(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146781
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20241004BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241004BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241004BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241004BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241004BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20241004BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20241004BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241004BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B22F9/00 B
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
B22F1/00 M
B22F1/05
B22F1/12
B22F1/10
C08L101/00
C08L71/02
C08K3/08
C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029798
(22)【出願日】2024-02-29
(31)【優先権主張番号】P 2023057278
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】石崎 貢平
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】野中 康信
(72)【発明者】
【氏名】大和田 夏美
(72)【発明者】
【氏名】松村 文彦
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
【テーマコード(参考)】
4J002
4K017
4K018
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5E082
5G301
【Fターム(参考)】
4J002AA001
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5G301DE01
(57)【要約】
【課題】 シートアタックが生じにくく、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を持ち、さらにスクリーン印刷後の印刷膜の平滑性が高い、導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、前記分散剤が、重量平均分子量1000以下のポリアルキレングリコール誘導体および重量平均分子量1000以下のポリアルキレングリコールの少なくともいずれかを含み、前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよびアルカンジオールを含み、前記有機溶剤の含有量が、40質量%以上65質量%以下である導電性ペースト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、
前記分散剤が、重量平均分子量1000以下のポリアルキレングリコール誘導体および重量平均分子量1000以下のポリアルキレングリコールの少なくともいずれかを含み、
前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよびアルカンジオールを含み、
前記有機溶剤の含有量が、40質量%以上65質量%以下である導電性ペースト。
【請求項2】
セラミック粉末をさらに含む請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末は、ニッケル粉末である請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
温度25℃及びずり速度4sec-1、における粘度が、20Pa・s以上80Pa・s未満である請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記分散剤の含有量は、0.5質量%以上0.75質量%以下である請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記ジヒドロターピニルアセテート、前記ジヒドロターピネオールおよび前記アルカンジオールの質量比が、6以上8以下:0.5以上2以下:0.5以上2以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記アルカンジオールが、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールである、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記有機溶剤が、ミネラルスピリットをさらに含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記ジヒドロターピニルアセテート、前記ジヒドロターピネオール、前記ミネラルスピリットおよび前記アルカンジオールの質量比が、3以上4以下:0.5以上2以下:4以上6以下:0.5以上1以下である、請求項8に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
前記バインダー樹脂が、エチルセルロースを含む請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
前記バインダー樹脂が、前記エチルセルロースに加えて、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロール、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれる樹脂のうち、少なくとも1種をさらに含む、請求項10に記載の導電性ペースト。
【請求項12】
前記ポリアルキレングリコール誘導体と前記ポリアルキレングリコールの合計と、前記導電性粉末と、の質量比は、0.01以上4以下:100であり、
前記導電性粉末の含有量は35質量%以上65質量%以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項13】
前記導電性粉末の数平均粒子径が、30nm以上100nm以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項14】
請求項1に記載の導電性ペーストを用いて形成された、電子部品。
【請求項15】
誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、請求項1に記載の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の軽薄短小化に伴い、チップ部品である積層セラミックコンデンサ(Multilayered Ceramic Capacitor、以下「MLCC」という)についても小型化、高容量化、および高性能化が望まれている。これらを実現するための最も効果的な手段は、内部電極層と誘電体層を薄くして多層化を図ることである。
【0003】
MLCCは、一般に次のように製造される。まず誘電体層を形成するために、主成分であるチタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体セラミック粉末、および、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂あるいはアクリル系樹脂からなるバインダー樹脂を用いて誘電体グリーンシートを形成する。誘電体グリーンシートの表面上に、導電性粉末をバインダー樹脂および有機溶剤を含む有機ビヒクルに分散させた導電性ペースト組成物を所定のパターンで印刷し、有機溶剤を除去するための乾燥を施し、内部電極層となる乾燥膜を形成する。乾燥膜が形成された誘電体グリーンシートを多層に積み重ねた状態で加熱圧着して一体化した後に、切断してチップを得て、該チップに対して、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて500℃以下で脱バインダー処理を行う。その後、内部電極層が酸化しないように、還元雰囲気中にて1300℃程度で、脱バインダー処理後のチップの加熱焼成を行い、内部電極層と誘電体層とを一体化させて、焼成チップを得る。最後に、焼成チップに対して、外部電極用ペーストを塗布および焼成した後、得られた外部電極上にニッケルメッキなどを施すことにより、MLCCが完成する。
【0004】
内部電極用の導電性ペーストは、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などの多様な印刷方法で塗工される可能性がある。したがって、内部電極用ペースト組成物には、それぞれの印刷方法に適したレオロジー特性が必要とされる。たとえば、国際公開WO2014/073530号公報や特開2018-107089号公報では、グラビア印刷用のレオロジー特性に適した導電性ペースト組成物の組成が、特開2017-084588号公報では、インクジェット印刷用のレオロジー特性に適した組成が、国際公開WO2014/104053号公報では、スクリーン印刷用のレオロジー特性に適した組成が、それぞれ検討されている。
【0005】
内部電極用の導電性ペースト組成物は、一般的には、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解して得られる有機ビヒクル中に、導電性粉末、セラミック粉末、および分散剤を分散させて、その粘度を有機溶剤によって調整することにより得られる。この有機ビヒクルを構成するバインダー樹脂には、一般にエチルセルロースなどが使用されており、その有機溶剤には、ターピネオールが使用されてきている(特開2018-168238号公報参照)。
【0006】
しかしながら、ターピネオールはブチラール樹脂やアクリル系樹脂に対する溶解性が高いことから、導電性ペーストの塗工により内部電極層を形成する際に、誘電体グリーンシートが導電性ペースト中の溶剤で侵食され、誘電体層が不均一になる、いわゆるシートアタックが生ずる可能性がある。シートアタックを防ぐためにブチラール樹脂やアクリル系樹脂に対する溶解性が低いジヒドロターピニルアセテートを含む溶剤組成が検討されている(特許第2976268号公報参照)。
【0007】
しかしながら、ジヒドロターピニルアセテートを含む溶剤組成では、導電性ペーストの粘度が高くなりやすく、誘電体グリーンシートへの印刷が困難なることがある。
【0008】
また、近年の電極パターンの薄膜化に伴い、特に平均粒子径が100nm以下の導電性粉末を使用する導電性ペーストが求められているが、このような小粒子径の導電性粉末を含むペーストは、粘度が高くなりやすい。このため、平均粒子径が100nm以下の導電性粉末を用いる場合に、シートアタック対策としてジヒドロターピニルアセテートを含む溶剤組成を用いると、粘度が高くなりやすい導電性ペーストのさらなる高粘度化が起こり、導電性ペーストの印刷が難しく、得られる印刷膜の平滑性が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2014/073530号公報
【特許文献2】特開2018-107089号公報
【特許文献3】特開2017-084588号公報
【特許文献4】国際国会WO2014/104053号公報
【特許文献5】特開2018-168238号公報
【特許文献6】特許第2976268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑み、電極パターンの薄膜化に伴う平均粒子径が100nm以下の導電性粉末を使用し、シートアタックが生じにくく、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を持ち、さらにスクリーン印刷後の印刷膜の平滑性が高い、導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するべく、本発明の導電性ペーストは、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、前記分散剤が、重量平均分子量1000以下のポリアルキレングリコール誘導体および重量平均分子量1000以下のポリアルキレングリコールの少なくともいずれかを含み、前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよびアルカンジオールを含み、前記有機溶剤の含有量が、40質量%以上65質量%以下である導電性ペーストである。
【0012】
導電性ペーストは、セラミック粉末をさらに含んでもよい。
【0013】
前記導電性粉末は、ニッケル粉末であってもよい。
【0014】
導電性ペーストは、温度25℃及びずり速度4sec-1、における粘度が、20Pa・s以上80Pa・s未満であってもよい。
【0015】
前記分散剤の含有量は、0.5質量%以上0.75質量%以下であってもよい。
【0016】
前記ジヒドロターピニルアセテート、前記ジヒドロターピネオールおよび前記アルカンジオールの質量比が、6以上8以下:0.5以上2以下:0.5以上2以下であってもよい。
【0017】
前記アルカンジオールは、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールであってもよい。
【0018】
前記有機溶剤が、ミネラルスピリットをさらに含んでもよい。
【0019】
前記ジヒドロターピニルアセテート、前記ジヒドロターピネオール、前記ミネラルスピリットおよび前記アルカンジオールの質量比が、3以上4以下:0.5以上2以下:4以上6以下:0.5以上1以下であってもよい。
【0020】
前記バインダー樹脂は、エチルセルロースを含んでいてもよい。
【0021】
前記バインダー樹脂は、前記エチルセルロースに加えて、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロール、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれる樹脂のうち、少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0022】
前記ポリアルキレングリコール誘導体と前記ポリアルキレングリコールの合計と、前記導電性粉末と、の質量比は、0.01以上4以下:100であり、前記導電性粉末の含有量は35質量%以上65質量%以下であってもよい。
【0023】
前記導電性粉末の数平均粒子径は、30nm以上100nm以下であってもよい。
【0024】
また、上記の課題を解決するため、本発明の電子部品は、本発明の導電性ペーストを用いて形成された電子部品である。
【0025】
また、上記の課題を解決するため、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、前記内部電極層は、本発明の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサである。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、電極パターンの薄膜化に伴う平均粒子径が100nm以下の導電性粉末を使用し、シートアタックが生じにくく、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を持ち、さらにスクリーン印刷後の印刷膜の平滑性が高い、導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサの一実施形態について説明する。
【0029】
[導電性ペースト]
本実施形態の導電性ペーストは、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む導電性ペーストであって、前記バインダー樹脂が、質量平均分子量が30,000以上150,000以下であり、エトキシ基含有量が45質量%以上52質量%以下のエチルセルロースを含み、前記分散剤が、ポリアルキレングリコール誘導体およびポリアルキレングリコールの少なくともいずれかを含み、前記有機溶剤が、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよびアルカンジオールを含む。なお、導電性ペーストは、導電性粉末、分散剤、バインダー樹脂及び有機溶剤に加えて、セラミック粉末をさらに含んでもよいが、セラミック粉末は必須の構成ではない。以下、本実施形態の導電性ペーストが含む導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、有機溶剤及び分散剤について、詳細に説明する。
【0030】
(導電性粉末)
導電性粉末は、特に限定されず、金属粉末を用いることができ、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選ばれる1種以上の金属粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、又はNi合金の粉末が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、Pt及びPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金(Ni合金)を用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度のSを含んでもよい。
【0031】
導電性粉末の数平均粒子径は、好ましくは30nm以上100nm以下であり、より好ましくは40nm以上90nm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストとして好適に用いることができ、乾燥膜の平滑性が向上する。ここで、数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0032】
前記導電性粉末の前記導電性ペーストの全体量に対する含有量は、好ましくは35質量%以上65質量%以下であり、より好ましくは35質量%以上60質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0033】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されず、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)である。
【0034】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nb及び1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zr等で置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を用いてもよい。
【0035】
また、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を、セラミック粉末として用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2等の酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0036】
セラミック粉末の数平均粒子径は、例えば、10nm以上100nm以下であり、好ましくは10nm以上70nm以下の範囲である。セラミック粉末の数平均粒子径が上記範囲であることにより、内部電極用の導電性ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0037】
セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0038】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上20質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0039】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、質量平均分子量が30,000以上150,000以下であり、エトキシ基含有量が45質量%以上52質量%以下のエチルセルロースを必須として含む。このようなエチルセルロースを含むことにより、乾燥後の導電膜としての平滑性が高い導電性ペーストを得ることができる。また、導電性ペーストを内部電極へ加工する過程において焼成する工程があるが、この焼成後の残留炭素分が過度に増加することなく、印刷性を充分に確保することができる。
【0040】
なお、エチルセルロースの質量平均分子量が30,000未満の場合には、印刷を行うために充分な粘度を得ることが困難になるおそれがある。また、同分子量が150,000よりも大きいと、得られる導電性ペーストの粘度が高く、印刷性が悪くなるおそれがある。
【0041】
また、エチルセルロースのエトキシ基含有量が45質量%以上52質量%以下であれば、有機溶剤に対する相溶性に優れ、溶解性が良好であることから、乾燥後の導電膜としての平滑性が高い導電性ペーストを得ることができる。エチルセルロースのエトキシ基含有量は、より好ましくは、47質量%以上52質量%以下である。
【0042】
バインダー樹脂としては、上記のエチルセルロースのみを単独で使用しても良く、エチルセルロース以外の樹脂をさらに含んでも良い。例えば、前記バインダー樹脂が、エチルセルロースに加えて、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロール、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれる樹脂のうち、少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
【0043】
また、誘電体グリーンシートとの接着強度を向上させる観点から、バインダー樹脂は、ポリビニルブチラールを含んでもよい。
【0044】
バインダー樹脂としてエチルセルロース以外の樹脂を含む場合には、質量比でエチルセルロース:エチルセルロース以外の樹脂=10以上90以下:90以上10以下とすることが好ましい。
【0045】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上8質量部以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0046】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上6質量%以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0047】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよびアルカンジオールの溶剤を含む。ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよびアルカンジオールの質量比は、6以上8以下:0.5以上2以下:0.5以上2以下であれば、シートアタックがなく、スクリーン印刷後に平滑性が高い導電性ペーストが得られる。この質量比に該当しない場合、導電性ペーストのスクリーン印刷への使用に適さない高い粘度となるなど、乾燥後の導電膜としての平滑性が不十分となる場合がある。
【0048】
さらに、有機溶剤としてミネラルスピリットを含んでも良い。ミネラルスピリットを含む場合は、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオール、ミネラルスピリットおよびアルカンジオールの質量比は、3以上4以下:0.5以上2以下:4以上6以下:0.5以上1以下であれば、シートアタックがなく、スクリーン印刷後に平滑性が高い導電性ペーストが得られる。
【0049】
アルカンジオールとしては、特に制限はないが、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールなどが使用できる。
【0050】
有機溶剤の含有量の合計は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは80質量部以上160質量部以下であり、より好ましくは100質量部以上140質量部以下である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0051】
有機溶剤の含有量の合計は、導電性ペースト全体に対して、40質量%以上65質量%以下が好ましく、50質量%以上60質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0052】
(分散剤)
本発明の導電性ペーストが含む分散剤はポリアルキレングリコール誘導体又はポリアルキレングリコールである。このような分散剤を含むことにより、導電性ペーストのスクリーン印刷への使用時に適した粘度とすることができ、また、乾燥後の導電膜としての平滑性が高い導電性ペーストを得ることができる。
【0053】
導電性ペーストにおいて、ポリアルキレングリコール誘導体とポリアルキレングリコールの合計と、導電性粉末との質量比は、0.01以上4以下:100であることが好ましく、0.02以上3以下:100であることがより好ましい。ポリアルキレングリコール誘導体とポリアルキレングリコールを上記範囲で含む場合、導電性ペーストの経時的な粘度変化が抑制され、粘度安定性を向上させることが出来、得られる電極層についてはその平滑性が高い。また、シートアタックやグリーンシートの剥離不良を抑制することができる。なお、ポリアルキレングリコール誘導体とポリアルキレングリコールの合計と、導電性粉末との質量比が4より大きい:100である場合、導電性ペーストをグリーンシートに印刷した際、印刷面にメッシュ跡が発生したり、ペーストの粘度が大きく低下したりすることがある。ここで、「ポリアルキレングリコール誘導体とポリアルキレングリコールの合計」は、「導電性ペーストがポリアルキレングリコールを含まずにポリアルキレングリコール誘導体のみを含む場合にはポリアルキレングリコール誘導体のみの合計」、「導電性ペーストがポリアルキレングリコール誘導体を含まずにポリアルキレングリコールのみを含む場合にはポリアルキレングリコールのみの合計」、「導電性ペーストがポリアルキレングリコールおよびポリアルキレングリコール誘導体の両方を含む場合にはポリアルキレングリコールおよびポリアルキレングリコール誘導体の合計」、の3通りの場合が含まれる。
【0054】
ポリアルキレングリコール誘導体としては、酸系であり、カルボキシル基、フェノール基、スルホ基、リン酸基等の官能基を含んでもよい。ポリアルキレングリコール誘導体およびポリアルキレングリコールのGPC(Gel Permeation Chromatography)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は、1000以下である。ポリアルキレングリコール誘導体およびポリアルキレングリコールの重量平均分子量が1000を超えると導電性ペーストとして適切な粘度が得られない。このような分散剤としては、三洋化学工業株式会社のニューポールシリーズや日油株式会社のユニルーブシリーズなどがあるが、これに限定されるものではない。また、ポリアルキレングリコールと、ポリアルキレングリコール誘導体と、を併用してもよい。また、分散剤に用いるポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコール誘導体の種類は、一種類のみとしてもよいし、二種以上としてもよい。
【0055】
なお、導電性ペーストは、上記のポリアルキレングリコール誘導体以外の分散剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。上記以外の分散剤としては、例えば、高級脂肪酸、アミン系分散剤及びアミノ酸系分散剤、酸系分散剤以外のカチオン系分散剤、ノニオン系分散剤、両性界面活性剤及び高分子系分散剤等を含んでもよい。また、これらの分散剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(導電性ペーストの製造方法)
本実施形態の導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。導電性ペーストは、例えば、上記の各成分を用意し、3本ロールミル、ボールミル、ミキサー等で攪拌・混練することにより製造することができる。その際、導電性粉末表面に予め分散剤を塗布すると、導電性粉末が凝集することなく十分にほぐれて、その表面に分散剤が行きわたるようになり、均一な導電性ペーストを得やすい。また、バインダー樹脂をビヒクル用の有機溶剤に溶解させ、有機ビヒクルを作製し、ペースト用の有機溶剤へ、導電性粉末、セラミック粉末、有機ビヒクル及び分散剤を添加し、ミキサーで攪拌・混練し、導電性ペーストを作製してもよい。
【0057】
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサやバリスタ等の電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び導電性ペーストを用いて形成される内部電極層を有する。
【0058】
積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とが同一組成の粉末であることが好ましい。本実施形態の導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートの厚さが、例えば2μm以下である場合でも、シートアタックやグリーンシートの剥離不良が抑制される。
【0059】
[電子部品]
以下、本発明の導電性ペーストを用いて製造することのできる電子部品等の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向等を、適宜、
図1等に示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0060】
図1A及び
図1Bは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す斜視図及び側面断面図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層したセラミック積層体10と外部電極20とを備える。
【0061】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる誘電体層上に、導電性ペーストを印刷して、乾燥し、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数の誘電体層を、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極20を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0062】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0063】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷(塗布)して乾燥し、乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、印刷後の導電性ペースト(乾燥膜)の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0064】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0065】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、セラミック積層体10を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気又はN2ガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0066】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末又はニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0067】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続される。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、又はこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、バリスタ等の積層セラミックコンデンサ以外の電子部品であってもよい。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
[使用材料]
(導電性粉末)
導電性粉末としては、Ni粉末(数平均粒径60nm)を下記の手法で作製し、使用した。
【0070】
<湿式ニッケル粉末の製造>
[ニッケル塩及びニッケルよりも貴な金属の金属塩の溶液の調製]
塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O、分子量:237.69)を、100gのNi金属が1Lの純水中に存在するように溶解した水溶液(「100g-Ni/L水溶液」とする)と、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NH4)2PdCl4、分子量:284.31)を、1.2gのPd金属が1Lの純水中に存在するように溶解した水溶液(「1.2g-Pd/L水溶液」とする)を調製した。そして、100g-Ni/L水溶液1000mLと1.2g-Pd/L水溶液8.5mL、自己分解抑制補助剤としての硫黄含有化合物として分子内にスルフィド基(-S-)を1個含有するL-メチオニン(CH3SC2H4CH(NH2)COOH、分子量:149.21)1.27gを、純水881mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、硫黄含有化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩核剤含有溶液を調製した。ここで、ニッケル塩核剤含有溶液において、スルフィド化合物であるL-メチオニンはニッケルに対してモル比で0.005(0.5モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し100質量ppm(55.16モルppm)である。
【0071】
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N2H4・H2O、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を207g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。
【0072】
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)を純水に溶解し、水酸化ナトリウムを382g/Lの濃度で含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を757mL用意した。
【0073】
[アミン化合物溶液]
アミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH2)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(H2NC2H4NH2、分子量:60.1)1.02gを、純水18mLに溶解して、エチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。なお、上記ニッケル塩核剤含有溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、及びアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
【0074】
[晶析工程]
ニッケル塩核剤含有溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ、液温が85℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温27℃の還元剤溶液を、Ni金属と抱水ヒドラジンとのモル比が1:1.46となるように、混合時間10秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温27℃の水酸化アルカリ溶液を、Ni金属と水酸化ナトリウムとのモル比が1:3.54となるように、混合時間120秒で添加混合し、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度70℃)。反応開始後8分後から28分後までの20分間にかけて上記アミン化合物溶液を、Ni金属とエチレンジアミンとのモル比が1:0.01(1.0モル%)となるように、上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から60分以内に還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明であることから、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されて、ニッケル晶析粉となったことを確認した。ニッケル晶析粉を含む反応液はスラリー状であり、このニッケル晶析粉含有スラリーにメルカプト酢酸(チオグリコール酸)(HSCH2COOH、分子量:92.12)の水溶液を加えて、ニッケル晶析粉の表面処理(硫黄コート処理)を施した。
【0075】
[湿式解砕工程]
表面処理後、ニッケル晶析粉含有スラリーに対してデカンテーションと純水(導電率1μS/cm)の投入を繰り返してスラリー中の導電率が15μS/cm以下になるまで洗浄し、ニッケル濃度が25質量%のニッケル晶析粉含有スラリーとし湿式解砕を施した。
【0076】
[酸洗浄工程]
湿式解砕工程後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1質量%硫酸水溶液(H2SO4、分子量:98.08)を滴下して中和し、20分間ニッケル晶析粉含有スラリーのpHを4~5に維持した。このときのニッケル晶析粉含有スラリーのニッケル濃度は、5質量%であった。なお、中和の反応式は、Ni(OH)2+H2SO4→NiSO4+2H2Oとなる。
【0077】
[溶媒置換工程、固液分離工程]
酸洗浄工程後、ヌッチェにろ紙をのせ、そこにニッケル晶析粉含有スラリーを投入してろ過し、その後、導電率が1μS/cmの純水をろ紙上のニッケル晶析粉に投入して、ろ過後のろ液の導電率が30μS/cm以下になるまでろ過洗浄した。その後、純度99.9%以上のエタノール(沸点:78.3℃)をヌッチェに投入して通液し、ニッケルスラリー中の溶媒を水からエタノールへ置換した。なお、溶媒置換後のニッケルスラリーの溶媒に含まれるエタノール濃度は、92.4質量%、残りの7.6質量%は水であった。ここで、エタノール濃度は、固液分離工程の最終ろ液(最後の50mL)を回収し、カールフィッシャー水分率(150℃)を測定し、「100-水分率(%)=ろ液中の溶剤濃度(%)」の計算で得られるろ液中の溶剤濃度を、エタノール濃度とした。他の実施例等でも同様に算出した。溶媒置換後、固形分濃度を40質量%以上となるまでろ過を継続して固液分離し、ニッケル粉ケーキを得た。
【0078】
[乾燥工程]
前記ニッケル粉ケーキを、120℃の温度に設定した真空乾燥機中で6時間乾燥して湿式ニッケル粉末を得た。
【0079】
<導電性粉末の評価及びその結果>
(数平均粒径)
得られた湿式ニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL Ltd.製、JSM-7100F)で観察し、SEM画像を画像処理することにより全体の形状が確認できる100~200個の粒子の面積を測定し、測定した面積から真円換算によりそれぞれの粒子の直径を算出して、さらに算出した直径の平均値を算出し、これを数平均粒径とした。得られたニッケル粉末の数平均粒径は60nmであった。
【0080】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、エチルセルロース樹脂(重量平均分子量100,000、エトキシ基含有率が48.0質量%以上49.5質量%以下)をジヒドロターピニルアセテートに10.5質量%溶解させたものをビヒクルとして準備したものを用いた。
【0081】
(分散剤)
分散剤としては、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体、重量平均分子量10000以上で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体、アミン系の誘導体(N,N-ジ(ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)を用いた。
【0082】
[実施例1、2、3]
Ni粉末44質量%、エチルセルロース樹脂(重量平均分子量100x103、エトキシ基含有率が48.0質量%以上49.5質量%以下)からなるビヒクル中のバインダー樹脂と、分散剤としてのポリアルキレングリコール誘導体(重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体)と、下記表1における溶剤組成の欄に記載された有機溶剤と、を用意した。そして、バインダー樹脂が合計で3質量%となり、ポリアルキレングリコール誘導体が0.5質量%又は0.75質量%となり(実施例1では、0.50質量%、実施例2では、0.75質量%、実施例3では、0.80)、有機溶剤が残部となることで、全体として合計が100質量%となるよう配合し、これらの材料を3本ロールミルで混合して導電性ペーストを作製し、粘度、印刷膜平滑性、及びシートアタック性を評価した。
【0083】
なお、下記表1における溶剤組成の欄に記載された、DHTAは、ジヒドロターピニルアセテートであり、DHTは、ジヒドロターピネオールであり、MSAはミネラルスピリットAであり、EtHexdiolは、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(アルカンジオール)である。また、70/15/15等の数値は、質量比を示している。これによれば、例えば、溶剤組成の欄に、DHTA/DHT/EtHexdiol=70/15/15と記載されている実施例1では、有機溶剤として、ジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールが、70:15:15の質量比で配合されていることとなる。
【0084】
[比較例1~6]
実施例と比較して、有機溶剤の組成や配合を変更し、比較例1~6とした。また、各比較例では、分散剤として、実施例1と同様のポリアルキレングリコール誘導体又はアミン系の誘導体(N,N-ジ(ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)の分散剤を用いた。比較例6では、重量平均分子量10000以上で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体の分散剤を用いた。また、各比較例では、導電性ペーストの全体を100質量%とした際の分散剤の質量%濃度を、0.25質量%、0.75質量%、及び1.00質量%のうち、いずれかに設定した。そして、このように組成した導電性ペーストについて、粘度、印刷膜平滑性、及びシートアタック性を評価した。
【0085】
【0086】
[評価方法]
(粘度)
導電性ペースト組成物の粘度は、レオメーター(アントンパール社製、レオメーターMCR501)を用いて、製造から室温(25℃)で1日静置後の導電性ペースト組成物の25℃における粘度を測定した。導電性ペースト組成物の25℃及びずり速度(せん断速度)4sec-1における粘度が、20Pa・s以上60Pa・s未満である場合を○(優良)、60Pa・s以上80Pa・s未満である場合を△(良)、80Pa・s以上である場合を×(不可)と評価した。なお、〇(優良)又は△(良)であれば、特にスクリーン印刷に適した粘度、すなわちレオロジー特性を備えている。
【0087】
(印刷膜平滑性評価)
4μm厚の誘電体グリーンシート上に、導電性ペースト組成物をスクリーン印刷にて塗布し、熱対流オーブンで80℃、5分で乾燥した後、対物レンズ20倍のレーザー顕微鏡(キーエンス、VK-X1000)にて共焦点画像を取得し、うねりWc値(カットオフλc=0.08 mm)を評価した。Wc値が0.45μm未満を〇(良)、0.45μm以上である場合を×(不可)と評価した。
【0088】
(シートアタック評価)
4μm厚の誘電体グリーンシート上に、導電性ペースト組成物を0.1mm厚、直径5mmで塗布し、熱対流オーブンで80℃、20分で乾燥した後、誘電体グリーンシートの導電性ペースト組成物を滴下した部分の裏面が侵されていないかを目視で確認した。侵食がないものを◎(最優良)、わずかに侵食があるものを○(優良)、一部侵食があるものを△(良)、侵食が激しくペーストが剥き出しになるものを×(不可)と評価した。なお、誘電体グリーンシートの導電性ペースト組成物を滴下した部分の裏面を光学顕微鏡で観察した際に、わずかに侵食が確認されたものを〇(優良)と評価した。
【0089】
表1の実施例1、2より、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体を分散剤として使用し、有機溶剤としてジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオールおよび2-エチル-1,3-ヘキサンジオールを質量比70:15:15の溶剤比で使用し、分散剤の質量%濃度を、0.5質量%又は0.75質量%とすることにより、導電性ペーストの粘度が20Pa・s以上55Pa・s以下と、ペーストの塗布が容易な粘度の範囲内で粘度を安定化することができ、また、導電性ペーストより得られる乾燥膜表面の平均粗さを0.03μm以下とすることができ、乾燥膜表面の平滑性をより高めることができる結果となった。また、導電性ペーストによる誘電体グリーンシートの浸食はわずかであり、優良という結果であった。なお、粘度に着目すると、実施例1の粘度が△(良)であるのに対し、実施例2の粘度は〇(優良)であることから、分散剤の質量%濃度は、0.75%であることがより好ましい。
【0090】
表1の実施例3より、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体を分散剤として使用し、有機溶剤としてジヒドロターピニルアセテート、ジヒドロターピネオール、ミネラルスピリットAおよび2-エチル-1,3-ヘキサンジオールを質量比32:10:50:8の溶剤比で使用し、分散剤の質量%濃度を0.8質量%とすることにより、導電性ペーストの粘度が20Pa・s以上60Pa・s未満と、ペーストの塗布が容易な粘度の範囲内で粘度を安定化することができ、また、導電性ペーストより得られる乾燥膜表面の平均粗さを0.03μm以下とすることができ、乾燥膜表面の平滑性をより高めることができる結果となった。また、導電性ペーストによる誘電体グリーンシートの浸食を、発生させないようにすることができた。
【0091】
一方、表1の比較例1より、アミン系の分散剤(N,N-ジ(ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)のみを分散剤として用いると、粘度が△(良)となり、実施例2と比較して粘度が若干高くなるという結果となった。また、印刷膜平滑性が×(不可)となった。そして、シートアタック性は〇(優良)となった。すなわち、アミン系の分散剤のみを用いる場合、優良なシートアタック性を得ることができる一方、導電性ペーストの粘度は若干大きくなり、平滑な印刷膜を得ることは難しい、という結果となった。
【0092】
また、表1の比較例2、3より、有機溶剤としてEtHexdiolを用いない場合、粘度は、×(不可)又は〇(優良)となった。また、印刷平滑性が×(不可)となった。そして、シートアタック性は〇(優良)又は△(良)となった。すなわち、有機溶剤としてEtHexdiolを用いない場合、優良又は良好なシートアタック性を得ることができる一方、平滑な印刷膜を得ることは難しい、という結果となった。
【0093】
また、表1の比較例4より、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体を分散剤として用い、分散剤の質量%濃度を0.25%とすると、粘度及び印刷平滑性が×(不可)となり、シートアタック性は〇(優良)となった。すなわち、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体の質量%濃度を0.25%とすると、優良なシートアタック性を得ることができる一方、平滑な印刷膜を得ることは難しい、という結果となった。
【0094】
また、表1の比較例5より、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体を分散剤として用い、分散剤の質量%濃度を1.00%とすると、粘度が〇(優良)となった。また、印刷膜平滑性が×(不可)となった。そして、シートアタック性は〇(優良)となった。すなわち、重量平均分子量1000以下で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体の質量%濃度を1.00%とすると、優良なシートアタック性及び粘度を得ることができる一方、平滑な印刷膜を得ることは難しい、という結果となった。
【0095】
また、表1の比較例6より、重量平均分子量10000以上で酸性の官能基を備えたポリアルキレングリコール誘導体を分散として用い、分散剤の質量%濃度を0.75%とすると、粘度及び印刷膜平滑性が×(不可)となり、シートアタック性は〇(優良)となった。すなわち、重量平均分子量10000以上で酸性のポリアルキレングリコール誘導体を分散として用いると、優良なシートアタック性を備えることができる一方、平滑な印刷膜を得ることは難しい、という結果となった。この比較例6の結果と上述の実施例2の結果より、分散剤の重量平均分子量の上限値は1000とすることが好ましい。一方、分散剤の重量平均分子量の下限値は特に限定されないが、ポリマーとして200くらいを目安に設定してもよい。
【0096】
以上より、本発明であれば、乾燥後の導電膜として、シートアタックが生じにくく、スクリーン印刷に適したレオロジー特性を持ち、さらにスクリーン印刷後の印刷膜の平滑性が高い導電性ペーストを提供することができるため、産業上有用である。