(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147978
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用組成物、ベーカリー食品用生地、ベーカリー食品用生地の製造方法、及びベーカリー食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
A21D2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060788
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】圓井 あゆ
(72)【発明者】
【氏名】中島 庸博
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB02
4B032DB24
4B032DG02
4B032DG14
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK54
4B032DL20
4B032DP01
4B032DP02
4B032DP06
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP40
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】 保存後においても、もちもち感、しっとり感、口どけ、及び歯切れのバランスが良好な食感を有するベーカリー食品を提供する。
【解決手段】 以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)を含む、ベーカリー食品用組成物。成分(A)、α化穀粉及び水を含む、ベーカリー食品用生地。条件:(1)澱粉含量が75質量%以上(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)及びα化穀粉を含む、ベーカリー食品用組成物。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【請求項2】
以下の成分(A)、α化穀粉及び水を含む、ベーカリー食品用生地。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【請求項3】
前記α化穀粉がα化小麦粉である、請求項2に記載のベーカリー食品用生地。
【請求項4】
前記ベーカリー食品用生地中の前記成分(A)の含有量が0.5質量%以上20質量%以下である、請求項2又は3に記載のベーカリー食品用生地。
【請求項5】
前記ベーカリー食品用生地中の前記α化穀粉の含有量が0.5質量%以上20質量%以下である、請求項2又は3に記載のベーカリー食品用生地。
【請求項6】
以下の成分(A)、α化穀粉及び水を含む原料を混捏してベーカリー食品用生地を得る工程を含む、ベーカリー食品用生地の製造方法。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【請求項7】
請求項6に記載の方法で得られたベーカリー食品用生地を加熱調理する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
【請求項8】
以下の成分(A)、α化穀粉及び水を含む原料を混捏してベーカリー食品用生地を得る工程を含むことを特徴とする、ベーカリー食品の食感改良方法。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用組成物、ベーカリー食品用生地、ベーカリー食品用生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法、及びベーカリー食品の食感改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パンやドーナツ等のベーカリー食品において、もちもち感のあるベーカリー食品が好まれており、そのようなベーカリー食品を得る方法として湯種製法が知られている。湯種製法とは、ベーカリー食品を製造するにあたり、原材料の一つとして使用される穀粉材料の一部を熱水の存在下で混捏する、もしくは原材料の一つとして使用される穀粉材料の一部を水の存在下で混捏及び加熱することで湯種生地を調製し、この湯種生地にさらに残りの原材料を加え混捏してベーカリー食品用生地を調製し、当該ベーカリー食品用生地を加熱等することによりベーカリー食品を得る方法である。
【0003】
ベーカリー食品の製造技術として、特許文献1には、小麦粉等を原料として製造される蒸しパン類の製造方法が、澱粉と熱水とを混捏して湯捏種を作成する湯捏種作成工程と、湯捏種と小麦粉等の原料とを用いてパン類生地を作成するパン類生地作成工程とを備えるものとすることが記載されている。同文献によれば、かかる製造方法により、製造された蒸しパン類は老化の抑制と柔らかさ及び弾力性の維持を図ることができ、また湯捏種に用いる澱粉の種類に応じて所定の食感を改良させることができるとされている。
【0004】
しかし、湯種製法では、熱水を用いて調製した湯種生地を一旦冷却してから用いるため製造時間が長くなるという問題がある。そのため、湯種製法に代わるベーカリー食品の製造技術として、特許文献2には、小麦粉、α化小麦粉または/およびα化小麦澱粉、およびα-アミラーゼを原料に用いてパン類を製造することが記載されている。同文献によれば、かかる製造方法により、もちもち感やしっとり感が持続するパン類を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-199485号公報
【特許文献2】特開2003-199482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、保存後においても、もちもち感やしっとり感とともに、口どけ、及び歯切れのバランスが良好な独特な食感を有するベーカリー食品のさらなる開発が求められている。よって、本発明の目的は、保存後においても、もちもち感、しっとり感、口どけ、及び歯切れのバランスが良好な食感を有するベーカリー食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の成分(A)及びα化穀粉を含むベーカリー食品用生地を用いてベーカリー食品を製造することで、保存後においても、もちもち感、しっとり感、口どけ、及び歯切れのバランスが良好な食感を有するベーカリー食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ベーカリー食品用組成物、ベーカリー食品用生地、ベーカリー食品用生地の製造方法、ベーカリー食品の製造方法、及びベーカリー食品の食感改良方法が提供される。
[1]
以下の成分(A)及びα化穀粉を含む、ベーカリー食品用組成物。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
[2]
以下の成分(A)、α化穀粉及び水を含む、ベーカリー食品用生地。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
[3]
前記α化穀粉がα化小麦粉である、[2]に記載のベーカリー食品用生地。
[4]
前記ベーカリー食品用生地中の前記成分(A)の含有量が0.5質量%以上20質量%以下である、[2]又は[3]に記載のベーカリー食品用生地。
[5]
前記ベーカリー食品用生地中の前記α化穀粉の含有量が0.5質量%以上20質量%以下である、[2]乃至[4]に記載のベーカリー食品用生地。
[6]
以下の成分(A)、α化穀粉及び水を含む原料を混捏してベーカリー食品用生地を得る工程を含む、ベーカリー食品用生地の製造方法。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
[7]
[6]に記載の方法で得られたベーカリー食品用生地を加熱調理する工程を含む、ベーカリー食品の製造方法。
[8]
以下の成分(A)、α化穀粉及び水を含む原料を混捏してベーカリー食品用生地を得る工程を含むことを特徴とする、ベーカリー食品の食感改良方法。
成分(A):以下の条件(1)~(4)を満たす粉粒状物
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存後においても、もちもち感、しっとり感、口どけ、及び歯切れのバランスが良好な食感を有するベーカリー食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において数値範囲の上限値及び下限値を示したときは、上限値及び下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示しているものとする。
【0011】
[1.ベーカリー食品用組成物]
本実施形態のベーカリー食品用組成物は、成分(A)及びα化穀粉を含む。本実施形態のベーカリー食品用組成物は、粉体であることが好ましい。
【0012】
(成分(A))
成分(A)は、具体的には、澱粉を主成分としてなる粉粒状物である。成分(A)は、以下の条件(1)~(4)を満たす。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量が50質量%以上100質量%以下
【0013】
条件(1)に関し、成分(A)は、成分(A)全体に対して澱粉を75質量%以上含み、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上含む。
また、成分(A)中の澱粉含量の上限に制限はなく、成分(A)全体に対してたとえば100質量%以下であるが、ベーカリー食品の性状等に応じて99.5質量%以下、99質量%以下等としてもよい。
【0014】
成分(A)において、澱粉は、たとえば食品用の澱粉であり、各種由来のものを用いることができる。たとえば、澱粉として、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等のとうもろこし澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉、緑豆澱粉やエンドウ澱粉等の豆澱粉、サゴヤシ澱粉などの澱粉及びこれらの澱粉を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉などから、1種以上を適宜選ぶことができる。ベーカリー食品の食感の改良の観点から、澱粉は、好ましくはタピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、米澱粉及び豆澱粉から選ばれる1種または2種以上であり、より好ましくはタピオカ澱粉及びとうもろこし澱粉から選ばれる1種または2種である。
同様の観点から、澱粉の由来原料は、好ましくはキャッサバ、とうもろこし、米及び豆からなる群から選ばれる1種または2種以上である。
【0015】
条件(2)に関し、成分(A)は、具体的には、低分子化澱粉と、他の澱粉とを含む。
まず、低分子化澱粉について説明する。
低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、5質量%以上であり、好ましくは12質量%以上、より好ましくは22質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは45質量%以上、より一層好ましくは55質量%以上、さらにまた好ましくは65質量%以上である。
なお、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量の上限に制限はなく、たとえば100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0016】
低分子化澱粉の原料であるアミロース含量5質量%以上の澱粉として、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等のとうもろこし澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉、緑豆澱粉やエンドウ澱粉等の豆澱粉、サゴヤシ澱粉及び、これらの原料を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を用いることができる。ベーカリー食品の食感の改良の観点から、アミロース含量5質量%以上の澱粉は、好ましくはハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカ澱粉及び、豆澱粉から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはハイアミロースコーンスターチである。ハイアミロースコーンスターチとしては、たとえばアミロース含量40質量%以上のものが入手可能である。アミロース含量5質量%以上の澱粉は、より好ましくはアミロース含量が40質量%以上のハイアミロースコーンスターチである。
【0017】
成分(A)中の低分子化澱粉の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、3質量%以上であり、好ましくは8質量%以上、より好ましくは13質量%以上である。同様の観点から、成分(A)中の低分子化澱粉の含有量は、45質量%以下であり、好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。ここで、成分(A)中の低分子化澱粉の含有量は、成分(A)全体に対する量である。
【0018】
低分子化澱粉のピーク分子量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、3×103以上であり、好ましくは8×103以上である。同様の観点から、低分子化澱粉のピーク分子量は、5×104以下であり、好ましくは3×104以下であり、より好ましくは1.5×104以下である。なお、低分子化澱粉のピーク分子量の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0019】
ここで、低分子化澱粉は、その製造安定性に優れる観点から、好ましくは、酸処理澱粉、酸化処理澱粉及び酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくは酸処理澱粉である。
【0020】
酸処理澱粉を得る際の酸処理の条件は問わないが、たとえば、以下のように処理することができる。
まず、原料であるアミロース含量5質量%以上の澱粉と水を反応装置に投入した後、さらに酸を投入する。あるいは水に無機酸をあらかじめ溶解させた酸水と原料の澱粉を反応装置に投入する。酸処理をより安定的におこなう観点からは、反応中の澱粉の全量が水相内に均質に分散した状態、またはスラリー化した状態にあることが望ましい。そのためには、酸処理をおこなう上での澱粉スラリーの濃度を、たとえば10質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲になるように調整する。スラリー濃度が高すぎると、スラリー粘度が上昇し、均一なスラリーの攪拌が難しくなる場合がある。
【0021】
酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、種類、純度などを問わず利用できる。
【0022】
酸処理反応条件については、たとえば酸処理時の無機酸濃度は、酸処理澱粉を安定的に得る観点から、0.05規定度(N)以上4N以下が好ましく、0.1N以上4N以下がより好ましく、0.4N以上3N以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、反応温度は、30℃以上70℃以下が好ましく、35℃以上70℃以下がより好ましく、35℃以上65℃以下がさらに好ましい。反応時間は、同様の観点から、0.5時間以上120時間以下が好ましく、1時間以上72時間以下がより好ましく、1時間以上48時間以下がさらに好ましい。
【0023】
成分(A)は、上記低分子化澱粉以外の澱粉を含む。成分(A)中の低分子化澱粉以外の澱粉としては、たとえば前述した澱粉の中から選択して使用することができる。好ましくは、成分(A)中の低分子化澱粉以外の澱粉は、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、豆澱粉及びこれらの加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を含み、より好ましくはコーンスターチを含み、さらに好ましくはコーンスターチである。
【0024】
また、成分(A)は、冷水膨潤度について特定の条件(3)を満たすとともに、粒度が特定の条件(4)を満たす構成となっている。
まず、条件(3)に関し、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、成分(A)の25℃における冷水膨潤度は5以上であり、好ましくは6以上であり、さらに好ましくは6.5以上である。また、同様の観点から、成分(A)の25℃における冷水膨潤度は20以下であり、好ましくは17以下、より好ましくは13以下、さらに好ましくは12以下である。ここで、成分(A)の冷水膨潤度の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0025】
次に、成分(A)の粒度を説明する。
なお、以下の篩は、具体的にはJIS-Z8801-1規格の篩である。
条件(4)に関し、成分(A)中の目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分(粒子)の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、成分(A)全体に対して50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、より一層好ましくは95質量%以上である。また、同様の観点から、成分(A)中の目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量は、成分(A)全体に対して100質量%以下であり、好ましくは99質量%以下である。
【0026】
成分(A)中の目開き0.5mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の画分の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、成分(A)全体に対して好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上であり、また、たとえば100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下である。
【0027】
成分(A)中の目開き0.25mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の画分の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、成分(A)全体に対して好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは35質量%以上であり、また、たとえば100質量%以下であり、好ましくは99質量%以下である。
【0028】
また、成分(A)は、澱粉以外の成分を含んでもよい。澱粉以外の成分の具体例としては、色素や炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの不溶性塩が挙げられる。成分(A)は、不溶性塩を配合することが好ましく、不溶性塩の配合量は、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
次に、成分(A)の製造方法を説明する。成分(A)の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む。
(低分子化澱粉の調製工程)アミロース含量5質量%以上の澱粉を低分子化処理してピーク分子量が3×103以上5×104以下の低分子化澱粉を得る工程。
(造粒工程)原料に低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、かつ低分子化澱粉と低分子化澱粉以外の澱粉の合計が75質量%以上である、原料を加熱糊化して造粒する工程。
【0030】
低分子化澱粉の調製工程は、アミロース含量5質量%以上の澱粉を分解して低分子化澱粉とする工程である。ここでいう分解とは、澱粉の低分子化を伴う分解をいい、代表的な分解方法として酸処理や酸化処理、酵素処理による分解が挙げられる。この中でも、分解速度やコスト、分解反応の再現性の観点から、好ましくは酸処理である。
【0031】
また、造粒工程には、澱粉の造粒に使用されている一般的な方法を用いることができるが、所定の冷水膨潤度とする点で、澱粉の加熱糊化に使用されている一般的な方法を用いることが好ましい。具体的には、ドラムドライヤー、ジェットクッカー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどの機械を使用した方法が知られているが、本実施形態において、冷水膨潤度が上述した特定の条件を満たす成分(A)をより確実に得る観点から、エクストルーダーやドラムドライヤーによる加熱糊化が好ましく、エクストルーダーがより好ましい。エクストルーダー処理する場合は通常、澱粉を含む原料に加水して水分含量を10~60質量%程度に調整した後、たとえばバレル温度30~200℃、出口温度80~180℃、スクリュー回転数100~1,000rpm、熱処理時間5~60秒の条件で、加熱糊化させる。
【0032】
本実施形態において、たとえば上記特定の原料を加熱糊化する工程、及び、上記工程により加熱糊化して得られた造粒物を、必要に応じて、粉砕し、篩い分けをし、大きさを適宜調整することにより、条件(3)及び(4)を満たす成分(A)を得るとよい。
【0033】
以上により得られる成分(A)は、低分子化澱粉を含む澱粉粉粒状物であって、条件(1)~(4)を満たす構成となっているため、成分(A)をベーカリー食品用生地に配合することで、食感が良好なベーカリー食品を得ることができる。
【0034】
ベーカリー食品用組成物中の成分(A)の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、ベーカリー食品用組成物全体に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上、より一層好ましくは30質量%以上である。また、同様の観点から、ベーカリー食品用組成物中の成分(A)の含有量は、ベーカリー食品用組成物全体に対して、好ましくは100質量%未満であり、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、さらにより好ましくは80質量%以下、より一層好ましくは70質量%以下である。
【0035】
(α化穀粉)
本実施形態のα化穀粉とは穀物の種子の粉砕物をα化処理したものであり、たとえば、α化薄力粉、α化中力粉、α化強力粉、α化全粒粉等のα化小麦粉、α化米粉、α化大麦粉、α化ライ麦粉、α化ハト麦粉、α化そば粉、α化トウモロコシ粉、α化ヒエ粉、α化アワ粉等が挙げられる。本実施形態のα化穀粉は、好ましくはα化小麦粉及びα化米粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはα化小麦粉である。
【0036】
α化穀粉のα化処理の方法としては、穀粉中の澱粉をα化させることができる方法であれば特に限定されない。また、α化穀粉のα化度は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらにより好ましくは80%以上、より一層好ましくは82%以上である。なお、α化穀粉のα化度は、BAP法(β-アミラーゼ・プルラナーゼ法)に則って測定することができる。
【0037】
ベーカリー食品用組成物中のα化穀粉の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、ベーカリー食品用組成物全体に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上、より一層好ましくは30質量%以上である。また、同様の観点から、ベーカリー食品用組成物中のα化穀粉の含有量は、ベーカリー食品用組成物全体に対して、好ましくは100質量%未満であり、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、さらにより好ましくは80質量%以下、より一層好ましくは70質量%以下である。
【0038】
前述のベーカリー食品用組成物をベーカリー食品用生地に配合することで、食感が良好なベーカリー食品を得ることができるため、当該ベーカリー食品用組成物は、ベーカリー食品の食感改良剤として使用できる。
【0039】
[2.ベーカリー食品用生地及びその製造方法]
本実施形態のベーカリー食品用生地は、前述の成分(A)、前述のα化穀粉及び水を含む。
【0040】
本実施形態のベーカリー食品用生地中の前記成分(A)の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、ベーカリー食品用生地全体に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらにより好ましくは2質量%以上、より一層好ましくは2.5質量%以上である。また、同様の観点から、ベーカリー食品用生地中の成分(A)の含有量は、ベーカリー食品用生地全体に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは8質量%以下、より一層好ましくは7質量%以下である。
【0041】
前記α化穀粉は、好ましくはα化小麦粉及びα化米粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはα化小麦粉である。ベーカリー食品用生地中のα化穀粉の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、ベーカリー食品用生地全体に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、さらにより好ましくは1.8質量%以上、より一層好ましくは2質量%以上である。また、同様の観点から、ベーカリー食品用生地中のα化穀粉の含有量は、ベーカリー食品用生地全体に対して好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは8質量%以下、より一層好ましくは7質量%以下である。
【0042】
本実施形態における水とは、通常の水のみでなく、牛乳、豆乳、果汁、野菜ジュース等の水の代わりに使用される液体の水分も含まれる。また、コーヒー粉末等のフレーバーを溶かした水溶液なども使用可能である。ベーカリー食品用生地中の水の含有量は、ベーカリー食品の食感の改良の観点から、ベーカリー食品用生地全体に対して、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上、より一層好ましくは21質量%以上である。また、同様の観点から、ベーカリー食品用生地中の水の含有量は、ベーカリー食品用生地全体に対して、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、さらにより好ましくは50質量%以下、より一層好ましくは45質量%以下である。
【0043】
ベーカリー食品用生地には、前記成分(A)、α化穀粉及び水以外のその他の原料を含んでもよい。その他の原料としては、薄力粉、中力粉、強力粉、全粒粉等の小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、ハト麦粉、そば粉、トウモロコシ粉、ヒエ粉、アワ粉等のα化穀粉以外の穀粉;グルテン、大豆蛋白質等の蛋白質;タピオカ澱粉、とうもろこし澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、エンドウ豆澱粉及びこれらに加工処理を施した加工澱粉、難消化性澱粉等の澱粉類;砂糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖、転化糖、オリゴ糖、トレハロース、糖アルコール、はちみつ等の糖類;食塩;生イースト、ドライイースト、セミドライイースト等のパン酵母類;全卵、卵黄、卵白、卵白粉、全卵粉等の卵類;食用油脂、マーガリン、ショートニング等の油脂組成物;バター、脱脂粉乳、牛乳等の乳製品;乳化剤;pH調整剤;重曹、ベーキングパウダー等の膨化剤;香料等の通常のベーカリー食品の製造に使用される成分が挙げられる。
【0044】
本実施形態のベーカリー食品用生地は前記油脂組成物をさらに含むことが好ましい。前記油脂組成物に用いられる原料油脂としては、限定されないが、たとえば、菜種油、大豆油、コーン油、ゴマ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、米油、綿実油、紅花油、ヒマワリ油、オリーブ油、亜麻仁油、落花生油、サル脂、カカオ脂、シア脂などの植物油脂;牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、魚油などの動物油脂;及び中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの合成油脂が挙げられる。また、上記植物油脂、動物油脂及び合成油脂に分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂が挙げられる。
【0045】
油脂組成物としては、食用油脂を含むものであれば制限されない。該油脂組成物に含まれる食用油脂の含有量は、好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上100質量%以下である。また、油脂組成物には、食用油脂と共に油溶性の成分を含有することができる。油溶性の成分としては、トコフェロール、着色料、香料、乳化剤などが挙げられる。
【0046】
また、油脂組成物としては、菜種油、大豆油、オリーブ油等の室温(20℃)で液体の油脂組成物;バター、マーガリン、ショートニング、及びファットスプレッドなどの室温(20℃)で固体の油脂組成物のいずれの状態のものを使用することができるが、固体であることが好ましい。ここで油脂組成物が室温(20℃)で液体であるとは、具体的には、室温(20℃)で流動性を有し、上昇融点15℃未満の油脂であることをいう。上昇融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に記載の方法に従って測定される。
【0047】
本実施形態のベーカリー食品用生地中の油脂組成物の含有量は、ベーカリー食品の種類に応じて適宜選択すればよい。たとえば、ベーカリー食品用生地全体に対して、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上等であってよく、また、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、13質量%以下、10質量%以下等であってよい。
【0048】
本実施形態のベーカリー食品用生地の製造方法は、前述の成分(A)、前述のα化穀粉及び前述の水を含む原料を混捏してベーカリー食品用生地を得る工程を含む。
【0049】
前記混捏工程における混捏条件に制限はなく、たとえばパン用ミキサーで混捏することができる。混捏時の温度は室温でもよいし、温度低下を抑制するために保温又は加温することや、温度上昇を抑制するために冷却することもできる。混捏時間に制限はなく、たとえば5分以上60分以下混捏してもよい。
【0050】
前記混捏工程における原料を混合、混捏する方法やタイミングも限定されず、たとえば次のような例が挙げられる。
成分(A)及びα化穀粉をその他の粉体原料に加えて混合した後、水を加えて混捏する;成分(A)、α化穀粉及び水を同時にその他の原料に加えて混捏する;成分(A)、α化穀粉及び水を含む原料を予め混捏し生地を調製した後、当該生地をその他の原料に加え混捏する。
【0051】
前記混捏後、ベーカリー食品の製造工程に通常用いられる発酵工程及び成形工程をおこなうことができる。発酵工程は、たとえば、3℃から50℃程度の発酵槽内で5分から3日間発酵をおこなうことができる。
【0052】
また、前記混捏後、成形前または成形後の段階で、ベーカリー食品用生地を保存してもよく、たとえばベーカリー食品用生地を加熱調理する前に、10℃以下で冷蔵保存したり、0℃以下で冷凍保存してもよい。
【0053】
[3.ベーカリー食品及びその製造方法]
本実施形態におけるベーカリー食品の製造方法は、前述の製造方法により得られたベーカリー食品用生地を加熱調理する工程を含む。
【0054】
加熱調理する方法の具体例としては、焼成、蒸し、フライ調理等が挙げられ、焼成及びフライ調理から選択される1種または2種の加熱調理が好ましい。
【0055】
焼成の場合の具体例としては、フライパンやホットプレートによる焼成、オーブンによる焼成、コンベクション加熱、スチームコンベクション加熱等が挙げられる。好ましくはホットプレート焼成、オーブンによる焼成及びコンベクション加熱から選択される1種または2種以上であり、より好ましくはコンベクション加熱及びオーブンによる焼成であり、さらに好ましくはオーブンによる焼成である。加熱調理の温度は好ましくは150~260℃、より好ましくは160~250℃である。加熱調理の時間は好ましくは4~60分であり、より好ましくは6~50分である。
【0056】
フライ調理の場合の具体例としては、たとえば、150~250℃に熱したフライヤーで2~20分フライ調理することができる。
【0057】
本実施形態において得られるベーカリー食品の具体例としては、パン、ピザ、イーストドーナツ、中華饅頭、ナン、デニッシュ等のイースト発酵食品;蒸しパン、ケーキドーナツ、スコーン、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、バターケーキ、マフィン、カップケーキ、ホットケーキ、フィナンシェ、ブッセ、ワッフル、マドレーヌ、パイ等のイーストを含まない食品が挙げられる。ベーカリー食品は、好ましくはイースト発酵食品及びケーキドーナツからなる群から選択される1種であり、より好ましくはパン、ピザ、イーストドーナツ及びケーキドーナツから選択される1種であり、さらに好ましくはパン及びイーストドーナツから選択される1種である。パンとしては、たとえば、食パン、ドッグパン、バターロール、デニッシュ、クロワッサン等が挙げられる。
【0058】
本実施形態におけるベーカリー食品は、加熱調理後に常温保存、冷蔵保存、又は冷凍保存してもよく、常温保存又は冷蔵保存することが好ましい。常温保存の温度は15℃超30℃以下である。冷蔵保存の温度は0℃超15℃以下であり、好ましくは2℃以上10℃以下であり、より好ましくは3℃以上8℃以下である。冷凍保存の温度は0℃以下である。保存時間は、好ましくは10分以上30日以下であり、より好ましくは1時間以上10日以下であり、さらに好ましくは5時間以上5日以下であり、さらにより好ましくは12時間以上3日以下である。
【0059】
[4.ベーカリー食品の食感改良方法]
本実施形態において、前述の成分(A)、前述のα化穀粉及び前述の水を含む原料を混捏してベーカリー食品用生地を得る工程を含むことで、ベーカリー食品の食感を改良させることができる。中でも、ベーカリー食品の保存後におけるベーカリー食品の食感を改良させることができる。
【0060】
本実施形態における食感とは、具体的には、もちもち感、しっとり感、口どけ及び歯切れからなる群から選ばれる1以上の食感をいう。
なお、「もちもち感」とは、咀嚼時に柔らかい弾力がありモチ様の食感があることをいう。「しっとり感」とは、口に入れたときにみずみずしさがあることをいう。「口どけ」とは、食品を口に入れたときに舌の上で食品が唾液と混じり溶けてなくなるまでの時間が短いことをいい、時間が短いほど口どけが良いことを示す。「歯切れ」とは、歯でかみ切るときの噛みきりやすさをいう。
【実施例0061】
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。以下の例において、断りのない場合、「%」とは、「質量%」である。また、断りのない場合、「部」とは、「質量部」である。
【0062】
実施に際しては、以下の原料を使用した。
(成分(A))
粉粒状物1:後述する製造例2で製造した粉粒状物1
粉粒状物2:後述する製造例2で製造した粉粒状物2
(α化穀粉)
α化小麦粉:日清製粉株式会社製「アルファフラワーZ」
(穀粉)
強力粉:株式会社ニップン製「イーグル」
(油脂組成物)
マーガリン:株式会社J-オイルミルズ製「グランマスタープリメランi」(食用油脂含有量:80質量%以上)
ショートニング:株式会社J-オイルミルズ製「アトランタSS」(食用油脂含有量:100質量%)
(その他の成分)
上白糖:フジ日本精糖株式会社製「上白糖」
食塩:公益財団法人塩事業センター製「食塩」
生イースト:オリエンタル酵母工業株式会社製「オリエンタルイースト」
生地改良剤:株式会社J-オイルミルズ製「マックスパワー」
脱脂粉乳:北海道乳業株式会社製「脱脂粉乳」
【0063】
<成分(A)の製造>
(製造例1)低分子化澱粉の製造
粉粒状物1~2の原料となる低分子化澱粉として酸処理ハイアミロースコーンスターチを製造した。
ハイアミロースコーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製、HS-7、アミロース含量70質量%)を水に懸濁して35.6%(w/w)スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た。
得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチのピーク分子量を後述の方法で測定したところ、ピーク分子量は1.2×104であった。
【0064】
(ピーク分子量の測定方法)
ピーク分子量の測定は、東ソー株式会社製HPLCユニットを使用しておこなった(ポンプDP-8020、RI検出器RS-8021、脱気装置SD-8022)。
(1)試料を粉砕し、JIS-Z8801-1規格の篩で、目開き0.15mm篩下の画分を回収した。この回収画分を移動相に1mg/mLとなるように懸濁し、懸濁液を100℃3分間加熱して完全に溶解した。0.45μmろ過フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm)を用いてろ過を行い、ろ液を分析試料とした。
(2)以下の分析条件で分子量を測定した。
カラム:TSKgel α-M(7.8mmφ、30cm)(東ソー株式会社製)2本
流速:0.5mL/min
移動相:5mM 硝酸ナトリウム含有90%(v/v)ジメチルスルホキシド溶液
カラム温度:40℃
分析量:0.2mL
(3)検出器データを、ソフトウェア(マルチステーションGPC-8020modelIIデータ収集ver5.70、東ソー株式会社製)にて収集し、分子量ピークを計算した。
検量線には、分子量既知のプルラン(Shodex Standard P-82、昭和電工株式会社製)を使用した。
【0065】
(冷水膨潤度の測定方法)
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社製、型番MX-50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプター)し、沈殿層と上澄層に分けた。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とした。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とした。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とした。
【0066】
(製造例2)粉粒状物1~2の製造
成分Aとして、粉粒状物1~2を以下の手順で製造した。
コーンスターチ(コーンスターチY、株式会社J-オイルミルズ製)79質量%、製造例1で得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチ20質量%、及び、炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下の通りである。
原料供給:450g/分(熱処理時間:約10秒)
加水:原料全体に対して17質量%となるよう加水した
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃及び100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を10質量%に調整した。
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、所定の配合割合で混合し、表1に示す粒度分布を有する粉粒状物1~2を調製した。前述の方法で測定した粉粒状物1~2の25℃における冷水膨潤度を表1にあわせて示す。
【0067】
【0068】
<試験例1>
表2に示す配合で、以下の方法により各比較例及び実施例のドーナツを製造した。
【0069】
(1)水、全卵及びマーガリン以外の本捏生地原料をパン用ミキサー(関東混合機株式会社製「カントーミキサー HP-20M」)に入れ混合した。次に水、全卵を投入し、低速8分、中速8分で混捏し、さらにマーガリンを投入し低速3分、中速4分混捏し、26℃の生地を得た。
(2)得られた生地をミキサーから取り出し、27℃相対湿度75%のホイロで60分発酵させた。
(3)発酵後の生地を50gで分割し、次いで20分ベンチタイムをとった後、手丸めし、円盤型に成形した。
(4)成形した生地を32℃相対湿度75%のホイロで60分発酵させた。
(5)発酵後の生地をフライヤーにて以下の条件でフライし、ドーナツを得た。
フライ温度:180℃
フライ時間:6分(片面3分ずつ)
(6)フライ後、室温(20℃)にて、フライしたドーナツの粗熱を除去した。
【0070】
得られたドーナツを室温(20℃)で1日保存後に専門パネル6名で食し、以下の基準によりドーナツの食感を評価した。評点は専門パネルの平均点とし、各項目3点以上を合格とした。評価結果を表2にあわせて示す。
【0071】
(もちもち感)
5:非常にもちもち感がある
4:もちもち感がある
3:ややもちもち感がある
2:もちもち感がほとんどなく、固い
1:もちもち感が全くなく、非常に固い
(しっとり感)
5:非常にしっとりしている
4:しっとりしている
3:ややしっとりしている
2:パサつく
1:非常にパサつく
(口どけ)
5:口の中でなくなるまでの時間が非常に短い
4:口の中でなくなるまでの時間が短い
3:口の中でなくなるまでの時間がやや短い
2:口の中でなくなるまでの時間が長い
1:口の中でなくなるまでの時間が非常に長い
(歯切れ)
5:非常に歯切れが良い
4:歯切れが良い
3:やや歯切れが良い
2:歯切れが悪い
1:非常に歯切れが悪く、ヒキがある
【0072】
【0073】
表2より、各実施例では、1日保存後にもちもち感、しっとり感、口どけ、歯切れの全ての食感が良好であった。一方、各比較例では、1日保存後に上記全ての食感が良好ではなかった。
【0074】
<試験例2>
表3に示す配合で、以下の方法により各比較例及び実施例の食パンを製造した。
【0075】
(1)水及びショートニング以外の本捏生地原料をパン用ミキサー(関東混合機株式会社製「カントーミキサー HP-20M」)に入れ混合した。次に水を投入し、低速4分、中速6分で混捏し、さらにショートニングを投入し低速3分、中速4分混捏し、26℃の生地を得た。
(2)得られた生地をミキサーから取り出し、27℃相対湿度75%のホイロで60分発酵させた。
(3)発酵後の生地を230gで分割し、次いで20分ベンチタイムをとった後、モルダー(株式会社押切社製「ミニモルダMQ」)に生地を通し、ドッグ型に成形した生地を馬蹄型に曲げ、プルマン型に4個詰めた。
(4)成形した生地を38℃相対湿度75%のホイロで60分発酵させた。
(5)発酵後の生地をオーブンにて以下の条件で焼成し食パンを得た
焼成温度:上段200℃/下段220℃
焼成時間:30分
(6)焼成後、室温(20℃)にて、焼成した食パンの粗熱を除去した。
【0076】
得られた食パンを室温(20℃)で1日保存後及び3日保存後に専門パネル6名で食し、試験例1と同じ基準により食パンの食感を評価した。評点は専門パネルの平均点とし、各項目3点以上を合格とした。評価結果を表3にあわせて示す。
【0077】
【0078】
表3より、実施例2-1では、1日保存後及び3日保存後の何れにおいても、もちもち感、しっとり感、口どけ、歯切れの全ての食感が良好であった。一方、各比較例では、1日保存後及び3日保存後の何れにおいても、上記全ての食感のうち一つ以上の食感が良好ではなかった。