(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147843
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20241009BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20241009BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20241009BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J163/00
C09J11/08
B32B7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141613
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】角▲高▼ 海理
(72)【発明者】
【氏名】栗木 均
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB10B
4F100AB10C
4F100AK01A
4F100AK53A
4F100AK71B
4F100AK71C
4F100AT00B
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100CA02A
4F100CA23A
4F100CA30A
4F100CB00A
4F100CC00A
4F100EJ08A
4F100GB41
4F100JB13A
4F100JB16B
4F100JB16C
4F100JK02
4F100JK06
4F100JK07
4F100YY00A
4J040DA002
4J040EC001
4J040JB02
4J040KA42
4J040LA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い接着強度と凝集破壊率の向上が両立された接着剤組成物を提供する。
【解決手段】成分(A)としての熱硬化性樹脂と、成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤と、を含む接着剤組成物であって、前記成分(B)は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アミド基およびグリシジル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する樹脂を含み、前記接着剤組成物は、特定の条件を満たす、接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)としての熱硬化性樹脂と、
成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、
成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤と、
を含む接着剤組成物であって、
前記成分(B)は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アミド基及びグリシジル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する樹脂を含み、
前記接着剤組成物は、下記(式2)で求められる、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比が、2.5~6.0倍であり、
破壊エネルギーG1c=(破壊靱性値K1c)2/引張弾性率E (式2)
前記成分(A)、(B)、(C)及び(D)は、下記条件(I)~(III)を満たす、接着剤組成物。
条件(I):前記成分(B)の融点から、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の発熱開始温度を引いた値が、-10℃~60℃である。
条件(II):前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率と、前記成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率の差が、0.3GPa以上である。
条件(III):以下の方法で測定される、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物と前記成分(B)から形成されたフィルムとの測定用積層体の引張強度が4MPa以上であり、かつ、単位体積当たりの歪みエネルギーが100kJ/m3以上である。
但し、上記条件(I)~(III)を測定する際の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の配合比率は、以下のとおりとする。
成分(C)は、成分(A)との官能基当量(モル)比が1:1とする。成分(D)は、成分(A)100質量部に対して、3質量部とする。成分(B)は、成分(A)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して、30質量部とする。また、接着剤組成物中に成分(C)が含まれない場合、成分(B)は、成分(A)と成分(D)の合計100質量部に対して30質量部とする。
(条件(III)の測定)
成分(B)を成形して幅1.5mm、厚み1mm、長さ3mmとしたフィルムを、幅90mm、厚さ1mm、長さ3mmの空間が設けられた型内の中央に置き、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物を流し込み、60℃で60分の加熱、100℃で60分の加熱、及び150℃で120分の加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させて、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物が積層された測定用積層体を得る。前記測定用積層体について、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度を求める。得られた応力-歪み曲線から、単位体積当たりの歪みエネルギーを求める。
【請求項2】
成分(A)が、エポキシ樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
成分(A)の含有率が、7~95質量%である、請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
成分(B)の体積平均粒子径が、2~30μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、及び塗料のいずれかの接着用途に用いられる、請求項1~4いずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布、又は注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、接着層の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布し、少なくとも2つの被接着対象物の間に前記接着剤組成物を配置する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を少なくとも2つの被接着対象物の間に注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電子材料などの各種工業分野において、各種の接着剤組成物が使用されている。工業分野で使用される接着剤組成物には、金属材料などの被接着対象物に対する高い接着力に加えて、安定した接着性能が求められる。安定した接着性能とは、具体的には、被接着対象物との接着において剥がれる外力の大きさのバラツキが小さく、接着層に加わる外力が、ある一定の大きさを超えるまでは被接着対象物が接着されており、当該大きさを超えると、接着されていた被接着対象物が剥がれる性能である。
【0003】
被接着対象物が剥がれる際の接着の破壊形態としては、界面破壊、凝集破壊、及びこれらの混合が知られており、外力による接着の破壊形態が凝集破壊であると、接着性能が安定したものになることが知られている(例えば特許文献1を参照)。一方、接着剤組成物が、被接着対象物に対する高い接着力を備えていても、接着の破壊形態が界面破壊であると、接着層と被接着対象物との界面で剥がれが生じる際の外力のバラツキが大きいため、接着性能が安定しないという問題がある。
【0004】
例えば、特許文献2には、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリカにより被覆されているポリオレフィン系樹脂を含有する、エポキシ樹脂接着剤が開示されている。当該接着剤組成物は、低収縮性で、高い接着性を有するものの破壊形態の観点から、充分な性能が得られない。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、接着性樹脂、コアシェルポリマー粒子、ポリマー粒子を含有する接着剤組成物が開示されている。これらは、数十~数百ナノサイズという特殊なコアシェルポリマー粒子と、コアシェルポリマー粒子より大きなポリマー粒子の2種を用いることで接着性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-295340号公報
【特許文献2】特許第6526571号
【特許文献3】国際公開第2019/189238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い接着強度と凝集破壊率の向上が両立された接着剤組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、成分(A)としての熱硬化性樹脂と、成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤を含む接着剤組成物において、所定の条件(I)~(III)を満たす前記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含み、さらに、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比が所定範囲にあることにより、接着剤組成物が高い接着強度と凝集破壊率の向上とを発揮することを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成した発明である。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の構成を備える発明を提供する。
項1. 成分(A)としての熱硬化性樹脂と、
成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、
成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤と、
を含む接着剤組成物であって、
前記成分(B)は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アミド基及びグリシジル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する樹脂を含み、
前記接着剤組成物は、下記(式2)で求められる、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比が、2.5~6.0倍であり、
破壊エネルギーG1c=(破壊靱性値K1c)2/引張弾性率E (式2)
前記成分(A)、(B)、(C)及び(D)は、下記条件(I)~(III)を満たす、接着剤組成物。
条件(I):前記成分(B)の融点から、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の発熱開始温度を引いた値が、-10℃~60℃である。
条件(II):前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率と、前記成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率の差が、0.3GPa以上である。
条件(III):以下の方法で測定される、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物と前記成分(B)から形成されたフィルムとの測定用積層体の引張強度が4MPa以上であり、かつ、単位体積当たりの歪みエネルギーが100kJ/m3以上である。
但し、上記条件(I)~(III)を測定する際の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の配合比率は、以下のとおりとする。
成分(C)は、成分(A)との官能基当量(モル)比が1:1とする。成分(D)は、成分(A)100質量部に対して、3質量部とする。成分(B)は、成分(A)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して、30質量部とする。また、接着剤組成物中に成分(C)が含まれない場合、成分(B)は、成分(A)と成分(D)の合計100質量部に対して30質量部とする。
(条件(III)の測定)
成分(B)を成形して幅1.5mm、厚み1mm、長さ3mmとしたフィルムを、幅90mm、厚さ1mm、長さ3mmの空間が設けられた型内の中央に置き、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物を流し込み、60℃で60分の加熱、100℃で60分の加熱、及び150℃で120分の加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させて、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物が積層された測定用積層体を得る。前記測定用積層体について、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度を求める。得られた応力-歪み曲線から、単位体積当たりの歪みエネルギーを求める。
項2. 成分(A)が、エポキシ樹脂である、項1に記載の接着剤組成物。
項3. 成分(A)の含有率が、7~95質量%である、項1または2に記載の接着剤組成物。
項4. 成分(B)の体積平均粒子径が、2~30μmである、項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
項5. 構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、及び塗料のいずれかの接着用途に用いられる、項1~4いずれか1項に記載の接着剤組成物。
項6. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物。
項7. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布、又は注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、接着層の製造方法。
項8. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布し、少なくとも2つの被接着対象物の間に前記接着剤組成物を配置する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
項9. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を少なくとも2つの被接着対象物の間に注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い接着強度と凝集破壊率の向上が両立された接着剤組成物を提供することができる。本発明の接着剤組成物は、例えば、構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、塗料など、各種工業分野の接着剤組成物が使用される接着用途に好適に使用することができる。特に、本発明の接着剤組成物は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム合金などの金属材料やエンジニアプラスチック、炭素繊維強化プラスチックのような樹脂材料を単一もしくは組合せにより構成された部材を被接着対象物とする接着剤組成物として、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】条件(III)の測定に用いる積層体の模式図である。
【
図2】応力-ひずみ曲線の積分値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の接着剤組成物は、成分(A)としての熱硬化性樹脂と、成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤とを含む接着剤組成物であって、成分(B)は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アミド基およびグリシジル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する樹脂を含み、接着剤組成物は、式「破壊エネルギーG1c=(破壊靱性値K1c)2/引張弾性率E (式2)」で求められる、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比が2.5~6.0倍であり、さらに、成分(A)、(B)、(C)及び(D)は、下記条件(I)~(III)を満たすことを特徴としている。本発明の接着剤組成物は、当該構成を全て充足することにより、高い接着強度と凝集破壊率の向上とを両立することができる。
【0013】
条件(I):前記成分(B)の融点から、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の発熱開始温度を引いた値が、-10℃~60℃である。
【0014】
条件(II):前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率と、前記成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率の差が、0.3GPa以上である。
【0015】
条件(III):以下の方法で測定される、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物と前記成分(B)から形成されたフィルムとの積層体の引張強度が4MPa以上であり、かつ、単位体積当たりの歪みエネルギーが100kJ/m3以上である。
【0016】
但し、上記条件(I)~(III)を測定する際の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の配合比率は、以下のとおりとする。
成分(C)は、成分(A)との官能基当量(モル)比が1:1となるようにする。成分(D)は、成分(A)100質量部に対して、3質量部とする。成分(B)は、成分(A)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して、30質量部とする。接着剤組成物中に成分(C)が含まれない場合、成分(B)は、成分(A)と成分(D)の合計100質量部に対して30質量部とする。
【0017】
(条件(III)の測定)
前記成分(B)を成形して幅1.5mm、厚み1mm、長さ3mmとした前記フィルムを、幅90mm、厚さ1mm、長さ3mmの空間が設けられた型内の中央に置き、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物を流し込み、60℃で60分の加熱、100℃で60分の加熱、及び150℃で120分の加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させて、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物が積層された測定用積層体を得る。前記測定用積層体について、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度を求める。得られた応力-歪み曲線から、単位体積当たりの歪みエネルギーを求める。
【0018】
以下、本発明の接着剤組成物について、詳述する。本明細書において、「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of”.)。
【0019】
また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0020】
本発明の接着剤組成物は、成分(A)としての熱硬化性樹脂と、成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子を含み、さらに、成分(C)としての硬化剤および成分(D)としての硬化促進剤のうち少なくとも一方をさらに含む。すなわち、本発明の接着剤組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む組成物であってもよいし、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み成分(D)を含まない組成物であってもよいし、成分(A)、成分(B)及び成分(D)を含み成分(C)を含まない組成物であってもよい。
【0021】
<成分(A):熱硬化性樹脂>
成分(A)としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられ、接着性や絶縁特性、機械的特性の観点から、好ましくはエポキシ樹脂である。これらの熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤などに用いられる公知の樹脂を使用することができる。本発明の接着剤組成物に含まれる成分(A)の樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0022】
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を有しており、硬化可能なエポキシ樹脂であればよく、例えば、モノエポキシ化合物、多価エポキシ化合物等が挙げられる。
【0023】
モノエポキシ化合物の具体例としては、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、パラ-ブチルフェニルグリシジルエーテル、パラ-キシリルグリシジルエーテル、グリシジルアセテート、グリシジルブチレート、グリシジルヘキソエート、グリシジルベンゾエートなどが挙げられる。
【0024】
また、多価エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、多価フェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エーテル型エポキシ樹脂、エーテルエステル型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0025】
多価エポキシ化合物のなかでも、ビスフェノール型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールAなどのビスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0026】
また、多価フェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂の具体例としては、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの2価フェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂や、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタンなどのトリスフェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のテトラキスフェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
ノボラック型エポキシ樹脂の具体例としては、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールAノボラック型、臭素化フェノールノボラック型、臭素化ビスフェノールAノボラック型等のノボラック化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
脂肪族エーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、グリセリンやポリエチレングリコールなどの多価アルコールをグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0029】
エーテルエステル型エポキシ樹脂の具体例としては、パラオキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0030】
エステル型エポキシ樹脂の具体例としては、フタル酸、テレフタル酸などのポリカルボン酸をグリシジル化したエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0031】
アミン型エポキシ樹脂の具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、m-アミノフェノールなどのアミン化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0032】
脂環式エポキシ樹脂の具体例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、1-エポキシエチル3,4-エポキシシクロヘキサン、リモネンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメタノールなどが挙げられる。
【0033】
これらエポキシ樹脂の中でも、多価エポキシ化合物が好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂がより好ましく、なかでもビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂などが更に好適に用いられる。
【0034】
本発明の接着剤組成物において、成分(A)の配合量は、接着剤組成物全体に対して、好ましくは7~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは30~80質量%である。
【0035】
<(B)熱可塑性樹脂粒子>
成分(B)は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、アミノ基、アミド基およびグリシジル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する樹脂を含む熱可塑性樹脂粒子であり、条件(I)~(III)を満たす熱可塑性樹脂粒子であればよい。成分(B)に、前記した反応性の基を有する樹脂が含まれることによって、本発明の接着剤組成物は、接着強度がより優れたものになる。これらのなかでも、成分(A)や成分(C)との反応性の観点から、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、アミノ基及びグリシジル基を少なくとも一つ含むことが好ましい。成分(B)を構成する熱可塑性樹脂の種類については、これらの反応性官能基を有していればよく、代表的な熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、オレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂、オレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂の部分鹸化物、オレフィンの酸変性ポリマー等を挙げることができる。
【0037】
オレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂を構成するオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン等を挙げることができる。また、他のモノマーとしては、前記オレフィンと共重合可能なモノマーのうち、例えば、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸無水物、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩およびα,β-不飽和カルボン酸エステル等を挙げることができる。α,β-不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、「メタクリル酸」と「アクリル酸」を意味する。以下(メタ)アクリについても同様である。α,β-不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸等を挙げることができ、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩としては、(メタ)アクリル酸のナトリウム塩やマグネシウム塩等を挙げることができる。さらに、α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、ヒドロキシ(メタ)アクリレートやグリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらオレフィンおよび他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上のものを併用してもよい。
【0038】
前記したオレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂の具体例としては、例えば、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/無水マレイン酸共重合体;エチレン/グリシジル(メタ)アクリレート共重合体等のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体;エチレン/(メタ)アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体等のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、並びにこれらの金属塩の樹脂等を挙げることができる。
【0039】
オレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂の部分鹸化物としては、例えば、オレフィンとビニルエステルとの共重合体樹脂の部分鹸化物、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸エステルとの共重合体樹脂の部分鹸化物等を挙げることができる。
【0040】
前記したオレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂の部分鹸化物の具体例としては、エチレン/酢酸ビニル共重合体の部分鹸化物、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/アクリル酸メチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/アクリル酸エチル共重合体の部分鹸化物等を挙げることができる。
【0041】
オレフィンの酸変性ポリマーとしては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体等の酸変性ポリオレフィン等を挙げることができる。
【0042】
ナイロン系樹脂としては、例えば、-[NH(CH2)5CO]-、-[NH(CH2)4NHCO(CH2)4CO]-、-[NH(CH2)6NHCO(CH2)4CO]-、-[NH(CH2)6NHCO(CH2)8CO]-、-[NH(CH2)10CO]-および-[NH(CH2)11CO]-からなる群より選ばれた少なくとも1種を構造単位としているナイロン樹脂を挙げることができる。それらの具体例としては、6ナイロン、46ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、およびこれらの共重合体、ポリエステルやポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるナイロンエラストマー等が挙げられる。
【0043】
本発明においてポリオレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上のものを混合して使用してもよい。
【0044】
これらのなかでも好ましい成分(B)としては、成分(A)よりも柔軟性があり、反応性を有する官能基を含む観点から、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレンおよびナイロンエラストマーを含む熱可塑性樹脂粒子を挙げることができる。
【0045】
本発明にかかる成分(B)の体積平均粒子径は、例えば1μm~100μmであり、好ましくは2~30μmである。1μmより小さいと取り扱いがし難く、成分(A)と混合する工程で粘性が高くなり、作業性が損なわれる場合がある。また、100μmより大きいと硬化性樹脂と混合した際に、分離しやすいため、分散安定性に劣る場合がある。2μm~30μmであることで、作業性を損なうことなく、より添加効果が十分に作用しやすい。
【0046】
なお、成分(B)の体積平均粒子径は、電気的検知帯法(細孔電気抵抗法)により求められる体積平均粒子径である。細孔電気抵抗法によって体積平均粒子径を測定する具体的な装置としては、例えば電気検知式粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製の商品名“コールターマルチサイザー”)が挙げられる。なお、測定に用いるアパチャー径は様々な大きさがあり、夫々のアパチャー径には測定に適した測定範囲(体積平均粒子径の大きさ)がある。測定する粒子に存在する粒子径をカバーするようにアパチャー径を選択することができるが、後述する実施例では当該方針に基づきアパチャー径は100μmのものを用いた。アパチャー径100μmが適する測定範囲よりも小さい粒子径が存在する粒子を測定するときは100μmよりも小さいアパチャー径を選択でき、アパチャー径100μmが適する測定範囲よりも大きい粒子径が存在する粒子を測定するときは100μmよりも大きいアパチャー径を選択することができる。
【0047】
本発明にかかる成分(B)の形状は、作業性が損なわれなければ特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状などが挙げられる。接着剤組成物への分散が容易で、かつ粘度上昇を抑制する観点から、球状であることが好ましい。
【0048】
本発明にかかる成分(B)は、その粒子中又は表面に、アルミナ、シリカなどの無機粒子、鉄、銅、ニッケル、コバルトなどの金属粉および紫外線吸収剤、耐熱安定剤などの有機物質を含有させることもできる。
【0049】
本発明の接着剤組成物において、成分(B)の配合量は、前記した単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比が2.5~6.0倍になる配合量であればよく、成分(B)の配合量としては、成分(A)100質量部に対して、好ましくは3~300質量部であり、より好ましくは5~200質量部であり、さらに好ましくは10~80質量部である。
【0050】
<成分(C):硬化剤>
成分(C)としての硬化剤は、熱硬化性樹脂である成分(A)と反応して硬化物が得られるもので、条件(I)~(III)を満たす硬化剤であればよい。成分(C)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、成分(C)を2種類以上混合して用いた場合、混合した硬化剤の混合物を、1つの成分(C)とみなす。
【0051】
成分(C)としては、例えば、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、活性エステル系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤などが挙げられる。
【0052】
アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの鎖状脂肪族アミン;イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式アミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジエチルトルエンジアミン、ジエチルジアミノジフェニルメタンなどの芳香族アミン等が挙げられる。
【0053】
アミド系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂(ポリアミノアミド等)等が挙げられる。
【0054】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水マレイン酸、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族酸無水物;無水メチルナジック酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物等が挙げられる。
【0055】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビフェニル型ノボラック樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェノールビフェニレン樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ベンゾオキサジン環を有する化合物等が挙げられる。
【0056】
メルカプタン系硬化剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)、ポリサルファイドポリマー等が挙げられる。
【0057】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0058】
活性エステル系硬化剤は、1分子中に(A)熱硬化性樹脂と反応するエステル基を1個以上有する化合物であり、フェニルエステル、ナフチルエステル、チオフェニルエステル、N-ヒドロキシアミンエステル、複素環ヒドロキシ化合物エステル等が挙げられる。
【0059】
シアネートエステル系硬化剤としては、例えば、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0060】
本発明の接着剤組成物においては、成分(C)として、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤、及びフェノール系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤が更に好ましい。
【0061】
本発明の接着剤組成物において、成分(C)の配合量は、前記した破壊エネルギーG1cの比が2.5~6.0倍になる配合量であればよく、通常は熱硬化性樹脂である成分(A)中の反応性官能基(例えばエポキシ基)1当量あたり、成分(C)中の反応性官能基の当量が0.1~5当量となる配合量とすることが好ましい。成分(C)中の反応性官能基の当該当量としては、より好ましくは0.3~3当量であり、さらに好ましくは0.5~2当量である。
【0062】
<(D)硬化促進剤>
成分(D)としての硬化促進剤は、熱硬化性樹脂である成分(A)の硬化を促進する成分である。また、成分(D)と成分(C)と併用することで、硬化反応速度を高めたり、得られる硬化物の強度を高めたりすることができる。なお、成分(D)は、成分(C)と併用しなくても、成分(A)の硬化を促進することができる。成分(D)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、成分(D)を2種類以上混合して用いた場合、混合した硬化促進剤の混合物を1つの成分(D)とみなす。
【0063】
成分(D)としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物;ピペリジンなどの第二級アミン;DBU(1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7)、DBN(1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、4-ジメチルアミノピリジンなどの第三級アミン;トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのリン系化合物、ルイス酸化合物、カチオン重合開始剤等が挙げられる。
【0064】
本発明の接着剤組成物においては、成分(D)として、イミダゾール化合物、第三級アミン、リン系化合物、及びカチオン重合開始剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0065】
本発明の接着剤組成物において、成分(D)の配合量は、前記した破壊エネルギーG1cの比が2.5~6.0倍になる配合量であればよく、例えば成分(A)100質量部に対して、0.01~10質量部を配合することが好ましく、より好ましくは0.1~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~5質量部である。
【0066】
本発明の接着剤組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計含有率は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0067】
本発明において、成分(A)、(B)、(C)及び(D)は、下記条件(I)~(III)を満たす。
【0068】
(条件(I)~(III)の測定における成分(A)、(B)、(C)及び(D)の配合比率)
成分(C)は、成分(A)との官能基当量(モル)比が1:1となるようにする。成分(D)は、成分(A)100質量部に対して、3質量部とする。成分(B)は、成分(A)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して、30質量部とする。また、接着剤組成物中に成分(C)が含まれない場合、成分(B)は、成分(A)と成分(D)の合計100質量部に対して30質量部とする。
【0069】
<条件(I)>
条件(I)は、成分(B)の融点から、成分(A)、成分(C)及び成分(D)のみからなる混合物の発熱開始温度を引いた値が、-10℃~60℃であることである。条件(I)は、熱可塑性樹脂粒子である成分(B)の熱的性能に関する条件である。具体的には、成分(B)の融点(又は吸熱ピークトップ温度)と、成分(B)が含まれない、成分(A)、(C)及び(D)のみの混合物(接着剤組成物が成分(C)を含まない場合は成分(A)及び成分(D)のみの混合物、接着剤組成物が成分(D)を含まない場合は成分(A)及び成分(C)のみの混合物)の発熱開始温度との温度差となる。この温度差が、-10~60℃であることにより、熱硬化性樹脂である成分(A)と熱可塑性樹脂粒子である成分(B)との界面付近の分子間の相互作用が活発となる。成分(A)と成分(B)の相互作用が活発になると、破壊耐性に優れる硬化物となり、破壊靭性が向上する。前記温度差は、下限として、好ましくは-5℃、より好ましくは-2℃である。上限として、好ましくは55℃、より好ましくは50℃である。
【0070】
(融点及び発熱開始温度の測定)
各混合物および粒子については、下記の方法により融点(又は吸熱ピークトップ温度)及び発熱開始温度を測定する。前記温度は、示差走査熱量計(DSC6220、(株)日立ハイテクサイエンス)を用いて、昇温速度5℃/minにて測定する。なお、発熱開始温度は昇温時の各測定温度における試料1mg中の熱量(mW/mg)をプロットした曲線である、いわゆるDSC曲線のベースラインから離れ始める点(Ta)とする。
【0071】
<条件(II)>
条件(II)は、成分(A)、成分(C)及び成分(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率と、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率の差が、0.3GPa以上であることである。条件(II)は、熱可塑性樹脂粒子である成分(B)の有無による引張弾性率の差を示す条件である。具体的には、成分(B)が含まれない成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物(接着剤組成物が成分(C)を含まない場合は成分(A)及び成分(D)のみの混合物、接着剤組成物が成分(D)を含まない場合は成分(A)及び成分(C)のみの混合物)の硬化物と、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物(接着剤組成物が成分(C)を含まない場合は成分(A)、成分(B)及び成分(D)のみの混合物、接着剤組成物が成分(D)を含まない場合は成分(A)、成分(B)及び成分(C)のみの混合物)の硬化物との引張弾性率の差が0.3GPa以上である。この引張弾性率の差が、0.3GPa以上であることにより、成分(A)と成分(B)の相互作用の強さに加えて、歪みなどによって生じる内部応力を緩和する効果が向上する。当該引張弾性率の差の好ましい下限としては、好ましくは0.6GPa、より好ましくは0.8GPaであり、好ましい上限としては2.5GPaである。
【0072】
(引張弾性率の測定)
成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物を調製し、得られた混合物を型(長さ90mm、幅20mm、厚み2mm)に流し込み、60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し150℃で120分加熱を連続して行うことで硬化させた後、短冊状の硬化物試験片(長さ80mm、幅5mm、厚み2mm)の大きさにカットする。得られた硬化物試験片について、それぞれ、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/minの条件で引張試験を行うことにより、引張応力(σ)と歪み(ε)を測定して引張弾性率を求める。引張弾性率は、JIS K7161の規定に準拠した方法、具体的には微小歪みにおける直線の勾配(式1)から算出する。
E=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)(式1)
σ2:ε2=0.0025において測定された引張応力
σ1:ε1=0.0005において測定された引張応力
成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率についても、同様にして引張試験で測定し、引張弾性率の差を算出する。
【0073】
<条件(III)>
条件(III)は、以下の方法で測定される、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物と成分(B)から形成されたフィルムとの測定用積層体の引張強度が4MPa以上であり、かつ、単位体積当たりの歪みエネルギーが100kJ/m3以上であることである。条件(III)は、熱硬化性樹脂である成分(A)と熱可塑性樹脂粒子である成分(B)から形成されたフィルムとの界面の強さに関する条件である。具体的には、成分(B)が含まれない成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物(接着剤組成物が成分(C)を含まない場合は成分(A)及び成分(D)のみの混合物、接着剤組成物が成分(D)を含まない場合は成分(A)及び成分(C)のみの混合物)の硬化物と、成分(B)から形成されたフィルムとの測定用積層体の引張強度が4MPa以上かつ単位体積あたりの歪みエネルギーが100kJ/m3以上である。当該引張強度が4MPa以上であることにより、成分(A)と成分(B)との界面が相互作用を有していると考えられる。また、単位体積あたりの歪みエネルギーが100kJ/m3以上であることにより、成分(A)と成分(B)との界面の相互作用が強固になると考えられる。上記数値を満たすことにより、使用する接着剤組成物が接着層に対して成分(B)の添加効果が十分に作用し、破壊靭性が向上する。引張強度の下限としては、好ましくは5MPa、より好ましくは6MPa、上限としては、好ましくは50MPa、より好ましくは、20MPaである。単位体積あたりの歪みエネルギーの下限としては、好ましくは150kJ/m3、より好ましくは200kJ/m3、上限としては、好ましくは20000kJ/m3、より好ましくは、5000kJ/m3である。
【0074】
(条件(III)の測定)
前記成分(B)を成形して幅1.5mm、厚み1mm、長さ3mmにカットした前記フィルムを、幅90mm、厚さ1mm、長さ3mmの空間が設けられた型内の中央に置き、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物を流し込み、60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し、150℃で120分の加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させて、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物が積層された測定用積層体を得る。前記測定用積層体について、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度を求める。
図2で示す応力-歪み曲線から、単位体積当たりの歪みエネルギーを求める。なお、前記単位体積あたりの歪みエネルギーは、引張試験の開始点から破断点までを囲んだ面積のことであり、歪みを変数として、引張試験の開始点から破断点までの引張応力の積分値から算出する。積分値は、引張開始時から、歪みの幅0.0001[mm/mm]ごとに、歪みの幅に幅内の最小引張応力で得られる最小の長方形の面積を算出し、破断点までの全長方形の面積を合計することにより算出する。
【0075】
なお、成分(B)のフィルムは、以下の指針によって成形する。成分(B)の融点にプラス25℃以上の温度で、熱プレス機(例えば、手動油圧真空加熱プレス(井元製作所社製))により、圧力0.2MPaで30秒間プレスすることによって成形する。例えば、成分(B)の融点が97℃である場合には、温度130℃、圧力0.2MPaにて、30秒間の条件でプレスすることによって成形する。成分(B)の融点が175℃である場合には、温度200℃、圧力0.2MPaにて、30秒間の条件でプレスすることによって成形する。
【0076】
本発明の接着剤組成物は、下記(式2)で求められる、前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比が、2.5~6.0倍である。当該比が2.5~6.0倍であることにより、高い接着性と高凝集破壊率の両立が達成可能な接着剤組成物となる。当該破壊エネルギーG1cの比の下限としては、好ましくは3倍であり、上限としては、好ましくは5倍である。なお、当該比を2.5~6.0倍に好適に調整する観点から、本発明の接着剤組成物は各成分の質量比を、成分(A):成分(B):成分(C):成分(D)が1:0.03~3:0~2:0~0.1の関係を充足する(但し、成分(C)と成分(D)の質量比が同時に0となる場合を除く)ようにして含有していることが好ましい。
【0077】
破壊エネルギーG1c=(破壊靱性値K1c)2/引張弾性率E (式2)
【0078】
(破壊エネルギーG1cの比の測定)
成分(A)、成分(C)及び成分(D)のみからなる混合物(接着剤組成物が成分(C)を含まない場合は成分(A)及び成分(D)のみの混合物、接着剤組成物が成分(D)を含まない場合は成分(A)及び成分(C)のみの混合物)を型(長さ90mm、幅20mm、厚み3mm)に流し込み、60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し、温度150℃で120分加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させ、短冊状の硬化物試験片を作製する。得られた硬化物試験片を、長さ60mm、幅B=3mm、厚みW=10mmの大きさにカットし、PCBカッター等にて長さ方向中央部に厚み方向の深さ5mmの機械的加工を施す。さらに硬化物の機械的加工先端部分に厚み方向の深さ0.1mmの傷を剃刀で施す。合計クラック長a=5.1mmである。その後、引張試験機(AGS-X、島津製作所(株)製)を用いて、圧縮方向に速度1mm/min、支点間距離S=40mmで3点曲げ試験を行い、ASTM E399のK1C法の規定に準拠し、下記式に基づき破壊靭性値(K1C(MPa・m1/2))を算出する。下記(式3)中のPQは荷重(N)である。
K1C={(PQ×S)/(B×W3/2)}×f(a/W) (式3)
f(a/W)=(3(a/W)1/2[1.99-(a/W)(1-a/W){2.15-3.93(a/W)+2.7(a/W)2}])/[2{1+2(a/W)}{1-(a/W)}3/2] (式4)
【0079】
得られた破壊靭性値(K1C)と(式1)で算出した引張弾性率(E)を用いて、上記(式2)より単位面積あたりの破壊エネルギー(G1C)を算出する。
【0080】
同様に、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の破壊靭性値(K1C(MPa・m1/2))を算出し、前記の破壊エネルギーG1cとの比を算出する。
【0081】
本発明の接着剤組成物において、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cは、好ましくは500~20000J/m2、より好ましくは700~8000J/m2、さらに好ましくは900~5000J/m2である。また、成分(A)、(C)及び/又は(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cは、好ましくは200~3500J/m2、より好ましくは250~1500J/m2、さらに好ましくは300~1000J/m2である。
【0082】
<接着剤組成物に含まれ得る添加剤>
本発明の接着剤組成物は、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
【0083】
添加剤としては、例えば、(B)成分に含まれない有機系フィラー、熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマー、複合粒子、無機系フィラー、導電性粒子、カーボンブラック、酸化防止剤、無機蛍光体、滑剤、紫外線吸収剤、熱光安定剤、帯電防止剤、重合禁止剤、消泡剤、溶剤、老化防止剤、ラジカル禁止剤、接着性改良剤、難燃剤、界面活性剤、保存安定性改良剤、オゾン老化防止剤、増粘剤、可塑剤、放射線遮断剤、核剤、カップリング剤、導電性付与剤、リン系過酸化物分解剤、顔料、金属不活性化剤、物性調整剤等が挙げられる。
【0084】
添加剤は、接着剤組成物全体に対して、例えば、0~90質量%含有していても良い。90質量%超含有すると、組成物全体の安定性が損なわれ、本発明の目的や効果が十分に得られない。本発明の接着剤組成物中の添加剤の含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下であり、含まれなくてもよい。
【0085】
<接着剤組成物の製造方法>
本発明の接着剤組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び/又は成分(D)、さらに必要に応じて、その他の添加剤を混合することにより製造することができる。
【0086】
混合方法は、各成分を均一に混合できる方法であれば、特に限定はなく、例えばパドル羽根による混合・攪拌、ホモミキサーによる混合・攪拌、自転公転ミキサーによる混合・攪拌などを挙げることができる。
【0087】
本発明の接着剤組成物は、粘度が低いため溶剤を添加することなく調製することができるが、必要に応じ、本発明の効果に影響を与えない範囲で溶剤(例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等)を添加してもよい。
【0088】
本発明の接着剤組成物を硬化することにより硬化物を得ることができる。硬化の方法は、特に限定されず、硬化性樹脂の硬化反応の種類に応じて適宜選択すればよい。硬化の方法としては、例えば、該組成物を加熱することなどで実施できる。例えば、加熱による硬化の場合、硬化温度は、通常室温(25℃)~250℃であり、硬化時間は、組成液によって異なり、通常30秒~1週間まで幅広く設定することができる。本発明の(B)成分の熱的物性や他成分との相互作用への影響を考慮し、かつ、熱履歴による劣化を防ぐ観点から、硬化温度は、40℃~200℃であり、硬化時間は1分~12時間に設定する方が好ましい。
【0089】
本発明の接着剤組成物は、構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、及び塗料などの接着用途に好適に使用することができる。構造用材料の接着剤としては、例えば、自動車や車両(新幹線、電車)、航空機、宇宙産業分野等に用いられる金属材料、高分子材料、無機材料等を接着させるための接着剤が挙げられる。電気・電子材料、基板材料、積層材料の接着剤としては、例えば、多層基板の層間用、半導体用、実装用などの接着剤、封止剤、アンダーフィルが挙げられる。
【0090】
<接着剤組成物の硬化物>
本発明の接着剤組成物の硬化物は、前述した本発明の接着剤組成物を硬化させたものである。本発明の接着剤組成物を硬化させる方法としては、特に制限されないが、前述の通り、本発明の接着剤組成物を加熱する方法が挙げられる。
【0091】
<接着層の製造方法>
本発明の接着層は、本発明の接着剤組成物を、被接着対象物の表面に塗布、又は注型する工程と、接着剤組成物を硬化させる工程とを含む製造方法によって製造することができる。本発明の接着剤組成物を硬化させる方法については、前記の通りである。
【0092】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、被接着対象物の表面に塗布し、少なくとも2つの被接着対象物の間に接着剤組成物を配置する工程と、接着剤組成物を硬化させる工程とを含む。また、本発明の積層体の製造方法は、少なくとも2つの被接着対象物の間に接着剤組成物を注型する工程と、接着剤組成物を硬化させる工程とを含む。本発明の接着剤組成物を硬化させる方法については、前記の通りである。また、被接着対象物についても前述のものが挙げられる。
【実施例0093】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0094】
<成分(A):熱硬化性樹脂>
成分(A)として、それぞれ、以下の熱硬化性樹脂(A-1)及び(A-2)を用意した。
〔熱硬化性樹脂A-1〕
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(jER806;三菱化学社製エポキシ当量167)を成分(A-1)とした。
〔熱硬化性樹脂A-2〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828;三菱化学社製エポキシ当量186)を成分(A-2)とした。
【0095】
<成分(B):熱可塑性樹脂粒子>
成分(B)として、それぞれ、以下の熱可塑性樹脂粒子(B-1)乃至(B-6)を用意した。
【0096】
〔熱可塑性樹脂粒子B-1〕
カルボキシ基を有する樹脂として、エチレン/アクリル酸共重合体(体積平均粒子径10μm、融点97℃、住友精化社製フロービーズEA209)を熱可塑性樹脂粒子B-1とした。
【0097】
〔熱可塑性樹脂粒子B-2〕
カルボキシ基、アミノ基、及びアミド基を有する樹脂として、12ナイロン(体積平均粒子径20μm、融点175℃、アルケマ社製オルガソル2002D)を熱可塑性樹脂粒子B-2とした。
【0098】
〔熱可塑性樹脂粒子B-3〕
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体樹脂(GMA含有量19質量%)160g、脱イオン水224g、乳化剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)16gを仕込み、密閉した。次に、毎分500回転で攪拌しながら、オートクレーブ内部を150℃まで昇温した。内温を150℃に保ちながらさらに30分間攪拌した後、内容物を25℃まで冷却し、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体の水性分散液を得た。次に、その水分散液をろ紙によりろ過、水洗し、40℃で24時間、減圧乾燥機にて乾燥し、熱可塑性樹脂粒子(B-3)としてエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体粒子を得た。熱可塑性樹脂粒子B-3の体積平均粒子径は、13μmであり、融点は88℃であった。
【0099】
〔熱可塑性樹脂粒子B-4〕
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(無水マレイン酸含有量0.5質量%)160g、脱イオン水224g、乳化剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)16gを仕込み、密閉した。次に、毎分500回転で攪拌しながら、オートクレーブ内部を160℃まで昇温した。内温を160℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、内容物を25℃まで冷却し、無水マレイン酸変性ポリエチレンの水性分散液を得た。次に、その水分散液をろ紙によりろ過、水洗し、60℃で24時間、減圧乾燥機にて乾燥し、熱可塑性樹脂粒子(B-4)として無水マレイン酸変性ポリエチレン粒子を得た。ここで得られた熱可塑性樹脂粒子B-4の体積平均粒子径は、25μmであり、融点は120℃であった。
【0100】
〔熱可塑性樹脂粒子B-5〕
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、12ナイロン/ポリアルキレンエーテルグリコール共重合体樹脂160g、脱イオン水224g、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)16gを仕込み、密閉した。次に、毎分500回転で攪拌しながら、オートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却し、12ナイロン/ポリアルキレンエーテルグリコール共重合体の水性分散液を得た。次に、その水分散液をろ紙によりろ過、水洗し、60℃で24時間、減圧乾燥機にて乾燥し、熱可塑性樹脂粒子(B-5)として12ナイロン/ポリアルキレンエーテルグリコール共重合体粒子を得た。ここで得られた熱可塑性樹脂粒子B-5の体積平均粒子径は、11μmであり、融点は140℃であった。
【0101】
〔熱可塑性樹脂粒子B-6〕
官能基を有しない熱可塑性樹脂粒子として、ポリプロピレン(体積平均粒子径5μm、融点145℃、セイシン企業社製PPW-5)を熱可塑性樹脂粒子(B-6)とした。
【0102】
<成分(C):硬化剤>
成分(C)として、それぞれ、以下の硬化剤(C-1)及び硬化剤(C-2)を用意した。
〔硬化剤C-1〕
酸無水物系硬化剤(リカシッドMH700;4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を主成分とする液状脂環式酸無水物 新日本理化社製)を硬化剤(C-1)とした。
〔硬化剤C-2〕
アミン系硬化剤(カヤハードAA;ジエチルジアミノジフェニルメタン 日本化薬社製)を硬化剤(C-2)とした。
【0103】
<成分(D):硬化促進剤>
成分(D)として、それぞれ、以下の硬化促進剤(D-1)及び硬化促進剤(D-2)を用意した。
〔硬化促進剤D-1〕
イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール1B2MZ;1-ベンジル-2メチルイミダゾール 四国化成社製)を成分(D-1)とした。
〔硬化促進剤D-2〕
イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール2E4MZ;2-エチル-4メチルイミダゾール 四国化成社製)を成分(D-2)とした。
【0104】
<各組成物の調製>
〔実施例1:接着剤組成物(1)〕
以下の手順にて、表1に示す組成となるように、成分(A-1)38.4質量部(官能基当量:0.23)に対して、官能基当量を等量になるよう調整した成分(C-1)37.3質量部(官能基当量:0.23)、成分(D)1.2質量部(エポキシ樹脂100質量部に対して3質量部)、成分(B-1)23.1質量部をプラスチック製の容器に秤量し、泡とり錬太郎(ARE-310、(株)シンキ―製)を用いて2000回転で1分攪拌、及び2200回転で1分脱泡し、接着剤組成物(1)を調製した。
【0105】
〔実施例2-8及び比較例1-7:接着剤組成物(2)-(15)〕
それぞれ、表1に示す組成となるように、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び/又は成分(D)を混合及び撹拌して、接着剤組成物(2)-(15)を調製した。
【0106】
接着剤組成物(1)-(15)の製造に用いた成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)に関し、下記条件(I)~(III)を測定する際の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の配合比率は、以下のとおりとした。なお、実施例1~4では、共通する成分(A)~(D)が使用されていることから、下記条件(I)~(III)の測定値も同一となる。比較例1,2,4についても同様である。
【0107】
(条件(I)~(III)の測定における成分(A)、(B)、(C)及び(D)の配合比率)
成分(C)は、成分(A)との官能基当量(モル)比が1:1となるようにする。成分(D)は、成分(A)100質量部に対して、3質量部とする。成分(B)は、成分(A)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して、30質量部とする。接着剤組成物中に成分(C)が含まれない場合、成分(B)は、成分(A)と成分(D)の合計100質量部に対して30質量部とする。
【0108】
[条件(I):融点-発熱開始温度]
接着剤組成物(1)-(7)及び(9)-(15)について、それぞれ、成分(B)の融点から、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の発熱開始温度を引いた値を以下の手順にて測定した。
なお、接着剤組成物(8)については、成分(C)を含まないため、成分(B)の融点から、成分(A)及び成分(D)のみからなる混合物の発熱開始温度を引いた値を以下の手順にて測定した。
【0109】
成分(B)を含まない、上記の配合比率で成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物、又は成分(A)及び成分(D)のみからなる混合物を調製し、得られた混合物について、示差走査熱量計(DSC6220、(株)日立ハイテクサイエンス)を用いて、昇温速度5℃/minにて発熱開始温度を測定した。なお、発熱開始温度は、昇温時の各測定温度における試料1mg中の熱量(mW/mg)をプロットした曲線である、いわゆるDSC曲線のベースラインから離れ始める点とした。また、これとは別に、成分(B)の融点を特定するため、示差走査熱量計(DSC6220、(株)日立ハイテクサイエンス)を用いて、昇温速度5℃/minにて測定し、融点(吸熱ピークトップ温度)を測定した。得られた発熱開始温度及び融点から融点-発熱開始温度の値を算出した。結果を表1に示す。
【0110】
[条件(II):引張弾性率差]
接着剤組成物(1)-(7)及び(9)-(15)について、それぞれ、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率と、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率の差を以下の手順にて測定した。また、接着剤組成物(8)について、成分(A)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率と、成分(A)、(B)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率の差を以下の手順にて測定した。
それぞれ、成分(B)を含まないこと以外は、上記の配合比率で、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物、又は成分(A)及び成分(D)のみからなる混合物を調製し、得られた混合物をポリメチルペンテン製の型(長さ90mm、幅20mm、厚み2mm)に流し込み、60℃で60分加熱し2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し150℃で120分加熱を連続して行うことで硬化させ、短冊状の硬化物試験片(長さ80mm、幅5mm、厚み2mm)を作製した。得られた硬化物試験片について、それぞれ、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/minの条件で引張試験を行うことにより、引張応力(σ)と歪み(ε)を測定して引張弾性率を求めた。引張弾性率は、JIS K7161の規定に準拠した方法、具体的には微小歪みにおける直線の勾配(式1)から算出した。
E=(σ2-σ1)/(ε2-ε1) (式1)
σ2:ε2=0.0025において測定された引張応力
σ1:ε1=0.0005において測定された引張応力
成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の引張弾性率についても、同様にして引張試験で測定し、引張弾性率の差を算出した。結果を表1に示す。
【0111】
[条件(III):引張強度及び歪みエネルギー]
接着剤組成物(1)-(7)及び(9)-(15)について、それぞれ、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物と成分(B)から形成されたフィルムとの積層体の引張強度と、単位体積当たりの歪みエネルギーを以下の手順にて測定した。また、接着剤組成物(8)について、成分(A)及び(D)のみからなる混合物の硬化物と成分(B)から形成されたフィルムとの積層体の引張強度と、単位体積当たりの歪みエネルギーを以下の手順にて測定した。なお、成分(B)については、成分(B)の融点にプラス25℃以上の温度で、圧力0.2MPa、及び30秒間の条件で成形したフィルムを幅1.5mm、厚み1mm、長さ3mmにカットした。前記フィルムを、幅90mm、厚さ1mm、長さ3mmの空間が設けられたポリメチルペンテン製の型内の中央に置き、前記フィルムの両側に前記成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物(接着剤組成物(8)については、成分(A)及び(D))を流し込み、60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し150℃で120分加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させて、成分(B)から形成されたフィルムの両側に成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物(接着剤組成物(8)については、成分(A)及び(D))の硬化物が積層された測定用積層体を得た。この測定用積層体について、掴み具間距離25mm、試験速度0.5mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度を求めた。得られた応力-歪み曲線から、単位体積当たりの歪みエネルギーを求めた。単位体積当たりの歪みエネルギーは歪みを変数として、引張試験の開始点から破断点までの引張応力の積分値を算出した。積分値は、引張開始時から、歪みの幅0.0001[mm/mm]ごとに、歪みの幅に幅内の最小引張応力で得られる最小の長方形の面積を算出し、破断点までの全長方形の面積を合計することにより算出した。結果を表1に示す。
【0112】
[破壊エネルギーの比]
接着剤組成物(1)-(7)及び(9)-(15)について、下記(式2)で求められる、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比を求めた。また、接着剤組成物(8)についても、下記(式2)で求められる、成分(A)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cに対する、成分(A)、(B)及び(D)のみからなる混合物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cの比を求めた。
破壊エネルギーG1c=(破壊靱性値K1c)2/引張弾性率E (式2)
【0113】
具体的には、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物(接着剤組成物(8)については、成分(A)及び(D))を型(長さ90mm、幅20mm、厚み3mm)に流し込み、60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し150℃で120分加熱を連続して行うことで前記混合物を前記型内で硬化させ、短冊状の硬化物試験片を作製した。得られた硬化物試験片を、長さ60mm、幅B=3mm、厚みW=10mmの大きさとし、長さ方向中央部に厚み方向の深さ5mmの機械的加工を施した。さらに硬化物の機械的加工先端部分に厚み方向の深さ0.1mmの傷を剃刀で施した。合計クラック長a=5.1mmである。その後、引張試験機(AGS-X、島津製作所(株)製)を用いて、圧縮方向に速度1mm/min、支点間距離S=40mmで3点曲げ試験を行い、ASTM E399のK1C法の規定に準拠し、下記式に基づき破壊靭性値(K1C(MPa・m1/2))を算出した。下記(式3)中のPQは荷重(N)である。
K1C={(PQ×S)/(B×W3/2)}×f(a/W) (式3)
f(a/W)=(3(a/W)1/2[1.99-(a/W)(1-a/W){2.15-3.93(a/W)+2.7(a/W)2}])/[2{1+2(a/W)}{1-(a/W)}3/2] (式4)
【0114】
得られた破壊靭性値(K1C)と(式1)で算出した引張弾性率(E)を用いて、上記(式2)より単位面積あたりの破壊エネルギー(G1C)を算出した。
【0115】
同様に、接着剤組成物(1)-(7)及び(9)-(15)について、それぞれ、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物、又、接着剤組成物(8)について、成分(A)、(B)及び(D)の破壊靭性値(K1C(MPa・m1/2))を算出し、前記の破壊エネルギーG1cの比を算出した。また、結果を表1に示す。なお、実施例1の接着剤組成物(1)については、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cは1904J/m2、成分(A)、(C)及び(D)のみからなる混合物の硬化物の単位面積当たりの破壊エネルギーG1cは373J/m2であり、その比は5.1であった。
【0116】
<接着強度及び凝集破壊率の評価>
接着剤組成物(1)-(15)を、それぞれ、接着部が12.5mm×25mmの長方形になるように前処理したアルミニウム板(JIS H4000 A1050P サイズ3mm×25mm×100mm)に塗布し、もう一枚のアルミニウム板を貼り合わせ、60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し150℃で120分加熱を連続して行うことで硬化させ、引張せん断接着試験片とした。ここで前処理とは、サンドブラスト処理に加えて、有機溶剤と70℃のアルカリ浴に浸漬させた処理方法である。得られた引張せん断接着試験片について、引張試験機(AGS-X、島津製作所(株)製)を用いて、掴み具間距離100mm、試験速度2mm/minの条件で引張せん断接着試験を行い、最大破断強度の測定値(N)と接着部の面積(mm2)から、アルミニウム板に対する引張せん断接着強度(MPa)を算出した。引張せん断接着試験後の試験片の破断面を目視で確認し、破断面の金属基材表面に接着剤が残存している面積の比率を接着部の面積に対して算出した。結果を表1に示す。
【0117】