(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014755
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】元素評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20240125BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20240125BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240125BHJP
【FI】
G01N31/00 Y
G01N31/00 P
G01N21/73
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105758
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022116571
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】曽我 賢一
【テーマコード(参考)】
2G041
2G042
2G043
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA02
2G041FA16
2G042AA01
2G042BA08
2G042CA07
2G042CB06
2G042DA03
2G042EA01
2G042FA04
2G042GA01
2G042GA02
2G043AA01
2G043BA07
2G043BA11
2G043EA08
(57)【要約】
【課題】炭素、硫黄を含む試料において、硫黄をはじめとする不純物元素を、正確に、そして、常に安定して評価でき、更に、安全性も十分に確保された元素評価方法を提供する。
【解決手段】炭素、硫黄を含む試料の元素評価方法であって、前記試料を少なくとも硝酸と、臭素、及び/又は、過マンガン酸塩を含む酸化促進剤と、により開放状態で酸分解し、第1酸分解試料を得る第1酸分解工程と、前記第1酸分解試料を密閉状態で加圧酸分解し、第2酸分解試料を得る第2酸分解工程と、前記第2酸分解試料を少なくとも水と混合し、液量調整して測定試料を得る定容工程と、前記測定試料の元素含有濃度を機器分析法により測定し、前記試料の元素含有量を得る測定工程と、を有することを特徴とする元素評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、硫黄を含む試料の元素評価方法であって、
前記試料を少なくとも硝酸と、臭素、過マンガン酸塩のいずれか若しくは両者を含む酸化促進剤と、により開放状態で酸分解し、第1酸分解試料を得る第1酸分解工程と、
前記第1酸分解試料を密閉状態で加圧酸分解し、第2酸分解試料を得る第2酸分解工程と、
前記第2酸分解試料を少なくとも水と混合し、液量調整して測定試料を得る定容工程と、
前記測定試料の元素含有濃度を機器分析法により測定し、前記試料の元素含有量を得る測定工程と、
を有することを特徴とする元素評価方法。
【請求項2】
前記過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸リチウムから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の元素評価方法。
【請求項3】
前記過マンガン酸塩が、0.1~6w/v%溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の元素評価方法。
【請求項4】
前記過マンガン酸塩が、0.4~4w/v%溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の元素評価方法。
【請求項5】
前記加圧酸分解の方法が、加圧分解容器法、又は、マイクロウェーブ酸分解法であることを特徴とする請求項1に記載の元素評価方法。
【請求項6】
前記機器分析法が、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法、イオンクロマト分析法から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の元素評価方法。
【請求項7】
前記第1酸分解工程で固定剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の元素評価方法。
【請求項8】
前記固定剤が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、ランタン、セリウムから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項7に記載の元素評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素評価方法に関する。より詳しくは、炭素、硫黄を含む試料の元素評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料、中間物、及び、製品において、これらを構成する主成分元素の種類(主要化学組成)のほか、添加元素や不純物元素の種類と含有量を正確に把握することは、製品の特性や使用環境への影響などを考慮する上で、極めて重要である。最近では、製品の特性向上のみならず、新たな特性の発現を目的とした、高純度材料の開発が活発化しており、開発品レベルでの不純物元素の含有量は、著しく低減されている。また、高純度材料などの開発品以外にも、大量生産される量産品の不純物元素の低減も図られており、従って、微量成分元素である不純物元素を評価することは、特性についての研究を進める上で、必要不可欠である。
【0003】
不純物元素の中でも、硫黄は、特に注目されるべき元素の1つである。
例えば、車両用タイヤをはじめ、多くのゴム製品に強化剤として配合されているカーボン粉では、含まれる硫黄がゴムの弾性を改善(加硫)させる方向に働くが、一方で、それとは逆に、電子機器の配線や電極の製造に使われる、導電性ペースト用の有機コート金属粉では、含まれる硫黄が導電性を悪化(脆化物を発生)させる可能性がある。
【0004】
このような性質を有する硫黄や、その他の不純物元素を、機器分析法を用いて効率良く低濃度まで分析するには、前処理による試料の溶液化が必須である。上記の例の様に、炭素、硫黄を含む試料において、硫黄が評価対象元素となる場合、最も一般的な有機物含有試料の前処理法である、「硝酸と硫酸による酸分解(所謂、硝硫酸分解)」を行うことが出来ない。また、硫酸を過塩素酸に置き換えようとしても、有機物を多量に含む試料では、爆発の恐れがあるため、初めから用いることは出来ず、予め硝酸単一での加熱分解を長時間行っておく必要がある。なお、高温で有機物を灰化する乾式灰化法では、その操作過程において、試料の揮散ロスや外部からのコンタミネーション(汚染)が起こる恐れがある。
【0005】
更に、特許文献1には、2層フレキシブル基板において、エッチング処理後の絶縁フィルム表層部に残留した金属成分を、マイクロウェーブ分解装置を用いて、硝酸70~90%と過酸化水素10~30%からなる溶液で溶解し、前記金属成分を溶解した溶解液を、誘導結合プラズマイオン源質量分析装置を用いて、定量分析する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、牡蠣の可食部を粉砕するステップと、前記可食部に硝酸と過酸化水素をそれぞれ別個に加えて混合溶液を調製するステップと、前記混合溶液を密閉可能容器に収納し、密閉状態を実現するステップと、前記密閉状態において、前記混合溶液を200℃以上にマイクロ波加熱し、前記密閉状態の内部圧力を大気圧より高くし、前記密閉状態で少なくとも15分間200℃以上の昇温状態を維持し、前記可食部を酸分解し、分析用試料を調製するステップと、前記分析用試料に含まれる複数の無機成分を誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析するステップと、を含むことを特徴とする分析方法が開示されている。
【0007】
さらに、不純物元素の中でも硫黄は、試料中に単体硫黄、硫酸塩、及び、硫化物として存在する場合、硝酸単一による分解において、それぞれ下記式(1)、式(2)、式(3)、式(3a)に示すような反応が進む。
【0008】
【0009】
式(1)から式(3a)で判るように、硝酸単一による分解では、試料に硫化物が含まれる場合、二酸化硫黄(SO2)が揮散ロスすることで、評価結果が低値を示すこととなる。
これに対して、特許文献1、2に記載の技術では、硝酸と共に添加されている、過酸化水素の酸化促進剤としての働きにより、下記式(4)の反応が進み、二酸化硫黄での揮散ロスを十分に抑制することが可能と考えられる。
【0010】
【0011】
ところが、過酸化水素は、試薬の保管期間や保管環境により、酸化促進剤としての効力に劣化を生じ易く、正確な評価結果を常に安定して得るには、保管期間や保管環境の厳密化が必要である。
また、試料の分解に用いられている、マイクロウェーブ分解装置は、高温・高圧下、かつ、強酸による密閉系での前処理技術であり、有機物の分解には有利であるものの、酸分解開始時に発生する、二酸化窒素(NO2)などへの対策について、特許文献1では全くなされておらず、特許文献2でも詳しく記載されていない(密閉する前に、硝酸、過酸化水素を加えて混合溶液を調製したことのみ)ため、このままでは、安全性の確保が不十分という問題も包含している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-020217号公報
【特許文献2】特開2020-122715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、炭素、硫黄を含む試料において、硫黄をはじめとする不純物元素を、正確に、そして、常に安定して評価でき、更に、安全性も十分に確保された元素評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決可能な、炭素、硫黄を含む試料の元素評価方法を、新たに開発するために、鋭意研究を積み重ねた。その結果、以下の特徴を有する元素評価方法により、上記の課題が解決出来ることを見出した。
【0015】
即ち、上記の課題を解決するための本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、炭素、硫黄を含む試料の元素評価方法であって、前記試料を少なくとも硝酸と、臭素、過マンガン酸塩のいずれか若しくは両者を含む酸化促進剤とにより開放状態で酸分解し、第1酸分解試料を得る第1酸分解工程と、前記第1酸分解試料を密閉状態で加圧酸分解し、第2酸分解試料を得る第2酸分解工程と、前記第2酸分解試料を少なくとも水と混合し、液量調整して測定試料を得る定容工程と、前記測定試料の元素含有濃度を機器分析法により測定し、前記試料の元素含有量を得る測定工程とを有することを特徴とする元素評価方法である。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明における過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸リチウムから選択される1種以上であることを特徴とする元素評価方法である。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の発明における前記過マンガン酸塩が、0.1~6w/v%溶液であることを特徴とし、第4の態様は、前記過マンガン酸塩が0.4~4w/v%溶液であることを特徴とする元素評価方法である。
又、本発明の第5の態様は、第1の態様に記載の発明における加圧酸分解の方法が、加圧分解容器法、又は、マイクロウェーブ酸分解法であることを特徴とする元素評価方法である。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1の態様に記載の発明における機器分析法が、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法、イオンクロマト分析法から選択される1種以上であることを特徴とする元素評価方法である。
【0019】
本発明の第7の態様は、第1の態様に記載の発明における第1酸分解工程で固定剤を用いることを特徴とする元素評価方法である。
【0020】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の発明における固定剤が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、ランタン、セリウムから選択される1種以上を含むことを特徴とする元素評価方法である。
【発明の効果】
【0021】
炭素、硫黄を含む試料において、硫黄をはじめとする不純物元素を、正確に、そして、常に安定して評価でき、更に、安全性も十分に確保された元素評価方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る、元素評価方法について、その全体像を示す操作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る、元素評価方法について、以下に説明する。
また、本発明は、以下の説明における内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の変更例や、代替例を含むことが出来る。なお、本明細書において、数値範囲をA~B(ここで、AとBは、A<Bの関係にある任意の数値)と記載している場合は、A以上B以下を意味しており、Aを上回る場合(Aを含まずに、それ以上の場合)、Bを下回る場合(Bを含まずに、それ以下の場合)も包含される数値範囲である。
【0024】
図1は、本発明に係る、元素評価方法について、その全体像を示す操作フロー図であり、操作フロー図の順序に従って説明する。
1.第1酸分解工程
炭素、硫黄を含む試料を、少なくとも硝酸と、臭素、過マンガン酸塩のいずれか若しくは両者、あるいはそれらのいずれかを含む酸化促進剤とにより開放状態で酸分解し、第1酸分解試料を得る工程である。
炭素、硫黄を含む試料としては、カーボン粉、有機コート金属粉のほか、潤滑剤、脱硫触媒、プラスチック、及び、プリント配線基板などが挙げられる。
試料量は、炭素、硫黄、及び、その他の評価対象元素の含有量などにもよる(特に限定されない)が、2g以下が好ましく、1g以下がより好ましく、0.01~0.5gが特に好ましい。
【0025】
分解容器としては、ガラスビーカー、テフロン(登録商標)ビーカーなどが挙げられ、ケイ素を含む試料の場合には、ケイ素を分解・揮散させるのにフッ化水素酸が必要となるため、フッ化水素酸に侵されないテフロンビーカーを用いるのが好ましい。(以降、「テフロン(登録商標)」を単に「テフロン」とも記載する。)また、微量のホウ素やリンなどが評価対象元素とされる場合にも、ガラスビーカーからのコンタミネーションが考えられるため、テフロンビーカーを用いるのが好ましい。
【0026】
硝酸の添加量は、試料量のほか、炭素、硫黄、及び、その他の評価対象元素の含有量などにもよる(特に限定されない)が、5~50mLが好ましく、5~30mLがより好ましく、5~15mLが特に好ましい。
【0027】
また、本発明における酸化促進剤、例えば、臭素、過マンガン酸塩(1w/v%溶液として)のいずれか若しくは両者の添加量は、試料量のほか、炭素、硫黄、及び、その他の評価対象元素の含有量などにもよる(特に限定されない)が、1~10mLが好ましく、1~5mLがより好ましく、1~3mLが特に好ましい。
なお、過酸化水素は、前述の通り、試薬の保管期間や保管環境により、酸化促進剤としての効力に劣化を生じ易く、かつ、劣化度合いも一定していないため、劣化を加味した添加量の制御も非常に困難である。
【0028】
更に、上記に記載した以外の酸化促進剤としては、臭素や過マンガン酸塩をはじめ、塩素酸塩、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、臭素酸塩、過臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、亜ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、重クロム酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ペルオキソホウ酸塩、ペルオキソ二硫酸塩、無機過酸化物、過塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸、及び、ヨウ素など(臭素水や過マンガン酸カリウム溶液など、これらの水溶液を含む)、上記物質が溶解したものが挙げられるが、酸化力の強さ、コスト、安全性、有害性、取り扱い易さ、及び、環境への配慮などを総合的に考慮した場合、臭素、過マンガン酸塩のいずれか若しくは両者が好ましく、臭素、又は、過マンガン酸塩がより好ましく、臭素が特に好ましい。
そして、過マンガン酸塩の水溶液を用いる場合には、0.1w/v%未満では効果が薄く、6w/v%を超えての含有では効果が飽和してしまうために、その濃度は0.1~6w/v%が好ましく、0.2~5w/v%がより好ましく、0.4~4w/v%の濃度範囲が必要とする酸化力を示しつつ、他の特性を合わせて総合的に判断する場合では特に好ましい。
二酸化硫黄に対して、臭素、過マンガン酸塩の酸化促進剤としての働きにより、それぞれ下記式(5)、(6)の反応が進む。
【0029】
【0030】
また、第1酸分解工程では、カーボン粉など炭素含有量が高い試料において、固定剤を添加しておくことが好ましい。
この固定剤とは、例えば、フッ化水素酸を加えてのケイ素の分解・揮散など、前処理の過程で試料を蒸発乾固させた場合(又は、誤って蒸発乾固させてしまった場合)に、微量の硫酸となった硫黄分を硫酸塩の形で固定し、揮散ロスを防ぐ働きがある元素を言う。
【0031】
即ち、上記のカーボン粉などは、有機物を分解後、生成した硫酸と硫酸塩を形成する元素が殆ど存在せず、そのまま蒸発乾固させると、微量の硫酸が揮散ロスすることとなるため、誤って蒸発乾固させてしまった場合を想定し、固定剤を添加しておくことが好ましい。
固定剤の添加量は、特に限定されないが、硫黄と硫酸塩を形成する量の2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上が特に好ましい。
【0032】
なお、固定剤となる元素としては、評価対象元素のほか、機器分析法における評価対象元素への干渉などにもよる(特に限定されない)が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、ランタン、セリウムから選択される1種以上を含むことが好ましい。更に、試料中に固定剤となり得る元素(例えば、銅、ニッケル、鉄など)が十分に含まれる場合でも、評価対象元素以外で、かつ、機器分析法における評価対象元素への干渉などが無ければ、固定剤(例えば、ナトリウム、カリウム、ストロンチウムなど)が添加されていても構わない。
【0033】
硫酸に対して、固定剤の働きにより、以下の反応が進む。
固定剤に、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)を用いた場合、下記式(7)の反応が進む。
【0034】
【0035】
第1酸分解工程における酸分解は、試料の分解時に発生する二酸化窒素などのNOXや水素に対して、安全性を確保するため、開放状態で行われるのが好ましい。この操作により、次工程である第2酸分解工程において、密閉状態で加圧酸分解を行う際に、発生ガスが及ぼす専用容器内の圧力増加に伴う危険性を排除することにも繋がる。
また、分解温度も、試料の種類によっては、酸や酸化促進剤と激しく反応する恐れがあるため、室温の状態から反応の様子を確認しながら徐々に昇温するのが好ましい。
なお、反応が安定した後の加熱温度は、特に限定されないが、150~300℃が好ましく、150~280℃がより好ましく、150~250℃が特に好ましい。
更に、反応が安定した後の加熱時間も、特に限定されないが、15~60分が好ましく、15~45分がより好ましく、15~30分が特に好ましい。
【0036】
2.第2酸分解工程
第1酸分解試料を密閉状態で加圧酸分解し、第2酸分解試料を得る工程である。
第2酸分解工程における酸分解は、第1酸分解試料に残った未分解物、溶存性炭素を十分に分解するため、密閉状態、即ち、加圧酸分解するのがよく、加圧分解容器法、又は、マイクロウェーブ酸分解法で行われるのが好ましい。
【0037】
加圧分解容器法は、加圧分解容器を用いた酸分解法であり、加圧分解容器は、テフロン(登録商標)製の内容器とステンレス製の外容器で構成され、第1酸分解試料を内容器に移し入れ、蓋をした後、外容器で密閉してオーブン中で加熱分解する。マイクロウェーブ酸分解法は、マイクロ波を用いた酸分解法であり、第1酸分解試料をテフロン製や石英製などの専用容器に移し入れ、密閉した後、マイクロ波を照射して加熱分解するが、特にテフロン製の専用容器は、セラミックス製の保護容器に入れられ、高圧(6MPa近くまで)にも耐えられる。なお、以降「テフロン(登録商標)製」は単に「テフロン製」と表記する場合がある。
また、加熱温度は、特に限定されないが、180~300℃が好ましく、180~280℃がより好ましく、180~250℃が特に好ましい。なお、加熱時間も、特に限定されないが、15~240分が好ましく、15~120分がより好ましく、15~60分が特に好ましい。
【0038】
3.定容工程
第2酸分解試料を少なくとも水と混合し、液量調整して測定試料を得る工程である。
第2酸分解試料を水で定容容器に移し入れ、液量調整を行う。
使用する定容容器としては、全量フラスコ、試験管、ボトルなどが挙げられ、それぞれ、フラスコ栓、試験管栓、スクリュー蓋などが付属したものを用いるのがよい。
定容容器の素材としては、ガラス、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、テフロンなどが挙げられるが、微量の貴金属などが評価対象元素とされる場合には、測定試料を保管中に、これらの元素が容器内壁へ吸着する恐れのない、ガラス製のものを用いるのが好ましく、微量のホウ素やリンなどが評価対象元素とされる場合には、ガラスからのコンタミネーションが考えられるため、ポリプロピレン製などのものを用いるのが好ましい。
【0039】
4.測定工程
測定試料の元素含有濃度を機器分析法により測定し、試料の元素含有量を得る工程である。
測定試料の評価対象元素の含有濃度を基に、試料の評価対象元素の含有量を算出する。
その測定は、絶対検量線法、標準添加法、内標準法などの方法で行うことができ、適宜、測定試料を、水や酸を用いて、測定するのに最適な倍率にまで希釈(薄める)し、希釈溶液を作製するのがよい。また、絶対検量線法、及び、内標準法では、更なる測定精度向上のため、検量線作成用の標準溶液に、測定試料(又は、希釈溶液)に含まれる量と同量の主成分元素を加えて、溶液間の組成を合わせるマトリックスマッチング法(等組成法とも呼ばれる)を行ってもよい。
【0040】
機器分析法としては、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析法、フレーム原子吸光分析法、フレームレス原子吸光法、イオンクロマト分析法などを用いることができ、この中でも、元素含有量を迅速、かつ、精度良く評価することが可能な、ICP発光分光分析法、又は、ICP質量分析法を用いるのが好ましい。
【実施例0041】
以下、本発明の一実施形態に係る、元素評価方法について、実施例などにより詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例などに限定されるものではない。
また、これらの実施例などにおける試薬類は、特に説明が無い限り、全て富士フィルム和光純薬株式会社製(試薬特級)のもの、及び、これらから作製したものを用いた。更に、これらの実施例などにおける水は、全て超純水を用いた。
次に、マイクロウェーブ加圧分解装置であるマルチウェーブ3000(株式会社アントンパール・ジャパン製)での処理が行える様、第1酸分解試料を専用容器(テフロン製)に移し入れ、装置に設置した後(即ち、密閉状態)、出力800W以上(200℃以上)で、かつ、15分以上加熱し、試料を加圧分解して第2酸分解試料を得た。
そして、第2酸分解試料を50mL全量フラスコに移し入れ、内標準法用のイットリウム溶液(100mg/L)を5mL加え、水を用いて50mLに定容後、混合して測定試料(通常検体)を得た。