(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147844
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20241009BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20241009BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J163/00
C09J11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141614
(22)【出願日】2021-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】角▲高▼ 海理
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DA022
4J040EC001
4J040JB02
4J040KA42
4J040LA03
(57)【要約】
【課題】高い接着強度と凝集破壊率の向上が両立された接着剤組成物を提供する。
【解決手段】
成分(A)としての熱硬化性樹脂と、
成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、
成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤と、
を含む接着剤組成物であって、
前記成分(B)は、JIS K7161の規定に準拠し、幅2mm、厚さ1mmに成形した7号ダンベル試験片の引張弾性率が、1GPa以下であり、かつ、前記試験片の応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが、20000kJ/m3以上である熱可塑性樹脂粒子である、接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)としての熱硬化性樹脂と、
成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、
成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤と、
を含む接着剤組成物であって、
前記成分(B)は、JIS K7161の規定に準拠し、幅2mm、厚さ1mmに成形した7号ダンベル試験片の引張弾性率が、1GPa以下であり、かつ、前記試験片の応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが、20000kJ/m3以上である熱可塑性樹脂粒子である、接着剤組成物。
【請求項2】
前記成分(A)が、エポキシ樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記成分(A)の含有率が、前記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計量に対して、7~95質量%である、請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記成分(B)の体積平均粒子径が、2~30μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、および塗料のいずれかの接着用途に用いられる、請求項1~4いずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布、または注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、接着層の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布し、少なくとも2つの被接着対象物の間に前記接着剤組成物を配置する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を少なくとも2つの被接着対象物の間に注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電子材料などの各種工業分野において、各種の接着剤組成物が使用されている。工業分野で使用される接着剤組成物には、金属材料などの被接着対象物に対する高い接着力に加えて、安定した接着性能が求められる。安定した接着性能とは、具体的には、被接着対象物との接着において剥がれる外力の大きさのバラツキが小さく、接着層に加わる外力が、ある一定の大きさを超えるまでは被接着対象物が接着されており、当該大きさを超えると、接着されていた被接着対象物が剥がれる性能である。
【0003】
被接着対象物が剥がれる際の接着の破壊形態としては、界面破壊、凝集破壊、及びこれらの混合が知られており、外力による接着の破壊形態が凝集破壊であると、接着性能が安定したものになることが知られている(例えば特許文献1を参照)。一方、接着剤組成物が、被接着対象物に対する高い接着力を備えていても、接着の破壊形態が界面破壊であると、接着層と被接着対象物との界面で剥がれが生じる際の外力のバラツキが大きいため、接着性能が安定しないという問題がある。
【0004】
例えば、特許文献2には、エポキシ樹脂、硬化剤およびシリカにより被覆されているポリオレフィン系樹脂を含有する、エポキシ樹脂接着剤が開示されている。当該接着剤組成物は、低収縮性で、高い接着性を有するものの破壊形態の観点から、充分な性能が得られない。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、接着性樹脂、コアシェルポリマー粒子、ポリマー粒子を含有する接着剤組成物が開示されている。これらは、数十~数百ナノサイズという特殊なコアシェルポリマー粒子と、コアシェルポリマー粒子より大きなポリマー粒子の2種を用いることで接着性能を向上させている等から、工業的な観点からも改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-295340号公報
【特許文献2】特許第6526571号
【特許文献3】国際公開第2019/189238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い接着強度と凝集破壊率の向上が両立された接着剤組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂粒子と、硬化剤および/または硬化促進剤を含む接着剤組成物において、熱可塑性樹脂粒子を成形したダンベル試験片の引張弾性率が1GPa以下であり、単位体積あたりの歪みエネルギーが20000kJ/m3以上であると、高い接着強度と、凝集破壊率の向上とが両立されることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成した発明である。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の構成を備える発明を提供する。
項1. 成分(A)としての熱硬化性樹脂と、
成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、
成分(C)としての硬化剤及び/又は成分(D)としての硬化促進剤と、
を含む接着剤組成物であって、
前記成分(B)は、JIS K7161の規定に準拠し、幅2mm、厚さ1mmに成形した7号ダンベル試験片の引張弾性率が、1GPa以下であり、かつ、前記試験片の応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが、20000kJ/m3以上である熱可塑性樹脂粒子である、接着剤組成物。
項2. 前記成分(A)が、エポキシ樹脂である、項1に記載の接着剤組成物。
項3. 前記成分(A)の含有率が、前記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計量に対して、7~95質量%である、項1または2に記載の接着剤組成物。
項4. 前記成分(B)の体積平均粒子径が、2~30μmである、項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
項5. 構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、および塗料のいずれかの接着用途に用いられる、項1~4いずれか1項に記載の接着剤組成物。
項6. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物。
項7. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布、または注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、接着層の製造方法。
項8. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を被接着対象物の表面に塗布し、少なくとも2つの被接着対象物の間に前記接着剤組成物を配置する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
項9. 項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物を少なくとも2つの被接着対象物の間に注型する工程と、
前記接着剤組成物を硬化させる工程と、
を含む、少なくとも2つの被接着対象物が接着された積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い接着強度と凝集破壊率の向上が両立された接着剤組成物を提供することができる。本発明の接着剤組成物は、例えば、構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、塗料など、各種工業分野の接着剤組成物が使用されてきた接着用途に好適に使用することができる。特に、本発明の接着剤組成物は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム合金などの金属材料やエンジニアプラスチック、炭素繊維強化プラスチックのような樹脂材料を単一もしくは組合せにより構成された部材を被接着対象物とする接着剤組成物として、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】応力-歪み曲線の積分値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の接着剤組成物は、成分(A)としての熱硬化性樹脂と、成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子と、成分(C)としての硬化剤および/または成分(D)としての硬化促進剤とを含む接着剤組成物であって、前記成分(B)は、JIS K7161の規定に準拠し、幅2mm、厚さ1mmに成形した7号ダンベル試験片の引張弾性率が、1GPa以下であり、かつ、前記試験片の応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが、20000kJ/m3以上であることを特徴としている。本発明の接着剤組成物は、当該構成を全て充足することにより、高い接着強度と凝集破壊率の向上とを両立することができる。
【0013】
以下、本発明の接着剤組成物について、詳述する。本明細書において、「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of”.)。
【0014】
また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0015】
本発明の接着剤組成物は、成分(A)としての熱硬化性樹脂と、成分(B)としての熱可塑性樹脂粒子を含み、さらに、成分(C)としての硬化剤および成分(D)としての硬化促進剤のうち少なくとも一方をさらに含む。すなわち、本発明の接着剤組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む組成物であってもよいし、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み成分(D)を含まない組成物であってもよいし、成分(A)、成分(B)及び成分(D)を含み成分(C)を含まない組成物であってもよい。
【0016】
<成分(A):熱硬化性樹脂>
成分(A)としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられ、接着性や絶縁特性、機械的特性の観点から、好ましくはエポキシ樹脂である。これらの熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤などに用いられる公知の樹脂を使用することができる。本発明の接着剤組成物に含まれる成分(A)の樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0017】
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を有しており、硬化可能なエポキシ樹脂であればよく、例えば、モノエポキシ化合物、多価エポキシ化合物等が挙げられる。
【0018】
モノエポキシ化合物の具体例としては、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、パラ-ブチルフェニルグリシジルエーテル、パラ-キシリルグリシジルエーテル、グリシジルアセテート、グリシジルブチレート、グリシジルヘキソエート、グリシジルベンゾエートなどが挙げられる。
【0019】
また、多価エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、多価フェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エーテル型エポキシ樹脂、エーテルエステル型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0020】
多価エポキシ化合物のなかでも、ビスフェノール型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールAなどのビスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0021】
また、多価フェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂の具体例としては、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの2価フェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂や、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタンなどのトリスフェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のテトラキスフェノール化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0022】
ノボラック型エポキシ樹脂の具体例としては、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールAノボラック型、臭素化フェノールノボラック型、臭素化ビスフェノールAノボラック型等のノボラック化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0023】
脂肪族エーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、グリセリンやポリエチレングリコールなどの多価アルコールをグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0024】
エーテルエステル型エポキシ樹脂の具体例としては、パラオキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0025】
エステル型エポキシ樹脂の具体例としては、フタル酸、テレフタル酸などのポリカルボン酸をグリシジル化したエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0026】
アミン型エポキシ樹脂の具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、m-アミノフェノールなどのアミン化合物をグリシジル化したエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
脂環式エポキシ樹脂の具体例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、1-エポキシエチル3,4-エポキシシクロヘキサン、リモネンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメタノールなどが挙げられる。
【0028】
これらエポキシ樹脂の中でも、多価エポキシ化合物が好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂がより好ましく、なかでもビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂などがさらに好適に用いられる。
【0029】
本発明の接着剤組成物において、成分(A)の配合量は、前記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計量100質量%に対して、好ましくは7~95質量%であり、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは30~80質量%である。
【0030】
<成分(B):熱可塑性樹脂粒子>
本発明の接着剤組成物は、成分(B)として熱可塑性樹脂粒子を含む。成分(B)は、JIS K7161の規定に準拠し、幅2mm、厚さ1mmに成形した7号ダンベル試験片の引張弾性率が1GPa以下である。さらに、成分(B)は、当該試験片について、応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが20000kJ/m3以上である。
【0031】
前記成分(B)の引張弾性率は、以下の方法で算出される。成分(B)の熱可塑性樹脂粒子を、温度130~200℃、圧力0.2MPa、30秒間の条件で、熱プレス機により圧着して成形することによりフィルム化し、幅2mm、厚さ1mmの7号ダンベル試験片を作成する。作成した試験片について、JIS K7161の規定に準拠した引張試験による引張弾性率を測定する。具体的には、掴み具間距離10mm、試験速度0.5mm/minの条件で引張試験を行うことにより、引張応力(σ)と引張ひずみ(ε)を測定し、微小ひずみにおける直線の勾配(下式)より引張弾性率を算出する。
E=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)
σ2:ε2=0.0025において測定された引張応力
σ1:ε1=0.0005において測定された引張応力
【0032】
前記測定で算出した引張弾性率が1GPa以下であることにより、接着剤組成物とした際に成分(B)が接着層と基材との界面に生じる応力を緩和できるので接着強度が高くなる。より高い接着力が得られる観点から、0.7GPa以下であることが好ましく、0.2GPa以下であることがより好ましい。当該引張弾性率の下限は、例えば0.01GPaである。
【0033】
また、前記成分(B)の単位体積あたりの歪みエネルギーは、以下の方法で算出する。引張弾性率を算出した引張試験から、応力-歪み曲線が得られ、単位体積当たりの歪みエネルギーを求める。なお、前記単位体積当たりの歪みエネルギーは、引張試験の開始点から破断点までを囲んだ面積のことであり、歪みを変数として、引張試験の開始点から破断点までの引張応力の積分値を算出する。積分値は、
図1で示すように、引張開始時から、歪みの幅0.0001[mm/mm]ごとに、歪みの幅に幅内の最小引張応力で得られる最小の長方形の面積を算出し、破断点までの全長方形の面積を合計することにより算出する。
【0034】
前記測定で算出した応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが20000kJ/m3以上であることにより、使用する接着剤組成物が破壊される際に接着層に対して成分(B)の添加効果が十分に作用し、破壊靭性が向上する。より破壊靭性が向上する観点から、当該試験片の単位体積あたりの歪みエネルギーは、30000kJ/m3以上であることが好ましく、100000kJ/m3以上であることがより好ましい。当該歪みエネルギーの上限は、例えば2000000kJ/m3である。
【0035】
成分(B)の熱可塑性樹脂の種類は、熱可塑性を有する樹脂から合成される粒子であって、前記したダンベル試験片の引張弾性率および応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーが一定の範囲であればよい。例えば、代表的な熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂などを挙げることができる。
【0036】
前記成分(B)は、(A)熱硬化性樹脂と(C)硬化剤及び/または(D)硬化促進剤によって形成される硬化物の弾性率より低いと、硬化時に発生する応力、特に接着層と被着体界面の歪みを緩和する効果によって、接着強度が優れたものになる。
【0037】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、オレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂、ポリスチレン系樹脂等を挙げることができる。
【0038】
前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、オレフィンのホモポリマー、コポリマーおよびこれらの酸変性ポリマー等を挙げることができる。オレフィンのホモポリマーとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等を挙げることができる。またオレフィンのコポリマーとしては、例えば、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-1-ブテンコポリマー、エチレン-1-オクテンコポリマーおよびエチレン-1-ヘキセンコポリマー等を挙げることができる。オレフィンのホモポリマーやコポリマーの酸変性ポリマーとしては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレンおよび無水マレイン酸変性ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0039】
前記オレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂を構成するオレフィンとしては、例えば、エチレンやプロピレン等を挙げることができる。また、他のモノマーとしては、前記オレフィンと共重合可能なモノマーであれば特に限定されず、例えば、ビニルエステル、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸無水物、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩およびα,β-不飽和カルボン酸エステル等を挙げることができる。ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル等を挙げることができる。また、α,β-不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。α,β-不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸等を挙げることができ、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩としては、(メタ)アクリル酸のナトリウム塩やマグネシウム塩等を挙げることができる。さらに、α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびグリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらオレフィンおよび他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上のものを併用してもよい。
【0040】
前記したオレフィンと他のモノマーとの共重合体樹脂の具体例としては、例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体の部分鹸化物、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/無水マレイン酸共重合体;エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体の部分鹸化物、エチレン/グリシジル(メタ)アクリレート共重合体等のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びその部分鹸化物;エチレン/グリシジル(メタ)アクリレート/メチル(メタ)アクリレート共重合体等のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体;エチレン/グリシジル(メタ)アクリレート/酢酸ビニル共重合体等のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル/酢酸ビニル共重合体およびエチレン/(メタ)アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体等のエチレン/(メタ)アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、並びにこれらの金属塩の樹脂等を挙げることができる。
【0041】
ナイロン系樹脂としては、例えば、-[NH(CH2)5CO]-、-[NH(CH2)4NHCO(CH2)4CO]-、-[NH(CH2)6NHCO(CH2)4CO]-、-[NH(CH2)6NHCO(CH2)8CO]-、-[NH(CH2)10CO]-および-[NH(CH2)11CO]-からなる群より選ばれた少なくとも1種を構造単位としているナイロン樹脂を挙げることができる。それらの具体例としては、6ナイロン、46ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、およびこれらの共重合体、とポリエステルやポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるポリアミドエラストマー等が挙げられる。
【0042】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸およびイソフタル酸を含む酸成分と、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4-ブタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールを含むジオール成分との重縮合反応により得られるポリエステル樹脂を挙げることができる。それらの具体例としては、テレフタル酸/エチレングリコール共重合ポリエステル樹脂、テレフタル酸/ブチレングリコール共重合ポリエステル樹脂、テレフタル酸/イソフタル酸/1,4-ブタンジオール共重合ポリエステル樹脂、テレフタル酸/イソフタル酸/1,6-ヘキサンジオール共重合ポリエステル樹脂、テレフタル酸/イソフタル酸/ポリエチレングリコール共重合ポリエステル樹脂、テレフタル酸/イソフタル酸/エチレングリコール/1,4-ブタンジオール共重合ポリエステル樹脂、テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/1,4-ブタンジオール共重合ポリエステル樹脂およびテレフタル酸/イソフタル酸/1,4-ブタンジオール/ジエチレングリコール共重合ポリエステル樹脂等が挙げられる。また、前記ポリエステル系樹脂としては、前記共重合ポリエステル樹脂とポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるポリエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0043】
本発明においてポリオレフィン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上のものを混合して使用してもよい。
【0044】
前記樹脂のなかでも好ましいものとしては、硬化性樹脂よりも柔軟性があり、塑性変形能力が高い観点から、ポリオレフィン系樹脂、ナイロンの共重合体、ナイロンエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、更に好ましくは、ポリエチレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体および12ナイロンエラストマーを挙げることができる。
【0045】
成分(B)の体積平均粒子径は、例えば1μm~100μmであり、好ましくは2μm~30μmである。1μmより小さくなると、取扱いがし難く、成分(A)と混合する工程で粘性が高くなり、作業性が損なわれる場合がある。100μmより大きくなると硬化性樹脂と混合した場合に分離しやすいため、分散安定性に劣る。2μm~30μmであることで、作業性を損なうことなく、より添加効果が十分に作用しやすい。
【0046】
なお、成分(B)の体積平均粒子径は、電気的検知帯法(細孔電気抵抗法)により求められる体積平均粒子径である。
【0047】
細孔電気抵抗法によって体積平均粒子径を測定する具体的な装置としては、例えば電気検知式粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製の商品名“コールターマルチサイザー”)が挙げられる。なお、測定に用いるアパチャー径は様々な大きさがあり、夫々のアパチャー径には測定に適した測定範囲(体積平均粒子径の大きさ)がある。測定する粒子に存在する粒子径をカバーするようにアパチャー径を選択することができるが、後述する実施例では当該方針に基づきアパチャー径は100μmのものを用いた。アパチャー径100μmが適する測定範囲よりも小さい粒子径が存在する粒子を測定するときは100μmよりも小さいアパチャー径を選択でき、アパチャー径100μmが適する測定範囲よりも大きい粒子径が存在する粒子を測定するときは100μmよりも大きいアパチャー径を選択することができる。
【0048】
本発明にかかる成分(B)の形状は、作業性が損なわれなければ特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状などが挙げられる。接着剤組成物への分散が容易で、かつ粘度上昇を抑制する観点から、球状であることが好ましい。
【0049】
本発明で用いる成分(B)熱可塑性樹脂粒子の粒子中又は表面には、アルミナ、シリカなどの無機顔料、鉄、銅、ニッケル、コバルトなどの金属粉および紫外線吸収剤、耐熱安定剤などの有機物質を含有させることもできる。
【0050】
本発明の接着剤組成物において、成分(B)の配合量は、前記成分(A)、(B)、(C)、(D)の合計量100質量%に対して、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%である。
【0051】
<成分(C):硬化剤>
成分(C)としての硬化剤は、熱硬化性樹脂である成分(A)と反応して硬化物が得られるものであればよい。成分(C)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、成分(C)を2種類以上混合して用いた場合、混合した硬化剤の混合物を、1つの成分(C)とみなす。
【0052】
成分(C)としては、例えば、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、メルカプタン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、活性エステル系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤などが挙げられる。
【0053】
アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの鎖状脂肪族アミン;イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式アミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジエチルトルエンジアミン、ジエチルジアミノジフェニルメタンなどの芳香族アミン等が挙げられる。
【0054】
アミド系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂(ポリアミノアミド等)等が挙げられる。
【0055】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水マレイン酸、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族酸無水物;無水メチルナジック酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物等が挙げられる。
【0056】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビフェニル型ノボラック樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェノールビフェニレン樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ベンゾオキサジン環を有する化合物等が挙げられる。
【0057】
メルカプタン系硬化剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)、ポリサルファイドポリマー等が挙げられる。
【0058】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0059】
活性エステル系硬化剤は、1分子中に(A)熱硬化性樹脂と反応するエステル基を1個以上有する化合物であり、フェニルエステル、ナフチルエステル、チオフェニルエステル、N-ヒドロキシアミンエステル、複素環ヒドロキシ化合物エステル等が挙げられる。
【0060】
シアネートエステル系硬化剤としては、例えば、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂等が挙げられる。
【0061】
本発明の接着剤組成物においては、成分(C)として、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤、及びフェノール系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤が更に好ましい。
【0062】
本発明の接着剤組成物において、成分(C)の配合量は、特に限定されない。熱硬化性樹脂である成分(A)中の反応性官能基(例えばエポキシ基)1当量あたり、成分(C)中の反応性官能基の当量が0.1~5当量となる配合量とすることが好ましい。成分(C)中の反応性官能基の当該当量としては、より好ましくは0.3~3当量であり、さらに好ましくは0.5~2当量である。
【0063】
<成分(D):硬化促進剤>
成分(D)としての硬化促進剤は、熱硬化性樹脂である成分(A)の硬化を促進する成分である。また、成分(D)と成分(C)と併用することで、硬化反応速度を高めたり、得られる硬化物の強度を高めたりすることができる。なお、成分(D)は、成分(C)と併用しなくても、成分(A)の硬化を促進することができる。成分(D)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、成分(D)を2種類以上混合して用いた場合、混合した硬化促進剤の混合物を1つの成分(D)とみなす。
【0064】
成分(D)としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物;ピペリジンなどの第二級アミン;DBU(1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7)、DBN(1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、4-ジメチルアミノピリジンなどの第三級アミン;トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのリン系化合物、ルイス酸化合物、カチオン重合開始剤等が挙げられる。
【0065】
本発明の接着剤組成物においては、成分(D)として、イミダゾール化合物、第三級アミン、リン系化合物、及びカチオン重合開始剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0066】
本発明の接着剤組成物において、成分(D)の配合量は特に限定されない。例えば成分(A)100質量部に対して、0.01~10質量部を配合することが好ましい。より好ましくは、0.1~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~5質量部である。
【0067】
本発明の接着剤組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計含有率は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0068】
<接着剤組成物に含まれ得る添加剤>
本発明の接着剤組成物は、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
【0069】
添加剤としては、例えば、成分(B)に含まれない有機系フィラー、熱可塑性樹脂、ゴム、エラストマー、複合粒子、無機系フィラー、導電性粒子、カーボンブラック、酸化防止剤、無機蛍光体、滑剤、紫外線吸収剤、熱光安定剤、帯電防止剤、重合禁止剤、消泡剤、溶剤、老化防止剤、ラジカル禁止剤、接着性改良剤、難燃剤、界面活性剤、保存安定性改良剤、オゾン老化防止剤、増粘剤、可塑剤、放射線遮断剤、核剤、カップリング剤、導電性付与剤、リン系過酸化物分解剤、顔料、金属不活性化剤、物性調整剤等が挙げられる。
【0070】
添加剤は、接着剤組成物全体に対して、例えば、0~90質量%含有していても良い。90質量%超含有すると、組成物全体の安定性が損なわれ、本発明の目的や効果が十分に得られない。本発明の接着剤組成物中の添加剤の含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下であり、含まれなくてもよい。
【0071】
<接着剤組成物の製造方法>
本発明の接着剤組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び/又は成分(D)、さらに必要に応じて、その他の添加剤を混合することにより製造することができる。
【0072】
混合方法は、各成分を均一に混合できる方法であれば、特に限定はなく、例えばパドル羽根による混合・攪拌、ホモミキサーによる混合・攪拌、自転公転ミキサーによる混合・攪拌などを挙げることができる。
【0073】
本発明の接着剤組成物は、粘度が低いため溶剤を添加することなく調製することができるが、必要に応じ、本発明の効果に影響を与えない範囲で溶剤(例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等)を添加してもよい。
【0074】
本発明の接着剤組成物を硬化することにより硬化物を得ることができる。硬化の方法は、特に限定されず、硬化性樹脂の硬化反応の種類に応じて適宜選択すればよい。硬化の方法としては、例えば、該組成物を加熱することなどで実施できる。加熱による硬化の場合、硬化温度は、通常室温(25℃)~250℃であり、硬化時間は、組成液によって異なり、通常30秒~1週間まで幅広く設定することができる。本発明の成分(B)の熱的物性や他成分との相互作用への影響を考慮し、かつ、熱履歴による劣化を防ぐ観点から、硬化温度は、40℃~200℃であり、硬化時間は1分~12時間に設定することが好ましい。
【0075】
本発明の接着剤組成物は、構造用材料、複合材料、電気・電子材料、基板材料、積層材料、コーティング材、及び塗料などの接着用途に好適に使用することができる。構造用材料の接着剤としては、例えば、自動車や車両(新幹線、電車)、航空機、宇宙産業分野等に用いられる金属材料、高分子材料、無機材料等を接着させるための接着剤が挙げられる。電気・電子材料、基板材料、積層材料の接着剤としては、例えば、多層基板の層間用、半導体用、実装用などの接着剤、封止剤、アンダーフィルが挙げられる。
【0076】
<接着剤組成物の硬化物>
本発明の接着剤組成物の硬化物は、前述した本発明の接着剤組成物を硬化させたものである。本発明の接着剤組成物を硬化させる方法としては、特に制限されないが、前述の通り、本発明の接着剤組成物を加熱する方法が挙げられる。
【0077】
<接着層の製造方法>
本発明の接着層は、本発明の接着剤組成物を、被接着対象物の表面に塗布又は注型する工程と、接着剤組成物を硬化させる工程とを含む製造方法によって製造することができる。本発明の接着剤組成物を硬化させる方法については、前記の通りである。
【0078】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、被接着対象物の表面に塗布し、少なくとも2つの被接着対象物の間に接着剤組成物を配置する工程と、接着剤組成物を硬化させる工程とを含む。また、本発明の積層体の製造方法は、少なくとも2つの被接着対象物の間に接着剤組成物を注型する工程と、接着剤組成物を硬化させる工程とを含む。本発明の接着剤組成物を硬化させる方法については、前記の通りである。また、被接着対象物についても前述のものが挙げられる。
【実施例0079】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0080】
<成分(A):熱硬化性樹脂>
成分(A)として、それぞれ、以下の熱硬化性樹脂(A-1)及び(A-2)を用意した。
〔熱硬化性樹脂A-1〕
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(jER806:三菱化学社製エポキシ当量167)を成分(A-1)とした。
〔熱硬化性樹脂A-2〕
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828:三菱化学社製エポキシ当量186)を成分(A-2)とした。
【0081】
<成分(B):熱可塑性樹脂粒子>
成分(B)として、それぞれ、以下の熱可塑性樹脂粒子(B-1)~(B-7)までを用意した。
【0082】
〔熱可塑性樹脂粒子B-1〕
低密度ポリエチレン(体積平均粒子径10μm、融点106℃、住友精化社製フロービーズCL2080)を熱可塑性樹脂粒子(B-1)とした。前記粒子を、温度130℃、圧力0.2MPa、30秒間の条件で、熱プレス機(機器名:手動油圧真空加熱プレス 井元製作所社製)でフィルム化し、打ち抜き機(機器名:SD型レバー式試料裁断器SDL-100 ダンベル社製)でダンベル7号形試験片を作製した。作製した試験片を引張試験機(AGS-X、島津製作所(株)製)を用いて、掴み具間距離10mm、試験速度0.5mm/minの条件で引張試験を行い、応力-歪み曲線を作成した。JIS K7161の規定に準拠した方法で求めた引張弾性率は0.2GPaであった。また応力-歪み曲線から求められる単位体積あたりの歪みエネルギーは、76204kJ/m3であった。
【0083】
〔熱可塑性樹脂粒子B-2〕
高密度ポリエチレン(体積平均粒子径10μm、融点130℃、住友精化社製フロービーズHE3040)を熱可塑性樹脂粒子(B-2)とした。熱プレス機の条件のうち、温度を160℃に変更した以外は、熱可塑性樹脂粒子(B-1)と同様の方法で、引張弾性率および単位体積あたりの歪エネルギーを測定した。測定の結果、引張弾性率1GPa、単位体積当たりの歪みエネルギー30702kJ/m3であった。
【0084】
〔熱可塑性樹脂粒子B-3〕
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体樹脂(MMA含有量10%質量部)160g、脱イオン水224g、乳化剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)16gを仕込み、密閉した。次に、毎分500回転で撹拌しながらオートクレーブ内部を150℃まで昇温した。内温を150℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、内容物を25℃まで冷却し、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体の水性分散液を得た。その水分散液をろ紙によりろ過、水洗し、60℃で24時間、減圧乾燥機にて乾燥し、熱可塑性樹脂粒子B-3としてエチレン/メタクリル酸メチル共重合体粒子を得た。ここで得られたエチレン/メタクリル酸メチル共重合体粒子の体積平均粒子径は、13μmであり、融点は100℃であった。熱可塑性樹脂粒子(B-1)と同様の方法で、引張弾性率および単位体積あたりの歪エネルギーを測定した。測定の結果、弾性率0.1GPa、単位体積当たりの歪みエネルギー591702kJ/m3であった。
【0085】
〔熱可塑性樹脂粒子B-4〕
エチレン/アクリル酸共重合体(AA含有量7質量%、体積平均粒子径10μm、融点97℃、住友精化社製フロービーズEA209)を熱可塑性樹脂粒子(B-4)とした。
熱可塑性樹脂粒子(B-1)と同様の方法で、引張弾性率および単位体積あたりの歪みエネルギーを測定した。測定の結果、弾性率0.1GPa、単位体積当たりの歪みエネルギー572789kJ/m3であった。
【0086】
〔熱可塑性樹脂粒子B-5〕
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体樹脂(GMA含有量19質量%)160g、脱イオン水224g、乳化剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(重量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)16gを仕込み、密閉した。次に、毎分500回転で撹拌しながら、オートクレーブ内部を150℃まで昇温した。内温を150℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、内容物を25℃まで冷却し、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体の水性分散液を得た。次に、その水分散液をろ紙によりろ過、水洗し、40℃で24時間、減圧乾燥機にて乾燥し、熱可塑性樹脂粒子B-5としてエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体粒子を得た。ここで得られたエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体粒子の体積平均粒子径は、13μmであり、融点は88℃であった。熱可塑性樹脂粒子(B-1)と同様の方法で、引張弾性率および単位体積あたりの歪エネルギーを測定した。測定の結果、弾性率0.1GPa、単位体積当たりの歪みエネルギー23037kJ/m3であった。
【0087】
〔熱可塑性樹脂粒子B-6〕
12ナイロン(体積平均粒子径20μm、融点175℃、アルケマ社製オルガゾル2002D)を熱可塑性樹脂粒子B-6とした。
熱プレス機の条件のうち、温度を200℃に変更した以外は、熱可塑性樹脂粒子(B-1)と同様の方法で、引張弾性率および単位体積あたりの歪エネルギーを測定した。測定の結果、弾性率1.2GPa、単位体積当たりの歪みエネルギー125055kJ/m3であった。
【0088】
〔熱可塑性樹脂粒子B-7〕
ポリメチルメタクリレート(体積平均粒子径10μm、松本油脂社製マイクロスフェア)を熱可塑性樹脂粒子B-7とした。
熱プレス機の条件のうち、温度を200℃に変更した以外は、熱可塑性樹脂粒子(B-1)と同様の方法で、引張弾性率および単位体積あたりの歪みエネルギーを測定した。測定の結果、弾性率2.6GPa、単位体積当たりの歪みエネルギー8661kJ/m3であった。
【0089】
<成分(C):硬化剤>
成分(C)として、それぞれ、以下の硬化剤(C-1)及び(C-2)を用意した。
〔硬化剤C-1〕
酸無水物系硬化剤(リカシッドMH700;4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を主成分とする液状脂環式酸無水物、新日本理化社製)を硬化剤C-1とした。
〔硬化剤C-2〕
アミン系硬化剤(カヤハードAA;ジエチルジアミノジフェニルメタン 日本化薬社製)を硬化剤C-2とした。
【0090】
<成分(D):硬化促進剤>
成分(D)として、それぞれ、以下の硬化促進剤(D-1)、硬化促進剤(D-2)とした。
〔硬化促進剤D-1〕
イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール1B2MZ;1-ベンジルー2メチルイミダゾール 四国化成社製)を硬化促進剤D-1とした。
〔硬化促進剤D-2〕
イミダゾール系硬化促進剤(キュアゾール2E4MZ;2-エチルー4メチルイミダゾール 四国化成社製)を硬化促進剤D-2とした。
【0091】
<各組成物の調製>
(実施例1)
以下の手順にて、表1に示す組成となるように、成分(A-1)38.7質量部(官能基当量:0.23)、成分(B-1)23質量部、成分(C-1)37.7質量部、及び成分(D-1)0.6質量部をプラスチック製の容器に秤量し、泡とり錬太郎(ARE-310、(株)シンキー製)を用いて2000回転で1分攪拌、及び2200回転で1分脱泡し、接着剤組成物(1)を調製した。
【0092】
(実施例2-8、比較例1-7:接着剤組成物(2)―(15))
それぞれ、表1に示す組成になるように、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び/又は成分(D)をプラスチック製の容器に秤量し、泡とり錬太郎(ARE-310、(株)シンキー製)を用いて2000回転で1分攪拌、及び2200回転で1分脱泡し、接着剤組成物(2)―(15)を調製した。
【0093】
<接着強度と凝集破壊率の評価>
(1)アルミニウム板に対する引張せん断接着強度、凝集破壊率
接着剤組成物(1)―(15)を、それぞれ、接着部が12.5mm×25mmの長方形になるように前処理したアルミニウム板(JIS H4000 A1050P サイズ3mm×25mm×100mm)に塗布し、もう一枚のアルミニウム板を貼り合わせ、温度60℃で60分加熱し、2℃/minで100℃まで昇温し、100℃で60分加熱し、2.5℃/minで150℃まで昇温し、150℃で120分加熱を連続して行うことで硬化させ、引張せん断接着試験片とした。ここで前処理とは、サンドブラスト処理に加えて、有機溶剤と70℃のアルカリ浴に浸漬させた処理方法である。
得られた引張せん断接着試験片について、引張試験機(AGS-X、島津製作所(株)製)を用いて、つかみ具間距離100mm、試験速度2mm/minの条件で引張せん断接着試験を行い、最大破断強度の測定値(N)と接着部の面積(mm2)から、アルミニウム板に対する引張せん断接着強度(MPa)を算出した。引張せん断接着試験後の試験片の破断面を目視で確認し、破断面の金属基材表面に接着剤が残存している面積の比率を接着部の面積に対して算出した。結果を表1に示す。
【0094】