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特開2024-14944ブレード診断方法及びブレード診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014944
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ブレード診断方法及びブレード診断装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20240125BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240125BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20240125BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B24B27/06 M
B24B49/12
B23Q17/20 B
H01L21/78 F
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193843
(22)【出願日】2023-11-14
(62)【分割の表示】P 2019111183の分割
【原出願日】2019-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(72)【発明者】
【氏名】岩城 智
(57)【要約】
【課題】ブレードの診断を正確に行うことができるブレード診断方法及びブレード診断装置を提供する。
【解決手段】円盤状のブレード21により被切削物(キャリブレーションワークCW)の表面に溝(カーフ86,87)を形成する溝加工を、異なるブレード21の切り込み深さで複数回行う溝形成工程(ブレード回転制御部70、移動制御部72)と、複数回の溝加工により形成された溝ごとに、平面視での溝の撮影画像を取得する撮影画像取得工程(顕微鏡23、撮影制御部74等)と、溝ごとの撮影画像に基づき、溝ごとに溝の寸法を測定する寸法測定工程(寸法測定部78)と、溝形成工程の異なるブレードの切り込み深さの複数の溝の形成結果と寸法測定工程による異なる深さの複数の溝の寸法の測定結果とに基づき、ブレードの半径を演算する演算工程(演算部80)と、を有する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状のブレードにより被切削物の表面に溝を形成する溝加工を、異なる前記ブレードの切り込み深さで複数回行う溝形成工程と、
前記複数回の前記溝加工により形成された前記溝ごとに、平面視での前記溝の撮影画像を取得する撮影画像取得工程と、
前記撮影画像取得工程で取得された前記溝ごとの前記撮影画像に基づき、前記溝ごとに前記溝の寸法を測定する寸法測定工程と、
前記溝形成工程の異なる前記ブレードの切り込み深さの前記複数の溝の形成結果と前記寸法測定工程による異なる深さの前記複数の溝の前記寸法の測定結果とに基づき、前記ブレードの半径を演算する演算工程と、を有する、ブレード診断方法。
【請求項2】
前記演算工程において、前記複数回のうちの任意回の前記溝加工で形成された前記溝の前記寸法の測定結果と、前記ブレードの半径の演算結果と、に基づき、前記任意回の前記溝加工における前記ブレードの切り込み深さを演算する、請求項1に記載のブレード診断方法。
【請求項3】
前記撮影画像取得工程において、前記溝ごとに、前記溝の両端部の少なくとも一方を含む前記撮影画像を取得する請求項1に記載のブレード診断方法。
【請求項4】
円盤状のブレードにより被切削物の表面に溝を形成する溝加工を、異なる前記ブレードの切り込み深さで複数回行う溝形成制御部と、
前記複数回の前記溝加工により形成された前記溝ごとに、平面視での前記溝の撮影画像を取得する撮影画像取得部と、
前記撮影画像取得部により取得された前記溝ごとの前記撮影画像に基づき、前記溝ごとに前記溝の寸法を測定する寸法測定部と、
前記溝形成制御部による異なる前記ブレードの切り込み深さの前記複数の溝の形成結果と前記寸法測定部による異なる深さの前記複数の溝の前記寸法の測定結果とに基づき、前記ブレードの半径を演算する演算部と、備える、ブレード診断装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記複数回のうちの任意回の前記溝加工で形成された前記溝の前記寸法の測定結果と、前記ブレードの半径の演算結果と、に基づき、前記任意回の前記溝加工における切り込み深さを演算する、請求項4に記載のブレード診断装置。
【請求項6】
前記演算部による前記切り込み深さ及び前記ブレードの半径の演算結果に基づいて、前記撮影画像取得部が取得した前記ブレードの先端形状を実際の前記ブレードの先端形状に変換する、請求項5に記載のブレード診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレードを診断するブレード診断方法及びブレード診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピンドルによって高速に回転される円盤状のブレードによってウェーハ等のワークを切削加工(ダイシング加工)するダイシング装置が知られている。ダイシング装置では、ワーク切削時のブレードの切り込み量が切削品質に影響を及ぼすことが知られており、特に近年ではブレードの切削高さを1μmオーダーでコントロールするダイシング装置もある。
【0003】
ダイシング装置では、ブレードの先端部が異常な摩耗状態になると切削品質が悪化し、特に裏面側のチッピングに影響がでるおそれがある。このため、ブレードの先端形状(先端部の形状)の異常な摩耗状態を事前に検出することができれば、エラーを出したり、ブレードのドレスを行ったり、或いはブレードの交換を行ったりするなどの対処が可能となる。その結果、先端形状が良好な状態のブレードによりウェーハの切削加工を行うことができる。従って、ブレードの半径(外径)と先端形状とを正確に測定し、これらの測定結果に基づきブレードの診断を行うことが重要である。
【0004】
特許文献1には、光学式又は接触式のカッタセットを用いてブレードの先端形状の摩耗量を測定及び管理する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ブレードにより製品ワークの表面の一部に検出用溝を形成する工程と、この検出用溝を撮影する工程と、検出溝の撮影画像に基づきブレードの先端形状を検出する工程と、検出したブレードの先端形状及び新品のブレードの先端形状を比較してブレードの交換の要否を判定する工程と、を有するブレード診断方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、ブレードにより製品ワークの表面をチョップカットする工程と、チョップカットにより製品ワークの表面に形成された溝を撮影する工程と、溝の撮影画像に基づき溝の寸法を測定する工程と、溝の寸法の測定結果等に基づきブレードの先端形状を演算する工程と、を有するブレード診断方法が記載されている。このブレードの先端形状を演算する工程では、溝の寸法の測定結果、既知のブレードの半径、及び既知の製品ワークの表面高さ(切り込み深さに決定に必要)に基づき、ブレードの先端形状の演算を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-234309号公報
【特許文献2】特開2010-240776号公報
【特許文献3】特開2017-164843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の光学式又は接触式のカッタセットを用いるブレード診断方法では、ブレードの先端形状(断面形状)及び摩耗状態の測定と、ブレードの半径の測定と、を行うことができない。
【0009】
特許文献2に記載のブレード診断方法では、検出溝の撮影画像に基づきブレードの先端形状を検出しているが、製品ワーク上では、ストリート内の構造物、ワーク表面膜の状態、あるいは切削条件等によって、検出用溝(切削痕)の視認性が変わってしまう。また、チッピングなどの影響により検出溝の先端部の形状自体が安定しない場合もある。このため、特許文献2に記載のブレード診断方法では、ブレードの先端形状の正確な摩耗状態を検出することができない。さらに、特許文献2に記載のブレード診断方法では、ブレードの半径を検出することができない。
【0010】
特許文献3に記載のブレード診断方法では、ブレードの半径及び製品ワークの表面高さを事前に正確に測定しておく或いは正確に測定する機構(エアマイクロ等)が必要となり、ブレードの半径及び製品ワークの表面高さ(厚み)が不明である場合にはブレードの先端形状を測定することができない。また、ブレードの半径及び製品ワークの表面高さが事前に正確に測定されていない場合には、ブレードの先端形状の測定誤差が大きくなってしまう。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ブレードの診断を正確に行うことができるブレード診断方法及びブレード診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的を達成するためのブレード診断方法は、円盤状のブレードを回転させながらブレードの先端により平板状の被切削物の表面を切削して表面に溝を形成する溝加工を、互いに異なるブレードの切り込み深さ位置で複数回行う溝形成工程と、複数回の溝加工により形成された溝ごとに、平面視での溝の撮影画像を取得する撮影画像取得工程と、撮影画像取得工程で取得された溝ごとの撮影画像に基づき、溝ごとに溝の寸法を測定する寸法測定工程と、寸法測定工程による溝ごとの寸法の測定結果に基づき、ブレードの半径及び先端形状を演算する演算工程と、を有する。
【0013】
このブレード診断方法によれば、被切削物の表面高さ及び切り込み深さ(厚み、表面高さ)が不明であってもブレードの半径及び先端形状を正確に演算することができる。
【0014】
本発明の他の態様に係るブレード診断方法は、演算工程が、複数回のうちの任意回の溝加工で形成された溝の寸法の測定結果と、ブレードの半径の演算結果と、に基づき、任意回の溝加工におけるブレードの切り込み深さを演算する。これにより、被切削物の表面高さ等が不明であっても切り込み深さを正確に演算することができる。
【0015】
本発明の他の態様に係るブレード診断方法は、撮影画像取得工程が、溝ごとに、溝の両端部の少なくとも一方を含む撮影画像を取得する。
【0016】
本発明の他の態様に係るブレード診断方法は、溝形成工程が、製品ワークが載置される切削テーブルとは異なるサブテーブルに載置された被切削物に対して、複数回の溝加工を行う。これにより、製品ワークの視認性によらず、チッピングなどの製品ワークの切削特性による影響も排除して、安定した環境でカーフの測定を行うことができるので、ブレードの先端形状を正確に演算することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係るブレード診断方法は、溝形成工程が、被切削物の表面の同一位置に対して、溝加工を互いに異なる切り込み深さで複数回実行し、且つ溝加工を実行するごとに切り込み深さを深くする。これにより、被切削物の使用量を減らすことができる。
【0018】
本発明の他の態様に係るブレード診断方法は、溝形成工程が、被切削物の表面の互いに異なる位置に対して、溝加工を互いに異なる切り込み深さで複数回実行する。
【0019】
本発明の目的を達成するためのブレード診断装置は、円盤状のブレードを回転させる回転駆動部と、平板状の被切削物に対してブレードを相対移動させる相対移動部と、回転駆動部及び相対移動部を制御して、回転するブレードの先端により平板状の被切削物の表面を切削して表面に溝を形成する溝加工を、互いに異なるブレードの切り込み深さ位置で複数回行う溝形成制御部と、複数回の溝加工により形成された溝ごとに、平面視での溝の撮影画像を取得する撮影画像取得部と、撮影画像取得部により取得された溝ごとの撮影画像に基づき、溝ごとに溝の寸法を測定する寸法測定部と、寸法測定部による溝ごとの寸法の測定結果に基づき、ブレードの半径及び先端形状を演算する演算部と、を備える。
【0020】
本発明の他の態様に係るブレード診断装置は、演算部が、複数回のうちの任意回の溝加工で形成された溝の寸法の測定結果と、ブレードの半径の演算結果と、に基づき、任意回の溝加工における切り込み深さを演算する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ブレードの診断を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ワークを切削加工するダイシング装置の斜視図である。
図2】加工部の外観斜視図である。
図3図2中の回転ユニット及びサブテーブルの拡大斜視図である。
図4】ダイシング装置の統括制御部の機能ブロック図である。
図5】キャリブレーションワークに対する1回目のチョップカットを説明するための説明図である。
図6】キャリブレーションワークに対する2回目のチョップカットを説明するための説明図である。
図7】顕微鏡23によるカーフの撮影を説明するための説明図である。
図8】寸法測定部によるカーフの寸法測定を説明するための説明図である。
図9】演算部によるブレードの半径及び1回目の切り込み深さの演算を説明するための説明図である。
図10】演算部によるブレードの幅方向の各位置における半径と切り込み深さとの演算を説明するための説明図である。
図11】演算部によるブレードの実際の先端形状の演算を説明するための説明図である。
図12】ダイシング装置によるブレードの診断処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[ダイシング装置の構成]
図1は、半導体ウェーハ等のワークW(製品ワーク)を切削加工するダイシング装置10の斜視図である。なお、図中のXYZ軸は互いに直交する軸であり、XY軸が水平方向に平行な軸であり、Z軸が水平方向に直交する軸である。
【0024】
ダイシング装置10は、ロードポート12と、搬送機構14と、加工部16と、洗浄部18とを備える。ロードポート12には、フレームFにマウントされたワークWを多数枚収納したカセットが載置される。搬送機構14はワークWを搬送する。加工部16はワークWのダイシング加工を行う。洗浄部18は切削加工済みのワークWをスピン洗浄する。また、ダイシング装置10の筐体10Aの内部には、ダイシング装置10の各部の動作を制御する統括制御部60(図4参照)等が設けられている。なお、統括制御部60が筐体10Aの外部に設けられていてもよい。
【0025】
ロードポート12に載置されたカセット内に収納されている未加工のワークWは、搬送機構14により加工部16に搬送され、個々のチップに分断するために加工部16にて切断あるいは溝入れ加工等の切削加工が施される。そして、加工部16による加工済みのワークWは搬送機構14により洗浄部18に搬送され、洗浄部18により洗浄された後、搬送機構14によりロードポート12に搬送されてカセット内に収納される。
【0026】
図2は、加工部16の外観斜視図である。図2及び既述の図1に示すように、加工部16は、円盤状の一対のブレード21と、ブレードカバー(不図示)と、一対のスピンドル22と、一対の顕微鏡23と、ワーク保持用の切削テーブル31と、を備える。
【0027】
一対のブレード21は、Y軸方向において対向配置されており、それぞれY軸方向に平行なブレード回転軸を中心として回転自在にスピンドル22に保持されている。一対のスピンドル22は、本発明の回転駆動部に相当する。一対のスピンドル22は、高周波モータを内蔵しており、ブレード回転軸を中心としてブレード21を高速回転させる。
【0028】
顕微鏡23は、本発明の撮影画像取得部の一部を構成するものであり、各スピンドル22の近傍に1個ずつ設けられている。顕微鏡23は、図示は省略するが撮影光学系と撮像素子とを有している。なお、顕微鏡23が撮影倍率の異なる高倍率顕微鏡及び低倍率顕微鏡で構成されていてもよい。また、図2では、図面の煩雑化を防止するため、2つのスピンドル22の一方の近傍に設けられている顕微鏡23のみを図示し、他方の近傍に設けられている顕微鏡23については図示を省略している。
【0029】
顕微鏡23は、ワークWの切削加工時にはワークWの表面を撮影する。また、顕微鏡23は、後述のブレード21の診断時にはキャリブレーションワークCWの表面を撮影する。
【0030】
また、各スピンドル22及び各顕微鏡23は、後述のYキャリッジ43及びZキャリッジ44等を介して、Y軸方向とZ軸方向とに移動自在に保持されている。
【0031】
切削テーブル31は、その上面にワークWを吸着保持する。なお、切削テーブル31は、後述のXキャリッジ36によりX軸方向に移動自在に保持され、且つ後述の回転ユニット37により回転自在に保持されている。
【0032】
加工部16には、Xベース32と、Xガイド34と、X駆動部35と、Xキャリッジ36と、回転ユニット37と、が設けられている。Xベース32は、X軸方向に延びた平板形状を有しており、且つそのZ軸方向の上面にはXガイド34が設けられている。Xガイド34は、X軸方向に延びた形状を有し、Xキャリッジ36をX軸方向に沿ってガイドする。X駆動部35は、例えばリニアモータ等が用いられ、Xガイド34に沿ってXキャリッジ36をX軸方向に移動(駆動)する。
【0033】
回転ユニット37は、Xキャリッジ36の上面に設けられている。また、回転ユニット37の上面には、切削テーブル31が設けられている。回転ユニット37は、モータ及びギヤ等により構成される不図示の回転駆動部を備えており、切削テーブル31をその回転軸を中心として回転させる。
【0034】
搬送機構14によりロードポート12から搬送されたワークWは、切削テーブル31により吸着保持されることで、切削テーブル31と一体に移動及び回転する。これにより、切削テーブル31等を介して、切削加工前のアライメント時におけるワークWの回転、及びワークWの切削加工時におけるワークWのX方向への切削送り等が行われる。
【0035】
図3は、図2中の回転ユニット37及びサブテーブル38の拡大斜視図である。図3に示すように、回転ユニット37は、切削テーブル31から水平方向(本実施形態ではX方向)にシフト位置にサブテーブル38を保持(回転不能に保持)している。
【0036】
サブテーブル38は、その上面に平板状のキャリブレーションワークCWを吸着保持する。キャリブレーションワークCWは、本発明の被切削物に相当するものであり、例えば、ミラーワーク(ミラーウェハともいう)が用いられる。このキャリブレーションワークCWは、後述のブレード21の診断時において、同一のブレード21により切り込み深さを変えて2回チョップカット(チョップ加工ともいう、本発明の溝加工に相当)される。
【0037】
また、加工部16には、Yベース41と、Yガイド42と、一対のYキャリッジ43と、一対のZキャリッジ44と、が設けられている。Yベース41は、Y軸方向においてXベース32を跨ぐような門型形状を有している。このYベース41のX軸方向の側面には、Yガイド42が設けられている。Yガイド42は、Y軸方向に延びた形状を有し、一対のYキャリッジ43をそれぞれY軸方向に沿ってガイドする。一対のYキャリッジ43は、ステッピングモータ及びボールスクリュー等により構成されるY駆動部46(図4参照)により、Yガイド42に沿って独立して駆動される。
【0038】
一対のYキャリッジ43の各々には、ステッピングモータ等により構成されるZ駆動部48(図4参照)を介して、Zキャリッジ44がZ軸方向に移動自在に設けられている。そして、各Zキャリッジ44には、既述のスピンドル22が取り付けられている。
【0039】
ワークWの切削加工時には、切削テーブル31に吸着保持されたワークWに対して、ブレード21がY軸方向にインデックス送りされると共にZ軸方向に切込み送りされる。また、後述のブレード21の診断時には、サブテーブル38に吸着保持されたキャリブレーションワークCWに対するブレード21のチョップカットが実行される。
【0040】
なお、スピンドル22、顕微鏡23、Yキャリッジ43、及びZキャリッジ44は、左右に対向して2組設けられているが、同様の構成及び作用を有するため、以下において一方のみに着目して説明する。
【0041】
ダイシング装置10は、ブレード21の半径と先端形状とを測定し、これらの測定結果に基づきブレード21の診断(以下、単にブレード21の診断と略す)を行う機能を有している。詳しくは後述するが、ダイシング装置10は、一定又は定期的なタイミングにおいて、ブレード21によるキャリブレーションワークCWのチョップカットを互いに異なる切り込み深さで2回行う。また、ダイシング装置10は、各チョップカットでキャリブレーションワークCWに形成されたカーフ86,87(図6参照)を顕微鏡23でそれぞれ撮影する。そして、ダイシング装置10は、カーフ86,87ごとの撮影画像データ88(図4参照)を解析して、上述のブレード21の診断を行う。従って、ダイシング装置10は本発明のブレード診断装置として機能する。
【0042】
[統括制御部の機能]
図4は、ダイシング装置10の統括制御部60の機能ブロック図である。なお、図4では、統括制御部60の複数の機能の中で、特にブレード21の診断に係る機能のみを図示し、ワークWの切削加工等のダイシング装置10の他の制御に係る機能は公知技術であるので図示は省略する。
【0043】
図4に示すように、統括制御部60は、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、統括制御部60の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0044】
統括制御部60には、既述の顕微鏡23とX駆動部35とY駆動部46とZ駆動部48との他に、操作部62、記憶部64、及び表示部66等が接続されている。
【0045】
操作部62は、キーボード、マウス、操作パネル、及び操作ボタン等が用いられ、オペレータによる各種操作を受け付ける。例えば、操作部62は、ブレード21の診断開始操作(チョップカットの開始操作)を受け付ける。
【0046】
記憶部64には、ダイシング装置10の制御プログラム(図示は省略)が記憶されている。また、記憶部64には、ブレード21の半径及び先端部の形状の測定結果、及びブレード21の診断結果等が記憶される。さらに、記憶部64には、回転ユニット37とサブテーブル38との相対位置関係を示す相対位置情報(図示は省略)が記憶されていると共に、ブレード21と顕微鏡23の光軸(視野中心)との相対位置関係を示す相対位置情報(図示は省略)が予め記憶されている。
【0047】
表示部66は、例えば液晶ディスプレイ等の公知の各種モニタが用いられる。この表示部66は、ブレード21の診断時には、統括制御部60の制御の下、ブレード21の診断結果(ブレード21の半径及び先端形状を含む)を表示する。
【0048】
統括制御部60は、記憶部64に記憶されている不図示の制御プログラムを実行することで、ブレード21の診断時にはブレード回転制御部70、移動制御部72、撮影制御部74、画像取得部76、寸法測定部78、演算部80、及び診断部82として機能する。
【0049】
ブレード回転制御部70は、スピンドル22によるブレード21の回転駆動を制御する。
【0050】
移動制御部72は、本発明の相対移動部に相当するX駆動部35、Y駆動部46、及びZ駆動部48の駆動を制御することで、キャリブレーションワークCWに対するブレード21及び顕微鏡23の水平方向(X軸方向及びY軸方向)の相対移動と、上下方向(Z軸方向)の相対移動と、を制御する。
【0051】
撮影制御部74は、顕微鏡23による撮影を制御する。画像取得部76は、顕微鏡23から出力された撮影画像データ88を取得する画像入力インタフェースとして機能する。
【0052】
寸法測定部78、演算部80、及び診断部82は、顕微鏡23から出力された撮影画像データ88に基づき、ブレード21の診断に係る演算処理を実行する。
【0053】
<チョップカット>
図5は、キャリブレーションワークCWに対する1回目のチョップカットを説明するための説明図である。図6は、キャリブレーションワークCWに対する2回目のチョップカットを説明するための説明図である。なお、図5及び図6において、符号5A及び符号6AはキャリブレーションワークCW等の側面図を示し、符号5B及び符号6Bはチョップカット後のキャリブレーションワークCWの上面図を示す。
【0054】
図5及び既述の図4に示すように、ブレード回転制御部70及び移動制御部72は、本発明の溝形成制御部として機能するものであり、ブレード21によるキャリブレーションワークCWのチョップカットの実行、より具体的には切り込み深さが互いに異なる2回のチョップカットの実行を制御する。
【0055】
ブレード回転制御部70及び移動制御部72は、操作部62にてブレード21の診断開始操作を受け付けると、各部の駆動を制御して1回目のチョップカットを実行する。
【0056】
最初に、移動制御部72は、X駆動部35及びY駆動部46を駆動して、X軸方向及びY軸方向におけるブレード21とサブテーブル38上のキャリブレーションワークCWとの位置合わせを行う。なお、キャリブレーションワークCWの表面をチョップカットする位置は厳密に定められてはいないので、上述の位置合わせでは、ブレード21をキャリブレーションワークCWの表面に対向する位置まで相対的に移動させればよい。
【0057】
例えば、移動制御部72は、X駆動部35を駆動してXキャリッジ36(回転ユニット37)をX軸方向の所定位置に移動させることで、X軸方向においてサブテーブル38(キャリブレーションワークCW)とブレード21との位置合わせを行う。また、移動制御部72は、Y駆動部46を駆動してブレード21をY軸方向の所定位置に移動させることで、Y軸方向においてサブテーブル38(キャリブレーションワークCW)とブレード21との位置合わせを行う。これにより、ブレード21がキャリブレーションワークCWの表面に対向する位置にセットされる。
【0058】
次いで、ブレード回転制御部70が、スピンドル22を駆動してブレード21を回転させると共に、移動制御部72が、Z駆動部48を駆動してZキャリッジ44及びブレード21をZ軸方向に下降させる。これにより、回転するブレード21がキャリブレーションワークCWの表面に垂直に接触することで、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面が切削される。
【0059】
そして、移動制御部72は、引き続きZ駆動部48を駆動して、ブレード21がキャリブレーションワークCWを貫通しないように、サブテーブル38のZ軸方向の位置及びキャリブレーションワークCWの厚み等に基づき予め定められた下降位置までブレード21を下降させた後、ブレード21をZ軸方向に上昇させる。この間、移動制御部72は、X軸方向及びY軸方向におけるブレード21とキャリブレーションワークCWとの相対移動は行わない。これにより、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面が切り込み深さCinでチョップカットされ、キャリブレーションワークCWの表面に本発明の溝に相当する第1番目のカーフ86が形成される。なお、切り込み深さCinの値については後述の演算部80により演算される。以上で1回目のチョップカットが完了する。
【0060】
図6に示すように、ブレード回転制御部70及び移動制御部72は、詳しくは後述するがカーフ86の寸法測定が完了した後、各部の駆動を制御して2回目のチョップカットを実行する。
【0061】
最初に移動制御部72は、X駆動部35及びY駆動部46の少なくとも一方を駆動して、X軸方向及びY軸方向におけるブレード21と、キャリブレーションワークCWの表面上の非切削領域(カーフ86が形成されていない領域)との位置合わせを行う。なお、キャリブレーションワークCWの表面上で2回目のチョップカットを行う位置は、本実施形態ではカーフ86と重ならない領域に設定している。
【0062】
次いで、1回目のチョップカット時と同様に、ブレード回転制御部70が、スピンドル22を駆動してブレード21を回転させると共に、移動制御部72が、Z駆動部48を駆動してZキャリッジ44(ブレード21)をZ軸方向に下降させる。これにより、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面上の非切削領域が切削される。
【0063】
そして、移動制御部72は、引き続きZ駆動部48を駆動して、キャリブレーションワークCWの厚み等に基づき予め定められた2回目の下降位置までブレード21を下降させた後、ブレード21をZ軸方向に上昇させる。この2回目のチョップカット時の下降位置は、1回目のチョップカット時とは異なる下降位置であれば特に限定はされず、本実施形態では例えば1回目の下降位置よりも差分「dc」だけ下方位置である。これにより、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面が切り込み深さ「Cin+dc」でチョップカットされ、キャリブレーションワークCWの表面に本発明の溝に相当する第2番目のカーフ87が形成される。
【0064】
以上で2回目のチョップカットが完了し、キャリブレーションワークCWの表面に切り込み深さが異なる2つのカーフ86,87が形成される。
【0065】
<カーフ撮影>
図7は、顕微鏡23によるカーフ86(カーフ87も同様)の撮影を説明するための説明図である。図7及び既述の図4に示すように、顕微鏡23、移動制御部72、撮影制御部74、及び画像取得部76は、本発明の撮影画像取得部を構成するものであり、顕微鏡23によるカーフ86,87ごとの平面視での撮影及び撮影画像データ88の取得を制御する。なお、図7では、カーフ86,87の全体が顕微鏡23の撮影範囲内に収まらない場合を例に挙げて説明を行う。
【0066】
最初に、移動制御部72は、X駆動部35及びY駆動部46を駆動して、X軸方向及びY軸方向における顕微鏡23とカーフ86の一端部との位置合わせを行う。具体的には、チョップカット時におけるブレード21とキャリブレーションワークCWとのX軸方向及びY軸方向の相対位置は既知である。また、ブレード21(スピンドル22)及び顕微鏡23は共にZキャリッジ44に固定されているので、ブレード21に対する顕微鏡23の相対位置も既知である。さらに、カーフ86のX軸方向の長さについても実験又はシミュレーションで推定可能である。従って、これら位置合わせ情報に基づき、移動制御部72は、顕微鏡23とカーフ86の一端部との位置合わせを実行することができる。
【0067】
次いで、撮影制御部74は、顕微鏡23を制御して、顕微鏡23によるリング照明又は同軸照明でカーフ86を照明しながら顕微鏡23による平面視でのカーフ86の一端部の撮影を実行させる。これにより、顕微鏡23から画像取得部76に対してカーフ86の一端部の撮影画像データ88が入力される。
【0068】
そして、移動制御部72は、前述の各位置合わせ情報に基づきX駆動部35を駆動して、X軸方向及びY軸方向における顕微鏡23とカーフ86の他端部との位置合わせを行う。また、撮影制御部74は、顕微鏡23を制御して、リング照明又は同軸照明でカーフ86を照明しながら顕微鏡23による平面視でのカーフ86の他端部の撮影を実行させる。これにより、顕微鏡23から画像取得部76に対してカーフ86の他端部の撮影画像データ88が入力される。
【0069】
以下同様に、移動制御部72及び撮影制御部74の制御の下、顕微鏡23によるカーフ87の両端部の撮影と、画像取得部76に対するカーフ87の両端部の撮影画像データ88の入力と、が実行される。
【0070】
なお、カーフ86,87の全体が顕微鏡23の撮影範囲内に収まる場合には、カーフ86,87ごとに、顕微鏡23と、カーフ86,87のX軸方向及びY軸方向の双方の中心との位置合わせを行うと共に、顕微鏡23によるカーフ86,87の撮影を実行する。
【0071】
<カーフの寸法測定>
図8は、寸法測定部78によるカーフ86,87の寸法測定を説明するための説明図である。なお、説明の煩雑化を防止するため、ここではカーフ86,87の全体が顕微鏡23の撮影範囲内に収まっている、すなわちカーフ86の撮影画像データ88にカーフ86の両端部の像が含まれていると共に、カーフ87の撮影画像データ88にカーフ87の両端部の像が含まれているものとして説明を行う。
【0072】
図8中のT軸方向は、ブレード21の幅方向に相当するカーフ86,87の幅方向(実質的にはY軸方向と同一方向)である。また、カーフ86,87の幅方向(T軸方向)の中心である幅方向中心をTc(T=0)とし、カーフ86,87の幅方向に対して垂直なカーフ86,87の長さ方向(X軸方向)の中心である長さ方向中心をXc(X=0)とする。なお、カーフ86,87の幅方向中心及び長さ方向中心については、1回目及び2回目のチョップカット時のブレード21及びキャリブレーションワークCWの相対位置関係と、ブレード21及び顕微鏡23の相対位置関係と、に基づき判別可能である。
【0073】
図8及び既述の図4に示すように、寸法測定部78は、既知の顕微鏡23の撮影倍率と、画像取得部76が取得したカーフ86,87ごとの両端部の撮影画像データ88とに基づき、カーフ86,87ごとの両端部の寸法を測定する。
【0074】
具体的には寸法測定部78は、カーフ86の幅方向(T軸方向)の各位置において、カーフ86の長さ方向中心(Xc)からカーフ86の一端部までの距離X(T)と、長さ方向中心(Xc)からカーフ86の他端部までの距離X(T)と、を公知の手法で測定する。
【0075】
また同様に、寸法測定部78は、カーフ87の幅方向(T軸方向)の各位置において、カーフ87の長さ方向中心(Xc)からカーフ87の一端部までの距離X(T)と、長さ方向中心(Xc)からカーフ87の他端部までの距離X(T)と、を公知の手法で測定する。
【0076】
<演算部によるブレード21の半径、切り込み深さ、及び先端形状の演算>
図9は、演算部80によるブレード21の半径R及び1回目の切り込み深さCinの演算を説明するための説明図である。なお、図中の符号9Aは1回目のチョップカットを示し、図中の符号9Bは2回目のチョップカットを示す。また、図9では、カーフ86の幅方向(T軸方向)の任意の位置における距離X(T)を「距離X」と略し、カーフ87の幅方向(T軸方向)の任意の位置における距離X(T)を「距離X」と略している。
【0077】
図9及び既述の図4に示すように、演算部80は、最初に、寸法測定部78によるカーフ86,87ごとの寸法測定結果[距離X及び距離X]と、1回目及び2回目のチョップカットにおけるブレード21の切り込み深さの差分「dc」と、に基づき、ブレード21の幅方向(T軸方向)の各位置における半径Rを演算する。また、演算部80は、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rの演算結果に基づき、各位置におけるブレード21の1回目の切り込み深さCinを演算する。以下、ブレード21の幅方向の任意の位置における半径R及び切り込み深さCinの演算について説明する。
【0078】
ブレード21の幅方向の任意の位置における半径Rは、演算部80によるカーフ86,87ごとの寸法測定結果(距離X及び距離X)と、1回目及び2回目のチョップカット時の切り込み深さ「Cin」、「Cin+dc」と、に基づいて、下記の[数1]式で表わされる。また、ブレード21の幅方向の任意の位置における1回目の切り込み深さCinは、図9の符号9Aに示すようなカーフ86の一端(他端)とブレード21の中心とを結ぶ線分(半径R)と、カーフ86の中心とブレード21の中心とを結ぶ線分(図中、一点鎖線で表示)と、がなす角度θに基づき、下記の[数2]式で表わされる。
【0079】
【数1】
【0080】
【数2】
【0081】
上記[数1]式及び上記[数2]式に基づき、ブレード21の幅方向の任意の位置における半径Rが下記の[数3]式で表わされ、さらに1回目(本発明の任意回)の切り込み深さCinが下記の[数4]式で表わされる。なお、ブレード21の半径Rに基づきブレード21の直径が演算可能であり、さらに、ブレード21の1回目の切り込み深さCinに基づきブレード21の2回目の切り込み深さ「Cin+dc」についても演算可能である。或いは[数4]式の「X」を「X」に代えた数式を用いて、2回目の切り込み深さ「Cin+dc」を直接演算してもよい。
【0082】
【数3】
【0083】
【数4】
【0084】
図10は、演算部80によるブレード21の幅方向の各位置における半径Rと切り込み深さCinとの演算を説明するための説明図である。図11は、演算部80によるブレード21の実際の先端形状の演算を説明するための説明図である。
【0085】
図10に示すように、演算部80は、寸法測定部78によるカーフ86の幅方向の各位置における距離X(T)の測定結果と、カーフ87の幅方向の各位置における距離X(T)の測定結果と、差分dcとに基づき、カーフ86,87の幅方向の位置ごとに上記[数3式]及び上記[数4式]の演算を繰り返し実行する。これにより、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rと切り込み深さCinと、が演算される。
【0086】
図11に示すように、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面に形成されるカーフ86,87の形状は、ブレード21の切り込み深さCinに応じて、実際のブレード21の先端形状に対してX軸方向に引き伸ばされた形状となる。このため、演算部80は、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rと切り込み深さCinとに基づいて得られるブレード21の先端形状を、ブレード21の実際の先端形状に変換する。なお、具体的な変換方法については公知技術であるので、ここでは具体的な説明は省略する。
【0087】
図4に戻って、診断部82は、演算部80により演算されたブレード21の先端形状に基づき、公知の手法でブレード21の異常の有無を診断する。例えば、診断部82は、ブレード21の半径の設計値をR0とし、ブレード21の幅方向の各位置における半径をR(T)とした場合に、ブレード21の幅方向の位置ごとに、ブレード21の摩耗量[R0-R(T)]を演算し、各位置の摩耗量の演算結果に基づき、ブレード21の異常の有無を診断する。そして、診断部82は、ブレード21の診断結果を表示部66に出力する。
【0088】
[ダイシング装置の作用]
図12は、本発明のブレード診断方法に相当するものであり、上記構成のダイシング装置10によるブレード21の診断処理の流れを示すフローチャートである。図12に示すように、オペレータは、サブテーブル38上にキャリブレーションワークCWを吸着保持させた後、操作部62に対してブレード21の診断開始操作を入力する。
【0089】
この診断開始操作を受けて、移動制御部72は、X駆動部35及びY駆動部46を駆動して、X軸方向及びY軸方向におけるブレード21とサブテーブル38上のキャリブレーションワークCWとの位置合わせを行う。次いで、ブレード回転制御部70が、スピンドル22を駆動してブレード21を回転させる。また、移動制御部72が、Z駆動部48を駆動して所定の下降位置までブレード21を下降させた後、このブレード21を上昇させる。これにより、既述の図5に示したように、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面が切り込み深さCinでチョップカットされ、キャリブレーションワークCWの表面に第1番目のカーフ86が形成される(ステップS1、本発明の溝形成工程に相当)。
【0090】
カーフ86の形成後、既述の図7に示したように、移動制御部72は、既述の各位置合わせ情報に基づきX駆動部35及びY駆動部46を駆動して、X軸方向及びY軸方向における顕微鏡23とカーフ86の一端部との位置合わせを行う。次いで、撮影制御部74は、顕微鏡23を制御して、顕微鏡23による平面視でのカーフ86の一端部の撮影を実行させる。これにより、顕微鏡23から画像取得部76に対してカーフ86の一端部の撮影画像データ88が入力される(ステップS2、本発明の撮影画像取得工程に相当)。
【0091】
そして、移動制御部72は、既述の各位置合わせ情報に基づきX駆動部35を駆動して、X軸方向及びY軸方向における顕微鏡23とカーフ86の他端部との位置合わせを行う。また、撮影制御部74は、顕微鏡23を制御して、顕微鏡23による平面視でのカーフ86の他端部の撮影を実行させる。これにより、顕微鏡23から画像取得部76に対してカーフ86の他端部の撮影画像データ88が入力される(ステップS2、本発明の撮影画像取得工程に相当)。
【0092】
画像取得部76がカーフ86の両端部の撮影画像データ88を取得すると、寸法測定部78が、既知の顕微鏡23の撮影倍率と、カーフ86の両端部の撮影画像データ88とに基づき、既述の図8に示したようにカーフ86の幅方向の各位置における距離X(T)を測定する(ステップS3、本発明の寸法測定工程に相当)。
【0093】
カーフ86の寸法測定完了後、移動制御部72は、X駆動部35及びY駆動部46の少なくとも一方を駆動して、X軸方向及びY軸方向におけるブレード21と、キャリブレーションワークCWの表面上の非切削領域との位置合わせを行う。次いで、ブレード回転制御部70が、スピンドル22を駆動してブレード21を回転させる。また、移動制御部72が、Z駆動部48を駆動して1回目の下降位置よりも差分dcだけさらに下方の下降位置までブレード21を下降させた後、このブレード21を上昇させる。これにより、既述の図6に示したように、ブレード21によりキャリブレーションワークCWの表面が切り込み深さCin+dcでチョップカットされ、キャリブレーションワークCWの表面に第2番目のカーフ87が形成される(ステップS4、本発明の溝形成工程に相当)。
【0094】
カーフ87の形成後、既述の図7に示したように、移動制御部72がX駆動部35及びY駆動部46を駆動すると共に、撮影制御部74が顕微鏡23を制御することで、顕微鏡23による平面視でのカーフ87の両端部の撮影が実行される(ステップS5、本発明の撮影画像取得工程に相当)。カーフ87の両端部の撮影画像データ88は、顕微鏡23から画像取得部76へ出力される。
【0095】
画像取得部76がカーフ87の両端部の撮影画像データ88を取得すると、寸法測定部78が、既知の顕微鏡23の撮影倍率と、カーフ87の両端部の撮影画像データ88とに基づき、既述の図8に示したようにカーフ87の幅方向の各位置における距離X(T)を測定する(ステップS6、本発明の寸法測定工程に相当)。
【0096】
カーフ87の寸法測定完了後、演算部80は、既述の図9に示したように、カーフ86,87の幅方向の各位置における寸法測定結果[距離X(T),X(T)]と、既述の切り込み深さの差分「dc」と、に基づき、上記[数3]式を用いて、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rを演算する(ステップS7)。これにより、キャリブレーションワークCWの表面高さ(厚み)及び切り込み深さCinが不明であっても、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rを演算することができる。
【0097】
次いで、演算部80は、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rの演算結果と、カーフ86の幅方向の各位置における寸法測定結果[距離X(T)]と、に基づき、上記[数4]式を用いて、ブレード21の幅方向の各位置における切り込み深さCinを演算する(ステップS8)。
【0098】
そして、演算部80は、既述の図11に示したように、ブレード21の幅方向の各位置における半径Rと切り込み深さCinとに基づいて得られるブレード21の先端形状を、ブレード21の実際の先端形状に変換する(ステップS9)。なお、ステップS7からステップS9は、本発明の演算工程に相当する。
【0099】
演算部80によりブレード21の先端形状が演算されると、このブレード21の先端形状に基づき、診断部82が公知の手法でブレード21の異常の有無を診断し、その診断結果を表示部66へ出力する(ステップS10)。
【0100】
なお、各工程の順番は適宜変更してもよく、例えば、最初にチョップカット(ステップS1及びステップS4)を実行し、次いで撮影(ステップS2及びステップS5)を実行し、次いで寸法測定(ステップS3及びステップS6)を実行した後、ステップS7以降の工程を実行してもよい。
【0101】
[本実施形態の効果]
以上のように、本実施形態のダイシング装置10では、キャリブレーションワークCWに対してブレード21により互い異なる切り込み深さでチョップカットを2回行い、顕微鏡23により各カーフ86,87を撮影して、各カーフ86,87の撮影画像データ88に基づき各カーフ86,87の寸法測定を行うことで、キャリブレーションワークCWの表面高さ及び切り込み深さCinが不明であっても、ブレード21の幅方向の各位置における半径R及び切り込み深さCinを正確に演算することができる。その結果、キャリブレーションワークCWの表面高さ(切り込み深さ)を測定する機構(エアマイクロ等)を備えていない装置でも、カーフ86,87の形状に基づきブレード21の半径R及び先端形状等が求められる。これにより、ブレード21の診断を正確に行うことができる。
【0102】
また、下記の表1に示すように、例えば1回目のチョップカットで形成されたカーフ86の撮影画像データ88のみに基づき、従来の手法でブレード21の半径R及び切り込み深さCinを演算すると、第1演算結果(R=55.50mm、Cin=0.500mm)と、第2演算結果(R=54.96mm、Cin=0.505mm)と、が得られる。この場合には、ブレード21の半径R及び切り込み深さCinが1つに確定されず、第1演算結果が正しいのか或いは第2演算結果が正しいのかを判別することができない。
【0103】
【表1】
【0104】
これに対して、下記の表2に示すように、1回目及び2回目のチョップカットで形成されたカーフ86,87の撮影画像データ88に基づき、ブレード21の半径R及び切り込み深さCinを演算することで、ブレード21の半径R及び切り込み深さCinが第1演算結果及び第2演算結果のいずれか一方に確定する。このため、本実施形態では、ブレード21の幅方向の各位置における半径R及び切り込み深さCinを正確に演算することができるので、ブレード21の診断を正確に行うことができる。
【0105】
【表2】
【0106】
また、キャリブレーションワークCWの温度特性に起因してキャリブレーションワークCWの厚み(表面高さ)が変化した場合であっても、ブレード21の半径R及び先端形状を正確に求めることができる。さらに、ブレード21が急激に摩耗してブレード21の半径Rが大きく変わった場合、或いは中古のブレード21を用いる場合などのブレード21の半径Rがわからない場合でも、本実施形態では、ブレード21の半径Rを正確に算出し、切り込み量Cin及び先端形状を正確に求めることができる。その結果、ブレード21の診断を正確に行うことができる。
【0107】
さらにまた、サブテーブル38上のキャリブレーションワークCWでカーフ86,87の観察を行うことで、ワークW(製品ワーク)の視認性によらず、チッピングなどのワークWの切削特性による影響も排除して、安定した環境でカーフ86,87の測定を行うことができる。これにより、ブレード21の先端形状を正確に演算することができる。その結果、ブレード21の診断を正確に行うことができる。
【0108】
[その他]
上記実施形態では、ブレード21とキャリブレーションワークCWとの位置合わせ、及び顕微鏡23とカーフ86,87との位置合わせを自動で行っているが、これらの位置合わせを操作部62に対するオペレータの手動操作で実行してもよい。
【0109】
上記実施形態では、顕微鏡23によりカーフ86,87の両端部を撮影しているが(図7参照)、各々の一端部(他端部)のみを撮影するようにしてもよい。すなわち、顕微鏡23によりカーフ86,87ごとに各々の両端部の少なくとも一方を撮影する。
【0110】
上記実施形態では、本発明の被切削物としてサブテーブル38上のキャリブレーションワークCWを例に挙げて説明したが、上記実施形態よりは測定精度が劣るものの、切削テーブル31上のワークW(製品ワーク)を本発明の被切削物として用いてもよい。
【0111】
上記実施形態では、キャリブレーションワークCWの表面に対する1回目のチョップカットと2回目のチョップカットと、をキャリブレーションワークCWの表面の互いに異なる位置で行っているが、両チョップカットをキャリブレーションワークCWの表面の同一位置で行ってもよい。この場合には、1回目のチョップカットで形成されたカーフ86を顕微鏡23で撮影した後、2回目のチョップカットを1回目よりも深い切り込み深さで実行する。これにより、キャリブレーションワークCWの使用量を減らすことができる。なお、チョップカットを3回以上行う場合にも同様に、チョップカットを実行するごとに切り込み深さを深くする。
【0112】
上記実施形態では、互いに異なる切り込み深さでキャリブレーションワークCWに対するチョップカットを2回行っているが、キャリブレーションワークCWに対するチョップカットを3回以上の複数回行ってもよい。この場合には、3種類以上のカーフの撮影画像データ88に基づき各カーフの寸法測定を行って、各カーフの寸法測定結果に基づきブレード21の幅方向の各位置における半径R及び切り込み深さCinを演算する。
【符号の説明】
【0113】
10…ダイシング装置
21…ブレード
22…スピンドル
23…顕微鏡
31…切削テーブル
35…X駆動部
38…サブテーブル
46…Y駆動部
48…Z駆動部
60…統括制御部
70…ブレード回転制御部
72…移動制御部
74…撮影制御部
76…画像取得部
78…寸法測定部
80…演算部
86,87…カーフ
88…撮影画像データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12