IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特開2024-148159マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法
<>
  • 特開-マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法 図1
  • 特開-マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法 図2
  • 特開-マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法 図3
  • 特開-マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148159
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20241009BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241009BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L101/00
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053145
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023060859
(32)【優先日】2023-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA50
4F070AB08
4F070AB11
4F070AB26
4F070AC04
4F070AC55
4F070AC73
4F070AD02
4F070AE01
4F070AE07
4F070AE30
4F070FB03
4F070FC06
4J002AA001
4J002BG02Z
4J002BN15Y
4J002CG00X
4J002DA016
4J002EW157
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD137
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、再生プラスチックを製造するために用いられるマスターバッチを提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂組成物と混合することにより、前記樹脂組成物に特定の機能を付与するマスターバッチであって、
前記マスターバッチは、下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするマスターバッチ。
(A)熱可塑性樹脂
(B)前記樹脂組成物に前記特定の機能を付与する機能付与剤
(C)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から回収されたリサイクル炭素繊維
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物と混合することにより、前記樹脂組成物に特定の機能を付与するマスターバッチであって、
前記マスターバッチは、下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするマスターバッチ。
(A)熱可塑性樹脂
(B)前記樹脂組成物に前記特定の機能を付与する機能付与剤
(C)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から回収されたリサイクル炭素繊維
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がバージン材である、請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
前記リサイクル炭素繊維が、ミルドファイバーである、請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
樹脂組成物と、請求項1に記載のマスターバッチと、の混合物を基材とする再生プラスチックであって、曲げ弾性率が少なくとも8,000(MPa)である、再生プラスチック。
【請求項5】
前記樹脂組成物が回収プラスチックを含む、請求項4に記載の再生プラスチック。
【請求項6】
前記樹脂組成物がバージン材である、請求項4に記載の再生プラスチック。
【請求項7】
難燃性が、UL94規格のV-1である、請求項4に記載の再生プラスチック。
【請求項8】
樹脂組成物と、下記成分(A)~(C)を含むマスターバッチと、を混合することを特徴とする再生プラスチックの製造方法。
(A)熱可塑性樹脂
(B)前記樹脂組成物に特定の機能を付与する機能付与剤
(C)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から回収されたリサイクル炭素繊維
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂がバージン材である、請求項8に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項10】
前記リサイクル炭素繊維が、ミルドファイバーである、請求項8に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂組成物が回収プラスチックを含む、請求項8に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物がバージン材である、請求項8に記載の再生プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチ、再生プラスチック、及び、再生プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター用途などに使用されるプラスチック材料として、従来は新品のプラスチック(バージンプラスチック)を使用してきたが、近年では、環境的な側面より、一度使用されたプラスチックを回収してもう一度使用する、再生プラスチックが多く利用されている。
【0003】
再生プラスチックは、各業種より回収された回収プラスチックをベースとして、品質の向上を目的として添加剤を加えることで、もう一度使用できる状態にすることが一般的である。
【0004】
それに対して、近年では、「リサイクル」なる語が本来有する概念、すなわち、再生前の材料が本来有する特性とほぼ同等の特性を再生後の材料においても達成する、いわゆるクローズドリサイクルが求められている。また、リサイクルの際に、本来の特性を維持することに加えて、さらなる特性を材料に付加できることが、循環型社会の構築促進のために好ましいポイントの1つとなっている。
【0005】
クローズドリサイクルの形態としては、例えば、マルチファンクショナルプリンター(以下、MFPともいう)を例にとると、市場から回収される自社の製品からプラスチック部品などを回収し、その回収プラスチックをベースとして、品質の向上を目的として添加剤を加え、再生プラスチックを製造し、この再生プラスチックを用いて製品を製造するというものがある。これは、自社製品のプラスチックを回収し、再度、新品の自社製品をつくる循環型のリサイクルである。
【0006】
特許文献1には、廃家電からプラスチック製部材を回収し、該プラスチック製部材を粉砕し、前記粉砕物を湿式の異物除去工程に通し、風力選別、浮沈選別、遠心脱水選別の順に該粉砕物の異物を除去し、前記異物除去を行った粉砕プラスチックに酸化防止剤を含む添加剤を加えて得て再生プラスチックを製造することが記載されている。
【0007】
特許文献2には、リサイクルプラスチックである芳香族ポリカーボネート樹脂系成形品破砕物(a1)を含有する芳香族ポリカーボネート成分(A)に、流動性向上剤(B)が配合された樹脂組成物であって、前記流動性向上剤(B)が、芳香族ビニル単量体(b1)0.5~99.5質量%、特定の構造を有する単量体(b2)0.5~99.5質量%、および他の単量体(b3)0~40質量%からなる単量体混合物[ただし、単量体(b1)~(b3)の合計は100質量%である。]を重合して得られる重合体であるリサイクル樹脂組成物が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、例えば、MFPについてクローズドリサイクルを実現するには、使用済みのMFPからプラスチックを回収し、回収プラスチックから再生プラスチックを製造し、再生プラスチックからプラスチック製品を製造する。
しかしながら、一般的に、回収プラスチックから再生プラスチックを製造する工場と、再生プラスチックからプラスチック製品を製造する工場とは距離的に離れており、材料の搬送のために時間を要するので、製品の納期の遅れや、納期が定まらないという納期に関する問題がある。
【0009】
本発明は、使用済みのプラスチックを含む製品から、プラスチックを回収し、回収したプラスチックを再生プラスチック化し、再生プラスチックから製品を製造する際に、資源循環活動に貢献し、曲げ強さ、引っ張り強さに優れた製品を短納期で提供できるマスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下に記載する通りのものである。
樹脂組成物と混合することにより、前記樹脂組成物に特定の機能を付与するマスターバッチであって、前記マスターバッチは、下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするマスターバッチ。
(A)熱可塑性樹脂
(B)前記樹脂組成物に前記特定の機能を付与する機能付与剤
(C)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から回収されたリサイクル炭素繊維
【発明の効果】
【0011】
本発明のマスターバッチを使用することで、プラスチックを含む製品から、プラスチックを回収し、回収したプラスチックを再生プラスチック化し、再生プラスチックから製品を製造する際に、資源循環活動に貢献し、曲げ強さ、引っ張り強さに優れた製品を短納期で提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、従来のリサイクル方法を説明する図である。
図2図2は、本発明のリサイクル方法を説明する図である。
図3図3は、本発明のリサイクル方法を説明する図である。
図4図4Aは、従来の再生プラスチックの構成を示す模式図であり、図4Bは、本発明における再生プラスチックの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について説明する。
以下では、成品から回収されたプラスチックを「回収プラスチック」といい、「回収プラスチック」に添加剤を配合して品質を向上させたものを「再生プラスチック」という。
【0014】
出願人会社では、循環型のリサイクルをこれまでに継続して実施しており、自社の製品で、使用済みのMFP(マルチファンクショナルプリンター)などを回収し、手作業でプラスチック部品を選別し、回収されたプラスチックをもう一度使用する、プラスチック・クローズドループ・マテリアル・リサイクル(PCMR)と呼称される再生プラスチック材の資源循環活動を既に行っている。
【0015】
しかし、今までの、出願人会社製品の使用済みのMFPを回収し、再生材化するプラスチック・クローズドループ・マテリアル・リサイクル(PCMR)の資源循環活動は、上記したような納期の問題が大きかった。
【0016】
納期の問題が発生する理由を、図1に基づいて述べる。
図1においてA、B、Cは次のものを表す。
A:使用済みのMFPから回収されたプラスチックを集積し、回収プラスチックを製造する回収工場
B:回収工場から搬送された回収プラスチックから再生プラスチックを製造する再生工場
C:再生工場から搬送された再生プラスチックから、プリンター部品を製造する部品製造工場
なお、図面上のA、B、Cの配置関係は地図上の配置関係を表している。
【0017】
リサイクルは次のようなフローで行われる。
まず、使用済みのMFPから回収されたプラスチックを、回収工場Aに集積する。回収工場Aでは回収されたプラスチックから回収プラスチック1を製造する。
例えば、全国から回収される使用済みのMFPを、A1、A2、A3の複数の回収工場Aに集めることもできる。
次に、回収プラスチック1を、再生工場Bに搬送する。再生工場Bでは、回収プラスチック1に添加剤を加えて、回収プラスチック1の品質を向上させ、もう一度製品として使用できる状態にした再生プラスチック10を製造する。
【0018】
さらに、品質が向上され、もう一度使用できる状態にした再生プラスチック10からMFP部品を製造する目的で、再生プラスチック10をMFP部品を製造する部品製造工場Cに搬送する。
【0019】
すなわち、プラスチック・クローズドループ・マテリアル・リサイクル(PCMR)の資源循環活動は次の(1)~(3)のフローで行われる。
(1)使用済みのMFPから回収されたプラスチックを回収工場に集積し、回収工場で回収プラスチックを製造する。
(2)回収プラスチックを回収工場Aから再生工場Bに搬送し、再生工場Bで再生プラスチックを製造する。
(3)再生プラスチックを再生工場Bから、プリンター部品を製造するための部品製造工場Cへ搬送し、部品製造工場Cで再生プラスチックからプリンター部品を製造する。
【0020】
上記のようにプラスチックの回収→プラスチックの再生→再生プラスチックからの部品の製造の過程では、搬送作業が多く、搬送に日数がかかるため、納期が遅れる、納期が定まらないという問題があった。
【0021】
従来の再生プラスチック製造における材料のフローを図1及び図4Aを参照して説明する。
回収工場Aで製造された回収プラスチック1は再生工場Bに搬送され、再生工場Bで回収プラスチック1に機能付与剤2を配合して再生プラスチック10が製造される。これらの機能付与剤が回収プラスチック1に配合されることによって、品質が向上した再生プラスチック10を製造することができる。そして、この再生プラスチック10を部品製造工場Cに搬送して、部品製造工場Cで、プリンターなどの部品を作ることができる。
【0022】
機能付与剤としては、例えば次の(1)~(3)を挙げることができる。
(1)衝撃改良剤:衝撃強度を向上させる添加剤
(2)難燃剤:再生プラスチックを難燃化させる(燃えにくくする)添加剤
(3)リサイクル炭素繊維:機械強度(曲げ強さ、引っ張り強さ)を向上させる添加剤
【0023】
しかしながら、図1に示した再生プラスチックの製造フローでは、上記したように回収、再生、部品製造において搬送作業が多く、搬送に日数がかかるものであった。
図4Aは、図1の再生工場Bで製造された再生プラスチック10を模式的に示したものである。
【0024】
図2は本発明のマスターバッチを使用して部品を製造する際のリサイクルのフローの一例を示したものである。
まず、使用済みのプラスチック製品から回収されたプラスチックを、一旦、回収工場A(A1、A2、A3)に集積する。回収工場Aでは回収されたプラスチックから回収プラスチック1を製造する。回収工場Aで製造された回収プラスチック1は回収工場Aから再生工場B'に搬送される。
なお、再生工場B’と部品製造工場Cとは搬送に負担がかからない程度の距離を置いて配置することができる。
【0025】
一方、新たに、熱可塑性樹脂4に機能付与剤2及びリサイクル炭素繊維3を配合してマスターバッチ5を製造するマスターバッチ製造工場Dを設ける。マスターバッチ製造工場Dで製造されたマスターバッチ5を再生工場B’に搬送する。
【0026】
再生工場B’では、回収プラスチック1と、マスターバッチ5とを混練して再生プラスチック10を製造し、部品製造工場Cで再生プラスチック10から部品を製造する。
再生工場B'は、回収プラスチック1とマスターバッチ5とを単に混練(材料のブレンド)するだけで再生プラスチックを製造することができるので、従来の再生工場よりも設備が簡便なものとなる。
【0027】
図4Bは、本発明のマスターバッチ5を用いて製造した再生プラスチック10を模式的に示したものである。
本発明のマスターバッチ5は熱可塑性樹脂4と、機能付与剤2と、リサイクル炭素繊維3と、を混合することによって得られる。
なお、リサイクル炭素繊維3は機能付与剤2であるといえるが、本発明のマスターバッチ5はリサイクル炭素繊維3を必須成分としているので、機能付与剤2には含めない。
【0028】
再生プラスチック10は、再生プラスチック10のベースとなる樹脂組成物1に本発明のマスターバッチ5とを混合することにより製造される。
後述するが、樹脂組成物1としては、回収プラスチックまたは回収プラスチックを含む樹脂組成物であることが望ましいが、回収プラスチックが量的に不足する場合にはバージン材を用いることができる。
本発明においては、樹脂組成物がバージン材である場合でも、これにマスターバッチを配合して得られる樹脂組成物を再生プラスチックという。
以下では、樹脂組成物1として回収プラスチック1を用いた場合を例にとって本発明を説明する。
【0029】
回収工場Aで製造された回収プラスチック1は、再生プラスチック10を製造する再生工場B’に集められ、また、マスターバッチ製造工場Dで製造されたマスターバッチ5も同様に再生工場B’に集められる。
そして、再生工場B’では回収プラスチック1とマスターバッチ5とを混練して、再生プラスチック10を製造する。
上記のように、本発明のマスターバッチ5を用いることにより、回収プラスチック1とマスターバッチ5とをそれぞれ個別に再生工場B’に送り、マスターバッチ5と回収プラスチック1とを単に混練(材料のブレンド)するだけで再生プラスチックを製造することができる。
これにより、回収プラスチック1に機能付与剤を配合して再生プラスチック10を製造していた既存の再生工場は不要となる。
【0030】
図2においては、再生工場B’と部品製造工場Cとを近接して配置した例を示した。
図3は、再生工場B’と部品製造工場Cとを同一敷地内に配置した再生・部品製造工場C’を設けた例を示す。
回収工場Aで製造された回収プラスチック1は、再生プラスチック10を製造する再生・部品製造工場C’の再生工場B’に集められ、また、マスターバッチ製造工場Dで製造されたマスターバッチ5も同様に再生工場B’に集められる。
そして、再生工場B’ではマスターバッチ5と回収プラスチック1とを混練して、再生プラスチック10を製造する。
【0031】
上記のように、本発明のマスターバッチ5を用いることにより、回収プラスチック1とマスターバッチ5とをそれぞれ個別に再生・部品製造工場C’に送り、マスターバッチ5と回収プラスチック1とを単に混練(材料のブレンド)するだけで再生プラスチックを製造することができる。
【0032】
このように、回収プラスチック1とマスターバッチ5とを混練するだけで再生プラスチック10を製造することができるので、このための再生工場は特別の設備を必要としない。したがって、国内の多くの箇所で再生工場を設置することが可能である。さらに、次工程の部品製造する工場の近くで再生プラスチックを製造することができるので、納期を短縮することができる。
また、マスターバッチ5と、回収プラスチック1とを、それぞれ個別に再生プラスチック10を製造する場所に送ることができるため、再生工場B'で回収プラスチック1の比率及び機能付与剤の比率を適宜に調節することができる。
【0033】
また、機能付与剤の1つである、リサイクル炭素繊維は、自動車の廃材から回収、生成されることが多い。そのため、本発明のマスターバッチを、例えば自動車会社が多い日本の名古屋などで作ることもできる。これにより、納期の短縮ができる。
【0034】
(マスターバッチ)
本発明のマスターバッチは(A)熱可塑性樹脂、(B)機能付与剤、及び、(C)リサイクル炭素繊維を含む。
(A)熱可塑性樹脂としては、新品のプラスチック材(バージン材)でも良いし、一部が、回収プラスチックでも良いし、全部が、回収プラスチックであっても良いが、新品のプラスチック(バージン材)を使用することが好ましい。
(A)熱可塑性樹脂としてバージン材を用いることが好ましい理由は、回収プラスチックは一度使用されて熱履歴があるために、一般的に品質のブレが大きいためである。特に、粘度のブレが大きい場合には、(A)熱可塑性樹脂中に(B)機能付与剤を均質に分散させることが難しくなり、マスターバッチとしての品質が低下し、結果的にマスターバッチを回収プラスチック1に混合して得られる再生プラスチック10中に機能付与剤を均質に分散させることができないからである。
(A)熱可塑性樹脂としてはPC/ABSを使用することが好ましい。
【0035】
<機能付与剤>
本発明のマスターバッチにおける(B)機能付与剤は、再生プラスチックの品質を向上させるための成分である。
(B)機能付与剤の例としては、前述したように以下の(B1)、(B2)が挙げられる。
(B1)衝撃改良剤、衝撃強度を向上させる添加剤
(B2)難燃剤、再生プラスチックを難燃化(燃えにくくする)させる添加剤
【0036】
機能付与剤について以下説明する。
(B1)衝撃改良剤
衝撃改良剤は衝撃強度を向上させる添加剤であり、一例としては、三菱ケミカル株式会社製の衝撃強度改質剤であるメタブレン(登録商標)があげられる。
メタブレンは粒子状のゴムの外部にグラフト層を持ったコアシェルタイプの耐衝撃改質剤であり、ゴムの成分を選択することで衝撃強度の他に耐候性などの性能を付与し、グレードによっては難燃性や、摺動性を付与する事ができる。
ゴムの材質としては、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合ゴムを使用している。
【0037】
なお、衝撃強度はシャルピー衝撃強度試験に準ずる
ISO179-1に準拠して、シャルピー衝撃試験機を用いて、衝撃試験を行う。
試験片にはノッチ(切れ目)を付け、シャルピー衝撃強度(kJ/m)が高い値であるほど、耐衝撃性に優れていると評価している
【0038】
(B2)難燃剤
難燃剤は、再生プラスチックを難燃化する(燃えにくくする)添加剤である。
難燃剤としては、ハロゲン系の難燃剤、リン系の難燃剤など、各種の難燃剤が使用できる。
難燃剤としては、リン系化合物が好ましく、ホスファゼン系化合物が好ましい。リン系化合物としては、ホスファゼン系化合物と、ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物を含有することが好ましい。
一例として、次のリン系化合物が使用できる。
・ホスファゼン系化合物:SPS100
(大塚化学社製、主成分として、6員環の環状構造を有し、その6個の側鎖全てがフェノキシ基である芳香族ホスファゼン化合物)
・リン酸エステル:PX-200
(大八化学工業株式会社製、芳香族縮合リン酸エステル、融点92℃以上)
【0039】
なお、難燃性試験は米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めるUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して、難燃試験を行なう。
試験片の厚みtの一例としては、1.5mmとし、UL94V試験を行い、「V-0」、「V-1」、「V-2」の判定を行う。
【0040】
<リサイクル炭素繊維>
リサイクル炭素繊維は下記の刊行物の表2-2に記載の「国内外のCFRP リサイクル事業化企業・研究機関」のリストに記載された企業、研究機関から入手することができる。
(刊行物)
令和2年度地球温暖化・資源循環対策等に資する調査委託費 リサイクル炭素繊維の利用・評価手法等に関する国際動向調査」2021年3月26日株式会社矢野経済研究所
リサイクル炭素繊維は、上記調査書の表2-2に記載のCFRP リサイクル事業化企業・研究機関より入手できる。
その一例として、カーボンファイバーリサイクル工業株式会社のリサイクル炭素繊維が使用できる。
リサイクル炭素繊維の形状としては繊維状(チョップド)のリサイクル炭素繊維でもよく、ミルドファイバーのリサイクル炭素繊維でもよい。
ミルドファイバーのリサイクル炭素繊維を用いた場合には最終的な製品形状とする際に収縮率の問題を生じない。
プリンターなどの製品に要求される品質を背景に、リサイクル炭素繊維は選択される。
【0041】
<熱可塑性樹脂>
(A)熱可塑性樹脂としては次のものが使用できる。
<<PC樹脂>>
ポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる、芳香族ホモポリカーボネート樹脂またはコポリカーボネート樹脂であってもよい。 芳香族二価フェノール系化合物の例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、および1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられ、これらを単独あるいは混合物として使用してもよい。
【0042】
<<ABS樹脂>>
ABS樹脂の製造方法は特に制限されないが、乳化状態のゴムに乳化状態のスチレン、アクリルニトリルの単量体を混ぜて重合させる乳化重合法;ゴムをスチレン、アクリルニトリルの単量体に溶解させて塊状重合させ、重合の途中でこの重合液を水中に懸濁させて懸濁重合条件下に重合を継続する塊状懸濁重合法等により製造することができる。 なお、PC樹脂、PVC樹脂、PBT樹脂等をアロイ化する際には、使用されるABS樹脂の特性に応じた重合方法が選択されるが、一般には、乳化重合法および塊状懸濁重合法のいずれの重合方法において製造されたABS樹脂でも、アロイ化は可能である。
【0043】
ポリカーボネート樹脂(PC)とABSは、PC/ABSの共重合体を使用しても良い。
また、PC/ABS回収材を使用する
回収材は、自社のプリンターなどの製品より回収されるプラスチックであるが、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電製品や使用済みのOA機器等の再生材を含んでいてもよい。
【0044】
また、本発明でのマスターバッチは、国内の生産拠点の観点から納期の短縮を効果といる。
リサイクル炭素繊維の原資は、自動車や航空機であり、その製造プロセスにおける廃材として、CFRPは回収され、それをリサイクルして使用する。
例えば日本では、中部地域が、航空機の国内最大の製造拠点であるとともに、自動車関連企業の国内最大の集積地であり、先進性を持つリサイクラーや大学・研究機関が存在するため、その近辺でマスターバッチを製造することがデリバリー(納期)の短縮につながる。
【0045】
(樹脂組成物)
樹脂組成物と本発明のマスターバッチと混練することで、再生プラスチックが製造される。
製造する再生プラスチックで、使用される樹脂組成物は、新品のプラスチック材(バージン材)でも良いし、一部が、回収プラスチックでも良いし、全部が、回収プラスチックでも良い。
なお、再生プラスチックでは、リサイクル炭素繊維がリサイクル品として使用されるため、「再生」と記載している
【0046】
(再生プラスチックを用いた製品)
再生プラスチックを用いて製造される製品としては、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器等の部材等が挙げられ、特に、衝撃機能、耐熱抑制を要する部材に好適に用いられる。
一例の再生プラスチックの成形体は、常法に従って射出成形することによって得ることができる。
【0047】
(マスターバッチの製造方法)
再生プラスチックは、本発明のマスターバッチと、樹脂組成物とを混錬することで製造することができる。
再生プラスチック中のマスターバッチの比率は、要求されるプリンターなどの製品の特性を実現するために適宜比率が選択できる。
【実施例0048】
以下では、一つの実施形態として、マスターバッチ20質量%と、樹脂組成物80質量%とをベース比率とした場合の再生プラスチック製造を例にとり説明する
【0049】
[マスターバッチの製造]
機能付与剤として下記の難燃剤、衝撃改良剤、リサイクル炭素繊維、及び、熱可塑性樹脂を用いた。
(難燃剤)
難燃剤として、大八化学工業株式会社製ホスファゼン化合物、リン酸エステル(PX-200)を使用した。
マスターバッチ中の難燃剤の含有量は5質量%以上25%質量%以下が適切である、が、ここは8質量%とした。
【0050】
(衝撃改良剤)
衝撃改良剤として、三菱ケミカル株式会社製、衝撃強度改質剤(メタブレン)を使用した。マスターバッチ中の衝撃改良剤の含有量は5質量%以上25質量%以下が適切であるが、ここは7質量%とした。
【0051】
(リサイクル炭素繊維)
リサイクル炭素繊維として、カーボンファイバーリサイクル工業株式会社製、リサイクル炭素繊維を使用した。
ここでは上記リサイクル炭素繊維をミルドファイバーとした製品を使用した。
マスターバッチ中のリサイクル炭素繊維の含有量は15質量%以上50質量%以下が適切であるが、ここでは25質量%とした。
【0052】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂として、三菱ケミカル株式会社製、PC/ABS(MB8700)を用いた。
マスターバッチ中の熱可塑性樹脂の含有量は20質量%以上75質量%以下が適切であるが、ここでは60質量%とした。
【0053】
(再生プラスチックの製造)
自社のプリンターなどに使用されるプラスチック部品を回収し、破砕して得られたものを[回収プラスチック]として用いた。
自社のプリンターなどに使用されるプラスチック部品は、主に、三菱ケミカル株式会社製、PC/ABS(MB8700)を使用した部品である。
[マスターバッチ]20質量%と、[回収プラスチック]80質量%とをベース比率とした場合の再生プラスチック製造を行った
上記の[マスターバッチ]と、[回収プラスチック]と、2軸押し出し型の混練機でブレンドし、[再生プラスチック]を製造した。
混練方法に関しては、常法の混練にて、混練温度は、熱可塑性樹脂MB8700の特性値をベースに250℃で実施した。
【0054】
[評価]
実施例で得られた[再生プラスチック]の品質を評価した結果を以下に示す。
曲げ強度 :100(MPa) 〔試験方法ISO178〕
曲げ弾性率 :8,000(MPa) 〔試験方法ISO178〕
シャルピー衝撃強度 :3.0(kJ/m) 〔試験方法ISO179〕
難燃性 :V-1 〔UL-94/1.5mm〕
荷重たわみ温度 :90(℃) 〔試験方法ISO75-2〕
流れ性(流動性) :15(g/10min) 〔MFR法〕
【0055】
本発明の態様は例えば以下のとおりである。
(1)樹脂組成物と混合することにより、前記樹脂組成物に特定の機能を付与するマスターバッチであって、
前記マスターバッチは、下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするマスターバッチ。
(A)熱可塑性樹脂
(B)前記樹脂組成物に前記特定の機能を付与する機能付与剤
(C)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から回収されたリサイクル炭素繊維
(2)前記熱可塑性樹脂がバージン材である、上記(1)に記載のマスターバッチ。
(3)前記リサイクル炭素繊維が、ミルドファイバーである、上記(1)又は(2)に記載のマスターバッチ。
(4)樹脂組成物と、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のマスターバッチと、の混合物を基材とする再生プラスチックであって、曲げ弾性率が少なくとも8,000(MPa)である、再生プラスチック。
(5)前記樹脂組成物が回収プラスチックを含む、上記(4)に記載の再生プラスチック。
(6)前記樹脂組成物がバージン材である、上記(4)に記載の再生プラスチック。
(7)難燃性が、UL94規格のV-1である、上記(4)乃至(6)のいずれか1項に記載の再生プラスチック。
(8)樹脂組成物と、下記成分(A)~(C)を含むマスターバッチと、を混合することを特徴とする再生プラスチックの製造方法。
(A)熱可塑性樹脂
(B)前記樹脂組成物に特定の機能を付与する機能付与剤
(C)炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から回収されたリサイクル炭素繊維
(9)前記熱可塑性樹脂がバージン材である、上記(8)に記載の再生プラスチックの製造方法。
(10)前記リサイクル炭素繊維が、ミルドファイバーである、上記(8)又は(9)に記載の再生プラスチックの製造方法。
(11)前記樹脂組成物が回収プラスチックを含む、上記(8)乃至(10)のいずれか1項に記載の再生プラスチックの製造方法。
(12)前記樹脂組成物がバージン材である、上記(8)乃至(11)のいずれか1項に記載の再生プラスチックの製造方法。
【符号の説明】
【0056】
1 樹脂組成物、回収プラスチック
2 機能付与剤
3 リサイクル炭素繊維
4 熱可塑性樹脂
5 マスターバッチ
10 再生プラスチック
A 回収工場
B、B’再生工場
C 部品製造工場
C’再生・部品製造工場
D マスターバッチ製造工場
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特開2005-254693号公報
【特許文献2】特開2006-206806号公報
図1
図2
図3
図4