(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146815
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】窒化ホウ素凝集粒子、窒化ホウ素凝集粉末、複合材組成物、放熱部材、半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C01B21/064 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042457
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023057150
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小室 直之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正典
(57)【要約】
【課題】空隙率がより低減された窒化ホウ素凝集粉末を提供する。
【解決手段】鱗片状の窒化ホウ素一次粒子と、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状の窒化ホウ素一次粒子とを含む、窒化ホウ素凝集粒子を含む、窒化ホウ素凝集粉末。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状の窒化ホウ素一次粒子と、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状の窒化ホウ素一次粒子とを含む、窒化ホウ素凝集粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化ホウ素凝集粒子を含む、窒化ホウ素凝集粉末。
【請求項3】
前記窒化ホウ素凝集粒子を個数基準で50%以上含む、請求項2に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
【請求項4】
水銀圧入細孔分布測定法による粒子内空隙率が47%以下である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
【請求項5】
圧縮試験における変位率が21%以下である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
【請求項6】
圧縮試験における弾性率が75MPa以上である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
【請求項7】
投影画像における円形度が82%以上である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
【請求項8】
請求項2又は3に記載の窒化ホウ素凝集粉末と、マトリクス材を含む、複合材組成物。
【請求項9】
前記マトリクス材が樹脂を含む、請求項8に記載の複合材組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の複合材組成物を成形してなる、放熱部材。
【請求項11】
請求項10に記載の放熱部材を備える、半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化ホウ素凝集粒子、前記窒化ホウ素凝集粒子を含む窒化ホウ素凝集粉末、前記窒化ホウ素凝集粉末を含む複合材組成物、前記複合材組成物を用いた放熱部材、前記放熱部材を用いた半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素(BN)は、絶縁性のセラミックであり、ダイヤモンド構造を持つc-BN、黒鉛構造をもつh-BN、乱層構造を持つα-BN、β-BNなど様々な結晶型が知られている。
これらの中で、h-BNは、黒鉛と同じ層状構造を有し、合成が比較的容易でかつ熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性に優れるという特徴を備えていることから、電気・電子材料分野で多く利用されている。
【0003】
近年、特に電気・電子分野では集積回路の高密度化に伴う発熱が大きな問題となっており、いかに熱を放熱するかが緊急の課題となっている。h-BNは、絶縁性であるにもかかわらず、高い熱伝導性を有するという特徴を活かして、このような放熱部材用熱伝導性フィラーとして注目を集めている。
【0004】
高熱伝導率を発現する六方晶窒化ホウ素を得るべく様々な取り組みがされている。特許文献1において、従来の板状の結晶とは異なるC軸方向への結晶成長を促進したアスペクト比が1に近いh-BN単結晶が見出されている。また、特許文献2では、肉厚と言う表現を使い、従来の板状の結晶とは異なるアスペクト比が1に近いBNの結晶が見出されている。特許文献3では、一次粒子を凝集させて、通常の板状結晶による凝集粒子の断面の面積比率を規定している。特許文献4では、複合セラミックスで、BN凝集粒子の空隙率を下げる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-189525号公報
【特許文献2】特開2021-155279号公報
【特許文献3】国際公開第2020/004600号
【特許文献4】特開2014-172768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2のように、BNの一次結晶を改善する試みは、鱗片状のBN一次粒子に対しては有効な改善策となる。しかし、実際に、複合材組成物として使う際には、混合した樹脂が高粘度となり、BNフィラーの含有比率を上げられないという問題が発生し、熱伝導率改善の障害となる。特許文献3のように、一次粒子の凝集粒子として塊状の粒子を形成する場合は、断面積のBN一次粒子の面積比率で密度を上げる場合も、一次粒子が板状であるため、熱伝導率低下要因につながる凝集粒子内でのBN結晶の配向の問題を解決できない。さらに、特許文献4のようにBNとそれ以外のセラミックスを複合化する手法においても、各セラミックス同士の密着性やBN鱗片の配向の問題が残る。また、実際の空隙率も50%程度にとどまり、BN凝集粒子において、空隙率を下げることがいかに難しいかが伺える。
本発明は、空隙率がより低減された窒化ホウ素凝集粉末の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 鱗片状の窒化ホウ素一次粒子と、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状の窒化ホウ素一次粒子とを含む、窒化ホウ素凝集粒子。
[2] 前記[1]に記載の窒化ホウ素凝集粒子を含む、窒化ホウ素凝集粉末。
[3] 前記窒化ホウ素凝集粒子を個数基準で50%以上含む、[2]に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
[4] 水銀圧入細孔分布測定法による粒子内空隙率が47%以下である、[2]又は[3]に記載の窒化ホウ素凝集粉末。
[5] 圧縮試験における変位率が21%以下である、[2]~[4]のいずれかに記載の窒化ホウ素凝集粉末。
[6] 圧縮試験における弾性率が75MPa以上である、[2]~[5]のいずれかに記載の窒化ホウ素凝集粉末。
[7] 投影画像における円形度が82%以上である、[2]~[6]のいずれかに記載の窒化ホウ素凝集粉末。
[8] 前記[2]~[7]のいずれかに記載の窒化ホウ素凝集粉末と、マトリクス材を含む、複合材組成物。
[9] 前記マトリクス材が樹脂を含む、[8]に記載の複合材組成物。
[10] 前記[8]又は[9]に記載の複合材組成物を成形してなる、放熱部材。
[11] 前記[10]に記載の放熱部材を備える、半導体デバイス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空隙率がより低減された窒化ホウ素凝集粉末が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の窒化ホウ素凝集粒子の例の断面を示すSEM写真である。
【
図2】実施例1の窒化ホウ素凝集粉末のSEM写真である。
【
図3】実施例2の窒化ホウ素凝集粒子の例の断面を示すSEM写真である。
【
図4】実施例2の窒化ホウ素凝集粉末のSEM写真である。
【
図5】比較例1の窒化ホウ素凝集粒子の例の断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0011】
<窒化ホウ素凝集粒子・窒化ホウ素凝集粉末>
本明細書において、窒化ホウ素凝集粒子(以下、「BN凝集粒子」ともいう)は、窒化ホウ素一次粒子(以下、「BN一次粒子」ともいう)が凝集した粒子を意味する。
本明細書において、窒化ホウ素凝集粉末(以下、「BN凝集粉末」ともいう)は、窒化ホウ素凝集粒子の集合を意味する。
【0012】
本発明のBN凝集粒子(以下、「本BN凝集粒子」ともいう)は、鱗片状のBN一次粒子と、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状のBN一次粒子とを含む凝集粒子である。
鱗片状のBN一次粒子は、薄い板片のような形状のBN一次粒子である。
塊状のBN一次粒子は、鱗片状のBN一次粒子の凝集とは認められない、大きな塊状に結晶成長したBN一次粒子である。
【0013】
本BN凝集粒子は、前記鱗片状のBN一次粒子及び前記塊状のBN一次粒子以外の、他の一次粒子を含んでもよい。
本BN凝集粒子を構成する一次粒子の総質量に対して、他の一次粒子は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、ゼロでもよい。
【0014】
本発明のBN凝集粉末は、本BN凝集粒子を含む。本BN凝集粒子以外の他のBN凝集粒子を含んでもよい。
BN凝集粉末が本BN凝集粒子を含むことは、BN凝集粉末の断面観察により確認することができる。すなわち、粉体における凝集粒子の結晶成長には、必ず不均一性が付きまとうものだが、凝集粉末を構成する10~20個の凝集粒子の断面観察において、前記塊状の一次粒子を含む本BN凝集粒子が1つでも認められれば、全ての粒子を観察することができなくても、凝集粉末の全体では一定程度の本BN凝集粒子が存在すると判定できる。
具体的には、測定対象のBN凝集粉末の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、10~20個のBN凝集粒子の断面を含む任意の視野において、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状のBN一次粒子を含むBN凝集粒子(本BN凝集粒子)が1個以上あれば、測定対象のBN凝集粉末は本BN凝集粒子を含むと判定する。
BN凝集粉末の断面観察は後掲の実施例の項に示される方法で行われる。
【0015】
本発明のBN凝集粉末は、本BN凝集粒子を個数基準で50%以上含むことが好ましい。
本明細書において、BN凝集粉末が本BN凝集粒子を個数基準で50%以上含むとは、前記10~20個のBN凝集粒子の断面を含む任意の視野を観察したときに、BN凝集粒子の断面の総数に対して、本BN凝集粒子の数が50%以上であることを意味する。
【0016】
本BN凝集粒子中の前記塊状のBN一次粒子以外の他のBN一次粒子の凝集形態、及び本BN凝集粒子以外の他のBN凝集粒子の凝集形態は特に限定されない。例えば、BN一次粒子が凝集して、球状、楕円体状、円柱状又は六角柱状等の凝集粒子を形成する凝集形態であってよい。
前記本BN凝集粒子中の他のBN一次粒子の凝集形態と、前記他のBN凝集粒子の凝集形態は互いに同じであってもよく、異なってもよい。
【0017】
特に、高い熱伝導性が得られやすい点で、カードハウス構造を有するカードハウス型BN凝集粒子を形成する凝集形態が好ましい。カードハウス構造とは、例えばセラミックス43No.2(2008年日本セラミックス協会発行)に記載されており、板状粒子が配向せずに複雑に積層したような構造である。より具体的には、カードハウス構造を有するBN凝集粒子とは、BN一次粒子の集合体であって、BN一次粒子の平面部と端面部が接触している構造を有するBN凝集粒子であり、好ましくは球状である。また、カードハウス構造は粒子の内部においても同様の構造であることが好ましい。これらのBN凝集粒子の凝集形態及び内部構造は走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0018】
[粒子内空隙率・変位率・弾性率]
本明細書における粒子内空隙率は、水銀圧入測定において、細孔を円筒と仮定して、その細孔径1.0μm付近の最も容積が小さくなる細孔径(分割径)より小さい細孔径領域の細孔容積、すなわち粒子内にできる細孔の容積を表す粒子内細孔容積を粒子の体積で割った比率である。1.0μm付近に最も容積が小さくなる細孔径を有しない粉末の場合は、同等のBN凝集粉末の粒子径を有する粉末の分割径に揃えることで粒子内空隙率を評価すればよい。粒子内細孔容積は、後掲の実施例の項に示される方法で測定される。
本明細書における変位率及び弾性率は、BN凝集粒子を圧縮したときの変位率及び弾性率であり、後掲の実施例の項に示される方法で測定される。
【0019】
BN凝集粒子は、加熱処理の過程でBN原料中の不純物等が揮発することによって、BN凝集粒子内の空隙率が増える傾向がある。
前記弾性率が高いこと及び前記変位率が低いことは、BN凝集粒子の変形し難さを表す。分子内空隙率が増えれば、変形する余地が生まれて、低い弾性率や大きな変位率を示すことになる。弾性率が高いことや変位率が低いことは、粒子内の空隙率が低いことの指標となる。
【0020】
本発明のBN凝集粉末の粒子内空隙率は、47%以下が好ましく、46%以下がより好ましく、44%以下がさらに好ましく、42%以下が特に好ましく、40%以下が最も好ましい。上記上限値以下であると、粒子内の熱伝導性に優れる。
前記粒子内空隙率の下限は、不純物の揮発除去の観点から、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、7%以上が特に好ましく、9%以上が最も好ましい。
本発明のBN凝集粉末の粒子内空隙率を上記範囲とする方法としては、高温焼成におけるBN結晶のB2O3等の成長促進成分を維持できるように、バインダー量、焼成容器サイズ、焼成条件を調整すること等が挙げられる。
【0021】
BN凝集粉末を実際に使用する際は、加工の過程で、剪断や圧縮がかかるようなプロセスを経ることになるが、弾性率が高いことにより、加工プロセスにおいて、BN凝集粉末の粉体物性低下が起こり難い。この点から、本発明のBN凝集粉末の弾性率は、75MPa以上が好ましく、77MP以上がより好ましく、79MPa以上がさらに好ましく、81MPa以上が特に好ましく、83MPa以上が最も好ましい。
一方、BN凝集粒子に大きな圧力が瞬間的にかかった場合に、BN凝集粒子自体の圧壊が生じ難い点からは、BN凝集粉末の弾性率は、3000MPa以下が好ましくは、2900MPa以下がより好ましく、2800MPa以下がさらに好ましく、2700MPa以下が特に好ましく、2600MPa以下が最も好ましい。
本発明のBN凝集粉末の弾性率を上記範囲とする方法としては、高温焼成におけるBN結晶の成長程度を調整できるように、バインダー量、焼成容器サイズ、焼成条件を調整すること等が挙げられる。
【0022】
本発明のBN凝集粉末の変位率は、21%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。上記上限値以下であると、加工プロセスにおけるBN凝集粉末の物性劣化が抑制されやすい。
一方、BN凝集粒子自体の圧壊が生じ難い点からは、BN凝集粉末の変位率は、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましく、8%以上が特に好ましく、9%以上が最も好ましい。
本発明のBN凝集粉末の変位率を上記範囲とする方法としては、高温焼成におけるBN結晶の成長程度を調整できるように、バインダー量、焼成容器サイズ、焼成条件を調整すること等が挙げられる。
【0023】
[円形度]
本発明における円形度は、BN凝集粒子の投影画像から粒子の周長を計測し、(投影面積の等しい円の周長)/(粒子の周長)×100で算出される値である。後掲の実施例の項に示される方法で測定される。
円形度の高さは、BN凝集粒子が球形に近いことを表す。BN凝集粉末とマトリクス材を含む複合材組成物として使用される場合には、加工工程におけるスラリー中での流動性の確保や複合材組成物中の最密充填の観点から、円形度は重要な指標である。
【0024】
本発明のBN凝集粉末の円形度は、82%以上が好ましく、84%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましく、86%以上が特に好ましく、87%以上が最も好ましい。上記下限値以上であると、加工工程におけるスラリー中での流動性に優れ、複合材組成物中の充填密度を充分に高めやすい。
一方で、円形度が高過ぎることは、BN凝集粒子を構成するBNの結晶成長が進んでいないことを意味する。この観点からの前記円形度は、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下がさらに好ましく、95%以下が特に好ましく、93%以下が最も好ましい。
本発明のBN凝集粉末の円形度を上記範囲とする方法としては、高温焼成における凝集粒子同士の結着を抑えるように、加熱処理前に添加する炭素粉の添加量や焼成条件を調整すること等が挙げられる。
【0025】
[粒子径]
本発明における粒子径は、後掲の実施例の項に示される方法で測定される。
本発明のBN凝集粉末の粒子径は、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。上記下限値以上であると、複合材組成物の加工工程におけるスラリー粘度を低下することができる。
前記粒子径の上限は、複合材組成物の薄膜化の観点から、200μm以下が好ましく、170μm以下がより好ましく、140μm以下がさらに好ましい。
本発明のBN凝集粉末の粒子径を上記範囲とする方法としては、造粒時の噴霧条件を調整すること等が挙げられる。
【0026】
なお、各種測定において、BN凝集粉末のなかから測定対象とするBN凝集粒子を無作為に採取する方法は特に限定されないが、BN凝集粉末を均一に混合した後に採取することが好ましい。
【0027】
≪BN凝集粉末の製造方法≫
本発明のBN凝集粉末は、原料となる窒化ホウ素(以下、これを粉砕したものとともに「原料BN粉末」ともいう。)を粉砕工程で粉砕した後、造粒工程で凝集させることにより造粒し、さらに加熱処理する加熱工程を経ることが好ましい。
より具体的には、原料BN粉末を一旦媒体中に分散させて原料BN粉末のスラリー(以下、「BNスラリー」ともいう。)とした後、粉砕処理を施し、その後得られたスラリーを用いて球形の粒子に造粒し、造粒したBN造粒粉末の結晶化を行うために加熱処理を施す工程を有する方法が好ましい。
【0028】
還元剤として炭素共存下で加熱処理することにより本BN凝集粒子が得られる。具体的には、加熱処理前のBN造粒粉末に炭素粉を添加することが好ましい。
炭素共存下で加熱処理することにより、焼結の原因となる凝集粒子同士の融着を抑制することができる。その結果、鱗片状の一次粒子とは異なる、大きな塊状に結晶成長したBN一次粒子が形成され、本BN凝集粒子となる。
炭素粉の種類としてはカーボンブラックなどが挙げられる。反応性の点で無定形炭素が好ましい。
炭素粉の平均粒径は0.01~50μmが好ましく、0.05~40μmがより好ましく、0.1~30μmがさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であるとBN造粒粉末との混合が均一になり易く、上限値以下であると炭素粉が残留するリスクを低減できる。
なお、本明細書における炭素粉の平均粒径の値は、レーザ回折粒度分布測定装置により測定される粒度分布における体積基準のメジアン径である。
炭素粉の添加量は、BN造粒粉末の質量に対して0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると炭素粉の添加による効果の均一性に優れ、上限値以下であると炭素粉が残留するリスクを低減できる。
【0029】
<原料BN粉末>
原料BN粉末としては、市販のh-BN、市販のα及びβ-BN、ホウ素化合物とアンモニアの還元窒化法により作製されたBN、ホウ素化合物とメラミンなどの含窒素化合物から合成されたBNなど何れも制限なく使用できる。原料BN粉末としては、特にh-BNが本発明の効果をより有効に発揮する点で好ましく用いられる。
【0030】
原料BN粉末の形態としては、粉末X線回折測定により得られるピークの半値幅が広く、結晶性が低い粉末状の窒化ホウ素が好適である。即ち、鱗片状のh-BNを原料として使用することも可能であるが、鱗片状でないナノ粒子も好適に用いられる。原料BN粉末は、少なくとも鱗片状のh-BNを含む。原料BN粉末の総質量に対して鱗片状のh-BNが占める割合は20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
原料BN粉末の結晶性の目安として、粉末X線回折測定から得られる(002)面のピーク半値幅が、2θの角度で、通常0.4°以上、好ましくは0.45°以上、より好ましくは0.5°以上である。また、この(002)面のピーク半値幅は、通常2.0°以下、好ましくは1.5°以下、さらに好ましくは1°以下である。(002)面のピーク半値幅が上記上限以下であることで、結晶子の成長が容易となり生産性が十分に向上する傾向がある。(002)面のピーク半値幅が上記下限以上であることで、結晶性が適当な範囲となり、結晶成長が容易となると共に、スラリー作製時の分散安定性が向上する傾向がある。
【0031】
原料BN粉末の製造方法は特に限定されないが、例えば、Microstructural development with crystallization of hexagonal boron nitride(TSUYOSHI TAGIO,etc. Journal of Materials Science Letters 16,795-798(1997)等に記載の方法が挙げられる。
【0032】
BN結晶成長の観点からは、原料BN粉末中に酸素原子がある程度存在することが好ましい。本発明では、原料BN粉末中の全酸素濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下である。全酸素濃度が上記上限以下であることで、熱処理後の酸素の残存が抑制され、熱伝導性の改善効果が高くなる傾向がある。全酸素濃度が上記下限以上であることで、結晶性が過剰になり過ぎず、結晶成長が得られる傾向にある。
【0033】
原料BN粉末の全酸素濃度を上記範囲に調整する方法としては、例えばBN合成時の合成温度を1500℃以下の低温で行う方法、500~900℃の低温の酸化雰囲気中で原料BN粉末を熱処理する方法などが挙げられる。
原料BN粉末の全酸素濃度は、不活性ガス融解-赤外線吸収法により、株式会社堀場製作所製の酸素・窒素分析計を用いて測定することができる。
【0034】
原料BN粉末の全細孔容積は好ましくは1.5cm3/g以下である。全細孔容積が1.5cm3/g以下であることにより、原料BN粉末が密になっているために、球形度の高い造粒が可能となる。全細孔容積の下限は特に限定されないが、好ましくは0.3cm3/g以上、より好ましくは0.5cm3/g以上である。
【0035】
原料BN粉末の比表面積は好ましくは50m2/g以上、より好ましくは60m2/g以上、さらに好ましくは70m2/g以上で、好ましくは1000m2/g以下、より好ましくは500m2/g以下、さらに好ましくは300m2/g以下である。原料BN粉末の比表面積が50m2/g以上であることにより、造粒による球形化の際に用いるBNスラリー中の分散粒子径を小さくすることができるため好ましい。原料BN粉末の比表面積が1000m2/g以下であることにより、スラリー粘度の増加を抑制することができるため好ましい。
【0036】
原料BN粉末の全細孔容積は、窒素吸着法及び水銀圧入法で測定することができる。原料BN粉末の比表面積は、BET1点法(吸着ガス:窒素)で測定することができる。
なお、窒素吸着法はJISZ8830に準拠した方法で実施し、測定温度は-196℃(液体窒素温度)とする。また、水銀圧入法はJISR1655に準拠した方法で実施し、BNの表面張力485dyn/cm2、接触角140°、測定温度は23~26℃とする。
【0037】
<媒体>
BNスラリーの調製に用いる媒体としては特に制限はなく、水及び/又は各種の有機溶媒を用いることができる。噴霧乾燥の容易さ、装置の簡素化などの観点から、媒体としては水を用いることが好ましく、純水がより好ましい。
【0038】
BNスラリーの調製に用いる媒体は、BNスラリーの粘度が200~5000mPa・sとなる量を加えることが好ましい。BNスラリーの粘度は、スラリー温度が10℃以上60℃以下の場合の粘度を表し、好ましくは15℃以上50℃以下、より好ましくは15℃以上40℃以下、さらに好ましくは15℃以上35℃以下で上記の粘度であることが好ましい。具体的にはBNスラリーの調製に用いる媒体の使用量は、BNスラリーに対して好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。媒体の使用量が上記上限以下であると、スラリー粘度が低くなり過ぎないため、沈降などが抑制され、BNスラリーの均一性が得られる傾向にある。媒体の使用量が上記下限以上であることで、スラリー粘度が過度に高くならず、造粒が容易になる傾向がある。
【0039】
<界面活性剤>
BNスラリーには、スラリーの粘度を調節すると共に、スラリー中の原料BN粉末の分散安定性(凝集抑制)の観点から、種々の界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
一般に、界面活性剤はスラリーの粘度を変化させることが可能である。従って、BNスラリーに界面活性剤を添加する場合、その量は、BNスラリーの粘度が200~5000mPa・sとなるような量に調整する。なお、該BNスラリーの粘度は、上述のBNスラリーの調製に用いる媒体にて述べた温度範囲の粘度を表す。
例えば、原料BN粉末として、粉末X線回折測定により得られる(002)面ピークの半値幅2θが0.67°、全酸素濃度が7.5質量%であるBNを用いて固形分50質量%のスラリーを調製する場合、通常、陰イオン性界面活性剤を有効成分として、スラリー全量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下添加する。この添加量が上記上限以下であることで、スラリー粘度の低下が抑制されるとともに、生成したBN凝集粒子中に界面活性剤由来の炭素成分が残存しにくくなる傾向がある。添加量が上記下限以上であることで、スラリー粘度が過度に高くなることが抑制され、造粒が容易になる傾向がある。
【0041】
<バインダー>
BNスラリーは、原料BN粉末を効果的に粒子状に造粒するために、バインダーを含んでもよい。バインダーは、BN一次粒子を強固に結びつけ、BN造粒粉末を構成する造粒粒子を安定化するために作用する。
【0042】
BNスラリーに用いるバインダーとしては、BN一次粒子同士の接着性を高めることができるものであればよい。本発明においては、造粒粒子は粒子化後に加熱処理されるため、この加熱処理工程における高温条件に対する耐熱性を有するバインダーが好ましい。
【0043】
このようなバインダーとしては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化珪素、酸化ホウ素、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの金属の酸化物などが好ましく用いられる。これらの中でも、酸化物としての熱伝導性と耐熱性、BN一次粒子同士を結合する結合力などの観点から、酸化アルミニウム、酸化イットリウムが好適である。バインダーはアルミナゾルのような液状バインダーを用いてもよく、加熱処理中に反応して、他の無機成分に変換されるものであってもよい。これらのバインダーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
バインダーは含んでいても含んでいなくてもよく、BNスラリー中の原料BN粉末に対して0質量%であってもよい。また、バインダーを含む場合の使用量(液状バインダーの場合は、固形分としての使用量)は、BNスラリー中の原料BN粉末に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上で、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。バインダーの使用量が上記上限以下であることで、結晶成長が得られ、熱伝導性のフィラーとして用いた場合に熱伝導性改善効果が得られる傾向にある。
【0045】
<BNスラリー調製方法>
BNスラリーの調製方法は、原料BN粉末及び媒体、さらに必要により、バインダー、界面活性剤が均一に分散し、所望の粘度範囲に調整される方法であればよく、特に限定されない。原料BN粉末及び媒体、さらに必要により、バインダー、界面活性剤を用いる場合、BNスラリーは、好ましくは以下のように調製する。
【0046】
原料BN粉末を樹脂製のボトルに所定量計量し、次いで、バインダーを所定量添加する。さらに、必要に応じて界面活性剤を所定量添加した後、アルミナ製、ジルコニア製などのセラミックボールを加えて、ポットミル回転台で所望の粘度になるまで0.5~5時間程度撹拌する。
【0047】
添加の順番は特に制限はないが、大量の原料BN粉末をスラリー化する場合、ダマなどの凝集物ができやすくなるため、水に、必要に応じて界面活性剤とバインダーを加えた水溶液を作製した後、所定量の原料BN粉末を少量ずつ添加し、ここにアルミナ製、ジルコニア製などのセラミックボールを加えて、ポットミル回転台で分散、スラリー化してもよい。
分散に際しては、ポットミルのほかに、ビーズミル、プラネタリーミキサーなどの分散装置を使用してもよい。
【0048】
スラリー化に際して、スラリーの温度は、好ましくは10℃以上60℃以下で行う。スラリー温度が上記下限以上であることで、スラリー粘度の上昇を抑制できる傾向にあり、上記上限以下であることで、原料BN粉末がスラリー中でアンモニアに分解することを抑制できる傾向にある。
スラリーの温度は、より好ましくは15℃以上50℃以下、さらに好ましくは15℃以上40℃以下、特に好ましくは15℃以上35℃以下である。
【0049】
<造粒>
BNスラリーから造粒粉末を得るには、スプレードライ法、転動法、流動層法、撹拌法などの一般的な造粒方法を用いることができる。この中でもスプレードライ法が好ましい。
【0050】
スプレードライ法では、原料となるスラリーの濃度、装置に導入する単位時間当たりの送液量と送液したスラリーを噴霧する際の圧空圧力及び圧空量により、所望の大きさの造粒粉末を製造することが可能である。スプレードライ法では、球状の造粒粉末を得ることも可能である。
使用するスプレードライ装置に制限はないが、より大きな球状の造粒粉末とするためには、回転式ディスクによるものが最適である。このような装置としては、大川原化工機社製スプレードライヤーFシリーズ、GF社製(旧藤崎電機社製)スプレードライヤー「MDL-050M」、プリス社製スプレードライヤー「P260」などが挙げられる。
【0051】
<加熱処理>
上記のBN造粒粉末は、さらに非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理することでBN凝集粉末を製造することができる。
非酸化性ガス雰囲気とは、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、アンモニアガス、水素ガス、メタンガス、プロパンガス、一酸化炭素ガスなどの雰囲気である。ここで用いる雰囲気ガスの種類によりBN凝集粒子の結晶化速度が異なるものとなる。結晶化を短時間で行うためには特に窒素ガス、もしくは窒素ガスと他のガスを併用した混合ガスが好適に用いられる。
【0052】
加熱処理温度は好ましくは1600℃以上、より好ましくは1800℃以上で、好ましくは2300℃以下、より好ましくは2200℃以下である。加熱処理温度が上記下限以上であることで、BN一次粒子の結晶子の成長が十分得られ、長径及び短径がいずれも3μm超である大きな塊状のBN一次粒子を形成できる。加熱処理温度が上記上限以下であることで、BN凝集粉末の分解などが抑制される傾向にある。
【0053】
加熱処理温度に達するまでの昇温速度は、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上、さらに好ましくは3℃/分以上、特に好ましくは4℃/分以上である。昇温速度が上記下限以上であると酸化ホウ素が揮発する前に高温を迎えることができ、大きな塊状のBN一次粒子が形成されやすい。
一方、前記昇温速度が速過ぎると炉への負荷が大きくなる。この観点から前記昇温速度の上限は、好ましくは35℃/分以下、より好ましくは30℃/分以下、さらに好ましくは25℃/分以下、特に好ましくは20℃/分以下である。
【0054】
加熱処理時間は、好ましくは1時間以上20時間以下、より好ましくは2時間以上10時間以下である。加熱処理時間が上記下限以上であることで、大きな塊状のBN一次粒子が形成されやすい。加熱処理時間が上記上限以下であることでBNの分解を抑制できる傾向にある。
【0055】
加熱処理は、非酸化性ガス雰囲気下で行うために、好ましくは、通常、真空ポンプを用いて焼成炉内を排気した後、非酸化性ガスを導入しながら、所望の温度まで加熱して昇温する。焼成炉内が十分に非酸化性ガスで置換できる場合は、常圧下で非酸化性ガスを導入しながら加熱昇温してもよい。焼成炉としては、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉などのバッチ式炉やロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪型連続炉などの連続炉が挙げられ、目的に応じて使い分けられる。
【0056】
通常、加熱処理するBN造粒粉末は、加熱処理時の組成の不均一性を低減するために、円形の蓋付きルツボに入れて加熱焼成される。ルツボの材質は、窒化ホウ素製、黒鉛製、等が挙げられる。炭素混入リスク低減の点から窒化ホウ素製が好ましい。
ルツボの大きさは、特に限定されないが、酸化ホウ素の揮発を抑えてブロック状の粒子を形成する観点からは大きい坩堝が好ましい。
【0057】
<分級>
上記加熱処理後のBN凝集粉末は、粒子径分布を小さくし、BN凝集粉末含有樹脂組成物に配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理する。この分級は、通常、BN造粒粉末の加熱処理後に行われるが、加熱処理前のBN造粒粉末に対して行い、その後加熱処理に供してもよい。
【0058】
分級は湿式、乾式のいずれでもよいが、BNの分解を抑制するという観点からは、乾式の分級が好ましい。特に、バインダーが水溶性を有する場合には乾式分級が好ましく用いられる。
【0059】
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがある。乾式の分級は、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うこともできる。これらの分級機は、サブミクロンからシングルミクロン領域の小さな微粒子を分級するには旋回気流式分級機を用い、それ以上の比較的大きな粒子を分級するには半自由渦遠心式分級機などを用いるというように、分級する粒子の粒子径に応じて適宜使い分ければよい。
【0060】
<複合材組成物>
上記BN凝集粉末は無機フィラーとして好適に用いることができる。
本発明の別の実施形態は、上記BN凝集粉末と、マトリクス材を含む、複合材組成物である。
マトリクス材は熱伝導性が高いものが好ましい。マトリクス材の熱伝導率は0.2W/mK以上であることが好ましく、特に0.22W/mK以上であることが好ましい。なお、マトリクス材の熱伝導率の測定方法は以下の装置を用いて、熱拡散率、比重、及び比熱を測定し、この3つの測定値を乗じることで熱伝導率を求める。
(1)熱拡散率:アイフェイズ社製「アイフェイズ・モバイル1u」
(2)比重:メトラー・トレド社製「天秤XS-204」(固体比重測定キット使用)
(3)比熱:セイコーインスツル社製「DSC320/6200」
【0061】
マトリクス材としては通常樹脂が用いられ、硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも制限なく用いることができる。
硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、電子線硬化性などの架橋可能なものであればよい。耐熱性、吸水性、寸法安定性などの点で、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂としては、例えば国際公開第2013/081061号に例示されたものを用いることができる。このうち、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、特にエポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂としては、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。中でも、耐熱性がより一層高められることから、フルオレン骨格及び/又はビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂が特に好ましく、とりわけビルフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格及びビフェニル骨格のうちの少なくとも1つ以上の骨格を有するフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0062】
複合材組成物の総質量に対するマトリクス材の含有量は、通常2質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上であり、通常70質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
また、複合材組成物の総質量に対するBN凝集粉末の含有量は、通常30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、通常99質量%以下、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0063】
複合材組成物の調製には、有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤、アミド系溶剤、アルカン系溶剤、エチレングリコールエーテル及びエーテル・エステル系容易剤、プロピレングリコールエーテル及びエーテル・エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤の中から、樹脂の溶解性等を考慮して、好適に選択して用いることができる。有機溶剤の具体例としては、国際公開第2013/081061号に例示されたものを用いることができる。有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
【0064】
複合材組成物は、必要に応じて硬化剤を含有していてもよい。硬化剤とは、エポキシ樹脂のエポキシ基等の、マトリクス材の架橋基間の架橋反応に寄与する物質を示す。エポキシ樹脂においては、必要に応じて、エポキシ樹脂用の硬化剤、硬化促進剤が共に用いられる。
また、機能性の更なる向上を目的として、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の添加剤(その他の添加剤)を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、液晶性エポキシ樹脂等の、前記のマトリクス材に機能性を付与した機能性樹脂、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、繊維状窒化ホウ素等の窒化物粒子、アルミナ、繊維状アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の絶縁性金属酸化物、ダイヤモンド、フラーレン等の絶縁性炭素成分、樹脂硬化剤、樹脂硬化促進剤、粘度調整剤、分散安定剤が挙げられる。
【0065】
さらに、その他の添加剤としては、マトリクス材とBN凝集粉末との接着性を向上させるための添加成分として、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤、保存安定性向上のための紫外線防止剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、着色剤、分散剤、流動性改良剤等が挙げられる。
【0066】
その他、組成物中での各成分の分散性を向上させる、界面活性剤や、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤等を添加することもできる。これらは、いずれも1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。添加剤の具体例については、国際公開第2013/081061号に例示されたものを用いることができ、添加量についても国際公開第2013/081061号に記載の範囲とすることができる。
【0067】
複合材組成物の調製は、BN凝集粉末、マトリクス材、必要に応じた溶剤及びその他の添加剤を分散・混合することを目的として、ペイントシェーカーやビーズミル、プラネタリーミキサー、攪拌型分散機、自公転攪拌混合機、三本ロール、ニーダー、単軸又は二軸混練機等の一般的な混練装置などを用いて混合する方法が好ましい。複合材組成物の各配合成分の混合順序も、反応や沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り任意であり、組成物の構成成分のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め混合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全部を混合してもよい。
【0068】
<放熱部材>
上記BN凝集粉末は放熱部材用の熱伝導性フィラーとして好適に用いることができる。
上記複合材組成物は、成形体とすることで放熱部材となり得る。この成形体を成形する方法は、樹脂組成物の成形に一般に用いられる方法を用いることができる。例えば、複合材組成物を所望の形状で、例えば、型へ充てんした状態で硬化させることによって成形することができる。このような成形体の製造法としては、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、及び圧縮成形法を用いることができる。また、複合材組成物がエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂組成物を含む場合、成形体の成形、すなわち硬化は、それぞれの組成に応じた硬化温度条件で行うことができる。
【0069】
また、複合材組成物が熱可塑性樹脂組成物を含む場合、成形体の成形は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度及び所定の成形速度や圧力の条件で行うことができる。また、複合材組成物を成形硬化した固形状の材料から所望の形状に削り出すことによって成形体を得ることもできる。
【0070】
<半導体デバイス>
本発明の半導体デバイスは、本発明の放熱部材が放熱材として実装されたものであり、その高い熱伝導性による放熱効果と耐電圧特性で、高い信頼性のもとに、高出力、高密度化が可能である。半導体デバイスにおいて、本発明の放熱部材以外の基板、アルミ配線、封止材、パッケージ材、ヒートシンク、サーマルペースト、はんだというような部材は従来公知の部材を適宜採用できる。
【0071】
<作用効果>
本発明のBN凝集粉末により熱伝導性に優れた複合材組成物を得ることができるメカニズムは、以下のように推定される。
放熱部材等における熱伝導は、窒化ホウ素という物質を介して発現され、空隙は熱伝導の低下要因となる。また、窒化ホウ素という材料は、結晶の方位によって熱伝導性が大きく異なるため、結晶の配向により熱伝導が大きく低下する懸念を有する。これに対して本BN凝集粒子では、窒化ホウ素を大きな塊状に結晶成長させたことにより、粒子内空隙率を低減でき、熱伝導性を向上させることができる。また、BN一次粒子の形状が塊状であると配向による異方性の問題が生じ難い。
さらに、鱗片状のBN一次粒子同士の接合部分は、その結晶成長の性質から欠陥を内包する懸念があり、フォノン散乱を伴う熱伝導低下要因となる。これに対して本BN凝集粒子では、窒化ホウ素を大きな塊状に結晶成長させたことにより、前記接合部分の数を低減することができ、これによっても熱伝導性を改善することができる。
しがたって、本発明のBN凝集粉末は、複合材組成物とした際に優れた熱伝導性が期待できる。
【実施例0072】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
≪測定方法≫
[BN凝集粒子の断面観察]
各例で得られたBN凝集粉末を樹脂中に包埋し、イオン研磨してBN凝集粒子の断面を含む観察面を削り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
観察視野内に10~20個のBN凝集粒子が存在するように倍率を設定し、視野内に存在するBN凝集粒子の総数と、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状のBN一次粒子を含む本BN凝集粒子の数を数えた。
BN凝集粒子の総数に対する本BN凝集粒子の割合(単位:%)を算出し、塊状粒子比率とした。
【0074】
[粒子内空隙率の測定]
各例で得られたBN凝集粉末を試料とし、水銀圧入細孔分布測定法による粒子内空隙率を測定した。
水銀ポロシメーターとして、マイクロメリテックス社製・オートポアIVを用いた。試料200mgを測定用セルに充填し、減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理をした後、粉密度、全細孔容積を求め、また、水銀圧入退出曲線を測定した。
細孔を円筒と仮定して、細孔径を横軸とし、細孔容積を縦軸とする細孔径分布曲線を作成し、細孔径1.0μm付近で細孔容積が最も小さくなる細孔径(分割径)を読み取った。得られた分割径よりも細孔径が小さい領域における細孔容積の合計を粒子内細孔容積として算出した。試料の体積(1/粉密度)に対する粒子内細孔容積の割合を、BN凝集粉末の粒子内空隙率(単位:%)として算出した。
【0075】
[円形度の測定]
各例で得られたBN凝集粉末を試料とし、粒子画像解析装置(Malvern社製品名「モフォロギG3S」)を用いて、BN凝集粒子の円形度を測定した。
加圧パルス試料分散ユニットを用いてBN凝集粉末を分散させた後、画像解析を実施し円形度を測定した。モフォロギでの円形度の測定は、粒子周囲長と、粒子面積と等しい面積の円の周囲長を測定・算出し、前者を分母に、後者を分子として求めている。無作為に選んだ10000個程度のBN凝集粒子について測定を行い、平均値をBN凝集粉末の円形度とした。
【0076】
[圧縮試験]
島津社製品名「島津微小圧縮試験機MCT-510」を用いて、BN凝集粒子の圧縮試験を行った。
測定対象のBN凝集粉末から、粒子径が50μm前後のBN凝集粒子1粒を任意に選別して測定粒とした。上部加圧圧子に平面φ100μmを使用し、室温(20~30℃)、負荷速度4.84mN/secで、測定粒に負荷を与え、試験力(N)及び圧縮変位(mm)を測定し、記録した。
【0077】
[弾性率の測定]
物性研究,田中良巳,85(4),499-518,2006を参考に、上記圧縮試験で得られた破壊時の試験力P(N)、破壊時の圧縮変位Y(mm)、及び測定粒の粒子径d(mm)を用い、下記の式から弾性率E(MPa)を算出した。
無作為に選んだ5~50個の測定粒について測定を行い、平均値をBN凝集粉末の弾性率Eとした。
E=3×(1-ν2)×P/4×(d/2)1/2×Y3/2
ν:ポアソン比(ポアソン比は0.13とした)
P:試験力(N)
d:粒子径(mm)
Y:圧縮変位(mm)
【0078】
[変位率の測定]
上記圧縮試験で得られた破壊時の圧縮変位Y(mm)、及び測定粒の粒子径d(mm)を用い、下記の式から変位率(単位:%)を算出した。
無作為に選んだ5~50個の測定粒について測定を行い、平均値をBN凝集粉末の変位率とした。
変位率=Y/d×100
【0079】
[粒子径の測定]
各例で得られたBN凝集粉末を試料とし、粒子画像解析装置(Malvern社製品名「モフォロギG3S」)を用いて、BN凝集粒子の粒子径を測定した。
加圧パルス試料分散ユニットを用いてBN凝集粉末を分散させた後、画像解析を実施し粒子径を測定した。無作為に選んだ10000個程度のBN凝集粒子について測定を行い、平均値をBN凝集粉末の粒子径とした。
【0080】
<実施例1>
[BN造粒粉末の調製]
(原料)
原料BN粉末:鱗片状のh-BN粉末、粉末X線回折測定により得られる(002)面ピークの半値幅が2θ=0.67°、全酸素濃度7.5質量%、比表面積116m2/g、全細孔容積0.754cm3/g。
バインダー:多木化学社製品名「タキセラムM160L」、塩基性乳酸アルミニウム水溶液、固形分濃度21質量%。
媒体:脱塩水。
【0081】
原料BN粉末、バインダー及び脱塩水を混合してBNスラリーを調製した。配合量は以下の通りである。
原料BN粉末は、BNスラリーの総質量に対して43質量%。
バインダーは、原料BN粉末の質量に対してAl2O3に換算した含有量が10質量%。
【0082】
具体的には、原料BN粉末を樹脂製のボトルに所定量計量し、次いでバインダーを所定量添加した後、アルミナ製のセラミックボールを添加して、ポットミル回転台で2時間撹拌し、BNスラリー(25℃)を得た。
得られたBNスラリーを、スプレードライヤー(プリス社製スプレードライヤー「P260」)を用い、乾燥温度85℃で噴霧乾燥し、粒径が10~50μm程度のBN造粒粉末を得た。
【0083】
[BN凝集粉末の製造]
(加熱処理)
上記で得たBN造粒粉末200gに、炭素粉(種類:カーボンブラック、平均粒径:0.5μm)を添加して混合した混合粉末を、焼成容器に入れ、窒素ガスを導入しながら、2000℃、5時間の条件で加熱処理した。
炭素粉の添加量はBN造粒粉末の質量に対して4質量%とした。
焼成容器は、円形の蓋付き窒化ホウ素製ルツボ(内容積:直径φ85mm、高さH95mm)を用いた。
室温(25℃)から2000℃までの昇温速度は7℃/分とした。
加熱処理後、室温まで冷却し、ルツボから焼成ケーキを取り出した。
【0084】
(解砕)
得られた焼成ケーキを解砕し、目開き90μmの金属メッシュを通し、金属メッシュを通過した粒子群(粉末)を、BN凝集粉末として得た。
【0085】
(評価)
本例で得られたBN凝集粉末について、上記の方法で断面観察し、塊状粒子比率を求めた。また上記の方法で粒子径、弾性率、変位率、粒子内空隙率、及び円形度を測定した。主な製造条件及び評価結果を表1に示す(以下、同様)。
図1は、本例で得られた本BN凝集粒子の断面像の代表例を示すSEM写真である。鱗片状BN一次粒子のほかに、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状のBN一次粒子が含まれることが認められた。
図1の本BN凝集粒子は、鱗片状BN一次粒子が配向せずに複雑に積層したカードハウス構造を有していた。
図2は、視野に10~20個の粒子が存在するように倍率を300倍にしたSEM写真である。視野内に存在するBN凝集粒子のうち、塊状のBN一次粒子を含む本BN凝集粒子に○(丸)印をつけ、塊状のBN一次粒子を含まない他のBN凝集粒子に△(三角)印をつけた。本例において、BN凝集粒子の総数は13個、本BN凝集粒子は12個であり、塊状粒子比率は92%であった。
【0086】
<実施例2>
本例では、加熱処理前に添加する炭素粉の添加量を表1に示す通りに変更した。それ以外は実施例1と同様にしてBN凝集粉末を製造し、評価した。
図3は、本例で得られた本BN凝集粒子の断面像の代表例を示すSEM写真である。鱗片状BN一次粒子のほかに、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状のBN一次粒子が含まれることが認められた。
図3の本BN凝集粒子は、鱗片状BN一次粒子が配向せずに複雑に積層したカードハウス構造を有していた。
図4は、倍率を300倍にしたSEM写真である。実施例1と同様に、本BN凝集粒子に○(丸)印をつけ、他のBN凝集粒子に△(三角)印をつけた。本例において、BN凝集粒子の総数は18個、本BN凝集粒子は11個であり、塊状粒子比率は61%であった。
【0087】
<比較例1>
本例では、BNスラリーにバインダーを配合せず、加熱処理前に炭素粉を添加しなかった。
また、焼成容器サイズ、焼成条件(加熱処理条件)を表1に示す通りに変更した。それ以外は実施例1と同様にしてBN凝集粉末を製造し、評価した。
図5は、本例で得られたBN凝集粒子の断面像の代表例を示すSEM写真である。鱗片状BN一次粒子は認められたが、長径及び短径がいずれも3μm超である塊状のBN一次粒子は認められなかった。
図5の本BN凝集粒子は、鱗片状BN一次粒子が配向せずに複雑に積層したカードハウス構造を有していた。
【0088】
実施例1、2では、粒子内空隙率が低いBN凝集粉末が得られた。また、実施例1、2では、円形度が高いBN凝集粉末が得られた。
実施例1、2の加熱処理では、本来なら焼結してしまうような高温領域へ一気に昇温したが、加熱処理前に炭素粉を添加したことにより、焼結の原因となる凝集粒子同士の融着が抑制され、大きな塊状に成長したBNの単結晶を内包する凝集粒子が得られたと考えられる。
一方、比較例1では、凝集粒子同士の融着を抑制できる炭素粉を含んでおらず、凝集粒子同士の融着を抑えるため焼成条件を調整したが、バインダーを含んでいないため、大きな塊状の成長したBNが得られず、粒子内空隙率は小さくならなかった。
【0089】
<比較例2>
本例では、一般的に販売されている窒化ホウ素凝集粉末である、Momentive社製PTX60(製造条件は不明)について、実施例1と同様に評価した。
表1の結果に示されるように、塊状粒子比率は0%であり、実施例1、2と比べて明らかに粒子内空隙率が高かった。
【0090】
<比較例3>
本例では、一般的に販売されている窒化ホウ素凝集粉末である、SAINT-GOBAIN社製CTS7M(製造条件は不明)について、実施例1と同様に評価した。
表1の結果に示されるように、塊状粒子比率は0%であり、実施例1、2と比べて明らかに粒子内空隙率が高かった。
【0091】
本発明の窒化ホウ素凝集粉末を用いることにより、熱伝導性に優れる放熱部材を提供できる。また、本発明の窒化ホウ素凝集粉末を含む放熱部材を用いて、良好な放熱性能を有し、高品質で熱伝導性に優れた、信頼性の高い半導体デバイスを実現できる。