IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

特開2024-146903パスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146903
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】パスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/076 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A23C19/076
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056232
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023056920
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】八木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】城ノ下 兼一
(72)【発明者】
【氏名】植野 敦子
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、パスタフィラータチーズ用のチーズカードの製造の際において、同カードに乳本来の風味を維持させるようにすることである。
【解決手段】本発明に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、pH調整工程、カード形成工程およびカッティング・ホエイ除去工程を備える。pH調整工程では、原料乳に有機酸が混合されて原料乳のpHが5.7以上5.9以下の範囲内に調整されてpH調整原料乳が調製される。カード形成工程では、30℃以上35℃未満の範囲内に調温されたpH調整原料乳が凝固させられてカードが形成される。カッティング・ホエイ除去工程では、カードがカッティングされた後に、カッティングされたカードからホエイが除去されてパスタフィラータチーズ用チーズカードが得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳に有機酸を混合して前記原料乳のpHを5.7以上5.9以下の範囲内に調整してpH調整原料乳を調製するpH調整工程と、
30℃以上35℃未満の範囲内に調温された前記pH調整原料乳を凝固させてカードを形成するカード形成工程と、
前記カードをカッティングした後に、カッティングされた前記カードからホエイを除去してパスタフィラータチーズ用チーズカードを得るカッティング・ホエイ除去工程と
を備える、パスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法。
【請求項2】
前記カッティング・ホエイ除去工程では、前記pH調整原料乳の凝固開始後1分以上30分以下の範囲内の時間内で前記カードが2回以上カッティングされる
請求項1に記載のパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法。
【請求項3】
前記カード形成工程では、レンネットが10ppm以上30ppm以下の範囲内の濃度となるように前記pH調整原料乳に対して添加される
請求項1に記載のパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法。
【請求項4】
カッティング・ホエイ除去工程において、前記カードをカッティングする際の前記カードの針入硬度が5gf以上15gf以下の範囲内である
請求項1に記載のパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法。
【請求項5】
前記パスタフィラータチーズ用チーズカードを急冷する急冷工程をさらに備える
請求項1に記載のパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法。
【請求項6】
前記パスタフィラータチーズ用チーズカードは、pHが5.7以上5.9であり、
前記パスタフィラータチーズ用チーズカードにおける2-ブタノンの濃度は500ppb以下であり、ペンタナールの濃度は35ppb以下であり、ヘキサナールの濃度は40ppb以下である
請求項1から5のいずれか1項に記載のパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料乳からパスタフィラータチーズ用チーズカードを製造するカード製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「殺菌済みの原料乳にクエン酸を添加してその原料乳のpHを4.9~6.0に調整し、そのpH調整乳を43℃に調温してインライン中で、パスタフィラータチーズ用のチーズカードを形成する方法(例えば、以下の特許文献1等参照)」や、「原料乳に乳酸やクエン酸を添加してその原料乳のpHを5.2~5.6に調整し、そのpH調整乳を35~40℃に調温してパスタフィラータチーズ用のチーズカードを形成する方法(例えば、以下の非特許文献1等参照)」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-505233号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】齋藤忠夫、堂迫俊一、井越敬司編,“現代チーズ学”,食品資材研究会,2008年,p.153-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の方法では、原料乳を35℃以上に調温しているため、原料乳中の乳脂肪が変質しやすく、その結果、得られるカードに酸化臭や加熱臭が生じ、チーズカードが乳本来の風味を失ってしまうという不具合があった。
【0006】
本発明の課題は、パスタフィラータチーズ用のチーズカードの製造の際において、同カードに乳本来の風味を維持させるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)
本発明の第1局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、pH調整工程、カード形成工程およびカッティング・ホエイ除去工程を備える。なお、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、全ての工程に亘り、原料乳に乳酸菌が添加されることはない。pH調整工程では、原料乳に有機酸が混合されて原料乳のpHが5.7以上5.9以下の範囲内に調整されてpH調整原料乳が調製される。カード形成工程では、30℃以上35℃未満の範囲内に調温されたpH調整原料乳が凝固させられてカードが形成される。なお、pH調整原料乳を凝固させる手段として、レンネットの添加などが挙げられる。カッティング・ホエイ除去工程では、カードがカッティングされた後に、カッティングされたカードからホエイが除去されてパスタフィラータチーズ用チーズカードが得られる。
【0008】
上述の通り、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、pHが5.7以上5.9以下の範囲内に調整された原料乳が、30℃以上35℃未満の範囲内に調温された状態で原料乳が凝固させられた後に、その凝固物であるカードがカッティングされ、さらにカッティングされたカードからホエイが除去されてパスタフィラータチーズ用チーズカードが製造される。なお、ホエイの除去後、そのカードを堆積させるなどしてさらにそのホエイを除去することが好ましい。このため、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、原料乳中の乳脂肪が変質することを極力抑えて、得られるパスタフィラータチーズ用チーズカードに酸化臭や加熱臭を生じさせにくくすることができる。したがって、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、パスタフィラータチーズ用チーズカードが乳本来の風味を維持することができる。
【0009】
(2)
本発明の第2局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、第1局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法であって、カッティング・ホエイ除去工程では、pH調整原料乳の凝固開始後1分以上30分以下の範囲内の時間内でカードが2回以上カッティングされる。
【0010】
(3)
本発明の第3局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、第1局面または第2局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法であって、カード形成工程では、レンネットが10ppm以上30ppm以下の範囲内の濃度となるようにpH調整原料乳に対して添加される。
【0011】
(4)
本発明の第4局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、第1局面から第3局面のいずれか一局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法であって、カッティング・ホエイ除去工程では、カードをカッティングする際のカードの針入硬度が5gf以上15gf以下の範囲内である。このため、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、カードがカッターに付着しにくくすることができ、カッティングを適切に行うことができる。
【0012】
(5)
本発明の第5局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、第1局面から第4局面のいずれか一局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法であって、急冷工程をさらに備える。急冷工程では、上述の通りにして得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードが急冷される。このため、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、乳風味の喪失をより抑制することができる。
【0013】
(6)
本発明の第6局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法は、第1局面から第5局面のいずれか一局面に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法であって、パスタフィラータチーズ用チーズカードは、pHが5.7以上5.9である。また、このパスタフィラータチーズ用チーズカードにおける2-ブタノンの濃度は500ppb以下であり、ペンタナールの濃度は35ppb以下であり、ヘキサナールの濃度は40ppb以下である。このため、パスタフィラータチーズ用チーズカードが乳由来の本来の風味を有しつつ、フレッシュ感を示し、パスタフィラータチーズ用チーズカードの酸化臭や雑味が少なくなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<パスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法>
本発明の実施の形態に係るパスタフィラータチーズ用チーズカードは、pH調整工程、カード形成工程、カッティング・ホエイ除去工程および冷却工程を経て製造される。なお、このパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、全ての工程に亘り、原料乳に乳酸菌が添加されることはない。以下、これらの工程について詳述する。
【0015】
(1)pH調整工程
pH調整工程では、原料乳に対して、原料乳のpHを5.7以上5.9以下の範囲内に収めるのに必要な量の有機酸が添加されて、原料乳のpHが5.7以上5.9以下の範囲内に調整される。なお、ここにいう「原料乳」とは、牛や水牛などに由来する生乳、脱脂乳、クリーム、濃縮乳などの乳・乳製品の1種以上を用いて、その成分濃度を所望の成分濃度に調整した乳である。原料乳はその使用前に殺菌されてもよい。原料乳の殺菌方法としては従前の公知の殺菌方法を用いることができる。また、このpH調整工程では、原料乳を泡立てずに撹拌しながら有機酸が添加されることが好ましい。かかる場合の原料乳の撹拌速度は20rpm以上100rpm以下の範囲内であることが好ましい。原料乳のpH範囲を上述のpH範囲に設定することにより、乳酸菌で発酵したパスタフィラータチーズ用チーズカードよりも乳風味をより強く感じられるパスタフィラータチーズ用チーズカードを製造することができる。なお、説明の便宜上、このようにしてpH調整された原料乳を「pH調整原料乳」と称する。また、ここにいう、有機酸としては、例えば、クエン酸や、乳酸、コハク酸、リン酸などが挙げられるが、それらの中でもパスタフィラータチーズの風味や物性の調整のしやすさからクエン酸が好ましい。また、pH調整時の原料乳は2℃以上10℃以下の範囲内に調温されるのが好ましい。
【0016】
(2)カード形成工程
カード形成工程では、30℃以上35℃未満の範囲内に調温されたpH調整原料乳が凝固させられてカードが形成される。なお、pH調整原料乳を凝固させるには、pH調整原料乳にレンネットが添加されるのが好ましい。なお、レンネットは、チーズの製造に一般的に用いられるものを使用することができる。レンネットとしては、例えば、動物由来のレンネットや、植物由来のレンネット、微生物由来のレンネット、遺伝子組み換えのレンネット等が挙げられる。また、レンネットの濃度は適宜調整され得るが、10ppm以上30ppm以下の範囲内であることが好ましい。
【0017】
なお、カード形成時のpH調整原料乳の調温範囲は30℃以上34℃以下の範囲内であることが好ましく、30℃以上33℃以下の範囲内であることがより好ましく、30℃以上32℃以下の範囲内であることがさらに好ましく、30℃以上31℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0018】
(3)カッティング・ホエイ除去工程
カッティング・ホエイ除去工程では、カード形成工程で形成されたカードがカッティングされた後に、カッティングされたカード(以下「カッティングカード」という。)からホエイが除去される。なお、pH調整原料乳の凝固開始後1分以上30分以下の範囲内の時間内でカードがワイヤーカッターで1回以上カッティングされることが好ましく、2回以上カッティングされることがより好ましい。また、カッティングは、pH調整原料乳の凝固開始後1分以上25分以下の範囲内の時間内でカードがワイヤーカッターで1回以上カッティングされることがより好ましく、2回以上カッティングされることがより好ましい。また、カッティングは、pH調整原料乳の凝固開始後15分以上25分以下の範囲内の時間内でカードがワイヤーカッターで1回以上カッティングされることがさらに好ましく、2回以上カッティングされることがより好ましい。
【0019】
なお、上述のカッティングの回数は特に限定されないが、10回以上であることが好ましい。また、得られたカッティングカードの大きさは、所定の大きさ、例えば、0.3cm以上4.0cm以下の範囲内であることが好ましい。なお、ホエイを除去しやすくする観点から、同大きさは、0.3cm以上1.0cmの以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
また、同工程において、カードをカッティングする際のカードの針入硬度が5gf以上15gf以下の範囲内であることが好ましく、5gf以上10gf以下の範囲内であることがより好ましく、5gf以上7.5gf以下の範囲内であることがさらに好ましい。カードがカッターに付着しにくくすることができ、カッティングを適切に行うことができる。なお、この条件でカードをカッティングするには、カードのサンプルを採取し、そのカードの針入硬度が上述の数値範囲に収まっていることを確認すべきである。
【0021】
ホエイの除去は、カッティングカードを撹拌したり静置したりしてカッティングカードからホエイを排出することにより行われる。ホエイ除去時におけるカッティングカードの温度は、30℃以上35℃未満の範囲内であることが乳風味維持の観点から好ましい。なお、この温度は30℃以上32℃以下の範囲内であることがより好ましい。このようにカッティングカードを温度管理することによってパスタフィラータチーズ用チーズカードの酸化臭や加熱臭を抑制することができる。カッティングカードの撹拌時間や静置時間は、15分間以上3時間以下の範囲内であることが好ましく、15分間以上1時間以下の範囲内であることがより好ましい。カッティングカードの撹拌時間や静置時間を上述の時間範囲とすることによりカッティングカードの酸化臭や加熱臭をより抑制することができる。また、カッティングカードからさらにホエイを除去するため、カッティングカードを堆積または圧搾して所望の水分含量になるまでそのカッティングカードの堆積物または圧搾物を静置することができる。
【0022】
またカッティングカードからホエイを除去した後に得られるパスタフィラータチーズ用チーズカードが型等に充填されるのが好ましい。型の形状は特に限定されないが、ブロック状、シート状、略円柱状、球状などである。型の形状はブロック状、シート状、略円柱状であることが好ましい。また、型の容量は例えば5cm以上130000cm以下の範囲内である。なお、型の容量は、パスタフィラータチーズ用チーズカードを急冷しやすくすることができ、酸化臭が抑制されたパスタフィラータチーズ用チーズカードを得ることができるという観点から200cm以下であることが好ましい。
【0023】
(4)冷却工程
冷却工程では、上述の型で成形されたパスタフィラータチーズ用チーズカードが急冷される。なお、ここにいう「急冷」とは、成形されたパスタフィラータチーズ用チーズカードの芯温が2時間で-20℃以下の温度に達するように冷却することを意味する。また、成形されたパスタフィラータチーズ用チーズカードを急冷した後に冷凍保存する場合、冷凍温度は、-18℃以下-80℃以上の範囲内であることが好ましい。同パスタフィラータチーズ用チーズカードを1カ月間以上保存する場合には、同冷凍温度は-20℃以下-80℃以下の範囲内であることが好ましい。また、同パスタフィラータチーズ用チーズカードは、解凍後、氷結晶を増加・拡大させないために、使い切ることが好ましい。また、パスタフィラータチーズ用チーズカードは、冷却工程前に包装されることが好ましい。包装材としては、袋、カップ容器、瓶、缶等、内容物を密封できるものが挙げられるが、これらの包装材の中でも袋が好ましい。袋は、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム等の単層フィルム又はこれらの内の2以上の積層フィルム、樹脂フィルムと金属箔との積層フィルム等のフィルムから製造されるものが挙げられる。なお、パスタフィラータチーズ用チーズカードを包装する方法としては、パスタフィラータチーズ用チーズカードを酸化させないことを目的として、真空包装方法や、脱酸素剤と共に封入する方法、不活性ガスと共に封入する方法、酸素を吸収する包装材で封入する方法が挙げられる。前述の方法は、単独で用いられてもよいし、組み合わせて用いられてもよい。
【0024】
なお、最終的に得られるパスタフィラータチーズ用チーズカードにおける2-ブタノンの濃度は500ppb以下であることが好ましく、ペンタナールの濃度は35ppb以下であることが好ましく、ヘキサナールの濃度は40pb以下であることが好ましい。パスタフィラータチーズ用チーズカードが乳由来の本来の風味を有しつつ、フレッシュ感を示し、パスタフィラータチーズ用チーズカードの酸化臭や雑味が少なくなるからである。
【0025】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0026】
1.パスタフィラータチーズ用チーズカードの製造
先ず、殺菌後7℃まで冷却した原料乳に10%クエン酸溶液を添加して原料乳のpHを5.8に調整した。次に、pH調整した原料乳を30℃へ昇温し、その原料乳にレンネット(DKSH Business Line Food & Beverage Industry製Fromase750XLG)をその濃度が25ppmとなるよう添加した。次いで、同レンネットを添加した原料乳を静置し、凝乳開始後から15分内で、7mm幅のワイヤーカッターでカードが一辺約7mmの立方体になるようにカードを2回以上カッティングしてからそれを60分間攪拌した。その後、カードからホエイを除去した。なお、カッティング直前のカードの一部を採取して、プランジャーとしてカードテンション測定用プランジャーを装着したレオメーター(株式会社島津製作所製EZ-SX)を用いてそのカードの針入硬度を測定したところ、その針入硬度は5.3gfであった。また、カッティング後にワイヤーカッターに付着したカードの質量は4.6gであり、その質量は、その後得られた全カードの質量の0.66%であった。続いて、ホエイを除去したそのカードを30℃に保温しながら180分間でそのカードを堆積させて目的のパスタフィラータチーズ用チーズカードを得た。得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードを型に充填した後にそれを真空包装して急速冷凍した。なお、急速冷凍は、型に充填したパスタフィラータチーズ用チーズカードの芯温が2時間で-20℃へ到達する条件とした。得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの外観は良好で、そのパスタフィラータチーズ用チーズカードの水分含量は52.9質量%であった。
【0027】
2.パスタフィラータチーズ用チーズカードの物性評価
(1)パスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価(その1)
パスタフィラータチーズ用チーズカードの冷凍保存開始から7日後および75日後にパスタフィラータチーズ用チーズカードを解凍して直ぐにその風味評価を行った。この風味評価では、5人のチーズ専用パネラーが充填カードの乳由来の風味、酸化臭、加熱臭を、以下に示す5段階で評価し、その評価点の平均点を最終的な評価点とした。なお、チーズ専門パネラーがパスタフィラータチーズ用チーズカードを評価する前に、チーズ専門パネラーの認識を標準化させる目的で、チーズ専門パネラーに、(i)乳の風味の標準臭源としてのメチルケトン、(ii)酸化臭の標準臭源としてのヘキサナール、ノナナール、ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィド、(iii)加熱臭(脂肪の酸化臭)の標準臭源としてのフランおよびピラジンを確認してもらった。
【0028】
<乳由来の風味>
5点:乳由来の風味が強く感じられる。
4点:乳由来の風味がやや強く感じられる。
3点:乳由来の風味が感じられる。
2点:乳由来の風味がやや弱く感じられる。
1点:乳由来の風味が全く感じられない。
【0029】
<酸化臭>
5点:酸化臭がかなり強く感じられる。
4点:酸化臭がやや強く感じられる。
3点:酸化臭が感じられる。
2点:酸化臭がやや弱く感じられる。
1点:酸化臭が全く感じられない。
【0030】
<加熱臭>
5点:加熱臭がかなり強く感じられる。
4点:加熱臭がやや強く感じられる。
3点:加熱臭が感じられる。
2点:加熱臭がやや弱く感じられる。
1点:加熱臭が全く感じられない。
【0031】
その結果、本実施例で得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの7日冷凍保存後の乳由来の風味の評価点は4.4であり、7日冷凍保存後の酸化臭の評価点は1.2であり、7日冷凍保存後の加熱臭の評価点は1.4であった(表3参照)。また、同パスタフィラータチーズ用チーズカードの75日冷凍保存後の乳由来の風味の評価点は4.4であり、75日冷凍保存後の酸化臭の評価点は1.4であり、75日冷凍保存後の加熱臭の評価点は1.2であった(表3参照)。
【0032】
(2)パスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価(その2)
まず始めに、チーズ専門パネラー訓練用のサンプルとして、本実施例で得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードに対して、表1に示される量の2-ブタノン、ペンタナール、ヘキサナールの3成分を添加してS0~S4の5水準の風味評価基準試料を調製した。
【0033】
【表1】

具体的には、パスタフィラータチーズ用チーズカードに対して、エタノールを溶媒として希釈した2-ブタノン、ペンタナール、ヘキサナールの3成分を添加した後、自転/公転方式ミキサーを用いてその混合物を3000rpmで30秒間に2回もしくは3回、均質化して目的の各種風味評価基準試料を得た。なお、表1から明らかな通り、風味評価基準試料S0には2-ブタノン、ペンタナール、ヘキサナールのいずれも添加されなかった。その後、5名のチーズ専門パネラーに対してS0~S4の5水準の風味評価基準試料を嗅いでもらってそれらの風味評価基準試料のホットミルク感、フレッシュ感、加熱臭、雑味、後味のスッキリ感の5項目を訓練的に評価してもらった。その際のチーズ専門パネラーの評価は、表2に示される通りであった。
【0034】
【表2】
【0035】
なお、上述の評価に際して、風味評価基準試料S1の全評価項目を3.00に固定し(表2参照)、それを基準値として風味評価基準試料S0,S2~S4につき以下の採点基準で各評価項目を採点し、全チーズ専門パネラーの評価値を平均したものを最終的な評価値とした。
【0036】
<ホットミルク感>
5点:ホットミルクの風味が強く感じられる
4点:ホットミルクの風味がやや強く感じられる
3点:ホットミルクの風味が感じられる
2点:ホットミルクの風味がやや弱く感じられる
1点:ホットミルクの風味が全く感じられない
【0037】
<フレッシュ感>
5点:フレッシュ感がかなり強く感じられる
4点:フレッシュ感がやや強く感じられる
3点:フレッシュ感が感じられる
2点:フレッシュ感がやや弱く感じられる
1点:フレッシュ感が全く感じられない
【0038】
<加熱臭>
5点:加熱臭がかなり強く感じられる
4点:加熱臭がやや強く感じられる
3点:加熱臭が感じられる
2点:加熱臭がやや弱く感じられる
1点:加熱臭が全く感じられない
【0039】
<雑味>
5点:雑味がかなり強く感じられる
4点:雑味がやや強く感じられる
3点:雑味が感じられる
2点:雑味がやや弱く感じられる
1点:雑味が全く感じられない
【0040】
<後味のスッキリ感>
5点:後味のスッキリ感がかなり強く感じられる
4点:後味のスッキリ感がやや強く感じられる
3点:後味のスッキリ感が感じられる
2点:後味のスッキリ感がやや弱く感じられる
1点:後味のスッキリ感が全く感じられない
【0041】
次に、本実施例で作製したパスタフィラータチーズ用チーズカードの冷凍保存開始から7日後および75日後にそのパスタフィラータチーズ用チーズカードを解凍して直ぐに上述のチーズ専門パネラーに上述の風味評価を行ってもらったところ、表4に示される結果が得られた。なお、この評価に際して、実施例1で作製したパスタフィラータチーズ用チーズカードの全評価項目は評価基準として3.00に固定された(表4参照)。
【0042】
(3)パスタフィラータチーズ用チーズカードの香気成分の定量分析
(3-1)試料の調製
本実施例で作製したパスタフィラータチーズ用チーズカードに対して、内部標準物質であるメチルイソブチルケトン(Methyl isobutyl ketone(MIBK))を200ppbとなるよう添加した後に、自転 /公転方式ミキサーを用いてその混合物を3000rpmで30秒間に2回もしくは3回、均質化した。そして、その均質化物1gを20mL容のバイアル瓶に採取し、そのバイアル瓶を密栓した。
【0043】
(3-2)検量線試料の調製
2-ブタノン、ペンタナールおよびヘキサナールを、メタノールを溶媒としてそれぞれ1000ppmのメタノール溶液とした。次に、これらのメタノール溶液を超純水で希釈した水溶液を調製した。次いで、本実施例で作製したパスタフィラータチーズ用チーズカード中の2-ブタノンの濃度がそれぞれ0ppb、125ppb、250ppb、500ppm、1000ppbとなるように2-ブタノンを同パスタフィラータチーズ用チーズカードに添加し、同パスタフィラータチーズ用チーズカード中のペンタナールおよびヘキサナールの濃度がそれぞれ0ppb、5ppb、10ppb、20ppm、40ppbとなるようにペンタナールおよびヘキサナールを同パスタフィラータチーズ用チーズカードに添加し、各種試料を得た。また、先の通りにして得られた各種試料に対して、内部標準物質であるメチルイソブチルケトン(Methyl isobutyl ketone(MIBK))を200ppbとなるよう添加した後に、自転 /公転方式ミキサーを用いてその混合物を3000rpmで30秒間に2回もしくは3回、均質化して検量線試料を調製した。そして、その検量線試料1gを20mL容のバイアル瓶に採取し、そのバイアル瓶を密栓した。
【0044】
(3-3)検量線の作成
GERSTEL社製オートサンプラーMPS-roboticを用いて、(3-2)の検量線試料それぞれから香気成分を捕集した。具体的には、上述のバイアル瓶をアジテーターで60℃に加温した状態で、気相部分にSUPELCO社製SPMEファイバー(DVB/CAR/PDMS50/30μm 2cm,57299-U)を挿入し、40分間かけてその気相部分から香気成分を捕集した。次に、このSPMEファイバーをガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)の前室に注入して、そのSPMEファイバーを300秒間加熱することにより、SPMEファイバーに捕集した香気成分を脱離させてその香気成分をカラムに流した。使用したGC/MSの詳細と測定条件を以下に示す。そして、検出された2-ブタノン、ペンタナールおよびヘキサナールについて、メチルイソブチルケトンを用いた内部標準法に従って検量線を作成した。
【0045】
・GC/MS:LECO GC×GC-TOFMS PEGASUS BT 4D
・カラム:GLサイエンス Inert cap wax (0.25mm×0.25μm×30M,1010-67142)
・注入口:250℃,Split 20:1(セプタムパージは3:1)
・キャリアガス:He(9.362psi)
・オーブンプログラム:40℃で5分間保持した後、15℃/分で昇温して250℃で10分間保持した(全時間29分)
・MS温度設定:AUX260℃,イオン源230℃
・scan:10scan/秒
・質量範囲:40-300
【0046】
(3-4)香気成分の分析
GERSTEL社製オートサンプラーMPS-roboticを用いて、(3-1)の試料から香気成分を捕集した。具体的な捕集手法や、カラムに香気成分を流す手法、ならびに、使用したGC/MSおよびその測定条件は、(3-3)に記載の通りである。そして、(3-3)で作製した検量線を用いて試料中の2-ブタノン、ペンタナールおよびヘキサナールの濃度を求めたところ、表5に示される結果が得られた。すなわち、試料中の2-ブタノンの濃度は423.6ppbであり、ペンタナールの濃度は33.61ppbであり、ヘキサナールの濃度は37.16ppbであった。
【実施例0047】
1.パスタフィラータチーズ用チーズカードの製造
pH調整した後の原料乳の昇温温度を33℃に代えた以外は実施例1に示される方法と同様の方法でパスタフィラータチーズ用チーズカードを得た。なお、実施例1に記載される通り、カッティング直前のカードの一部を採取してそのカードの針入硬度を測定したところ、その針入硬度は7.4gfであった。また、カッティング後にワイヤーカッターに付着したカードの質量は7.1gであり、その質量は、その後得られた全カードの質量の0.99%であった。得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの風味や外観は良好で、そのパスタフィラータチーズ用チーズカードの水分含量は52.7質量%であった。
【0048】
2.パスタフィラータチーズ用チーズカードの物性評価
(1)パスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価(その1)
実施例1に示される方法と同じ方法で上述のパスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価を行ったところ、本実施例で得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの7日冷凍保存後の乳由来の風味の評価点は4.2であり、7日冷凍保存後の酸化臭の評価点は1.4であり、7日冷凍保存後の加熱臭の評価点は1.4であった(表1参照)。また、同パスタフィラータチーズ用チーズカードの75日冷凍保存後の乳由来の風味の評価点は4.0であり、75日冷凍保存後の酸化臭の評価点は1.4であり、75日冷凍保存後の加熱臭の評価点は1.4であった(表1参照)。
【0049】
(2)パスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価(その2)
実施例1に示されるのと同様に、本実施例で作製したパスタフィラータチーズ用チーズカードの冷凍保存開始から7日後および75日後にそのパスタフィラータチーズ用チーズカードを解凍して直ぐに上述のチーズ専門パネラーに上述の風味評価を行ってもらったところ、表4に示される結果が得られた。すなわち、ホットミルク感は3.50であり、フレッシュ感は2.63であり、加熱臭は3.25であり、雑味は3.38であり、後味のスッキリ感は2.63であった。
【0050】
(3)パスタフィラータチーズ用チーズカードの香気成分の定量分析
実施例1に示されるのと同様にして本実施例に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード中の香気成分の定量分析を行ったところ、表5に示される結果がえられた。すなわち、同パスタフィラータチーズ用チーズカードの試料中の2-ブタノンの濃度は496.5ppbであり、ペンタナールの濃度は34.12ppbであり、ヘキサナールの濃度は35.30ppbであった。
【0051】
(比較例1)
1.パスタフィラータチーズ用チーズカードの製造
pH調整した後の原料乳の昇温温度を36℃に代えた以外は実施例1に示される方法と同様の方法でパスタフィラータチーズ用チーズカードを得た。得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの風味や外観は良好で、その充填カードの水分含量は51.1質量%であった。
【0052】
2.パスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価
実施例1に示される方法と同じ方法で上述のパスタフィラータチーズ用チーズカードの風味評価を行ったところ、本比較例で得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの7日冷凍保存後の乳由来の風味の評価点は3.4であり、7日冷凍保存後の酸化臭の評価点は3.2であり、7日冷凍保存後の加熱臭の評価点は3.2であった(表1参照)。また、同パスタフィラータチーズ用チーズカードの75日冷凍保存後の乳由来の風味の評価点は3.0であり、75日冷凍保存後の酸化臭の評価点は3.6であり、75日冷凍保存後の加熱臭の評価点は3.8であった(表1参照)。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
(まとめ)
実施例1および実施例2ならびに比較例1のいずれの例においても原料乳に10%クエン酸溶液が添加されてその原料乳のpHが5.8に調整されたが、殺菌後に原料乳が30℃および33℃に温調された実施例1および2では、殺菌後に原料乳が36℃に温調された比較例1に比べて、得られたパスタフィラータチーズ用チーズカードの乳由来の風味が強くなると共に、その酸化臭および加熱臭が低減されていた。
【0057】
2-ブタノン、ペンタナールおよびヘキサナールの濃度が高いと、パスタフィラータチーズ用チーズカードにおいて加熱臭や雑味が増して、フレッシュ感や後味のスッキリ感が損なわれてしまうが、実施例1および2に係るパスタフィラータチーズ用チーズカードは、そのようなことはなかった。表5に示される結果から、2-ブタノンの濃度は500ppb以下であることが好ましく、ペンタナールの濃度は35ppb以下であることが好ましく、ヘキサナールの濃度は40pb以下であることが好ましいと思料された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るパスタフィラータチーズ用チーズカード製造方法では、原料乳中の乳脂肪が変質することを極力抑えて、得られるパスタフィラータチーズ用チーズカードに酸化臭や加熱臭を生じさせにくくすることができ、延いては乳本来の風味を有するパスタフィラータチーズ用チーズカードを製造することができる。