(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146868
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】生分解性酸変性ポリエステル系樹脂及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 63/91 20060101AFI20241004BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20241004BHJP
C08G 63/02 20060101ALI20241004BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241004BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08G63/91
C08L101/16
C08G63/02
B32B27/36
B32B27/30 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024051932
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023058630
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅彦
【テーマコード(参考)】
4F100
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4F100AK01C
4F100AK21B
4F100AK24A
4F100AK41A
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4F100AK69B
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4J029AA05
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4J200AA02
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4J200CA02
4J200DA17
4J200DA24
4J200EA04
4J200EA21
(57)【要約】
【課題】長期間保存した場合であっても製膜性に優れる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】生分解性ポリエステル系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が、下記の条件でグラフト反応されてなる、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂。
(条件)
グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が、下記の条件でグラフト反応されてなる、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂。
(条件)
グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600を満たす。
【請求項2】
下記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有する、請求項1に記載の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂。
【化1】
〔式(1)中、lは2~8の整数である。〕
【化2】
〔式(2)中、mは2~10の整数である。〕
【化3】
〔式(3)中、nは2~9の整数である。〕
【請求項3】
前記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を合計で50モル%以上有する、請求項2に記載の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を含有する層を少なくとも一層有する、積層体。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)層、生分解性樹脂(C)層との間に接着層を設けた積層体であって、
前記接着層が、請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を含有する、積層体。
【請求項6】
生分解性ポリエステル系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト反応させる工程を含み、
前記工程を、グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600の範囲内で行う、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂に関するものであり、更に詳しくは、ポリビニルアルコール系樹脂層(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」という。)とポリ乳酸等の生分解性樹脂層との接着層に好ましく用いられる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂に関する。また、本発明は、該生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を含有する層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、成形性、強度、耐水性、透明性等に優れることから、包装材料として広く使用されている。かかる包装材料に用いられるプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂が挙げられる。しかしながら、これらのプラスチックは生分解性に乏しく、使用後に自然界に投棄されると、長期間残存して景観を損ねたり、環境破壊の原因となる場合がある。
【0003】
これに対し、近年、土中や水中で生分解、あるいは加水分解され、環境汚染の防止に有用である生分解性樹脂が注目され、実用化が進められている。かかる生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、酢酸セルロース、変性でんぷん等が知られている。包装材料としては、透明性、耐熱性、強度に優れることから、ポリ乳酸、アジピン酸/テレフタル酸/1,4-ブタンジオールの縮重合物、コハク酸/1,4-ブタンジオール/乳酸の縮重合物等が用いられている。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂は酸素ガスバリア性が不充分であるため、単独では、食品や薬品等の酸化劣化のおそれがある内容物の包装材料として用いることはできない。
【0005】
そこで、ポリ乳酸のフィルムの少なくとも一方の面に、ガスバリア性に優れ、生分解性でもあるPVAによるコーティング層が形成された積層体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、溶融成形が可能なポリビニルアルコール系樹脂を用いることで、共押出ラミネート、さらには延伸処理を可能とした生分解性積層体として、側鎖に1,2-ジオール構造を有するPVA系樹脂を主成分とするガスバリア層の両面を、かかるガスバリア層との融点差が20℃以下である脂肪族ポリエステル層で挟持してなる生分解性積層体が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸系樹脂層とPVA系樹脂層は表面特性が大きく異なることから、両層は接着性に乏しく、両層の直接積層によって実用的な層間接着強度を得ることは困難である。例えば、特許文献1では、ポリ乳酸フィルムに対するコロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理等の表面活性化処理や、アンカーコーティング処理が提案されているが、まだまだ満足のいくものではなく改善の余地がある。
【0008】
また、特許文献2では、共押出ラミネートすることでポリ乳酸系樹脂層とPVA系樹脂層の層間接着性は若干改善されるものの、実用的にはまだまだ不充分である。
【0009】
従って、ポリ乳酸系樹脂層とPVA系樹脂層の良好な層間接着性を得るには、両層の間に接着層を設ける必要がある。さらに、ポリ乳酸系樹脂とPVA系樹脂の生分解性を活かすには、これらを含む積層体に用いられる接着層も生分解性であることが求められる。
【0010】
かかる事情より、生分解性ポリエステル系樹脂にα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト反応して得られる、極性基を有するポリエステル系樹脂を接着層とすることが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-177072号公報
【特許文献2】特開2009-196287号公報
【特許文献3】特開2013-212682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような極性基を有するポリエステル系樹脂は、保存安定性が低いため、長期間保存した後においては製膜性が低下するといった課題がある。
【0013】
そこで、本発明は、このような背景下において、長期間保存した場合であっても製膜性に優れる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
しかるに本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂の製造の際のグラフト反応の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pの値が特定範囲内であることで、上記の課題を解決できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に関する。
【0016】
本発明の態様1は、
生分解性ポリエステル系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が、下記の条件でグラフト反応されてなる、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂である。
(条件)
グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600を満たす。
【0017】
本発明の態様2は、態様1の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂において、
下記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有する、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂である。
【0018】
【0019】
〔式(1)中、lは2~8の整数である。〕
【0020】
【0021】
〔式(2)中、mは2~10の整数である。〕
【0022】
【0023】
〔式(3)中、nは2~9の整数である。〕
【0024】
本発明の態様3は、態様2の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂において、
前記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を合計で50モル%以上有する、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂である。
【0025】
本発明の態様4は、
態様1~3のいずれか1つの生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を含有する層を少なくとも一層有する、積層体である。
【0026】
本発明の態様5は、
ポリビニルアルコール系樹脂(B)層、生分解性樹脂(C)層との間に接着層を設けた積層体であって、
前記接着層が、態様1~3のいずれか1つの生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を含有する、積層体である。
【0027】
本発明の態様6は、
生分解性ポリエステル系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト反応させる工程を含み、
前記工程を、グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600の範囲内で行う、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂は、長期間保存した後においても、製膜性に優れるため、例えば、PVA系樹脂層と生分解性樹脂層とを含有する積層体において、両層の接着層として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
なお、本明細書において、質量を基準とする部、百分率等は、重量を基準とする部、百分率等とそれぞれ同義である。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
また、本明細書において、「生分解性」とは、JIS K 6950:2000(ISO 14851:1999)で規定された条件を満たすことを意味する。
【0030】
<生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)>
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(以下、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)と称することがある)は、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が、下記の条件でグラフト反応されてなることを特徴とする。
(条件)
グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600を満たす。
【0031】
例えば、混練機を用いて溶融混練によりグラフト反応を実施する場合、混練機内の温度と圧力の関係が上記の範囲を満たせばよい。
【0032】
本発明者らは、極性基を有するポリエステル系樹脂を長期間保存した際の製膜性の低下を抑制するには、該ポリエステル系樹脂を保管するときに生じる温度ムラによって発生する、該ポリエステル系樹脂中の粘度ムラを抑制することが重要であることを見出した。
【0033】
温度Tと圧力Pとの積が上記の範囲を満たす条件でグラフト反応を実施することで、グラフト変性時に生じるα,β-不飽和カルボン酸類と生分解性ポリエステル系樹脂(A’)間の架橋とその分解のバランスが取れた生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)が得られる。また、このようにして得られる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、保管時の架橋と分解のバランスも優れるため、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を長期間保存した後であっても優れた製膜性を示すことを見出した。T×Pは、350~600がより好ましく、400~600がさらに好ましく、450~600が特に好ましく、500~600が最も好ましい。
【0034】
また、本実施形態においては、T×Pが300~600の範囲内、かつ、グラフト反応時の温度Tが100~260℃であることが好ましい。温度Tが上記範囲内であることで、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)の熱劣化を抑えつつグラフト反応ができる。グラフト反応時の温度Tは、より好ましくは120~250℃、さらに好ましくは160~240℃である。
【0035】
また、本実施形態においては、T×Pが300~600の範囲内、かつ、グラフト反応時の圧力Pが2.0~4.0MPaであることが好ましい、グラフト反応時の圧力Pが上記範囲内であることで、効率よくグラフト反応できる。グラフト反応時の圧力Pは、より好ましくは2.1~3.9MPa、さらに好ましくは2.2~3.8MPaである。
【0036】
ここで、グラフト反応時の圧力Pは、圧力計によって測定できる。また、圧力Pは、混練機のスクリュー回転数、押出の際の吐出量、原料樹脂の粘度などによって調整できる。
【0037】
上述のように、本実施形態は、生分解性ポリエステル系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が、上述の条件でグラフト反応されてなる、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂である。得られる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂のうち、上記グラフト反応に起因する構造は温度Tと圧力Pの組み合わせに応じて種々変動するものであり、得られる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂の上記グラフト反応に起因する構造を直接特定することが不可能であり、また、およそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するため、上記規定により、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂を「物」として妥当に特定したものである。
【0038】
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、下記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。
【0039】
【0040】
〔式(1)中、lは2~8の整数である。〕
【0041】
【0042】
〔式(2)中、mは2~10の整数である。〕
【0043】
【0044】
〔式(3)中、nは2~9の整数である。〕
【0045】
上記式(1)中、lは2~8の整数であり、成形性と柔軟性の観点から3~5の整数であるのが好ましい。
また、上記式(2)中、mは2~10の整数であり、成形性と柔軟性の観点から3~5の整数であるのが好ましい。
また、上記式(3)中、nは2~9の整数であり、成形性と柔軟性の観点から3~5の整数であるのが好ましい。
【0046】
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、生分解性のされやすさの点では、上記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位から構成されているものがより好ましいが、耐熱性や強度、生分解性の制御等の目的で、他の構造単位を有していてもよい。
【0047】
かかる一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位の合計含有量は、50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0048】
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、上記一般式(1)~(3)で表される構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有する場合、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール化合物、環状脂肪族ジオール化合物、環状脂肪族ジカルボン酸及びその他の成分からなる群から選択される少なくとも1種を公知の方法により縮重合し、更に、酸変性することにより得られる。
【0049】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、1,6-ヘキサンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等を挙げることができ、特には成形性と柔軟性の点からアジピン酸が好ましい。
【0050】
脂肪族ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等を挙げることができ、特には成形性と柔軟性の点から1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0051】
環状脂肪族ジオール化合物としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール等を挙げることができ、特には成形性と柔軟性の点から1,4-シクロヘキサンジオールが好ましい。
【0052】
環状脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができ、特には成形性と柔軟性の点から1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
【0053】
また、その他の成分として、具体的には、例えば、4-ヒドロキシ酪酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシヘキサン酸等のヒドロキシ酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フランジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及び誘導体;シュウ酸、マロン酸等のアルキレン鎖の数が2未満であるジカルボン酸及びその誘導体;グリコール酸、乳酸等のアルキレン鎖の数が2未満であるヒドロキシカルボン酸及びその誘導体;その他、ポリエステル系樹脂の共重合成分として公知のものを挙げることができる。
【0054】
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは50,000~400,000、さらに好ましくは100,000~200,000、特に好ましくは140,000~180,000である。かかる重量平均分子量が500,000以下であると溶融粘度が低くなり溶融成形が容易となる傾向があり、また、かかる重量平均分子量が5,000以上であると成形物が脆くなることを抑制できる。
【0055】
なお、上記の重量平均分子量は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフィー(東ソー社製、「HLC-8320GPC」)に、カラム:TSKgel SuperMultipore HZ-M(排除限界分子量:2×106、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:4μm)の2本直列を用いることにより測定されるものである。
【0056】
また、本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物が、下記の条件でグラフト反応されてなる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)であることが長期間保存後における製膜性の観点から好ましい。
(条件)
グラフト反応時の温度をT(℃)、圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600を満たす。
【0057】
<製造方法>
上記の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)の製造方法は、原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)に、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物(以下、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物「α,β-不飽和カルボン酸類」ということがある。)をグラフト反応させる工程を含む。
【0058】
原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)の市販品としては、例えば、アジピン酸/テレフタル酸/1,4-ブタンジオールの縮重合物を主成分とするBASF社製「エコフレックス」、コハク酸/1,4-ブタンジオールの縮重合物を主成分とする三菱ケミカル社製「BioPBS」等を挙げることができる。
【0059】
α,β-不飽和カルボン酸類としては、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラス酸、テトラヒドロフタル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸又はその無水物等が挙げられ、好ましくはα,β-不飽和ジカルボン酸の無水物が用いられる。
なお、これらのα,β-不飽和カルボン酸類は、1種を単独で用いる場合に限らず、2種以上を併用してもよい。
【0060】
原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)にα,β-不飽和カルボン酸類をグラフト反応させる方法としては、製造性の観点から、溶融法で行うことが好ましい。但し、グラフト反応させる方法は他の方法であってもよく、例えば、溶液中で反応させる方法や、懸濁液中で反応させる方法が挙げられる。
【0061】
以下、溶融法を詳細に説明する。
溶融法としては、原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)、α,β-不飽和カルボン酸類、およびラジカル開始剤を予め混合した後、混練機内に供給し、該混練機内で反応させる方法や、混練機内で溶融状態にある生分解性ポリエステル系樹脂(A’)に、α,β-不飽和カルボン酸類、およびラジカル開始剤を配合する方法等を用いることができる。
【0062】
原料を予め混合する際に用いられる混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等を使用することができ、溶融混練に用いられる混練機としては、例えば、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等を使用することができる。これらの中でも、混錬性の観点から、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る製造方法において、グラフト反応時の温度、すなわち反応容器内の温度をT(℃)とし、また、グラフト反応時の圧力、すなわち反応容器内の圧力をP(MPa)としたとき、T×Pが300~600の範囲内でグラフト反応を実施することが好ましい。例えば、混練機を用いて溶融混練によりグラフト反応を実施する場合、混練機内の温度と圧力の関係が上記の範囲を満たせばよい。
【0064】
温度Tと圧力Pとの積が上記の範囲を満たす条件でグラフト反応を実施することで、グラフト変性時に生じるα,β-不飽和カルボン酸類と生分解性ポリエステル系樹脂(A’)間の架橋とその分解のバランスが取れた生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)が得られる。また、このようにして得られる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、保管時の架橋と分解のバランスも優れるため、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を長期間保存した後であっても優れた製膜性を示すことを見出した。T×Pは、350~600がより好ましく、400~600がさらに好ましく、450~600が特に好ましく、500~600が最も好ましい。
【0065】
また、本実施形態においては、T×Pが300~600の範囲内、かつ、グラフト反応時の温度Tが100~260℃であることが好ましい。温度Tが上記範囲内であることで、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)の熱劣化を抑えつつグラフト反応ができる。グラフト反応時の温度Tは、より好ましくは120~250℃、さらに好ましくは160~240℃である。
【0066】
また、本実施形態においては、T×Pが300~600の範囲内、かつ、グラフト反応時の圧力Pが2.0~4.0MPaであることが好ましい、グラフト反応時の圧力Pが上記範囲内であることで、効率よくグラフト反応できる。グラフト反応時の圧力Pは、より好ましくは2.1~3.9MPa、さらに好ましくは2.2~3.8MPaである。
【0067】
ここで、グラフト反応時の圧力Pは、圧力計によって測定できる。また、圧力Pは、混練機のスクリュー回転数、押出の際の吐出量、原料樹脂の粘度などによって調整できる。
【0068】
また、混練機を用いてグラフト反応を行う場合、混練機のスクリュー回転数や吐出量は、グラフト反応効率、生産性のバランスを考え、適宜調整できる。
【0069】
α,β-不飽和カルボン酸類の配合量は、原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)100質量部に対して、0.0001~5質量部であることが好ましく、0.001~1質量部がより好ましく、0.02~0.45質量部の範囲がさらに好ましく用いられる。かかる配合量が0.0001質量部以上であれば、生分解性ポリエステル系樹脂(A’)に十分な量の極性基が導入され、層間接着性、特にPVA系樹脂層との接着力が向上する。また、かかる配合量が5質量部以下であれば、グラフト反応しなかったα,β-不飽和カルボン酸類が樹脂中に残存することを抑制できるため、外観が向上する。
【0070】
ラジカル開始剤としては特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルへキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルオキシ)ヘキサン、3,5,5-トリメチルへキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、過酸化水素等の有機又は無機の過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、アゾジ-t-ブタン等のアゾ化合物;ジクミル等の炭素ラジカル発生剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを併用することも可能である。
【0071】
ラジカル開始剤の配合量は、原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)100質量部に対して0.00001~0.5質量部であることが好ましく、0.0001~0.1質量部がより好ましく、0.002~0.05質量部の範囲がさらに好ましい。かかるラジカル開始剤の配合量が0.00001質量部以上であれば、グラフト反応が十分に進行し、本発明の効果が得られる。また、かかるラジカル開始剤の配合量が0.5質量部以下であれば、生分解性ポリエステル系樹脂の分解による低分子量化が抑制され、接着力の強度が向上する。
【0072】
<積層体>
本発明の積層体は、本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を含有する層(以下、「生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層」と称することがある。)を少なくとも一層有する。
【0073】
生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層は、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を主成分とする層であり、通常は生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を70質量%以上含有し、好ましくは80質量%以上含有し、より好ましくは90質量%以上含有する。上限は100質量%である。
【0074】
本発明で用いられる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層は、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)以外にも、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、充填剤滑剤、結晶核剤等を含有してもよい。
【0075】
本発明の積層体は、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層以外の層として、PVA系樹脂層(以下、PVA系樹脂(B)層と称することがある)および生分解性樹脂層(以下、生分解性樹脂(C)層と称することがある)を有することが好ましい。
中でも、本発明の積層体は、ガスバリア層にPVA系樹脂(B)層、外層に生分解性樹脂(C)層を用いたものが好ましい。
【0076】
また、本発明の積層体は、PVA系樹脂(B)層、及び生分解性樹脂(C)層との間に接着層を設けた積層体であって、上記接着層が、本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を含有することが好ましく、3~15層が好ましく、より好ましくは3~7層、特に好ましくは5~7層の層構造を有する。
【0077】
〔PVA系樹脂(B)層〕
PVA系樹脂(B)層は、上述の通り、本発明の積層体のガスバリア層に用いられることが好ましく、特に本発明の積層体のガスバリア性を担うことが好ましい。
PVA系樹脂(B)層は、後述する生分解性樹脂(C)層に対し、その少なくとも一方の面に前述の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を含有する層(接着層)を介して積層されることが好ましい。
【0078】
本発明で用いられるPVA系樹脂(B)層は、PVA系樹脂(B)を主成分とする層であり、PVA系樹脂(B)を70質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは90質量%以上含有する。上限は100質量%である。かかる含有量が70質量%以上であることで、充分なガスバリア性が得られる。
【0079】
本発明で用いられるPVA系樹脂(B)は、ビニルエステル系単量体を重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。
【0080】
上記ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0081】
本発明で用いられるPVA系樹脂(B)の平均重合度(JIS K6726:1994に準拠して測定)は、200~1800が好ましく、300~1500がより好ましく、300~1000のものがさらに好ましく用いられる。
かかる平均重合度が200以上であれば、PVA系樹脂(B)層の機械的強度が充分に得られる。また、かかる平均重合度が1800以下であれば、熱溶融成形によってPVA系樹脂(B)層を形成する場合に流動性が低下することを抑制でき、成形性が向上する。また、成形時のせん断発熱の発生を抑制でき、PVA系樹脂(B)が熱分解しづらくなる。
【0082】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(B)のケン化度(JIS K6726:1994に準拠して測定)は、80~100モル%が好ましく、90~99.9モル%がより好ましく、98~99.9モル%のものがさらに好ましく用いられる。
かかるケン化度が80モル%以上であると、ガスバリア性が向上する。
【0083】
また、本発明では、PVA系樹脂(B)として、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られたものや、未変性PVAに後変性によって各種官能基を導入した各種変性PVA系樹脂を用いることができる。
【0084】
ビニルエステル系単量体との共重合に用いられる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類およびそのアシル化物等の誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、そのモノエステル、あるいはそのジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0085】
また、後変性によって官能基が導入された変性PVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVAと反応させて得られたもの等を挙げることができる。
【0086】
かかる変性PVA系樹脂中の変性種、すなわち共重合体中の各種単量体に由来する構造単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きくことなるため一概には言えないが、通常、1~20モル%であり、特に2~10モル%の範囲が好ましく用いられる。
【0087】
これらの各種変性PVA系樹脂の中でも、本発明においては、下記一般式(4)で示される側鎖に1,2-ジオール構造を有する構造単位(以下、「1,2-ジオール構造単位」と称することがある。)を有するPVA系樹脂が、後述する本発明の積層体の製造法において、溶融成形が容易になる点で好ましく用いられる。
【0088】
【0089】
なお、かかる一般式(4)で表わされる1,2-ジオール構造単位中のR1~R4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。
【0090】
該アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、該アルキル基は、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0091】
また、一般式(4)で表わされる1,2-ジオール構造単位中のXは、単結合又は結合鎖を表す。
かかる結合鎖としては、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、-O-、-(CH2O)t-、-(OCH2)t-、-(CH2O)tCH2-、-CO-、-COCO-、-CO(CH2)tCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、またtは1~5の整数を表す。)が挙げられる。
中でも結合鎖は、製造時あるいは使用時の安定性の点で、炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは-CH2OCH2-が好ましい。
【0092】
Xは、熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合が最も好ましい。
【0093】
一般式(4)で表わされる1,2-ジオール構造単位の中でも、R1~R4がすべて水素原子であり、Xが単結合である、下記一般式(4’)で表わされる構造単位が最も好ましい。
【0094】
【0095】
かかる側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂の製造法としては、特開2015-143356号公報の段落〔0026〕~〔0034〕に記載の方法等が挙げられる。
【0096】
かかる側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂に含まれる1,2-ジオール構造単位の含有量は、1~20モル%であることが好ましく、2~10モル%がより好ましく、特に3~8モル%のものが好ましく用いられる。かかる含有量が1モル%以上であると、側鎖1,2-ジオール構造の効果が充分に得られ、また、かかる含有量が20モル%以下であると、高湿度でのガスバリア性の低下を抑制できる。
【0097】
なお、PVA系樹脂中の1,2-ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したものの1H-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。該含有率は、具体的には1,2-ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトン等に由来するピーク面積から算出すればよい。
【0098】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(B)は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。PVA系樹脂(B)が二種類以上の混合物である場合は、上述の未変性PVA同士、未変性PVAと一般式(4)で示される構造単位を有するPVA系樹脂、ケン化度、重合度、変性度等が異なる一般式(4)で示される構造単位を有するPVA系樹脂同士、未変性PVA、あるいは一般式(4)で示される構造単位を有するPVA系樹脂と他の変性PVA系樹脂等の組み合わせを用いることができる。
【0099】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(B)層には、PVA系樹脂(B)以外にも熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、充填剤、滑剤、結晶核剤が配合されていてもよい。
【0100】
〔生分解性樹脂(C)層〕
次に後述する本発明の積層体の外層に好ましく用いられる生分解性樹脂(C)層について説明する。かかる生分解性樹脂(C)層は、生分解性樹脂(C)を主成分とする層であり、通常は生分解性樹脂(C)を70質量%以上含有し、好ましくは80質量%以上含有し、より好ましくは90質量%以上含有する。上限は100質量%である。
【0101】
生分解性樹脂(C)としては、例えば、ポリ乳酸(C1)、アジピン酸/テレフタル酸/1,4-ブタンジオールの縮重合物(ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2))、コハク酸/1,4-ブタンジオール/乳酸の縮重合物、ポリグリコール酸等の脂肪族ポリエステル;変性でんぷん;カゼインプラスチック;セルロース等が挙げられ、これらは1種又は2種以上混合して用いることもできる。
【0102】
中でも、強度の点では、ポリ乳酸(C1)やポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)が好ましい。更には接着性及び強度の点から、ポリ乳酸(C1)とポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)との混合物(C3)が好ましい。
【0103】
ポリ乳酸(C1)は、乳酸構造単位を主成分とする脂肪族ポリエステル系樹脂であり、L-乳酸、D-乳酸、又はその環状2量体であるL-ラクタイド、D-ラクタイド、DL-ラクタイドを原料とする重合体である。
【0104】
本発明で用いられるポリ乳酸(C1)は、これら乳酸類の単独重合体であることが好ましいが、特性を阻害しない程度の量、例えば10モル%以下であれば、乳酸類以外の共重合成分を含有するものであってもよい。
【0105】
かかる共重合成分としては、例えば、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン等のラクトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類;コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸等の脂肪族二塩基酸を挙げることができる。
【0106】
また、ポリ乳酸(C1)中のL-乳酸成分とD-乳酸成分の含有比率(L-乳酸成分の質量/D-乳酸成分の質量)は、通常95/5以上であり、特に99/1以上、殊に99.8/0.2のものが好ましく用いられる。かかる値が大きいものほど融点が高くなって、耐熱性が向上し、逆にかかる値が小さいものほど融点が低くなり、耐熱性が不足する傾向がある。
【0107】
具体的には、ポリ乳酸(C1)の単独重合体の場合、上記含有比率が95/5であるものの融点は152℃であり、99/1であるものの融点は171℃、99.8/0.2であるものの融点は175℃以上である。
【0108】
また、本発明で用いられるポリ乳酸(C1)の重量平均分子量は、20,000~1,000,000であることが好ましく、30,000~300,000がより好ましく、40,000~200,000がさらに好ましい。かかる重量平均分子量が1,000,000以下であると、熱溶融成形時の溶融粘度が高すぎることを抑制し、良好な製膜が容易に得られる。また、かかる重量平均分子量が20,000以上であると、得られる積層体の機械的強度が充分となる。
【0109】
かかる重量平均分子量は、溶離液としてのテトラヒドロフランと、40℃に加熱したカラム(ポリスチレンゲル)を用いて、ISO 16014―1:2012規格及びISO 16014-3:2012規格に従い、ポリスチレン等価量としてサイズ排除クロマトグラフィー(GPC、ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0110】
かかるポリ乳酸(C1)の市販品としては、例えば、NatureWorks社製「Ingeo」、三井化学社製「Lacea」、浙江海正生物材料股ふん有限公司製「REVODE」、及び東洋紡績社製「バイロエコール」等を挙げることができる。
【0111】
ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)は、アジピン酸とテレフタル酸と1,4-ブタンジオールを縮重合して得られる。
【0112】
ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)中のアジピン酸の含有量は、10~50モル%が好ましく、より好ましくは15~40モル%である。
ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)中のテレフタル酸の含有量は、5~45モル%が好ましく、より好ましくは8~35モル%である。
また、ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)中の1,4-ブタンジオールの含有量は、5~45モル%が好ましく、より好ましくは10~30モル%である。
各成分の含有量が上記範囲内であれば、加工性、耐腐食性が向上する。
【0113】
ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)の重量平均分子量は、3,000~1,000,000が好ましく、より好ましくは20,000~600,000、更に好ましくは50,000~400,000である。
【0114】
かかる重量平均分子量は、溶離液としてのテトラヒドロフランと、40℃に加熱したカラム(ポリスチレンゲル)を用いて、ISO 16014―1:2012規格及びISO 16014-3:2012規格に従い、ポリスチレン等価量としてサイズ排除クロマトグラフィー(GPC、ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0115】
かかる重量平均分子量が3,000以上であれば製造が容易となり、かかる重量平均分子量が1,000,000以下であれば溶融粘度が低下し、成形性が向上する。
【0116】
ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)は、アジピン酸、テレフタル酸、1,4-ブタンジオール以外にも、その他の共重合成分を含有してもよい。
【0117】
その他の共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラヒドロフラン(ポリ-THF)等のジヒドロキシ化合物;グリコール酸、D-乳酸、L-乳酸、D,L-乳酸、6-ヒドロキシヘキサン酸、その環式誘導体、例えばグリコリド(1,4-ジオキサン-2,5-ジオン)、D-ジラクチド、L-ジラクチド(3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン);p-ヒドロキシ安息香酸ならびにp-ヒドロキシ安息香酸のオリゴマーおよびポリマー等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0118】
かかるその他の共重合成分の含有量は、ポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)全体の0.1~30モル%程度である。
【0119】
また、ポリ乳酸(C1)とポリブチレンアジペート・テレフタレート(C2)の混合物(C3)を用いることもできる。
混合の割合としては、ポリ乳酸/ポリブチレンアジペート・テレフタレート(質量比)が、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは20/80~60/40である。
【0120】
また、本発明で用いられる生分解性樹脂(C)層には、生分解性樹脂(C)以外にも熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、充填剤、滑剤、結晶核剤等が配合されていてもよい。
【0121】
本発明の積層体の構成は特に限定されないが、生分解性樹脂(C)層をc、PVA系樹脂(B)層をb、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層(接着層)をaとするとき、c/a/b、c/a/b/a/c、c/b/a/b/a/b/c等、任意の組み合わせが可能である。なお、積層体中に生分解性樹脂(C)層が複数存在する場合、複数の生分解性樹脂(C)層は、それぞれ、同一のものでもよく、異なったものでもよい。積層体中にPVA系樹脂(B)層が複数存在する場合及び生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層が複数存在する場合においても同様である。
【0122】
なお、通常は、PVA系樹脂(B)層の吸湿によるガスバリア性能の低下を防止するため、PVA系樹脂(B)層のうち、外気、あるいは水分を含有する内容物に接触する部分には生分解性樹脂(C)層を設ける層構成であることが好ましい。
【0123】
本発明の積層体の厚さは、1~30,000μmであることが好ましく、3~13,000μmがより好ましく、10~3,000μmの範囲がさらに好ましく用いられる。
【0124】
さらに積層体を構成する各層の厚さとしては、生分解性樹脂(C)層の厚さは、0.4~14,000μmが好ましく、より好ましくは1~6,000μm、特に好ましくは4~1,400μmである。かかる生分解性樹脂(C)層の厚さが14,000μm以下であれば、積層体が硬くなりすぎることを抑制でき、また、かかる生分解性樹脂(C)層の厚さが0.4以上であれば、積層体が脆くなることを抑制できる。
【0125】
また、PVA系樹脂(B)層の厚さは、0.1~1,000μmが好ましく、より好ましくは0.3~500μm、特に好ましくは1~100μmである。かかるPVA系樹脂(B)層の厚さが1,000μm以下であれば、積層体が硬く脆くなることを抑制でき、また、かかるPVA系樹脂(B)層の厚さが0.1μm以上であれば、ガスバリア性が向上する。
【0126】
生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層(接着層)の厚さは、0.1~500μmが好ましく、より好ましくは0.15~250μm、特に好ましくは0.5~50μmである。かかる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層の厚さが500μm以下であれば、外観が良好となり、また、かかる生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層の厚さが0.1μm以上であれば、接着力の低下を抑制できる。
【0127】
また、生分解性樹脂(C)層及びPVA系樹脂(B)層の厚さの比(生分解性樹脂(C)層の厚さ/PVA系樹脂(B)層の厚さ)は、各層が複数ある場合は、その厚さの合計値同士の比で、1~100であることが好ましく、より好ましくは2.5~50である。かかる比が100以下であると、バリア性の向上できる。また、かかる比が1以上であれば積層体が硬く脆くなることを抑制できる。
【0128】
また、本発明の積層体及び生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層(接着層)の厚さの比(生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層の厚さ/本発明の積層体の厚さ)は、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層(接着層)が複数ある場合は、その厚さの合計値の比で、0.005~0.5が好ましく、より好ましくは0.01~0.3である。かかる比が0.5以下であると、外観が悪くなることを抑制でき、かかる比が0.005以上であると接着力が向上する。
【0129】
本発明の積層体は、従来公知の成形方法によって製造することができ、具体的には溶融成形法や溶液状態からの成形法を用いることができる。
【0130】
例えば、溶融成形法としては、生分解性樹脂(C)のフィルム、あるいはシートに、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)、PVA系樹脂(B)を順次、あるいは同時に溶融押出ラミネートする方法、逆にPVA系樹脂(B)のフィルム、あるいはシートに、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)、生分解性樹脂(C)を順次、あるいは同時に溶融押出ラミネートする方法、又は、生分解性樹脂(C)、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)、PVA系樹脂(B)を共押出する方法が挙げられる。
【0131】
また、溶液状態からの成形法としては、生分解性樹脂(C)のフィルム、あるいはシート等に生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を良溶媒に溶解した溶液を溶液コートし、乾燥後、PVA系樹脂(B)の水溶液を溶液コートする方法等を挙げることができる。
【0132】
中でも、一工程で製造でき、層間接着性が優れた積層体が得られる点で溶融成形法が好ましく、特に共押出法が好ましく用いられる。そして、かかる溶融成形法を用いる場合には、PVA系樹脂(B)として側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を用いることが好ましい。
【0133】
上記共押出法においては、例えば具体的にはインフレーション法、Tダイ法、マルチマニーホールドダイ法、フィードブロック法、マルチスロットダイ法が挙げられる。ダイスの形状としてはTダイス、丸ダイス等を使用することができる。
溶融押出時の溶融成形温度は、通常190~250℃であり、好ましくは200~230℃の範囲が用いられる。
【0134】
本発明の積層体は、さらに加熱延伸処理されたものであってもよく、かかる延伸処理により、強度の向上や、ガスバリア性の向上が期待できる。
【0135】
特に、本発明の積層体において、PVA系樹脂(B)として側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を用いると、延伸性が良好となる。
【0136】
なお、上記延伸処理等については、公知の延伸方法を採用することができる。
例えば具体的には、多層構造体シートの両耳を把んで拡幅する一軸延伸、二軸延伸;多層構造体シートを、金型を用いて延伸加工する深絞成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等の金型成形法;パリソン等の予備成形された多層構造体を、チューブラー延伸法、延伸ブロー法等で加工する方法が挙げられる。
【0137】
かかる延伸法として、フィルムやシート状の成形物を目的とする場合、一軸延伸、二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0138】
また、深絞成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等の金型成形方法の場合は、積層体を、熱風オーブン、加熱ヒーター式オーブン又は両者の併用等により均一に加熱して、チャック、プラグ、真空力、圧空力等により延伸することが好ましい。
【0139】
カップやトレイ等の、絞り比(成形品の深さ(mm)/成形品の最大直径(mm))が通常0.1~3である成形物を目的とする場合、深絞成形法、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等の金型を用いて延伸加工する金型成形方法を採用することが好ましい。
【0140】
かくして得られた本発明の積層体は、例えば、生分解性樹脂(C)層と生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層、PVA系樹脂(B)層と生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層のいずれの層間でも強い接着力を有する。
【0141】
また、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)、生分解性樹脂(C)、PVA系樹脂(B)はいずれも生分解性であり、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)層を少なくとも一層有する本発明の積層体も生分解性に優れる。
【0142】
本発明の積層体は、生分解するため、コンポストにそのまま捨てることが出来るもの、例えば、コーヒーカプセル(カプセル式コーヒーメーカー用のコーヒー豆容器)、シュリンク用フィルム、その他食料・飲料品の容器に好適に用いられる。
【0143】
更に、本発明の積層体がPVA系樹脂(B)層を有する場合、PVA系樹脂(B)層を水に溶解させて除き、残った非水溶性樹脂のみをリサイクルすることもできる。
【実施例0144】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0145】
[実施例1]
〔生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)の作製〕
原料の生分解性ポリエステル系樹脂(A’)としてアジピン酸/テレフタル酸/1,4-ブタンジオール縮重合物(BASF社製「エコフレックスC1200」)100部、α,β-不飽和カルボン酸として無水マレイン酸を0.35部、ラジカル開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルオキシ)ヘキサン(日本油脂社製「パーヘキサ25B」)0.25部をドライブレンドした後、これを二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザーでカットし、円柱形ペレットの生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を得た。
【0146】
二軸押出機
直径(D):20mm、
長さ(L)/直径(D):48
スクリュー回転数:500rpm
吐出量:3kg/hr
メッシュ:90/90mesh
温度:192℃
圧力:2.9MPa
【0147】
〔生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A’’)の作製〕
23℃雰囲気中で38日間保管した生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)と、60℃雰囲気中で38日間保管した生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)とを、等量ドライブレンドし、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A’’)を得た。
【0148】
〔PVA系樹脂(B)の作製〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m-ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0149】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、一般式(4’)で表される側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(B)を作製した。
【0150】
得られたPVA系樹脂(B)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.2モル%であった。
【0151】
また、PVA系樹脂(B)の平均重合度は、JIS K6726:1994に準じて分析を行ったところ、450であった。
また、1,2-ジオール構造単位の含有量は、1H-NMR(300MHzプロトンNMR、d6-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。
【0152】
〔積層体の作製〕
ポリ乳酸(C1)(ネイチャーワークス社製「Ingeo4032D」)、PVA系樹脂(B)、生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A’’)を用い、押出機を3台備えた3種5層多層製膜装置にて、ポリ乳酸(C1)層/生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A’’)層/PVA系樹脂(B)層/生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A’’)層/ポリ乳酸(C1)層の3種5層構造の積層体を作製した。得られた積層体の厚さは100μmであり、各層の厚さは、30μm/10μm/20μm/10μm/30μmであった。
なお、各押出機、およびロールの設定温度は下記の通りであった。
【0153】
設定温度
(C1~C4:各シリンダー、H:ヘッド、J:ジョイント、FD1,2:フロントダイス、D1~3:ダイスを示す。)
ポリ乳酸(C1):C1/C2/C3/C4/H/J=180/190/200/200/200/200℃
PVA系樹脂(B):C1/C2/C3/C4/H/J=180/200/210/210/210/210℃
生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A’’):C1/C2/H/J=180/200/210/210℃
ダイス:FD1/FD2/D1/D2/D3=200/200/200/200/200℃
ロール:60℃
【0154】
〔製膜性の評価〕
上記の条件で多層製膜を実施し、下記評価により製膜性を評価した。結果を表1に示す。
○:均一なフィルムが製膜できた。
×:穴あきが生じ、製膜が不可能であった。
【0155】
[実施例2]
二軸押出機の吐出量を5.1kg/hr、スクリュー回転数を750rpmとし、さらに温度と圧力を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様に生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を作製した。結果を表1に示す。
【0156】
[比較例1]
二軸押出機の吐出量を3.5kg/hr、スクリュー回転数を400rpmとし、さらに温度と圧力を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様に生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を作製した。結果を表1に示す。
【0157】
【0158】
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)を用いた実施例1、2の積層体は、均一なフィルムが製膜でき製膜性に優れるものであった。
一方、T×Pが600を上回る比較例1は、製膜中のフィルムに穴あきが生じ、製膜が不可能であった。
本発明の生分解性酸変性ポリエステル系樹脂(A)は、PVA系樹脂(B)層と生分解性樹脂(C)層との接着層として好適に用いることが出来る。得られた積層体は、生分解性であるため、コンポストにそのまま捨てることが出来るもの、例えば、コーヒーカプセル(カプセル式コーヒーメーカー用のコーヒー豆容器)、シュリンク用フィルム、その他食料・飲料品の容器に好適に用いられる。