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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149411
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】変性小麦粉
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241010BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A21D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024053612
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023062977
(32)【優先日】2023-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 一民
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 哲也
(72)【発明者】
【氏名】津田 恭征
(72)【発明者】
【氏名】木本 匡昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 開
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匡
(72)【発明者】
【氏名】柴本 憲幸
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE26
4B023LG06
4B023LP07
4B023LQ01
4B023LT05
4B023LT06
4B032DB01
4B032DB10
4B032DB21
4B032DG02
4B032DG14
4B032DK02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK42
4B032DK47
4B032DK54
4B032DL03
4B032DL20
4B032DP02
4B032DP08
4B032DP24
4B032DP29
4B032DP37
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】食品原料として優れた性質を有する高アミロース小麦粉。
【解決手段】α化度が20~45%である、変性高アミロース小麦粉。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化度が20~45%である、変性高アミロース小麦粉。
【請求項2】
コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上である、請求項1記載の変性高アミロース小麦粉。
【請求項3】
SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、請求項1記載の変性高アミロース小麦粉。
【請求項4】
熱処理小麦粉である、請求項1記載の変性高アミロース小麦粉。
【請求項5】
グルテンバイタリティが15~50%である、請求項1記載の変性高アミロース小麦粉。
【請求項6】
総食物繊維含量が変性前と比べて増加していない、請求項1記載の変性高アミロース小麦粉。
【請求項7】
ベーカリー食品用小麦粉である、請求項1記載の変性高アミロース小麦粉。
【請求項8】
高アミロース小麦粉に加水すること、
該加水した小麦粉をα化度が20~45%になるように熱処理すること、
を含む、変性高アミロース小麦粉の製造方法。
【請求項9】
前記変性高アミロース小麦粉が、コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記変性高アミロース小麦粉が、SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記変性高アミロース小麦粉のグルテンバイタリティが15~50%である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記変性高アミロース小麦粉の総食物繊維含量が前記熱処理の前と比べて増加していない、請求項8記載の方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉を含有するベーカリー食品。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉を用いるベーカリー食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性された高アミロース小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物に含まれる澱粉にはアミロースとアミロペクチンが含まれる。アミロースは、消化酵素による消化性が悪く、そのため、ヒトの消化酵素で消化されない難消化性成分、すなわち食物繊維として機能し得、難消化性澱粉に分類される。近年、澱粉合成に関連する酵素に変異を有することでアミロース含有量を増加させた高アミロース小麦が開発されている(非特許文献1、2)。特許文献1~4には、澱粉分枝酵素SBEIIaの遺伝子の点変異を有し、SBEIIaの活性が低下しており、穀粒に含まれる澱粉のアミロース含有量が高い高アミロース小麦が開示されている。しかし一方で、アミロースは食品がパサついたり硬くなったりする原因でもある。例えば、前述の非特許文献2には、高アミロース小麦から製造したパンが、通常の小麦を使用したものと比べて膨らみが悪く品質に劣っていたこと、一方で、高アミロース小麦粉の配合によりパスタのようなテクスチャーの中華麺が得られたことが記載されている。そのため、ベーカリー食品や麺類では、食品の食感をソフトで口当たりのよいものにしたい場合、アミロース含有量の低い穀粉が利用されることがある。
【0003】
特許文献5には、湿熱処理した小麦粉であって、α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1Pa・s以上、10Pa・s以下であることを特徴とする湿熱処理小麦粉を用いた揚げ物用ミックスにより、衣の歯もろくサクサクした食感が向上することが記載されている。特許文献6には、α化度が30~80%の部分α化小麦粉及び/又は部分α化澱粉を、α化コーンスターチ及び/又はα化タピオカ澱粉及び未糊化の澱粉及び/又は小麦粉とともに特定の組成で水に分散させ、これを製パン原料に配合するパン類の製造方法が記載され、また該方法によりパン類の風味改善、食感改善、老化抑制などの効果が得られることが記載されている。特許文献7には、小麦粉に湿熱処理及び乾熱処理を順次施して得られた熱処理小麦粉、及びこれを含むベーカリー食品用ミックスが記載されている。
【0004】
特許文献8には、高アミロースフラワーを短時間の熱水処理で加工することで、その総食物繊維(TDF)含量を増加させることができること、具体的には、高アミロースフラワーを、10~50重量%の総水含量で、80~160℃の目標温度で、該目標温度において0.5~15分間という条件下で、TDFをフラワーの重量に対し少なくとも10%増加させるように条件を選択して、加熱することによる、フラワーの総食物繊維を増加させるプロセスが記載されており、また該処理に際して、澱粉が糊化するのを避けるような条件にするとTDFを高含有するフラワーが調製されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-504803号公報
【特許文献2】特表2008-526690号公報
【特許文献3】特表2015-504301号公報
【特許文献4】特表2019-527054号公報
【特許文献5】特開2008-067675号公報
【特許文献6】特開2015-070807号公報
【特許文献7】国際公開公報第2016/121570号
【特許文献8】特開2006-320325号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J Jpn Assoc Dietary Fiber Res, 2003, 7(1):20-25
【非特許文献2】Trends in Food Science and Technology, 2006, 17:448-456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高アミロース小麦粉は有望な食物繊維素材の1つである。本発明は、食品原料として優れた性質を有するように変性された高アミロース小麦粉に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的実施形態として、以下を提供する。
〔1〕α化度が20~45%である、変性高アミロース小麦粉。
〔2〕コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上である、〔1〕記載の変性高アミロース小麦粉。
〔3〕SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、〔1〕又は〔2〕記載の変性高アミロース小麦粉。
〔4〕熱処理小麦粉である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉。
〔5〕グルテンバイタリティが15~50%である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉。
〔6〕総食物繊維含量が変性前と比べて増加していない、〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉。
〔7〕ベーカリー食品用小麦粉である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉。
〔8〕高アミロース小麦粉に加水すること、
該加水した小麦粉をα化度が20~45%になるように熱処理すること、
を含む、変性高アミロース小麦粉の製造方法。
〔9〕前記変性高アミロース小麦粉が、コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が40質量%以上である、〔8〕記載の方法。
〔10〕前記変性高アミロース小麦粉が、SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、〔8〕又は〔9〕記載の方法。
〔11〕前記変性高アミロース小麦粉のグルテンバイタリティが15~50%である、〔8〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法。
〔12〕前記変性高アミロース小麦粉の総食物繊維含量が前記熱処理の前と比べて増加していない、〔8〕~〔11〕のいずれか1項記載の方法。
〔13〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉を含有するベーカリー食品。
〔14〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の変性高アミロース小麦粉を用いるベーカリー食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明で提供される変性高アミロース小麦粉を用いることで、従来の高アミロース小麦粉と比べて食感が向上したベーカリー食品を製造することができる。例えば、該変性高アミロース小麦粉を用いて製造したベーカリー食品は、口溶けが向上しながらも、歯切れに優れるという特徴を有する。また該変性高アミロース小麦粉を用いて製造したベーカリー食品は、老化耐性、電子レンジ加熱耐性に優れ、製造後時間が経ったり、電子レンジで再加熱した場合でも良好な食感を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、高アミロース小麦粉とは、アミロース含有量が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは43質量%以上、さらに好ましくは48質量%以上の小麦粉をいう。小麦粉のアミロース含有量とは、該小麦粉に含まれる総澱粉中のアミロース含有量をいう。本明細書における小麦粉のアミロース含有量は、コンカナバリンA(ConA)法により分析された値として定義され、例えば、該小麦粉をMegazyme社のアミロース/アミロペクチン分析キット(AMYLOSE/AMYLOPECTIN ASSAY KIT)で分析することで測定することができる。従来一般的なアミロース含有量の分析方法としては、(1) アミロースのヨウ素に対する結合能の高さを利用した方法(ヨウ素親和力測定法;例えば電流滴定法、比色定量法、AACC61-03法など)、(2) アミロペクチンとConAが特異的に結合することを利用した方法(ConA法)が知られている。しかし(1)を利用した方法ではアミロース量がより高く算出される傾向がある。例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載されるSGP-1遺伝子の機能欠失型変異(null変異)を有する高アミロース小麦粉のアミロース含有量は、ヨウ素親和力測定法では37質量%程度であるが、ConA法では31質量%程度である。なお、従来一般的な小麦粉のアミロース含有量は、ヨウ素親和力測定法では32質量%未満、ConA法では28質量%未満である。
【0011】
高アミロース小麦粉の原料小麦の例としては、澱粉分枝酵素SBEIIaの活性が低い改変小麦が挙げられる。そのような改変小麦の例としては、特許文献1~4に記載される、SBEIIaの遺伝子の変異を有し、SBEIIaの活性が低下している高アミロース小麦が挙げられる。より具体的な例としては、穀粒中のSBEIIaタンパク質の量又は活性が野生型小麦穀粒中の量又は活性の2%よりも低い高アミロース小麦、1つ以上、例えば1つ又は2つのSBEIIa遺伝子のnull変異を有する高アミロース小麦、などが挙げられる。
【0012】
高アミロース小麦粉は、前述した原料小麦の穀粒を通常の方法に従って製粉することによって製造することができる。本発明で使用される高アミロース小麦粉は、小麦穀粒の胚乳画分のみを実質的に含む小麦粉であってもよく、又は、小麦穀粒の胚乳画分に加えてさらに胚芽やふすま画分を含む小麦粉(例えば全粒粉)であってもよい。
【0013】
本発明は、変性した高アミロース小麦粉(以下、「変性高アミロース小麦粉)ともいう)を提供する。本発明の変性高アミロース小麦粉は、含有する澱粉が、該変性の前と比べてα化されている。本発明の変性高アミロース小麦粉は、α化度が、好ましくは20~45%、より好ましくは25~40%、さらに好ましくは28~37%である。本明細書において、小麦粉のα化度は、β-アミラーゼ・プルラナーゼ(BAP)法(Jap.Soc.Starch Sci,28(4):235-240(1981)参照)により求められる。通常の(従来の)高アミロース小麦粉のα化度は、一般に5%以下である。
【0014】
本発明の変性高アミロース小麦粉は、原料となる高アミロース小麦粉(以下、単に「原料小麦粉」ともいう)を、前記のα化度を有するように変性することで製造することができる。該原料小麦粉としては、既存の高アミロース小麦粉を用いることができる。好ましくは、製粉後に熱処理されていない(いわゆる非熱処理)高アミロース小麦粉、例えば、製粉以外の処理がなされていない(いわゆる未処理の)高アミロース小麦粉、前述した通常の方法に従って製粉された高アミロース小麦粉、などを用いることができる。好ましくは、該原料小麦粉のα化度は5%以下である。
【0015】
好ましくは、本発明の変性高アミロース小麦粉は、前記原料小麦粉を、前述したα化度を有するように熱処理することで製造することができる。より好ましくは、該原料小麦粉に対して加水及び加熱することで、本発明の変性高アミロース小麦粉を製造することができる。好ましくは、本発明の変性高アミロース小麦粉は、湿熱処理小麦粉である。
【0016】
好ましくは、本発明の変性高アミロース小麦粉の製造方法は、前記原料小麦粉に加水すること、及び該加水した小麦粉を前述したα化度になるように熱処理すること、を含む。好ましくは、該原料小麦粉への加水は、該原料小麦粉の水分量が20質量%以上、より好ましくは20~75質量%となるように行われる。例えば、原料小麦粉100質量部に対し、水5~250質量部を添加する。小麦粉への加水と加熱は、順次行ってもよく又は並行して行ってもよい。
【0017】
一実施形態においては、前記のとおり加水した原料小麦粉を、密閉容器に入れ、必要に応じて攪拌しながら、前述したα化度になるように加熱することにより、本発明の変性高アミロース小麦粉を製造することができる。該加熱の手段としては、例えば、該密閉容器を湯煎等で加熱する方法、該密閉容器内に過熱水蒸気又は飽和水蒸気を吹き込む方法などが挙げられる。加熱の条件は、好適には温度50~160℃で、1秒~100分間であればよいが、製造された変性小麦粉が所望のα化度を有するように適宜調整することができる。必要に応じて、該加熱に用いる密閉容器は、該加熱中に内部の温度が保たれるように、ジャケット等の手段で加熱されていてもよい。
【0018】
一実施形態においては、前記のとおり加水した原料小麦粉を、エクストルーダーで処理することにより、本発明の変性高アミロース小麦粉を製造することができる。エクストルーダー処理の条件は、好適には温度80~120℃で0.5~60分間であればよいが、製造された変性小麦粉が所望のα化度を有するように適宜調整することができる。
【0019】
必要に応じて、前記熱処理された小麦粉は、乾燥処理される。該乾燥処理の方法としては、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥などの通常の方法が挙げられる。さらに、該乾燥後の小麦粉を粉砕処理してもよい。該粉砕処理の方法としては、ロール粉砕、ピンミル粉砕などの通常の粉砕手段が挙げられる。
【0020】
高アミロース小麦粉の熱処理により、該小麦粉の総食物繊維(TDF)含量が増加する場合があることが知られている(特許文献8参照)。しかしながら、本発明の変性高アミロース小麦粉は、TDF含量が増加している必要はない。典型的には、本発明の変性高アミロース小麦粉は、TDF含量が該変性の前の高アミロース小麦粉と比べて減少している。特許文献8には、TDFを高含有する粉を得るために澱粉が糊化するのを避けるように処理することが示されている。これに対し、本発明の変性高アミロース小麦粉は、α化度が増加するように処理されたものであり、その結果、TDF含量の減少があると考えられる。
【0021】
本明細書において、小麦粉のTDF含量は、AOAC2011.25法に従って測定された乾物質量あたりのTDF含有量をいう。AOAC2011.25法によるTDF含量の測定には、市販のキット(例えばMegaZyme製の統合型総食物繊維分析キット;K-INTDF)を用いることができる。
【0022】
好ましくは、本発明の変性高アミロース小麦粉は、グルテンバイタリティ(GV)が従来の高アミロース小麦粉と比べて低下している。本発明の変性高アミロース小麦粉のグルテンバイタリティは、好ましくは15~50%、より好ましくは17~48%である。なお、通常の(熱処理をしていない)高アミロース小麦粉のGVは、一般に65~75%程度である。
【0023】
本明細書において、小麦粉のGVは、下記の手順1)~3)に従って測定される。
<グルテンバイタリティ(GV)の測定方法>
1)可溶性粗蛋白質含量の測定:
(a)100mL容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)前記ビーカーに0.05規定酢酸40mLを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を調製する。
(c)前記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)前記ビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗い、その洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)前記(c)及び(d)で回収した濾液を一緒にして0.05規定酢酸で100mLにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに前記(e)で得られた液体の25mLを入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」1錠(硫酸カリウム4.5g、硫酸銅0.5g含有)及び濃硫酸15mLを加える。
(g)前記ケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型) を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9又は10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記式(1)により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量を求める。
可溶性粗蛋白質含量(%)
=0.14×(T-B)×F×N×(100/S)×(1/25) …(1)
前記式(1)中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するか又は力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料(小麦粉)の秤取量(g)
【0024】
2)全粗蛋白質含量の測定:
(a)前記1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに前記1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠及び濃硫酸5mLを加える。
(b)前記1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9又は10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている前記1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記式(2)により、試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量を求める。
全粗蛋白質含量(%)=(0.14×T×F×N)/S…(2)
前記式(2)中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料(小麦粉)の秤取量(g)
【0025】
3)GVの算出:
前記1)及び2)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量及び全粗蛋白質含量から、下記式(3)により、該試料のGVを求める。
GV(%)=(可溶性粗蛋白質含量/全粗蛋白質含量)×100 …(3)
【0026】
本発明の変性高アミロース小麦粉は、食品原料として好適である。本発明の変性高アミロース小麦粉は、従来一般的な小麦粉に代えて用いることができる。好ましくは、本発明の変性高アミロース小麦粉はベーカリー食品用小麦粉として使用される。
【0027】
本発明で提供されるベーカリー食品は、原料粉に本発明の変性高アミロース小麦粉を配合する以外は、通常の手順に従って製造することができる。該ベーカリー食品の原料粉における本発明の変性高アミロース小麦粉の含有量は、該原料粉に含まれる穀粉の全量中、好ましくは1~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0028】
本発明の変性高アミロース小麦粉を用いて製造されるベーカリー食品の種類としては、パン、ケーキ、クッキー、パンケーキ、ホットケーキ、クレープ、ワッフル、マフィン、ドーナツ、蒸しパン(中華まん等)、お好み焼き、たこ焼き、大判焼、たい焼きなどが挙げられ、特に限定されない。
【0029】
本発明の変性高アミロース小麦粉を用いたベーカリー食品の製造方法においては、本発明の変性高アミロース小麦粉を含有する原料粉から生地を調製する。該原料粉には、本発明の変性高アミロース小麦粉以外に、ベーカリー食品原料として使用可能なその他の成分、例えば本発明の変性高アミロース小麦粉以外の他の穀粉、澱粉、卵粉、紛乳、食塩、糖類、油脂、蛋白質、膨張剤などが含まれていてもよい。該原料粉を、水分、油脂などと混合することで、生地が調製される。水分としては、水、乳、液卵などを使用することができる。油脂としてはバター、サラダ油、マーガリン、ショートニングなどが挙げられる。原料の配合は、製造するベーカリー食品の種類に合わせて適宜調整することができる。必要に応じて、調製した生地を発酵させてもよい。得られた生地を、必要に応じて分割又は成形し、加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)してベーカリー食品を製造することができる。本発明の変性高アミロース小麦粉を用いて製造したベーカリー食品は、従来の高アミロース小麦粉を用いて製造したものと比べて、口溶け、歯切れがよく、また老化耐性、電子レンジ加熱耐性に優れている。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0031】
(製造例)変性小麦粉の調製
1)原料小麦粉
・普通小麦粉(普通粉)
・高アミロース小麦由来小麦粉(HAW):SBEIIa変異遺伝子を有する、SBEIIaの発現量の低い小麦穀粒から得られた小麦粉。
【0032】
2)変性処理
2-1)エクストルーダー処理
原料小麦粉100質量部に対して、水40質量部を加えて混合した。これを一軸エクストルーダーを用いて加圧加熱(バレル温度98℃)してα化させ、ダイノズル(ダイ径5mm)から押し出して膨化させ、次いで回転カッターでカットして粒状物を得た。この粒状物を乾燥した後、ピンミルにより粉砕し、平均粒径約60μmの変性小麦粉を得た。
【0033】
2-2)飽和水蒸気処理
原料小麦粉100質量部に対して10~20質量部を加水した。これをジャケットで保温された密封系高速かくはん機に導入し、該撹拌機内に飽和水蒸気を温度、吹込み時間を変えながら導入して加熱処理を行った。得られた処理物を乾燥処理した後、ピンミルにより粉砕処理を行い、平均粒径約60μmの変性小麦粉を得た。
【0034】
2-3)湯煎
原料小麦粉100質量部に対して30~100質量部の水を加え、パウチ袋に50gずつ真空包装した。これを100℃の熱水で5~20分間湯煎した。得られた処理物を乾燥処理したのち、ピンミルにより粉砕処理を行い、平均粒径約60μmの変性小麦粉を得た。
【0035】
原料小麦粉、及び調製した変性小麦粉について、総澱粉中アミロース含量、α化度、及びグルテンバイタリティ(GV)を測定した。アミロース含量は、アミロース/アミロペクチン分析キット(Megazyme社)により測定した。α化度は、BAP法により測定した。GVは、本明細書に記載の方法に従って測定した。測定結果を表1に示す。さらに、該変性小麦粉の乾物質量あたりの総食物繊維(TDF)含量を統合型総食物繊維分析キット(MegaZyme製K-INTDF)により測定した結果、いずれの変性小麦粉も原料小麦粉と比べてTDF含量が減少していた。
【0036】
【表1】
【0037】
試験例1 クッキー
下記の手順にてクッキーを製造した。対照例では、表1の変性小麦粉の代わりに薄力粉(普通小麦粉)を使用した。
〔生地配合:質量部〕
油脂(マーガリン) 60
上白糖 45
食塩 0.5
全卵 18
小麦粉(薄力粉) 50
変性小麦粉(表1の変性小麦粉又は原料小麦粉) 50
ベーキングパウダー 0.4
(ベーキングパウダーO#1;オリエンタル酵母工業(株))
水 0~20
〔工程〕
1.油脂をクリーミング、糖及び食塩を添加し、滑らかになるまでクリーミング。
2.卵をゆっくり加える。
3.篩った小麦粉、ベーキングパウダー、水を加えて混ぜ、生地を作製する。
4.生地を厚さ10-12mm程度に麺棒で伸ばし、一晩冷蔵庫で保管。
5.保管後の生地を厚さ7mmに延ばし、抜型(65mm径)で成型(生地重量22-25g/個)。
6.焼成(180℃/170℃、20分)。
7.焼成後、5分間静置、その後天板から取り出し、クーリング(室温60分間程度)。
【0038】
製造したクッキーの食感(口溶け、及び歯切れ)を訓練されたパネラー10人により下記評価基準に従って評価し、10名の評価の平均点を求めた。評価結果を表2に示す。
<評価基準>
5点:対照例よりも非常に優れる
4点:対照例よりも優れる
3点:対照例よりもやや優れる
2点:対照例と同等
1点:対照例よりも劣る
【0039】
【表2】
【0040】
試験例2 ホットケーキ
下記の手順にてホットケーキを製造した。対照例では、表1の変性小麦粉の代わりに薄力粉(普通小麦粉)を使用した。
〔生地配合:質量部〕
小麦粉(薄力粉、普通小麦粉) 80
変性小麦粉(表1の変性小麦粉又は原料小麦粉) 20
ベーキングパウダー 4
(ベーキングパウダーO#1;オリエンタル酵母工業(株))
上白糖 30
全卵 60
牛乳 60
油脂(バター) 5
水 0~25
〔工程〕
1.小麦粉とベーキングパウダーをあわせて篩う。
2.卵に砂糖を加えよく混ぜ合わせる。
3.さらに牛乳を加え、よく混ぜ合わせる。
4.さらに溶解した油脂を加え、よく混ぜ合わせる。
5.さらに1.を加え、ダマが無くなるまで軽く混ぜ合わせる。
6.焼成(生地重量60g、175℃、2分→反転後1分)。
【0041】
製造したホットケーキをショックフリーザーで急速冷凍し、-20℃で保管した。7日後、常温で自然解凍し、食感(口溶け、及び歯切れ)及びパサつき感(老化耐性)を評価した。評価は試験例1と同様の手順で行った。評価結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
試験例3 パン
下記の手順にてロールパンを製造した。対照例では、表1の変性小麦粉の代わりに強力粉(普通小麦粉)を使用した。
〔生地配合:質量部〕
小麦粉(強力粉、普通小麦粉) 90
変性小麦粉(表1の変性小麦粉又は原料小麦粉) 10
生地改良剤 0.1
(CアンティS;オリエンタル酵母工業(株))
乳化剤 0.3
(パンマック200V;理研ビタミン(株))
イースト 3.5
(レギュラーイースト;オリエンタル酵母工業(株))
食塩 1.5
上白糖 15
脱脂粉乳 3
油脂(マーガリン) 10
全卵 5
水 61~65
〔工程〕
1.ミキシング 低速5分→中低速5分→油脂添加
→低速3分→中低速3分→中高速3分
2.捏上温度 28℃
3.フロアタイム(27℃・75%) 80分
4.分割 60g
5.ベンチタイム 15分
6.成形(モルダー使用)
7.ホイロ(38℃・85%) 65分
8.焼成(220℃/190℃) 8.5分
【0044】
製造したパンを室温で24時間保管した後、食感(口溶け、及び歯切れ)及びパサつき感(老化耐性)を評価した。評価は試験例1と同様の手順で行った。評価結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
試験例4 蒸しパン
下記の手順にて蒸しパンを製造した。対照例では、表1の変性小麦粉の代わりに強力粉(普通小麦粉)を使用した。
〔生地配合:質量部〕
小麦粉(薄力粉、普通小麦粉) 50
小麦粉(強力粉、普通小麦粉) 40
変性小麦粉(表1の変性小麦粉又は原料小麦粉) 10
ベーキングパウダー 4
(ベーキングパウダーO#1;オリエンタル酵母工業(株))
イースト 2
(レギュラーイースト;オリエンタル酵母工業(株))
食塩 0.3
グラニュー糖 12
脱脂粉乳 1
油脂(ショートニング) 6
水 42~47
〔工程〕
1.ミキシング 油脂添加→低速7分→中低速7分→中高速5分
2.捏上温度 25℃
3.分割 65g
4.成形(包餡、具材40g)
5.ホイロ(50℃・40%) 45分
6.ラックタイム(室温) 5分
7.蒸し(100℃、1.0気圧)15~17分
【0047】
製造した蒸しパンを冷蔵庫にて4℃で24時間保管した。保管後の蒸しパンを電子レンジで品温70℃になるまで加熱し、食感(口溶け、及び歯切れ)及び食感のヒキ(電子レンジ加熱耐性)を評価した。評価は試験例1と同様の手順で行った。評価結果を表5に示す。
【0048】
【表5】