(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147235
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ボトム衣料
(51)【国際特許分類】
A41C 1/00 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A41C1/00 D
A41C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060117
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日和佐 大
(72)【発明者】
【氏名】跡見 順子
【テーマコード(参考)】
3B131
【Fターム(参考)】
3B131AA08
3B131AB19
3B131BA11
3B131BA12
3B131BA21
3B131CA32
(57)【要約】
【課題】着用することによって、歩くなどの日常生活の基本的動作により消費されるカロリーを増加させ、かつ、ずり上がりおよびずり下がりによる消費カロリーアップ効果低減が起きにくいボトム衣料を提供すること。
【解決手段】伸縮性を有する生地を含む本体部と、臀部から大腿部後面にわたって前記本体部の肌側及び/又は外表面側に設置され、前記本体部よりも伸縮性が小さい張力付与部と、ウエスト部および前記本体部の下端に設置され、前記本体部よりも最大静止摩擦係数が高い防滑性付与部を有するボトム衣料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する生地を含む本体部と、
臀部から大腿部にわたって前記本体部の後面の肌側及び/又は外表面側に設置され、前記本体部よりも伸縮性が小さい張力付与部と、
ウエスト部および前記本体部の脚口下端に設置され、前記本体部よりも最大静止摩擦係数が高い防滑性付与部と、を有するボトム衣料。
【請求項2】
前記張力付与部が前記本体部の外表面側に設置され、前記張力付与部は前記本体部と固定されていない未固定部を有し、前記未固定部は前記張力付与部の生地伸縮方向、かつ着用時に臀裂を中心線とした場合に左右対称に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のボトム衣料。
【請求項3】
前記張力付与部の50%伸長時における応力が、前記本体部の50%伸長時における応力の3倍~6倍である請求項1又は2に記載のボトム衣料。
【請求項4】
前記防滑性付与部が、ポリウレタン弾性糸を含む布帛からなり、生地厚さが0.4~1.0mmかつ、通気度が30cm3/cm2・sec以上である請求項1又は2に記載のボトム衣料。
【請求項5】
前記防滑性付与部と模擬皮膚との静止摩擦係数が、前記本体部と前記模擬皮膚との静止摩擦係数の1.5倍~3.0倍である請求項1又は2に記載のボトム衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボトム衣料に関し、特に股部を含む下半身衣料において、着用して歩行などの運動をすることにより下半身の筋肉への負荷を高め、運動による消費カロリー向上を出来るようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下腹部、臀部および大腿部を覆うボトム衣料で、体形を細身に見せる機能を備えているものが多く提案されている。
また、ボトム衣料には筋肉の動きを制限することで、体の部位の移動方向を変えるものがある(特許文献1~2)。
特許文献1に記載のボトム衣料では、伸縮性素材からなる本体部と、複数の緊縛部を備えた衣料によって、下半身を安定させ、かつ大股歩行を助成できる身体機能を向上させることができる。
特許文献2に記載のボトム衣料では、弾性糸を含む身生地および内生地から構成される衣料によって、大腿骨の正常な方向への位置矯正を行うことができる。
【0003】
ところで、今日、生活習慣病といわれる高脂血症、肥満症、高脂血症、糖尿病、高血圧を引き起こす原因となるメタボリックシンドロームが問題視されている。メタボリックシンドロームの進行を防止するまたはメタボリックシンドロームを解消するために、脂肪燃焼を促す目的で運動することが好ましい。運動による脂肪燃焼の効率を高めるために、着用することによって運動によるカロリー消費を増加させるボトムが従来技術として知られている(たとえば、特許文献3~4)。
特許文献3に記載のボトムを着用することによって、ボトム上に設置された難伸縮性部の着圧により筋肉を加圧して筋肉全体による収縮活動が活発化して消費カロリーを増大させることができる。
特許文献4に記載の伸縮性素材により形成されたボトム衣料において、臀部から大腿部にかけて設置された伸長抑制領域によって運動時におけるボトムスの伸長が抑制されることで日常生活の動作によるカロリーの消費を増加させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/050539号
【特許文献2】特開2022-51753号公報
【特許文献3】特開2010-95823号公報
【特許文献4】特開2012-158852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように歩行姿勢改善や消費カロリーアップのため、ボトムスに伸長性の低い生地を部分的に設置したボトム衣料が提供されているが、運動していると伸長性が低い部分に引きつられて、ボトムス下端のずり上がり、ウエスト部のずり下がりが生じうる。
【0006】
本発明は、ボトム衣料の後面の臀部から大腿部にかけて低伸長部を設置することで、着用の際、歩くなどの日常生活の基本的動作により消費されるカロリーを増加させ、かつ、ボトム衣料下端のずり上がりおよびウエスト部のずり下がりによる消費カロリーアップ効果低減が起きにくいボトム衣料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、伸縮性を有する生地を含む本体部と、臀部から大腿部にわたって前記本体部の後面の肌側及び/又は外表面側に設置され、前記本体部よりも伸縮性が小さい張力付与部と、ウエスト部および前記本体部の下端に設置され、前記本体部よりも最大静止摩擦係数が高い防滑性付与部と、を有するボトム衣料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着用者の消費カロリーを向上させることができるとともに、ずり上がりおよびずり下がりによる消費カロリーアップ効果低減が起きにくいボトム衣料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のボトム衣料の一態様を模式的に表した上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明に係るボトム衣料の実施の形態について説明する。また、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0011】
本発明のボトム衣料は、少なくとも本体部、張力付与部及び防滑性付与部を有する。
本発明のボトム衣料では、下腹部、臀部および大腿部を覆う伸縮性のある生地からなる本体部の後面に、臀部上縁から大腿部中央にかけて伸縮性の低い生地を、張力付与部として本体部の肌側および/または外表面側に設置することで、着用者が大腿部を前方に振り上げる動きをした際に負荷をかけて消費カロリーを向上させることが出来る。さらに、防滑性付与部によって本体部の下端のずり上がりおよびウエスト部のずり下がりを防止し、消費カロリーが低減するのを抑制することができる。
【0012】
図1に、本発明の実施の形態に係るボトム衣料の一態様を模式的に表す。ボトム衣料1は、本体部2と、臀部から大腿部後面にわたって本体部2の後面の肌側及び/又は外表面側に設置された張力付与部3とを有し、さらに、本体部2のウエスト部および本体部2の下端に設置された防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bを有する。
図1のボトム衣料1では、張力付与部3を本体部2の外表面側に設置しているが、肌側に設置してもよい。
【0013】
<本体部>
本発明のボトム衣料1は、伸縮性を有する生地を含む本体部2を有する。本体部2は、
図1に示す通り、ボトム衣料1としての形状、すなわち、着用者の胴部を通すウエスト部、着用者の左右の足をそれぞれ通す脚口を有する。
【0014】
本体部2は、伸縮性を有する生地を含む。ここで「伸縮性を有する」とは、幅50mm×縦300mmのサンプルを、つかみ間隔200mmで引張試験機に設置し、試験機で20cm/minの速度で50%伸長した場合の応力が10N以下である生地のことをいう。
【0015】
伸縮性を有する生地は、主素材として、ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維、レーヨン、綿等のセルロース繊維、ウール、絹等の天然繊維が適宜に用いられる。これら素材は交編、挿入、引き揃え等により混合して用いてもよい。また、本体部2の素材に伸縮性を与えるために、伸縮素材を混合することが好ましい。該伸縮素材としては、ポリウレタン弾性繊維、ポリエステルエラストマー繊維、PTT系複合加工糸(ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするサイドバイサイドのバイメタル糸)等が適宜に使用される。
【0016】
さらに、本体部2の素材は薄くして軽量化すると、着用者に負担を与えず、着心地を高めることができる。具体的には、目付量が100~200g/m2が好ましい。これは100g/m2以上であると本体部2が透けにくいと共に破れにくく、200g/m2以下であると着用時の重量感やゴワつきが少ないためである。本体部2の目付量は、より好ましくは140~180g/m2である。
【0017】
本体部2の生地は伸縮性を有する織物素材、ニット素材等が用いられ、特にニット素材が好適に用いられる。ニット素材には経編素材と丸編素材とがあり、伸びが良ければいずれでもよい。
【0018】
<張力付与部>
本発明のボトム衣料1は、臀部から大腿部にわたって本体部2の後面の肌側及び/又は外表面側に設置された張力付与部3を有する。張力付与部3は、本体部2よりも伸縮性が小さい。伸縮性が小さい張力付与部3を設置することで、日常生活の基本的動作を行う際に効率的に負担をかけることができ、着用した際の消費カロリーを向上させることができる。消費カロリーは、実施例に記載した歩行時の酸素摂取量により評価することができる。ここで、伸縮性は、後述する生地50%伸長時の応力より求められる値である。なお、
図1に示す張力付与部3は、本体部1の後面の8割程度を覆う大きさに形成しているが、後述する50%伸長時の応力等を調整することにより、その大きさを適宜変更することができる。また、
図1に示すボトム衣料1では、1つの張力付与部3としているが、これに限定されるものではなく、右臀部および右大腿部にわたる右側張力付与部と、左臀部および左大腿部にわたる左側張力付与部とに分割して配置することもできる。
【0019】
張力付与部3の50%伸長時における応力は、本体部2の50%伸長時における応力の3倍~6倍とすることが好ましい。前記応力比が3倍以上であることで、緊迫部としての筋肉に与える刺激が向上し、消費カロリーをより向上させることができる。好ましくは3.5倍以上が好ましい。一方、前記応力比が6倍以下であることで、筋肉への刺激が強くなりすぎて不快感を与えることを抑制することができる。好ましくは5倍以下が好ましい。
【0020】
本発明では前記応力を以下の方法で測定することができる。まず、最も伸びやすい方向をA方向、該A方向と垂直方向をB方向とする。次に、本体部2、張力付与部3からそれぞれ、A方向と平行に長さ300mm、A方向と垂直方向(B方向)に幅50mmの長方形のサンプルを採取する。さらに、これらサンプルをつかみ間隔200mmで長方形の短辺の両端をつかみ、引張り試験機で20cm/minの速度で、つかみ間隔に対して50%伸長させた際の生地に発生する応力を測定して求めることができる。
【0021】
張力付与部3の生地は、織物生地、ニット生地、ゴム等を用いることができる。中でも、高い伸長回復性を有する織物生地または経編のニット生地が好適に用いられる。
本体部2よりも張力付与部3の伸縮性を小さくする方法としては、張力付与部3として織物生地を用いる、経編生地を用いる、編機のゲージ数を本体部2よりも高くする、用いる糸のポリウレタンの混率を低下させる等の方法が挙げられる。
【0022】
張力付与部3は、本体部2の肌側及び/又は外表面側に設置される。設置方法としては、張力付与部3を構成する生地周囲、すなわち上端部3a、下端部3b、内腿側3cおよび外側部3dを本体部2と樹脂または縫製などの手段で固着して設置する方法等が挙げられる。
また、張力付与部3は、本体部2の外表面側に設置され、張力付与部3は本体部2と固定されていない未固定部3eを有することが好ましい。未固定部3eの位置は、
図1に示すように、張力付与部3を構成する生地の伸縮方向、かつ着用した際に着用者の臀裂を中心線とした際に左右対称に配置されている外側部3dとすることが好ましい。通常、伸縮性の高い生地が伸長すると、伸長方向に対して垂直方向では生地が収縮するため、伸縮性の異なる生地同士を全箇所接着してしまうと、伸長時の垂直方向での収縮量に差が生じてしまい、生地の引き連れや外観不良を引き起こす可能性がある。張力付与部3を構成する生地の伸縮方向に本体部と接着しない未固定部3eを設け、着用者の臀裂に対して左右対称に配置することで、下肢を動かした際に、伸長性の高い本体部2と、伸縮性の低い張力付与部3の伸長特性の差による、生地の引き連れを起こしにくく、着用時の違和感および外観の悪化を防ぐことができる。
なお、未固定部3eは外側部3dに設けることが好ましいが、内腿側3cの生地伸縮方向と平行な部分に設けても、生地の引き連れを防止し、着用時の違和感および外観の悪化を防ぐことができる。
【0023】
本体部2より伸びを小さくした張力付与部3は、本体部2とは同一素材または別素材で形成した張力付与部3を本体部2の外面に重ねて縫着または樹脂接着剤を用いて接着または熱圧着することが好ましい。
【0024】
<防滑性付与部>
本発明のボトム衣料1は、ウエスト部および本体部2の脚口下端に設置された防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bを有する。防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bは、本体部2より最大静止摩擦係数が高い材料からなる。ここで、「最大静止摩擦係数」は、後述する通り、模擬皮膚との最大静止摩擦係数を示す。
【0025】
前述した本体部2と張力付与部3のみでも消費カロリーアップ効果を有するボトム衣料は得られるが、それだけでは着用して歩行を始めると伸縮性の低い張力付与部に引っ張られて本体部2の脚口下縁のずり上がり、またはウエスト部の上縁のずり下がりが発生する課題がある。ずり上がり、またはずり下がりが発生すると、張力付与部3も引き連れによってだぶつくため、下肢の運動を抑制する効果が低下することが分かった。
そこで本発明では本体部2の上縁(ウエスト部)、および本体部2の脚口下縁(大腿部)に肌との最大静止摩擦性が高い生地を防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bとして設置することで、該ずり上がり、またはずり下がりが抑制され、下肢運動の抑制効果低減を防ぐことができる。
【0026】
防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bは、防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bを足し合わせた長さ(r1+r2)が、ボトム衣料1全体の上端から下端までの長さを100%とした場合に、20%以上を占めることが好ましい。防滑性付与部が高さ方向に対して斜めに配されている場合等、防滑性付与部の長さが均一でない場合は、該部位の高さ方向の長さが最も小さい部分をそれぞれr1、r2とする。このようにすることで、防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bによる締め付け範囲が広くなるため、局所的に締め付けた場合に比べ不快感が低減される。
【0027】
本体部2より摩擦性の高い防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bは、本体部2とは同一素材または別素材で形成され、本体部2と縫着または樹脂接着剤を用いて接着または熱圧着することが好ましい。
防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bを構成する生地は身体とフィットすることで防滑効果を発揮するため、伸縮性および伸長回復性を有するポリウレタン弾性糸を含むニット素材が好適に用いられる。ニット素材には経編素材と丸編素材とがあり、伸縮性および伸長回復性が良ければいずれでもよい。ダブルのニット生地の肌面側にポリウレタン弾性糸が面するように編成することで肌との密着性および防滑性を高めることが出来る。
【0028】
また、防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bの生地の厚みは、0.4~1.0mmであることが望ましい。厚みが0.4mm以上であることで運動しても破れにくく、1.0mm以下であることでボトムスを重ね着した際に着用時の違和感が少ないためである。より好ましくは0.5~0.8mmである。
【0029】
防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bは、通気度が30cm3/cm2・sec以上であることが好ましい。これは本発明のボトム衣料1が運動時に着用することを想定しているため、30cm3/cm2・sec以上の通気度があることで運動中の蒸れが低減されるためである。蒸れを低減させる観点からは通気度が大きいほど好ましいが、100cm3/cm2・sec以下とすることで生地の耐久性を向上させることができる。より好ましくは40~90cm3/cm2・secである。本発明では通気度をフラジール型試験機を用いて測定することができる。
【0030】
防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bは、本体部2より最大静止摩擦係数を高くする必要がある。具体的には防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bと模擬皮膚との間に発生する最大静止摩擦係数が、本体部2と模擬皮膚との最大静止摩擦係数の1.5倍~3.0倍であることが好ましい。最大静止摩擦係数が1.5倍以上であると、運動時に防滑性付与部としての効果を十分に発揮でき、3.0倍以下であるとボトムスの着脱しやすさが損なわれないためである。より好ましくは1.8倍~2.6倍である。
【0031】
本発明では最大静止摩擦係数を以下の方法で測定している。本体部2、防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bについて、それぞれ、たて200mm、よこ80mmの長方形のサンプルを採取する。JIS K 7125プラスチック-フィルムおよびシート摩擦係数試験方法に基づいて、模擬皮膚の上に採取した生地サンプルを載せ、サンプルの上に荷重200gの重りを載せた状態で、張試験機を用いてサンプルを水平方向に100mm/minの速度で引張り、動き出し時の最大荷重を法線力で除した値から最大静止摩擦係数を算出した。模擬皮膚としては、Beaulax社製のバイオスキンプレートを用いることができる。
【0032】
本体部2よりも防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bの最大静止摩擦係数を高くする方法としては、防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bに使用する布帛の肌面側に摩擦係数の高い繊維素材を用いる、布帛表面を平滑にして肌との接触面積を増大させる、布帛の肌面側に防滑性のあるフィルムを転写プリントする方法等がある。
【0033】
<ボトム衣料の製造方法>
本発明において、ボトム衣料1の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリエステルとポリウレタンから成る糸を用いて横編み機でニット生地を作製し、これを本体部2としてボトムス形状に縫製する。次にポリエステルとポリウレタンから成る糸を用いて織物生地を作製し、該生地を張力付与部3として本体部2の後面の臀部から大腿部にかけて縫製接着する。防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bは、生地の片面に摩擦係数の高い繊維が露出するように編成したダブルトリコット生地を作成し、本体部2のウエスト部と脚口下端に、生地の摩擦係数の高い側が肌面に向くように縫着させることで製造した。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではなく、また、これらの例に限定して解釈されるものではない。なお、実施例、比較例における伸長応力等の測定は下記に記載の方法により行った。
【0035】
(1)伸長応力測定
インストロン引張試験機(INSTRON5566)を使用し、サンプルの最も伸びやすい方向をA方向、該A方向と垂直方向をB方向とした。次に本体部、張力付与部からそれぞれ、A方向と平行に長さ300mm、A方向と垂直方向(B方向)に幅50mmの長方形のサンプルを採取した。これらサンプルを、つかみ間隔200mmで長方形の短辺の両端をつかみ、引張試験機でつかみ間隔に対して50%伸長させた際の生地に発生する応力を測定した。
【0036】
(2)最大静止摩擦係数測定
本体部、防滑性付与部それぞれ、たて200mm、よこ80mmの長方形のサンプルを採取する。これらサンプルを模擬皮膚上に肌と接触する面を下にして載せ、サンプルの上に荷重200gの重りを載せた状態で、張試験機を用いてサンプルを水平方向に100mm/minの速度で引張り、動き出し時の最大荷重を法線力で除した値から最大静止摩擦係数を算出した。模擬皮膚としては、Beaulax社製のバイオスキンプレートを用いた。
【0037】
(3)歩行時の酸素摂取量評価
20代の被験者2名にボトム衣料を着用させ、トレッドミル上を時速5kmで30分間歩行させた。30分間のうち最初の10分間は斜度0%、次の10分間は斜度5%、最後の10分間は斜度10%とし、30分間の歩行中における被験者の呼気代謝データを取得した。得られた呼気代謝量のうち、運動中の消費カロリーの指標である「分時酸素摂取量」のデータを解析し、各斜度で10分間歩行した平均値を測定値とした。
【0038】
(4)着用感評価
20代の被験者2名にボトム衣料を着用させた状態でトレッドミル上を1分間歩行させ、以下のアンケート内容で評価し、平均した。
<着用時の違和感>
1.感じない
2.やや感じる
3.感じる
4.かなり感じる
5.非常に感じる。
【0039】
(5)生地のずり上がり量評価
20代の被験者2名にボトム衣料を着用させ、着用直後のボトム下縁の位置と、1分間歩行後の下縁の位置の変化量からずり上がり量を算出した。
【0040】
(実施例1)
本体部はシングルトリコット編機を用いて、フロント筬にポリエステル、バック筬にスパンデックス繊維を通糸し、組織をハーフで編成した。編成した生地は通常の方法で仕上げた。
また、張力付与部はエアジェット織機を用いて、ポリエステルとスパンデックスを用いたシングルカバリング糸を平織ゾッキで製織し、生織した生地を通常の方法で仕上げた。
図1のパターンに示すように、上記のように製織した張力付与部3を本体部2の後面の外表面上に臀部の上縁から大腿部の中央にかけて重ね、上端部3a、下端部3b、および内腿部3cを接着し、外側部3dを接着していない未固定部3eとした。
防滑性付与部は、ダブルトリコット編機を用いて作製し、フロント筬にポリエステル、バック筬にスパンデックス繊維(ポリウレタン弾性糸)を通糸し、組織をリバーシブルで編成した。編成した生地は通常の方法で仕上げた。
図1のパターンに示すように、防滑性付与部4aおよび防滑性付与部4bを本体部2のウエスト部および大腿下縁と縫製接着してボトム衣料1を作製した。
ボトム衣料1の上縁から下縁までの長さは45cmで、そのうち製品ウエスト部の防滑性付与部4aが占める長さ(r1)は5cm、下縁の防滑性付与部4bが占める長さ(r2)は12cmとした。
着用試験の結果を、編地及び衣料の特性と共に以下の表1に示す。
【0041】
(実施例2)
張力付与部3の外側部分を含め、全周全て本体部2と縫製接着したこと以外は実施例1と同様のボトムスを作製し、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
張力付与部を設けないこと以外は実施例1と同様のボトムスを作製し、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(比較例2)
防滑性付与部を設けないこと以外は実施例1と同様のボトムスを作製し、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。なお、ボトム衣料1の上縁から下縁までの長さは、本体部の長さを長くして、実施例1と同様の45cmとした。
【0044】