(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147841
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】多系統萎縮症治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/122 20060101AFI20241009BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241009BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20241009BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P25/16
A61P25/02 103
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140886
(22)【出願日】2021-08-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 橋渡し研究戦略的推進プログラム、研究課題名「多系統萎縮症の革新的治療法の開発研究」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】辻 省次
(72)【発明者】
【氏名】三井 純
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB27
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多系統萎縮症の進行を抑制することによって、多系統萎縮症による各種の症状の緩和及び進行を抑制し、多系統萎縮症を治療可能な医薬組成物を提供すること。
【解決手段】ユビキノールを含む医薬組成物であって、1日あたりのユビキノール用量を1500~1800mgとし、7日間以上反復経口投与する、多系統萎縮症治療用の医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビキノールを含む医薬組成物であって、1日あたりのユビキノール用量を1500~1800mgとし、7日間以上反復経口投与する、多系統萎縮症治療用の医薬組成物。
【請求項2】
1日あたりのユビキノール用量を1500~1800mgの範囲で増減する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
1日あたりのユビキノール用量を1500mgとする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
14日間以上反復経口投与する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
投与開始7日目以降に、ユビキノールの最高血漿中濃度が10μg/mL以上となる請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
投与開始7日目以降に、ユビキノールの最高血漿中濃度15μg/mL程度となる請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
多系統萎縮症がC型(MSA-C)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
多系統萎縮症による、パーキンソニズム、小脳失調症、自律神経不全、及び錐体路徴候のうち一以上の症状を抑制又は軽減するための請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ユビキノールの最高血漿中濃度を10μg/mL以上とすることによる多系統萎縮症の治療剤。
【請求項10】
ユビキノールの最高血漿中濃度を15μg/mL程度とすることによる、請求項9に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高用量ユビキノールの反復経口投与による多系統萎縮症治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多系統萎縮症(Multiple System Atrophy;MSA)は、進行性で予後不良な難治性の神経変性疾患の一つである。MSAの平均発症年齢は57.5±7.2歳で、臨床症候は、小脳性運動失調、パーキンソニズム、自律神経症候、錐体路徴候が様々な組み合わせで出現する。これらのうち、小脳性運動失調が主要症候であるMSA-Cと、パーキンソニズムが主要症候であるMSA-Pの2つの臨床病型が代表的であり、MSA-Cはオリーブ橋小脳萎縮症に対応し、MSA-Pは線条体黒質変性症に対応する。この他に、自律神経障害が主要症候であるShy-Drager症候群がある。日本人ではMSA-PよりMSA-Cの頻度が高く、MSA患者数12000人に対して、MSA-Cが8000人、MSA-Pが4000人の頻度である。これに対して欧米人ではMSA-Pの頻度がより高い。実際には、MSA-PとMSA-Cの症状がオーバーラップして両方の症状を呈する患者がおり、単純には分類できない場合もある。
【0003】
コエンザイムQ10(CoQ10)には酸化型のユビキノンと還元型のユビキノールが存在するが、生体内で薬理作用を示すのは還元型のユビキノールである(非特許文献1)。還元型のユビキノールは空気中で酸化されやすく、不安定な物質である。そのため、これまでは酸化型のユビキノンについて各種神経疾患治療への応用が試みられてきた。酸化型のユビキノンは、細胞質に存在する還元酵素:NADPH-dependent CoQ reductase、DT diaphorase、lipoamide dehydrogenase、thioredoxin reductase等によって還元型のユビキノールに変換される(非特許文献2)。従って、ユビキノン(酸化型)をラットに静脈内及びヒトに経口投与した場合でも、血漿中の95%以上はユビキノール(還元型)として存在する(非特許文献3、4)。
【0004】
家族性及び孤発性MSA患者の組織において、CoQ10量が低下していることを確認し、CoQ10投与によるMSAの治療効果が論理的に強く示唆されること、そして家族性MSAを発症し、COQ2遺伝子のR337X/V343A複合ヘテロ接合性変異を有する患者に、ユビキノールを反復投与して臨床試験を行った例が報告されている(特許文献1)。同文献では、ユビキノールを胃瘻チューブから1日一回600mgを2週間、つづいて840mgを2週間、さらに1200mgを2週間反復投与した際の臨床評価スケール(
図9)について記載があるものの、0085段落には、「軽微な変動はあったが、統計的に有意と判断できる変化は認められなかった」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Raizner, et al. Coenzyme Q10. Methodist Debakey Cardiovasc J. 2019;15(3):185-191
【非特許文献2】Turunen, et al. Metabolism and function of coenzyme Q. Biochim Biophys Acta. 2004 28;1660(1-2):171-199)
【非特許文献3】Watanabe,et al. PET imaging of 11C-labeled coenzyme Q10: Comparison of biodistribution between [11C]ubiquinol-10 and [11C]ubiquinon-10. Biochem Biophys Res Commun. 2019 May 7;512(3):611-615
【非特許文献4】Langsjoen, et al. Comparison study of plasma coenzyme Q10 levels in healthy subjects supplemented with ubiquinol versus ubiquinone. Clin Pharmacol Drug Dev. 2014;3(1):13-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MSA発症の原因は不明であり、現在までに症状進行を抑制する有効な治療法は存在しなかった。特許文献1に記載された、COQ2遺伝子に極めてまれな複合ヘテロ接合性変異を有する家族性MSA患者1名に対する臨床試験では、従来の投与量を超える量のユビキノールを一定期間以上投与することで、ゼロではないが極めて微小な多系統萎縮症治療効果の兆しが認められていたともいえる。これは、今まで治療法が皆無であったことを考えれば、貴重な結果ではあるものの、同文献に「軽微な変動はあったが、統計的に有意と判断できる変化は認められなかった」と記載されているように、患者のQOLの向上の観点や、医薬品として実用化する観点からは到底満足できるものではない。また、極めてまれな複合ヘテロ接合性変異を有する家族性MSA患者に対する試験であり、一般の孤発性多系統萎縮症患者に対する試験でないことから,孤発性多系統萎縮症患者に対する治療効果は未知であり、有効な治療法や治療薬の開発が望まれていた。
【0008】
この様な背景の下、本発明者らは鋭意研究を行い、従来想定し得なかった程の大量のユビキノールを、従来想定し得なかった長期間投与することにより、予想外に血漿中ユビキノール濃度を上げられること、そしてその結果、多系統萎縮症の諸症状を、今まで経験のないレベルで改善できることを見出して本発明に到達した。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、多系統萎縮症の進行を抑制することによって、多系統萎縮症による各種の症状の緩和、または進行を抑制し、多系統萎縮症を治療可能な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、以下の実施態様を提供するものである。
【0011】
実施態様1:ユビキノールを含む医薬組成物であって、1日あたりのユビキノール用量を1500~1800mgとし、7日間以上反復経口投与する、多系統萎縮症治療用の医薬組成物。
【0012】
実施態様2:1日あたりのユビキノール用量を1500~1800mgの範囲で増減する、実施態様1に記載の医薬組成物。
【0013】
実施態様3:1日あたりのユビキノール用量を1500mgとする、実施態様1に記載の医薬組成物。
【0014】
実施態様4:14日間以上反復経口投与する、実施態様1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【0015】
実施態様5:投与開始7日目以降に、ユビキノールの最高血漿中濃度が10μg/mL以上となる実施態様1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【0016】
実施態様6:投与開始7日目以降に、ユビキノールの最高血漿中濃度15μg/mL程度となる実施態様5に記載の医薬組成物。
【0017】
実施態様7:多系統萎縮症がC型(MSA-C)である、実施態様1~6のいずれかに記載の医薬組成物。
【0018】
実施態様8:多系統萎縮症による、パーキンソニズム、小脳失調症、自律神経不全、及び錐体路徴候のうち一以上の症状を抑制又は軽減するための実施態様1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【0019】
実施態様9:ユビキノールの最高血漿中濃度を10μg/mL以上とすることによる多系統萎縮症の治療。
【0020】
実施態様10:ユビキノールの最高血漿中濃度を15μg/mL程度とすることによる、実施態様9に記載の治療剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、これまで症状進行を抑制する有効な治療法が存在しなかった多系統萎縮症の各種症状を緩和、または進行を抑制することによって、多系統萎縮症を治療可能な医薬組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】試験例1の14日間反復経口投与における、プラセボ群、及びMSA-01群(900mg、1200mg、1500mg)の血漿中薬物濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図2】試験例2における、プラセボ群、及びMSA-01群の薬物漸増投与プロトコルを示す図である。
【
図3A-B】試験例2のUMSARSパート2スコア(
図3A)及びバーゼル指数(
図3B)について、12週、24週、36週、及び48週時におけるベースラインからの変化を示すグラフである。
【
図4】試験例2の各評価項目について、48週時におけるベースラインからの変化をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の医薬組成物について、具体的に説明する。
本発明の医薬組成物は、高用量のユビキノールを反復経口投与される多系統萎縮症治療用の医薬組成物である。
【0024】
ユビキノール
ユビキノールは、2-[(2E,6E,10E,14E,18E,22E,26E,30E,34E)-3,7,11,15,19,23,27,31,35,39-decamethyltetraconta-2,6,10,14,18,22,26,30,34,38-decaenyl]-5,6-dimethoxy-3-methylcyclohexa-2,5-diene-1,4-diolであり、還元型のコエンザイムQ10(CoQ10)である。CoQ10のうち生体内で薬理作用(主に、抗酸化作用)を示すのはユビキノールである。ユビキノールは、例えば、発酵法、合成法、動植物からの抽出法によって得られるものを利用することが可能であるが、発酵法によって得られるオールトランス構造であるものが生体利用の観点から好ましく、例えば、カネカ・コエンザイムQ10(株式会社カネカ製)を用いることができる。
【0025】
多系統萎縮症(MSA)
MSAは、進行性の神経難病である脊髄小脳変性症の中で最も頻度の高い疾患である。具体的な症状は、ふらつき、しゃべりにくさなどの小脳の障害による症状、震えや筋肉のこわばり、動きづらさなどのパーキンソン症状、血圧の変動や排尿・排便の障害などの自律神経障害による症状などであり、多くの神経系統に障害をきたす。現在、日本では人口10万人当たり10人程度の患者(患者数として1万2千人程度)が存在すると推定されている。発症年齢は平均50歳台後半と働き盛りの壮年層に多く、比較的急速に進行することから、社会的な損失も大きい神経疾患の一つである(2013/6/12東京大学医学部附属病院 原因不明の神経難病、多系統萎縮症の重要な遺伝的因子を発見・治療法実現へ道を拓く~大規模な国際多施設共同研究により初めて実現~より)。よって、少しでも、例えば、25%程度であっても進行を遅らせることが有効な治療法となり患者のQOLの向上につながる。
【0026】
多系統萎縮症(MSA)の予後
多系統萎縮症では線条体が変性するため、パーキンソン病に比べて抗パーキンソン病薬は効きが悪い。また、小脳症状や自律神経障害も加わってくるため全体として進行性に増悪することが多い。日本における230人の患者を対象とした研究結果では、それぞれ中央値として発症後平均約5年で車椅子使用、約8年で臥床状態となり、罹病期間は9年程度と報告されている(難病情報センター:多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)https://www.nanbyou.or.jp/entry/221より)。
【0027】
多系統萎縮症(MSA)の治療
現状MSAに有効な治療法は存在しないが、以下のように各症状に対して対症療法がとられている。運動失調に対しては、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体であるプロチレリン(ヒルトニン(R))(0.5~2mg、筋注または静脈内注射、2~3週間)またはタルチレリン(セレジスト(R))(5mg、経口、1日2回)を投与する(1)。パーキンソニズムに対しては、抗パーキンソン病薬の効果が得にくく、レボドパに反応性を示すものは30~70%程度であり、多くの場合数年で反応性が見られなくなると言われている。起立性低血圧に対しては、塩分及び水分の補充を行う。ときにフルドロコルチゾン(0.1~0.4mg、経口、1日1回)の投与によって血管内容量を増加させる(2)。また、下半身への圧迫帯の装着とミドドリン(10mg、経口、1日3回)によるαアドレナリン受容体刺激が有用となりうる(2)。しかしながら、ミドドリンは末梢血管抵抗を増大させて、臥位血圧を上昇させるため、問題になる場合もある。ベッドの頭側を約10cm挙上することで、夜間多尿と臥位高血圧が減少し、朝の起立性低血圧が減少することがある。便秘に対して、高繊維食と便軟化剤を用いることができるが、難治例では浣腸が必要になる場合がある(3)。尿失禁に対しては、原因が排尿筋の反射亢進であれば、塩化オキシブチニン(5mg、経口、1日3回)またはトルテロジン(2mg、経口、1日2回)を用いてもよい(4)。尿意切迫に対しては、タムスロシン(0.4~0.8mgの1日1回)投与が効果的となる場合がある(15)。尿閉に関しては、多くの患者でカテーテル自己導尿が必要となる(15)。勃起障害に対しては、シルデナフィル(50mg、経口、頓用)またはタダラフィル(2.5~5mg、1日1回)などの薬物療法と、様々な物理的手法を用いることができる(5)。
【0028】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、1日あたりユビキノールを1500~1800mgの用量で、7日間以上反復経口投与されるものである。1日あたりのユビキノール投与量は、1500~1800mgの間で、漸増したり、あるいは増減したりしながら投与してもよいし、一定の用量で継続投与してもよい。好ましい用量として、1日あたり1500mgが挙げられる。
【0029】
本発明の医薬組成物の投与期間は、7日間以上で、ユビキノールの最高血漿中濃度が、10μg/mL以上、好ましくは15μg/mL程度となる時点まで1日1回~3回の継続投与を行うことが好ましい。10μg/mL以上、または15μg/mL程度のユビキノール血漿中濃度を維持することにより治療効果が発揮されることから、このような血漿中濃度を維持しつつ投与を続けることが好ましい。具体的には、例えば7日間、14日間、28日間、35日間、42日間、56日間、84日間、168日間、336日間、またはそれ以上とすることができる。一般に、MSAが完治することは考えにくいので、10μg/mL以上、または15μg/mL程度のユビキノール血漿中濃度を達成後、継続的に飲み続けることが好ましい。
【0030】
MSAには、MSA-C、MSA-P、及びこれらの混合型が存在し、また特定の遺伝子型による家族性、遺伝子型とは関係なく発症する孤発性の病態が存在することが知られている。本発明の医薬組成物は、高用量のユビキノールの反復投与により高い最高血漿中濃度を達成することによって、MSAの症状を緩和し、進行を抑制することができると考えられることから、MSAのタイプを問わず効果を発揮する。
【0031】
さらに本発明の医薬組成物は、MSAを原因とする具体的な症状、例えば、ふらつき、しゃべりにくさなどの小脳の障害による症状、震えや筋肉のこわばり、動きづらさなどのパーキンソン症状、血圧の変動や排尿・排便の障害などの自律神経障害による症状の緩和や進行を抑制することができる。
【0032】
また、本発明の医薬組成物は以下の(1)~(3)のいずれかに該当する患者に投与することにより、MSAを原因とする各種症状の緩和や進行を抑制することができる。
(1)Gilmanらによる診断基準にて、ProbableまたはPossible MSAの判定を満たす患者
(2)器具は使用せず自力で、もしくは、杖、歩行器、手すりなどの補助手段を用いて自力で10メートル以上の歩行が可能な患者
(3)COQ2遺伝子の変異解析が行われている患者
上記(1)は、出願日現在Gilmanらにより規定されているMSAの診断指標であり、(2)及び(3)は、出願日現在日本国内において用いられているMSAの診断指標である。これらの他、国際的には、International Parkinson and Movement Disorder Societyによる指標が用いられることもある。これらの診断指標はMSAの研究や新たに報告される病態に合わせて、適宜変更されるが、本発明の医薬組成物は、投与する時点で最新の指標を用いて診断されたMSA患者に投与することにより、各種症状の緩和や進行抑制に効果を有するものと考えられる。
【0033】
本発明の医薬組成物は、経口投与に適した剤形とすることができ具体的な形態は限定されない。例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、ドライシロップ剤等の固形製剤、及びシロップ剤等の液剤とすることができる。このような製剤は、従来公知の方法により製造することができる。
【0034】
治療剤
本発明は、ユビキノールの最高血漿中濃度を10μg/mL以上、または15μg/mL程度とすることによる多系統萎縮症の治療剤に関する。このような最高血漿中濃度により、多系統萎縮症の進行を抑制することができる。
【0035】
多系統萎縮症の治療剤の投与経路や剤形は、特に限定されない。投与経路としては例えば、経口投与、経管投与、胃瘻による投与、及び経静脈投与を、剤形としては、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル)、ドライシロップ剤等の固形製剤、シロップ剤等の液剤、及び注射剤を挙げることができる。このような製剤は、従来公知の方法により製造することができる。
【0036】
引用文献:
1 日本神経学会監「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 東京:南江堂 2018;p212-214.
2 日本神経学会監「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 東京:南江堂 2018;p222-224.
3 日本神経学会監「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 東京:南江堂 2018;p228-230.
4 日本神経学会監「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 東京:南江堂 2018;p231-232.
5 日本神経学会監「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」作成委員会編 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 東京:南江堂 2018;p233-234.
【実施例0037】
以下に具体的な実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明はその実施形態に限定されるものではなく、それらにおける様々な変更及び改変が当業者によって、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく実行され得ることが理解される。
【0038】
試験例1:MSA-01(ユビキノール)の第1相試験
(14日間反復経口投与における血漿中薬物濃度の測定)
健常人にMSA-01を900mg、1200mg、1500mgの用量で14日間反復経口投与した。その結果、投与後24時間までの血漿中MSA-01濃度は極めて低値であったが(定量限界:1μg/mL)、その後の反復投与で血漿中MSA-01濃度は徐々に上昇し、約7日間の投与により定常状態に達した。検出されたMSA-01の最高血漿中濃度は14日間反復経口投与後6時間の測定において、900mg、1200mg、1500mg群のそれぞれで10.24、9.38、15.22μg/mLであった(
図1の318hrの値)。公表されている血漿中ユビキノール濃度のベースラインは0.87及び0.66μg/mL(%Reduced CoQ
10:98.9及び85%)であり(Langsjoen, et al. Comparison study of plasma coenzyme Q10 levels in healthy subjects supplemented with ubiquinol versus ubiquinone. Clin Pharmacol Drug Dev. 2014;3(1):13-17, Onur et al. Determination of the coenzyme Q10 status in a large Caucasian study population. Biofactors 2015;41(4):211-21)、本試験において血漿中MSA-01は1500mg群でベースラインから約20倍上昇したと推定される。
【0039】
試験例2:MSA-01(ユビキノール)の第2相試験
CoQ2遺伝子変異を有する患者群21例及び有さない患者群108例を対象として、各群に対して、61例にMSA-01を、68例にプラセボを投与した。患者群合計129例のうち、MSA-Cの患者は99例、MSA-Pの患者30例であった。4週間の観察期に適格性が確認された患者129例にランダムに割り付け、MSA-01又はプラセボを1日1回朝食後毎日投与(投与量は300、600、900、1200、及び1500mg/日と2週ごとに漸増する、
図2)し、12週、24週、36週、及び48週時に、主要評価項目による評価項目を測定した。
【0040】
一次有効性
12週、24週、36週、及び48週時におけるUMSARSパート2スコア(unified multiple-system atrophy rating scale part 2;Wenning GK, Tison F, Seppi K, et al. Development and validation of the Unified Multiple System Atrophy Rating Scale (UMSARS). Mov Disord [Internet] 2004;19(12):1391-402)のベースラインからの変化(LS平均)を評価した。LS平均は、ゼロに近いほど有効であることを示すが、48週時において、MSA-01群では5.27、プラセボ群では7.13であり、MSA-01群で有意に小さかった(差、-1.86;95%信頼区間、-3.10~-0.62;P=0.003)。結果を
図3A(12週、24週、36週、及び48週時)、及び
図4(48週時)に示す。
【0041】
二次有効性
48週時における、UMSARSパート1スコア(unified multiple-system atrophy rating scale part 1;Wenning GK, Tison F, Seppi K, et al. Development and validation of the Unified Multiple System Atrophy Rating Scale (UMSARS). Mov Disord [Internet] 2004;19(12):1391-402),バーセル指数(Barthel index:Mahoney FI, Barthel DW. Functional evaluation: The Barthel index. Md State Med J [Internet] 1965;14:61-5. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14258950)(
図3B)、SARAスコア(Schmitz-Huebsch T, du Montcel ST, Baliko L, Berciano J, Boesch S, Depondt C, Giunti P, Globas C, Infante J, Kang JS, Kremer B, Mariotti C, Melegh B, Pandolfo M, Rakowicz M, Ribai P, Rola R, Schoels L, Szymanski S, van de Warrenburg BP, Duerr A, Klockgether T, Fancellu R. Scale for the assessment and rating of ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006 Jun 13;66(11):1717-20. doi: 10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92)、及び10メートル歩行時間(秒)のベースラインからの変化(LS平均)を評価した(
図4)。
図4よりわかる通り、バーセル指数、SARAスコア、10メートル歩行時間の評価において、MSA-01群では、プラセボ群に対して有意な効果を示した。
本発明により、多系統萎縮症の症状の緩和や進行を抑制することによって、多系統萎縮症による各種の症状を治療可能な医薬組成物、及び治療剤を提供することが可能となる。