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特開2024-149381金属錯体蛍光体、金属錯体蛍光体の製造方法、金属錯体蛍光体を含む蛍光体シート、及び蛍光体シートを含む発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149381
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】金属錯体蛍光体、金属錯体蛍光体の製造方法、金属錯体蛍光体を含む蛍光体シート、及び蛍光体シートを含む発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20241010BHJP
   C07C 251/24 20060101ALI20241010BHJP
   C07F 5/00 20060101ALI20241010BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241010BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20241010BHJP
   C07C 49/92 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C09K11/06
C09K11/06 660
C07C251/24 CSP
C07F5/00 D
G02B5/20
H01L33/50
C07C49/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012136
(22)【出願日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2023062203
(32)【優先日】2023-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】小笠 裕史
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩希
(72)【発明者】
【氏名】青柳 健一
【テーマコード(参考)】
2H148
4H006
4H048
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA07
2H148AA19
2H148AA28
4H006AA03
4H006AB84
4H048AA01
4H048AA02
4H048AA03
4H048AB92
4H048BB12
4H048BB14
4H048BB15
4H048BC10
4H048VA70
4H048VB10
5F142DA42
5F142DA64
5F142DA73
5F142GA11
5F142GA21
(57)【要約】
【課題】 より長い耐久性を有する希土類金属錯体発光体、そのような希土類金属錯体発光体の製造方法などを提供する。
【解決手段】 化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を準備して、第1溶媒に溶解して溶液(1)を準備すること;化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を有し、化学式(I)で示される配位子を有さない希土類金属錯体を準備して、第2溶媒に溶解して溶液(2)を準備すること;及び前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合することを含み、発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、金属錯体蛍光体の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を準備して、第1溶媒に溶解して溶液(1)を準備すること;
下記化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を有し、化学式(I)で示される配位子を有さない希土類金属錯体を準備して、第2溶媒に溶解して溶液(2)を準備すること;及び
前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合すること
を含み、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、金属錯体蛍光体の製造方法。

化学式(I):
【化1】
[化学式(I)において、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、下記群(G):
芳香族基;
パーハロゲン化芳香族基;
少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
C3~C30のシクロアルケニル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、並びに
ハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができる]
で示される、二組のアゾメチン基を有する配位子;及び

化学式(II)
【化2】
[化学式(II)において、
Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、上記群(G)から選択される置換基を示し、
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示す]
で示されるβ-ジケトナト配位子。
【請求項2】
下記式(1)で示される濃度増加率が、0.00875(M/hr)以下であるように、前記溶液(1)と前記溶液(2)を混合することを含む、請求項1記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
(金属錯体蛍光体の濃度増加量)÷(混合開始から終了までの時間) 式(1)
【請求項3】
前記第1溶媒は、ハロゲン系溶媒を含み、前記第2溶媒は、エーテル系溶媒を含む、請求項1記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記溶液(1)と、前記溶液(2)を、更に、第3溶媒の存在下、混合することを含む、請求項1記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記第3溶媒は、アルコール系溶媒を含む、請求項4記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【請求項6】
更に、200℃以下で、金属錯体蛍光体の表面を、無機部材又は有機部材で被覆することを含む、請求項1に記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【請求項7】
下記化学式(III)及び(IV)から選択される少なくとも1種の化学構造を含む、希土類金属錯体であり、
希土類金属は、8配位であり、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、希土類金属錯体を含む金属錯体蛍光体であって、
12μm以上100μm以下のD50粒子径を有する、金属錯体蛍光体。

化学式(III):
【化3】
[化学式(III)において、
Lnは、希土類金属原子を示し、n1は、2又は3を示し、
β-ジケトナト配位子について、Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、下記群(G):
芳香族基;
パーハロゲン化芳香族基;
少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
C3~C30のシクロアルケニル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、
から選択される置換基を示し
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示し、n2は、1~3の整数を示し、
Yは、過塩素酸イオン、硝酸イオン、カルボン酸イオン、及びハロゲン化物イオンから選択される少なくとも1種であってよく、n3は、0~2の整数を示し、
二組のアゾメチン基を有する配位子について、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
n5は、2以上の整数を示す]、及び

化学式(IV):
【化4】
[化学式(IV)において、
n6は、1以上の整数を示すほかは、化学式(III)のものと同様である]。
【請求項8】
前記金属錯体蛍光体は、1.570g/cm以上2.000g/cm以下の比重を有する、請求項7に記載の金属錯体蛍光体。
【請求項9】
無機部材又は有機部材による被覆を外側に有する、請求項7に記載の金属錯体蛍光体。
【請求項10】
請求項7記載の金属錯体蛍光体が樹脂又はガラス中に含まれている、蛍光体シート。
【請求項11】
前記蛍光体シートは、発光ピーク波長が515nm以上540nm以下の量子ドットを含む、請求項10に記載の蛍光体シート。
【請求項12】
前記蛍光体シートは、前記量子ドットと、前記金属錯体蛍光体とを一つの層に含む、請求項11に記載の蛍光体シート。
【請求項13】
前記量子ドットを含む第1層と、前記金属錯体蛍光体を含み、発光ピーク波長が600nm以上650nm以下の量子ドットを含む第2層を含む、請求項11に記載の蛍光体シート。
【請求項14】
請求項10に記載の蛍光体シートと、発光ピーク波長が380nm以上490nm以下の発光素子を含む、発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属錯体蛍光体、金属錯体蛍光体の製造方法、金属錯体蛍光体を含む蛍光体シート、及び蛍光体シートを含む発光装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
希土類金属錯体は、蛍光プローブ、レーザー発光体、バイオイメージング、センサー、セキュリティインク、及び照明などの発光部材として期待されている。特に、希土類金属錯体は、例えば、青色の比較的短波長の可視光により励起されて長波長の光を発光することができるので、発光ダイオードなどの半導体発光素子と組み合わせて種々の発光色の発光装置が実現できることが期待されている。この発光ダイオード(LED)及びレーザーダイオード(LD)等の半導体発光素子を用いた発光装置は、発光効率が高く、水銀等の有害物質を含まないことから、照明用途や液晶表示装置等の画像表示用途へのさらなる拡大が期待され、最近では、発光ダイオード又はレーザーダイオードと希土類金属錯体の発光部材を組み合わせた発光装置の検討が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1には、新たな希土類金属錯体を含む組成物を合成し、それらの発光特性を検討して、それらが興味深い発光特性を有すること、及びそれらと発光ダイオード又はレーザーダイオードを組み合わせた発光装置を開発して、報告されている。
【0004】
更に、特許文献2には、広範囲な励起波長領域(紫外光から可視光領域の波長に光を吸収して、吸収した光よりも波長が長い光を発生すること)と高い外部量子効率を有する希土類金属錯体及びその製造方法を報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-128392号公報
【特許文献2】特開2019-31446号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ケミストリー・ア・ヨーロピアン・ジャーナル」第17巻、2011年、第521-528頁(Chemistry-A European Journal, 2011, 17, 521-528)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2に開示された希土類金属錯体は、より具体的には、青色光を吸収し、赤色光を発生し、更に、色純度が高いという特徴を有する。しかし、その希土類金属錯体の耐久性は、必ずしも十分でなく、更により高い耐久性を有することが要求される。
【0008】
本発明は、より長い耐久性を有する希土類金属錯体発光体、そのような希土類金属錯体発光体の製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書は、下記の実施形態を含む。
1. 下記化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を準備して、第1溶媒に溶解して溶液(1)を準備すること;
下記化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を有し、化学式(I)で示される配位子を有さない希土類金属錯体を準備して、第2溶媒に溶解して溶液(2)を準備すること;及び
前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合すること
を含み、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、金属錯体蛍光体の製造方法。

化学式(I):
【化1】
[化学式(I)において、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、下記群(G):
芳香族基;
パーハロゲン化芳香族基;
少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
C3~C30のシクロアルケニル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、並びに
ハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができる]
で示される、二組のアゾメチン基を有する配位子;及び

化学式(II)
【化2】
[化学式(II)において、
Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、上記群(G)から選択される置換基を示し、
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示す]
で示されるβ-ジケトナト配位子。
2. 下記化学式(III)及び(IV)から選択される少なくとも1種の化学構造を含む、希土類金属錯体であり、
希土類金属は、8配位であり、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、希土類金属錯体を含む金属錯体蛍光体であって、
12μm以上100μm以下のD50粒子径を有する、金属錯体蛍光体。

化学式(III):
【化3】
[化学式(III)において、
Lnは、希土類金属原子を示し、n1は、2又は3を示し、
β-ジケトナト配位子について、Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、下記群(G):
芳香族基;
パーハロゲン化芳香族基;
少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
C3~C30のシクロアルケニル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、
から選択される置換基を示し
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示し、n2は、1~3の整数を示し、
Yは、過塩素酸イオン、硝酸イオン、カルボン酸イオン、及びハロゲン化物イオンから選択される少なくとも1種であってよく、n3は、0~2の整数を示し、
二組のアゾメチン基を有する配位子について、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
n5は、2以上の整数を示す]、及び

化学式(IV):
【化4】
[化学式(IV)において、
n6は、1以上の整数を示すほかは、化学式(III)のものと同様である]。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態の希土類金属錯体発光体は、より長い耐久性を有することができる。よって、本発明の実施形態の希土類金属錯体発光体は、蛍光体シート及び蛍光装置を製造するために好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の配位子の化学式を示す。
図2】本発明の実施形態の金属錯体蛍光体に含まれる化学構造を示す。
図3】実施例1の金属錯体のSEM画像(1000倍)を示す。
図4】比較例1の金属錯体のSEM画像(2000倍)を示す。
図5】実施例1の金属錯体のFT-IRスペクトルを示す。
図6】比較例1の金属錯体のFT-IRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態において、発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、金属錯体蛍光体の新規な製造方法が提供される。それは、
下記化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を準備して、第1溶媒に溶解して溶液(1)を準備すること;
下記化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を有し、化学式(I)で示される配位子を有さない希土類金属錯体を準備して、第2溶媒に溶解して溶液(2)を準備すること;及び
前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合すること
を含み、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、金属錯体蛍光体の製造方法である。
化学式(I):
【化5】
[化学式(I)において、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基(-C2n+1:ここでn=1~30、好ましくはn=1~18、より好ましくはn=1~6、特に好ましくはn=1~3)、C3~C30のシクロアルキル基(-C2n-1:ここでn=3~30、好ましくはn=3~18、より好ましくはn=3~6、特に好ましくはn=3)、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基(-C2n+1及び-CCl2n+1等、好ましくは-C2n+1:ここでn=1~30、好ましくはn=1~18、より好ましくはn=1~6、特に好ましくはn=1~3)及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基(-C2n-1及び-CCl2n-1等、好ましくは-C2n-1:ここでn=3~30、好ましくはn=3~18、より好ましくはn=3~6、特に好ましくはn=3)から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、下記群(G1):
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、及びパークロロビフェニル基等のパーハロゲン化芳香族基;
N、O、及びS等から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基(C2n+1:n=1~30);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~30)及びパークロロアルキル基(CCl2n+1:n=1~30)等の、直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
ブテニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基等のパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基等の、直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30);
パーフルオロシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30)及びパークロロシクロアルキル基(CCl2n-1:n=3~30)等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等のC3~C30のシクロアルケニル基;
パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、並びに
ハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基(-C2n-:ここでn=2~30、好ましくは、n=4~12)から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、両方共、更に、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができる]
で示される、二組の水酸基又はチオール基とアゾメチン基を有する配位子;及び
化学式(II)
【化6】
[化学式(II)において、
Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、上記群(G1)から選択される置換基を示し、
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示す]
で示されるβ-ジケトナト配位子。
【0013】
本発明の実施形態の製造方法は、上記化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を準備して、第1溶媒に溶解して溶液(1)を準備することを含む。
本発明の実施形態において、第1溶媒は、上記化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を溶解することができ、本発明が目的とする金属錯体蛍光体を得ることができる限り特に制限されることはないが、ハロゲン系溶媒であることが好ましく、
特に塩素系溶媒であることが好ましい。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、等を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の実施形態の製造方法は、上記化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を有し、化学式(I)で示される配位子を有さない希土類金属錯体を準備して、第2溶媒に溶解して溶液(2)を準備することすることを含む。
本発明の実施形態において、第2溶媒は、上記化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を溶解することができ、本発明が目的とする金属錯体蛍光体を得ることができる限り特に制限されることはないが、エーテル系溶媒であることが好ましく、環状エーテル系溶媒であることがより好ましい。例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2ーメチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)等を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の実施形態の製造方法は、前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合することを含む。
本発明の実施形態において、前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合方法及び混合装置などは、本開示が目的とする金属錯体蛍光体を得ることができる限り特に制限されることはないが、より大きな錯体の結晶を得ることができるように、溶液(1)と溶液(2)をゆっくり混合することが好ましい。
より具体的には、下記式(1)で示される濃度増加率が、0.00875(M/hr)以下であるように、前記溶液(1)と前記溶液(2)を混合することが好ましい。
(金属錯体蛍光体の濃度増加量)÷(混合開始から終了までの時間) 式(1)
上記式(1)で示される濃度増加率が、0.006(モル/時間)以下であることがより好ましく、0.004(モル/時間)以下であることが更により好ましい。
【0016】
上述の濃度増加率となるように、下記の配位子の濃度、添加速度などを利用できる。
より具体的には、例えば、溶液(1)の化学式(I)で示される配位子の濃度は、例えば、0.005モル/L以下0.3モル/L以下、0.01モル/L以上0.2モル/L以下、0.03モル/L以上0.1モル/L以下であってよい。
例えば、溶液(2)の化学式(II)で示される配位子の濃度は、0.02モル/L以上1.2モル/L以下、0.1モル/L以上0.8モル/L以下、0.2モル/L以上0.6モル/L以下であってよい。
溶液(1)を、例えば、0.1mL/分以上20mL/分以下、0.5mL/分以上10mL/分以下、1mL/分以上5mL/分以下の速度で、溶液(2)を、例えば、0.01mL/分以上10mL/分以下、0.1mL/分以上5mL/分、0.5mL/分以上2mL/分以下の速度で、両方を同時に加えて混合することが好ましい。その際、温度は、-25度以上50℃以下、0℃以上40℃以下、5℃以上35℃以下であってよい。混合するために要する時間は、例えば、30分以上40時間以下、1時間以上20時間以下、4時間以上10時間以下であってよい。
【0017】
本発明の実施形態の製造方法は、前記溶液(1)と、前記溶液(2)を、更に、第3溶媒の存在下、混合することを含むことができる。
本発明の実施形態において、第3溶媒は、上記化学式(I)で示される配位子と上記化学式(II)で示される配位子を有する反応生成物である錯体の溶解性が低く、その錯体が反応混合物から析出するように、反応溶媒の溶解性を調節することができ、本発明が目的とする金属錯体蛍光体を得ることができる限り特に制限されることはないが、アルコール系溶媒であることが好ましい。
アルコール系溶媒の炭素原子数は、1~4であってよく、1~3であってよい。アルコール系溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール等を例示できる。
【0018】
本発明の実施形態において、上記溶液(1)と溶液(2)を混合する際に、予め製造した反応生成物の錯体の結晶を存在させることができる。そのような結晶を存在させることで、より大きくて、より蛍光体として使用するために適する錯体を得ることができる。
【0019】
本発明の実施形態において、更に、200℃以下で、金属錯体蛍光体の表面を、無機部材又は有機部材で被覆することを含むことができる。金属錯体蛍光体の表面を、無機部材又は有機部材で被覆することで、金属錯体蛍光体の耐久性をより向上させることができ、より好適な金属錯体蛍光体を製造することができる。
被覆を形成する温度は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが更に好ましく、50℃以上であってよく、70℃以上であってよく、90℃以上であってよい。
被覆を形成する方法は、本発明が目的とする金属錯体蛍光体を製造することができれば特に制限されることはないが、例えば、原子層堆積法(ALD)、化学気相成長法(CVD)、ゾルゲル法などを例示することができる。
【0020】
本発明の他の実施形態において、発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、希土類金属錯体を含む、新たな金属錯体蛍光体が提供される。それは、
下記化学式(III)及び(IV)から選択される少なくとも1種の化学構造を含む、希土類金属錯体であり、
希土類金属は、8配位であり、
12μm以上100μm以下の粒子径を有する、金属錯体蛍光体である。
化学式(III):
【化7】
[化学式(III)において、
Lnは、希土類金属原子を示し、n1は、2又は3を示し、

β-ジケトナト配位子について、Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、下記群(G1):
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、及びパークロロビフェニル基等のパーハロゲン化芳香族基;
N、O、及びS等から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基(C2n+1:n=1~30);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~30)及びパークロロアルキル基(CCl2n+1:n=1~30)等の直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
ブテニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基等のパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30);
パーフルオロシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30)及びパークロロシクロアルキル基(CCl2n-1:n=3~30)等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等のC3~C30のシクロアルケニル基;
パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、
から選択される置換基を示し
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示し、n2は、1~3の整数を示し、

Yは、過塩素酸イオン、硝酸イオン、カルボン酸イオン、及びハロゲン化物イオンから選択される少なくとも1種でありえ、n3は、0~2の整数を示し、

二組の水酸基又はチオール基とアゾメチン基を有する配位子について、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基(-C2n+1:ここでn=1~30、好ましくはn=1~18、より好ましくはn=1~6、特に好ましくはn=1~3)、C3~C30のシクロアルキル基(-C2n-1:ここでn=3~30、好ましくはn=3~18、より好ましくはn=3~6、特に好ましくはn=3)、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基(-C2n+1及び-CCl2n+1等、好ましくは-C2n+1:ここでn=1~30、好ましくはn=1~18、より好ましくはn=1~6、特に好ましくはn=1~3)及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基(-C2n-1及び-CCl2n-1等、好ましくは-C2n-1:ここでn=3~30、好ましくはn=3~18、より好ましくはn=3~6、特に好ましくはn=3)から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基(-C2n-:ここでn=2~30、好ましくは、n=4~12)から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、両方共、更に、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
n5は、2以上の整数を示す]、及び

化学式(IV):
【化8】
[化学式(IV)において、
n6は、1以上の整数を示すほかは、化学式(III)のものと同様である]。
【0021】
更に、化学式(III)~(IV)中のAとLnの間の点線及びOとLnとの間の点線は、各々1つの配位結合を示す。従って、β-ジケトナト配位子は、希土類金属との間に、二つの配位結合を形成することを示す。
一方、Yが希土類金属との間に形成し得る配位結合の数は、1~3まで変わり得るので、YとLnの間は、単なる点線ではなく、幅の広い点線(ハッシュ線:hashed line)で示す。
【0022】
化学式(III)~(IV)の化学構造に含まれる、化学式(I)の水酸基(OH、OD)又はチオール基(SH、SD)(A)とアゾメチン基(又はシッフ塩基:-CA=N-)を共に有する配位子について更に説明する。
化学式(I)の配位子は、二組の水酸基又はチオール基とアゾメチン基を有する。
化学式(I)の配位子は、Aで示す水酸基(OH、OD)又はチオール基(SH、SD)で希土類金属原子に配位する。
【0023】
水酸基又はチオール基(A)とアゾメチン基の両方が、ベンゼン環と結合しており、ベンゼン環は更にナフタレン環を形成してもよい。
水酸基又はチオール基(A)とアゾメチン基の位置は、目的とする錯体を得ることができる限り特に制限されることはなく、o-置換、m-置換、p-置換等のいずれでもよいが、o-置換であることが発光特性の観点からより好ましい。
アゾメチン基の炭素原子は、置換基Aを有することができる。Aは、水素、重水素、C1~C30のアルキル基(-C2n+1:ここでn=1~30、好ましくはn=1~18、より好ましくはn=1~6、特に好ましくはn=1~3)、C3~C30のシクロアルキル基(-C2n-1:ここでn=3~30、好ましくはn=3~18、より好ましくはn=3~6、特に好ましくはn=3)、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基(-C2n+1及び-CCl2n+1等、好ましくは-C2n+1:ここでn=1~30、好ましくはn=1~18、より好ましくはn=1~6、特に好ましくはn=1~3)及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基(-C2n-1及び-CCl2n-1等、好ましくは-C2n-1:ここでn=3~30、好ましくはn=3~18、より好ましくはn=3~6、特に好ましくはn=3)から選択される。
【0024】
のC1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、下記群(G1):
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、及びパークロロビフェニル基等のパーハロゲン化芳香族基;
N、O、及びS等から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基(C2n+1:n=1~30);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~30)及びパークロロアルキル基(CCl2n+1:n=1~30)等の直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
ブテニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基等のパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30);
パーフルオロシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30)及びパークロロシクロアルキル基(CCl2n-1:n=3~30)等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等のC3~C30のシクロアルケニル基;
パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、並びに
ハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができる。
尚、本明細書では、群(G1)と群(G)の二種類の置換基の群を示すが、群(G)は、群(G1)のより簡潔な記載であり、実質的に同じである。
【0025】
更に、AのC1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基の置換基として選択され得る群(G1)に含まれる置換基は、例えば、重水素原子、ハロゲノ基(F、Cl、Br及びI)、水酸基、ニトロ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メトキシ基、アミド基、カルボキシル基、及びメルカプト基等の置換基で置換されてもよい。
【0026】
のC1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基の置換基として選択され得る群(G1)は、希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体の安定性及び発光強度などを考慮すると、C1~C30のアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基、芳香族基、パーハロゲン化芳香族基及びヘテロ芳香族基及びパーハロゲン化ヘテロ芳香族基を含むことが好ましく、炭素数1~30のアルキル基、C1~C30のパーフルオロアルキル基、及びC3~C30のシクロアルキル基を含むことがより好ましく、ブチル基、ドデシル基及びシクロヘキシル基を含むことが特に好ましい。
【0027】
また、AのC1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、その中の任意の位置のC-C単結合の間に-O-、-COO-、-N<を、一又は複数挿入することで、エーテル構造、エステル構造、及び/又は第三級アミンを含んでも良い。
更に、Aは、アゾメチン基と共役系を形成しない限り、上述したようにアルケニル基等の不飽和基を有することができる。
A2は、水素、重水素、メチル基、トリフルオロメチル基、及びシクロプロピル基から選択されることが更により好ましい。
【0028】
化学式(I)の配位子は、二組のAとアゾメチン基を有し、例えば化学式(III)及び(IV)の化学構造で示すように、両方のAで、同じ希土類金属と配位結合を形成しても、別々の希土類金属と配位結合を形成してもよい。
【0029】
化学式(III)及び(IV)の化学構造は、希土類金属原子を2つ以上含む複核錯体であり得る。化学式(III)の化学構造は、複数の希土類金属を介して複数の配位子が環状につながることで形成される、環状の複核錯体を示し、化学式(IV)の化学構造は、複数の希土類金属を介して複数の配位子が鎖状につながることで形成される、鎖状の複核錯体を示す。
【0030】
化学式(I)の配位子では、二つのアゾメチン基の窒素原子同士は、連結基Aで連結される(例えば、化学式(I)、(III)~(IV)参照)。
は、C2~C30のアルキレン基(-C2n-、ここでn=2~30、好ましくは、n=4~18、より好ましくは、n=4~12)から選択される。
【0031】
は、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができる。
【0032】
更に、Aが有する置換基として選択され得る群(G1)に含まれる置換基は、例えば、重水素原子、ハロゲノ基(F、Cl、Br及びI)、水酸基、ニトロ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メトキシ基、アミド基、カルボキシル基、及びメルカプト基等の置換基で置換されてもよい。
【0033】
が有する置換基として選択され得る群(G1)は、希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体の安定性及び発光強度などを考慮すると、C1~C30のアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基、芳香族基、パーハロゲン化芳香族基及びヘテロ芳香族基及びパーハロゲン化ヘテロ芳香族基を含むことが好ましく、炭素数1~30のアルキル基、C1~C30のパーフルオロアルキル基、及びC3~C30のシクロアルキル基を含むことがより好ましく、ブチル基、ドデシル基及びシクロヘキシル基を含むことが特に好ましい。
【0034】
また、Aは、その中の任意の位置のC-C単結合の間に-O-、-COO-、-N<を、一又は複数挿入することで、エーテル構造、エステル構造、及び/又は第三級アミンを含んでも良い。
更に、Aは、アゾメチン基と共役系を形成しない限り、上述したようにアルケニル基等の不飽和基を有することができる。
【0035】
上述の化学式(I)の配位子、化学式(III)~(IV)の化学構造中の、水酸基又はチオール基(A)とアゾメチン基(-CA=N-)を共に有する配位子について、A及びアゾメチン基を共に有するベンゼン環及び形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G1)並びにハロゲノ基(例えば、F、Cl等、好ましくはF)から選択される一又は複数の置換基を有することができる。
【0036】
更に、ベンゼン環及び形成され得るナフタレン環が有し得る、上述の群(G1)に含まれる置換基は、例えば、重水素原子、ハロゲノ基(F、Cl、Br及びI)、水酸基、ニトロ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メトキシ基、アミド基、及びメルカプト基等の置換基で置換されていてもよい。
【0037】
ベンゼン環及びナフタレン環が有し得る置換基を含む群(G1)は、希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体の安定性及び発光強度などを考慮すると、C1~C30のアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基、芳香族基、パーハロゲン化芳香族基及びヘテロ芳香族基及びパーハロゲン化ヘテロ芳香族基を含むことが好ましく、炭素数1~30のアルキル基、C1~C30のパーフルオロアルキル基、及びC3~C30のシクロアルキル基を含むことがより好ましく、ブチル基、ドデシル基及びシクロヘキシル基を含むことが特に好ましい。
【0038】
上述の化学式(III)~(IV)の化学構造に含まれる、化学式(II)のβ-ジケトナト配位子について説明する。
β-ジケトナト配位子は、1価のアニオンであって、2つの酸素原子で希土類金属に配位することができる。
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、上述の水酸基又はチオール基とアゾメチン基を共に有する配位子と一緒に、β-ジケトナト配位子が配位した希土類金属を有する。
【0039】
β-ジケトナト配位子は、2つのXを有するが、両者は同じでも、異なっていてもよい。
Xは、下記群(G1):
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、及びパークロロビフェニル基等のパーハロゲン化芳香族基;
N、O、及びS等から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基(C2n+1:n=1~30);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~30)及びパークロロアルキル基(CCl2n+1:n=1~30)等の直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
ブテニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基等のパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基等の直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30);
パーフルオロシクロアルキル基(C2n-1:n=3~30)及びパークロロシクロアルキル基(CCl2n-1:n=3~30)等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等のC3~C30のシクロアルケニル基;
パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基等のC3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基
から選択される。
【0040】
更に、Xとして選択され得る上述の群(G1)に含まれる置換基は、例えば、重水素原子、ハロゲノ基(F、Cl、Br及びI)、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、及びメルカプト基等の置換基で置換されていてもよい。
【0041】
Xとして選択され得る群(G1)は、パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~30)、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基を含むことが好ましく、パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~6)、フェニル基、ナフチル基を含むことがより好ましく、パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=1~3)、フェニル基、ナフチル基を含むことが特に好ましい。
【0042】
β-ジケトナト配位子のZは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を含むことが好ましく、水素原子、重水素原子、フッ素原子を含むことが特に好ましい。
【0043】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体に関する希土類元素(例えば、化学式(III)~(IV)中、Lnで示す)として、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu等のランタン系列元素を例示でき、Eu、Sm及びDyが好ましい。これらの希土類元素は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0044】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、更に他の配位子を含むことができる。他の配位子は、本発明の実施形態が目的とする金属錯体蛍光体を得ることができる限り特に制限されることはないが、例えば、過塩素酸イオン、硝酸イオン、カルボン酸イオン、又はハロゲン化物イオンから選択される陰イオン等を例示することができる。他の配位子は、例えば、化学式(III)~(IV)では、Yで示される。他の配位子は、炭酸イオン、硫酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸から選択されることが好ましい。
【0045】
化学式(III)~(IV)の化学構造を含む本発明の実施形態の金属錯体蛍光体について、
希土類元素の陽電荷を示すn1は、2又は3であり、好ましくは3である。
β-ジケトナト配位子の数を示すn2は、1~3である。
その他の配位子の数を示すn3は、0~2のいずれかである。
アゾメチン基を有する配位子の数を示すn4は1~3である。
希土類金属の配位数は、3~11である。
n2とn3が、n2+n3=3となる組み合わせであることが好ましい。
更に、n2は、より好ましくは3であり、n3は、より好ましくは0である。
複数の配位子が環状に続く数を示すn5は、2以上の整数であることが好ましく、より好ましくは2~8である。
複数の配位子が鎖状に続く数を示すn6は、任意の整数であることが望ましく、より好ましくは3以上である。
【0046】
本発明の実施形態において、水酸基又はチオール基とアゾメチン基(シッフ塩基)を有する配位子とβ-ジケトナト配位子を共に有する、新たな三価希土類金属錯体蛍光体を提供することができる。
その新たな三価希土類金属錯体蛍光体は、好ましくは波長変換部材として使用することができ、より好ましくは紫外から青色光の領域の光を吸収し、発光することができる。
更にその三価希土類金属錯体蛍光体は、より好ましくは、より広範囲なより可視光領域の励起波長領域を有し、より吸光率が大きく、より反射率が小さく、輝度がより高い。
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、その配位子の構造及び/又は希土類原子の種類等を変更することにより、吸収波長領域を変化させることができ、発光波長領域を変化させることができる。従って、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、新たな種々の特性を有する波長変換材料を提供することができる。
【0047】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、より大きな粒子径を有することができ、より長い耐久性を有することができる。そして、そのような金属錯体蛍光体を含む透明固体担体(例えば、蛍光体シート)及びそのような透明固体担体を含む発光装置を提供することができる。
【0048】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、5μm以上50μm以下の平均粒径を有することが好ましい。金属錯体蛍光体の平均粒径は、7μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが更に好ましく、13μm以上25μm以下であることが最も好ましい。金属錯体蛍光体の平均粒径が、5μm以上50μm以下である場合、より良好な耐久性が得ることができる。
【0049】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、12μm以上100μm以下の中心(50%)粒径を有することが好ましい。金属錯体蛍光体の中心粒径は、13μm以上90μm以下であることがより好ましく、14μm以上80μm以下であることが更に好ましく、15μm以上70μm以下であることが更により好ましく、20μm以上60μm以下であることが最も好ましい。金属錯体蛍光体の中心粒径が、12μm以上100μm以下である場合、より良好な耐久性を得ることができる。
【0050】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、0.1m/g以上2.30m/g以下のBET比表面積を有することが好ましい。金属錯体蛍光体のBET比表面積は、0.2m/g以上2.00m/g以下であることがより好ましく、0.3m/g以上1.80m/g以下であることが更に好ましく、0.3m/g以上1.50m/g以下であることが更により好ましく、0.4m/g以上1.20m/g以下であることが最も好ましい。金属錯体蛍光体のBET比表面積が、0.1m/g以上2.30m/g以下である場合、より良好な耐久性を得ることができる。
【0051】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、1.570g/cm以上2.000g/cm以下であることが好ましく、1.575g/cm以上2.000g/cm以下であることがより好ましい。金属錯体蛍光体の比重が、1.570g/cm以上2.000g/cm以下である場合、比重が大きいので綿密なポリマーとなりより良好な耐久性が得られる。
【0052】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体(より具体的には、例えば、化学式(III)~(IV)の化学構造を含む錯体)は、それが得られる限り、その製造方法は特に制限されることはないが、上述の製造方法を用いることが好ましい。
【0053】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、無機部材又は有機部材による被覆を外側に有することが好ましい。金属錯体蛍光体の周囲の少なくとも一部を、被覆で覆ってよい。無機部材として、例えば、SiO、Al等を例示することができ、SiO、Al、が好ましい。有機材料として、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂等の樹脂部材を例示することができ、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂等の樹脂部材が好ましい。
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、無機部材又は有機部材による被覆を外側に有する場合、金属錯体蛍光体の耐久性(発光輝度維持率)がより高い。
【0054】
金属錯体蛍光体の周囲をシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂等の樹脂部材やSiO,Al等の無機部材で覆っても良い。それらで覆うことで、金属錯体蛍光体の耐久性を向上させることが出来る。
【0055】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、例えば、発光補助体、光学レンズ、蛍光プローブ、セキュリティインク等の種々の光機能材料として用いることができる。
更に、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体を、透明固体担体に含有させることにより、同様に種々の光機能材料に用いることができる。透明固体担体に、金属錯体蛍光体を含有させることで、取り扱い易さ、安定性及び成形加工性等が向上するので好ましい。
従って、本発明は、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体を含む光機能材料用透明固体担体、及び本発明の実施形態の金属錯体蛍光体を透明固体担体に含有させることを含む光機能材料用透明固体担体の製造方法を提供する。
【0056】
本発明の実施形態の透明固体担体は、透明で固体であり、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体の担体として使用することができる限り、特に制限されるものではない。例えば、透明ポリマーマトリックス及び透明ガラス等を使用することができる。
【0057】
透明ポリマーマトリクスとして、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブテン等)、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂、チオール樹脂などを例示できる。
透明ポリマーマトリクスとして、ポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合体、ケイ素樹脂、、チオール樹脂及びエポキシ樹脂等を使用することが好ましい。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
本発明の実施形態において、上記金属錯体蛍光体が透明固体担体(例えば、樹脂又はガラス)中に含まれている、蛍光体含有透明固体担体を提供することができる。透明固体担体が、シート状である場合、上記金属錯体蛍光体を含むシート状透明固体担体を、全体として、蛍光体シートともいう。
従って、本発明の実施形態において、上記金属錯体蛍光体が樹脂(もしくはポリマー)又はガラス中に含まれている、蛍光体シートを提供することができる。
【0059】
本発明の実施形態において、前記蛍光体シートは、発光ピーク波長が515nm以上540nm以下の量子ドットを更に含むことができる。蛍光体シートが、そのような量子ドットを含む場合、色域がより広域になるという有利な効果を奏し得る。
【0060】
前記蛍光体シートは、一つの層でできていてもよく、2以上の層でできていてもよく、蛍光体シートに含まれる層の数は適宜選択することができる。
本発明の実施形態において、前記蛍光体シートは、前記量子ドットと、前記金属錯体蛍光体とを一つの層に含むことができる。この場合、より薄型化することができる。
また、本発明の実施形態において、前記蛍光体シートは、前記量子ドットを含む第1層と前記金属錯体蛍光体を含む第2層を含む、複数の層を含むことができる。前記第2層は、前記金属錯体蛍光体を含み、発光ピーク波長が600nm以上650nm以下の量子ドットを含むことが好ましい。この場合、より耐久性を向上することができる。
【0061】
本開示において量子ドットとは、粒径が例えば10nm以下の半導体粒子であって、量子サイズ効果を発現する半導体粒子をいい、本開示が目的とする蛍光体シートを得ることができる量子ドットであれば特に制限されることはない。
量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、粒径をナノサイズにしたときに離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象をいう。
【0062】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能である。そのような量子ドットの発光を利用した白色発光デバイスが提案されており、例えば、そのような量子ドットを、本開示でも利用することができる。例えば、特開2012-212862号公報、特開2010-177656号公報、国際公開第2018/159699号、国際公開第2019/160094号、国際公開第2020/162622号、国際公開第2022/191032号、国際公開第2022/191032号などに記載の量子ドットを利用することができる。
【0063】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、450nmの入射光に関する反射率が、50%以下であることが好ましく、40~1%であることがより好ましく、30~1%であることが特に好ましい。
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、550nmの入射光に関する反射率が、60%以上であることが好ましく、70~120%であることがより好ましく、80~120%であることが特に好ましい。
ここで、反射率は、リン酸カルシウムの反射率を100%(基準)とする、相対値である。
【0064】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、緑色の吸収が少なく、組み合わせたときの輝度がより高くなるので、緑色蛍光体と組み合わせると、より効率が高く好ましい。
本明細書において、緑色蛍光体、又は緑色量子ドットとは、その蛍光のピーク波長が500nm以上600nm以下の範囲にある蛍光体をいう。
そのような緑色蛍光体又は緑色量子ドットとして、例えば、βサイアロン系蛍光体(例えば、(Si,Al)(O,N):Eu)、SAE系蛍光体(例えば、SrAl1425:Eu)、クロロシリケート系蛍光体(例えば、CaMgSi16Cl:Eu)、チオガレート系蛍光体(例えば、SrGa24:Eu) 、ペロブスカイト構造を有する量子ドット(例えば、(Cs,FA,MA)(Pb,Sn)(F,Cl,Br,I) ここで、FAとMAは、それぞれホルムアミジニウムとメチルアンモニウムを表す。)、II-VI族量子ドット(例えば、CdSe)、III-V族量子ドット(例えば、InP)、又はカルコパイライト構造を有する量子ドット(例えば、(Ag,Cu)(In,Ga)(S,Se))などを例示することができる。
【0065】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、後述する相対発光強度が、5%以上であることが好ましく、50%以上であることが好ましく、100%以上であることが更により好ましく、110%以上であることが特に好ましい。相対発光強度は、450nmの励起光で励起したときの値である。
【0066】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体およびそれを含む透明固体担体の450nmの入射光に関する反射率は、従来の希土類金属錯体蛍光体の450nmの入射光に関する反射率より低くなり得るので、従来の希土類金属錯体蛍光体と比較して、450nmの入射光に関しより高い波長変換効率を有し得る。また、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体を用いることにより、より好ましくは発光効率の高い発光装置を得ることができる。
【0067】
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体の高温高湿下での耐久性は、透明固体担体に含まれた状態で、例えば、300時間以上であり、500時間以上であることが好ましく、750時間以上であることがより好ましく、1000時間以上であることが更により好ましく、1500時間以上であることが特に好ましい。
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体の高温高湿(例えば、60℃90%RH)下での耐久性は、透明固体担体に含まれた状態で、300時間以上である場合、より耐久性が高い。
【0068】
本発明の実施形態の発光装置は、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体又はそれを含む透明固体担体と、発光ダイオード又はレーザーダイオードと組み合わせることによって構成される。
本発明の実施形態の金属錯体蛍光体又はそれを含む透明固体担体は、従来の蛍光体と同様、導光板の上面(光射出面)、側面(発光ダイオードの光入射面)、発光装置のカップ内及び発光ダイオードを封止する樹脂内等に配置することができる。
【0069】
発光ダイオード又はレーザーダイオードは、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体の中心イオンのf-f遷移又は配位子の吸収に対応する励起スペクトルのピーク波長にほぼ一致する波長の光を発することが好ましい。発光ダイオード又はレーザーダイオードとして、例えば、Inを含む窒化物半導体層を発光層として含む窒化物半導体発光素子を用いることができる。この窒化物半導体発光素子の発光ピーク波長は、発光層のInの含有率を変化させることにより、発光ピーク波長の調整が可能である。
【0070】
さらに、後述の実施例で示すように、本発明の実施形態の金属錯体蛍光体は、より好ましくは紫外から可視の広域領域で励起スペクトルを示し得る。そのような場合、それぞれの波長に対応する複数の発光素子を用いて発光装置を構成することもできる。
【0071】
本発明の実施形態において、上記蛍光体シートと、発光ピーク波長が380nm以上490nm以下の発光素子を含む、発光装置を提供することができる。発光ピーク波長が380nm以上490nm以下の発光素子を含む場合、色域がより広域になり得る。
【0072】
本発明の実施形態の発光装置は、例えば、一般照明装置、信号装置及び表示装置等として使用することができる。より具体的には、例えば、自動車のブレーキランプ、ドアの表示灯、店舗等に設置する装飾用パネル、パソコン、携帯端末、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの表示装置用バックライト及びサイドライト等を例示することができる。
【0073】
本発明は、下記の実施形態を含む。
【0074】
(付記1)
下記化学式(I)で示される二組のアゾメチン基を有する配位子を準備して、第1溶媒に溶解して溶液(1)を準備すること;
下記化学式(II)で示されるβ-ジケトナト配位子を有し、化学式(I)で示される配位子を有さない希土類金属錯体を準備して、第2溶媒に溶解して溶液(2)を準備すること;及び
前記溶液(1)と前記溶液(2)を、混合すること
を含み、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、金属錯体蛍光体の製造方法。

化学式(I):
【化9】
[化学式(I)において、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、下記群(G):
芳香族基;
パーハロゲン化芳香族基;
少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
C3~C30のシクロアルケニル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、並びに
ハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができる]
で示される、二組のアゾメチン基を有する配位子;及び

化学式(II)
【化10】
[化学式(II)において、
Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、上記群(G)から選択される置換基を示し、
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示す]
で示されるβ-ジケトナト配位子。
【0075】
(付記2)
下記式(1)で示される濃度増加率が、0.00875(M/hr)以下であるように、前記溶液(1)と前記溶液(2)を混合することを含む、上記付記1記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
(金属錯体蛍光体の濃度増加量)÷(混合開始から終了までの時間) 式(1)
【0076】
(付記3)
前記第1溶媒は、ハロゲン系溶媒を含み、前記第2溶媒は、エーテル系溶媒を含む、上記付記1又は上記付記2に記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【0077】
(付記4)
前記溶液(1)と、前記溶液(2)を、更に、第3溶媒の存在下、混合することを含む、上記付記1~3のいずれか一つに記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【0078】
(付記5)
前記第3溶媒は、アルコール系溶媒を含む、上記付記4記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【0079】
(付記6)
更に、200℃以下で、金属錯体蛍光体の表面を、無機部材又は有機部材で被覆することを含む、上記付記1~5のいずれか一つに記載の金属錯体蛍光体の製造方法。
【0080】
(付記7)
下記化学式(III)及び(IV)から選択される少なくとも1種の化学構造を含む、希土類金属錯体であり、
希土類金属は、8配位であり、
発光ピーク波長が600nm以上635nm以下である、希土類金属錯体を含む金属錯体蛍光体であって、
12μm以上100μm以下のD50粒子径を有する、金属錯体蛍光体。

化学式(III):
【化11】
[化学式(III)において、
Lnは、希土類金属原子を示し、n1は、2又は3を示し、
β-ジケトナト配位子について、Xは、両方共同一であっても各々が異なってもよい、下記群(G):
芳香族基;
パーハロゲン化芳香族基;
少なくとも1種のヘテロ原子を環中に含むヘテロ芳香族基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のアルキル基;
直鎖又は分枝を有するC1~C30のパーハロゲン化アルキル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のアルケニル基;
直鎖又は分枝を有するC3~C30のパーハロゲン化アルケニル基;
C3~C30のシクロアルキル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基;
C3~C30のシクロアルケニル基;
C3~C30のパーハロゲン化シクロアルケニル基;及び
C3~C30のアルキニル基、
から選択される置換基を示し
Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、メチル基、エチル基、フェニル基、水素原子又は重水素原子を示し、n2は、1~3の整数を示し、
Yは、過塩素酸イオン、硝酸イオン、カルボン酸イオン、及びハロゲン化物イオンから選択される少なくとも1種であってよく、n3は、0~2の整数を示し、
二組のアゾメチン基を有する配位子について、
は、OH基、OD基、SH基又はSD基を示し、
は、水素、重水素、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基から選択され、C1~C30のアルキル基、C3~C30のシクロアルキル基、C1~C30のパーハロゲン化アルキル基及びC3~C30のパーハロゲン化シクロアルキル基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
は、C2~C30のアルキレン基から選択され、そのアルキレン基は、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
とアゾメチン基が共に結合するベンゼン環について、Aとアゾメチン基が結合していない、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子は、-C-で接続されてナフタレン環を形成することができ、
そのベンゼン環と形成され得るナフタレン環は、更に、上記群(G)並びにハロゲノ基から選択される一又は複数の置換基を有することができ、
n5は、2以上の整数を示す]、及び

化学式(IV):
【化12】
[化学式(IV)において、
n6は、1以上の整数を示すほかは、化学式(III)のものと同様である]。
【0081】
(付記8)
前記金属錯体蛍光体は、1.570g/cm以上2.000g/cm以下の比重を有する、上記付記7に記載の金属錯体蛍光体。
【0082】
(付記9)
無機部材又は有機部材による被覆を外側に有する、上記付記7又は8に記載の金属錯体蛍光体。
【0083】
(付記10)
上記付記7~9にいずれか一つに記載の金属錯体蛍光体が樹脂又はガラス中に含まれている、蛍光体シート。
【0084】
(付記11)
前記蛍光体シートは、発光ピーク波長が515nm以上540nm以下の量子ドットを含む、上記付記10に記載の蛍光体シート。
【0085】
(付記12)
前記蛍光体シートは、前記量子ドットと、前記金属錯体蛍光体とを一つの層に含む、上記付記11に記載の蛍光体シート。
【0086】
(付記13)
前記量子ドットを含む第1層と、前記金属錯体蛍光体を含み、発光ピーク波長が600nm以上650nm以下の量子ドットを含む第2層を含む、上記付記11又は12に記載の蛍光体シート。
【0087】
(付記14)
上記付記10~13のいずれか一つに記載の蛍光体シートと、発光ピーク波長が380nm以上490nm以下の発光素子を含む、発光装置。
【実施例0088】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、実施例の記載において、特に記載がない限り、溶媒を考慮しない部分を、重量部及び重量%の基準としている。
【0089】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
水酸基又はチオール基とアゾメチン基を有する配位子(I)
(I-1)N,N’-ビス(p-ヒドロキシフェニルアセチリデン)1,4-ブチレンジアミン(H1,4-acebn)[HO-C-C(CH)=N-(CH-N=C(CH)-C-OH](ベンゼン環は共にオルト置換である)
β-ジケトナト配位子(II)
(II-1)ベンゾイルトリフルオロアセトン(btfa)[CF-CO-CH-CO-C]に基づく配位子
1価のアニオンであるβ-ジケトナト配位子を「btfa」ともいう。
【0090】
実施例1:H1,4-acebnとbtfaが共に配位したユーロピウムを含む錯体の合成
白色固体粉末[EuIII(BTFA)(HO))]113.7gを390mlTHFに加えて、THF溶液を得た。
(a4)N,N’-ビス(ヒドロキシフェニルアセチリデン)1,4-ブタンジアミン(H1,4-acebn)[HO-C-C(CH)=N-(CH-N=C(CH)-C-OH:44.3g](ベンゼン環は共にオルト置換である)固体粉末を、1560mLのジクロロメタンに加えて、ジクロロメタン溶液を得た。
先に合成して再結晶済の実施例1で得られるべき錯体7.9g(上述の原料の合計の5質量%)を、1950mLのエタノールに加えた。
上述のTHF溶液とジクロロメタン溶液を、錯体結晶を含むエタノールに室温で8時間かけて加え、その後、1日攪拌を続けた。沈澱した固体を濾過した。ジクロロメタンを減圧留去により取り除き、実施例1の錯体を得た。実施例1の錯体の製造方法と物性を表1に示した。実施例1の錯体は、後述する比較例1の錯体より、粒径が大きいことが理解できる。
【0091】
比較例1:H1,4-acebnとbtfaが共に配位したユーロピウムを含む錯体の合成
白色固体粉末[EuIII(BTFA)(HO))]26.3gを450mlジクロロメタンに分散させて、分散物を得た。
(a4)N,N’-ビス(ヒドロキシフェニルアセチリデン)1,4-ブタンジアミン(H1,4-acebn)[HO-C-C(CH)=N-(CH-N=C(CH)-C-OH:10.2g](ベンゼン環は共にオルト置換である)固体粉末をそのまま、一度に上述の分散物に入れ、室温で1日攪拌した。沈澱した固体を濾過した。ジクロロメタンを減圧留去により取り除き、黄色生成物を得た。冷エタノール溶媒で洗浄し、減圧留去によりエタノールを取り除き、比較例1の錯体を得た。比較例1の錯体の製造方法と物性を表1に示した。
【0092】
【表1】

【0093】
物性は、下記のようにして、測定した。
平均粒径は、Fisher Scientific社製 Fisher Sub-Sieve Sizer Model95を用い、FSSS法によって測定した。
中心粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(MALVERN社製MS-2000(製品名))を用いて、体積基準の粒度分布における小径側からの累積50%粒径(D50粒子径)を測定した。
σlogとは、対数正規分布の標準偏差である。
BET比表面積は、自動比表面積測定装置(マウンテック社製のMacsorb(商品名))を用いて測定した。窒素ガスを用いる1点法でBET法によって、BET比表面積を測定した。
【0094】
真比重は、真密度測定装置(Micrometrics社アキュピック)を用いてガス置換法にて真密度を測定した。
相対発光強度は、量子効率測定装置(製品名:QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、励起波長450nmの光を各蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)での相対発光強度を測定した。相対発光強度は、比較例1の金属錯体蛍光体を100%として算出した。
反射率は、分光蛍光光度計:F-4500を用いて測定した。なお、反射率の基準にはCaHPOを用いた。
SEM(走査型電子顕微鏡)を使用して、5.0kVの電圧でSEM画像を撮影した。実施例は、1000倍であり、比較例は、2000倍である。
【0095】
元素分析(C,N,H)は、元素分析装置Perkin Elmer社製の2400II(型番)で測定した。
元素分析(Eu)は、Perkin Elmer社製のAvio500(型番)で測定した。尚、Eu分析誤差を考慮すると、N/Euは0.19以上0.21以下であると考えられる。
TG/DTAは、日立ハイテクサイエンス(株)社製の示差熱熱重量同時測定装置TD/DTA6300(型番)を使用して測定した。2gの試料を、Alパンに入れ、5℃/分の昇温速度で、30℃から350℃まで加熱して、TG/DTAチャートを測定した。重量が減少する温度を分解温度とした。
IRは、フーリエ変換赤外分光光度計FT-IR(サーモフィッシャー社製の型番:is5)を用い、ATR法で測定した。
【0096】
実施例1の錯体を含む実施例2の蛍光体シートと、比較例1の錯体を含む比較例2の蛍光体シートの製造
実施例1の錯体と比較例1の錯体を使用して、各々の蛍光体シートを作製した。0.15gの錯体、3.5gのアクリル樹脂)、1.5gのチオール樹脂、0.3gの散乱剤(シリコーンレジンパウダー)、0.05gの光開始剤)を混合して樹脂組成物を得た。その樹脂組成物をシート状にし、その樹脂組成物のシートの上下にバリアフィルムを配置して、シートを挟んだ。シートにUV光を室温で照射して、シートの樹脂をUV硬化させて、実施例2の蛍光体シートと比較例2の蛍光体シートを得た。樹脂層(シート)の厚さ(バリアフィルムを含まない)は、75μmであった。
【0097】
実施例2の蛍光体シートと比較例2の蛍光体シートについて、室温での駆動時の耐久性(500時間、1000時間)、60℃90%湿度での駆動時の耐久性(500時間、1000時間)60℃90%湿度での保管時の耐久性(500時間、1000時間)を評価した。それを、表2に示した。表2から、実施例2の蛍光体シートの輝度維持率がより高いことが理解できる。特に、60℃90%湿度の時に、輝度維持率が高いので、耐久性がより高いことが理解できる。
【0098】
蛍光体シートの耐久性は、下記のように評価した。
(室温駆動試験)
実施例、比較例で作成した蛍光体シートを、室温で、青色LED(ピーク波長450nm)で、点灯させながら(蛍光を生じさせながら)、500時間、1000時間保管して、時間ごとのシート輝度を測定し、輝度維持率を測定した。
(60℃90%RH保管試験)
実施例、比較例で作成したシートを、温度60℃、湿度90%条件の試験槽の中で、青色LED(ピーク波長450nm)で点灯させることなく、500時間、1000時間保管して、時間ごとのシート輝度を測定し、輝度維持率を測定した。
(60℃90%RH駆動試験)
実施例、比較例で作成したシートを、温度60℃、湿度90%条件の試験槽の中で、青色LED(ピーク波長450nm)で点灯させながら、500時間、1000時間保管して時間ごとのシート輝度を測定し、輝度維持率を測定した。
【0099】
耐久性がより良好かつ高輝度となる蛍光体シートは錯体粒子がより大きく表面積がより小さい特徴を有している。錯体粒径が大きいと樹脂からの反応などの外部からの攻撃が抑えられて良好な耐久性が得られる。錯体が外部からの攻撃を受けた部分は透明となり、発光が消失する。
【0100】
【表2】

【0101】
実施例3~4の蛍光体シートの製造
実施例1の錯体を使用して、2層構造を有する実施例3及び4の蛍光体シートを作製した。使用した原料、結果などを表3に示した。
0.30gの実施例1の錯体、7.50gのアクリル樹脂、2.50gのチオール樹脂、0.30gの散乱剤シリコーンレジンパウダー、0.10gの光開始剤を混合して樹脂組成物を得た。その樹脂組成物をバリアフィルムに塗工して、シート状にした。そのシートにUV光を照射して、シート状樹脂をUV硬化させた。
次に、1.20gの緑色のカルコパイライト型量子ドット、7.50gのアクリル樹脂、2.50gのチオール樹脂、0.30gの散乱剤シリコーンレジンパウダー、0.10gの光開始剤を混合して樹脂組成物を得た。その樹脂組成物を先にUV硬化したシート状樹脂に塗工して、バリアフィルムを被せた。UV光を照射して、UV硬化させて、実施例3の2層構造を有する蛍光体シートを得た。樹脂層(シート)の厚さ(バリアフィルムを含まない)は、150μmであった。
0.30gの実施例1の錯体を、0.25gの実施例1の錯体と0.05gのInPの量子ドットの組み合わせに変えた他は、実施例3と同様にして、実施例4の蛍光体シートを得た。
【0102】
比較例3の蛍光体シートの製造
実施例1の錯体を使用することなく、2層構造を有する比較例3の蛍光体シートを作製した。使用した原料、結果などを表3に示した。
0.30gの実施例1の錯体を、0.27gのInPの量子ドットに変えたことを除いて、実施例3と同様にして、比較例3の蛍光体シートを得た。
【0103】
【表3】

【0104】
実施例3~4の蛍光体シートは、60℃90%RH駆動時の耐久性(500hr輝度維持率)に優れていた。更に、比較例3の蛍光体シートの輝度を100%(基準)とすると、いずれも輝度がより高かった。
【0105】
実施例5~6の蛍光体シートの製造
実施例1の錯体を使用して、実施例2の蛍光体シートと異なる、単層構造を有する実施例5~6の蛍光体シートを作製した。使用した原料、結果などを表3に示した。
0.30gの実施例1の錯体、1.50gの緑色のカルコパイライト型量子ドット、7.50gのアクリル樹脂、2.50gのチオール樹脂、0.60gの散乱剤シリコーンレジンパウダー、0.10gの光開始剤を混合して樹脂組成物を得た。その樹脂組成物をシート状にし、その樹脂組成物のシートの上下にバリアフィルムを配置して、シートを挟んだ。シートにUV光を照射して、シートの樹脂をUV硬化させて、実施例5の蛍光体シートを得た。樹脂層(シート)の厚さ(バリアフィルムを含まない)は、75μmであった。
0.30gの実施例1の錯体を、0.25gの実施例1の錯体と0.05gのInPの量子ドットの組み合わせに変えた他は、実施例5と同様にして、実施例6の蛍光体シートを得た。
【0106】
実施例5~6の蛍光体シートは、60℃90%RH駆動時の耐久性(500hr輝度維持率)に優れていた。更に、比較例3の蛍光体シートの輝度を100%(基準)とすると、いずれも輝度がより高かった。
【0107】
実施例7:H1,4-acebnとbtfaが共に配位したユーロピウムを含む錯体の合成
白色固体粉末[EuIII(BTFA)(HO))]113.7gを390mlTHFに加えて、THF溶液を得た。
(a4)N,N’-ビス(ヒドロキシフェニルアセチリデン)1,4-ブタンジアミン(H1,4-acebn)[HO-C-C(CH)=N-(CH-N=C(CH)-C-OH:44.3g](ベンゼン環は共にオルト置換である)固体粉末を、クロロホルムに加えて、クロロホルム溶液を得た。
上述のTHF溶液とクロロホルム溶液を、錯体結晶を含むエタノールに室温で一気に加え、その後、1日攪拌を続けた。沈澱した固体を濾過した。クロロホルムを減圧留去により取り除き、実施例7の錯体を得た。実施例1の錯体の物性を表5に示した。
【0108】
実施例8:外側にAlO3被覆を有する、H1,4-acebnとbtfaが共に配位したユーロピウムを含む錯体の合成
金属錯体の外側にALD法(原子層堆積法:Atomic layer deposition)にて、無機材料の被覆を形成した。その形成方法は下記の通りである。
ALDの反応プロセスは1サイクル4ステップで構成される。サイクルに入る前に反応管内を窒素ガスで置換し、ステップ1で蛍光体表面に前駆体ガスを表面吸着させ、ステップ2で表面吸着しなかった余分な前駆体ガスを排気し、ステップ3で反応ガスを導入し、蛍光体表面に吸着した前駆体ガスと、反応させ、ステップ4で反応しなかった余分な反応ガスを排気する。この1サイクルで1層の原子膜が形成され、これを繰り返すことで所定の膜厚まで成膜を行う。ガスは、反応管内部の2か所の導入口から導入した。
【0109】
実施例7の金属錯体100gに、日本アエロジル製ナノアルミナを0.3wt%添加した混合物を反応管内に設置した。反応管の温度を100℃に設定し、反応管内を窒素ガスで置換した後、下記表4記載の条件でALDの反応プロセスを開始した。ステップ1の前駆体ガスには、窒素ガスをトリメチルアルミニウム(TMA:Al(CH)にバブリングしたガスを用い、ステップ3の反応ガスには酸素と窒素の混合ガスを純水にバブリングしたガスを用い、ステップ2および4の余分なガスの排気には窒素ガスを用いた。反応プロセス完了後、窒素ガスで反応管内を十分置換した後に、金属錯体を取り出し、実施例8の金属錯体を得た。実施例8の錯体の物性を表5に示した。
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
実施例9~10の蛍光体シートの製造
実施例7~8錯体を使用して、実施例5の蛍光体シート同様の単層構造を有する実施例9~10の蛍光体シートを作製した。使用した原料、結果などを表6に示した。
0.15gの実施例7の錯体、0.60gの緑色のカルコパイライト型量子ドット、3.50gのアクリル樹脂、1.50gのチオール樹脂、0.30gの散乱剤シリコーンレジンパウダー、0.05gの光開始剤を混合して樹脂組成物を得た。その樹脂組成物をシート状にし、その樹脂組成物のシートの上下にバリアフィルムを配置して、シートを挟んだ。シートにUV光を照射して、シートの樹脂をUV硬化させて、実施例9の蛍光体シートを得た。樹脂層(シート)の厚さ(バリアフィルムを含まない)は、75μmであった。
実施例7の錯体を、実施例8の錯体に変えた他は、実施例9と同様にして、実施例10の蛍光体シートを得た。
【0113】
【表6】
【0114】
実施例9~10の蛍光体シートは、60℃90%RH駆動時の耐久性(500hr輝度維持率)に優れていた。更に、比較例3の蛍光体シートの輝度を100%(基準)とすると、いずれも輝度がより高かった。
更に、Al被覆を施した実施例8の錯体を用いた実施例10の蛍光体シートは、Al被覆を有さない実施例7の錯体を用いた実施例9の蛍光体シートより、60℃90%RH駆動時の耐久性(500hr輝度維持率)及び60℃90%RH駆動時の耐久性(1000hr輝度維持率)により優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の実施形態の希土類金属錯体発光体は、より長い耐久性を有することができる。よって、本発明の実施形態の希土類金属錯体発光体は、蛍光体シート及び蛍光装置を製造するために好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6