(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147441
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】安定液の性能を回復させるための方法および添加液
(51)【国際特許分類】
C09K 8/12 20060101AFI20241008BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C09K8/12
E02D5/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060460
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】森下 智貴
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】荒川 真
(72)【発明者】
【氏名】平尾 孝典
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041EA04
(57)【要約】
【課題】場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるための方法および添加液を提供する。
【解決手段】アクリルアミドに由来する単量体単位とアクリル酸若しくはその塩に由来する構造単位とを含有するアニオン性共重合体を含む水性液からなる、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるための、添加液、ならびに場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液に、前記添加液を添加することを含む、前記安定液の性能を回復させるための方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミドに由来する単量体単位とアクリル酸若しくはその塩に由来する構造単位とを含有するアニオン性共重合体を含む水性液からなる、
場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるための、添加液。
【請求項2】
アニオン性共重合体は、N-置換(メタ)アクリルアミド若しくはその塩に由来する構造単位、メタクリルアミドに由来する構造単位、およびメタクリル酸若しくはその塩に由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくともひとつをさらに含有する、請求項1に記載の添加液。
【請求項3】
アニオン性共重合体は、アニオン度が4~55モル%である、請求項1に記載の添加液。
【請求項4】
アニオン性共重合体は、重量平均分子量が50万~250万である、請求項1に記載の添加液。
【請求項5】
分散剤およびカルシウム封鎖剤からなる群から選ばれる少なくともひとつをさらに含有する、請求項1に記載の添加液。
【請求項6】
場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液に、請求項1に記載の添加液を添加することを含む、前記安定液の性能を回復させるための方法。
【請求項7】
場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液に、請求項1に記載の添加液と、分散剤およびカルシウム封鎖剤からなる群から選ばれる少なくともひとつとを添加することを含む、前記安定液の性能を回復させるための方法。
【請求項8】
添加液の添加量は、安定液100質量部に対してアニオン性共重合体が0.05質量部以上となる割合である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定液の性能を回復させるための方法および添加液に関する。より詳細に、本発明は、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるための方法および添加液に関する。
【背景技術】
【0002】
場所打ち杭工法や、地中連続壁工法などでは、掘削壁面の崩壊を防ぐために安定液が使用される。安定液としては、ベントナイトとカルボキシメチルセルロースとを主成分として含有するもの(以下、ベントナイトCMC安定液ということがある。)が、広く、使用されている。掘削する地盤の土質構成や硬軟、地下水位や水質、掘削深さ等の施工条件に応じて、主成分であるベントナイトとカルボキシメチルセルロースとの配合比、副成分である分散剤(ポリカルボン酸塩)やカルシウム封鎖材(炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウム)などの添加量を調整する。
【0003】
安定液に求められる性能は、掘削工法によって若干の相違はあるものの、主に、掘削孔壁の崩壊防止性能、掘削土砂の地上への搬出と分離性能、コンクリート打設時の良好な置換性能などである。特に崩壊防止性能(造壁性)は重要である。安定液は、繰り返し使用されるが、掘削土砂の混入やコンクリート打設時のセメント成分の影響などによって、徐々に変質する。変質(例えば、粘性低下、粘性上昇、ろ過水量増加、高比重化、pH低下、ゲル化、腐敗変質など)した安定液は、上記の性能が低下しているので、種々の方法によって性能を回復させながら、掘削工法において使用し続けることがある。
【0004】
性能低下した安定液の再生法として、例えば、特許文献1は、不飽和カルボン酸及び/又はその塩(a)を主構成単位とする(共)重合体(x’)からなり、該(共)重合体(x’)の重量平均分子量Mwを20万~300万とした掘削泥水用泥膜形成剤を劣化泥水に添加することを特徴とする掘削用泥水(安定液)の造壁性改善方法を開示している。
【0005】
特許文献2は、安定液掘削工法に於いて、劣化した安定液に対して再生セルロースより製造された平均重合度500以下、平均置換度0.6~0.9M/C6のカルボキシメチルセルロースナトリウム25~75重量部と、平均重合度20~100のポリアクリル酸ソーダ25~50重量部及び炭酸ソーダ5~25重量部(合計100重量部)との混合物を0.05~1.0%添加することを特徴とする再使用可能な安定液の分散方法を開示している。
【0006】
特許文献3は、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩若しくはそれらの共重合体からなり、重量平均分子量Mwを10000~14000としたことを特徴とする掘削泥水用分散剤を、劣化した掘削用泥水(安定液)の再生に使用できる旨を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-036239号公報
【特許文献2】特開平5-9468号公報
【特許文献3】特開2000-87023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるための方法および添加液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
〔1〕 アクリルアミドに由来する単量体単位とアクリル酸若しくはその塩に由来する構造単位とを含有するアニオン性共重合体を含む水性液からなる、
場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるための、添加液。
【0010】
〔2〕 アニオン性共重合体は、N-置換(メタ)アクリルアミド若しくはその塩に由来する構造単位、メタクリルアミドに由来する構造単位、およびメタクリル酸若しくはその塩に由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくともひとつをさらに含有する、〔1〕に記載の添加液。
【0011】
〔3〕 アニオン性共重合体は、アニオン度が4~55モル%である、〔1〕または〔2〕に記載の添加液。
【0012】
〔4〕 アニオン性共重合体は、重量平均分子量が50万~250万である、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載の添加液。
【0013】
〔5〕 分散剤およびカルシウム封鎖剤からなる群から選ばれる少なくともひとつをさらに含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の添加液。
【0014】
〔6〕 場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液に、〔1〕~〔5〕のいずれかひとつに記載の添加液を添加することを含む、前記安定液の性能を回復させるための方法。
【0015】
〔7〕 場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液に、〔1〕~〔5〕のいずれかひとつに記載の添加液と、分散剤およびカルシウム封鎖剤からなる群から選ばれる少なくともひとつとを添加することを含む、前記安定液の性能を回復させるための方法。
【0016】
〔8〕 添加液の添加量は、安定液100質量部に対してアニオン性共重合体が0.05質量部以上となる割合である、〔6〕または〔7〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の添加液は、重合体を含む水性液からなるので、掘削現場において、上記のような性能劣化した安定液に添加するだけで、容易に且つ素早く前記安定液の性能を回復させることができる。
本発明の添加液を、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液に添加することを含む本発明の方法によって、前記安定液の性能を回復させることができる。なお、本発明の方法などによって性能回復された安定液を、以後、再生安定液ということがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】造壁性の評価に使用する加圧ろ過用セルの一例を示す解体図である。
【
図2】造壁性の評価に使用する加圧ろ過試験器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の添加液は、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させるためのものである。場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法は、建築土木分野において、よく知られる基礎工法の一つである。
【0020】
本発明の添加液は、アニオン性共重合体を含む水性液からなる。水性液とは、水溶液、水分散液、または水懸濁液であり、好ましくは水溶液である。
【0021】
本発明に用いられるアニオン性共重合体は、アクリルアミド(式(1a)参照)に由来する構造単位とアクリル酸(式(2a)参照)若しくはその塩に由来する構造単位とを含有し、必要に応じて、N-置換(メタ)アクリルアミド若しくはその塩に由来する構造単位、メタクリルアミド(式(1b)参照)に由来する構造単位、およびメタクリル酸(式(2b)参照)若しくはその塩に由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくともひとつをさらに含有する。アニオン性共重合体は、水溶性であるものが好ましい。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
アクリル酸の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、アルミニウム塩などの金属塩と、アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ピリジン塩などの有機アンモニウム塩を挙げることができる。これらのうちナトリウム塩が好ましい。
【0027】
メタクリル酸の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、アルミニウム塩などの金属塩と、アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ピリジン塩などの有機アンモニウム塩を挙げることができる。これらのうちナトリウム塩が好ましい。
【0028】
N-置換の(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドまたはメタクリルアミド中のアミノ基(-NH2)の1個または2個の水素原子が、無置換若しくは置換の炭化水素基によって置換されたもの若しくはアミノ基(-NH2)が四級化(-N+R4)されたものである。なお、Rは、同じ無置換若しくは置換の炭化水素基であってもよいし、異なる無置換若しくは置換の炭化水素基であってもよい。
【0029】
無置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基; シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのシクロアルキル基; ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基などのアルケニル基; シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などのシクロアルケニル基; エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基などのアルキニル基; フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基などのアリール基; ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基などのアラルキル基などを挙げることができる。
【0030】
置換の炭化水素基における置換基としては、ハロゲノ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、オキソ基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基などを挙げることができる。
【0031】
N-置換の(メタ)アクリルアミドの具体例として、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミドなどのN-アルキル(メタ)アクリルアミド; N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド; N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどのN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド; N,N-ジヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド; N-カルボキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-カルボキシエチル(メタ)アクリルアミドなどのN-カルボキシアルキル(メタ)アクリルアミド; N,N-ジカルボキシアルキル(メタ)アクリルアミド; N-(1-スルホ-2-メチルプロパン-2-イル)-(メタ)アクリルアミド(別名:2-(メタ)アクリロイルアミノ-2-メチルプロパン-1-スルホン酸)などのN-スルホアルキル(メタ)アクリルアミド; N,N-ジスルホアルキル(メタ)アクリルアミド; N-(3-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド; アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
これらのうち、N-置換のアクリルアミドが好ましく、N-スルホアルキルアクリルアミド(式(3)参照)若しくはその塩がより好ましく、N-(1-スルホ-2-メチルプロパン-2-イル)-(メタ)アクリルアミド若しくはその塩がさらに好ましい。N-スルホアルキルアクリルアミドの塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、アルミニウム塩などの金属塩; アンモニウム塩; トリアルキルアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ピリジン塩などの有機アンモニウム塩、ホスホニウム塩などを挙げることができる。これらのうちナトリウム塩が好ましい。
【0032】
式(3)中のAは、アルカンジイル基(アルカン中の水素原子2個が外れた構造の原子団)である。
【0033】
本発明に用いられるアニオン性共重合体は、その他の単量体に由来する構造単位をさらに有してもよい。その他の単量体としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの多官能不飽和カルボン酸(無水物)またはその塩; (メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル; エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル; (メタ)アクリル酸アリル、酢酸ビニル、酢酸プロピルなどのカルボン酸ビニルエステル; (メタ)アクリル酸グリシジル; ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはその塩; (メタ)アクリロニトリル; スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、クロロメチルスチレンなどのスチレン系単量体; N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニルアミド若しくはN-アリルアミド; ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アリルアミン; アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロイド、アクリロイル2-ヒドロキシプロピルリドなどを挙げることができる。
【0034】
アニオン性共重合体中の構造単位は、前記単量体中のエチレン性不飽和結合が付加重合反応することによって形成される。例えば、アクリルアミドに由来する構造単位は式(Ia)で表され、アクリル酸に由来する構造単位は式(IIa)で表され、N-スルホアルキルアクリルアミドに由来する構造単位は式(III)で表され、イタコン酸に由来する構造単位は式(IV)で表される。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
なお、式(Ia)、(IIa)、(III)および(IV)中のnはそれぞれ独立に[]内の構造の数を表す。*は結合の手である。Aは、アルカンジイル基(アルカン中の水素原子2個が外れた構造の原子団)である。
【0039】
本発明に用いられるアニオン性共重合体は、アニオン度(これはアニオン性モノマーの割合によって調整できる。)の下限が、好ましくは4モル%、より好ましくは7モル%、さらに好ましくは8モル%、よりさらに好ましくは10モル%、最も好ましくは30モル%であり、アニオン度の上限は、好ましくは65モル%、より好ましくは60モル%、さらに好ましくは55モル%、よりさらに好ましくは53モル%、最も好ましくは50モル%である。アニオン性共重合体のアニオン度は、滴定法による測定で決定することができる(日本下水道事業団,2015.第12章 汚泥脱水設備〔参考資料〕274 水環境学会誌 Journal of Japan Society on Water Environment下水消化汚泥の遠心脱水プロセスにおける高分子凝集剤の最適薬注率の設定汚泥分析法.機械設備標準仕様書平成27年度版.下水道事業支援センター,東京,pp. 12-141-12-144.)。また、アニオン性共重合体のアニオン度は、アニオン性共重合体を構成する構造単位の割合が判明している場合には、それによって算出することができ、アニオン性共重合体を構成する構造単位の由来単量体の種が判明している場合にはアニオンコロイド当量値から算出することができる。
【0040】
本発明に用いられるアニオン性共重合体は、重量平均分子量が、好ましくは20万以上、より好ましくは25万以上、さらに好ましくは28万以上、よりさらに好ましくは30万以上、最も好ましくは50万以上である。重量平均分子量の上限は、水性液を調製できる限り特に制限はなく、好ましくは400万、より好ましくは350万、さらに好ましくは300万、よりさらに好ましくは250万である。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定で標準ポリマー(プルラン=[(C6H10O5)n]m)の分子量との対比にて決定することができる。
【0041】
本発明に用いられるアニオン性共重合体は、その製造方法によって制限されず、例えば、溶液重合法、水溶液重合法、ゲル重合法、懸濁重合法、逆相懸濁重合法などで得ることができる。
【0042】
水性液に含まれるアニオン性共重合体の量は、所定のろ過水量を回復できる限り、特に制限されず、例えば、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは1~40質量%、さらに好ましくは2~35質量%、よりさらに好ましくは5~30質量%である。
【0043】
本発明の添加液は、アニオン性共重合体以外に、分散剤、界面活性剤、増粘剤、気泡安定化剤、カルシウム封鎖剤、pH調整剤などの副添加剤を含有していてもよい。副添加剤は水性液の状態で本発明の添加液に添加することが好ましい。
高分子分散剤(重量平均分子量は、好ましくは1,000~100,000である。)としては、例えば、ポリアルキレンポリアミン、ポリエチレングリコール、ソルビタンアルキルエステル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
低分子分散剤としては、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルカルボン酸ナトリウム、アルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルエチレンオキサイド付加物、モノグリセリドなどを挙げることができる。
カルシウム封鎖剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、三リン酸五ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、トリニトリック酢酸、エチレンジアミンテトラアセテイト(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン4酢酸などを挙げることができる。
pH調整剤としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、メチルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン、メチルエチルアミン、モノイソプロピルアミン、フェントラミン、メチルプロピルアミン、ジイソプロピルアミンなどのアルキルアミン類、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン、などのアルカノールアミン類、アンモニア、ピリジンなどを挙げることができる。
【0044】
本発明の添加液の適用対象である安定液は、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用したもの(以下、使用済安定液ということがある。)である。使用済安定液は、未使用安定液に比べて、例えば、粘性低下、粘性上昇、ろ過水量増加、高比重化、pH低下、ゲル化、腐敗変質などの変質をしていることがある。
【0045】
使用済安定液は、粘性土若しくは掘削土および水、必要に応じて、分散剤、増粘剤、気泡安定化剤、カルシウム封鎖剤、pH調整剤などを含有するものである。使用済安定液は、従来から使用されているカルボキシメチルセルロースナトリウムなどを含有するものであってもよいし、本発明に使用されるアニオン性共重合体を含有するものであってもよい。使用済安定液には、セメント、掘削砂、粗粒分の多い土、礫質土などがさらに含まれていることがある。なお、粗粒分は、粒径が75μm超過75mm以下の土粒子である。礫質土は礫を多く含んだ土である。礫は、一般に、粒径が2mm以上の土粒子である。
【0046】
使用済安定液に含有される粘性土若しくは掘削土の量は、未使用安定液に含有されていた粘性土若しくは掘削土の量に比べて、相対的に低くなっていたり、または高くなっていたりすることがある。その場合には、使用済安定液に、粘性土若しくは掘削土、または水を補充することができる。再生安定液に含有させ得る粘性土若しくは掘削土の量は、掘削壁面の崩壊を防ぐことができる限り、特に制限されず、例えば、再生安定液に含有される水1kgに対して、下限が好ましくは10g、より好ましくは15gであり、上限が好ましくは270g、より好ましくは150gである。また、本発明の再生安定液に含有される粘性土若しくは掘削土の量は、地中連続壁工法において、例えば、掘削時に好ましくは比重1.02~1.20となる量、スライム処理時に好ましくは比重1.01~1.10となる量とすることができる。なお、水の補充量は、本発明の添加液や副添加剤水性液などに含まれている水を考慮すべきことは当業者であれば理解できるはずである。
【0047】
粘性土としては、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、セピオライト、アタパルジャイト、セリサイト、イライト、タルク、クロライト、ゼオライト、グローコナイト、カオリナイト、含水マグネシウムケイ酸塩などを挙げることができるが、効果の点でベントナイトが好ましい。使用済安定液の密度を高めるために、バライト、チョーク、酸化鉄などを用いることもできる。
【0048】
掘削土は、掘削現場から発生する土であるが、安定液においては、細粒分の多い、例えば細粒分50%以上の、土であることが好ましい。なお、細粒分は、粒径が75μm未満の土粒子である。
【0049】
使用済安定液に添加し得る本発明の添加液の量は、場所打ち杭工法若しくは地中連続壁工法において掘削壁面の崩壊を防ぐために使用した安定液の性能を回復させることができる限り、特に制限されない。使用済安定液に添加し得る本発明の添加液の量は、例えば、再生安定液に含有される水1kgに対して、前述のアニオン性共重合体が、好ましくは0.01~30g、より好ましくは0.05~25gとなる量である。または、本発明の添加液の添加量は、例えば、使用済安定液100質量部に対して、アニオン性共重合体が、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。
【0050】
本発明の添加液とともに副添加剤を使用済安定液に添加してもよい。副添加剤は水性液の状態で使用済安定液に添加することが好ましい。使用済安定液に添加し得る副添加剤の量は、掘削壁面の崩壊を防ぐことができる限り、特に制限されない。例えば、再生安定液に含有される水1kgに対して、例えば、分散剤の添加量は、下限が好ましくは10g、より好ましくは20g、上限が好ましくは50g、より好ましくは40gであり、カルシウム封鎖剤の添加量は、下限が好ましくは10g、より好ましくは20g、上限が好ましくは50g、より好ましくは40gである。または、分散剤またはカルシウム封鎖剤の添加量は、例えば、使用済安定液100質量部に対して、それぞれ、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。
【0051】
次に本発明の添加液による使用済安定液の性能回復効果を下記の例によって示す。
【0052】
(造壁性の評価方法)
API規格に準拠して、ドレンチューブ7、パッキング13、スクリーン金網12、ろ紙11、パッキング10、およびシリンダーセル8の順に組み立て、シリンダーセル8内に泥水を約300ml入れ、パッキング9、上蓋6にて密閉し、それをフレーム3に取り付けて、押えスクリュー2で固定して、加圧ろ過試験器1(ろ過面積:45cm
2)を組み立てた(
図1、2参照)。コンプレッサを用いて3kgf/cm
2で30分間加圧した。ドレンチューブ7から流出するろ液をメスシリンダ4で受け、量(ml)を測定した。
【0053】
(アニオン性共重合体)
アニオン性共重合体を含む水性液として以下のものを用意した。
水性液I : 重量平均分子量30万、アニオン度10モル%のアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を15質量%含む水溶液
水性液II : 重量平均分子量140万、アニオン度30モル%のアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を3質量%含む水溶液
水性液III : 重量平均分子量50万、アニオン度30モル%のアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を9質量%含む水溶液
水性液IV : 重量平均分子量30万、アニオン度30モル%のアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を15質量%含む水溶液
水性液V : 重量平均分子量30万、アニオン度50モル%のアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を15質量%含む水溶液
水性液VI : 重量平均分子量40万、アニオン度10モル%のアクリルアミドとイタコン酸ナトリウムとの共重合体を15質量%含む水溶液
水性液VII : 重量平均分子量40万、アニオン度50モル%のアクリルアミドとイタコン酸ナトリウムとの共重合体を15質量%含む水溶液
【0054】
(劣化安定液の調製)
ベントナイト2.0質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMCNa塩)0.2質量部および水道水97.8質量部を混ぜ合わせて安定液を得た。この安定液に、粘土(トチクレー)6.3質量部および普通ポルトランドセメント0.7質量部を混ぜ合わせ、2週間放置して、劣化安定液(使用済安定液)Aを得た。
【0055】
例1-1
劣化安定液A100質量部に水性液I0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
例1-2
劣化安定液A100質量部に水性液II3.33質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
例1-3
劣化安定液A100質量部に水性液III1.11質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
例1-4
劣化安定液A100質量部に水性液IV0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
例1-5
劣化安定液A100質量部に水性液V0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
例1-6
劣化安定液Aの造壁性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
前記劣化安定液の調製と同じ方法で、別の日に、劣化安定液Bを得た。劣化安定液Bの造壁性は劣化安定液Aの造壁性よりも低かった。
【0063】
例2-1
劣化安定液B100質量部に水性液I0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表2に示す。
【0064】
例2-2
劣化安定液B100質量部に水性液IV0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
例2-3
劣化安定液B100質量部に水性液V0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表2に示す。
【0066】
例2-4
劣化安定液B100質量部に水性液VI0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表2に示す。
【0067】
例2-5
劣化安定液B100質量部に水性液VII0.67質量部を添加して、再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
前記劣化安定液の調製と同じ方法で、別の日に、劣化安定液Cを得た。劣化安定液Cの造壁性は劣化安定液Bの造壁性よりも低くかった。
【0070】
例3-1
劣化安定液C100質量部に、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.2質量部、および水性液I0.4質量部若しくは0.73質量部を添加して再生安定液をそれぞれ得た。各再生安定液の造壁性を評価した。結果を表3に示す。
【0071】
例3-2
劣化安定液C100質量部に、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.2質量部、および水性液IV0.4質量部若しくは0.73質量部を添加して再生安定液をそれぞれ得た。各再生安定液の造壁性を評価した。結果を表3に示す。
【0072】
例3-3
劣化安定液C100質量部に、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.2質量部、および水性液V0.4質量部若しくは0.73質量部を添加して再生安定液をそれぞれ得た。各再生安定液の造壁性を評価した。結果を表3に示す。
【0073】
【0074】
例4-1
劣化安定液C100質量部に、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.2質量部、炭酸ナトリウム(カルシウム封鎖剤)0.2質量部、および水性液I0.4質量部を添加して再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表4に示す。
【0075】
例4-2
劣化安定液C100質量部に、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.2質量部、炭酸ナトリウム(カルシウム封鎖剤)0.2質量部、および水性液IV0.4質量部を添加して再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表4に示す。
【0076】
例4-3
劣化安定液C100質量部に、ポリアクリル酸ナトリウム(分散剤)0.2質量部、炭酸ナトリウム(カルシウム封鎖剤)0.2質量部、および水性液V0.4質量部を添加して再生安定液を得た。再生安定液の造壁性を評価した。結果を表4に示す。
【0077】
【0078】
以上の結果が示すとおり、本発明の添加液を使用済安定液に添加すると、ろ液の量が減り、造壁性が改善される。使用済安定液の変質状況に応じて本発明の添加液と分散剤もしくはカルシウム封鎖剤などの副添加剤との割合などを適宜変更することによって使用済安定液の効果的な再生ができる。
【符号の説明】
【0079】
1:加圧ろ過試験器
2:押えスクリュー
3:フレーム
4:メスシリンダ
5:サポート
6:上蓋
7:ドレンチューブ
8:シリンダセル
9:パッキング
10:パッキング
11:ろ紙
12:スクリーン金網
13:パッキング
14:払い弁