(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014976
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】シリコンウエハ表面状態診断方法及び表面改質方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20240125BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20240125BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01L21/66 L
H01L21/268 F
H01L21/304 601Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196417
(22)【出願日】2023-11-20
(62)【分割の表示】P 2020033662の分割
【原出願日】2020-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
(57)【要約】
【課題】リアルタイムな加工中(表面改質中)も含め、表面状態の診断、修復効果確認を行うことで、高品質のシリコンウェハを提供する。
【解決手段】レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ1の表面改質におけるシリコンウエハ1の表面状態診断方法であって、シリコンウエハ1表面の反射率又は吸収率の測定、及び電気物性を測定する。また、反射率又は吸収率の測定は、波長が532、あるいは785nmのレーザで行う。そして、電気物性は、シリコンウエハ1の表面処理部に近接して電極4を配置し、シリコンウエハと1電極間4で形成される静電容量を測定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質におけるシリコンウエハ表面状態診断方法であって、
シリコンウエハの表面の反射率若しくは吸収率の測定、又は電気物性を測定することを特徴とするシリコンウエハ表面状態診断方法。
【請求項2】
前記電気物性は、前記シリコンウエハの表面処理部と近接配置された電極との間に生ずる極板間引力を含む、請求項1に記載のシリコンウエハ表面状態診断方法。
【請求項3】
前記電気物性は、前記シリコンウエハの表面処理部と、近接配置された電極との間に生ずる力のひずみゲージによる測定値を含む、請求項1に記載のシリコンウエハ表面状態診断方法。
【請求項4】
レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質方法であって、
シリコンウエハの表面の反射率若しくは吸収率の測定、又は、前記シリコンウエハの表面処理部に近接して電極を配置し、前記シリコンウエハと前記電極間で形成されるコンデンサの静電容量を測定するステップAと、
前記ステップAに基づいて前記レーザ熱処理の加工条件を決定するステップBと、
を有するシリコンウエハ表面改質方法。
【請求項5】
前記レーザ熱処理の加工中に、前記ステップAを行い、その結果をフィードバック制御して加工を継続することを特徴とする請求項4に記載のシリコンウエハ表面改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ表面の加工変質層である表面欠陥の修復に係り、特に、レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質に関し、その表面の改質状況を診断するシリコンウエハ表面状態診断方法及び表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の作製に使用されるシリコンウエハ等の半導体ウェハは、切削・研削・ラッピング・ポッリシングなどの機械加工プロセスによって表面加工が行われている。しかし、その表面及び内部は、加工変質層が形成され、一部の加工変質層には、マイクロクラック(微小亀裂)が含まれる。この内部クラック等の除去は、主にエッチングや化学機械研磨(CMP)等の化学的・機械的方法により行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、単結晶表面にパルスレーザを照射し、パルスレーザ照射部の断面TEM(透過型電子顕微鏡)観察像で評価することを記載している。
【0004】
また、特許文献2は、半導体ウェハの反りを測定し、測定された反りと研削工程で研削された研削深さに基づいて、表面変質層の深さを求めることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-147639号公報
【特許文献2】特許第6072166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術において、特許文献1に記載のようにTEM(透過型電子顕微鏡)を用いる方法は、観察試料の厚さを数nm程度(観察可能な厚さ)にする必要があり、そのため、試料の準備作業には細心の注意が必要で、時間もかかる。また、試料は電子ビームを浴びることで破壊を伴った計測となる。試料に電子を当てて干渉パターンを観察する電子回折や光と物質の相互作用を利用するラマン分光計測等は、同様であり、非常に高価な装置であり、導入は困難である。
【0007】
また、特許文献2に記載のように反りを計測して加工変質層を評価する方法は、計測時に荷重がかかるため破壊が進行する恐れがある。さらに、ノッチ部のような広域にわたる曲面等のような形状に対する効率的な計測は、現時点で知られていない。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、レーザ表面改質機に搭載することも可能とする。そして、本発明は、リアルタイムな加工中(表面改質中)も含め、表面状態の診断、修復効果確認を行うことで、高品質のシリコンウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下のとおりである。
[1] レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質におけるシリコンウエハ表面状態診断方法であって、シリコンウエハの表面の反射率若しくは吸収率の測定、又は電気物性を測定することを特徴とするシリコンウエハ表面状態診断方法。
[2]上記電気物性は、上記シリコンウエハの表面処理部と近接配置された電極との間に生ずる極板間引力を含む、[1]に記載のシリコンウエハ表面状態診断方法。
[3] 上記電気物性は、上記シリコンウエハの表面処理部と、近接配置された電極との間に生ずる力のひずみゲージによる測定値を含む、[1]に記載のシリコンウエハ表面状態診断方法。
[4] レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質方法であって、シリコンウエハの表面の反射率若しくは吸収率の測定、又は、上記シリコンウエハの表面処理部に近接して電極を配置し、上記シリコンウエハと上記電極間で形成されるコンデンサの静電容量を測定するステップAと、上記ステップAに基づいて上記レーザ熱処理の加工条件を決定するステップBと、を有するシリコンウエハ表面改質方法。
[5] 上記レーザ熱処理の加工中に、上記ステップAを行い、その結果をフィードバック制御して加工を継続することを特徴とする[4]に記載のシリコンウエハ表面改質方法。
【0010】
本発明の他の構成は、レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質におけるシリコンウエハ表面状態診断方法であって、前記シリコンウエハ表面の反射率又は吸収率の測定、及び電気物性を測定する。
【0011】
また、前記反射率又は前記吸収率の測定は、波長が532、あるいは785nmのレーザで行うことが望ましい。
【0012】
さらに、前記電気物性は、前記シリコンウエハの表面処理部に近接して電極を配置し、前記シリコンウエハと前記電極間で形成されるコンデンサの静電容量を測定することが望ましい。
【0013】
さらに、前記電気物性は、前記シリコンウエハの表面処理部に近接して電極を配置し、前記シリコンウエハと前記電極間に電圧を印加して極板間引力を測定することが望ましい。
【0014】
さらに、前記極板間引力は、ひずみゲージで測定することが望ましい。
【0015】
さらに、前記シリコンウエハを載置するリングポールと、リング形状の極板リングに等分割で配置された薄板と、前記薄板に貼り付けられ、ブリッジ回路が構成される前記ひずみゲージと、を備え、前記極板リングを前記シリコンウエハと間隙を持って配置し、前記リングポールと前記極板リングとの間に電圧を印加して前記極板間引力を測定することが望ましい。
【0016】
また、本発明は、レーザ熱処理を用いたシリコンウエハ表面改質方法であって、前記シリコンウエハ表面の反射率測定又は吸収率の測定するステップ1と、前記シリコンウエハの表面処理部に近接して電極を配置し、前記シリコンウエハと前記電極間で形成されるコンデンサの静電容量を測定するステップ2と、前記ステップ1、前記ステップ2に基づいて前記レーザ熱処理の加工条件を決定するステップ3と、を有する。
【0017】
さらに、前記レーザ熱処理の加工中に、前記ステップ1、前記ステップ2を行い、その結果をフィードバック制御して加工を継続することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シリコンウエハ表面の反射率又は吸収率の測定、及び電気物性を測定してシリコンウエハ表面状態を診断するので、レーザ表面改質機に搭載することも可能である。リアルタイムな加工中(表面改質中)も含め、表面状態の診断、修復効果確認を行うことで、高品質のシリコンウェハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態による光の反射率、あるいは吸収率の測定部を示すブロック図
【
図2】一実施形態によるシリコンウェハと電極間の静電容量や極板間引力の測定部を示すブロック図
【
図3】一実施形態による表面改質(加工)及び診断のフローチャート
【
図4】一実施形態による極板間引力を測定する構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、一実施形態による光の反射率、あるいは吸収率の測定部を示すブロック図、
図2は、シリコンウェハと電極間の静電容量や極板間引力の測定部を示すブロック図である。加工変質層は、主にアモルファスシリコン層や多結晶状態となっている。この加工変質層は極めて薄いものであるが、機械的・電気的・光学的性能に大きく影響している。
【0021】
本実施形態は、研削やエッチング処理後の加工変質層の表面に関して、反射率(吸収率)の測定や画像解析により表面状態を調べる。また、数μm深さ程度の内部の状態に関しては、532nm、近赤外光(785nm)の波長の計測用レーザを照射して反射率(吸収)を調べる。
【0022】
さらに、外部より電圧を印加(シリコンウェハ表面を帯電させる)することで、アモルファス、多結晶シリコン、単結晶シリコンの電気物性(伝導度、静電容量、極板間引力等)の違いを検知し改質状況を調べる。つまり、シリコンウエハ1表面の反射率又は吸収率の測定、及び電気物性を測定したことになる。
【0023】
つまり、本実施形態は、シリコンウェハ1表面状態の診断、修復効果確認を行うため、以下の(1)から(4)を組み合わせて総合的に測定及び評価することが好ましい。
(1)測定面の形状も考慮し、偏光させるなどした近赤外光(785nm)を照射して単結晶の反射率、あるいは吸収率を得る。
(2)シリコンウエハ1の測定面1-1の形状も考慮し、偏光させるなどした可視光、あるいは波長532nmの光を当てアモルファスの反射率、あるいは吸収率を得る。なお、アモルファスシリコン層は、波長532nmの光に強い吸収がある。
(3)画像、接触式等により表面形状(粗さ等も含む)を計測する。
(4)改質前後、及び改質中の加工対象物(シリコンウェハ)の電気物性(電気伝導度、静電容量、極板間引力等)の違いを得る。
【0024】
図1において、計測用光源2は、シリコンウエハ1の測定面1-1へ計測用レーザ、あるいは可視光を矢印のように表面に照射する。計測用光源(レーザ熱処理)2は、計測用の光源や波長が532、あるいは785nmのレーザであり、偏光子を介しても良い。そして、その反射光は、フィルターを介してカメラや検出器3で検出、解析し反射率、あるいは吸収率を評価、測定する。
【0025】
光の反射率(吸収)評価、測定において、溶融中のシリコンの反射率は、固体のそれと比較して30%と高く、表面改質中の反射率測定で表面改質状況を調べることができる。なお、光の反射率(吸収率)の測定は、計測用光源2から測定面1-1へ照射される計測用レーザの入射角の影響を考慮して、偏光子をレーザ出光部の直後に配置することが好ましい。
【0026】
図2は、(4)の電気特性として、シリコンウエハ1と電極4間の静電容量7や極板間引力6の測定を示している。
図2において、電極4は、シリコンウエハ1の表面処理部に対応するように近接して配置される。そして、静電容量7や極板間引力6は、シリコンウエハ1と電極4間に電圧5を印加して測定され、改質前後で比較する。
【0027】
溶融状態のシリコンの電気伝導度は、固体に比べ、100倍以上高いことが知られている。したがって、シリコンウエハ1表面の電気伝導度を測定することで溶融したシリコンの容量を評価することもできる。電気伝導度は、表面処理中に溶融したシリコンの伝導率が変化し、シリコンウエハ1と電極4間で形成されたコンデンサの静電容量7、極板間引力6として変化する。表面改質部の状況は、静電容量7の変化する現象を観察、あるいは測定することで評価することが可能となる。
【0028】
図3は、レーザ熱処理を用いた表面改質(加工)及び診断のフローチャートである。表面改質(加工)及び診断は、改質処理対象のシリコンウエハ表面状態を測定、あるいは評価し、それに応じた条件でレーザ照射を行うことにより効率良く、効果的な表面改質を行う。まず、でレーザ照射による加工前にシリコンウエハ1表面の反射率又は吸収率の測定及び画像解析を行う(ステップ1)。
次に、
図2で示した方法で静電容量7を評価する(ステップ2)。つまり、ステップ1、ステップ2でシリコンウエハ1表面の反射率又は吸収率の測定、及び電気物性としての静電容量7を測定したことになる。そして、加工条件は、ステップ1、ステップ2の測定及び評価に基づいて決定する(ステップ3)。
【0029】
加工中は、ステップ1、ステップ2と同様に表面の反射率測定、静電容量の評価(電気伝導度の変化)を行い、その結果をフィードバック制御して加工を継続する(ステップ4)。
【0030】
なお、レーザ照射で加工することで、シリコンウエハ1の酸素排除処理及び結晶性の向上が可能であり、パルスレーザを照射することで、シリコンウエハ1表面の加工変質層である表面欠陥の修復が可能である。
【0031】
特に、シリコンウエハ1の研削後、その表面形状に対応して、少なくとも入射角、s偏光とp偏光の成分、エネルギ密度、単位面積当たりの照射回数のいずれか一つを変化させてパルスレーザを照射することで、加工応力の影響をなくし均一な表面に改質することができる。
【0032】
また、パルスレーザ(ナノ秒)照射による加工は、加工変質層のアモルファス層をナノ秒速で溶融する。そして、パルスレーザ(ナノ秒)照射による溶融は、結晶方位が揃った再結晶化(エピタキシャル成長)を進展させ、機械加工で生じた結晶欠陥を無くすことができる。
【0033】
加工後は、ステップ1、ステップ2と同様に表面の反射率測定、画像解析、静電容量の評価(ステップ5、ステップ6)を行い、品質評価をして仕様に対してOKかNGかを判定する(ステップ7)。
以上により、シリコンウエハ1は、加工中も表面状態の診断、修復効果確認を行うので、高品質にすることができる。
【0034】
図4は、極板間引力6を測定する構成図である。
図5は極板リング10の平面図、
図6は、側面図である。
図2で示した極板間引力6は、ひずみゲージ10-2で測定する。
図4において、シリコンウエハ1は、リングポール11に載置される。極板リング10は、
図2で示した電極4に相当するもので、リング形状のコンプライアンス構造(柔構造)とされている。
【0035】
薄板10-1は、極板リング10の上面に120°の等分割でコンプライアンスを持って配置されている。ひずみゲージ10-2は、薄板10-1の中心付近にそれぞれ貼り付けられている。また、3個のひずみゲージ10-2は、ブリッジ回路が構成され、薄板10-1に掛かる応力を検出する。
【0036】
電圧5は、リングポール11と極板リング10との間に印加される。シリコンウエハ1は、リングポール11に載置されるので、電圧5は、シリコンウエハ1と極板リング10との間に印加されたことになる。なお、リングポール11は、シリコンウエハ1を載置する通常の回転テーブルに装着しても良い。
【0037】
極板リング10は、
図6に示すように、爪部10-3が回転可能として設けられている。爪部10-3は、極板リング10の内側へ
図6(a)の矢印のように回転可能とされ、所定位置(
図6で90°)で
図6(b)のように固定される。したがって、シリコンウエハ1と極板リング10は、
図6(b)で示すように間隙を持って配置され、
図2の静電容量7を形成する。
【0038】
つまり、
図2で示した電極4は、シリコンウエハ1を挟み込むようにされ、極板間引力6をひずみゲージ10-2で検出する。シリコンウエハ1と極板リング10との間隙は、数100μmに設定する。極板間引力6は、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンとで伝導率(移動度、比抵抗)が大きく異なることで表面の改質状況の判別が可能となる。
【0039】
測定の手順は、以下のようになる。
(1)シリコンウエハ1は、リングポール11に載置し、シリコンウエハ1の上に極板リング10を装着する。
(2)爪部10-3は、極板リング10の内側へ回転させ、電圧5をリングポール11と極板リング10との間に印加する。
(3)極板間引力6が生じることにより、極板リング10に応力が掛かり、変形する。
(4)極板リング10の上面に配置された薄板10-1に貼りつけられたひずみゲージ10-2により応力が検出され電気信号として出力される。
【0040】
以上述べた極板間引力6の測定によれば、改質前後、および改質中の加工対象物(シリコンウエハ)の電気物性(電気伝導度、静電容量、極板間引力等)の違いを高感度に測定が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1…シリコンウエハ
1-1…測定面
2…計測用光源
3…検出器
4…電極
5…電圧
6…極板間引力
7…静電容量
10…極板リング
10-1…薄板
10-2…ゲージ
10-3…爪部
11…リングポール