(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014968
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】積層構造体及び対象物検知構造
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240125BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20240125BHJP
B32B 27/08 20060101ALI20240125BHJP
B60R 13/04 20060101ALI20240125BHJP
B60R 13/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B32B27/00 E
G01S7/03 246
B32B27/08
B60R13/04 Z
B60R13/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195331
(22)【出願日】2023-11-16
(62)【分割の表示】P 2022579424の分割
【原出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021017450
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三石 直子
(57)【要約】
【課題】ミリ波の透過減衰量を低減可能な自動車エンブレム用積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供する。
【解決手段】第1の樹脂材料を含む第1の部材と、前記第1の部材と対向する、第1の樹脂材料を含む第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材との間に設けられた、第2の樹脂材料を含む充填部材と、を備える、自動車エンブレム用積層構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂材料を含む第1の部材と、
前記第1の部材と対向する、第1の樹脂材料を含む第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に設けられた、第2の樹脂材料を含む充填部材と、
を備える、自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項2】
前記第1の樹脂材料が、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びアクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂からなる群より選択される、請求項1に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項3】
前記第2の樹脂材料が、合成ゴム、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂からなる群より選択される、請求項1又は請求項2に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項4】
前記第1の樹脂材料が、ポリカーボネートであり、前記第2の樹脂材料が、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びポリオール系ウレタン樹脂からなる群より選択される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項5】
前記充填部材の厚さが、0.1mm~3.0mmである請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項6】
前記第1の部材及び前記第2の部材における前記第1の樹脂材料の含有率が、それぞれ独立に、60質量%以上である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項7】
前記充填部材における前記第2の樹脂材料の含有率が、60質量%以上である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項8】
前記第1の部材と前記充填部材との間又は前記第2の部材と前記充填部材との間に、意匠層を備える、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項9】
前記第1の部材又は前記第2の部材が、着色剤を含む、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の自動車エンブレム用積層構造体と、
前記自動車エンブレム用積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、
を備える対象物検知構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車エンブレム用積層構造体及び対象物検知構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003-019765号公報には基材上に下塗り塗膜及び金属膜をこの順に被覆し、金属膜上にクリア塗膜が被覆された金属調塗装塗膜及び、この金属調塗装塗膜が自動車部品に用いられることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年の自動車では、安全装置の進歩が目覚ましく、例えば、自動衝突回避システムの装備が一般的になってきている。
自動衝突回避システムは、車載カメラの画像データ及びミリ波レーダーによる対象物との相対距離情報を用いて自動的にブレーキをかけるものである。
【0004】
自動衝突回避システムを構成するミリ波レーダーの送受信機は、自動車の前方中央に配置することが望ましい。自動車の前方中央には、一般に自動車のエンブレムが配置されている。そこで、自動車のエンブレムの後側にミリ波レーダーの送受信機を配置することが望ましい。例えば、特開2003-019765号公報に記載の金属調塗装塗膜は自動車のエンブレムに用いることが想定できる。
【0005】
しかしながら、自動車エンブレムのような複数の部材を積層させる場合に各部材の板厚のばらつきを考慮し、部材間に隙間を設ける場合があるが、隙間の空気相と部材との境界部にてミリ波の反射が発生して透過減衰量が増加してしまうおそれがある。
一方で、部材間に隙間をなくす手法としてインサート成形工法が挙げられるが、高温、高圧等による金属膜のダメージによるミリ波透過性能、外観等の悪化が問題となるため、耐熱処理を要する構造が必要となり、積層構造が複雑化する。
【0006】
また、インサート成形において成形される積層構造体は、通常、射出温度への耐熱性を考慮し、インナー部材及びアウター部材は異なる樹脂材料(例えば、ポリカーボネートから構成されるインナー部材、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂から構成されるアウター部材)により構成されている。
しかしながら、異なる樹脂材料により構成されるインナー部材と、アウター部材とは、比誘電率が異なり、構造積層体のミリ波の透過減衰量には、低減する余地があった。
【0007】
本開示は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ミリ波の透過減衰量を低減可能な自動車エンブレム用積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 第1の樹脂材料を含む第1の部材と、
上記第1の部材と対向する、第1の樹脂材料を含む第2の部材と、
上記第1の部材と上記第2の部材との間に設けられた、第2の樹脂材料を含む充填部材と、
を備える、自動車エンブレム用積層構造体。
<2> 上記第1の樹脂材料が、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びアクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂からなる群より選択される、上記<1>に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<3> 上記第2の樹脂材料が、合成ゴム、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂からなる群より選択される、上記<1>又は<2>に記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<4> 上記第1の樹脂材料が、ポリカーボネートであり、上記第2の樹脂材料が、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びポリオール系ウレタン樹脂からなる群より選択される、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<5> 上記充填部材の厚さが、0.1mm~3.0mmである上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<6> 上記第1の部材及び上記第2の部材における上記第1の樹脂材料の含有率が、それぞれ独立に、60質量%以上である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<7> 上記充填部材における上記第2の樹脂材料の含有率が、60質量%以上である、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<8> 上記第1の部材と上記充填部材との間又は上記第2の部材と上記充填部材との間に、意匠層を備える、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<9> 上記第1の部材又は上記第2の部材が、着色剤を含む、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体。
<10> 上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の自動車エンブレム用積層構造体と、
上記自動車エンブレム用積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、
を備える対象物検知構造。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一形態によれば、ミリ波の透過減衰量を低減可能な自動車エンブレム用積層構造体及びこれを備える対象物検知構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の自動車エンブレム用積層構造体の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本開示の自動車エンブレム用積層構造体の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を限定するものではない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、該当する物質が複数種含まれていてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において、各成分に該当する粒子には、複数種の粒子が含まれていてもよい。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、各層の厚さは、ミクロトーム等を用いて測定対象から試験片を作製し、電子顕微鏡により任意の5箇所の厚さを測定して得られた算術平均値をいう。
本開示において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語である。
【0013】
<自動車エンブレム用積層構造体>
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、第1の樹脂材料を含む第1の部材と、前記第1の部材と対向する、第1の樹脂材料を含む第2の部材と、前記第1の部材と前記第2の部材との間に設けられた充填部材と、を備える。
【0014】
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、ミリ波の透過減衰量を低減可能である。その理由としては、以下のように推察される。
複数の部材が積層された自動車エンブレム用積層構造体では、各境界部にてミリ波の反射が発生するため、ミリ波の透過量が減少して透過減衰量が増加する。
本開示の自動車エンブレム用積層構造体では、第1の部材と第2の部材とが、共に第1の樹脂材料を含んでおり、第1の部材と充填部材との境界部において生じる透過減衰の量及び第2の部材と充填部材との境界部において生じる透過減衰の量が同程度となる。
そのため、充填部材を構成する材料を、第1の部材及び第2の部材との境界部において生じる透過減衰の量を低減することができる材料から選択することが可能となり(例えば、第1の部材及び第2の部材と、充填部材との比誘電率の差が小さくなる材料)、自動車エンブレム用積層構造体は、ミリ波の透過減衰量を低減することができる、と推察される。
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、例えば、周波数20GHz~300GHzのミリ波について透過減衰量の低減に有用である傾向にある。
本開示で述べるミリ波とは上記周波数帯を意味する。
【0015】
前述の各部材において、比誘電率が最大となる部材の比誘電率の値と、比誘電率が最小となる部材の比誘電率の値と、の差は、ミリ波の透過減衰量をより低減する観点から、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
なお、前述の差の下限は特に限定されない。
本開示において、第1の部材、第2の部材及び充填部材の比誘電率は、いずれも77GHzでの値を意味する。
【0016】
本開示の自動車エンブレム用積層構造体を自動車エンブレムに適用する場合、第1の部材及び第2の部材のいずれを内側に配置してもよい。
【0017】
一実施形態において、本開示の積層構造体は、第1の部材と、第2の部材とを重ね合わせ、これら部材の隙間へ第2の樹脂材料を含む接着剤を充填することにより製造することができる。なお、接着剤は、1液硬化型接着剤であってもよく、2液硬化型接着剤であってもよい。
他の実施形態において、本開示の積層構造体は、第1の部材と、第2の樹脂材料を含む平面状の樹脂シートと、第2の部材とを重ね合わせ、加圧すること(必要に応じて、加熱すること)により製造することができる。
また、第1の部材又は第2の部材の表面には、後述する意匠層、アンダーコート層及びトップコート層等が形成されていてもよい。
【0018】
以下、本開示の自動車エンブレム用積層構造体を構成する各部材について説明する。
【0019】
(第1の部材)
第1の部材は、第1の樹脂材料を含む。
第1の樹脂材料としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びAES樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。
(メタ)アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
熱硬化性樹脂は、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0022】
第1の樹脂材料は、PC、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びAES樹脂からなる群より選択されることが好ましく、PCが特に好ましい。
ポリプロピレンは、樹脂材料の中でも比重が軽く、加工しやすく、引張強度、衝撃強度及び圧縮強度が高く、耐候性及び耐熱性にも優れている。
ABS樹脂は、プラスチック素材の中でも比較的表面処理を施しやすく、よって成形後に塗装等を施しやすい樹脂であり、耐薬品性及び剛性に優れ、耐衝撃性、耐熱性及び耐寒性にも長けている。
PCは、プラスチック素材の中でも耐衝撃性が高く、耐候性及び耐熱性にも優れ、透明性にも長けている。また、ポリカーボネートは、加工もしやすく、プラスチック素材の中でも比較的軽く、丈夫な素材である。
【0023】
透過減衰量低減の観点から、第1の部材における第1の樹脂材料の含有率は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
また、第1の部材における第1の樹脂材料の含有率は、100質量%以下とすることができる。
【0024】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において、第1の部材は、第1の樹脂材料以外の樹脂材料(その他の樹脂材料)を含んでもよい。
第2の部材は、その他の樹脂材料を含んでいてもよく、含まなくともよい。
その他の樹脂材料としては、第1の樹脂材料として上記した樹脂材料を使用することができる。
【0025】
透過減衰量低減の観点から、第1の部材におけるその他の樹脂材料の含有率は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
なお、本開示において、部材が不可避的にその他の樹脂材料を含む場合は、0質量%に該当する。
【0026】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において、第1の部材は、無機粒子、着色剤、帯電防止剤等の添加材を含んでもよい。
【0027】
本開示の自動車エンブレム用積層構造体が、第1の部材が内側となるように、エンブレムに適用される場合、第1の部材は、着色剤を含むことが好ましい。なお、第2の部材が内側となるように、本開示の自動車エンブレム用積層構造体がエンブレムに適用される場合は、第2の部材が着色剤を含むことが好ましい。
内側に配置される第1の部材又は第2の部材が着色剤を含むことにより、エンブレムが適用される部材(金属等)の色味を遮蔽することができ、後述する意匠層の意匠性を改良することができる傾向にある。
着色剤としては、カーボンブラック及び四酸化三鉄等が挙げられる。
第1の部材又は第2の部材における着色剤の含有量は、2質量%~8質量%であることが好ましく、3質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0028】
第1の部材の比誘電率は、2.5~3.3であってもよく、2.5~2.9であってもよく、2.5~2.8であってもよい。
【0029】
第1の部材の誘電正接は、ミリ波等の電波透過性の観点から、0.010以下であることが好ましい。なお、誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0030】
外観見栄えの観点から、第1の部材の厚さは、1.5mm~6mmであることが好ましく、1.8mm~4.5mmであることがより好ましい。
【0031】
(第2の部材)
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、第1の部材と対向する第2の部材を備える。第2の部材は、第1の樹脂材料を含み、第1の樹脂材料については、上記したため、ここでは記載を省略する。
【0032】
透過減衰量低減の観点から、第2の部材における第1の樹脂材料の含有率は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
また、第2の部材における第1の樹脂材料の含有率は、100質量%以下とすることができる。
【0033】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において、第2の部材は、第1の樹脂材料以外の樹脂材料(その他の樹脂材料)を含んでもよい。
その他の樹脂材料としては、第1の樹脂材料として上記した樹脂材料を使用することができる。
【0034】
透過減衰量低減の観点から、第2の部材におけるその他の樹脂材料の含有率は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0035】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において、第2の部材は、無機粒子、着色剤、帯電防止剤等の添加材を含んでもよい。
【0036】
第2の部材の比誘電率は、2.5~3.3であってもよく、2.5~2.9であってもよく、2.5~2.8であってもよい。
【0037】
第2の部材の誘電正接は、ミリ波等の電波透過性の観点から、0.010以下であることが好ましい。なお、誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0038】
成形性の観点から、第2の部材の厚さは、1.5mm~6mmであることが好ましく、1.8mm~5.5mmであることがより好ましい。
【0039】
(充填部材)
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、第1の部材と第2の部材との間に設けられた充填部材を備える。
【0040】
充填部材は、第2の樹脂材料を含み、第2の樹脂材料としては、第1の樹脂材料と異なる樹脂材料であれば特に限定されず、合成ゴム、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド等が挙げられる。
【0041】
透過減衰量低減の観点から、上記した中でも、第2の樹脂材料は、合成ゴム、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂からなる群より選択されることが好ましい。
第1の樹脂材料として、ポリカーボネートを使用した場合に、上記した樹脂材料は特に有用である傾向にある。
【0042】
合成ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
透過減衰量低減の観点から、上記した中でも、EPDMが特に好ましい。
第1の樹脂材料として、ポリカーボネートを使用した場合に、EPDMは特に有用である傾向にある。
【0043】
エポキシ樹脂は、エポキシ結合を有する樹脂であれば特に限定されるものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビスフェニル-フェノール型エポキシ樹脂、変性ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
透過減衰量低減の観点から、上記した中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
第1の樹脂材料として、ポリカーボネートを使用した場合に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は特に有用である傾向にある。
【0044】
ウレタン樹脂は、ウレタン結合を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、イソシアネート化合物とポリオール化合物との反応生成物(ポリオール系ウレタン樹脂)が挙げられる。
イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)等が挙げられる。
ポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、シリコンポリオール、ポリアクリルポリオール等が挙げられる。
【0045】
透過減衰量低減の観点から、充填部材における第2の樹脂材料の含有率は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
また、充填部材における第2の樹脂材料の含有率は、100質量%以下とすることができる。
【0046】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において、充填部材は、第2の樹脂材料以外の樹脂材料(その他の樹脂材料)を含んでもよい。
その他の樹脂材料としては、第2の樹脂材料として上記した樹脂材料を使用することができる。
【0047】
透過減衰量低減の観点から、充填部材におけるその他の樹脂材料の含有率は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0048】
本開示の積層構造体の特性を損なわない範囲において充填部材は、無機粒子、充填剤、着色剤、帯電防止剤等の添加材を含んでもよい。
【0049】
充填部材の比誘電率は、2.0~3.3であってもよく、2.2~3.2であってもよく、2.3~3.0であってもよい。
【0050】
充填部材の誘電正接は、ミリ波等の電波透過性の観点から、0.050以下であることが好ましい。なお、誘電正接の下限は、特に限定されない。
【0051】
透過減衰量低減の観点から、充填部材の厚さは、0.1mm~3.0mmであることが好ましく、0.3mm~1.0mmであることがより好ましい。
【0052】
(意匠層)
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、第1の部材と第2の部材との間に意匠層をさらに備えていてもよく、第1の部材と充填部材との間及び第2の部材と充填部材との間の少なくとも一方に意匠層をさらに備えていてもよい。
【0053】
意匠層は、例えば、金属粒子を含む金属粒子層であってもよく、銀粒子を含む銀粒子層であってもよい。
【0054】
銀粒子層は、銀鏡反応により形成されたものであってもよい。また、銀粒子層に含まれる銀粒子は、銀鏡反応により析出した銀粒子(析出銀粒子)を含んでもよい。さらに、銀粒子層は、銀粒子が島状に点在する海島構造を呈していてもよい。
銀鏡反応による銀粒子層の形成は、水溶性銀塩水溶液並びに還元剤及び強アルカリ成分を含む還元剤水溶液の2液を、第1の部材の表面上、第2の部材の表面上、又は後述するアンダーコート層表面上(以下、これらの表面を、合わせて「銀鏡反応処理面」と称する場合がある。)で混合されるように塗布する。これにより酸化還元反応が生じて銀粒子が生じ、銀粒子層が形成される。
【0055】
本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、第1の部材、第2の部材、充填部材及び意匠層以外の構成を備えていてもよく、例えば、第1の部材の外側及び第2の部材の外側の少なくとも一方に他の部材を備えていてもよい。
【0056】
本開示の自動車エンブレム用積層構造体の一例を、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、自動車エンブレム用積層構造体10は、第1の部材1と、第2の部材2と、第1の部材1と第2の部材2との間に設けられた充填部材3と、を備える。また、
図1にて矢印で示すように自動車エンブレム用積層構造体10をミリ波が透過する。
【0057】
本開示の自動車エンブレム用積層構造体の他の一例を、
図2を用いて説明する。
図2には、エンブレムに適用された本開示の自動車エンブレム用積層構造体を示す概略構成図である。
図2に示すように、自動車エンブレム用積層構造体100は、内側に配置される第1の部材11と、外側に配置される第2の部材12と、第1の部材11と第2の部材12との間に設けられた充填部材13及び意匠層14と、を備える。
【0058】
<対象物検知構造>
本開示の対象物検知構造は、前述の本開示の自動車エンブレム用積層構造体と、自動車エンブレム用積層構造体に向けてミリ波を照射するミリ波レーダーと、を備える。本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、ミリ波の透過減衰量を低減可能であるため、本開示の対象物検知構造は、ミリ波レーダーの送受信性能に優れる。
【0059】
なお、本開示の自動車エンブレム用積層構造体は、ミリ波以外の電波を送受信するレーダーと組み合わせてもよい。
【実施例0060】
以下、本開示の実施例を説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
(第1の部材の準備)
厚さ2mmの平面状ポリカーボネート(PC)基材(77GHzでの比誘電率2.7、誘電正接0.008)を第1の部材として準備した。
【0062】
(第2の部材の準備)
厚さ2mmの平面状PC基材(77GHzでの比誘電率2.7、誘電正接0.008)を第2の部材として準備した。
【0063】
(自動車エンブレム用積層構造体の作製)
充填部材として、エチレン-プロピレン-ジエンゴム1(EPDM1、日東電工株式会社製、EH2200)を用い、第1の部材、平面状の充填部材及び第2の部材の順に各部材を積層させて自動車エンブレム用積層構造体を製造した。
自動車エンブレム用積層構造体における充填部材の厚さは0.4mmであった。
【0064】
<実施例2>
実施例1にて充填部材を、エチレン-プロピレン-ジエンゴム2(EPDM2、株式会社イノアックコーポレーション社製、E8000)に変更した以外は実施例1と同様にして自動車エンブレム用積層構造体を製造した。
【0065】
<実施例3>
実施例1にて充填部材をEPDM1からエポキシ樹脂(ヘンケルジャパン株式会社製、クイックミックス、主剤:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(100質量%)、硬化剤:ポリメルカプタン(85質量%以上)及び変性アミン)に変更した以外は実施例1と同様にして自動車エンブレム用積層構造体を製造した。
【0066】
<実施例4>
実施例1にて充填部材をEPDM1からウレタン樹脂(ポリオール系ウレタン樹脂、サンユレック株式会社製、SZ-2390)に変更した以外は実施例1と同様にして自動車エンブレム用積層構造体を製造した。
【0067】
<比較例1>
実施例1と同様に第1の部材及び第2の部材を準備し、第1の部材及び第2の部材の間にスペーサー(厚さ0.5mm)を設けて比較例1の積層構造体を作製した。比較例1の積層構造体では、第1の部材と第2の部材との間に隙間があり、この隙間には空気(比誘電率1.0)が存在している。
【0068】
[評価]
-ミリ波透過減衰量の測定-
下記方法によりミリ波(77GHz)を各実施例及び比較例1にて得られた自動車エンブレム用積層構造体に透過させた際の減衰量である透過減衰量を測定した。
透過減衰量は、JIS R1679:2007(電波吸収体のミリ波帯における電波吸収特性測定方法)で規定される、送信アンテナと受信アンテナの間に自動車エンブレム用積層構造体を置いて電波を自動車エンブレム用積層構造体の第1の部材側へ垂直に照射する自由空間法で求められた透過係数から算出した。
ここで、透過減衰量は、透過係数を用いて次式より算出できる。
透過減衰量=20log10(透過係数)
結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1に示すように実施例1~実施例4の自動車エンブレム用積層構造体では、比較例1の自動車エンブレム用積層構造体と比較してミリ波の減衰量が抑制されていた。
【0071】
2021年2月5日に出願された日本国特許出願2021-017450号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
前記第1の樹脂材料が、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びアクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂からなる群より選択される、請求項1に記載の積層構造体。
前記第1の樹脂材料が、ポリカーボネートであり、前記第2の樹脂材料が、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びポリオール系ウレタン樹脂からなる群より選択される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の積層構造体。
前記第1の樹脂材料が、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びアクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体樹脂からなる群より選択される、請求項1に記載の積層構造体。
前記第1の樹脂材料が、ポリカーボネートであり、前記第2の樹脂材料が、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びポリオール系ウレタン樹脂からなる群より選択される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の積層構造体。