例えば、生物活性物質と呼ばれることがある。生物活性物質には、例えば、人体の特定の生理機能を調節する物質のみならず、特定の機能を阻害する物質も含まれる。
【0039】
評価の対象となる組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、食品や生薬が挙げられる。食品は、例えば、複数成分を含有する生鮮食品や加工食品が挙げられ、食品に添加して使用される食品添加物や調味料も含まれる。生薬は、例えば、複数成分を含有する動植物由来加工物が挙げられ、これらの抽出物も含まれる。
【0040】
<食品評価装置100の構成例>
図2は、食品評価装置100の構成例を表す図である。食品評価装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、ストレージ120、メモリ130、及びディスプ
レイ150を有する。
【0041】
ストレージ120は、プログラムやデータを記憶する、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置である。ストレージ120は、成分解析プログラム121、分子記述子算出プログラム122、推定活性値算出プログラム126、総和活性スコア算出プログラム124、及びモデル学習プログラム125を記憶する。
【0042】
メモリ130は、ストレージ120に記憶されているプログラムをロードする領域である。また、メモリ130は、プログラムがデータを記憶する領域としても使用されてもよい。
【0043】
ディスプレイ150は、総和活性スコアや入出力データなどを表示する画面であり、表示部である。ディスプレイ150は、例えば、一体型でもよいし、外部接続されるものであってもよい。
【0044】
CPU110は、ストレージ120に記憶されているプログラムを、メモリ130にロードし、ロードしたプログラムを実行し、各部を構築し、各処理を実現するプロセッサである。
【0045】
CPU110は、成分解析プログラム121を実行することで、成分解析部を構築し、成分解析処理を行う。成分解析処理は、対象食品の成分測定データから、対象食品に含まれる成分及びその成分の分量(割合)などを算出する処理である。また、成分解析処理は、例えば、対象食品の成分を特定し、特定した成分の化学構造を特定する。
【0046】
CPU110は、分子記述子算出プログラム122を実行することで、分子記述子算出部を構築し、分子記述子算出処理を行う。分子記述子算出処理は、対象食品に含まれる成分の化学構造から、分子記述子を算出する。分子記述子は、例えば、化学構造情報から算出される化学構造の特徴であって、分子構造などから算出される物理化学情報である。分子記述子は、分子記述子算出処理において、例えば、約2000種類が算出される。
【0047】
CPU110は、総和活性スコア算出プログラム124を実行することで、総和活性スコア算出部(スコア算出部)を構築し、総和活性スコア算出処理を行う。総和活性スコア算出処理は、各成分の推定活性値から、対象食品の総和活性スコアを算出する処理である。
【0048】
CPU110は、モデル学習プログラム125を実行することで、モデル学習部を構築し、モデル学習処理を行う。モデル学習処理は、推定活性値算出モデル123に教師データを入力し、学習させる処理である。
【0049】
CPU110は、推定活性値算出プログラム126を実行することで、推定活性値算出部を構築し、推定活性値算出処理を行う。推定活性値算出処理は、成分の化学構造情報に基づき、当該成分の活性値を推定する処理である。推定活性値算出処理は、推定活性値算出モデル123を使用し、成分の推定活性値を算出する。
【0050】
推定活性値算出モデル123は、例えば、AIであり、入力された成分の活性値を推定する。推定活性値算出モデル123は、例えば、CPU110に特定のプログラムが実行されることで構築される。推定活性値算出モデル123は、入力された成分の化学構造と、学習済みの成分の化学構造を比較し、類似性を判定する。そして、推定活性値算出モデル123は、類似性に応じて、入力された成分の活性値を推定する。
【0051】
また、推定活性値算出モデル123は、入力された成分の化学構造と類似する化学構造を有する学習済みの成分を検出(探索)し、検出した成分の活性値を、入力された成分の活性値として算出してもよい。
【0052】
また、推定活性値算出モデル123は、活性値が既知である成分の化学構造情報及び活性値を学習し、学習済みモデルとなる。推定活性値算出モデル123は、例えば、化学構造に関する特徴量(又は分子記述子)と活性値を教師データとし、学習を行う。
【0053】
<総和活性スコアについて>
総和活性スコアについて説明する。総和活性スコアは、1つの責任成分による食品の評価値ではなく、食品に含まれる複数の成分による総合的な評価値である。
【0054】
図3は、総和活性スコアの概念の例を示す図である。成分群G1に含まれる栄養成分や機能性成分は、既知の成分であり、責任成分の1つとして食品の評価に用いられる。成分群G1に含まれる成分としては、例えば、GABAがあり、睡眠の質(寝つき、眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ作用を有する成分として知られている。1つの責任成分による食品の評価としては、食品のGABAの含有量がある一定量以上であることをもって、睡眠の質(寝つき、眠りの深さ、すっきりとした目覚め)の向上に役立つ作用を発揮する食品と評価される。
【0055】
しかし、この評価方法では、責任成分以外の成分が有する活性値(体に与える効果)を評価していないため、食品を適正に評価できない場合がある。そこで、食品評価システム10は、複数の成分(好ましくは全ての成分)を考慮した、総和活性スコアによる食品の
評価を行う。
【0056】
総和活性スコアは、成分群G1に加え、成分群G2~G4も考慮した値である。例えば、「病気Xの予防効果」の総和活性スコアの例について説明する。例えば、ある食品Qは、成分群G1の成分a、成分群G2の成分b、成分群G3の成分c、成分群G4の成分dを少なくとも有するものとする。
【0057】
例えば、成分群G1の成分aは、病気Xの予防に対する効果が認められない成分とする。この場合、1つの責任成分による評価であれば、食品は病気Xの予防効果がないと評価される。
【0058】
しかし、成分b、成分c、成分dそれぞれが、病気Xの発症を抑制する効果を、少ないながらも有する場合がある。1つ1つの成分では少ない効果であるが、3つの成分の合計量が多くなれば、効果も大きくなる。よって、総和活性スコアを用いた評価では、成分b、成分c、成分dの合計量によっては、食品Qは病気Xの予防効果があると評価される。
【0059】
また、病気Xの原因は、1つではなく複数の要素の組み合わせであることが多い。例えば、認知症は、アルツハイマー型や脳血管性認知症など、複数の病気の総称である。脳血管性認知症の原因としては、例えば、動脈硬化や脳血流の低下などがある。さらに、動脈硬化の原因としては、例えば、高血圧症や糖尿病などがある。
【0060】
認知症を予防するためには、例えば、動脈硬化を予防することが効果的である。一方で、動脈硬化の原因である高血圧症を予防することも、間接的ではあるが、認知症の予防効果がある。
【0061】
そこで、食品評価システム10は、総和活性スコアの算出において、間接的な効果(活性値)も考慮する場合がある。例えば、成分aは病気Xの直接的な予防効果を有し、成分b、成分c、及び成分dが病気Xの間接的な予防効果を有する場合がある。この場合、総和活性スコアは、成分aの活性値に加え、成分b、成分c、及び成分dの活性値も加算した値となる。また、総和活性スコアは、係数を使用し、直接的な効果を有する成分aと、間接的な効果を有する成分b、成分c、及び成分dとの重みを変更してもよい。例えば、総和活性スコアが、各成分の活性値の合計であるとき、成分b、成分c、及び成分dに、成分aよりも低い係数を乗じて加算する。
【0062】
なお、例えば、成分dが、動脈硬化を予防する成分の活性を阻害するなど、病気Xに対して逆効果である場合がある。この場合、総和活性スコアの算出において、成分dはマイナスの値として計算される。
【0063】
上述したように、総和活性スコアは、食品に含まれる複数の成分の活性値を、総合的に評価した値であって、人体おける効果の度合いを示す値である。総和活性スコアは、例えば、値が大きいほど、効果が大きい。
【0064】
総和活性スコアは、食品に含まれる各成分単独では機能性(効果)が弱い場合でも、複数成分を総合的に評価することで、食品の有する効果をより適正に評価することができる。
【0065】
また、総和活性スコアは、例えば、複数の病気それぞれの予防効果の度合いを示すことが可能である。例えば、医療従事者や食品会社は、複数の病気を予防したいユーザや患者に対して、総和活性スコアを考慮した食品の組み合わせを提案したり、総和活性スコアを考慮した食品を企画・製造したりすることで、ユーザや患者の要望に適切に応えることが
できる。
【0066】
なお、解析対象となる食品に含まれる成分は特に限定されるものではないが、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、有機酸、脂質、多糖、オリゴ糖、糖類、ビタミン、ミネラル、ポリフェノール、アルカロイド、カロテノイド、テルペン、代謝産物、香気成分、呈味成分等のカテゴリーに属する成分が挙げられる。
【0067】
<食品評価装置100のソフトウェア構成例>
食品評価装置100は、成分解析部20、分子記述子算出部21、推定活性値算出部22、総和活性スコア算出部23、及びモデル学習部24を有する。以下、食品評価処理及びモデル学習処理における、各部及びモデルの処理概要について説明する。
【0068】
<1.食品評価処理におけるソフトウェア構成>
図4は、食品評価処理における、ソフトウェア構成の例を示す図である。食品評価処理は、対象食品の総和活性スコアを出力する処理である。
【0069】
成分解析部20は、対象食品の成分測定結果D10を取得する(S10)。成分測定結果D10は、例えば、化学構造や成分量を算出できる生データ(例えば、LC-MS/M
Sのデータなど)や、成分名や化学構造に関するデータを含む加工済みデータ(例えば、アミノ酸配列情報など)を含む。また、成分解析部20は、成分測定結果D10から、対象食品に含まれる成分名、化学構造を解析し、各成分の分量(以降、成分量と呼ぶ場合がある)を取得、または算出(推定)する。そして、成分解析部20は、化学構造リスト(成分名とその化学構造を示す一覧)D11を、分子記述子算出部21に出力する(S11)。また、成分解析部20は、成分名とその成分量を含む成分量リストD12を、総和活性スコア算出部23に出力する(S12)。
【0070】
分子記述子算出部21は、化学構造リストD11を取得し(S11)、化学構造リストD11に含まれる各成分の化学構造から分子記述子を算出する。分子記述子算出部21は、例えば、成分とその成分の分子記述子を対応づけて記憶する記憶情報から、当該成分を検索し、分子記述子として算出する。また、分子記述子算出部21は、成分ごとに、化学構造に関する分子記述子を算出する。そして、分子記述子算出部21は、成分の分子記述子のデータ群D13を、推定活性値算出部22に出力する(S13)。
【0071】
推定活性値算出部22は、データ群D13を取得すると(S13)、各成分の推定活性値を算出する。推定活性値算出部22は、例えば、化学構造が類似した成分は類似した生物活性を有すると仮定し、各成分の活性値を推定する。推定活性値算出部22は、成分の推定活性値のデータ群D14を、総和活性スコア算出部23に出力する(S14)。なお、推定活性値算出部22は、学習済みのモデル(推定活性値算出モデル)を使用し、推定活性値を算出する。
【0072】
なお、推定活性値算出部22は、例えば、学習に使用した特徴量と同種の分子記述子を抽出し、活性値の推定に使用してもよい。また、推定活性値算出部22は、学習に使用した特徴量と同種の分子記述子と、それ以外の分子記述子(例えば、全ての分子記述子)を、活性値の推定に使用してもよい。
【0073】
総和活性スコア算出部23は、データ群D14を取得すると(S14)、データ群D14の各成分の活性値と、成分解析部20から取得した成分の成分量リストD12とに基づき、対象食品の総和活性スコアを算出する。そして、総和活性スコア算出部23は、算出した総和活性スコアR10を、画面やファイルなどに出力する(S15)。
【0074】
<2.モデル学習処理におけるソフトウェア構成>
図5は、モデル学習処理における、ソフトウェア構成の例を示す図である。モデル学習処理は、推定活性値算出部22の有する推定活性値算出モデル123を学習させる処理である。
【0075】
モデル学習部24は、成分(活性値が既知である成分)の化学構造情報及びその活性値のデータ群D20を取得する(S20)。モデル学習部24は、データ群D20から、成分の化学構造を取り出す。そして、モデル学習部24は、成分の化学構造から、分子記述子を算出する。
【0076】
モデル学習部24は、算出した分子記述子から、学習に使用する分子記述子を、特徴量として選択する。そして、モデル学習部24は、成分の特徴量及び対応する活性値を教師データとし、教師データ群D21を、推定活性値算出モデル123を有する推定活性値算出部22に出力する(S23)。
【0077】
推定活性値算出部22の有する推定活性値算出モデル123は、教師データ群D21を入力され(S23)、化学構造の特徴量及び活性値を成分ごとに学習し、学習済みモデルとなる。
【0078】
<各処理の詳細>
各処理の詳細及び例について説明する。
【0079】
<1.食品評価処理>
図6は、食品評価処理S100の処理フローチャートの例を示す図である。食品評価装置100は、対象食品の成分測定結果を取得する(S101)。
【0080】
食品評価装置100は、成分解析処理を行う(S102)。
【0081】
図7は、成分解析処理S102の処理フローチャートの例を示す図である。食品評価装置100は、対象食品の成分測定結果を取得する(S102-1)。
【0082】
食品評価装置100は、対象食品の成分測定結果を解析する(S102-2)。解析は、成分の種類(化学構造)及び成分量を算出(推定)する処理である。
【0083】
食品評価装置100は、解析の結果、含まれる成分(化学構造)を抽出し(S102-3)、さらに含まれる成分の成分量を算出し(S102-4)、処理を終了する。
【0084】
例えば、ACE(アンジオテンシンI変換酵素:Angiotensin-I Converting Enzyme
)における半数阻害濃度IC50(ACEの働きの50%を阻害する濃度)の総和活性スコアを算出する例(以降、この例を、ACE阻害活性例と呼ぶ場合がある)について説明する。また、ACE阻害活性例においては、対象成分をペプチドとし、その他の成分については考慮しないものとする。ACE阻害活性例における成分解析は、ペプチドーム解析を含む。ペプチドーム解析を行うことで、含有されると推定されるペプチドの種類、及びそれぞれのペプチドの推定成分量が算出される。成分量は、例えば、LC-MS/MSに
よるXIC(抽出イオンクロマトグラム)のピーク面積やTIC(トータルイオンクロマトグラム)のピーク総面積など用いて算出される。
【0085】
図6の処理フローチャートに戻り、食品評価装置100は、抽出された全ての成分に対して(S103のYes)、分子記述子算出処理を行い(S104)、さらに推定活性値算出処理を行う(S105)。
【0086】
図8は、分子記述子算出処理S104の処理フローチャートの例を示す図である。食品評価装置100は、分子記述子を算出する対象の成分の化学構造を取得する(S104-1)。
【0087】
食品評価装置100は、取得した化学構造から、成分の分子記述子を算出し(S104-2)、処理を終了する。
【0088】
図10は、推定活性値算出処理S105の処理フローチャートの例を示す図である。食品評価装置100は、成分の分子記述子を取得する(S105-1)。
【0089】
食品評価装置100は、成分の分子記述子を推定活性値算出モデル(学習済みモデル)に入力し、推定活性値算出モデルに成分の推定活性値を算出させ(S105-2)、処理を終了する。推定活性値算出モデルは、学習済みであり、成分の分子記述子から、推定活性値を算出することができる。
【0090】
ACE阻害活性例において、推定活性値算出モデルは、ペプチドの種類に応じた推定活性値を算出する。この推定活性値は、ACE阻害活性を有するペプチドや他の成分を教師データとした学習済みモデルによって、推定された活性値である。なお、教師データに使用する特徴量については、以降で説明する。
【0091】
図6の処理フローチャートに戻り、全ての成分について推定活性値の算出が完了すると(S103のNo)、総和活性スコア算出処理を行い(S106)、処理を終了する。
【0092】
図11は、総和活性スコア算出処理S106の処理フローチャートの例を示す図である。食品評価装置100は、成分ごとの推定活性値及び成分量を取得する(S106-1)。食品評価装置100は、取得した成分ごとの推定活性値と成分量より、対象食品の総和活性スコアを算出し(S106-2)、処理を終了する。
【0093】
ACE阻害活性例における、総和活性スコアの例について説明する。図12は、総和活性スコアを算出する式の例を示す図である。
【0094】
式(1)は、環境毒性学の分野における混合物の毒性評価モデルの式の例である。Piは、成分iの割合(濃度)を示す。ECxは、x%における効果濃度を示す。式(1)は、各成分の濃度を毒性値で除した値の総和(合算値)である。
【0095】
総和活性スコアの式(2)は、毒性の発生とACE阻害活性が、同様のメカニズムで発生していると仮定し、式(1)の濃度加算の概念を利用し、式(1)を変形したものである。IC50は、各成分のACE阻害活性における半数阻害濃度を示す。式(2)は、各成分の濃度を各半数阻害濃度で除した値の総和(合算値)の対数(常用対数、自然対数など)である。
【0096】
なお、ACE阻害活性例における総和活性スコアは、食品の実測によるACE阻害濃度と比較しても、相関関係を示す決定係数R2が、およそ0.5程度となり、強い相関関係が認められ、総和活性スコアによる評価の正当性が高いと言える。
【0097】
また、総和活性スコアは、例えば、病気Xの予防効果のスコア、及び病気Yの予防効果のスコアなど、複数種類が算出されてもよい。例えば、DPP-4阻害、抗酸化活性、SGLT1活性阻害、GLUT2活性阻害、FOXO1活性阻害などを組み合わせて病気X、病気Yの予防スコアなどを算出することができる。
【0098】
総和活性スコアの例について説明する。図14は、食品A及び食品Bの総和活性スコアの例を示す図である。図14の表1は、食品の成分含有量及びある酵素の半数阻害濃度を示す表であり、食品A及び食品Bに含まれる成分1~5の含有量(ミリグラム)及び、各成分の半数阻害濃度が示される。図14の表2は、食品評価装置100が算出した食品A及び食品Bの総和活性スコアの表である。
【0099】
食品評価装置100は、例えば、表1の値を図12の式(2)に代入すると、以下のようになる。

食品Aの総和活性スコア =Log10(0.1/10+1/0.1+10/0.01+0/100+1/100)
=3.004・・・

食品Bの総和活性スコア =Log10(10/10+0.01/0.1+0.1/0.01+1/100+10/100)
=1.049・・・
【0100】
食品評価装置100は、例えば、小数点第3位を四捨五入し、食品Aの総和活性スコアを3.00、食品Bの総和活性スコアを1.05と算出する。これにより、食品Aの総和活性スコアの方が食品Bの総和活性スコアよりも高くなり、食品Aの方がある酵素の阻害活性の度合いが強い食品であると評価することができる。
【0101】
<2.モデル学習処理>
図13は、モデル学習処理S200の処理フローチャートの例を示す図である。食品評価装置100は、活性成分(以下、成分と呼ぶ場合がある)の化学構造情報及び活性値を取得する(S200-1)。ここで、取得する成分の化学構造情報及び活性値は、例えば、文献データである。
【0102】
食品評価装置100は、成分の化学構造情報から、成分の分子記述子を算出し、特徴量を選出する(S200-2)。ここで、食品評価装置100は、例えば、成分の活性値に関連が深いと推測される分子記述子を、特徴量として選出する。また、食品評価装置100は、例えば、顕著に特徴が表れている分子記述子を、特徴量として選出してもよい。特徴量は、分子記述子から選出された値である。すなわち、特徴量は、約2000種類が算出される分子記述子の一種である。
【0103】
食品評価装置100は、算出された成分の特徴量と活性値を用いて、教師データを生成する(S200-2)。そして、食品評価装置100は、教師データを、推定活性値算出部22に入力し、推定活性値算出部22に学習を実行させ(S200-3)、処理を終了する。
【0104】
ACE阻害活性例において算出する特徴量について説明する。図9は、算出する特徴量の例を示す図である。ACE阻害活性例において算出される特徴量は、例えば、10種類である。10種類の特徴量は、対象成分であるペプチドの化学構造の特徴(傾向)を捉えるのに適した特徴量である。ACE阻害活性例においては、図9に示すように、対象成分であるペプチドの化学構造の特徴を捉えるのに適した分子記述子を、特徴量として選択する。
【0105】
なお、図9に記載された数値は、あくまで例であって、異なる数値を使用した特徴量も含み得る。また、食品評価装置100は、図9に示された特徴量以外の特徴量を算出してもよい。ここで算出される特徴量は、例えば、モデル学習において使用された特徴量に応じたものであることが好ましい。モデル学習において使用された特徴量に応じたものとは、同じ特徴量以外に、特徴量の算出における数値を変更したものなどを含む。また、モデル学習において使用された特徴量に応じたものとは、化学構造における類似した傾向を示す特徴量を含む。モデル学習処理では、文献データから教師データを生成することで、膨大なデータ量となる。しかし、算出する特徴量を限定することで、教師データの生成における手間や時間が抑制できる。
【0106】
また、教師データは、文献データ以外に、学習モデルを使用して推定した活性値を用いてもよい。例えば、食品評価装置100は、未知の(文献データにない)成分について、学習モデルを使用して活性値を推定する。食品評価装置100は、この推定した活性値と、未知の成分の特徴量を教師データとしてもよい。これにより、教師データの種別を増加させることができ、学習モデルに対して、より深く学習させることが可能となる。
【0107】
[その他の実施の形態]
総和活性スコアは、ヒト以外の動物に対する値であってもよい。総和活性スコアは、例えば、ペットや家畜の餌などの評価に用いられてもよい。
【0108】
また、総和活性スコアは、単位量あたり(例えば1グラムあたりなど)の値であってもよいし、対象食品の量に応じた値であってもよい。
【0109】
また、食品評価装置100は、1つの食品に対して、複数の総和活性スコアを算出してもよい。複数の総和活性スコアは、例えば、A(Aは病名)予防に関する総和活性スコア
と、B(Bは病名)予防に関する総和活性スコアと、C(Cは病名)予防に関する総和活性スコアなど、複数の病気や怪我の種別ごとに算出される。このように複数の総和活性スコアを算出することで、ある食品は、例えば、「A、Bの予防効果は大きいが、Cの予防効果は小さい」など、どの病気や怪我に効果が大きいかが明確となる。ユーザは、この複数の総和活性スコアを参照し、食品を選択することができる。例えば、あるユーザは、AとBの予防効果には関心があるが、Cの予防効果には関心がない場合がある。この場合、あるユーザは、AとBの予防効果に関する総和活性スコアを主に参照し、食品を選択すればよい。
【0110】
また、あるユーザは、食品を設計、生産するにあたり、総和活性スコアによる評価がある数値以上になることが好ましければ、総和活性スコアによる評価がある数値以上になるように、成分を調整して製造する組成物であって、前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の前記含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、組成物、とすることができる。
【0111】
また、総和活性スコアによる評価がある数値未満(あるいは以下)になることが好ましければ、総和活性スコアによる評価がある数値未満(あるいは以下)になるように、成分を調整して製造する組成物であって、前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の前記含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、組成物、とすることができる。
【0112】
さらに、総和活性スコアによる評価がある数値と同等になるように、成分を調整して製造する組成物であって、前記組成物に含まれる、または含まれると推定される複数の前記含有成分と、前記複数の含有成分の成分量とを解析し、前記含有成分の化学構造に関する分子記述子を算出し、前記分子記述子に基づき、前記含有成分の活性値を推定し、前記複数の含有成分それぞれの推定活性値及び前記成分量から算出される、組成物、とすることができる。
【符号の説明】
【0113】
10 :食品評価システム
14 :データ群
20 :成分解析部
21 :分子記述子算出部
22 :推定活性値算出部
23 :総和活性スコア算出部
24 :モデル学習部
100 :食品評価装置
110 :CPU
120 :ストレージ
121 :成分解析プログラム
122 :特徴量算出プログラム
123 :推定活性値算出モデル
124 :総和活性スコア算出プログラム
125 :モデル学習プログラム
126 :推定活性値算出プログラム
130 :メモリ
150 :ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14