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特開2024-148314光電変換素子の製造方法及び光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024148314
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】光電変換素子の製造方法及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20241010BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H01L31/10 H
G01J1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061348
(22)【出願日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】今村 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】堺 俊克
(72)【発明者】
【氏名】宮川 和典
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘人
【テーマコード(参考)】
2G065
5F149
【Fターム(参考)】
2G065BA02
2G065BA06
5F149BA04
5F149BA05
5F149CB05
5F149CB15
5F149FA02
5F149FA13
5F149XB04
(57)【要約】
【課題】暗電流を低減するとともに、光電変換によって得られた電荷の抽出効率を高めた光電変換素子の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】開示の技術の一態様に係る光電変換素子の製造方法は、基板上に第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に光電変換層を形成する工程と、前記光電変換層上に第2電極を形成する工程と、を含み、前記第2電極を形成する工程は、電子ビーム蒸着法によって、誘電体層を形成する工程と、イオンプレーティング法によって、透明導電層を形成する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に光電変換層を形成する工程と、
前記光電変換層上に第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記第2電極を形成する工程は、
電子ビーム蒸着法によって、誘電体層を形成する工程と、
イオンプレーティング法によって、透明導電層を形成する工程と、
を含む、
光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2電極を形成する工程において、前記誘電体層を形成する工程及び前記透明導電層を形成する工程をそれぞれ複数回ずつ行い、かつ、前記誘電体層を形成する工程と、前記透明導電層を形成する工程と、を交互に行う、
請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記誘電体層の厚さは、5nm以上100nm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記透明導電層の厚さは、1nm以上50nm以下である、
請求項1又は請求項2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に配置された第1電極と、
前記第1電極上に配置された光電変換層と、
前記光電変換層上に配置された第2電極と、
を備え、
前記第2電極は、積層された誘電体層及び透明導電層を備える、
光電変換素子。
【請求項6】
前記第2電極は、複数の前記誘電体層及び複数の前記透明導電層を備え、
前記誘電体層と、前記透明導電層とが、交互に積層されている、
請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記誘電体層は、前記透明導電層の正電荷を電気的に中和する中和電子を含む、
請求項5又は請求項6に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光電変換素子の製造方法及び光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラやデジタルカメラ等に用いられる撮像素子等の光電変換素子として、光電変換素子を複数用いてカラー画像を取得する多板式のものと、光電変換素子を1枚のみ用いてカラー画像を取得する単板式のものが知られている。
【0003】
多板式の光電変換素子では、色分解プリズムによって、入射光を赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色に分離し、複数の光電変換素子により各色の画像を得る。入射光を効率よく利用でき、高品質な画像が得られる。しかしながら、色分解プリズムを用いるため、光電変換素子の小型化に改善の余地がある。
【0004】
一方、単板式の光電変換素子では、1つの光電変換素子にRGBのカラーフィルタを面内配置し、各色を分離するため、光電変換素子の小型化が可能である。しかしながら、入射光のうち特定の波長域の光以外を吸収するカラーフィルタを用いるため、多板式の光電変換素子と比べて、光の利用効率が低く、光電変換素子により撮像される画像の品質が低下し得る。
【0005】
多板式と単板式には一長一短があり、光電変換素子の高画質化と小型化の両立が求められている。このような状況下、高画質化と小型化の両立を目的として、RGBの各色の光に感度をもつ光電変換層と光透過型の薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)を用いた読出回路を交互に積層した光電変換素子が提案されている。
【0006】
具体的には、1枚のガラス基板上に3層の有機光電変換層及びTFTを交互に直接積層したもの(特許文献1参照)や、ガラス基板上に、有機光電変換層とTFTを成膜した光電変換素子を3枚積層したもの(特許文献2参照)、最下部の光電変換層及び読出回路をCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)センサに置き換えたもの(特許文献3参照)が開示されている。
【0007】
ところで、光電変換によって生成された電荷を外部に取り出すため、光電変換層は、2つの電極で挟まれる。2つの電極として、透明導電膜を含む透明電極が用いられる。透明電極を形成する方法の1つに、密着性や耐久性に優れた皮膜を成膜可能なイオンプレーティング法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-217474号公報
【特許文献2】特開2005-51115号公報
【特許文献3】特開2019-102623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
イオンプレーティング法によって透明電極を形成する場合、蒸着材から光電変換層の表面に達したイオン電荷によって、光電変換素子のチャージアップが引き起こされる場合がある。光電変換素子のチャージアップにより、暗電流が増え、光電変換素子のS/N(Signal to Noise ratio)が低下し得る。一方、光電変換素子のチャージアップを避けるため、透明電極の成膜時間や成膜速度を小さくすると、所定の膜厚の透明電極が得られず、導電率が低下し得る。
【0010】
開示の技術は、暗電流を低減するとともに、光電変換によって得られた電荷の抽出効率を高めた光電変換素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の技術の一態様に係る光電変換素子の製造方法は、基板上に第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に光電変換層を形成する工程と、前記光電変換層上に第2電極を形成する工程と、を含み、前記第2電極を形成する工程は、電子ビーム蒸着法によって、誘電体層を形成する工程と、イオンプレーティング法によって、透明導電層を形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、暗電流を低減するとともに、光電変換によって得られた電荷の抽出効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る光電変換素子の断面図である。
図2】第1実施形態に係る下部電極を形成する工程を説明するための断面図である。
図3】第1実施形態に係る光電変換層を形成する工程を説明するための断面図である。
図4】第1実施形態に係る誘電体層を形成する工程を説明するための断面図である。
図5】第1実施形態に係る誘電体層を形成するための電子ビーム蒸着装置の構成を示す模式図である。
図6】第1実施形態に係る透明導電層を形成する工程を説明するための断面図である。
図7】第1実施形態に係る透明導電層を形成するためのイオンプレーティング装置の構成を示す模式図である。
図8】第2実施形態に係る光電変換素子の断面図である。
図9】第2実施形態に係る第2誘電体層を形成する工程を説明するための断面図である。
図10】第2実施形態に係る第2透明導電層を形成する工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。各図面において、同一の部材には同一の符号を付す場合がある。また、各図面の説明において、既に説明した部材と同一の構成部についての説明を適宜省略する。
【0015】
各図面において、方向表現として、X軸、Y軸及びZ軸を有する直交座標を用いる。X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する。X軸に沿うX方向は、実施形態に係る光電変換素子の幅方向を示すものとする。Y軸に沿うY方向は、実施形態に係る光電変換素子の奥行き方向を示すものとする。Z軸に沿うZ方向は、実施形態に係る光電変換素子に含まれる第1電極、光電変換層及び第2電極が積層される方向を示すものとする。X方向及びY方向を「面内方向」という場合がある。Z方向を「面直方向」という場合がある。ただし、これらのことは、実施形態に係る光電変換素子の使用時における向きを制限するものではなく、実施形態に係る光電変換素子の向きは任意である。
【0016】
[第1実施形態]
<光電変換素子の構成>
第1実施形態に係る光電変換素子の製造方法について説明する。まず、図1を参照して、第1実施形態に係る光電変換素子の製造方法によって製造される光電変換素子1の構成を説明する。図1は、光電変換素子1をXZ平面で切断した断面図である。
【0017】
図1に示すように、光電変換素子1は、基板10と、下部電極20と、光電変換層30と、上部電極40と、を備える。下部電極20は「第1電極」に対応する。上部電極40は「第2電極」に対応する。
【0018】
基板10、下部電極20、光電変換層30、上部電極40は、面直方向の下方側から、この順に積層される。光電変換素子1において、入射光は、基板10側から入射してもよいし、上部電極40側から入射してもよい。
【0019】
基板10は、光電変換素子1の土台となる平板状の部材である。基板10として、ガラス基板、石英基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、水晶基板、シリコン基板、ゲルマニウム基板、ポリエチレン基板、ポリエチレンテレフタレート基板、ポリカーボネート基板等が挙げられる。これらの中で、強度と透光性を有するガラス基板又は石英基板が基板10として好ましい。ただし、基板10の種類は、これらに限定されない。
【0020】
下部電極20は、基板10上に配置される。光電変換素子1が撮像素子に適用される場合、下部電極20は、対向電極と称される電極に対応する。下部電極20は、外部電源に接続され、光電変換層30に電圧を印加する。
【0021】
下部電極20は、透明導電膜を含む透明電極であることが好ましい。透明導電膜として、酸化インジウム系、酸化スズ系、酸化亜鉛系等の薄膜が挙げられる。酸化インジウム系の透明導電膜として、スズをドーパントとして含むITO(Tin-doped Indium Oxide)膜が挙げられる。酸化スズ系の透明導電膜として、アンチモンをドーパントとして含むATO(Antimony-doped Tin Oxide)膜、フッ素をドーパントして含むFTO(Fluorine-doped tin oxide)膜が挙げられる。酸化亜鉛系の透明導電膜として、アルミニウムをドーパントとして含むAZO(Aluminum-doped Zinc Oxide)膜、ガリウムをドーパントとして含むGZO(Gallium-Doped Zinc Oxide)膜が挙げられる。この中で、導電性や透光性に優れるITO膜やFTO膜が好ましい。下部電極20は、これら2種以上の混合体や積層体であってもよい。ただし、下部電極20は、これらに限定されない。
【0022】
下部電極20の厚さは、導電性を確保する等の観点から、5nm以上であることが好ましい。また、下部電極20の厚さは、歩留まりの低下や透光性を確保する等の観点から150nm以下であることが好ましい。ただし、下部電極20の厚さは、これらに限定されない。
【0023】
光電変換層30は、下部電極20上に配置される。光電変換層30は、光電変換層30を構成する材料に応じて、特定波長の光を吸収し、電荷に変換する。光電変換層30として、特定波長の光を選択的に吸収する波長選択性及び光電変換特性に優れた有機材料を含んで構成される層が挙げられる。
【0024】
有機材料として、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物等の化合物及びこれらの化合物の類縁体;カルバゾール誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ペンタセン誘導体、フェニルブタジエン誘導体、スチリル誘導体、キノリン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポルフィリン誘導体、ボロンジピロメテン誘導体、フラーレン誘導体、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体等の誘導体;並びに金属錯体(In錯体、Ir錯体、Pt錯体、Eu錯体など)が挙げられる。
【0025】
下部電極20と上部電極40との間の短絡を防止しつつ光電変換効率を高める等の観点では、光電変換層30の厚さは、10nm以上であることが好ましい。一方、歩留まりの低下やコストの上昇を防ぐ観点等では、光電変換層30の厚さは、1μm以下であることが好ましい。ただし、光電変換層30の厚さは、これらに限定されない。
【0026】
光電変換層30は、上述した材料のうち2種以上の混合体や積層体であってよい。光電変換層30は、有機材料に限定されず、無機材料を含んでもよい。無機材料として、各種半導体材料、誘電体材料等が挙げられる。
【0027】
上部電極40は、光電変換層30上に配置される。光電変換素子1が撮像素子に適用される場合には、上部電極40は画素電極と称される。上部電極40は、読出回路に接続され、光電変換層30で変換された電荷に基づく電気信号を読出回路に出力する。
【0028】
図1に示すように、上部電極40は、誘電体層50と、透明導電層60と、を含む。誘電体層50及び透明導電層60は、面直方向に積層される。図1に示される例では、誘電体層50が光電変換層30上に配置され、透明導電層60が誘電体層50上に配置されている。ただし、誘電体層50と透明導電層60との位置関係はこれに限定されず、透明導電層60が光電変換層30上に配置され、誘電体層50が透明導電層60上に配置されてもよい。
【0029】
上部電極40の構成は、誘電体層50及び透明導電層60をそれぞれ1層ずつ備えるものに限定されず、誘電体層50を複数層備えるものであってもよい。また、上部電極40の構成は、透明導電層60を複数層備えるものであってもよい。なお、上部電極40が、複数の誘電体層50及び複数の透明導電層60を備える構成に関しては、第2実施形態において別途詳述する。
【0030】
誘電体層50は、少なくとも可視光を透過する。誘電体層50として、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、三酸化モリブデン(MoO)、二酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化アルミニウム(Al)等を含んで構成されるものが挙げられる。ただし、誘電体層50の種類は、これらに限定されない。
【0031】
誘電体層50は、主に、透明導電層60の正電荷を電気的に中和し、光電変換素子1のチャージアップを防ぐために設けられる。光電変換素子1のチャージアップを防ぐ観点では、誘電体層50の厚さは、5nm以上であることが好ましい。一方、透光性の低下やコストの上昇を防ぐ観点等では、誘電体層50の厚さは100nm以下であることが好ましい。つまり、誘電体層50の厚さは、5nm以上100nm以下であってよい。ただし、誘電体層50の厚さは、これらに限定されず、適宜調整可能である。
【0032】
透明導電層60は、導電性と透光性を有する層である。透明導電層60として、酸化インジウム系の透明導電膜、酸化スズ系の透明導電膜又は酸化亜鉛系の透明導電膜等を含んで構成される層が挙げられる。酸化インジウム系の透明導電膜として、ITO膜が挙げられる。酸化スズ系の透明導電膜として、ATO膜、FTO膜等が挙げられる。酸化亜鉛系の透明導電膜として、AZO膜、GZO膜等が挙げられる。これらの中で、導電性や透光性に優れるITO膜やFTO膜が透明導電層60として好ましい。
【0033】
導電性を確保する等の観点では、透明導電層60の厚さは1nm以上であることが好ましい。一方、歩留まりの低下や透光性の低下を防止する等の観点では、透明導電層60の厚さは50nm以下であることが好ましい。つまり、透明導電層の厚さは、1nm以上50nm以下であってよい。ただし、透明導電層60の膜厚は、これらに限定されない。
【0034】
光電変換素子1は、電荷輸送層、電荷ブロッキング層等の他の構成を適宜備えていてもよい。電荷輸送層及び電荷ブロッキング層は、それぞれ下部電極20と光電変換層30との間や、光電変換層30と上部電極40との間に配置される。
【0035】
<製造方法>
次に、第1実施形態に係る光電変換素子1の製造方法を説明する。第1実施形態に係る光電変換素子1の製造方法は、基板10上に下部電極20を形成する工程と、下部電極20上に光電変換層30を形成する工程と、光電変換層30上に上部電極40を形成する工程と、を含む。
【0036】
下部電極20を形成する工程を説明する。図2は、基板10と、下部電極20と、を含む積層体21の断面図である。
【0037】
図2に示すように、基板10上に下部電極20を形成する。下部電極20の形成方法として、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライプロセス、又はインクジェット法、スピンコート法、ディップ法等のウェットプロセス等が挙げられる。ただし、下部電極20の形成方法は、導電性を有する層を形成可能であれば、これらに限定されない。
【0038】
次に、光電変換層30を形成する工程を説明する。図3は、基板10と、下部電極20と、光電変換層30と、を含む積層体31の断面図である。
【0039】
図3に示すように、下部電極20上に光電変換層30を形成する。光電変換層30の形成方法として、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライプロセス、又はインクジェット法、スピンコート法、ディップ法等のウェットプロセスが挙げられる。ただし、光電変換層30の形成方法は、光電変換特性を有する層を形成可能であれば、これらに限定されない。
【0040】
次に、上部電極40を形成する工程を説明する。上部電極40を形成する工程は、誘電体層50を形成する工程と、透明導電層60を形成する工程を含む。
【0041】
図4及び図5を参照して、誘電体層50を形成する工程を説明する。図4は、基板10と、下部電極20と、光電変換層30と、誘電体層50と、を含む積層体51の断面図である。図5は、誘電体層50を形成するための電子ビーム蒸着装置200の構成を示す模式図である。
【0042】
図4に示すように、光電変換層30上に誘電体層50を形成する。具体的には、電子ビーム蒸着法を用いて、誘電体層50を形成する。図5に示される電子ビーム蒸着装置200は、電子ビーム蒸着法によって誘電体層50を形成する場合に使用される。
【0043】
電子ビーム蒸着装置200の構成を説明する。電子ビーム蒸着装置200は、真空容器210と、蒸着材50Dを充填する坩堝220と、蒸着材50Dを加熱するための電子ビーム231を放出する電子銃230と、被成膜物である積層体31を保持するホルダー240と、真空ポンプ250と、を備える。ホルダー240に積層体31が保持されることで、蒸着材50Dと光電変換層30とが対向する。
【0044】
蒸着材50Dは、ターゲット、ペレット、又はタブレットとも称されるものであり、誘電体層50の蒸着源である。蒸着材50Dとして、金属、合金、金属化合物等の焼結体や結晶が挙げられる。誘電体層50としてSiO膜を蒸着する場合、蒸着材50Dとして、SiOの焼結体を用いることができる。
【0045】
電子ビーム蒸着装置200を用いて、光電変換層30上に誘電体層50を蒸着する工程を説明する。まず、電子ビーム蒸着装置200の真空ポンプ250を駆動し、真空容器210の内部の気体を排気する。続いて、真空容器210の内部が真空状態となった後、電子銃230に、エミッション電流と加速電圧を印加することにより、電子銃230から電子ビーム231を放出する。
【0046】
電子銃230から放出された電子ビーム231は、蒸着材50Dを照射し、蒸着材50Dの表面を加熱する。電子ビーム231によって加熱された蒸着材50Dの一部が、蒸発粒子50Pとして放出され、蒸着材50Dと対向する積層体31の光電変換層30へ向かう。蒸発粒子50Pは、光電変換層30上に到達する。以上により、誘電体層50が光電変換層30上に蒸着される。
【0047】
一方、蒸着材50Dを照射した電子ビーム231の一部の電子230eは、蒸着材50Dで反射し、蒸着材50Dと対向する光電変換層30へ向かう。すなわち、蒸着材50Dで反射した電子230eは、蒸発粒子50Pとともに光電変換層30上に到達する。電子230eは、蒸発粒子50Pとともに光電変換層30上に到達することにより、光電変換層30上に蒸着された誘電体層50中に蓄積される。誘電体層50は、蒸発粒子50Pにより形成された誘電体部分と中和電子230eとを含む。中和電子230eは、誘電体層50上に形成される透明導電層60の正電荷を電気的に中和する電子である。
【0048】
誘電体層50に含まれる中和電子230eの量は、電子銃230のエミッション電流や、電子ビーム231の放出時間に応じて適宜調整できる。電子銃230のエミッション電流を高めるか、又は電子ビーム231の放出時間を増やすことで、誘電体層50に含まれる中和電子230eの量を増やすことができる。
【0049】
次に、図6及び図7を参照して、透明導電層60を形成する工程を説明する。図6は、基板10と、下部電極20と、光電変換層30と、誘電体層50と、透明導電層60と、を含む積層体61の断面図である。積層体61は、光電変換素子1に対応する。図7は、透明導電層60を形成するためのイオンプレーティング装置300の構成を示す模式図である。
【0050】
図6に示すように、誘電体層50上に透明導電層60を形成する。具体的には、イオンプレーティング法を用いて、透明導電層60を形成する。図7に示されるイオンプレーティング装置300は、イオンプレーティング法によって透明導電層60を形成する場合に使用される。
【0051】
イオンプレーティング装置300の構成を説明する。イオンプレーティング装置300は、真空容器310と、蒸着材60Dを充填する坩堝320と、蒸着材60Dをイオン化するためのプラズマ331を生成するプラズマ生成部330と、被成膜物である積層体51を保持するホルダー340と、真空ポンプ350と、を備える。ホルダー340に積層体51が保持されることで、蒸着材60Dと誘電体層50とが対向する。
【0052】
蒸着材60Dは、透明導電層60の蒸着源である。蒸着材60Dは、ターゲット、ペレット、又はタブレットとも称される。蒸着材60Dとして、金属、合金、金属化合物等の焼結体や結晶が挙げられる。透明導電層60としてITO膜を蒸着する場合、蒸着材60Dとして、InとSnOとを含む焼結体を用いることができる。
【0053】
イオンプレーティング装置300の構成は、図7に示されるものに限定されない。イオンプレーティング装置300は、蒸着材60Dを加熱するための抵抗加熱式のヒータや、坩堝320とホルダー340との間にプラズマを生成するためのコイル等の部材を備えてもよい。
【0054】
イオンプレーティング装置300を用いて、誘電体層50上に透明導電層60を蒸着する工程を説明する。まず、イオンプレーティング装置300の真空ポンプ350を駆動し、真空容器310の内部の気体を排気する。続いて、真空容器310の内部が真空状態になった後、プラズマ生成部330から蒸着材60Dをイオン化するためのプラズマ331を発生する。
【0055】
プラズマ生成部330から生成されたプラズマ331中を蒸着材60Dが通過すると、蒸着材60Dの一部が陽イオン化された蒸発粒子60Pとなり、蒸着材60Dと対向する積層体51の誘電体層50へ向かう。蒸発粒子60Pは、真空容器310内に供給された酸素ガスと反応しながら、誘電体層50上に到達する。以上により、透明導電層60が、誘電体層50上に蒸着される。ここで、一部の蒸発粒子60Pは、陽イオンの状態で誘電体層50上に到達するため、透明導電層60は、蒸発粒子60Pの陽イオンに基づく正電荷を有する。仮に、透明導電層60の正電荷が電気的に中和されない場合には、光電変換素子1のチャージアップが引き起こされる。チャージアップによって、光電変換素子1の暗電流が増え、特定の波長を有する入射光の検出に係るS/Nが低下する。また、チャージアップによって、過電流が誘起され、光電変換素子1の絶縁破壊が起こり得る。しかしながら、本実施形態では、透明導電層60の正電荷は、透明導電層60と重ね合わさる誘電体層50中の中和電子230eによって、電気的に中和される。これにより、本実施形態では、透明導電層60の正電荷に起因するチャージアップを低減することができる。
【0056】
誘電体層50と透明導電層60とが、順に形成されることで、上部電極40が形成される。なお、誘電体層50と透明導電層60の形成順は、限定されない。すなわち、光電変換層30上に透明導電層60を形成し、その後、透明導電層60上に誘電体層50を形成してもよい。透明導電層60上に誘電体層50が形成された場合であっても、誘電体層50の中和電子230eは、透明導電層60の正電荷を電気的に中和することができる。
【0057】
以上の各工程を経て、光電変換素子1が製造される。
【0058】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る光電変換素子1の製造方法は、基板10上に下部電極20(第1電極)を形成する工程と、下部電極20上に光電変換層30を形成する工程と、光電変換層30上に上部電極40(第2電極)を形成する工程と、を含む。上部電極40を形成する工程は、電子ビーム蒸着法によって、誘電体層50を形成する工程と、イオンプレーティング法によって、透明導電層60を形成する工程と、を含む。電子ビーム蒸着法によって、誘電体層50を形成することで、誘電体層50中に中和電子230eを含ませることができる。中和電子230eを含む誘電体層50と、正電荷を有する透明導電層60と、が重ね合わさることで、中和電子230eが透明導電層60の正電荷を電気的に中和する。これにより、透明導電層60の正電荷に起因するチャージアップを低減し、光電変換素子1の暗電流を低減できる。すなわち、特定の波長を有する入射光の検出に係るS/Nを高めることができる。また、透明導電層60の正電荷に起因するチャージアップが低減されることで、光電変換素子1の絶縁破壊を防止できる。さらに、チャージアップが低減された状態で、透明導電膜を連続的に成長させることができる結果、光電変換素子1にダメージを与えずに、厚みのある透明導電層60を形成できる。すなわち、光電変換層30で得られた電荷の抽出効率を高めることができる。また、導電性に優れた透明導電層60が得られることに加え、光電変換特性に優れた光電変換素子1が得られる。
【0059】
[第2実施形態]
<光電変換素子の構成>
第2実施形態に係る光電変換素子の製造方法について説明する。まず、図8を参照して、第2実施形態に係る光電変換素子の製造方法によって製造される光電変換素子1Aの構成を説明する。図8は、光電変換素子1Aの断面図である。なお、第1実施形態と同様の構成部に関しては、同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0060】
本実施形態に係る光電変換素子1Aは、上部電極が複数の誘電体層及び複数の透明導電層を備える点が、第1実施形態に係る光電変換素子1と異なる。具体的には、図8に示すように、光電変換素子1Aの上部電極40Aは、誘電体層として第1誘電体層50A1及び第2誘電体層50A2を、透明導電層として第1透明導電層60A1及び第2透明導電層60A2を、それぞれ備える点が、光電変換素子1と異なる。
【0061】
誘電体層の層数は、2層に限定されず、3層以上であってもよい。透明導電層の層数は、2層に限定されず、3層以上であってもよい。ただし、誘電体層及び透明導電層の層数が増えるに伴い、隣り合う層の界面の数が増え、上部電極40Aの透光性が低下し得る。
【0062】
誘電体層1層あたりの厚さを5nm以上100nm以下とし、透明導電層1層あたりの厚さを1nm以上50nm以下とした場合、誘電体層及び透明導電層の組が、2組以上8組以下であることが好ましい。また、誘電体層及び透明導電層の組が、3組以上6組以下であることがより好ましい。さらに、誘電体層及び透明導電層の組が、3組以上5組以下であることがより好ましい。
【0063】
誘電体層の層数と、透明導電層の層数とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。チャージアップを好適に防ぐ観点では、誘電体層の層数と、透明導電層の層数とは、同じであることが好ましい。
【0064】
上部電極40Aにおいて、誘電体層と透明導電層とは、交互に積層される。具体的には、光電変換層30上に配置される第1誘電体層50A1から順に、第1透明導電層60A1、第2誘電体層50A2及び第2透明導電層60A2が積層されている。
【0065】
ただし、光電変換層30上に第1透明導電層60A1が配置され、第1透明導電層60A1から順に、第1誘電体層50A1、第2透明導電層60A2、第2誘電体層50A2が配置されてもよい。
【0066】
第1誘電体層50A1と第2誘電体層50A2の材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。誘電体層が3層以上ある場合に関しても、それぞれの誘電体層の材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、歩留まりの低下を防ぐ観点や、蒸着プロセスの簡素化を図る観点等では、それぞれの誘電体層の材料は、同じであることが好ましい。
【0067】
第1透明導電層60A1と第2透明導電層60A2の材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。透明導電層が3層以上ある場合に関しても、それぞれの透明導電層の材料は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、歩留まりの低下を防ぐ観点や、蒸着プロセスの簡素化を図る観点等では、それぞれの透明導電層の材料は、同じであることが好ましい。
【0068】
<製造方法>
次に、第2実施形態に係る光電変換素子1Aの製造方法を説明する。第2実施形態に係る光電変換素子1Aの製造方法は、基板10に下部電極20を形成する工程と、下部電極20上に光電変換層30を形成する工程と、上部電極40Aを形成する工程と、を含む。
【0069】
第2実施形態において、基板10に下部電極20を形成する工程、下部電極20上に光電変換層30を形成する工程は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。また、上部電極40Aを形成する工程のうち、第1誘電体層50A1を形成する工程、第1透明導電層60A1を形成する工程は、第1実施形態における、誘電体層50を形成する工程、透明導電層60を形成する工程と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0070】
図9を参照して、第2誘電体層50A2を形成する工程を説明する。図9は、基板10と、下部電極20と、光電変換層30と、第1誘電体層50A1と、第1透明導電層60A1と、第2誘電体層50A2と、を含む積層体71の断面図である。
【0071】
図9に示すように、第1透明導電層60A1上に、第2誘電体層50A2を形成する。具体的には、電子ビーム蒸着法を用いて、第2誘電体層50A2を形成する。図5に示される電子ビーム蒸着装置200を用いて、第2誘電体層50A2を形成することができる。第2誘電体層50A2も、第1誘電体層50A1と同様、中和電子230eを含む。
【0072】
図10を参照して、第2透明導電層60A2を形成する工程を説明する。図10は、基板10と、下部電極20と、光電変換層30と、第1誘電体層50A1と、第1透明導電層60A1と、第2誘電体層50A2と、第2透明導電層60A2と、を含む積層体81の断面図である。積層体81は、光電変換素子1Aに対応する。
【0073】
図10に示すように、第2誘電体層50A2上に、第2透明導電層60A2を形成する。具体的には、イオンプレーティング法を用いて、第2透明導電層60A2を形成する。図7に示されるイオンプレーティング装置300を用いて、第2透明導電層60A2を形成することができる。
【0074】
第2透明導電層60A2も、第1透明導電層60A1と同様、蒸発粒子60Pの陽イオンに起因する正電荷を有する。ただし、第2透明導電層60A2は、第2誘電体層50A2に重ね合わさることで、第2透明導電層60A2の正電荷は、第2誘電体層50A2中の中和電子230eによって、電気的に中和される。
【0075】
第1誘電体層50A1と、第1透明導電層60A1と、第2誘電体層50A2と、第2透明導電層60A2とが、順に形成されることで、上部電極40Aが形成される。ただし、第1誘電体層50A1と、第1透明導電層60A1と、第2誘電体層50A2と、第2透明導電層60A2の形成順は、限定されない。すなわち、光電変換層30上に、第1透明導電層60A1、第1誘電体層50A1と、第2透明導電層60A2、第2誘電体層50A2を、順に形成してもよい。
【0076】
透明導電層のそれぞれと、誘電体層のそれぞれとが、交互に重なり合うことから、透明導電層の正電荷は、誘電体層の中和電子230eによって電気的に中和される。これにより、光電変換素子1Aのチャージアップが抑制される。
【0077】
以上の各工程を経て、光電変換素子1Aが製造される。
【0078】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る光電変換素子1Aの製造方法は、上部電極40A(第2電極)を形成する工程において、誘電体層を形成する工程及び前記透明導電層を形成する工程をそれぞれ複数回ずつ行い、かつ、誘電体層を形成する工程と、透明導電層を形成する工程と、を交互に行う。これにより、複数の誘電体層のそれぞれと、複数の透明導電層のそれぞれとが交互に重なり合い、各誘電体層中の中和電子230eが、隣り合う透明導電層の正電荷を電気的に中和することができる。その結果、光電変換素子1Aのチャージアップを抑制することができ、暗電流を低減できる。また、誘電体層を挟んで複数の透明導電層が積み重なることで、透明導電層の厚みを増やすことができる。これにより、上部電極40Aの導電性を高めることができる。すなわち、光電変換層30で得られた電荷の抽出効率を高めることができる。さらに、第2実施形態に係る光電変換素子1Aの製造方法は、第1実施形態に係る光電変換素子1の製造方法とほぼ同様の効果を奏する。
【0079】
[適用例]
実施形態に係る光電変換素子1,1Aは、被写体からの入射光を電気信号に変換する撮像素子等に適用できる。撮像素子は、光電変換素子1,1Aで得られた電気信号を読み出す読出回路をさらに備える。光電変換素子1,1Aを備える撮像素子は、多板式であることが好ましいが、単板式であってもよい。多板式の撮像素子は、複数の光電変換素子1,1Aを備える。複数の光電変換素子1,1Aは、読出回路にそれぞれ接続される。
【0080】
[実施例]
以上説明した光電変換素子1,1Aにおいて、具体的な実施の例を以下に示す。ただし、本開示は、下記の実施例により限定及び制限されるものではない。
【0081】
<実施例1>
実施例1として、基板10から順に、下部電極20、電荷ブロッキング層、光電変換層30、上部電極40Aが積層された光電変換素子を作製した。上部電極40Aは、第1誘電体層50A1、第1透明導電層60A1、第2誘電体層50A2、及び第2透明導電層60A2が、順に積層された積層体である。
【0082】
第1誘電体層50A1及び第2誘電体層50A2のそれぞれを、電子ビーム蒸着法を用いて形成した。また、第1透明導電層60A1及び第2透明導電層60A2のそれぞれを、イオンプレーティング法を用いて形成した。
【0083】
実施例1に係る光電変換素子の各部の構成は、以下の通りである。
【0084】
・基板10:ガラス基板
・下部電極20:ITO
・電荷ブロッキング層:B4PYMPM(厚さ:50nm)
・光電変換層30:トリス(2-フェニルピラゾール)イリジウム錯体(厚さ:70nm)と、ホウ素サブフタロシアニンクロリド(厚さ:200nm)との積層体
・第1誘電体層50A1:SiO(厚さ:30nm)
・第1透明導電層60A1:ITO(厚さ:10nm)
・第2誘電体層50A2:SiO(厚さ:30nm)
・第2透明導電層60A2:ITO(厚さ:10nm)
【0085】
<比較例1>
比較例1として、基板10から順に、下部電極20、電荷ブロッキング層、光電変換層30、上部電極としての透明導電層が積層された光電変換素子を作製した。透明導電層を、イオンプレーティング法を用いて形成した。
【0086】
比較例1に係る光電変換素子の各部の構成は、以下の通りである。
【0087】
・基板10:ガラス基板
・下部電極20:ITO
・電荷ブロッキング層:B4PYMPM(厚さ:50nm)
・光電変換層30:トリス(2-フェニルピラゾール)イリジウム錯体(厚さ:70nm)と、ホウ素サブフタロシアニンクロリド(厚さ:200nm)との積層体
・透明導電層:ITO(厚さ:20nm)
【0088】
<実施例1と比較例1の相違点>
実施例1の上部電極40Aは、第1誘電体層50A1、第1透明導電層60A1、第2誘電体層50A2、第2透明導電層60A2から構成される。これに対して、比較例1の上部電極は、透明導電層の単層から構成される。なお、実施例1の第1透明導電層60A1の厚さと、第2透明導電層60A2の厚さの総和は、比較例1の透明導電層の厚さと同じとした。
【0089】
<暗電流及び光電流の評価>
実施例1及び比較例1における暗電流、光電流の測定結果を表1に示す。暗電流及び光電流の測定に際し、実施例1及び比較例1のそれぞれに、10Vの電圧を印加した。また、光電流の測定に際し、実施例1及び比較例1のそれぞれの基板10側から、波長550nm、パワー密度50μW/cmの単色光を照射した。
【0090】
【表1】
【0091】
表1に示すように、実施例1の光電流は、比較例1の光電流と同程度の値であった。これに対して、実施例1の暗電流は、比較例1の暗電流に比べて、1桁程度低い値であった。上部電極40Aにおいて、誘電体層と透明導電層とが一対で設けられることで、光電変換素子のチャージアップが抑制され、暗電流が低減されることが分かった。
【0092】
実施例1は、誘電体層及び透明導電層を、それぞれ2層備えるものであるが、本測定結果を踏まえれば、誘電体層及び透明導電層を、それぞれ1層備えるもの、又は、誘電体層及び透明導電層を、それぞれ3層以上備えるものに関しても、暗電流が低減されると考えられる。
【0093】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1,1A 光電変換素子
10 基板
20 下部電極
30 光電変換層
40,40A 上部電極
50 誘電体層
50A1 第1誘電体層
50A2 第2誘電体層
60 透明導電層
60A1 第1透明導電層
60A2 第2透明導電層
200 電子ビーム蒸着装置
230e 中和電子
300 イオンプレーティング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10