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特開2024-147576センサ用カバー、及びセンサモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147576
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】センサ用カバー、及びセンサモジュール
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20241008BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20241008BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20241008BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20241008BHJP
   H05B 3/16 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01S7/481 Z
C03C17/36
C03C17/38
G02B5/28
H05B3/16
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101927
(22)【出願日】2024-06-25
(62)【分割の表示】P 2023554641の分割
【原出願日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2021173364
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹本 和矢
(72)【発明者】
【氏名】小柳 篤史
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 直人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】センサ用カバーを構成する導電体と発熱膜の短絡(ショート)を抑制する、技術を提供する。
【解決手段】センサ用カバー2は、センサ5を収容する筐体3の開口に設けられる。前記センサ用カバー2は、前記筐体3の外側から前記筐体3の内側に向けて、導電体22と、発熱膜24と、を所望の順番で備える。前記導電体22は、導電性酸化物である。前記導電体22と前記発熱膜24とは、絶縁されている。前記導電体22は、グランドに電気的に接続されている。前記導電体22と前記発熱膜24の最短距離Lminが2.0μm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサを収容する筐体の開口に設けられるセンサ用カバーであって、
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、導電体と、発熱膜と、を所望の順番で備え、
前記導電体は、導電性酸化物であり、
前記導電体と前記発熱膜とは、絶縁されており、
前記導電体は、グランドに電気的に接続されており、
前記導電体と前記発熱膜の最短距離が2.0μm以上である、センサ用カバー。
【請求項2】
前記筐体は導電材料で形成されており、
前記導電体は、前記グランドとしての前記筐体に電気的に接続されている、請求項1に記載のセンサ用カバー。
【請求項3】
前記発熱膜は、電源に電気的に接続されている、請求項1に記載のセンサ用カバー。
【請求項4】
前記発熱膜は、線状に形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項5】
前記導電体と前記発熱膜の最短経路に電圧12Vを掛けた時の電流値が1mA以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項6】
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記誘電体多層膜と前記発熱膜との間に、絶縁膜を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項7】
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記誘電体多層膜と前記発熱膜との間に、絶縁膜を備え、
前記絶縁膜は、線状の前記発熱膜に沿って帯状に設けられる、請求項4に記載のセンサ用カバー。
【請求項8】
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、基材と、誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記基材は、絶縁性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項9】
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記導電体は開口パターンを有する膜であって、前記導電体の厚さ方向から見たときに前記開口パターンの輪郭線よりも内側に前記発熱膜が配置される、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項10】
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記導電体を基準として、前記誘電体多層膜とは反対側に、第2誘電体多層膜を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項11】
前記センサ用カバーは、近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項12】
前記センサは、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサである、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバーと、前記筐体と、前記センサと、を備えるセンサモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサ用カバー、及びセンサモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
LiDAR(Light Detection and Ranging)センサなどのセンサを収容する筐体の開口には、センサ用カバーが設けられる。センサ用カバーは、例えば、バンドパスフィルタであって、近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する。特許文献1には、誘電体多層膜を用いたバンドパスフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/117598号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサ用カバーは、積雪、結氷又は結露を防止すべく、発熱膜を有することがある。発熱膜は、電源に電気的に接続されている。センサ用カバーは、発熱膜とは別に、導電膜を有することもある。導電膜は、例えば、EMC(Electromagnetic Compatibility)対策で設けられ、グランドに電気的に接続されている。
【0005】
本開示の一態様は、センサ用カバーを構成する導電体と発熱膜の短絡(ショート)を抑制する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るセンサ用カバーは、センサを収容する筐体の開口に設けられる。前記センサ用カバーは、前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、導電体と、発熱膜と、を所望の順番で備える。前記導電体は、導電性酸化物である。前記導電体と前記発熱膜とは、絶縁されている。前記導電体は、グランドに電気的に接続されている。前記導電体と前記発熱膜の最短距離が2.0μm以上である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、互いに絶縁されている導電体と発熱膜の最短距離が2.0μm以上であるので、導電体と発熱膜の短絡(ショート)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係るセンサモジュールの断面図である。
図2図2は、一実施形態に係るセンサ用カバーの背面図である。
図3図3は、第1変形例に係るセンサモジュールの断面図である。
図4図4は、第2変形例に係るセンサモジュールの断面図である。
図5図5は、第2変形例に係るセンサ用カバーの背面図である。
図6図6は、漏電試験の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
先ず、図1を参照して、一実施形態に係るセンサモジュール1について説明する。センサモジュール1は、センサ用カバー2と、筐体3と、センサ5と、を備える。筐体3は、センサ5を収容する。筐体3は、フレームグランドとして機能してもよく、その場合、例えば金属などの導電材料で形成される。センサ5は、特に限定されないが、例えば車載センサである。車載センサは、例えばLiDAR(Light Detection and Ranging)センサである。
【0011】
LiDARセンサは、近赤外線を対象物に照射し、対象物で反射された近赤外線を受光することで、対象物までの距離及び対象物の方向を検出する。LiDARセンサは、図示しないが、例えば、レーザー光源と、レーザー光源から対象物に近赤外線を照射する照射光学系と、対象物で反射された近赤外線を受光器に導く受光光学系と、受光器と、を備える。なお、車載センサは、LiDARセンサには限定されず、CCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサなどの撮像センサなどであってもよい。
【0012】
センサ5で検出する光は、好ましくは近赤外線である。近赤外線とは、700nm~2500nmの波長を有する電磁波である。LiDARセンサ用の近赤外線として、現在、1530nm~1570nmの波長の近赤外線が検討されている。なお、センサ5で検出する光は、本実施形態では近赤外線であるが、近赤外線には限定されず、例えば可視光線、又は紫外線などであってもよい。センサ5は、車載センサには限定されず、光学センサであればよい。
【0013】
次に、図1及び図2を参照して、一実施形態に係るセンサ用カバー2について説明する。センサ用カバー2は、筐体3の開口に設けられ、雪、雨及び埃などの筐体3の内部への侵入を防止し、センサ5を保護する。センサ用カバー2は、例えば近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである。センサ5で検出する光が近赤外線である場合に、センサ5の感度が良い。また、可視光線を遮蔽することで、筐体3の外部からセンサ5を見えなくすることができる。
【0014】
センサ用カバー2は、筐体3の外側から筐体3の内側に向けて、基材21と、導電膜22と、誘電体多層膜23と、発熱膜24と、を所望の順番で備える。例えば、センサ用カバー2は、筐体3の外側から筐体3の内側に向けて、基材21と、導電膜22と、誘電体多層膜23と、発熱膜24と、をこの順番で備える。
【0015】
基材21は、導電膜22及び誘電体多層膜23を形成するためのものである。基材21は、例えば板状である。基材21の厚さは、(A)導電膜22及び誘電体多層膜23などを成膜する時に生じる反りの低減、(B)薄型化、及び(C)割れ抑制の観点から、好ましくは0.1mm以上5mm以下であり、より好ましくは2mm~4mmである。なお、基材21の形状は、特に限定されない。
【0016】
基材21の材料は、センサ5で検出する光を透過する材料であれば、有機材料でも無機材料でもよく、特に限定されない。基材21は、異なる複数の材料を複合したものでもよい。基材21は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。基材21の無機材料としては、好ましくはガラス又は結晶材料が用いられる。
【0017】
ガラスは、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、又はアルミノシリケートガラスである。ガラスは、化学強化ガラスであってもよい。化学強化ガラスは、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。圧縮応力層は、ガラスに含まれるイオン半径が小さいアルカリ金属イオンを、イオン半径のより大きいアルカリイオンに交換することで形成される。
【0018】
結晶材料は、複屈折性結晶であってよく、例えば、二酸化ケイ素、ニオブ酸リチウム、又はサファイアである。
【0019】
なお、基材21は、導電性材料で形成されてもよく、後述する導電膜22の機能を有してもよい。
【0020】
導電膜22は、例えば、EMC(Electromagnetic Compatibility)対策で設けられ、グランドに電気的に接続されている。グランドは例えば筐体3であり、筐体3と導電膜22は導電性接着剤29で接着される。導電性接着剤29は、一般的なものであってよい。導電性接着剤29は、例えば導電膜22の周縁に設けられる。なお、センサ5が車載センサである場合、グランドとして車体が用いられてもよい。
【0021】
導電膜22は、センサ5で検出する光を透過する材料であればよく、特に限定されない。導電膜22は、異なる複数の材料を複合したものでもよい。導電膜22は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。導電膜22は、好ましくは導電性酸化物で形成される。導電性酸化物は、例えば、ITO(Indium-Tin Oxide)、IZO(Indium-Zinc Oxide)、IGZO(Indium-Gallium-Zinc Oxide)、AZO(Al-doped Zinc Oxide)、GZO(Ga-doped Zinc Oxide)、又はFTO(F-doped Tin Oxide)などである。
【0022】
誘電体多層膜23は、例えば、近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである。誘電体多層膜23は、近赤外線の透過率を向上すべく、近赤外線の反射を防止する反射防止膜を兼ねてもよい。反射防止膜は、空気に接しており、空気とセンサ用カバー2の界面での近赤外線の反射を防止する。誘電体多層膜23は、例えば筐体3の内側から筐体3の外側に向けて伝播する光の反射を防止する。
【0023】
誘電体多層膜23は、高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に含み、光の干渉作用を利用することで反射率を増減できる。反射率が大きいほど透過率が低下する。透過率は、消衰係数にも依存する。消衰係数は、材料の種類で決まる。消衰係数が大きいほど、吸収率が高くなり、透過率が低くなる。
【0024】
高屈折率膜と低屈折率膜のいずれか一方(好ましくは高屈折率膜)は、好ましくは、下記(1)及び(2)を満たす。(1)波長600nmにおける消衰係数k600が0.12以上である。(2)1530nm~1570nmの波長領域における消衰係数の最小値k1530-1570MINが0.01以下である。
【0025】
(1)k600が0.12以上であることで、600nm付近の赤色光を吸収により遮断できる。600nm付近の赤色光を反射により遮断する場合に比べて、反射色が赤色を呈しにくい光学フィルタが得られる。k600は、好ましくは0.18以上であり、また、好ましくは1.00以下である。k600が上記範囲である材料としては、例えば、水素ドープ量が20sccm以下のアモルファスシリコンが挙げられる。
【0026】
(2)k1530-1570MINが0.01以下であることで、波長1530nm~1570nm付近の近赤外線を十分透過できる。k1530-1570MINは、好ましくは0.002以下である。
【0027】
高屈折率膜と低屈折率膜のいずれか一方(好ましくは高屈折率膜)は、下記光学特性(3)をさらに満たすことが好ましい。(3)800nm~1000nmの波長領域における消衰係数の最小値k800-1000MINが0.0005以上である。
【0028】
(3)k800-1000MINが0.0005以上であることで、k600の値を適度に大きくし、600nm付近の赤色光を吸収により遮断できる。k800-1000MINは、好ましくは0.001以上である。k800-1000MINは、好ましくは0.1以下である。
【0029】
上記(1)及び(2)を満たす膜は、設計の自由度の観点から、高屈折率膜であることが好ましい。この場合、低屈折率膜の消衰係数k600は好ましくは0.015以上であり、k1530-1570MINは好ましくは0である。
【0030】
高屈折率膜の屈折率は、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは4.0以上である。高屈折率膜の材料は、例えばシリコン、Ta、TiO、Nb、又はSiNである。これらのうち、上記(1)及び(2)の観点から、シリコンが好ましく、特にアモルファスシリコンが好ましく、水素ドープ量が20sccm以下のアモルファスシリコンが更に好ましい。
【0031】
低屈折率膜の屈折率は、好ましくは、屈折率が2.5以下であり、より好ましくは1.5以下である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO、SiO、Ta、TiO、SiO等が挙げられる。これらのうち、生産性の観点から、SiOが好ましい。
【0032】
高屈折率膜と低屈折率膜の合計の積層数は、可視光線を効率良く遮光できるように、好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは20以上である。但し、合計の積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりする。従って、合計の積層数は、好ましくは70以下であり、より好ましくは60以下であり、更に好ましくは50以下である。
【0033】
誘電体多層膜23の膜厚は、生産性の観点から、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは2.0μm以下である。
【0034】
誘電体多層膜23は、下記光学特性をさらに満たすことが好ましい。可視光線の透過色も反射色も黒色となるように、400nm~680nmの波長領域における透過率の最大値T400-680MAXが6%以下であって、且つ400nm~680nmの波長領域における反射率の最大値R400-680MAXが10%以下である。センサ5の感度が高くなるように、1530nm~1570nmの波長領域における透過率の最小値がT1530-1570MINが90%以上である。
【0035】
誘電体多層膜23の成膜方法は、乾式でも、湿式でもよい。乾式の成膜方法は、例えば、CVD法、スパッタリング法、又は真空蒸着法である。湿式の成膜方法は、例えば、スプレー法、又はディップ法である。
【0036】
なお、図示しないが、誘電体多層膜23とは別の誘電体多層膜が設けられてもよい。別の誘電体多層膜は、誘電体多層膜23とは別の光学特性を有する。例えば、誘電体多層膜23が近赤外線を透過すると共に可視光線を遮蔽するのに対し、別の誘電体多層膜は近赤外線も可視光線も透過してもよい。
【0037】
誘電体多層膜23は、本実施形態では近赤外線の反射を防止する反射防止膜を兼ねるが、反射防止膜を兼ねなくてもよい。後者の場合、誘電体多層膜23の上に、反射防止膜が設けられてもよい。反射防止膜は、例えば、空気から誘電体多層膜23に向けて実効的な屈折率を連続的に変化させるモスアイ構造を有してもいし、空気と誘電体多層膜23の中間的な屈折率を有してもよい。
【0038】
なお、誘電体多層膜23は、本実施形態では近赤外線を透過するが、センサ5で検出する波長の光を透過すればよく、可視光線などを透過してもよい。誘電体多層膜23は、本実施形態では可視光線を遮蔽するが、可視光線を遮蔽しなくてもよい。
【0039】
発熱膜24は、発熱することで、センサ用カバー2の外面を加熱し、その外面における積雪、結氷又は結露を防止する。発熱膜24は、センサ5から照射される光、及びセンサ5で検出する光と干渉しないように配置され、例えば線状に形成される。発熱膜24は、電源6に電気的に接続されている。電源6は、発熱膜24に電圧を印可することで、発熱膜24に電流を供給する。発熱膜24は、ジュール熱によって発熱する。
【0040】
発熱膜24は、好ましくは金属膜である。金属膜は、例えば、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、及びタングステン(W)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む純金属又は合金で形成される。発熱膜24は、カーボン膜であってもよい。
【0041】
発熱膜24は、導電性ペーストを焼成することで形成されてもよいし、金属箔又は金属線を加工することで形成されてもよい。発熱膜24は、例えば基材21よりも筐体3の内側に設けられる。基材21は、発熱膜24を保護し、例えば発熱膜24の断線を抑制する。発熱膜24は、例えば誘電体多層膜23の空気に接する面の一部に設けられる。
【0042】
センサ用カバー2は、基材21を基準として、誘電体多層膜23とは反対側に、第2誘電体多層膜25を備えてもよい。センサ用カバー2は、筐体3の外側から筐体3の内側に向けて、第2誘電体多層膜25と、基材21と、導電膜22と、誘電体多層膜23と、発熱膜24と、をこの順番で備える。なお、第2誘電体多層膜25は無くてもよく、第2誘電体多層膜25の位置に誘電体多層膜23が設けられてもよい。
【0043】
第2誘電体多層膜25は、誘電体多層膜23と同様に、例えば、近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである。第2誘電体多層膜25は、近赤外線の透過率を向上すべく、近赤外線の反射を防止する反射防止膜を兼ねてもよい。第2誘電体多層膜25は、筐体3の外側から筐体3の内側に向けて伝播する光の反射を防止する。
【0044】
第2誘電体多層膜25の構成は、誘電体多層膜23の構成と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
ところで、導電膜22と発熱膜24は、発熱膜24から導電膜22への漏電を防止すべく、絶縁されている。発熱膜24に対して効率的に電流を供給でき、発熱膜24を効率的に発熱できる。また、導電膜22がグランドに電気的に接続されている場合に、導電膜22の電位を基準電位に維持できる。導電膜22は、発熱膜24とは異なり、電圧を印可するものではなく、発熱するものではない。導電膜22は、発熱膜24とは異なり、全体的に等電位に維持される。
【0046】
導電膜22と発熱膜24の最短距離Lminは、2.0μm以上である。Lminが2.0μm以上であれば、発熱膜24と導電膜22の間の電気抵抗が高く、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。Lminは、好ましくは5μm以上である。Lminは、生産性の観点から、0.3mm以下である。
【0047】
導電膜22と発熱膜24の最短経路に電圧12Vを掛けた時の電流値I12Vは、好ましくは1.0mA(1.0×10-3A)以下である。電流値I12Vが1.0mA以下であれば、発熱膜24と導電膜22の間の電気抵抗が高く、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。電流値I12Vは、好ましくは0.1mA以下である。電流値I12Vは、0mAであってもよい。
【0048】
導電膜22と発熱膜24の最短経路の抵抗値は、好ましくは1.2×10Ω以上であり、より好ましくは1.2×10Ω以上である。
【0049】
なお、導電膜22と発熱膜24の最短経路は、本実施形態では導電膜22の厚さ方向(図1において左右方向)に対して平行であるが、後述するように傾斜していてもよい。導電膜22の厚さ方向は、導電膜22と発熱膜24の積層方向である。
【0050】
導電膜22と発熱膜24の間には、例えば誘電体多層膜23が設けられる。誘電体多層膜23は、絶縁膜である。誘電体多層膜23の膜厚は、上記の通り、生産性の観点から、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下である。誘電体多層膜23の厚みのみでLminを2.0μm以上にすることは困難である。
【0051】
そこで、センサ用カバー2は、誘電体多層膜23と発熱膜24との間に、絶縁膜26を備えてもよい。絶縁膜26の膜厚は、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上である。誘電体多層膜23と絶縁膜26の合計の膜厚が、2.0μm以上であればよい。
【0052】
絶縁膜26の膜厚が大きいほど、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。絶縁膜26の膜厚は、好ましくは誘電体多層膜23の膜厚よりも大きい。絶縁膜26の膜厚は、センサ用カバー2の生産性の観点から、好ましくは0.3mm以下である。
【0053】
絶縁膜26は、センサ5で検出する光と干渉しないように、例えば図2に示すように、線状の発熱膜24に沿って帯状に設けられてもよい。絶縁膜26は、リング状であるが、C字状であってもよい。絶縁膜26の幅は発熱膜24の幅よりも広くてもよく、発熱膜24は、例えば絶縁膜26からはみ出さないように、絶縁膜26の上に配置される。
【0054】
発熱膜24の両端には、電極27が設けられる。一対の電極27が、発熱膜24を電源6に電気的に接続する。一対の電極27も、発熱膜24と同様に、絶縁膜26からはみ出さないように、絶縁膜26の上に配置される。
【0055】
絶縁膜26の材料は、有機材料でも無機材料でもよく、特に限定されない。絶縁膜26は、異なる複数の材料を複合したものでもよい。絶縁膜26は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。絶縁膜26の材料は、有機材料と無機材料のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。有機材料としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又はポリイミド樹脂が挙げられる。無機材料は、ガラス、セラミック、又はシリコンのいずれでもよい。ガラスとしては、ソーダライムガラス、アルミナシリケートガラス、又はホウケイ酸ガラスが挙げられる。セラミックとしては、二酸化ケイ素(SiO)、又は二酸化チタン(TiO)が挙げられる。発熱膜24がフィルムヒーターである場合、絶縁膜26の材料は好ましくは有機材料であり、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、又はポリイミド樹脂である。
【0056】
なお、第2誘電体多層膜25が無く、第2誘電体多層膜25の位置に誘電体多層膜23が設けられてもよく、導電膜22と発熱膜24の間には絶縁膜26のみが存在してもよい。この場合、絶縁膜26の厚さが2.0μm以上であれば、Lminが2.0μm以上であるので、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。
【0057】
次に、図3を参照して、第1変形例に係るセンサ用カバー2について説明する。以下、主に相違点について説明する。図3に示すように、センサ用カバー2は、筐体3の外側から筐体3の内側に向けて、第2誘電体多層膜25と、導電膜22と、基材21と、誘電体多層膜23と、発熱膜24と、をこの順番で備えてもよい。なお、第2誘電体多層膜25は、無くてもよい。
【0058】
基材21は、絶縁性を有し、導電膜22と発熱膜24を絶縁する。基材21の厚みは、誘電体多層膜23の厚みよりも厚い。従って、絶縁性の基材21を導電膜22と発熱膜24の間に配置することで、導電膜22と発熱膜24の最短距離Lminを十分に長くでき、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。
【0059】
なお、図3に示す誘電体多層膜23と発熱膜24の間には、図1に示す絶縁膜26が無いが、絶縁膜26が有ってもよい。また、第2誘電体多層膜25が無く、第2誘電体多層膜25の位置に誘電体多層膜23が設けられてもよく、導電膜22と発熱膜24の間には絶縁性の基材21のみが存在してもよい。基材21の厚さが2.0μm以上であれば、Lminが2.0μm以上であるので、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。
【0060】
次に、図4及び図5を参照して、第2変形例に係るセンサ用カバー2について説明する。下、主に相違点について説明する。図4に示すように、センサ用カバー2は、筐体3の外側から筐体3の内側に向けて、第2誘電体多層膜25と、基材21と、導電膜22と、誘電体多層膜23と、発熱膜24と、をこの順番で備えてもよい。なお、第2誘電体多層膜25は、無くてもよい。
【0061】
図4に示すように、導電膜22は、開口パターン22aを有する。開口パターン22aは、空気の代わりに、絶縁材料で充填されてもよい。図5に示すように、導電膜22の厚さ方向から見たときに、開口パターン22aの輪郭線(例えば図5の破線)よりも内側に発熱膜24が配置される。
【0062】
図4に示すように、開口パターン22aは、導電膜22と発熱膜24の最短経路を、導電膜22の厚さ方向(図4において左右方向)に対して傾斜させる。これにより、導電膜22と発熱膜24の最短距離Lminを長くでき、発熱膜24から導電膜22への漏電を抑制できる。
【0063】
図5に示すように、導電膜22の厚さ方向から見たときに、開口パターン22aは、線状の発熱膜24に沿って帯状に設けられてもよい。開口パターン22aは、導電膜22の中央と導電膜22の周縁とが電気的に接続されるように形成され、例えばC字状に形成される。なお、開口パターン22aの形状は、特に限定されない。帯状の開口パターン22aの両端がつながっておらず離れていれば、導電膜22の中央と導電膜22の周縁とが電気的に接続され、導電膜22の中央も筐体3に電気的に接続される。
【0064】
なお、図4に示す誘電体多層膜23と発熱膜24の間には、図1に示す絶縁膜26が無いが、絶縁膜26が有ってもよい。絶縁膜26が有る場合、第2誘電体多層膜25が無く、第2誘電体多層膜25の位置に誘電体多層膜23が設けられてもよい。つまり、導電膜22と発熱膜24の間には、絶縁膜26のみが存在してもよい。
【0065】
また、図4に示すように基材21と、導電膜22と、誘電体多層膜23と、発熱膜24とがこの順番で並んでいるが、上記第1変形例と同様に導電膜22と、基材21と、誘電体多層膜23と、発熱膜24とがこの順番で並んでいてもよい。後者の場合、つまり、導電膜22と発熱膜24の間に基材21が存在し、基材21が絶縁性を有する場合、第2誘電体多層膜25が無く、第2誘電体多層膜25の位置に誘電体多層膜23が設けられてもよい。導電膜22と発熱膜24の間には絶縁性の基材21のみが存在してもよい。
【実施例0066】
以下、実験データについて説明する。下記の例1~例5及び例7が実施例であり、下記の例6が比較例である。
【0067】
例1では、図6に示すように、基材21と、導電膜22と、誘電体多層膜23と、絶縁膜26と、発熱膜24と、をこの順番で備えるセンサ用カバー2を作製した。基材21はガラス基材であり、導電膜22はITO膜であり、誘電体多層膜23はaSi膜(アモルファスシリコン膜)とSiO膜を交互に有する多層膜であった。絶縁膜26は、樹脂と二酸化ケイ素(SiO)を含む混合物であり、具体的にはナミックス社製の絶縁ペースト(商品名:オームコート1057K)を誘電体多層膜23の上に塗布し、200℃で30分間焼成することにより形成した。絶縁膜26の膜厚は1μmであった。発熱膜24は、Ag膜であり、具体的にはAgペーストを絶縁膜26の上に塗布し、150℃で30分間焼成することにより形成した。発熱膜24の膜厚は20μmであった。漏電試験は、図6に示すように、導電膜22と発熱膜24の間に12Vの直流電圧を印可し、電流計7で電流の有無を測定することで、漏電の有無を調べた。漏電試験の結果、漏電は認められなかった。
【0068】
例2では、絶縁膜26の膜厚を10μmに変更した以外、例1と同様にセンサ用カバー2を作製した。漏電試験の結果、漏電は認められなかった。
【0069】
例3では、絶縁膜26の膜厚を20μmに変更した以外、例1と同様にセンサ用カバー2を作製した。漏電試験の結果、漏電は認められなかった。
【0070】
例4では、絶縁膜26の膜厚を40μmに変更した以外、例1と同様にセンサ用カバー2を作製した。漏電試験の結果、漏電は認められなかった。
【0071】
例5では、絶縁膜26の材料を変更し、絶縁膜26の膜厚を20μmに変更した以外、例1と同様にセンサ用カバー2を作製した。例5において、絶縁膜26は、三酸化ビスマス(Bi)と酸化亜鉛(ZnO)と酸化硼素(B)を含む混合物であり、具体的にはAGC社製の絶縁ペースト(商品名:US6F-TAX9B)を誘電体多層膜23の上に塗布し、450℃で10分間焼成することにより形成した。漏電試験の結果、漏電は認められなかった。
【0072】
例6では、絶縁膜26を形成することなく、誘電体多層膜23の上に直接、発熱膜24を形成した以外、例1と同様にセンサ用カバー2を作製した。漏電試験の結果、漏電が認められた。
【0073】
例7では、誘電体多層膜23を構成するaSi膜とSiO膜の合計の積層数を増やし、誘電体多層膜23の膜厚を3.3μmに変更した以外、例6と同様にセンサ用カバー2を作製した。漏電試験の結果、漏電は認められなかった。
【0074】
例1~例7の試験の結果を、表1に示す。
【0075】
【表1】
表1において、材質Aは樹脂と二酸化ケイ素(SiO)を含む混合物であり、材質Bは三酸化ビスマス(Bi)と酸化亜鉛(ZnO)と酸化硼素(B)を含む混合物である。
【0076】
表1から明らかなように、例1~例5及び例7では、導電膜22と発熱膜24の最短距離Lminが2.0μm以上であって、導電膜22と発熱膜24の最短経路に電圧12Vを掛けた時の電流値I12Vが1mA以下であり、漏電は認められなかった。
【0077】
一方、例8では、導電膜22と発熱膜24の最短距離Lminが2.0μm未満であったので、電流値I12Vが1mAを超えており、漏電が認められた。
【0078】
以上、本開示に係るセンサ用カバー、及びセンサモジュールについて説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0079】
上記実施形態等に関し、以下の付記を開示する。
[付記1]
センサを収容する筐体の開口に設けられるセンサ用カバーであって、
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、導電体と、誘電体多層膜と、発熱膜と、を所望の順番で備え、
前記導電体と前記発熱膜とは、絶縁されており、
前記導電体と前記発熱膜の最短距離が2.0μm以上である、センサ用カバー。
[付記2]
前記導電体は、グランドに電気的に接続されている、付記1に記載のセンサ用カバー。
[付記3]
前記導電体は、前記グランドとしての前記筐体に電気的に接続されている、付記2に記載のセンサ用カバー。
[付記4]
前記発熱膜は、電源に電気的に接続されている、付記1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記5]
前記発熱膜は、線状に形成されている、付記1~4のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記6]
前記導電体と前記発熱膜の最短経路に電圧12Vを掛けた時の電流値が1mA以下である、付記1~5のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記7]
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、前記誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記誘電体多層膜と前記発熱膜との間に、絶縁膜を備える、付記1~6のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記8]
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、基材と、前記誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記基材は、絶縁性を有する、付記1~6のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記9]
前記筐体の外側から前記筐体の内側に向けて、前記導電体と、前記誘電体多層膜と、前記発熱膜と、をこの順番で備え、
前記導電体は開口パターンを有する膜であって、前記導電体の厚さ方向から見たときに前記開口パターンの輪郭線よりも内側に前記発熱膜が配置される、付記1~6のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記10]
前記導電体を基準として、前記誘電体多層膜とは反対側に、第2誘電体多層膜を備える、付記1~9のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記11]
前記センサ用カバーは、近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである、付記1~10のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記12]
前記センサは、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサである、付記1~11のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
[付記13]
付記1~12のいずれか1項に記載のセンサ用カバーと、前記筐体と、前記センサと、を備えるセンサモジュール。
【0080】
本出願は、2021年10月22日に日本国特許庁に出願した特願2021-173364号に基づく優先権を主張するものであり、特願2021-173364号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0081】
2 センサ用カバー
21 基材
22 導電膜(導電体)
23 誘電体多層膜
24 発熱膜
min 最短距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6