(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147181
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】発汗分析装置および方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A61B5/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060035
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優生
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆子
(72)【発明者】
【氏名】高河原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 涼葉
(72)【発明者】
【氏名】天野 達郎
【テーマコード(参考)】
4C117
【Fターム(参考)】
4C117XC11
4C117XC26
4C117XD05
4C117XE03
4C117XE06
4C117XE20
4C117XE27
4C117XE30
4C117XJ13
(57)【要約】
【課題】着用者の汗に関する物理量の計測に際し、皮膚の圧迫による発汗抑制の影響を避けた計測を実現する。
【解決手段】発汗分析装置は、着用者の皮膚と接触するように配置され、着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を出力するセンサ1と、センサ1による着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を出力するセンサ2と、センサ2から出力された電気信号に基づいて、着用者の皮膚の圧迫状態が正常かどうかを判定し、センサ1から出力された電気信号に基づいて、着用者の汗に関する物理量を算出するMCU部6とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の皮膚と接触するように配置され、前記着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を出力するように構成された第1のセンサと、
前記第1のセンサによる前記着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を出力するように構成された第2のセンサと、
前記第1のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の汗に関する物理量を算出するように構成された物理量算出部と、
前記第2のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の皮膚の圧迫状態が正常かどうかを判定するように構成された圧迫状態判定部とを備えることを特徴とする発汗分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の発汗分析装置において、
前記圧迫状態判定部は、前記第2のセンサから出力された電気信号が示す物理量の値があらかじめ設定された上下限値の範囲内の場合に前記圧迫状態が正常と判定し、前記第2のセンサから出力された電気信号が示す物理量の値が前記上下限値の範囲外の場合に前記圧迫状態が異常と判定することを特徴とする発汗分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の発汗分析装置において、
前記第1のセンサは、前記圧迫状態が異常と判定されたときに電気信号の出力を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常と判定されたときに電気信号の出力を再開し、
前記物理量算出部は、前記圧迫状態が異常と判定されたときに物理量の算出処理を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常と判定されたときに物理量の算出処理を再開することを特徴とする発汗分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の発汗分析装置において、
前記圧迫状態が異常と判定された場合に前記圧迫状態が異常な状態の継続時間を計測し、前記圧迫状態が正常と判定され、かつ前記第1のセンサの電気信号の出力と前記物理量算出部による物理量の算出処理とが停止している状態の場合に、前記圧迫状態が正常な状態の継続時間を計測するように構成された時間計測部をさらに備え、
前記第1のセンサは、前記圧迫状態が異常な状態の継続時間があらかじめ設定された第1の閾値を超えたときに電気信号の出力を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常な状態の継続時間があらかじめ設定された第2の閾値を超えたときに電気信号の出力を再開し、
前記物理量算出部は、前記圧迫状態が異常な状態の継続時間が前記第1の閾値を超えたときに物理量の算出処理を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常な状態の継続時間が前記第2の閾値を超えたときに物理量の算出処理を再開することを特徴とする発汗分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の発汗分析装置において、
前記物理量算出部の算出結果と前記圧迫状態判定部の判定結果とを外部装置に送信するように構成された通信部をさらに備えることを特徴とする発汗分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の発汗分析装置において、
前記第2のセンサは、前記着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号として、圧力、ひずみ、接触インピーダンス、皮膚電位のうち少なくとも1つを示す電気信号を出力することを特徴とする発汗分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の発汗分析装置において、
前記物理量算出部は、前記着用者の汗に関する物理量として、前記着用者の発汗量と前記着用者の汗中の電解質濃度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とする発汗分析装置。
【請求項8】
着用者の皮膚と接触するように配置された第1のセンサが、前記着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を出力する第1のステップと、
第2のセンサが、前記第1のセンサによる前記着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を出力する第2のステップと、
前記第2のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の皮膚の圧迫状態が正常かどうかを判定する第3のステップと、
前記第1のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の汗に関する物理量を算出する第4のステップとを含むことを特徴とする発汗分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着して、着用者の汗に関する物理量を計測する発汗分析装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に伴い、世界的に熱波の発生が増加している。日本においても同様で、猛暑の頻度の増加に伴い、熱中症の発生件数が増加傾向にあり、社会問題となっている(非特許文献1)。
【0003】
熱中症とは、高温下や激しい運動下で引き起こされる多臓器不全の状態を表している。一般的に、人の体温は、視床下部前葉による体温調節のプロセスを経て、約37℃に維持されている。気化、熱放射、対流、熱伝導といった発汗に関連した物理現象は、体表面を冷却するために機能している。
【0004】
体温が上昇すると、皮膚血管拡張により、皮膚血流が増加し、温熱性発汗が開始される。皮膚血管拡張は、血管内容積の相対的な減少を引き起こし、熱失神の原因となる。汗による塩分と水分の損失は、脱水と塩分枯渇を引き起こし、熱疲労と痙攣を伴う。塩分と水分がさらに失われると、体温調節機能が低下し、続いて中枢循環から皮膚や筋肉へのシャントにより内臓の血流が低下し、臓器不全に陥り、いわゆる熱中症と呼ばれる状態となる(非特許文献2)。
【0005】
上記のように、人の体内の水分と塩分は、体温調節に重要な役割を果たしている。熱疲労の原因となる脱水症状を防ぐには、適切な量の水分と塩分を補給することが重要である。汗に含まれる塩分濃度は、発汗量の増加と共に線形に増加することが多くの文献で報告されている。ただし、塩分濃度の増加率は、人の発汗能力や汗腺での塩分再吸収能力によって変化するため、個人差がある。また、個人の発汗能力、塩分再吸収能力は、人の暑熱順化の影響を受けて変化することも知られている。そのため、水分と塩分の損失を監視するには、人の発汗量と汗に含まれる塩分濃度の両方を連続的に監視することが有効と考えられる。
この監視を実現する先行技術として、発汗量と電解質濃度を同時計測するウェアラブルセンサが提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0006】
図12は特許文献1に開示されたウェアラブルセンサの断面図である。ウェアラブルセンサは、液体の流路となる貫通孔11と貫通孔11の出口側の端部と連通する凹部12とを有する基材10と、貫通孔11の入口側の端部が開口する基材10の面に配置された電極14と、貫通孔11の出口側の開口から凹部12に流出した液体と接触するように基材10の出口側の面(上面)に配置された吸水構造体15と、吸水構造体15の基材10と向かい合う面に、貫通孔11の出口側の開口と向かい合うように配置された吸水性の電極16とを備えている。
図12の13は基材10の下面に形成された凹部、100はウェアラブルセンサの着用者の皮膚、101は着用者の汗腺、102は着用者の皮膚表面から分泌される汗である。
【0007】
ウェアラブルセンサを利用すれば、ウェアラブルセンサと着用者の皮膚とを密着させた状態で貫通孔11から凹部12に流出した汗による電極14と16間の通電特性に基づいて、着用者の汗の流量(発汗量)、および汗中の塩分濃度など、汗中に含有される諸成分の濃度を計測することができる。
しかしながら、特許文献1に開示されたウェアラブルセンサでは、着用者の皮膚との十分な密着状態が維持されていないと、発汗量や汗中の成分濃度といった物理量を正常に計測することができないという課題があった。
【0008】
また、人の生理現象には、体の一部を圧迫すると、圧迫側で発汗が抑制され、その反対側の発汗が増えるという発汗反射現象があることが知られている。特許文献1に開示されたウェアラブルセンサでは、皮膚圧迫による、局所的な発汗抑制の影響といった生理現象を考慮していないので、例えば測定データが変動したときに、その変動が着用者の生理現象が原因か、運動負荷や暑熱負荷等が原因か、といった判別ができず、暑熱下や運動下での着用者の脱水状態を監視するといった用途への利用が難しいという課題があった。
以上の課題は、特許文献2、特許文献3に開示されたウェアラブルセンサにおいても、同様に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2021/038742号
【特許文献2】国際公開WO2021/038758号
【特許文献3】特許第7111254号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Hirata,T. Miyazawa,R. Uematsu,S. Kodera,Y. Hashimoto,K. Takagahara,Y. Higuchi,H. Togo,T. Kawahara,H. Tanaka,“Body Core Temperature Estimation Using New Compartment Model With Vital Data From Wearable Devices”,IEEE Access 2021,9,124452-124462.(DOI:10.1109/ACCESS.2021.3110252)
【非特許文献2】T. Hifumi,Y. Kondo,K. Shimizu,Y. Miyake,“Heat stroke”,Journal of Intensive Care,2018,6,1-8,<https://doi.org/10.1186/s40560-018-0298-4>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、着用者の汗に関する物理量の計測に際し、皮膚の圧迫による発汗抑制の影響を避けた計測を実現することができる発汗分析装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発汗分析装置は、着用者の皮膚と接触するように配置され、前記着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を出力するように構成された第1のセンサと、前記第1のセンサによる前記着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を出力するように構成された第2のセンサと、前記第1のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の汗に関する物理量を算出するように構成された物理量算出部と、前記第2のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の皮膚の圧迫状態が正常かどうかを判定するように構成された圧迫状態判定部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の発汗分析装置の1構成例において、前記圧迫状態判定部は、前記第2のセンサから出力された電気信号が示す物理量の値があらかじめ設定された上下限値の範囲内の場合に前記圧迫状態が正常と判定し、前記第2のセンサから出力された電気信号が示す物理量の値が前記上下限値の範囲外の場合に前記圧迫状態が異常と判定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の発汗分析装置の1構成例において、前記第1のセンサは、前記圧迫状態が異常と判定されたときに電気信号の出力を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常と判定されたときに電気信号の出力を再開し、前記物理量算出部は、前記圧迫状態が異常と判定されたときに物理量の算出処理を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常と判定されたときに物理量の算出処理を再開することを特徴とするものである。
また、本発明の発汗分析装置の1構成例は、前記圧迫状態が異常と判定された場合に前記圧迫状態が異常な状態の継続時間を計測し、前記圧迫状態が正常と判定され、かつ前記第1のセンサの電気信号の出力と前記物理量算出部による物理量の算出処理とが停止している状態の場合に、前記圧迫状態が正常な状態の継続時間を計測するように構成された時間計測部をさらに備え、前記第1のセンサは、前記圧迫状態が異常な状態の継続時間があらかじめ設定された第1の閾値を超えたときに電気信号の出力を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常な状態の継続時間があらかじめ設定された第2の閾値を超えたときに電気信号の出力を再開し、前記物理量算出部は、前記圧迫状態が異常な状態の継続時間が前記第1の閾値を超えたときに物理量の算出処理を停止し、この停止の後に前記圧迫状態が正常な状態の継続時間が前記第2の閾値を超えたときに物理量の算出処理を再開することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の発汗分析装置の1構成例は、前記物理量算出部の算出結果と前記圧迫状態判定部の判定結果とを外部装置に送信するように構成された通信部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の発汗分析装置の1構成例において、前記第2のセンサは、前記着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号として、圧力、ひずみ、接触インピーダンス、皮膚電位のうち少なくとも1つを示す電気信号を出力することを特徴とするものである。
また、本発明の発汗分析装置の1構成例において、前記物理量算出部は、前記着用者の汗に関する物理量として、前記着用者の発汗量と前記着用者の汗中の電解質濃度のうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の発汗分析方法は、着用者の皮膚と接触するように配置された第1のセンサが、前記着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を出力する第1のステップと、第2のセンサが、前記第1のセンサによる前記着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を出力する第2のステップと、前記第2のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の皮膚の圧迫状態が正常かどうかを判定する第3のステップと、前記第1のセンサから出力された電気信号に基づいて、前記着用者の汗に関する物理量を算出する第4のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第2のセンサと圧迫状態判定部とを設けることにより、着用者の汗に関する物理量の計測に際し、第1のセンサによる着用者の皮膚の圧迫状態を監視することができ、皮膚の圧迫による発汗抑制の影響を避けた計測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施例に係る発汗分析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例に係るセンサの断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例に係るセンサの拡大断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施例に係る発汗分析装置のMCU部の機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施例に係る発汗分析装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施例に係るセンサで計測される、電極間に流れる電流値の変化の1例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施例に係る発汗分析装置のMCU部の機能ブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施例に係る発汗分析装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の第3の実施例に係る発汗分析装置のMCU部の機能ブロック図である。
【
図10】
図10は、本発明の第3の実施例に係る発汗分析装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の第1~第3の実施例に係る発汗分析装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、従来のウェアラブルセンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施例に係る発汗分析装置の構成を示すブロック図である。発汗分析装置は、センサ1,2と、AFE(Analog Front End)部3と、データ記録部4と、記憶部5と、MCU(Micro Control Unit)部6と、通信部7と、電源部8とを備えている。
【0019】
センサ1は、着用者の皮膚と接触するように配置され、着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を出力する。
センサ2は、センサ1による着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を出力する。皮膚の圧迫状態を示す物理量としては、皮膚にかかる圧力、皮膚のひずみ、センサ2と皮膚との接触インピーダンス、皮膚電位等が挙げられる。
【0020】
AFE部3は、アナログフロントエンドを備えており、センサ1,2から出力された微弱な電気信号を増幅する。
データ記録部4は、ADC(Analog Digital Converter)を備えており、AFE部3によって増幅されたアナログ信号を所定のサンプリング周波数でデジタルデータに変換して記憶部5に格納する。
【0021】
記憶部5は、データ記録部4から出力されたデジタルデータを記憶する。記憶部5は、フラッシュメモリに代表される不揮発性メモリや、DRAM(Dynamic Random Access Memory)のような揮発性メモリ等で実現される。
MCU部6は、記憶部5に格納されているデジタルデータに基づいて汗に関する物理量を算出する信号処理と、着用者の皮膚の圧迫状態を監視する信号処理と、電源制御とを担う回路である。
【0022】
通信部7は、MCU部6によって得られた計測結果および分析結果を、スマートフォン等の外部装置(不図示)に無線または有線により送信する回路を含む。無線通信の規格としては、例えばBLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)などがある。また、有線通信の規格としては、例えばイーサネット(登録商標)などがある。
電源部8は、発汗分析装置への電源供給の役割を担う回路である。
【0023】
図2はセンサ1の断面図、
図3は
図2の拡大図である。センサ1は、貫通孔11と貫通孔11の出口側の端部と連通する凹部12とを有する基材10と、貫通孔11の入口側の端部が開口する基材10の面に配置された電極14と、貫通孔11の出口側の開口から凹部12に流出した液体と接触するように基材10の出口側の面(上面)に配置された吸水構造体15と、吸水構造体15の基材10と向かい合う面に、貫通孔11の出口側の開口と向かい合うように配置された吸水性の電極16とを備えている。
【0024】
基材10としては、例えば親水性のガラス材料または樹脂材料からなるものがある。また、撥水性の材料の表面および貫通孔11の内面に親水性を付与する表面処理が施されたものを基材10としてもよい。基材10の上面には、上面を窪ませた形状の凹部12が貫通孔11と連通するように形成されている。反対に、基材10の下面には、下面を窪ませた形状の凹部13が貫通孔11と連通するように形成されている。
【0025】
電極14は、例えば貫通孔11の入口側の端部が開口する基材10の面(下面)に形成された金属薄膜からなる。吸水構造体15の例としては、綿、絹等の繊維や、多孔質セラミック基板等を挙げることができる。電極16の例としては、吸水構造体15の表面に例えばめっき技術によって形成した多孔質金属薄膜や、導電性高分子を吸水構造体15の繊維に含浸させたもの、導電繊維を編みこんだもの等を挙げることができる。
【0026】
センサ1は、
図2に示すように基材10の下面が着用者の皮膚100と向かい合うように着用者の身体に装着される。
図2の101は着用者の汗腺である。
着用者が発汗すると、汗102は、毛細管現象により基材10の凹部13内から貫通孔11内に導入されていく。さらに、発汗量の増加により、汗102は、貫通孔11内を上昇して凹部12に到達する。
【0027】
図3の拡大図で示すように、凹部12の内面には撥水部17が設けられている。基材10に親水性の材料を用いる場合には、凹部12の内面に撥水性の表面処理を施すようにして、撥水部17を形成すればよい。基材10に撥水性の材料を用いる場合には、凹部12の内面のみ撥水性の材料のままとすることにより、撥水部17を設けることができる。
【0028】
汗102は、センサ1の内部空間である凹部12に到達すると、
図3に示すように球状の液滴102aとなる。さらに、発汗量が増加すると、液滴102aは、その直径が増して、遂には電極16と吸水構造体15とに到達する。電極16と吸水構造体15とに到達した液滴102aは、毛細管現象により電極16の多数の孔および吸水構造体15の多数の孔を通って、吸水構造体15内を移動しながら蒸発する。これにより、液滴102aが消失する。こうして、液滴102aの形成と消失により、センサ1の電極14と16間の通電が繰り返し発生する。
【0029】
図2、
図3に示した基材10は、特許文献1に開示されたものと同様であるが、着用者の皮膚100と接触する下面に、センサ2の一部を構成するセンサ素子20が形成されている点が特許文献1に開示されたものと異なる。
【0030】
センサ2が着用者の皮膚にかかる圧力を計測する場合、センサ素子20としては例えば圧電素子が使用される。圧電素子は、周知のとおり圧電体を1対の電極で挟んだ構造をしている。1対の電極のうち一方の電極が着用者の皮膚100と接触するようにセンサ素子20を配置すればよい。圧力によって圧電素子に歪みが生じるので、センサ2は、電極間の電位差を計測し、この計測結果を圧力を示す電気信号として出力する。
【0031】
センサ2が着用者の皮膚のひずみを計測する場合、センサ素子20としては例えばひずみゲージが使用される。センサ2は、圧力によるひずみゲージの電気抵抗の変化を計測し、この計測結果をひずみを示す電気信号として出力する。
【0032】
センサ2が着用者の皮膚との接触インピーダンスや皮膚電位を計測する場合、センサ素子20は一対の電極からなる。1対の電極が着用者の皮膚100と接触するようにセンサ素子20を配置すればよい。センサ2は、センサ素子20の一対の電極間に微弱な電流を流し、接触インピーダンスを計測する。あるいは、センサ2は、電極間の電位差を計測する。
【0033】
センサ2は、圧力、ひずみ、接触インピーダンス、皮膚電位に限らず、着用者の皮膚の圧迫状態を監視できる他の物理量を計測してもよい。また、センサ2は、1種類の物理量に限らず、複数の物理量を計測するようにしてもよい。
センサ1と着用者の皮膚100との密着状態を監視するため、センサ素子20は、センサ1の電極14,16の近傍に設けられることが望ましい。
【0034】
なお、本実施例では、センサ1の構造として、特許文献1に開示されたウェアラブルセンサの構造を例に挙げて説明しているが、これに限るものではない。例えば特許文献2、特許文献3に開示されたウェアラブルセンサの構造を用いてもよいし、汗に由来する電気信号を取得できるものであれば、他の構造のウェアラブルセンサを用いてもよい。
【0035】
図4は本実施例のMCU部6の機能ブロック図である。MCU部6は、物理量算出部60と、圧迫状態判定部61として機能する。
【0036】
図5は本実施例の発汗分析装置の動作を説明するフローチャートである。センサ1は、着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号(本実施例では電極14と16間に流れる電流)を検出する(
図5ステップS100)。
センサ2は、着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号(本実施例では、圧力、ひずみ、接触インピーダンス、皮膚電位)を検出する(
図5ステップS101)。
【0037】
AFE部3は、センサ1とセンサ2から出力された電気信号をそれぞれ増幅する(
図5ステップS102)。
データ記録部4は、AFE部3によって増幅された信号を所定のサンプリングレートでデジタルデータに変換して(
図5ステップS103)、記憶部5に格納する(
図5ステップS104)。このとき、データ記録部4は、デジタルデータにサンプリング時刻の情報を付加して記憶部5に格納する。こうして、記憶部5には、汗に由来する電気信号と皮膚の圧迫状態を示す電気信号のそれぞれの時系列データが記憶される。
【0038】
物理量算出部60は、記憶部5に格納された、着用者の汗に由来するデジタルデータに基づいて、着用者の汗に関する物理量を算出する(
図5ステップS105)。センサ1で計測される、電極間に流れる電流値の変化の1例を
図6に示す。
図2、
図3に示した構造では、電極14と16間に汗の液滴102aが存在する期間、電流が流れ続けることになり、センサ1に流入する汗の流量、つまり発汗量の多寡に応じて通電する周期が変化し、電解質濃度の多寡に応じて通電時のピーク電流が変化する。
【0039】
物理量算出部60は、汗に関する物理量として発汗量を算出する(ステップS105)。物理量算出部60は、汗の液滴102aの体積を、直前の電流ピークから最新の電流ピークまでの周期で除することにより、発汗量を算出することができる。特許文献1に記載されているとおり、ウェアラブルセンサ1の電極14と16間に生じる汗の液滴102aの体積は、実際に即した値を予め求めておくことが可能である。
【0040】
また、物理量算出部60は、着用者の汗中の電解質濃度により変化する汗の電気抵抗率を算出し、この電気抵抗率から汗中の電解質濃度を算出する(ステップS105)。具体的には、物理量算出部60は、AFE部3が電極14と16間に印加する既知の電圧の値を、記憶部5に格納されたデジタルデータが示す最新の通電時の電流ピーク値で除することにより、抵抗を算出する。そして、物理量算出部60は、抵抗の値と、電極14と16間の既知の距離と、電極14と16間の汗の断面積とに基づいて電気抵抗率を算出する。汗の断面積については、電極14と16間の汗の断面積を一定とみなしたときの規定値を使用すればよい。
【0041】
汗の電気抵抗率と汗中の電解質濃度(主としてNaClの濃度)との間には直線的な関係があることが知られている。物理量算出部60は、電気抵抗率と電解質濃度との既知の関係に基づいて、電気抵抗率から電解質濃度を算出する。
本実施例では、物理量算出部60は、着用者の汗に関する物理量として、着用者の発汗量と汗中の電解質濃度の両方を算出しているが、これらのうち少なくとも一方を算出すればよい。
【0042】
次に、圧迫状態判定部61は、記憶部5に格納された、着用者の皮膚の圧迫状態を示すデジタルデータに基づいて、着用者の皮膚の圧迫状態が正常かどうかを判定する(
図5ステップS106)。圧迫状態判定部61は、例えば圧迫状態を示す物理量の値(圧力、ひずみ、接触インピーダンス、皮膚電位)があらかじめ設定された上下限値の範囲内の場合、圧迫状態が正常と判定し、物理量算出部60によって算出された物理量を有効と判定する。また、圧迫状態判定部61は、圧迫状態を示す物理量の値が上下限値の範囲外の場合、圧迫状態が異常と判定し、物理量算出部60によって算出された物理量を無効と判定する。
【0043】
上述のように、人の生理現象には発汗反射現象があることが知られている。そこで、発汗抑制が生じていない状態から発汗抑制が生じる状態に変わる物理量(圧力、ひずみ)の閾値を、物理量(圧力、ひずみ)の上限値として設定してもよい。また、センサ1が汗に由来する電気信号を取得できない状態から正常に取得できる状態に変わる物理量(圧力、ひずみ)の閾値を、物理量(圧力、ひずみ)の下限値として設定してもよい。このような上下限値は、別途実験的に求めることができる。
【0044】
ただし、接触インピーダンスの場合は、発汗抑制が生じていない状態から発汗抑制が生じる状態に変わる接触インピーダンスの閾値を、下限値として設定し、センサ1が汗に由来する電気信号を取得できない状態から正常に取得できる状態に変わる接触インピーダンスの閾値を、上限値として設定すればよい。同様に、皮膚電位の場合は、発汗抑制が生じていない状態から発汗抑制が生じる状態に変わる皮膚電位の閾値を、下限値として設定し、センサ1が汗に由来する電気信号を取得できない状態から正常に取得できる状態に変わる皮膚電位の閾値を、上限値として設定すればよい。
【0045】
また、着用者の皮膚の圧迫状態を示す物理量として、圧力、ひずみ、接触インピーダンス、皮膚電位等のうち複数の物理量を計測する場合には、これら複数の物理量がそれぞれ対応する上下限値の範囲内の場合、圧迫状態が正常と判定し、複数の物理量のうち少なくとも1つが対応する上下限値の範囲外の場合、圧迫状態が異常と判定すればよい。
【0046】
通信部7は、着用者の皮膚の圧迫状態が正常と判定された場合(ステップS106においてYES)、物理量算出部60の算出結果をスマートフォン等の外部装置に送信する(
図5ステップS107)。通信部7は、圧迫状態が異常と判定された場合には、物理量算出部60の算出結果を送信しない。
発汗分析装置は、例えば着用者から測定終了の指示があるまで(
図5ステップS108においてYES)、ステップS100~S107の処理を繰り返し実行する。
【0047】
以上のように、本実施例では、着用者の汗に関する物理量の計測に際し、センサ1による着用者の皮膚の圧迫状態を監視することができ、皮膚の圧迫による発汗抑制の影響を避けた計測が可能になる。
なお、通信部7は、圧迫状態の正否の如何にかかわらず、圧迫状態判定部61の判定結果を外部装置に送信するようにしてもよい。
【0048】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例においても、発汗分析装置の構成は第1の実施例と同様であるので、
図1の符号を用いて説明する。
本実施例のMCU部6は、
図7に示すように物理量算出部60と、圧迫状態判定部61と、電源制御部62として機能する。
【0049】
図8は本実施例の発汗分析装置の動作を説明するフローチャートである。第1の実施例と同様に、センサ2は、着用者の皮膚の圧迫状態を示す電気信号を検出する(
図8ステップS200)。
AFE部3は、センサ2から出力された電気信号を増幅する(
図8ステップS201)。
【0050】
データ記録部4は、AFE部3によって増幅された信号を所定のサンプリングレートでデジタルデータに変換して(
図8ステップS202)、記憶部5に格納する(
図8ステップS203)。圧迫状態判定部61の動作(
図8ステップS204)は、第1の実施例で説明したとおりである。
【0051】
本実施例では、着用者の皮膚の圧迫状態が正常と判定された場合(ステップS204においてYES)、電源制御部62の制御によって、電源部8からセンサ1と通信部7に電源が供給されるようになっている。
【0052】
センサ1は、電源が供給された状態において、着用者の皮膚から分泌される汗に由来する電気信号を検出する(
図8ステップS205)。AFE部3は、センサ1から出力された電気信号を増幅する(
図8ステップS206)。
【0053】
データ記録部4は、AFE部3によって増幅された信号を所定のサンプリングレートでデジタルデータに変換して(
図8ステップS207)、記憶部5に格納する(
図8ステップS208)。
物理量算出部60の動作(
図8ステップS209)は、第1の実施例で説明したとおりである。通信部7は、物理量算出部60の算出結果をスマートフォン等の外部装置に送信する(
図8ステップS210)。
【0054】
一方、電源制御部62は、着用者の皮膚の圧迫状態が異常と判定された場合(
図8ステップS204においてNO)、電源部8からセンサ1と通信部7への電源供給を停止させる。これにより、センサ1による計測処理と通信部7による送信処理とが停止する。物理量算出部60は、計測処理の停止に伴って、物理量の算出処理を停止する(
図8ステップS211)。
【0055】
また、電源制御部62は、着用者の皮膚の圧迫状態が正常と判定され、かつセンサ1による計測処理と物理量算出部60による算出処理と通信部7による送信処理とが停止している状態(センサ1と通信部7への電源供給が停止している状態)の場合(
図8ステップS212においてYES)、電源部8からセンサ1と通信部7への電源供給を再開させる。これにより、センサ1による計測処理と通信部7による送信処理とが再開する。物理量算出部60は、計測処理の再開に伴って、物理量の算出処理を再開する(
図8ステップS213)。
【0056】
以上のように本実施例では、着用者の皮膚の圧迫状態が異常と判定された場合に、センサ1による計測処理と物理量算出部60による算出処理とを停止し、圧迫状態が正常と判定された場合に、センサ1による計測処理と物理量算出部60による算出処理とを行う。
【0057】
なお、本実施例では、圧迫状態が異常と判定された場合に通信部7への電源供給も停止しているが、電源供給を継続し、第1の実施例と同様に、通信部7が圧迫状態判定部61の判定結果を外部装置に送信するようにしてもよい。
【0058】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。本実施例においても、発汗分析装置の構成は第1の実施例と同様であるので、
図1の符号を用いて説明する。
本実施例のMCU部6は、
図9に示すように物理量算出部60と、圧迫状態判定部61と、電源制御部62と、時間計測部63として機能する。
【0059】
図10は本実施例の発汗分析装置の動作を説明するフローチャートである。
図10のステップS300~S310の処理は、
図8のステップS200~S210の処理と同じなので、説明は省略する。
【0060】
時間計測部63は、着用者の皮膚の圧迫状態が異常と判定された場合に(
図10ステップS304においてYES)、圧迫状態が異常な状態の継続時間を計測する(
図10ステップS311)。
【0061】
電源制御部62は、時間計測部63によって計測中の異常状態の継続時間があらかじめ設定された異常状態継続時間閾値を超えたときに(
図10ステップS312においてYES)、電源部8からセンサ1と通信部7への電源供給を停止させる。これにより、センサ1による計測処理と通信部7による送信処理とが停止する。物理量算出部60は、計測処理の停止に伴って、物理量の算出処理を停止する(
図10ステップS313)。
例えば着用者の皮膚圧迫開始から発汗抑制が起きるまでの時間を別途実験的に求め、この時間を異常状態継続時間閾値として設定すればよい。
【0062】
また、時間計測部63は、着用者の皮膚の圧迫状態が正常と判定され、かつセンサ1による計測処理と物理量算出部60による算出処理と通信部7による送信処理とが停止している状態(センサ1と通信部7への電源供給が停止している状態)の場合(
図10ステップS314においてYES)、圧迫状態が正常な状態の継続時間を計測する(
図10ステップS315)。
【0063】
電源制御部62は、時間計測部63によって計測中の正常状態の継続時間があらかじめ設定された正常状態継続時間閾値を超えたときに(
図10ステップS316においてYES)、電源部8からセンサ1と通信部7への電源供給を再開させる。これにより、センサ1による計測処理と通信部7による送信処理とが再開する。物理量算出部60は、計測処理の再開に伴って、物理量の算出処理を再開する(
図10ステップS317)。
例えば皮膚圧迫が解除された時点から発汗抑制が起きなくなるまでの時間を別途実験的に求め、この時間を正常状態継続時間閾値として設定すればよい。
【0064】
本実施例では、異常状態の継続時間が閾値を超えたときに通信部7への電源供給も停止しているが、電源供給を継続し、第1の実施例と同様に、通信部7が圧迫状態判定部61の判定結果を外部装置に送信するようにしてもよい。
【0065】
第1~第3の実施例で説明したデータ記録部4と記憶部5とMCU部6と通信部7は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図11に示す。
【0066】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、データ記録部4のADC等のハードウェアと、通信部7のハードウェア等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の発汗分析方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1~第3の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、人の汗に関する物理量を分析する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1,2…センサ、3…AFE部、4…データ記録部、5…記憶部、6…MCU部、7…通信部、8…電源部、10…基材、11…貫通孔、12,13…凹部、14,16…電極、15…吸水構造体、17…撥水部、20…センサ素子、60…物理量算出部、61…圧迫状態判定部、62…電源制御部、63…時間計測部。