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特開2024-146913感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜付きプラスチック基材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146913
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜付きプラスチック基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20241004BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20241004BHJP
   G03F 7/09 20060101ALI20241004BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20241004BHJP
   C08F 220/30 20060101ALI20241004BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20241004BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20241004BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
B32B27/30 Z
G03F7/004
G03F7/09 501
C08F220/56
C08F220/30
B32B27/16
B32B7/027
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057352
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023058294
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸岡 高広
(72)【発明者】
【氏名】横山 義之
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏之
【テーマコード(参考)】
2H225
4B029
4F100
4J100
【Fターム(参考)】
2H225AD12
2H225AE04P
2H225AF83P
2H225AM22P
2H225AM38P
2H225AM94P
2H225AM95P
2H225AN11P
2H225CA30
2H225CB06
2H225CB07
2H225CC01
2H225CC11
2H225CC12
2H225CD05
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029DF01
4B029DG08
4B029GA01
4B029GB09
4F100AH02B
4F100AK01A
4F100AK26B
4F100AK56B
4F100AL01B
4F100AL05B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100DC21B
4F100EH46
4F100EJ54
4F100JA05A
4F100JA07B
4F100JB14B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J100AL08Q
4J100AM19P
4J100BA11Q
4J100BC43Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA65
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA01
4J100JA37
(57)【要約】      (修正有)
【課題】パターンをフォトリソグラフィ法により製造することが可能なポリマーを用いた感光性樹脂組成物の光硬化膜付きプラスチック基材を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位を有するポリマー(A)を含み、置換されていてもよいアリールケトン(B)を含んでもよい組成物の光硬化物からなる膜(C)をプラスチック基材の表面に備える、膜付きプラスチック基材であって、該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれないとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有し、該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれるとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有してもよい、膜付きプラスチック基材を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の光硬化物からなる膜(C)をプラスチック基材の表面に備える、膜付きプラスチック基材であって、
該組成物は、下記式(1)で表される構造単位を有するポリマー(A)を含み、
該組成物は、置換されていてもよいアリールケトン(B)を含んでもよく、
該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれないとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有し、
該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれるとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有してもよい、膜付きプラスチック基材。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、
は、置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記アリールケトン(B)が、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、下記式(2)で表される化合物、式(2)で表される化合物のいずれかの環上炭素原子がヘテロ原子で置換されたアントロン類縁体、及びこれら化合物の誘導体からなる群から選択されるアリールケトンである、請求項1に記載の膜付きプラスチック基材。
【化2】
(式(2)中、 R乃至Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、ビニル基、アセトキシ基、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素原子数6~14のアリール基、アミノ基又はモノ-若しくはジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基を表し、
Xは-O-、-S-、>CH、>C=O又は>N-Rを表し、Rは水素原子、炭化水素基又はアシル基を表し、
n1は、0又は1を表し、n2乃至n5は、それぞれ独立して0、1、2又は3を表わし、n2+n3≦3、n4+n5≦4を満たす。)
【請求項3】
前記ポリマー(A)が、下記式(3)で表される構造単位を有するポリマーである、請求項1に記載の膜付きプラスチック基材。
【化3】
【化4】
(式(3)中、Arは、式(4)、式(5)又は式(6)で示す基を表し、
及びRは、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、
は、置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基を表し、
Lは、2価の連結基を表し、
x及びyはそれぞれx+y≦1、0<x<1、0<y<1を満たす任意の数である。
式(4)乃至式(6)中、*は、Lとの結合を表し、
乃至Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、ビニル基、アセトキシ基、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素原子数6~14のアリール基、アミノ基又はモノ-若しくはジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基を表し、
Xは-O-、-S-、>CH、>C=O又は>N-Rを表し、Rは水素原子、炭化水素基又はアシル基を表し、
n1は、0又は1を表し、n2乃至n5は、それぞれ独立して0、1、2又は3を表わし、n2+n3≦3、n4+n5≦4を満たす。)
【請求項4】
前記式(3)において、0.01≦y/x≦0.2を満たす、請求項3に記載の膜付きプラスチック基材。
【請求項5】
前記置換されていてもよいアリールケトン(B)が、分子量が500以下である、請求項1に記載の膜付きプラスチック基材。
【請求項6】
前記膜(C)が、パターニングされた膜である、請求項1に記載の膜付きプラスチック基材。
【請求項7】
前記プラスチック基材が、ガラス転移温度が105℃以下であるプラスチック基材である、請求項1又は請求項6に記載の膜付きプラスチック基材。
【請求項8】
前記組成物とアルコール系溶剤とを含む溶液を前記プラスチック基材の表面に塗布して塗布膜を形成する工程(1)と、該塗布膜に光を照射する工程(2)とを含む、膜付きプラスチック基材の製造方法。
【請求項9】
さらに光照射後に塗布膜を現像する工程(3)を含む、請求項8に記載の膜付きプラスチック基材の製造方法。
【請求項10】
前記工程(2)の光の波長が150nm以上、600nm以下である、請求項8又は請求項9に記載の膜付きプラスチック基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜付きプラスチック基材に関し、膜付きプラスチック基材及び膜付きプラスチック基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂組成物に含まれるポリマーとしては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)が知られている。PNIPAAmは、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)とラジカル開始剤により容易に重合することで得られる。PNIPAAmの水溶液は、温度変化によって相分離を起こし、31℃以下では水に溶解され、それ以上の温度では不溶化し析出する。このようなポリマーを含有する感光性樹脂組成物を用いて、フォトリソグラフィ法により形成したドットパターンを有するチップを製造する技術が知られている。基板等に対し処理するフォトリソグラフィ法の技術は、微細なパターン構造を製造することができる。このような微細なパターン構造は、微小な細胞等を取り扱う際に有用となる。
【0003】
特許文献1では、実施例で単量体N-イソプロピルアクリルアミドを含有する感光性樹脂組成物からフォトリソグラフィ法によるパターニングで製造されていることが記載されている。しかし、特許文献1では、80℃のオーブン中で、20時間、光照射後ベーク(peb)し、その実施例ではガラス基板上に細胞培養支持体が製造されている。
特許文献2では、細胞選択的培養能と分離能を発揮するコーティング材料について記載されている。しかし、特許文献2では、ガラス基板表面へのポリマー被覆を100℃に加熱したホットプレート上で1分間加熱されていることが記載されている。
非特許文献1では、N-イソプロピルアクリルアミド、メタクリル酸及び4-メタクリロイルベンゾフェノンのポリマーをプラズマ洗浄し、これをヘキサメチルジシラザン溶液でシラン化したガラス基板に表面吸着させ(スキーム1)、応答性ハイドロゲル薄膜を作成し、原子間力顕微鏡を用いて該ハイドロゲル薄膜の温度による構造及び接着の変化を調べる研究について記載されている。しかし、本研究では膜が硬化しておらず、ガラス基材のみに使用される技術である。
非特許文献2では、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とメタクロイルベンゾフェノンからなる共重合体の膜を製造し、膜の膨潤挙動を中性子反射法で評価し、温度変化により膜厚を測定することにより膜の膨潤挙動をモデル化することが可能かについて研究が記載されている。しかし、膜は石英又はシリコン基板上で製造され、膜の製造では90℃で10分間加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/068271号
【特許文献2】国際公開第2019/013148号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Langmuir 2010,26(10),7262-7269
【非特許文献2】Macromolecules 2008,41(3),919-924
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ポリマーを細胞培養に適用する場合、光照射後のベークを高温で行わなければならないことからプラスチックの基材ではなく、ガラスの基材が使用されていた。しかし、細胞培養にガラスの基材を使用する場合、基材上の硬化物層は薄膜となるため、ガラス基材のアルカリ溶出による影響が大きく、再現性が取りにくいという問題があった。また、プラスチックの基材ではなく、シリコンウェハー上に膜を作成しようとすると、膜が厚くならない、膜厚の再現性がないという問題があった。
また、現在の細胞培養では、耐衝撃性に優れ、安価、軽量等で使い勝手がいいことから、ガラス製品に変わりプラスチック製品が主流となっている。そこで、ポリマーを適用した細胞培養にも、ガラス製品及びシリコンウェハー製品ではなくプラスチック製の基材を使用することが望まれていた。
【0007】
一方、プラスチックは、耐熱性が低く、一部の有機溶媒に溶解する等の問題を有する。細胞培養にプラスチック基材を使用する場合、作製する膜等は室温又は高くても50℃以下で調製されること、膜となる組成物の溶媒はプラスチックを溶解しない有機溶媒を使用することが必要とされている。
しかし、従来技術ではN-イソプロピルアクリルアミドを含有する感光性樹脂組成物を硬化させるためには、光照射後ベークとして一定時間80℃以上の高温を保つ必要があった。したがって、プラスチックを溶解しない有機溶媒を選定するとともに、この有機溶媒に溶解する組成物であり、かつ光照射だけで硬化する組成物を選定・調製すること及び光照射の波長、照射量を決定し、製造方法を確立することが非常に困難であった。
本発明は上述のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、細胞培養を取り扱う分野において、温度応答性パターンをフォトリソグラフィ法により製造することが可能なポリマーを用いた感光性樹脂組成物を提供することにある。さらに本発明の目的は、プラスチックの基材を使用可能とするため、プラスチックを溶解しない溶媒を使用し、室温での処理が可能である感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、N-イソプロピルアクリルアミド及びアリールケトンを含む組成物に光照射することで硬化膜の調製が可能であり、高温のベークをすることなく室温での処理が可能な硬化膜を、フォトリソグラフィ法によるパターニングで製造し得ることを見出し、発明を完成させた。さらに、その際、プラスチックを溶解しない有機溶媒を組成物の溶剤として使用することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は以下に関する。
第1観点として、組成物の光硬化物からなる膜(C)をプラスチック基材の表面に備える、膜付きプラスチック基材であって、
該組成物は、下記式(1)で表される構造単位を有するポリマー(A)を含み、
該組成物は、置換されていてもよいアリールケトン(B)を含んでもよく、
該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれないとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有し、
該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれるとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有してもよい、膜付きプラスチック基材に関する。
【化1】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、
は、置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基を表す。)
第2観点として、前記アリールケトン(B)が、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、下記式(2)で表される化合物、式(2)で表される化合物のいずれかの環上炭素原子がヘテロ原子で置換されたアントロン類縁体、及びこれら化合物の誘導体からなる群から選択されるアリールケトンである、第1観点に記載の膜付きプラスチック基材に関する。
【化2】
(式(2)中、 R乃至Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、ビニル基、アセトキシ基、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素原子数6~14のアリール基、アミノ基又はモノ-若しくはジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基を表し、
Xは-O-、-S-、>CH、>C=O又は>N-Rを表し、Rは水素原子、炭化水素基又はアシル基を表し、
n1は、0又は1を表し、n2乃至n5は、それぞれ独立して0、1、2又は3を表わし、n2+n3≦3、n4+n5≦4を満たす。)
第3観点として、前記ポリマー(A)が、下記式(3)で表される構造単位を有するポリマーである、第1観点に記載の膜付きプラスチック基材に関する。
【化3】
【化4】
(式(3)中、Arは、式(4)、式(5)又は式(6)で示す基を表し、
及びRは、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、
は、置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基を表し、
Lは、2価の連結基を表し、
x及びyはそれぞれx+y≦1、0<x<1、0<y<1を満たす任意の数である。
式(4)乃至式(6)中、*は、Lとの結合を表し、
乃至Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、ビニル基、アセトキシ基、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素原子数6~14のアリール基、アミノ基又はモノ-若しくはジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基を表し、
Xは-O-、-S-、>CH、>C=O又は>N-Rを表し、Rは水素原子、炭化水素基又はアシル基を表し、
n1は、0又は1を表し、n2乃至n5は、それぞれ独立して0、1、2又は3を表わし、n2+n3≦3、n4+n5≦4を満たす。)
第4観点として、前記式(3)において、0.01≦y/x≦0.2を満たす、第3観点に記載の膜付きプラスチック基材に関する。
第5観点として、前記置換されていてもよいアリールケトン(B)が、分子量が500以下である、第1観点に記載の膜付きプラスチック基材に関する。
第6観点として、前記膜(C)が、パターニングされた膜である、第1観点に記載の膜付きプラスチック基材に関する。
第7観点として、前記プラスチック基材が、ガラス転移温度が105℃以下であるプラスチック基材である、第1観点又は第6観点に記載の膜付きプラスチック基材に関する。
第8観点として、前記組成物とアルコール系溶剤とを含む溶液を前記プラスチック基材の表面に塗布して塗布膜を形成する工程(1)と、該塗布膜に光を照射する工程(2)と
を含む、膜付きプラスチック基材の製造方法に関する。
第9観点として、さらに光照射後に塗布膜を現像する工程(3)を含む、第8観点に記載の膜付きプラスチック基材の製造方法に関する。
第10観点として、前記工程(2)の光の波長が150nm以上、600nm以下である、第8観点又は第9観点に記載の膜付きプラスチック基材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、感光性樹脂組成物を用いて、光照射後の高温ベークをすることなく、室温で、光硬化物からなる膜をプラスチック基材の表面に備える膜付きプラスチック基材を提供することが可能である。
本発明により、感光性樹脂組成物を用いて、ガラス転移温度が105℃以下のプラスチックの基材の表面に光硬化物からなる膜付きプラスチック基材を提供できる。
本発明によれば、アルコール系溶剤を用いることにより、プラスチックを溶解することなく光硬化物からなる膜付きプラスチック基材を製造できる。
本発明によれば、感光性樹脂組成物を用いることにより、光照射後のベークをすることなく簡便なフォトリソグラフィ法により光硬化物からなる膜付きプラスチック基材を製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた感光性樹脂組成物のポリスチレン膜上での感度挙動を示すグラフである。
図2図2は、実施例1、実施例2及び比較例1で得られた感光性樹脂組成物のシリコンウェハー上での感度挙動を示すグラフである。
図3図3は、実施例1で得られた感光性樹脂組成物を使用し、ポリスチレン膜上においてパターニングした際の電子顕微鏡写真である。
図4図4は、合成例1で得られた反応生成物の純水中の示差熱曲線である。
図5図5は、合成例2で得られた反応生成物の純水中の示差熱曲線である。
図6図6は、合成例1で得られた反応生成物のリン酸緩衝生理食塩水中の示差熱曲線である。
図7図7は、合成例2で得られた反応生成物のリン酸緩衝生理食塩水中の示差熱曲線である。
図8図8は、組成物2を用いて作成した光硬化膜の温度変化による膜厚の変化である。
図9図9a~dは膜厚5-10nmの組成物3の膜を培養後、37℃から22℃の台に置いた場合の経過時間0-10分の写真である(図9a:0分後の光学顕微鏡写真、図9b:5分後の光学顕微鏡写真、図9c:7分後の全体写真、図9d:10分後の全体写真)。
図10図10a・bは膜厚11-22nmの組成物3の膜を培養後、継続して37℃とした場合の写真である(図10a:光学顕微鏡写真、図10b:全体写真)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<感光性樹脂組成物>
本発明の感光性樹脂組成物(以下、組成物とも称する。)について示す。
該組成物は、上記式(1)で表される構造単位を有するポリマー(A)を含み、
該組成物は、置換されていてもよいアリールケトン(B)を含んでもよく、
該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれないとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有し、
該組成物中に該アリールケトン(B)が含まれるとき、該ポリマー(A)は該アリールケトン(B)の残基を有してもよいものである。
したがって、本発明の感光性樹脂組成物は、
「(組成物I)上記式(1)で表される構造単位(主鎖1)及びアリールケトン(B)の残基が結合している構造単位(主鎖2)をポリマー(A)中に含む、感光性樹脂組成物、(組成物II)上記式(1)で表される構造単位(主鎖1)及びアリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない構造単位(主鎖2)をポリマー(A)中に含み、さらに置換されていてもよいアリールケトン(B)を含む感光性樹脂組成物、
(組成物III)上記式(1)で表される構造単位(主鎖1)、アリールケトン(B)の残基が結合している構造単位(主鎖2)、アリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない構造単位(主鎖2)をポリマー(A)中に含み、さらに主鎖2に結合する置換されていてもよいアリールケトン(B)を含む感光性樹脂組成物」に分類される。ただし、上記(組成物I)~(組成物III)において、主鎖2は主鎖1の誘導基であってもよい。
【0013】
<ポリマー(A)>
ポリマー(A)は、上記式(1)で表される構造単位(主鎖1)、アリールケトン(B)の残基が結合している構造単位(主鎖2)、アリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない構造単位(主鎖2)を含むことができる。
主鎖1は、第1モノマー単位とも称し、上記式(1)で表される。
主鎖2は、第2モノマー単位とも称し、アリールケトン(B)の残基が結合している場合と、アリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない場合がある。
アリールケトン(B)の残基が結合している場合の具体例としは、上記式(3)の右側となる。
アリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない場合の具体例としは、下記式(7)となる。
【化5】
(式(7)中、Rは、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、
は、アリールケトン(B)と反応して結合する基を表す。)
【0014】
<アリールケトン(B)>
「アリールケトン(B)」とは、アリール基とカルボニル基を含む化合物である。
本発明のアリールケトンとして、ベンゾフェノン又は、その置換された誘導体(以下、「ベンゾフェノン化合物」とも称する)が、最低励起三重項の寿命が比較的長く光化学反応を起こしやすいという観点から好ましい。
ベンゾフェノン化合物としては、例えば、2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、2,2',3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2',4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2'3,4,4'-ペンタヒドロキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,3,3'4,4',5'-ヘキサヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4'-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,5-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,6-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-4'-ジエチルアミノベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシ-4'-ジメチルアミノベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ
-4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロキシ)プロポキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4'-ジメチルアミノベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-i-オクチルオキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-アセトキシエトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2'-カルボキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシジスルホベンゾフェノン二ナトリウム、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4',6-ジヒドロキシ-2-ナフトベンゾフェノン、4-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、N,N,N',N'-テトラメチル-4,4'-ジアミノベンゾフェノンなどを挙げることができる。置換されていてもよいビニルベンゾフェノンも挙げられる。
その他に、紫外線照射により水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造としては、ベンジル基、o-ベンゾイル安息香酸エステル基、チオキサントン基、3-ケトクマリン基、2 -エチルアントラキノン基及びカンファーキノン基等が挙げられる。これらの構造を有する化合物を使用してもよい。
前記ベンゾフェノン化合物の他、アリールケトンの好ましい具体例としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、上記式(2)で表される化合物、式(2)で表される化合物のいずれかの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアントロン類縁体、及びこれら化合物の誘導体からなる群から選択されるアリールケトンを挙げることができる。
【0015】
<置換されていてもよいアリールケトン(B)>
前記「置換されていてもよいアリールケトン(B)」が有し得る置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、モノ-又はジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数1~4のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、炭素原子数6~14のアリール基が挙げられる。
前記「ハロゲン原子」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
前記「モノ-又はジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基」としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、n-エチル-n-メチルアミノ基が挙げられる。
【0016】
前記「アルコキシ基」は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよい。「炭素原子数1~4のアルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基が挙げられる。
前記「炭素原子数1~4のアルコキシカルボニル基」は、前記「炭素原子数1~4のアルコキシ基」にカルボニル基-C(=O)-が結合した有機基である。
前記「炭素原子数6~14のアリール基」としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基が挙げられる。
【0017】
<式(2)で表される化合物のいずれかの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアントロン類縁体>
「アントロン類縁体」とは、アントロンの原子又は原子団が別のヘテロ原子と置換された組成を持つ別の化合物のことをいう。本発明の「アントロン類縁体」は、「式(2)で
表される化合物のいずれかの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアントロン類縁体」を云う。
ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、リン、塩素、ヨウ素、臭素などが挙げられる。
<これら化合物の誘導体>
前記「これら化合物」とは、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、上記式(2)で表される化合物、式(2)で表される化合物のいずれかの炭素原子がヘテロ原子で置換されたアントロン類縁体を表す。
そして、「これら化合物の誘導体」とは、前記「これら化合物」の原子又は原子団が他の置換基により置換されたことを示す。置換され得る置換基としては、前記<置換されていてもよいアリールケトン(B)>で示した置換基と同一である。
【0018】
<アリールケトン(B)の分子量>
前記「置換されていてもよいアリールケトン」は、分子量が500以上になる場合がある。しかし、組成物のハンドリングの良さ、膜の硬化しやすさを考慮し、分子量が500以下になることが好ましく、さらに400以下、300以下であることが好ましい。
【0019】
<アリールケトン(B)の残基>
アリールケトンの残基とは、カルボニル基[-C(=O)-]、エーテル基[-O-]、アルキレン基等に1つ又は2つのアリール基が直接結合した化合物(モノアリールケトン又はジアリールケトン)の基であり、このアリールケトンの残基は光反応性基として作用し、紫外線などの特定波長の光により活性化して架橋反応を起こすことができる。
本明細書において、ある化合物の「残基」とは、当該化合物を構成する炭素原子又はヘテロ原子(窒素、酸素、硫黄原子など)に結合している水素原子を、共有結合のための結合の手に置き換えた有機基を指すものとして用いる。
アリールケトンの残基は、主鎖を構成するものではなく、本発明の一態様であるポリマーの側鎖中、適切な連結基を介して、ポリマーの側鎖を構成する。
本明細書で「主鎖」という用語は、共有結合した原子の最も長い系列であり、それらが一体となって分子の連続鎖を形成しているものを云う。
本明細書で「側鎖」という用語は、主鎖に共有結合して側方にぶら下がっている化学基を広く包含し、いわゆるペンダント分子鎖と同義に用いている。
アリールケトンの残基としては、前記置換されていてもよいアリールケトン(B)で示した、置換されていてもよいアリールケトンの1価の基を挙げることができる。
これらアリールケトンの残基(1価の基)は、ポリマー中の結合する基(例えば、式(3)中のLに含まれる)との間で、-O-結合、エステル結合(-O-CO-又は―CO-O-)、アミド結合(―NH-CO-又はーCO-NH-)、ウレタン結合(―NH-CO-O-又はーO-CO-NH-)、炭酸エステル結合(-O-CO-O-)、尿素結合(―NH-CO-NH-)などの共有結合を形成することで、ポリマーの側鎖が構成される。
したがって、前記式(3)中の「L」は、前記結合する基又は前記結合する基に炭素原子数1~3のアルキレン基、炭素原子数1~3のアルケニレン基及びカルボニル基から選択される1種又は2種以上が結合した基となる。
また、前記式(4)中の「L」は、上記「L」に結合したアリールケトンの代わりに水素原子が結合した基となる。
前記「炭素原子数1~3のアルキレン基として、直鎖又は分岐鎖を有する2価の基が挙げられ、例えばメチレン基、エチレン基又はプロピレン基等が挙げられる。
前記「炭素原子数1~3のアルケニレン基として、二重結合を有し直鎖又は分岐鎖を有する2価の基が挙げられ、上記1~3のアルキレン基の1つ以上の炭素-炭素結合が、2重結合になっている基を云う。
【0020】
前記式(1)に示すRは、炭素原子数1~3のアルキル基等を含んでいる。
前記「炭素原子数1~3のアルキル基」として、直鎖又は分岐鎖を有するものが挙げられ、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0021】
式(1)に示すRは、置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基を表している。
前記「炭素原子数1~10のアルキル基」として、直鎖又は分岐鎖を有するものが挙げられ、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル基等が挙げられる。
【0022】
前記「置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基」が有し得る置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、モノ-又はジ-炭素原子数1~4のアルキルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数1~4のアルコキシカルボニル基、ホルミル基、炭素原子数6~14のアリール基が挙げられる。
【0023】
式(2)に示す「炭素原子数1~10のアルキル基」及び「炭素原子数6~14のアリール基」は、上述した記載と同一である。
式(2)に示す「炭素原子数1~10のアルコキシ基」は、前記「炭素原子数1~10のアルキル基」に-O-が結合した基を表す。
式(2)に示す「ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素原子数6~14のアリール基」は、前記「炭素原子数6~14のアリール基」のいずれかの水素に代わりヒドロキシ基が結合した基を表す。
式(2)に示す「炭化水素基」は、アルキル基、アルケニル基及びアリール基を示す。
式(2)に示す「アシル基」は、R11-C(=O)-を表し、「R11」は、水素原子、アルキル基、アルケニル基及びアリール基を示す。
【0024】
式(3)に示す「炭素原子数1~3のアルキル基」、「置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基」は式(1)で示した内容と同じである。また、以下に「炭素原子数1~3のアルキル基」、「置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基」又は、「置換されていてもよい」との記載がある場合、特に記載がない限り上述した内容と同じである。
式(4)~式(6)に示す、前記「R~R、X及びn1~n5」は式(2)と同一である。
【0025】
式(3)に示す、x及びyはそれぞれx+y≦1、0<x<1、0<y<1を満たす任意の数であり、x及びyはその構成単位のモル比率である。さらに、x及びyは、0.01≦y/x≦0.2を満たすことができ、好ましくは0.02≦y/x≦0.18を満たすこと、さらには0.03≦y/x≦0.15を満たすことが好ましい。
例えば、「0.03≦y/x≦0.15」が意味するところは、xのモル数に対し、y
のモル数は3モル%~15モル%であることを示している。これは、式(3)で表される、左側の構成単位に対し、右側の構成単位は3モル%~15モル%で足りることを示している。つまり、ポリマーとしては、式(3)の左側の構成単位が重要であるが、光による架橋を促進するためには、式(3)の右側の構成単位が必要となることを示している。本発明においては、露光量とこのx:yの比によって膜の厚み及び硬化度の調製ができるため、このx:yの比が重要な指標となる。
また、「x+y≦1」は「x+y=1」及び「x+y<1」となることがある。「x+y=1」となる場合は、式(3)で示される左右の構成単位のみで構成される。「x+y<1」となる場合は、式(3)の右側と左側で示されるポリマーの構成単位以外に、他のポリマーの構成単位を含むことを示している。
【0026】
<アルコール系溶剤>
本発明に用いる「アルコール系溶剤」は、置換されていてもよい炭素原子数2~10のアルコールである。
前記「炭素原子数が2~10のアルコール」は、直鎖状であってもよく、また分岐状であっても良い。具体的には、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、2-メチル-2-ペンタンール、4-メチル-2-ペンタノール、tert-ペンチルアルコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、tert-ブチルセロソルブ、シクロヘキサノール、4-tert-ブチルヘキサノール、α-テルピネオール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノーtert-ブチルエーテル、ジアセトンアルコールが挙げられる。
【0027】
前記「置換されていてもよい炭素原子数2~10のアルコール」が有し得る置換基とは、上述した「置換されていてもよい炭素原子数1~10のアルキル基」が有し得る置換基と同一である。特に、置換基がヒドロキシ基の場合、多価アルコールとなる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオールなどの2価の多価アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコールは、それぞれ単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
本発明におけるアルコール系溶剤の含有量は、膜厚をコントロールするため、及び良好なパターニング特性を得るために、感光性樹脂組成物の合計質量100質量部に対して、好ましくは50~99.5質量部、より好ましくは55~95質量部又は、60~90質量部、さらに好ましくは60~80質量部である。
【0028】
<架橋剤>
本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤としては、例えば、グリコールウリル化合物、メラミン化合物、ビスアジド化合物が挙げられる。
グリコールウリル化合物としては、例えば、1,3,4,6-テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(エトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(プロポキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6-テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリルが挙げられる。
メラミン化合物としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンが挙げられる。
架橋剤が使用される場合、その含有量は、良好なパターニング特性及び充分な温度応答性を得るために、通常、前記ポリマー(A)(樹脂成分)の合計質量100質量部に対して、50質量部以下、30質量部以下、さらには10質量部以下の割合で配合され得ることが好ましい。
【0029】
<その他添加剤>
本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、当該技術分野に慣用のその他添加剤を含んでいてもよい。その他添加剤としては、例えば、反射防止剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、増感剤、界面活性剤、レベリング剤及びシランカップリング剤等が挙げられる。
その他添加剤が使用される場合、通常、前記ポリマー(A)(樹脂成分)の合計質量100質量部に対して、その他添加剤の合計が30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、さらには5質量部以下の割合で配合され得ることが好ましい。
【0030】
<ポリマー(A)の合成>
(組成物I)の場合は、上記式(1)で表される構造単位を持つモノマー(例えば、N-イソプロピルアクリルアミド)の所定量とアリールケトン(B)の残基が結合している構造単位を持つモノマー(例えば、メタクリル酸4-ベンゾイルフェニル)の所定量、
(組成物II)の場合は、上記式(1)で表される構造単位を持つモノマー(例えば、N-イソプロピルアクリルアミド)の所定量とアリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない構造単位を持つモノマー(例えば、メタクリル酸)の所定量、
(組成物III)の場合は、上記式(1)で表される構造単位を持つモノマー(例えば、N-イソプロピルアクリルアミド)の所定量とアリールケトン(B)の残基が結合している構造単位を持つモノマー(例えば、メタクリル酸4-ベンゾイルフェニル)の所定量さらにアリールケトン(B)の残基が結合できるが結合していない構造単位を持つモノマー(例えば、メタクリル酸)の所定量
のいずれかをアルコール系溶剤に溶解させた後、例えば50~80℃以上まで昇温し、必要ならば架橋剤、その他添加剤を添加し、50~80℃で12時間以上反応させることによりポリマー(A)の溶液を得ることができる。
得られたポリマーの標準ポリスチレン換算した重量平均分子量(mw)は、低いと温度応答性の感度が低くなるため、好ましくは10,000以上、さらに20,000以上、30、000以上、40,000以上、50,000以上であることが好ましく、高いと溶解性や解像性が低下する可能性が高いため、好ましくは300,000以下、さらに200,000以下、150,000以下、100,000以下、90,000以下又は80,000以下であることが好ましい。本発明におけるmwの値は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。
【0031】
<ポリマー(A)の含有量>
ポリマーの含有量は、良好なパターニング特性を達成するため、アルコール系溶剤を除く感光性樹脂組成物の固形分の合計質量100質量部に対して、50~99質量部、60~98質量部、さらには、70~97質量部以下の割合で配合され得る。
【0032】
<プラスチック基材>
プラスチック基材の材料としては、例えば、樹脂(プラスチック)等が挙げられる。
樹脂は、天然樹脂、変性天然樹脂及び合成樹脂のいずれでもよい。天然樹脂としては、例えば、セルロース等が挙げられる。変性天然樹脂として、例えば、三酢酸セルロース、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等が挙げられる。合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポ
リアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。
【0033】
本発明で使用するプラスチック基材は、ガラス転移温度が105℃以下であるプラスチックを使用することができる。特に、「ガラス転移温度が105℃以下であるプラスチック」とは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。これらプラスチック群の中で好ましくは、ポリスチレンが挙げられる。
【0034】
<組成物の光硬化物からなる膜(C)及び膜付きプラスチック基材の製造方法>
本発明は、前記ポリマー(A)の感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜(C)、膜付きプラスチック基材、パターニングされた膜付きプラスチック基材及びその製造方法を提供する。前記ポリマー(A)の感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜(C)がパターニングされることにより、パターニングされた膜及び該膜付きプラスチック基材となる。膜(C)、膜付きプラスチック基材及びパターニングされた膜付きプラスチック基材は、例えば以下に記載するような方法で製造できる。
工程(1):前記組成物とアルコール系溶剤とを含む溶液を前記プラスチック基材の表面に塗布して膜を形成する工程
本発明のポリマー(A)を含む感光性樹脂組成物を前記アルコール系溶剤に溶かし、ポリマー(A)とアルコール系溶剤とを含む溶液とする。この溶液をスピンコート、スリットコート等の方法でプラスチック基材に塗布し、溶媒除去することによって膜を形成する。
工程(2):該膜に光を照射する工程
該にアライナーを用い一定波長の光を、所望のパターンを得るためにマスクを介して照射すると、光照射部分のみで、光硬化が生ずる。
工程(3):光照射後に膜を現像する工程
光照射後の膜を、現像液等で現像を行い、光を照射しない部分(塗布膜の未硬化部分)を除去する。これらの工程によりパターニングされた膜付きプラスチック基材を製造することができる。なお、パターニングの有無にかかわらず膜をプラスチック基材塗布した以降については、全て「膜付きプラスチック基材」と称する。したがって、パターニングされた膜付きプラスチック基材は、膜付きプラスチック基材に含まれる。
以上の製造方法により、前記ポリマー(A)の感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜、膜付きプラスチック基材、パターニングされた膜付きプラスチック基材を製造することができる。
【0035】
本発明における製造方法の「工程(2):該膜に光を照射する工程」において、露光量は、要求される膜厚及び硬化の割合に従い露光量を調整する。
照射する光は、好ましくは紫外線、600nm以下の可視光線、より好ましくは紫外線である。波長としては、150nm以上600nm以下が好ましく、より150nm以上500nm以下が好ましく、200nm以上380nm以下がさらに好ましい。露光量としては、好ましくは10~5,000mj/cm、より好ましくは50~3,000mj/cm、さらに好ましくは100~2,000mj/cmである。
本発明の上記製造方法により、所望の応答温度を有する温度応答性の膜として感光性樹脂組成物の光硬化物からなる膜及び該膜付きプラスチック基材、パターニングされた膜付きプラスチック基材を提供することができる。
また、本発明の該膜付きプラスチック基材及びパターニングされた膜付きプラスチック
基材の膜は、プラスチック基材の片面だけでなく、両面に膜があってもよい。
【0036】
<パターニングの形状>
パターニングされた膜に形成されるパターンの形状に特に制限は無く、基材の上側から観察した場合、例えば、四角状、丸状、線状、ラインアンドスペース等が挙げられる。上側から観察したパターンの大きさ及びパターン断面から観察したその厚さ(高さ)に特に制限は無い。パターンの一辺の大きさは、例えば0.1μm~1,000mm、パターンの厚さ(高さ)は、例えば5nm~1,000μmである。これらパターンの形状は、光照射時に、透過光の形状が異なる複数のマスクを用いることで制御可能である。
【0037】
<細胞培養支持体及びその製造方法>
本発明の細胞培養支持体は、ポリマーを含有する感光性樹脂組成物の光硬化膜からなる膜、又はさらにパターニングされた膜である。本発明は、該細胞培養支持体及びその製造方法も提供する。
本発明における細胞培養支持体の製造方法は、ポリマーを含有する感光性樹脂組成物を用いた前記<膜及び膜付きプラスチック基材の製造方法>と同じである。プラスチック基材上に塗布膜を形成し、該塗布膜に光を照射して硬化物からなる膜、又はさらにパターニングされた膜を形成する工程を含むことを特徴とする。感光性樹脂組成物は、酸発生剤を含有せず、光照射後の高温ベークは行わないことが好ましい。また、感光性樹脂組成物は、架橋剤又はその他添加剤を含有してもよい。
細胞培養支持体としての膜の厚さ(高さ)は、培養中には細胞を上記膜に付着させ、培養細胞の回収時には培養系の温度を変化させて培養細胞を膜から剥離させるために、好ましくは1~100nm、より好ましくは2~50nm、さらに好ましくは3~30nmである。上側から観察した膜の大きさに特に制限は無く、硬化物層の一辺の大きさは、例えば0.1~1,000mmである。
【0038】
<下限臨界点温度>
本発明における細胞培養支持体としての培養中には細胞を上記膜に付着させ、培養細胞の回収時には培養系の温度を変化させて培養細胞を膜から剥離させるために下限臨界点温度(Lower Critical Solution Temperature,LCST)を有する。下限臨界点温度は、溶液がある温度以上で2相に分離するときの温度である。すなわち,下限臨界共溶温度をもつ系では,それ以下の温度なら複数成分が組成にかかわらず1相で存在するとされている。
下限臨界点温度(LCST)の値は、ポリマー溶液をリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline)(シグマアルドリッチ社製)に2wt%の濃度で溶解させた。窒素雰囲下、該水溶液の温度を1℃/分で下げながら、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry、DSC)(SIIナノテクノロジー(株)製「DSC7020」)を用いて大気を対象として示差熱を測定し、測定曲線のピークトップを示す温度をポリマーの下限臨界点温度(LCST)として算出した。
本発明における細胞培養支持体は、温度応答性ポリマーの構成単位を変更することで、下限臨界点温度(LCST)が15℃以上45℃未満である細胞培養支持体を製造することができる。また、細胞培養支持体は、2種類以上の温度応答性が異なる構成単位を含有する温度応答性ポリマーを用いた感光性樹脂組成物であり、応答温度が2種以上のパターンを有していてもよい。本発明における細胞培養支持体は、前記いずれの細胞培養支持体も使用することができる。
【0039】
<細胞培養支持体の細胞の培養方法等>
本発明において、細胞培養支持体の細胞の培養方法及び条件に特に限定は無く、自体公知の方法によって細胞を培養することができる。
細胞の培養方法は、前記膜付きプラスチック基材を用い、膜である細胞培養支持体上に細胞を播種し、培養に適した温度、かつ細胞培養支持体が有する下限臨界点温度よりも高い温度で細胞をインキュベートすることで細胞を培養し、その後、硬化物層の温度をポリマーが有する下限臨界点温度よりも低い温度に調整することによって、細胞培養支持体から細胞を剥離し、細胞を回収することで行われる。
【0040】
本発明において、細胞に特に限定は無く、種々の細胞を培養することができる。細胞としては、例えば、体内の各組織及び臓器を構成する上皮細胞及び内皮細胞;収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞及び心筋細胞;神経系を構成するニューロン及びグリア細胞;繊維芽細胞;体内の代謝に関係する肝実質細胞、非肝実質細胞、及び脂肪細胞;種々の組織に存在する幹細胞、並びに骨髄細胞及びES細胞等が挙げられる。
本発明において、細胞を播種する方法又は細胞培養支持体から剥離させた培養細胞を回収する方法に特に限定は無く、自体公知の方法を用いることができる。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
<a.ポリマー及びモノマーの合成>
<合成例1>
N-イソプロピルアクリルアミド10gとメタクリル酸4-ベンゾイルフェニル0.73gを1-プロパノール25.3gに溶解させた後、70℃まで昇温させた。その後、反応液を70℃に保ちながらアゾビスイソブチロニトリル0.11gを添加し、70℃で24時間反応させN-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸4-ベンゾイルフェニルの共重合高分子化合物の溶液を得た。得られた共重合高分子化合物のGPC分析を行ったところ、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量は75600であった。
【化6】
【0043】
<合成例2>
N-イソプロピルアクリルアミド10gとメタクリル酸4-ベンゾイルフェニル0.24gを1-プロパノール24.1gに溶解させた後、70℃まで昇温させた。その後、反応液を70℃に保ちながらアゾビスイソブチロニトリル0.10gを添加し、70℃で24時間反応させN-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸4-ベンゾイルフェニルの共重合高分子化合物の溶液を得た。得られた共重合高分子化合物のGPC分析を行ったところ、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量は57700であった。
【化7】
<合成例3>
N-イソプロピルアクリルアミド25gとメタクリル酸4-ベンゾイルフェニル0.3gを1-プロパノール59.6gに溶解させた後、70℃まで昇温させた。その後、反応液を70℃に保ちながらアゾビスイソブチロニトリル0.25gを添加し、70℃で24時間反応させN-イソプロピルアクリルアミドとメタクリル酸4-ベンゾイルフェニルの共重合高分子化合物の溶液を得た。得られた共重合高分子化合物のGPC分析を行ったところ、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量は44200であった。
【化8】
【0044】
<比較合成例1>
N-イソプロピルアクリルアミド20gを1-プロパノール47.6gに溶解させた後、75℃まで昇温させた。その後、反応液を75℃に保ちながらアゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、75℃で24時間反応させN-イソプロピルアクリルアミド高分子化合物の溶液を得た。得られた共重合高分子化合物のGPC分析を行ったところ、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量は30800であった。
【化9】
【0045】
<比較合成例2>
N-イソプロピルアクリルアミド20g、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.13gを1-プロパノール101.5gに溶解させた後、80℃まで昇温させた。その後、反応液を80℃に保ちながらアゾビスイソブチロニトリル0.25gを添加し、80℃で24時間反応させN-イソプロピルアクリルアミドと2-ヒドロキシエチルアクリレートの共重合高分子化合物の溶液を得た。得られた共重合高分子化合物のGPC分析を行ったところ、標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量は23000であった。
【化10】
【0046】
<b.組成物の調製>
<組成物1~2>
合成例1~2で得た反応生成物1.0gを含む溶液3.3gに1-プロパノール16.7gを加えた後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して光硬化性樹脂組成物溶液を調製した。

<組成物3>
合成例3で得た反応生成物0.3gを含む溶液1.0gに1-プロパノール33.5gを加えた後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して光硬化性樹脂組成物溶液を調製した。

<組成物4>
合成例3で得た反応生成物0.6gを含む溶液2.0gに1-プロパノール41.9gを加えた後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して光硬化性樹脂組成物溶液を調製した。

【0047】
<比較組成物1>
比較合成例1で得た反応生成物1.0gを含む溶液3.3gに1-プロパノール16.7gを加えた後、孔径0.10μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して光硬化性樹脂組成物溶液を調製した。
【0048】
<比較組成物2>
比較合成例2で得た反応物生成物2gを含む溶液10gにα-(メチルスルホニルオキシイミノ)-4-メトキシベンジルシアニド(商品名:PAI-1001、みどり化学(株)製)0.1g、1,3,4,6-テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリル0.03g及び1-プロパノール0.52gを加え、孔径1.0μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して光硬化性樹脂組成物溶液を調製した。
【0049】
<c.プラスチック基材(ポリスチレン膜)の調整>
ポリスチレンシャーレ(IWAKI製35mm Non treated Dish)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させ、孔径1.0μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して3.5重量%のポリスチレン溶液を調製した。その溶液をスピナーにより、シリコンウェハー基板上に塗布した。ホットプレート上で180℃1分間焼成し、膜厚が100nmの塗布膜を形成した。
得られた膜は、1-プロパノールを1分暴露させた後、スピンドライ、100℃1分間焼成して膜厚を測定したところ100nmを示し、1-プロパノールに曝露耐性があった。
【0050】
<d.感度測定>
組成物1~2及び比較組成物1で調製した光硬化性樹脂組成物溶液をスピナーにより、シリコンウェハー及び cで作成したポリスチレン膜上に塗布した。ホットプレート上で
50℃1分間焼成し、膜厚が330nmの塗布膜を形成した。(組成物1~2による塗布膜を実施例1~2、比較組成物1による塗布膜を比較例1とした。)アライナーにより254nm光を露光量を変え照射した後1-プロパノールで現像後残膜厚を測定した。
実施例1及び2ではシリコンウェハー上では露光量毎に残膜厚が安定しなかったが、ポリスチレン膜上では安定でかつ残膜率が高い良好な感度挙動を示した。ベンゾフェノン構造を持たない比較例1では残膜を示さなかった。
比較組成物2ではポリスチレン基材上に塗布した。ホットプレート上で50℃1分間焼成し、アライナー(キヤノン製PLA-501)により365nm光を用いて露光量を変え照射した後、光照射後ベーク(PEB)し、1-プロパノールで現像することにより光硬化膜を形成するが、PEBでは100℃以上の温度が必要であり、ポリスチレンシャーレの耐熱温度を超えてしまうため、PEB時にポリスチレンシャーレの変形が見られた。
ポリスチレン膜上での感度挙動を図1に示す。
シリコンウェハー上での感度挙動を図2に示す。
【0051】
<e.パターニング試験>
合成例1の高分子溶液を孔径1.0μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過して光硬化性樹脂組成物溶液を調製した。調製した溶液をスピナーにより、 cで作成したポリスチレン膜上に塗布した。ホットプレート上で50℃1分間焼成し、膜厚が3.4μmの塗布膜を形成した。アライナーによりドットパターン(ドット/スペース=10μm/15μm)が描かれたマスクを介して、254nm光を1000mJ/cm2照射した。その後1-プロパノールで3分現像後、スピンドライし、電子顕微鏡でパターンを観察した。電子顕微鏡写真を図3に示す。結果、良好なパターニング性能を示した。
【0052】
<f.ポリスチレンシャーレの浸食試験>
ポリスチレンシャーレ(IWAKI製35mm Non treated Dish)に比較組成物2を入れ、コーティングを試みたがシャーレが溶解してしまった。プロピレングリコールモノメチルエーテルから1-プロパノールに変更した組成物1~2、比較組成例1ではシャーレを溶解させなかった。
【0053】
<g.反応生成物の下限臨界点温度の測定>
合成例1及び2で得られた反応生成物を、それぞれ純水に10重量%の濃度で溶解させた。窒素雰囲気下、該水溶液の温度を1℃/分で上げながら、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry,DSC)(SIIナノテクノロジー(株)「DSC7020」)を用いて示差熱測定を行い、得られた測定曲線のピークトップの温度を反応生成物の純水中の下限臨界点温度(LCST)として算出した。得らえた測定曲線を図4及び図5に示す。合成例1及び2で得られた反応生成物の純水中での下限臨界点温度(LCST)は、それぞれ23.8℃及び28.9℃であった。
また、純水をリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline,PBS)に変更したこと以外は、上記と同様にして測定を行い、合成例1及び2で得られた反応生成物のリン酸緩衝生理食塩水中の下限臨界点温度(LCST)を算出した。得らえた測定曲線を図6及び図7に示す。合成例1及び2で得られた反応生成物のリン酸緩衝生理食塩水中での下限臨界点温度(LCST)は、それぞれ21.6℃及び26.6℃であった。
【0054】
<h.光硬化膜の膨潤度測定>
組成物2で調整した光硬化性樹脂組成物溶液をスピナーにより、cで作成したポリスチレン膜上に塗布した。ホットプレート上で50℃1分間焼成し、膜厚が11μmの塗布膜を形成した。アライナーにより254nm光を3000mJ/cm2照射した後、1-プロパノールで3分間現像後、スピンドライした。次に、ダイヤモンドペンで基材に傷をつけ劈開し、その断面方向が下を向くように倒立顕微鏡(オリンパス(株),IX71)の
温調ステージにセットした。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を滴下し、断面部分がリン酸緩衝生理食塩水に浸っている状態で、基材温度を変化させ、膜厚の変化を観察した。その観察結果を図8に示す。光硬化膜を構成している合成例2で得られた反応生成物のリン酸緩衝生理食塩水中での下限臨界点温度(LCST)である26.6℃よりも高い36℃では、膜厚が11μmであったのに対し、下限臨界点温度(LCST)よりも低い18℃に降温すると、膨潤が起き膜厚は100μmへと増加した。膨潤度(膨潤時の膜厚/収縮時の膜厚)は909%であった。続けて、下限臨界点温度(LCST)よりも高い36℃へと再び昇温すると、収縮が起き膜厚は11μmに戻った。この膨潤と収縮は、可逆的に繰り返し行うことができた。
また、組成物2で調整した光硬化性樹脂組成物溶液を、組成物1で調整した光硬化性樹脂組成物溶液に変更したこと以外は、上記と同様にして観察を行い、組成物1を用いて作成した光硬化膜の膨潤度を求めた。光硬化膜を構成している合成例1で得られた反応生成物のリン酸緩衝生理食塩水中での下限臨界点温度(LCST)である21.6℃よりも高い36℃では、膜厚が11μmであったのに対し、下限臨界点温度(LCST)よりも低い18℃に降温すると、膨潤が起き膜厚は30μmへと増加した。膨潤度(膨潤時の膜厚/収縮時の膜厚)は272%であった。続けて、下限臨界点温度(LCST)よりも高い36℃へと再び昇温すると、収縮が起き膜厚は11μmに戻った。この膨潤と収縮は、可逆的に繰り返し行うことができた。
【0055】
<i.光硬化膜上における細胞剥離試験>
組成物3~4で調製した光硬化性樹脂組成物溶液をスピナーにより、ポリスチレン製35mmセルカルチャーシャーレ(Corning社,353001)塗布した。ホットプレート上で50℃1分間焼成し、膜厚が5-10nmまたは11-22nmの塗布膜を形成した。アライナーにより254nm光を1000mJ/cm2照射した後、1-プロパノールで1分間現像後、純水洗浄し50℃で乾燥させた。細胞はマウス由来線維芽細胞((株)ケー・エー・シー,EC99072801-F0、10T1/2細胞)を使用した。培地はBasal Medium Eagle(Thermo Fisher SCIENTIFIC社,21010-046)に10v/v% FETAL BOVINE SERUM((株)ニチレイバイオサイエンス,175012)と1v/v% Penicillin-Streptomycin-Glutamine(Thermo Fisher SCIENTIFIC社,10378-016)を加えて使用した。10T1/2細胞を1×10 cells/35mmシャーレとなるように播種し、37℃、5%CO条件下で24時間培養した。培養後、35mmシャーレを22℃の台に置き、0分から10分後の細胞の接着状態を光学顕微鏡および目視で確認した。[図9a~dは膜厚5-10nmの組成物3の膜を37℃から22℃の台に置いてからの経過時間0-10分の写真である。図9a・bはシャーレ左上側周辺部の光学顕微鏡写真であり、図9c・dはシャーレ全体写真である。図10a・bは膜厚11-22nmの組成物3の膜を37℃においたままの光学顕微鏡写真(図10a)とシャーレ全体写真(図10b)である。]その結果、図9のように膜厚5-10nmの場合は37℃において組成物3を塗布した35mmシャーレに10T1/2細胞が接着し、22℃にすることでシャーレ辺縁部から細胞の剥離が始まり、(図9b)10分後には完全に剥離する様子が見られた(図9d)。一方で膜厚11-22nmの場合は37℃においても10T1/2細胞が接着する様子は見られなかった(図10b)。
【符号の説明】
【0056】
1 リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
2 膜
3 基材


図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
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図10