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特開2024-147691静止期肝星細胞の調製方法と活性化評価モデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147691
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】静止期肝星細胞の調製方法と活性化評価モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20241008BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241008BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20241008BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241008BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C12N5/077 ZNA
C12Q1/02
C12Q1/6897 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N5/077
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024113467
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2020572358の分割
【原出願日】2020-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019025802
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 再生医療 実現拠点ネットワークプログラム 幹細胞・再生医学イノベーション創出プログラム 研究開発課題名「ヒトiPS細胞由来肝構成細胞による肝線維化モデルの樹立と応用」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮島 篤
(72)【発明者】
【氏名】木戸 丈友
(72)【発明者】
【氏名】厚井 悠太
(57)【要約】
【課題】本発明は、多能性幹細胞を分化誘導して静止期肝星細胞を調製する方法、及び静止期肝星細胞の活性化に関与する薬剤のスクリーニング法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、iPS細胞を分化誘導して、NGFR陽性の表現型を指標として静止期肝星細胞を分取する工程を含む、静止期肝星細胞を調製する方法が提供される。また、該静止期肝星細胞にレポーター遺伝子を導入することにより、活性化された肝星細胞において特異的に発現する遺伝子マーカーの発現量に基づく、線維化を伴う肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択するスクリーニング法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞を分化誘導して静止期肝星細胞を調製する方法であって、
(a)多能性幹細胞にレポーター遺伝子を組み込む工程;ならびに
(b)該レポーター遺伝子が組み込まれた多能性幹細胞を下記の各誘導期間に対応する培地:
(i)0~1日目:BMP4及びRock阻害剤を添加した培地、
(ii)1~4日目:ActivinA、bFGF、及びBMP4を添加した培地、及び
(iii)4~8日目:VEGF、TGF-β阻害剤、BMP阻害剤、及びRock阻害剤を添加した培地
において三次元培養する工程
を含み、
ここで、上記期間のうち0~6日目では約4%O2の存在下で多能性幹細胞を培養し、続いて6~8日目では20%酸素濃度環境下で多能性幹細胞を培養して、NGFRを発現する静止期肝星細胞を得ることによって特徴付けられる、上記調製方法。
【請求項2】
多能性幹細胞を分化誘導して静止期肝星細胞を調製する方法であって、
(a)多能性幹細胞を下記の各誘導期間に対応する培地:
(i)0~1日目:BMP4及びRock阻害剤を添加した培地、
(ii)1~4日目:ActivinA、bFGF、及びBMP4を添加した培地、及び
(iii)4~8日目:VEGF、TGF-β阻害剤、BMP阻害剤、及びRock阻害剤を添加した培地
において三次元培養する工程;ならびに
(b)(a)の工程中又はその後にレポーター遺伝子を前記多能性幹細胞に組み込む工程
を含み、
ここで、上記期間のうち0~6日目では約4%O2の存在下で多能性幹細胞を培養し、続いて6~8日目では20%酸素濃度環境下で多能性幹細胞を培養して、NGFRを発現する静止期肝星細胞を得ることによって特徴付けられる、上記調製方法。
【請求項3】
Rock阻害剤がY27632であり、TGF-β阻害剤がSB431542であり、及び/又はBMP阻害剤がDorsomorphinである、請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項4】
三次元培養が、スフェロイド培養、浮遊培養又はゲル培養である、請求項1~3のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法で調製された静止期肝星細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の静止期肝星細胞を含む細胞懸濁液。
【請求項7】
肝星細胞の活性化を抑制する被験物質を、線維化を伴う肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択するスクリーニング法であって、
(a)請求項1~4のいずれか1項に記載の方法で調製された、レポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞を培養し;
(b)前記静止期肝星細胞の培養系に静止期肝星細胞を活性化する薬物を添加するか、又は前記静止期肝星細胞を回収及び再播種して二次元培養することによって、静止期肝星細胞を活性化して、活性化肝星細胞を得て;
(c)活性化肝星細胞の培養系に被験物質を添加し;
(d)レポーター遺伝子の発現量を被験物質の添加前後で比較し;及び
(e)被験物質の添加後にレポーター遺伝子の発現量が減少している場合に、肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択する
ことを含むスクリーニング法。
【請求項8】
請求項7に記載のスクリーニング法に使用するためのキットであって、請求項5に記載の静止期肝星細胞又は請求項6に記載の細胞懸濁液を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞を分化誘導して静止期肝星細胞を調製する方法、該調製方法によって得られた静止期肝星細胞及びそれを含む細胞懸濁液、ならびに静止期肝星細胞の活性化に関与する薬剤のスクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の結合組織の増生及び蓄積は、肝臓の循環傷害を引き起こし、さらに肝実質細胞障害の原因となり、さらなる結合組織の増生及び蓄積がおこり、肝硬変や肝線維化を伴う肝疾患症の原因になると考えられている。肝臓は、肝実質細胞と非実質細胞(肝星細胞、クッパー細胞、類洞内皮細胞、Pit細胞)からなり、肝臓の結合組織は細胞外基質(コラーゲンなど)とそこに局在する細胞から構成されている。結合組織中の基質産生担当細胞である肝星細胞(Hepatic Stellate Cell:HSC)が活性化され、形質転換することにより、結合組織の増生及び蓄積が促進される。正常肝臓の肝星細胞(以下、「静止期肝星細胞」と呼ぶ)は、細胞外基質の生産量が少なく、活性化に伴い筋線維芽様細胞に形態を変化させ、細胞の増加とともに多量の細胞外基質を合成することが知られている。
【0003】
したがって、肝硬変などの肝線維化を伴う肝疾患患者の肝星細胞の活性化を抑制し、結合組織の増生及び蓄積を軽減する治療法及び予防法が必要とされ、肝星細胞の活性化を抑制させる薬剤のスクリーニングは重要であると言える。このような必要性があるにも関わらず、肝星細胞の活性化を抑制する薬物の効率的なスクリーニング法は知られていない。
【0004】
本発明者らは、これまでに多能性幹細胞から肝星細胞への分化誘導系の樹立に成功している(特許文献1;非特許文献1)。しかしながら、誘導した肝星細胞は、現在市販され、入手可能な初代培養肝星細胞と同様に、すでに活性化しているか又は培養直後から活性化してしまうことが明らかとなっているため、線維症治療薬などの創薬の研究及び開発の有用ツールにはなっていない。そこで、肝星細胞の活性化過程を培養系で反映する創薬スクリーニング系の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/148216号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Koui, Y., et al., Stem. Cell. Rep., 2017, 9, 490-498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、市販の初代培養星細胞は既に活性化しており、そもそもヒト生体から創薬スクリーニング系の構築に十分な静止期肝星細胞を多量に得ることは不可能である。したがって、本発明は、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞)から静止期肝星細胞への分化誘導系の樹立と、その活性化制御系の開発を目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来のiPS細胞を分化誘導して肝星細胞を得る方法を改良することにより、iPS細胞から静止期を安定に保持した肝星細胞を得ることに成功し、本発明を完成することに成功した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]多能性幹細胞を分化誘導して静止期肝星細胞を調製する方法であって、多能性幹細胞を三次元培養する工程、及び/又は低酸素濃度で培養する工程を含む調製方法。
[2]
培養0~6日目まで約4%Oの存在下で多能性幹細胞を培養する、上記[1]に記載の調製方法。
[3]
培養6日目以降、O濃度を大気中と同一にして培養を行う、上記[2]に記載の調製方法。
[4]
三次元培養が、スフェロイド培養、浮遊培養又はゲル培養である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の調製方法。
[5]
Rock阻害剤を添加する工程を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の調製方法。
[6]
分化誘導前に多能性幹細胞にレポーター遺伝子を組み込む工程をさらに含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の調製方法。
[7]
分化誘導過程又は分化誘導後にレポーター遺伝子を静止期肝星細胞に組み込む工程をさらに含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の調製方法。
[8]
上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の方法で調製された静止期肝星細胞。
[9]
上記[8]に記載の静止期肝星細胞を含む細胞懸濁液。
[10]
肝星細胞の活性化を抑制する被験物質を、線維化を伴う肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択するスクリーニング法であって、
(a)上記[6]又は[7]に記載の方法で調製された、レポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞を培養し;
(b)上記静止期肝星細胞の培養系に静止期肝星細胞を活性化する薬物を添加するか、又は上記静止期肝星細胞を回収及び再播種して二次元培養することによって、静止期肝星細胞を活性化して、活性化肝星細胞を得て;
(c)活性化肝星細胞の培養系に被験物質を添加し;
(d)レポーター遺伝子の発現量を被験物質の添加前後で比較し;及び
(e)被験物質の添加後にレポーター遺伝子の発現量が減少している場合に、肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択する
ことを含むスクリーニング法。
[11]
上記[10]に記載のスクリーニング法に使用するためのキットであって、上記[8]に記載の静止期肝星細胞又は上記[9]に記載の細胞懸濁液を含むキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、iPS細胞から、活性化されていない静止期にある肝星細胞を調製することが可能である。得られた肝硬変などの肝線維化を伴う肝疾患治療用の創薬をスクリーニングし、治療薬を評価する系に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ヒトiPS細胞を分化誘導して、静止期肝星細胞を調製する方法を示す。図中の写真は、ヒトiPS細胞が分化誘導される過程でスフェロイド形成する形態学的変化を撮像したものである。
図2図2は、ヒトiPS細胞からの静止期肝星細胞への分化過程において、未分化マーカー遺伝子(OCT4、NANOG)、中胚葉マーカー遺伝子(MESP1、T)、及び横中隔間充織/肝星細胞マーカー遺伝子(HLX、LHX2、FOXF1)の経時的な発現を解析した結果を示す。
図3図3は、Rock阻害剤(Y27632)の培養系への添加の有無による、ヒトiPS細胞由来の静止期肝星細胞への分化誘導効果を示す図である。図中、NGFR及びLRATは、静止期肝星細胞のマーカー遺伝子であり、ACTA2及びCOL1A1は、活性化された肝星細胞のマーカー遺伝子である。
図4図4は、ヒトiPS細胞の静止期肝星細胞の分化誘導における培養中の酸素濃度を検討した実験方法とその結果を示す。分化誘導開始後の1~6日目まで酸素濃度を4%とし、6日目以降は、酸素濃度を4%に維持した場合と20%(大気中の酸素濃度に対応する)に変更した場合で比較した。比較検討は、活性化された肝星細胞のマーカー遺伝子である、ACTA2及びCOL1A1の相対的発現について行った。
図5図5は、分化誘導開始後の8日目に、NGFR+細胞(「posi」)及びNGFR-細胞(「nega」)をそれぞれMoFLo XDP セルソーターにより分離し、各群の遺伝子発現を検討した結果を示す。図中、「bulk」は、セルソーターによる分離前の細胞群を指す。
図6図6は、iPS細胞から分化誘導して得た静止期肝星細胞の画像を示す。
図7図7は、従来法により調製したiPS細胞由来の肝星細胞(「Ver.1」)と本発明の方法により調製したiPS細胞由来の静止期肝星細胞(「Ver.2」)における各遺伝子発現を比較検討した結果を示す。
図8図8は、初代培養肝星細胞(「hHSC」)と本発明の方法により調製したiPS細胞由来の静止期肝星細胞(「iPS-HSC(Ver2)」)における各遺伝子発現を比較検討した結果を示す。
図9図9は、iPS細胞由来の静止期肝星細胞の培養系に10μM レチノールを添加し、4日間培養した後に、静止期肝星細胞におけるビタミンA貯蔵能をフローサイトメトリーによって検討した結果を示す。
図10図10は、iPS細胞由来の静止期肝星細胞を活性化誘導するための実験手法と活性化肝星細胞マーカー遺伝子(ACTA2及びCOL1A1)の発現の結果を示す。
図11図11は、iPS細胞から静止期肝星細胞を分化誘導し、活性化能を評価した結果を示す。左下図は、培養系における活性化星細胞マーカーの遺伝子発現を示し、中央図は、活性化5日後にaSWA染色した画像を示し、右下図は、培地上清中に分泌されるプロコラーゲン1aを定量した結果を示す。
図12図12は、iPS細胞由来の静止期肝星細胞の活性化に伴い、活性化肝星細胞マーカー遺伝子(ACTA2)の活性化を可視化するための手法を示す。図中、「RFP」は、赤色蛍光タンパク質をコードする遺伝子を示し、「2A」は、ウイルス由来の20アミノ酸残基前後のペプチド配列をコードする介在配列を示す。
図13図13は、ACTA2-RFPレポーターiPS細胞から静止期肝星細胞を分化誘導し、活性化に伴うRFPの発現を解析した結果を示す。
図14図14は、iPS細胞由来の静止期肝星細胞にレポーター遺伝子を導入したレポーターiPS細胞を用いた肝星細胞活性化を評価する手法を示す。
図15図15は、図14で示した評価法を用いて、肝星細胞の活性化を増強する薬剤(TGFb)及び活性化を抑制する薬剤(A83-01、ICG-001)による活性化マーカー遺伝子の発現を検討した結果を示す。
図16図16は、各薬剤を添加してから5日後のレポーターiPS細胞におけるレポータータンパク質(RFP)の蛍光をFV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡により観察した結果を示す。Aは、RFPの蛍光画像であり、Bは、同時にHoechst33342を用いて細胞の核を染色した画像を重ね合わせたものである。
図17図17は、レポーターiPS細胞由来の静止期肝星細胞の活性化評価系を用いた治療薬のスクリーニング系を示す。左下図は、各ウェル内の生細胞数とRFP陽性細胞を自動的に検出した結果を示す(緑色:陽性対照、赤色:陰性対照)。右下図は、スクリーニング系のバリデーション結果を示す。緑色のドットは、各ウェルの解析結果をし、ACTA2-RFPレポーターiPS細胞に由来する肝星細胞におけるRFPの蛍光の面積を示す。ピンクのドットは、正常のiPS細胞に由来する肝星細胞におけるRFPの蛍光の面積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、多能性幹細胞を分化誘導して、NGFR陽性の表現型を指標として静止期肝星細胞を分取する工程を含む、静止期肝星細胞の調製方法に関する。また、得られた静止期肝星細胞にレポーター遺伝子を導入し、肝硬変などの肝線維化を伴う肝疾患を治療するための薬剤をスクリーニングするための方法に関する。本発明を以下に詳細に説明する。
【0013】
1.多能性幹細胞由来の静止期肝星細胞の作製
(1)多能性幹細胞
本明細書において「多能性幹細胞」とは、自己複製能と多分化能を有する細胞であり、生体を構成するあらゆる細胞を形成する能力を備える細胞をいう。「自己複製能」とは、1つの細胞から自分と同じ未分化な細胞を作る能力のことをいう。「分化能」とは、細胞が分化する能力をいう。多能性幹細胞としては、例えば、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、Muse細胞(Multi-lineage differentiating Stress Enduring cell)、精子幹細胞(germline stem cell:GS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)などが含まれるが、これらに限定されない。本発明に用いる多能性幹細胞は、好ましくは、iPS細胞である。なお、多能性幹細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類及び両生類のいずれでもよく、特に限定されない。哺乳動物は、霊長類(ヒト、サルなど)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモットなど)、ネコ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、フェレットなどを含む。より好ましくはヒトである。
【0014】
本発明において「iPS細胞」とは、体細胞に初期化因子を導入することにより体細胞を未分化状態へと初期化し、多能性を付与した培養細胞をいう。初期化因子としては、例えば、OCT3/4及びKLF4及びSOX2及びc-Mycを用いることができ(Yu J,et al.,Science,2007;318:1917-20)、上記4遺伝子からc-Mycを除く3遺伝子(後述するTkDN4-M、253G1)、また、OCT3/4及びSOX2及びLIN28及びNanogを用いることができる(Takahashi K,et al.,Cell,2007;131:861-72)。これらの因子の細胞への導入形態は特に限定されないが、例えば、プラスミドを用いた遺伝子導入、合成RNAの導入、タンパク質として直接導入などが挙げられる。また、microRNAやRNA、低分子化合物等を用いた方法で作製されたiPS細胞を用いてもよい。また、拒絶反応が起きにくいとされるHLA(Human Leukocyte Antigen)型の組み合わせ(HLAホモ接合体)を持つ健常人ボランティア由来の細胞から作製されたiPS細胞を用いてもよい。iPS細胞を始めとする多能性幹細胞は、市販品又は分譲を受けた細胞を用いてもよく、新たに作製したものを用いてもよい。iPS細胞として、例えば、253G1株、201B6株、201B7株、409B2株、454E2株、HiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、TkDN4-M株、TkDA3-1株、TkDA3-2株、TkDA3-4株、TkDA3-5株、TkDA3-9株、TkDA3-20株、hiPSC 38-2株、MSC-iPSC1株、BJ-iPSC1株等を使用することができる。新たに作製された臨床グレードのiPS細胞を用いてもよい。iPS細胞を作製する際の細胞の由来は特に限定されないが、例えば、繊維芽細胞又はリンパ球等を用いることができる。
【0015】
(2)肝星細胞
本発明において「肝星細胞」とは、典型的には、肝臓に存在する、ビタミンA貯蔵能を有する星状の線維芽細胞様細胞を指し、休眠状態(静止期)又は活性化状態であってもよい。本明細書では、休眠状態(静止期)にある肝星細胞を特に「静止期肝星細胞」と記載し、活性化状態にある肝星細胞と区別する。通常、休眠状態の肝星細胞であっても、臓器の構造の正常な組織化に重要な結合組織を形成するためにコラーゲンなどの細胞外基質を産生する。一方、肝星細胞が活性化されると、肝星細胞は、大量で過剰のコラーゲンや炎症性分子を産生するようになる。
【0016】
静止期肝星細胞と活性化された肝星細胞の区別は、各肝星細胞に主に発現するタンパク質産生や遺伝子発現を測定することにより可能である。各肝星細胞の遺伝子発現の有無や比較検討する場合、それぞれの遺伝子に固有のマーカー遺伝子を用いて、そのmRNA発現を測定する方法が使用され得る。遺伝子発現量を定量及び分析には、限定されないが、定量RT-PCRが簡便な方法である。
【0017】
本発明によれば、iPS細胞由来の静止期肝星細胞の遺伝子発現の指標として、限定されないが、NGFR、及び/又はNGFRと同時期に発現する遺伝子の機能(例えば、LRAT、NES、HGF、及びCYGBなど)を使用することにより静止期肝星細胞を分取することができる。本明細書において、上記のタンパク質又は遺伝子を「静止期マーカー」と称することがある。「NGFR」は、erve rowth actor eceptor(神経栄養因子受容体)の略であり、「LRAT」は、レチノールエステル化酵素であるecithin etinol cylransferase(レシチン-レチノールアシルトランスフェラーゼ)の略であり、「NES」は、Nestin(ネスチン)であり、「HGF」は、epatocyte rowth actor(肝細胞増殖因子)の略であり、「CYGB」は、Cytoglobin(サイトグロビン)の略である。一方、上記静止期肝星細胞が活性化された場合に細胞に発現する線維化関連遺伝子マーカーとして、限定されないが、ACTA2、COL1A1など(本明細書において、「活性化マーカー」と称することがある)を使用することができる。「ACTA2」は、α-平滑筋アクチン2であり、「COL1A1」は、Collagen,Type I,Alpha 1(I型コラーゲンα1)の略である。また、多能性幹細胞としてiPS細胞を使用する場合、分化の過程は、各段階に特異的に発現する遺伝子を指標として観察することができる。例えば、未分化マーカー遺伝子として、OCT4及びNANOGが挙げられ、中胚葉マーカー遺伝子として、MESP1及びTが挙げられ、横中隔間充織/肝星細胞マーカー遺伝子として、HLX、LHX2、FOXF1が挙げられる。なお、静止期肝星細胞と活性化された肝星細胞のそれぞれのマーカー遺伝子の発現量を比較した場合、静止期肝星細胞における「活性化マーカー」の発現は、活性化された肝星細胞の同マーカーの発現量と比較して低く、例えば、99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、0%であることが好ましい。一方、活性化された肝星細胞における「静止期マーカー」の発現は、静止期肝星細胞の同マーカーの発現量と比較して低く、例えば、99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、0%であることが好ましい。また、活性化された後の肝星細胞の活性化マーカーの発現量は、活性化前の同細胞のマーカーの発現量と比較して高いことが好ましく、限定されないが、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、500倍、1000倍などであってもよい。
【0018】
定量RT-PCRで使用され得るプライマーは、以下の通りである。
【表1】
【0019】
(3)多能性幹細胞から静止期肝星細胞への分化誘導法
本発明は、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞)を分化誘導して静止期肝星細胞を調製する方法であって、多能性幹細胞を三次元培養する工程、及び/又は低酸素濃度で培養する工程を含む調製方法を提供する。本発明は、多能性幹細胞を三次元培養することによって静止期肝星細胞を分化誘導することができる。ここで、「三次元培養」とは、当業者が一般的に使用される意味を有するが、例えば、スフェロイド培養、浮遊培養、又はゲル培養などの培養形態を含むことができる。また、「ゲル培養」とは、ゲル状基質中で細胞を培養する方法であって、ゲル状基質自体は、細胞に親和性のあるものであってもよく、又は親和性がないものであってもよい。また、上記の三次元培養とともに又は独立して、多能性幹細胞を低酸素濃度で培養することによっても静止期肝星細胞を分化誘導することができる。低酸素の濃度及び培養時期などについては、後述する。
【0020】
別の態様によれば、これまでに本発明者らは、Rock阻害剤を用いてiPS細胞から肝星細胞を分化誘導する方法を報告している(国際公開第2016/148216号;Koui,Y.,et al.,Stem.Cell.Rep.,2017,9,490-498を参照されたい)。本発明によれば、従前の方法と同様にRock阻害剤を使用するが、培養系に添加する時期を変更することにより、これまで得ることができなかったiPS細胞由来の静止期肝星細胞を得ることに成功した。
【0021】
本発明は、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞)を分化誘導して、NGFR陽性の表現型を指標として静止期肝星細胞を分取する工程を含む、静止期肝星細胞を調製する方法を提供する。本発明によれば、多能性幹細胞を分化誘導開始後の4日目からRock阻害剤を添加することにより、所望の静止期肝星細胞を得ることができる。公知のiPS細胞から肝星細胞を分化誘導は、分化誘導開始後の6日目からRock阻害剤を添加するものであるが、そこで得られる肝星細胞は、マーカー遺伝子の発現を検討すると、活性化された肝星細胞であった。後述する実施例2において、本発明により得られた肝星細胞は、従来の方法によって得られた肝星細胞と比較して、静止期肝星細胞に見られる遺伝子発現が顕著であり、さらに、活性化された肝星細胞に見られる遺伝子発現が観察することができない。また、初代培養肝星細胞との比較によっても同様の結果が得られた(実施例3)。このように、Rock阻害剤を添加する開始時期としては、分化誘導開始から6日目になる以前の4~5日目が好ましい。
【0022】
多能性幹細胞から肝星細胞を分化誘導するために使用される上記のRock阻害剤は、Rhoキナーゼ(Rho-associated protein kinase:Rock)を阻害する薬剤を指す。「Rhoキナーゼ」は、低分子量GTP結合蛋白Rhoの標的蛋白質として同定されたセリン-スレオニン蛋白リン酸化酵素であり、平滑筋収縮や細胞の形態変化など様々な生理機能に関与していることが知られている。ここで、使用可能なRock阻害剤としては、特に限定されず、低分子化合物、抗体、またはアンチセンス化合物などの形態のものであってもよい。例えば、Y27632((R)-(+)-トランス-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド)、ファスジル(Fasudil)(ヘキサヒドロ-1-(5-イソキノリンスルホニル)-1H-1,4-ジアゼピン)、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スフホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン)などが挙げられる。好ましくは、Y27632である。また、Rock阻害剤を培地に添加する際の濃度は、当業者であれば適宜、選択可能である。例えば、Y27632を使用する場合、培地への添加濃度は、0.1~50μM、好ましくは1~30μM、より好ましくは5~20μM、さらにより好ましくは10μMである。
【0023】
上記の通り、Rock阻害剤の添加を開始する時期は、誘導開始後の4日目が好ましいが、それに先行して、誘導開始の直後(0日目)~1日目にもRock阻害剤を適宜添加することができる。この点においては、従来の誘導化法と相違しない。本発明によれば、多能性幹細胞から分化誘導して所望の静止期肝星細胞を得ることできる限りにおいて、培養系に添加されるRock阻害剤以外の各種添加剤の種類、濃度、添加時期、及び添加剤の組み合わせは限定されない。このような添加剤としては、限定されないが、BMP4(多能性幹細胞を中胚葉に分化誘導させる因子)、ActA(アクチビンA)、bFGF、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、SB431542(TGF-β阻害剤)、ドルソモルフィン(Dorsomorphin)(BMP阻害剤)などが挙げられる。BMP4について、培地への添加時期は、誘導開始の直後(0日目)~4日目が好ましく、添加濃度は、限定されないが、0.5~50ng/ml、1~40ng/ml、2~30ng/mlなどが例示され、添加時期により、添加濃度を変更してもよい。例えば、1~4日目のBMP4の添加濃度は、0~1日目までの添加濃度と比べて高くてもよい。ActAについて、培地への添加時期は、誘導開始の1~4日目が好ましく、添加濃度は、限定されないが、1~20ng/ml、2~10ng/ml、3~5ng/mlなどが例示される。ActAについて、培地への添加時期は、誘導開始の1~4日目が好ましく、添加濃度は、限定されないが、1~20ng/ml、2~10ng/ml、3~5ng/mlなどが例示される。bFGFについて、培地への添加時期は、誘導開始の1~4日目が好ましく、添加濃度は、限定されないが、1~20ng/ml、2~10ng/ml、3~5ng/mlなどが例示される。VEGFについて、培地への添加時期は、誘導開始の4~6日目が好ましく、添加濃度は、限定されないが、1~30ng/ml、3~20ng/ml、5~15ng/mlなどが例示される。SB431542について、培地への添加時期は、誘導開始の4日目以降が好ましく、添加濃度は、限定されないが、1~15μM、2~10μM、3~7μMなどが例示される。ドルソモルフィンについて、培地への添加時期は、誘導開始の4日目以降が好ましく、添加濃度は、限定されないが、0.05~5μM、0.1~3μM、0.3~1μMなどが例示される。上記の添加剤の添加濃度は、列挙した数値の範囲内に含まれる任意の数値であってもよく、例えば、「1~20ng/ml」では、1、2、3、4、5、1.5、3.5などが含まれる。また、多能性幹細胞から分化誘導して所望の静止期肝星細胞を得る過程において、細胞を培養する細胞培養液は、当業者であれば適宜、選択可能である。例示的な態様において、iPS細胞を分化誘導して静止期肝星細胞を作製する方法は、典型的には、図1に示される通りである。具体的には、Stempro-34 SFMを基本培地として、誘導開始0日から1日に10μMのY27632、2ng/mlのBMP4を添加し、誘導開始1日~4日に5ng/mlのActA(アクチビンA)、5ng/mlのbFGF、30ng/mlのBMP4を加え、誘導開始4日から6日に10ng/mlのVEGF、5.4μMのSB431542、0.5μMのドルソモルフィン、及び10μMのY27632を加えることで行う。この条件で8日目まで培養し、NGFR陽性細胞を分取して静止期肝星細胞を得ることができる。
【0024】
一般的に、細胞を培養する酸素(O)濃度は、大気中のO濃度(約20%)と同程度であるが、本発明の誘導化方法では、誘導開始(0日目)~6日目までO濃度を4%とすることを特徴とする。人為的な培養操作などにより、インキュベーター内のO濃度を厳密に4%に一定に維持することは困難な場合もあるため、ごく限定された時間、O濃度が上昇し得ることもある。後述する実施例1に記載されるように、6日目以降にO濃度を4%に維持して培養を持続した場合と、6日目以降にO濃度を20%にして培養した場合では、高O濃度の環境下での培養により、肝星細胞の活性化が抑制されることも見出された。したがって、本発明において、静止期肝星細胞への分化誘導化では、上述してRock阻害剤の添加時期のみならず、培養中のO濃度を上昇させることも重要な要素であると言える。
【0025】
多能性幹細胞のうち、iPS細胞、ES細胞、体性幹細胞などは浮遊培養に適しており、培養経過とともに細胞塊を形成する。したがって、このような細胞の培養では、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)、ハイドロゲル、MPC(2-Methacryloylethyl Phosphoryl Choline)ポリマーなどで表面がコーティングされた低接着性の培養器や、コラーゲンなどの細胞接着分子でコーティングされていない非接着性の培養器上で細胞を浮遊培養(スフェロイド形成)することにより行うことができる。上記低接着性の培養器や非接着性の培養器は、市販のものであってもよく、又は研究室において調製したものであってもよい。さらには、市販の低接着性の培養器としては、例えば、EZSPHERE(スフェロイド形成培養用容器)(IWAKI社)、VECELL(登録商標)プレート(ベセル株式会社)、NCP(NanoCulture Plate)(SCIVAX Life Sciences社)、ULA(超低接着表面)培養容器(CORNING社)を挙げることができ、市販の非接着性の培養器としては、例えば、浮遊培養用ペトリディッシュ(Nunc社製)、浮遊細胞培養用シャーレ(住友ベークライト社)、ノントリートメントプレート(BD Falcon社)の市販品を挙げることができる。なお、各種培養器への細胞の播種濃度は、適宜調整可能であり、例えば、96ウェルタイプの培養用容器を使用する場合、例えば、1×10~1×10細胞/ウェル、好ましくは5×10~5×10細胞/ウェル、より好ましくは1×10~1×10細胞/ウェルで播種され得る。
【0026】
本発明によれば、多能性幹細胞(例えば、iPS細胞)を分化誘導して静止期肝星細胞を作製する場合、分化誘導の最終段階(例えば、誘導開始から8日目)でNGFR陽性の表現型を指標として静止期肝星細胞を分取することができる。NGFR陽性の表現型を指標として静止期肝星細胞を分取する工程は、特に限定されないが、例えば、蛍光活性化細胞ソーティング(Fluorescence Activated Cell Sorting;FACS)又は磁気細胞ソーティング(Magnetic Cell Sorting;MACS)により行うことができる。また、本発明によれば、静止期肝星細胞の分取には、上記のソーティングに限定されず、細胞の自家蛍光に基づいて、又は遠心分離によっても可能である。例えば、LRAT陽性期では、ビタミンの取り込みに起因して、細胞が自家蛍光を発することから蛍光を検出する手段を用いて分取し、指標とすることもできる。
【0027】
上記の通り、本発明の静止期肝星細胞は、NGFR陽性の表現型を指標として分取されるものであるが、静止期肝星細胞の使用では、該静止期肝星細胞を含む細胞画分であってもよく、例えば、該細胞画分は、全細胞に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の静止期肝星細胞を含む。また、別の態様では、上記の分取後に得られた細胞画分中の静止期肝星細胞と活性化された肝星細胞との存在比は、活性化された肝星細胞よりも静止期肝星細胞が多く存在すれば特に限定されないが、例えば、51:49、55:45、60:40、70:30、80:20、90:10、95:5、97:3、98:2、99:1、100:0などであり得る。
【0028】
なお、本発明の方法によって得られた静止期肝星細胞は、適切な容器中で、細胞培養液、細胞懸濁液、細胞保存液、ハイドロゲルに含有させて提供され得る。さらに、該静止期肝星細胞は、凍結保存され得、例えば、-80℃で、3か月以上、6か月以上、9か月以上、又は12か月以上凍結保存することが可能である。凍結後、解凍した後における本発明の静止期肝星細胞は、活性化されておらず、静止期を維持し得る。
【0029】
2.レポーター遺伝子を導入した静止期肝星細胞の作製
肝星細胞の活性化が一因となって生じる肝硬変や肝線維化を伴う肝疾患症を治療及び予防するための薬剤をスクリーニングする方法が提供される。本発明によれば、上述したように、活性化された肝星細胞は、ACTA2及びCOL1A1が遺伝子マーカーとして検出され得るため、これらの遺伝子の発現量を決定してもよく、又はこれらの遺伝子自体の発現量を決定する代わりに、導入したレポーター遺伝子の発現量を測定し、若しくはその発現を可視化してもよい。後述するスクリーニング法に使用される肝星細胞は、上記遺伝子マーカーの発現に付随して機能発現するレポーター遺伝子が導入されたiPS細胞由来の静止期肝星細胞であり得る。
【0030】
導入可能なレポーター遺伝子としては、限定されないが、蛍光タンパク質遺伝子(赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質など)、ルシフェラーゼ遺伝子(luc)、ベータ-ガラクトシダーゼ遺伝子(beta-gal)、アルカリホスファターゼ遺伝子(AP)、分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子(SEAP)、ベータグルクロニダーゼ遺伝子(GUS)などが挙げられる。
【0031】
細胞へのレポーター遺伝子の導入法は、ゲノム編集技術、例えば、CRISPR/Cas9システム(Cong,L.,et al.,Science,2013,339,819-823)、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)(Cermak,T.,et al.,Nucleic Acids Res.,2011,39:e82)、ZFN(Zinc Finger Nuclease)(Kim,Y.-G.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996,93:1156-1160)などの当業者にとって公知の遺伝子改変技術を用いて行うことができる。また、より一般的な遺伝子導入法として、レポーター遺伝子を組み込んだベクターを導入する方法を用いてもよく、ベクターを用いた遺伝子導入としては、限定されないが、ウイルス性又は非ウイルス性遺伝子導入(例えば、プラスミド導入、ファージインテグラーゼ、トランスポゾン、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及びレンチウイスルなど)が挙げられる。
【0032】
遺伝子マーカーとレポーター遺伝子の遺伝子の組み合わせは、特に限定されず、例えば、ACTA2-RFP、ACTA2-lus、COL1A1-LacZなどであってもよい。また、遺伝子マーカーとレポーター遺伝子の間に適宜、介在配列(例えば、2Aペプチド配列をコードする遺伝子)を導入してもよい。介在配列を導入する目的は様々である。例えば、2Aペプチドは、ウイルス由来の20アミノ酸残基前後のペプチド配列であり、細胞に内在するプロテアーゼ(2Aペプチダーゼ)により認識され、C末端から1残基の位置で切断される。2Aペプチドにより1つのユニットに連結された複数遺伝子(例えば、ACTA2-RFP)は、1つのユニットとして転写翻訳された後、2Aペプチダーゼで切断され得る。
【0033】
本発明の方法によって得られるレポーター遺伝子が導入された肝星細胞が静止期肝星細胞であるかどうかは、各遺伝子マーカーの発現を調べることによって確認することができる。また、本発明のレポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞は、レポーター遺伝子が導入されていない静止期肝星細胞と同様に、細胞画分として提供され得る。
【0034】
なお、本発明の方法によって得られたレポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞は、適切な容器中で、細胞培養液、細胞懸濁液、細胞保存液、ハイドロゲルに含有させて提供され得る。さらに、該レポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞は、凍結保存され得、例えば、-80℃で、3か月以上、6か月以上、9か月以上、又は12か月以上凍結保存することが可能である。凍結後、解凍した後における本発明のレポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞は、活性化されておらず、静止期を維持し得る。
【0035】
3.評価モデル及び有効な治療薬のスクリーニング法
本発明の多能性幹細胞(特にiPS細胞)由来の静止期肝星細胞の培養系は、肝星細胞に起因した肝硬変や肝線維化を伴う肝疾患症を治療及び予防する薬剤(被験物質)の評価モデルとなる。より具体的には、本発明によれば、肝星細胞の活性化を抑制する被験物質を、線維化を伴う肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択するスクリーニング法が提供され、該スクリーニング法は、
(a)レポーター遺伝子が導入された多能性幹細胞由来の静止期肝星細胞を培養し;
(b)上記静止期肝星細胞の培養系に静止期肝星細胞を活性化する薬物を添加するか、又は上記静止期肝星細胞を回収及び再播種して二次元培養することによって、静止期肝星細胞を活性化して、活性化肝星細胞を得て;
(c)活性化肝星細胞の培養系に被験物質を添加し;
(d)レポーター遺伝子の発現量を被験物質の添加前後で比較し;及び
(e)被験物質の添加後にレポーター遺伝子の発現量が減少している場合に、肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される候補物質として選択する
ことを含み得る。
【0036】
本発明では、レポーター遺伝子の発現量の比較は、使用されるレポーター遺伝子のタイプに依存するため、定量的に測定された数値の比較であってもよく、また観察された画像の定性的な比較であってもよい。本発明によれば、レポーター遺伝子の発現量が減少した場合に、肝疾患症を治療又は予防するための薬剤に使用される被験物質として選択することを特徴とするが、被験物質を添加後の発現量が、肝星細胞を活性化したときの発現量から少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80、90%、又は100%減少していることが好ましい。
【0037】
本明細書で使用するとき、被験物質によって肝疾患症を「治療する」又は「予防する」とは、これらの一般的な用語の意味と同等に使用され得て、例えば、疾患の影響を低減する、無効にする、抑制する、和らげる、疾患の重症度を軽減する、疾患を発症する可能性を減らす、疾患の進行を鈍化させる及び/または疾患を治癒させる、など意味を有する。
【0038】
本発明のスクリーニング法において肝星細胞を活性化し得る薬物としては、限定されないが、TGF-β、PDGF、ケモカインなどが挙げられる。後述する実施例6に記載されるように、iPS細胞由来の静止期肝星細胞をTGF-βにより活性化した培養系に、被験物質の例として、A83-01(TGF-β阻害剤)やICG-001(WNT阻害剤)を添加することにより、肝星細胞の活性化を抑制することができる。なお、上記の薬物を添加する培養系は、三次元培養系又はゲル培養系であってもよく、又は二次元培養系であってもよい。また、「三次元培養」及び「ゲル培養」なる用語は、上記で定義した通りであり、一方、「二次元培養」なる用語は、当業者が通常、用いる用語と同じ意味を有する。
【0039】
別の態様において、静止期肝星細胞の活性化は、上述の活性化し得る薬物の培養系への添加のみならず、静止期肝星細胞を二次元培養系に播種し、培養することによっても可能である。二次元培養によって活性化された後の肝星細胞の活性化マーカーの発現量は、活性化前の同細胞のマーカーの発現量と比較して高いことが好ましく、限定されないが、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、500倍、1000倍などであってもよい。なお、二次元培養に使用する細胞培養基材は、活性化肝星細胞を得ることができる細胞培養基材であれば限定されない。このような細胞培養基材には、細胞に対して硬い底面を有する、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック製やガラス製のプレートやディッシュであってもよい。また、上記の細胞培養基材の培養面(底面)は、コラーゲンなどの細胞接着分子でコーティングされていてもよい。また、二次元培養における細胞の播種濃度は、適宜調整し得る。
【0040】
4.キット
本発明は、肝硬変や肝線維化を伴う肝疾患症を治療及び予防するための薬剤(被験物質)をスクリーニングするのに適したキットが提供される。一態様では、本発明のキットには、本発明のレポーター遺伝子が導入された静止期肝星細胞(又は該細胞を含む細胞培養液など)、静止期肝星細胞を活性化するための薬物(上述)、培養容器、細胞培養培地、キットの使用説明書などが含まれる。
【実施例0041】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
定量RT-PCR
TRIzol reagent(Life Technologies)若しくはNucleoSpin RNA XS(MACHEREY-NAGAL,Duren,Germany)を用いてRNAを抽出した。残存しているゲノムDNAを、DNaseI(Life Techno1ogies)を用いて消化後、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(Takara bio,Shiga,Japan)を用いて一本鎖cDNAを合成した。定量RT-PCRは、SYBR Premix EX TaqII(Takara bio,Shiga,Japan)を用いて行い、データはβ-アクチンを標準化コントロールとしてddCt法に従って算出した。
【0043】
実施例1:iPS細胞から静止期肝星細胞への分化誘導
(1)静止期肝星細胞の作製
ヒトiPS細胞(TkDN4-M)(東京大学、Takayama,N.,et al.,J.Exp.Med.,2010,207,2817-2830)をビトロネクチンコート(Thermo Fisher Scientific)したディッシュで培養した。iPS細胞をStemPro Accutase Cell Dissociation Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いてディッシュから剥離し、1×10cells/cmでUltra-low attachment 6 well plateへ播種し、胚様体形成培養を行なった。Stempro-34 SFM(Thermo Fisher Scientific)を基本培地として、誘導開始0~1日に2ng/ml BMP4、10μM Y27632を添加し、誘導開始1~4日に5ng/ml ActivinA、5ng/ml bFGF、30ng/ml BMP4を添加した。その後、誘導開始4~8日に10ng/ml VEGF、5.4μM SB431542、0.5μM Dorsomorphin、10μM Y27632を添加した。なお、誘導開始0~6日は4%酸素濃度環境下で培養し、誘導開始6~8日は20%酸素濃度環境下で培養した。8日間誘導後、MoFLo XDP セルソーター(Beckman Coulter,Inc)を用いてNGFRを発現する静止期肝星細胞を分取した(図1)。また、図1に示した細胞形態の画像から、胚様体が形成されている過程が観察できた。
【0044】
(2)静止期肝星細胞分化過程における遺伝子発現解析
iPS細胞から分化誘導開始後の0日、1日、4日、6日、8日における未分化マーカー(OCT4、NANOG)、中胚葉マーカー(MESP1、T)、横中隔間充織/星細胞マーカー(HLX、LHX2、FOXF1)の遺伝子発現を定量RT-PCRによって解析した。未分化マーカーは分化誘導の進行に伴って減少し、中胚葉マーカーは分化誘導中期で高発現し、その後、横中隔間充織/星細胞マーカーは分化誘導後期で高発現した(図2)。この結果から、iPS細胞から静止期肝星細胞を分化誘導する本発明の方法が適切なものであることが判明した。
【0045】
(3)Y27632の効果
誘導開始後の4日目に10μM Y27632を培養系に添加し、Y27632による静止期肝星細胞への分化誘導効果を定量RT-PCRによって解析した。肝星細胞マーカー(NGFR、LRAT)は、Y27632の添加によって各マーカー遺伝子の発現が誘導された。一方、活性化肝星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)は、Y27632添加によって発現が抑制された(図3)。この結果から、誘導開始後の4日目にY27632を添加することにより、静止期肝星細胞を誘導することができることが分かった。
【0046】
(4)酸素濃度の検討
誘導開始後の0~6日における4%の酸素濃度を6日から20%に変化させる条件によって、活性化肝星細胞マーカー遺伝子の発現に変化が観察されるのかを定量RT-PCRにより解析した。図4に示されるように、活性化星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)の発現は、20%酸素濃度環境下で抑制された。
【0047】
(5)NGFR陽性細胞のセルソートの効果
8日間の分化誘導後、MoFLo XDP セルソーター(Beckman Coulter,Inc)を用いてNGFRを発現する細胞(posi)と発現しない細胞(nega)を回収し、分離前の細胞(bulk)との遺伝子発現を定量RT-PCRで比較した。結果を図5に示す。NGFR陽性細胞(posi)では、肝星細胞マーカー(NGFR、LRAT、NES)は高発現したが、活性化肝星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)の発現は極めて低かった。一方、NGFR陰性細胞(nega)は、活性化肝星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)の発現が高かった。この結果から、NGFRの発現の有無により静止期肝星細胞と活性化肝星細胞を区別することができ、NGFRが両者の細胞を区別する指標となり得ることが判明した。
【0048】
(6)iPS細胞由来の静止期肝星細胞の細胞形態
誘導開始から8日目のiPS細胞由来の静止期肝星細胞の形態観察を行った結果を図6に示す。画像からも明らかなように得られた細胞は、通常の肝星細胞と同様に星状の線維芽細胞様形態を示した。
【0049】
実施例2:公知の誘導化法により得たiPS細胞由来の肝星細胞との比較
従来のiPS細胞由来の肝星細胞(「Ver.1」)(国際公開第2016/148216号;Koui,Y.,et al.,Stem.Cell.Rep.,2017,9,490-498参照)と、実施例1において作製したiPS細胞由来の肝星細胞(「Ver.2」)における遺伝子発現を定量RT-PCRによって解析し、比較検討した。肝星細胞マーカー(NGFR、LRAT、NES)は、実施例1で作製した肝星細胞において高発現し、活性化肝星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)の発現は極めて低かった。一方、従来法により作製した肝星細胞は、活性化肝星細胞マーカーの発現が極めて高かった(図7)。このことから、従来法で作製した肝星細胞は活性化状態であり、実施例1で作製した肝星細胞は静止期にあることが判明した。
【0050】
実施例3:初代培養肝星細胞との比較
実施例1で作製したiPS細胞由来の肝星細胞(「ver2」)における遺伝子発現と、初代培養肝星細胞の遺伝子発現を定量RT-PCRによって比較検討した。初代培養肝星細胞は、Lonza社から入手した。実施例2と同様の結果であるが、肝星細胞マーカー(NGFR、LRAT、NES)は、実施例1で作製した肝星細胞で高発現し、活性化肝星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)は極めて低い発現だった(図8)。一方、初代培養肝星細胞では、肝星細胞マーカーは極めて低い発現であり、活性化肝星細胞マーカーの発現は顕著に高かった(図8)。これは、実施例2の結果と同様に、実施例1で作製した肝星細胞は静止期にあり、初代培養肝星細胞は活性化した状態にあることが判明した。
【0051】
実施例4:ビタミンA貯蔵能
実施例1で作製した静止期肝星細胞を培養し、培地に10μM レチノールを添加し、4日間培養した。0.05%トリプシン/0.5mM EDTAを用いて細胞を剥離後、CantoII(BD Biociences)を用いてフローサイトメトリーによって細胞内のビタミンAの自家蛍光を検出した。LX2(ヒト星細胞株)、初代培養肝星細胞(2ロット(#1、#2))、及び間葉系幹細胞(MSC)を比較対照のために、同様の解析を行なった。結果を図9に示す。LX2及び初代培養肝星細胞と同様に、実施例1で作製した静止期肝星細胞は細胞内にビタミンAを貯蔵していることから、肝星細胞として機能していることが分かった。
【0052】
実施例5:静止期肝星細胞の活性化誘導
実施例1で作製した静止期肝星細胞をコラーゲンコートしたプラスチックプレートに播種し、培養した。培養前と5日間の培養後における遺伝子発現を定量RT-PCRによって解析した。活性化星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)は培養前と比較して、培養後で顕著に発現が亢進した(図10)。実施例1で作製した静止期肝星細胞は、生体の静止期肝星細胞と同様に、培養系で活性化を誘導できることが分かった。
【0053】
追加的に、実施例1で作製した静止期肝星細胞を二次元培養系で活性化を誘導した(図11)。図11の左下図は、作製した直後(0日目)、活性化誘導後(1日目、3日目、及び5日目)における肝星細胞の活性化星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1、COL1A2、及びCOL3A1)の遺伝子発現解析の結果を示す。経時的に活性化星細胞マーカーの上昇が確認できた。中央図は、活性化星細胞マーカーであるaSMA(ACTA2)の発現を免疫染色で確認した画像を示す。右下図は、培養上清中に分泌されるプロコラーゲンα1(Pro-Collagen alpha1)をELISAによって測定した結果である。上記の結果から、遺伝子レベル及びタンパク質レベルで静止期肝星細胞の活性化を証明することができた。
【0054】
実施例6:静止期肝星細胞の活性化に基づく評価系の検証
(1)レポーターiPS細胞の作製
ヒトiPS細胞(TkDN4-M)にCRISPR-Cas9システムを用いて遺伝子改変を行った。活性化肝星細胞マーカー遺伝子であるACTA2の終止コドンを削り、2Aペプチドを挟んでRFPを挿入した(図12及び図13参照)。これにより、ACTA2-RFPレポーター遺伝子を有する静止期肝星細胞を得た。
【0055】
(2)レポーターiPS細胞を用いた肝星細胞活性化評価
ACTA2-RFPレポーター遺伝子を有するiPS細胞から静止期肝星細胞を分化誘導した。コラーゲンコートディッシュに播種し、播種翌日に細胞の接着を確認後、培地を交換した。その際、培地に肝星細胞の活性化を増強する薬剤(TGFb)、活性化を抑制する薬剤(A83-01、ICG-001)を添加した(図14参照)。培養前と5日間の培養後における遺伝子発現を定量RT-PCRによって解析した(図15)。活性化星細胞マーカー(ACTA2、COL1A1)は培養前と比較して、培養後で顕著に発現が亢進した。また、TGFbの添加によってこれらマーカー遺伝子の発現が増強され、A83-01、ICG-001添加によってその発現は抑制された。培養5日後の細胞におけるレポータータンパク質であるRFPの蛍光をFV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡(OLYMPUS)で観察した(図16A)。同時に、Hoechst33342を用いて細胞の核を染色した(図16B)。遺伝子発現と相関してA83-01およびICG-001添加条件ではRFPの蛍光が抑制された。
【0056】
追加的に、ACTA2-RFPレポーター遺伝子を有するiPS細胞から静止期肝星細胞を作製し、その後、二次元培養系でRFPの発現をFV3000共焦点レーザー顕微鏡(OLYMPUS)で経時的に観察した(図13中、左下図)。未分化なiPS細胞や活性化誘導直後(1日目)の肝星細胞では、RFPの発現を認めなかった。さらに、3日目から5日目まで活性化を誘導すると、徐々にRFPの蛍光が強く観察されるようになった。
【0057】
また、5日目まで活性化を誘導した後、フローサイトメトリー解析によりRFPの蛍光発現細胞を解析した。作製した直後の静止期星細胞(0日目)ではRFPを発現する細胞は認められないが、活性化誘導後(5日目)の肝星細胞はほぼ全ての細胞がRFPを発現することが分かった(図13中、右下図)。これにより、未分化なiPS細胞や静止期肝星細胞ではRFPを発現せず、活性化することによって徐々にRFPを発現することがわかり、このACTA2-RFPレポーターiPS細胞に由来する静止期星細胞の活性化状態をRFPの発現を指標に定量的に評価できることが示された。
【0058】
実施例7:レポーターiPS細胞由来の静止期肝星細胞の活性化評価系を用いた治療薬のスクリーニング系の開発
本実施例では、治療薬のスクリーニング系の妥当性を検証した実験である(以下、「バリデーション」と呼ぶ)。ACTA2-RFPレポーターiPS細胞から静止期肝星細胞を作製し、その後、384ウェルプレートに播種した。続いて、培養5日後にHoechst(核染色液)を添加した。FV3000共焦点レーザー顕微鏡を使用して、各ウェルごとにRFPの蛍光とヘキストの蛍光を撮像した(図17中、左下)。次に、得られた画像に基づいて、画像解析ソフト「cellSens」(OLYMPUS)を使用して、RFP陽性エリアの面積(肝星細胞の活性化度合い)とHoechstのドットの数(細胞数)を各ウェルごとに算出した(図17中、右下)。右下のグラフにおける緑色のドットは、各ウェルにおけるRFP陽性エリアの面積を示す。ピンク色のドットは、正常のiPS細胞に由来する肝星細胞を同様な方法で培養した際のRFP陽性エリアの面積である(したがって、面積はほぼゼロになっている)。グラフに記載されているCV値は、緑色のドットのばらつき度合いを示し、値が小さいほどばらつきが少なく、良いスクリーニング系と言える。Z’-factorは、スクリーニング系の質を評価する指標の1つであり、データのばらつきや測定値の強度から算出される値である。一般的に、Z’-factorが0.5以上ならスクリーニング系として妥当であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によって作製したiPS細胞由来の静止期肝星細胞を用いた評価系は、線維症治療薬などの創薬の研究及び開発の有用ツールになり得る。
【0060】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
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【配列表】
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