(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147955
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】光増幅器および希土類添加ファイバ
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20241009BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20241009BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20241009BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/067
G02B6/02 376
G02B6/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060738
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505419464
【氏名又は名称】学校法人日通学園
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】和田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】青笹 真一
【テーマコード(参考)】
2H250
5F172
【Fターム(参考)】
2H250AD18
2H250AD29
2H250AD32
2H250AE74
2H250AH33
5F172AM04
5F172AM08
5F172BB23
5F172ZZ11
(57)【要約】
【課題】モード多重伝送用の光増幅器におけるモード間利得差を抑制する。
【解決手段】光増幅器1は、中心コア11とサイドコア12に希土類イオンが添加されたセグメント型の屈折率分布を有する希土類添加ファイバ10と、希土類イオンを励起させる励起光を出射する励起光源20と、信号光と励起光とを合波する光合波器30と、を備える。中心コア11およびサイドコア12の大きさと希土類イオンの添加量を制御することで基本モードと高次モードの利得差を抑制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの中心部分と中心部分を囲う円環形状部分に希土類イオンが添加されたセグメント型の屈折率分布を有する希土類添加ファイバと、
前記希土類添加ファイバに添加された希土類イオンを励起させる励起光を出射する励起光源と、
信号光と前記励起光とを合波する光合波器と、を備え、
前記希土類添加ファイバは、前記中心部分および前記円環形状部分の大きさと前記希土類イオンの添加量を制御することで基本モードと高次モードの利得差を抑制した
光増幅器。
【請求項2】
コアの中心部分と中心部分を囲う円環形状部分に希土類イオンが添加されたセグメント型の屈折率分布を有する希土類添加ファイバであって、
前記中心部分と前記円環形状部分の大きさおよび前記希土類イオンの添加量を制御することで基本モードと高次モードの利得差を抑制した
希土類添加ファイバ。
【請求項3】
請求項2に記載の希土類添加ファイバであって、
前記中心部分の面積をA1、前記円環形状部分の面積をA2、前記中心部分の希土類イオン添加量をn1、前記円環形状部分の希土類イオン添加量をn2、
基本モードの前記中心部分の局在率をRC01、基本モードの前記円環形状部分の局在率をRS01、
高次モードの前記中心部分の局在率をRC11、高次モードの前記円環形状部分の局在率をRS11としたときに次式
n1・A1・RC01+n2・A2・RS01≦n2・A2・RS11+n1・A1・RC11
を満たす
希土類添加ファイバ。
【請求項4】
請求項2に記載の希土類添加ファイバであって、
同一クラッド内に前記円環形状部分を2つ以上有する
希土類添加ファイバ。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の希土類添加ファイバであって、
前記希土類イオンが前記円環形状部分内の全域に添加された
希土類添加ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光増幅器および希土類添加ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを伝搬する複数のモードを利用することで通信容量を増大するモード多重技術の研究が知られている。モード多重技術においても長距離伝送を行うために光増幅器は必要不可欠である。非特許文献1,2には、マルチモード用のエルビウム添加ファイバ光増幅器が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y. Yung et al., “First demonstration of multimode amplifier for spatial division multiplexed transmission systems,” 37th European Conference and Exhibition on Optical Communication (ECOC 2011), Th.13.K.4
【非特許文献2】Y. Yung et al., “Few-mode EDFA Supporting 5 Spatial Modes with Reconfigurable Differential Modal Gain Control,” 39th European Conference and Exhibition on Optical Communication (ECOC 2013), We.4.A.2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチモードファイバ光増幅器においては、同一コア内を導波する複数のモードを増幅する際に、モード間利得差が発生するという問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、モード多重伝送用の光増幅器におけるモード間利得差を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の光増幅器は、コアの中心部分と中心部分を囲う円環形状部分に希土類イオンが添加されたセグメント型の屈折率分布を有する希土類添加ファイバと、前記希土類添加ファイバに添加された希土類イオンを励起させる励起光を出射する励起光源と、信号光と前記励起光とを合波する光合波器と、を備え、前記希土類添加ファイバは、前記中心部分および前記円環形状部分の大きさと前記希土類イオンの添加量を制御することで基本モードと高次モードの利得差を抑制した。
【0007】
本開示の一態様の希土類添加ファイバは、コアの中心部分と中心部分を囲う円環形状部分に希土類イオンが添加されたセグメント型の屈折率分布を有する希土類添加ファイバであって、前記中心部分と前記円環形状部分の大きさおよび前記希土類イオンの添加量を制御することで基本モードと高次モードの利得差を抑制した。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、モード多重伝送用の光増幅器におけるモード間利得差を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の光増幅器の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の希土類添加ファイバにおけるエルビウムの添加域の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、コアの中心からの距離に対する比屈折率差を示す図である。
【
図4】
図4は、LP01モードの中心コアとサイドコアへの局在率を示すグラフである。
【
図5】
図5は、LP11モードの中心コアとサイドコアへの局在率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、LP01モードの中心コアとサイドコアへの局在率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、LP11モードの中心コアとサイドコアへの局在率を示すグラフである。
【
図8】
図8は、コアの中心からの距離に対する比屈折率差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[光増幅器]
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の光増幅器1の構成の一例を示す図である。同図に示す光増幅器1は、希土類添加ファイバ10、励起光源20、光合波器30、およびアイソレータ40を備え、マルチモードの信号光を希土類添加ファイバ10で増幅する。
【0012】
励起光源20は励起光を出射する。励起光は希土類添加ファイバ10に添加された希土類イオンを励起する光である。
【0013】
光合波器30は信号光と励起光を合波して合波光を出力する。合波光は希土類添加ファイバ10に入射される。
【0014】
希土類添加ファイバ10は励起光を用いて信号光を増幅する。
図2に示すように、希土類添加ファイバ10は、コアの中心(中心コア11)と中心を囲う円環形状(サイドコア12)にエルビウムが添加され、中心コア11とサイドコア12に高屈折領域を有するセグメント型の屈折率プロファイルを有する。希土類添加ファイバ10は、中心コア11を中心に基本モード(LP01モード)を増幅し、サイドコア12で高次モード(LP11モード)を中心に増幅する。
図2では、縦軸にクラッド領域に対する比屈折率差をとり、横軸に径方向の位置をとった。縦軸をエルビウム添加量と捉えてもよい。
【0015】
希土類添加ファイバ10は、中心コア11にLP01モードを閉じ込め、サイドコア12にLP11モードを閉じ込めて、LP01、LP11a、およびLP11bの3モードを伝搬、増幅できる。
図2では、LP01モードの電界強度分布を破線で示し、LP11モードの電界強度分布を一点鎖線で示している。LP01モードがサイドコア12に染み出してもよいし、LP11モードが中心コア11に染み出してもよい。
【0016】
各セグメント(中心コア11やサイドコア12)の大きさや形状、並びにセグメント内に添加する希土類添加量はセグメントごとに設定できるため、モード間利得差を抑制できる。エルビウム添加分布は屈折率分布に準じる形状である。伝搬モードに応じて各セグメントの利得を数値的に解析することで、所望の比屈折率差を得るための希土類の添加分布を求めることができる。円環内部全域にエルビウムを添加してもよい。
【0017】
アイソレータ40は、信号光を1方向のみに通過させる。
【0018】
[希土類添加ファイバの設計]
次に、希土類添加ファイバ10の設計例について説明する。
【0019】
図3に、コアの中心からの距離に対する比屈折率差を示す。
図3では、縦軸にクラッド領域に対する比屈折率差をとり、横軸にコアの中心からの距離をとった。同図では、中心コアの半径a1、サイドコアの内縁部の半径a2、サイドコアの外縁部の半径a3、並びに、中心コアの比屈折率差Δ1、サイドコアの比屈折率差Δ2を図示している。
【0020】
中心コアの希土類添加量をn1、中心コアの断面の面積をA1、LP01モードの強度分布の局在率をRC01とし、サイドコアの希土類添加量をn2、サイドコアの断面の面積をA2、LP11モードの強度分布の局在率をRS11とすると、LP01モードとLP11モードの利得比は、n1・A1・RC01:n2・A2・RS11と表すことができる。なお、添加された希土類イオンの反転強度は一定とする。希土類添加量n1、n2は重量%とする。
【0021】
LP01モードがサイドコアに染み出し、LP11モードが中心コアに染み出す場合、サイドコアに染み出すLP01モードの強度分布の局在率をRS01、中心コアに染み出すLP11モードの強度分布の局在率をRC11とすると、LP01モードとLP11モードの利得比は、n1・A1・RC01+n2・A2・RS01:n2・A2・RS11+n1・A1・RC11と表すことができる。
【0022】
希土類添加量n1、n2(比屈折率差Δ1、Δ2)や面積A1、A2(中心からの距離a1,a2,a3)を適切に決めることで、モード間利得差を抑制できる。
【0023】
一般に、高次モードのほうが損失が高くなることが多いため、n1・A1・RC01+n2・A2・RS01≦n2・A2・RS11+n1・A1・RC11となるように、希土類添加ファイバ10を設計することが望ましい。
【0024】
(設計例1)
中心コアの半径a1=1.5μm、サイドコアの内縁部の半径a2=15μm、サイドコアの外縁部の半径a3=18μm、中心コアの比屈折率差Δ1=1%、サイドコアの比屈折率差Δ2を変数としたときの、波長1565nmにおけるLP01モードとLP11モードのそれぞれについて、中心コアとサイドコアへの局在率を計算した。
図4に、LP01モードの中心コアへの局在率R
C01とサイドコアへの局在率R
S01を示し、
図5に、LP11モードの中心コアへの局在率R
C11とサイドコアへの局在率R
S11を示す。
【0025】
図4、5から、比屈折率差Δ2≦0.35%の領域(Δ1/Δ2≧2.86)では、LP01モードを中心コアに、LP11モードをサイドコアに局在させることができるとわかる。
【0026】
比屈折率差Δ2≦0.35%の領域でも、LP11モードは局在率RS11を0.25以上0.55以下の範囲で制御できるので、比屈折率差Δ2(希土類添加量n2)で利得制御して、モード間利得差を抑制できる。
【0027】
(設計例2)
中心コアの半径a1=1.5μm、サイドコアの幅a3-a2=3μm、中心コアの比屈折率差Δ1=1%、サイドコアの比屈折率差Δ2=0.3%、サイドコアの内縁部の半径a2を変数としたときの、波長1565nmにおけるLP01モードとLP11モードのそれぞれについて、中心コアとサイドコアへの局在率を計算した。
図6に、LP01モードの中心コアへの局在率R
C01とサイドコアへの局在率R
S01を示し、
図7に、LP11モードの中心コアへの局在率R
C11とサイドコアへの局在率R
S11を示す。
【0028】
図6、7から、a2が大きくなるほどLP01モードの中心コアにおける局在率は上がるが、LP11モードの各局在率の変動は小さいことがわかる。
【0029】
サイドコアの内縁部の半径a2を適切に設計することでモード間利得差を抑制できる。
【0030】
[変形例]
次に、希土類添加ファイバ10の変形例について説明する。
【0031】
希土類添加ファイバ10は4以上のモードを伝搬、増幅してもよい。異なるモードを同一セグメント内で導波させてもよいし、セグメントを増やしてもよい。
【0032】
図8に示すように、希土類添加ファイバ10は、セグメント構造を同一クラッド内に3つ以上、つまりサイドコアを2つ以上有してもよい。3つ以上のセグメントを有することで、伝送路もしくは伝送システム内のモード依存損失に応じて複数水準の利得を付与したい場合に用いることができる。希土類添加ファイバ10が3つ以上のセグメントを有する場合も、中心コアの半径a1、第1のサイドコアの内縁部の半径a2と外縁部の半径a3、第2のサイドコアの内縁部の半径a4と外縁部の半径a5、中心コアの比屈折率差Δ1、第1のサイドコアの比屈折率差Δ2、および第2のサイドコアの比屈折率差Δ3をそれぞれ設計することで、モード間利得差を抑制できる。
【0033】
希土類添加ファイバ10に添加される希土類イオンとしては、Er3+, Pr3+, Tm3+, Yb3+, Nd3+, Dy3+などがあるがこれらに限らない。増幅したい信号光の帯域に応じて希土類イオンを選択する。複数種類の希土類イオンを添加してもよい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の光増幅器1は、中心コア11とサイドコア12に希土類イオンが添加されたセグメント型の屈折率分布を有する希土類添加ファイバ10と、希土類イオンを励起させる励起光を出射する励起光源20と、信号光と励起光とを合波する光合波器30と、を備える。中心コア11およびサイドコア12の大きさと希土類イオンの添加量を制御することで基本モードと高次モードの利得差を抑制する。これにより、中心コア11およびサイドコア12での利得を個別に制御でき、中心コア11を中心に基本モードを増幅し、サイドコア12を用いて高次モードを増幅するので、モード間利得差を抑制できる。
【符号の説明】
【0035】
1 光増幅器
10 希土類添加ファイバ
11 中心コア
12 サイドコア
20 励起光源
30 光合波器
40 アイソレータ