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特開2024-147138溶融エレクトロライティング成形用エチレンビニルアルコール共重合体および当該共重合体からなる積層体、当該積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147138
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】溶融エレクトロライティング成形用エチレンビニルアルコール共重合体および当該共重合体からなる積層体、当該積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20241008BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20241008BHJP
   D01F 6/14 20060101ALI20241008BHJP
   D01F 6/34 20060101ALI20241008BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20241008BHJP
【FI】
C08F216/06
B32B27/28 102
B32B5/26
D01F6/14 D
D01F6/14 Z
D01F6/34
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059956
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】山末 奈央
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】徐 淮中
(72)【発明者】
【氏名】八木 伸一
【テーマコード(参考)】
4F100
4J100
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AK69A
4F100AK69B
4F100BA02
4F100BA11
4F100DG01A
4F100DG01B
4F100EJ42
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JA11A
4F100JA11B
4F100JK01
4F100JK08
4F100YY00A
4F100YY00B
4J100AA02P
4J100AA02Q
4J100AD02P
4J100AD02Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA23
4J100DA24
4J100DA25
4J100DA41
4J100DA42
4J100DA43
4J100EA05
4J100JA51
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB32
4L035DD13
4L047AA16
4L047AA18
4L047AB08
4L047CA01
4L047CB01
(57)【要約】
【課題】生体適合性に優れ、かつ、高い機械強度を有する積層体を得ることができる溶融エレクトロライティング(MEW)成形用材料を提供する。
【解決手段】220℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが60g/10分以上であるエチレンビニルアルコール共重合体は、MEW成形に適しており、当該共重合体を材料としてMEW装置により繊維を成形でき、また、その繊維を積層して積層体を成形することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
220℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが60g/10分以上である、溶融エレクトロライティング(MEW)成形用エチレンビニルアルコール共重合体。
【請求項2】
レオメータで測定した0.5Hz、240℃にて3時間加熱後の溶融粘度が、2000Pa・s以下である、請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体。
【請求項3】
240℃で9時間熱処理した後のせん断速度100~10000[1/s]の範囲での見かけ粘度が500Pa・s以下である請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体。
【請求項4】
降温結晶化温度(Tc)+10℃における半結晶化時間が4分以上である請求項1に記載のエチレンビニルアルコール共重合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体からなる繊維又はその繊維を積層した積層体。
【請求項6】
前記繊維の繊維径が0.1μm~500μmである、請求項5に記載の繊維又は積層体。
【請求項7】
前記積層体の積層数が、1~500層である、請求項5に記載の繊維又は積層体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエチレンビニルアルコール共重合体を用いて、MEW成形により繊維を成形し、その繊維を重ねて積層体を製造する方法。
【請求項9】
前記積層体を製造するときのテーブル温度が70℃以上である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記積層体を製造するときのシリンジ温度が230℃以上である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記積層体を製造するときのテーブル/ノズル間距離が2mm以下である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記積層体を製造するときのノズル径が0.6mm以下である、請求項8に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞足場材などの成形に好適に用いることができる、溶融エレクトロライティング成形用エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、当該共重合体からなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療においては細胞を接着させ増殖させる足場材が用いられ、この足場材としては、例えば、エレクトロスピニングにより細胞接着のための高い比表面積を持つ不織布を作製することが行われている。
近年では、エレクトロスピン技術の1つである溶融エレクトロライティングにより、繊維径1~50μmなどのマイクロスケールで規則的な構造を成形できる技術が確立されている。
【0003】
なお、溶融エレクトロライティング(Melt Electrowriting、略称:MEW)とは、電界紡糸とAM(Additive Manufacturing、積層造形法)技術を組み合わせた方法であり、溶融ポリマーのジェット噴射を制御し、これを急速に固化させて繊維とするものである。ミクロンサイズの繊維を安定して重ね、複雑な構造を直接描くことができ、他の積層造形技術の多くが抱える解像度の問題を克服できるといわれている。
【0004】
このようなMEWを用いて足場材を成形したものとして、例えば、特許文献1には、PCL(ポリカプロラクトン)などの熱可塑性樹脂を用いて特定の配列構造を有する細胞足場材が開示されている。
非特許文献1には、PLLA(ポリL乳酸)を用いた細胞足場材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2020/210877号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Huaizhong Xu etc., “Design and manufacturing of 3D high-precision micro-fibrous poly(L-lactic acid)scaffold using melt electrowriting technique for bone tissue engineering”, Materials & Design, Vol.210(2021), 110063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、MEW成形を用いて、PCLやPLLAなどの熱可塑性樹脂を用いて、細胞足場材などにするための積層体の成形が試みられてきた。
しかしながら、PCLやPLLAなどを用いてMEW成形で製作された積層体は、PCLやPLLAなどの造形時における加熱により熱分解して分子量が下がり、機械強度が低下するなどの問題が発生してしまうものであった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解消するため、生体適合性に優れ、かつ、高い機械強度を有する積層体を得ることができるMEW成形用材料およびそれを用いた積層体、当該積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]から[12]を要旨とする。
【0010】
[1] 220℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが60g/10分以上である、溶融エレクトロライティング(MEW)成形用エチレンビニルアルコール共重合体。
【0011】
[2] レオメータで測定した0.5Hz、240℃にて3時間加熱後の溶融粘度が、2000Pa・s以下である、[1]に記載のエチレンビニルアルコール共重合体。
【0012】
[3] 240℃で9時間熱処理した後のせん断速度100~10000[1/s]の範囲での見かけ粘度が500Pa・s以下である[1]又は[2]に記載のエチレンビニルアルコール共重合体。
【0013】
[4] 降温結晶化温度(Tc)+10℃における半結晶化時間が4分以上である[1]から[3]のいずれかに記載のエチレンビニルアルコール共重合体。
【0014】
[5] [1]から[4]のいずれかに記載のエチレンビニルアルコール共重合体からなる繊維又はその繊維を積層した積層体。
【0015】
[6] 前記繊維の繊維径が0.1μm~500μmである、[5]に記載の繊維又は積層体。
【0016】
[7] 前記積層体の積層数が、1~500層である、[5]又は[6]に記載の繊維又は積層体。
【0017】
[8] [1]から[4]のいずれかに記載のエチレンビニルアルコール共重合体を用いて、MEW成形により繊維を成形し、その繊維を重ねて積層体を製造する方法。
【0018】
[9] 前記積層体を製造するときのテーブル温度が70℃以上である、[8]に記載の積層体の製造方法。
【0019】
[10] 前記積層体を製造するときのシリンジ温度が230℃以上である、[8]又は[9]に記載の積層体の製造方法。
[11] 前記積層体を製造するときのテーブル/ノズル間距離が2mm以下である、[8]から[10]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【0020】
[12] 前記積層体を製造するときのノズル径が0.6mm以下である、[8]から[11]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、特定の物性を有したエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)を用いてMEW成形することにより、生体適合性に優れ、かつ高い機械強度を有する積層体を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の積層体の製造方法の一例において、MEW成形を説明するための図である。
図2】本発明の積層体の製造方法の一例において、MEW装置を説明するための図である。
図3】本発明の積層体の第一の構造例を示す顕微鏡写真である。
図4】本発明の積層体の第二の構造例を示す顕微鏡写真である。
図5】本発明の積層体の第三の構造例を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、一実施形態に基づいて説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(本EVOH)
本発明の一実施形態の溶融エレクトロライティング(以下、MEWともいう。)成形用エチレンビニルアルコール共重合体(以下、本EVOHともいう。)は、220℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)が60g/10分以上であることを特徴とする。
【0025】
本EVOHは、MEW成形に適したものである。
MEW成形とは、例えば、ノズルを有するシリンジ内でポリマーを加熱して溶融させ、そのポリマーに電圧をかけて荷電させ、窒素などの加圧によりシリンジ内の溶融ポリマーをノズルから連続的に押し出して、ミクロンサイズの繊維をテーブル上に形成することができるものであり、ノズル又はテーブルの移動やテーブルとノズルとの間の電圧を制御することにより、任意形状の立体物を造形することができるものである。従来の溶液エレクトロスピニングは、ポリマーを溶媒に溶かすものであるのに対し、MEWは、ポリマーを溶融させる点で異なる。
MEWの詳細については、Huaizhong Xuらの論文、“Design and manufacturing of 3D high-precision micro-fibrous poly(L-lactic acid)scaffold using melt electrowriting technique for bone tissue engineering”, Materials & Design, Vol.210(2021), 110063、特に「2.1.2.Melt electorowritten device」を参酌することができる。
【0026】
MEW成形は、例えば、図1に示すように、ノズル3を有するシリンジ2、テーブル4などを備えたMEW装置1を用いて行うことができる。シリンジ2内に材料を投入して60~300℃に加熱して溶融させ、その溶融した材料に1~5kVの電圧をかけて荷電(図1ではプラス(+)に荷電)させ、上方から窒素などの空気を充填してシリンジ2内を0.02~0.20MPaに加圧し、シリンジ2内の溶融した材料をノズル3から連続的に押し出してテーブル4上で冷却固化させ、糸状の繊維を形成することができる。なお、テーブル4は図1ではマイナス(-)に荷電してある。テーブル4は予め設定したパターンに沿って水平面上を移動可能としてあり、押し出された材料をテーブル4上の望む位置に配列することができ、テーブル4を同じまたは異なる経路で繰り返し移動させることにより、繊維が層状に重ねられ、予め設定した三次元構造の積層体を成形することができる。
【0027】
MEW装置の一具体例について説明すると、図2に示すように、ノズル3やシリンジ2を備えたMEW針と、テーブル4とを備える。シリンジ2は、ステンレスなどからなり、内部に材料を投入できるものである。シリンジ2は、ヒータで加熱可能で内部の材料を溶融することができ、また、シリンジ2内に窒素(N)を注入して加圧し、シリンジ2から溶融材料を連続的に押し出すことができる。シリンジ2に窒素を注入し、0.02~0.20MPaの範囲で加圧させるのが好ましい。
ノズル3とテーブル4とには、それぞれ正と負の電源、あるいは正負いずれかの電源と接地の組み合わせで接続され、電圧1~5kVで印加するのが好ましい。また、シリンジ2は高電圧を絶縁するためにセラミックカバーで覆い、ノズル3は先端の熱損失を防ぐために銅板などで覆うのが好ましい。
テーブルは移動可能であり、移動速度は最大250mm/s、移動精度は0.1μm~10μmであるのが好ましい。また、テーブルはヒータで加熱可能としてある。
【0028】
本EVOHは、220℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)が60g/10分以上である。
メルトインデックスが、この範囲であることで、MEW成形時の流動性の観点から好適に用いることができ、機械強度の高い三次元構造物を作製することができる。
このような観点から、メルトインデックスは、62g/10分以上が好ましく、64g/10分以上がより好ましく、68g/10分以上がさらに好ましい。上限は、特に限定するものではないが、樹脂の分子量が低すぎることによる積層体の機械強度低下を避ける観点から、150g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましい。
なお、メルトインデックスは、例えば、JIS K7210(2014)に準じて測定することができる。
【0029】
本EVOHは、下記式1で表される、ビニルアルコールとエチレンとの共重合体であり、エチレンの含有率が30mol%~43mol%であるのが好ましく、35mol%~40mol%であるのがより好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
本EVOHは、レオメータで測定した0.5Hz、240℃にて3時間加熱後の溶融粘度が、2000Pa・s以下であるのが好ましい。
この範囲であると、MEW成形時に材料をノズルから効率的に吐出することが可能となる点で好ましい。
このような観点から、1000Pa・s以下がより好ましく、300Pa・s以下がさらに好ましい。下限は、特に限定するものではないが、10Pa・s以上が好ましく、100Pa・s以上がより好ましい。
なお、溶融粘度は、例えば、市販のレオメータを用い、JIS K7244-10(2005)に準じて測定することができる。
【0032】
本EVOHは、240℃で9時間熱処理した後のせん断速度100~10000[1/s]の範囲での見かけ粘度が500Pa・s以下であるのが好ましい。
この範囲であると、MEW成形時に材料をノズルから効率的に吐出できる点で好ましい。
このような観点から、200Pa・s以下がより好ましく、160Pa・s以下がさらに好ましい。下限は、特に限定するものではないが、10Pa・s以上が好ましく、40Pa・s以上がより好ましい。
なお、「240℃で9時間熱処理」とは、厚さ0.5mmのシート状に加工した材料を、厚さ25μmのポリイミドフィルムで挟み込み、さらに厚さ1mmのステンレス板で挟み込んだ状態で、240℃に加熱したオーブン中で9時間加熱処理を施すことを意味する。見かけ粘度は、例えば、JIS K7117-1(1999)に準じて測定することができ、測定温度は240℃とした。
【0033】
本EVOHは、降温結晶化温度(Tc)+10℃における半結晶化時間が4分以上であるのが好ましい。
この範囲であると、MEW成形時の繊維形成が良好となる点で好ましい。
このような観点から、6分以上がより好ましく、8分以上がさらに好ましい。上限は、特に限定するものではないが、20分以下が好ましい。
なお、半結晶化時間は、例えば、示差走査熱量測定において等温条件で一定時間保持した際に現れる結晶化ピークに基づき算出することができる。
【0034】
本EVOHには、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、香料、難燃剤、生分解促進剤、エステル交換促進剤、エステル交換阻害剤などの添加剤や、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ガラスバルーン、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、石膏、焼成カオリン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ワラストナイト、シリカ、タルク、金属粉、アルミナ、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスファイバー、石膏ウィスカー、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどの無機充填剤などを挙げることができる。
その他の成分を含む場合は、本EVOH中に、30質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0035】
(本積層体)
MEW成形により本EVOHを用いて糸状の繊維又はその繊維を積層した積層体(以下、本積層体ともいう。)にすることができる。
本積層体は、三次元構造にすることができ、例えば、平面視において正方形又は長方形の空間が規則的に配列された格子状構造(図3参照)、平面視において菱形の空間が規則的に配列された斜格子状構造、平面視において六角形を規則的に配列したハニカム状構造(図4参照)、平面視における縦横の各列を正弦曲線状にして縦横等間隔で配した構造(図5参照)などにすることができる。これら空間における繰り返し構造単位の1辺の長さは、特に限定するものではないが、20μm~1000μmが好ましく、100μm~500μmがより好ましい。
【0036】
上記繊維は、繊維径が0.1μm~500μmであるのが好ましい。
この範囲であると、強度と比表面積増大による効果発現可能性の両立の点で好ましい。
このような観点から、1μm~100μmがより好ましく、5μm~30μmがさらに好ましい。
なお、繊維径は、例えば、電子顕微鏡観察で測定することができ、また、MEW装置のノズル径や電圧により調整できる。
【0037】
本積層体は、上記繊維を上側に重ねて1~500層の積層構成にするのが好ましい。
この範囲であると、積層体の設計自由度の点で好ましい。
このような観点から、2~100層がより好ましく、5~50層がさらに好ましい。
なお、本発明における積層体とは、上記繊維を規則的に層状に積み上げたものであり、不織布など不規則な配列は含まないものである。
【0038】
本積層体は、引張強度が8cN/dtex以上であるのが好ましい。
この範囲であると、積層体の機械強度が良好となり、様々な用途への活用可能性の点で好ましい。
このような観点から、10cN/dtex以上がより好ましく、12cN/dtex以上がさらに好ましい。上限は特に限定するものではないが30cN/dtex以下が好ましい。
なお、積層体の引張強度は、例えば、下記実施例で示した方法で測定することができ、また、本EVOHを用いてMEW成形で適宜の積層数にすることにより上記範囲に調整できる。
【0039】
本積層体は、破断伸びが10%以上であるのが好ましい。
この範囲であると、積層体の機械強度が良好となり、様々な用途への活用可能性の点で好ましい。
このような観点から、50%以上がより好ましく、100%以上がさらに好ましい。上限は特に限定するものではないが500%以下が好ましい。
なお、積層体の破断伸びは、例えば、下記実施例で示した方法で測定することができ、また、本EVOHを用いてMEW成形で適宜の積層数にすることにより上記範囲に調整できる。
【0040】
本積層体は、繊維1本あたりの引張強度が50MPa以上であるのが好ましい。
この範囲であると、積層体としての機械強度が保たれる点で好ましい。
このような観点から、55MPa以上がより好ましく、60MPa以上がさらに好ましい。上限は特に限定するものではないが100MPa以下が好ましい。
なお、積層体の繊維1本あたりの引張強度は、例えば、下記実施例で示した方法で測定することができ、また、本EVOHを用いてMEW成形することにより上記範囲に調整できる。
【0041】
本積層体は、繊維1本あたりの破断伸びが10%以上であるのが好ましい。
この範囲であると、積層体としての機械強度が保たれる点で好ましい。
このような観点から、50%以上がより好ましく、100%以上がさらに好ましい。上限は特に限定するものではないが500%以下が好ましい。
なお、積層体の繊維1本あたりの破断伸びは、例えば、下記実施例で示した方法で測定することができ、また、本EVOHを用いてMEW成形することにより上記範囲に調整できる。
【0042】
(製造方法)
本EVOHは、例えば、エチレンとビニルアルコールを共重合して製造することができる。
本EVOHのメルトインデックスは、例えば、共重合比率や分子量を調整することにより適宜範囲にすることができる。
また、溶融粘度は、例えば、共重合比率や分子量を調整することにより適宜範囲に調整することができ、見かけ粘度は、例えば、共重合比率や分子量を調整することにより適宜範囲に調整することができ、半結晶化時間は、例えば、立体規則性、共重合比率、分子量を調整することにより適宜範囲に調整することができる。
【0043】
本積層体は、本EVOHを用い、MEW成形により、糸状、紐状または細長状に繊維を成形し、その繊維を積層して製造することができる。
【0044】
本積層体を製造するときのテーブル温度は、70℃以上であるのが好ましい。
この範囲であると、積層体のテーブルへの接着性の点で好ましい。
このような観点から、100℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましい。上限は特に限定するものではないが、樹脂の熱劣化を防ぐ点で、150℃以下が好ましい。
【0045】
本積層体を製造するときのシリンジ温度が230℃以上であるのが好ましい。
この範囲であると、本EVOHをシリンジ中で効率的に融解することができる点で好ましい。
このような観点から、235℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。上限は特に限定するものではないが、樹脂の熱分解による分子量低下を防ぐ点で、300℃以下が好ましい。
【0046】
本積層体を製造するときのノズル径が0.6mm以下であるのが好ましい。
この範囲であると、繊維形成の安定性の点で好ましい。
このような観点から、0.4mm以下がより好ましく、0.2mm以下がさらに好ましい。下限は特に限定するものではないが、ノズルの詰まりを避ける点で、0.05mm以上が好ましい。
【0047】
本積層体を製造するときのテーブル上面からノズル先端までの距離(以下、テーブル/ノズル間距離ともいう。)が2mm以下であるのが好ましい。
この範囲であると、MEW成形時の積層安定性の点で好ましい。
このような観点から、1.8mm以下がより好ましく、1.75mm以下がさらに好ましい。下限は特に限定するものではないが、テーブル/ノズル間が近すぎることによる導通を避ける点で、0.5mm以上が好ましい。
【0048】
(用途)
本積層体は、図3~5に示すような格子様の三次元構造とし、細胞足場材などとして用いることができる。その他にも、例えば、ウェアラブルデバイス部材などとして用いることもできる。
【0049】
本EVOHは、MEW成形に好適に用いることができ、任意のミクロンサイズの三次元構造に成形することができる。
本EVOHを用いてMEW成形により糸状の繊維とすることができ、この繊維を積層して形成した積層体は、高い機械強度を有し、生体適合性をも有することから細胞足場材などとして好適に用いることができる。
【0050】
<語句の説明>
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0051】
以下、本発明の一実施例を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下に示す材料を用い、下記に示す実施例1~4及び比較例1~2を成形した。
【0053】
<材料>
MEW成形用材料として、以下の物性値を有する材料を用いた。
(1)EVOH1
メルトインデックス(MI) :71g/10分(220℃、2.16kg)
ガラス転移温度(Tg) :59℃
融解温度(Tm) :175℃
降温結晶化温度(Tc) :150℃
Tc+10℃での半結晶化時間:10分
エチレン含有率 :38mol%
3時間加熱後の溶融粘度 :210Pa・s(0.5Hz、240℃)
9時間熱処理後のせん断速度100~10000[1/s]の範囲における見かけ粘度:150Pa・s(240℃)
【0054】
(2)EVOH2
メルトインデックス(MI) :18g/10分(220℃、2.16kg)
ガラス転移温度(Tg) :57℃
融解温度(Tm) :165℃
降温結晶化温度(Tc) :140℃
Tc+10℃での半結晶化時間:データなし
エチレン含有率 :44mol%
3時間加熱後の溶融粘度 :2100Pa・s(0.5Hz、240℃)
9時間熱処理後のせん断速度100~10000[1/s]の範囲における見かけ粘度:データなし
【0055】
(3)PLA
メルトインデックス(MI) :11g/10分(170℃、2.16kg)
ガラス転移温度(Tg) :64℃
融解温度(Tm) :174℃
降温結晶化温度(Tc) :94℃
Tc+10℃での半結晶化時間:5分
3時間加熱後の溶融粘度 :測定限界以下
9時間熱処理後のせん断速度100~10000[1/s]の範囲における見かけ粘度:データなし
【0056】
(MEW装置および積層体の製作)
MEW装置として、図2に示すものを用いた。詳しくは、段落[0024]で示したHuaizhong Xuらの論文、特に「2.1.2.Melt electorowritten device」を参酌することができる。なお、窒素圧力は0.1MPa、ノズルとテーブル間の電圧は2.1kVに設定した。
また、積層体は、各格子の1辺が230μmとなる格子状に成形した。また、積層体の積層数は下記表1に示すとおりに設定した。積層体の成形方法は、詳しくは、前記論文、特に「2.1.3 Scaffold design and fabrication」を参酌することができる。
【0057】
(実施例1~4)
材料として上記EVOH1を用い、MEW装置において、以下の表1に示す、「テーブル温度」、「シリンジ温度」、「テーブル/ノズル間距離」、「ノズル径」に設定し、実施例1~4の積層体を成形した。なお、表1中のノズル径はG(ゲージ)で表しているが、それぞれの内径は23G≒0.35mm,27G≒0.22mm、30G≒0.12mmである。なお、実施例3,4は糸状の繊維は成形できたが積層体は成形できなかったため積層体に関するデータはない。
【0058】
(比較例1)
材料として上記EVOH2を用い、MEW装置において、以下の表1に示す、「テーブル温度」、「シリンジ温度」、「テーブル/ノズル間距離」、「ノズル径」に設定し、比較例1の積層体を成形した。なお、比較例1は表1に示されるとおり材料がノズルから吐出できず成形不可であった。
【0059】
材料として上記PLAを用い、MEW装置において、以下の表1に示す、「テーブル温度」、「シリンジ温度」、「テーブル/ノズル間距離」、「ノズル径」に設定し、比較例2の積層体を作製した。
【0060】
【表1】
【表2】
【0061】
(積層体の特性)
実施例1~4および比較例1~2の各積層体の繊維径を測定したところ、上記表1に示すとおりであった。なお、積層体の繊維径は電子顕微鏡観察で測定することができる。
【0062】
(積層体の製造方法の評価)
MEW装置で実施例1~4および比較例1~2の各積層体を成形するにあたり、以下の評価を行った。
【0063】
(吐出・引き延ばし性評価)
MEW装置のノズルから材料が問題なく吐出され、引き延ばされ、糸状に成形されているかを目視にて確認した。
目詰まりなく吐出され、繊維が連続して引き伸ばされている場合を「可」、目詰まりを起こす、或いは、繊維が不連続に引き延ばされている場合を「不可」と判断した。
【0064】
(テーブル接着性)
MEW装置のテーブルに積層体の最下層が接着されているかを目視にて観察し、以下の基準で評価した。
A:積層体最下層のすべての領域において接着されている
B:一部の領域においてテーブルから剥離している
C:すべての領域においてテーブルから剥離している
【0065】
(積層体の評価)
実施例1~4および比較例1~2の各積層体を用い、以下の評価をした。
【0066】
(積層体の状態)
実施例1~4および比較例1~2の各積層体を用い、以下の基準で評価した。
A:設定したパターンの通りに積層体が成形されている
B:設定したパターンからやや傾いて積層体が成形されているが実用上問題ない
C:設定したパターンの通りに積層体の成形ができない、但し、材料を引き延ばして糸状の繊維は成形できる
【0067】
(機械強度)
実施例1~4および比較例1~2の各積層体の引張強度及び破断伸びを測定し、以下の基準で評価した。その結果を上記表2に示す。なお、実施例1および比較例2以外は測定不能であった。
なお、積層体の引張強度および破断伸びは引張圧縮試験装置(オリエンテック社製)を用い、10mm/minの引張速度条件で測定した。
○:引張強度8cN/dtex以上、かつ、破断伸び10%以上
×:引張強度8cN/dtex未満、または、破断伸び10%未満
【0068】
また、実施例1~4および比較例1~2の各積層体の繊維1本あたりの引張強度及び破断伸びを測定し、以下の基準で評価した。なお、その結果を上記表2に示す。なお、実施例1および比較例2以外は測定不能であった。
なお、積層体の繊維1本あたりの引張強度および破断伸びは引張圧縮試験装置(オリエンテック社製)を用い、10mm/minの引張速度条件で測定した。
○:引張強度50MPa以上、かつ、破断伸び10%以上
×:引張強度50MPa未満、または、破断伸び10%未満
【0069】
<結果>
実施例1は、積層体を成形することができ、表2に示されるとおり機械強度もよいものであった。
実施例2は、積層体の状態が実施例1に比べて劣るが実用上問題ないレベルである。
実施例3,4は、積層体を成形できないが、糸状の繊維を成形することはできた。
比較例1は、材料を引き延ばせず、糸状の繊維をも成形することができなかった。
比較例2は、積層体を成形することができるが、表2に示されるとおり機械強度が劣るものであった。
【0070】
これら結果から、220℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが60g/10分以上であるエチレンビニルアルコール共重合体は、少なくとも糸状の繊維を成形することはでき、MEW成形用に適したものであることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1 MEW装置
2 シリンジ
3 ノズル
4 テーブル
図1
図2
図3
図4
図5