IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUMCOの特許一覧

特開2024-147944シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置
<>
  • 特開-シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置 図1
  • 特開-シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置 図2
  • 特開-シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置 図3
  • 特開-シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置 図4
  • 特開-シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置 図5
  • 特開-シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147944
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20241009BHJP
   C30B 15/14 20060101ALI20241009BHJP
   F27B 14/14 20060101ALI20241009BHJP
   F27D 27/00 20100101ALI20241009BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B15/14
C30B29/06 502G
F27B14/14
F27D27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060709
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
【テーマコード(参考)】
4G077
4K046
4K056
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG18
4G077EH06
4G077EJ02
4G077PE03
4G077PE07
4G077PE12
4K046AA02
4K046BA05
4K046CD03
4K046CD20
4K046CE03
4K046EA03
4K056AA05
4K056BA03
4K056BB06
4K056CA18
4K056EA13
(57)【要約】
【課題】製造中の不具合の発生とシリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきとを抑制することができるシリコン単結晶の製造方法を提供すること。
【解決手段】シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法は、シリコン融液を収容する坩堝と、坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、坩堝の下面における一部の領域に対向するように配置された追加ヒータと、を備え、追加ヒータは、坩堝の中心軸および水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する坩堝の第1部分の加熱量が、他方側に位置する坩堝の第2部分の加熱量よりも多くなるように配置されたシリコン単結晶製造装置を用い、メインヒータのみで坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、メインヒータおよび追加ヒータで坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶製造装置を用いてシリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶製造装置は、
前記シリコン融液を収容する坩堝と、
前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、
前記坩堝の下面における一部の領域に対向するように配置された追加ヒータと、を備え、
前記追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分の加熱量が、他方側に位置する前記坩堝の第2部分の加熱量よりも多くなるように配置され、
前記シリコン単結晶の製造方法は、
前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、
前記メインヒータおよび前記追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える、シリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記シリコン単結晶製造装置は、
電力が供給されない状態で設けられ、前記追加ヒータと同じ形状および同じ発熱特性を有する疑似追加ヒータを備え、
前記追加ヒータおよび前記疑似追加ヒータは、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置されている、シリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
シリコン単結晶製造装置を用いてシリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶製造装置は、
前記シリコン融液を収容する坩堝と、
前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、
前記坩堝の下面における互いに異なる一部の領域に対向するように、かつ、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置され、互いに同じ形状および同じ発熱特性を有する一対の追加ヒータと、を備え、
前記一対の追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分に対する加熱量と、他方側に位置する前記坩堝の第2部分に対する加熱量とが異なるようにそれぞれ配置され、
前記シリコン単結晶の製造方法は、
前記一対の追加ヒータのうち一方の追加ヒータを選択する追加ヒータ選択工程と、
前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、
前記メインヒータおよび前記一方の追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える、シリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、
前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、
前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、
前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、
前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、
前記シリコン融液生成工程および前記第2育成工程は、前記第1加熱製造工程として行われ、
前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程は、前記第2加熱製造工程として行われる、シリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、
前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、
前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、
前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、
反転判定工程と、
前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、
前記シリコン融液生成工程は、前記第1加熱製造工程として行われ、
前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程は、前記第2加熱製造工程として行われ、
前記反転判定工程において、前記シリコン単結晶の引き上げ条件に基づき前記第2育成工程を前記第1加熱製造工程として行った場合に、前記対流の方向が反転する可能性があると判定した場合、前記第2育成工程は前記第2加熱製造工程として行われ、前記対流の方向が反転する可能性がないと判定した場合、前記第2育成工程は前記第1加熱製造工程として行われる、シリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記追加ヒータは、平面視において、最高温度領域が前記鉛直仮想平面に直交しかつ前記坩堝の中心軸を含む水平仮想線に重なるように配置されている、シリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶製造装置であって、
前記シリコン融液を収容する坩堝と、
前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、
前記坩堝の下面における一部の領域に対向するように配置された追加ヒータと、を備え、
前記追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分の加熱量が、他方側に位置する前記坩堝の第2部分の加熱量よりも多くなるように配置されている、シリコン単結晶製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載のシリコン単結晶製造装置において、
電力が供給されない状態で設けられ、前記追加ヒータと同じ形状および同じ発熱特性を有する疑似追加ヒータを備え、
前記追加ヒータおよび前記疑似追加ヒータは、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置されている、シリコン単結晶製造装置。
【請求項9】
シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶製造装置であって、
前記シリコン融液を収容する坩堝と、
前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、
前記坩堝の下面における互いに異なる一部の領域に対向するように、かつ、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置され、互いに同じ形状および同じ発熱特性を有する一対の追加ヒータと、を備える、シリコン単結晶製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記一対の追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分に対する加熱量と、他方側に位置する前記坩堝の第2部分に対する加熱量とが異なるようにそれぞれ配置されている、シリコン単結晶製造装置。
【請求項11】
請求項7に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記シリコン単結晶を引き上げる製造工程を制御する制御部を備え、
前記製造工程は、
前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、
前記メインヒータおよび前記追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える、シリコン単結晶製造装置。
【請求項12】
請求項10に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記シリコン単結晶を引き上げる製造工程を行う制御部を備え、
前記製造工程は、
前記一対の追加ヒータのうち一方の追加ヒータを選択する追加ヒータ選択工程と、
前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、
前記メインヒータおよび前記一方の追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える、シリコン単結晶製造装置。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記製造工程は、
前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、
前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、
前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、
前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、
前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、
前記制御部は、
前記シリコン融液生成工程および前記第2育成工程を、前記第1加熱製造工程として行い、
前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程を、前記第2加熱製造工程として行う、シリコン単結晶製造装置。
【請求項14】
請求項11または請求項12に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記製造工程は、
前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、
前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、
前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、
前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、
反転判定工程と、
前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、
前記制御部は、
前記シリコン融液生成工程を、前記第1加熱製造工程として行い、
前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程を、前記第2加熱製造工程として行い、
前記反転判定工程において、前記シリコン単結晶の引き上げ条件に基づき前記第2育成工程を前記第1加熱製造工程として行った場合に、前記対流の方向が反転する可能性があると判定した場合、前記第2育成工程を前記第2加熱製造工程として行い、前記対流の方向が反転する可能性がないと判定した場合、前記第2育成工程を前記第1加熱製造工程として行う、シリコン単結晶製造装置。
【請求項15】
請求項7、請求項8および請求項10のいずれか一項に記載のシリコン単結晶製造装置において、
前記追加ヒータは、平面視において、最高温度領域が前記鉛直仮想平面に直交しかつ前記坩堝の中心軸を含む水平仮想線に重なるように配置されている、シリコン単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造方法として、シリコン融液に水平磁場を印加するMCZ(磁場印加チョクラルスキー)法が用いられる場合がある。MCZ法を用いてシリコン融液に水平磁場を印加した場合、シリコン融液内の水平磁場の印加方向に直交する仮想平面における対流の方向が、右回り(以下、「右渦モード」と言う場合がある)になる場合と左回り(以下、「左渦モード」と言う場合がある)になる場合がある。
【0003】
対流モードが右渦モードとなるか左渦モードとなるかはランダムであり、対流モードと炉内環境によってシリコン単結晶に取り込まれる酸素の濃度がばらついてしまう。安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶を得るためには、引き上げ中のシリコン融液の対流モードを制御することが重要となる。このため、坩堝内のシリコン融液の対流モードを制御する手法について様々な検討が行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
特許文献1,2には、製造装置の炉内の熱環境を、坩堝の中心軸に対して非軸対称とすることによって、対流モードを右渦モードおよび左渦モードのうち一方に固定し、対流モードに起因する酸素濃度のばらつきを排除する方法が開示されている。
その具体的な方法として、特許文献1には、坩堝の周方向に沿うヒータの抵抗値や断熱材の厚みを、異ならせる方法が開示されている。
また、特許文献2には、シリコン融液内の水平磁場の印加方向に直交する仮想平面における左右方向一方側の第1加熱領域の発熱量と、他方側の第2加熱領域の発熱量とが異なる値に設定された加熱部を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-151502号公報
【特許文献2】特開2022-102247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に開示された方法では、炉内構造により非軸対称な熱環境を実現しているため、シリコン単結晶の製造中にその非軸対称の度合いを変化させることができない。
このため、例えば、原料融解工程では、シリコン原料が坩堝の円周方向に不均一に溶融するおそれがある。この場合、シリコン融液に浮いた固体のシリコン原料がひっくり返り石英坩堝と強く接触して、石英坩堝が損傷してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、製造中の不具合の発生とシリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきとを抑制することができるシリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、シリコン単結晶製造装置を用いてシリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶製造装置は、前記シリコン融液を収容する坩堝と、前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、前記坩堝の下面における一部の領域に対向するように配置された追加ヒータと、を備え、前記追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分の加熱量が、他方側に位置する前記坩堝の第2部分の加熱量よりも多くなるように配置され、前記シリコン単結晶の製造方法は、前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、前記メインヒータおよび前記追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える。
【0009】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記シリコン単結晶製造装置は、電力が供給されない状態で設けられ、前記追加ヒータと同じ形状および同じ発熱特性を有する疑似追加ヒータを備え、前記追加ヒータおよび前記疑似追加ヒータは、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置されている、ことが好ましい。
【0010】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、シリコン単結晶製造装置を用いてシリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶製造装置は、前記シリコン融液を収容する坩堝と、前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、前記坩堝の下面における互いに異なる一部の領域に対向するように、かつ、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置され、互いに同じ形状および同じ発熱特性を有する一対の追加ヒータと、を備え、前記一対の追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分に対する加熱量と、他方側に位置する前記坩堝の第2部分に対する加熱量とが異なるようにそれぞれ配置され、前記シリコン単結晶の製造方法は、前記一対の追加ヒータのうち一方の追加ヒータを選択する追加ヒータ選択工程と、前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、前記メインヒータおよび前記一方の追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える。
【0011】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、前記シリコン融液生成工程および前記第2育成工程は、前記第1加熱製造工程として行われ、前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程は、前記第2加熱製造工程として行われる、ことが好ましい。
【0012】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、反転判定工程と、前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、前記シリコン融液生成工程は、前記第1加熱製造工程として行われ、前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程は、前記第2加熱製造工程として行われ、前記反転判定工程において、前記シリコン単結晶の引き上げ条件に基づき前記第2育成工程を前記第1加熱製造工程として行った場合に、前記対流の方向が反転する可能性があると判定した場合、前記第2育成工程は前記第2加熱製造工程として行われ、前記対流の方向が反転する可能性がないと判定した場合、前記第2育成工程は前記第1加熱製造工程として行われる、ことが好ましい。
【0013】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記追加ヒータは、平面視において、最高温度領域が前記鉛直仮想平面に直交しかつ前記坩堝の中心軸を含む水平仮想線に重なるように配置されている、ことが好ましい。
【0014】
本発明のシリコン単結晶製造装置は、シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶製造装置であって、前記シリコン融液を収容する坩堝と、前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、前記坩堝の下面における一部の領域に対向するように配置された追加ヒータと、を備え、前記追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分の加熱量が、他方側に位置する前記坩堝の第2部分の加熱量よりも多くなるように配置されている。
【0015】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、電力が供給されない状態で設けられ、前記追加ヒータと同じ形状および同じ発熱特性を有する疑似追加ヒータを備え、前記追加ヒータおよび前記疑似追加ヒータは、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置されている、ことが好ましい。
【0016】
本発明のシリコン単結晶製造装置は、シリコン融液に水平磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶製造装置であって、前記シリコン融液を収容する坩堝と、前記坩堝を囲む円筒状のメインヒータと、前記坩堝の下面における互いに異なる一部の領域に対向するように、かつ、前記坩堝の中心軸に対して2回対称になるように配置され、互いに同じ形状および同じ発熱特性を有する一対の追加ヒータと、を備える。
【0017】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記一対の追加ヒータは、前記坩堝の中心軸および前記水平磁場の中心磁力線を含む鉛直仮想平面に対して一方側に位置する前記坩堝の第1部分に対する加熱量と、他方側に位置する前記坩堝の第2部分に対する加熱量とが異なるようにそれぞれ配置されている、ことが好ましい。
【0018】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記シリコン単結晶を引き上げる製造工程を制御する制御部を備え、前記製造工程は、前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、前記メインヒータおよび前記追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える、ことが好ましい。
【0019】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記シリコン単結晶を引き上げる製造工程を行う制御部を備え、前記製造工程は、前記一対の追加ヒータのうち一方の追加ヒータを選択する追加ヒータ選択工程と、前記メインヒータのみで前記坩堝を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、前記メインヒータおよび前記一方の追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を備える、ことが好ましい。
【0020】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記製造工程は、前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、前記制御部は、前記シリコン融液生成工程および前記第2育成工程を、前記第1加熱製造工程として行い、前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程を、前記第2加熱製造工程として行う、ことが好ましい。
【0021】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記製造工程は、前記坩堝内のシリコン原料を溶融して前記シリコン融液を生成するシリコン融液生成工程と、前記シリコン融液への前記水平磁場の印加を開始する磁場印加工程と、前記中心磁力線に直交する仮想平面における前記シリコン融液の対流の方向が一方向に固定されたことを確認する対流方向確認工程と、前記シリコン融液に着液させた種結晶を引き上げることにより、ネック部および肩部を育成する第1育成工程と、反転判定工程と、前記種結晶を引き上げることにより、直胴部およびテール部を育成する第2育成工程と、を備え、前記制御部は、前記シリコン融液生成工程を、前記第1加熱製造工程として行い、前記磁場印加工程、前記対流方向確認工程および前記第1育成工程を、前記第2加熱製造工程として行い、前記反転判定工程において、前記シリコン単結晶の引き上げ条件に基づき前記第2育成工程を前記第1加熱製造工程として行った場合に、前記対流の方向が反転する可能性があると判定した場合、前記第2育成工程を前記第2加熱製造工程として行い、前記対流の方向が反転する可能性がないと判定した場合、前記第2育成工程を前記第1加熱製造工程として行う、ことが好ましい。
【0022】
本発明のシリコン単結晶製造装置において、前記追加ヒータは、平面視において、最高温度領域が前記鉛直仮想平面に直交しかつ前記坩堝の中心軸を含む水平仮想線に重なるように配置されている、ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の概略構成を示す縦断面図
図2】実施形態および変形例に係るメインヒータ、追加ヒータ、疑似追加ヒータおよび磁場印加部を示す平面模式図
図3】実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の要部のブロック図
図4】実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法を示すフローチャート
図5】変形例に係るシリコン単結晶の製造方法を示すフローチャート
図6】変形例に係るメインヒータ、追加ヒータおよび疑似追加ヒータを示す平面模式図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施形態]
〔シリコン単結晶製造装置の構成〕
まず、本発明の実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の構成について説明する。
図1は、シリコン単結晶製造装置の概略構成を示す縦断面図である。図2は、メインヒータ、追加ヒータ、疑似追加ヒータおよび磁場印加部を示す平面模式図である。図3は、シリコン単結晶製造装置の要部のブロック図である。
【0025】
図1に示すシリコン単結晶製造装置1は、MCZ法によりシリコン単結晶SMを製造する装置であり、シリコン融液Mに水平磁場を印加しながら、ネック部SM1、肩部SM2、直胴部SM3および図示しないテール部を有するシリコン単結晶SMを引き上げる。シリコン単結晶製造装置1は、外郭を構成するチャンバ2と、チャンバ2の中心部に配置される坩堝3と、坩堝3内の周囲に配置されるメインヒータ4と、追加ヒータ9と、疑似追加ヒータ10と、温度計測部15と、を備える。
【0026】
坩堝3は、外側の黒鉛坩堝3Aと、内側の石英坩堝3Bとから構成される二重構造とされ、石英坩堝3B内にはシリコン融液Mが収容される。黒鉛坩堝3Aおよび石英坩堝3Bは、有底円筒形状の容器であり、鉛直上方から見る平面視で円形形状とされている。坩堝3は、回転および昇降が可能な支持軸5の上端部に固定されている。
【0027】
メインヒータ4は、略円筒状に形成されて坩堝3の周囲に配置されるグラファイトヒータである。メインヒータ4の外側には、チャンバ2の内面に沿って円筒状の断熱材6が設けられている。
メインヒータ4および断熱材6は、それぞれの中心軸が坩堝3の中心軸3C(以下、「坩堝中心軸3C」と言う場合がある)と同一軸上に位置するように配置されている。つまり、坩堝3およびメインヒータ4は、坩堝3の外周面とメインヒータ4の内周面との隙間が、坩堝3の円周方向で均一になるように配置されている。メインヒータ4および断熱材6は、メインヒータ4の外周面と断熱材6の内周面との隙間が、メインヒータ4の円周方向で均一になるように配置されている。
このような坩堝3、メインヒータ4および断熱材6の配置により、メインヒータ4による加熱分布および断熱材6による抜熱分布は、坩堝3の円周方向で均一になる。
【0028】
坩堝3の上方には、支持軸5と同軸上に引き上げ軸7が配置されている。引き上げ軸7は、ワイヤなどで形成されている。引き上げ軸7の下端には種結晶SCが取り付けられている。
【0029】
チャンバ2内には、坩堝3内のシリコン融液Mの上方で育成中のシリコン単結晶SMを囲む筒状の熱遮蔽体8が配置されている。
熱遮蔽体8は、育成中のシリコン単結晶SMに対して、シリコン融液M、坩堝3の側壁およびメインヒータからの輻射熱を遮断することにより、シリコン単結晶SMの温度上昇を抑制する。
【0030】
チャンバ2の上部には、アルゴンガスなどの不活性ガスをチャンバ2内に導入するガス導入口2Aが設けられている。チャンバ2の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ2内の気体を吸引して排出する排気口2Bが設けられている。
【0031】
追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10は、坩堝3の下面に対向し、かつ、支持軸5を挟んで水平方向に並ぶようにするように配置されている。詳しくは後述するが、追加ヒータ9は坩堝3を加熱するが、疑似追加ヒータ10は坩堝3を加熱しない。
【0032】
温度計測部15は、第1計測点P1および第2計測点P2の温度を計測する。第1計測点P1および第2計測点P2の径方向の位置は、育成予定のシリコン単結晶SMの外周面と、熱遮蔽体8の開口内周面との間である。後述するように、第1計測点P1および第2計測点P2の温度を測定することで、シリコン融液Mの対流モードを確認できる。例えば、メインヒータ4によるシリコン融液Mの加熱によって、シリコン融液Mの対流の向きが図1において右回り固定された場合、つまりシリコン融液Mの対流モードが右渦モードになった場合は、第1計測点P1の測定温度は第2計測点P2の測定温度よりも高くなる。また、メインヒータ4によるシリコン融液Mの加熱によって、シリコン融液Mの対流の向きが左回に固定された場合、つまり対流モードが左渦モードになった場合は、第1計測点P1の測定温度は第2計測点P2の測定温度よりも低くなる。
【0033】
温度計測部15は、一対の反射部15Aと、一対の放射温度計15Bとを備える。
反射部15Aは、チャンバ2内部に設置されている。反射部15Aは、反射面15Cと水平面Fとのなす角度が40°以上50°以下となるように設置されていることが好ましい。
放射温度計15Bは、チャンバ2の外部に設置されている。放射温度計15Bは、チャンバ2に設けられた石英窓2C(図1参照)を介して入射される輻射光Lを受光して、第1計測点P1および第2計測点P2の温度を非接触で計測する。
【0034】
図2に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、磁場印加部16をさらに備える。
磁場印加部16は、それぞれ電磁コイルで構成された第1磁性体16Aおよび第2磁性体16Bを備える。第1磁性体16Aおよび第2磁性体16Bは、チャンバ2の外側において坩堝3を挟んで対向するように設けられている。磁場印加部16は、平面視で、コイル中心軸を通る中心磁力線16Cが、坩堝中心軸3Cと交差し、第2磁性体16Bから第1磁性体16Aに向かう方向(図2における中心磁力線16Cを示す矢印で示される上方向であり、図1における紙面手前から奥に向かう方向)となるように、水平磁場を印加する。
【0035】
追加ヒータ9は、中心角が180°の略半円弧板状に形成されて坩堝3の下側に配置されるグラファイトヒータである。追加ヒータ9は、円弧方向の全体にわたって均一な厚さに形成されている。追加ヒータ9には、略半円弧板の内周面から外側に伸びる複数の内スリット9Aおよび外周面から内側に伸びる複数の外スリット9Bが、円周方向に交互に並ぶように形成されている。
追加ヒータ9の円弧方向両端側には、追加ヒータ用電源11が接続されている。追加ヒータ9に追加ヒータ用電源11から電力が供給されると、当該追加ヒータ9の中央領域は、最高温度領域9Cになる。追加ヒータ9の中央領域が最高温度領域9Cになる理由は、追加ヒータ用電源11における電力が供給されている領域の発熱量は同じだが、伝熱により追加ヒータ9の両端から最も遠い領域が最高温度になるからである。
【0036】
疑似追加ヒータ10は、追加ヒータ9と同じ型式のグラファイトヒータであり、追加ヒータ9と同じ形状に形成され、内スリット10Aおよび外スリット10Bを備える。また、疑似追加ヒータ10は、追加ヒータ9と同じ発熱特性を有する。同じ発熱特性とは、同じ大きさの電力が供給された場合、同じ部位が同じ温度で発熱することを意味する。
疑似追加ヒータ10には、電源が接続されていない。
【0037】
追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10は、坩堝中心軸3Cおよび中心磁力線16Cを含む鉛直仮想平面VFに対して面対称になるように配置されている。追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10は、坩堝中心軸3Cに対して2回対称になるように配置されていると言うこともできる。
また、追加ヒータ9は、鉛直仮想平面VFに対して一方側(追加ヒータ9側)に位置する坩堝3の第1部分31に対する加熱量が、他方側(疑似追加ヒータ10側)に位置する坩堝3の第2部分32に対する加熱量よりも多くなるように配置されていると言うこともできる。
また、追加ヒータ9は、平面視において、最高温度領域9Cが鉛直仮想平面VFに直交しかつ坩堝中心軸3Cに交差する水平仮想線VLに重なるように配置されていると言うこともできる。
【0038】
このようにメインヒータ4および追加ヒータ9が設けられる構成において、坩堝3がメインヒータ4のみにより加熱されると、坩堝3内のシリコン融液Mは、坩堝3の円周方向の全域にわたって均一に加熱される。特に、互いに同じ材料により同じ形状に形成された追加ヒータ9と疑似追加ヒータ10が、鉛直仮想平面VFに対して面対称なるように配置されているため、チャンバ2内の構造を鉛直仮想平面VFに対して面対称にすることができる。したがって、メインヒータ4のみが発熱しているときの熱環境を、坩堝中心軸3Cに対して実質的に軸対称にすることができ、疑似追加ヒータ10が設けられていない構成と比べて、シリコン融液Mは、坩堝3の円周方向の全域にわたってより均一に加熱される。
この場合、シリコン融液Mには、坩堝3の側面近傍で上昇し中央付近で下降する対流が発生する。この状態では、対流の不安定により、下降流の位置は、無秩序に変化して坩堝3の中心からずれたりする。そして、シリコン融液Mに水平磁場を印加すると、下降流の坩堝3の円周方向への回転が徐々に拘束され、やがて水平磁場の印加方向に直交する仮想平面における対流の方向が固定される。
坩堝3がメインヒータ4のみにより加熱されると、上述したように、下降流の位置が無秩序に変化している状態で水平磁場が印加されるため、印加のタイミングによって、対流モードが右渦モードになったり、左渦モードになったりする。
【0039】
一方、坩堝3がメインヒータ4および追加ヒータ9により加熱されると、坩堝3内のシリコン融液Mは、追加ヒータ9の上方に位置する左側の部分の温度が疑似追加ヒータ10の下方に位置する右側の部分の温度よりも高くなるように加熱される。
この場合、シリコン融液Mで上昇流が坩堝3の左側に安定して発生するとともに、下降流が坩堝3の右側に安定して発生し、メインヒータ4のみで坩堝3を加熱する場合のように下降流の位置が無秩序に変化しない。この状態でシリコン融液Mに水平磁場を印加すると、印加のタイミングに関係なく、対流が右回りに固定されて右渦モードになる。特に、追加ヒータ9の最高温度領域9Cが水平仮想線VLに重なっているため、上昇流が最も強い位置と下降流が最も強い位置とを結ぶ仮想線が中心磁力線16Cの発生位置に対してほぼ直交する状態で、水平磁場が印加される。このため、右渦モードを安定的に発生させることができる。
水平磁場の印加タイミングに関係なく右渦モードを高い確率で発生させるために、メインヒータ4および追加ヒータ9の合計出力電力に対する追加ヒータ9の出力電力比率は、6.5%以上であることが好ましく、12.9%以上であることがより好ましい。
【0040】
ここで、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制するためには、シリコン融液Mの対流の方向を一方向に固定する必要があるため、メインヒータ4および追加ヒータ9で坩堝3を加熱することが好ましい。
しかし、メインヒータ4および追加ヒータ9の発熱によりチャンバ2内の熱環境が坩堝中心軸3Cに対して非軸対称の状態で、シリコン単結晶SMの直胴部SM3を育成すると、直胴部SM3の直径の変動が大きくなり、当該直径の変動を抑制するために引き上げ速度を制御すると、引き上げ速度の変動が大きくなるおそれがある。
そこで、直胴部SM3の引き上げ前にメインヒータ4および追加ヒータ9で坩堝3を加熱して、シリコン融液Mの対流を一方向に固定した後、メインヒータ4のみで坩堝3を加熱する状態に移行してから、直胴部SM3を引き上げることにより、直胴部SM3の直径の変動や引き上げ速度の変動を抑制できると考えられる。
【0041】
しかし、メインヒータ4のみで坩堝3を加熱する状態では、上述したように、下降流の位置が無秩序に変化してしまい、直胴部SM3の引き上げ中に対流の向きが反転してしまうおそれがある。このような対流の向きの反転が発生すると、直胴部SM3に取り込まれる酸素の濃度がばらついてしまうおそれがある。また、対流の向きの反転が発生するか否かは、シリコン単結晶SMの引き上げ条件によって異なると考えられる。
このため、メインヒータ4および追加ヒータ9による加熱で対流の向きを固定した後、メインヒータ4のみの加熱に移行した場合に、対流の向きが反転する可能性があるか否かを予め確認しておき、当該確認結果に応じて、対流モードを固定した後にメインヒータ4のみの加熱に移行するか否かを決定することが好ましい。
【0042】
図3に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、メインヒータ用電源17と、原料供給部18と、坩堝回転駆動部19と、引き上げ駆動部20と、入力部21と、記憶部22と、制御部23と、をさらに備える。制御部23には、追加ヒータ用電源11、放射温度計15B、磁場印加部16、メインヒータ用電源17、原料供給部18、坩堝回転駆動部19、引き上げ駆動部20、入力部21および記憶部22が各種情報を送受信可能に接続されている。
【0043】
追加ヒータ用電源11は、制御部23の制御に基づいて、追加ヒータ9に電力を供給する。
放射温度計15Bは、計測結果に対応する信号を制御部23に出力する。
磁場印加部16は、制御部23の制御に基づいて、所定の強さの水平磁場をシリコン融液Mに印加する。
メインヒータ用電源17は、制御部23の制御に基づいて、メインヒータ4に電力を供給する。
原料供給部18は、制御部23の制御に基づいて、坩堝3にシリコン原料を投入する。なお、シリコン単結晶製造装置1に原料供給部18を設けずに、作業者が坩堝3にシリコン原料を投入しても良い。
坩堝回転駆動部19は、制御部23の制御に基づいて、坩堝3を所定速度で所定方向に回転させる。
引き上げ駆動部20は、制御部23の制御に基づいて、引き上げ軸7を昇降させる。また、引き上げ駆動部20は、制御部23の制御に基づいて、引き上げ軸7を支持軸5の回転方向と逆方向または同一方向に所定の速度で回転させる。
【0044】
入力部21は、例えばタッチパネルまたは物理ボタンにより構成されている。入力部21は、各種設定の入力操作に用いられ、入力操作に対応する信号を制御部23へ出力する。
【0045】
記憶部22は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの周知の記憶装置により構成されている。記憶部22は、シリコン単結晶SMの引き上げ制御に必要な各種情報と、対流反転判定用情報を記憶している。
対流反転判定用情報は、シリコン単結晶SMの引き上げ条件ごとおよびシリコン単結晶製造装置1ごとに、メインヒータ4および追加ヒータ9による加熱でシリコン融液Mの対流モードを固定した後、メインヒータ4のみの加熱に移行した場合に、対流の向きが反転する可能性があるか否かを表す内容を含む。引き上げ条件ごとの対流反転可能性の有無は、シリコン単結晶製造装置1を用いた実験またはシリコン単結晶SMの製造により確認しても良いし、シミュレーションにより確認しても良い。
【0046】
制御部23は、CPU(Central Processing Unit)を備える。制御部23は、記憶部22に記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、シリコン単結晶SMの引き上げを制御する。
【0047】
〔シリコン単結晶の製造方法〕
次に、シリコン単結晶製造装置1を用いるシリコン単結晶SMの製造方法について説明する。図4は、シリコン単結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【0048】
まず、作業者は、入力部21を操作して製造対象のシリコン単結晶SMの引き上げ条件を入力する。
制御部23は、図4に示すように、入力された引き上げ条件を取得する(ステップS1)。
この後、制御部23は、取得した引き上げ条件に基づいて、シリコン単結晶SMの製造工程を行う。
具体的に、制御部23は、チャンバ2内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持し、メインヒータ4および追加ヒータ9をオフにした(メインヒータ4および追加ヒータ9に電力を供給しない)状態で、かつ、水平磁場を印加しない状態で、原料供給部18を制御してシリコン原料を坩堝3に投入した後、坩堝回転駆動部19を制御して、坩堝3を一方向に回転させる(ステップS2)。なお、シリコン単結晶製造装置1に原料供給部18を設けない場合、作業者が坩堝3にシリコン原料を投入する。
【0049】
次に、制御部23は、メインヒータ用電源17を制御してメインヒータ4をオンにすることにより(メインヒータ4に電力を供給することにより)坩堝3を加熱し、シリコン原料を溶融させてシリコン融液Mを生成する(ステップS3:シリコン融液生成工程)。ステップS3において、坩堝3は、メインヒータ4のみにより当該坩堝3の円周方向の全域にわたって均一に加熱される。このため、シリコン原料を坩堝3の円周方向に均一に溶融することができ、シリコン融液Mに浮いた固体のシリコン原料がひっくり返り石英坩堝3Bと接触することを抑制できる。その結果、石英坩堝3Bの損傷を抑制することができる。
そして、全てのシリコン原料が溶融すると、シリコン融液Mに発生する下降流の位置が無秩序に変化する。
【0050】
制御部23は、全てのシリコン原料が溶融したタイミングで追加ヒータ用電源11を制御して、追加ヒータ9をオンにする(ステップS4)。ステップS4の処理が行われてから所定時間経過後に、シリコン融液Mの左側の部分の温度が右側の部分の温度よりも高くなり、上昇流が坩堝3の左側に安定して発生するとともに、下降流が坩堝3の右側に安定して発生する。
この後、制御部23は、磁場印加部16を制御して、シリコン融液Mへの水平磁場の印加を開始する(ステップS5:磁場印加工程)。ステップS5の処理により、シリコン融液Mに所定強度に水平磁場が作用すると、シリコン融液Mの対流が右回りに固定されて右渦モードになる。
【0051】
次に、制御部23は、放射温度計15Bからの計測結果に対応する信号に基づいて、シリコン融液Mの対流モードが右渦モードに固定されたか否かを判定する(ステップS6:対流方向確認工程)。
制御部23は、対流モードが右渦モードに固定されていないと判定した場合(ステップS6:NO)、所定時間経過後に、ステップS6の処理を再度行う。
一方、制御部23は、対流モードが右渦モードに固定されたと判定した場合(ステップS6:YES)、メインヒータ4および追加ヒータ9による加熱、および、水平磁場の印加を継続しながら、引き上げ駆動部20を制御して、ネック部SM1および肩部SM2を育成する(ステップS7:第1育成工程)。ステップS7において、引き上げ駆動部20は、制御部23の制御に基づいて、シリコン融液Mに種結晶SCを着液してから種結晶SCを引き上げるように、引き上げ軸7を昇降させる。
【0052】
制御部23は、肩部SM2の育成中または育成後、シリコン単結晶SMの引き上げ条件と記憶部22に記憶された対流反転判定用情報とに基づいて、対流モードが右渦モードに固定された状態で追加ヒータ9をオフにすると、対流の向きが反転する可能性があるか否かを判定する(ステップS8:反転判定工程)。
【0053】
制御部23は、追加ヒータ9をオフにすると対流の向きが反転する可能性がないと判定した場合(ステップS8:NO)、肩部SM2の育成中、または、肩部SM2の育成後かつ直胴部SM3の育成前に、追加ヒータ用電源11を制御して追加ヒータ9をオフにする(ステップS9)。そして、制御部23は、引き上げ駆動部20を制御して、直胴部SM3およびテール部を育成する(ステップS10:第2育成工程)。
この場合、追加ヒータ9の発熱がなくなり、チャンバ2内の熱環境が坩堝中心軸3Cに対して軸対称になるため、直胴部SM3の直径の変動や引き上げ速度の変動を抑制することができる。さらに、追加ヒータ9による加熱が停止してもシリコン融液Mの対流の向きが反転しないので、直胴部SM3における酸素濃度のばらつきを抑制することができる。
【0054】
一方、制御部23は、追加ヒータ9をオフにすると対流の向きが反転する可能性があると判定した場合(ステップS8:YES)、追加ヒータ9がオンの状態を維持したまま、直胴部SM3およびテール部を育成する(ステップS10:第2育成工程)。
この場合、追加ヒータ9の発熱継続により、チャンバ2内の熱環境が坩堝中心軸3Cに対して非軸対称の状態が維持されるため、直胴部SM3の直径の変動や引き上げ速度の変動が発生するおそれがあるが、追加ヒータ9による加熱の継続によりシリコン融液Mの対流の向きが反転しないので、直胴部SM3における酸素濃度のばらつきを抑制することができる。
【0055】
以上のシリコン単結晶SMの製造工程において、ステップS3のシリコン融液生成工程は、メインヒータ4のみで坩堝3を加熱しながら行う第1加熱製造工程として行われる。また、ステップS5の磁場印加工程、ステップS6の対流方向確認工程、および、ステップS7の第1育成工程は、メインヒータ4および追加ヒータ9で坩堝3を加熱しながら行う第2加熱製造工程として行われる。また、ステップS10の第2育成工程は、ステップS8の反転判定工程において、対流の向きが反転する可能性がないと判定された場合、第1加熱製造工程として行われ、対流の向きが反転する可能性があると判定された場合、第2加熱製造工程として行われる。
【0056】
〔実施形態の効果〕
シリコン単結晶製造装置1は、坩堝3を加熱する構成として、坩堝3を囲む円筒状のメインヒータ4と、坩堝3の下面における一部の領域に対向するように配置された追加ヒータ9と、を備える。追加ヒータ9は、鉛直仮想平面VFに対して一方側に位置する坩堝3の第1部分31の加熱量が、他方側に位置する坩堝3の第2部分32の加熱量よりも多くなるように配置されている。シリコン単結晶製造装置1の制御部23は、シリコン単結晶SMの製造工程において、メインヒータ4のみで坩堝3を加熱しながら行う第1加熱製造工程と、メインヒータ4および前記追加ヒータで前記坩堝を加熱しながら行う第2加熱製造工程と、を行う。
このため、シリコン単結晶SMの製造工程において、追加ヒータ9による坩堝3の加熱を行うか否かを制御するだけで、チャンバ2内の熱環境を坩堝中心軸3Cに対して軸対称な状態と非軸対称な状態とに切り替えることができる。
したがって、例えば、坩堝中心軸3Cに対して軸対称な熱環境でシリコン融液Mを生成することにより、シリコン融液Mに浮いたシリコン原料がひっくり返ることを抑制することができ、石英坩堝3Bの損傷を抑制することができる。また、坩堝中心軸3Cに対して非軸対称な熱環境でシリコン融液Mに水平磁場を印加することにより、水平磁場の印加のタイミングに関係なく、対流モードを右渦モードに固定することができ、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制することができる。また、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制することができるため、シリコン単結晶SMの歩留まりが向上し、エネルギー効率の改善と、生産効率の向上および廃棄物の削減とを実現することができる。
【0057】
シリコン単結晶製造装置1は、電力が供給されない状態で設けられ、追加ヒータ9と同じ形状および同じ発熱特性を有する疑似追加ヒータ10を備える。追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10は、鉛直仮想平面VFに対して面対称になるように配置されている。
このため、メインヒータ4のみが発熱しているときのチャンバ2内の熱環境を、坩堝中心軸3Cに対して実質的に軸対称にすることができ、疑似追加ヒータ10が設けられていない構成と比べて、シリコン融液Mを坩堝3の円周方向全域にわたってより均一に加熱することができる。
したがって、シリコン融液Mの生成時に、シリコン原料を坩堝3の円周方向全域にわたってより均一に溶融させることができ、石英坩堝3Bの損傷をより抑制することができる。また、直胴部SM3の育成をメインヒータ4のみが発熱している状態で行う場合、直胴部SM3の直径の変動や引き上げ速度の変動を抑制することができる。
【0058】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0059】
追加ヒータ9と同じ形状および発熱特性を有するグラファイトヒータを、電源が接続されていない疑似追加ヒータ10として機能させたが、図2に示すように、追加ヒータ用電源25を接続して追加ヒータ24として機能させ、一対の追加ヒータ9,24をシリコン単結晶製造装置1に設けても良い。
この場合、制御部23は、図5に示すシリコン単結晶SMの製造方法において、引き上げ条件を取得するステップSS1の処理後、取得された引き上げ条件に基づいて、追加ヒータ9,24のうちいずれか一方の追加ヒータを選択する(ステップS21:追加ヒータ選択工程)。ステップS21の処理において、制御部23は、例えば、右渦モードが好ましい引き上げ条件の場合、上記実施形態と同様に追加ヒータ9を選択し、左渦モードが好ましい引き上げ条件の場合、追加ヒータ24を選択する。制御部23は、ステップS2,S3の処理後、ステップS21で選択された追加ヒータに対応する追加ヒータ用電源を制御して、追加ヒータをオンにする(ステップS22)。この後、制御部23は、ステップS5の処理を行い、対流モードがステップS22でオンにされた追加ヒータに対応するモードに固定されたか否かを判定する(ステップS23:対流方向確認工程)。ステップS23の処理において、制御部23は、追加ヒータ9がオンされた場合、対流モードが右渦モードに固定されたか否かを判定し、追加ヒータ24がオンされた場合、対流モードが左渦モードに固定されたか否かを判定する。その後、制御部23は、対流モードが固定されたと判定した場合(ステップS23:YES)、ステップS7~S10の処理を行う。
このような構成にすれば、チャンバ2内の熱環境、シリコン単結晶SMの狙いの酸素濃度や形状に応じて、適切な追加ヒータを選択することにより、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制することができる。
【0060】
上記実施形態において、疑似追加ヒータ10を配置しなくても良い。この場合、メインヒータ4のみが発熱しているときの熱環境を坩堝中心軸3Cに対して実質的に軸対称にするために、形状および材質のうち少なくとも一方が追加ヒータ9と同じ板状またはブロック状の部材を、疑似追加ヒータ10の代わりに配置しても良い。
【0061】
図4または図5に示すシリコン単結晶SMの製造方法において、ステップS8,S23とステップS9の処理を行わず、追加ヒータをオンにしたまま直胴部SM3およびテール部を育成しても良い。
第2加熱製造工程として、シリコン融液Mの左側の部分の温度が右側の部分の温度よりも高くなるように加熱することにより、対流モードを右渦モードに固定する工程を例示したが、シリコン融液Mの右側の部分の温度が左側の部分の温度よりも高くなるように加熱することにより、左渦モードに固定する工程を行っても良い。
【0062】
ステップS3におけるメインヒータ4をオンにする処理、ステップS21における追加ヒータの選択処理、ステップS4,S22における追加ヒータをオンにする処理、ステップS5における水平磁場印加の開始処理、ステップS6,S23における対流モードの判定処理、ステップS8における対流の反転可能性の判定処理、ステップS9における追加ヒータをオフにする処理のうち少なくともいずれか1つの処理を、作業者が行っても良い。
【0063】
追加ヒータ9は、坩堝3の第1部分31に対する加熱量が第2部分32に対する加熱量よりも多くなるように構成されていれば良く、追加ヒータ9の形状や配置状態は、上記実施形態の形状や配置状態に限定されない。例えば、図6の一番上の図に示すように、追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10を中心角が90°の略円弧板状(1/4円状)に形成しても良いし、上から2番目の図に示すように、中心角が120°の略円弧板状(1/3円板状)に形成しても良い。また、図6の一番下の図に示すように、上記実施形態の追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10を、坩堝中心軸3Cに対して90°未満の角度だけ例えば右回りに回転させて、最高温度領域9Cが水平仮想線VL上に位置しないように配置しても良い。
図2および図6に示す追加ヒータ9および疑似追加ヒータ10は、それぞれ複数のヒータから構成されても良いし、長方形など円弧板状以外の形状に形成されても良い。
【実施例0064】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実験条件]
〔比較例〕
まず、上記実施形態のシリコン単結晶製造装置1を準備した。本実験で用いるシリコン単結晶製造装置1に設けられた石英坩堝3Bの内径は32インチである。
そして、まず、坩堝3に400kgのシリコン原料を投入して坩堝3を回転させた後、メインヒータ4をオンにしてシリコン融液Mを生成した。次に、坩堝3を上昇させ、坩堝3から熱遮蔽体8までの距離を300mmにしてから坩堝3の回転を停止した。この状態を1時間維持した後、シリコン融液Mに水平磁場を印加し、温度計測部15における測定結果に基づいて、シリコン融液Mの対流モードが右渦モードか左渦モードかを確認した。比較例では、表1に示すように、メインヒータ4の出力電力が155kWになるようにメインヒータ用電源17を制御した。
【0066】
〔実施例1~5〕
実施例1では、シリコン融液Mの生成後、追加ヒータ9をオンにしてから坩堝3を上昇させたこと以外は、比較例と同じ条件で実験を行い、シリコン融液Mの対流モードが右渦モードか左渦モードかを確認した。実施例1では、表1に示すように、メインヒータ4および追加ヒータ9の合計出力電力が155kWになるように、追加ヒータ用電源11およびメインヒータ用電源17の制御により、メインヒータ4の出力電力を150kW、追加ヒータ9の出力電力を5kWにした。
実施例2,3,4,5では、メインヒータ4および追加ヒータ9の合計出力電力が155kWになるように、追加ヒータ用電源11およびメインヒータ用電源17の制御により、メインヒータ4および追加ヒータ9の出力電力を表1に示す大きさにしたこと以外は、実施例1と同じ条件で実験を行い、シリコン融液Mの対流モードが右渦モードか左渦モードかを確認した。
なお、表1における出力電力比率とは、メインヒータ4および追加ヒータ9の合計出力電力に対する追加ヒータ9の出力電力比率である。
【0067】
【表1】
【0068】
[評価]
比較例および実施例1~5に基づく実験をそれぞれ20回ずつ行った。実験結果を表2に示す。
比較例では、右渦モードの発生率は50%であり、実質的に右渦モードと左渦モードがランダムに発生した。これは、比較例では、熱環境が坩堝中心軸3Cに対して実質的に軸対称であったためと考えられる。
一方、実施例1~5では、右渦モードの発生率は50%を超え、追加ヒータ9の出力電力比率が高くなるほど、右渦モードの発生率は高かった。これは、実施例1~5では、熱環境が坩堝中心軸3Cに対して非軸対称であったためと考えられる。特に、追加ヒータ9の出力電力比率が6.5%を超える実施例2~5では、右渦モードの発生率は90%以上であり、出力電力比率が12.9%を超える実施例4,5では、右渦モードの発生率は100%であった。
【0069】
以上のことから、従来から存在するメインヒータ4に加えて、坩堝3の下方に、鉛直仮想平面VFに対して一方側に位置する坩堝3の第1部分31の加熱量が、他方側に位置する坩堝3の第2部分32の加熱量よりも多くなるように、追加ヒータ9を配置して、追加ヒータ9の出力電力比率が6.5%以上になるように追加ヒータ9を発熱させることにより、水平磁場の印加タイミングに関係なく、対流モードを所定のモードに固定しやすくすることができることを確認できた。特に、追加ヒータ9の出力電力比率が12.9%以上になるように追加ヒータ9を発熱させることにより、水平磁場の印加タイミングに関係なく、対流モードを所定のモードに固定できることを確認できた。
【0070】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のシリコン単結晶の製造方法、および、シリコン単結晶製造装置は、シリコン単結晶ごとの酸素濃度のばらつきを抑制することができるため、シリコン単結晶の歩留まりが向上し、エネルギー効率の改善と、生産効率の向上および廃棄物の削減とを実現することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…シリコン単結晶製造装置、3…坩堝、3C…坩堝中心軸、4…メインヒータ、9,24…追加ヒータ、9C…最高温度領域、10…疑似追加ヒータ、16C…中心磁力線、23…制御部、31…第1部分、32…第2部分、M…シリコン融液、SM…シリコン単結晶、SM1…ネック部、SM2…肩部、SM3…直胴部、VF…鉛直仮想平面、VL…水平仮想線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6