(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146825
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】発酵風味液の製造方法、食品の製造方法、及び食品への風味付与方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/24 20160101AFI20241004BHJP
【FI】
A23L27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047148
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023057618
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】布施 早織
(72)【発明者】
【氏名】寺本 匡
(72)【発明者】
【氏名】東 陽介
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 真由美
(72)【発明者】
【氏名】北島 雅弘
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB06
4B047LB07
4B047LE01
4B047LF02
4B047LF05
4B047LF08
4B047LF09
4B047LG10
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4B047LG18
4B047LG56
4B047LG57
4B047LG70
4B047LP18
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】食品に豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し増強させることができる発酵風味液の製造方法、食品の製造方法、及び食品への風味付与方法を提供すること。
【解決手段】(i)不飽和脂肪酸含有素材を含有する発酵原料を、酵母及び乳酸菌を使用して発酵させる工程;(ii)工程(i)の発酵物に乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、バターミルク、及び酵素を追加して酵素反応後に加熱処理する工程;及び(iii)工程(ii)の加熱処理物を酵母及び/又は乳酸菌で発酵させる工程;を含む発酵風味液の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)不飽和脂肪酸含有素材を含有する発酵原料を、酵母及び乳酸菌を使用して発酵させる工程;
(ii)工程(i)の発酵物に乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、バターミルク、及び酵素を追加して酵素反応後に加熱処理する工程;及び
(iii)工程(ii)の加熱処理物を酵母及び/又は乳酸菌で発酵させる工程;
を含むことを特徴とする発酵風味液の製造方法。
【請求項2】
工程(ii)において、前記酵素がリパーゼ及び/又はプロテアーゼである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(iii)の発酵終点において、発酵風味液中のラクトン類の含有量が10~150ppmとなる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(i)において、発酵条件が、温度20~40℃、20~72時間である請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
工程(ii)の酵素反応条件が、温度35~55℃、30分間~10時間であり、加熱処理条件が、温度60~90℃、30分間~3時間である請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
工程(iii)において、発酵条件が、温度20~40℃、20~72時間である請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の方法により製造される発酵風味液を用いることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の方法により製造される発酵風味液を用いることを特徴とする食品への風味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵風味液の製造方法、食品の製造方法、及び食品への風味付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳製品は世界各国で古来より慣れ親しまれた食品であり、牛乳だけでなく、発酵や加工をすることで様々な製品が開発、流通している。具体的には発酵によりチーズやヨーグルト、加工によりバターなどが製造されている。近年、乳製品の世界的需要が拡大する一方で、原料乳の生産減や飼料価格上昇による原料乳の値上がり、原油価格の値上がり等の影響により多くの乳製品が値上がりする事態が生じている。
【0003】
食品業界においては乳製品の値上がりに対応するために、例えば、バターをマーガリンやファットスプレッド等の乳製品代用品に一部置き換えることでコストダウンを図っている。コストダウンができる一方で、このように製造された加工食品は、バターに起因するラクトン類やメチルケトン類等のミルク様の好ましい芳香が不足し、乳由来の豊かな風味やコク味が不十分な製品に仕上がるという問題がある。
【0004】
これまでに、バターを使用した場合と同様に、またはそれ以上に風味の良い食品を得るための、食品素材を開発する技術として、脂質中の炭素数10以下の脂肪酸成分が5mg/g以上である乳類または油脂類のリパーゼ処理物、一種または二種以上の酵母エキス、および乳類を含む原料組成物を、乳酸菌により、30-37℃で中温発酵し;そして得られた中温発酵物を、1-10℃で低温発酵する工程を含む、乳酸菌による低温発酵物の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
風味が強化され、且つ、香気成分と呈味成分がバランスよく含まれる、良好な風味バランスの乳酸発酵風味液、及び、該特徴を有する乳酸発酵風味液を安定して製造することができる新たな乳酸発酵風味液の製造方法を提供する技術として、乳原料を含有するミックス液を発酵させる第1乳酸発酵工程と、その後、リン脂質を添加して乳酸発酵させる第2乳酸発酵工程とを含む乳酸発酵風味液の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
従来提案の一般的なバターフレーバーやチーズフレーバー等とは異なり、ミルキー風味およびこく味付与効果の高い発酵乳フレーバーを提供する技術として、生クリーム又はバターに、脱脂粉乳および水を加えて、乳脂肪、たんぱく質、食塩が特定量となるように調製した基質にリパーゼ、プロテアーゼならびに乳酸菌を作用させるミルキー風味およびこく味を有する発酵乳フレーバーの製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-141008号公報
【特許文献2】特開2013-128449号公報
【特許文献3】特開平3-127962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
乳製品代替品について多くのメーカーが研究を重ねているが、それら従来製品は香り、またはコク味に特化しているものが多く、好ましい香りとコク味を同時に付与できるものは少ない。そのため、従来製品よりも優れた製品を求める消費者の要望は極めて強く、これに応えるために、更なる技術の速やかな提供が求められているのが現状である。
【0009】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、食品に豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し増強させることができる発酵風味液の製造方法、食品の製造方法、及び食品への風味付与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するため検討した結果、不飽和脂肪酸含有素材を含有する発酵原料を酵母及び乳酸菌を使用して発酵させ、さらに乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、バターミルク、及び酵素を追加して酵素反応後に加熱処理をし、次いで、加熱処理物を酵母及び/又は乳酸菌で発酵させた発酵風味液により、食品に豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し増強させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、本発明者らの知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。即ち、
<1> (i)不飽和脂肪酸含有素材を含有する発酵原料を、酵母及び乳酸菌を使用して発酵させる工程;
(ii)工程(i)の発酵物に乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、バターミルク、及び酵素を追加して酵素反応後に加熱処理する工程;及び
(iii)工程(ii)の加熱処理物を酵母及び/又は乳酸菌で発酵させる工程;
を含むことを特徴とする発酵風味液の製造方法である。
<2> 工程(ii)において、前記酵素がリパーゼ及び/又はプロテアーゼである前記<1>に記載の方法である。
<3> 工程(iii)の発酵終点において、発酵風味液中のラクトン類の含有量が10~150ppmとなる前記<1>または<2>に記載の方法である。
<4> 工程(i)において、発酵条件が、温度20~40℃、20~72時間である前記<1>~<3>のいずれかに記載の方法である。
<5> 工程(ii)の酵素反応条件が、温度35~55℃、30分間~10時間であり、加熱処理条件が、温度60~90℃、30分間~3時間である前記<1>~<4>のいずれかに記載の方法である。
<6> 工程(iii)において、発酵条件が、温度20~40℃、20~72時間である前記<1>~<5>のいずれかに記載の方法である。
<7> 前記<1>~<6>のいずれかに記載の方法により製造される発酵風味液を用いることを特徴とする食品の製造方法である。
<8> 前記<1>~<6>のいずれかに記載の方法により製造される発酵風味液を用いることを特徴とする食品への風味付与方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、食品に豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し増強させることができる発酵風味液の製造方法、食品の製造方法、及び食品への風味付与方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発酵風味液の製造方法)
本発明の発酵風味液の製造方法は、(i)不飽和脂肪酸含有素材を含有する発酵原料を、酵母及び乳酸菌を使用して発酵させる工程(以下、「工程(i)」と称することがある)と、(ii)工程(i)の発酵物に乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、バターミルク、及び酵素を追加して酵素反応後に加熱処理する工程(以下、「工程(ii)」と称することがある)と、(iii)工程(ii)の加熱処理物を酵母及び/又は乳酸菌で発酵させる工程(以下、「工程(iii)」と称することがある)とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0014】
<工程(i)>
前記工程(i)は、不飽和脂肪酸含有素材を含有する発酵原料を、酵母及び乳酸菌を使用して発酵させる工程である。
【0015】
<<発酵原料>>
前記発酵原料は、少なくとも不飽和脂肪酸含有素材を含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0016】
-不飽和脂肪酸含有素材-
前記工程(i)で用いる不飽和脂肪酸含有素材としては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、不飽和脂肪酸を含有する油脂、構成脂肪酸に不飽和脂肪酸を含む脂肪酸エステル類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記不飽和脂肪酸を含有する油脂としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ベニバナ油、ごま油、綿実油、オリーブ油、カラシ油、ヒマワリ油、米油等の植物油脂、牛脂、豚脂、乳脂肪等の動物油脂、魚油等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記不飽和脂肪酸を含有する油脂は、構成脂肪酸の30質量%以上が不飽和脂肪酸であるものが好ましい。
【0018】
前記構成脂肪酸に不飽和脂肪酸を含む脂肪酸エステル類は、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である脂肪酸エステル類であり、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記不飽和脂肪酸含有素材に含有される不飽和脂肪酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、炭素数14~24の不飽和脂肪酸などが挙げられる。具体例としては、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレインサン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、リシノール酸、エイコセン酸、エイコサジエン酸、エイコサトリエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。これらの中でも良好な乳風味、甘臭を食品に付与し得る発酵風味液が得られる点から、オレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、リシノール酸を含有することが好ましい。
【0020】
前記不飽和脂肪酸含有素材は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
【0021】
前記不飽和脂肪酸含有素材の前記発酵原料における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、発酵原料中0.03~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。前記不飽和脂肪酸含有素材の前記発酵原料における含有量が0.03質量%未満であると、対象とする食品に十分な甘臭が付与されないことがあり、10質量%を超えると、甘臭が強く乳風味とのバランスが悪くなることがある。
【0022】
-その他の成分-
前記発酵原料におけるその他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、アミノ酸源、炭素源、各種無機塩、ビタミン類など、通常、酵母や乳酸菌の発酵の際に培養液に添加され得る各種成分などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、前記炭素源としては、酵母や乳酸菌が資化できるものであれば特に限定されないが、例えば、グルコース、スクロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、マルトースなどが挙げられ、これらを含有する液糖類、果汁類、蜂蜜などであってもよい。
前記その他の成分は、市販品を使用してもよいし、適宜調製したものを使用してもよい。
前記その他の成分の前記発酵原料における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0023】
<<酵母及び乳酸菌>>
前記酵母及び乳酸菌は、酵母及び乳酸菌の両方を使用することが好ましい。
【0024】
-酵母-
前記工程(i)で用いる酵母としては、食品に使用できものであれば特に限定はされないが、例えばパン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌醤油酵母が挙げられ、パン酵母、ビール酵母が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、酵母の菌株としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属などが挙げられ、具体的な菌株の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces rouxii、Torulopsis utilis、Torulopsis candida、Mycotorula japonica、Mycotorula lipolytica、Torulaspora delbrueckii、Torulaspora fermentati、Candida sake、Candida tropicalis、Candida utilis、Hansenula anomala、Hansenula suaveolens、Saccharomycopsis fibligera、Saccharomyces lipolytica、Rhodotorula rubra、Pichia farinosaなどが挙げられる。これらの中でも、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensisが好ましい。
【0026】
-乳酸菌-
前記工程(i)で用いる乳酸菌としては、食品に使用できものであれば特に限定はされないが、例えば、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ストレプトコッカス属の乳酸菌等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記乳酸菌の具体的な菌株の例としては、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbruekii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)ラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。
【0028】
前記酵母及び乳酸菌は、これらを含有する各種発酵乳や発酵種を用いてもよい。
【0029】
前記酵母及び乳酸菌の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0030】
<<発酵>>
前記工程(i)における発酵は、撹拌しながら発酵することが好ましい。撹拌を伴わないと発酵が十分に進行せず、その結果として得られる発酵風味液の豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し得るという効果が十分ではなくなる可能性がある。前記撹拌の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、発酵原料の均一性が常に保たれる程度の条件で行うことができる。前記発酵では、必要に応じて通気を行ってもよい。
【0031】
前記工程(i)における発酵の条件としては、特に制限はなく、例えば、発酵終点における発酵物の香り(甘い乳の香り)などを指標として、適宜選択することができる。
【0032】
前記工程(i)における発酵の温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、通常は20~40℃であり、25~35℃が好ましい。前記発酵の温度が20℃未満であると、発酵に時間を要するだけでなく、発酵が十分に進行せず、その結果として得られる発酵風味液の豊かな乳風味及びコク味を付与し得るという効果が十分ではなくなる可能性があり、40℃を超えると、所望の風味とは異なる風味が生じる可能性がある。
【0033】
前記工程(i)における発酵の時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、前記温度条件下で、20~72時間が好ましい。前記発酵の時間が20時間未満であると、発酵が十分に進行していないことがあり、その結果として得られる発酵風味液の豊かな乳風味及びコク味を付与し得るという効果が十分ではなくなる可能性があり、72時間を超えてもそれ以上発酵は進行しない可能性がある。
【0034】
<工程(ii)>
前記工程(ii)は、工程(i)で得られた発酵物に乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、バターミルク、及び酵素を追加して酵素反応後に加熱処理する工程である。
【0035】
<<酵素反応を行う組成物>>
前記酵素反応を行う組成物は、工程(i)で得られた発酵物と、乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)と、バターミルクと、酵素とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0036】
-工程(i)で得られた発酵物-
前記工程(i)で得られた発酵物の前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、25~75質量%などが挙げられる。
【0037】
-乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)-
前記工程(ii)で用いる乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)としては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、乳クリーム、全脂粉乳、牛乳、生乳、濃縮乳、バター及びこれらを含有する食品素材などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)は、乳から調製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0038】
前記乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)の前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、酵素反応を行う組成物中3~15質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。前記乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)の前記酵素反応を行う組成物における含有量が3質量%未満であると、加工食品に豊かな乳風味やコク味が付与されないことがあり、15質量%を超えると、乳脂肪中の脂肪酸由来の香りが強くなったりして風味のバランスが崩れたり、工程(iii)の(特に酵母の)発酵が阻害されることがある。
【0039】
-バターミルク-
バターミルクは、バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分である。
前記工程(ii)で用いるバターミルクとしては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができ、液体であってもよいし、粉末であってもよいが、作業性の観点から、粉末であることが好ましい。
前記バターミルクは、乳から常法に従って調製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0040】
前記バターミルクの前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、酵素反応を行う組成物中、固形分量として4~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。前記バターミルクの前記酵素反応を行う組成物における含有量が5質量%未満であると、加工食品に豊かな乳風味やコク味が付与されないことがあり、20質量%を超えると、乳風味やコク味が強くなり風味のバランスが崩れることがある。
【0041】
-酵素-
前記酵素としては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができるが、少なくともリパーゼ及び/又はプロテアーゼを含むことが好ましい。
【0042】
[リパーゼ]
前記リパーゼとしては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができる。前記リパーゼは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記リパーゼは、微生物や動物臓器から調製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0043】
前記リパーゼの前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、酵素反応を行う組成物中0.001~0.2質量%が好ましく、0.0025~0.1質量%がより好ましい。前記リパーゼの前記酵素反応を行う組成物における含有量が0.001質量%未満であると、加工食品に豊かな乳風味やコク味が付与されないことがあり、0.1質量%を超えると、苦味が出たり、乳脂肪の分解が過度に進み脂肪酸由来の香りが強くなったりして風味のバランスが崩れることがある。
【0044】
[プロテアーゼ]
前記プロテアーゼとしては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができるが、エンド型プロテアーゼが好ましい。前記プロテアーゼは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記プロテアーゼは、微生物や植物から調製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0045】
前記プロテアーゼの前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、酵素反応を行なう組成物中0.005~0.1質量%が好ましく、0.01~0.07質量%がより好ましい。前記プロテアーゼの前記酵素反応を行う組成物における含有量が0.005質量%未満であると、加工食品に豊かな乳風味やコク味が付与されないことがあり、0.1質量%を超えると、発酵原料中のたん白質の分解が過度に進み雑味や苦味が強くなることがある。
【0046】
-その他の成分-
前記酵素反応を行う組成物は、前記工程(i)で得られた発酵物、前記乳脂肪を含む乳素材(バターミルクを除く)、前記バターミルク、及び前記酵素以外のその他の成分が含まれていてもよい。前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、適宜選択することができるが、乳風味とコク味をより良好にすることができる点で、乳たん白を含むことが好ましい。
前記その他の成分の前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0047】
前記乳たん白としては、食品として使用できるものであれば特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ホエイたん白、カゼインたん白などが挙げられる。前記乳たん白は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記乳たん白は、乳から調製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0048】
前記乳たん白の前記酵素反応を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、酵素反応を行う組成物中0.1~5質量%が好ましい。前記好ましい範囲内であると、乳風味とコク味をより良好にすることができる点で、有利である。
【0049】
<<酵素反応>>
前記酵素反応の条件としては、特に制限はなく、例えば、酵素反応終点における酵素反応物の香り(甘い乳の香り、脂肪酸由来の香り)や酵素反応物における酪酸濃度などを指標として、適宜選択することができる。
【0050】
前記酵素反応物における酪酸濃度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、100~400ppmが好ましい。前記好ましい範囲内であると、乳風味が良好で、風味のバランスも良好な発酵風味液とすることができる点で、有利である。
【0051】
前記酵素反応の温度としては、特に制限はなく、使用する酵素に応じて適宜選択することができ、例えば、35~55℃などが挙げられる。前記酵素反応の温度が35℃未満または、55℃以上であると、脂質やたん白質の分解に時間を要するだけでなく、分解が十分に進行せず、その結果として得られる発酵風味液の豊かな乳風味やコク味を付与し得るという効果が十分ではなくなる可能性がある。
【0052】
前記酵素反応の時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、前記温度条件下で、例えば、30分間~10時間などが挙げられる。前記酵素反応の時間が30分間未満であると、脂質やたん白質の分解が十分に進行していないことがあり、その結果として得られる発酵風味液の豊かな乳風味やコク味を付与し得るという効果が十分ではなくなる可能性があり、10時間を超えても所望の風味とは異なる風味が生じる可能性がある。
【0053】
また、前記酵素反応の時間は、前記酵素反応を行う組成物における酵素の含有量に応じて適宜選択することもできる。
例えば、前記酵素がリパーゼの場合、前記酵素反応を行う組成物におけるリパーゼの含有量が0.001質量%以上0.01質量%未満の場合は、前記酵素反応の時間を3~10時間とし、前記酵素反応を行う組成物におけるリパーゼの含有量が0.01~0.2質量%の場合は、前記酵素反応の時間を30分間以上3時間未満とすることが好ましい。
前記酵素がプロテアーゼの場合、前記酵素反応を行う組成物におけるプロテアーゼの含有量が0.005質量%以上0.025質量%未満の場合は、前記酵素反応の時間を3~10時間とし、前記酵素反応を行う組成物におけるリパーゼの含有量が0.025~0.1質量%の場合は、前記酵素反応の時間を30分間~3時間未満とすることが好ましい。
【0054】
<<加熱処理>>
前記加熱処理の温度(以下、「加熱温度」と称することがある)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、60~90℃が好ましく、65~75℃がより好ましい。前記加熱温度が60℃未満であると、十分に酵素が失活しない可能性があり、90℃を超えると所望の風味とは異なる風味が生じる可能性がある。
【0055】
前記加熱処理の時間(以下、「失活処理の時間」と称することがある)としては、前記温度条件下で、30分間~3時間が好ましく、30分間~1時間がより好ましい。前記加熱処理の時間が30分間未満であると十分に酵素が失活しない可能性があり、3時間を超えると所望の風味とは異なる風味が生じる可能性がある。
【0056】
前記加熱処理を行う組成物は、前記酵素反応を行う組成物に含まれる成分以外のその他の成分が含まれていてもよい。前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記その他の成分の前記加熱処理を行う組成物における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0057】
<工程(iii)>
前記工程(iii)は、工程(ii)で得られた加熱処理物を酵母及び/又は乳酸菌で発酵させ、発酵風味液を得る工程である。
【0058】
<<発酵原料>>
前記工程(iii)における発酵原料は、前記加熱処理物を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0059】
-加熱処理物-
前記加熱処理物は、前記工程(ii)で得られた加熱処理物である。
前記加熱処理物の前記工程(iii)における発酵原料における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。前記工程(iii)における発酵原料は、前記加熱処理物のみからなるものであってもよい。
【0060】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、工程(i)と同様に、特に制限はなく、適宜選択することができ、通常、酵母や乳酸菌の発酵の際に培養液に添加され得る各種成分などが挙げられる。
【0061】
<<酵母及び/又は乳酸菌>>
前記酵母及び/又は乳酸菌は、いずれか一方を使用してもよいし、両方を使用してもよいが、乳酸菌及び酵母の両方を使用することが好ましい。
前記酵母及び/又は乳酸菌並びにその使用量としては、上記した工程(i)における酵母及び乳酸菌と同様のものが挙げられる。
【0062】
<<発酵>>
前記工程(iii)における発酵工程としては、工程(i)と同様に、撹拌しながら発酵することが好ましい。
【0063】
前記工程(iii)における発酵の条件としては、特に制限はなく、例えば、発酵終点における発酵物の香り(十分な発酵臭)や発酵物におけるラクトン類の濃度などを指標として、適宜選択することができる。
【0064】
前記発酵物におけるラクトン類の濃度(工程(iii)の発酵終点における発酵風味液中のラクトン類の含有量)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、10~150ppmが好ましい。前記好ましい範囲内であると、乳風味と、甘臭やコク味とのバランスが取れた風味を食品に付与する前記発酵風味液のより優れた効果が得られる点で、有利である。
【0065】
前記ラクトン類は、マンゴー、桃、梅等の果物や、バター、チーズ等の乳成分に含まれる芳香成分であり、乳の風味を形成する重要な成分である。
前記発酵風味液に含まれるラクトン類としては、γ-ラクトン類、δ-ラクトン類、ε-ラクトン類が挙げられ、具体的には、γ-デカラクトン、δ-デカラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、δ-ヘキサラクトン、γ-ジャスモラクトン等が挙げられる。
【0066】
前記発酵風味液中のラクトン類の含有量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)などにより測定することができる。
【0067】
前記工程(iii)における発酵の温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、通常は20~40℃であり、28~38℃が好ましい。前記発酵の温度が20℃未満であると、発酵に時間を要するだけでなく、発酵が十分に進行せず、その結果として得られる発酵風味液の豊かな乳風味及びコク味を付与し得るという効果が十分ではなくなる可能性があり、40℃を超えると、所望の風味とは異なる風味が生じる可能性がある。
【0068】
前記工程(iii)における発酵の時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、工程(i)における発酵の時間と同様の時間が好ましい。
【0069】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、加熱殺菌工程などが挙げられる。
【0070】
<<加熱殺菌工程>>
前記加熱殺菌工程は、前記工程(iii)で得られた発酵風味液を加熱殺菌処理する工程である。
前記発酵風味液は、前記工程(iii)で得られたものをそのまま後述する食品の製造方法または食品への風味付与方法に用いてもよいが、保存性や流通、また、適用する食品が更に発酵させる食品、例えばイースト発酵食品に用いる場合には、発酵風味液に含まれる酵母や乳酸菌の生菌がその製造に影響を与えないように、加熱殺菌処理するのが好ましい。
【0071】
本発明の製造方法によれば、食品に豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し増強させることができる発酵風味液を効率良く製造することができる。
【0072】
(食品の製造方法、食品への風味付与方法)
本発明の食品の製造方法及び食品への風味付与方法は、上記した本発明の製造方法により製造される発酵風味液を用いる限り特に制限はなく、公知の食品の製造方法を適宜選択することができる。
【0073】
<食品>
前記食品(以下、「加工食品」と称することもある)の種類としては、豊かな乳風味、甘味・甘臭、コク味を付与することが有用な食品であれば特に限定はされないが、ベーカリー製品(パン類及び菓子類)、ホワイトソースやクリームを使用した総菜、乳系の原料を使用したスイーツを好適に例示することができる。
【0074】
<使用>
前記発酵風味液は、単独で使用してもよいし、あるいは、他の成分と混合して使用してもよい。
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、pH調整剤;ショ糖、ブドウ糖、果糖、各種糖アルコール等の糖類;澱粉や穀粉;ステビア、アスパルテーム等の甘味料;デキストリン;有機酸やその塩、グリシンやDL-アラニン等の制菌作用がある成分;調味・呈味成分;香料;色素;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、チャ抽出物等の酸化防止剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
前記発酵風味液の食品への添加量としては、特に制限はなく、食品の種類や所望の効果により適宜変更することができる。例えば、ベーカリー製品のうちパン類では、用いる穀粉類に対し、0.5~20質量%、好ましくは1~10質量%である。
【0076】
本発明の食品の製造方法によれば、豊かな乳風味や甘味及びコク味が付与された食品を製造することができる。また、本発明の食品への風味付与方法によれば、食品へ豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与することができる。
【実施例0077】
以下、試験例等を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例等に何ら限定されるものではない。
【0078】
(試験例1)
以下のようにして、試験例1の発酵風味液を製造した。
<工程(i)>
下記配合の発酵原料を、酵母及び乳酸菌を使用して撹拌しながら25℃で64時間発酵を行った。
-発酵原料-
・ 不飽和脂肪酸含有素材(ベニバナ油) ・・・ 0.5質量%
・ 糖(ショ糖) ・・・ 0.5質量%
・ 酵母エキス ・・・ 1質量%
・ 水 ・・・ 98質量%
【0079】
<工程(ii)>
下記配合の組成物を47℃で2時間処理し、酵素反応を行った。その後、70℃で30分間の加熱処理を行なった。
-組成物-
・ 工程(i)の発酵物 ・・・ 50質量%
・ バターミルクパウダー ・・・ 5.4質量%
・ 乳脂肪を含む乳素材 ・・・ 10.0質量%
(生クリーム及び乳糖を含む組成物)
・ 乳たん白 ・・・ 3.6質量%
(ホエイたん白)
・ リパーゼ ・・・ 0.1質量%
・ プロテアーゼ ・・・ 0.05質量%
・ 水 ・・・ 30.85質量%
【0080】
<工程(iii)>
工程(ii)で得られた加熱処理物(全量)に、酵母及び乳酸菌を加え、30℃で20時間発酵を行い、発酵風味液を得た。
【0081】
(試験例2~17)
試験例1における各工程及び各成分を下記の表1~6に記載のように変更した以外は、試験例1と同様にして、試験例2~17の発酵風味液を得た。
【0082】
試験例1~17で使用した不飽和脂肪酸含有素材の詳細は、以下のとおりである。なお、これらは、不飽和脂肪酸含有素材の一例として使用したものである。
<不飽和脂肪酸を含有する油脂>
・ ベニバナ油
構成脂肪酸の89質量%が不飽和脂肪酸である油脂。前記不飽和脂肪酸として、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸が含まれる。
・ 大豆油
構成脂肪酸の84質量%が不飽和脂肪酸である油脂。前記不飽和脂肪酸として、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸が含まれる。
・ 乳脂肪
構成脂肪酸の30質量%が不飽和脂肪酸である油脂。前記不飽和脂肪酸として、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、ミリストレイン酸、α-リノレン酸、デセン酸が含まれる。
<構成脂肪酸に不飽和脂肪酸を含む脂肪酸エステル類>
・ グリセリン脂肪酸エステルA
構成脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸である脂肪酸エステル類。前記不飽和脂肪酸として、オレイン酸が含まれる。
・ グリセリン脂肪酸エステルB
構成脂肪酸の95質量%以上が不飽和脂肪酸である脂肪酸エステル類。前記不飽和脂肪酸として、リシノール酸が含まれる。
【0083】
[評価]
<工程(iii)の発酵終点における発酵風味液中のラクトン類の含有量の測定>
試験例1~4、15、16、及び17の工程(iii)の発酵終点における発酵風味液中のラクトン類の含有量について、下記のようにして調製したサンプルを下記GC/MS条件で測定し、算出した。結果を表1及び6に示す。
-サンプルの調製-
・ 発酵風味液2mLに塩0.5gを添加し混合する。
・ ヘキサンを2mL加えてさらに混合する。
・ 遠心分離を行い(3,000rpm、5分)、上清を測定サンプルとする。
-GC/MS条件-
・ カラム : DB-1HT(15m×0.25mm×0.1μm)
・ 昇温条件 : 40℃(3分)→4℃/分で170℃まで昇温する→25℃/分で370℃まで昇温する→370℃(7分)
・ キャリアガス : ヘリウム
・ 注入口 : 370℃、スプリット比=20:1
・ イオン源 : EI
・ 検出器温度 : 345℃
・ イオン電圧 : 70eV
【0084】
<マフィン>
試験例1~17で製造した発酵風味液を用い、マフィンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
-配合-
・ 小麦粉 ・・・ 100質量部
・ 卵 ・・・ 100質量部
・ 砂糖 ・・・ 100質量部
・ はちみつ ・・・ 20質量部
・ 転化糖 ・・・ 7.4質量部
・ ベーキングパウダー ・・・ 2.6質量部
・ バター ・・・ 100質量部
・ 発酵風味液 ・・・ 2.5質量部
【0085】
-工程-
・ 卵に、砂糖、はちみつ、転化糖、発酵風味液を加えて糖が溶けるまで混ぜる。
・ 粉類をふるいながら加えて混ぜる。
・ 溶かしたバター(50℃)を加え、混ぜる。
・ 5℃で60分休ませる。
・ 50gずつ耐熱容器に入れ、200℃/190℃で18~20分間焼成する。
【0086】
製造したマフィンを食し、乳風味、甘味・甘臭、およびコク味について評価した。評価は10名で行い、最も多かった評価結果を表1~6に示した。なお、いずれかの評価項目において、△、×の評価が含まれる場合は目的の風味となっていないと判断した。
【0087】
・ 乳風味
◎ : 乳風味に富む。
○ : 乳風味がある。
△ : 乳風味がやや弱い。
× : 乳風味に乏しい、もしくは乳風味が強すぎる。
「乳風味が強すぎる」とは、酪酸系の風味が強すぎるとチーズ風味になって求める風味と離れることをいう。
【0088】
・ 甘味・甘臭
◎ : 甘味と甘臭に富む。
○ : 甘味と甘臭がある。
△ : 甘味と甘臭がやや弱い。
× : 甘味と甘臭に乏しい。
【0089】
・ コク味
◎ : コク味が豊かである。
○ : コク味がある。
△ : ややコク味がある。
× : コク味に乏しい。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
表1~6の結果から、本発明の方法で製造した発酵風味液を使用して製造したマフィンは、バランスの取れた甘味・甘臭と乳風味、及び後引く豊かなコク味が付与された。
【0097】
(製造例1:ロールパン)
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液をそれぞれ用い、製造例1-1~1-11のロールパンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
中種 本捏
・ 小麦粉 70質量部 30質量部
・ イースト 3質量部 -
・ パン品質改良剤 0.1質量部 -
・ ぶどう糖 3質量部 -
・ 全卵 10質量部 -
・ 砂糖 - 18質量部
・ マーガリン - 15質量部
・ 脱脂粉乳 - 3質量部
・ 食塩 - 1.4質量部
・ 発酵風味液 - 1質量部
・ 水 34質量部 19質量部
【0098】
<工程>
中種 本捏
・ ミキシング L2分M2分 L2分M3分H1分↓M3分H2分
・ 捏上温度 26℃ 27℃
・ 発酵(フロア)時間 2時間 20分
・ 分割重量 - 40g
・ ベンチ時間 - 20分
・ 成型 - 一本結び
・ ホイロ条件 - 35℃、相対湿度85%
・ ホイロ時間 - 60分
・ 焼成条件 - 200℃、9分
なお、上記工程において、Lは低速、Mは中速、Hは高速を表し、↓は油脂の添加を表す。
【0099】
なお、各製造例で用いた発酵風味液は以下のとおりである(後述の製造例2~5も同様)。
製造例1-1 ・・・ 試験例1で製造した発酵風味液
製造例1-2 ・・・ 試験例2で製造した発酵風味液
製造例1-3 ・・・ 試験例3で製造した発酵風味液
製造例1-4 ・・・ 試験例7で製造した発酵風味液
製造例1-5 ・・・ 試験例8で製造した発酵風味液
製造例1-6 ・・・ 試験例9で製造した発酵風味液
製造例1-7 ・・・ 試験例10で製造した発酵風味液
製造例1-8 ・・・ 試験例14で製造した発酵風味液
製造例1-9 ・・・ 試験例15で製造した発酵風味液
製造例1-10 ・・・ 試験例16で製造した発酵風味液
製造例1-11 ・・・ 試験例17で製造した発酵風味液
【0100】
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液を用いて製造した製造例1-1~1-11のロールパンは、バランスの取れた乳風味や甘味・甘臭、豊かなコク味が付与された。
【0101】
(製造例2:クロワッサン)
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液をそれぞれ用い、製造例2-1~2-11のクロワッサンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
・ 小麦粉 ・・・ 100質量部
・ イースト ・・・ 4質量部
・ パン品質改良剤 ・・・ 0.3質量部
・ 砂糖 ・・・ 6質量部
・ マーガリン ・・・ 6質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 3質量部
・ 食塩 ・・・ 2質量部
・ モルトエキス ・・・ 0.5質量部
・ 牛乳 ・・・ 50質量部
・ 発酵風味液 ・・・ 1質量部
・ 水 ・・・ 7質量部
・ ロールイン油脂 ・・・ 28質量部(対生地)
【0102】
<工程>
・ ミキシング ・・・ ↓L8分M2分H0.5分
・ 捏上温度 ・・・ 21℃
・ 発酵(フロア)時間 ・・・ 60分
・ 大分割重量 ・・・ 1,798g
・ リタード条件 ・・・ 0℃、15~20時間
・ 折込条件 ・・・ ロールイン油脂500g、3つ折り3回
・ 厚さ ・・・ 2.6mm
・ 分割重量 ・・・ 70g
・ 成型 ・・・ クロワッサン成型
・ ホイロ条件 ・・・ 32℃、相対湿度85%
・ ホイロ時間 ・・・ 65分
・ 焼成条件 ・・・ 上210℃、下190℃、15分
なお、上記工程において、Lは低速、Mは中速、Hは高速を表し、↓は油脂の添加を表す。
【0103】
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液を用いて製造した製造例2-1~2-11のクロワッサンは、バランスの取れた甘味・甘臭、乳風味が付与された。また、豊かなコク味の付与とともに中味の厚みと塩味が増強された。
【0104】
(製造例3:牛乳プリン)
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液をそれぞれ用い、製造例3-1~3-11の牛乳プリンを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
・ 牛乳 ・・・ 89.7質量部
・ 砂糖 ・・・ 9質量部
・ 寒天 ・・・ 1.3質量部
・ 発酵風味液 ・・・ 0.9質量部
【0105】
<工程>
・ 牛乳、砂糖、寒天、および発酵風味液を鍋に入れ寒天が溶けるまで加熱する。
・ 寒天が溶けたら容器に移し、冷やして固める。
【0106】
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液を用いて製造した製造例3-1~3-11の牛乳プリンは、バランスの取れた甘味・甘臭、乳風味が付与された。また、豊かなコク味の付与とともにまろやかさが付与された。
【0107】
(製造例4:ホワイトソース)
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液をそれぞれ用い、製造例4-1~4-11のホワイトソースを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合>
・ 牛乳 ・・・ 85質量部
・ 有塩バター ・・・ 8.5質量部
・ 小麦粉 ・・・ 5.9質量部
・ 食塩 ・・・ 0.6質量部
・ 発酵風味液 ・・・ 0.2質量部
【0108】
<工程>
・ バターを鍋に入れて弱火で溶かし、小麦粉を入れよく混合する。
・ 鍋を火からおろして牛乳、発酵風味液を加え、よく混合する。
・ 弱火で加熱し、トロミが出たところで塩、こしょうを混合し、ホワイトソースとする。
【0109】
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液を用いて製造した製造例4-1~4-11のホワイトソースは、バランスの取れた甘味・甘臭、乳風味が付与された。また、豊かなコク味の付与とともに中味の厚みが増強された。
【0110】
(製造例5:カルボナーラ)
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液をそれぞれ用い、製造例5-1~5-11のカルボナーラソースを製造した。配合及び工程は、以下のとおりである。
<配合(カルボナーラソース)>
・ ベーコン ・・・ 32.5質量部
・ 生クリーム ・・・ 27.1質量部
・ 卵黄 ・・・ 21.7質量部
・ 粉チーズ ・・・ 9.8質量部
・ オリーブ油 ・・・ 8.1質量部
・ 黒コショウ ・・・ 0.5質量部
・ 発酵風味液 ・・・ 0.2質量部
【0111】
<工程>
・ ベーコンを1~2cm幅に切り、オリーブ油で炒める。
・ 粉チーズ、生クリーム、発酵風味液、卵黄、黒コショウをよく混ぜ合わせて加え、ここに茹でスパゲッティ150gも加えて火を止め、余熱で半熟状態になるよう良く混ぜ合わせる。
【0112】
試験例1~3、7~10、及び14~17で製造した発酵風味液を用いて製造した製造例5-1~5-11のカルボナーラは、豊かな乳風味とバランスの取れた甘味・甘臭が付与された。また、豊かなコク味の付与とともに中味の厚みが増強された。
【0113】
以上のように、本発明によれば、様々な食品に豊かな乳風味や甘味及びコク味を付与し増強させることができることが示された。