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特開2024-147631形状情報を取得する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147631
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】形状情報を取得する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/32 20060101AFI20241008BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20241008BHJP
   G01B 21/20 20060101ALI20241008BHJP
   E02D 17/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01B21/32
G01C15/00 101
G01B21/20
E02D17/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110495
(22)【出願日】2024-07-09
(62)【分割の表示】P 2023556460の分割
【原出願日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021176498
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 崇
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象物の形状情報を取得する方法を提供する。
【解決手段】対象物の計測面において互いに交差する2方向の少なくとも一方に関して位置が異なる複数の計測点にそれぞれ取り付けられる複数のセンサ装置によって計測面を計測することと、複数のセンサ装置による計測面の計測情報を、ネットワークを介してサーバに送出することと、複数の計測点における計測情報と複数の計測点の位置情報とに基づいて、計測情報に関連する物理量の離散的な分布を、所定の多項式関数にフィッティングして多項式関数の係数を算出するとともに、算出した係数を含む多項式関数で表される計測面の形状を、対象物の形状情報として求めることと、求めた形状情報を、ネットワークを介してサーバと接続される端末に提供することと、を含み、複数のセンサ装置はそれぞれ、計測面の傾斜角の情報を取得可能な角度センサを有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の形状情報を取得する方法であって、
前記対象物の計測面において互いに交差する2方向の少なくとも一方に関して位置が異なる複数の計測点にそれぞれ取り付けられる複数のセンサ装置によって前記計測面を計測することと、
前記複数のセンサ装置による前記計測面の計測情報を、ネットワークを介してサーバに送出することと、
前記複数の計測点における前記計測情報と前記複数の計測点の位置情報とに基づいて、前記計測情報に関連する物理量の離散的な分布を、所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の係数を算出するとともに、前記算出した係数を含む多項式関数で表される前記計測面の形状を、前記対象物の形状情報として求めることと、
求めた前記形状情報を、前記ネットワークを介して前記サーバと接続される端末に提供することと、を含み、
前記複数のセンサ装置はそれぞれ、前記計測面の傾斜角の情報を取得可能な角度センサを有する。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記フィッティングに用いられる多項式関数は、直交多項式、または直交多項式を微分して得られる関数である。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記直交多項式は、ツェルニケ多項式を含む。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、
前記算出した係数を含む多項式関数は、前記フィッティングにより得られた関数を積分して得られる直交多項式である。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記対象物は、インフラ構造物、あるいは乗り物その他の移動物体である。
【請求項6】
対象物の管理方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を繰り返し実行することと、
実行される都度求められる前記形状情報に基づいて前記対象物の形状変化をモニタすることと、を含む。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記モニタされる前記対象物の形状変化が閾値を超えるとき、警報が発せられる。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記対象物はインフラ構造物を含み、前記インフラ構造物の建設中と建設後の少なくとも一方において前記形状変化がモニタされる。
【請求項9】
対象物の管理方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法を繰り返し実行することと、
実行される都度求められる前記形状情報に基づいて前記計測面の変形量が許容値を超える位置を特定することと、を含む。
【請求項10】
対象物の構築作業を支援する方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により前記対象物の形状情報を第1の時点を含む1又は複数の時点で取得することと、
取得した前記形状情報に基づいて、前記対象物の異常の検知、前記対象物を支持する支持部材の支持力の決定、及び作業手順の作成/提案の少なくとも1つを行うことと、を含む。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
前記対象物は山留壁であり、前記異常の検知は、出水の検知を含む。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、
前記対象物はトンネルで、前記計測面が前記トンネルの内空面であり、
取得した前記内空面の形状情報に基づいて周囲地山の挙動や支保の変形を把握する。
【請求項13】
請求項10に記載の方法において、
前記対象物は自動倉庫またはメーカーの工場で、前記計測面が物品保管設備・製造ラインが設けられる建屋の床面であり、
取得した前記床面の形状情報に基づいてコンテナの把持位置またはロボットの先端位置を設定する。
【請求項14】
対象物の形状情報を取得するシステムであって、
前記対象物の計測面において互いに交差する2方向の少なくとも一方に関して位置が異なる複数の計測点にそれぞれ取り付けられる複数のセンサ装置による前記計測面の計測情報がネットワークを介して入力されるとともに、前記計測情報に基づいて前記対象物の形状情報を求める解析装置と、
求めた前記形状情報を格納するストレージと、を備え、
前記解析装置は、前記計測情報と前記複数の計測点の位置情報に基づいて、前記計測情報に関連する物理量の離散的な分布を、所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の係数を算出するとともに、前記算出した係数を含む多項式関数で表される前記計測面の形状を、前記対象物の形状情報として求め、求めた前記形状情報を、前記ネットワークを介して前記解析装置と接続される端末に提供し、
前記複数のセンサ装置はそれぞれ、前記計測面の傾斜角の情報を取得可能な角度センサを有する。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムにおいて、
前記フィッティングに用いられる多項式関数は、直交多項式、または直交多項式を微分して得られる関数である。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムにおいて、
前記直交多項式は、ツェルニケ多項式を含む。
【請求項17】
請求項15に記載のシステムにおいて、
前記算出した係数を含む多項式関数は、前記フィッティングにより得られた関数を積分して得られる直交多項式である。
【請求項18】
請求項14に記載のシステムにおいて、
前記対象物は、インフラ構造物、あるいは乗り物その他の移動物体である。
【請求項19】
請求項14~18のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記複数のセンサ装置によって前記計測面の計測が繰り返し実行され、
前記解析装置は、実行される都度求められる前記形状情報に基づいて前記対象物の形状変化をモニタする。
【請求項20】
請求項19に記載のシステムにおいて、
前記解析装置は、前記対象物の形状変化が閾値を超えるとき、警報を発する。
【請求項21】
請求項20に記載のシステムにおいて、
前記対象物はインフラ構造物を含み、
前記解析装置は、前記インフラ構造物の建設中と建設後の少なくとも一方において前記形状変化をモニタする。
【請求項22】
請求項14~18のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記複数のセンサ装置によって前記計測面の計測が繰り返し実行され、
前記解析装置は、実行される都度求められる前記形状情報に基づいて前記計測面の変形量が許容値を超える位置を特定する。
【請求項23】
請求項14~18のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記解析装置は、前記対象物の形状情報を第1の時点を含む1又は複数の時点で取得するとともに、取得した前記形状情報に基づいて、前記対象物の異常の検知、前記対象物を支持する支持部材の支持力の決定、及び作業手順の作成/提案の少なくとも1つを行う。
【請求項24】
請求項23に記載のシステムにおいて、
前記対象物は山留壁であり、前記異常の検知は、出水の検知を含む。
【請求項25】
請求項23に記載のシステムにおいて、
前記対象物はトンネルで、前記計測面が前記トンネルの内空面であり、
前記解析装置は、取得した前記内空面の形状情報に基づいて周囲地山の挙動や支保の変形を把握する。
【請求項26】
請求項23に記載のシステムにおいて、
前記対象物は自動倉庫またはメーカーの工場で、前記計測面が物品保管設備・製造ラインが設けられる建屋の床面であり、
前記解析装置は、取得した前記床面の形状情報に基づいてコンテナの把持位置またはロボットの先端位置を設定する。
【請求項27】
請求項14~18のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記計測情報は、前記複数のセンサ装置を識別するためのID情報を含む。
【請求項28】
請求項27に記載のシステムにおいて、
前記ID情報は、前記センサ装置の識別符号と前記対象物における取付位置の識別符号を含む。
【請求項29】
請求項14~18のいずれか一項に記載のシステムにおいて、
前記解析装置は、前記センサ装置の供給会社によって管理される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状取得方法、対象物の管理方法及び作業支援方法、並びに形状取得システム及び作業支援システムに係り、さらに詳しくは、例えば山留工事、橋梁工事及び構台工事などの建設工事現場で構築される構造物(構造体などとも呼ばれる)の少なくとも一部を対象物とする場合に好適な形状取得方法及び形状取得システム、対象物の管理方法、及び形状取得方法を利用する作業支援方法及び作業支援システムに関する。
本願は、2021年10月28日に出願された特願2021-176498号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
山留め工事では、安全性および経済性を確保するため、工事現場で種々の計測を行い、計測値によって山留め架構の現状を確認する必要がある。従来の山留め工事の計測管理では、傾斜計による水平変位の深度分布の計測等を行っている。しかしながら、従来の方法では点、線的かつ局所的な計測データしか得られず、山留め壁の全体的な挙動を把握することが困難であった。
【0003】
上記のような背景から、山留め壁の計測管理に対して面的な評価ができる計測システム及び計測方法に関する発明が、最近提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明によると、複数の傾斜センサを二次元的に配置するので、各センサの計測値に基づいて上記の面的な評価ができるものと考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の発明では各センサの計測値を単に幾何学的な手法で処理しているため、山留め壁の全体的な挙動を必ずしも十分な精度で把握できているとは言えず、改善、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-52467号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、対象物の形状情報を取得する方法であって、前記対象物の計測面において互いに交差する2方向の少なくとも一方に関して位置が異なる複数の計測点にそれぞれ取り付けられる複数のセンサ装置によって前記計測面を計測することと、前記複数のセンサ装置による前記計測面の計測情報を、ネットワークを介してサーバに送出することと、前記複数の計測点における前記計測情報と前記複数の計測点の位置情報とに基づいて、前記計測情報に関連する物理量の離散的な分布を、所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の係数を算出するとともに、前記算出した係数を含む多項式関数で表される前記計測面の形状を、前記対象物の形状情報として求めることと、
求めた前記形状情報を、前記ネットワークを介して前記サーバと接続される端末に提供することと、を含み、前記複数のセンサ装置はそれぞれ、前記計測面の傾斜角の情報を取得可能な角度センサを有する。
本発明の第2の態様によれば、対象物の形状情報を取得するシステムであって、前記対象物の計測面において互いに交差する2方向の少なくとも一方に関して位置が異なる複数の計測点にそれぞれ取り付けられる複数のセンサ装置による前記計測面の計測情報がネットワークを介して入力されるとともに、前記計測情報に基づいて前記対象物の形状情報を求める解析装置と、求めた前記形状情報を格納するストレージと、を備え、前記解析装置は、前記計測情報と前記複数の計測点の位置情報に基づいて、前記計測情報に関連する物理量の離散的な分布を、所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の係数を算出するとともに、前記算出した係数を含む多項式関数で表される前記計測面の形状を、前記対象物の形状情報として求め、求めた前記形状情報を、前記ネットワークを介して前記解析装置と接続される端末に提供し、前記複数のセンサ装置はそれぞれ、前記計測面の傾斜角の情報を取得可能な角度センサを有する。
本発明の第3の態様によれば、対象物の形状情報を取得する形状取得方法であって、前記対象物の計測面内の互いに交差する2方向の一方に関して位置が異なる複数の計測点で、複数のセンサ装置をそれぞれ用いて前記計測面の傾斜角の情報をそれぞれ取得することと、取得された前記複数の計測点での前記傾斜角の情報と前記複数の計測点の位置情報とに基づいて求められる前記傾斜角に関連する物理量の離散的な分布を、所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の各項の係数を求め、前記求められた前記係数を各項の確定係数として含む多項式関数で表される前記計測面の形状を、前記対象物の形状情報として取得することと、を含む形状取得方法が、提供される。
本明細書においては、「形状情報」とは、対象物の形状は勿論、形状の経時的な変化、変形量の空間的な分布などに関する情報の全てを含む概念である。
【0006】
本発明の第4の態様によれば、対象物の管理方法であって、上記の形状取得方法を繰り返し実行することと、実行される都度求められる形状情報に基づいて前記対象物の形状の経時変化をモニタすることと、を含む対象物の管理方法が、提供される。
【0007】
本発明の第5の態様によれば、対象物の管理方法であって、上記の形状取得方法を第1の時点と該第1の時点より後の第2の時点とで実行し、それぞれの時点で得られた前記多項式関数の各項の係数の変化量から前記対象物の計測面の変形量が所定の許容値を超える位置を特定する対象物の管理方法が、提供される。
【0008】
本発明の第6の態様によれば、対象物の変形を所望の状態に維持する対象物の管理方法であって、複数の支持部材で前記計測面の変形量が許容値以下となるように前記対象物が支持された基準状態において、前記複数の支持部材の特定された1つにのみ一定大きさの支持力を追加的に加える複数の状態を前記特定される支持部材を変更しながら設定し、前記複数の状態のそれぞれで、上記の形状取得方法を繰り返し実行し、実行の都度求められる前記複数の状態のそれぞれで特定された各支持部材に前記支持力を加えたことに起因して生じる前記計測面の基準状態からの変化に対応する前記多項式関数の各項の係数の前記基準状態からの変化量をそれぞれの要素とするマトリックスのデータからなるデータベースを作成することと、基準状態以後の任意の状態で前記計測面の基準状態からの変化に対応する前記多項式関数の各項の係数の前記基準状態からの変化量を要素とする第1の列マトリックスを求めることと、しかる後、前記第1の列マトリックスが、前記マトリックスと、前記複数の支持部材のそれぞれに与えるべき支持力を要素とする第2の列マトリックスとの積に等しいとする等式を、解くことで、前記支持部材に加えるべき支持力の大きさを決定することと、を含む対象物の管理方法が、提供される。
ここで、対象物の変形を所望の状態に維持するとは、対象物の変形が許容誤差範囲内になる状態に維持することを含む。
【0009】
本発明の第7の態様によれば、対象物の構築作業を支援する作業支援方法であって、上記の形状取得方法により対象物の計測面の形状情報を第1の時点を含む1又は複数の時点で取得することと、取得した前記形状情報に基づいて、前記対象物の異常の検知、前記対象物を支持する支持部材の支持力の決定、及び作業手順の作成/提案の少なくとも1つを行うことを含む作業支援方法が、提供される。
【0010】
本発明の第8の態様によれば、対象物の形状情報を取得する形状取得システムであって、ネットワークを介して互いに接続された解析装置と複数のセンサ装置とを備え、前記複数のセンサ装置は、前記対象物の計測面内の互いに交差する2方向の一方に関して位置が異なる複数の計測点それぞれにおける前記計測面の傾斜角を計測し、前記傾斜角の情報を含む複数のセンサデータを、前記ネットワークを介して前記解析装置に出力し、前記解析装置は、前記ネットワークを介して前記複数のセンサデータを受信し、前記複数のセンサデータに含まれる前記傾斜角の情報と前記複数の計測点の位置情報とに基づいて、前記傾斜角に関連する物理量の離散的な分布を求め、該分布を所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の各項の係数を求め、求めた前記係数を各項の確定係数として含む多項式関数で表される前記計測面の形状の情報を、ストレージに格納する形状取得システムが、提供される。
【0011】
本発明の第9の態様によれば、対象物の形状情報を取得する形状取得システムであって、ネットワークを介して互いに接続された解析装置と複数のセンサ装置とを備え、前記複数のセンサ装置は、前記対象物の計測面内の互いに交差する2方向の一方に関して位置が異なる複数の計測点それぞれにおける前記計測面の傾斜角を計測し、前記傾斜角の情報を含む複数のセンサデータを、前記ネットワークを介して前記解析装置に出力し、前記複数のセンサ装置から前記ネットワークを介した前記解析装置に対する前記複数のセンサデータの出力は第1の時点と該第1の時点より後の第2の時点とで行われ、前記解析装置は、前記複数のセンサデータを、前記ネットワークを介して受信する度に、受信した前記複数のセンサデータそれぞれに含まれる前記傾斜角の情報と、前記複数の計測点の位置情報とに基づいて、前記傾斜角に関連する物理量の離散的な分布を求め、該分布を所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の各項の係数を求め、求めた前記係数を各項の確定係数として含む多項式関数で表される前記計測面の形状を求めることをくり返し実行し、それぞれの時点で得られた前記多項式関数の各項の係数の大小関係から前記対象物の変形量が所定の許容値を超える位置を特定する形状取得システムが、提供される。
【0012】
本発明の第10の態様によれば、対象物の形状情報を取得する形状取得システムであって、ネットワークを介して互いに接続された解析装置と複数のセンサ装置とを備え、前記複数のセンサ装置は、前記対象物の計測面内の互いに交差する2方向の一方に関して位置が異なる複数の計測点それぞれにおける前記計測面の傾斜角を計測し、前記傾斜角の情報を含む複数のセンサデータを、前記ネットワークを介して前記解析装置に出力し、複数の支持部材で前記計測面の変形量が許容値以下となるように前記対象物が支持された基準状態において、前記複数の支持部材の特定された1つにのみ一定大きさの支持力を追加的に加える複数の状態が前記特定される支持部材を変更しながら設定され、複数の状態のそれぞれで、前記複数のセンサ装置から前記ネットワークを介した前記解析装置に対する前記複数のセンサデータの出力が繰り返し行われ、前記解析装置は、前記複数のセンサデータを、前記ネットワークを介して受信する度に、受信した前記複数のセンサデータそれぞれに含まれる前記傾斜角の情報と、前記複数の計測点の位置情報とに基づいて、前記傾斜角に関連する物理量の離散的な分布を求め、該分布を所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の各項の係数を求め、求めた前記係数を各項の確定係数として含む多項式関数で表される前記計測面の形状を求め、前記複数の状態のそれぞれで特定された各支持部材に前記支持力を加えたことに起因して生じる前記計測面の基準状態からの変化に対応する前記多項式関数の各項の係数の前記基準状態からの変化量を要素とするマトリックスのデータからなるデータベースを作成する第1の機能と、基準状態以後の任意の状態で前記計測面の基準状態からの変化に対応する前記多項式関数の各項の係数の前記基準状態からの変化量を要素とする第1の列マトリックスを求める第2の機能と、前記第1の列マトリックスが、前記マトリックスと、前記複数の支持部材のそれぞれに与えるべき支持力を要素とする第2の列マトリックスとの積に等しいとする等式を、解くことで、前記支持部材に加えるべき支持力の大きさを決定する第3の機能と、を有する形状取得システムが、提供される。
【0013】
本発明の第11の態様によれば、対象物の構築作業を支援する作業支援システムであって、ネットワークを介して互いに接続された解析装置と複数のセンサ装置とを備え、前記複数のセンサ装置は、前記対象物の計測面内の互いに交差する2方向の一方に関して位置が異なる複数の計測点それぞれにおける前記計測面の傾斜角を計測し、前記傾斜角の情報を含む複数のセンサデータを、前記ネットワークを介して前記解析装置に出力し、前記解析装置は、前記ネットワークを介して前記複数のセンサデータを受信し、前記複数のセンサデータに含まれる前記傾斜角の情報と前記複数の計測点の位置情報とに基づいて、前記傾斜角に関連する物理量の離散的な分布を求め、該分布を所定の多項式関数にフィッティングして前記多項式関数の各項の係数を求め、求めた前記係数を各項の確定係数として含む多項式関数で表される前記計測面の形状の情報を、取得し、前記解析装置は、前記形状の情報の取得を、第1の時点を含む1又は複数の時点で行い、取得した前記形状の情報に基づいて、前記対象物の異常の検知、前記対象物を支持する支持部材の支持力の決定、及び作業手順の作成/提案の少なくとも1つを行う作業支援システムが、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】形状取得方法を実施するための一実施形態に係る形状取得システムの全体構成を概略的に示す図である。
図2図1のセンサ装置の構成の一例を示すブロック図である。
図3】形状計測の対象物である山留壁を含む最終的に地下の部屋となる地下空間の側壁を一部省略して示す斜視図である。
図4】ソイルセメント柱列壁を取り出して簡略化して示す図、かつ山留壁を対象物とする計測について説明するための図である。
図5】本実施形態に係る形状取得方法の流れを示すフローチャートである。
図6図6(A)は、計測面を3次元直交座標系(x,y,z)上で説明するための図、図6(B)は、計測面を極座標系(x=ρcosθ,y=ρsinθ)上で説明するための図である。
図7】センサ装置の演算処理部のCPUによって実行される処理アルゴリズムを示すフローチャートである。
図8】ステップS2の処理に用いられる、サーバのCPUによって実行される割り込み処理ルーチンの処理アルゴリズムを示すフローチャートである。
図9】式(1)のツェルニケ多項式の最初の数項の成分を、極座標系(ρ,θ)の単位円内で濃淡模様として示す図である。
図10】切梁による最適支持を実現するための専用のデータベースを作成する際に、サーバによって実行される処理アルゴリズムを示すフローチャートである。
図11】対象物(壁)を支持する切梁の軸力の最適調整を行う場合に、サーバ12によって実行される割り込み処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、一実施形態について、図1図11に基づいて説明する。ここでは、一例として、対象物が、山留壁である場合について説明するが、対象物は、山留壁に限られるものではない。また、本実施形態において「山留め壁」とは、地面の掘削に際して、根切り側面を保護したり、土砂の崩壊や湧水を防いだり、近傍の他の構造物の安全を確保したりするための仕切りである。山留め壁は、土留め壁等ともいわれる。なお、「根切り」とは、基礎や地下構造物を作るため地盤面下の土砂や岩盤を掘削することを意味する。
【0016】
山留め壁には、例えば、ソイルセメント柱列壁、親杭横矢板壁、鋼矢板壁、鋼管矢板壁等がある。このうち、本実施形態では、対象物がソイルセメン柱列壁である場合について説明する。ソイルセメント柱列壁は、芯材(例えばH形鋼又はI形鋼)とコンクリート(セメントミルク)から地中に構築された壁である。山留壁において、「芯材」とは、山留め壁の一部として耐力を分担する部材であり、例えば、H型鋼、鋼矢板、鋼管矢板、コンクリート2次製品などを含む。
【0017】
図1には、形状取得方法を実施するための一実施形態に係る形状取得システム10の全体構成が概略的に示されている。形状取得システム10は、インターネットなどの広域エリアネットワーク13を介して互いに接続された解析装置としても機能するサーバ12、現場側コンピュータ14及びモバイル端末16、並びに複数のセンサ装置18ij(i=1、2、3、……I、j=1、2、3、……J)を含んで構成されている。総数I×J=Kとする。複数のセンサ装置18ijは、通信回線、例えば無線LANを介して広域エリアネットワーク13に接続されている。
【0018】
なお、通信回線は、広域エリアネットワーク13を含むネットワークの一部であると考えることもできるので、以下では、このネットワークを、広域エリアネットワークと同じ符号を用いてネットワーク13と表記する。なお、通信回線はすべてが無線でも良いが、少なくとも一部が有線であっても良い。
【0019】
また、現場側コンピュータ14は、一般的なデスクトップ型のPC(パーソナルコンピュータ)、ノートブック型のPC、タブレットタイプのPC又はモバイルPC、若しくはスマートフォンでも良い。
【0020】
モバイル端末16は、現場の作業員が携帯している。モバイル端末16は、一般に使用される携帯用のコンピュータ、例えばタブレットPCである。モバイル端末16はスマートフォンでも良い。
【0021】
なお、複数のセンサ装置18ijの出力を、ネットワークを介してサーバ12に提供する代わりに、現場側コンピュータ14及びネットワーク13を介してサーバ12に提供する構成としても良い。ただし、現場側コンピュータ14は必ずしも設ける必要はなく、モバイル端末16が、現場側コンピュータの役目を兼ねることとしても良い。勿論、ネットワーク13に接続された他の端末装置を介して、複数のセンサ装置18ijとサーバ12との情報のやりとりを行っても良い。
【0022】
複数のセンサ装置18ijは、対象物としてのソイルセメント柱列壁から成る山留壁に、所定の位置関係で配置されるが、センサ装置18ijの配置についてはさらに後述する。
【0023】
サーバ12としては、本実施形態では、一般に使用されるサーバ用のコンピュータが用いられているが、クラウド(コンピュータ)を用いても良い。サーバ12は、図示しないCPU、ROM、RAM、HDD等(ストレージ)を備えており、CPUは、例えば、RAMを作業領域として利用し、ROM、HDD等に記憶されている種々のプログラムで規定される種々の処理アルゴリズムを実行する。なお、解析装置としても機能するサーバ12はその構成が本実施形態に限られるものでなく、複数のセンサ装置18ijの出力を基に対象物(山留壁)の形状情報を演算により求めることができる構成(若しくは機能)を少なくも備えていれば良い。また、解析装置は本実施形態のようにハードウエアに限られるものでなく、例えば演算機能を少なくとも実行可能なソフトウエアであっても良い。
【0024】
また、サーバ12は、後述するようにネットワーク13を介してセンサデータ(IDを含む)を受けると、後述する割り込み処理ルーチンの処理を実行し、対象物(計測対象)の一面の形状の情報を、形状情報として求める。割り込み処理ルーチンの処理については、後に詳述する。
【0025】
センサ装置18ijのそれぞれは、図2に示されるように、角度センサ181、演算処理部182、通信部183、及び例えばバッテリから成る電源部184、並びにこれらをその内部に収容する防水性の筐体185を備えている。電源部184からのセンサ装置18ijの各部への電力の供給は、筐体185に設けられた電源スイッチ186の操作によってオン・オフできるようになっている。センサ装置18ijは、例えば小型のタッチパネルから成る表示操作部187をさらに備えている。表示操作部187は、演算処理部182に接続され、入力装置と表示装置との役目を兼ねている。表示操作部187は、その一部が筐体185の表面に露出している。なお、通信部183は本実施形態では無線通信を行う無線通信部によって構成されているが、通信部183は、無線に限られず、少なくとも一部が有線であっても良い。また、センサ装置18ijは必ずしも電源スイッチ186を備えている必要はなく、外部(サーバ12やモバイル端末16など)からの操作で電源のオン・オフを行うことができる構成としても良い。また、センサ装置18ijは本実施形態の構成に限られるものでなく、角度センサ181、通信部183などを一体に構成しなくても良いし、少なくとも角度センサ181、すなわちセンサ装置18ijの設置箇所の角度情報を計測する機能のみを有していれば良い。例えば、角度センサ181と、これ以外の他部(演算処理部182などを含む)を、無線又は有線の通信回線で接続し、通信回線を介して角度センサ181からのセンサデータの出力と、角度センサ181への電力供給を行うよう構成しても良い。この場合、角度センサ181ごとに他部を設ける必要はなく、複数の角度センサ181を、通信回線を介して同一の他部に接続しても良い。また、この他部の機能をネットワーク13に接続された他の端末装置などに持たせても良い。
【0026】
角度センサ181としては、本実施形態では、一例として3DMEMS(3次元マイクロエレクトロメカニカルシステム)傾斜角(傾斜角度)センサが用いられている。3DMEMS傾斜角センサは、3DMEMSテクノロジーを使って生み出された精密傾斜センサである。3DMEMS傾斜角センサの必要電力は極めて低くマイクロアンペア領域の電力消費量であり、無線用途に適している。角度センサ181としては、一例として出力特性が対称な2個のMEMS加速度センサとASICを内蔵したものが用いられており、例えば3方向(θx方向、θy方向、θz方向)の傾斜角(α、β、γ)の情報を出力する。ここで、θx方向、θy方向、θz方向は、図3に示される直交3次元座標系のX軸、Y軸、Z軸の各軸回りの傾斜・回転方向である。
【0027】
角度センサとしては、3DMEMS傾斜角センサに限らず、その他の種類の3次元傾斜角センサを用いても良い。また、角度センサは、計測対象物に応じて3次元傾斜角センサに限らず、2次元傾斜角センサ又は1次元傾斜角センサを用いても良い。この際、2次元傾斜角センサと1次元傾斜角センサを組み合わせて、あるいは2次元または1次元傾斜角センサを複数組み合わせて用いても良い。
【0028】
演算処理部182は、例えばマイクロコントローラ(MCU)から成り、図示しないCPU、メモリ装置(RAM、ROM)、入出力回路、及びタイマー回路を有する。演算処理部182は、ROMに記憶されているプログラムで規定される処理アルゴリズムを実行する。なお、演算処理部182を設けることなく、角度センサ181に内蔵されたASICに演算処理部182の機能を併せて持たせても良い。
【0029】
ここで、センサ装置18ijを対象物に取り付ける手段としては対象物の種類に応じた種々の手段を採用できる。例えば、対象物がねじ止めによって十分な強度を得られる部材、例えば金属等である場合には、ねじ(ボルトを含む)を用いてセンサ装置18ijを対象物に固定することができる。この他、対象物の種類、使用方法によっては、ねじ止め、接着に代えてあるいはねじ止め、接着とともに磁石の磁力を利用してセンサ装置18ijを対象物に固定しても良い。
【0030】
なお、以下の説明においては、適宜、センサ装置18ijを、センサ18ij又は総称としてセンサ18とも表記する。
【0031】
図3には、地下構造物を構築する途中の構築物の一例、具体的には、最終的に地下の部屋となる地下空間の側壁の一部(相互に直交する第1の壁20及び第2の壁40の一部)が示されている。
【0032】
以下では、図3に示されるように、鉛直方向(重力方向)をY軸方向とし、Y軸に直交する面内で、第1の壁20の面に平行な方向をX軸方向、Y軸及びX軸に直交する方向をZ軸方向とし、X軸、Y軸、及びZ軸回りの傾斜(回転)方向をそれぞれθx、θy、及びθz方向として説明を行なう。
【0033】
図3において、第1の壁20は、ソイルセメント柱列壁22と鋼矢板壁24との組み合わせによって構成され、第2の壁40は、鋼矢板壁24と親杭横矢板壁42との組み合わせによって構成されている。図3においては、第1の壁20及び第2の壁40のそれぞれは、第一段の水平切梁支保工50によって支持されている。第一段の水平切梁支保工50は、第1の壁20及び第2の壁40それぞれの内面に沿うように水平に配置された腹起し材52と、この腹起し材52に直交して水平に配置された切梁材(以下、適宜「切梁」と略記する)54とを含む。腹起し材52は、第1の壁20及び第2の壁40それぞれの内面に沿うように、それぞれの壁の芯材に設けられた腹起し受け部材55を介して支持されている。切梁54は、第1の壁20及び第2の壁40のそれぞれに垂直に複数本ずつ設けられている。各切梁54は、同軸上に配置された複数本の鉄骨部材が中間接続部を介してつなぎ合わされて実質的に一本の梁(切梁)として構成されている。中間接続部は、通常ジョイントプレートによって構成されているが、その一部の箇所(例えば切梁54同士が交差する交差部の近傍)には例えば油圧ジャッキなどのジャッキが配置される。各切梁54の端部(壁に近い部分)の両側面と腹起し材52との間には、両者を接続する2本の火打ち材56が斜めに架け渡されている。各切梁54は、その長手方向の中間が、中間杭(支持杭)58で支持されている。このようにして第一段の水平切梁支保工50が構築された段階では、切梁54には、不図示のジャッキを介してプリロード(軸方向の予圧力)が加えられる。以下の説明では、切梁の軸方向の内力(内部応力)を軸力と呼ぶ。切梁54の軸力は、切梁54からダイレクトに腹起し材52に外力として与えられるとともに、切梁54から火打ち材56を介して間接的に腹起し材52に外力として与えられる。そして、腹起し材52に与えられた外力がソイルセメント柱列壁22を含む第1の壁20等に作用し、例えばソイルセメント柱列壁22の裏面側の土砂や湧水などからソイルセメント柱列壁22に与えられる力に対抗している。
【0034】
なお、図3において、符号57は切梁支持部材を、符号59は裏込め材補強金物を、符号61は隅火打ちを、符号63は切梁押さえ材を、それぞれ示す。
【0035】
不図示ではあるが、第一段の水平切梁支保工50を構築した後、再びそれぞれの壁の内側の地盤が、所定の深さだけ掘り進められ、第二段の水平切梁支保工が構築される。以後同様にして目的の深さまで、上記と同様の工程が繰り返される。
【0036】
図4には、水平切梁支保工が複数段構築された後の、ソイルセメント柱列壁22が、取り出して簡略化して示されている。図4においては、水平切梁支保工は図示が省略されている。ただし、切梁54の位置は破線で示されている。
【0037】
図4に示されるように、本実施形態のソイルセメント柱列壁22には、数本おき(一例として1本おき)に芯材22aの所定位置にセンサ18が配置されている(図3参照)。芯材22aは、ここではH形鋼が用いられている。
【0038】
複数のセンサ18のそれぞれは、取り付け対象の芯材22aの長手方向(Y軸方向)の同じ位置(この位置は、サーバ12によって設計データに基づいて、予め定められている。)に固定されている。すなわち、複数のセンサ18は、X軸方向を行方向(列番号が変化する方向)、Y軸方向を列方向(行番号が変化する方向)として、マトリックス状に配置されている。以下では、図4中の上から下に向かって順に第1行、第2行、第3行、……とし、左から右に向かって順に第1列、第2列、第3列、……とする。また、識別のため、第i行第j列に位置するセンサ18を、センサ18ijと表記する。図4では、第1行に位置する一部のセンサ及び第1列に位置する一部のセンサのみに符号が付されている。
【0039】
なお、複数のセンサ18の配置は、これに限らず、取り付け対象の芯材22aそれぞれで設計データに基づいて取り付け位置が予め定められていれば良い。複数のセンサ18の配置は、2次元的な配置であれば良く(言い換えれば、X軸方向とY軸方向との少なくとも一方に関して位置が異なるように配置されていれば良く)、例えば、向きの異なる同じ大きさの多数の正三角形を隙間なく並べた図形の各頂点にセンサ18を配置することとしても良い。
【0040】
複数のセンサ18は、ソイルセメント柱列壁22の内側の地面が掘削され、芯材22aの表面が露出した後、取り付け対象の芯材22aのそれぞれに、作業者によって固定されている。ここで、センサ18は、芯材22aの所定の位置に、ねじ止めによって固定する。あるいは、テープ状の基材の一面に複数のセンサ18を所定間隔で配置し、各センサ18を接着等で基材の一面に固定したセンサ付きテープを複数用意し、それらのセンサ付きテープの基材の裏面を芯材22aに固定することとしても良い。センサ18の取り付けを担当する作業者は、サーバ12が定めたセンサ18の配置情報を予め取得しておいても良いし、モバイル端末16を介した情報のやりとりにより管理者などからその場で取得しても良い。なお、複数のセンサ18は、ソイルセメント柱列壁22の構築に際してセメントミルクの中に芯材22aを埋め込むのに先立って、工場にて予め芯材22aに固定しておくことも考えられる。
【0041】
次に、本実施形態に係る形状取得方法の流れを、図5のフローチャートに基づいて、説明する。
【0042】
形状取得の流れの説明に先立って、形状取得開始の前提条件について説明する。
前提として、ソイルセメント柱列壁22には、前述したように、複数のセンサ18ijが、X軸方向を行方向(列番号が変化する方向)、Y軸方向を列方向(行番号が変化する方向)として、マトリックス状に配置されている。ここで、各センサ18ijは、計測誤差が生じないように、予め(取り付け前に)キャリブレーション(較正)されているものとする。
【0043】
また、取り付けられた各センサ18ijは、現場の作業者によって、ネットワーク13を介して通信が可能となるように、スイッチ186をON(オン)にして電源を投入後、予め必要な初期設定が行われている。このセンサ18ijの初期設定は、表示操作部187を介して、そのセンサ18ijの識別情報を入力することを含む。具体的には、第i行第j列のセンサ18ijには、識別情報(01-ij)が個別に入力され、それぞれの演算処理部182は、入力された識別情報を、内部メモリ(RAM)に記憶する。ここで、識別情報のうち、「01」は、計測対象であるソイルセメント柱列壁22を含む第1の壁20の識別番号であり、「ij」は、各センサ18ijの識別番号である。例えば、図4に示される第1行目の3つのセンサ1811、1812、1813のそれぞれには、識別情報(01-11)、(01-12)、(01-13)が個別に入力されることとなる。なお、識別番号ijは、各センサ18ijの配置位置を示し、この配置位置は、サーバ12が認識している。なお、第1の壁20を構成する鋼矢板壁24には、センサ18は配置されないものとする。以下では、適宜、ソイルセメント柱列壁22と第1の壁20とを区別せず用い、また、ソイルセメント柱列壁22を、適宜「対象物(壁)22」と表記する。初期設定の完了によって、各センサ18ijは、いつでも計測ができるスタンバイ状態となる。初期設定後、各センサ18ijのスイッチ186はON(オン)にした状態(オン状態)が維持される。なお、各センサ18が、外部からの操作で電源のオン・オフを行うことができる構成である場合には、初期設定後、電源は一旦OFF(オフ)に設定されていても良い。また、複数のセンサ18は、工場にて予め芯材に固定する場合には、各センサ18が、外部からの操作で電源のオン・オフを行うことができる構成であることが好ましい。
【0044】
かかる前提のもと、対象物(壁)22の一面上に2次元的に配置された複数の計測点それぞれにおける傾斜角の情報を、センサ18ijをそれぞれ用いて取得する(図5のステップS1)。
【0045】
次いで、対象物(壁)22のそれぞれの計測点における傾斜角の情報の取得が終了すると、取得した傾斜角の情報に関連する物理量の離散的な分布を用いる関数フィッティングを含む演算により対象物(壁)22の形状を算出する(図5のステップS2)。以下、ステップS2の処理について、具体的に説明する。
【0046】
本実施形態では、対象物(壁)22の形状としてセンサ18が取り付けられた一面(以下、計測面とも呼ぶ)の形状を算出するものとする。計測面の形状は、対象物の変形量の分布ともいうことができる。
【0047】
計測面は、図6(A)に示されるように、3次元直交座標系(x,y,z)上で、XY平面上の点P(x,y)におけるZ位置zの点の集合に相当し、関数z=f(x,y)で表すことができる。一方、図6(B)に示されるように、極座標系(x=ρcosθ,y=ρsinθ)上では、点Pは、P(ρ,θ)で表される。したがって、計測面Wは、極座標系(x=ρcosθ,y=ρsinθ)上では、z=W(ρ,θ)と表すことができる。以下では、適宜、計測面を、計測面W又は計測面W(ρ,θ)とも表記する。
【0048】
各センサ18の出力としてその取り付け位置における3方向(θx方向、θy方向及びθz方向)の傾斜角α、β、γが得られるが、これらは各センサ18の計測点における計測面Wの法線ベクトルの傾斜角に他ならない。ただし、以下では、θz方向については考慮しないものとする。
【0049】
計測点座標と法線ベクトルの傾斜角の計測値から対象物の計測面の形状(表面形状)を導出することが可能である。例えば、各計測点(座標(x,y))の表面スロープの勾配とその1階積分、あるいは幾何学的な計算などにより各計測点の基準面(XY平面)に対する乖離量z(すなわち基準面に対する高さz、以下、適宜、高さzとも表記する)を求める。これにより、複数の計測点において離散的な基準面に対する乖離量zの面内の分布の情報が得られる。しかし、この段階では、センサ18が配置された点以外の点の高さzの情報は、比例計算などで概算的に求める他なく、正確に求めることは困難である。加えて、例えば、高さzが最大となる位置にセンサ18が配置されていない場合、高さzの最大値を求めることも困難である。
【0050】
そこで、本実施形態では、離散的な情報を、関数にフィッティングし、計測面Wを表す関数を求めるものとする。関数によるフィッティングでは任意の直交多項式の関数を使用することが可能である。直交多項式を使用することで変形量とその変形が生じる位置を一義的に確定させることが可能となる。
【0051】
本実施形態では、直交多項式としてツェルニケ(Zernike)多項式を用いることとする。ツェルニケ(Zernike)多項式は、単位円上で定義された直交多項式である。
【0052】
以下、ツェルニケ多項式を用いる第1の方法について説明する。
≪第1の方法≫
ツェルニケ多項式は、次式により定義される。
【0053】
【数1】
上式(1)において、nは、非負整数、mはn≧|m|なる整数であり、ρは動径(0≦ρ≦1)、θは偏角である。
ツェルニケ多項式は、|Zn m(ρ,θ)|≦1の範囲をとる。ここで、動径多項式Rn m(ρ)は、n-mが偶数の場合、
【0054】
【数2】
また、n-mが奇数の場合0として定義される。
【0055】
ここでは、フリンジによる記法を採用して、2つの指数n、mを、1つの指数iに統合するものとする。
すなわち、フリンジツェルニケ多項式では、指数iは以下のように定義される。
【0056】
【数3】
上式(3)に従って求めたフリンジツェルニケ多項式の初めの数項の指数n,mとiの関係を表1に示す。
【0057】
【表1】
本明細書では、適宜、フリンジツェルニケ多項式の各項をZ(ρ,θ)と表記している。したがって、計測面W(ρ,θ)は、次式のように表せる。
【0058】
【数4】
は、各項Z(ρ,θ)の係数である。
(ρ,θ)を、係数kとともに第37項まで表2に示す。
【0059】
【表2】
ここで、式(4)は、センサ18の数(計測点の数)だけ求められるので、ツェルニケ多項式の第2項から第q項(例えば第37項)までをフィッティングに用いるものとして、センサ18の数をK(K>q-1)個とし、K個のセンサ18のそれぞれの計測点で得られたzを、関数フィッティングする。すなわち、K個の観測方程式を解くことにより、式(4)の各項の係数k(i=2,3、……q)を求める。ここで、zは、誤差を含むので、係数kに含まれる誤差を極力小さくするため、最小自乗法で求めるものとする。
【0060】
本第1の方法では、上述したような手法により、関数W(ρ,θ)の各項の係数kを求め、係数k確定後の関数W(ρ,θ)を、対象物の面の形状、すなわち変形量の分布を表す関数として求める。この第1の方法によると、センサ18が配置された点以外の点の高さzの情報も、比例計算を行うことなく、関数z=W(ρ,θ)から求めることができるとともに、例えば、最も突出した位置にセンサ18が配置されていない場合であっても、その最突出位置及び突出量を、関数z=W(ρ,θ)から求めることができる。
【0061】
≪第2の方法≫
ところで、センサ18の出力である、各計測点における計測面の法線ベクトルのθx,θy方向の傾斜角α,βは、関数z=W(ρ,θ)で表される計測面の各計測点における接平面の勾配に他ならず、勾配α=∂W/∂x、β=∂W/∂yと表すこともできる。ここで、∂W/∂x,∂W/∂yは、関数Wの微係数である。
【0062】
したがって、離散的なセンサ18の計測値を、ツェルニケ多項式を微分した関数(本明細書では、微分ツェルニケ多項式とも呼ぶ)にフィッティングすることで、上記の第1の方法に代えて、センサ18の計測値の分布を表す関数dW(ρ,θ)を、求めることができる。得られたdW(ρ,θ)を積分することで、関数W(ρ,θ)を求めることができる。
【0063】
以下、微分ツェルニケ多項式を用いる第2の方法について、簡単に説明する。
計測値の分布dW(ρ,θ)は、微分ツェルニケ多項式を用いて、式(5)のように表すことができる。
【0064】
【数5】
実際には、センサ18それぞれについて、傾斜角α=∂W/∂x,β=∂W/∂yが得られる。
式(1)のx偏微分∂Z/∂xは、次のように表される。
【0065】
【数6】
式(1)のy偏微分∂Z/∂yは、次のように表される。
【0066】
【数7】
また、微分∂/∂x,∂/∂yの極座標表示は、式(8)の通りである。なお、式(6)、式(7)において、m=0のとき、cos(mθ)=1である。
【0067】
【数8】
式(8)を上式(6)、(7)にそれぞれ適用して計算することで、Zの変微分∂Z/∂x・∂Z/∂yのn次mθ項の一般系をそれぞれ求め、求めた各項の指数m、nを、式(3)に従って1つの指数iに統合し、その統合した指数の順番に各項を並べ替えることで、フリンジツェルニケ多項式を微分した微分ツェルニケ多項式Z’(ρ,θ)の各項を求めることができる。
【0068】
本実施形態では、ツェルニケ多項式及び微分ツェルニケ多項式、並びにこれらの各項の式が予め求められ、サーバ12のストレージ内に格納されている。
【0069】
離散的なセンサ18の計測値(∂W/∂x、∂W/∂y)を上式(5)の多項式に関数フィッティングし、最小二乗法を用いて各項の係数kを求めることとする。このとき、センサ18の数をKとすると、観測方程式の数は、2Kとなる。これにより、数(5)の多項式の各項の係数kを求めることができる。この第2の方法は、センサ18の計測値から高さzを求めるための計算(近似計算)を行っていないので、求められた係数kの値は第1の方法に比べて真の値に対する誤差が小さい。
【0070】
そして、求めた各項の係数を、式(5)の対応する各項の確定係数kとし、その係数確定後の式(5)の多項式を積分して関数W(ρ,θ)を求める。
【0071】
【数9】
積分の結果得られた式(9)の関数は、この場合の各項の確定係数kを、式(4)に代入して求めた関数W(ρ,θ)と一致する筈である。
【0072】
本第2の方法によると、第1の方法と同様、センサ18が配置された点以外の点の高さzの情報も、比例計算を行うことなく、関数z=W(ρ,θ)から求めることができるとともに、例えば、最も突出した位置にセンサ18が配置されていない場合であっても、その最突出位置及び突出量を、関数z=W(ρ,θ)から求めることができる。これに加えて、第1の方法に比べて、kの真の値に対する誤差が小さい分、W(ρ,θ)で表される面の形状を精度良く求めることができる。
【0073】
上記ステップS1及びステップS2は、本実施形態では、形状取得システム10によって行われるので、以下、形状取得システム10の構成各部の動作について、説明する。
【0074】
まず、ステップS1の処理で用いられる各センサ18の動作について、図7のフローチャートに基づいて、説明する。このフローチャートは、演算処理部182のCPUによって実行される、プログラムで規定される処理アルゴリズムを示すものである。図7のフローチャートで示される処理アルゴリズムが開始されるのは、計測開始の指示が入力されたときであるものとする。
【0075】
まず、ステップS24において、角度センサ181に計測を指示し、角度センサ181で計測される傾斜角(ここでは、θx方向・θy方向を含む少なくとも2方向)の情報を取り込む。
次のステップS26では、取り込んだ出力情報にID(識別符号)を付して1つのセンサデータとして、通信部183及びネットワーク13を介してサーバ12に送信する。ここで、IDとしては、初期設定時に作業者によって入力され、RAM内に格納されている識別情報に基づいて作成された番号(符号)が用いられる。
ステップS26の処理が終了すると、処理を終了する。これにより、センサ18ijは、次の計測開始の指示が入力されるまで、待機状態になる。
上記のステップS24及びS26の処理が、全てのセンサ18ijで行われる。
【0076】
サーバ12では、送られてきたセンサデータを順次RAMの所定の格納領域に格納する。複数のセンサデータが同時に送られてきた場合には、サーバ12では、時分割処理によりセンサデータをRAMの所定の格納領域に同時並行的に格納する。
【0077】
次に、ステップS2の処理に用いられるサーバ12の動作について、図8のフローチャートに基づいて、説明する。このフローチャートは、サーバ12のCPUによって実行される、プログラムで規定される割り込み処理ルーチンの処理アルゴリズムを示すフローチャートである。
【0078】
この割り込み処理ルーチンは、対象物(壁)22に配置された全てのセンサ18からのセンサデータの取り込みが終了したタイミング毎に実行される。
まず、ステップS32では、取り込まれたセンサデータを用いて、対象物である壁の形状情報として、前述した第1の方法又は第2の方法により、式(4)、又は式(9)の多項式で表される面形状(変形量の分布)Wを算出する。
そして、次のステップS34では、求めた形状データを、対象物の番号と関連付けて、ストレージ(HDDなど)に格納した後、割り込み処理ルーチンを抜ける(メインルーチンにリターンする)。ここで、形状データは、次のマトリックスQのデータとして、対象物(壁)のIDデータと紐づけられて格納される。
【0079】
【数10】
多項式Wが第2項から第37項を有する場合、q=37である。
【0080】
図8の割り込み処理ルーチンは、壁(対象物)のセンサデータの取り込みのタイミング毎に行われる。すなわち、全ての計測対象の壁(対象物)それぞれについてセンサデータの取り込みのタイミング毎に、形状の算出、及び壁番号(対象物の番号)と関連付けた算出結果の記憶が、繰り返し行われることになる。
【0081】
そこで、予めストレージの所定の領域に、対象物の番号(壁番号)に対応付けられた、書き換え可能なデータテーブルを用意しておき、算出結果の記憶の際に、対象物の番号(壁番号)に対応付けられた領域を繰り返し上書きする(すなわち記憶内容を更新する)こととしても良い。
【0082】
本実施形態では、サーバ12は、ストレージに格納された最新の情報を設計データと関連付けた、上記のデータテーブルを含む、データベースを備えており、計測が終了する都度そのデータベースを更新する。なお、通常、設計データそのものは、データテーブルの所定の領域に格納されており、更新されない。
【0083】
この場合、その作成、更新されたデータベースに基づいて、対象物(壁)の形状の経時変化などの監視も可能となる。
【0084】
なお、本実施形態では、計測結果のデータが格納されるデータベース内部の領域には、第1回目の対象物(壁)の計測が開始される前の時点では、仮のデータが記憶されている。そして、第1回目の計測が終了した時点で、データベースの第1回目の更新が行われる。
なお、必要に応じ、データベースの更新が行われる度に、サーバ12は、計測結果を含む情報を、ネットワーク13を介して現場側コンピュータ14に送信することとしても良い。
【0085】
ここで、ツェルニケ多項式の成分分解について説明する。図9には、理解を容易にするために、式(1)のZernike(ツェルニケ)多項式の最初の数項の成分が極座標系(ρ,θ)の単位円内で濃淡模様(各座標点(ρ,θ)の濃度は、その点におけるz位置の大小(変形度合とも言える)に相当する)として示されている。図9は、ツェルニケ(Zernike)モードマップとも呼ばれるマップの一部を示すものである。
【0086】
前述した式(4)又は式(9)における各項の確定係数kの値から各項の成分がどの程度含まれているかがわかり、さらに図9の成分図から円内の各部の変形度合がわかる。例えば、k、k、k16が他と比べて大きいとき、これらを係数として有するZ、Z、Z16の成分が他より多く含まれていることがわかる。フリンジツェルニケオーダーの4、9、16は、それぞれ2つの指数(2、0)、(4、0)、(6、0)を並べて、1つの指数に統合したものであるから、図9より、円内の中央部分が一番突出していることがイメージとして伝わる。ただし、図9には、Z16は示されていない。なお、本実施形態では、サーバ12のストレージ内には、ツェルニケ多項式の例えば第1項から第91項までのツェルニケモードマップが記憶されている。したがって、サーバ12は、対象物の一面の形状、すなわち変形量の面内分布を表現するツェルニケ多項式を各項の成分毎に分解することで、各項の係数kの値とツェルニケモードマップとに基づいて、例えば一番突出した位置(ρ,θ)とその変形量(基準面からの乖離量)などを数値的に求めることができる。
【0087】
実際の山留壁を対象物とする計測では、図4に示されるように、矩形の山留壁の中心を原点OとするXY座標系を、極座標系(ρ,θ)に座標変換し、その極座系上に山留壁の四隅の頂点に外接する仮想的な単位円(0≦ρ≦1)を設定する。この単位円は、XY座標系上で原点Oを中心とする半径Raの仮想円に対応している。換言すれば、極座標系上の単位円は、共通の原点を有するXY座標系上で半径Raの円が縮小倍率1/Raで縮小された円である。なお、極座標系において、X軸に対応する軸からの角度が偏角θである。
【0088】
センサ18の配置されるある計測点の実際の位置が(a,b)の位置である場合、計算上の計測点の座標位置は(a/Ra,b/Ra)として関数フィッティングなどの各種計算が行われる。
【0089】
《地下水などに起因する山留壁の変形計測》
地下水などに起因する山留壁の変形を、センサ18を用いて求める際には、ある時点で、複数本の切梁54のうち、設計データに基づいて、所定の基準で選択した特定の切梁54(複数本の切梁54の全部の場合もあり得る)に軸力をそれぞれ掛け、かつそれぞれの軸力を調整することで壁の平坦度を基準レベルに設定する。基準レベルとは、壁全体の凹凸が所定の閾値以下に収まった状態を指す。このとき、切梁54それぞれの軸力の調整は、例えば熟練者により目視にて行われる。
【0090】
そして、壁の平坦度が基準レベルに収まったと判断した時点で、前述したステップS1~S2の一連の計測処理が行われる。この一連の計測処理は、現場側の管理者等からサーバ12の管理者への指示に基づいて、開始される。そして、サーバ12は、求めた壁の形状情報(前述の多項式W)の各項の成分分解の結果から、平坦度を評価する。そして、平坦度が基準レベルに収まっている場合には、平坦度OK情報が通知される。この一方、平坦度が基準レベルに収まっていない場合には、平坦度が基準レベルに収まっていない箇所及びその箇所の変形量の情報などが、サーバ12によって求められ、その情報が通知される。
【0091】
現場側の管理者等は、通知された平坦度OK情報に基づき、壁が基準レベルに設定されていることを確認する。一方、平坦度が基準レベルに収まっていない箇所及びその箇所の変形量の情報を受け取った場合は、現場側の管理者等は、その結果を現場の作業者に知らせる。これにより、作業者によって、必要な切梁54の軸力の調整が行われる。調整が終了すると、前述と同様の計測処理が、形状取得システム10によって再度行われる。
【0092】
そして、サーバ12は、計測により平坦度が基準レベルに収まっていることを確認した段階で、平坦度OK情報を通知するとともに、前述のデータベースを更新する。以下では、平坦度OK情報を通知し、データベースを更新した時点を第1の時点と呼ぶとともに、その時点でデータベースに格納されたデータを基準時データと呼ぶ。
【0093】
第1の時点から所定時間経過した第2の時点において、地下水などに起因する山留壁の変形を、センサ18を用いて求める際には、現場側の管理者等からサーバ12の管理者へ計測が指示され、その指示に従って前述した一連の計測処理が行われる。そして、サーバ12は、求めた壁の形状情報(前述の多項式W)の各項の成分分解の結果から、対象物(壁)の変形状態を評価する。具体的には、基準時データに含まれる各項の係数kの値と、RAM内に格納されている第2の時点の計測データに含まれる対応する各項の係数kの値から、係数kの変化量Δkを項毎に求め、変化量Δkの値と前述のツェルニケモードマップとに基づき、壁の変形が大きな位置(ρ,θ)を数値的に特定することが可能になる。例えば、Δk、Δk及びΔk16などの0θ項の係数の変化量が大きいときは、対象物(壁)の中央部分で特に大きな変形が発生しいることがわかる。この場合には、その大きな変形が発生している箇所に基づいて、山留壁裏面側の掘削位置を決定し、その部分の壁の裏側の地面に含まれる水を抜くなどの対処が可能になる。
【0094】
《切梁による対象物(壁)の最適支持》
切梁54による最適支持を実現するには、事前に専用のデータベースを作成する必要がある。ここで、この専用のデータベースの作成について、サーバ12によって実行される処理アルゴリズムを示す図10のフローチャートを用いて説明する。
【0095】
前提として、対象物(壁)の平坦度が、前述と同様の手順でかつ複数本(ここでは、N本とする)の切梁54の全てに軸力を掛けた状態で、基準レベルに設定されている。また、その基準レベルに設定された状態の壁に対する一連の計測処理が行われ、その計測により求めた壁の形状情報(前述の多項式Wの成分分解が行われ、各項の係数kのデータなどが、切梁54の識別データ及び軸力のデータと対応付けてRAM内の所定の格納領域に格納されている。さらに、後述するカウンタiは、0に初期化されているものとする。かかる前提のもと、専用のデータベースの作成は、次のようにして行われる。
【0096】
まず、ステップS102において、切梁54の番号を示すカウンタiが1インクリメントされる(i←i+1)。これにより、カウンタiは1に設定される。
次のステップS104において、サーバ12は、現場側コンピュータ14に第i番目(ここでは第1番目)の切梁54に対する軸力の増加指令を与える。これにより、現場側の管理者から作業者に第i番目(ここでは、第1番目)の切梁54に対する軸力の増加指示が与えられ、作業者によってジャッキが操作され、指示された切梁54に一定大きさの軸力が追加的に与えられる。ここで、一定大きさの軸力とは、対象物に計測可能な変形(計測の結果、多項式Wの第2項から第q項(例えば第37項)までの各項の係数のうち、少なくとも1つの項の変化量(基準データを基準とする)Δkがゼロとはならない)を生じさせる程度の一定大きさの軸力(一定大きさの支持力又は単位大きさの支持力と言うこともできる)である。
次のステップS106では、切梁54に対する軸力の追加が終了するのを待つ。そして、第i番目(ここでは第1番目)の切梁54に対する一定大きさの軸力の追加作業が終了すると、その旨が管理者に報告され、現場側の管理者から第i番目(ここでは第1番目)の切梁54に対する軸力の追加作業が終了した旨の情報がサーバ12に送信される。この情報をサーバ12が受信することにより、ステップS106の判断が肯定され、次のステップS108に進む。
ステップS108では、第i番目(ここでは第1番目)の切梁54に対する一定大きさの軸力追加に起因する多項式W(ρ,θ)の各項(第2項から第q項まで)の係数の変化量Δkの取得処理を実行する。このステップS108の処理は、前述したステップS1~S2の一連の計測処理を行い、さらに壁の形状情報(前述の多項式W)の成分分解を行って、第i番目の切梁54に対する一定大きさの軸力追加に起因する多項式W(ρ,θ)の各項(第2項から第q項まで)の係数の変化量Δkを、i番目の切梁54の識別データと対応付けてRAM内に所定の領域に格納することによって行われる。
次のステップS110では、全ての切梁54に対する軸力の追加作業が終了したか否かを判断する。ここでは、第1番目の切梁54に対する軸力の追加が終了したのみなので、このステップS110における判断は否定され、ステップS102に戻り、以後、ステップS110の判断が肯定されるまで、ステップS102~ステップS110の処理(判断を含む)が繰り返し行われる。これにより、第2番目以降の切梁54に対する軸力追加(ステップS104)及び軸力追加後の係数変化量の取得(ステップS108)が、上記と同様にして行われる。ただし、第2番目以降の切梁54に対する軸力の追加に際しては、第(i-1)番目の切梁54の軸力を、一定大きさの軸力が与えられる直前の軸力に戻した後、軸力の追加が実行される。
【0097】
そして、第N番目の切梁54に対する軸力追加(ステップS104)及び軸力追加後の係数変化量の取得(ステップS108)が終了し、ステップS110における判断が肯定されると、ステップS112に移行して、専用のデータベースを作成し、ストレージの内部に格納する。このステップ112の処理は、次のようにして実現される。すなわち、その時点までにRAM内の領域に格納された第1番目から第N番目までのデータを使って、次式で表されるマトリックス(行列)Oを作成する。このOのデータを、上記の専用のデータベースとして、ストレージの内部に格納する。
【0098】
【数11】
ここで、kの一番目の添え字は、ツェルニケ多項式の項数を示し、2番目の添え字は、第何番目の切梁54に対する軸力追加時に得られたデータであるかを示す。多項式Wが第2項から第37項を有する場合、q=37である。したがって、上記のマトリックスOは、36行N列のマトリックスとなる。
ステップS112の処理終了後、処理を終了する。
なお、現実的ではないと思われるが、上記の専用データベースの作成処理をシミュレーションにて行うことも考えられる。
【0099】
専用データベースの作成後、対象物(壁)22を支持する切梁の軸力の最適調整を行う場合には、サーバ12による図11の割り込み処理ルーチンの実行によって最適調整量が算出され、現場側コンピュータ14に送信される。
【0100】
図11の割り込み処理ルーチンは、この割り込み処理ルーチンの開始条件を満足したタイミングで実行される。この開始条件は、現場側コンピュータ14からサーバ12に対して切梁の軸力の最適調整の算出指令が与えられる、あるいは、所定のインターバルで最適調整量の算出を行う自動設定がなされている場合において、その時間が到来することである。
いずれにしても、割り込み処理ルーチンの開始条件を満足すると、ステップS222において、対象物(壁)22について全てのセンサデータを前述と同様にして取り込む。
【0101】
次のステップS224では、取り込まれたセンサデータを用いて、対象物である壁の形状情報として、前述した第1の方法又は第2の方法により、式(4)、又は式(9)の多項式で表される面の形状(変形量の分布)Wを算出する。
【0102】
そして、次のステップS226では、求めた形状データと前述した基準時データとに基づき、多項式Wの第2項から第q項までの係数の基準時からの変化量Δk(i=2、3、……q)を求め、その求めた変化量Δk(i=2、3、……q)を要素とする次式(12)の列マトリックス(すなわち縦ベクトル)Q’のデータを、対象物(壁)の番号と紐づけてストレージ(HDDなど)に格納する。
【数12】
【0103】
上記の列マトリックスQ’と、前述したデータベースとしてハードディスク内に格納されているマトリックスOと、複数本の切梁54の軸力の調整量Pとの間には、次式(13)のような関係が成立する。
Q’=O・P ……(13)
上式(13)において、Pは、次式(14)で表されるN個の要素から成る列マトリックス(すなわち縦ベクトル)である。
【0104】
【数13】
次のステップS228において、次式(14)の演算を行うことにより最小自乗法により、Pの各要素ADJ~ADJ、すなわち切梁54~54の軸力の調整量(目標調整量)を求め、目標調整量のデータを、現場側コンピュータ14に送信した後、メインルーチンにリターンする(割り込み処理ルーチンを抜ける)。
【0105】
P=(OT・O)-1・OT・Q’ ……(15)
上式(15)において、OTは、マトリックスOの転置マトリックスであり、(OT・O)-1は、(OT・O)の逆マトリックスである。
目標調整量のデータを受信した現場側の管理者は、切梁54の軸力の再調整の指令とともに、受信した目標調整量のデータを作業者に知らせる。作業者は、切梁54の軸力の再調整の指令に従って、切梁54の軸力を目標調整量のデータ通りに調整する。これにより、対象物(壁)の平坦度が基準レベルに設定される。
【0106】
なお、式(11)の専用データベースが、既に作成され、サーバ12のストレージ内に格納されているので、上記の割り込み処理ルーチンの設定が自動設定である場合、サーバ12により、上記の割り込み処理ルーチンが所定のインターバルで実行される。したがって、目標調整量のデータを受け取る都度、現場側でその目標調整量に従って切梁54~54の軸力を調整するようにすれば、疑似的に対象物(壁)の変形の自動制御が実現できる。
【0107】
なお、長期にわたり経時変化の監視などを行う場合には、各センサ18に対しての電力供給(給電)が必要となるが、この場合の対応策として、MEMS振動発電子を用いた給電、電磁誘導方式送電側と受電側との間で発生する誘導磁束を利用して電力を送電するワイヤレス給電(非接触給電)、太陽光による発電、あるいはLANケーブルを用いた有線LAN給電などが考えられる。
【0108】
以上説明したように、本実施形態に係る形状取得方法によれば、対象物(壁)に2次元的に配置された複数のセンサ18で取得した対象物(壁)の複数の計測点における離散的な傾斜角の情報、あるいは、傾斜角の情報に基づいて算出した各計測点の基準面からの高さの離散的な情報を、所定の関数にフィッティングすることにより、対象物(壁)の計測点が配置された面(計測面)の形状ひいては、対象物(壁)の変形量の面内分布の高精度な取得が可能になる。これにより、対象物を山留壁とする場合であっても、センサ18が配置された点以外の点の突出量(高さz)の情報も、比例計算を行うことなく求めることができる。特に、上記実施形態で説明したツェルニケ多項式z=W(ρ,θ)のような直交多項式を用いて関数フィッティングを行う場合には、その最突出位置(ρ,θ)及び突出量を、数値的にその直交多項式から求めることができる。
【0109】
ここで、本実施形態の関数フィッティングを行う場合と同様の精度で計測面の形状を計測することを、例えば特許文献1に記載の方法で実現することを考えてみる。この場合には、本実施形態と比べてはるかに多くの傾斜センサが必要になることが明らかであり、その多数のセンサの取得及び設置等に要する経費を考えると、非現実的な方法と言わざるを得ない。
このことからもわかるように、本実施形態に係る形状取得方法によると、山留め壁等の対象物の計測管理に対して面的な評価を精度良くかつ安価に行うことができる。
【0110】
なお、上記の関数フィッティングに好適に用いることができる直交多項式は、ツェルニケ多項式に限らず、フーリエ級数、チェビシェフ多項式、ルジャンドル多項式その他であっても良い。
【0111】
なお、上記実施形態では、各センサ18ijに対し、それぞれの初期設定時に表示操作部187を介して識別情報を入力する場合について例示したが、センサ18に対する識別情報の入力(あるいはRAM(メモリ)への記憶)の時期、方法などは特に問わないが、本実施形態に用いるセンサ18は、そのセンサ18の識別符号(ID)を含めたデータを出力することが好ましい。なお、上記実施形態では、各センサ18の識別符号(ID)として、各センサ18が取り付けられる対象物の識別符号及びその対象物における取り付け位置の識別符号を含むものとしたが、対象物の識別符号は含まれていなくても良い。
【0112】
また、上記実施形態では、対象物が、ソイルセメント柱列壁である場合について説明したが、対象物は、鋼矢板壁、親杭横矢板壁、鋼管矢板壁その他の山留壁であっても勿論良い。また、上記実施形態では、対象物として山留壁を取り上げて、その形状算出、及びそれを利用した地下水などによる山留壁の変形管理、経時変化の管理などについて説明したが、上記実施形態に係る形状取得方法及び形状取得システム(以下、上記実施形態に係る方法及びシステムと略記する)は、種々の対象物に対して好適に適用できる。鉄骨の管理(絶対値管理・経時変化管理)、その他の建築工程管理にも適用が可能である。また、対象物は、他のインフラ、例えば橋梁、ダム、トンネル、高速道路、プラント(タンクなどを含む)などでも良いし、風力発電用風車羽根(ブレード)、航空機の胴体や翼またはプロペラ、高速鉄道(新幹線など)の車体(特に先頭車)、鉄道レール、モノレール(跨座式、懸垂式)の軌条、船舶やそのスクリューなどでも良い。これらの他、対象物は、乗り物(F1カーなどを含む自動車、飛行機、鉄道、船舶など)、水中の乗り物(潜水艦、深海探査艇など)、宇宙関連(宇宙船、再突入体など)、飛翔体(ロケット、ミサイル、衛星など)、発電所(水力、火力、天然ガス、原子力など)などであっても良い。対象物(センサ装置の計測対象)は、例えばインフラ構造物又は乗り物その他の移動物体の一部又は構成部材であれば良い。インフラ構造物は、例えば、劇場、観覧場、公会堂、講堂、コンサートホール、伝統芸能場、演芸場、映画館、国際会議場、文化会館、市民ホール、多目的ホール、集会場、図書館、美術館、博物館、資料館、水族館、屋内プール、及び球技その他の屋内スポーツ施設などの屋内施設、スタジアム(陸上競技場、野球場、サッカー場などを含む)などの屋外施設などを含む。計測対象は、屋内施設では天井など、屋外施設では客席を覆う屋根などである。インフラ構造物では、その建設時に、前述の山留壁あるいは後述するトンネルを対象物(計測対象)とする場合と同様、上記実施形態による計測を行っても良いし、建設後にその計測対象の変形の計測を行っても良い。
【0113】
上記実施形態に係る方法及びシステムを好適に適用可能な建築工程管理として、杭打ちの管理(絶対値管理、経時変化管理)なども挙げられる。ここで、杭とは建築時の土台となる構造物を意味する。
【0114】
上記実施形態に係る方法及びシステムは、インフラ管理にも適用が可能である。例えば、橋梁のメンテナンス(経時変化管理)、橋梁施工時の管理(絶対値管理)、ダム壁面のメンテナンス(経時変化管理)、トンネルのメンテナンス(経時変化管理)、及びプラント/ガスタンクのメンテナンス(経時変化管理)などに好適に適用できる。この他、上記実施形態に係る方法及びシステムは、各種の変形量解析にも適用が可能である。例えば、船底の変形量解析(経時変化)、風力発電ブレードの変形量解析(経時変化)、無人飛行機の翼変形量解析(経時変化)、鉄道レールの変形量解析(経時変化)などに好適に適用できる。
【0115】
上記実施形態に係る方法及びシステムを、橋梁のメンテナンスに適用する場合、例えば、複数のセンサ18を橋梁に配置し、初期状態からの3次元の形状の変化を常時監視し、例えば形状の変化の指標(例えばセンサ18が出力する傾斜角、最大変形量など)が閾値を超えたとき、例えばサーバ12から現場側コンピュータ14に警報を発するようにする。このようにすれば、現場側コンピュータ14の管理者が異常の発生と発生個所を速やかに認識できるので、効率的な目視点検を実現することが可能になる。
【0116】
特に、斜張橋などの橋梁のメンテナンスには、前述した切梁による対象物(壁)の最適支持で説明した手法を、改良することで、橋桁形状の自動調整を実現することが可能になる。具体的には、切梁の軸力を斜張橋のケーブルの張力に置き換えて、前述した専用のデータベース(マトリックスO)を橋梁の初期調整時に作成しておく。その後一定のインターバルで、以下のようにして橋桁形状の自動調整を実行する。
【0117】
すなわち、前述した第1の方法又は第2の方法により、式(4)、又は式(9)の多項式で表される橋桁の面形状(変形量の分布)Wを算出する。そして、前述したステップS226と同様にして、式(12)の列マトリックス(すなわち縦ベクトル)Q’のデータを、求める。
【0118】
そして、マトリックスQ’と、マトリックスOと、複数本のケーブルの張力の調整量(前述の式(14)と同様の列マトリックスPで表される)との間に成立する式(13)の関係を、前述と同様、最小二乗法で解くことで、マトリックスPの各要素、すなわち複数本のケーブルの張力の最適調整量を求め、その求めた最適調整量に基づいて複数本のケーブルそれぞれについて張力を調整する。
【0119】
なお、対象物によっては、シミュレーションによって、支持部材の位置を変更しながら、上記のマトリックスOと同様の専用データベースを複数作成し、その作成した複数の専用データベースを比較することで、その対象物を最も効率的に支持できる支持部材の配置を見つけることも考えられる。
【0120】
《トンネル内空面の変形計測に関する変形例》
土木・建築構造物(以下、構造物とも言う)を構築し又は管理する際に、安定性・安全性を確認すると共に設計・施工の妥当性を評価するため、周辺の変動しうる地山及び地盤その他の自然物又は人工物表面(以下、変動面とも言う)の経時的な変位を計測することがある。例えば山岳トンネルを掘削する場合に,掘削直後の切羽において必要な支保や一次覆工を建て込むと共に、周囲地山の挙動や支保の変形を把握して施工の安全性及び支保の妥当性を判断するため、トンネルA計測が行われる。トンネルA計測とは、切羽から離れた後方においてトンネル内空面(変動面)の変位を継続的に計測する施工管理である。トンネル内空面(変動面)の変位速度が所定値以下(例えば1mm/週以下)に収束することで周囲地山が安定したと判断し、変位収束後の内空面に最終的なトンネル面となる二次覆工を打設する。
【0121】
従来、トンネルA計測では、例えば切羽から所定距離離れた断面位置で天端部位、肩部位、両脚部位等の所定位置(合計3~5点)に測定点を設け、各測定点にターゲット(反射板又はプリズム)を取り付け、トータルステーション(三次元光波式測距器)で各ターゲットを順次視準して水平角・鉛直角・距離を求めることにより、各測定点の観測点に対する三次元座標及び変位を計測することがなされていた。
【0122】
しかるに、この方法では、トンネル内空(断面)当たりの測定点の数が3~5点程度に限られるため、その断面の詳細な形状変化を把握することは困難であった。このため、最近では、トンネル内空面(変動面)上の3以上の既知位置(地球座標系の位置。以下、トンネル座標値とも言う)にそれぞれターゲットを取り付け、三次元レーザスキャナ(以下、スキャナ装置とも言う)を用いてそのターゲットを含む内空面を走査して多数の計測点の三次元座標値(スキャナ装置の座標系の位置。以下、スキャン座標値ともいう)を取得した後、計測点の中からターゲットの位置を検出する。ここで、ターゲットをレーザ光の高反射シート(全反射シート)又は吸収シート(低反射シート)とすることにより、多数の計測点の中からデータ抜け領域としてターゲットの位置を検出し、そのスキャン座標値を特定する。次いで、特定したターゲットのスキャン座標値とトンネル座標値との関係に基づき他の計測点のスキャン座標値をそれぞれトンネル座標値に変換し、変換後の各計測点のトンネル座標値に基づきトンネル内空断面の形状を計測する。この方法では、トンネル内空面のような変動面の形状を継続的に計測して順次比較することにより、変動面の詳細な形状変化を把握することができる。
【0123】
本変形例は、上記実施形態に係る方法及びシステムを用いて、上述のトンネル内空面(変動面)の形状及び形状変化の計測を行うものである。すなわち、トンネル内空面(変動面)の所定領域のほぼ全域に渡り複数のセンサ18を配置し、前述の山留壁と同様に、トンネル内空面を計測面として、その複数のセンサ18を用いて、トンネル内空面(変動面)の形状計測を複数の時点で行うことにより、トンネル内空面(変動面)の経時的変化をモニタすることができる。この場合、上述の三次元レーザスキャナを用いる場合と同等の効果を得ることができる。これに加え、本変形例では、トンネル内空面に取り付けられた複数のセンサ18のそれぞれで計測点における傾斜角を計測するので、同一の点(計測点)における傾斜角(位置情報)の変化をモニタすることが可能である。これに対して、三次元レーザスキャナを用いる場合には、計測の都度、三次元レーザスキャナからのレーザ光は異なる計測点に照射されるので、同一の計測点における位置情報の変化を計測することが困難である。また、三次元レーザスキャナを用いる場合には、計測の都度、三次元レーザスキャナを、トンネルの切羽の後方の底盤上に設置し直すことが必要になるおそれがある。これに対して、本変形例では、トンネル内空面(変動面)の所定領域に複数のセンサ18を配置したままにしておき、その複数のセンサ18からの出力データの取得とその出力データを用いた所定の演算とを繰り返し行うだけで、トンネル内空面の形状の変化をモニタすることができる。このモニタ結果に基づいて、周囲地山の挙動や支保の変形を把握する。これにより、必要な措置を迅速に講じることが可能になる。この際、例えば前述したツェルニケモードマップとツェルニケ成分の各項の係数の大きさとに基づいて、領域内の変形量の分布を求めることとしても良い。
【0124】
さらには、本変形例では、上記実施形態に係る方法及びシステムを用いて、上述のトンネル内空面(変動面)の形状及び形状変化の計測を行うので、掘削直後の切羽において必要な支保及び一次覆工の建て込み後に本変形例を適用して内空面の形状変化を計測することで、内空面の変位を継続して計測する前述のトンネルA計測を実質的に行うことができ、変位速度が所定値以下(例えば1mm/週以下)に収束したか否かの判断が可能になる。すなわち、複数の時点で取得した前記内空面の形状の計測結果に基づいて、内空面に対する二次覆工の打設開始の可否を判断することが可能になる。変位速度が所定値以下(例えば1mm/週以下)に収束したか否かの判断、すなわち内空面に対する二次覆工の打設開始可否の判断は、サーバ12によって行われる。この場合において、鋼製支保工にセンサ18を取り付ける場合には、鋼製支保工の建込み直後から鋼製支保工を含むトンネル内空面の領域の形状計測を開始できるので、鋼製支保工の妥当性を早期に判断できる。そして、鋼製支保工が不安定化すると判断した場合、追加のロックボルトを打設する等の対策を図ることができる。また、トータルステーションを用いてトンネルA計測を行う場合、予め求めた初期変位速度と最終変位量との相関データに基づき、トンネルA計測における初期変位速度から最終変位量の予測を行う必要があるが、本変形例によるとそのような予測が不要になる。相関データは、例えばトンネルA計測における初期変位速度と最終変位量とを蓄積した結果より求められるが、本変形例ではこの蓄積も不要である。
【0125】
《工場、倉庫などの床面等の形状計測に関する変形例》
本変形例は、自動倉庫、自動車等のメーカーの工場などに上記実施形態に係る方法及びシステムを適用するものである。
【0126】
自動倉庫、メーカーの工場などには、その一部に物品保管設備が設けられる。物品保管設備は、製造ラインで用いられる部品等を収容するための例えばプラスチック製のコンテナ(容器)を搬送する搬送装置と、搬送装置を制御する制御装置と、を備える。物品保管設備が設けられる建屋には、保管場所を構成する載置面(床面)上の複数の箇所に、複数の容器を段積み状態としてなる容器群を載置して保管するように構成される。搬送装置としては、載置面にほぼ平行な仮想面である水平面(XY平面)内の直交2軸方向(X軸・Y軸方向)及び水平面に垂直な方向(Z軸方向)の3軸方向に移動可能な把持部を有する搬送装置を用いることができる。把持部は、例えば複数の方向から容器に接近・離間して容器を挟持可能な複数の把持ユニットを有する。
【0127】
そこで、載置面(床面)上の所定領域のほぼ全域にわたり、複数のセンサ18を配置し、その複数のセンサ18を用いて前述の山留壁と同様にして載置面(変動面)の形状を求め、この計測結果を使って制御装置が搬送装置を制御することで、把持部によるコンテナの把持位置を調整することができる。この場合、制御装置がサーバ12と同様の機能を有している。
【0128】
ここで、コンテナ(容器)を搬送する搬送装置を、例えば少なくとも直交3軸方向(X,Y,Z)に移動可能なロボットハンドを有するロボットによって構成することもできる。また、工場内の一部の建屋には、1又は複数の製造ラインが設けられ、製造ラインには例えば部品のピックアップ用のロボットが配置される。これらの場合、建屋の床面(変動面)の形状の計測結果を使って制御装置によりロボットハンドによるコンテナの把持位置、又は部品のピックアップ位置が調整される。いずれの場合もロボットハンドの位置(ロボットの先端位置)が調整されることになる。
【0129】
この変形例は、自動倉庫、メーカーの工場などの新設時は勿論、工場内でのラインの増設時や変更時にも、採用でき、搬送装置の把持部によるコンテナの把持位置又はロボットの先端位置を、設定又は再設定(修正)することができる。
【0130】
これまでの説明からわかるように、上記実施形態に係る形状取得方法及び形状取得システムを利用すれば、対象物の構築作業を支援する作業支援方法であって、前述した形状取得方法により対象物の形状情報を取得することと、その取得した形状情報に基づいて、対象物の異常の検知、対象物を支持する支持部材の支持力の決定、及び作業手順の作成/提案の少なくとも1つを行うことを含む作業支援方法及び作業支援システムを、容易に実現できる。この場合、解析装置としても機能する前述のサーバ装置12が、形状情報に基づいて、対象物の異常の検知、対象物を支持する支持部材の支持力の決定、及び作業手順の作成/提案の少なくとも1つを行うこととなる。特に、対象物が壁22のような山留壁の場合、検知される異常には、出水を含めることができ、この場合、支持部材の支持力は、切梁54の軸力がこれに相当する。作業手順の作成/提案としては、例えば前述の物品保管設備の例で説明した搬送装置の把持部によるコンテナの把持位置又はロボットの先端位置の設定/再設定などが挙げられる。
【0131】
なお、サーバ12の管理者が、現場側コンピュータ14の管理者とセンサ18が設置される対象物(上記実施形態では山留壁)を含む構造物の設計データ等を共有するのであれば、サーバ12の管理者は特に問わない。例えば、サーバ12は、建築会社等のセンサ18の使用者の管理下にあっても良いし、センサ18の供給会社(メーカー又はサプライヤーなど)の管理下にあっても良い。また、サーバ12は、クラウドであっても良い。サーバ12が、センサ18の供給会社の管理下にある場合、供給会社は、センサ18を使用者にリース(あるいはレンタル)するとともに、予め取得した使用の目的に基づいて決定したセンサ18の取り付け位置等の最適な情報を提供する。供給会社は、その情報に基づいて使用者がセンサ18で取得したデータの提供を受け、そのデータを用いた所定の解析(形状算出を含む)を行い、解析結果の情報を使用者に提供する。そして、センサ18のリース(あるいはレンタル)及び情報の提供の対価を使用者から受け取る。このようなビジネス方法(ビジネスモデル)の実現も可能となる。この場合において、解析及び解析結果の提供の代わりに、解析処理用のアプリケーションソフトウェア(アプリケーションプログラム)を、センサ18とともにリースしても良い。
【0132】
なお、上記実施形態では、センサ18による計測で取得したデータを用いる演算によるフィッティング処理について説明したが、これに限らず、センサ18によらないデータにもフィッティングの成分分解は適用が可能である。その他測定機で得られた結果やCAD上での変形解析結果などにも活用可能である。また、平面の凹凸形状だけでなく、3Dの形状データでも活用できる。また温度分布データ・音響分布データなどの形状でないデータにも適用できるものと思われる。
【符号の説明】
【0133】
10…形状取得システム、12…サーバ、13…ネットワーク、16…モバイル端末、18…センサ装置、22…ソイルセメント柱列壁、181…角度センサ、182…演算処理部、183…通信部、184…電源部、185…筐体、187…表示操作部。
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