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特開2024-148087イオン源、加速器および粒子線治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148087
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】イオン源、加速器および粒子線治療システム
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/08 20060101AFI20241009BHJP
   H05H 13/02 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 27/18 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H05H7/08
H05H13/02
H01J27/18
H01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061006
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 孝義
【テーマコード(参考)】
2G085
5C101
【Fターム(参考)】
2G085AA11
2G085AA13
2G085BA02
2G085BA06
2G085BA13
2G085BA14
2G085BC04
2G085BC06
2G085BC18
2G085BE01
2G085EA07
5C101AA39
5C101BB05
5C101DD03
5C101DD23
5C101DD25
5C101DD27
5C101DD30
5C101DD38
5C101DD40
5C101EE28
(57)【要約】
【課題】メンテナンス性を高める。
【解決手段】磁極1内の加速空洞Aから引き出しビーム15を引き出すイオン源3は、チムニー22と、少なくとも1つのカソード23と、高周波加速電極8と、ダミー電極9と、を備える。チムニーは、加速空洞に固定される。少なくとも1つのカソードは、チムニー内に挿入可能に配置される。カソードは、チムニーの両側からそれぞれ挿入されて相互に対向して配置される一対のカソードである。高周波加速電極は、引き出しビームを加速させる。ダミー電極は、高周加速波電極に対向または並行に配置される。チムニーは、ダミー電極との間に接触子Cを介して電気的に接続される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極内の加速空洞からイオンビームを引き出すイオン源であって、
前記加速空洞に固定されるチムニーと、
前記チムニー内に挿入可能に配置される少なくとも1つのカソードと、
を備えるイオン源。
【請求項2】
前記カソードは、
前記チムニーの両側からそれぞれ挿入されて相互に対向して配置される一対のカソードである、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記イオンビームを加速させる高周波加速電極と、当該高周波加速電極に対向または並行に配置されるダミー電極と、を備え、
前記チムニーは、前記ダミー電極に接触子を介して電気的に接続される、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記チムニーは、円筒状に形成されており、
前記チムニーの周壁における前記高周波加速電極側には、前記イオンビームを引き出す引出孔が設けられる、
請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記チムニーの前記引出孔に対向する内周面には、前記引出孔に向かって膨出する膨出部が形成されており、
前記カソードの先端部は、当該カソードの挿入方向で前記膨出部と重ねられる、
請求項4に記載のイオン源。
【請求項6】
前記チムニーは、円筒状に形成されており、両側の開口から前記一対のカソードがそれぞれ挿入される、
請求項2に記載のイオン源。
【請求項7】
前記カソードの一端を保持するカソード保持具と、
前記カソードが挿入される挿入孔が設けられ、当該挿入孔に前記カソードが挿入されたときの前記カソード保持具を支持するカソード固定具と、を備え、
前記挿入孔の前記カソードの挿入方向とは反対側の開口には、前記挿入方向とは反対側に向かって拡径するテーパ面が形成される、
請求項1記載のイオン源。
【請求項8】
前記カソード保持具には、前記テーパ面に対向するテーパ面が形成される、
請求項7に記載のイオン源。
【請求項9】
前記一対のカソードには、アノードがそれぞれ取り付けられており、
前記カソードおよび前記アノードは、前記チムニー内にそれぞれ挿入される、
請求項2に記載のイオン源。
【請求項10】
前記チムニーの開口縁には、前記カソードの挿入方向とは反対側に向かって拡径するテーパ面が形成される、
請求項9に記載のイオン源。
【請求項11】
前記アノードには、前記チムニーの挿入時に前記テーパ面に対向するテーパ面が形成される、
請求項10に記載のイオン源。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一項に記載のイオン源を備える加速器。
【請求項13】
請求項12に記載の加速器と、ビーム輸送系と、照射装置と、治療台とを備える粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源、加速器および粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1が開示されている。この特許文献1のシンクロサイクロトロンは、空洞に磁界を与える磁気構造物と、空洞にプラズマカラムを与える粒子源と、加速領域でプラズマカラムからの粒子を加速するために空洞に高周波(RF)電圧を与える電圧源とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2011-505670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のイオン源は、プラズマカラムを保持するためのハウジングを有する。ハウジングは、プラズマカラムを露出するように加速領域で中断される。加速領域でプラズマカラムからの粒子を加速するために、電圧源が、高周波(RF)電圧を空洞に与えるように構成されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載された構造では、分離したプラズマカラムの位置精度不足による電界の乱れと、分離して発生するカラム空間によるビーム引き出し電界の乱れによって、引き出されるイオンビームが発散し、ビーム電流が低下する問題がある。このため、損傷したカソードを交換する際に、毎回ビームを引出しながら位置調整を実施する必要があり、イオン源交換および位置調整作業に時間を要し、装置稼働率が低下する課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、メンテナンス性を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するために、本発明は、磁極内の加速空洞からイオンビームを引き出すイオン源であって、加速空洞に固定されるチムニーと、前記チムニー内に挿入可能に配置される少なくとも1つのカソードと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メンテナンス性を高めることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る粒子線治療システムの全体構成を示す図。
図2】実施例1に係る円形加速器の縦断面図。
図3】実施例1に係る円形加速器の横断面図。
図4】実施例1に係るイオン源周りのカソード挿入前の概略断面図。
図5】実施例1に係るイオン源周りのカソード挿入後の概略断面図。
図6図5のイオン源の位置合わせ構造を示す概略断面図。
図7】実施例2に係るイオン源周りのカソード挿入前の概略断面図。
図8】実施例2に係るイオン源周りのカソード挿入後の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るイオン源、加速器および粒子線治療システムの具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。
【実施例0011】
以下、本発明の実施例1のイオン源、加速器および粒子線治療システムを、図1乃至図6を用いて説明する。最初に、粒子線治療システムの全体構成および関連する装置の構成について図1を用いて説明する。
【0012】
図1は、実施例1に係る粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【0013】
図1において、粒子線治療システム100は、サイクロトロン型の「加速器」の一例としての円形加速器50、ビーム輸送系52、照射装置54、治療台40、および制御装置56を備える。
【0014】
粒子線治療システム100では、イオン源3で発生させたイオンを円形加速器50で加速してイオンビームとする。加速されたイオンビームは、円形加速器50から出射され、ビーム輸送系52により照射装置54まで輸送される。輸送されたイオンビームは、照射装置54で患部形状に合致するように整形され、治療台40の上に横になった患者45の標的に対して所定量照射される。これら円形加速器50をはじめとした粒子線治療システム100内の各装置、機器の動作は、制御装置56によって制御される。
【0015】
次に、円形加速器50の構造について、図2および図3を用いて説明する。
【0016】
図2は、図1実施例1に係る円形加速器の縦断面図であり、図3は、図1実施例1に係る円形加速器の横断面図である。
【0017】
図2および図3に示すように、サイクロトロン型の円形加速器50は、「磁極」の一例としての一対の主磁極1、円環状コイル2、真空容器6、高周波加速電極8、イオン源3、およびダミー電極9を備える。
【0018】
一対の主磁極1は、相互に対向するように設置された磁性体であり、例えば鉄などからなる。主磁極1には、イオンビームの周回軌道12を発生させるように相互に向かい合う磁極間に磁極10が設けられており、その磁極間に磁場を発生させる。主磁極1は、磁極10によって磁場Bを発生させるとともに、磁極10の周回中心から外側に向かって傾斜磁場を形成することで周回するイオンビームの集束力を発生させ、安定周回を実現する。主磁極1における磁場Bが発生する磁極ギャップ間の対向する上下面は、対称形状である。あるいは、その上下面は、イオンビームの進行方向に凹凸を設けた磁極形状とすることで、収束効果を付加する形状の磁極でもよい。
【0019】
真空容器6は、主磁極1によって挟まれており、磁極10を内面としてひとつの真空容器を形成する。真空容器6は、非磁性体である。磁極間隙には、磁極10を真空容器内面としない、分離された真空容器を別途設けてもかまわない。
【0020】
円環状コイル2は、真空容器6より大気側に設置されており、上下一対の主磁極1間に磁場Bを発生させる。円環状コイル2は、常電導材料によるコイルでも、超電導材料によるコイルでも、同様に磁場を発生可能である。なお、円環状コイル2は、真空容器6内に設置してもよく、特に規定されるものではない。
【0021】
イオン源3は、磁極10の上下方向から挿入され、磁極10内の加速空洞Aに固定される。イオン源3は、磁極10の横方向から挿入してもよく、特に方向を限定するものではない。イオン源3とダミー電極9とは、高周波電源20から高周波が供給されると、同電位となる。イオン源3内でプラズマが生成され、高周波電源20から高周波が供給されると、高周波電極8およびイオン源3の間と、高周波電極8およびダミー電極9の間に発生した高周波電場により、「イオンビーム」の一例としての引き出しビーム15が形成される。形成された引出しビーム15は、磁極10の磁場Bと、高周波加速電極8とダミー電極9の間隙7に発生する電場とによって加速され、螺旋状の周回軌道12を描きながら周回運動する。引出しビーム15は、間隙7を通過するごとに加速され、エネルギーを増加させながら所定のエネルギーまで加速された後、取り出し装置17により、主磁極1の外部へ取り出される。取出し装置17は、磁場および電場によって軌道を偏向するものである。
【0022】
次に、図4乃至図6を用いて、イオン源3の詳細を説明する。
【0023】
図4は、実施例1に係るイオン源周りのカソード挿入前の概略断図であり、図5は、実施例1に係るイオン源周りのカソード挿入後の概略断図であり、図6は、図5のイオン源の位置合わせ構造を示す概略断面図である。
【0024】
図4は、チムニー22をダミー電極9に固定し、カソード23及びカソード保持具28を上下方向からチムニー22内に挿入することでイオン源3を形成した場合の例である。図6は、カソード保持具28を挿入した際に位置決め及びチムニー22との絶縁支持をするためのテーパ構造を有したカソード固定具24の構造を示した場合の例である。図4の上部のカソード23及びカソード保持具28は、挿入前の状態を示したもので、挿入後は図4の下部のカソード23及びカソード保持具28の状態となる。上下のカソード23は、同じ形状でも異なる形状でもよい。
【0025】
図4のイオン源3は、電子を生成する一対のカソード23、チムニー22、一対の放電用電源21a,21bを備えるPIG(Penning Ionization Gauge)型のイオン源の例である。一対の放電用電源21a、21bは、それぞれ別電源を使用することも、一つの電源で共用することも可能であり、限定するものではない。
【0026】
ダミー電極9は、高周波加速電極8に対向あるいは平行に設置される。
【0027】
チムニー22は、円筒状に形成されている。チムニー22の周壁における高周波加速電極8側は、引き出しビーム15を引き出す引出孔29が設けられている。チムニー22の引出孔29に対向する内周面には、引出孔29側に向かって膨出する膨出部30が形成されている。
【0028】
チムニー22は、ダミー電極9に接触子Cを介して固定される。接触子Cは、チムニー22とダミー電極9とを電気的に接続する。チムニー22と高周波電極8との間隔は、引き出しビーム15の発散が小さくなるような加速電界を形成するように設定される。
【0029】
カソード23の一端部は、カソード保持具28に保持される。一対のカソード保持具28に保持された一対のカソード23は、チムニー22の両側の開口から挿入方向Iに沿ってチムニー22内部にそれぞれ挿入されると、それぞれのカソード23が相互に対向して配置される。チムニー22内部に挿入されたカソード23の先端部は、カソード23の挿入方向Iで膨出部30と重ねられる。
【0030】
カソード保持具28は、チムニー22に固定されるカソード固定具24に支持される。カソード固定具24は、チムニー22内に挿入されたカソード保持具28を位置決めするとともに、チムニー22との間を絶縁する。さらに、カソード保持具28は、冷却構造を有し、カソードの過熱による異常損傷を防止している。
【0031】
チムニー22は、プラズマを閉じ込める役割と、加速電界を形成する役割があり、カソード23とチムニー22間の放電によってプラズマが形成される。このため、チムニー22は、アノードと呼ばれることもある。
【0032】
カソード23は、電子放出が起きやすい材料で、例えばタングステン(W)およびランタンヘキサボライド(LaB6)などである。しかし、カソード23の材質は、特に限定するものではない。さらに、カソード23は、加熱しない冷陰極でも、電流を流して強制的に加熱して電子を放出するタイプの熱陰極でも構わない。ただし、カソード23の寿命は、冷陰極のほうが良好である。チムニー22は、熱に強い材料で、タンタル(Ta)、または熱伝導の良い銅(Cu)が好適である。しかし、チムニー22の材質は、特に限定するものではない。
【0033】
カソード固定具24は、絶縁物で構成され、アルミナ(Al2O3)およびボロンナイトライド(BN)などである。しかし、カソード固定具24の材質は、高温に耐え、絶縁性の高い材質であれば、特に限定はされない。
【0034】
イオン源3は、カソード23から電子を放出する。カソード23は、生成されたプラズマおよびチムニー22との放電により損傷を受ける。損傷を受けたカソード23では、安定したプラズマ生成が難しくなる。このため、定期的にカソード23を交換する必要がある。チムニー22を含んだイオン源3ごと交換する場合には、交換後にチムニー22と高周波電極8との位置調整が必要であり、その調整時間が装置稼働率に影響を与える。チムニー22は、これまでの試験結果などから、カソード23ほどの損傷はなく、カソード23と同じ周期で交換する必要がないと判断されることから、カソード23だけを交換することが可能である。さらに、カソード23の位置は、チムニー22と高周波電極8間の距離に影響を及ぼさないため、据え付け精度に尤度があるとともに、引き出しビーム15の発散に影響がない。このため、メンテナンスによるカソード23交換後の再調整が容易になる。
【0035】
図6は、図5のイオン源の位置合わせ構造を示す概略断面図である。
【0036】
カソード保持具28とチムニー22との位置決め及び絶縁支持するためのテーパ構造を有したカソード保持具28とカソード固定具24の構造について説明する。
【0037】
カソード固定具24には、カソード23が挿入される挿入孔31が設けられている。挿入孔31の開口縁には、カソード23の挿入方向Iとは反対側に向かって拡径するテーパ面32が形成される。カソード保持具28の基部には、挿入孔31への挿入時にテーパ面32に対向するテーパ面33が形成される。このようなテーパ構造によって、カソード23のチムニー22への挿入時にそれぞれのテーパ面32,33が接触し、カソード23をチムニー22の規定の位置に精度よく設置することができる。なお、テーパ構造を設けなくとも、挿入孔31の穴径を制限することで位置決めすることも可能である。テーパ構造は、カソード23チムニー22に挿入するときのガイドとしても動作する。
【0038】
イオン源3は、以下のように動作し、イオンビームのもととなるプラズマを生成する。まず、放電用電源21a、21bによってカソード23とチムニー22間に電圧を印加する。カソード23をチムニー22に対して負電位にすることで、電子がチムニー22に向かって放出される。チムニー22には、ガス導入管27が接続されており、ガス導入管27を介してチムニー22内に試料ガス25が供給される。放出された電子と試料ガス25によってプラズマが生成され、チムニー22の周壁に設けられたイオンビーム引き出し用の引出孔29から、高周波電極8とチムニー22の間に生成される加速電界によって引き出しビーム15が形成される。この際、磁極10で発生した磁場Bにより、電子はらせん運動を行うことでチムニー22内での滞在時間が延び、よりプラズマ生成効率が上昇する。
【0039】
次に、本実施例の効果について説明する。
上述した本実施例のイオン源3は、主磁極1内の加速空洞Aから引き出しビームを引き出すイオン源3である。イオン源3は、チムニー22と、一対のカソード23とを備える。チムニー22は、加速空洞Aに固定される。一対のカソード23は、チムニー22の両側からそれぞれ挿入されて相互に対向して配置される。
【0040】
これにより、カソード23の損傷時にはカソード23だけを交換することができる。この結果、イオン源3のメンテナンス性を高めることができる。
【0041】
さらに、引き出しビーム15を加速させる高周波加速電極8と、高周波加速電極8に対向または並行に配置されるダミー電極9とを備え、チムニー22は、ダミー電極9に接触子Cを介して電気的に接続される。これにより、プラズマを生成するためのイオン源3内のカソード23を交換した場合でも、チムニー22と高周波電極8間を再度組み立てていないために、電極間隔の変動がなく、引き出しビーム15の軌道再調整のためのチムニー22の位置調整が不要となる。
【0042】
さらに、チムニー22は、円筒状に形成されており、チムニー33の周壁における高周波加速電極8側には、引き出しビーム15を引き出す引出孔29が設けられる、これにより、チムニー22が周回軌道上で分断されることがないため、加速電界の乱れが起きにくく、周回ビームの電流損失も少なくなり、引き出しイオンビーム15の利用効率が向上できる。
【0043】
さらに、チムニー22の引出孔29に対向する内周面には、引出孔29に向かって膨出する膨出部31が形成されており、カソード23の先端部は、カソード23の挿入方向Iで膨出部31と重ねられる。これにより、引出孔29に膨出部31が近づき、電流値を高めることができる。
【0044】
さらに、チムニー22は、円筒状に形成されており、両側の開口から一対のカソード23がそれぞれ挿入される。これにより、チムニー22が周回軌道上で分断されることがないため、加速電界の乱れが起きにくく、周回ビームの電流損失も少なくなり、イオンビームの利用効率が向上できる。
【0045】
さらに、カソード23の一端を保持するカソード保持具28と、カソード23が挿入される挿入孔31が設けられ、挿入孔31にカソード23が挿入されたときのカソード保持具28を支持するカソード固定具24と、を備え、挿入孔31のカソード挿入方向Iとは反対側の開口には、挿入方向Iとは反対側に向かって拡径するテーパ面32が形成される。これにより、カソード23をテーパ面32で案内しながらチムニー22に挿入することができるとともに、チムニー22に挿入したカソード23の位置精度を高めることができる。さらに、カソード保持具28の構造を簡略化できるため、特許文献1に記載のような従来の内部イオン源よりもカソード23の交換が容易であり、再組立が容易となり、組み立て時間が短縮でき、装置の稼働率を向上することができる。
【0046】
さらに、カソード保持具28には、テーパ面32に対向するテーパ面33が形成される、これにより、カソード23の挿入案内と位置精度をより高めることができる。
【0047】
円形加速器50は、イオン源3を備える。これにより、装置の立ち上げが短時間でできるため、装置の稼働率を向上できる円形加速器を提供することができる。
【実施例0048】
実施例2は、カソード保持具28と、カソード23と、カソード固定具24と、アノード電極64とを一体としてチムニー22に挿入する構造としたイオン源63の例を示す。なお、以下の説明において、実施例1と同一の構成要素については、同一符号を付し、その説明を簡略化する。
【0049】
図7は、実施例2に係るイオン源周りのカソード挿入前の概略断面図であり、図8は、実施例2に係るイオン源周りのカソード挿入後の概略断面図である。
【0050】
イオン源63は、「アノード」の一例としてのアノード電極64を備える。アノード電極64は、カソード保持具24を介してカソード23の外周側に取り付けられる。アノード電極64は、チムニー22内に挿入される筒部65と、筒部の一端から外側に広がるフランジ部66とを有する。アノード電極64は、チムニー22と同じ電位とする。さらに、アノード電極64の材質も、チムニー22と同様にタンタル(Ta)または銅(Cu)などで形成する。
【0051】
カソード保持具28と、カソード23と、カソード固定具24と、アノード電極64とを一体とした構造物を挿入するチムニー22の端部には、カソード固定具24と同様にテーパ構造を設けて位置決めをしてもよい。即ち、チムニー22の開口縁には、カソード23の挿入方向Iとは反対側に向かって拡径するテーパ面が形成されてよい。これにより、カソード保持具28と、カソード23と、カソード固定具24と、アノード電極64とを一体としてテーパ面で案内しながらチムニー22に挿入することができるとともに、チムニー22に挿入したカソード23の位置精度を高めることができる。さらに、アノード電極64には、チムニー22への挿入時にチムニー22のテーパ面に対向するテーパ面が形成されてよい。これにより、カソード保持具28と、カソード23と、カソード固定具24と、アノード電極64とを一体とした挿入案内と位置精度をより高めることができる。
【0052】
アノード電極64は、チムニー22の損傷を受けやすい部分に設けることで、チムニー22の損傷をさらに抑えることができる。損傷しやすいアノード電極64は、カソード23と一緒に交換可能である。しかし、アノード電極64は、チムニー22とは分離されているため、チムニー22と高周波電極8の位置は変更されることがない。したがって、加速電界に影響を与えないため、カソード23交換後の引き出しビーム15の再調整は不要となる。その他の構造、動作については、図4,5を用いて説明した内容と同様であり、省略する。
【0053】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えことが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0054】
例えば、図4乃至図8は、上下ともに同様の構造である。さらに、実施例1,2は、主磁極1の上部及び下部からカソード23をそれぞれ挿入した例である。しかし、カソード23は、主磁極1の横からそれぞれ挿入しても、同様の動作が可能である。さらに、チムニー22内には、少なくとも1つのカソード23が挿入可能に配置される構成でもよい。
【0055】
さらに、円形加速器50の型は、磁極10に凹凸を設けた磁極を有するサイクロトロン型の加速器、または磁極10の中心から傾斜した磁極と高周波加速の周波数を変調するシンクロサイクロトロン型の加速器としても、同様の効果が得られる。
【0056】
シンクロサイクロトロン型の加速器とは、サイクロトロンを改良した加速器の一種であり、大型磁極間で円運動する荷電粒子に周波数変調した高周波電場を加えて繰返し加速する。また、光速では、加速された粒子の質量が相対論的効果によって増加し、磁場内の荷電粒子の円運動の周期は、質量に比例して増加する。これによって起こる高周波電圧との周期のずれを、周波数を変調することによって取り除いている。
【0057】
シンクロサイクロトロン型の加速器も、構成がサイクロトロン型の加速器と同様の構成であることから、イオン源3を主磁極1内に配置することができ、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0058】
1…主磁極、3…イオン源、8…高周波加速電極、9…ダミー電極、15…引き出しビーム、22…チムニー、23…カソード、24…カソード固定具、28…カソード保持具、29…引出孔、30…膨出部、31…挿入孔、32…テーパ面、33…テーパ面、43…イオン源、44…アノード、50…円形加速器、52…ビーム輸送系、54…照射装置、63…イオン源、64…アノード電極、100…粒子線治療システム、A…加速空洞、C…接触子、I…挿入方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8