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特開2024-149447荷電粒子顕微鏡における電子エネルギー損失分光の増大
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024149447
(43)【公開日】2024-10-18
(54)【発明の名称】荷電粒子顕微鏡における電子エネルギー損失分光の増大
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20241010BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20241010BHJP
   H01J 37/252 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 C
H01J37/252 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024061148
(22)【出願日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】18/296,854
(32)【優先日】2023-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】ヴァウテル レネ ジェイ.
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA05
5C101AA22
5C101AA23
5C101BB06
5C101GG03
5C101HH06
5C101HH27
5C101HH35
5C101HH53
5C101HH66
5C101JJ06
5C101KK06
(57)【要約】
【課題】
電子エネルギー損失スペクトル(EELS)データを処理するためのシステム及び技術を提供する。
【解決手段】
EELSデータを処理するための方法は、スペクトルデータを受信することを含むことができる。スペクトルデータは、材料試料の空間領域に関連付けられたEELSスペクトルのアレイとして構造化することができる。本方法は、スペクトルデータを使用して、基準スペクトルを生成することを含むことができる。本方法は、基準スペクトル及びスペクトルデータを使用して、試料スペクトルを生成することを含むことができる。試料スペクトルは、加重平均スペクトルを含むことができる。本方法はまた、試料スペクトルを出力することを含むことができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子エネルギー損失スペクトル(EELS)データを処理するためのコンピュータ実装方法であって、前記コンピュータ実装方法が、
スペクトルデータを受信することであって、前記スペクトルデータが、材料試料の空間領域に関連付けられたEELSスペクトルのアレイとして構造化される、受信することと、
前記スペクトルデータを使用して、基準スペクトルを生成することと、
前記基準スペクトル及び前記スペクトルデータを使用して、試料スペクトルを生成することであって、前記試料スペクトルが、加重平均スペクトルを含む、生成することと、
前記試料スペクトルを出力することと、を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記基準スペクトルを生成することが、平滑な背景モデルを、前記スペクトルデータの少なくともサブセットに適合させることを含む、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
前記基準スペクトルを生成することが、
前記スペクトルデータの前記サブセットの平均スペクトルを生成することと、
前記平滑な背景モデルを前記平均スペクトルに適合させることと、を含む、請求項2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
前記基準スペクトルを生成することが、前記平滑な背景モデルを前記スペクトルデータのEELSスペクトルに適合させることを含む、請求項2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
前記平滑な背景モデルが、複数のべき乗則項の和を含む、請求項2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記複数のべき乗則項のうちの各べき乗則項が、それぞれの係数及びそれぞれの指数を含み、前記それぞれの係数が、適合パラメータであり、前記それぞれの指数が、定数である、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
前記試料スペクトルを生成することが、
前記EELSスペクトルの少なくともサブセットに対するそれぞれの重みパラメータを生成することと、
前記それぞれの重みパラメータを使用して、前記加重平均スペクトルを生成することと、を含む、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
前記それぞれの重みパラメータを生成することが、前記基準スペクトルを使用して、前記EELSスペクトルの前記サブセットに対するそれぞれの発散度を判定することを含む、請求項7に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項9】
前記それぞれの発散度を判定することが、前記EELSスペクトルの前記サブセットに対するそれぞれのカルバック・ライブラー発散値又はそれぞれのジェンセン・シャノン発散値を判定することを含む、請求項8に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項10】
荷電粒子顕微鏡を使用して、前記スペクトルデータを生成することを更に含む、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項11】
前記試料スペクトルを出力することが、前記試料スペクトルを使用して、可視化データを生成することであって、前記可視化データが、対話型ユーザ環境の一部として前記試料スペクトルを提示するために、コンピューティングデバイスの表示を修正するように構成されている、生成することと、
前記可視化データを使用して、前記表示を修正することと、を含む、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項12】
実行可能命令を記憶する1つ以上の非一時的機械可読媒体であって、前記実行可能命令が、機械によって実行されるときに、前記機械に、
スペクトルデータを受信することであって、前記スペクトルデータが、材料試料の空間領域に関連付けられたEELSスペクトルのアレイとして構造化される、受信することと、
前記スペクトルデータを使用して、基準スペクトルを生成することと、
前記基準スペクトル及び前記スペクトルデータを使用して、試料スペクトルを生成することであって、前記試料スペクトルが、加重平均スペクトルを含む、生成することと、
前記試料スペクトルを出力することと、を含む動作を実施させる、1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項13】
前記基準スペクトルを生成することが、平滑な背景モデルを、前記スペクトルデータの少なくともサブセットに適合させることを含む、請求項12に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項14】
前記基準スペクトルを生成することが、
前記スペクトルデータの前記サブセットの平均スペクトルを生成することと、
前記平滑な背景モデルを前記平均スペクトルに適合させることと、を含む、請求項13に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項15】
前記基準スペクトルを生成することが、前記平滑な背景モデルを前記スペクトルデータのEELSスペクトルに適合させることを含む、請求項13に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項16】
前記平滑な背景モデルが、複数のべき乗則項の和を含み、前記複数のべき乗則項のうちの各べき乗則項が、それぞれの係数及びそれぞれの指数を含み、前記それぞれの係数が、適合パラメータであり、前記それぞれの指数が、定数である、請求項13に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項17】
前記試料スペクトルを生成することが、
前記EELSスペクトルの少なくともサブセットに対するそれぞれの重みパラメータを生成することと、
前記それぞれの重みパラメータを使用して、前記加重平均スペクトルを生成することと、を含む、請求項12に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項18】
前記それぞれの重みパラメータを生成することが、前記基準スペクトルを使用して、前記EELSスペクトルの前記サブセットに対するそれぞれの発散度を判定することを含む、請求項17に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項19】
前記それぞれの発散度を判定することが、前記EELSスペクトルの前記サブセットに対するそれぞれの絶対差分値、それぞれの相対二乗差分値、又はそれぞれの相対絶対差分値を判定することを含む、請求項18に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【請求項20】
前記動作が、
荷電粒子顕微鏡を使用して、前記スペクトルデータを生成することであって、前記荷電粒子顕微鏡が、前記1つ以上の非一時的機械可読媒体と動作可能に連結されている、生成することと、
前記スペクトルデータを記憶することと、を更に含む、請求項12に記載の1つ以上の非一時的機械可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、荷電粒子顕微鏡システム、並びにそれらの動作のためのアルゴリズム及び方法を対象とする。具体的には、いくつかの実施形態は、電子エネルギー損失分光のための技術を対象とする。
【背景技術】
【0002】
電子エネルギー損失分光(Electron energy loss spectroscopy、EELS)は、電子ビームを試料に通過させ、電子の一部分を散乱させることによって、材料試料の電子構造に関する情報を導出することができる技術を説明する。ビームを試料上に集束させることは、EELSデータが原子スケールで空間的に分解されることを可能にする。EELS分光計は、電子源の位置に対して、試料の下流で非弾性散乱電子を選択し、エネルギーによって、散乱電子を空間的に分散させることによって、動作する。空間的に分散された電子は、EELSスペクトルを生成する検出器に衝突する。
【0003】
EELSスペクトルは、典型的には、EELSデータが、典型的なスペクトル処理技術を使用して(例えば、試料の領域にわたって規則的な平均を取ることによって)平均化される場合のように、微量元素の痕跡を強調しない可能性がある、有意なバックグラウンドを含む。結果として、EELSデータの処理は、関心対象のエッジを提示する試料の領域を選択するためのユーザとの対話に依存しており、EELSを、効率的に自動化することができないか、又は技術の専門知識を欠くユーザによって実施することができないプロセスにしている。エネルギー分散分光(energy dispersive spectroscopy、EDS)では、最大ピクセルスペクトルなどの技術が、同じ問題に適用される。しかしながら、最大ピクセルスペクトル技術は、技術の著しい非線形性、及びEELSスペクトル内の相対的に重いバックグラウンドの内容のため、EELSに適用不可能である。したがって、全領域にわたって取られた平均スペクトルにおいて減衰されているか又は不可視でさえある微量元素の痕跡を明らかにするために、EELSデータを処理するための技術が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、電子エネルギー損失スペクトル(EELS)データを処理するためのコンピュータ実装方法は、スペクトルデータを受信することを含む。スペクトルデータは、材料試料の空間領域に関連付けられたEELSスペクトルのアレイとして構造化することができる。本方法は、スペクトルデータを使用して、基準スペクトルを生成することを含むことができる。本方法は、基準スペクトル及びスペクトルデータを使用して、試料スペクトルを生成することを含むことができる。試料スペクトルは、加重平均スペクトルを含むことができる。本方法はまた、試料スペクトルを出力することを含むことができる。
【0005】
いくつかの態様では、基準スペクトルを生成することは、スペクトルデータの少なくともサブセットに平滑な背景モデルを適合させることを含む。基準スペクトルを生成することは、スペクトルデータのサブセットの平均スペクトルを生成することと、平滑な背景モデルを平均スペクトルに適合させることと、を含むことができる。基準スペクトルを生成することは、平滑な背景モデルをスペクトルデータのEELSスペクトルに適合させることを含むことができる。平滑な背景モデルは、複数のべき乗則項の和を含むことができる。複数のべき乗則項のうちの各べき乗則項は、それぞれの係数及びそれぞれの指数を含むことができる。それぞれの係数は、適合パラメータであり得、それぞれの指数は、定数であり得る。
【0006】
いくつかの態様では、試料スペクトルを生成することは、EELSスペクトルの少なくともサブセットに対するそれぞれの重みパラメータを生成することと、それぞれの重みパラメータを使用して、加重平均スペクトルを生成することと、を含むことができる。それぞれの重みパラメータを生成することは、基準スペクトルを使用して、EELSスペクトルのサブセットに対するそれぞれの発散度を判定することを含むことができる。それぞれの発散度を判定することは、EELSスペクトルのサブセットに対するそれぞれのカルバック・ライブラー発散値又はそれぞれのジェンセン・シャノン発散値を判定することを含むことができる。
【0007】
いくつかの態様では、試料スペクトルを出力することは、試料スペクトルを使用して、可視化データを生成することを含む。可視化データは、対話型ユーザ環境の一部として試料スペクトルを提示するために、コンピューティングデバイスの表示を修正するように構成され得る。試料スペクトルを出力することはまた、可視化データを使用して、表示を修正することを含むこともできる。スペクトルデータ及び/又は試料スペクトルを出力することは、スペクトルデータ及び/又は試料スペクトルを記憶することを含むことができる。
【0008】
一態様では、システムは、1つ以上の非一時的機械可読記憶媒体に動作可能に連結されており、機械によって実行されるときに、前述の態様の方法の動作をシステムに実施させる命令を記憶する。本システムは、荷電粒子顕微鏡を含み得る。荷電粒子顕微鏡は、EELS分光計と連結された透過型電子顕微鏡であってもよい。荷電粒子顕微鏡は、ディスプレイ及び1つ以上のユーザ入力コンポーネントを含むクライアントコンピューティングデバイスと連結され得る。動作は、荷電粒子顕微鏡を使用して、スペクトルデータを生成することを含むことができる。動作はまた、スペクトルデータを記憶することも含むことができる。
【0009】
使用されている用語及び表現は、限定の用語としてではなく説明の用語として使用され、そのような用語及び表現を使用するに際して、示され説明される特徴又はその一部分のいかなる同等物も除外する意図はないが、請求される主題の範囲内で様々な修正が可能であることが理解される。したがって、本明細書で請求される主題が実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されてきたが、本明細書で開示される概念の修正及び変形が、当業者によってなされることが可能であり、そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本開示の範囲内にあるとみなされることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本開示の前述の態様及び多くの付随する利点が、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することでより良好に理解されるので、より容易に認識されるであろう。
図1】本開示のいくつかの実施形態による、例示的な荷電粒子顕微鏡システムを例解する概略図である。
図2】本開示のいくつかの実施形態による、電子エネルギー損失分光(EELS)データを処理するための例示的なシステムを例解する概略図である。
図3】本開示のいくつかの実施形態による、EELSデータを処理するための例示的なプロセスを例解する概略図である。
図4】本開示のいくつかの実施形態による、例示的なEELSデータキューブを例解する概略図である。
図5A】本開示のいくつかの実施形態による、200eV~約900eVのエネルギー損失の範囲内の例示的なEELSデータのグラフである。
図5B】本開示のいくつかの実施形態による、約1000eV~約1600eVのエネルギー損失の範囲内の例示的なEELSデータのグラフである。
【0011】
図面において、同様の参照番号は、別段の指定がない限り、様々な図の全体にわたって同様の部分を指す。必要に応じて図面における混乱を低減させるために、要素の全てのインスタンスが必ずしも標識されているわけではない。図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに、説明される原理を例解することに重点が置かれている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例解的な実施形態を例解及び説明してきたが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本開示において様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。以下の段落では、電子エネルギー損失分光(EELS)のための荷電粒子顕微鏡システム、コンポーネント、及び方法の実施形態。本開示の実施形態は、説明を簡単にするために、EELSを備えた透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope、TEM)システムを使用する、試料のマイクロ分析に焦点を当てている。その目的のため、実施形態は、そのようなシステムに限定されず、むしろ、微量元素の分析が、背景情報の相対的優位性によって複雑になり得るシステムについて企図される。例解的な例では、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)システムを、走査型透過(scanning-transmission、STEM)モードでのEELS分析のために使用することができる。同様に、システムは、具体的には、撮像、x線微量分析などに適合されたTEMシステムの典型的なコンポーネントを省略して、EELS技術用に構成され得る。したがって、本開示の実施形態は、EELSデータを生成及び処理するためのシステムを備えたTEMプラットフォームに焦点を当てているが、シンクロトロン分光又は他の分光法プラットフォームを含むがこれらに限定されない、追加及び/又は代替のシステム及びアプローチが企図される。
【0013】
本開示の実施形態は、EELSデータを処理するためのシステム、方法、アルゴリズム、及びコンピュータ可読命令を記憶する非一時的媒体を含む。例解的な例では、方法は、1つ以上のデータキューブとして構造化することができる材料試料のEELSスペクトルデータを生成及び/又は受信することを含むことができる。本開示の文脈では、「データキューブ」又はスペクトル画像は、空間的参照スペクトル、時間的参照スペクトル、エネルギー参照スペクトルなどを含むがこれらに限定されない階層的に構成されたスペクトルを含むことができるデータアレイを指す。本方法は、EELSスペクトルデータを使用して、1つ以上の基準スペクトルを生成することを含み得る。基準スペクトルを使用して、本方法は、材料試料のそれぞれの空間領域を説明することができる材料試料の1つ以上の試料スペクトルを生成することを含むことができ、試料スペクトルは、材料試料の空間領域の対応するEELSデータキューブの加重平均を表す。EELSプラットフォームが1つ以上のコンピュータ及び/又はネットワークと連結されている場合、本方法はまた、試料スペクトルを出力することを含むことができる。有利なことに、本開示の技術は、EELSスペクトルにおける微量元素エッジの相対的顕著性を増加させ、背景情報の影響を低減し、線形及び非線形技術の両方に典型的なエッジアーチファクトの導入を低減及び/又は排除する。このようにして、本開示の技術は、EELSプラットフォームの全体的な性能を改善し、EELSスペクトル処理の複雑さを軽減し、EELSプラットフォームの自動化(例えば、人間の介入を伴わない動作)を容易にする。
【0014】
以下の詳細な説明は、TEM顕微鏡検査及び微量分析プラットフォームの実施形態に焦点を当てているが、追加及び/又は代替のシステムが、説明される技術の使用を通じて改善され得ることが企図される。例解的な例では、計器システムは、分析スペクトルデータ(例えば、質量分析、発光分析、吸収分析、核磁気共鳴分析、ラマン分光測定、赤外分光測定、ハイパースペクトル撮像、電気化学分光測定、x線分光分析、クロマトグラフィーなど)を生成するように構成された荷電粒子計器を含むことができる。
【0015】
図1は、本開示のいくつかの実施形態による、例示的な荷電粒子顕微鏡システム100を例解する概略図である。以下の説明では、例示的なTEMシステム100の内部コンポーネント及び機能の詳細は、簡略化のため、並びに、図2図5Bを参照してより詳細に説明されるように、本開示の実施形態、及び、相対的に背景情報を含むスペクトルにおける試料情報を増大させるための技術に説明の焦点を当てるため、省略されている。例示的なTEMシステム100は、電子源セクションと、対物セクション105を含むTEMカラムと、検出器セクション110と、を含む。本開示は、1つ以上の電子エネルギー損失分光(EELS)分光計115を含む本開示の実施形態に着目して、検出器セクション110の性能を改善するための技術に焦点を当てている。
【0016】
要約すると、電子源セクションは、電子ビームが形成され、真空を通してTEMカラム内に伝導されるように、高電圧電界放出源又は他の放出電子源を含むことができる電子源に通電するように構成された電子機器を含む。TEMカラムは、電磁レンズ及び静電レンズ、並びに電子ビームの特性を制御するための複数の開口など、ビーム形成用のコンポーネントを含む。TEMカラムコンポーネントは、とりわけ、コンデンサレンズ、対物レンズ、投影レンズ、並びに対応する開口を含む。対物セクション105は、電子ビームが通過する試料をホストする。EELS微量分析の場合、ビームは、スポットモード分析のために(例えば、1つ以上の対物レンズの作用によって)試料上に集束され得るか、又はビームは、相対的に大きい試料領域からデータを収集するために、平行照明モードにおいて試料を通過させられ得る。
【0017】
検出器セクション110は、試料撮像及び/又はマイクロ分析で使用するための画像、スペクトル、及び他のデータを生成するように構成された1つ以上の型の検出器、センサ、スクリーン、及び/又は光学系を含む。例えば、撮像セクションは、とりわけ、シンチレータスクリーン、双眼鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)検出器(例えば、画素化電子検出器、二次電子検出器、カメラ、及び電子エネルギー損失分光(EELS)分光計115を含むことができる。EELS分光計115は、電子のエネルギーに比例する力を電子に加える磁気分散素子(「プリズム」とも呼ばれる)上に電子ビームを集束させることによって、少なくともある程度はエネルギーフィルタとして機能する。このようにして、(例えば、弾性衝突又は非弾性衝突によって)試料にエネルギーを伝達した電子は、磁気分散素子を通り、検出器に向かって方向を変えることができる。検出器は、二次元EELSデータ及び/又は一次元EELSデータを生成する画素化検出器(例えば、電子を検出するように構成されたCCDデバイス)を含むことができ、そこからEELSスペクトルを導出することができる。いくつかの実施形態では、EELS分光計115はまた、散乱電子を検出器上に調整及び/又は集束するために、電磁レンズ及び/又は加速器などの1つ以上の光学素子を含む。
【0018】
図2は、本開示のいくつかの実施形態による、電子エネルギー損失分光(EELS)データを処理するための例示的なシステム200を例解する概略図である。例示的なシステム200は、1つ以上のネットワーク215を介して通信している、1つ以上のローカルシステム205及び1つ以上のリモートシステム210を含む。ローカルシステム205は、1つ以上の計器PC(instrument PC、IPC)220及び/又は1つ以上の特定用途向け機械225を含む。リモートシステム210は、1つ以上のクライアントコンピューティングデバイス230、1つ以上のデータストア235、及び/又は1つ以上のサーバ240を含む。ローカルシステム205の構成要素は、例えば、ローカルエリアネットワーク、イントラネット、近距離通信リンクを介して、又はネットワーク215を介して電子的に連結され得る。同様に、リモートシステム210の構成要素は、電子的に連結され得る。このようにして、クライアントコンピューティングデバイス230などのリモートシステム210のコンポーネントは、図3図5Bを参照して説明したように、EELSデータの生成、記憶、転送、及び/又は処理の一部として、1つ以上のASM225又はIPC220と通信することができる。
【0019】
EELSデータは、スペクトル画像として構造化することができ、図4を参照してより詳細に説明されるように、試料表面上の物理的位置を基準とした電子顕微鏡画像への一次元、二次元、又は三次元EELSスペクトルのマッピングを指す。このようにして、EELSデータは、典型的には、四次元アレイとして記憶され、二次元マトリックス内の各要素は、試料の画像に対応する強度値と、EELS分光計115によって生成されたスペクトルと、に関連付けられている。TEMシステム100の分解能及び倍率パラメータに少なくともある程度は基づいて、二次元マトリックス内の各要素は、試料の領域に対応することができる。例えば、EELS微量分析では、EELSデータを原子分解能で生成することができ、試料の領域を1~1000nm幅のオーダーで調べる。
【0020】
本開示の文脈では、クライアントコンピューティングデバイス230及びIPC220は、ラップトップコンピュータ、スマートフォン、タブレット、デスクトップコンピュータ、端末、又は入力/出力ハードウェア及びインターフェースソフトウェアを備えた他のデバイスなどの家庭用電子デバイスを含む。このようにして、例示的なシステム200のユーザは、クライアントコンピューティングデバイス230との1つ以上の対話を介して例示的なシステム200のコンポーネントを使用して、EELSデータにアクセスし、転送し、出力し、及び別様に処理することができる。同様に、ユーザは、IPC220を使用して、EELSデータにアクセスすることができる。分散コンピューティングシステムの一部として、EELSデータキューブに適用される処理動作及び/又はサブ動作は、ローカル又はリモートで実行され得る。例えば、EELSデータは、分散ストレージシステム(例えば、「クラウド」)であるか又はそれを含み得るデータストア235に格納され得、それにより、図3図5Bを参照して説明される処理動作は、クライアントコンピューティングデバイス230及び/又はIPC220上の端末を介して呼び出されるサーバ240上にホストされるリモートインスタンスを介して実行され得る。別の例では、クライアントコンピューティングデバイス230及び/又はサーバ240は、1つ以上の試料からEELSデータセットにデータキューブをアセンブルし、データセットをリモートシステム210に転送するなど、1つ以上の処理動作を実行するために、特定用途向け機械225と通信することができる。
【0021】
クライアントコンピューティングデバイス230及びIPC220とは対照的に、ASM225は、1つ以上のIPC220及び/又はTEM100の動作及び/又はデータの処理及び転送態様を調整するように構成された専用コンピューティングデバイスを含むことができる。例解的な例では、ASM225は、ディスプレイ、キーボード、マウスなどのユーザインターフェース周辺機器がなく、データ転送及び処理動作のために特別に構成されている(例えば、より大きな計算リソース及び/又は通信リソースを有する)コンピューティングデバイスを含むことができる。サーバ240は、本開示の文脈では、機械同士の通信及び処理のために構成されたネットワーク化された(ラックマウント型コンピュータなどの)コンピュータシステムを指す。
【0022】
図3は、本開示のいくつかの実施形態による、EELSデータを増大させるための例示的なプロセス300を例解する概略図である。例解的なプロセス300は、図2の例示的なシステム200を使用して実行することができ、及び/又は、図1のTEMシステム100によって生成されたEELSデータ(例えば、図4に示されるようなEELSデータキューブ)に適用することができる。例示的なプロセス300は、スペクトルデータ307を受信し、基準スペクトル313データを生成し、試料スペクトル317データを生成し、(例えば、図2のコンピューティングデバイスのディスプレイを介して例示的なシステム200のユーザに提示するために生成された可視化データとして)試料スペクトル317データを出力するための動作を含む。例示的なプロセス300の動作は、荷電粒子顕微鏡を使用する微量分析技術の性能を改善するために使用することができるプロセスのセットを例解するためのアプローチとして、特定の計器、コンピューティングデバイス、又は機械に関連しない、一連の動作として示されている。プロセスのセットは、単一の機械(例えば、コンピューティングデバイス)において実行され得るか、又は2つ以上の機械にわたって分散され得る。その目的のため、いくつかの実施形態では、例示的なプロセス300の動作が省略、反復、順序変更、及び/又は置換され得る。
【0023】
例示的なプロセス300を構成する1つ以上の動作は、分析機器(例えば、TEM 100)のコンポーネントに動作可能に連結されたコンピュータシステム若しくは他の機械、並びに/又は、図1図2を参照してより詳細に説明されるように、特徴評価システム、ネットワークインフラストラクチャ、データストア、コントローラ、リレー、電源システム、及び/又はユーザインターフェースデバイスを含むがこれらに限定されない追加のシステム若しくはサブシステムによって実行及び/又は開始できる。その目的のため、動作は、1つ以上の機械可読媒体において機械実行可能命令として格納することができ、機械実行可能命令は、コンピュータシステムによって実行されると、コンピュータシステムにプロセス300を構成する動作の少なくとも一部分を実施させることができる。プロセス300の構成動作は、試料及び/若しくは計器の調製、較正、スペクトルデータ307を生成するために試料を処理及び/若しくは調製するための分析方法の少なくとも一部を形成する動作305の前に行われる他の動作、又は、図4に例解されるようなスペクトルデータ307を生成するための1つ以上の動作などの、本説明から省略されている動作によって、先行され、散在され、及び/又は後続され得る。
【0024】
動作305では、例示的なプロセス300は、スペクトルデータ307を受信することを含む。スペクトルデータは、図4を参照してより詳細に説明されるように、材料試料の空間領域に関連付けられたEELSスペクトル309のアレイとして構造化されたEELSデータを含むことができる。スペクトルデータ307は、ローカルシステム205などの例示的なシステム200のコンポーネントから、及び/又はリモートシステム210のコンポーネントから受信され得る。例解的な例では、スペクトルデータ307は、動作305が、例えば、ネットワーク215を介して、ローカルシステム205からクライアントコンピューティングデバイス230においてスペクトルデータ307を受信することを含み得るように、TEM100によって生成され得、及びIPC220又はASM225にローカルに記憶され得る。
【0025】
スペクトルデータ307は、1つ以上の空間領域及び/又は1つ以上の試料に対応する、1つ以上のEELSデータキューブであるか、又はそれを含み得る。本開示の文脈では、データキューブは、空間的参照スペクトル、時間的参照スペクトル、エネルギー参照スペクトルなどを含むがこれらに限定されない階層的に構成されたスペクトルを含むデータアレイを指すことができる。スペクトルデータ307に関連付けられた例解図に示されるように、EELSスペクトル309は、第1の軸上に1つ以上の空間次元、第2の軸上にエネルギー(又はエネルギー損失)、及び第3の軸上に数を有する多次元表現で構成することができる。一例では、空間次元軸は、一次元上への2つ以上の空間次元の投影を表すことができる。図3のスペクトルは、縮尺通りに再現されておらず、むしろ、例示的なプロセス300の異なる段階における異なるデータ型の定性的な態様を例解することが意図される。
【0026】
スペクトルデータ307は、動作310では、1つ以上の基準スペクトル313を生成するために処理され得る。いくつかの実施形態では、基準スペクトル313又は基準スペクトル313は、非加重平均スペクトルを含み、及び/又は、非加重平均スペクトルを使用して生成することができる(非加重平均スペクトル515については、図5A図5Bを参照のこと)。次に、スペクトルデータ307を使用して、非加重平均スペクトルを生成することができる。例えば、動作310は、空間領域に対するEELSスペクトル309の非加重平均スペクトルを生成することを含むことができる。スペクトルデータ307が、複数の空間領域についてのデータキューブを含む場合、EELSスペクトル309は、それぞれの平均スペクトルを生成するために、空間領域によってグループ化され得る。有利なことに、非加重平均スペクトルを生成することは、試料中の不均一に分散された元素の痕跡を増大させることができ、及び/又は、スペクトルデータ307中のゼロ平均ノイズに対する散乱電子情報の相対的顕著性を増加させることができる。
【0027】
動作310は、基準スペクトル313が、適合された平滑な背景モデルを含むことができるように、平滑な背景モデルを平均スペクトルに適合させるための動作を含むことができる。本開示の文脈では、「平滑な背景モデル」は、TEMシステム100によってEELSデータにおいて生成された背景信号をシミュレートする物理学ベースの発見的モデルを指す。例解的な例として、平滑な背景モデルは、(例えば、モデル適合の一部として調節された)適合パラメータとして使用される固定及び/若しくは予め定義された指数又は動的指数を有するべき乗則モデル又はべき乗則モデルの和であるか、又はそれを含み得る。後者の例は、以下にされるように、整数「N」項を有するべき乗則モデルの和であり、
【0028】
【数1】
式中、項「x」は、エネルギーであるか、又はそれを含み得る。いくつかの実施形態では、係数Aは、定数又は関数であり得る適合パラメータであり、「i」は、べき乗則における項を指す整数である。いくつかの実施形態では、指数aは適合パラメータであり、モデルが適合に収束するような負の値であり得る。いくつかの実施形態では、aは、以下に示されるように、「-i」に等しい定数であり、
【0029】
【数2】
式中、Nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上の整数であり得る。適合技術は、対応するスペクトル(例えば、平均スペクトル、EELSスペクトル309など)に対するモデルの相対的な適合によって定義された目的関数(例えば、誤差項)の反復最小化を含むことができる。有利なことに、上述のべき乗則モデルの和を使用することは、EELSデータ分析技術の性能及び品質を改善する。例えば、(例えば、一定の指数を有する)べき乗則モデルの和は、典型的なモデル適合技術よりも相対的に高速であり、有意の局所最適値に収束する線形手順で適合することができる。更に、べき乗則モデルの和は、従来の単一項べき乗則モデルに対してより正確な適合が提供される、典型的な技術よりも相対的に大きいエネルギーウィンドウ(例えば、約1500eV以下)にわたって正確である。
【0030】
いくつかの実施形態では、基準スペクトル313及び/又は基準スペクトル313を生成することは、平滑な背景モデルをEELSスペクトル309に適合させることを含む。例えば、スペクトルデータ307は、数十、数百、数千、又は数百万のEELSスペクトル309のデータキューブを含むことができ、動作310は、平滑な背景モデルを数十、数百、又は数千のEELSスペクトル309の少なくともサブセットに適合させることを含む。このようにして、動作310は、スペクトルデータ307を構成するEELSスペクトル309の適合された背景モデルを表す複数の基準スペクトル313を生成することを含むことができる。平滑な背景モデルは、データキューブの各スペクトルが、それぞれの基準スペクトル313に関連付けられるように、各EELSスペクトル309に適合することができる。有利なことに、個々のスペクトルを背景モデルに適合することは、結果として生じる適合の品質を改善し、例えば、EELSスペクトル309のサブセットが(例えば、試料の不均一領域において)集計モデルに対して相対的に小さな影響しか及ぼさないスペクトルデータ307セットにおいて、改善された加重スペクトルを返す。
【0031】
動作315では、例示的なプロセス300は、動作310で生成された基準スペクトル313データを使用して、1つ以上の試料スペクトル317を生成することを含む。試料スペクトル317データは、スペクトルデータ307の加重平均を表すことができる。いくつかの実施形態では、試料スペクトル317は、EELSスペクトル309に対してそれぞれ生成される。同様に、複数のそれぞれのEELSスペクトル309に対して、複数の試料スペクトル317を生成することができる。したがって、動作315は、空間領域について1つの試料スペクトル317を生成することを含むことができ、基準スペクトル313データは、空間領域についての平均スペクトルに背景モデルを適合させることによって生成される。追加的又は代替的に、動作315は、スペクトルデータ307の1つ以上のEELSスペクトル309にそれぞれ対応する、1つ以上の試料スペクトル317を生成することを含むことができる。
【0032】
その目的のため、動作315は、試料スペクトル317が生成され得るそれぞれの重みパラメータを判定するための、1つ以上のサブ動作を含むことができる。それぞれの重みパラメータを判定することは、基準スペクトル313データを使用して、EELSスペクトル309データに対する1つ以上の発散度を判定することを含むことができる。空間領域の非加重平均スペクトルが生成され、単一の基準スペクトルが使用される場合、発散度は、発散値のベクトルを含むことができる。同様に、スペクトルデータ307に含まれるEELSスペクトル309のサブセットに対して、複数の基準スペクトル313が生成される場合、発散度は、発散値の複数のベクトルを含む、テンソル又は他のデータ構造を含むことができる。この文脈では、EELSスペクトル309のサブセットは、単一のEELSスペクトル309、複数のEELSスペクトル309、空間領域に対する完全なEELSデータキューブまでを含むことができる。したがって、「サブセット」という用語はまた、スペクトルデータ307のフルセットも含むことができる。
【0033】
発散度は、基準スペクトル313データの適合された背景モデルに従って予測された背景からの、スペクトルデータ307内の観測されたスペクトルの、発散の統計的尺度を指すことができる。発散度は、カルバック・ライブラー、ジェンセン・シャノン、二乗差分、絶対差分、相対二乗差分、及び/又は相対絶対差分を含むがこれらに限定されない1つ以上の技術を使用して、判定することができる。サブ動作は、EELSスペクトル309の少なくともサブセットに対するそれぞれの発散値を判定することを含むことができる。
【0034】
重みパラメータは、例えば、1つ以上の重み付け係数をスペクトルデータ307に適用することによって、試料スペクトル317を生成するために使用することができる。重みパラメータは、様々なやり方でEELSスペクトル309データに適用することができる。例えば、一定の重み付け係数をEELSスペクトル309に適用することができる。別の例では、1つ以上の異なる重み付け係数をEELSスペクトル309に適用することができる(例えば、各スペクトルは、それぞれの重み付け係数を有することができる)。いくつかの実施形態では、重み付け係数は、比例して観測されたスペクトルに適用されるか、又は、関連EELSデータ(例えば、平均スペクトル又はEELSスペクトル309)と対応する基準スペクトル313データとの間の差によって別様に通知され、及び、適合された背景モデルに追加される。このようにして、対応する基準スペクトル313とほぼ一致するEELSスペクトル309の領域では、重み付け係数は、(例えば、ゼロに近い)相対的に小さい数に適用される。対照的に、背景モデルとは異なる、試料による電子の散乱から生じる情報を含むEELSスペクトル309の領域では、重み付け係数は、(例えば、ゼロより大きい)相対的に大きい数に適用される。
【0035】
別の例では、重みパラメータは、重み付け係数が、予測された適合バックグラウンドデータからの、観測されたEELSデータの局所発散度に比例するように、電子エネルギーに少なくともある程度は依存し得る。このようにして、重みパラメータは、EELSスペクトル309の長さに等しい長さの値のベクトルとして構造化することができる。重みパラメータは、ゼロに近い発散度に対応する、適合された背景モデルと実質的に重なるEELSスペクトル309の領域において、実質的に1と同等以下であり得る。対照的に、重みパラメータは、ゼロより大きい発散度に対応する、試料による電子の散乱から生じる情報を含むEELSスペクトル309の領域において、1より大きくなり得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、空間領域に対する単一の試料スペクトル317を生成することができ、例えば、動作310は、スペクトルデータ307の少なくとも一部分を使用して、平滑な背景モデルを非加重平均スペクトルに適合させることに少なくともある程度は基づいて、基準スペクトル313を生成することを含む。そのような技術は、空間領域にわたる背景雑音及び信号強度の変動を制御するのに有用であり得る。有利なことに、空間領域に対する単一の試料スペクトル317の生成は、エッジ検出、元素分析などに与えるゼロ平均ノイズの相対的影響を削減することができる。
【0037】
図5A図5Bを参照してより詳細に説明されるように、最大ピクセルスペクトル技術などの、スペクトルデータ307を処理するための従来の技術は、背景除去中にスペクトルにアーチファクトを導入する傾向がある。最大ピクセルスペクトル技術は、エネルギー範囲内の各エネルギーに対して空間領域内で見出された最大計数値を使用し、最大値をスペクトルに統合する。最大ピクセルスペクトル技術は、エネルギー分散分光(EDS)などの相対的に低いレベルの背景情報を有する信号に対して有効である。対照的に、本アプローチは、EELSスペクトル309などの相対的に強いバックグラウンドを有するスペクトルデータ307に適用されるときは、無効である。最大ピクセルスペクトル技術は、エッジ検出及び他の元素分析を損なうノイズを導入する。例えば、最大ピクセル技術によって導入されたノイズは、典型的には、自動化された(例えば、人間の介入を伴わない)又は擬似自動化された(例えば、スペクトル処理を開始及び/又は承認するための限定された人間の介入を伴う)ノイズフィルタ(例えば、平滑化アルゴリズム)の実用性を限定する、ゼロ平均ノイズではない。このようにして、例示的なプロセス300は、試料スペクトル317データが、スペクトルデータ307で見出された典型的に強い背景信号に対して、別の方法では相対的に弱いであろうEELSスペクトル309データにおける特性エッジの痕跡を増大させるという点で、周知の技術に比べた改善を表す。最大ピクセル技術が複数の偽エッジを返し、非加重平均化が相対的に弱いエッジを検出できない場合、例示的なプロセス300は、アーチファクトも導入することなく比較的弱いエッジの痕跡を増大させることによって、元素分析を改善する。
【0038】
その目的のため、例示的なプロセス300の実施形態はまた、試料スペクトル317データを使用して、空間領域の微量分析に向けられた1つ以上の動作を含む。微量分析動作は、エッジ検出などのスペクトル分析を含むことができる。したがって、例示的なプロセス300は、試料スペクトル317データを生成することと、(例えば、試料スペクトル317データで検出された1つ以上のエッジの1つ以上のスペクトル位置に少なくともある程度は基づいて)空間領域の元素分析のために試料スペクトル317データを使用することと、動作320において試料スペクトル317データを出力することと、を行うための動作を含むことができる。更に、動作320は、要素データ及び/又は試料メタデータを含む試料データを出力することを含むことができる。例示的なプロセス300の文脈では、出力動作は、データを記憶すること、(例えば、ローカルシステム205、リモートシステム210のコンポーネント間で、及び/又は図2のネットワーク215を介して)データを転送すること、及び/又は、例示的なシステム200(例えば、クライアントコンピューティングデバイス230又はIPC220)の1つ以上のコンポーネントを修正して、生成されたデータを提示するように構成された可視化、メニュー、及び/又はインターフェースデータを生成することを含むことができる。例解的な例では、動作320は、対話型ユーザ環境の一部としてディスプレイ上に試料スペクトル317データを提示するために、コンピューティングデバイスの表示を修正するように構成された、ユーザインターフェースデータを生成することを含むことができる。この文脈では、対話型ユーザ環境は、ユーザが、試料スペクトル317のデータを閲覧、処理、分析、又は操作し得る、1つ以上のユーザアクセス可能なメニュー要素、他のグラフィカルユーザインターフェース要素、及び/又はハードウェアベースの制御インターフェースであるか、又はそれを含み得る。
【0039】
図4は、本開示のいくつかの実施形態による、例示的なEELSデータキューブ400を例解する概略図である。例示的なEELSデータキューブ400は、試料401の顕微鏡写真405を使用して、試料401上の物理的な場所に多次元EELSデータ309を参照する階層データ構造の二次元表現である。顕微鏡写真405は、CMOSプロセスによって製造されたパターン化材料などの、TEM微量分析のために調製された試料を表している。図4の例では、顕微鏡写真405は、示された試料が、絶縁材料又は誘電体材料(例えば、酸化物)を表すことができる相対的に暗色の材料のマトリックスと、導電性材料(例えば、金属又は導電性酸化物)であるか又はそれを含むことができる1つ以上の相対的に淡色の含有物と、を含むような、異なるパターンを有する異なる材料を表す。顕微鏡写真405に示されるパターンは、例解的な例である。デジタル顕微鏡写真の場合、各ピクセルは、それぞれのEELSスペクトル309を基準とすることができる。場合によっては、各EELSスペクトル309は、EELSモードの分解能及び撮像モードの分解能が異なる場合のように、複数のピクセルを基準とすることができる。
【0040】
空間領域410及び415は、顕微鏡写真405上に示される。各々は、1つ以上のEELSスペクトル309に関連付けられる。例示的なグラフ420及び425は、EELSスペクトル309のスケール例を提供するために例解されている。例示的なグラフ420及び425は、縦軸にエネルギー損失(eV)、横軸に数を有する軸上にプロットされたEELSデータを含む。図3を参照してより詳細に説明されるように、例示的なグラフ420の背景強度は、例示的なグラフ425の背景強度よりも約1桁低い。技術として、EELSは、試料組成、及び顕微鏡の動作パラメータに対して感受性があり得る。このようにして、所与の試料における背景信号強度の変動は、自動化を困難にするEELSデータ処理における複雑さを導入する。そのため、EELSデータの分析は、典型的には、(TEM機器に関する専門知識を有する訓練された顕微鏡使用者などの)熟練した人間のユーザによって実施される。有利なことに、本開示の技術は、背景情報と比較して、EELSデータにおける試料情報の相対的顕著性を改善することによって、そのような分析の複雑さを軽減する。
【0041】
図5Aは、本開示のいくつかの実施形態による、200eV~約900eVのエネルギー損失の範囲内の例示的なEELSデータのグラフ500である。グラフ500は、図4の例示的なグラフ420及び425と同様に、縦軸にエネルギー損失(eV)を含み、横軸に数を含む。グラフ500は、最大ピクセルスペクトル510、非加重平均スペクトル515及び加重平均スペクトル520を含む。スペクトル510、515及び520はそれぞれ、異なるやり方で処理されたEELSデータを表し、図3を参照して説明した技術によってもたらされたEELSスペクトル分析の改善を強調する。図5Aに示される例示的なデータは、空間領域(例えば、図4の空間領域410又は415)に対して生成され、加重平均スペクトル520は、図3の例示的な試料スペクトル317である。
【0042】
最大ピクセルスペクトル510は、図3を参照してより詳細に説明される最大ピクセルスペクトル技術を使用して、生成された。既に述べたように、最大ピクセルスペクトル技術は、所与の空間領域における各エネルギー損失値に対して最大計数値を選択する。スペクトル背景が無視できるか又は全くないデータでは、最大ピクセルスペクトル技術は、試料情報を強調するのに有効である。しかしながら、強いスペクトル背景によって特徴付けられるEELSデータでは、最大ピクセルスペクトル510は、背景情報及び/又はノイズから試料情報を相対的に区別できなくすることが見出された。具体的には、280eV、402eV、456eV及び532eVの近似エッジ位置における予測された試料情報は、特に500eVを超えるエネルギー損失の値において、ノイズに対して存在しないか、又は大幅に減衰された。
【0043】
非加重平均スペクトル515は、特に約456eV及び532eVにおいて、試料情報の相対的顕著性を改善する減衰されたゼロ平均ノイズを含む。しかしながら、対照的に、例示的なプロセス300に従って調製された加重平均スペクトル520は、スペクトルエッジ位置の各々において著しく改善された試料情報を含み、同様に、無視できるゼロ平均ノイズを呈するか、又はゼロ平均ノイズを呈さない。有利なことに、加重平均スペクトル520は、エッジ位置の精度をほとんど又は全く低下させることなく達成された改善された信号対雑音特性に少なくともある程度は基づいて、スペクトル分析アルゴリズムを使用して、より容易に分析することができる。
【0044】
図5Bは、本開示のいくつかの実施形態による、約1000eV~約1600eVのエネルギー損失の範囲内の例示的なEELSデータのグラフ550である。グラフ500と同様に、グラフ550は、図4の例示的なグラフ420及び425と同様に、縦軸にエネルギー損失(eV)を含み、横軸に数を含む。グラフ550は、エネルギー損失値のより高い範囲における最大ピクセルスペクトル510、非加重平均スペクトル515、及び加重平均スペクトル520の拡張を含む。図5Aのデータと同様に、スペクトル510、515及び520は、強い背景情報を呈する分析技術には適さない技術に対する、図3の例示的なプロセス300の改善を明らかにする。加重平均スペクトル520は、最大ピクセルスペクトル510及び非加重平均スペクトル515には存在しない、約1185eV、1453eV及び1576eVのエッジ位置における試料情報を含む。
【0045】
図5Bの挿入図は、約1400eV~約1500eVのエネルギー領域の拡大図であり、本開示の技術によってもたらされた試料情報の改善を強調するために提供される。最大ピクセルスペクトル510が、約1453eVにおいて試料情報を不明瞭にするゼロ平均ノイズを含み、非加重平均スペクトル515が、感知され得る試料情報を含まない場合、加重平均スペクトル520は、試料情報を含み、ゼロ平均ノイズをほとんど又は全く含まない。したがって、加重平均スペクトル520は、スペクトル分析アルゴリズムを使用して、より容易に分析することができる。加重平均スペクトルの相対的な改善は、依然として1185eVでより明確であり、加重平均スペクトル520は、最大ピクセルスペクトル510及び非加重スペクトル515の両方と明らかに異なる。
【0046】
先行する説明では、様々な実施形態について説明した。説明の目的で、実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な構成及び詳細について記述してきた。しかしながら、実施形態は、具体的な詳細がなくても実施され得ることが当業者には明らかであろう。更には、説明される実施形態を不明瞭にしないように、周知の特徴が省略又は簡略化されている場合がある。本明細書で説明される例示的な実施形態は、分光測定システム、具体的には電子エネルギー損失分光(EELS)システムを中心としているが、これらは非限定的、例解的な実施形態であることが意図される。本開示の実施形態は、そのような実施形態に限定されず、むしろ、他の態様のなかでも、化学構造、微量元素組成などを含むがこれらに限定されない、化学的特性、生物学的特性、物理的特性、構造特性又は他の特性を判定するために幅広い材料試料を分析できる分析機器システムを対象にすることが意図される。そのようなシステムの例は、典型的には、相対的に強いバックグラウンドの内容を含むスペクトルを生成するシンクロトロンシステム及び他の分光システムを含む。
【0047】
本開示のいくつかの実施形態は、1つ以上のデータプロセッサ及び/又は論理回路を含むシステムを含む。いくつかの実施形態では、システムは、命令を含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体を含み、命令は、1つ以上のデータプロセッサ及び/又は論理回路で実行されるときに、1つ以上のデータプロセッサ及び/又は論理回路に、本明細書で開示される1つ以上の方法の一部若しくは全部、及び/又は1つ以上のプロセス若しくはワークフローの一部若しくは全部を実施させる。本開示のいくつかの実施形態は、1つ以上のデータプロセッサ及び/又は論理回路に、本明細書で開示される1つ以上の方法の一部若しくは全部及び/又は1つ以上のプロセスの一部若しくは全部を実施させるように構成された命令を含む非一時的機械可読記憶媒体において有形で具現化されたコンピュータプログラム製品を含む。
【0048】
使用されている用語及び表現は、限定の用語としてではなく説明の用語として使用され、そのような用語及び表現を使用するに際して、示され説明される特徴又はその一部分のいかなる同等物も除外する意図はないが、請求される範囲内で様々な修正が可能であることが理解される。したがって、本開示は、具体的な実施形態及び任意選択的な特徴を含むが、本明細書で開示される概念の修正及び変形が、当業者によってなされることが可能であり、そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲内にあるとみなされることが理解されるべきである。
【0049】
用語が明示的な定義なしに使用される場合、その用語が荷電粒子顕微鏡システムの分野又は他の関連分野における特別な意味及び/又は具体的な意味を有しない限り、その語の通常の意味が意図されることを理解されたい。「約」又は「実質的に」という用語は、記述された特性からの逸脱を示すために使用され、その逸脱の範囲内では、記載されている構造の対応する機能、特性、又は属性への影響がほとんどない又は全くない。寸法パラメータが別の寸法パラメータに「実質的に等しい」と記載されている例解する例では、「実質的に」という用語は、比較されている2つのパラメータが、製造公差又はシステムの動作に固有の信頼区間などの許容限界内で等しくない可能性があることを反映することが意図される。同様に、位置合わせ又は角度配向などの幾何学的パラメータが、「約」垂直、「実質的に」垂直、又は「実質的に」平行として説明される場合、「約」又は「実質的に」という用語は、位置合わせ又は角度配向が、許容限界内で、厳密に記述された条件と異なり得る(例えば、厳密に垂直ではない)ことを反映することが意図される。直径、長さ、幅などの寸法値について、「約」という用語は、記述される値から最大で±10%の偏差を説明するものと理解することができる。例えば、「約10mm」の寸法は、9mm~11mmの寸法を説明することができる。
【0050】
本明細書は、例示的な実施形態を提供するものであり、本開示の範囲、適用可能性、又は構成を限定することを意図するものではない。むしろ、例示的な実施形態に続く説明は、当業者に、様々な実施形態を実現することを可能にする説明を提供する。添付の特許請求の範囲に記載されている趣旨及び範囲から逸脱することなく、要素の機能及び構成に様々な変更を加えることができることを理解されたい。実施形態の完全な理解を提供するために、具体的な詳細が本明細書で与えられる。しかしながら、実施形態は、これらの具体的な詳細なしで実施され得ることが理解されるであろう。実施形態を不必要な詳細で不明瞭にしないために、例えば、本開示の具体的なシステムコンポーネント、システム、プロセス、及び他の要素が、概略図の形態で示され得るか、又は例解図から省略され得る。他の場合、周知の回路、プロセス、コンポーネント、構造、及び/又は技術が、不必要な詳細を伴わずに示され得る。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
【外国語明細書】