(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146898
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】青カビ含有チーズの製造方法
(51)【国際特許分類】
A01J 27/02 20060101AFI20241004BHJP
A01J 25/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A01J27/02
A01J25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055263
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023056922
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】高石 真樹
(72)【発明者】
【氏名】城ノ下 兼一
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、チーズ内部に空洞が少なく、チーズ断面の見た目が好ましい青カビ含有チーズの製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る青カビ含有チーズの製造方法は、青カビを含むと共に孔を有するチーズカードを、通気孔を有するカバーにより被覆することでカバー被覆チーズカードを得るチーズカード被覆工程と、前記カバー被覆チーズカードを相対湿度70%以上で熟成させることで青カビ含有チーズを生成する熟成工程とを備える。また、本発明に係る青カビ含有チーズの製造方法は、前記青カビを含むと共に前記孔を有するチーズカードの表面に白カビを接種して白カビチーズカードを得る接種工程をさらに備え、前記チーズカード被覆工程では、前記白カビチーズカードが、前記通気孔を有するカバーにより被覆される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青カビを含むと共に孔を有するチーズカードを、通気孔を有するカバーにより被覆することでカバー被覆チーズカードを得るチーズカード被覆工程と、
前記カバー被覆チーズカードを相対湿度70%以上で熟成させることで青カビ含有チーズを生成する熟成工程と
を備える、
青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項2】
前記青カビを含むと共に前記孔を有するチーズカードの表面に白カビを接種して白カビチーズカードを得る接種工程をさらに備え、
前記チーズカード被覆工程では、前記白カビチーズカードが、前記通気孔を有するカバーにより被覆される、
請求項1に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項3】
前記通気孔を有するカバーが樹脂フィルムである、請求項1または2に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの平均細孔直径が、10nm以上500nm以下の範囲内である、請求項3に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項5】
前記通気孔を有するカバーがメッシュである、請求項1または2に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項6】
前記メッシュの目開きが、77μm以上970μm以下の範囲内である、
請求項5に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項7】
前記メッシュの開口率が、30%以上60%以下の範囲内である、
請求項5に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項8】
前記青カビ含有チーズをポーションカットしてカットチーズを得るポーションカット工程と、
前記カットチーズを包装して包装済カットチーズを生成する包装工程と
をさらに備える、
請求項1または2に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【請求項9】
前記包装済カットチーズを殺菌する殺菌処理工程をさらに備える、
請求項8に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青カビ含有チーズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青カビチーズ(ブルーチーズ)に含まれる青カビが、高めの血圧を下げる効果、高い抗酸化作用を有することによるアンチエイジング効果、および認知症予防効果を有することが立証されてきた。それに伴い、一般消費者からの青カビを含むチーズ(以下、「青カビ含有チーズ」と称する。)あるいは青カビを含む白カビチーズ(以下、「青カビ含有白カビチーズ」と称する。)に対する需要が増加している。これらのチーズの製造方法は、主にナチュラルチーズの製造方法と共通している(非特許文献1、特許文献1-2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5年-004669号公報
【特許文献2】特開2009-112222号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「乳業技術」Vol.67,p16-30,2017(ナチュラルチーズの製造法;佐々木正弘著、平成30年5月15日、公益財団法人日本乳業技術協会発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のチーズの製造過程においては、ホエイ排出後のチーズカードを型枠に充填して成形する際に、チーズカード間に隙間ができ、そのことにより熟成工程を経て得られたチーズの内部に空洞ができてしまう。このように形成されたチーズ内部の空洞は、一般消費者にとって欠陥とみなされることがあるため、好ましくない。
【0006】
本発明の課題は、チーズ内部に空洞が少なく、チーズ断面の見た目が好ましい青カビ含有チーズの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、熟成工程前のチーズカードを、通気孔を有するカバーにより被覆することでカバー被覆チーズカードを形成し、同カバー被覆チーズカードを熟成させることで、チーズ内部に空洞が少ない青カビ含有チーズを生成できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
【0009】
(1)青カビを含むと共に孔を有するチーズカードを、通気孔を有するカバーにより被覆することでカバー被覆チーズカードを得るチーズカード被覆工程と、前記カバー被覆チーズカードを相対湿度70%以上で熟成させることで青カビ含有チーズを生成する熟成工程とを備える、青カビ含有チーズの製造方法。なお、ここでいう「孔」は、「発明が解決しようとする課題」に記載の「空洞」とは異なり、青カビ生育に必要な酸素の供給通路となる。また、この「孔」は、同チーズカードを貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。「孔」が同チーズカードを貫通している場合は、その「孔」の両端が同チーズカードの外側に通じている。また、「孔」が同チーズカードを貫通していない場合は、その「孔」の両端のうち一方の端が同チーズカードの外側と通じており、他方の端が同チーズカード中で閉塞している。
【0010】
(2)前記青カビを含むと共に前記孔を有するチーズカードの表面に白カビを接種して白カビチーズカードを得る接種工程をさらに備え、前記チーズカード被覆工程では、前記白カビチーズカードが、前記通気孔を有するカバーにより被覆される(1)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【0011】
(3)前記通気孔を有するカバーが樹脂フィルムである、(1)または(2)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【0012】
(4)前記樹脂フィルムの平均細孔直径が、10nm以上500nm以下の範囲内である、(3)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。なお、ここでいう「細孔」とは、樹脂フィルムが有する微細な空孔を指す。また、樹脂フィルムの「細孔」の直径を測定する手法としては、「平均細孔直径」を測定する手法が知られている。この「平均細孔直径」は、当事者に既知の手法、例えば、水銀圧入法により測定される。
【0013】
(5)前記通気孔を有するカバーがメッシュである、(1)または(2)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【0014】
(6)前記メッシュの目開きが、77μm以上970μm以下の範囲内である、(5)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【0015】
(7)前記メッシュの開口率が、30%以上60%以下の範囲内である、(5)または(6)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【0016】
(8)前記青カビ含有チーズをポーションカットしてカットチーズを得るポーションカット工程と、前記カットチーズを包装して包装済カットチーズを生成する包装工程とをさらに備える、(1)から(7)までのいずれか1つに記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【0017】
(9)前記包装済カットチーズを殺菌する殺菌処理工程をさらに備える、(8)に記載の青カビ含有チーズの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る製造方法によれば、チーズ内部に空洞が少なく、チーズ断面の見た目が好ましい青カビ含有チーズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1~7および比較例1における青カビ含有白カビチーズ内部の断面を示した図である。
【
図2】比較例2における青カビ含有白カビチーズ内部Aの断面を示した図である。
【
図3】比較例3における青カビ含有白カビチーズ内部Bの断面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態に係る製造方法によれば、チーズ内部に空洞が少なく、チーズ断面の見た目が好ましい青カビ含有チーズを製造することができる。ここで、チーズ内部に空洞が少ないチーズとは、チーズの空隙率が0.01%以上1.9%以下の範囲内であるチーズを言う。なお、チーズの空隙率は、0.05%以上1.5%以下の範囲内であることが好ましく、0.07%以上1.0%以下の範囲内であることがより好ましい。以下、本発明の実施の形態に係る青カビ含有チーズの製造方法について、詳述する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る青カビ含有チーズの製造方法は、チーズカード被覆工程と、熟成工程(一次熟成工程)とを備える。以下、これらの工程それぞれについて詳述する。
【0022】
(1)チーズカード被覆工程
チーズカード被覆工程では、青カビを含むと共に孔を有するチーズカードを、通気孔を有するカバーにより被覆することでカバー被覆チーズカードが形成される。なお、この場合において、カバーがチーズカードに触れないことが好ましい。また、カバーを被覆する前に、チーズカードを70cm×65cmの網に均等に並べた後、70cm×65cmの網を複数枚重ねることが好ましく、かかる場合の網の枚数は40枚であることが好ましい。そして、このような処理を施したチーズカードにカバーを被覆する。なお、このカバーの素材はナイロンであることが好ましい。
【0023】
ここで、青カビを含むと共に孔を有するチーズカードは、自身で製造したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。
【0024】
自身で青カビを含むと共に孔を有するチーズカードを製造する場合は、一般的な青カビチーズカードの製造方法により青カビ含有チーズカードを製造し、同チーズカードを穿孔することにより得ることができる。
【0025】
具体的には、調製乳を殺菌して冷却した後、乳酸菌スターターと青カビスターター、およびレンネットを添加して乳を凝固させて青カビ含有チーズカードを得る。なお、凝固させた青カビ含有チーズカードは、通常、カットされてからその後の工程で用いられる。
【0026】
調整乳には、通常、生乳が使用される。生乳としては、牛乳、羊乳、水牛乳、山羊乳などが挙げられる。生乳を洗浄化後、生乳の成分を調整し、標準化する。なお、生乳の標準化を行った後に、標準化後の生乳の均質化を行ってもよい。
【0027】
標準化後の生乳あるいは均質化後の生乳を殺菌する手法としては、常法、例えば、加熱殺菌や高温短時間殺菌などの手法が挙げられる。加熱殺菌は常圧下60℃で30分間加熱することにより実施される。高温短時間殺菌は、例えば、常圧下72℃程度で15秒間加熱することなどにより実施される。その後、加熱殺菌された乳を常圧下30℃程度または35℃程度まで冷却する。
【0028】
乳酸菌スターターとしては、中温性乳酸菌(至適生育温度が25~37℃程度である乳酸菌)のLactococcus属とLeuconostoc属および高温性乳酸菌(至適生育温度が37~43℃程度である乳酸菌)のLactobacillus属とStreptococcus属を主体として構成されていればよく、通常のスターターメーカーが調整した種菌(ストックカルチャー)や濃縮スターターを購入して用いることができる。また、乳酸菌スターターとしては、上述の乳酸菌の一種以上が用いられていればよい。
【0029】
また、青カビスターターとしては、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)株やペニシリウム・グラウカム(Penicillium glaucum)株などを用いることができるが、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)株を用いることが好ましい。
【0030】
なお、ここにいうレンネットとしては、動物性レンネット、微生物レンネットおよび組み換えレンネットのいずれのレンネットを用いてもよい。
【0031】
上述の方法で製造した青カビ含有チーズを穿孔することにより、青カビを含むと共に孔を有するチーズカードを生成することができる。穿孔は、常法、すなわち、青カビ含有チーズの穿孔工程と同様の条件により行えばよい。なお、本願において、穿孔によりチーズカードに形成された孔は、チーズ中に青カビを生育するための孔である。一方で、「発明が解決しようとする課題」に記載の「空洞」とは、チーズの製造方法により得られる完成後の青カビ含有チーズあるいは青カビ含有白カビチーズの内部に残存する、肉眼で視認できる穴を指す(
図1中の「比較例1」、
図2および
図3参照)。このため、この「空洞」は、青カビ生育に必要な酸素の供給通路を確保するため穿孔によりチーズカードに形成させる「孔」とは別のものである。
【0032】
本発明に係る通気孔を有するカバーとしては、設置しやすさの観点から、樹脂素材のものが用いられる。具体的には、本発明に係る通気孔を有するカバーとしては、ポリエチレンフィルム、多孔質ポリエチレンフィルム、ポリエチレンメッシュ、ポリプロピレンメッシュ、ポリエチレンテレフタラートメッシュ、ナイロンメッシュなどのメッシュが用いられる。なお、本発明に係る製造方法に使用する通気孔を有するカバーとしては、ポリエチレンフィルム、あるいは、ナイロンメッシュを用いることが好ましい。なお、本発明に係る「メッシュ」とは、網目状に編まれた、隙間のある編み物である。
【0033】
通気孔を有するカバーとしてポリエチレンフィルムを使用する場合、その平均細孔直径が10nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
また、通気孔の形状としては、特に限定はされないが、円状、楕円状、三角形、四角形、ひし形などが挙げられる。
【0035】
通気孔を有するカバーとしてメッシュを使用する場合は、そのメッシュの目開きが1μm以上970μm以下の範囲内であることが好ましく、30μm以上450μm以下の範囲内であることがより好ましく、70μm以上450μm以下の範囲内であることがより好ましく、77μm以上450μm以下の範囲内であることがより好ましく、149μm以上450μm以下の範囲内であることがより好ましく、258μm以上450μm以下の範囲内がさらに好ましく、250μm以上450μm以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0036】
また、通気孔を有するカバーとしてメッシュを使用する場合は、そのメッシュの開口率(空間率)が20%以上60%以下の範囲内であることが好ましく、35%以上58%以下の範囲内であることがより好ましく、34%以上37%以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、メッシュの開口率は、以下の計算式(1)から導くことができる。
【0037】
【0038】
また、チーズカード被覆工程前に、白カビ接種工程を設けてもよい。この白カビ接種工程では、青カビを含むと共に孔を有するチーズカードの表面に白カビが接種される。この白カビ接種工程において、白カビを摂取する方法は、白カビの胞子を含有する懸濁液を同チーズカードの表面に噴霧するなど、一般的な白カビチーズの製造方法に則り、行うことができる。
【0039】
なお、ここにいう白カビとは、カマンベールチーズやブリーチーズなどの白カビチーズの製造に用いられるものであれば特に限定はされず、例えば、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)やペニシリウム・カンディダム(Penicillium candidum)などであってよい。白カビは1種類を単独で使用してもよく、酵母などを含めた2種類以上を併用してもよい。
【0040】
(2)熟成工程(一次熟成工程)
熟成工程では、カバー被覆チーズカードが熟成されることで熟成チーズが生成される。すなわち、この熟成工程では、チーズカード被覆工程後のカバー被覆チーズカード、あるいは、白カビ接種工程後にチーズカード被覆工程を経たカバー被覆チーズカードが熟成(一次熟成)されることにより目的のカバー被覆熟成チーズ、すなわち、熟成チーズ(以下、単に「チーズ」と称することがある。)が得られる。
【0041】
チーズカード被覆工程後のカバー被覆チーズカード(以下、「カバー被覆青カビ含有チーズカード」と称することがある。)における一次熟成の温度は、3℃以上20℃以下の範囲内であることが好ましく、6℃以上18℃以下の範囲内であることがより好ましい。カバー被覆青カビ含有チーズカードにおける一次熟成の相対湿度は、70%以上100%以下の範囲内であることが好ましく、80%以上100%以下の範囲内であることがより好ましく、90%以上100%以下の範囲内であることが特に好ましく、95%以上100%以下の範囲内であることが最も好ましい。また、カバー被覆青カビ含有チーズカードにおける一次熟成の雰囲気は、大気雰囲気であることが好ましい。カバー被覆青カビ含有チーズカードにおける一次熟成期間は、90日以上150日以下の範囲内であることが好ましい。
【0042】
白カビ接種工程後にチーズカード被覆工程を経たカバー被覆チーズカード(白カビの生育によるリンドを有するカバー被覆青カビ含有チーズカード、以下、「カバー被覆青カビ含有白カビチーズカード」と称することがある。)における一次熟成の温度は10℃以上20℃以下の範囲内であることが好ましく、12℃以上18℃以下の範囲内であることがより好ましい。また、カバー被覆青カビ含有白カビチーズカードの一次熟成における相対湿度は、60%以上100%以下の範囲内であることが好ましく、70%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下の範囲内であることが特に好ましく、95%以上100%以下の範囲内であることが最も好ましい。また、カバー被覆青カビ含有白カビチーズカードにおける一次熟成の雰囲気は、大気雰囲気であることが好ましい。なお、一次熟成における熟成室内の風速は、0.01m/秒以上0.50m/秒以下の範囲内であることが好ましく、0.01m/秒以上0.25m/秒以下の範囲内であることがより好ましい。カバー被覆青カビ含有白カビチーズカードにおける一次熟成期間は、3日以上20日以下の範囲内であることが好ましく、5日以上18日以下の範囲内であることがより好ましい。
【0043】
また、上述の一次熟成工程後に、ポーションカット工程を設けてもよい。ポーションカット工程では、一次熟成工程で得られたチーズをポーションカットして複数のピースチーズが得られる。例えば2個以上12個以下のピースチーズ(カットチーズ)が得られる。さらに、該ポーションカット工程後に包装工程を設けてもよい。包装工程では、該ポーションカット工程により得られたピースチーズ(カットチーズ)が包装される。
【0044】
また、上述のチーズカード被覆工程前にポーションカット工程を設けてもよい。この場合、ポーションカット工程において複数の青カビ含有カットチーズカードが得られる。そして、同青カビ含有カットチーズカードがチーズカード被覆工程を経てカバー被覆青カビ含有カットチーズカードが得られる。その後、同カバー被覆青カビ含有カットチーズカードが一次熟成工程を経て目的のカバー被覆青カビ含有カットチーズ、すなわち、青カビ含有カットチーズが得られる。なお、この場合において、「チーズカード被覆工程後であって一次熟成工程前」あるいは「一次熟成工程後」に包装工程を設けてもよい。チーズカード被覆工程後であって一次熟成工程前に包装工程を設けた場合は、該チーズカード被覆工程により得られたカバー被覆青カビ含有カットチーズカードが包装された後、包装済みのカバー被覆青カビ含有カットチーズカードが一次熟成工程を経て目的の包装済みカバー被覆青カビ含有カットチーズが得られる。また、一次熟成工程後に包装工程を設けた場合は、該一次熟成工程により得られたカバー被覆青カビ含有カットチーズ、すなわち、青カビ含有カットチーズが包装される。
【0045】
上述の白カビ接種工程を設ける場合においては、白カビ接種工程前にポーションカット工程を設けてもよい。この場合、ポーションカット工程において複数の青カビ含有カットチーズカードが得られる。その後、同青カビ含有カットチーズカードが白カビ接種工程を経て青カビ含有白カビカットチーズカードが得られる。次いで、同青カビ含有白カビカットチーズカードがチーズカード被覆工程を経てカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが得られる。そして、同カバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが一次熟成工程を経て目的のカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズ、すなわち、青カビ含有白カビカットチーズが得られる。なお、この場合において、「チーズカード被覆工程後であって一次熟成工程前」あるいは「一次熟成工程後」に包装工程を設けてもよい。チーズカード被覆工程後であって一次熟成工程前に包装工程を設けた場合は、該チーズカード被覆工程により得られたカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが包装された後、包装済みのカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが一次熟成工程を経て目的の包装済みカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズが得られる。また、一次熟成工程後に包装工程を設けた場合は、該一次熟成工程により得られたカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズ、すなわち、青カビ含有白カビカットチーズが包装される。
【0046】
また、上述の白カビ接種工程を設ける場合においては、白カビ接種工程後であってチーズカード被覆工程前にポーションカット工程を設けてもよい。この場合、ポーションカット工程において複数の青カビ含有白カビカットチーズカードが得られる。そして、同青カビ含有白カビカットチーズカードがチーズカード被覆工程を経てカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが得られる。その後、同カバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが一次熟成工程を経て目的のカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズ、すなわち、青カビ含有白カビカットチーズが得られる。なお、この場合において、「チーズカード被覆工程後であって一次熟成工程前」あるいは「一次熟成工程後」に包装工程を設けてもよい。チーズカード被覆工程後であって一次熟成工程前に包装工程を設けた場合は、該チーズカード被覆工程により得られたカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが包装された後、包装済みのカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズカードが一次熟成工程を経て目的の包装済みカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズが得られる。また、一次熟成工程後に包装工程を設けた場合は、該一次熟成工程により得られたカバー被覆青カビ含有白カビカットチーズ、すなわち、青カビ含有白カビカットチーズが包装される。
【0047】
なお、上述の包装工程により得られた包装済みカットチーズを殺菌する殺菌処理工程をさらに備えていることが好ましい。ここでいう殺菌処理としては、一般にチーズの製造に使用されているレトルト殺菌処理などが挙げられる。
【0048】
また、上述の包装工程により得られた包装済みカットチーズを再度熟成する工程(二次熟成工程)をさらに備えていることが好ましい。
【0049】
包装済み青カビ含有カットチーズにおける二次熟成の温度は、3℃以上20℃以下の範囲内であることが好ましく、6℃以上18℃以下の範囲内であることがより好ましい。包装済み青カビ含有カットチーズの二次熟成における相対湿度は、70%以上100%以下の範囲内であることが好ましく、80%以上100%以下の範囲内であることがより好ましく、90%以上100%以下の範囲内であることが特に好ましく、95%以上100%以下の範囲内であることが最も好ましい。
【0050】
包装済み青カビ含有カットチーズの二次熟成においては、酸素濃度を低減させて熟成を行ってもよい。包装済み青カビ含有カットチーズの二次熟成において酸素濃度を低減させた際の酸素濃度は、0%以上15%以下の範囲内であることが好ましく、0%以上14%以下の範囲内であることがより好ましく、0%以上10%以下の範囲内であることがさらに好ましい。ここで、酸素を低減させた場合の包装済み青カビ含有カットチーズの二次熟成期間は、1日以上30日以下の範囲内であることが好ましい。
【0051】
包装工程後の白カビの生育によるリンドを有する青カビ含有カットチーズ(以下、「包装済み青カビ含有白カビカットチーズ」と称することがある。)における二次熟成の温度は、3℃以上20℃以下の範囲内であることが好ましく、6℃以上18℃以下の範囲内であることがより好ましい。包装済み青カビ含有白カビカットチーズの二次熟成における相対湿度は、70%以上100%以下の範囲内であることが好ましく、80%以上100%以下の範囲内であることがより好ましく、90%以上100%以下の範囲内であることが特に好ましく、95%以上100%以下の範囲内であることが最も好ましい。
【0052】
また、包装済み青カビ含有白カビカットチーズの二次熟成においては、酸素濃度を低減させて熟成を行ってもよい。包装済み青カビ含有白カビカットチーズの二次熟成時において酸素濃度を低減させた際の酸素濃度は、0%以上15%以下の範囲内であることが好ましく、0%以上14%以下の範囲内であることがより好ましく、0%以上10%以下であることがさらに好ましい。また、酸素を低減させた場合の包装済み青カビ含有白カビカットチーズの二次熟成期間は、1日以上30日以下の範囲内であることが好ましく、2日以上25日以下の範囲内であることがより好ましく、3日以上21日以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0053】
なお、上述の熟成工程後にポーションカット工程を設けない場合には、一次熟成工程で得られたチーズは包装工程により包装される。また、包装工程後において、包装後のチーズを殺菌する殺菌処理工程をさらに備えていることが好ましい。ここでいう殺菌処理としては、一般にチーズの製造に使用されているレトルト殺菌処理などが挙げられる。
【0054】
包装工程により得られた包装済みチーズを再度熟成する工程(二次熟成工程)をさらに備えていることが好ましい。なお、二次熟成工程の条件は、上述の条件に従い行えばよい。
【0055】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0056】
1.青カビ含有白カビチーズの製造
【0057】
(1)青カビを含むと共に孔を有するチーズカードの製造工程
青カビ含有チーズカードは、一般的な青カビチーズの製造方法により製造した。すなわち、脂肪分3.5%に調整した調製乳を、72℃で15秒間殺菌して冷却した後、ラクティス(Lactococcus lactis)(乳酸菌スターター)とペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、およびレンネットを添加して乳を凝固させ、カッティングし、凝乳からホエイを除去した。
【0058】
(2)ドレイニング工程
上述で得られた青カビ含有チーズカードを、パドル型攪拌羽を用いて1往復5秒となるように攪拌しながら、直径が10cm、厚さが10cmの寸法のチーズパットに成型し、チーズカード自体の重さのみでドレイニングを行った。ドレイニング時の相対湿度95%、温度を常圧下23℃に調整して、チーズカードを一晩静置させた。
【0059】
(3)加塩工程
ドレイニング後のチーズカードをモールド(型)に詰めた後、22%食塩溶液のブラインに浸漬させて、同チーズカードの質量に対して目標塩分が1質量%になるように加塩した。
【0060】
加塩工程を経たチーズカードを、常圧下で温度12℃、相対湿度95%の熟成室内で1日間、静置させることにより予備熟成を行った。
【0061】
(4)穿孔工程
直径4mmの針を用いて予備熟成後のチーズカードの側面に約10個の孔を形成した。
【0062】
(5)白カビ接種形成工程
穿孔後のチーズカード表面に、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)の胞子を含有する懸濁液を噴霧した。
【0063】
(6)チーズカード被覆工程
平均細孔直径が300nmのポリエチレンフィルム(株式会社ジャパックス社製)を白カビ接種形成工程後のチーズカードに被覆して、カバー被覆チーズカードを得た。
【0064】
(7)熟成工程(一次熟成工程)
チーズカード被覆工程後のカバー被覆チーズカードの表面を、常圧下で温度12℃、相対湿度95%、風速約0.01m/sの熟成室内で2週間静置させてチーズカードを一次熟成して、カバー被覆青カビ含有白カビチーズを得た。その後、上述のチーズカード被覆工程によるカバー(実施例1においては、ポリエチレンフィルム)から取り出し、目的の青カビ含有白カビチーズを得た。
【0065】
(8)ポーションカット工程
一次熟成工程により得られた青カビ含有白カビチーズをポーションカットした。
【0066】
(9)包装工程
ポーションカット済みの青カビ含有白カビチーズを、アルミ包装体で1カットずつ包装した。
【0067】
(10)熟成工程(二次熟成工程)
包装後の青カビ含有白カビカットチーズを、常圧下で温度7℃、相対湿度95%の熟成室内で1週間静置させて二次熟成を行った。
【0068】
(11)殺菌工程
二次熟成後の包装済み青カビ含有白カビカットチーズをプラスチック製の開口容器(カップ)に入れ、容器の開口部をプラスチックフィルム(トップシール)で密封してから、レトルト殺菌処理を行った。同カップは、6個の包装済み青カビ含有白カビチーズを収容できる寸法のものを使用した。レトルト殺菌処理は、レトルト釜の中において、温度94℃、圧力0.125MPaにて、チーズの中心部が90℃になるまで行った。
【0069】
2.青カビ含有白カビチーズの評価
【0070】
(1)官能評価
上述の(1)~(11)の工程を経て得られた青カビ含有白カビチーズを以下の方法に従って評価した。なお、同評価は、株式会社明治のチーズ関連業務の経験者(経験年数1年以上)6名により行われた。
【0071】
(評価方法)
同青カビ含有白カビチーズを試食することにより、同青カビ含有白カビチーズの青カビ風味を評価した。また、同青カビ含有白カビチーズを上面から半月柱になるように切断し(
図1参照)、切断面における青カビの繁茂状態(外観の評価)とチーズ内部の空洞(空洞の評価)を目視により確認した。なお、青カビ風味の評価、外観評価、および空洞の評価は、以下の基準に従って行い、6名の評価者が付けた点数の平均点をその評点とした。
【0072】
(青カビ風味の評価基準)
1:青カビ風味が非常に弱い
2:青カビ風味が弱い
3:青カビ風味がやや弱い
4:青カビ風味が適度に感じる
5:青カビ風味がやや強い
6:青カビ風味が強い
7:青カビ風味が非常に強い
【0073】
(外観の評価基準)
1:青カビが非常に少ない
2:青カビが少ない
3:青カビがやや少ない
4:青カビが適度に存在している
5:青カビがやや多い
6:青カビが多い
7:青カビが非常に多い
【0074】
(空洞の評価基準)
1:空洞が非常に多く、欠陥品とみなされる可能性が非常に高い
2:空洞が多く、欠陥品とみなされる可能性が高い
3:空洞がやや多く、欠陥品とみなされる可能性がやや高い
4:空洞が存在しており、欠陥品とみなされる可能性がある
5:空洞がやや少なく、欠陥品とみなされる可能性は低い
6:空洞が少なく、欠陥品とみなされる可能性はかなり低い
7:空洞が全くなく、チーズ断面の見た目が良好である
【0075】
上述の方法に従い、同青カビ含有白カビチーズの青カビ風味の評価を行ったところ、その評点は3.2であった(表1参照)。また、本実施例に係る青カビ含有白カビチーズの切断面における見た目の評点(外観の評価の評点)は3.4であった(表1参照)。また、本実施例に係る青カビ含有白カビチーズの切断面における青カビの繁茂状態を確認したところ、白カビチーズ中に青カビが含まれていることが確認された(
図1参照)。さらに、本実施例に係る青カビ含有白カビチーズの切断面における空洞の状態を確認したところ、その評点は6.6であった(表1および
図1参照)。これは、白カビ接種形成工程後のチーズカードに、平均細孔直径が300nmのポリエチレンフィルムを被覆してから一次熟成を行ったことにより、同チーズカード内の水分含量の減少が抑えられることで、カビが繁茂して同チーズカード組織が流動し、同チーズカード内部の空洞が閉塞したものと考えられる。
【0076】
(2)空隙率(%)の測定
上記で得られた青カビ含有白カビチーズをX線CTスキャナー(アールエフ社 NAOMi-CT)に供して3Dデータを取得し、その3Dデータを3D解析ソフト(VGSTUDIO MAX)で欠陥の体積を求めて総体積との比率を算出し空隙率とした。その結果、青カビ含有白カビチーズの空隙率は、0.07%であった。このことからも、チーズ内部に空洞が少なく、チーズ断面の見た目が好ましい青カビ含有白カビチーズが得られていることが確認された。