IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧 ▶ 広島ガス株式会社の特許一覧

特開2024-147616水素ガスの製造方法、及び触媒の製造方法
<>
  • 特開-水素ガスの製造方法、及び触媒の製造方法 図1
  • 特開-水素ガスの製造方法、及び触媒の製造方法 図2
  • 特開-水素ガスの製造方法、及び触媒の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147616
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】水素ガスの製造方法、及び触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20241008BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C01B3/04 B
B01J23/755 M
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024109219
(22)【出願日】2024-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000167794
【氏名又は名称】広島ガス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉間 等
(72)【発明者】
【氏名】木村 保
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA06B
4G169BA20B
4G169BB02B
4G169BC68B
4G169CB81
4G169EC02Y
4G169EC06Y
4G169EC15Y
4G169EC24
4G169FB06
4G169FB14
(57)【要約】
【課題】水素ガスの生成量が増加しやすい水素ガスの製造方法を提供する。
【解決手段】アンモニアを含む被処理ガスが、触媒を含む処理材と接触することにより、前記アンモニアを前記触媒により水素ガスと窒素ガスとに分解する水素ガスの製造方法である。前記触媒は、担体と、前記担体に担持される活性金属と、を備える。前記担体は、スピネルを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含む被処理ガスが、触媒を含む処理材と接触することにより、前記アンモニアを前記触媒により水素ガスと窒素ガスとに分解する水素ガスの製造方法であって、
前記触媒は、担体と、前記担体に担持される活性金属と、を備え、
前記担体は、スピネルを含む、
水素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記活性金属は、ニッケル及びルテニウムから選ばれる少なくとも一つである、
請求項1に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項3】
前記アンモニアを含む被処理ガスは、水分を含まない乾式ガスである、
請求項1又は2に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項4】
スピネルを含む担体を調製する担体調製工程と、
前記担体調製工程で得られた前記担体に活性金属を担持させる担持工程と、
を備える触媒の製造方法であって、
前記担体調製工程は、
マグネシウムイオンを含む処理液に、アルミナを含む担体原料を浸漬することにより、前記担体原料の細孔内に前記処理液を充填する充填工程と、
前記充填工程後に、前記細孔内に前記処理液が充填された前記担体原料を乾燥し、前記担体原料にマグネシウム塩を析出させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後に、前記マグネシウム塩を析出させた前記担体原料を焼成し、前記スピネルを生成する焼成工程と、
を備える、
触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素ガスの製造方法及び触媒の製造方法に関する。より詳細には、触媒を用いた水素ガスの製造方法及びその触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素の製造方法が記載されている。この水素の製造方法は、触媒層を200℃以上700℃以下に加熱する工程と、加熱された前記触媒層にアンモニア含有ガスを通し、アンモニアを窒素ガスと水素ガスに分解する工程と、を含み、前記触媒層には、γ-アルミナおよびθ-アルミナのうち、少なくとも1種以上、および、粘土化合物の焼結物を含む複合体と、前記複合体により担持される金属と、を備える処理材を用いることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-20433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような水素の製造方法では、水素の製造量が増加することが望まれている。
【0005】
本開示は、水素ガスの製造量が増加しやすい水素ガスの製造方法を提供することを目的とする。また本開示は、水素ガスの生成量が増加しやすい触媒が得られる触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る水素ガスの製造方法は、アンモニアを含む被処理ガスが、触媒を含む処理材と接触することにより、前記アンモニアを前記触媒により水素ガスと窒素ガスとに分解する。前記触媒は、担体と、前記担体に担持される活性金属と、を備える。前記担体は、スピネルを含む。
【0007】
本開示の一態様に係る触媒の製造方法は、スピネルを含む担体を調製する担体調製工程と、前記担体調製工程で得られた前記担体に活性金属を担持させる担持工程と、を備える。前記担体調製工程は、充填工程と、乾燥工程と、焼成工程と、を備える。前記充填工程は、マグネシウムイオンを含む処理液に、アルミナを含む担体原料を浸漬することにより、前記担体原料の細孔内に前記処理液を充填する。前記乾燥工程は、前記充填工程後に、前記細孔内に前記処理液が充填された前記担体原料を乾燥し、前記担体原料にマグネシウム塩を析出させる。前記焼成工程は、前記乾燥工程後に、前記マグネシウム塩を析出させた前記担体原料を焼成し、前記スピネルを生成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水素ガスの製造量が増加する、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る水素ガスの製造方法に使用する装置を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態に係る触媒の製造方法で得られる触媒の担体のX線回折法で得られるプロファイルである。
図3図3は、実施例と比較例における反応温度とアンモニア分解反応率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
1.概要
都市ガスのカーボンニュートラル化(脱炭素化)として、太陽光発電等の再生可能電力を用いた水電解で製造した水素と、燃焼排ガス等から回収した二酸化炭素とから、e-メタンを合成するというメタネーションの実証試験が行なわれている。
【0011】
最近では、水素キャリアとしてアンモニアに着目し、アンモニアを水素と窒素に分解しながら、生成した水素と二酸化炭素とを反応させることでe-メタンを合成するアンモニアメタネーションが注目されている。
【0012】
本実施形態に係る水素ガスの製造方法は、アンモニアを含む被処理ガスが、触媒を含む処理材と接触することにより、アンモニアを触媒により水素ガスと窒素ガスとに分解するものである。触媒は、担体と、担体に担持される活性金属と、を備えており、担体は、スピネルを含んでいる。
【0013】
本実施形態の水素ガスの製造方法では、スピネルを含む担体に活性金属を担持させた触媒を使用しているので、担体の細孔内での活性金属の分散性が高い触媒をアンモニアと接触させることができる。従って、被処理ガス中のアンモニアと触媒中の活性金属との接触効率が高まり、水素の生成量が増加する。
【0014】
本実施形態に係る触媒の製造方法は、担体調製工程と担持工程とを備える。担体調製工程は、スピネルを含む担体を調製する工程である。担持工程は、担体調製工程で得られた担体に活性金属を担持させる工程である。担体調製工程は、充填工程と、乾燥工程と、焼成工程と、を備える。充填工程は、マグネシウムイオンを含む処理液に、アルミナを含む担体原料を浸漬することにより、担体原料の細孔内に処理液を充填する。乾燥工程は、充填工程後に、細孔内に処理液が充填された担体原料を乾燥し、担体原料にマグネシウム塩を析出させる。焼成工程は、乾燥工程後に、マグネシウム塩を析出させた担体原料を焼成し、スピネルを生成する。
【0015】
本実施形態の触媒の製造方法では、スピネルを含む担体に活性金属を担持させているため、担体の細孔内での活性金属の分散性が高い触媒を得ることができる。
【0016】
2.詳細
<水素ガスの製造方法>
図1に本実施形態で使用する水素ガスの製造装置を示す。この水素ガスの製造装置は、触媒作用によりアンモニアガスから水素ガスを製造するものである。
【0017】
水素の製造装置10は、反応器11、加熱炉12、熱電対13、アンモニア供給管14、希釈ガス供給管15、水素導入管16、窒素導入管17、熱電対20などを備えている。
【0018】
反応器11は、アンモニアを含む被処理ガス2と、触媒の粒子を含む処理材1とを接触させるための容器であって、例えば、SUS管などで構成されている。反応器11内には、処理材1が収容されている。
【0019】
加熱炉12は、反応器11を加熱して反応器11内の温度を調整するためのものであって、例えば、電気炉で構成されている。
【0020】
熱電対20は、処理材1の温度を測定するための温度センサである。熱電対20で処理材1の温度を測定することにより、加熱炉12の動作を熱電対13の指示値に基づいて制御することができる。従って、水素ガスの製造装置10は、アンモニアガスと触媒との接触時の温度コントロールを行うことができる。
【0021】
アンモニア供給管14は、アンモニアガスを反応器11に供給するための配管である。アンモニア供給管14には、マスフローコントローラ140が設けられており、マスフローコントローラ140により、反応器11へのアンモニアガスの供給量が調整可能に形成されている。
【0022】
希釈ガス供給管15は、希釈ガスを反応器11に供給するための配管である。希釈ガス供給管15には、マスフローコントローラ150が設けられており、マスフローコントローラ150により、反応器11への希釈ガスの供給量が調整可能に形成されている。
【0023】
水素導入管16は、水素ガスを反応器11に導入するための配管である。水素導入管16には、マスフローコントローラ160が設けられており、マスフローコントローラ160により、反応器11への水素ガスの導入量が調整可能に形成されている。
【0024】
窒素導入管17は、窒素ガスを反応器11に導入するための配管である。窒素導入管17には、マスフローコントローラ170が設けられており、マスフローコントローラ170により、反応器11への窒素ガスの導入量が調整可能に形成されている。
【0025】
希釈ガス供給管15、水素導入管16及び窒素導入管17は、それぞれ、共通配管18に接続されており、希釈ガス供給管15、水素導入管16及び窒素導入管17のそれぞれから共通配管18を通じて、希釈ガス又は水素ガス又は窒素ガスが反応器11に供給又は導入される。
【0026】
上記のような水素ガスの製造装置10を用いて水素ガスを製造するにあたっては、以下のようにして行う。
【0027】
まず、水素導入管16および窒素導入管17から共通配管18を通じて、水素ガスおよび窒素ガスを反応器11に導入する。そして、加熱炉12により反応器11を加熱して所定の温度にて所定の時間保持し、処理材1中の触媒に含まれる活性金属の金属酸化物を金属に還元する。
【0028】
次いで加熱炉12により反応器11を所定の温度に安定させ、アンモニア供給管14を通じて反応器11にアンモニアガスを供給する。また希釈ガス供給管15を通じて反応器11に希釈ガスを供給する。反応器11に供給されたアンモニアガスと希釈ガスとは反応器11内で混合し、被処理ガス2が調製される。
【0029】
次に、反応器11内で被処理ガス2が処理材1と接触する。これにより、被処理ガス中のアンモニアガスと処理材1中の触媒とが接触し、アンモニアガスが触媒作用により、水素ガスと窒素ガスとに分解される。
【0030】
この後、反応器11から排出管19を通じて水素ガスを取り出すことにより、水素ガスを製造することができる。
【0031】
上記のような水素ガスの製造方法において、反応器11に供給されるアンモニアガスは、液体アンモニアを蒸発させて生成するのが好ましい。これにより、水分等の不純物を含まない乾式のアンモニアガスを反応器11に供給することができ、水素ガスの製造効率を高めることができる。例えば、アンモニア水をバブリングして得られる湿式のアンモニアガスは、水分を多量に含み、アンモニアの含有量が非常に少ないため、触媒によるアンモニアの分解率が高くても、水素ガスの製造効率が低下するおそれがある。なお、アンモニアガスは、不可避的に含まれる水分を含有する場合はある。
【0032】
また反応器11に供給される希釈ガスは、アンモニアガスを希釈するために使用される。希釈ガスにより、被処理ガス2中でアンモニアガスが凝縮しにくくし、水素ガスの製造効率を高めることができる。希釈ガスとしては、不活性ガスであるアルゴンガスやヘリウムガスを使用するのが好ましい。
【0033】
被処理ガス2におけるアンモニアガスと希釈ガスとの混合比率には特に制限はない。アンモニア供給管14が十分な温度を維持でき、アンモニア凝縮の恐れが無い場合は、希釈ガスは用いなくても良い。希釈ガスが多いとアンモニアの製造効率が低下するので、被処理ガス2におけるアンモニアガスと希釈ガスとの混合比率は、体積比で、30:70~100:0で設定することが可能である。これにより、水素ガスに製造効率を低下させずにアンモニアガスの凝縮を抑制することができる。
【0034】
反応器11内の温度は、300℃以上600℃以下であることが好ましい。反応器11内の温度が300℃未満であると、アンモニアの分解反応が生じにくく、水素の製造効率が低くなるおそれがある。また反応器11内の温度が600℃超過であると、加熱炉12の動作によるエネルギーの損失が大きくなる。反応器11内の温度は、350℃以上600℃以下であることがより好ましい。
【0035】
処理材1を通過する被処理ガス2の流量は、処理材1の1トン当たり0.1m/秒以上5m/秒以下であることが好ましい。処理材1を通過する被処理ガス2の流量が、0.1m/秒未満であると、単位時間あたりに処理材1を通過する被処理ガス2の量が少なくなって、水素の製造効率が低下する。処理材1を通過する被処理ガス2の流量が、5m/秒超過であると、触媒とアンモニアガスとの接触が不十分となって、アンモニアが分解されにくくなって、水素の製造効率が低下する。なお、処理材1を通過する被処理ガス2の流量を調整するには、マスフローコントローラ140により反応器11へのアンモニアガスの供給量を調整したり、マスフローコントローラ150により反応器11への希釈ガスの供給量を調整したり、反応器11の容積を調整したりする。
【0036】
本実施形態で使用する触媒は、担体と活性金属とを備え、担体がスピネルを含むものである。担体は、活性金属を担持するものである。活性金属は、触媒作用(アンモニアの分解作用)を発揮するものである。活性金属としては、ニッケル又はルテニウムを使用することができる。ニッケルに比べてルテニウムは、少量かつ低温で高い触媒作用を発現するが、高価である。このため入手しやすく、安価なニッケルを使用するのが好ましい。
【0037】
スピネルは、マグネシウムアルミネート(MgAlO)の化学組成を有する酸化鉱物である。本実施形態の担体として使用されるスピネルは、例えば、比表面積が50m/g以上、全細孔容積が0.2cm/g以上、平均細孔径が5nm以上50nm以下である。また本実施形態の担体として使用されるスピネルの平均粒径は特に制限が無い。このような性状のスピネルを担体として使用することにより、活性金属を十分な量で担持させることができ、また触媒がアンモニアの分解作用を発揮しやすくなる。なお、比表面積、全細孔容積及び平均細孔径は、ガス吸着法により計測することができ、平均粒径はレーザー回折法による粒度分布測定により求めることができる。
【0038】
なお、反応器11に充填する処理材1の平均粒径は、1mm以上10mm以下が好ましい。処理材1の平均粒径が1mmより小さい場合は流通するガスの差圧が高くなり、被処理ガスの導入圧力が増加し、エネルギー消費が増大してしまう。一方、処理材1の平均粒径が10mmより大きい場合は、処理材1と被処理ガス2の接触効率が低下し、水素製造効率が低下する。処理材1を構成する担体の平均粒子径が1mm未満の場合、これを圧縮成型等の方法により成型し、必要により破砕・分級することにより平均粒径を調整することができる。同様に、平均粒径が10mm超過の場合は、破砕・分級することにより平均粒径を調整することができる。平均粒径が2mm以上6mm以下の処理材1を用いることがより好ましい。なお、処理材1の平均粒径は、ふるい分け試験法により求めることができる。
【0039】
そして本実施形態で使用する触媒は、担体がスピネルであるため、アルミナなどの他の担体に比べて、アンモニアガスの分解作用に優れる。そのメカニズムは明確ではないが、スピネルの細孔内での活性金属の分散性が高いため、活性金属の比表面積が大きく、アンモニアと効率よく接触させることができ、従って、被処理ガス中のアンモニアガスと触媒中の活性金属との接触効率が高まってアンモニアガスの分解反応が進みやすく、アンモニアガスの分解作用が優れる、と考えられる。またスピネルは酸性度が高く、アルカリ性であるアンモニアの吸着性に優れる。従って、担体上に吸着しているアンモニア濃度が高くなることにより活性金属表面と吸着アンモニアとの接触確率を高めることができる。よって、アンモニアガスの分解反応が進みやすく、アンモニアガスの分解作用が優れる、と考えられる。
【0040】
活性金属の担持量は、担持金属ごとに異なる。担持金属がニッケルである触媒のアンモニア分解性能を考慮すると、担体の質量の0.1質量%~30質量%、好ましくは1質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは、5質量%以上20質量%以下である。担持金属がルテニウムである触媒のアンモニア分解性能を考慮すると、担体の質量の0.01質量%~10質量%、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは、0.5質量%以上5質量%以下である。
【0041】
なお、特許文献1には、γ-アルミナがスピネル型の結晶構造を有することが記載されているが([0018])、これは結晶構造を記載しているに過ぎず、担体の化学組成は、γ-アルミナである。
【0042】
上記にようにして製造された水素ガスは、例えば、アンモニアメタネーションにおける水素ガスの原料として使用される。
【0043】
すなわち、上記の水素ガスの製造方法では、以下の化学反応式(1)で示すアンモニアの分解反応が起こる。
【0044】
8NH→12H+4N …(1)
これにより得られた水素ガスを使用して、以下のサバティエ反応の化学反応式(2)によりメタンを生成することができる。
【0045】
12H+3CO→3CH+6HO …(2)
式(1)、(2)より、以下のアンモニアメタネーションを示す反応式(3)が成立する。
【0046】
8NH+3CO→3CH+4N+6HO …(3)
<触媒の製造方法>
本実施形態に係る触媒の製造方法は、担体調製工程と担持工程とを備える。担体調製工程は、スピネルを含む担体を調製する工程である。担持工程は、担体調製工程で得られた担体に活性金属を担持させる工程である。
【0047】
担体調製工程は、充填工程と、乾燥工程と、焼成工程と、を備える。
【0048】
充填工程は、マグネシウムイオンを含む処理液に、アルミナを含む担体原料を浸漬することにより、担体原料の細孔内に処理液を充填する工程である。処理液はマグネシウムイオンを含む水溶液であって、例えば、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウムなどのマグネシウム原料を水に溶解させて調製することができる。処理液のマグネシウムイオン濃度は、十分に水に溶解すれば良く、特に制限はない。濃度が高ければ使用する水量が少なくて済み、次の乾燥工程で必要なエネルギー量が節約できる。また担体原料に含まれるアルミナとしては、γ-アルミナやχ-アルミナ、θ-アルミナなどを使用することができる。
【0049】
ここで、本実施形態では、処理液に担体原料を浸漬した後、この状態を真空状態で一定の時間維持するのが好ましい。これにより、担体原料の細孔内への処理液の充填度合いが向上し、担体原料へのマグネシウムイオンの供給量が向上する。本実施形態では、処理液に担体原料を浸漬した状態で、これを真空デシケータ内に入れて、徐々に真空状態にし、その後、0.5~2時間真空状態をキープする。
【0050】
従来、このような充填工程においては、工業的にはポアフィリング法が用いられている。ポアリング法は、担体であるアルミナ等の細孔容積を測定し、その容積と同量の水溶液を添加して混合・撹拌することにより当該アルミナの細孔内に毛細管現象を利用して硝酸マグネシウム水溶液等の処理液を充填させる方法である。本実施形態においてもポアフィリング法を採用することができる。
【0051】
乾燥工程は、充填工程後に、細孔内に処理液が充填された担体原料を乾燥し、担体原料の細孔中にマグネシウム塩を析出させる工程である。析出するマグネシウム塩は、マグネシウムイオンの供給原料であり、例えば、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウムやリン酸マグネシウムなどである。
【0052】
焼成工程は、乾燥工程後に、マグネシウム塩を析出させた担体原料を焼成し、スピネルを生成する工程である。これにより、酸化マグネシウム(MgO)と担体原料のアルミナ(Al)とが反応し、スピネル(MgAl)を生成することができる。焼成工程では、500℃~700℃で1~3時間仮焼成した後、900℃~1200℃で4~6時間焼成することができる。
【0053】
このようにして担体調製工程でスピネルの担体を生成した後、この担体に活性金属を担持させる担持工程を行う。
【0054】
担持工程は、例えば、活性金属を含有する水溶液を担体に含浸する方法が挙げられる。この方法は、まず、ニッケルやルテニウムなどの金属イオンを含む水溶液を担体に含浸させる。含浸後に、エバポレータ等を用いて水分を除去し、この後、焼成することで担体に活性成分である金属の酸化物を担持させることができる。例えば、ニッケルを担持させる場合には、ニッケルイオン含有水溶液を担体に含浸させ、水分を除去し、300~500℃程度で2時間焼成する。
【実施例0055】
(実施例)
以下の担体調製工程により、スピネルの担体を作製した。
【0056】
(1)含浸
通常の天秤(ゼロ点調整済み)を用いて硝酸マグネシウム六水和物25.6g(0.1mol)を薬さじで秤量皿に採取し、電子天秤(ゼル点調整済み)で重さを確定する。同様にアルミナ(住友化学製AKP-G15)10.2g(0.1mol)を秤量皿に採取し、蒸発皿に硝酸マグネシウムを入れる。蒸発皿に純水100mlを入れながらガラス棒でかき混ぜて硝酸マグネシウムを完全に溶かす。硝酸マグネシウム水溶液にアルミナを添加し、アルミナを水中に完全に沈める。この状態で蒸発皿に時計皿を載せ、真空デシケータ内に入れ、ゆっくりと真空とし、1時間キープする。デシケータ内に空気を入れ、蒸発皿を取り出す。
【0057】
(2)蒸発・乾固
含浸の後、蒸発皿をホットプレートに載せる。150℃に設定し、加熱を開始する。蒸発皿上のアルミナが水面から露出し始めたら、ガラス棒で時々かき混ぜる。水分が減ってくるとアルミナの粒子が凝集するので、なるべく固まらないようにかき混ぜる。蒸発皿の水分が一通り蒸発したら、ガラス棒で平らにしながら加熱を続ける。固化したものをガラス棒で潰しながらサラサラになるまで加熱する。
【0058】
(3)乾燥
蒸発・乾固の後、アルミナを乾燥器で110℃にて12h以上乾燥する。
【0059】
(4)仮焼、焼成
乾燥の後、アルミナを電気炉で600℃において2h仮焼し、1000℃で5h焼成する。
【0060】
上記のようにして得られる担体をX線回折法(XRD)にて回折パターンを測定した。XRDで得られるチャートを図2に示す。図2中の●は、スピネルの参照データである。これにより、上記で得られる担体がスピネルであることが同定される。
【0061】
以下の担持工程により、スピネルの担体にニッケルの活性金属を担持して触媒を作製した。
【0062】
硝酸ニッケルを含む水溶液を蒸発皿に入れ、スピネルの担体に含浸させる。含浸後に、ホットプレート上で水分を除去し、110℃にて12h以上乾燥させる。この後、500℃で2時間焼成することで担体にニッケルを担持させることができる。
【0063】
このようにしてスピネルにニッケルを担持させた触媒を調製した。
【0064】
(比較例)
担体として、アルミナを用い、これにニッケルを担持させて触媒を生成した。ニッケルを担持させる方法は、実施例と同様である。
【0065】
(担体及び触媒の性状)
実施例と比較例について、担体及び触媒の比表面積、全細孔容積、平均細孔直径を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(アンモニアの分解性能)
実施例と比較例の触媒を用いてアンモニアの分解反応率を測定した。
【0068】
装置としては、図1に示す水素ガスの製造装置10を使用した。反応器11は容積が114cmであり、この反応器11に処理材1として実施例又は比較例の触媒を2.7gセットした。この反応器に水素および窒素をそれぞれ40cc/分、160cc/分流通させ、500℃にて2時間還元した。次いで反応器11に、アンモニア供給管14を通じてアンモニアガスを供給し、希釈ガス供給管15を通じてヘリウムガスを供給した。アンモニアガスとヘリウムガスの供給量はそれぞれ50cm/分とした。そして、加熱炉12により反応器11内の温度(反応温度)を調整しながら、アンモニアガスとヘリウムガスとの混合ガスを被処理ガス2として処理材1を通過させてアンモニアガスを分解した。そして、排出管19を通じて処理済みのガスを排出し、この処理済みのガスをガスクロマトグラフィーにて分析した。この結果からアンモニアガスの分解反応率を計算した。結果を表2と図3のグラフで示す。なお、表2の最上段の数字は反応温度(℃)である。また図3の実線が実施例の結果であり、点線が比較例の結果である。
【0069】
【表2】
【0070】
図3から明らかなように、実施例は比較例に比べて、アンモニアの分解反応率が高くなった。特に、反応温度が低温領域(400℃~460℃)であっても、実施例はアンモニアの分解反応率が高くなった。
【0071】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る水素ガスの製造方法は、アンモニアを含む被処理ガスが、触媒を含む処理材と接触することにより、前記アンモニアを前記触媒により水素ガスと窒素ガスとに分解する。前記触媒は、担体と、前記担体に担持される活性金属と、を備える。前記担体は、スピネルを含む。
【0072】
この態様によれば、被処理ガス中のアンモニアと触媒中の活性金属との接触効率が高まり、水素ガスの生成量が増加しやすい。
【0073】
第2の態様は、第1の態様に係る水素ガスの製造方法であって、前記活性金属は、ニッケル及びルテニウムから選ばれる少なくとも一つである。
【0074】
この態様によれば、アンモニアの分解能に優れる触媒で被処理ガスを処理することができる。
【0075】
第3の態様は、第1又は2の態様に係る水素ガスの製造方法であって、前記アンモニアを含む被処理ガスは、水分を含まない乾式ガスである。
【0076】
この態様によれば、アンモニアの濃度が高い被処理ガスを処理することができ、アンモニアの分解効率を高くすることができる。
【0077】
第4の態様に係る触媒の製造方法は、担体調製工程と担持工程とを備える。担体調製工程は、スピネルを含む担体を調製する工程である。担持工程は、担体調製工程で得られた担体に活性金属を担持させる工程である。担体調製工程は、充填工程と、乾燥工程と、焼成工程と、を備える。充填工程は、マグネシウムイオンを含む処理液に、アルミナを含む担体原料を浸漬することにより、担体原料の細孔内に処理液を充填する。乾燥工程は、充填工程後に、細孔内に処理液が充填された担体原料を乾燥し、担体原料にマグネシウム塩を析出させる。焼成工程は、乾燥工程後に、マグネシウム塩を析出させた担体原料を焼成し、スピネルを生成する。
【0078】
この態様によれば、スピネルを含む担体に活性金属を担持させているため、担体の細孔内での活性金属の分散性が高い触媒を得ることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 処理材
2 被処理ガス
図1
図2
図3