(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146833
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物および硬化性樹脂組成物を用いたプリント配線基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/42 20060101AFI20241004BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H05K3/42 610C
H05K1/03 610H
H05K1/03 610R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024048596
(22)【出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023058588
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】金沢 康代
(72)【発明者】
【氏名】野口 智崇
(72)【発明者】
【氏名】田村 拓人
(72)【発明者】
【氏名】小松 史子
【テーマコード(参考)】
5E317
【Fターム(参考)】
5E317AA24
5E317BB02
5E317BB03
5E317BB04
5E317BB05
5E317BB12
5E317CC31
5E317CD27
5E317GG14
5E317GG16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スルーホールへの充填後の研磨平滑工程で凹部が生じ難い硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーを含む硬化性樹脂組成物であって、表面にめっき処理が施された総厚1.6mmの基板に、壁面にめっき処理が施された内径0.12mmの略円柱状のスルーホール2が1mmの等間隔で複数設けられ、基板の一方の主面側から、前記スルーホール2に前記硬化性樹脂組成物を充填し硬化させた場合に、前記主面は、個々のスルーホール2の周囲を覆うように前記硬化性樹脂組成物の硬化物が前記基板主面を被覆する硬化物被覆領域4を有し、個々の硬化物被覆領域4の直線最長距離をr
L(μm)とし、前記r
Lの線分の中央を直行する線分の直線最長距離をr
S(μm)としたときに、1≦r
L/r
S≦1.5を満足する硬化物被覆領域4が、全硬化物被覆領域の50%以上とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーを含む硬化性樹脂組成物であって、
表面にめっき処理が施された総厚1.6mmの基板に、壁面にめっき処理が施された内径0.12mmの略円柱状のスルーホールが1mmの等間隔で複数設けられた厚さ1.6mmのプリント配線基板の一方の主面側から、前記スルーホールに前記硬化性樹脂組成物を充填した後、前記硬化性樹脂組成物を硬化させた場合に、
前記プリント配線基板の主面のうち、充填側とは反対側の主面を正面視したときに、前記主面は、個々のスルーホールの周囲を覆うように前記硬化性樹脂組成物の硬化物が前記基板の主面を被覆する硬化物被覆領域を有しており、
個々の硬化物被覆領域の直線最長距離をrL(μm)とし、前記rLの線分の中央を直行する線分の直線最長距離をrS(μm)としたときに、
1≦rL/rS≦1.5
を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%以上であることを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機フィラーが、前記硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して40~90質量%の割合で含まれる、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーの平均粒子径が、0.1~20μmである、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーが磁性フィラーを含む、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を用いたプリント配線基板の製造方法であって、
略円柱状のスルーホールが複数設けられたプリント配線基板を準備し、
前記プリント配線基板の一方の主面側から、前記硬化性樹脂組成物を印刷により前記スルーホールに充填し、
充填した前記硬化性樹脂組成物を硬化させる、
ことを含み、
前記硬化性樹脂組成物の充填をする際に、前記プリント配線基板の主面のうち、印刷した側とは反対側の主面のスルーホールから前記硬化性樹脂組成物が吐出するが、隣接するスルーホールから吐出された硬化性樹脂組成物と接触しないように、硬化性樹脂組成物の充填量を調整することを特徴とする、方法。
【請求項6】
充填した前記硬化性樹脂組成物の硬化後に、前記プリント配線基板の主面のうち、印刷した側とは反対側の主面を研磨することを含む、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関し、より詳細には、プリント配線板のスルーホール等の貫通孔の穴埋め用充填材として好適に使用できる硬化性樹脂組成物、および硬化性樹脂組成物を用いたプリント配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化・高機能化に伴い、プリント配線板のパターンの微細化、実装面積の縮小化、部品実装の高密度化が要求されている。そのため、異なる配線層同士を電気的に接続するための層間接続を形成する貫通孔、すなわちスルーホールが設けられた両面基板や、コア材上に絶縁層、導体回路が順次形成され、ビアホールなどで層間接続されて多層化されたビルドアップ配線板などの多層基板が用いられる。
【0003】
このようなプリント配線板において、表面の導体回路間の凹部や、内壁面に配線層が形成されたスルーホール、ビアホールなどの穴部には、熱硬化性樹脂組成物により穴埋め加工処理がされるのが一般的である。熱硬化性樹脂組成物としては、一般に、硬化性樹脂成分としてのエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、および無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物が用いられている。また、穴埋め加工処理としては、基板の穴部にスクリーン印刷等の手段によって硬化性樹脂組成物を充填し、硬化性樹脂組成物を硬化させた後、余剰の硬化物を研磨して基板を平滑化することが行われる。
【0004】
近年では、スルーホールやビアホールの小径化に伴い、硬化性樹脂組成物には充填性に優れることが益々要求されるようになってきており、例えば、硬化性樹脂組成物に特定の無機フィラーを配合することで充填性を向上できることが知られている(例えば、特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-235121号公報
【特許文献2】特開2017-71656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硬化性樹脂組成物を、プリント配線板の一方の面から印刷手段によりスルーホール等の貫通孔に充填した場合、上記のような充填性に優れる硬化性樹脂組成物では、プリント配線板の他方の面側のスルーホール開口部から吐出した硬化性樹脂組成物が濡れ広がり、硬化性樹脂組成物を硬化させた後に余剰部分を研磨すると、スルーホールが完全には埋まらずに凹みが生じてしまうことがあった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、スルーホールへの充填後の研磨によって平滑化でき、スルーホールに凹部が生じ難い硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、プリント配線板の印刷面とは反対側の面のスルーホール開口部から硬化性樹脂組成物が濡れ広がっている場合であっても、その広がり方によっては、その後の研磨工程において平滑化できることに気づいた。本発明者らがさらに検討を進めたところ、濡れ広がる形状が、研磨後の平滑性に影響を与えているとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1] 硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーを含む硬化性樹脂組成物であって、
表面にめっき処理が施された総厚1.6mmの基板に、壁面にめっき処理が施された内径0.12mmの略円柱状のスルーホールが1mmの等間隔で複数設けられた厚さ1.6mmのプリント配線基板の一方の主面側から、前記スルーホールに前記硬化性樹脂組成物を充填した後、前記硬化性樹脂組成物を硬化させた場合に、
前記プリント配線基板の主面のうち、充填側とは反対側の主面を正面視したときに、前記主面は、個々のスルーホールの周囲を覆うように前記硬化性樹脂組成物の硬化物が前記基板主面を被覆する硬化物被覆領域を有しており、
個々の硬化物被覆領域の直線最長距離をrL(μm)とし、前記rLの線分の中央を直行する線分の直線最長距離をrS(μm)としたときに、
1≦rL/rS≦1.5
を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%以上であることを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
[2] 前記無機フィラーが、前記硬化性樹脂組成物の全固形分量に対して40~90質量%の割合で含まれる、[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3] 前記無機フィラーの平均粒子径が、0.1~20μmである、[1]または[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4] 前記無機フィラーが磁性フィラーを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を用いたプリント配線基板の製造方法であって、
略円柱状のスルーホールが複数設けられたプリント配線基板を準備し、
前記プリント配線基板の一方の主面側から、前記硬化性樹脂組成物を印刷により前記スルーホールに充填し、
充填した前記硬化性樹脂組成物を硬化させる、
ことを含み、
前記硬化性樹脂組成物の充填をする際に、前記プリント配線基板の主面のうち、印刷した側とは反対側の主面のスルーホールから前記硬化性樹脂組成物が吐出するが、隣接するスルーホールから吐出された硬化性樹脂組成物と接触しないように、硬化性樹脂組成物の充填量を調整することを特徴とする、方法。
[6] 充填した前記硬化性樹脂組成物の硬化後に、前記プリント配線基板の主面のうち、印刷した側とは反対側の主面を研磨することを含む、[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スルーホールへの充填後の研磨によって平滑化でき、スルーホールに凹部が生じ難い硬化性樹脂組成物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1a】本発明の硬化性樹脂組成物により穴埋めされるプリント配線板の製造工程を説明する概略図である。
【
図1b】本発明の硬化性樹脂組成物により穴埋めされるプリント配線板の製造工程を説明する概略図である。
【
図1c】本発明の硬化性樹脂組成物により穴埋めされるプリント配線板の製造工程を説明する概略図である。
【
図1d】本発明の硬化性樹脂組成物により穴埋めされるプリント配線板の製造工程を説明する概略図である。
【
図2】複数のスルーホールが一定の間隔をあけて設けられたプリント配線基板の各スルーホールに充填した硬化性樹脂組成物を硬化させた状態において、プリント配線基板の印刷した側とは反対側の主面の正面図である。
【
図4】
図3において示したスルーホールの任意の1つを拡大したものである(1≦r
L/r
S≦1.5にある場合)。
【
図5】
図3において示したスルーホールの任意の1つを拡大したものである(r
L/r
S≧1.5にある場合)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂と硬化剤と無機フィラーとを必須成分として含む。本発明においては、表面にめっき処理が施された総厚1.6mmの基板に、壁面にめっき処理が施された内径0.12mmの略円柱状のスルーホールが1mmの等間隔で複数設けられた厚さ1.6mmのプリント配線基板の一方の主面側から、前記スルーホールに前記硬化性樹脂組成物を充填した後、前記硬化性樹脂組成物を硬化させた場合に、
前記プリント配線基板の主面のうち、充填側とは反対側の主面を正面視したときに、前記主面は、個々のスルーホールの周囲を覆うように前記硬化性樹脂組成物の硬化物が前記基板主面を被覆する硬化物被覆領域を有しており、
個々の硬化物被覆領域の直線最長距離をrL(μm)とし、前記rLの線分の中央を直行する線分の直線最長距離をrS(μm)としたときに、
1≦rL/rS≦1.5
を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%以上となるような硬化性樹脂組成物とすることで、硬化性樹脂組成物の硬化物によりスルーホールの穴埋めを行ったプリント配線基板において、表面の研磨後に凹みのない平滑な表面を有するプリント配線板を得ることができる。
以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1a~
図1dは、硬化性樹脂組成物を用いてプリント配線板のスルーホールを穴埋めする工程を説明する概略図である。先ず、スルーホール2を有するプリント配線板1を準備する(
図1a)。プリント配線板1は、絶縁層101の両面に銅箔(配線層)102が設けられ基板の表面に、ドリル等でスルーホール2を形成し、スルーホール2の内壁201および配線層102の表面にめっき処理を行い、めっき層103を形成したものである。
【0014】
絶縁層101としては、ガラスエポキシ基板やポリイミド基板、ビスマレイミド-トリアジン樹脂基板、フッ素樹脂基板等の樹脂基板、またはこれらの樹脂基板の銅張積層板、セラミック基板、金属基板等を用いることができる。
【0015】
銅箔102は、絶縁層101の両面に設けられており、それぞれ18μmの厚さを有している。銅箔102の表面は、バフ研磨等の後、酸洗浄されていることが好ましい。
【0016】
めっき処理は、厚付けのために無電解めっきと電解めっきを行ない、基板10の表面にめっき層103を形成する。めっき層103の厚さは30μmである。これら無電解めっきおよび電解めっきとしては銅めっきが好ましい。無電解めっきおよび電解めっきの方法としては、従来公知の方法を好適に適用することができる。
【0017】
プリント配線板1の総厚、すなわち、絶縁層101、配線層102およびめっき層103を含めた厚みは1.6mmであり、プリント配線板1の主面に対して垂直にスルーホール2が設けられている。個々のスルーホール2は、内壁201がめっき処理されており、内径が0.12mmの略円柱状を有している。プリント配線基板1には、上記した形状の複数のスルーホール2が1mmの等間隔で設けられている。
【0018】
次に、プリント配線基板の一方の主面S1側から、硬化性樹脂組成物3を印刷によりスルーホール2に充填する(
図1b)。この時、プリント配線基板1の主面S1およびS2のうち、主面S1側(以下、印刷面側とも言う場合がある)とは反対側の主面S2側(以下、吐出面側とも言う場合がある)のスルーホールから前記硬化性樹脂組成物が吐出して膨らみ4ができる程度に、硬化性樹脂組成物3の印刷時の充填量を調整する。具体的には、プリント配線基板1のスルーホール2の吐出面側S2から硬化性樹脂組成物3が吐出するが、隣接するスルーホールから吐出された硬化性樹脂組成物と接触しないように、硬化性樹脂組成物の充填量を調整する。より具体的には、硬化性樹脂組成物を、1スルーホールあたり0.04±0.01mm
3の注入量となるように前記スルーホールに充填する。
【0019】
その後、プリント配線板1を所定の温度で所定時間加熱して充填した硬化性樹脂組成物を硬化させる(
図1c)。ここでの硬化は、何ら限定されるものではないが、本発明においては、硬化性樹脂組成物3が充填されたプリント配線基板1を、基板主面が載置面に対して90°±10°の角度となるように載置し、常温から130℃まで10分で昇温し130℃で45分間保持した後、130℃から150℃まで10分で昇温し150℃で60分間保持して、充填した前記硬化性樹脂組成物3を硬化させる。
【0020】
続いて、プリント配線基板1のスルーホール2の印刷面S1および吐出面S2からはみ出した膨らみ4の不要部分を研磨により除去して平坦化する(
図1d)。研磨は、ベルトサンダーやバフ研磨等により好適に行なうことができる。
【0021】
図2は、複数のスルーホール2が一定の間隔をあけて設けられたプリント配線基板1の各スルーホール2に充填した硬化性樹脂組成物3を硬化させた状態において、プリント配線基板1の吐出面S2の正面図である。また、
図3は、
図2のX-X’線断面図である。上記したように、プリント配線基板1の吐出面S2の表面はスルーホール2から硬化性樹脂組成物3が吐出した膨らみ4がそのまま硬化している。また、各スルーホール2において、膨らみ4の形状は異なっている。すなわち、プリント配線基板1の主面のうち、印刷した側とは反対側の主面は、個々のスルーホール2の周囲を覆うように硬化性樹脂組成物3の硬化物が基板主面S2を被覆する硬化物被覆領域4を有していると言える。
【0022】
図4は、
図2において示したスルーホール2の任意の1つを拡大したものである。すなわち、プリント配線基板1の吐出面S2を正面視した図の拡大図である。上記した硬化物被覆領域4の直線最長距離r
L(μm)とし、r
Lの線分の中央を直行する線分の直線最長距離をr
S(μm)としたときに、
1≦r
L/r
S≦1.5
を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%以上となっている。スルーホール2が略円柱上である場合スルーホール2を正面視すると略円形となるが、硬化物被覆領域が同心円の形状にあるような場合は、r
L/r
Sは1となる。一方、
図5に示すように、硬化物被覆領域4が異形であり特に一方の方向に延びている形状である場合にはr
L/r
Sは1.5以上となる。本発明においては、個々の硬化物被覆領域4は任意の形状を有しても良いが、1≦r
L/r
S≦1.5を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%以上とすることで、硬化性樹脂組成物の硬化物によりスルーホールの穴埋めを行ったプリント配線基板において、表面の研磨後に凹みのない平滑な表面を有するプリント配線板を得ることができる。
【0023】
すなわち、スルーホール2表面からはみ出した膨らみ4の不要部分を研磨により除去して平坦化する場合において、スルーホールの開口形状(すなわち略円形)に相似した形状の硬化物被覆領域が多くなるほど、研磨後の凹みが発生する確率が低くなり、凹部のない平滑な表面とすることができる。この理由は定かではないが、硬化物被覆領域が略円形の形状である場合、その厚さ方向の形状も左右対称な凸形状になる傾向にあるため、研磨した際には凸形状の膨らんだ箇所のみが研磨されて平滑になる。一方、硬化物被覆領域の形状が円形とは異なる形状(例えば楕円形等)である場合、硬化物被覆領域において厚さ方向の形状も対称な凸形状とはならずに異形になり、硬化物被覆領域の厚さの薄い箇所が研磨時に剥がれたり、塊として削り取られ、凹みが生じてしまうものと推測できる。特に、硬化物被覆領域の厚さ方向の形状が左右対称な凸形状ではなく偏心しているような場合、凸形状の頂部の位置がスルーホール中心とずれるため、スルーホール上で凹みが生じやすくなる。また、硬化物被覆領域の厚さの薄い箇所は研磨しにくく複数回の研磨処理が必要になるため、過度に研磨されて凹みが生じてしまうこともある。なお、本発明において、「1≦rL/rS≦1.5を満足する硬化物被覆領域」とは、上記した個々の硬化物被覆領域4のうち、1≦rL/rS≦1.5を満足している箇所の合計数を意味するものとし、「全硬化物被覆領域」とは、上記した個々の硬化物被覆領域4の総数を意味するものとする。また、隣接するスルーホールどうしで、個々の硬化物被覆領域がつながってしまい連続している場合は、当該箇所はカウントしないものとする。
【0024】
表面の研磨後に凹みのない平滑な表面を有するプリント配線板を得る観点からは、上記した1≦rL/rS≦1.5を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
【0025】
硬化性樹脂組成物の硬化物によりスルーホールが穴埋めされたプリント配線基板において、上記のような硬化物被覆領域とするためには、硬化性樹脂組成物の組成や印刷条件(充填条件)、硬化条件等を適宜すればよい。以下、硬化性樹脂組成物の組成について、以下詳述する。
【0026】
[硬化性樹脂]
本発明による硬化性樹脂組成物においては、硬化性成分である硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂としては、熱により硬化し得るものであれば特に制限なく使用することができるが、エポキシ樹脂を好適に使用することができる。エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば制限なく使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、アミノクレゾール型エポキシ樹脂、アルキルフェノール型エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記したエポキシ樹脂は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
上記したエポキシ樹脂には硬化前の形態として固形、半固形、液状のエポキシ樹脂がある。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、液状とは、20℃で流動性を有する液体の状態にあることをいうものであり、半固形状は、20℃で流動性を有しない固形状であるが、40℃で流動性を有する液体の状態にあることをいうものとする。
【0028】
固形エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製EPPN-502H(トリスフェノールエポキシ樹脂)等のフェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物(トリスフェノール型エポキシ樹脂);DIC株式会社製EPICLON HP-7200H(ジシクロペンタジエン骨格含有多官能固形エポキシ樹脂)等のジシクロペンタジエンアラルキル型エポキシ樹脂;DIC株式会社製EPICLON N660、EPICLON N690、日本化薬株式会社製EOCN-104S等のノボラック型エポキシ樹脂;ダウ・ケミカル日本株式会社製D.E.N.431等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂;三菱ケミカル株式会社製YX-4000等のビフェニル型エポキシ樹脂;日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製TX0712等のリン含有エポキシ樹脂;日産化学株式会社製TEPIC等のトリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート;三菱ケミカル株式会社製jER1001等のビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0029】
半固形エポキシ樹脂としては、DIC株式会社製EPICLON 860、EPICLON 900-IM、EPICLON EXA―4816、EPICLON EXA-4822、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYD-134、三菱ケミカル株式会社製jER834、jER872、住友化学株式会社製ELA-134等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;DIC株式会社製EPICLON N-740等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0030】
液状エポキシ樹脂としては、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製ZX-1059(ビスフェノールA型・ビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品)や三菱ケミカル株式会社製jER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、同jER807、同jER4004P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、エア・ウォーター株式会社製R710(ビスフェノールE型エポキシ樹脂)、三菱瓦斯化学株式会社製TETRAD-X(芳香族アミン型エポキシ樹脂)や三菱ケミカル株式会社製jER630(アミノフェノール型エポキシ樹脂)、株式会社ADEKA製ED-509S(tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル)、株式会社ADEKA製EP-3300E(ヒドロキシベンゾフェノン型液状エポキシ樹脂)、住友化学株式会社製ELM-100(パラアミノフェノール型液状エポキシ樹脂))、三菱ケミカル株式会社製jER604(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製エポトートYH-434(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)、住友化学株式会社製スミエポキシELM-120等が挙げられる。
【0031】
エポキシ樹脂の固形分全体の配合量は、硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して5~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましい。
【0032】
また、硬化性樹脂組成物の塗膜形成性、すなわち印刷適性等の塗布性を考慮すると、本発明において使用するエポキシ樹脂は、固体状よりも液状であることが好ましい。特に、エポキシ樹脂の粘度は50Pa・s以下であることが好ましく、20Pa・s以下であることがより好ましく、5Pa・s以下であることがさらに好ましい。なお、ここでの粘度とはJIS K8803:2011の「10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法」に準拠し、コーンプレート型粘度計(東機産業株式会社製、TV-33H、ロータ3°×R9.7あるいは、ロータ1°34’×R24)を用いて25±1℃、ロータ回転速度5.0rpm、30秒値で測定した粘度を言うものとする。
【0033】
[硬化剤]
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記した硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤を含む。硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化反応を促進する効果があれば特に制限なく使用でき、例えばアミン類、イミダゾール類、多官能フェノール類、酸無水物、イソシアネート類、およびこれらの官能基を含むポリマー類があり、必要に応じてこれらを複数用いても良い。アミン類としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン等がある。イミダゾール類としては、アルキル置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等がある。また、イミダゾール化合物はイミダゾールアダクト体等のイミダゾール潜在性硬化剤であってもよい。多官能フェノール類としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAおよびそのハロゲン化合物、さらに、これにアルデヒドとの縮合物であるノボラック、レゾール樹脂等がある。酸無水物としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等がある。イソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があり、このイソシアネートをフェノール類等でマスクしたものを使用しても良い。これら硬化剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
アミン類としては脂肪族ポリアミンと脂環式ポリアミンが好適に用いられ、脂肪族ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなど炭素数2~6のアルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミンなど炭素数2~6のポリアルキレンポリアミン、キシリレンジアミンなど炭素数8~15の芳香環含有脂肪族ポリアミンなどが挙げられる。変性脂肪族ポリアミンの市販品の例としては、例えばフジキュアFXE-1000またはフジキュアFXR-1020、フジキュアFXR-1030、フジキュアFXR-1080、フジキュアFXR-1090M2(株式会社T&K TOKA製)、アンカミン2089K、サンマイドP-117、サンマイドX-4150、アンカミン2422、サーウェットR、サンマイドTX-3000、サンマイドA-100(エボニックジャパン株式会社製)等が挙げられる。
脂環式ポリアミンとしては、イソホロンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ラロミン等を例示することができる。変性脂環式ポリアミンの市販品としては、例えばアンカミン1618、アンカミン2074、アンカミン2596、アンカミン2199、サンマイドIM-544、サンマイドI-544、アンカミン2075、アンカミン2280、アンカミン1934、アンカミン2228(エボニックジャパン株式会社製)、ダイトクラールF-5197、ダイトクラールB-1616(大都産業株式会社製)、フジキュアFXD-821、フジキュア4233(株式会社T&K TOKA製)、jERキュア113(三菱ケミカル株式会社製)、ラロミンC-260(BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。その他、ポリアミン型硬化剤として、EH-5015S(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0035】
イミダゾール類としては、例えば、エポキシ樹脂とイミダゾールの反応物等を言う。例えば、2-メチルイミダゾール、4-メチル-2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール等を挙げることができる。イミダゾール化合物の市販品としては、例えば、2E4MZ、C11Z、C17Z、2PZ等のイミダゾール類や、2MZ-A、2E4MZ-A等のイミダゾールのAZINE(アジン)化合物、2MZ-OK、2PZ-OK等のイミダゾールのイソシアヌル酸塩、2PHZ、2P4MHZ等のイミダゾールヒドロキシメチル体(これらはいずれも四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。イミダゾール型潜在性硬化剤の市販品としては、例えば、キュアダクトP-0505(四国化成工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0036】
上記した硬化剤の配合量は、硬化性樹脂の固形分全体を100質量部とした場合、1~100質量部であることが好ましく、2~50質量部であることがより好ましく、特に5~20質量部であることがより好ましい。特に、硬化剤の配合量が5質量部以上の場合、一般に樹脂組成物の予備硬化速度が遅くならず、穴部深部の組成物の硬化が十分となる結果、クラックの発生を防ぐことができるため好ましい。また、硬化剤の配合量が50質量部以下の場合、保存安定性が良好となり、一般に樹脂組成物の予備硬化速度が早くなり過ぎず、硬化物にボイドが残留し難くなるので好ましい。
【0037】
[無機フィラー]
本発明による硬化性樹脂組成物は、無機フィラーを含む。無機フィラーが配合されることにより、プリント配線板のスルーホール等の貫通孔に硬化性樹脂組成物を充填した後に硬化させた際の硬化収縮による応力緩和や線膨張係数の調整をすることができる。無機フィラーとしては、通常の樹脂組成物に用いられる公知の無機フィラーを用いることができる。具体的には、例えば、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、タルク、有機ベントナイトなどの非金属フィラーや、銅、金、銀、パラジウム、シリコーンなどの金属フィラーが挙げられる。これら無機フィラーは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
これらの無機フィラーのなかでも、低吸湿性、低体積膨張性に優れる炭酸カルシウムやシリカ、硫酸バリウム、酸化アルミニウムが好適に用いられ、なかでもシリカおよび炭酸カルシウムがより好適に用いられる。シリカとしては、非晶質、結晶のいずれであってもよく、これらの混合物でもよい。特に非晶質(溶融)シリカが好ましい。また、炭酸カルシウムとしては、天然の重質炭酸カルシウム、合成の沈降炭酸カルシウムのいずれであってもよい。
【0039】
また、無機フィラーとして、磁性フィラーを使用することもできる。磁性フィラーが含まれることにより、近傍電磁界におけるノイズ電磁波を抑制ないし吸収することができるため、複数の回路要素を実装した場合であってもノイズ抑制等の特性に優れた電子部品とすることができる。また、1MHz~200MHzにおいて高い比透磁率が必要とされる高周波用インダクタ素子の絶縁材料として好適に使用することができる。特に、スルーホールに充填する硬化性樹脂組成物に磁性フィラーが含まれることでスルーホール内にインダクタとしての特性を付与でき、その結果、基板の軽薄短小に寄与できる。
【0040】
磁性フィラーとしては、特に制限なく使用することができ、Mg-Zn系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、Mn系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Mg-Mn-Sr系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Ni-Zn系フェライト等のスピネル型フェライト類、Ba-Zn系フェライト、Ba-Mg系フェライト、Ba-Ni系フェライト、Ba-Co系フェライト、Ba-Ni-Co系フェライト等の六方晶型フェライト類、マグネタイト、Y系フェライト等のガーネット型フェライト類等の非導電性の磁性材料や、純鉄粉末、Fe-Si系合金粉末、Fe-Si-Al系合金粉末、Ni粉末、Fe-Ni系合金粉末、Fe-Ni-Mo系合金粉末、Fe-Ni-Mo-Cu系合金粉末、Fe-Co系合金粉末、Fe-Ni-Co系合金粉末、Fe-Cr系合金粉末、Fe-Cr-Si系合金粉末、Fe-Ni-Cr系合金粉末、あるいはFe-Cr-Al系合金粉末などのFe合金類、Ni合金類、High-Si系合金類、Fe基アモルファス、Co基アモルファスなどのアモルファス合金類等の導電性磁性材料が挙げられる。
【0041】
また、磁性フィラーとしては、市販の磁性フィラーを用いることができる。市販の磁性フィラーの具体例としては、エプソンアトミックス株式会社製「AW2-08PF3FG」、JFEケミカル株式会社製「KNI-106」、「KNI-109」、戸田工業株式会社製「BSN-125」、「BSN-714」、「BSN-828」、パウダーテック株式会社製「M10S」、「M03S」、「NZ03S」、「E03S」、「M001」、「E001」等が挙げられる。磁性粉体は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
無機フィラーの形状は、特に制限されるものではなく、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形状、六角状、キュービック状、薄片状など挙げられるが、無機フィラーの高配合の観点から球状が好ましい。
【0043】
また、無機フィラーの分散性、穴部への充填性、穴埋めした部分に配線層を形成した際の平滑性等を考慮すると、無機フィラーの平均粒子径は、0.1μm~20μmであることが好ましく、好ましくは0.1μm~15μmであることがより好ましく、0.1μm~10μmであることがさらに好ましい。なお、平均粒子径とは一次粒子の粒径だけでなく、二次粒子(凝集体)の粒径も含めた体積累積50%粒子径(D50体積%)を意味し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 MT3300EX)を用いてレーザー回折/散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(D50、体積基準)として求めることができる。また、無機フィラーの平均粒子径とは、樹脂組成物を調製(予備攪拌、混練)する前の粉体状のものを上記のようにして測定した値をいうものとする。
【0044】
上記した無機フィラーは、表面処理がなされていてもよい。例えば、硬化性反応基を有機基として有するカップリング剤等で磁性粉体の表面を処理することができる。カップリング剤としては、シラン系、チタネート系、アルミネート系およびジルコアルミネート系等のカップリング剤を使用することができる。このようなシラン系カップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N-(2-アミノメチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アニリノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、これらは単独で、あるいは併用して使用することができる。これらのシラン系カップリング剤は、予め無機フィラーの表面に吸着あるいは反応により固定化されていることが好ましい。
【0045】
硬化性反応基としては熱硬化性反応基が好ましい。熱硬化性反応基としては、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、メルカプト基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらのなかでも、アミノ基およびエポキシ基のいずれか少なくとも1種が好ましい。
【0046】
なお、表面処理がされた無機フィラーは、表面処理された状態で硬化性樹脂組成物に含有されていればよく、硬化性樹脂組成物に無機フィラーと表面処理剤とを別々に配合して硬化性樹脂組成物中で無機フィラーが表面処理されてもよいが、予め表面処理した無機フィラーを配合することが好ましい。予め表面処理した無機フィラーを配合することによって、別々に配合した場合に残存しうる表面処理で消費されなかった表面処理剤によるクラック耐性等の低下を防ぐことができる。予め表面処理する場合は、溶剤成分や樹脂成分に無機フィラーを予備分散した予備分散液を配合することが好ましく、表面処理した無機フィラーを溶剤成分や樹脂成分に予備分散し、該予備分散液を組成物に配合するか、あるいは、表面未処理の無機フィラーを溶剤成分や樹脂成分に予備分散する際に十分に表面処理した後、該予備分散液を硬化性樹脂組成物に配合することがより好ましい。
【0047】
無機フィラーは多いほど磁性特性の良好な硬化物が得られるものの、絶縁性と小径のホールや狭ギャップに対する充填性の両立の観点からは、無機フィラーは、硬化性樹脂組成物の固形分全体に対して、40~90質量%の割合で含まれることが好ましく、50~90質量%の割合で含まれることがより好ましい。
【0048】
[その他の成分]
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物には、その他必要に応じて、フェノール化合物、ホルマリンおよび第一級アミンを反応させて得られるオキサジン環を有するオキサジン化合物を配合してもよい。オキサジン化合物を含有することにより、プリント配線板の穴部に充填された硬化性樹脂組成物を硬化した後、形成された硬化物上に無電解めっきを行う際、過マンガン酸カリウム水溶液などによる硬化物の粗化を容易にし、めっきとのピール強度を向上させることができる。
【0050】
また、通常のスクリーン印刷用レジストインキに使用されているフタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知の着色剤を添加してもよい。
【0051】
また、保管時の保存安定性を付与するために、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert-ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知の熱重合禁止剤や、粘度などの調整のために、クレー、カオリン、モンモリロナイトなどの公知の増粘剤、チキソトロピー剤を添加することができる。その他、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤、レベリング剤やチアゾール系、トリアゾール系などの密着性付与剤のような公知の添加剤類を配合することができる。
【0052】
本発明の硬化性樹脂組成物においては、必ずしも希釈溶剤を用いる必要はないが、硬化性樹脂組成物の粘度を調整するために、ボイドが発生しない程度に希釈溶剤を添加してもよい。
【0053】
希釈溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類; トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類; メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類; 酢酸エチル、酢酸ブチル、及び上記グリコールエーテル類の酢酸エステル化物などのエステル類; エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤などが挙げられる。
【0054】
本発明の硬化性樹脂組成物は、25±1℃での粘度が100~1000dPa・sの範囲であることが好ましく、200~800dPa・sであることがより好ましく、200~600dPa・sであることが特に好ましい。このような範囲にすることにより、孔部の充填が容易に、且つ、ボイド等の発生なく良好に凹部および貫通孔に充填することができる。なお、ここでの粘度とは、JIS K8803:2011の10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠し、コーンプレート型粘度計(東機産業株式会社製、TV-33H、ロータ3°×R9.7)を用いて25℃、ロータ回転速度5.0rpm、30秒値にて測定した粘度を言うものとする。
【0055】
穴部や凹部を硬化性樹脂組成物で充填した多層プリント配線板を、例えば80~160℃で30~180分程度加熱することにより、硬化性樹脂組成物が硬化し、硬化物が形成される。硬化物のうち穴埋め後に基板表面からはみ出している不必要部分を物理研磨により容易に除去する観点から、硬化性樹脂組成物の硬化は2段階で行ってもよい。すなわち、より低い温度で硬化性樹脂組成物を予備硬化させておき、その後に本硬化(仕上げ硬化)することができる。予備硬化としての条件は、80~130℃で30~180分間程度の加熱が好ましい。予備硬化した硬化物の硬度は比較的に低いため、基板表面からはみ出している不必要部分を物理研磨により容易に除去でき、平坦面とすることができる。その後、加熱して本硬化させる。本硬化としての条件は、140~180℃で30~180分間程度の加熱が好ましい。
【0056】
硬化は、予備硬化および本硬化のいずれにおいても、熱風循環式乾燥炉、IR炉、ホットプレート、コンベクションオーブン等(蒸気による空気加熱方式の熱源を備えたものを用いて乾燥機内の熱風を向流接触せしめる方法およびノズルより被硬化物に吹き付ける方式)を用いて行うことができる。この中でも特に、熱風循環式乾燥炉が好ましい。この際、低膨張性のために硬化物は殆ど膨張も収縮もせず、寸法安定性良く低吸湿性、密着性、電気絶縁性等に優れた最終硬化物となる。なお、予備硬化物の硬度は、予備硬化の加熱時間、加熱温度を変えることによってコントロールすることができる。
【0057】
上記のようにして硬化性樹脂組成物を硬化させた後、プリント配線板の表面からはみ出した硬化物の不要部分(膨らんだ部分)を、公知の物理研磨方法により除去し、平坦化した後、表面の配線層を所定パターンにパターニングして、所定の回路パターンが形成される。なお、必要に応じて過マンガン酸カリウム水溶液などにより硬化物の表面粗化を行った後、無電解めっきなどにより硬化物上に配線層を形成してもよい。
【実施例0058】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0059】
<硬化性樹脂組成物の調製>
下記表1に示す種々の成分を各表に示す割合(質量部)にて混合し、3本ロールにて均一に混合分散して、実施例1~6および比較例1~3の各硬化性樹脂組成物を調製した。
【0060】
なお、表1中の*1~*16は、以下の成分を表す。
*1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER-828)
*2:メタキシレンジアミン型のエポキシ樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、TETRAD-X)
*3:トリグリシジル-p-アミノフェノール樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER-630)
*4:4-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル(株式会社ADEKA製、ED-509S)
*5:イミダゾール系硬化剤(四国化成株式会社製、2MZA-PW)
*6:シリカ粒子(株式会社アドマテックス製、FE920A-SQ、平均粒子径5.6μm)
*7:シリカ粒子(株式会社アドマテックス製、SC6500-SQ、平均粒子径2.1μm)
*8:シリカ粒子(江蘇NOVORAY新材料株式会社製、NQ1110H、平均粒子径6.2μm)
*9:炭酸カルシウム粒子(備北粉化工業株式会社製、ソフトン3200、平均粒子径3.2μm)
*10:炭酸カルシウム粒子(備北粉化工業株式会社製、ソフトン1800、平均粒子径1.8μm)
*11:磁性フィラー粒子(パウダーテック株式会社製、M10S、平均粒子径4.0μm)
*12:酸化チタン粒子(石原産業株式会社製、タイペークCR-58、平均粒子径0.3μm)
*13:シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、KBM-403)
*14:消泡剤(信越化学工業株式会社製、KS-66)
*15:ベントナイト(白石工業株式会社製、オルベンM)
*16:湿潤分散剤(ビッグケミージャパン株式会社、DISPERBYK-111)
【0061】
<プリント配線板の作製>
前記硬化性樹脂組成物を攪拌脱泡機(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、MIXINGモード 2000rpmで8分間、その後DEFORMモード 2200rpmで2分間の条件で脱泡した。なお、実施例3のみ硬化性樹脂組成物を攪拌脱泡機(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、MIXINGモード 1800rpmで2分間、その後DEFORMモード 1800rpmで1分間の条件で脱泡した。
次いで、ガラスエポキシ基板(FR-4基板:パネルめっきにより導体層が形成されたスルーホールを有する150mm×290mm×厚さ1.6mm/スルーホール径0.12mm(めっき後)/ピッチ1mmのガラスエポキシ基板)を酸洗浄した後、熱風循環式乾燥機(ヤマト科学株式会社製DF612)にて150℃15分間乾燥した。
続いて、基板の一方の面からスクリーン印刷法により、各実施例および比較例の硬化性樹脂組成物を、半自動印刷機(SSA-PC660A、株式会社セリアコーポレーション製)を用いて、下記印刷条件にてスルーホール内に充填した。充填の際、印刷した側とは反対側のスルーホールから硬化性樹脂組成物が吐出するが、隣接するスルーホールから吐出された硬化性樹脂組成物と接触しないように、硬化性樹脂組成物の充填量を調整し、1スルーホールあたりの硬化性樹脂組成物の注入量を0.04±0.01mm3とした。
次に、硬化性樹脂組成物の充填後、基板主面が載置面に対して90°±10°の角度となるように基板ラックに載置し、熱風循環式乾燥炉にて、常温から130℃まで10分で昇温し130℃で45分間保持した後、130℃から150℃まで10分で昇温し150℃で60分間保持して硬化性樹脂組成物を硬化させ、評価基板を作製した。
【0062】
(印刷条件)
スキージ:スキージ厚20mm、平型スキージ(硬度70°)
スクリーン版:PET200メッシュバイアス版、開口径600μm(ドットパターン)、乳剤厚30μm
印圧:60kg
スキージスピード:5mm/sec
スキージ角度:93°(アタック角度3°)
スクリーン版クリアランス:1.5mm
落とし込み量(印刷するときにスキージと基板との距離がゼロになる位置からスキージを下げる距離):7mm
【0063】
<1≦rL/rS≦1.5の割合の算出>
上記のようにして作製した評価基板の主面のうち、印刷した側とは反対側の主面を顕微鏡(VHX-6000、株式会社キーエンス製)を用いて、×200倍にて観察した。個々のスルーホールの周囲を覆うように硬化物が評価基板主面を被覆する硬化物被覆領域の直線最長距離rL(μm)、rLの線分の中央を直行する線分の直線最長距離rS(μm)を測定し、rL/rSを算出した。
すべての硬化物被覆領域のrL/rSを算出し、1≦rL/rS≦1.5の範囲内にあった硬化物被覆領域の割合を算出した。
【0064】
<研磨後の平滑性>
評価基板の印刷した側とは反対側の主面を、ハイカットバフ19(SFBR-♯320 住友3M社製)を片面に1軸セットしたバフ研磨機で、完全に樹脂が除去されるまで物理研磨を行った。次いで、研磨した表面をレーザー顕微鏡(VK-X100、株式会社キーエンス製)を用いて、×200倍にて正面方向から観察し、硬化物が充填されたスルーホールの表面に凹みがないか確認し、形状測定モードにて、ガラスエポキシ基板の表面から最も凹んでいる深さまでの距離を測定した。研磨後の平滑性は下記の評価基準により評価した。
◎:凹み深さが5μm以下
○:凹み深さが5μm超、10μm以下
×:凹み深さが10μm超
評価結果は下記の表1に示されるとおりであった。
【0065】
<磁気特性>
ノイズ抑制等の特性を確認するために磁性特性を評価した。実施例および比較例の各硬化性樹脂組成物を、銅箔に100μmギャップのアプリケーターにて塗布し、熱風循環式乾燥炉(ヤマト科学株式会社製DF610)にて150℃で30分加熱することにより硬化性樹脂組成物を硬化させたものを、1cm×3cmの大きさに切り出し、評価基板とした。次いで、各評価基板について、ENAネットワークアナライザ(Keysight社製E5071C)を用いて、温度25℃、10MHz~1GHzGHzでの複素透磁率(μ)、実部(μ’)、虚部(μ’’)、虚数(j)をそれぞれ測定した。各項目の関係は、μ=μ’-jμ’’で表さる。また、100MHz付近の前後11点の平均値を指標とした。なお、μ’>1.0であれば磁性を有すると言える。
有:μ’>1.0
無:μ’=1.0
評価結果は下記の表1に示されるとおりであった。
【0066】
【0067】
表1の評価結果からも明らかなように、1≦rL/rS≦1.5を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%以上であった硬化性樹脂組成物(実施例1~7)は、研磨後の硬化物が充填されたスルーホールの表面の凹みが小さく、平滑であることがわかる。
一方、1≦rL/rS≦1.5を満足する硬化物被覆領域が、全硬化物被覆領域の50%超あった硬化性樹脂組成物(比較例1~3)は、研磨後の硬化物が充填されたスルーホールの表面の凹みが大きいことがわかる。